【古妖狩人】或いは、怒り心頭塵塚怪王。
【古妖狩人】或いは、怒り心頭塵塚怪王。


●塵塚の塵
 郊外の埋め立て地。粗大ごみの集積所として使用されているその広大な土地の片隅で、冷蔵庫が、机が、パソコンが、タンスが、ありとあらゆる家具家電が寄り集まって、巨大な怪物の姿を形成していた。遠くから見れば、その頭部は蛇かトカゲのようにも見える。下半身はゴミの山の中に埋もれ、細い腰と、幅の広い上半身が続く。長い腕の先端、手の平に当たる部分は大きく、その大きな手の平で近場のゴミ山を叩き倒して、声なき声で夜空に向かって咆哮を上げた。
 名を、塵塚怪王という。古妖の一種であり、元々は電子レンジに取り付いて、ゴミ山の片隅でひっそりと生きていたようだ。
 怪王の足元には、十体ほどの血濡れた死体。『古妖狩人』の戦闘部隊のなれの果てだ。ゴミに取り付く、弱い妖だとたかをくくった結果、彼らは無残な死体を晒すことになった。
 重火器で武装し、ゴミ山の中で発見した狩人たちは、笑いながら塵塚怪王を追いまわし、そしてとうとう怒らせた。怪王自身、本気で怒るのは何十年ぶりだっただろうか。ゴミで出来た巨大な身体を持て余し、ほんの数十秒で、狩人を皆殺しにした。
 頭部についた真っ赤な単眼は、今も怒りに染まっている。
 怒りに我を忘れ、今尚、敵の姿を探し、暴れまわっているのである。
『-------------------っ!!』
 声にならずとも、空気を震わせる咆哮。
 狩人の死体を、力任せに押しつぶし、それでもなお、怪王の怒りは晴れないようだ。

●怒りの矛先
「憤怒者が古妖を狩っているっていう話、知ってるよね? 最近多いもんね!  覚者に対する戦力として古妖を狩っているらしいけど、今回は失敗しちゃったみたい」
 古妖が狩られちゃうよりはいいけどね、と久方 万里(nCL2000005)は呟いた。
 モニターに映る、巨大な影は塵塚怪王のものだろう。時刻は夕方。秋の夕日に背を向けて、空に向かって吼えるその姿は、怪獣映画の1シーンのようだ。
「足場が悪いね。ゴミの山だからね。生ゴミがないのが唯一の救いかな? それと、時刻は夕方だからあまり長く時間をかけていると、視界も悪くなっちゃうよ」
 足場が悪い上に、視界も悪いとなれば、戦い難いことこの上ない。それでも、このまま怪王を放置しておくわけにはいかない。
 怪王の身体は、ゴミで構成されていて物理攻撃は効果が薄い。また、動きは鈍いが身体が巨大なため、攻撃範囲が広いのも特徴だ。[ノックバック][解除][物理防御無視]の追加効果にも注意したい。
「力任せのシンプルな攻撃だけど、厄介なのはゴミ山の存在かな。怪王が暴れる度に山が崩れて、周囲には常に、ゴミの雨が降っている状態だよ。ゴミとはいえ、家具や家電だから、当たるとダメージを受けるから」
 危ないよね、なんて万里はモニターに目を向けた。
 巨大な怪王とはいえ、本体は、電子レンジに取り憑いた怪異である。ダメージを与え続ければ、怒りと共に、ゴミの身体は崩れ、次第に小さくなるだろう。
「まずは怪王を落ち着かせることから始めるべきかな。狩人の死体とか、騒ぎの収集とかは後回し。郊外だし、まだ誰にも気付かれてないみたいだしねっ!」
 それじゃあ、行ってらっしゃい。
 そう言って、万里は仲間達を送り出す。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:病み月
■成功条件
1.れる古妖を押さえる
2.なし
3.なし
こんばんは、病み月です。
今回は、古妖狩人に襲われ、正気を失った古妖を止める任務になります。
足場は悪く、ターゲットは頑丈。
では、以下詳細。

●場所
郊外の埋め立て地にあるゴミ捨て場。家具や家電が山と積まれている。
ゴミ山の中で、塵塚怪王が暴れているので、周囲には常に家具家電が降り注いでいて、大変危険。
時刻は夕方。時間をかけ過ぎると、すっかり日が暮れて視界が悪くなるだろう。
また、足場は悪く、崩れやすいので要注意。

●ターゲット
古妖(塵塚怪王)×1
元は、電子レンジにとり憑き、ゴミ山の隅でひっそりと過ごしていた古妖。
古妖狩人に襲われた結果、怒り狂って、狩人達を殲滅。その後も怒りが収まらずに、暴れまわっている。
身体が非常に頑丈で物理攻撃は通りにくい。

【塵塚王権】→物近列[ノックB][物防無視]
腕を力任せに薙ぎ払う攻撃。
【怒りの一撃】→物遠貫2[解除][ 物防無視]
大上段から、ターゲットに向け拳を叩きつける。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/8
公開日
2015年12月04日

■メイン参加者 4人■


●ゴミ山の巨怪
  郊外の埋め立て地。粗大ごみの集積所として使用されているその広大な土地の片隅で、冷蔵庫が、机が、パソコンが、タンスが、ありとあらゆる家具家電が寄 り集まって、巨大な怪物の姿を形成していた。遠くから見れば、その頭部は蛇かトカゲのようにも見える。下半身はゴミの山の中に埋もれ、細い腰と、幅の広い 上半身が続く。長い腕の先端、手の平に当たる部分は大きく、その大きな手の平で近場のゴミ山を叩き倒して、声なき声で夜空に向かって咆哮を上げた。
 ゴミ山の中に散らばる、真っ赤な血をぶちまけて、原型をとどめないほどに潰れた肉塊がいくつか。元々何人いたのだろう。古妖狩人と呼ばれる存在の、なれの果て。数少ない狩人達の生き残りは、既にゴミ山から撤収した後だ。
 怒らせるだけ怒らせて、そのまま逃げた。ゴミ山の怪物、塵塚怪王の怒りの矛先は、ただただ人間という存在へと向いている。
 夕日を背に、雄叫びをあげる怪王を遠目から眺める人影が4つ。
「古妖狩人が全滅。ふーん、塵塚怪王って強い、の、ね」
 翼を広げ、高い位置からゴミ山を見降ろし桂木・日那乃(CL2000941)は言う。どことなく気だるげな表情で、トマトケチャップのような死体へと姿を変えた狩人達に一瞥を投げた。
「ただ静かに暮らしていただけなのに……一刻も早く落ち着かせてあげて元の生活に戻してあげたいです」
 悲しげに目を伏せ、離宮院・さよ(CL2000870)はそう呟く。さよの肩をそっと抱き寄せ野武 七雅(CL2001141)は手にした杖を握りしめた。
「そのためには、まずは怒りで我を忘れてる古妖さんをまずはおちつかせるの。攻撃しか方法がないのかな?」
 通用するの? と、怪王の巨体を見て頬を引きつらせる。
 深緋・幽霊男(CL2001229)は、はだけた着物を僅かに整え頭を掻いた。いかに怪王が巨大かつ好戦的であろうと、このまま放置することはできないし、どうにか止める以外の選択肢はない。
 幸い、というか不運にも、というか。危険な現場には慣れている。
「まぁ、地道に削るとして」
 そろそろ行こうかね。
 なんて、幽霊男は、小さな声でそう言った。

●ゴミの雨が降る夕暮れ
 4人は同時に、ゴミ山の中心部、塵塚怪王のもとへと駆け出した。
「さよは気力回復も出来ますので、その時には声をかけてくださいですっ」
 翼を広げ、ゴミ山すれすれを滑空しながらさよは言う。ゴミ山の影に身を隠すようにしながら、怪王へと接近。水のベールを身に纏うことで、自身の防御力を強化する。
 怒りのせいで、視野が狭くなっているのだろうか。足元にまで迫った彼女達の存在に、怪王は未だ気付いていないようだ。
「好都合なのっ。それにこのまま暴れ続けるのは、古妖さん本人も苦しいと思うのっ」
 見上げるほどに巨大な怪王ではあるが、その本体は、捨てられた電子レンジだという。生憎と、膨大な量のゴミの中に埋もれ、本体である電子レンジを目視で確認することはできないが、それならそれで、全身を包むゴミを剥がしてしまえばいいだけだ。
 七雅の構えた杖の先に、空気中の水分が収束。小さな、しかし高密度の水の弾丸を精製する。
 七雅が水弾を撃ち出すと、パシュンと鋭い音が空気を震わせた。高速の水弾が、怪王の腰を削る。攻撃を受けたことで、七雅の存在に気付いた怪王が視線を下げる。
 怒りに染まった真っ赤な瞳が、七雅を捉える。怪王が腕を振り上げると、夕日が遮られゴミ山に影が落ちた。「う……っわ」と、引きつった笑みを浮かべる七雅。ハイバランサーで足周りを強化しているので、ゴミ山の不安定な足場でも自由自在に走れるが、いかんせん攻撃範囲が広い。
 だが、怪王が腕を振り下ろすよりも先に、怪王の後頭部に空気の弾丸が命中。怪王の死角に隠れていたさよの攻撃だ。
「列と貫通2、防御無視とか……まともに受けたらまずいよね」
 高速で空へと舞い上がり、擦れ違い様に怪王の額へエアブリッドを撃ちこみながら、日那乃は呟く。エアブリッドの直撃により、跳び散ったゴミの破片が日那乃の頬や、脇腹を切り裂いていく。
 鮮血を散らしながら、日那乃はそのまま戦線を離脱。
 移動を続けながら、少しずつ怪王の身体を削るつもりのようだ。
 3方向からの時間差攻撃を浴び、怪王は視線を彷徨わせる。ターゲットを絞りかねているようだ。身体から剥がれた粗大ゴミが、雨となって降りしきる。
「本体が、何ぞ電子レンジとの事だが……外からは見えんね」
 ゴミの雨を掻い潜り、怪王の足元まで駆け寄った幽霊男が腕を振る。手にもった数珠が、じゃらりと音を立てた。
 ゴミ山と同化した怪王の下半身を、急成長した植物の蔦が覆う。鋭い棘の生えた蔦が、ゴミを締めあげた。バキリ、と硬質な音が響く。砕けたタンスや冷蔵庫が、バラバラと崩れ落ちた。
 蔦の巻き付いた箇所から、ゴミが零れ落ち続けている。目覚まし時計やドライヤーなど、小さなゴミばかりではあるが、着実に怪王の身体を崩していく。
「はん? これ、もしかして出血してる?」
 顔に巻かれた包帯の位置を直しながら、超視力でもって怪王を観察する幽霊男。
 怪王の動きがピタリと止まる。
 その直後。
「た、退避っ!」
 いちはやく、怪王の異変に気付いたさよがそう叫んだ。

 咆哮と共に、怪王が腕を薙ぎ払う。ゴミ山をなぎ倒し、打ち崩しながら怪王は大きく腕を振った。ただそれだけの、攻撃というにはあまりにも大雑把な一撃。
 だが、怪王の巨体をもってすればたったそれだけの動作が必殺の一撃となり得る。
 空へと跳び散った無数のゴミが、雨となって降り注ぐ。腕を振るうだけで巻き起こされた衝撃波が、逃げ遅れた幽霊男の身体を弾き飛ばした。
 降り注ぐゴミに身体をぶつけながら、数十メートルほど弾き飛ばされた幽霊男の元へ、さよが急ぐ。
 さよの援護をするように、日那乃と七雅が遠距離からの牽制を放つ。いちはやく、回避行動をとったさよと違い、2人はゴミの雨を浴び、傷を負っているようだ。
「癒しの滴で回復なの」
 自身の傷を治療しながら、七雅は後退。バックステップと同時に、水弾を撃ち出し、怪王の注意を自分へと引き付ける。
 巨体故か、怪王の動きは鈍い。一撃の威力が強大である代わりに、小さな的を狙うのは苦手であるようだ。細かく動き回る七雅や日那乃を狙って攻撃するの躊躇しているようだ。
 力一杯、腕を振るだけで十分な脅威となるだろうが、そこまで頭が回らないらしい。
 或いは、自身を傷つけた狩人達を全滅させたことで、多少なりとも戦意が薄れているのかもしれない。
 元々は、ゴミ山の隅でひっそりと暮らすことを好んでいた平穏な古妖なのだ。
「怒りを鎮めておさまって? ってお願いしてみる?」
「静かに暮らしていた古妖さんを追い掛け回して怖がらせて怒らせたから……まだ、怒っているみたいなの」
「そう……。悪いひとたちが追いかけ回したりしてごめんなさい。あいつらは、あなたがやっつけたからもうお仕置きできないけど」
 ごめんね、と謝罪の言葉を口にする日那乃。彼女の声は、怪王には届かない。怪王の、赤く染まった瞳と、日那乃の視線が交差する。ほんの僅かに、怪王の動きが鈍くなった。
 だが……。
 2人が一カ所に纏まったことを確認し、怪王は力任せに大上段から巨大な腕を振り下ろした。ターゲットが一カ所に固まっていれば、攻撃対象を選べず躊躇する、ということはないようだ。
 どうやら、まだまだ怪王の怒りは鎮まってはいないらしい。
 
 攻撃直後に隙が出来る。身体の大きな怪王は、それが顕著だ。
 振り下ろされた腕を、左右に別れ全力で跳び退ることで回避する2人。飛び散るゴミを身体に受けながら、杖と呪符を怪王へと向けた。
 日那乃と七雅。左右から狙う場所は同じ。怪王の、巨大な腕のその付け根。ゴミの集合体である怪王の身体が頑丈だが、関節部分はどうしたって弱くなる。人と同じ形状をしている以上、弱点もある程度人と同じだと判断した。
 空気と水の弾丸が、風を唸らせ怪王の肩を撃ち抜いた。ボロボロと、怪王の巨腕が崩壊していく。ゴミの雨と、土煙りが視界を覆う。
 土煙りの中から、空へと飛び出した日那乃の眼前に、タイヤの外れたバイクの残骸が降って来た。

「う……ぁ!」
 降って来たバイクと、日那乃の身体が真正面からぶつかり合った。バランスを崩した日那乃は、無数に降り注ぐゴミの雨を全身に浴びながら落下していく。
 どこかの段階で意識を失ってしまったようだ。受け身も取れず、ゴミ山の頂に激突し、血と脂、錆に塗れたまま、動かない。
 ゴミ山が崩れる。意識を失った日那乃の身体が、ゴミの雪崩の中へと消える。

「い、っつつ……。やっぱり急所へのダメージは避けるべきだね」
 恐らく日那乃が戦線に復帰することはできないだろう。さよの治療を受けながら、幽霊男はそう判断して、溜め息を零す。
 たった一度の攻撃で、結構なダメージを受けてしまった。さよのおかげで、回復したが、そう何度も怪王の攻撃を凌ぎ続けられるとは思えない。
 飛び去っていくさよを見送り、幽霊男は自身に錬覇法をかけ基礎攻撃力を強化。
 不用意に動くことはせず、ただ静かに、怪王の動きを観察し続ける。

 じゃらり、と幽霊男が数珠を鳴らす。数珠の音を合図として、怪王の身体に付着していた植物の種が急成長。蔦が怪王の身体を締めあげ、ゴミで出来た身体を崩す。
 片腕を失った怪王の周囲を、さよが跳びまわっている。
 怪王の足元では、ゴミ山の上を跳ねるようにして七雅が駆け抜けていく。
 片腕を失った怪王の動きは、明らかに鈍くなっている。片腕を失ったことでバランスを崩し、重たい腕を自由に振り回すことができないでいるようだ。
 
●ゴミの山へと夕日は沈む
 遠距離から撃ち込まれる水弾や、空気弾が次々とゴミの身体を崩していく。
 顔の周りを飛びまわる蝿を追い払うように、めちゃくちゃに腕を振り回す度、周囲にゴミが飛び散り、雨となって降り注ぐ。
 否、雨ではない。高速で四方八方へと跳び散る様は、ゴミの流星だ。
「さてさて、本体の電子レンジだが……。外から見えんかな?」
 削られていく怪王を遠くから観察しながら、幽霊男はそう呟いた。かれこれ、十数分ほど、こうして戦闘には加わらずに、超視力を駆使して本体の捜索を続けている。
 いい加減、酷使し続けた目が疲労を訴え、霞んできた頃……。
「みぃつけた」
 幽霊男は、怪王の巨体の首の下、眼球を備えた錆だらけの電子レンジを発見した。

「気力回復はさよにお任せくださいなのです!」
 戦線を離れたさよは、幽霊男に対して[填気]を使用し、失われた気力を補充する。そのまま背後へ周り、幽霊男の身体へと抱きついた。
 翼を広げ、空へと飛び立つ。
 怪王の巨腕が振り回されることによって生じる風圧に煽られながらも、翼を広げたさよと、さよに抱えられた幽霊男は、怪王との距離を縮めて行く。

 自身のもとへ接近してくる2人を視界に捉え、怪王は腕を振り上げた。重心がぶれ、巨体が大きく後方へと傾ぐ。
「なつねたちが絶対におちつかせてあげるの」
降り注ぐゴミの雨を回避しながら、七雅は怪王の身体を駆け上がっていった。杖を振り上げ、水の弾丸を放つ。怪王の身体を掠めながら、水弾は急上昇を続ける。
ガン、と硬い音がして水弾は怪王の顎に命中。
ゴミが崩れ、雪崩と化した。ゴミの雪崩に本体の視界を塞がれた怪王の動きが僅かに鈍る。
「う、わわわっ!」
 悲鳴をあげて、ゴミの雪崩を避けながら、七雅は怪王の身体を駆けおりて行った。

 ゴミの雪崩の最中を、さよは突っ切る。頬が裂け、肩をゴミで殴打されながら、それでも前へと跳び続けた。
「一人なのか。一匹なのか。一個なのか。よー解らんし、どーでもいいが、そろそろ静かになってくれ」
 ゴミの雨を突っ切って、幽霊男は数珠を鳴らした。その手の中から、新緑色をした植物のつるが伸びる。
 大きく腕をしならせて、幽霊男は怪王の本体である電子レンジへと鞭を打ち付けた。
『---------------!!』
 声にならない雄叫びをあげ、怪王の巨体が崩れ始めた。
 幽霊男の鞭に打ち据えられた電子レンジは、既に意識を失っているのか、ゴミの雨に混じって落下している。
 崩壊する怪王から逃げながら、幽霊男は手を伸ばし電子レンジをキャッチ。
 それと同時に、さよは空中で急旋回し、そのまま全速力で怪王の傍から飛び去っていった。

 目を覚ました怪王の視界に、自分を覗きこむ4人の女性の姿が映った。沈む夕日が、一際赤く輝いているのも見える。
 一度意識を失ったせいか、先ほどまで感じていた、身を焼くような怒りは既に収まっている。戦う気力もないし、その元気もない。
 鞭で打たれた筈だが、痛みもない。意識を失っている間に、彼女たちの誰かが治療を施してくれたのか。
 はじめは銃を持った男達に追い回されて、傷つけられた。
 今度は、目の前の彼女達に傷を治療された。
 頭の中が「なぜ?」で一杯だ。
 その時、瞳に涙を溜めた優しげな少女が言葉を発した。
「もしまた狩人が来てもきっとさよ達がなんとかするので……人を恨まないで欲しい……ですっ」
「静かに暮らしていたのに人が邪魔をして本当にごめんねなの」
 次いで、白い髪の少女が告げる。
 人の言葉を話すことはできないが、理解はできる。彼女達が、自分に謝罪しているのが分かる。
「古妖狩人また来るかもしれないし、他の埋め立て地とかに引っ越ししたほうがいいのかも?」
 どこかぼーっとした雰囲気の少女は言う。
 引っ越し。
 どこへ? と、頭の中で彼女の言葉に返事を返す。
 最後に、顔や身体に包帯を巻いた女性が、なんとなく、という風に自分に向かって手を伸ばした。
「静かに暮らしたいちゅーなら、僕とくるか? お互い、色々と面倒がないやもしらんが?」
 誰かと暮らす、なんて考えたことはなかった。元々、人に捨てられた存在だ。偶然、強い力を手にいれただけで、その根本は廃棄品。自分はもう、人と共には暮らせないと大昔に理解していた。
 なのに彼女は、そんな自分に手を伸ばしてくれる。
 一緒にくるか、と問うてくれた。
『---』
 声にならない声で、塵塚怪王は返事を返す。
 ゆっくりと、体を起こした怪王は差し出された傷だらけの手に、そっと身体を押しつけた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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