納屋に棲む小さな獣
納屋に棲む小さな獣


●猫の不審死
 猫の不審死が続いている。短期間で成猫ばかりがたて続けに3匹。首から血を流して倒れているのが発見された。傷は刃物で切られたようなものではなく、鋭い牙で噛み切られているようだった。

 中心街からかなり離れた郊外の街。このあたりは猫の数が他の街に比べて少し多い。
 飼猫と呼ぶには自由すぎるが野良猫というほど無秩序でもない。近隣住民が庭先に餌を置いておくとどこからともなくやってきて、特に決まった場所があるわけでなく気まぐれにどこかの庭先でたむろして、居心地の良い軒下などを見つけては夜露をしのぐ。最近では地域猫と呼ばれるようになったらしいが、どう呼ばれようとこの辺りの住民にとっては今も昔も良き共生者だ。
 去勢も避妊もしないものだから、時期によっては数が一気に増えることもあるが、別段住民が保護してやるわけでもないのでいつの間にか姿が見えなくなる者もあり、猫の数はここ数年通してみるとあまり増減していない。
 そんな状態だから、この辺りで猫が死ぬということ自体はそれほど珍しいことではない。しかし今回の連続死には不審な点が多すぎる。
 まず先述したとおり、短期間でたて続けに起こっていること。
 次に死因。自動車等との事故でないことが明らかであり、その他人為的なものとも考えにくい。この辺りはアライグマや猪などが目撃される地域であるために、まず思いつくのはそういった獣の仕業だ。だが、その手の獣は内臓など柔らかい部分を食うことが多く、今回のように殺すためだけに殺すようなことはまずしない。稀にイタチなどが戯れに殺すこともあるようだが、そういった場合に狙われるのは弱い子猫であることがほとんどで、成猫が狙われないこともないが、たて続けに成猫ばかり3匹となるとイタチの仕業とも考えにくい。
 そしてもう一点。発見場所がすべて同じ家だということ。
 農業を営む大村氏の納屋で、3匹の死骸は発見されている。
 近所の奥様方の噂話によると、その納屋に棲む何かが猫を襲っているのではないかと、推測されていた。大村夫人は不安がり、夫へ警察なりAAAなりに相談すべきではないかと持ちかけたが、大村氏は「たかが猫が死んだぐらいで」と取り合ってくれなかった。

 その夜、大村夫人は悲鳴のような声を聞いて目を覚ました。気のせいかと思ったが、しばらくすると今度は離れた場所で何かが暴れているような物音が聞こえる。そしてもう一度悲鳴のような声。それが発情期によく聞く猫の争う声に似ている思いあたり、今まさに我が家の納屋で猫が件の何者かに襲われているのだと確信した。
 怖くなって夫を起こしたが半分寝ぼけて取り合ってくれない。しかしこのまま放置するのも気がとがめるので、意を決して1人で様子を見に行くことにした。
 懐中電灯を持って離れの納屋へ。もう物音はしない。気のせいだったのだろうか。それならそれでいい。そう思いつつ入ってすぐのところにあるスイッチを入れると、納屋を照らす明かりがついた。
 そして床に倒れる1匹の猫。首から血を流していた。
「アーサー!」
 それは坂を上った5軒先の川田氏の飼猫、アーサーだった。アーサーは他の猫と違い、川田氏がペットショップで買ってきた、売れ残りのスコティッシュフォールドだ。飼猫といっても結局は放し飼いなので、他の猫と同様近所をうろつきまわっているが、ひときわ大きい体や美しい毛並みはやはり目立つ。去勢もしてないので最近増えた折れ耳の猫はアーサーの種だろうと言われていた。近隣住民から一目置かれる存在で、勝手にボス猫と称されていた。
 そのアーサーが目の前で死んでいる。
 ――視界の端でなにかが動いた。
「ネズミ……?」
 そちらに目を向けようとしたところ、ちょうど夫人の死角から別の影が夫人の首筋に跳びかかった。直後、首から勢いよく血しぶきを上げながら夫人はその場に倒れこんだ。
 
●ネズミ駆除
「今回出現する妖は生物系。農家の納屋に棲むネズミが妖化したものです」
 集められた覚者を前に、久方 真弓(nCL2000003) がこの先起こる事件の概要を説明している。
「数は3匹でランクは1。特殊能力はありませんが、単純にすばしっこくて凶暴なんで油断しないでください。あと、ネズミはいろんなバイ菌持ってますから、噛まれると変な病気になるかもしれません。気をつけてくださいね」
 すでに3匹もの猫がこの妖の餌食になっているらしい。そしてまもなくその被害が人に及ぶ。
「ご夫人はもちろんですが、猫ちゃんも助けてあげてくださいね」
 一瞬の微笑み。しかし真由子はすぐに表情を締め直し、覚者たちに語りかける。
「1匹でも逃すとこの先どんな被害が起こるかわかりません。必ず3匹とも退治してください。よろしくお願いします」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:hilao
■成功条件
1.妖化したネズミの撃破
2.一般人への被害を抑える
3.猫への被害を抑える
はじめまして、hilaoともうします。
初の依頼となりますのでよろしくお願いします。
難易度はかなり低く設定しておりますのでお気軽にどうぞ。

以下詳細。

●ロケーション
郊外の田舎街にある農家の納屋。納屋は住居と同じ敷地内の離れにあり、敷地は簡単なブロック塀と生け垣で囲われています。
アーサーは日中どこにいるかわからないので事前の保護はできません。
事件が起こるのは深夜ですが、当日の午前中には到着でき、日中からの行動が可能です。

●エネミー
ネズミ×3
ランク1
3匹の間で意思の疎通はありませんが、他の2匹の行動やその他の状況を元にとった単独行動が結果的に連携めいた形になることはあります。
見た目は少し大きめのドブネズミ。

以下攻撃パターン
・噛み付く-物近単・低確率でBS毒
・飛びかかる-物遠単

初期配置は前・中・後にそれぞれ1体ずつ

●一般人(と猫)
・大村夫妻
家で寝ている場合、戦闘が長引くと夫人の方は起きて様子を見に来るかもしれません。

・アーサー
戦闘が長引くと現れる可能性があります。

●注意
逃げられないよう注意しつつ手早く片付けてください。
納屋には大事な農具が置かれてますので出来るだけ破損・汚染等しないようお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2015年11月27日

■メイン参加者 6人■

『ブラッドオレンジ』
渡慶次・駆(CL2000350)
『インヤンガールのインの方』
葛葉・かがり(CL2000737)

●交渉
 一行は件の街に着くと二手にわかれた。
 『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)、ジル・シフォン(CL2001234)、『罪なき人々の盾』明石 ミュエル(CL2000172)の3名は現場となる予定の大村氏宅へ、『インヤンガールのインの方』葛葉・かがり(CL2000737)、宵喰 鴉姫(CL2001238)、新咎 罪次(CL2001224)は周辺の調査へ向かった。
 大村氏宅を訪れた3名は、まず簡単に地形の確認を行う。
 一応敷地は塀で囲われているものの、出入り口に門扉はなく、一部生け垣になっている部分はネズミなら簡単に通り抜けられそうなので、納屋から出してしまうと逃げられる可能性が高いと思われる。
 戦闘場所となるであろう納屋は外から見る限りそれなりの広さはあるようだった。ただ、6人全員入ってなんとか戦えそうな広さはあるものの、中の様子次第では陣形を工夫する必要があるかもしれない。
 インターホンを押すと、応答したのは女性だった。大村夫人だろう。夫人と話せたほうがおそらく話はつけやすいと思われるので、幸先はよさそうだ。
 交渉は人当たりのいいジルをメインに、駆とミュエルがサポートする形で行う。ジルとミュエルは小綺麗なスーツ姿をしているが、駆はバックパックを背負ったラフな格好だ。いつもと違うのは腰に作業服を巻いていることだろうか。作業服を着ていればなんだかそれらしい業者に見えるのではないかと、一応街に着いた時は着ていたのだが、移動中に暑くなったのか動きづらかったのか、さっさと脱いで腰に巻いてしまった。それでもあるのと無いのとでは印象が変わるので彼なりの努力は決して無駄ではない。
「ワタシたち、AAAの方から来た者なんですが」
 玄関から出てきた大村夫人に一連の事情を説明する。猫の不審死のことから妖のことまで、うまく相手を誘導しつつこちらの情報を段階的に与えるジルの巧みな話術が功を奏したのか、夫人は3人を信用したようだった。
 3人は夫人の案内で納屋の様子を見ることになった。
 鍬や鋤、鎌などの手持ち用農具から小型のトラクターやキャリアー、コンバインなどが置かれている。さらに米袋が10袋ほどと、無造作に野菜類が入れられたカゴが3つほど。聞けば通常の収穫物は別の場所に保管しているが、自宅用のものやおすそわけ用のものは一部納屋に置いてあるらしい。それがネズミの餌になっている可能性は考えられる。
 それなりにスペースはあるので動けなくはないが、トラクター等の陰に隠れられると厄介だろう。やはりこの辺りはどかせてもらえるとありがたい。
「その辺のところは主人に聞かないと……」
 そこへ折よく農作業を終えた大村氏が帰宅した。
「なんだ、あんたら」
「ワタシたち、、AAAの方から来た者でして……」
 物腰柔らかくジルが応対する。
「AAA?」
「ほら、最近ウチで猫ちゃんが死んでるでしょう?」
「なんだ、通報したのか」
 大村氏は少し呆れたようだが、不愉快な様子ではないようだ。ただ3人を見る目に少しの不信感が灯る。
「いえ、今回は通報を受けたわけではないのですが……」
 ジルが再び事情を説明する。夫人をうまく誘導し肝心な部分を夫人に説明してもらうことで氏の不信感を拭えるような話の流れを作る。ミュエルは心配そうにその様子をうかがっていたが、駆の方は交渉をジルに任せると決めたのか、納屋の下見を続けていた。
「しかし、最近リフォームやら害虫駆除やらの業者を騙る詐欺が増えてるだろ? アンタらもそう言うんじゃないだろうな」
「ご心配なく。AAAおよび関連の団体が市民の皆さまへ金品を請求するようなことはありませんから」
「でもそいうの、増えるかもな」
 全員の視線が声の主たる駆に集中する。
「だから妖退治じゃ金は取られないんだってことはしっかり認識しとかないとな」
 駆の方はそんな視線には気付かないかのように納屋の点検を続けていた。

「納屋、空っぽにしたいんだって?」
「ええ、出来れば」
「よし」
 そういうと大村氏は納屋の方へ移動し、しばらくすると高圧洗浄機を持って戻ってきた。
「運べるもんはその辺の空いたところに置いといてくれ。トラクターとかは俺が出すから。米と野菜は玄関脇においてくれたらいい。あとは、目立つ泥汚れとかだけ落としてくれてりゃいいから。納屋ん中も頼むな」
 どうやら農機具類と納屋の洗浄を条件に、こちらの要求を受け入れてくれるようだった。

●周辺の調査
 かがり、鴉姫、罪次の3人は周辺の様子を探っていた。
 まずかがりが守護使役のカトーを使って上空から大まかな地形と、猫の数や行動範囲を確認し、近くに猫がいれば鴉姫の『以心』で猫たちの思考を確認。罪次は『土の心』で見落としそうな猫たちの通り道や隠れ場所を探る。
 まずこの辺りには20匹近くの猫がいることがわかった。5軒ほどの家がエサ場になっているらしく、各家々の庭先で住人が気まぐれにエサを置いているようだった。エサがない時は鳴いてねだるか別の場所へ移動するか。満腹になった猫はその場にとどまったり、別の場所でくつろいだりと自由気ままに過ごしているらしい。
 猫の思考を確認したが、今回の件はそれほど警戒されていないようだった。確認できたのは5~6匹だけだったが、エサ場のひとつである大村氏宅を忌避する考えを持つ猫はその中にいなかった。今後も現場に猫が近寄る可能性を示唆しているといえる。
 意外な場所に猫の通り道や隠れ場所を発見できたが、結局アーサーらしき猫は発見できなかった。
 近所の人達に事情を説明してアーサーを保護してもらうのはどうか、という意見もあったが、妖関連の情報が変なうわさ話に発展して現場となる大村氏に迷惑がかかることを考慮し、出来るだけ情報は拡散させない方向で話はまとまっていた。仮に事情を説明するにしても、よそ者がアーサーの存在を知っているというだけでも不審がられるだろう。
 この3人の調査にしても、見た目未成年者の集団が住人の目につけば不審に思われるのは必至なので、上空から周りの人間の動きを観察しつつ、うまく隠れながら調査を進める必要があった。そのため調査がはかどらなかった部分がないでもない。
「あー、見つかんねーなー。やっぱトラップしかねぇよトラップ!」
「とらっぷ……?えーと、罠かの。なんの罠をしかけるんじゃ?」
「猫ちゃん捕まえるん? 怪我とかさしたら可哀想やで」
「ちげーよ! マタタビだよ、マタタビ! あとウマそうなエサとかさ、そいうのを通り道とかに仕掛けときゃいいんじゃねーの?」
「おう、またたびの! わらわもそれは考えておったのじゃ」
「マタタビなんか持ってきてるん?」
 罪次は得意げに、懐からビニールのストックバッグを取り出した。その中には10本ほどマタタビの小枝が入っている。
「新咎さんエラいねぇ。でもマタタビってどれくらい効くんやろ」
「わらわが調べたところによるとじゃな、30分ほどは効果が続くそうじゃ。あとは、なんじゃったかの……。おお、そうじゃ。去勢してない雄猫によく効くのじゃ!」
「ほなアーサーに効果テキメンやねぇ! 宵喰さんはよう物知ったはるなぁ」
「むふふ、そうじゃろ。わらわこう見えて物知りなんじゃよ」
「えー、でも30分しか効かねーのかよ。だったら仕掛ける場所とかタイミングとか考えねーとな」
「そやね。1回みんなのとこ戻ろか」

●戦闘準備
 かがり、鴉姫、罪次が大村氏宅に着くと、駆が庭で大村氏とおぼしき男性とトラクターを洗っているのが目に入った。ミュエルは納屋を掃き掃除しており、ジルは大村夫人であろう女性とお茶を飲みながら話している。
 夫妻は新たに訪れた3人を見ても特に不審がることはなかった。ジルたちが事前に話を通しておいたのだろう。様子を見る限り、交渉はかなりの成果を得たようだった。
「へー、結構広いじゃん!」
 空っぽの納屋は結構な広さだった。しかし、構造上数ヶ所に設置されている細い柱が邪魔になりそうだった。覚者なら軽く一撃を加えるだけで簡単に折ってしまうだろう。
「……槍、使いづらいかも」
「あー、俺の鉄パイプもぶん回したら当たっちまうかもな―」
「そうよねえ。ワタシの鞭も絡まっちゃうかも」
 いつの間に夫人との話を中座したのか、ミュエルと罪次の背後からジルが話しかける。
「……でも、天井は……高いんだよ」
 ミュエルに促され、ジルと罪次は天井を見上げる。幸い天井はかなり高い。横に薙ぐ行為に制限はあるが、縦に振る分には問題ないようだ。
「こんだけ天井高かったら戦いようはありそーだな!」
「そおねぇ。ワタシも頑張ってみるわ」

 日暮れ前に納屋の整理を終えた一行は、大村夫妻に「絶対に夜明けまで家を出ないように」と釘を刺し、一旦現場を離れ、休憩と打ち合わせのためFiVEが用意したホテルへ向かった。
  件の住宅街近辺に宿泊施設がないため、少し離れた繁華街にあるホテル、そこと現場を行き来するためのレンタカーをFiVEが手配してくれていた。現場到着時はまだチェックインには早い時間だったので、ここに来てようやく一息つけることになる。
 資金繰りの問題なのか、ホテルはツインルームにエクストラベッドを配したものを2部屋というお粗末なもので、部屋割りは男性陣と女性陣に分かれてそれぞれ3人ずつ。
 バックパッカーとして世界を放浪している駆にしてみれば、5人10人雑魚寝のドミトリーなどは当たり前で、1人でシングルサイズのベッドを占拠出来るだけで贅沢だと思っている。もっと過酷な状況で各地を放浪した罪次にしてみれば屋根があるだけでありがたい、といったところか。ジルを男性陣に加えることについては議論の余地がありそうだが、他の2人に異論がないなら自分的には無問題、とのことだった。
 女性陣の方も特に問題はないようだ。ミュエルは五麟学園での生活のおかげで、他人との共同生活に慣れてきたところだし、自主性に欠けるかがりはむしろ自室以外で1人部屋に放り出される方が不安だ。鴉姫は初めての依頼に初めてのお泊り、ということでワクワクが止まらない様子だった。
 各々荷物を解いた後、片方の部屋に全員が集まり、細かい陣形やアーサー用のトラップについて打ち合わせをし、深夜まで小休止となった。

 未明。
 街は眠りについている。
 農家は早朝から作業があるため、会社員などは離れた街へ勤めに出るため、この街の夜は早い。すっかり寝静まった街を、再び一行は訪れた。
 鴉姫の『以心』と罪次の『土の心』で綿密に調べあげた猫の通り道にマタタビを仕掛ける。
 下見の際の予想通り、米袋の一部は食い破られ、野菜にもかじられたあとがあった。一部の食料はネズミをおびき寄せるエサ用に残している。農機具が無くなっていることについては、納屋と農機具の清掃を行うため定期的に空にしているようなので、その変化をネズミたちが怪しむことはあるまい。
 納屋に数ヶ所、ネズミの侵入経路らしきものを発見している。こちらも罪次の『土の心』で入念に調べあげ、2箇所だけ残して塞ぎ、その2箇所も外から簡単に塞げるよう仕掛けを施してあった。
 かがりが足音を立てないよう慎重に納屋へ近づく。そして『熱感知』で3匹のネズミが納屋の中にいることを確認し、後ろに控えていたメンバーに合図を送った。
 かがりの合図を受け駆と罪次の2人が納屋に近づく。2人はそれぞれ守護使役の能力『ふわふわ』と『しのびあし』で音もなく容易に納屋へ到着すると、仕掛けを使って侵入経路を塞いだ。

●戦闘開始
 一行は納屋の戸を開け、一斉に中へ躍り込むと、手早く灯りを点け、戸を閉めた。
 6人全員が入るとかなり動きが制限されるので、前衛のみ3人が中へ入り、中衛が入り口を守り、後衛が外から援護する、という案もあったが、逃走のリスクを無くすため、6人全員で納屋に入って密室にしてしまおう、ということに決まったのだった。
 突然の闖入者にネズミたちは驚き、逃げ出そうとするものもあったが、逃走経路が塞がれていることを悟ると、こちらを威嚇してきた。姿形は少し大きめのドブネズミだが、漂う雰囲気は間違いなく妖のそれだ。
 ネズミたちが慌てふためいている隙に、前衛に陣取ったジル、ミュエル、罪次は各々『醒の炎』『機化硬』『蔵王』で能力を高める。そのすぐ後ろで鉈を構える駆も『醒の炎』を使い、さらに後方に控えたかがりと鴉姫は、ちゃんと逃走経路を塞げているか、身構えて様子を伺った。ネズミは3匹、ちゃんと納屋の中にいる。
 まず罪次が手近なところにいるネズミに突進し、鉄パイプを振り下ろす。ネズミはそれを軽々とかわしたが、かわした先をミュエルの槍が一閃。ネズミの足をかすめ、多少ダメージを与えたがそのネズミは一旦後方に下がった。
 それとほぼ同時に死角から別のネズミが罪次に飛びかかる。察知したジルは鞭ではたき落とそうとしたが柱が邪魔で狙いを外してしまい、罪次は首筋をかじられた。
「へ、効かねーよ!」
 『蔵王』で防御をあげていたおかげで致命傷には至らずにすんだが、急所に受けたダメージはそれなりのものだった。しかし、まだ充分戦える。
 罪次にダメージを与えたネズミは、彼の肩を蹴って空中に跳んだ直後、地面にたたきつけられた。
 ――斬・一の構え
 ネズミは、静かに構えていた駆の間合い入ってしまったことに気付かず、振り下ろされた鉈の
一撃を受け、そのままの勢いで地面にたたきつけられたのだった。
 それとほぼ同じころ一番後方にで身構えてえいたネズミが軽くのけぞった。鴉姫の放った『水礫』が命中。しかし威力が弱い。そこへかがりの『招雷』が炸裂。3匹のネズミは弾かれたように吹っ飛んだが、まだ倒すには至らない。

 鴉姫が『癒やしの滴』で罪次を回復。全快とはいかないが、あと一撃ぐらいなら耐えうる程度には回復する。その行動後の隙をつき、ネズミが鴉姫に飛びかかった。罪次に続いて鴉姫に襲いかかったそのネズミの攻撃は、少し距離があったせいが軽い体当たりのような形となり、その攻撃自体でそれほどのダメージを受けることはなかったが、戦いに慣れていない鴉姫は衝撃で後ろによろけてしまい、背後の壁でしたたかに頭を打ってしまった。
 罪次の回復と鴉姫のダメージが少ないことを確認したミュエルは攻勢に転ずる。後方に控えるネズミに向かって植物の種を投げつけた。種はネズミに付着するや瞬時に成長し、その棘がネズミの皮膚を切り裂く。そこへかがりの『招雷』。ミュエルの『棘一閃』を食らい、血みどろでふらついていたところに雷撃を受けたネズミは、仰向けに倒れたまま血混じりの泡を吐いて動かなくなった。
 駆の一撃を食らっていたネズミも、2度めの雷撃で絶命したようだった。
 残る1匹は最初にミュエルから受けた足のダメージと2度にわたる雷撃により満足に動くことができないようだった。そこへ炎をまとったジルの鞭が一閃。ネズミは2~3回転がった後、罪次の足元で動かなくなった。それを見て駆が構えを解く。
「なあ、ネコ殺したときどんな気持ちだった? 楽しかったか? 楽しいよな、自分虐めてたヤツ殺すんだもんなっ!」
 足元のネズミを見下ろしながら、罪次は鉄パイプの先でネズミをつつく。
「ちぇ、もう死んでら。ま、念のため」
 罪次は鉄パイプを振り下ろし、ネズミの頭を潰した。

●戦闘終了
 大村氏宅の敷地に入ってすぐのところで、1匹の猫がゴロゴロと喉を鳴らしながら転がっていた。
「あれアーサーちゃうん? アーサーやんな!?」
 なかば叫びながらかがりは駆け寄ると、転がっている猫をなでくりまわした。身体の大きい折れ耳の猫。マタタビ効果が充分に現れていることからアーサーで間違いないだろう。
「マタタビ作戦大成功だな!」
 罪次はそう言うと鴉姫の方を向いて手を挙げる。
「お、おう」
 鴉姫は罪次の動作の意味がわからず、なんとなく同じように手を挙げてみた。すると、罪次が勢いよく手を合わせてきて、パチンと高い音がなる。
「(もしや、これが『はいたっち』というやつじゃろか?)」
 まだ罪次の手が挙がったままだったので、今度は自分の方から手を合わせてみた。

 かがりが猫をなでくりまわしているあいだ、駆とミュエルは後片付けを行っていた。ミュエルがネズミの死骸を片付け、駆が高圧洗浄機で血痕を洗い流す。駆はみるみる汚れを落とすこの高圧洗浄機というものに少しハマったかもしれない。外に出した農機具類は1日乾かしてから片付けるとのことなので、このままにしておいて問題ない。

 ジルは1人で車へ行くと、いつの間に用意していたのか、小さめの花束を持って大村氏宅に戻ってきた。そして庭の片隅のなにもないところに膝をつく。
 この辺りでは猫が死ぬことは珍しいことではなく、死骸を見つけたら庭の適当な場所に埋めるだけで墓標はおろか土を盛るようなこともしないとの事だった。
 庭の片隅のなんでもないところ。最近掘り返したような跡があるだけのその場所に、今回犠牲になった3匹の猫、そしてこれまで事故や病気で亡くなった何匹もの猫たちが眠っているという。
 ジルは何もないただの地面に花束をそっと置くと、静かに手を合わせ、目を閉じた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

初の依頼を引き受けていただきありがとうございました。
初参加のプレイヤーさんもいらっしゃったようで、これを機にこのゲームを楽しいと思って頂ければ幸いです。




 
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