<黎明>妖討伐依頼、共同作戦
●ジェイという男
「皆さん、先日の対ヒノマル陸軍戦、お疲れ様でした」
久方 真由美(nCL2000003)はいつもよりやや真面目なトーンで語っている。
ここはF.i.V.Eの会議室。いつも夢見と所属覚者だけがいるこの部屋には、一台のノートパソコンが不自然な形で設置されていた。
それには触れず、話を続ける。
「皆さんの活躍によってヒノマル陸軍は退き、京都の町も今現在復興に向かっています。救出した黎明の覚者たちは投票の結果F.i.V.Eの仲間に受け入れることとなりましたが……真意を疑う声も大きかったため、皆さんの意見をもとに夢見をはじめとする組織運営上重要な施設や人物に近づけさせないこと。そしてメンバー全員の可能な限りの監視を条件としました」
『フン、そんな条件をつけておいてよく仲間などと言えたな』
声がしたほうを見てみると、ノートパソコンに音声チャットの通知が出ていた。声は男性のものだ。
笑顔を作る真由美。
「えと~……今回は妖の討伐作戦を行ないますが、仲間になったということで、黎明の方とも一緒に作戦行動をとろうと思います。皆さん、よろしくお願いしますね。では黎明の方からも一言……」
『俺は貴様らと馴れ合うつもりはない』
ナイフで切り裂くかのように、声はそう言った。
『資料はこっちにも届いている。山岳地帯に発生した犬と猿の生物系妖討伐依頼か。俺たちが八人が九人がかりで対応する依頼だが、そっちも同じらしいな。超巨大組織だとうそぶくから何かと思えば、普通の組織だな』
控えめに言って険悪な空気だ。真由美が取り繕おうとするが、彼は冷たい態度を続けた。
『組織の決定だから従うが、強力するのは戦闘だけだ。それと、ジャミングはかけさせて貰うぞ。送受信で俺を暗殺する相談でもされたらかなわないからな。話はこれで終わりか?』
「えっと……まだ、自己紹介が」
『秘密だらけの貴様らに名前を教える義理はないな。ジェイとでも呼べ。以上だ』
それっきり、音声チャットは終了した。
嘆息する真由美。
「資料はお渡ししておきます。どうか、よろしくおねがいします」
「皆さん、先日の対ヒノマル陸軍戦、お疲れ様でした」
久方 真由美(nCL2000003)はいつもよりやや真面目なトーンで語っている。
ここはF.i.V.Eの会議室。いつも夢見と所属覚者だけがいるこの部屋には、一台のノートパソコンが不自然な形で設置されていた。
それには触れず、話を続ける。
「皆さんの活躍によってヒノマル陸軍は退き、京都の町も今現在復興に向かっています。救出した黎明の覚者たちは投票の結果F.i.V.Eの仲間に受け入れることとなりましたが……真意を疑う声も大きかったため、皆さんの意見をもとに夢見をはじめとする組織運営上重要な施設や人物に近づけさせないこと。そしてメンバー全員の可能な限りの監視を条件としました」
『フン、そんな条件をつけておいてよく仲間などと言えたな』
声がしたほうを見てみると、ノートパソコンに音声チャットの通知が出ていた。声は男性のものだ。
笑顔を作る真由美。
「えと~……今回は妖の討伐作戦を行ないますが、仲間になったということで、黎明の方とも一緒に作戦行動をとろうと思います。皆さん、よろしくお願いしますね。では黎明の方からも一言……」
『俺は貴様らと馴れ合うつもりはない』
ナイフで切り裂くかのように、声はそう言った。
『資料はこっちにも届いている。山岳地帯に発生した犬と猿の生物系妖討伐依頼か。俺たちが八人が九人がかりで対応する依頼だが、そっちも同じらしいな。超巨大組織だとうそぶくから何かと思えば、普通の組織だな』
控えめに言って険悪な空気だ。真由美が取り繕おうとするが、彼は冷たい態度を続けた。
『組織の決定だから従うが、強力するのは戦闘だけだ。それと、ジャミングはかけさせて貰うぞ。送受信で俺を暗殺する相談でもされたらかなわないからな。話はこれで終わりか?』
「えっと……まだ、自己紹介が」
『秘密だらけの貴様らに名前を教える義理はないな。ジェイとでも呼べ。以上だ』
それっきり、音声チャットは終了した。
嘆息する真由美。
「資料はお渡ししておきます。どうか、よろしくおねがいします」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の討伐
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回は黎明との共同作戦となっております。
いつもの八人に黎明のNPC一名が加わります。
●討伐対象
犬と猿が二倍ほどに巨大化した妖です。
それぞれ五体ずつ。
噛みつきや殴りつけといった近単物理型の攻撃を行ないます。
すべてランク1。
場所は山岳地帯で薄暗く足場もよくありませんが、今回これらは戦闘判定にマイナス判定を出さないものとします。
現地まではバスが出ます。希望があれば誰かの車二~三台制で行っても構いません。
●黎明のNPC
本人は『ジェイ』と名乗っています。
土行の現因子。長い黒髪。黒っぽい服でサングラスをかけいます。
武器はハンドガンとナイフ。F.i.V.E覚者と同等程度の戦闘力を持っています。
本人も言っていますがジャミングと超直観を活性化しています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
5日
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年11月18日
2015年11月18日
■メイン参加者 8人■

●F.i.V.E
妖討伐作戦のためマイクロバスが走る。
車内の空気を端的かつ乱暴に表現するなら、『修学旅行』のそれだった。
「お仕事にいくのにお菓子食べちゃいけないルールはないもんね。何事も楽しく和やかがいいし」
市販の焼き菓子を開けてジェイへ突き出す宮神 早紀(CL2000353)。
「食べる?」
「……」
ジェイは車窓の外を見つめたまま彼女の問いかけを無視した。
まあ、ここで彼が『食べる食べるぅ☆』などと言い出したら狐憑きを疑う場面だ。
肩をすくめる早紀だが、これでコミュニケーションを諦めたと思ってもらっては困る。
早紀を押しのけるように鹿ノ島・遥(CL2000227)が顔を寄せてきた。
「オレ鹿ノ島遥! 趣味は空手で特技は空手! よろしくな! ジェイさんはなんで戦ってんだ? なんで組織に所属してんの?」
そんな遥を更に押しのけて身を乗り出す『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)。
「私は酒々井数多。アイドルに見える普通の高校生よ。あなた年はいくつ? 好きなものは?」
数多と遥をかき分けて身を乗り出す『一縷乃』冷泉 椿姫(CL2000364)。
「それでアタシは冷泉椿姫。巫女さんやってるわ。ほら、見た目も性格も癒やし系だから。言いたいことがあったら遠慮なく言っていいのよ?」
「……」
無視をしていたジェイは車窓から視線を移し、小梅たちをにらんだ。
「俺に質問をするな。俺はお前の友達でも兄弟でもないぞ」
「でも友達にはなれるだろ?」
「よろしくね」
『一縷乃』冷泉 椿姫(CL2000364)は菓子箱を開いてジェイへと突きだした。
「組織としては話せないことはあっても、人としては話せるでしょ」
「うるさい!」
突き出された菓子箱を手で薙ぎ払い、ジェイは車窓へと視線を戻す。
「何度も言わせるな。俺はお前らと馴れ合うつもりはない。仲良しクラブはお前たちだけでやれ」
「まあまあ、警戒心も大事でござるが、今から気を張っては疲れてしまうでござるよ」
この程度のリアクションは想定していたとばかりに、『直球勝負の田舎侍』神祈 天光(CL2001118)は穏やかな顔で両手を翳した。
「思うところあれど同じ仕事を行なう縁でござる」
「俺は組織の決定に従っただけだ。どうせお前たちだって……」
「子供だな」
目を合わせることなく、葦原 赤貴(CL2001019)が聞こえる声で呟いた。
「組織行動のさいちゅうに出す話ではない。所属組織の不満を外部者の前でむき出しにするなどあり得ん」
「そんなことは俺の勝手だ」
「だろうな。それでも作戦には協力してもらうぞ」
「『さもなくば組織ごと皆殺しにしてやるぞ』とでも?」
「ちょっと……!」
数多が本能的に立ち上がろうとした、ところで、プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がその両肩を掴んだ。そしてもんだ。
「はい、じゃあ王家と民と新しい民にかんぱーい! ところでジェイってイニシャルかい? JAPAN丸かい?」
「……」
「ねえJAPAN丸ぅー、本名なに丸ぅー?」
「俺に……」
ジェイは振り返り、力強く叫んだ。
「俺に質問をするな!」
●討伐作戦
今回の作戦は九人を三チームに分けた追い込み作戦である。
妖が発生しているエリアを囲むように攻め立て、最後は囲んで集中砲火という形だ。
ある程度知能のある敵には通用しづらいが、ランク1の妖は獣ほどの知能もないと言われている。恐らく容易に罠にかかるだろう。
「私たちはこの三人。拡張視野で敵を探すから、見つけたら戦闘開始。それでいい?」
「好きにしてくれ」
「追い込んだらBOTでまとめて攻撃してねJAPAN丸ー。自身あるんでしょ、頼むよJAPAN丸ー?」
ジェイの背後から現われて左右から交互に覗き込むようにするプリンス。
「見つけた」
そうこうしているうちに、椿姫は早速敵を発見した。
山岳地帯は地面の凹凸や樹木によって視界が通らないことが多い。そのぶん視覚情報による索敵が難しいが、相手が大型動物であれば別だ。木々の間を移動するだけでも遠くからそれが分かる。
発見したのは犬型の妖だ。
「こっちの方角に追い詰めればいいんだな。戦闘行動に入る」
銃を抜き、乱射しながら突撃するジェイ。
「突出したら危険よ!」
椿姫も銃を取り出して走る。ジェイの横に並ぶように走りながら水弾を連射し始める。
二人の銃撃を予期できなかったのか、犬妖は身を庇うように身をすくめた。
「待ってよ早いよJAPAN丸! ニンジャなの!?」
遅れて走り出すプリンス。その視界の上に揺れるものがあった。
「あっこれやばいかも」
ぴたりと足を止める。すると、上から猿妖が降下。ジェイへフリーフォールパンチを叩き込んだ。
激しく回転しながら地面をバウンドするジェイ。
急速に接近した猿妖に、椿姫は素早く小太刀をスイング。
猿妖はその場から飛び退いて樹木の上へと駆け上っていく。
そうしている間に椿姫の横を犬妖が駆け抜ける。
狙う先はジェイだ。どうやら最初に撃ってきた彼を標的にしているらしい。
咄嗟に銃撃を加えようとする椿姫だが、殴りかかってきた猿妖をかわすのに精一杯だ。
「ひ」
ジェイは樹幹に背を押し当て、銃を構えた。
「く、くるな!」
銃を乱射。しかし乱射も乱射。狙いは全く定まらず、周囲の土や木を削るばかりだ。
犬妖は牙をむき出しにして食らいつこう――とした途端。
「ほい」
プリンスが腕を横から突っ込んだ。
食いつかれた腕が血しぶきをあげ、曲がってはいけない方向へ折れる。
「……」
銃を構えたままのジェイに、プリンスは背を向けて言った。
「王族はね、民助けるのに理由はいらないんだよ。貴公の王は違うの?」
「……俺に、質問をするな」
プリンスは黙って召雷を放つと、犬妖をはねのけた。
スパークにびっくりした犬妖にナイフを突き立て、切り裂くジェイ。
その様子に頷いて、椿姫は猿妖の股下をスライディングで通過。背後から銃を乱射してやる。
銃撃を嫌がった猿妖は走り出し、山岳地帯を移動していく。
プリンスたちは頷き会い、それを追って走り始めた。
一方その頃、遥たちは別の場所で妖を捜索していた。
「他の皆はうまくやってっかなー」
「問題ないだろう」
干し肉を周囲に散らしながら歩く赤貴。
「なにしてんの、それ?」
小梅が問いかけると、赤貴は相変わらずの顔で言った。
「試しにエサをまいてる。人を襲う犬や猿なのだから、人や食い物のにおいに反応するかもしれん」
「えっ、そういうもんなの? 犬妖とかタマネキ喰ったら腹壊したりすんの?」
「そんなわけないでしょ。低ランクの妖が本能的だとは言っても、妖の本能って人への害意のことだし……ご飯いらないんじゃない? 妖ってご飯いらないんじゃない? 多分だけど」
「それならそれでいい。人を見つければ隠れることなく襲ってくるほど愚かだということだからな……ほら、噂をすれば」
手の中に剣を出現させる赤貴。剣の表層に魔術紋様が浮かび上がり、ぎらりと光った。
光を照り返す先には、岩陰から姿を現わす犬妖。
後方からは猿妖がのっそりと姿を現わした。
魔力布を拳に巻き付けて構える遥。
「えっ、マジで食い物とりに来たとか?」
「違うな。見ろ、干し肉を見もしない。狙いは徹頭徹尾人間ということだろう」
「小さいのによく考えてるのねえ。それじゃ、張り切っていってみましょっか!」
小梅が両手をパチンと打ち合わせるや否や、その場の全員が一斉に地面を蹴った。
空中に飛び上がった猿妖に遥がカウンターで跳び蹴りを叩き込み、相手のパンチと相殺。
まっすぐ突っ込んできた犬妖には赤貴は気弾を発射。頬を掠めた犬妖は紫色の血を流したが、そのまま急接近。赤貴の肩を食いちぎっていく。
「ちっ――!」
赤貴は痛みにひるむことなくターン。
小梅がすかさず因子を滴を野球ボールのごとく赤貴へと投げつける。
それを受けた赤貴の肩が再生。両手持ちにした大剣を水平に繰り出し、犬妖を切り裂く。
その直後、頭上から落下してきた遥のハンマーパンチによって犬妖は頭部をたたきつぶされ、消滅した。
その様子を見た猿妖が慌てて走り出す。
「逃げんのか!」
「そんな知能はない。本能的に距離をとろうとしているだけだ」
「でもその分追い込みやすそう。作戦通りいくよ!」
小梅は杖を手に取ると、それをわざと振り回しながら猿妖を追いかけ始めた。
二つのチームはうまく追い込みをかけられているようだが、もう一つのチームはどうだろうか。
「私、正直あの組織と組むことは反対だったんだけど、それでも組んだのなら足下をすくわれないようにしないとね」
「そうだね。最後にいい雰囲気で終われたらいいんだけどなあ」
「此度の作戦は、共に行動するということが大事なのかもしれぬでござる。仲違いせぬよう気をつけなければ……っと、話はここまででござる」
素早く抜刀する天光。
数多は彼に背を合わせる形で抜刀した。
前後の茂みから犬妖が現われたのだ。
それだけではない。木から猿妖が二体下りてきて彼らの四方を取り囲んだ。
「四体か……このくらいなら手に負えるね」
トンファーをくるくると手元で回す早紀。
すると、猿妖と犬妖が別の茂みから一体ずつ現われた。
「合計六体」
刀を構えて口を引き結ぶ天光。
数多が汗をたらりと流した。
「ねえ、今回の作戦って……敵が一チームに偏っちゃった場合の対処法って、あったかしら」
「無論」
キリリと応える天光に目を光らせる数多。
天光は。
「気合いでござる!」
「無策だったー!」
全ての妖が一斉に襲いかかってくる。ここは知能の弱い低ランク妖だけあって目に付いた相手へバラバラに襲いかかるフォーメーションだ。
突っ込んできた犬妖の牙を刀でガードする数多。
一方で天光は迎え撃つように別の犬妖へと斬撃。顎を切り裂かれた犬妖は爪を出して繰り出してくるが、間に割り込んだ早紀がトンファーで弾き身を翻して火炎弾。
至近距離から炎を打ち込まれた犬妖は消滅したが、早紀と天光は横から飛び込んできた申妖のパンチで一緒になって吹き飛んでいった。
「二人とも――んきゃ!?」
呼びかけようとした数多もまた殴りつけられ、地面をバウンドしながら転がっていく。
「知能のない妖とか反吐がでるわ、気持ち悪い!」
親指で口元の血をぬぐい、立ち上がる数多。
再び殴りかかろうとした猿妖の間をジグザグに駆け抜けていく。次々に血しぶきをあげる猿妖。
だが、ターンしようとした数多の足へ犬妖が食らいつく。
あまり聞こえたくない音が体内から伝達してきた。
バランスを崩して転倒する数多。
と、そこへ。
「頭を下げていろ!」
仲間の声がこだました。
一番乗りは赤貴だった。
邪魔な岩を飛び越えつつ、剣を水平に構えて気を集中。
空気を薙ぎ払うようにして気弾を一斉発射した。
彼の到来を予期していなかった猿妖たちはそれらに直撃。バランスを崩し始める。
そこへ駆けつけたプリンスが高く掲げたハンマーを樹木へと叩き付けた。
スマイルの刻まれた樹幹が魔術式を帯び、雷を放って猿妖たちに襲いかかる。
「歯ぁ食いしばっとけよ!」
ダッシュジャンプをかけた遥が、引き絞った拳を猿妖の顔面へと叩き込んだ。
頭がそのまま吹き飛び、消滅する猿妖。
誰に対応するか迷った挙げ句遥に掴みかかろうとした残り二匹……だったが。
その背中に椿姫が銃口を押し上げてていた。
「射線、貰いました」
トリガーを引く。螺旋回転で放たれた氷弾が猿妖二匹を貫通し、その剥こうの樹幹を破壊して倒れさせる。
「おまたせ。そっちは大漁だったみたいだね」
早紀と天光を引き起こし、ウィンクする小梅。
手の中に因子の水球を作ると、軽く放って杖でバッティングした。
破裂した水球が飛び散り、天光たちがうけた打撲傷を修復していく。
「いいタイミングでござる!」
天光は低姿勢のまま駆け出し、状況に混乱している犬妖の足を切断。
同じく飛び出した数多も別の犬妖の足を切断する。
プリンスが頃合いとばかりに指で合図を出した。
「やっちゃってJAPAN丸!」
「その呼び方をいい加減やめろ!」
ジェイは密集した犬妖に銃を乱射。
次々に直撃させていく。
「おー、手慣れてる! それじゃああたしも!」
早紀はトンファーをしっかりと握り、犬妖へと急接近。
「せいっ」
炎を纏った足で犬妖を強烈に蹴っ飛ばした。
犬妖はくるくると回転しながら飛び、樹幹にぶつかって消滅。
残りの妖も崩れるように消滅していった。
「こっちで遭遇した妖はすべて倒したんだけれど、遭遇した数が少ないからもしかしてと思って近道してきたの。正解だったみたいね」
銃を指でくるくると回してアテンドに収納する椿姫。
「そーそー、酒々井たちが危ないと思ってさー」
「その可能性を提示したのはオレだがな」
頭の後ろで手を組む遥。剣を手放して消す赤貴。
「あっそうだJAPAN丸、はいこれ賜与」
数十円の駄菓子を手渡すプリンス。
「やったね、今度は遠くで見てる民も紹介してよ」
「……」
駄菓子をポケットに入れてきびすを返すジェイ。
「恐いのに、よく頑張ったね」
「知らんな。なんのことだ」
「ねーねーそんなことよりさー!」
小梅がぱたぱたと手で仰ぎながら歩いてくる。
「お腹すいたから、皆でご飯いかない? ジェイさんも一緒に」
「……行くわけ無いだろう。俺の仕事は終わりだ。帰らせて貰う。バスもいらん」
ジェイはそう言うと、小梅たちに背を向けて歩き出した。
途中で赤貴とすれ違う。
「おい、目つきの悪いお前」
「オレのことか」
「他にいるか」
舌打ちしてにらむ赤貴。
ジェイもまた彼をにらんだ。
「お前たちはいつもこうなのか」
「質問とは珍しいな。興味が沸いたか」
「……別に」
ジェイはそう言って、そのまま歩いて行く。
腕組みする数多。
「いいの? 一緒に行かなくて」
天光が背を向けて瞑目した。
「わかり合うにも時間がかかるでござる。焦りは禁物」
「そうね。焦らないわ、私も。いつか仲良くなれるって、思うから」
あえて追いかけることをせずに見送る椿姫。
早紀はそんな中で、去りゆくジェイの背中をじっと見つめていた。
彼は何を思って、この集団の中にいたのだろう。
自分があの立場だったら、どうしていただろうか。
「もっと、場数踏まないとなぁ……」
誰に共無く、早紀は呟いた。
妖討伐作戦のためマイクロバスが走る。
車内の空気を端的かつ乱暴に表現するなら、『修学旅行』のそれだった。
「お仕事にいくのにお菓子食べちゃいけないルールはないもんね。何事も楽しく和やかがいいし」
市販の焼き菓子を開けてジェイへ突き出す宮神 早紀(CL2000353)。
「食べる?」
「……」
ジェイは車窓の外を見つめたまま彼女の問いかけを無視した。
まあ、ここで彼が『食べる食べるぅ☆』などと言い出したら狐憑きを疑う場面だ。
肩をすくめる早紀だが、これでコミュニケーションを諦めたと思ってもらっては困る。
早紀を押しのけるように鹿ノ島・遥(CL2000227)が顔を寄せてきた。
「オレ鹿ノ島遥! 趣味は空手で特技は空手! よろしくな! ジェイさんはなんで戦ってんだ? なんで組織に所属してんの?」
そんな遥を更に押しのけて身を乗り出す『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)。
「私は酒々井数多。アイドルに見える普通の高校生よ。あなた年はいくつ? 好きなものは?」
数多と遥をかき分けて身を乗り出す『一縷乃』冷泉 椿姫(CL2000364)。
「それでアタシは冷泉椿姫。巫女さんやってるわ。ほら、見た目も性格も癒やし系だから。言いたいことがあったら遠慮なく言っていいのよ?」
「……」
無視をしていたジェイは車窓から視線を移し、小梅たちをにらんだ。
「俺に質問をするな。俺はお前の友達でも兄弟でもないぞ」
「でも友達にはなれるだろ?」
「よろしくね」
『一縷乃』冷泉 椿姫(CL2000364)は菓子箱を開いてジェイへと突きだした。
「組織としては話せないことはあっても、人としては話せるでしょ」
「うるさい!」
突き出された菓子箱を手で薙ぎ払い、ジェイは車窓へと視線を戻す。
「何度も言わせるな。俺はお前らと馴れ合うつもりはない。仲良しクラブはお前たちだけでやれ」
「まあまあ、警戒心も大事でござるが、今から気を張っては疲れてしまうでござるよ」
この程度のリアクションは想定していたとばかりに、『直球勝負の田舎侍』神祈 天光(CL2001118)は穏やかな顔で両手を翳した。
「思うところあれど同じ仕事を行なう縁でござる」
「俺は組織の決定に従っただけだ。どうせお前たちだって……」
「子供だな」
目を合わせることなく、葦原 赤貴(CL2001019)が聞こえる声で呟いた。
「組織行動のさいちゅうに出す話ではない。所属組織の不満を外部者の前でむき出しにするなどあり得ん」
「そんなことは俺の勝手だ」
「だろうな。それでも作戦には協力してもらうぞ」
「『さもなくば組織ごと皆殺しにしてやるぞ』とでも?」
「ちょっと……!」
数多が本能的に立ち上がろうとした、ところで、プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がその両肩を掴んだ。そしてもんだ。
「はい、じゃあ王家と民と新しい民にかんぱーい! ところでジェイってイニシャルかい? JAPAN丸かい?」
「……」
「ねえJAPAN丸ぅー、本名なに丸ぅー?」
「俺に……」
ジェイは振り返り、力強く叫んだ。
「俺に質問をするな!」
●討伐作戦
今回の作戦は九人を三チームに分けた追い込み作戦である。
妖が発生しているエリアを囲むように攻め立て、最後は囲んで集中砲火という形だ。
ある程度知能のある敵には通用しづらいが、ランク1の妖は獣ほどの知能もないと言われている。恐らく容易に罠にかかるだろう。
「私たちはこの三人。拡張視野で敵を探すから、見つけたら戦闘開始。それでいい?」
「好きにしてくれ」
「追い込んだらBOTでまとめて攻撃してねJAPAN丸ー。自身あるんでしょ、頼むよJAPAN丸ー?」
ジェイの背後から現われて左右から交互に覗き込むようにするプリンス。
「見つけた」
そうこうしているうちに、椿姫は早速敵を発見した。
山岳地帯は地面の凹凸や樹木によって視界が通らないことが多い。そのぶん視覚情報による索敵が難しいが、相手が大型動物であれば別だ。木々の間を移動するだけでも遠くからそれが分かる。
発見したのは犬型の妖だ。
「こっちの方角に追い詰めればいいんだな。戦闘行動に入る」
銃を抜き、乱射しながら突撃するジェイ。
「突出したら危険よ!」
椿姫も銃を取り出して走る。ジェイの横に並ぶように走りながら水弾を連射し始める。
二人の銃撃を予期できなかったのか、犬妖は身を庇うように身をすくめた。
「待ってよ早いよJAPAN丸! ニンジャなの!?」
遅れて走り出すプリンス。その視界の上に揺れるものがあった。
「あっこれやばいかも」
ぴたりと足を止める。すると、上から猿妖が降下。ジェイへフリーフォールパンチを叩き込んだ。
激しく回転しながら地面をバウンドするジェイ。
急速に接近した猿妖に、椿姫は素早く小太刀をスイング。
猿妖はその場から飛び退いて樹木の上へと駆け上っていく。
そうしている間に椿姫の横を犬妖が駆け抜ける。
狙う先はジェイだ。どうやら最初に撃ってきた彼を標的にしているらしい。
咄嗟に銃撃を加えようとする椿姫だが、殴りかかってきた猿妖をかわすのに精一杯だ。
「ひ」
ジェイは樹幹に背を押し当て、銃を構えた。
「く、くるな!」
銃を乱射。しかし乱射も乱射。狙いは全く定まらず、周囲の土や木を削るばかりだ。
犬妖は牙をむき出しにして食らいつこう――とした途端。
「ほい」
プリンスが腕を横から突っ込んだ。
食いつかれた腕が血しぶきをあげ、曲がってはいけない方向へ折れる。
「……」
銃を構えたままのジェイに、プリンスは背を向けて言った。
「王族はね、民助けるのに理由はいらないんだよ。貴公の王は違うの?」
「……俺に、質問をするな」
プリンスは黙って召雷を放つと、犬妖をはねのけた。
スパークにびっくりした犬妖にナイフを突き立て、切り裂くジェイ。
その様子に頷いて、椿姫は猿妖の股下をスライディングで通過。背後から銃を乱射してやる。
銃撃を嫌がった猿妖は走り出し、山岳地帯を移動していく。
プリンスたちは頷き会い、それを追って走り始めた。
一方その頃、遥たちは別の場所で妖を捜索していた。
「他の皆はうまくやってっかなー」
「問題ないだろう」
干し肉を周囲に散らしながら歩く赤貴。
「なにしてんの、それ?」
小梅が問いかけると、赤貴は相変わらずの顔で言った。
「試しにエサをまいてる。人を襲う犬や猿なのだから、人や食い物のにおいに反応するかもしれん」
「えっ、そういうもんなの? 犬妖とかタマネキ喰ったら腹壊したりすんの?」
「そんなわけないでしょ。低ランクの妖が本能的だとは言っても、妖の本能って人への害意のことだし……ご飯いらないんじゃない? 妖ってご飯いらないんじゃない? 多分だけど」
「それならそれでいい。人を見つければ隠れることなく襲ってくるほど愚かだということだからな……ほら、噂をすれば」
手の中に剣を出現させる赤貴。剣の表層に魔術紋様が浮かび上がり、ぎらりと光った。
光を照り返す先には、岩陰から姿を現わす犬妖。
後方からは猿妖がのっそりと姿を現わした。
魔力布を拳に巻き付けて構える遥。
「えっ、マジで食い物とりに来たとか?」
「違うな。見ろ、干し肉を見もしない。狙いは徹頭徹尾人間ということだろう」
「小さいのによく考えてるのねえ。それじゃ、張り切っていってみましょっか!」
小梅が両手をパチンと打ち合わせるや否や、その場の全員が一斉に地面を蹴った。
空中に飛び上がった猿妖に遥がカウンターで跳び蹴りを叩き込み、相手のパンチと相殺。
まっすぐ突っ込んできた犬妖には赤貴は気弾を発射。頬を掠めた犬妖は紫色の血を流したが、そのまま急接近。赤貴の肩を食いちぎっていく。
「ちっ――!」
赤貴は痛みにひるむことなくターン。
小梅がすかさず因子を滴を野球ボールのごとく赤貴へと投げつける。
それを受けた赤貴の肩が再生。両手持ちにした大剣を水平に繰り出し、犬妖を切り裂く。
その直後、頭上から落下してきた遥のハンマーパンチによって犬妖は頭部をたたきつぶされ、消滅した。
その様子を見た猿妖が慌てて走り出す。
「逃げんのか!」
「そんな知能はない。本能的に距離をとろうとしているだけだ」
「でもその分追い込みやすそう。作戦通りいくよ!」
小梅は杖を手に取ると、それをわざと振り回しながら猿妖を追いかけ始めた。
二つのチームはうまく追い込みをかけられているようだが、もう一つのチームはどうだろうか。
「私、正直あの組織と組むことは反対だったんだけど、それでも組んだのなら足下をすくわれないようにしないとね」
「そうだね。最後にいい雰囲気で終われたらいいんだけどなあ」
「此度の作戦は、共に行動するということが大事なのかもしれぬでござる。仲違いせぬよう気をつけなければ……っと、話はここまででござる」
素早く抜刀する天光。
数多は彼に背を合わせる形で抜刀した。
前後の茂みから犬妖が現われたのだ。
それだけではない。木から猿妖が二体下りてきて彼らの四方を取り囲んだ。
「四体か……このくらいなら手に負えるね」
トンファーをくるくると手元で回す早紀。
すると、猿妖と犬妖が別の茂みから一体ずつ現われた。
「合計六体」
刀を構えて口を引き結ぶ天光。
数多が汗をたらりと流した。
「ねえ、今回の作戦って……敵が一チームに偏っちゃった場合の対処法って、あったかしら」
「無論」
キリリと応える天光に目を光らせる数多。
天光は。
「気合いでござる!」
「無策だったー!」
全ての妖が一斉に襲いかかってくる。ここは知能の弱い低ランク妖だけあって目に付いた相手へバラバラに襲いかかるフォーメーションだ。
突っ込んできた犬妖の牙を刀でガードする数多。
一方で天光は迎え撃つように別の犬妖へと斬撃。顎を切り裂かれた犬妖は爪を出して繰り出してくるが、間に割り込んだ早紀がトンファーで弾き身を翻して火炎弾。
至近距離から炎を打ち込まれた犬妖は消滅したが、早紀と天光は横から飛び込んできた申妖のパンチで一緒になって吹き飛んでいった。
「二人とも――んきゃ!?」
呼びかけようとした数多もまた殴りつけられ、地面をバウンドしながら転がっていく。
「知能のない妖とか反吐がでるわ、気持ち悪い!」
親指で口元の血をぬぐい、立ち上がる数多。
再び殴りかかろうとした猿妖の間をジグザグに駆け抜けていく。次々に血しぶきをあげる猿妖。
だが、ターンしようとした数多の足へ犬妖が食らいつく。
あまり聞こえたくない音が体内から伝達してきた。
バランスを崩して転倒する数多。
と、そこへ。
「頭を下げていろ!」
仲間の声がこだました。
一番乗りは赤貴だった。
邪魔な岩を飛び越えつつ、剣を水平に構えて気を集中。
空気を薙ぎ払うようにして気弾を一斉発射した。
彼の到来を予期していなかった猿妖たちはそれらに直撃。バランスを崩し始める。
そこへ駆けつけたプリンスが高く掲げたハンマーを樹木へと叩き付けた。
スマイルの刻まれた樹幹が魔術式を帯び、雷を放って猿妖たちに襲いかかる。
「歯ぁ食いしばっとけよ!」
ダッシュジャンプをかけた遥が、引き絞った拳を猿妖の顔面へと叩き込んだ。
頭がそのまま吹き飛び、消滅する猿妖。
誰に対応するか迷った挙げ句遥に掴みかかろうとした残り二匹……だったが。
その背中に椿姫が銃口を押し上げてていた。
「射線、貰いました」
トリガーを引く。螺旋回転で放たれた氷弾が猿妖二匹を貫通し、その剥こうの樹幹を破壊して倒れさせる。
「おまたせ。そっちは大漁だったみたいだね」
早紀と天光を引き起こし、ウィンクする小梅。
手の中に因子の水球を作ると、軽く放って杖でバッティングした。
破裂した水球が飛び散り、天光たちがうけた打撲傷を修復していく。
「いいタイミングでござる!」
天光は低姿勢のまま駆け出し、状況に混乱している犬妖の足を切断。
同じく飛び出した数多も別の犬妖の足を切断する。
プリンスが頃合いとばかりに指で合図を出した。
「やっちゃってJAPAN丸!」
「その呼び方をいい加減やめろ!」
ジェイは密集した犬妖に銃を乱射。
次々に直撃させていく。
「おー、手慣れてる! それじゃああたしも!」
早紀はトンファーをしっかりと握り、犬妖へと急接近。
「せいっ」
炎を纏った足で犬妖を強烈に蹴っ飛ばした。
犬妖はくるくると回転しながら飛び、樹幹にぶつかって消滅。
残りの妖も崩れるように消滅していった。
「こっちで遭遇した妖はすべて倒したんだけれど、遭遇した数が少ないからもしかしてと思って近道してきたの。正解だったみたいね」
銃を指でくるくると回してアテンドに収納する椿姫。
「そーそー、酒々井たちが危ないと思ってさー」
「その可能性を提示したのはオレだがな」
頭の後ろで手を組む遥。剣を手放して消す赤貴。
「あっそうだJAPAN丸、はいこれ賜与」
数十円の駄菓子を手渡すプリンス。
「やったね、今度は遠くで見てる民も紹介してよ」
「……」
駄菓子をポケットに入れてきびすを返すジェイ。
「恐いのに、よく頑張ったね」
「知らんな。なんのことだ」
「ねーねーそんなことよりさー!」
小梅がぱたぱたと手で仰ぎながら歩いてくる。
「お腹すいたから、皆でご飯いかない? ジェイさんも一緒に」
「……行くわけ無いだろう。俺の仕事は終わりだ。帰らせて貰う。バスもいらん」
ジェイはそう言うと、小梅たちに背を向けて歩き出した。
途中で赤貴とすれ違う。
「おい、目つきの悪いお前」
「オレのことか」
「他にいるか」
舌打ちしてにらむ赤貴。
ジェイもまた彼をにらんだ。
「お前たちはいつもこうなのか」
「質問とは珍しいな。興味が沸いたか」
「……別に」
ジェイはそう言って、そのまま歩いて行く。
腕組みする数多。
「いいの? 一緒に行かなくて」
天光が背を向けて瞑目した。
「わかり合うにも時間がかかるでござる。焦りは禁物」
「そうね。焦らないわ、私も。いつか仲良くなれるって、思うから」
あえて追いかけることをせずに見送る椿姫。
早紀はそんな中で、去りゆくジェイの背中をじっと見つめていた。
彼は何を思って、この集団の中にいたのだろう。
自分があの立場だったら、どうしていただろうか。
「もっと、場数踏まないとなぁ……」
誰に共無く、早紀は呟いた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
