もったいないおばけ 寄鍋ノ編
もったいないおばけ 寄鍋ノ編



 君は『もったいないオバケ』を知っているか。
 日本の昔話に描かれた食の化けた姿であり、食べ物を粗末にすると現われるとされている。
 しかしその歴史は描かれた物以上に古く、室町~明治時代にかけて第一次妖怪ブームの中に彼らは描かれていた。
 子供にお腹いっぱいご飯を食べて貰うため。
 子供に栄養のよい食事をとらせるため。
 大人になっても食べ物ととそれに関わる人々への感謝を忘れぬため。
 『彼ら』は時には物語の中に、時には夢枕に現われ、そして今――。
『あ゛~、鍋シーズン来てるわ~。暖かい鍋の季節だわ~』
 人口の激減した村の河原に現われていた。
 現われたはいいが、完全に無視されていた。
『…………………………鍋、しないの?』


「おなかがすきました!」
 F.i.V.E会議室。文鳥 つらら(nCL2000051)は窓の外へ向けて叫んだ。
「ここ三日、つららしか食べてません!」
 魂の叫びである。
「そんな方々のために、ぴったりのお話がありますよ~」
 ふんわーっとした調子で話しに入ってくる久方 真由美(nCL2000003)。
「どうやらある村にもったいないおばけという古妖が現われたそうです。しかし人口が激減し、住んでいるのは年老いたおじいちゃんとおばあちゃんのみのこの村で古妖を満足させうる人はなし……といった調子で」
 別に放置して悲しむさまをぼーっと見ててもいいっちゃいいが、それではあまりに可哀想だし折角F.i.V.Eがあるんだからそっと行って鍋やってやろうやという話である。

 ちなみに。
 このもったいないお化け鍋は鍋と無限に足されるお湯だけの存在で具材やダシ汁は無いようだ。
 ここへ各自具材を持ち寄り、自分たちのための鍋パーティーを開催することで古妖を慰めようということである。
 グッとちっちゃい拳を握るつらら。
「もったいないおばけさんは古来から伝わる食物の神様です。私たちの力で神様の悲しみをなぎゅしゃめてしゃしあげましゃ!」
「噛んでる、後半ほぼ噛んでる!」
 勢いで全て言い切って、つららはおーと言って拳を突き上げた。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.レッツ鍋パーティー
2.なし
3.なし
 八重紅友禅でございます。
 戦争なんてくだらねえ、俺の鍋を食え!
 最近なんかサツバツとした話ばっかで心が寒いので、鍋をして心も体も温まりましょう。

●場所とかなんとか
 広い河原です。小石がひろーく平らに並んでいるので、折りたたみ椅子かなんかあればいいと思います。
 あまり関係ないですがその辺をおじいちゃんおばあちゃんが通ることもあるでしょう。

 材料は持ち寄りですが、プレイングに『魚肉豆腐しらたきえりんぎぶなしめじ』と書き連ねていくと歩くメニュー表と化してしまうので、自分一押しの具材をドンと持ってきて、後はひたすらアクをとったりシメを相談したりする時間にプレイングを注ぎましょう。
 小道具一式も同じ理由でちゃんと揃えたものとして判定します。

 お鍋の内容は相談して決めてください。
 ダシを何にするか。
 具材はどういう組み合わせにするか。
 シメはどうするか。
 お鍋するのは一回きりなので、悔いの無いようにご相談ください。
 あと相談することが無くなったら好きな鍋と食べ方について語り合いましょう。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2015年11月18日

■メイン参加者 10人■

『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『ブラッドオレンジ』
渡慶次・駆(CL2000350)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)
『かわいいは無敵』
小石・ころん(CL2000993)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『暁の脱走兵』
犬童 アキラ(CL2000698)
『ママは小学六年生(仮)』
迷家・唯音(CL2001093)

●河原に鍋だけ浮かんでる光景はよく考えるとシュール
 流れる川。流れる雲。つたなく響くリコーダーの音色。
 リコーダーを加えた文鳥 つらら(nCL2000051)は瓦でぴたりと立ち止まった。
 同じく立ち止まる『深緑』十夜 八重(CL2000122)。
 八重は背負っていたリュックサックを地面に下ろすと、河原でぶんわかぶんわか浮いている空っぽの鍋を見つけて、つららと二人でぐいっと両手を突き上げた。
「「おなべですっ!」」
「うおー鍋ぇー! お鍋と聞いて黙っていられない、俺!」
 工藤・飛海(CL2001022)がジャンプ一発河原の斜面を駆け下りていく。
「ねえまってよ姉ちゃん、なにそんなテンション上げてるの!」
 飛海のあとを大きなリュックを背負って追いかけていく『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
 キャッキャする子供たちの後ろで、『ママは小学六年生(偽)』迷家・唯音(CL2001093)はぐいーっと背伸びした。
「ゆいねお鍋だーいすき! 派手にお鍋パーティーして、もったいないおばけさんを慰めてあげようね!」
 うきゃーと言ってまたも斜面を駆け下りていく唯音。
「元気だねえ……」
 彼女たちより少し多めに荷物を持った華神 悠乃(CL2000231)たち。斜面の上から景色を眺める。
「ロケーション的にバーベキューかと思ったけど、これもなかなか」
「最近寒くなってきたからのう。暖かいものを食べつつ古妖も助けつつ仲間と親睦を深める。一石三鳥じゃな」
 うむうむといって、『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)は斜面を慎重に下りていく。
 中でもひときわ大きな荷物を背負った『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)が立ち止まり、くるくるぶんわかする鍋を見下ろした。
「怨恨とかで出たんじゃないんだよな? もったいないという想念が凝り固まったわけでもないし、なんなんだこいつ……」
「そんなこといいじゃないデスカ!」
 テンションゆえかばしんと背中を叩く『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)。駆は一瞬つんのめった。
「私、オナベ聞いたことはありますが食べたことないデス。今回とっても楽しみデース!」
「ころんも」
 二人の間からひょっこり現われる『かわいいは無敵』小石・ころん(CL2000993)。
「お鍋を囲むようなお友達なかなかできなくって、今日のことはたのしみにしてたの。すごく」
 てってこ斜面を下っていく彼女たちを見つめ、駆は黙った。
 横に立って腕組みする『暁の脱走兵』犬童 アキラ(CL2000698)。
「ただ消費されるだけではもったいない。折角だから楽しく鍋を囲んで欲しい。そんな気持ちで、あのもったいないおばけは現われたのかもしれませんな……」
「いきなりシメみたいなことを言うな。鍋のしょっぱなからご飯突っ込むようなモンだぞ」
「それはいけない。では――」
 とあーと言って斜面を飛び降り、空中で発光するアキラ。
「解身(リリース)!」
 覚醒状態で空中一回転。着地し、覚醒を解除した。
「からの解除!」
「何がしたいんだお前……」

●お鍋が美味しい季節になって参りました
 鍋には魚だし昆布だし豚骨に味噌と色々あって最近じゃカレー鍋やトマト鍋なんてものも普及してきたが、今回は具材への相性を考えてかつおを合わせた昆布だしに決まった。
 すごい余談になるが、鍋の献立を決めるのにあそこまで念入りに相談している人たち初めて見た。
「でも十一人で鍋一つ囲むの狭くない? 余ってもナンだからおにぎり持ってきたよ……って言おうと思ったけど」
 悠乃は鍋を前に一言。
「鍋でかっ!」
 もったいないおばけこと土鍋さんは悠乃が丸くなったら入れるんじゃないかなってくらいデカかった。見かける機会自体がないとは思うが、相撲部屋で出てくるちゃんこ鍋くらいのデカさである。
「これじゃあおにぎりもいらなかったかな……って言おうと思ったけど」
 振り返り悠乃は一言。
「文鳥さんペース早っ!」
 つららがおにぎりを両手に持って右左交互にむしゃついていた。それはもうがつがついっていた。
「ふひはへんおはひひいははいへまふ!」
「うんいいよ、喜んでくれてるようでなによりだよ」
「ほら、具材は沢山あるんだ。じゃんじゃんいこうぜ。まず俺からはコレだ!」
 駆は豚肉を取り出すと、鍋へさらさらと滑り入れていく。
 昆布の浸った汁の中に赤身の肉が沈み、徐々に白く煮えていく。
 あくとりをしながら目配せする駆。
「じゃんじゃん入れな。次は?」
「鶏肉じゃよ」
 目をキランと光らせた樹香が一口サイズにカットした鶏もも肉や胸肉をころころ投入。
 この時点で昆布だしで似た豚肉と鶏肉という取り合わせで、もはや既に美味しそうである。
 だがそこへしっかりと白菜を流し込んでいくころん。
「お野菜は肝心なの。それに春菊やニンジン。お鍋にこういうお野菜を入れると野菜のだしが沢山出るの」
 それにポン酢も用意したの。最強なの。と言って鞄から瓶を取り出すころん。
「では私からも……」
 そう言って八重が取り出したのは牡蠣である。季節をやや遅れてはいるがダシのパワーは未だ健在。うまみの暴力とも言える牡蠣が鍋へ大胆に投入されていく。
 牡蠣鍋とかそうそう喰う機会の無い奏空は拳を握って立ち上がった。
「やったあ! 来たかいがあったー!」
「はいそこへきのこ投入ー」
「ああああああああああ!」
 飛海がシイタケやブナシメジといったキノコ類をざざーっと入れていく。
 肉野菜魚介にキノコと鉄板具材ががそろっていく。見ようによってはオールスターである。
 もうここに何を加える必要があろうかといった具合だが、アキラがここぞとばかりに具材を投入。
 それも。
「餅」
「おお!」
「葛きり」
「おお!」
「そしてマ○ニーちゃん!」
「おおおおお!」
 あのじゃがいものデンプンを加工して作ったシラタキ状の食品で、もきゅもきゅした食感は大人気だ。
「国民よ、炭水化物をとるのだ! これで育ちざかりの子供も大満足!」
「まだまだ、ゆいねの食材が残ってるよ」
 じゃじゃーんと言ってゆいねが掲げたのは伝説の剣。じゃなくて魚肉ソーセージである!
 みんな大好き魚肉ソーセージである!
 それをハサミでじょきじょき切って豪快に鍋へ突っ込んでいく。ただでさえぷりっとした魚肉のすり身が煮えてぷっくり膨らむさまは想像にかたくない。
 それは餅やくずきりも例外ではなく、他のだし汁を吸収してぷくぷく膨らんでいくことだろう。
「そこへ満を持して投入するのが、これデス!」
 リーネはタッパーとお玉を取り出した。
「挽肉団子!」
「ひきにくだんご」
「ああ、つみれや肉団子か」
「一度やってみたかったデース! ですからこれは、私に任せるのデース!」
 イエー! とか言いながらお玉で挽肉をすくい、力業で叩き込むリーネ。
 そしてほぐれて散っていく挽肉。
「……」
「……」
「……ほわい」
「リーネさんそれしっかり混ぜてこねないと」
 初心者あるある。
 肉団子をつくるつもりが凝固させるのを忘れて『肉粒散ってるやーつ』になる。
「リベンジデース! 今からコネマース!」
 リーネは悠乃たちに手伝ってもらいながら肉団子を作り始めた。
 駆は具材ある程度減ってからの方がいいんだけどなと思ったが、楽しそうだから黙ってあくとりに集中した。

●暖かいと何でも美味しい法則プラス
 肉鍋。肉団子鍋。魚介鍋。日本である程度の年数を生きていればそれくらいは食べているものだが、それらをごっそり入れた鍋となると難しい。
 返すも返すも、他の味をジェノサイドする食材を入れたり闇鍋を提唱したりする人が現われなかった奇跡を祝いたい。
 お互いの好みを探り合いながら念入りに相談した成果である。
 そんなものだから、お腹すかせてきた彼らはぺろりと第一段階の具材を消費しきってしまった。
 お腹をさする奏空。
「うう……きのこ嫌いなのに。ねーちゃんのバーカ! 春菊もきらいなんだよう……」
「もったいないおばけの前で好き嫌いを言うとはいい度胸だなこいつ。たたられるぞ」
「た、たたり……具体的には……?」
『おなかをこわす』
「地味につらい!」
 そして地味に会話に混ざるもったいないおばけ。
「そろそろシメにもってこっか」
 空になってきたお鍋を前に、悠乃はそう言って絹ごしの豆腐を流し込んだ。
 木綿豆腐は最初のうちにさりげに入れていたのだが、今度は絹ごしだ。こうすると湯豆腐のようにほかほかかつ柔らかく、尚且つダシの多くしみこむ豆腐になるのだ。
 一旦沢山の具材を煮込んだ今のダシに投入すれば、その効果はいわずもがな。
 そこへ更に、アキラがそっとちくわぶを投入した。
「なにこれちくわ?」
「ちくわぶであります」
 説明しよう。ちくわぶとはおでんに入っている具材で、ちくわが魚のすり身であるのに対してこちらは強力粉を練り上げたものだ。強いコシともちもち感が魅力だ。
 そして小麦粉でできているだけあって、汁の吸い込みも強い。
「シメはうどん屋に任せとけ! ねーちゃん!」
「はいはい……」
 奏空に言われて、飛海はうどんの束を取り出した。
「実家から持ってきたうどんなんだ。プロだよ!」
「プロか、そりゃいいな!」
 パァンと膝を叩く駆。その手にはコップがひとつ。中には透明な液体が揺れている。
 何かと思えば酒だった。
 横からそれを注ぐ知らないじいさん。
「なんじゃあ河原で鍋たぁイキなことを」
「家から白菜持ってきた」
「ワシはかまぼこ持ってきた」
「俺は鶏をシメてきた」
「ナマステ」
「すっごいふえてる!」
 二度見する唯音である。
「これがナベのパワー……」
 ごくりとつばをのむリーネをよそに、うどんはすぐにゆだった。
 モノにもよるが、さっとゆでてガッと食えるタイプのうどんも多い。ものによっちゃあ茹でずとも食える。
 つららはよそってもらったおうどんをわんこそばかなってくらいの速度でがつがつやっていた。
「うめえっ……うめえっ……!」
「見た目の印象とは裏腹にハングリーだなあ、この子」
「うどん屋さんのうどんだから当たり前かもしれないけど、おいしいの。夢中になるのもわかるの」
 ちゅるちゅる一本ずつすすっていくころん。
 八重もおなじうどんを貰いつつほっこりと息をついた。
「しかし、『もったいないおばけ』というのも考えてみれば歴史の古いものですね。おばあさまの世代から言われていたことのような……」
「うちのばあさまがそうじゃった。食に厳しいひとじゃったからのう」
 うどんをつつきつつしんみり語る樹香。
「苦手なものでも食べられなければ雷が落ちたものじゃ。思えばあれこそもったいないお化けじゃったような」
「昔は食べ物自体が少なかったからねえ」
「うむ」
 ナチュラルに会話に混ざってきたばあさんと頷き会う樹香。
 最初はころんが体育座りすれば入れるくらいデカい鍋だと思っていたが、こうも沢山の人で囲むと小さく見える。
 そして場の話題も、鍋の具材からお互いのことへとシフトしていくものだ。
「飛海とー」
「奏空のー」
「「デリバリーコント!」」
 木箱に登って急になんか始める工藤姉弟。
 本来の味付けを損なわぬようにあえてほぼコピペでお送りさせて頂く。
「どーも~キラキラネーム1号でーす! その名も、飛来せし母なる海と書いて飛海!」
「どーも~キラキラネーム2号でーす! その名も、奏でるは悠久の空と書いて奏空!」
「「見参!!」」
 同じポーズを同時にとる姉弟。
 場の全員が黙って彼らを見つめていた。
「ん! こんなに人が集まっている! これは事件だ!」
「なんでや工藤!」
「せやかて工藤!」
「「…………」」
 場の全員がうどんちゅるんってやりながら二人を見つめていた。
「「どっちも工藤やないかー!」」
「「…………」」
 空をカラスが悠然と通り過ぎていった。
 大きな雲が町の上空を流れていった。
 地球が回っていた。
 太陽系が規則正しく周回していた。
「「どーもありがとうございましたー!」」
 急速に場にもどってきた空気が、奏空の全力ダッシュと飛海のテヘペロ顔で吹き飛んでいく。
「なんだったんじゃ今の……」
 知らないばあさんからもらった知らない野菜の漬け物をぽりぽりしつつ呟く樹香。
 隣ではころんから貰ったパウンドケーキをつららが両手に持って交互にうめえうめえしていた。
「あせらなくても、おみやげがあるの」
「ありがとうございます! カラスさんたちも喜びます!」
「……あげてるの? いつも?」
「お家にご飯があると、よく遊びに来ます!」
 ニコニコしながらおびただしいカラスにたかられているつららを想像し、ころんはちょっとほろりときた。
 何にくるかって、本人がこれでなぜか幸せそうだというところである。
 そっと聞いてみる唯音。
「おうちって……」
「一昨年燃えました。とっても綺麗でした。えへへえ」
 この話は突っ込んじゃだめそうだ。
 唯音は話題のハンドルをきった。
「みんな、恋してる!?」
 急にきりすぎて崖から転落そうだったが、悠乃が華麗な会話ドライビングテクで拾いにかかる。
「そうだねえ、鯉の洗いは以外と難しくて……」
「料理じゃなくて、オトすコツとか」
「頸動脈を効率的にぎゅっと……」
「じゃなくって」
 悠乃は頬をかいた。
「楽しく遊んだ人は沢山いたけど恋愛はなー。強いて言うならめげない人が好きかな。でも思考停止はNG。渡慶次さんは?」
 拾ったはいいが持て余したのでパスする悠乃。
 駆はイケメン顔(?)で深く頷いた。
「一晩寝たらサヨナラだよな」
 会話のドライブが崖から転落した。
 頭の中で爆発音が聞こえたので、咳払いする駆。
「ほら、旅先でいろいろあるんだよ。顔でも金でも身体でも、短い時間なら美味しい思いしたいからな、お互い」
 会話のドライブが正面衝突した。
 再び聞こえる爆発音。
 軽く白目をむいているゆいねおかーさんの肩をゆすり、樹香は振り返った。
「誰かコイバナを! 健全なコイバナをもっとる者はおらんか!」
 工藤姉弟がそろって首と手をぶんぶん振った。
「仲間のピンチとあらば。恋バナだな!」
 無駄に立ち上がるアキラ。会話のハンドルをぎゅっと握りしめる。
「古巣では女とみるやベルトをカチャつかせるたぐいの男しか知りませなんだ」
 会話のジェット機が山へ突っ込んだ。
 航空燃料の爆発はちげえなと脳内で首をひねる駆。
 ゆいねおかーさんがアワをふきはじめた。
「めめめ明朗な命令を下してくれる上官が好きカナ☆」
「犬童さんフォローできない」
「仕方ありませんね……」
 僭越ながら、と言って居住まいを正す八重。
「私、気になってる人はいるんですよ」
「「ほう」」
 その場の一同がぐっと身を乗り出した。
 会話のドライブがいい景色の中を走りはじめる。
「どんな人?」
「可愛い方で、いじっているといい反応をしてくれて、とても飽きないんです」
「きゃーっ!」
 頬に手を当ててきゃっきゃする知らないばあさんたち。
 会話ドライブも海が見えてきたイイカンジの場面だ。
「やっぱりその人って」
「大切な人です。感謝の念が強いですけれど……ふふ」
 頬に手を当ててはにかむ八重。
 一同の脳内に夕日に輝くオーシャンビューが描かれた。
 が、ゆいねおかーさんはそのままがくっと力尽きた。
「なんで!?」
「うん……うん……まあ、うん……」
 奏空は曖昧に頷いた。会話ドライブが海に向かってまっすぐ突っ込んでいく入水自殺ドライブだったことに、彼は気づいていたからである。あと恐らく唯音も。
 深入りすればするほどヤバい。
「こうなったら、私が人肌脱ぎマース!」
 リーネが帽子を被り直し、きりっとした顔で立ち上がった。
「私には! 愛しの彼がいマス!」
 拳を突き上げたリーネには後光がさしていた。
 身を乗り出す一同。
「「ほう……!」」
「でも私、片想いデス。ちょっとヘコミマース。私って魅力ないデスカ?」
「そんなことないよっ」
「男ってそーゆーものなのよっ」
「うどんおいしいですっ」
 畳みかけるように身を乗り出す奏空、ころん、つらら。
 ゆっくりと目の色を取り戻すゆいねおかーさん。
「どうして彼は振り向いてくれないのでショウカ……」
「諦めちゃだめだよ、ガンガンアタックしなきゃ!」
「容姿は完璧なんだから迷うこたあねえって!」
「そうそう俺憧れちゃうもん!」
 同じく身を乗り出す悠乃、駆、飛海。
 ゆいねおかーさんの頬にぽっと色が灯り、目に光りが戻る。
 リーネは両手を頬に当て、腰をくねっと曲げた。
「彼が望むなら私、『なんでも』するノニィ」
「……」
 ゆいねおかーさんは暫く黙った後。
「きゅう!」
 頭をぼっふんと湯だたせてぶっ倒れた。
「ゆいねおかーさーん!」

 こうして、皆で美味しく楽しく鍋を囲んだF.i.V.E覚者たちは、まるで名前も知らないじいさんばあさんと遊んでから古妖もったいないおばけとサヨナラした。
 もったいないおばけはまた、どこかへと旅立つという。
 全ての人が美味しく楽しくご飯を食べられる、その日まで。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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