<黎明>偽装魔が時
<黎明>偽装魔が時


●↑事件が発生する一時間前の会議室

「ファミレス行きたい」


 逢魔ヶ時紫雨の正体は知れない。
 知っているとすれば、隔者組織七星剣の上層部の一部の人間や、紫雨が心から信用している相手くらいであろう。

 故に。
 こういう事が起きる。

 割れた窓硝子、散乱したグラスの破片。手つかずの料理、脅える従業員や客。
 目出し帽に鋭利なナイフ。
 黒ずくめの男達。
 そして、一匹の竜。
 簡単に言えば、強盗である。銀行とか狙えよという質問は受け付けないぞ。
「がはははは! 俺は逢魔ヶ時紫雨だ。貴様を血雨にしてやろうか!! されたくなければ、金をだせーーーありったけの金をだせーーーーーーーぐぁーっははははは!!」
「あばばばばばばばばばばば!!!」
 男が、覚者組織『黎明』の少年『暁』の尻尾を掴んでいた。
 暁は逆さまの格好で宙ぶらりんしながら、大層……それは大層大層脅えており、両目から滝の如く涙を流しながら、叫んでいた。
「がははは!」
「あああああああああああん!!!」
「今すぐここに金を用意しな!! 早くしろお!! 年末は金がかかるんじゃあ!!」
「うあああああああぎゃっっぱーーーーーー!!!」
「娘にクリスマスプレゼントのひとつも買ってやれてないんじゃあ!! はよう金ださんかいボケェ!!」
「ぎええええええっっ!! ぶあぁぁぁぴええええ!!!」
「………うるっっせぇなオイ!! 頼むから黙ってろや!!」
「あああああああああああああ黙るううううううううううううううう!!」

 ……話しは戻るが、逢魔ヶ時紫雨の正体は知れない。
 故に、紫雨を騙り、名乗り、犯罪を犯したとしても。
 正体不明の誰かの名前に、罪を擦り付ければ、真犯人は罪に問われない。
 血雨も同じ。
 一面真っ赤にして死体を隠蔽し、血雨が起きたと言ってしまえば、誰しもが血雨を恐れて深く追求しない。
 そういう『悪』は、世に蔓延っているのだ。
 そういう『悪』を倒す為、我等が影にいるのだろう。

 覚者6人は、ファミレスに居た。
 暁の誘いであった。
『たまにはお外でご飯が食べたい。けれども、監視が無いと外には出れない。なら、一緒に行こうよ、オムライスが食べたいオムライス』って、単純なお願い。
 だがしかし何故だか今日も暁の不幸体質は絶賛現在進行形。
 そこで強盗が発生した。
 対処するのは、恐らくどう足掻いても多分、覚者達である。
 覚者達は、なんとなく直観で『あれは本物の逢魔ヶ時紫雨では無い』と勘付いている。
 素手でビルを破壊しつつ、高笑いして炎を撒いていった神出鬼没とは訳が違う。

 なのでサクっと解決しよう。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:工藤狂斎
■成功条件
1.強盗の無力化
2.一般人の死者を出さない
3.なし
 まーーーーーっっっったくメインストーリーには関係無いです
 ので、暁への質問とかはぐっとこらえて頂けると嬉しいです

●状況
・能力者による事件が発生した。
 たまたま居合わせた六人+一人。
 警察が来るにも時間がかかる。このままでは犠牲者やファミレスに不利益が出そうだ。
 その前に制圧するのが、ファイヴの役目だ!

●注意
・当シナリオには夢見の予知が一切ありません
 その為、以下の詳細は六人が視覚で捕えた情報となります


 時刻は一三時手前。

 外から射す太陽の光が直撃する為、窓は全てカーテンで遮られている。
 外から中が見える事も無いだろう。逆もしかり。
 店内は明るい為、特に視界へのペナルティは無い。

 敵能力者の人数は十人。彩の紋や、獣の耳が見える為、覚者であると断定する。
 集まっているファイヴ覚者よりかは、なんとなく弱そう。
 敵能力者は皆、貧相な身体つきだ。今のところ術式は全員不明である。
 彼等は四人(獣憑き四人)は固まって動いて、二人(彩二人)と一人(年齢が変わったように見えた為に現)と一人(明らかに球体関節が足に)と二人(明らかに球体関節が片腕に)に分かれて動いている(初動の時の話)。
 あの班分けには特に意味は無いだろう。
 ここから時間が経てば人数編成が変わっていく。
 リーダーっぽい人物は見当たらない。内、二人組みの一班(片腕球体関節組み)がキッチンのほうへ向かった。

 注意すべきは、
 武装はきちんとされている。恐らくあれは盗んで来たものだろう。
 目視できる範囲だとナイフ、人によっては刺身包丁みたいなものとか、薙刀が見える。
 守護使役に頼めばなんでも持ちこみ放題だろう、まだ他にあるかもしれないから警戒は必須だ。術式を使って来るかもしれないし。

 それに……窓際で、泣いている少年とその両親。
 それと、カウンターに座るサラリーマンと、中央あたりの四人席に座る女子高生たちは恐らく一般人。
 店員は、ホールにウェイトレスが三人で固まって震えている。
 ウェイトレスの一人は、獣らしい因子が見えるから覚者だろうが、アテになるかは知れない。
 キッチンの方には、調理担当の人たちがいるだろうが、ここからでは見えない。

 暁は……捕えられて泣いている。放置でも問題は無いと思われるが、役に立つ気配も無い。

●PL情報
・スタート地点はファミレス内であればどこでも問題無いです
 好きな友達と一緒に座っていたとか、全員一緒にかたまって座っていたとか、
 敵が騒いでるけど優雅にご飯を喰い続けているところからスタートとか、食べていたオムライスが敵のせいで食べれない状態になったのでテーブルをちゃぶ台返ししてからスタートでもいいです
 特に何も無ければ工藤が適当な位置からスタートさせます

 解決もそうですが、状況を楽しむシナリオとして好きに動いてください

 それでは、ご縁がございましたら宜しくお願い致します
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
4日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2016年01月10日

■メイン参加者 6人■

『隔者狩りの復讐鬼』
飛騨・沙織(CL2001262)
『追跡の羽音』
風祭・誘輔(CL2001092)
『Queue』
クー・ルルーヴ(CL2000403)
『怪盗ラビットナイト』
稲葉 アリス(CL2000100)


 パリン。
 空を舞ったグラスが落ち、粉々に砕けながら液体をぶちまけた。
 液体は床を辿りながら、黒くて大きな靴の底を濡らす。靴の持ち主は、一匹の竜を手にぶら下げたまま、高らかに吼えるのだ。
「大人しくしろ!! がぁーはっはっは!!」
 オマケ程度に付け加える暁と呼ばれた小垣 斗真(nCL2000135)がびえびえ叫んで涙で川を作り始めている。
 高笑いする男を横目に、四人席に座っていた飛騨・沙織(CL2001262) 、『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)、『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403) 、『ラビットシンフォニー』稲葉 アリス(CL2000100)が、同時に顔を見合わせた。
 なんぞこれは。強盗か。
 逢魔ヶ時紫雨を名乗っている。やべえじゃん、大事件の予感。けれどもなんだ、四人の冷静さは。
「……なんだ。静かにご飯も食べれないだなんて」
「これは……良い記事が書けるかもしれねえ」
「……溜息しか出ませんね」
「パフェまだかなー!」
 再びパリンと音が響く。
 今度は薙刀が四人の中央に振り落され、置かれていた多種多様の料理がテーブルの上で爆ぜた。
 コーヒーカップが横倒れになり、勢いよく流れた中身は誘輔の真っ白だったシャツに飛び込み、頑固な汚れの模様が広がっていく。
 アリスの食べていたオムライスは吹き飛び、さっと避けたクーの後方へと飛んでいく。
 沙織はパフェに乗っかっていた苺を最後に食べようとしており、フィニュッシュを迎える手前。薙刀の柄に引っかかったパフェは今や、下向きで地面にこんにちはしている。勿論、苺は潰れた。
「お前等聞いてんのか!! 大人しくしてろ!! 何ぶつぶつ言ってんだ!!」
 薙刀を持った男は威嚇を開始していたらしい。
 けれども、その行動によって。より、彼等四人に燻っていた炎を爆発させたのは言うまでも無い。

「暁さんを離してください。偽紫雨様」
「ああ? こいつ暁っていうのか」
「あばばばばばば!!」
 『水の祝福』神城 アニス(CL2000023)は長身の男の手前に立ち、震える両手を拳にして握った。全ては泣き喚く暁を助ける為。そして恐怖よりも、この場を何とかしたい純粋無垢の一心で。
 暁と、アニス。そして『狗吠』時任・千陽(CL2000014) が座っていたテーブルも参事になっていた。
 千陽がケチャップで『愛国心』と書いたオムライスも、今やぐっちゃぐちゃにされ中央にナイフが突き刺さっている。これはもう食べられない。
 わなわな震え、何故こうなったのか思考する千陽は、テーブルを両手で叩いてから立ち上がった。
「食べ物は大事にしろと教わらなかったんですか? ああ、教わったところでその間抜けな頭では直ぐに忘れてしまうでしょうね」
 彼は空中に出現した拳銃を掴む。怒りに震えるが、されどトリガーを引くタイミングは間違えぬ冷静さを保ち。一般人たちへ安全を約束することを暗黙下で送心しながら。
「なにせ、逢魔ヶ時を騙るというリスクがどれだけ大きくつくか。それさえも理解していない、ただの馬鹿に理解を求めるのが無理ですね」
「な、なんなんだお前等!!」


 一般客の叫び声が、暁の悲鳴の中に混ざった。
「こいつら、抵抗しやがる!! 痛い目あわせてやれ!」
 男の怒号が戦いの火蓋を切って落とし、振り上げられた薙刀が半円を描いてスライドされる。クーと沙織は頭を下げて回避し、誘輔とアリスは跳躍して避けた。
 クーは、キッチンの方へと歩を進めていった敵が気がかりでそちらを見る。唇を噛みしめる、腹が鳴る、あそこには、そう、完成されているだろう彼女のオムライスもいるのだ!!
 ほっかほかのオムライスが今、助けてと叫んでいるに違いない。
「クーはあっちへ。お任せください」
「ああ、頼んだ……って言いてえ所なんだがな!」
 誘輔はテーブルを横にして影に隠れ、投擲されたナイフを回避しながら首を横に振った。
 四人組で固まっていた獣憑き軍団が壁となっているのだ、丁度、キッチンの方へは行かせないバリケードとして。数は丁度、四対四。クーは更に、唇をきつく噛んだ。
 同じくアリスもそうだ。
 物質透過の為、足が床に沈みかけたときナイフが前方から吹き飛んできた。スタッフで野球バッドみたく返したものの、忍ぶ為にはまずある程度敵の人数を制さなければいけないようだ。
 沙織も回り込み、奇襲を狙いたいが……姿が既に見えていて、敵に移動を抑え込まれている状況となれば奇襲というものは困難を極める。
 ではどうしたものか。
 目の前から叩いていくしか無い。

「暁さんを離してください!」
「アニス……」
 アニスは再び警告を発した。これが最終通告である。
 弱弱し気に彼女の名前を呼んだ暁の、点のような三白眼が涙の海に浮かぶ。
 同時に、千陽は暁へ護りの加護を与えていく。そして、アニスは波動を解放した。暁の身体を見事に避けながら、彼を助ける意思が具現したように、蛇のように、そして男が叫び声を上げたのだ。
 緩んだ男の手は暁の尻尾を離し、
「あだッ!!」
 ぽて、と落ちた暁の傍にアニスは駆け寄り、膝を折った。
「暁さん! 大丈夫ですか? お怪我はございませんか?」
「あああああああありがががががが、あにしぅ」
「言えてませんよ! アニスです!」
「アイシュ……うえええぇ僕のオムライスがけちょんけちょーん!!」
 ぴええと泣き始めた暁に、ひとつ、千陽は溜息をついて。ちらっと見たテーブル席のティッシュ。それを数枚取ってから、暁の鼻をティッシュでつまんだ。
「はい、鼻水をちーんしてください」
「ちーーーーーーーん!」
「泣き止みましたか?」
「はい」
「とりあえず、味方はいますので落ち着いてください。貴方も多少は、戦えるでしょう? 最低限女性を守れる男気は見せてください」
「はい……頑張りたいと思います……っ」

 ドキドキ、さてどうしたものか。
 獣憑の男のナイフがアリスの肩口を大きく抉っていく。一般人の叫び声が聞こえるのを耳で聞きながら、額から汗を流した。
 相手は、金が無くともファミレスを狙う強盗。彼女からしてみれば素人である事はよくわかっている。
 だが逆に彼等は戦闘には長けていた。戦闘向きでは無いアリス。正に逆という存在か。地面に逃げたいが、それは許されないらしい。移動も疎外され、なかなか身動きができない。
「まったく」
 ぷく、と膨らんだアリスの頬。スタッフを大きく天へと掲げ、そして雷を目の前の男へ落して、これを抗議とする。
 楽しいファミレスも血が流れれば戦場と化す。耐えられない一般人の少年は、泣きだしながら。その声が、沙織の耳にはよく届いていた。
 そうすれば、沙織の中の黒いものが、振動され、震え、彼女の闇を呼び起こす。吐き気を催す程の、捨てがたい思い出が這い出して来るのだ。
「憎い……心底憎い」
 男の繰り出す薙刀を腹に受けながら、それでも双刀を構え、横に流す。地面に亀裂を入れながら、カウンターに直撃した攻撃は男の身体をテーブル席ごと切り倒れていく。
「本物か偽物かは知りませんが。逢魔ヶ時紫雨を名乗るという事は……私達に問答無用で討伐されても文句はないですよね?」
「ひっ」
 沙織の、普段は美しく輝く黄緑の瞳も。今や黒とのグラデーションに栄えていた。
 彼女が一人、男を戦闘不能に追い込んだ所で誘輔が、クーの背中を押した。
「今ならいけるか!!」
「行けますです」
 脳天の耳をぴこっと動かし、スタートダッシュをきったクー。その背中を追わんとした男に、誘輔はテーブルを掴んで大上段から落として。だが、まだ、敵は這い上がってきた。更にそこに置いてあった椅子を投げ、だがだがまだ敵は這い上がる。更にドリンクバーの危機を投げようとしたところで、アリスが流石にそれは金銭的にマズイと彼を止めた。仕方ないと誘輔は置いてあった消火器を鈍器として男を殴り、脳震盪を起こした敵がテーブルの下敷きになりながら動かなくなったところで。
「なら、行け!! こっちは任せな」
「はい」
 小さな背中はキッチンの奥へと消えていく。
 満足気に見送った誘輔は、キッチン側へと背中を向けた。
「ここから先には行かせねえし、一般人にも手ぇ出させるつもりはねえ」


「そこの強盗。止まってもらえますか?」
 クーは厨房の奥へと身を滑り込ませながら、一般人に手を伸ばしていた男の腕を切るのではなく、打撃に留めて器用に内出血を起こさせた。
 ぎゃあと叫び声を上げて退いた男はまだいい。もう一人の方はどうやら一般人を抱え込み、人質として立ったようだ。
 更に、溜息しか出ないとクーは首を振る。こういう事が起きることは読めていたはものの、一人では対応可能かどうかの計算を開始しつつ、
「止まらねえと、こいつがどうなるかわかってんだろうな!」
「……っ」
 流石のクーも足を止めるを得なかった。ゴミ捨てから護衛まで幅広くお応えでき、あらゆるご主人さまのニーズを満たせるハイスペックメイドが、足止めを喰らうとはなんという事か。
 どうすればと細くなる瞳に、だが、気づく。腕を斬りつけた男がこっちに向かって来るとき、こつんと当たったオムライスの皿がひっくり返り、地面に落ちた事を。
 無機質なパリンという音が響いた時、クーの中で何かが弾けた。
「ゆ、ゆるしま……せん!!」
 双子の刃を構えた刹那、異様な程闘気を実らせた少女は前進する。

 キッチンの奥の方から男の叫び声が響いた。
「おいおい、ド派手にやってんな……そぉい!!」
 さり気なく誘輔が突っ込みをいれた所で、ラーメンの入っていた器を敵の頭にひっくり返しながらぶつけた。
 熱さに地面を転げまわっていく男。勿論彼はキレた。キレたからには彼に反撃するのは当たり前の出来事。落ちていた薙刀を持ち、彼へ向かって一歩踏み出す、が。足が動かない。何故だ、普通なら動かせて当たり前のはず、男は下を見た。恐ろしや、足を、地面から生えた両手が掴んでいた。叫び声を上げる前に、アリスが顔を出し、愛らしく伸びる耳がぴこんと動きつつ、唇が「トーシロだぴょん」と紡いだ。そして、誘輔が機関銃で下から上に打ち上げれば、怯んだ男は天井に頭を突っ込んだ状態で動かなくなった。
「あ、弁償はこっちに頼むぜ」
「え、あ、はい」
 さり気なく彼は、中恭介の名刺を唖然としていたファミレス店員に差し出した。
 背景に音声を当てはめるのなら、ゴゴゴゴが似合いそうな沙織が表情を影らせながら壁際に男達を追いこんでいく。まるでそれは歴戦を迷い、這い上がってきた地獄からの鬼のようなオーラをセルフで纏っているようだ。その気迫に押されるがまま。
 一歩、彼女が進めば、一歩、敵は下がる。
「大人しく投降するなら……今ならまだ命は助けます」
 復讐や憎悪に狩られた彼女の心は燃えていた。されど、相手にはまだ慈悲を見える心がある。理性がしかりと彼女を制御していた。ここで殺しては、根強く残るトラウマの中の殺人鬼と何が違うと言えるのだろうか。
「……断るなら……斬る!」
「き、きらないで、ください……すみませんでした!!」
 既に獣の男の尻尾が切断され、地面に力無く切られた断片がトカゲの尻尾如く蠢いており。キッチンから出てきたクーが、気絶している男二人を担いで持ってきた。

 狙いはアニス一択だ。どこの世でも、回復手は真っ先に狙われるのが常である。仲間が次々と倒れていくことに焦りを感じ始めた男達。ナイフを手にした男が前衛をすり抜け、後衛に迫り、切っ先をアニスに向けつつピタリと止まった。止められた、が正解だろう。男の首を後ろから暁が掴んでおり、軽々しく持ち上げられたと思えば天井に向かって投げられお空の星になって消えていく男。
「加減がよくわかんないなぁ」
「暁さん!前!」
 現の波動が響く。アニスは同じく波動で現に射撃を返し、BOTが交差した。敵は衝撃に身体が跳ねて壁にぶつかり、アニスは暁に腕を引き寄せられ、彼の胸に飛び込む形で回避した。
 暁が上手くアニスを守っている事に千陽は信頼を感じながら、前へ突き進む。
「貴方達が、どんな理由でこんな事をしているのかは知れませんが。相手が悪かったですね」
 ナイフが千陽の頬を掠め、血が流れる。けれどその液体は、今、この場には相応しくないものなのだ。本当は彼らも、元を辿ればくだらない理由で動いているに過ぎないだろう。だがそれを能力者達が同情し憐れむべきでもない。
 争いを起こすなということを分ってくれというわけでは無い。軍事的に、強制的に、武力をもってして理解させん。
「これで終わりです」
 地より這い出て来た衝撃を産みながら、千陽は武器を凪いだ。

●おまけ
 事が終わり、六人は店員からお礼を言われながら、全員同じ席についていた。
 クーはスプーン一杯のオムライスを、
「ん」
「くれるの?」
 暁の手前へと差し出した。
「一口だけです」
「ありがとう。優しいね」
 暁は口に含んでから、クーの頭をなでなでした。
「何とかなってよかったです」
 一件落着か。横では警察の現場検証やらが始まっていたものの。
 にこっと笑うアニスに、一般人客だった子が手を振った。彼等が無事である事に、沙織もほっと胸を撫で下ろしつつ、身の内に飼っている闇に鎖をつけた事だろう。
 千陽は、目の前に運ばれたオムライスに再び、愛国心と文字を描く。
「これでゆっくり昼食が取れます。暁、君の不幸体質は何というか、前世で悪いことでもしたんですか?」
「流石に前世は覚えてないかな……」
 暁はぼそっと呟きながら誘輔がスライドして渡してきた珈琲をまた誘輔の方へと返した。
「そういや暁はオムライスにこだわってっけど 思い出の料理なのか」
「いや……そういう訳じゃないんだけど……単純に、好きっていうか」
 再び誘輔は珈琲を暁に手渡し、暁は丁寧に返却した。
「俺もガキの頃妹に作ってやったっけ。テメエにも妹がいるそうだが……大事にしろよ。世界でたった三人ぽっちの血の繋がった兄妹だろ」
「努力はしたい」
 再び珈琲を渡す。返却。渡す、返却渡す返却渡す返却。
「ちょっと!! なんなの!!」
「騙されたと思って飲んでみ、珈琲」
「断固として拒否する」
「美味しいから」
「嘘つけ、その笑顔が怖い」
「ほんと、平気だって!」
「苦いの僕、嫌いなんだってぇぇがぶぼおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
「これが大人の味だ」
 遂に誘輔は強引に暁の口にカップを押し付けていく。

 暁は手元のオレンジジュースを右にいるアニスへスライド。
「暁さん、このあとお暇ですか?」
「うん……割と毎日暇してるけど」
「なら、このあとアニスのお家にご招待したいです。オムライスを作って差し上げます」
「構わないけれど、なんだかそれどきどきしちゃうね」
 アニスはそこに炭酸を入れ、
「……?」
 沙織はそこにケチャップを入れ、
「お任せです」
 クーはそこにいい感じに塩胡椒を振りかけた。
「あいよっ、任せるです!」
 ラストにアリスが生クリームを注入。テーブルの上を一回転した飲み物が暁の手に戻り。
「これが子供の遊びの味!!」
 暁は、誘輔の後頭部を掴んで、にこおと笑った。

 ぎゃいぎゃいと騒ぐ仲間達に、食べ物で遊ぶなと千陽が一喝するまであと数秒。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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