愚かしさの結晶
愚かしさの結晶


●己の目的と存在意義
 道具と言うものは主に何かを成すために使われる。
 それは木を切り倒すのに使ったり、家を組み立てるためだったり、おいしい料理を作るために使われるものもあるだろう。
 進化の過程を歩むうちにヒトは火と並んで道具を使うことを覚え、より豊かな生活を送ることができるようになった。
 それはとても素敵で、とても知的で、とても誇れるものなんだろう。
 ならばこれは?
 もはや誰も訪れることの無くなった屋敷の地下、こびりついた黒い染みと共にある大きな人形。
 泣いているのか笑っているのか分からない顔、錆付いた車輪のついた足、そして何より扉のように開くことができる胸から覗くのは先のとがった針、それが幾重にも打ちつけられていて。
 あぁ、こんなものをいったいどうやって誇れるというのか、これはいったい何のために作られた?
 それはきっと捻じ曲がった人間の愚かしさの象徴、人を傷つけ、苦しめ、場合によっては死に至らしめることだけを考えて作られた拷問具。
 この道具たちはそういう風に作られ、そして愚直に目的を果たすため使われてきた。
 道具は悪くない、使う者が、そんなものを作った人間が悪いのだ。そして使われなくなった道具は作った人間も使った人間も忘れてしまう。
 それはそれでよかったのかもしれない、使われたって誰も幸せになれないのだから。
 しかし昭倭の日本、発現した『力』があふれているこの地にあったのが不幸だったのだろう。
 道具は目覚めた、己の成すべきことを愚直にも成すために、そういう風に作られた道具としての使命のために。
 
 ぎしり
 
 誰もいないはずの地下室に油の切れた車輪の軋む音が地下室に響き渡った。
 
●『F.i.V.E』
「まったく、金持ちの考えっていうのはわけがわからないな」
 五麟市に存在する考古学研究所、通称『F.i.V.E』と呼ばれる組織内にある会議室で久方 相馬(nCL2000004)はやれやれと首を振った。
 夢見と言われる力を持った彼らは望まずに未来を見させられてしまう、それがどんなに血なまぐさいものだったとしても。
「京都の外れにある古い屋敷の地下室からヤバイもんが妖化しちまう、人を苦しめ最後には死に至らしめる拷問道具だ。こんなもん作る奴も作る奴だが集める奴もどうかしてるよな。まぁ拷問具を集めていた大馬鹿者の主はずいぶん前にいなくなったんだけど、後始末しなかったおかげで大惨事になっちまう」
 よっぽどショッキングな夢を見させられたのか相馬の顔色は少しばかり悪い。それはそうだ、拷問なんて演劇みたいに見るもんじゃない。
「つーわけで妖化した拷問具が外で大暴れしないうちにぶっ壊してきてくれ、今の時代あんな骨董品で拷問も何も無いだろうしな。でかい人形が1体と空を飛んでいる奴が3体いる、詳しいことは報告書に書いているから目を通してくれ、あぁそれと」
 クリップで留められたコピー用紙を配りながら相馬は注意を促した。
「たぶん誰にも会わないと思うけど『F.i.V.E』の存在は秘密にしてくれよ、んじゃ、頼んだぜ」


■シナリオ詳細
種別:β
難易度:普通
担当ST:ほし
■成功条件
1.妖 鋼鉄人形及びフライングコルセットの撃破
2.なし
3.なし
アラタナルでもお世話になります、ほしです。
βシナリオのお届け、興味がありましたらぜひ立ち寄ってみて下さい。
それでは詳細になります。

■ロケーション
京都に建設されたとある古い屋敷の大きな地下室が戦場となります、人目を気にする必要はありません。
明り取りにより視界は良好、障害物も無く足場も問題はありません。
床から天井まで10メートル程度、8人並んでも武器の取り扱いに不自由はありません。

■エネミーデータ
●妖:物質系 鋼鉄人形 1体 ランク1
鋼鉄で作られた巨大な人形です、前面が開き中に人を閉じ込めることができるように作られており、中には無数の針が仕込まれています。
その大きさと重量ゆえに動きは鈍いですが非常に頑丈で耐久力に優れており、取り付けられた車輪で移動します。
攻撃手段は前面を開けて針を突き出したまま体当たり(近接距離・物理属性・単体)してきます。

●妖:物質系 フライングコルセット 3体 ランク1
鋼鉄人形の重量や運搬性の困難さから考案されたコルセット状の道具、鋼鉄人形と同じく内側には無数の針が生えています。
耐久度はそれほど高くありませんが床から2メートル程度浮かんでおり、素早い動きをします。
攻撃手段は長さ20センチ程度の針を飛ばす(遠距離・物理属性・単体)、相手に巻きつく(近接距離・物理属性・単体)の2種類です。


■プレイングについて
スキルは活性化してこそ使えます。
プレイング内で火行の炎撃を使用すると書かれていても、ステータスシートで活性化が確認できなければ使うことができません。
プレイング提出の際は今一度ご確認を!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
0LP[+予約0LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年08月17日

■メイン参加者 8人■


●勝手知ったる
 ぎしぎしと軋む板を踏み鳴らしながら覚者達は屋敷内を進んでいた、名家だったのだろう、内装は落ち着きがあり知らぬ者が見ても格が感じられる。
 家の明かりが無くなって久しい屋敷内には生活感というものがまったく感じられず、かといって手入れのなされていないにしてはそれほど荒れた様子も無い、それがかえって不気味さをかもし出している風に思えた。
「ふむ、趣味は悪くないようですね……でも、これは表向きかしら?」
 適当に襖を開き空の部屋を観察していた氷門・有為(CL2000042)は調度品の値踏みをする。
 これほどの大きさの屋敷ならば人を招くことも多かったろう、屋敷だけ見れば拷問器具を集めて愉しむなどと悟られない趣向のインテリア類に有為は少し感心する。
「上辺を繕うことには長けていたようだな、悪趣味な上に狡猾と見える」
 これはタバコの本数が増えそうだとアイオーン・サリク(CL2000220)が頭を振る。
 アイオーンにとって拷問の必要性は軍人としては理解しているつもりだ。
 しかしそれは手段の一つであり、本来の目的と外れた利用法にはやはり悪趣味という印象は拭いきれない。
「やだなー、怖いなー。俺こういうの苦手なんだよなあ。う、すごい緊張してきた」
「そうだよなー怖いよなー。でもエイジは言うほど緊張して無い様に見えるんだけど」
「いやいや、これでも緊張してるんだぜ?」
 今回の仕事において、四月一日 四月二日(CL2000588)と『白猫』白壁 ゆきみ(CL2000072)は妖化した拷問具にほぼ同じ印象を受けていた。
 エイジの実家も資産家ではあるがこんなものが家にあるなんて聞いたことが無い、さらに言えばそんな血生臭いものと一緒に暮らしたいなんて気持ちもまったく分からなかった。
 ゆきみにしても拷問などというものに縁のある生活をしている訳もなく、言葉だけでも恐ろしげに思えてしまう。
 しかも初仕事、どうしても不安になるのは仕方がないだろう。
 自分が拷問されて血まみれになる場面が一瞬脳裏をよぎり慌てて気合を入れ直す。
「こういう物は使う奴が意味だとか理由を決めるもんだ、俺らが決め付けるもんじゃねぇのさ」
 道具は使われるものを選べない、だからと言ってこのままにはしておけないと脇森・楓(CL2000322)は太い腕を撫してみせる。
 確かに悪趣味、しかし星野 宇宙人(CL2000772)はこの件に関してはやや同情めいた気持ちを抱いていた。
「もしかしたらそういう使い方を課した事を恨んで妖になったのかもなぁ。何とか浄化してやりたいな」
「うむ、そいつらのためにも尚の事潰してやらないといけないな。目覚めたくて目覚めたもんでもないだろうし」
 事件が起きると予測されている以上は仕事を全うしなければならない。ならせめて眠らせてやるのが情というものだろう。
「地下への入り口はここかしら? さっさと倒すに限るわよこういうものは。誰かを傷つける前にね」
 事前に知らされていた地下への入り口を見つけた八百万 紫子(CL2000380)はずんずんと階段を下りていく。
 まどろっこしいのは得意ではない、殴って済むなら早く済ませるに限る。特に今回の相手は紫子にとって情け容赦をかける余地は無いものだ。
 階段を下りるにつれて空気の澱みが強くなる、じんわりとした湿り気を含んだそれは埃とカビの匂いが混じりあまり気持ちのいいものではない。
 概ね拷問具に対する覚者達の印象が悪趣味で統一されているのに対し、唯一『願望器』ファル・ラリス(CL2000151)だけが異質だった。
「すごい執念を感じるんだよ。きっとたくさんたくさんやりたいことがあって、それを貫き通したんだね、偉いよ」
 拷問具という普通じゃないものを集め、使用するに至っては並々ならぬ困難があったはずだ。
 だからこそ、欲望を貫き通したその強い想いにファルは愛しさを覚える。一般的な善と悪、その垣根を越えて。
 想いの主がいなくなった今そこに感じるのは祭りが終わった後の寂しさのようなもの。
「夢はもう終わり、これでお休みだね」

 階段を降りきった先にの大部屋が見える、中には名も知らぬ拷問具があちらこちらに散らばっていた。
 ガタガタと目覚める音がする、久しく生者の気配がなかった地下室に現れた生気に誘われて。
 そこに感動は無く、喜びも無く。ただ己の仕事を全うするために長い間眠っていた物達が面を上げる。
「やれやれ、やる気出してくれちゃってまぁ。もっとゆるくいこうぜ?」
 エイジが眼鏡を取り出し装着する、どこか眠たげな瞳はガラス一枚隔てた奥で黒く変化した。
「うおおぉお! 初実践! 全力で戦うぞおおお!」
 ゆきみの元気あふれる闘志の咆哮が戦いの合図になった。

●火蓋
「使い手がいなくなっても使命を果たそうとするのは立派だがな、こっちにとっては迷惑なんだ。潰させてもらうぜ」
 楓は獣の力を顕現させ愛用の紅葉兇刃を振るう、楓の扱うは木行の力。
 太い腕から放たれた小さな種がコルセットに付着するや、相手の鋭い針にも劣らない棘が相手を切り裂く。
 ビリリ、と繊維を無理やりに引きちぎるような音が聞こえた。
「実物を見るともっとおっかないな、あの人形スクラップにしたら別のに生まれ変われるかな」
「引き取ってくれるかしらあんな物騒なもの。由来を知ったら断られそうですよ?」
 自身に宿る炎の力を目覚めさせた宇宙人はコルセットに襲い掛かる、強烈な一撃を叩き込んだと時を置かずして、有為の手にした物騒な斧が唸りをあげた。
 埃を巻き上げながら横一閃に振りぬかれた先でぼきりと金属がへし折れる、間近で見ていた宇宙人はわお、と感嘆の声を上げた。
「カッコいいね、女の子の凛々しい姿を見るのも好きだな」
「あ、いえ、まだ修行中でしてそのような」
 本当は斧に組み込まれた推進機構をうまく使えれば鮮やかに立ち回れるはずなのだが、それは心の中にしまっておいた、有為が叫ぶ。
「サリクさん! 鋼鉄人形の足を狙ってみてください、動けなくなればただの木偶です!」
「やってみよう」
 鈍色に光る人形が重量感のある音を立てながらアイオーンに迫る、その重量と巨体、なにより無数の鋭い針はただの体当たりを凶悪な必殺技に変えてしまう。
「ご期待に添えないですまないが、拷問されるのは趣味じゃないんでね」
 炎を纏ったサーベルを構えアイオーンは悠然と鋼鉄人形を迎える、長身の彼をもってしてなお大きな相手だが怯んだ様子は微塵も無い。
「でかいだけで勝てると思うなよ?」
 軍人として鍛えられたその胆力は人外に対しても遺憾なく発揮される、目の前に己を串刺しに使用と迫る針を前にしてなお、冷静そして非情。
 炎と火花の競演で鋼鉄人形の巨体がぐらつく。熱と衝撃でスポークの一部に歪みが生じたが、動きを完全に止めるには至らない。
 頬の皮膚に針が引っかかりかすかな痛みとともに赤い血が一筋伝って行くが、彼にいささかのぶれも見えない。
「さすがに硬いか、だが押し通れると思うなら試してみるがいい。厳しさを教えてやろう」
 
「あれだな! コルセットを狙えばいいんだな! 訓練の成果を見せてやる!」
「あれま、こっちもすごいやる気」 
 若干ゆきみの尻尾が膨らみ気味なのは緊張しているからか、それでもこの日のためにと積み重ねてきた訓練は着実に彼女の血肉となっていた。
 両手の爪にしなやかな身のこなし、そしてどこか気まぐれな表情を残すゆきみはまさに戦場を駆ける一匹の猫。
 ただしそこに愛玩動物のような甘えた雰囲気はない、肉を抉り食い散らかすかごとく猛る獣だ。
 飛来する針が肌を掠めるもその勢いは止まらない。
 猫の爪は鋭く速い、小柄な体を生かしゆきみは両の爪でコルセットを引き裂いていく。
「うわぁ、近くで見るとやっぱり怖い! すっごい針生えてる!」
 目の前でカチャカチャ蠢く無数の針が今にも飛び出してきそうだ、その恐怖に打ち勝つように所狭しとゆきみは飛翔する。
 その姿はもう立派な一人の狩猟者だった。
 真っ直ぐに、そして苛烈に全力を尽くすを体現するゆきみの様子にエイジの心がざわつく。
 いつもどこか一歩引いた目で生きてきた、煮え切らないけれどなんとなく誤魔化しながら、でも。
「酒のせいにということにしておこうか。俺は初体験、キミ達は最後の体験。お互い思い出に残るように、楽しくやろうぜ?」
 初の実戦だ、もちろん恐怖はあるが年下の女の子があんなにに頑張っているんだからと武器を構える。
 手にしたブレードと共にエイジは戦場の風になる、空気を切り裂きながら針を飛ばしたコルセットの隙を見逃さず刃を一閃させた。
 ざっくりと深く切り込んだ刃によってコルセットの裂け目から向こうの景色が見える。
「拷問ショーの主役にしてやる、今日限りの舞台だ、しっかり踊れよ」
 銀の刃が地下室に再び閃いた。

「拷問具という割にはぬるいわね? 久々でやり方を忘れたのかしら?」
 紫子は血に濡れた右腕を前に出しコルセットに挑発していた。まるで血圧計の如く巻きつかれ腕は穴だらけになっているというのに意に介した様子も無い。
 コルセットがガバリと開きナイフの如く紫子の肩に針が刺さっても不敵な笑みは浮かべたまま。
 喧嘩上等、戦闘となれば生傷の一つや二つ負うのは覚悟の上だ。
「まだぼんやりとしか目覚めてないんなら、叩き起こしてあげるわよ? まぁ、そのままもう一回寝てもらうけれど」
 ナックルを装備した腕が硬化する。琴桜、まさに道具を扱うその手がそのまま恐るべき凶器に変わる。
 無数の針が露出しているコルセットに向かい何事もないようにその拳を叩き込む、今や紫子の体は土の鎧に守られ、攻守共に非情に堅牢だ。
「すごいけど、あんまり無茶したらだめだよ」
 ファルの神秘の力に富んだ滴が紫子の傷を癒す。
 相手は人を傷つけるためだけに生まれてきた拷問具だ、それに特化した能力を前に覚者達もただでは済まない。
 紫子だけではない、メンバーの治療を一手に担うファルの癒しは生命線だった。
 ファルは拷問具たちの先にいたであろう持ち主達に思いを馳せる。欲望は満たされていたんだろうか?
「まだ頑張っているんだね。でも、そこにもう意思はないんだよ。ここまでの欲望ってすごいと思う。でも、もう終わらせなきゃ」
 道具が目覚めてしまうほどの執念だ、満たされていたと思いたい。
 持ち主がいない今、これはただの想いの残滓。
 しかし、思いのほか執念が強かったようだ。
 
●拷問具として
「うっ、ぐ、あっ、っぐぅ!」
 ゆきみの苦しげな声が響くいた。
 猛の一撃を叩き込まれ地面に落下していたコルセットが突如牙を向いた。
 まるで着物の帯の如く細い胴部に巻きついたコルセットは腹と背中両方から侵入し、針がゆきみの体内で交差する。 無数の針に臓物を穴だらけにされた少女は小さな口から真っ赤な血を溢れさせ尻餅をついた。
「やべぇ」
 後ろで戦っていた楓が前に出て深緑鞭を振るうとゆきみから剥がれたコルセットを強烈に打ち据える。
 体を丸めて蹲っているゆきみを庇うように楓は前に出る。
「シラカベさん、大丈夫ですか?」
 痛みと出血で震えるゆきみにファルが癒しを施すと、体内に渦巻く焼け付くような痛みが和らいだ。
「真打登場って言いてぇ所だがそうも言ってられねぇか!」
 篭手と一体化している紅葉兇刃はまるで自分の腕のように操ることが可能だ。
 あちこち針の欠けたコルセットは誰のものともわからない血で染まってまさに拷問直後の様相を呈していたが、楓の重い一撃の前についに真ん中に大穴が開く。
「傷つけるのが好きってのは分からなくもないけどよ、こいつはちょっと異常だよなぁ。使うのも悪い奴だが目覚めて暴れる今のお前は自分でそう選んだんだろう?」
 ならば自分も仕事を全うするのみ、明確な叩き潰すという意思と共に。
 空気を裂きながら飛ぶ緑の鞭がコルセットを床に叩きつけた、ベキベキと細い針がへし折れていく音がする。
 血を吸って赤く染まった拷問具ははそれきり動かなくなった。
 
「女の子にずいぶんひどいことをするなぁ、ちょっと許せないね」
 アイオーンと共に鋼鉄人形を攻撃していた宇宙人は血に塗れて悲鳴を上げる少女を見て軽口をたたいて見せるが、その表情は軽くない。
 宇宙人とて無傷ではない、凶器の塊のような鋼鉄人形の体当たりを交わし続けるのは精神的にも相当に負担を強いる。
 事実破れた服は裂けた肉とあふれ出した血で赤く染まっていた、装飾品も己の血で染まってしまっている。
 しかし今は痛みより怒りのほうが勝っているようだ。
 その矛先はこのような道具を作り使ってきた人間達、そしてそのせいで妖になってしまった拷問具へ向けて。
 確かに道具達の境遇も不幸だと思うが、だからといって仲間を、特に女の子を傷つけられて黙っているほど宇宙人はお人好しではない。
 その長身から繰り出される攻撃は軍人であるアイオーンにも勝るとも劣らない、五行を顕現させ精度を増した一撃が鋼鉄人形の扉へ入ると、ガタが来ている蝶番が弾けついに前面の扉が片方陥落する。
「あら、存在意義を果たす為にしてはやる気なさ過ぎだというのに、これでは本当に暴れるだけの道具に成り下がってしまいましたね」
 コルセットが沈黙したのを確認した有為はそのまま鋼鉄人形の戦列へと合流する。
 せっかく中に人を閉じ込めるという意味を持たせたデザインだというのに、拷問具達は目的も手段もその思想が抜け落ちてしまっている。
 もしもこれを使っていた者達も蘇っているというのであれば、また違う結果になっていたかもしれない。
「ただ人を傷つけるだけならあなた達は必要ないんですよ、やはり道具は人が使ってこそ、ですかね」
 加速と重量、そして火行の力を総動員させた有為の持つオルペウスの一撃が人形の車輪を破壊する、床の上を金属が摺りながら滑る嫌な音が響いた。
 足を失い、ガタガタと身じろぎしながら空しく残った扉を開閉することしかできなくなった人形はとても哀れで。
「眠れ、お前達の役目はもはや無いのだ」
 動けぬ人形を屠る事などたとえ鋼鉄でできた人形であろうともはや容易い、アイオーンは残る気力をすべて炎に変えてサーベルに込めると、室内が赤い炎の明かりで満たされて。
 後には物言わぬ残骸が残るのみ。
 
●思いのガラクタ
「扉一個で結構重そうだ、スクラップ屋も喜ぶかな?」
「本当に持って帰る気ですか、これ。いや、私も気になってはいたんですが」
「じゃあ連絡だけ入れておくかな、まぁ後はプロに任せよう」
 宇宙人は今まで自分達を苦しめてきた針を指先でつつきながら思案する。
 持って帰るにしては鋼鉄の塊はあまりに重い。
 出所が出所だけに敬遠されても仕方の無いものではあるし、連絡だけ入れて後は判断を任せることにした。それならばと有為も賛同する。
 血や埃とカビと金属、色々な匂いでひどい惨状の空気の中アイオーンは苦い顔を浮かべる。ずいぶんとひどい空気だ。
 軍人として鍛えられてはいても不快感を受けるのは彼とて同じこと。
 一仕事終えたのだ、次の休みにはリラックスしてもバチは当たるまいとアイオーンは頭の中で香の候補をリストアップしていく。
「さて、このひどい空気を忘れるにはどんな香がいいだろうな」
 そんな中で、ファルは静かに祈りを捧げる。
 頑張ったね、お疲れ様だったね、と。
 ファルの中ではこの件に関して言えば悪などない。
 どのような行為であろうと欲望や願望を叶えたいという想いに対する愛は平等だ。
 やりたいことをやりきってくれたのならいいなとファルは思う、拷問具を目覚めさせるほど焦がれたのだから。
「わたしは許すよ、もう心残りはない? よくがんばったね、おやすみなさい」
 集めた人達の為に少女は祈る、これほどの思いを胸に抱いた者達へと。
「たまには巫女っぽいこともやらないとね」
 祈りを捧げるファルを見て紫子もそれに順じた、まぁ普段は祈りより先に拳が飛ぶことが多いのだが。
 同じ祈りでもベクトルがまったく異なるのは、ご愛嬌といったところか。
「あぁ怖かったぁ、死ぬかと思った」
「ほんとに死ぬかと思った、いや冗談じゃなく」
 同じ言葉でもエイジとゆきみとでは重みが違った。
 拷問を食らったのは初めてだ、ていうか普通にあれ死ねるよねとゆきみは血で真っ赤になったお腹をさすっている。
 ファルに治療してもらったとはいえ体の中を貫かれる感触は思い出したくない。
「どうしよう、ほかの拷問具も一応壊していく? また妖になられたら気持ち悪いし」
「やる! こうなったら全部壊して憂さ晴らししてやるんだ!」
「元気だねぇ、明日筋肉痛にならんとイイんだけど」
 この分だと帰って飲みに行くのはもう少し後になりそうだなと思いつつ、手近なペンチのようなものを床に叩きつけた。
 何に使うのも分からない道具達を手当たり次第に潰していく二人を楓は安心した様子で見ていた。
「一時はどうなる事かと思ったが、あれだけ動ければ大丈夫だな、やれやれ。おい、俺もやるぞ!」
 どたんばたんと賑やかな音を立てて拷問具を潰していく二人に楓は加わりまだ使えそうな道具達を壊していく。
 地下室の喧騒は未だ収まりそうにはなかった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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