脱税隔者VS査察の女覚者!!
脱税隔者VS査察の女覚者!!


●税金は納期までに納めましょう

 ――都内、23区某所
「ホラホラあんたたち!この国で稼いでおまんま喰ってるんなら、滞納した税金をとっととお出しッ!!」
 いかにも反社会的でございと云うような雑居ビルの事務所に、戦車を擬人化したような中年の女性が乗り込んできた。
 パッと見はスーツ姿なのだが、よく見るとパンツスーツの下に着込んでいるのはカットソーでもなく、ブラウスでもなく、豹柄のTシャツ。
 東京ではあまり見かけない感じのおばちゃんだ。
 彼女こそがAAAの酒井 晶子。夫が国税局職員という縁から、査察しにくい覚者の絡んだ案件へ関わることも多い。人呼んでマルサのアキちゃんである。

「ンだとッババア!こちとらテメーらに楯突くために活動してんだよっ!殺すぞオラァ!」
 事務所内のごろつきと、各々の肩や頭に乗っていた守護使役達が殺気だつ。
 それにしてもこの事務所内の守護使役達、どいつもこいつもファンシーなのにすこぶる目付きが悪い。

「ハッ!いくよチュン子!」
 彼女も自身の守護使役、彼女そっくりの鞠に羽根を付けたような身体にパンチパーマのようなトサカのチュン子へ声をかける。
「ババアだと思って、なめて貰っちゃ困るよ!!」
 チュン子が一瞬にして消えたかと思った瞬間、爆発的な輝きの中から飛び出してきたのは、床に付くほどの丈のスカートと、セーラー服に身を包んだ長身の美少女。
 脂肪も筋肉も人並み以上の身体が、縦はそのままに横に縮んでいる。
 白髪交じりだった髪は艶々のチリチリパーマへと変わり、紫のアイシャドーが濃く入った、キツく涼やかな目元が何とも色っぽい。

「ババア!ちっと若返ったからっていい気になるんじゃねえぞゴルァ!!」
「いつの時代の服装なのぉ?年齢バレるわよぉん!」
 若干的外れな怒号も聞こえるが、既に相手の隔者達も臨戦態勢に入っている。野太いのに口調だけやけにたおやかな野次も混じる。

「フンッ、私は年齢を隠した事がないからバレるも何も無いサ」
 余裕のありそうな表情の晶子。こんなヒヨッコに負けることはないということだろうか。

「いいぞ!オメェら、ババアを殺ッちまえ!!」
 若い晶子の表情に逆撫でされて火がついたのか、隔者達の攻撃が晶子に向かう。

 その攻撃を最初は余裕でいなし、一撃一撃を叩き込んでいた晶子だったが、近接すれば当然、自分よりも数の多い前衛や中衛の猛攻を食らうわけであり……

 隔者のリーダー格の男が、日本刀で大きく晶子の胴体を斬りつける。
「グフッ、まさか……私が、こんなヒヨ…コ、に……」
 晶子は呆然として、自分の鳩尾の辺りから止まることなく流れる血を見つめるばかり。さっきまで振り回していた、得意の自転車チェーンも既に手には無い。
「ダメかなぁ……でも、負けたら……」
 そうして血だまりでもがく晶子へ、派手な服装の男が持つ斧が振り下ろされ、そして――


●きっちり徴収させていただきます
「AAA所属の覚者さん……といいますか、FiVE所属の子の親御さんが、袋叩きにされて殉職する未来が見えてしまいました」
 集まった覚者達へ、久方 真由美(nCL2000003)が真剣な顔を向ける。
 酒井 晶子さんという、AAA内でも古くからいらっしゃる方です。と、真由美が説明する。
 古株ではあるのだが、途中で産休や育休、姑の介護などで、戦闘部門でなく事務方への配置替えをされていた期間もあるため、若干の技量の衰えは自身でも認めていたそうだ。
 最初こそ優位に戦っていたものの、多勢に無勢で、最終的には絶命させられてしまうらしい。

「晶子さんは覚者であるお子さんを、安全を考えて五麟学園へ通わせています。お子さん……兄の晴樹くんと妹の皐月ちゃんはFiVEにも籍を置いていますね。」
なので、最初からFiVEであることを明かして彼女に合流しても良いとのこと。

「敵の隔者も、各々はそこまで強くありませんがチームワークで向かってきます。どうか油断せずに。」
 真由美は深く頭を下げ、FiVEの覚者達を見送ったのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:安曇めいら
■成功条件
1.脱税している隔者組織を制圧
2.AAA所属覚者【酒井 晶子】の生存
3.なし
住民税の高さと厚生年金の税率改定に辟易している安曇です。
今回は難しいこともなく戦うのみの依頼となります。
皆様のご参加、お待ちしております。


●ロケーション
午後4時、雑居ビルの3階です。
足場等は安定していますが、机などの遮蔽物があります。


●味方
ベテランマダム『酒井 晶子』さかい あきこ & チュン子
火行、現の因子
AAAのベテラン(但し産休や介護休暇も含む)です
見た目は恰幅の良い豪快なおばちゃん
既に覚者として発現した自身の子供(現在中学2年生と小学5年生)を五麟学園に預けています
(PTAとして会った、友達の母親等、自由にプレイングで指定して絡んで大丈夫です)
守護使役のチュン子は現在の彼女そっくりです
戦闘時は10代後半、スカートの長いキツめなヤンキー美女に変化します
武器は鞭相当のチェーンを装備しています

所持スキルはB.O.T.、醒の炎、爆裂掌、地烈、物攻強化・壱、声色変化、ワーズ・ワース


●敵
隔者×5人
リーダー:木行、翼
新入り:水行、翼
ジゴロ:火行、械
オネエさん:天行、獣(丑)
インテリ:土行、暦

それぞれが得意な系統で攻撃してきます。
ジゴロとオネエさんがやや前衛寄り、リーダーとインテリは前衛中衛兼任、新入りは後衛専念の傾向です。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年11月24日

■メイン参加者 8人■

『暁の脱走兵』
犬童 アキラ(CL2000698)
『風に舞う花』
風織 紡(CL2000764)
『便利屋』
橘 誠二郎(CL2000665)
『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)

●突撃!隣の滞納金!

「うむう、我々の大先輩と言うわけでありますな!」
 口火を切ったのは犬童 アキラ(CL2000698)。肉感的な肢体でありながら婀娜っぽさが一切無く、若武者のように精悍な印象があるのは、並みの男を上回る長身故だろうか。

 東京23区内。ある雑居ビルを目指し、九人の覚者が突き進む。
「おやまあ、FiVEの。奇遇なもんだねえ、加勢してくれるんだって?」
 一際横に大きい身体を揺らしながら歩くのはAAA所属の覚者、酒井 晶子である。
 その横を歩く風祭・雷鳥(CL2000909)は、自分達はFiVEだと、立場を明らかにした上で、夢見の予知で晶子の殉職を知ったために来たと彼女に告げた。
「そんな……私が今日死んでしまうはずだったとはねえ。敵がそんなに強いとはね……」
「わたしは別にさ、若いつもりで暴走したおばさんがどう死のうと知ったこっちゃねーけど。でも、残されたあんたの子供は別。」
 少ししっくり来ない様子の晶子へ、同じく子を持つ母である雷鳥はハッキリと自分の考えを示す。晶子とは縁もゆかりも無い。が、雷鳥は子供泣かす母親が死ぬほど嫌いだ。
 四月一日 四月二日(CL2000588) は、今回の案件なら思いっきり殴れる!と内心ガッツポーズをしつつ、雷鳥に続いて今回の経緯を説明する。
 その横で四条・理央(CL2000070)は
「発現したのにしてるのが脱税だなんて小さいよ……」
 と、困ったようにウンウンと唸っていた。

「どうも、お久しぶりです晶子さん。微力ながらお手伝いに参りました。僕も昔よりは頼れる男になったつもりですよ。背中はお任せ下さい」
「あら!橘くんじゃないの!ちょっと見ない間にいい男に育って!」
 んまあ!と親戚の子供の成長を喜ぶかのような表情の晶子。
 橘 誠二郎(CL2000665)は元々AAA所属だったので、晶子とは面識がある。新人のときに面倒を見てもらったというだけでなく、隔者も妖も蔓延る昨今、彼女のような経験豊富な覚者が喪われるのは惜しいと思っているのだ。しかし、今に誠二郎が追い抜いてしまうだろう。

 続いて、新田・成(CL2000538) も晶子に声をかけた。
「いやいや、お懐かしい。ご主人…酒井君はお元気ですか」
「ああ元気だよ。若干、私にシルエットが似てきたかねえ!そういえばそっちの、孫みたいな甥っ子ちゃんと姪っ子ちゃんは元気かい?」
 うちの子があっちの学校で、ご迷惑になってないかねえ、と呟く晶子。
 新田は大学教授になる以前、国税局の鑑定官であった。税の徴収にかかわることは無かったものの、酒井夫妻の同僚といえば同僚と言えるだろう。
「久々に国税局に戻ったつもりで、働かせていただきましょう」
「ああ、頼んだよ新田のアニキっ!」

 風織 紡(CL2000764) はふと、晶子自身と、彼女の頭に鎮座している守護使役、チュン子をまじまじと見つめて
「……こうならないように気をつけなきゃ、ですね……深い意味はないです、ないです」
 と、ぽつりと呟いた。紡本人の言うとおり、深い意味は、ない。

「なあに、ちょいと力を貸すだけじゃ。ワシ等を連れて行っても損は無かろ。危険な場所なら尚更のう。」
 と話しかける神・海逸(CL2001168)。 本のネタを常に探している彼としては、こんなところで死んで打ち切り、というのはつまらない。打ち切りには、打ち切りなりの終わらせ方があるというのが持論だ。

 そうしてFiVEの面々と晶子か口々に言葉を交わし、打ち解けてきたところで件のビルの前についたのだった。

●税金は、期日までに納めましょう

「国税局だよ!滞納してる税金をお出しっ!!」
「ア゛ア゛ッ!?なんだってめー!?」
 勢い良く事務所に乗り込んだ覚者達。先頭は晶子だ。
 残念そうな新田の声が、睨み合う事務所内に静かに響く。
「そちらと同じでね。役人も、舐められたらオシマイなんですよ」
 腕っ節で選ばれたとおぼしきリーダーが吼える。その背中には小さいながらも猛禽類の翼が生えている。
「役人なんざの言うこと聞く義理なんざねーよ!失せろ!殺すぞ!!」
「そうかいそうかい、じゃあ、交渉は決裂だねえ!」
 晶子のチュン子が、新田の杉玉が、理央のリーちゃんが、四月二日のビリーが、それぞれの守護使役が瞬時に彼ら彼女らの力を解放する。
 吼えるリーダーの後ろで、メガネをかけたインテリが一瞬難しい顔をし、新入りが不安げな表情をしたのは気のせいだろうか?

 ……おそらく、覚醒での落差が最も激しいのは晶子だろう。身体が二回りも縮む現の因子というのは、ちょっと聞いたことが無い。
 覚醒した晶子を見て、さっきは無かった眼鏡を装着した四月二日はどこかのんびりと
「……おお、クラシックヤンキースタイル。かっけえ」
 などと感想を述べる。確かに、今日ではそうそうお目にかかれるものではないというか、絶滅した生き物だ。

 真っ先に動いたのは、闘争本能で生きていると思しきリーダーだった。太い熱帯植物にも似た深緑鞭をアキラへ放つが、それと時を同じくして、雷鳥が動いてランスでの一撃を前衛のオネエへ叩き込む。
 現の因子持ちの晶子と新田が、それぞれの得物であるチェーンや仕込み杖からB.O.Tを撃った。二つの射線が、前衛のジゴロとオネエを貫き、中衛に位置していたリーダーとインテリにも当たり、最終的に膝も羽もプルプルとしていた新入りへ当たる。
 新田はエネミースキャンにより、新入りが回復担当だと見抜いている。彼を機能停止に追い込めば相手方はすぐにボロボロになるだろう。 

 邪魔な遮蔽物を貫殺撃で吹き飛ばしながら四月二日が書物をパラリと捲りながら言った。錬覇法の上乗せがある分、貫殺撃の威力も相当な物になっているようだ。
「レディ一人に寄ってたかってなんてカッコ悪いぜ、おニイちゃんたち。俺達が本当のチームワークをカラダで教えてやるよ」
 今度は敵へ向かって召雷を放つ四月二日。ジゴロとインテリが攻撃を受けて仰け反るのを見つつ彼は微笑んで言い切る。
「大人ならちゃんと払うべきおカネ払おうな?」

 B.O.Tが掠めていった拍子に斧を取り落としたジゴロが再び斧を拾い上げ、醒の炎を纏い襲い掛かる。
 そこへ、蔵王を纏ったアキラが、銃と一体化した腕から正拳を繰り出す。ゴホッ、と野太い声を出してジゴロがのけぞった。
「アキラちゃんも筋がいいじゃないかい!これじゃあ、アキラちゃんや橘くんみたいな若者がすぐに追い抜いて行きそうだねえ!」
「光栄であります!大先輩の戦い方、勉強させて頂くのであります!」
「そんな学ぶモノなんてないよ!私はただ暴れるだけだからねえ!」
 若い容姿ながら、声は歳相応のもののままに聞こえる晶子の、豪快な笑い声が術式と体術の飛び交う戦場に響く。

 中衛で敵の攻撃をいなしながら、必死になって此方に攻勢を仕掛ける彼らを見、誠二郎がどこかしみじみと独りで呟く。
「いやはや、それにしても税金の滞納が抵抗活動とは実にしょうもない方々ですね。七星剣のようにとは言いませんが……楯突くにしても他にもやり方はあるでしょうに」
 なんとも小物臭いというか、三下臭いというか、と彼は感じた。元々が国家直属のAAA出身であるので、尚更そう感じるのも当然だろう。
 気を取り直して名乗りを上げる。
「それでは橘流杖術、橘誠二郎。推して参ります。」
 と、名乗ったかと思うと、次の瞬間にはオネエが動いて前衛が開いたところへ滑るように動き、中衛にいたインテリへ素早い飛燕の二撃を叩き込んだのだった。

 しなやかな牝馬の獣相を顕した雷鳥の、ランスでの猛の一撃がオネエへ襲い掛かる。横目で垣間見ただけだが、晶子は息子のやっていたゲームで見た、馬上で突撃槍を振るう女騎士を思い出した。
 くぐもったような唸り声とともにオネエが一瞬膝を付く。その様子に不敵な笑みを浮かべた雷鳥は大胆な一言。
「ちょっととろすぎじゃなーい?国民の義務から逃げるのは早くても、戦闘じゃすっとろいってか、まぁあたし相手じゃ誰でもソーダローけど」
 トロい奴には興味を持たない、というのがポリシーの雷鳥だ。
 だが、同じく獣の因子を持つオネエも負けてはいない。お返しにと彼女(?)もトンファーから猛の一撃を繰り出す。
「国民の義務がなんだっていうのよォン!アンタこそ、ちょっとくらい天然のオッパイ付いてるからって、調子に乗るんじゃないわよぉん!!」
 共に重い攻撃が当たり、暫く動けない。雷鳥へは新入りの薄氷が真っ先に降りかかり、逆にオネエへは、新田が新入りを狙って放ったB.O.Tが襲い掛かる。
 冷たい冬の力による痛みを感じながら、動けるようになった雷鳥が呟きながら立ち上がる。
「……子供泣かす母親が死ぬほど嫌い、か、どの口がいってんだか」

「せいっ!」
「こいつっ!敵じゃなければナンパでもしようかと思ったのに……!結構強いじゃないかかわいこちゃん!今は素顔見えないけど」
 中衛の紡は錬覇法での強化から、斬・一の構えを一番近くに居たジゴロへお見舞いする。最初こそ余裕もなかったものの、大分戦局もFiVE寄りに傾いてきている。なんとはなしに、仮面越しに脱税隔者達を見る余裕も出てきたのだが
「……なんというか、濃い相手ですね。一人ずつの個性が強いというか」
 柄シャツにコワモテのリーダー、濃い化粧にある意味目の毒なドレス姿のオネエ、ホスト風のジゴロ、サラリーマンのようなインテリ、その辺の大学生を捕まえてきたかのような新入りである。
 紡がそう思うのも、仕方の無いことだろう。
「オレが君を倒したら、さっきちらっと見えた素顔を堪能してあげるよー」
「……なんか、気持ち悪いです」
 ガーン、とした表情のジゴロへ、紡は再び斬・一の構えで攻撃し、おまけで貫殺撃も付けた。

 優雅な陰陽師の装束姿となった理央は、冷静さを崩すことのないまま戦況を判断している。現在最も消耗の激しい雷鳥へ癒しの滴を放ち、そのままオネエへと水礫を撃つ。
「荒事は本来、専門外なんだけどね……」
 そうは零すものの、特攻の威力で言えばこの場の誰よりも強いのだ。彼女自身は気づいているのだろうか?
 敵もかなり重い攻撃を叩き込んでくる。回復役の理央と海逸は休む間も無く癒しの力を周囲に分け与える。
 理央が癒しの滴を先んじて使えば、海逸は少し手番を遅らせてから他の者への癒しの滴、あるいは霧。連携し手番をずらすことで、特に攻撃を受けやすい前衛陣が回復を受ける機会を増やしているのだ。
 消耗した気力は、四月二日や紡からのものや、理央自身の填気で補われ、回復が途絶えることは無い。

 新田は、この依頼のメインが脱税捜査であると踏み、できれば無益な戦闘は避けたかった。既に刃を交えることとはなってしまったが……回復にも攻撃にも加わっていない一瞬の隙を突き、新田は新入りに話しかける。

「知っていますか?脱税事件で刑事罰を負うのは、代表取締役や会計の責任者などの経営層のみなのですよ。とある企業が脱税したとして、従業員一人ひとりを逮捕して起訴する、なんて話は聞かないでしょう?」
 教職ならではの分かりやすさで、淡々と説明する新田。だが、新入りは元々新聞もニュースも嫌いな性質故かイマイチピンと来ないようだ。
「お、おう?」
「貴方、お勤め先が『脱税をしていたなんて、知らないん』じゃないですか?」
 ピンと来ていない新入りへ、最も分かりやすく問いかける。彼は回復役であることも災いし、既に命数復活も果たし、少し可哀想な位ボロボロになっている。

「るせえ!新入り、聞くな!」
「お話の邪魔はしないっ!」
 話しかける新田を妨害するかのように、腕っ節だけのリーダーと学の無いジゴロが襲い掛かるも、雷鳥の鋭刃脚に攻撃を弾かれ、牝馬の艶のある脚で蹴り飛ばされる。
 矢継ぎ早に海逸の水礫と誠二郎の棘一閃が二人めがけて飛び出し、ジゴロには晶子の爆裂掌とアキラの射撃も叩き込まれ、ついに最初の脱落者となった。
 逆に、錬覇法で回復力を向上させ続けている海逸と、特攻に秀でた理央の厚い支援により、FiVE側は一人の脱落者も出すことなく戦闘が進んでいる。

「ええ、ちょっと偶発的に手が出てしまっただけの貴方が、戦闘行為を行わないというなら、我々は貴方を「何も知らない従業員」として扱います。どうです?まだ戦いますか?」
 ポカンとしている新入りの横、先程よりは少し下がって指揮を執っているインテリにも、新田は問いかける。
「機を見るに敏な方とお見受けします。『貴方は脱税に関与していない』違いますか?」
 脱税の罪の矛先をリーダーに絞ることで、仲間割れを狙う。
「え、えーと俺は……はい!本当に知りませんでした!」
「そ、そうだな、俺も脱税のことは知らなかった!」
 口々に保身に走る二人。

 保身を決めた二人が後ろへ下がっていくのを見て同様する残りの三人。いや、ジゴロが倒れたのでオネエとリーダーの二人。
「くっそぅ……仕方ねえ!皆殺しにして証拠なんか消しちまえ!」
「それよりもぉ、逃げるが勝ちよぉん!」
 交戦の中心、事務所の真ん中辺りに居た二人は出入り口に行った方が早いか、窓から飛び降りるのが早いか思案する。
 が、そうは問屋が卸すわけもなく、晶子が叫ぶ
「そうはいかないよ!きっちり年貢は納めてもらうのが筋だからね!」
 次の瞬間、晶子の地烈が二人に襲い掛かった。さらには新田のB.O.T、四月二日の召雷、誠一郎の棘一閃等々……全員の得手とする攻撃が、雨あられのように降り注いだ。
「何よぉ……こっちは五人しかいないのにぃ、九人なんて卑怯よぅ……」
 オネエはガクリとその場に倒れこむ。息はあるようだ。
 いよいよ後が無いリーダーは、なんとしても逃げようともっとも近くにいたアキラへエアブリットを放つものの、蔵王で守りを固めている彼女にはさほど痛手にはならなかったようだ。
 そこへすかさず入り込んだ雷鳥が、ランスを振り上げながら呆れたように告げる。
「何も守るもんがねーならさ、せめてルールは守ろうぜ」
 最後まで立っていたリーダーも、ついに彼女の一撃で戦闘不能となった。
 誠二郎も続けて、倒れた面々を見渡しながら言う。
「まぁ、僕から言うべきことは一つです。税金は納期までに納めましょう。きちんと、ね?」

●???


 若い女が一人、ビルからは見えづらい位置にある電話ボックスにいた。
「……まったく、おばさまも頑固ですね。まあ、それはいいでしょう」
 何やら女の掠れた怒鳴り声の聞こえる受話器をカチャンと静かに戻す。
「戦力提供の交渉、ついでに教化し取り込めたら、と参りましたが……一悶着起こっていますね」
 そう呟く横顔は、暗がり故にぼんやりと見えるのみ。
 ビルとビルの陰に隠れ、今回の事件の舞台となった事務所を横目で見やりながら、一本に束ねた三つ編みの先を弄ぶ。
 国に盾突くなんて、という、自分と同年代らしき女の声がふと聞こえて、僅かに微笑む。
 そういえば最近、いつになく『正義の味方』じみた覚者が増えているような気がするな、と内心で訝る女。
「もしや、例の通達の……そうとは限りませんが、あまり触らないほうが宜しいでしょうか。変なのを寄越されてもこちらの計画に障りますから」
 もう一度、超常の力の飛び交う様子を一瞬眺めた後、くるりと踵を返し、女はヒールを微かに鳴らして立ち去った。


●差し押さえは身柄ごと

「道徳的なコトした後は実に気分爽快、スッキリだなあ……ま、手加減ナシで暴れられたから、ってのもあるけど」
 簀巻きのように拘束され、護送車に担いで運ばれていくリーダー、ジゴロ、オネエ。それよりは少し軽く、普通にパトカーに乗せられていくインテリと新入り。
 四月二日やアキラは何故か敬礼している。
 尚、理央の提案により、FiVEに関する記憶はリーちゃんやビリー達によって吸い取り済みだ。
 それを見送りつつ、雷鳥は晶子へ、ぽつりと零す。
「私にも娘がいてさ、この子のためならなんだってやってやるって思えるくらい可愛い子」
 何かを考えたのか、一度言葉を切り
「まぁ、子供のためにも、もちょっと命は大事にしなよ」
「ああ、私も家族を背負ってる身だと、今日改めて実感したねえ。同じ母親同士、これかもよろしく頼むよ!」

 海逸を悩ませるのが……
「……スケバンか、若しくはマルサか、どっちをタイトルにするか迷うレベルじゃな。ちゅうかどっちにしても普段が普段じゃから違和感があるのう。いっそのこと、オオサカ主婦探偵、とかの方がええじゃろか…」
 今回の事件を題材にした本のタイトルであった。ちなみに晶子は思いっきり関東な川崎の出身である。

 四月二日が何かを思いついたように晶子に持ちかける
「覚者生活長いんでしょ、面白いネタ色々持ってそうじゃん。俺にも聞かせてよ」
「そうだねえ、じゃあ今日は経費で奢りだよ!皆、飲みにいこうじゃないか!!」
 FiVEの皆を誘う晶子。タダでごちそうになれるのなら、乗らない手は無い。

 この飲み代はAAAの経費で落ちたものの、経理担当が悲鳴を上げたのは後日の話である。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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