【日ノ丸事変】釜底の薪を抽いて熱を消せ
●京都を攻める軍隊
ヒノマル陸軍――
隔者組織七星剣傘下組織の一つで、永遠に戦争を続けるために戦い続ける者達である。
覚者組織を見つけては戦いを挑み、そして蹂躙する。それこそが生きがい。それこそが生きる価値。それこそが人生。平和な交渉など猿の戯言。蹂躙し、圧倒的な力を見せつけてこその統制。そんな彼らが七星剣に与するのは自明の理であった。
そして彼らは近畿にある組織『黎明』を攻める。そこには逢魔ヶ時紫雨の秘密である『血雨』の情報を奪ったものがいる。その情報が組織中に知れ渡っている可能性を考慮すれば、根絶やしにするのが正しい対処だ。
黎明は数百人程度の覚者組織だ。抵抗はあるだろうが、負けるということはまずないだろう。だが狙いはそこではない。
彼らを助ける為にやってくるであろう『近畿に存在する謎の組織』。それを戦場に引っ張り出し、共に殲滅するのが目的だ。
もし現れなければ? それはそれで構わない。
暴れること。破壊すること。それこそがヒノマル陸軍の目的なのだから。
●FiVE
「みなさ~ん。おはようございます~」
集まった覚者を前に、間延びした口調で久方 真由美(nCL2000003)が出迎える。人数分の粗茶とお茶請け。それが置かれたテーブルに全員が座ったことを確認し、真由美は説明を開始した。
「七星剣のヒノマル陸軍が行動を開始しました。彼らはこの地点で侵攻の準備をしています」
真由美が指さすのは京都にある工場。大量の人と武器を隠すにはうってつけの場所だ。
「ここは拠点の一つですが、ここにダメージを与えることで彼らの計画を遅らせることができます」
兵法三十六計の第十九計『釜底抽薪』である。釜の水を沸かせるのは薪の火力であり、燃料の薪を引き抜いてしまえば、沸騰は止まる。この場合の火力はヒノマル陸軍の力で、薪は拠点にある補給物資ということだ。
「戦いに出払っているため施設内に残っている隔者は少ないですが、皆無ではありません。
全ての隔者を倒そうとは思わないでください。あくまで混乱と損害を与えることが目的です」
真由美の言葉を聞きながら、覚者達は頷きあう。ヒノマル陸軍は決して弱くはない。引き際を誤れば、致命傷を受けかねない。
「あと、これは別件になりますが『黎明』の件です」
真由美は今回ヒノマル陸軍に襲われている覚者組織をどうするかを問いかけた。彼らは逢魔ヶ時紫雨の秘密である『血雨』の情報を手に入れた。このままだと遠からず七星剣に滅ぼされる。
「ですのFiVEに庇護を求めています。どうするかを皆さんで決めてほしいのですが」
時間的な問題もあり、できるだけ早く決めてほしいということだ。
ヒノマル陸軍のこと、黎明のこと、そして逢魔ヶ時紫雨のこと。問題は山積みだが、まずはヒノマル陸軍だ。
覚者達は覚悟を決めて、会議室を出た。
ヒノマル陸軍――
隔者組織七星剣傘下組織の一つで、永遠に戦争を続けるために戦い続ける者達である。
覚者組織を見つけては戦いを挑み、そして蹂躙する。それこそが生きがい。それこそが生きる価値。それこそが人生。平和な交渉など猿の戯言。蹂躙し、圧倒的な力を見せつけてこその統制。そんな彼らが七星剣に与するのは自明の理であった。
そして彼らは近畿にある組織『黎明』を攻める。そこには逢魔ヶ時紫雨の秘密である『血雨』の情報を奪ったものがいる。その情報が組織中に知れ渡っている可能性を考慮すれば、根絶やしにするのが正しい対処だ。
黎明は数百人程度の覚者組織だ。抵抗はあるだろうが、負けるということはまずないだろう。だが狙いはそこではない。
彼らを助ける為にやってくるであろう『近畿に存在する謎の組織』。それを戦場に引っ張り出し、共に殲滅するのが目的だ。
もし現れなければ? それはそれで構わない。
暴れること。破壊すること。それこそがヒノマル陸軍の目的なのだから。
●FiVE
「みなさ~ん。おはようございます~」
集まった覚者を前に、間延びした口調で久方 真由美(nCL2000003)が出迎える。人数分の粗茶とお茶請け。それが置かれたテーブルに全員が座ったことを確認し、真由美は説明を開始した。
「七星剣のヒノマル陸軍が行動を開始しました。彼らはこの地点で侵攻の準備をしています」
真由美が指さすのは京都にある工場。大量の人と武器を隠すにはうってつけの場所だ。
「ここは拠点の一つですが、ここにダメージを与えることで彼らの計画を遅らせることができます」
兵法三十六計の第十九計『釜底抽薪』である。釜の水を沸かせるのは薪の火力であり、燃料の薪を引き抜いてしまえば、沸騰は止まる。この場合の火力はヒノマル陸軍の力で、薪は拠点にある補給物資ということだ。
「戦いに出払っているため施設内に残っている隔者は少ないですが、皆無ではありません。
全ての隔者を倒そうとは思わないでください。あくまで混乱と損害を与えることが目的です」
真由美の言葉を聞きながら、覚者達は頷きあう。ヒノマル陸軍は決して弱くはない。引き際を誤れば、致命傷を受けかねない。
「あと、これは別件になりますが『黎明』の件です」
真由美は今回ヒノマル陸軍に襲われている覚者組織をどうするかを問いかけた。彼らは逢魔ヶ時紫雨の秘密である『血雨』の情報を手に入れた。このままだと遠からず七星剣に滅ぼされる。
「ですのFiVEに庇護を求めています。どうするかを皆さんで決めてほしいのですが」
時間的な問題もあり、できるだけ早く決めてほしいということだ。
ヒノマル陸軍のこと、黎明のこと、そして逢魔ヶ時紫雨のこと。問題は山積みだが、まずはヒノマル陸軍だ。
覚者達は覚悟を決めて、会議室を出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.二十ターン以内に『倉庫』を破壊する。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
全体です。相手の兵站を叩くのは戦いの基本。
●敵情報
・ヒノマル陸軍(数不明)
暴力坂・乱暴率いる隔者軍団です。
この倉庫には後詰として数十名の隔者がいます。最初戦う数は少ないですが、騒ぎを聞きつけ数が増えていきます。二〇ターン経てば退路を絶たれてしまうため、それまでに決着をつける必要があります。
構成は下記の三種類です。強さは難易度相応で。
土の付喪:「機化硬」「隆槍」「蔵王」
天の変化:「B.O.T.」「召雷」「纏霧」
火の獣憑:「猛の一撃」「炎撃」「火炎弾」
四ターン経過するごとに、ランダムで三人が援軍として敵前衛に追加されます。
・倉庫(×1)
兵站関係が収められている倉庫です。中には逃走用の車とか、大怪我した時の治療品とか、飲食類とか。メタな説明ですが『依頼が終わったらステータス全快になる』為に必要な物資が収められています。
便宜上HPが存在します。覚者の技能対策なのか、厚い壁(二メートル程)で守られています。
能動的に行動しません。また、味方ガードの対象になりません。防御力は物理特殊共に低く、HP高めです。
●場所情報
京都某所にある工場群。その一つ。明かりや足場などに問題はなし。
戦闘開始時、『ヒノマル陸軍』が三人(構成はランダム)が敵前衛に。後衛に『倉庫』がいます。また、戦闘開始から四ターン経過するごとに敵前衛に『ヒノマル陸軍』が三人(構成はランダム)追加されます。
事前付与はなし。こっそり倉庫に近づいてからの攻撃のため、余計な動作は発見の元になります。
敵前衛までの距離一〇メートル。倉庫までの距離二〇メートルの時点で戦闘開始です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
●投票
この依頼では新興組織『黎明』を仲間に招くか招かないかの投票を行います。
EXプレイングにて、『はい』か『いいえ』でお答え下さい。結果は告知されますが投票したPC名が出る事はございません。
何も書かれていない場合は無効と見なします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年10月29日
2015年10月29日
■メイン参加者 8人■

●
「いきなりハードだわ……とりあえず出来る事をキッチリと、かしらね」
熊守・小梅(CL2000512)はがっくりと肩を下ろして倉庫郡を進む。神社を経営(?)する小梅だが、お賽銭だけでは生活できなくなった。FiVEの保護金をもう少し貰おうと仕事を求めたらいきなり戦争である。
「そうじゃな。わしらのできること確実にやっていくのじゃよ」
小梅の言葉に頷く『自称サラリーマン』高橋・姫路(CL2000026)。やらなくてはいけないことはわかっている。その為に何をしなければいけないかも。一つ一つ積み重ね、そしてヒノマル陸軍から京都の町を守るのだ。
「あくまで『混乱と損害を与えることが目的』なのよね……」
頬に手を当てて『ハイパーメディアホームレス』人生谷・春(CL2000611)が眉を顰める。目的は倉庫の破壊。それによる兵站妨害だ。ここを潰してヒノマル陸軍の補給を止め、攻める力を減衰させる。それが目的だ。
「無関係な市民を殺したり、建物を壊したり。それだけでも酷いのに、日の丸背負ってるなんて許せないぜ」
怒りを隠そうともしないのは『紅蓮夜叉』天楼院・聖華(CL2000348)だ。日本に生まれた一人の人間として、ヒノマル陸軍の所業と掲げる旗には怒りを隠せなかった。グレネードランチャーを担ぎ、闇の中を走る。
「その怒りは倉庫にぶつけましょうね」
守護使役に足音を消させながら『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)が聖華を宥める。怒りを覚えているのは夏実も同じだ。だからこそ、今は静かに怒りをためておく時。戦いになればすべてぶつけてやろう。
「いやいや、人が珍しく情報収集なんか頑張ってたのに、こうもあっさり行動起こされると、その、頑張る意欲無くなっちゃうというか……ねぇ?」
ヒノマル陸軍を個人的に調べていた『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)は突然攻勢に出た軍に、誰かに尋ねるように口を開く。ひとたび動けば破壊をもたらす相手なのは確かだ。こっそり隣を走る少女を見た。どこか心配するように。
「兵站……ですか。物資がないと戦意はガタ落ちになると聞きます。少々勿体無いですが、致し方ありませんね」
その少女――『イノセントドール』柳 燐花(CL2000695)は淡々と告げて倉庫を目指す。京都を戦乱に巻き込むヒノマル陸軍。彼らが求めるのは闘争。では闘争に何を見出すのだろうか? 恭司の方を横目で見て、すぐに前を見る。目的の倉庫だ。
「ここで潰しておかなければ、後々面倒なことになるな」
倉庫を見ながら水蓮寺 静護(CL2000471)が神具を構える。潤沢な物資。これらもどこかから略奪してきたものなのだろう。戦い飲みを求め、戦争を続けるヒノマル陸軍。彼らに対する恨みが、さらに増幅していく。
「敵襲だ!」
倉庫の見張りをしていたヒノマル陸軍が叫ぶ。警報が鳴り、空気が一気に変わる。
ヒノマル陸軍とFiVE。京都の町をかけた攻防の一つが、今切って落とされた。
●
「さぁ来いヒノマル! 君の相手はこの僕だ!」
『裂海』を構え静護がヒノマル陸軍の隔者に向かって走る。海を割いたと言われる白い冷気を放つ刀。真偽はともかく、頼れる神具であることは確かだ。柄を握って鞘から抜き放ち、ヒノマル陸軍に向ける。
付喪の隔者を見つけ、刃を振るう。刀の軌跡から水が放たれ、弾丸となって隔者を穿った。そのまま挑発するように手を動かし、笑みを浮かべる静護。その挑発に乗ったのか、拳を向けて近づいてくる隔者。
「こいつらは俺が相手をする。倉庫は任せた!」
「了解したわ。アツい胸板を狙い撃ちよ」
オネエ言葉で春が言葉を返す。青い右目で倉庫を見て、その距離を測る。だいたいこれぐらいかしら、と目測をつけて『昭倭七十三年の六尺玉』を構えた。神具についている飴ちゃん入れから一つ飴を取り出し、口に入れる。甘味が口に広がった。
狙いを定め、腰を落とす。巨大な倉庫だ。弾が届けばどこかに当たるだろう。笑みを浮かべて引き金を引き、音を響かせ弾丸が飛ぶ。弾丸は倉庫に当たり、花火のような派手な花を咲かせた。叫びたくなるほどキレイな色とりどりの火花。
「んー。たまやー」
「俺も負けないぞ!」
対抗意識を燃やした聖華がグレネードランチャーを肩に担ぐ。日本最強の剣士を目指すのは今日はお休み。紅に染まった瞳で戦場を見て、そして時計を見る。この戦いは時間との勝負だ。可能な限り倉庫に攻撃を仕掛けなくては。
倉庫を見て、もろそうな部分をさがす。入口は固く閉ざされており、窓も見当たらない。結局壁を狙う方が早いという結論に至り、聖華は神具の引き金を引いた。派手な音とともに、倉庫の壁にひびが入る。
「どうだー!」
「その調子その調子。さて僕もやりますか」
タバコを携帯灰皿に入れて、恭司が言う。覚醒して若返った恭司の姿は、かつて修羅場を潜り抜けてきた頃の姿。研ぎ澄まされた当時の勘と、恭司が得た十年の経験。それが重なり、最適解を導き出す。
両手に構えたクナイに力を注ぎ込む。鋭く研ぎ澄まされたクナイ、乱戦の合間を抜いてはまっすぐに倉庫に向かって飛ぶ。小さな鉄のクナイだが、壁に当たった部分からヒビが広がっていく。一仕事した、と一息つく。
「そういえばこの前言ってたお店なんだけどさ、そろそろイベントで期間限定メニュー出したりするんだってさ。次の土日くらいで時間あったら行ってみない?」
「期間限定メニューですか。では、それを楽しみに目の前のお仕事頑張りましょう」
恭司の言葉にやる気を出したのか、燐花が身を屈める。京都を襲うヒノマル陸軍。それをこのまま放置すれば、平和な日常が消えてなくなるだろう。それを強く意識して、隔者の元にとびかかるように迫った。
精神の炎を燃やし、肉体を強化する燐花。そのまま両手に構えたクナイを十字に構えて、ヒノマル陸軍の一人に迫る。相手の左右から同時にクナイを繰り出す燐花。力不足を手数で補う。だが積み重ねた一撃は確実に隔者を追い込んでいた。
「貴方達と会うのは最初で最後になるでしょうが……。十天 柳。参ります」
「壁役をしっかり勤めさせてもらうのじゃ」
半月斧を肩に担ぎ、姫路が隔者の前に立ちふさがる。老いてこそいるが、巨躯な姫路が斧をもって立ちふさがればそれだけで脅威になる。腰を下ろして斧を構えれば、それに反応するようにヒノマル陸軍も姫路に構えなおす。
息を吸い、体内に酸素を送る。その酸素を燃焼させて、源素の炎を燃やして体内を活性化させていく。鋭い眼光で相手を睨み、斧を一気に振り下ろした。熱を帯びた炎が隔者に叩き込まれ、たまらず数歩後ろに下がるヒノマル陸軍。
「そこを退いてくれると助かるんじゃがな」
「でも退く気はないでしょうね、アナタ達は。何時も壊す方ばっかりやってるんだものね?」
ため息交じりで言葉を継ぐ夏実。彼女は破壊しか行わないヒノマル陸軍に嫌悪感しか抱いていなかった。京都で暴れる彼らと、それを命令した七星剣。その怒りをぶつけるように神具を握りしめる。
握りしめた『杖刀饒速日』を起点に、水の源素を集わせる。冷たく、そして生命の基礎たる水の源素。その力を傷ついた仲間に向ける。癒しの力を含んだ水が仲間に向かって飛び、水滴が触れた瞬間に仲間の傷を癒していく。
「でも、だからこそ……今日は『守る側』のキビシさを存分に味わって貰うんだから!」
「さぁ、貴方達も壊される側の気持ちを味わいなさい!」
杖を手に小梅がいきり立つ。世間に圧迫されて暴れたくなる人間の気持ちはよくわかる。小梅自身も授業中に飛び出したくなる。だけど破壊は良くない。そんな連中にお灸をすえるため、あと自分の生活のために小梅は気合を入れる。
手にした杖を倉庫の方に向ける。杖の先に宿る鋭い力。その力を杖の先端事倉庫の方に向けた。これが天罰、とばかりに気合を入れれば杖の先に集まった力は波動となって倉庫を響かせる。壊れこそしないが、確かにダメージは与えていた。
「壊すのはちょっともったいない気もするけど……やるからには徹底的にやってやるわ!」
小梅の気合の言葉は覚者全員の総意だ。壊すなら徹底的に。ヒノマル陸軍の補給線をここて潰す。
むろん、それを許す隔者ではない。退路を断つべく動きながら、援軍も迫ってきている。
工場群の戦いは、激化していく。
●
「あそこから援軍が!」
聖華が工場の屋根の上を指さす。そこを走る三人のヒノマル陸軍。彼らは躊躇なく屋根から飛び降りた。地面を転がるように受け身を取り、落下の衝撃を吸収して立ち上がる。
「夢見からどうやって援軍が来るのか聞いてなかったけど……ちょっと驚いたわ」
「空挺部隊の訓練でもしていたのかな。この陸軍」
驚く夏実。冷静に分析する恭司。まあ実際の所は落下制御の技能なのですが。
「来ることはわかってたんじゃ。厄介な相手から各個撃破と行こうか」
あごひげを擦りながら姫路が言う。どうあれ自分たちがやるべきことは変わらない。援軍が多く集まる前に数を減らし、倉庫破壊の邪魔を刺せないことだ。弱っている隔者に留めの一撃を加え、次の目標に向かう。
源素の炎を絶やすことなく燃やし続ける姫路。普段はサラリーマンを自称する正体不明男だが、戦いになれば鬼神の如く攻める戦士となる。担いだ斧を振り下ろす。斧の軌跡を追うように炎が走り、熱風が吹き荒れた。
「疾風グレネード乱れ撃ち! 芸術は爆発だぜ!」
聖華のグレネードランチャーが火を噴く。数が増えてきたヒノマル陸軍を一掃しようと、広範囲にばらまかれる弾丸。弧を描いで弾丸が飛び、爆発と爆風で巻き上がる土砂がヒノマル陸軍を吹き飛ばしていく。
日の丸は正義の象徴。それは悪党が背負っていい旗ではないのだ。故に聖華は彼らに手加減しない。日の丸を背負う悪党は――
「ひゃっはー! 燃えろ燃えろー!」
……まあ、派手な戦いで聖華が少しハイになっているのは御愛嬌。
「さすがに数が多いな」
時間ごとに増えてくる隔者を前に、静護は戦局を冷静に見る。こちらの目的は倉庫の破壊。その為には、倉庫に火力を集中させることが正しいのだ。だからこそ、静護は倉庫を攻めない。邪魔をするであろうヒノマル陸軍を一人でも伏し、仲間の攻撃を助けるのだ。
心の炎を燃やしながら、冷静に刀を振るう静護。それは流れる水のよう。時に滝のように激しく、時にせせらぎの様に穏やかに。状況に応じて最善の動きを取る静護の刀。それは静かに振るわれ、隔者の意識を奪い取る。
「癒したまえー祓い給えーっ、てね」
小梅が汚れを祓うように神具を振るう。それは儀式。心を落ち着かせ、水の源素を活性化させるための自己暗示。神が手伝うわけではないが、確実に小梅の体内に水の源素が満ちていく。
癒しの力を持った水が、小梅の神具に集う。その先端を払うように振るえば、癒しの滴が傷ついた覚者に向かい、飛んでいく。朝霧の様に細かな水滴が傷に触れれば、覚者の傷は悪霊が祓われたかのように、痛みが引いて癒えていく。
「ホクトシンクンの名の元に、死と苦よ疾く去りなさい! カイキ!」
杖刀を手にして夏実が癒しの術を使う。夏実は戦いの中でも刃を抜くことはない。それは彼女自身の『策謀や暴力が嫌い』というところに起因しているのか、それとも別の理由があるのか。それを聞く時間も問う時間も今は惜しい。
北斗真君。それは神格化された北斗七星。柄杓の形は水を掬い、大地を潤す農耕のシンボルだ。その名の元に水の源素で味方を潤し、死と苦を仲間から遠のける。医術で負傷の度合いを見極め、術で癒していく。
「さて。氣力が不足している人は言ってくれ。すぐに癒すから」
恭司は後衛に立って、術で疲れた者たちを癒していた。その為に攻撃の手を止めることになるが、結果として継戦能力を高めて覚者達の火力を維持することになる。もっとも、やりすぎれば恭司自身の気力もつきそうになるのだが。
戦いのさなか、恭司の視線は燐花の方を向いていた。敵の眼前に立ち、傷つく彼女。できることなら怪我をしてほしくないし、倒れる前に支えたい。だが、それをすれば倉庫を破壊できなくなるかもしれない。複雑な表情で、燐花を見ていた。
「……」
そんな恭司の視線を感じながら燐花はヒノマル陸軍と戦っていた。疲弊を感じてきた為、攻撃手段を手数重視ではなく炎を使った一撃に変更し、ヒノマル陸軍に切りかかる。斬撃と炎熱が隔者の体力を奪っていく。
自分が傷つくのはいい、と燐花は思っていた。それが自分の役割で、そうすることで誰かが救われるのなら倒れてもよかった。だけど、恭司の視線を感じるたびに調子が狂ってしまう。むずがゆいような、そんな感覚に。
「ナッツm……夏実ちゃんの回復の負担を減らすわ」
ヒノマル陸軍の攻撃で火傷を負ったり、霧で視界を奪われて動きが鈍っている仲間たちを見て、春が天の源素を活発化させる。大気にある癒しの粒子。それを自分の周囲に集め、風に乗せて解き放つ。涼風が熱を払うように、覚者の火傷が払われる。
春は攻撃に回復にと、状況を見て目まぐるしく立ちまわっていた。敵の数が増えれば後ろの仲間を守るために身を機械化して壁となり、数をある程度減らせば倉庫破壊に努める。ふざけているように見えて、要所要所の穴を的確に埋めていた。
援軍に到着したヒノマル陸軍は、十分な働きをする前に範囲攻撃を受けて地に伏すことになる。与えた打撃も小梅と夏実の回復ですぐに癒え、二人の気力も恭司の術によりすぐに癒える。
そしてヒノマル陸軍の数が一定数以下になれば、聖華と燐花と春が倉庫に攻撃を加えていく。壁のヒビはかなりの範囲まで広がっていた。
だがヒノマル陸軍も全くの無力ではない。
「いったいわね……こんなか弱い女の子に何するのよ!」
「暴力反対よー!」
覚者の後衛を狙った一撃に小梅と夏実が命数を燃やす。だが、覚者はそれ以上の被害を与えていた。
「この京都を暴力が支配する世紀末になんてさせないぜ!」
ランチャーを構えた聖華。京都には多数の人が住んでいる。それを戦渦に巻き込み暴力で支配するなど許せはしない。狙いを倉庫に定める。反動を肩と腰と膝と足首で受け止め、引き金を引いた。
「消え去れヒノマル陸軍! お前たちに日の丸は似合わない!」
轟音が響き、倉庫が激しく炎上する。ヒノマル陸軍の補給線。その一つが紅蓮に包まれ、激しく燃え上がった。
●
上がった火の手にヒノマル陸軍は浮足立つ。その隙を縫うように覚者達は撤退を――
「やだイイ車置いてるじゃないこの倉庫! ちょっと押し込み強盗していいかしら? ダメ?」
「あそこに探しているものがあるかもしれんのぅ」
「……少しもったいない気もします」
春、姫路、燐花が惜しむように倉庫を見ていた。あくまで一瞬だけだが。
「さよならー、できればもう永遠に会いたくないわ。しばらく大人しくしてなさい!」
小梅が撤退しながらヒノマル陸軍に手を振る。あんな隔者とは二度と会いたくない。でも改心してお賽銭入れに来るのならいいかも、と思うあたり小梅の家庭事情がうかがえる。
「アナタ達はダイッキライよ! とっとと帰れー!」
夏実は拳を突き上げててヒノマル陸軍に抗議していた。他の戦場の結果によっては、彼らの撤退もありうるだろう。少なくともこの倉庫破壊はその確率を高めた。
「大した怪我がなくてよかったよ。さて、帰ろうか」
「……はい」
恭司は燐花に手を差し出す。工場群での戦いは終わった。未だ戦いは決着はついていないが、それでもここでやるべきことは終わったのだ。今は帰るべき場所に帰り、そして週末にあのお店に行くのだ。
「ヒノマル陸軍……いつかこの手で」
「よーし、次行くぞー!」
静護と聖華は次の戦いに闘志を燃やしていた。京都を襲ったヒノマル陸軍。彼らを許すつもりはない。心の中で刃を磨き、その時が来るのを待っていた。
FiVEが用意した車に乗り込み、工場郡から離れる覚者達。
これでヒノマル陸軍の兵站は滞り、兵の歩みは遅れるだろう。
だがそれは勝利を約束するものではない。
ヒノマル陸軍との戦いは、最終局面に持ち越される――
「いきなりハードだわ……とりあえず出来る事をキッチリと、かしらね」
熊守・小梅(CL2000512)はがっくりと肩を下ろして倉庫郡を進む。神社を経営(?)する小梅だが、お賽銭だけでは生活できなくなった。FiVEの保護金をもう少し貰おうと仕事を求めたらいきなり戦争である。
「そうじゃな。わしらのできること確実にやっていくのじゃよ」
小梅の言葉に頷く『自称サラリーマン』高橋・姫路(CL2000026)。やらなくてはいけないことはわかっている。その為に何をしなければいけないかも。一つ一つ積み重ね、そしてヒノマル陸軍から京都の町を守るのだ。
「あくまで『混乱と損害を与えることが目的』なのよね……」
頬に手を当てて『ハイパーメディアホームレス』人生谷・春(CL2000611)が眉を顰める。目的は倉庫の破壊。それによる兵站妨害だ。ここを潰してヒノマル陸軍の補給を止め、攻める力を減衰させる。それが目的だ。
「無関係な市民を殺したり、建物を壊したり。それだけでも酷いのに、日の丸背負ってるなんて許せないぜ」
怒りを隠そうともしないのは『紅蓮夜叉』天楼院・聖華(CL2000348)だ。日本に生まれた一人の人間として、ヒノマル陸軍の所業と掲げる旗には怒りを隠せなかった。グレネードランチャーを担ぎ、闇の中を走る。
「その怒りは倉庫にぶつけましょうね」
守護使役に足音を消させながら『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)が聖華を宥める。怒りを覚えているのは夏実も同じだ。だからこそ、今は静かに怒りをためておく時。戦いになればすべてぶつけてやろう。
「いやいや、人が珍しく情報収集なんか頑張ってたのに、こうもあっさり行動起こされると、その、頑張る意欲無くなっちゃうというか……ねぇ?」
ヒノマル陸軍を個人的に調べていた『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)は突然攻勢に出た軍に、誰かに尋ねるように口を開く。ひとたび動けば破壊をもたらす相手なのは確かだ。こっそり隣を走る少女を見た。どこか心配するように。
「兵站……ですか。物資がないと戦意はガタ落ちになると聞きます。少々勿体無いですが、致し方ありませんね」
その少女――『イノセントドール』柳 燐花(CL2000695)は淡々と告げて倉庫を目指す。京都を戦乱に巻き込むヒノマル陸軍。彼らが求めるのは闘争。では闘争に何を見出すのだろうか? 恭司の方を横目で見て、すぐに前を見る。目的の倉庫だ。
「ここで潰しておかなければ、後々面倒なことになるな」
倉庫を見ながら水蓮寺 静護(CL2000471)が神具を構える。潤沢な物資。これらもどこかから略奪してきたものなのだろう。戦い飲みを求め、戦争を続けるヒノマル陸軍。彼らに対する恨みが、さらに増幅していく。
「敵襲だ!」
倉庫の見張りをしていたヒノマル陸軍が叫ぶ。警報が鳴り、空気が一気に変わる。
ヒノマル陸軍とFiVE。京都の町をかけた攻防の一つが、今切って落とされた。
●
「さぁ来いヒノマル! 君の相手はこの僕だ!」
『裂海』を構え静護がヒノマル陸軍の隔者に向かって走る。海を割いたと言われる白い冷気を放つ刀。真偽はともかく、頼れる神具であることは確かだ。柄を握って鞘から抜き放ち、ヒノマル陸軍に向ける。
付喪の隔者を見つけ、刃を振るう。刀の軌跡から水が放たれ、弾丸となって隔者を穿った。そのまま挑発するように手を動かし、笑みを浮かべる静護。その挑発に乗ったのか、拳を向けて近づいてくる隔者。
「こいつらは俺が相手をする。倉庫は任せた!」
「了解したわ。アツい胸板を狙い撃ちよ」
オネエ言葉で春が言葉を返す。青い右目で倉庫を見て、その距離を測る。だいたいこれぐらいかしら、と目測をつけて『昭倭七十三年の六尺玉』を構えた。神具についている飴ちゃん入れから一つ飴を取り出し、口に入れる。甘味が口に広がった。
狙いを定め、腰を落とす。巨大な倉庫だ。弾が届けばどこかに当たるだろう。笑みを浮かべて引き金を引き、音を響かせ弾丸が飛ぶ。弾丸は倉庫に当たり、花火のような派手な花を咲かせた。叫びたくなるほどキレイな色とりどりの火花。
「んー。たまやー」
「俺も負けないぞ!」
対抗意識を燃やした聖華がグレネードランチャーを肩に担ぐ。日本最強の剣士を目指すのは今日はお休み。紅に染まった瞳で戦場を見て、そして時計を見る。この戦いは時間との勝負だ。可能な限り倉庫に攻撃を仕掛けなくては。
倉庫を見て、もろそうな部分をさがす。入口は固く閉ざされており、窓も見当たらない。結局壁を狙う方が早いという結論に至り、聖華は神具の引き金を引いた。派手な音とともに、倉庫の壁にひびが入る。
「どうだー!」
「その調子その調子。さて僕もやりますか」
タバコを携帯灰皿に入れて、恭司が言う。覚醒して若返った恭司の姿は、かつて修羅場を潜り抜けてきた頃の姿。研ぎ澄まされた当時の勘と、恭司が得た十年の経験。それが重なり、最適解を導き出す。
両手に構えたクナイに力を注ぎ込む。鋭く研ぎ澄まされたクナイ、乱戦の合間を抜いてはまっすぐに倉庫に向かって飛ぶ。小さな鉄のクナイだが、壁に当たった部分からヒビが広がっていく。一仕事した、と一息つく。
「そういえばこの前言ってたお店なんだけどさ、そろそろイベントで期間限定メニュー出したりするんだってさ。次の土日くらいで時間あったら行ってみない?」
「期間限定メニューですか。では、それを楽しみに目の前のお仕事頑張りましょう」
恭司の言葉にやる気を出したのか、燐花が身を屈める。京都を襲うヒノマル陸軍。それをこのまま放置すれば、平和な日常が消えてなくなるだろう。それを強く意識して、隔者の元にとびかかるように迫った。
精神の炎を燃やし、肉体を強化する燐花。そのまま両手に構えたクナイを十字に構えて、ヒノマル陸軍の一人に迫る。相手の左右から同時にクナイを繰り出す燐花。力不足を手数で補う。だが積み重ねた一撃は確実に隔者を追い込んでいた。
「貴方達と会うのは最初で最後になるでしょうが……。十天 柳。参ります」
「壁役をしっかり勤めさせてもらうのじゃ」
半月斧を肩に担ぎ、姫路が隔者の前に立ちふさがる。老いてこそいるが、巨躯な姫路が斧をもって立ちふさがればそれだけで脅威になる。腰を下ろして斧を構えれば、それに反応するようにヒノマル陸軍も姫路に構えなおす。
息を吸い、体内に酸素を送る。その酸素を燃焼させて、源素の炎を燃やして体内を活性化させていく。鋭い眼光で相手を睨み、斧を一気に振り下ろした。熱を帯びた炎が隔者に叩き込まれ、たまらず数歩後ろに下がるヒノマル陸軍。
「そこを退いてくれると助かるんじゃがな」
「でも退く気はないでしょうね、アナタ達は。何時も壊す方ばっかりやってるんだものね?」
ため息交じりで言葉を継ぐ夏実。彼女は破壊しか行わないヒノマル陸軍に嫌悪感しか抱いていなかった。京都で暴れる彼らと、それを命令した七星剣。その怒りをぶつけるように神具を握りしめる。
握りしめた『杖刀饒速日』を起点に、水の源素を集わせる。冷たく、そして生命の基礎たる水の源素。その力を傷ついた仲間に向ける。癒しの力を含んだ水が仲間に向かって飛び、水滴が触れた瞬間に仲間の傷を癒していく。
「でも、だからこそ……今日は『守る側』のキビシさを存分に味わって貰うんだから!」
「さぁ、貴方達も壊される側の気持ちを味わいなさい!」
杖を手に小梅がいきり立つ。世間に圧迫されて暴れたくなる人間の気持ちはよくわかる。小梅自身も授業中に飛び出したくなる。だけど破壊は良くない。そんな連中にお灸をすえるため、あと自分の生活のために小梅は気合を入れる。
手にした杖を倉庫の方に向ける。杖の先に宿る鋭い力。その力を杖の先端事倉庫の方に向けた。これが天罰、とばかりに気合を入れれば杖の先に集まった力は波動となって倉庫を響かせる。壊れこそしないが、確かにダメージは与えていた。
「壊すのはちょっともったいない気もするけど……やるからには徹底的にやってやるわ!」
小梅の気合の言葉は覚者全員の総意だ。壊すなら徹底的に。ヒノマル陸軍の補給線をここて潰す。
むろん、それを許す隔者ではない。退路を断つべく動きながら、援軍も迫ってきている。
工場群の戦いは、激化していく。
●
「あそこから援軍が!」
聖華が工場の屋根の上を指さす。そこを走る三人のヒノマル陸軍。彼らは躊躇なく屋根から飛び降りた。地面を転がるように受け身を取り、落下の衝撃を吸収して立ち上がる。
「夢見からどうやって援軍が来るのか聞いてなかったけど……ちょっと驚いたわ」
「空挺部隊の訓練でもしていたのかな。この陸軍」
驚く夏実。冷静に分析する恭司。まあ実際の所は落下制御の技能なのですが。
「来ることはわかってたんじゃ。厄介な相手から各個撃破と行こうか」
あごひげを擦りながら姫路が言う。どうあれ自分たちがやるべきことは変わらない。援軍が多く集まる前に数を減らし、倉庫破壊の邪魔を刺せないことだ。弱っている隔者に留めの一撃を加え、次の目標に向かう。
源素の炎を絶やすことなく燃やし続ける姫路。普段はサラリーマンを自称する正体不明男だが、戦いになれば鬼神の如く攻める戦士となる。担いだ斧を振り下ろす。斧の軌跡を追うように炎が走り、熱風が吹き荒れた。
「疾風グレネード乱れ撃ち! 芸術は爆発だぜ!」
聖華のグレネードランチャーが火を噴く。数が増えてきたヒノマル陸軍を一掃しようと、広範囲にばらまかれる弾丸。弧を描いで弾丸が飛び、爆発と爆風で巻き上がる土砂がヒノマル陸軍を吹き飛ばしていく。
日の丸は正義の象徴。それは悪党が背負っていい旗ではないのだ。故に聖華は彼らに手加減しない。日の丸を背負う悪党は――
「ひゃっはー! 燃えろ燃えろー!」
……まあ、派手な戦いで聖華が少しハイになっているのは御愛嬌。
「さすがに数が多いな」
時間ごとに増えてくる隔者を前に、静護は戦局を冷静に見る。こちらの目的は倉庫の破壊。その為には、倉庫に火力を集中させることが正しいのだ。だからこそ、静護は倉庫を攻めない。邪魔をするであろうヒノマル陸軍を一人でも伏し、仲間の攻撃を助けるのだ。
心の炎を燃やしながら、冷静に刀を振るう静護。それは流れる水のよう。時に滝のように激しく、時にせせらぎの様に穏やかに。状況に応じて最善の動きを取る静護の刀。それは静かに振るわれ、隔者の意識を奪い取る。
「癒したまえー祓い給えーっ、てね」
小梅が汚れを祓うように神具を振るう。それは儀式。心を落ち着かせ、水の源素を活性化させるための自己暗示。神が手伝うわけではないが、確実に小梅の体内に水の源素が満ちていく。
癒しの力を持った水が、小梅の神具に集う。その先端を払うように振るえば、癒しの滴が傷ついた覚者に向かい、飛んでいく。朝霧の様に細かな水滴が傷に触れれば、覚者の傷は悪霊が祓われたかのように、痛みが引いて癒えていく。
「ホクトシンクンの名の元に、死と苦よ疾く去りなさい! カイキ!」
杖刀を手にして夏実が癒しの術を使う。夏実は戦いの中でも刃を抜くことはない。それは彼女自身の『策謀や暴力が嫌い』というところに起因しているのか、それとも別の理由があるのか。それを聞く時間も問う時間も今は惜しい。
北斗真君。それは神格化された北斗七星。柄杓の形は水を掬い、大地を潤す農耕のシンボルだ。その名の元に水の源素で味方を潤し、死と苦を仲間から遠のける。医術で負傷の度合いを見極め、術で癒していく。
「さて。氣力が不足している人は言ってくれ。すぐに癒すから」
恭司は後衛に立って、術で疲れた者たちを癒していた。その為に攻撃の手を止めることになるが、結果として継戦能力を高めて覚者達の火力を維持することになる。もっとも、やりすぎれば恭司自身の気力もつきそうになるのだが。
戦いのさなか、恭司の視線は燐花の方を向いていた。敵の眼前に立ち、傷つく彼女。できることなら怪我をしてほしくないし、倒れる前に支えたい。だが、それをすれば倉庫を破壊できなくなるかもしれない。複雑な表情で、燐花を見ていた。
「……」
そんな恭司の視線を感じながら燐花はヒノマル陸軍と戦っていた。疲弊を感じてきた為、攻撃手段を手数重視ではなく炎を使った一撃に変更し、ヒノマル陸軍に切りかかる。斬撃と炎熱が隔者の体力を奪っていく。
自分が傷つくのはいい、と燐花は思っていた。それが自分の役割で、そうすることで誰かが救われるのなら倒れてもよかった。だけど、恭司の視線を感じるたびに調子が狂ってしまう。むずがゆいような、そんな感覚に。
「ナッツm……夏実ちゃんの回復の負担を減らすわ」
ヒノマル陸軍の攻撃で火傷を負ったり、霧で視界を奪われて動きが鈍っている仲間たちを見て、春が天の源素を活発化させる。大気にある癒しの粒子。それを自分の周囲に集め、風に乗せて解き放つ。涼風が熱を払うように、覚者の火傷が払われる。
春は攻撃に回復にと、状況を見て目まぐるしく立ちまわっていた。敵の数が増えれば後ろの仲間を守るために身を機械化して壁となり、数をある程度減らせば倉庫破壊に努める。ふざけているように見えて、要所要所の穴を的確に埋めていた。
援軍に到着したヒノマル陸軍は、十分な働きをする前に範囲攻撃を受けて地に伏すことになる。与えた打撃も小梅と夏実の回復ですぐに癒え、二人の気力も恭司の術によりすぐに癒える。
そしてヒノマル陸軍の数が一定数以下になれば、聖華と燐花と春が倉庫に攻撃を加えていく。壁のヒビはかなりの範囲まで広がっていた。
だがヒノマル陸軍も全くの無力ではない。
「いったいわね……こんなか弱い女の子に何するのよ!」
「暴力反対よー!」
覚者の後衛を狙った一撃に小梅と夏実が命数を燃やす。だが、覚者はそれ以上の被害を与えていた。
「この京都を暴力が支配する世紀末になんてさせないぜ!」
ランチャーを構えた聖華。京都には多数の人が住んでいる。それを戦渦に巻き込み暴力で支配するなど許せはしない。狙いを倉庫に定める。反動を肩と腰と膝と足首で受け止め、引き金を引いた。
「消え去れヒノマル陸軍! お前たちに日の丸は似合わない!」
轟音が響き、倉庫が激しく炎上する。ヒノマル陸軍の補給線。その一つが紅蓮に包まれ、激しく燃え上がった。
●
上がった火の手にヒノマル陸軍は浮足立つ。その隙を縫うように覚者達は撤退を――
「やだイイ車置いてるじゃないこの倉庫! ちょっと押し込み強盗していいかしら? ダメ?」
「あそこに探しているものがあるかもしれんのぅ」
「……少しもったいない気もします」
春、姫路、燐花が惜しむように倉庫を見ていた。あくまで一瞬だけだが。
「さよならー、できればもう永遠に会いたくないわ。しばらく大人しくしてなさい!」
小梅が撤退しながらヒノマル陸軍に手を振る。あんな隔者とは二度と会いたくない。でも改心してお賽銭入れに来るのならいいかも、と思うあたり小梅の家庭事情がうかがえる。
「アナタ達はダイッキライよ! とっとと帰れー!」
夏実は拳を突き上げててヒノマル陸軍に抗議していた。他の戦場の結果によっては、彼らの撤退もありうるだろう。少なくともこの倉庫破壊はその確率を高めた。
「大した怪我がなくてよかったよ。さて、帰ろうか」
「……はい」
恭司は燐花に手を差し出す。工場群での戦いは終わった。未だ戦いは決着はついていないが、それでもここでやるべきことは終わったのだ。今は帰るべき場所に帰り、そして週末にあのお店に行くのだ。
「ヒノマル陸軍……いつかこの手で」
「よーし、次行くぞー!」
静護と聖華は次の戦いに闘志を燃やしていた。京都を襲ったヒノマル陸軍。彼らを許すつもりはない。心の中で刃を磨き、その時が来るのを待っていた。
FiVEが用意した車に乗り込み、工場郡から離れる覚者達。
これでヒノマル陸軍の兵站は滞り、兵の歩みは遅れるだろう。
だがそれは勝利を約束するものではない。
ヒノマル陸軍との戦いは、最終局面に持ち越される――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
どくどくです。
ターン数は15ターンでした。
ヒノマル陸軍が出る→すぐに集中砲火で倒される→また出る→すぐに倒される……
そんな感じでした。ランチャーの遠距離列攻撃うっぜー。
ともあれ倉庫破壊です。ゆっくりと療養してください。
この時点で京都がどうなっているかは、まだわかりません。
ですがいつもの場所で会えるよう、あえてこの言葉で〆させていただきます。
それではまた、五麟市で。、
ターン数は15ターンでした。
ヒノマル陸軍が出る→すぐに集中砲火で倒される→また出る→すぐに倒される……
そんな感じでした。ランチャーの遠距離列攻撃うっぜー。
ともあれ倉庫破壊です。ゆっくりと療養してください。
この時点で京都がどうなっているかは、まだわかりません。
ですがいつもの場所で会えるよう、あえてこの言葉で〆させていただきます。
それではまた、五麟市で。、
