昏き森よりの捕食者
●
暗い森。
人は文明を発達させることで、闇を駆逐してきた。古くは闇を受け入れることで、そこを人の領域としてきたのだ。
しかし、昭倭(しょうわ)の世においては、闇が人の領域でなくなって久しい。
今や、闇は妖(アヤカシ)の跋扈する魔の領域。人が立ち入ることを許されない、禁断の世界なのだ。
「ここ暗いし、そろそろ戻ろうよぉ」
「何言ってるんだよ、ここからが面白いんじゃん」
「そうそう、テレビでやってる妖とか如何にもいそうだしさー」
もっとも、そうした常識が子供達に通じないことは、古今東西変わりはしない。
ここは山中のキャンプ場。妖が出没するようになってから、レジャー産業は一時衰退を見せた。しかし、地道な関係者の努力の結果、次第に、次第に門戸は開かれていったのだ。
努力の結果の1つが、まさにこのキャンプ場である。調査の結果、妖が出現する可能性は低いとされ、ここ数年キャンプスクールも行われてきた。そして、今年もキャンプスクールは開催の運びとなった。だが、この度参加した子供達はいささか好奇心が強過ぎた。行くなと言われてしまうと行きたくなってしまうのが子供と言うものなのである。
テントを抜け出した5人の子供達は、冒険心の赴くまま、森の中を歩き回る。ものの数分もすれば引率の大人が気付き、その後には大目玉をもらうことなど彼らは考えてもいない。
そう、考えてもいなかったのだ。
今から向かおうとするその先に、自分達の命を奪う何者かがいることなど、想像もしなかったのだ。
「アレ? なに、これ?」
僅かな明かりに照らされたその先を見て、子供達は異常に気が付いた。
光に照らされ映し出されるのは、ぬらぬらと光る鱗に覆われた巨大な生物。普通の生物の枠を大きくはみ出した不気味な怪物の姿だった。
怪物の赤い瞳が宿しているのは餓え。深い理由など無く、食欲を満たす何かを探し山中をうろつき、無数のエサの匂いに惹きつけられてここまでやって来たのだった。
「あ……ああ……」
既に子供達の心を支配するのは、ただただ恐怖心だけだった。
本能的に悟ったのだ。自分達をただ喰らうためだけに、目の前の怪物はここにいるのだと。そして、自分達はそれに抗う力を有していないということを。
「キシャァァァァァァァァァァッ!!!」
妖は大きく裂けた口を開くと、その牙を哀れな獲物に向けて飛び掛かるのだった。
●
「皆さん。今日は集まってくれてありがとうございます。まずはお茶でもどうぞ?」
集まった覚者達にお茶を淹れる久方・真由美(nCL2000003)。
穏やかな笑顔を浮かべながら、楚々とした佇まいを見せる彼女は割とどこにでもいる――あえて言うなら美人に分類される――女性だ。しかし、この場に集まった覚者達は彼女が未来を見る因子の持ち主、いわゆる『夢見』であることを知っている。
だから、場にいた1人が彼女を促した。
「……はい。妖による事件が検知されました。皆さんの力を借りないといけません。妖の退治をお願いします」
促され、真由美の雰囲気が変わった。儚の因子を宿した、夢見としての表情だ。
「現れたのは生物系の妖、ランクは2です。他にも従って行動する妖が確認されています」
現れる妖には便宜上、『ウロコノケモノ』という名前が与えられており、その名の通り直立したトカゲのような外見をしているのだという。肉弾戦闘を得意とするタイプで耐久力もあるが、特筆すべきは口から放つ熱線だろう。広範囲に攻撃を行うため、纏めて攻撃される可能性がある。
また、部下と言うべきか、取り巻きにランク1の妖も引き連れている。同種族であることが一般的だが、力で下位の妖を従えることは決して珍しくない。
「それと……今回向かう場所には被害者がいます。キャンプスクールで来ていた子供達です」
覚者が向かう場所は某所のキャンプ場だ。安全性は調査されており、しばしば使用されてもいる場所だ。しかし、運悪く妖が出現してしまった。迂闊に戦えば、子供達への被害が出てしまうことは想像に難くない。
現れる妖は殺される位なら逃走を選ぶだろう。基本的には妖を撃退できれば問題無いとは言える。だが、覚者としては何を為すのか、そのために何が必要なのか。決めるのは覚者達自身である。
「子供達の前に姿を現す以上気を付けて欲しいのが、F.i.V.E.の存在が一般的に公開されていないことです」
F.i.V.E.はまだ組織としての規模が小さいため、存在は現状秘匿されている。もし、現時点で所在や理念が不用意に広がれば隔者や憤怒者等の絶好の的になりかねないからだ。もっとも、子供相手ということを考えれば存在の隠匿そのものは決して難しくないはずだ。
説明を終えると、真由美は覚者達に一礼をして、送り出す。
「怪我がなく……というのは難しいと思いますけど、気をつけてください」
暗い森。
人は文明を発達させることで、闇を駆逐してきた。古くは闇を受け入れることで、そこを人の領域としてきたのだ。
しかし、昭倭(しょうわ)の世においては、闇が人の領域でなくなって久しい。
今や、闇は妖(アヤカシ)の跋扈する魔の領域。人が立ち入ることを許されない、禁断の世界なのだ。
「ここ暗いし、そろそろ戻ろうよぉ」
「何言ってるんだよ、ここからが面白いんじゃん」
「そうそう、テレビでやってる妖とか如何にもいそうだしさー」
もっとも、そうした常識が子供達に通じないことは、古今東西変わりはしない。
ここは山中のキャンプ場。妖が出没するようになってから、レジャー産業は一時衰退を見せた。しかし、地道な関係者の努力の結果、次第に、次第に門戸は開かれていったのだ。
努力の結果の1つが、まさにこのキャンプ場である。調査の結果、妖が出現する可能性は低いとされ、ここ数年キャンプスクールも行われてきた。そして、今年もキャンプスクールは開催の運びとなった。だが、この度参加した子供達はいささか好奇心が強過ぎた。行くなと言われてしまうと行きたくなってしまうのが子供と言うものなのである。
テントを抜け出した5人の子供達は、冒険心の赴くまま、森の中を歩き回る。ものの数分もすれば引率の大人が気付き、その後には大目玉をもらうことなど彼らは考えてもいない。
そう、考えてもいなかったのだ。
今から向かおうとするその先に、自分達の命を奪う何者かがいることなど、想像もしなかったのだ。
「アレ? なに、これ?」
僅かな明かりに照らされたその先を見て、子供達は異常に気が付いた。
光に照らされ映し出されるのは、ぬらぬらと光る鱗に覆われた巨大な生物。普通の生物の枠を大きくはみ出した不気味な怪物の姿だった。
怪物の赤い瞳が宿しているのは餓え。深い理由など無く、食欲を満たす何かを探し山中をうろつき、無数のエサの匂いに惹きつけられてここまでやって来たのだった。
「あ……ああ……」
既に子供達の心を支配するのは、ただただ恐怖心だけだった。
本能的に悟ったのだ。自分達をただ喰らうためだけに、目の前の怪物はここにいるのだと。そして、自分達はそれに抗う力を有していないということを。
「キシャァァァァァァァァァァッ!!!」
妖は大きく裂けた口を開くと、その牙を哀れな獲物に向けて飛び掛かるのだった。
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「皆さん。今日は集まってくれてありがとうございます。まずはお茶でもどうぞ?」
集まった覚者達にお茶を淹れる久方・真由美(nCL2000003)。
穏やかな笑顔を浮かべながら、楚々とした佇まいを見せる彼女は割とどこにでもいる――あえて言うなら美人に分類される――女性だ。しかし、この場に集まった覚者達は彼女が未来を見る因子の持ち主、いわゆる『夢見』であることを知っている。
だから、場にいた1人が彼女を促した。
「……はい。妖による事件が検知されました。皆さんの力を借りないといけません。妖の退治をお願いします」
促され、真由美の雰囲気が変わった。儚の因子を宿した、夢見としての表情だ。
「現れたのは生物系の妖、ランクは2です。他にも従って行動する妖が確認されています」
現れる妖には便宜上、『ウロコノケモノ』という名前が与えられており、その名の通り直立したトカゲのような外見をしているのだという。肉弾戦闘を得意とするタイプで耐久力もあるが、特筆すべきは口から放つ熱線だろう。広範囲に攻撃を行うため、纏めて攻撃される可能性がある。
また、部下と言うべきか、取り巻きにランク1の妖も引き連れている。同種族であることが一般的だが、力で下位の妖を従えることは決して珍しくない。
「それと……今回向かう場所には被害者がいます。キャンプスクールで来ていた子供達です」
覚者が向かう場所は某所のキャンプ場だ。安全性は調査されており、しばしば使用されてもいる場所だ。しかし、運悪く妖が出現してしまった。迂闊に戦えば、子供達への被害が出てしまうことは想像に難くない。
現れる妖は殺される位なら逃走を選ぶだろう。基本的には妖を撃退できれば問題無いとは言える。だが、覚者としては何を為すのか、そのために何が必要なのか。決めるのは覚者達自身である。
「子供達の前に姿を現す以上気を付けて欲しいのが、F.i.V.E.の存在が一般的に公開されていないことです」
F.i.V.E.はまだ組織としての規模が小さいため、存在は現状秘匿されている。もし、現時点で所在や理念が不用意に広がれば隔者や憤怒者等の絶好の的になりかねないからだ。もっとも、子供相手ということを考えれば存在の隠匿そのものは決して難しくないはずだ。
説明を終えると、真由美は覚者達に一礼をして、送り出す。
「怪我がなく……というのは難しいと思いますけど、気をつけてください」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖達の撃退
2.撤退させたのなら、倒した敵の数は成功度に影響しません。
3.なし
2.撤退させたのなら、倒した敵の数は成功度に影響しません。
3.なし
始まりはいつも突然、KSK(けー・えす・けー)です。
この度はβシナリオのOPをご覧いただきまして、誠にありがとうございます。
本日は、人々を傷付ける妖と戦っていただきたいと思います。
●戦場
某所のキャンプ場です。
戦場は暗いです。対策が無い状態だと、ペナルティが発生します。
戦場には5人の子供達がいて、怯えて動けないでいます。
迂闊に戦うと、子供達を戦いに巻き込む可能性があります。その場合、高確率で犠牲者が出るでしょう。なお、一般人の安否は成功度に影響しません。
●アヤカシ
・『ウロコノケモノ』
生物系の妖でランクは2。両生類が元になっているらしく、直立した2本足のトカゲのような印象を与えます。反応速度が早め。
倒さなかった場合でも、同一個体が今後のシナリオに登場することはありません。
能力は下記。
1.熱線 特遠列 火傷
2.爪の一撃 物近単
・野良妖
生物系の妖でランクは1。野犬が元になっているようです。2体います。反応速度が早め。
能力は下記。
1.牙 物近単
●補足
やることはとても簡単な『妖退治』。
ただし、何処までを目指すのか。何を以って成功とするのか。
決めるのは皆様方です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
0LP[+予約0LP]
0LP[+予約0LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年08月16日
2015年08月16日
■メイン参加者 8人■

●
25年前に突如として現れた災厄――『妖』。
その正体の多くは謎に包まれているが、分かっていることもある。それは、妖は全ての人間を根絶せんとしているということ。今日も人々は妖に怯えながら暮らしている。
「キシャァァァァァァァァァァッ!!!」
数ある妖の中の1匹であるウロコノケモノもまた、今宵人々を喰らわんとしていた。暗い森の中は今や彼らの狩場。まずはたまたま集団を離れた無力な子ら、そして群れる人間達を。そして、最初の犠牲者が現れようとした、まさにその瞬間だった。
「勝手な行動を取るから、こういう事態になるんだよ」
妖と子供達の間に割って入ったのは、1人の少女だった。年の頃は襲われた子供達と比べれば上か。割と美少女の部類に入るだろう。だが、常人の3倍の脚力で割り込んできた彼女がただの人間であろうはずもない。その頭には猫を思わせる耳がピンと立ち、お尻からは尻尾が生えている。
彼女こそは『RISE AGAIN』美錠・紅(CL2000176)。
F.i.V.E.に属する覚者の1人だ。
「ま、後のお叱りは他の人にお任せしようかな」
「あれは危険な野生動物です。我々が追い払いますから、君たちは逃げなさい」
怯える子供達に対して諭すような声で語りかけるのは『教授』新田・成(CL2000538)だ。その落ちついた言葉には、不思議と人を落ち着かせる何かがあった。
「大丈夫です。自分達が君達を守ります。そのために来ました」
周囲の様子を伺いながら子供達に声を掛けると、『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は素早く周囲の状況を確認する。彼が覚者として親しむ五行術式は土行、大地の心を知り、人々を護る力だ。故に、力無き者が身を画すべき場所を感じ取るなど造作も無い。
「新田教授」
「えぇ。さ、逃げなさい。後で必ず、迎えに行きますから」
「うん!」
成が促すと子供達は頷き、走り出す。向かう先は千陽が伝えた安全地帯だ。最悪、自分達が敗れ去ったとしてもそうそう子供達が襲われることはあるまい。
その逃走経路を護るように立ち塞がる成は守護使役に命じて、戦場を光で照らし上げる。
闇が払われる中で、千陽は手の中にあるナイフと銃を確かめる。
(妖退治自体は何度も繰り返している。何時もどおりにすればいい。俺は国家を守る国防装置だ)
F.i.V.E.として初の任務であるが、妖との戦闘経験は幾度かある。だから、やることは同じ。国防装置として戦うだけの話だ。
「キシャァァァァァァァァァァッ!!!」
そして、覚者達が子供達を逃がそうとする間に、妖の側も状況を理解したのだろう。現れた8人の覚者達に素早く攻撃を始めてきた。
だが、その鋭い爪の一撃を浴びながら、葦原・赤貴(CL2001019)は表情1つ変えない。それどころか、自分の身の丈ほどもある大剣を至近距離から奔らせ、距離を取って見せた。
「自業自得な部分はあるが、同世代の死は看過しづらいものだな」
そう呟くと、赤貴は自身に眠る英霊の力を高める。彼自身、それが何かは分かっていない。それでもそれが大剣の使い方を教えてくれることは知っている。
「幸い、彼らは大人の方がみてくれる。オレは分担をしっかり果たせば、何も問題ない」
自身の人生経験が不足しているのは百も承知。だから、無用な心配を周囲にさせぬよう役責を果たしてみせる。わざと威圧的に派手な動きを見せているのもそれが理由だ。
そして、赤貴に後れを取るまじと、他の覚者達も妖への攻撃を開始する。
覚者達はいずれも、それぞれの体内に宿る因子を戦闘に向けて活性化――いわゆる『覚醒』を行った状態だ。たとえ相手が人の力を越えた化け物であってもそうそう劣るものではない。
それぞれに因子の影響で変化を見せる中で、少々毛色の変わった変化を見せているのが木戸・志織(CL2000808)だ。
「F.i.V.E.での初仕事、滞りなく努めましょう」
銀色に輝く双眸で妖共を睨みながら、仲間達へと語りかける志織。
志織の言葉は仲間達に安心感を与えるが、同時に違和感を与えるのかも知れない。普段はのんびりとした口調で話すゆるい雰囲気の青年が、突然鋭い雰囲気を放ったのだから。
だが、これもまた彼のもう1つの側面。心無き者が齎す暴力があれば、全力で立ち向かうのが木戸志織という青年なのだ。いざ戦いともなれば切り替わる。
「ガォォォン!!」
「妖との戦闘は久しぶりです。鈍った体でどこまで出来るか……」
聳孤を手に『便利屋』橘・誠二郎(CL2000665)はひとりごちる。
誠二郎は元AAA所属。ブランクがあることを思えば、不安も少なくない。だが、それでも捨てられないものはある。
「いや、弱気にはなれませんね。人を襲う妖は放って置けません、力を尽くしましょう」
杖を振ると、妖を鋭い棘が切り裂いていく。
「うおお、俺のことを見ろー! お前らの相手は俺だー!」
血を流して隙を見せる妖に対して叫びと共に、炎を纏って切りかかるのは凍傷宮・ニコ(CL2000425)だ。もっとも、その動きは本気の攻撃というには落ち着いた足運びをしている。むしろ、自分に注意を引き付けるため、そしてここから先に進ませないように戦っているのだ。
優先すべきは子供達の安全。
覚者達が選んだものはそれだった。
単に敵を倒すだけよりも、守りながら戦うことが困難であることは明らかだ。しかし、それが覚者としての選択だった。
そして、困難な道のりを現実のものとするために『裏見草』人野・葛(CL2000694)は力を振るう。
「このご時世安全なキャンプ場など稀有な存在だったのだろうが、こうなるとどうしようもないな。子供たちが自然と親しめる場所が減るのは残念だが、一度アヤカシが出現した以上もう1回基本的な安全対策から練り直しだな」
術符を手にし、葛は植物の生命力を凝縮した雫を生みだし、仲間達の傷を癒やす。取り巻きと言えども、妖の一撃は決して浅くはない。彼女の支援無しに攻撃を浴び続ければ、さしもの覚者だが、ただではすまなかっただろう。
その時、ニコの動きが変わった。
戦場を、そして妖の攻撃をつぶさに観察していればこそ、気付いたのだ。ウロコノケモノが大きく息を吸い込んだことに。
ニコの脳裏に過ったのは、来る前に夢見より聞かされていた話。
だから、彼は叫んだ。
「来るっすよ、気を付けて!」
その時、戦場を炎が包み込んだ。
●
妖の放つ炎が覚者達の身を焦がしていく。だが、覚者達の動きは止まらない。この程度で倒れる訳にはいかないのだ。子供達の避難をサポートしていた成も含めて、覚者達は反撃に向かう。
「抗う術を持たなければ、理性を持ち得ない超常の存在はただただ脅威の何者でもない」
志織は掌打と蹴りによる攻撃の回転数を上げていく。まだ何かを隠したような気配もあるが、本格的に英霊の力を引き出した攻撃は一層の鋭さを見せていた。
「捨て置けば潰える幼子達の運命……その悲劇は止めなければなりません」
誠二郎もまた、先ほどの攻撃で受けた火傷に臆することなく、五行の力を振るう。
人を襲う危険な妖をここで放置する訳にはいかない。その覚悟が彼の傷付いた肉体を戦いへと駆り立てる。
「通じないでしょうが敢えて言いましょう。消えろ妖、貴様は不要だ」
血飛沫を上げて悶え苦しむ妖。
その時、戦場そのものを劈くような衝撃が駆け抜けた。気付けば傷付いた妖が倒れている。
成の抜剣が生み出した衝撃波だ。
「初任務ですか。任務そのもの比較的シンプルなものですが、確認すべき項目は多いですな」
任務での連携。
主目的と副目的の並行達成。
より高い成果を獲得する作戦行動。
F.i.V.E.の稼働よりまだ日は浅く、組織の戦力はお世辞にも高いとは言えず、課題も多い。
だからこそ、成は諸条件を加味した上であえて、全てを為すために戦う。この程度が出来ずして、何が覚者だと言わんばかりに。
「やるべきことはやや多いですな。各自、油断めされぬように」
「油断は禁物。あたし達が痛いのはともかく、一般人に被害出ちゃたまらないからね」
自身の守護使役に照らされるようにしながら仲間達に注意を促す成。
笑って答えると、紅は手に握る剣を妖に向かって振り下ろす。妖は回避しようと身を翻すが、その面を光が照らした。怯んだ所に刃が叩き込まれると、妖は動かなくなる。
取り巻きを失ったウロコノケモノは恐れをなしたのか身を屈めて逃走の姿勢を取った。しかし、それを覚者は許さない。葛は植物のツタを鞭のようにしならせると、強かに妖の身体を打ち据える。
「逃がさないっすよ。ここで全滅させておけば、後の被害が減らせるかもしれないっすからな」
ニコの攻撃も止まることなく妖を襲う。凍傷宮の名にそぐわない炎は、着実に妖の逃げ道を削いでいく。
ここで妖の撃退に留めるという選択肢は、覚者達の頭の中に無い。
妖が許せない、人々を護るため、高い成果を目指す。理由はそれぞれだ。だが、妖を生かして返すつもりが無いという点で覚者達の意志は一致していた。そのために、それぞれがそれぞれの手法で妖の注意を惹くべく工夫していた。
ニコもその1人。
だからこそ、必要以上に注意を引くような戦い方をしていたのだから。子供達を護り、全ての妖を倒す、そのために。
「紅さん、そこ、足元危ないっすよ!」
「うん! 逃がしはしない。ここで被害を出させたりしない。当然この先もだよ! あんたたちはここで倒す!」
「キシャァァァァァァァァァァッ!?」
紅は裂帛の気合と共に、地を這うような姿勢から跳ね上がるようにして妖へと連撃を叩き込む。
悲鳴を上げる妖は反撃とばかりに、当たるを幸いと炎を放つ。しかし、いまや覚者達は痛みすら意に介さない。志織が逃さないとばかりに、呼び出した雷雲から雷を降らせる。温厚な青年が見せる戦士の顔は、妖にとっての天敵そのものだった。
そして、妖を不倶戴天の敵として戦うのは志織だけではない。
国防装置として生きる千陽は、国家に仇なす者に対しては何処までも非常になれる。
「低級の妖風情が餌を選り好みするとは贅沢な」
千陽が血に濡れた手を強く握りしめると、地面から土が槍のように隆起して妖の身体を貫く。千陽の開放した土行の力だ。流れる血は妖の注意を惹き付けるため、自分自身で傷つけたもの。国を守る覚悟を込めた一撃の前で、妖の鱗など紙きれにも等しい。
「人間の領域を侵したなら相応のリスクがあると解ってほしいものだ」
悲鳴を上げて悶え苦しむ妖に向かって、眉ひとつ顰めず言い放つ千陽。言葉を理解できる、等とは思っていない。これはこの国を冒そうという全ての妖に対する宣戦布告だ。
「大分弱って来たみたいだな。そろそろ、ケリつけてやんな」
鞭のように操りながら、葛は傷ついた赤貴に樹の雫を与える。
全体として押してはいるものの、敵の戦力は決して低いものでは無かった。それを理解しているからこそ、葛は冷静に状況を検分し仲間の傷を回復する。それに、元々はこの技術を用いて生計を立てていたのだ。技術としてはむしろ得意分野だったりする。
「樹の雫は普段虫の餌に使っているのだが、効きめはどうだ?」
「あぁ、悪くない」
ぶっきらぼうに返事をすると、赤貴は大きく大剣を振りかぶる。決して力に振り回されている風ではない。重力の流れに逆らわず、言うなれば「剣と踊る」ような戦い方だ。
「逃がすものか。オマエらは、ヒトを喰うのだろう? ならば、オマエらも、ヒトに潰される覚悟を持て……持てるものなら、な」
赤貴は高く跳躍し、妖の頭上を取る。疾風の如き速度に妖の反応出来ない。
赤貴の背後に月が煌めいた。
闇は妖の領域と言ったのは誰だったか。それを赤貴は拒絶する。
「知っておけ。奪ったものは、奪い返されるものだ」
大剣が振り下ろされると、妖は血を撒き散らしながら真っ二つに切り裂かれた。
●
タン
タン
タン
静寂を取り戻した夜の森に乾いた音が響く。
動きを止めた妖達に千陽は幾度か弾丸を撃ち込み、確実な死亡を確認した。あれだけやって止めをし損ねたでは笑い話にもならない。
「全員無事かい?」
「状況完了……子供達が無事で~良かったです~」
紅が仲間と子供達の状況を確認する。幸いなことに、深い怪我を負った者もいるが、大事には至っていない。妖を全て倒すという結果を見れば、十分な成果と言えるだろう。
子供達は無傷だ。単純なもので、葛が夜の昆虫を見つけてやると先ほどまでの恐怖も忘れてか、笑顔を取り戻している。彼らにとっては「野犬に襲われた」に過ぎないというのもあるだろうが。
そんな子供達の様子を見て、志織の口調はようやく普段のものに戻っていた。子供受けを狙って使った口調がすっかり定着してしまっているのだ。これもまた、彼の側面である。
「子供の考えというものはよく分からないな」
一方、遠くで周辺警戒に当たっていた赤貴は軽く肩を竦めている。『普通の子供』という存在に、色々と思う所もあるのかも知れない。
「もう大丈夫。さて、それでは早い所戻りましょうか」
成が促し、子供達をキャンプ地まで連れていく。彼らに待っているのは間違いなく大目玉である。
こうして、1つの事件は終わりを告げた。幼い命は守られ、人を脅かす妖は打ち払われた。
そしてこれから、新たなる戦いが幕を開けるのであった。
25年前に突如として現れた災厄――『妖』。
その正体の多くは謎に包まれているが、分かっていることもある。それは、妖は全ての人間を根絶せんとしているということ。今日も人々は妖に怯えながら暮らしている。
「キシャァァァァァァァァァァッ!!!」
数ある妖の中の1匹であるウロコノケモノもまた、今宵人々を喰らわんとしていた。暗い森の中は今や彼らの狩場。まずはたまたま集団を離れた無力な子ら、そして群れる人間達を。そして、最初の犠牲者が現れようとした、まさにその瞬間だった。
「勝手な行動を取るから、こういう事態になるんだよ」
妖と子供達の間に割って入ったのは、1人の少女だった。年の頃は襲われた子供達と比べれば上か。割と美少女の部類に入るだろう。だが、常人の3倍の脚力で割り込んできた彼女がただの人間であろうはずもない。その頭には猫を思わせる耳がピンと立ち、お尻からは尻尾が生えている。
彼女こそは『RISE AGAIN』美錠・紅(CL2000176)。
F.i.V.E.に属する覚者の1人だ。
「ま、後のお叱りは他の人にお任せしようかな」
「あれは危険な野生動物です。我々が追い払いますから、君たちは逃げなさい」
怯える子供達に対して諭すような声で語りかけるのは『教授』新田・成(CL2000538)だ。その落ちついた言葉には、不思議と人を落ち着かせる何かがあった。
「大丈夫です。自分達が君達を守ります。そのために来ました」
周囲の様子を伺いながら子供達に声を掛けると、『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は素早く周囲の状況を確認する。彼が覚者として親しむ五行術式は土行、大地の心を知り、人々を護る力だ。故に、力無き者が身を画すべき場所を感じ取るなど造作も無い。
「新田教授」
「えぇ。さ、逃げなさい。後で必ず、迎えに行きますから」
「うん!」
成が促すと子供達は頷き、走り出す。向かう先は千陽が伝えた安全地帯だ。最悪、自分達が敗れ去ったとしてもそうそう子供達が襲われることはあるまい。
その逃走経路を護るように立ち塞がる成は守護使役に命じて、戦場を光で照らし上げる。
闇が払われる中で、千陽は手の中にあるナイフと銃を確かめる。
(妖退治自体は何度も繰り返している。何時もどおりにすればいい。俺は国家を守る国防装置だ)
F.i.V.E.として初の任務であるが、妖との戦闘経験は幾度かある。だから、やることは同じ。国防装置として戦うだけの話だ。
「キシャァァァァァァァァァァッ!!!」
そして、覚者達が子供達を逃がそうとする間に、妖の側も状況を理解したのだろう。現れた8人の覚者達に素早く攻撃を始めてきた。
だが、その鋭い爪の一撃を浴びながら、葦原・赤貴(CL2001019)は表情1つ変えない。それどころか、自分の身の丈ほどもある大剣を至近距離から奔らせ、距離を取って見せた。
「自業自得な部分はあるが、同世代の死は看過しづらいものだな」
そう呟くと、赤貴は自身に眠る英霊の力を高める。彼自身、それが何かは分かっていない。それでもそれが大剣の使い方を教えてくれることは知っている。
「幸い、彼らは大人の方がみてくれる。オレは分担をしっかり果たせば、何も問題ない」
自身の人生経験が不足しているのは百も承知。だから、無用な心配を周囲にさせぬよう役責を果たしてみせる。わざと威圧的に派手な動きを見せているのもそれが理由だ。
そして、赤貴に後れを取るまじと、他の覚者達も妖への攻撃を開始する。
覚者達はいずれも、それぞれの体内に宿る因子を戦闘に向けて活性化――いわゆる『覚醒』を行った状態だ。たとえ相手が人の力を越えた化け物であってもそうそう劣るものではない。
それぞれに因子の影響で変化を見せる中で、少々毛色の変わった変化を見せているのが木戸・志織(CL2000808)だ。
「F.i.V.E.での初仕事、滞りなく努めましょう」
銀色に輝く双眸で妖共を睨みながら、仲間達へと語りかける志織。
志織の言葉は仲間達に安心感を与えるが、同時に違和感を与えるのかも知れない。普段はのんびりとした口調で話すゆるい雰囲気の青年が、突然鋭い雰囲気を放ったのだから。
だが、これもまた彼のもう1つの側面。心無き者が齎す暴力があれば、全力で立ち向かうのが木戸志織という青年なのだ。いざ戦いともなれば切り替わる。
「ガォォォン!!」
「妖との戦闘は久しぶりです。鈍った体でどこまで出来るか……」
聳孤を手に『便利屋』橘・誠二郎(CL2000665)はひとりごちる。
誠二郎は元AAA所属。ブランクがあることを思えば、不安も少なくない。だが、それでも捨てられないものはある。
「いや、弱気にはなれませんね。人を襲う妖は放って置けません、力を尽くしましょう」
杖を振ると、妖を鋭い棘が切り裂いていく。
「うおお、俺のことを見ろー! お前らの相手は俺だー!」
血を流して隙を見せる妖に対して叫びと共に、炎を纏って切りかかるのは凍傷宮・ニコ(CL2000425)だ。もっとも、その動きは本気の攻撃というには落ち着いた足運びをしている。むしろ、自分に注意を引き付けるため、そしてここから先に進ませないように戦っているのだ。
優先すべきは子供達の安全。
覚者達が選んだものはそれだった。
単に敵を倒すだけよりも、守りながら戦うことが困難であることは明らかだ。しかし、それが覚者としての選択だった。
そして、困難な道のりを現実のものとするために『裏見草』人野・葛(CL2000694)は力を振るう。
「このご時世安全なキャンプ場など稀有な存在だったのだろうが、こうなるとどうしようもないな。子供たちが自然と親しめる場所が減るのは残念だが、一度アヤカシが出現した以上もう1回基本的な安全対策から練り直しだな」
術符を手にし、葛は植物の生命力を凝縮した雫を生みだし、仲間達の傷を癒やす。取り巻きと言えども、妖の一撃は決して浅くはない。彼女の支援無しに攻撃を浴び続ければ、さしもの覚者だが、ただではすまなかっただろう。
その時、ニコの動きが変わった。
戦場を、そして妖の攻撃をつぶさに観察していればこそ、気付いたのだ。ウロコノケモノが大きく息を吸い込んだことに。
ニコの脳裏に過ったのは、来る前に夢見より聞かされていた話。
だから、彼は叫んだ。
「来るっすよ、気を付けて!」
その時、戦場を炎が包み込んだ。
●
妖の放つ炎が覚者達の身を焦がしていく。だが、覚者達の動きは止まらない。この程度で倒れる訳にはいかないのだ。子供達の避難をサポートしていた成も含めて、覚者達は反撃に向かう。
「抗う術を持たなければ、理性を持ち得ない超常の存在はただただ脅威の何者でもない」
志織は掌打と蹴りによる攻撃の回転数を上げていく。まだ何かを隠したような気配もあるが、本格的に英霊の力を引き出した攻撃は一層の鋭さを見せていた。
「捨て置けば潰える幼子達の運命……その悲劇は止めなければなりません」
誠二郎もまた、先ほどの攻撃で受けた火傷に臆することなく、五行の力を振るう。
人を襲う危険な妖をここで放置する訳にはいかない。その覚悟が彼の傷付いた肉体を戦いへと駆り立てる。
「通じないでしょうが敢えて言いましょう。消えろ妖、貴様は不要だ」
血飛沫を上げて悶え苦しむ妖。
その時、戦場そのものを劈くような衝撃が駆け抜けた。気付けば傷付いた妖が倒れている。
成の抜剣が生み出した衝撃波だ。
「初任務ですか。任務そのもの比較的シンプルなものですが、確認すべき項目は多いですな」
任務での連携。
主目的と副目的の並行達成。
より高い成果を獲得する作戦行動。
F.i.V.E.の稼働よりまだ日は浅く、組織の戦力はお世辞にも高いとは言えず、課題も多い。
だからこそ、成は諸条件を加味した上であえて、全てを為すために戦う。この程度が出来ずして、何が覚者だと言わんばかりに。
「やるべきことはやや多いですな。各自、油断めされぬように」
「油断は禁物。あたし達が痛いのはともかく、一般人に被害出ちゃたまらないからね」
自身の守護使役に照らされるようにしながら仲間達に注意を促す成。
笑って答えると、紅は手に握る剣を妖に向かって振り下ろす。妖は回避しようと身を翻すが、その面を光が照らした。怯んだ所に刃が叩き込まれると、妖は動かなくなる。
取り巻きを失ったウロコノケモノは恐れをなしたのか身を屈めて逃走の姿勢を取った。しかし、それを覚者は許さない。葛は植物のツタを鞭のようにしならせると、強かに妖の身体を打ち据える。
「逃がさないっすよ。ここで全滅させておけば、後の被害が減らせるかもしれないっすからな」
ニコの攻撃も止まることなく妖を襲う。凍傷宮の名にそぐわない炎は、着実に妖の逃げ道を削いでいく。
ここで妖の撃退に留めるという選択肢は、覚者達の頭の中に無い。
妖が許せない、人々を護るため、高い成果を目指す。理由はそれぞれだ。だが、妖を生かして返すつもりが無いという点で覚者達の意志は一致していた。そのために、それぞれがそれぞれの手法で妖の注意を惹くべく工夫していた。
ニコもその1人。
だからこそ、必要以上に注意を引くような戦い方をしていたのだから。子供達を護り、全ての妖を倒す、そのために。
「紅さん、そこ、足元危ないっすよ!」
「うん! 逃がしはしない。ここで被害を出させたりしない。当然この先もだよ! あんたたちはここで倒す!」
「キシャァァァァァァァァァァッ!?」
紅は裂帛の気合と共に、地を這うような姿勢から跳ね上がるようにして妖へと連撃を叩き込む。
悲鳴を上げる妖は反撃とばかりに、当たるを幸いと炎を放つ。しかし、いまや覚者達は痛みすら意に介さない。志織が逃さないとばかりに、呼び出した雷雲から雷を降らせる。温厚な青年が見せる戦士の顔は、妖にとっての天敵そのものだった。
そして、妖を不倶戴天の敵として戦うのは志織だけではない。
国防装置として生きる千陽は、国家に仇なす者に対しては何処までも非常になれる。
「低級の妖風情が餌を選り好みするとは贅沢な」
千陽が血に濡れた手を強く握りしめると、地面から土が槍のように隆起して妖の身体を貫く。千陽の開放した土行の力だ。流れる血は妖の注意を惹き付けるため、自分自身で傷つけたもの。国を守る覚悟を込めた一撃の前で、妖の鱗など紙きれにも等しい。
「人間の領域を侵したなら相応のリスクがあると解ってほしいものだ」
悲鳴を上げて悶え苦しむ妖に向かって、眉ひとつ顰めず言い放つ千陽。言葉を理解できる、等とは思っていない。これはこの国を冒そうという全ての妖に対する宣戦布告だ。
「大分弱って来たみたいだな。そろそろ、ケリつけてやんな」
鞭のように操りながら、葛は傷ついた赤貴に樹の雫を与える。
全体として押してはいるものの、敵の戦力は決して低いものでは無かった。それを理解しているからこそ、葛は冷静に状況を検分し仲間の傷を回復する。それに、元々はこの技術を用いて生計を立てていたのだ。技術としてはむしろ得意分野だったりする。
「樹の雫は普段虫の餌に使っているのだが、効きめはどうだ?」
「あぁ、悪くない」
ぶっきらぼうに返事をすると、赤貴は大きく大剣を振りかぶる。決して力に振り回されている風ではない。重力の流れに逆らわず、言うなれば「剣と踊る」ような戦い方だ。
「逃がすものか。オマエらは、ヒトを喰うのだろう? ならば、オマエらも、ヒトに潰される覚悟を持て……持てるものなら、な」
赤貴は高く跳躍し、妖の頭上を取る。疾風の如き速度に妖の反応出来ない。
赤貴の背後に月が煌めいた。
闇は妖の領域と言ったのは誰だったか。それを赤貴は拒絶する。
「知っておけ。奪ったものは、奪い返されるものだ」
大剣が振り下ろされると、妖は血を撒き散らしながら真っ二つに切り裂かれた。
●
タン
タン
タン
静寂を取り戻した夜の森に乾いた音が響く。
動きを止めた妖達に千陽は幾度か弾丸を撃ち込み、確実な死亡を確認した。あれだけやって止めをし損ねたでは笑い話にもならない。
「全員無事かい?」
「状況完了……子供達が無事で~良かったです~」
紅が仲間と子供達の状況を確認する。幸いなことに、深い怪我を負った者もいるが、大事には至っていない。妖を全て倒すという結果を見れば、十分な成果と言えるだろう。
子供達は無傷だ。単純なもので、葛が夜の昆虫を見つけてやると先ほどまでの恐怖も忘れてか、笑顔を取り戻している。彼らにとっては「野犬に襲われた」に過ぎないというのもあるだろうが。
そんな子供達の様子を見て、志織の口調はようやく普段のものに戻っていた。子供受けを狙って使った口調がすっかり定着してしまっているのだ。これもまた、彼の側面である。
「子供の考えというものはよく分からないな」
一方、遠くで周辺警戒に当たっていた赤貴は軽く肩を竦めている。『普通の子供』という存在に、色々と思う所もあるのかも知れない。
「もう大丈夫。さて、それでは早い所戻りましょうか」
成が促し、子供達をキャンプ地まで連れていく。彼らに待っているのは間違いなく大目玉である。
こうして、1つの事件は終わりを告げた。幼い命は守られ、人を脅かす妖は打ち払われた。
そしてこれから、新たなる戦いが幕を開けるのであった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
