妖侍伝 天獄二刀流、唐断刃鉄!
●存在しなかったはずの侍
天下泰平江戸ノ時代、辻斬りが横行したある土地に、存在しないはずの侍がいた……とされている。
それは一切の文献に残ることなく、口伝していた老人も息を引き取り、伝説ですら無くなった侍が、あった。
『……』
二本の刀をさした袴姿の男が、山中に現われた。
覚者が集まって剣術の稽古にはげむという、静かな道場の中央である。
彼の周囲には血を吹いて死んだ門下生たちが転がっている。
道場主と思われる男も、今や片目を切られて瞑っていた。
「貴様、妖か。なぜこの道場を狙う!」
『……』
「おのれ……人を斬るためだけの存在となりはてたか!」
大上段から切りつけようとする道場主、だが。男は腰から抜いた刀で腕ごと切り離すと、更に抜いた二本目の刀で胴体を切断した。
くるくると回って落ちる道場主の上半身。
二本の刀をだらりと下ろした姿勢のまま、深く息を吐いた。
それは歴史に消えた侍の霊魂か。
はたまた架空の伝説が形を得た物の怪か。
ただハッキリしていることは一つある。
これが、人類に徒なす『妖』であるということだ。
●
「悪い、酷い事態だ。ランク2の心霊系妖が次々と人を襲って殺してる。覚者も非覚者もお構いなしだ。一番タチが悪いのは、斬ったそばから力を吸い上げ、今じゃ簡単には太刀打ちできない妖になっちまってることだ!」
久方 相馬(nCL2000004)は一気にそうまくし立てた。
所は千葉の北東部。
いつの間にか現われたその妖は、二刀流の侍めいた姿をしていたという。
勿論ランク2の妖に言語能力はおろか、人間性などあるはずもない。そのランクには獣並みの知性しかないとされているからだ。
「現地の覚者が戦ったようだが、全滅してる。そのたびに力をつけていくから被害は拡大する一方だ。このままだとランク3入りも考えられる。そうなると俺たちにも対処できなくなってくるだろう。倒すなら、今のうちだ」
分かる限りのスペックと接触するために必要な場所を記した資料をそえて、相馬はそれをデスクに置いた。
「ここで止められなければ必ず致命的な被害になる。難しい任務だが……頼む!」
天下泰平江戸ノ時代、辻斬りが横行したある土地に、存在しないはずの侍がいた……とされている。
それは一切の文献に残ることなく、口伝していた老人も息を引き取り、伝説ですら無くなった侍が、あった。
『……』
二本の刀をさした袴姿の男が、山中に現われた。
覚者が集まって剣術の稽古にはげむという、静かな道場の中央である。
彼の周囲には血を吹いて死んだ門下生たちが転がっている。
道場主と思われる男も、今や片目を切られて瞑っていた。
「貴様、妖か。なぜこの道場を狙う!」
『……』
「おのれ……人を斬るためだけの存在となりはてたか!」
大上段から切りつけようとする道場主、だが。男は腰から抜いた刀で腕ごと切り離すと、更に抜いた二本目の刀で胴体を切断した。
くるくると回って落ちる道場主の上半身。
二本の刀をだらりと下ろした姿勢のまま、深く息を吐いた。
それは歴史に消えた侍の霊魂か。
はたまた架空の伝説が形を得た物の怪か。
ただハッキリしていることは一つある。
これが、人類に徒なす『妖』であるということだ。
●
「悪い、酷い事態だ。ランク2の心霊系妖が次々と人を襲って殺してる。覚者も非覚者もお構いなしだ。一番タチが悪いのは、斬ったそばから力を吸い上げ、今じゃ簡単には太刀打ちできない妖になっちまってることだ!」
久方 相馬(nCL2000004)は一気にそうまくし立てた。
所は千葉の北東部。
いつの間にか現われたその妖は、二刀流の侍めいた姿をしていたという。
勿論ランク2の妖に言語能力はおろか、人間性などあるはずもない。そのランクには獣並みの知性しかないとされているからだ。
「現地の覚者が戦ったようだが、全滅してる。そのたびに力をつけていくから被害は拡大する一方だ。このままだとランク3入りも考えられる。そうなると俺たちにも対処できなくなってくるだろう。倒すなら、今のうちだ」
分かる限りのスペックと接触するために必要な場所を記した資料をそえて、相馬はそれをデスクに置いた。
「ここで止められなければ必ず致命的な被害になる。難しい任務だが……頼む!」
■シナリオ詳細
■成功条件
1.唐断刃鉄の討伐
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
資料に記されている内容をざっと書き込みます
●唐断刃鉄について
二刀流の剣術使い、の妖です。
人間ではなく妖です。そこを忘れるとかなり混乱するので気をつけましょう。
攻撃は三種類
単体大ダメージ
単体貫通3(後衛まで届く貫通攻撃)
列貫通2(中衛まで届く列攻撃)
これ以上のスペックを把握しようとするにはエネミースキャンが要りますが、当然自身の戦闘判定に影響するので使用にはくれぐれもご注意ください。
●戦闘状況について
とある山中を移動中に襲撃します。
一応死角に回ったり囮をはって奇襲をかけたりできる筈ですが、やり方が悪いと逆に不利になることもありますのでお気をつけください。
●補足
プレイングの空振りを回避するためにいくつか補足します。
・貫通攻撃のダメージは味方ガードで肩代わりできないので回復でカバーするほかありません。
・貫通攻撃の対応方法の中に『前後で一直線に並ばないようにする』というものがありますが、今回の場合に限っては全員前衛になり手を繋ぎつつ本人を囲んでぐるぐる回って走り続ける以外になく、あまり現実的ではありません。
・今回の妖はランク2心霊系妖です。話しかけても応えはかえってきません。また、人間らしい挑発もあまり効果はないでしょう。
以上、ややっこしいコトをベラベラ申しましたが、想いを込めてこの一言に要約いたします。
「戦って、殺せ!」
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
9/9
公開日
2015年10月22日
2015年10月22日
■メイン参加者 9人■
●妖ノ剣
南房総に多くの山を持つ千葉県で、北西部の山と言えば銚子の愛宕山しかないと言って過言では無い。ちなみに愛宕山および愛宕神社は日本各地に数え切れないほどあり、そのうちのひとつがここ、銚子市愛宕山である。
名も無き侍の妖は何も考えていないような足取りで、ゆっくりと下山している。放っておけば人里に入るコースだ。
『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)は双眼鏡越しに妖の様子を確認して、仲間たちへと振り返った。
「ここまで接近してみたけど、かぎわけも感情探査も効果がなかったみたい。見つかるからいいけど」
ぽんと肩を叩く鹿ノ島・遥(CL2000227)。
「広い山中のどっかから探せって言われてるわけじゃないんだ。気楽に行こうぜ。それより、作戦は頭に入ってるよな?」
「うん」
遥の立てた作戦を要約すると『鶴翼陣』である。V字に構えて囲む陣形だ。
うまくいくかどうかは、正直やってみなくては分からない。正直九人がかりで一人と戦っている時点で囲まない方が難しいくらいなので、やればできるとは思うが……相手の対多攻撃に有効かどうかはケースバイケースだ。
展開に水をささない内にゲームシステムの話をしておくが、少なくとも戦場ごと分断されているわけではないので列攻撃範囲対象外になるわけではない。つくとしたら回避ボーナスである。また相手も棒立ちするわけでは無いので陣形は時間と共に乱れていく。一応それを踏まえて置いて頂きたい。
ややこしい話は以上である。
いつでも突入できるように構える『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
「しかし、このまま育てばランク3に達するとは……まだ私たちの手におえるレベルではありません。今のうちに倒したい所ですね」
「それに、人里に下りる、前に。力におぼれた、侍なんて、ろくなものに、ならないですから」
『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は刀に手をかけ、じっと戦闘開始の時を待っている。
ニヤニヤと笑う『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)。
「俺としちゃあもっと強くしてから戦いたかったけどな」
気のいい仲間でも居ればここで『しにたがり』ととでも言って茶化す所だろうが、彼のいっそ破滅的なレベル上昇志向にリズムで反応できる仲間は今のところいない。
水蓮寺 静護(CL2000471)は眼鏡のブリッジを押し上げた。
「二刀流の妖か。強さを求めてさまよっているか、殺すためだけに動いているか。今は目的意識すら持っていないようだが、確かに強くなってランクを上げれば目的もハッキリしてくるだろうな。だが今、僕らの手が届くうちに倒すんだ。そうでなくてはならない」
「目的かァ」
頭をわしわしとやる『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)
「元々どういうヤツだったんだろうな。望んでこうなったのか、望まずこうされたのか。今のまんまじゃ、死者を悼むにも困っちまうよ」
「ええんやない? 幽霊ってよか妖なわけやし。心霊系妖が死者と同じものかどうかって所からして良く分かってないんやない? 実際」
陽気に笑って刀を担ぐ『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。
相当オカルトな話になるが、死者と同じ姿をした幽霊が死者の命日に現われたからといって同一人物だとは限らない、という説があるという。狐やら猫やら、妖怪譚にもそういった話は多い。
「それよりバトルスタイルやろ。二刀流ゆうたら大太刀小太刀の二天一流が有名どころやな。腕が鳴るやないの」
「何。所詮は獣並の知性で相手を斬るだけの妖」
『卑金の魂』藤城・巌(CL2000073)は深く息を吸って、荒々しくはき出した。
「ならば此もまた、打ち砕くのみ! いざ――!」
タイミングを計っていたのだろう。
巌は覚者戦闘における有効範囲内に入った所で、自らの肉体を激しくバルクアップさせた。
「参る!」
●二ノ剣
ランク2の妖に獣並みの知性しかないという話をちらりとしたが、そんな妖に対して正面からのシンプルな挟み撃ちは効果的に働いた。
「存分に参られい!」
肉体をヒートアップさせて体当たりをしかける巌。
刀を常に抜刀状態にしていた妖はそれを斬撃で対抗したが、巌の肉体は刃を硬く受け止めた。なにも皮膚が鋼を弾いたわけではない。骨で刃を止め、筋肉で剣筋をとらえたのだ。
「うおおおおおおおおっ、鋭(エイ)!」
刀を腕で固定し、肘打ちを叩き込む。
妖は衝撃に驚いたのか、剣を抜いてばたばたと後退した。
「逃がすかよ」
斜め後ろから回り込んだ刀嗣が、刀の柄を握り込む。
「櫻火真陰流、諏訪刀嗣。行くぜ『二刀流』!」
抜刀によって衝撃が走り、妖の背中が切り裂かれる。
着物が破れるが、この妖に服という概念はない。一枚裂いたら中身は形容不明の渦のようなものでいっぱいになっていた。渦がぐるぐるとねじれ、破れた部分を表面的に修復する。
しかし回復動作ではないようだ。なぜなら極端に身体を捻った妖が刀嗣の胸を乱暴に切り裂いたからだ。咄嗟にガードをかけるが、防ごうとした腕そのものが切断されて飛んでいった。鞘を持った手が地面に落ちる。が、刀嗣は構わず二ノ太刀を斬り込んだ。
「文字通り人間じゃねえな」
胸めがけて突きが来る。が、接触の直前に刀嗣の手前に水気のフィルターがかかり、剣の筋がそれていった。
「ダメージを受けすぎだ。一旦下がろう」
静護が刀に水気を溜めて水平に構え、まるで架空の竹でも斬るように繰り出した。水の因子が波の如くぶつかり、妖をのけぞらせる。
「ラーラ君、今だ」
「よい子には甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……」
風もないのに激しくめくれる本のページへ手を翳し、ラーラは強く目を開く。
「イオ・プルチャーレ!」
途端、ラーラの周囲に浮かんだ無数の炎上炭が次々に妖へと叩き付けられていく。
一方で静護は水の小太刀を大量に生成し、次々に投擲していく。
ラーラと静護による集中砲火に、妖は二つの刀を振り回して後じさりした。
その隙に刀嗣を引っ張り、傷口に因子滴を塗り込むきせき。
「すごいね、スリルも痛みもいっぱい感じて、いいな。ぼく、人間らしい気持ちがわかることをたくさんしなさいって、ドクターに言われたんだ。だからぼくも楽しむよー!」
ここを遊園地か何かだと勘違いしているような顔で、きせきは屈託無く笑った。
彼とは真逆の笑顔を浮かべる刀嗣。
「スリルな。それも悪くねえ」
一方。静護とラーラの集中砲火からなんとか逃れようと後退する妖は、当然の如く駆や遥に回り込まれていた。
「ナウマクサンマンダバラサラダンカン――!」
法具のような剣を眼前に立て翳し、術式を練る駆。
「隙だらけだぜ!」
剣を大上段から叩き付ける。斬撃、というよりそれは爆撃だった。
接触と同時に爆発し、妖は吹き飛ばされる。
ごろごろと土と枯葉の地面を転がる妖を、遥はまっすぐに追いかけた。
「『十天』の鹿ノ島遥! あんたに戦いを挑む!」
遥の頭上にナマズの化け物めいたものが現われ、数珠をはき出した。
それは素早く遥の手に巻き付き、バチバチと紫電を散らす。
駆の剣が、剣の形をした法具であるように。
遥の拳もまた、拳の形をした剣となるのだ。
「くらえ!」
起き上がったばかりの妖に、正面からのストレートパンチが炸裂する。
防御姿勢も取らなかった妖は更に吹き飛び、樹幹にぶつかって倒れた。
のそのそと起き上がる妖。
「妙に、動きが、悪いですね」
「油断禁物。ほな行かせてもらうで!」
凛は乱暴とも言えるような突撃をしかけ、刀を叩き付ける。
「焔陰流21代目(予定)焔陰凛、一手ご指南所望やで!」
それを二本の刀で受け止めた妖だが、凛はその場で自転。踊るように脇へ回り込むと、刀の柄頭を側頭部へと強烈に叩き付けた。
激しくよろめく妖。
「なんや、柄打ちも知らんのか。刀の使い方がなっとらんな!」
「そこ、です!」
祇澄は肉体組織を部分硬化させて突きの構えをとると、まるで銃の撃鉄が雷管を打つが如く強固な突きを繰り出した。
「神室神道流、神室・祇澄。いざ!」
刀による突きである。
しかし妖の腹を穿ち、大穴を捻り開け、後方の樹幹すらも破壊した。
音を立てて倒れる木。
刀を抜き、舞踏のように背を向ける祇澄。
妖は膝を突き、刀をだらりと地面につけた。
うっしと言って拳を握り込む遥。
「やったか!」
「あの、それは……」
あまり言わない方が。
と述べようとした祇澄の背後で。
妖が突きの姿勢をとっていた。
まるで銃の撃鉄が雷管を打つが如く強固な、その構えは。
「――!?」
●妖侍伝(アヤカシデン)
一瞬の出来事である。
直径十センチほどの空圧が走り、途中にあるあらゆるものを破壊していった。
それは祇澄の身体であり彼女を庇おうと割り込んだ遥の身体でありその後方で防御姿勢をとろうとしたラーラの腕でありそのまた向こうの樹幹であった。
全てがスローモーションで動く中、遥は歯をめいっぱい食いしばった。
「――! ――、――!」
おそらく、何か唱えたのだと思う。遥は穴の空いた自らの身体を無視して相手の首根っこを掴み、引き絞った拳に雷を宿し、顔面へと叩き付ける。
身体の内側から何かが破裂した振動が伝わったがそれも無視だ。
接触した拳に更に力を込め、全身全霊で相手を押しのける。
かくして何が起こったかというと。
身体に穴を開けられた遥が胴体が上下で分割されるほど強制的に身体をねじって妖の顔面を殴り、拳に巻いた数珠が砕けて飛び散るほどにエネルギーを炸裂させた。
力尽き、その場に崩れ落ちる遥。吹き飛ぶ妖。
しかし妖は空中で身をひねって強制ブレーキ。
きせきが咄嗟に放った深緑鞭を刀によって切り払う。
そしてきせきめがけて駆けだした。
「っと、ここは通さへんで!」
間に割り込む凛。
繰り出された斬撃を翳した刀によって受け止めた――が、妖はその場で自転。凛の脇へ回り込むと柄頭を側頭部に叩き込んできた。
「こいつあたしの技を――ッ!」
意識が吹っ飛びそうになるが、その前にやることがある。
フリーになった刀に炎を宿し、至近距離で斬撃を繰り出した。
胴体を一刀両断にする。常人なら即死の剣だ。
しかし妖は斬られた部分を強制接合し、もう一本の太刀で凛の腕を切り裂いた。
「おねえちゃん!」
身を乗り出すきせき。妖はそんな彼を両目でしっかりとにらんだ。
「あかん――!」
追撃がこない。目的は凛の横をすり抜けることだ。
凛は妖を掴もうとするが、掴むはずの腕は既に土の上に転がっている。
凛を抜け、きせきへ迫る妖。
こうなってくるともうチーム単位で陣形を維持している場合ではない。
刀嗣は横合いから飛びかかると、蹴りだか斬撃だか分からないような乱暴な攻撃をしかけた。
「俺様を無視してんじゃねえぞオラ!」
斬撃は入った。しかし、妖の腕に刺さってびしりと固定されている。巌が使った力業そのものだ。
「テメェ」
刀嗣は相手に足を突っ張って刀を抜き、再び構えた。
距離をとってにらみ合う。
「最強の技ぁ食らわせてみろよ」
対して、妖は剣を垂直に構えた。
刀嗣の挑発を受けたわけではあるまい。そんな知能がある妖ではないのだ。
が、しかし。
『なうまくさんまんだばさらだんかん』
唱え、そして、叩き付けた。
凄まじい爆発が起き、刀嗣の肩から先が吹き飛ぶ。
それだけではない。
もう一本の太刀を水平に構え、何かのエネルギーを纏わせた。
そして架空の竹でも斬るように繰り出した。
つまり。
「おにーちゃん下がっ――」
「ふせろクソガキ!」
回復に走ろうとしたきせきを、刀嗣は無理矢理突き倒した。
水平に繰り出された斬撃の波が、刀嗣を含む全員に浴びせられていく。
きせきは刀嗣に突き倒されたせいで、彼の頭上を抜けるのみとなったが……。
刀嗣の身体が、地面に落ちる。
きせきの目が、大きく見開かれた。
「離れてください!」
頭上で声がした。
ラーラが樹幹を蹴って高く飛び、上下反転したまま『おまじない』を詠唱し終えていた。
周囲に大量の炎上炭が発生、まるで映画に見る隕石群のごとく妖へ降り注ぐ。
妖は二本の刀を複雑に繰り出してそれを弾いていく。全てとはいかないようで、妖の身体が徐々に欠落していった。
欠落具合は人間のそれではない。人の形をした絵に丸い穴をいくつも開けたような様はまさに妖。人知の及ばぬ化け物である。
なんとか距離を置いたきせきは、深い傷を負ったラーラや祇澄に因子滴を放ってやった。
代わりに前へ出る巌と駆。
「二人、やられましたな」
「心配すんな。あと二人、さしずめ俺とお前がやられたら――『ぶちかます』」
「……」
駆の覚悟を察して、巌は目を剥いた。
「まだその時ではない。御影殿とラーラ殿は下がりなされ。ぬうおおおおおおお!」
巌は肉体を激しく炎上させると、妖めがけて体当たりを仕掛けた。
ただの体当たりではない。
さしずめ大型バイクで撥ねたような、常人であれば即死するようなタックルである。
「憤(フンッ)!」
刀をクロスさせて受け止める妖。
しかしパワーは巌が上のようで、強制的に押し込んでいく。
だが押し切れるかといえばそうではない。
十字の閃光が走り、巌は急速に押し返された。
「ぐ、ぬうああああああああああああああああ!!」
絶叫と共にのけぞる巌。彼の肉体は十字に切り裂かれていた。
が、今こそがチャンスだ。
「畳みかけろ!」
駆け込み、炎を纏った剣を猛烈に叩き込む駆。
剣は妖の腕を打ち、打ち抜き、そして刀ごと吹き飛ばしていく。
足下から素早く伸びたきせきの深緑鞭が足を払い、バランスを崩す。
刀を振り上げる妖――だが、凛が投擲した刀がその腕を貫通。背後の樹幹へと縫い付けられた。
「最後や、やれ!」
仰向けに倒れた巌を飛び越え、静護と祇澄が妖へ急速接近。
縫い付けられた腕を途中で引きちぎり、周囲に発生させた無数のエネルギー塊を放ってくる妖。
直撃を受ける祇澄と静護だが、止まらない。
「まだ、まだ!」
「一刀は力、二刀は数。僕らは――」
二本の斬撃が走る。
それは妖を抜け、振り切った二人の刀は虚空をさしていた。
顔を上げる静護。
「どちらも上だ!」
次の瞬間、妖は三分割され、すぐにかすみのようにかき消えた。
●天獄二刀流の村
妖を倒した後、きせきたちは急いで手当を行なった。
覚者というのはたくましいもので、適切な処置をすませた遥は五体満足に柔軟体操などするようになっていた。
「いやー、強敵だったなー! 殴った殴った!」
「急に動いて、大丈夫、なんですか?」
おろおろする祇澄などお構いなしである。覚者ゆえというより、若さ故の元気さなのかもしれない。
嘆息する刀嗣。
「しっかしあの二刀流、技をパクりやがった。いや違ぇな、パクるんなら劣化する筈だ。どう見たってありゃあ……」
「吸収して、増幅していた」
静護は瞑目した。
「戦いの中で動きも確実に良くなっていた。ここで倒せて、本当に良かった」
「あんなものが人里に下りたらただでは済まなかったでしょうね」
ラーラはそのさまを想像して、酷く気分が悪くなった。F.i.V.Eが介入するとしても、人死にが避けられそうにないからだ。
なにせ一回戦っただけで、辺り一面の木々がめちゃくちゃになぎ倒されているのだ。これが民家だったなら……。
悪い考えを遮るように声を上げる巌。
「しかし、心霊系妖だという割には物理攻撃にさしたる耐性を持っていませんでしたね」
「いや、持ってはいたんやろ。けどチョッピリすぎて影響が無かったんや」
回復した腕をぶんぶん振ってみせる凛。
「ユーレイじゃなくて妖だもんな! 殴って倒せない奴はいないぜ!」
同じく回復した腕をぶんぶん振る遥。
その様を見てきせきは心なしか喜んだ顔をした。
「みんな元気になったし。帰る?」
「そうですね」
みな片付けを済ませて帰路につく……その中で。
駆(覚醒前後でシルエットが違い過ぎるが同一人物である)はふと足下に落ちた物体に気づいた。
「ん? なんだこりゃ」
拾ってみると、刀の柄部分のようだ。刀身があったであろう部分は根元からぽっきり折れている。
が、気になったのはそこではない。
柄から滑り落ちた刀身の根っこ部分に、ある彫り込みが成されていたのだ。
「『納・天獄村』……どういう意味だ?」
南房総に多くの山を持つ千葉県で、北西部の山と言えば銚子の愛宕山しかないと言って過言では無い。ちなみに愛宕山および愛宕神社は日本各地に数え切れないほどあり、そのうちのひとつがここ、銚子市愛宕山である。
名も無き侍の妖は何も考えていないような足取りで、ゆっくりと下山している。放っておけば人里に入るコースだ。
『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)は双眼鏡越しに妖の様子を確認して、仲間たちへと振り返った。
「ここまで接近してみたけど、かぎわけも感情探査も効果がなかったみたい。見つかるからいいけど」
ぽんと肩を叩く鹿ノ島・遥(CL2000227)。
「広い山中のどっかから探せって言われてるわけじゃないんだ。気楽に行こうぜ。それより、作戦は頭に入ってるよな?」
「うん」
遥の立てた作戦を要約すると『鶴翼陣』である。V字に構えて囲む陣形だ。
うまくいくかどうかは、正直やってみなくては分からない。正直九人がかりで一人と戦っている時点で囲まない方が難しいくらいなので、やればできるとは思うが……相手の対多攻撃に有効かどうかはケースバイケースだ。
展開に水をささない内にゲームシステムの話をしておくが、少なくとも戦場ごと分断されているわけではないので列攻撃範囲対象外になるわけではない。つくとしたら回避ボーナスである。また相手も棒立ちするわけでは無いので陣形は時間と共に乱れていく。一応それを踏まえて置いて頂きたい。
ややこしい話は以上である。
いつでも突入できるように構える『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
「しかし、このまま育てばランク3に達するとは……まだ私たちの手におえるレベルではありません。今のうちに倒したい所ですね」
「それに、人里に下りる、前に。力におぼれた、侍なんて、ろくなものに、ならないですから」
『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は刀に手をかけ、じっと戦闘開始の時を待っている。
ニヤニヤと笑う『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)。
「俺としちゃあもっと強くしてから戦いたかったけどな」
気のいい仲間でも居ればここで『しにたがり』ととでも言って茶化す所だろうが、彼のいっそ破滅的なレベル上昇志向にリズムで反応できる仲間は今のところいない。
水蓮寺 静護(CL2000471)は眼鏡のブリッジを押し上げた。
「二刀流の妖か。強さを求めてさまよっているか、殺すためだけに動いているか。今は目的意識すら持っていないようだが、確かに強くなってランクを上げれば目的もハッキリしてくるだろうな。だが今、僕らの手が届くうちに倒すんだ。そうでなくてはならない」
「目的かァ」
頭をわしわしとやる『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)
「元々どういうヤツだったんだろうな。望んでこうなったのか、望まずこうされたのか。今のまんまじゃ、死者を悼むにも困っちまうよ」
「ええんやない? 幽霊ってよか妖なわけやし。心霊系妖が死者と同じものかどうかって所からして良く分かってないんやない? 実際」
陽気に笑って刀を担ぐ『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。
相当オカルトな話になるが、死者と同じ姿をした幽霊が死者の命日に現われたからといって同一人物だとは限らない、という説があるという。狐やら猫やら、妖怪譚にもそういった話は多い。
「それよりバトルスタイルやろ。二刀流ゆうたら大太刀小太刀の二天一流が有名どころやな。腕が鳴るやないの」
「何。所詮は獣並の知性で相手を斬るだけの妖」
『卑金の魂』藤城・巌(CL2000073)は深く息を吸って、荒々しくはき出した。
「ならば此もまた、打ち砕くのみ! いざ――!」
タイミングを計っていたのだろう。
巌は覚者戦闘における有効範囲内に入った所で、自らの肉体を激しくバルクアップさせた。
「参る!」
●二ノ剣
ランク2の妖に獣並みの知性しかないという話をちらりとしたが、そんな妖に対して正面からのシンプルな挟み撃ちは効果的に働いた。
「存分に参られい!」
肉体をヒートアップさせて体当たりをしかける巌。
刀を常に抜刀状態にしていた妖はそれを斬撃で対抗したが、巌の肉体は刃を硬く受け止めた。なにも皮膚が鋼を弾いたわけではない。骨で刃を止め、筋肉で剣筋をとらえたのだ。
「うおおおおおおおおっ、鋭(エイ)!」
刀を腕で固定し、肘打ちを叩き込む。
妖は衝撃に驚いたのか、剣を抜いてばたばたと後退した。
「逃がすかよ」
斜め後ろから回り込んだ刀嗣が、刀の柄を握り込む。
「櫻火真陰流、諏訪刀嗣。行くぜ『二刀流』!」
抜刀によって衝撃が走り、妖の背中が切り裂かれる。
着物が破れるが、この妖に服という概念はない。一枚裂いたら中身は形容不明の渦のようなものでいっぱいになっていた。渦がぐるぐるとねじれ、破れた部分を表面的に修復する。
しかし回復動作ではないようだ。なぜなら極端に身体を捻った妖が刀嗣の胸を乱暴に切り裂いたからだ。咄嗟にガードをかけるが、防ごうとした腕そのものが切断されて飛んでいった。鞘を持った手が地面に落ちる。が、刀嗣は構わず二ノ太刀を斬り込んだ。
「文字通り人間じゃねえな」
胸めがけて突きが来る。が、接触の直前に刀嗣の手前に水気のフィルターがかかり、剣の筋がそれていった。
「ダメージを受けすぎだ。一旦下がろう」
静護が刀に水気を溜めて水平に構え、まるで架空の竹でも斬るように繰り出した。水の因子が波の如くぶつかり、妖をのけぞらせる。
「ラーラ君、今だ」
「よい子には甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……」
風もないのに激しくめくれる本のページへ手を翳し、ラーラは強く目を開く。
「イオ・プルチャーレ!」
途端、ラーラの周囲に浮かんだ無数の炎上炭が次々に妖へと叩き付けられていく。
一方で静護は水の小太刀を大量に生成し、次々に投擲していく。
ラーラと静護による集中砲火に、妖は二つの刀を振り回して後じさりした。
その隙に刀嗣を引っ張り、傷口に因子滴を塗り込むきせき。
「すごいね、スリルも痛みもいっぱい感じて、いいな。ぼく、人間らしい気持ちがわかることをたくさんしなさいって、ドクターに言われたんだ。だからぼくも楽しむよー!」
ここを遊園地か何かだと勘違いしているような顔で、きせきは屈託無く笑った。
彼とは真逆の笑顔を浮かべる刀嗣。
「スリルな。それも悪くねえ」
一方。静護とラーラの集中砲火からなんとか逃れようと後退する妖は、当然の如く駆や遥に回り込まれていた。
「ナウマクサンマンダバラサラダンカン――!」
法具のような剣を眼前に立て翳し、術式を練る駆。
「隙だらけだぜ!」
剣を大上段から叩き付ける。斬撃、というよりそれは爆撃だった。
接触と同時に爆発し、妖は吹き飛ばされる。
ごろごろと土と枯葉の地面を転がる妖を、遥はまっすぐに追いかけた。
「『十天』の鹿ノ島遥! あんたに戦いを挑む!」
遥の頭上にナマズの化け物めいたものが現われ、数珠をはき出した。
それは素早く遥の手に巻き付き、バチバチと紫電を散らす。
駆の剣が、剣の形をした法具であるように。
遥の拳もまた、拳の形をした剣となるのだ。
「くらえ!」
起き上がったばかりの妖に、正面からのストレートパンチが炸裂する。
防御姿勢も取らなかった妖は更に吹き飛び、樹幹にぶつかって倒れた。
のそのそと起き上がる妖。
「妙に、動きが、悪いですね」
「油断禁物。ほな行かせてもらうで!」
凛は乱暴とも言えるような突撃をしかけ、刀を叩き付ける。
「焔陰流21代目(予定)焔陰凛、一手ご指南所望やで!」
それを二本の刀で受け止めた妖だが、凛はその場で自転。踊るように脇へ回り込むと、刀の柄頭を側頭部へと強烈に叩き付けた。
激しくよろめく妖。
「なんや、柄打ちも知らんのか。刀の使い方がなっとらんな!」
「そこ、です!」
祇澄は肉体組織を部分硬化させて突きの構えをとると、まるで銃の撃鉄が雷管を打つが如く強固な突きを繰り出した。
「神室神道流、神室・祇澄。いざ!」
刀による突きである。
しかし妖の腹を穿ち、大穴を捻り開け、後方の樹幹すらも破壊した。
音を立てて倒れる木。
刀を抜き、舞踏のように背を向ける祇澄。
妖は膝を突き、刀をだらりと地面につけた。
うっしと言って拳を握り込む遥。
「やったか!」
「あの、それは……」
あまり言わない方が。
と述べようとした祇澄の背後で。
妖が突きの姿勢をとっていた。
まるで銃の撃鉄が雷管を打つが如く強固な、その構えは。
「――!?」
●妖侍伝(アヤカシデン)
一瞬の出来事である。
直径十センチほどの空圧が走り、途中にあるあらゆるものを破壊していった。
それは祇澄の身体であり彼女を庇おうと割り込んだ遥の身体でありその後方で防御姿勢をとろうとしたラーラの腕でありそのまた向こうの樹幹であった。
全てがスローモーションで動く中、遥は歯をめいっぱい食いしばった。
「――! ――、――!」
おそらく、何か唱えたのだと思う。遥は穴の空いた自らの身体を無視して相手の首根っこを掴み、引き絞った拳に雷を宿し、顔面へと叩き付ける。
身体の内側から何かが破裂した振動が伝わったがそれも無視だ。
接触した拳に更に力を込め、全身全霊で相手を押しのける。
かくして何が起こったかというと。
身体に穴を開けられた遥が胴体が上下で分割されるほど強制的に身体をねじって妖の顔面を殴り、拳に巻いた数珠が砕けて飛び散るほどにエネルギーを炸裂させた。
力尽き、その場に崩れ落ちる遥。吹き飛ぶ妖。
しかし妖は空中で身をひねって強制ブレーキ。
きせきが咄嗟に放った深緑鞭を刀によって切り払う。
そしてきせきめがけて駆けだした。
「っと、ここは通さへんで!」
間に割り込む凛。
繰り出された斬撃を翳した刀によって受け止めた――が、妖はその場で自転。凛の脇へ回り込むと柄頭を側頭部に叩き込んできた。
「こいつあたしの技を――ッ!」
意識が吹っ飛びそうになるが、その前にやることがある。
フリーになった刀に炎を宿し、至近距離で斬撃を繰り出した。
胴体を一刀両断にする。常人なら即死の剣だ。
しかし妖は斬られた部分を強制接合し、もう一本の太刀で凛の腕を切り裂いた。
「おねえちゃん!」
身を乗り出すきせき。妖はそんな彼を両目でしっかりとにらんだ。
「あかん――!」
追撃がこない。目的は凛の横をすり抜けることだ。
凛は妖を掴もうとするが、掴むはずの腕は既に土の上に転がっている。
凛を抜け、きせきへ迫る妖。
こうなってくるともうチーム単位で陣形を維持している場合ではない。
刀嗣は横合いから飛びかかると、蹴りだか斬撃だか分からないような乱暴な攻撃をしかけた。
「俺様を無視してんじゃねえぞオラ!」
斬撃は入った。しかし、妖の腕に刺さってびしりと固定されている。巌が使った力業そのものだ。
「テメェ」
刀嗣は相手に足を突っ張って刀を抜き、再び構えた。
距離をとってにらみ合う。
「最強の技ぁ食らわせてみろよ」
対して、妖は剣を垂直に構えた。
刀嗣の挑発を受けたわけではあるまい。そんな知能がある妖ではないのだ。
が、しかし。
『なうまくさんまんだばさらだんかん』
唱え、そして、叩き付けた。
凄まじい爆発が起き、刀嗣の肩から先が吹き飛ぶ。
それだけではない。
もう一本の太刀を水平に構え、何かのエネルギーを纏わせた。
そして架空の竹でも斬るように繰り出した。
つまり。
「おにーちゃん下がっ――」
「ふせろクソガキ!」
回復に走ろうとしたきせきを、刀嗣は無理矢理突き倒した。
水平に繰り出された斬撃の波が、刀嗣を含む全員に浴びせられていく。
きせきは刀嗣に突き倒されたせいで、彼の頭上を抜けるのみとなったが……。
刀嗣の身体が、地面に落ちる。
きせきの目が、大きく見開かれた。
「離れてください!」
頭上で声がした。
ラーラが樹幹を蹴って高く飛び、上下反転したまま『おまじない』を詠唱し終えていた。
周囲に大量の炎上炭が発生、まるで映画に見る隕石群のごとく妖へ降り注ぐ。
妖は二本の刀を複雑に繰り出してそれを弾いていく。全てとはいかないようで、妖の身体が徐々に欠落していった。
欠落具合は人間のそれではない。人の形をした絵に丸い穴をいくつも開けたような様はまさに妖。人知の及ばぬ化け物である。
なんとか距離を置いたきせきは、深い傷を負ったラーラや祇澄に因子滴を放ってやった。
代わりに前へ出る巌と駆。
「二人、やられましたな」
「心配すんな。あと二人、さしずめ俺とお前がやられたら――『ぶちかます』」
「……」
駆の覚悟を察して、巌は目を剥いた。
「まだその時ではない。御影殿とラーラ殿は下がりなされ。ぬうおおおおおおお!」
巌は肉体を激しく炎上させると、妖めがけて体当たりを仕掛けた。
ただの体当たりではない。
さしずめ大型バイクで撥ねたような、常人であれば即死するようなタックルである。
「憤(フンッ)!」
刀をクロスさせて受け止める妖。
しかしパワーは巌が上のようで、強制的に押し込んでいく。
だが押し切れるかといえばそうではない。
十字の閃光が走り、巌は急速に押し返された。
「ぐ、ぬうああああああああああああああああ!!」
絶叫と共にのけぞる巌。彼の肉体は十字に切り裂かれていた。
が、今こそがチャンスだ。
「畳みかけろ!」
駆け込み、炎を纏った剣を猛烈に叩き込む駆。
剣は妖の腕を打ち、打ち抜き、そして刀ごと吹き飛ばしていく。
足下から素早く伸びたきせきの深緑鞭が足を払い、バランスを崩す。
刀を振り上げる妖――だが、凛が投擲した刀がその腕を貫通。背後の樹幹へと縫い付けられた。
「最後や、やれ!」
仰向けに倒れた巌を飛び越え、静護と祇澄が妖へ急速接近。
縫い付けられた腕を途中で引きちぎり、周囲に発生させた無数のエネルギー塊を放ってくる妖。
直撃を受ける祇澄と静護だが、止まらない。
「まだ、まだ!」
「一刀は力、二刀は数。僕らは――」
二本の斬撃が走る。
それは妖を抜け、振り切った二人の刀は虚空をさしていた。
顔を上げる静護。
「どちらも上だ!」
次の瞬間、妖は三分割され、すぐにかすみのようにかき消えた。
●天獄二刀流の村
妖を倒した後、きせきたちは急いで手当を行なった。
覚者というのはたくましいもので、適切な処置をすませた遥は五体満足に柔軟体操などするようになっていた。
「いやー、強敵だったなー! 殴った殴った!」
「急に動いて、大丈夫、なんですか?」
おろおろする祇澄などお構いなしである。覚者ゆえというより、若さ故の元気さなのかもしれない。
嘆息する刀嗣。
「しっかしあの二刀流、技をパクりやがった。いや違ぇな、パクるんなら劣化する筈だ。どう見たってありゃあ……」
「吸収して、増幅していた」
静護は瞑目した。
「戦いの中で動きも確実に良くなっていた。ここで倒せて、本当に良かった」
「あんなものが人里に下りたらただでは済まなかったでしょうね」
ラーラはそのさまを想像して、酷く気分が悪くなった。F.i.V.Eが介入するとしても、人死にが避けられそうにないからだ。
なにせ一回戦っただけで、辺り一面の木々がめちゃくちゃになぎ倒されているのだ。これが民家だったなら……。
悪い考えを遮るように声を上げる巌。
「しかし、心霊系妖だという割には物理攻撃にさしたる耐性を持っていませんでしたね」
「いや、持ってはいたんやろ。けどチョッピリすぎて影響が無かったんや」
回復した腕をぶんぶん振ってみせる凛。
「ユーレイじゃなくて妖だもんな! 殴って倒せない奴はいないぜ!」
同じく回復した腕をぶんぶん振る遥。
その様を見てきせきは心なしか喜んだ顔をした。
「みんな元気になったし。帰る?」
「そうですね」
みな片付けを済ませて帰路につく……その中で。
駆(覚醒前後でシルエットが違い過ぎるが同一人物である)はふと足下に落ちた物体に気づいた。
「ん? なんだこりゃ」
拾ってみると、刀の柄部分のようだ。刀身があったであろう部分は根元からぽっきり折れている。
が、気になったのはそこではない。
柄から滑り落ちた刀身の根っこ部分に、ある彫り込みが成されていたのだ。
「『納・天獄村』……どういう意味だ?」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし








