Gの戦慄
●
「皆よく来てくれた。心から感謝する」
覚者たちを迎えた久方 相馬(nCL2000004)は普段の様子が嘘のように硬い調子で言った。表情はそれ以上に強張り、青ざめているようにも見える。
「恐ろしい事件が起きる。心して聞いてくれ」
一体どんな予知を見たのかと息を飲む一同の前にスクリーンが降りてくる。そこに映し出されたのは、家と言うのもおこがましいようなゴミ屋敷だった。
鉄柵が歪む程に中身の詰まったゴミ袋がぎっしり積み上げられ、柵の間からは妙な色の汁が流れ落ちている。
調べてみるとこのゴミ屋敷、住民はいつのまにか姿を消しており、これまで何度も地域住民の有志が片付けようと挑んだのだが、あまりの悪臭と大量発生した虫に耐えきれず敗北を重ねている。
その内悪臭のせいなのか周辺住民が体調を崩しはじめ、屋敷周辺にまで大量の害虫が湧いたりと問題が大きくなっている。
「予知でこのゴミ屋敷に妖が住み着いているのを見た」
おそらくここ最近の周辺住民への被害は妖が原因だろう。
「その妖とは……Gだ」
部屋が静まり返った。
G、古くは阿久多牟之、地方によってはアブラムシ、アマメと呼ばれている。
名を呼ぶ事さえ忌避されると言う最恐生物。その名はゴキブリ!
「この会議室に入った以上、逃げる事は許されない」
いつもは溌剌として元気いっぱい!とばかりに輝いていた相馬の目は濁り、これ以上ないほどに据わっている。
「皆に倒してもらいたいG、いや妖はたった一匹だ」
あれ?なんだ一匹だけなの?と、あからさまに安堵する覚者たち。
しかし、それはまだ早かった。
「その妖は全長3m。家の壁や仕切りも家具も室内にあったゴミも噛み砕いて広間にした家に居座り、昼の間は縁の下に潜んでいる」
想像してほしい。いやしなくてもいい。全長3mのゴキブリなど苦手な人でなくても嫌だろう。
相馬の説明は更に続く。自分が見たものを、その衝撃を、少しでも覚者たちにぶちまけて楽になりたいとでも言うように。
「この妖は体が大きくても非常に素早い。とにかく素早い。戦う時は十分に注意してくれ」
本来なら動きの邪魔になるはずの壁や家具のような障害物も前述の通りなくなっている。
「妖は昼の間は縁の下にいて夜になると一階に出てくるようだが、ただでさえ黒くて素早い妖だ。昼間に行く方がいいだろ。ただ少し薄暗いかもしれないから、気になるようなら明かりを持って行った方がいいな」
ゴミ屋敷には誰も近付かない。周辺もゴミ屋敷に耐えかねて住人が出て行ったり、悪臭や虫を避けるため窓を閉めきったりしているので人目はほとんどなく、家全体を破壊したり燃やしたりしない限り大きな問題にはならないだろう。
「中に入れば妖はエサが来たと思ってすぐ出てくるはずだ。一応言っておくが外には誘導しないでくれ。いくら人気がないと言っても大騒ぎになるからな」
それはもういろんな意味で大騒ぎになるだろう。けして外に出してはいけない。
「それとこの家に入るにはまずゴミをどうにかしないといけないんだ。当日同行する覚者がゴム手袋やマスクを用意してくれるから、とりあえずみんなでゴミをどかしてくれ」
地域住民の有志は敗北してしまった悪臭と虫も、覚者ならばがんばって耐える事ができるだろう。
「この依頼に必要なのは何よりも折れない強い心と支え合う絆だ。皆が力を合わせればどんな事が起きても大丈夫だって信じてるぜ!」
ようやくいつものような笑顔を見せた相馬だったが、その目は最後まで濁っていた。
「皆よく来てくれた。心から感謝する」
覚者たちを迎えた久方 相馬(nCL2000004)は普段の様子が嘘のように硬い調子で言った。表情はそれ以上に強張り、青ざめているようにも見える。
「恐ろしい事件が起きる。心して聞いてくれ」
一体どんな予知を見たのかと息を飲む一同の前にスクリーンが降りてくる。そこに映し出されたのは、家と言うのもおこがましいようなゴミ屋敷だった。
鉄柵が歪む程に中身の詰まったゴミ袋がぎっしり積み上げられ、柵の間からは妙な色の汁が流れ落ちている。
調べてみるとこのゴミ屋敷、住民はいつのまにか姿を消しており、これまで何度も地域住民の有志が片付けようと挑んだのだが、あまりの悪臭と大量発生した虫に耐えきれず敗北を重ねている。
その内悪臭のせいなのか周辺住民が体調を崩しはじめ、屋敷周辺にまで大量の害虫が湧いたりと問題が大きくなっている。
「予知でこのゴミ屋敷に妖が住み着いているのを見た」
おそらくここ最近の周辺住民への被害は妖が原因だろう。
「その妖とは……Gだ」
部屋が静まり返った。
G、古くは阿久多牟之、地方によってはアブラムシ、アマメと呼ばれている。
名を呼ぶ事さえ忌避されると言う最恐生物。その名はゴキブリ!
「この会議室に入った以上、逃げる事は許されない」
いつもは溌剌として元気いっぱい!とばかりに輝いていた相馬の目は濁り、これ以上ないほどに据わっている。
「皆に倒してもらいたいG、いや妖はたった一匹だ」
あれ?なんだ一匹だけなの?と、あからさまに安堵する覚者たち。
しかし、それはまだ早かった。
「その妖は全長3m。家の壁や仕切りも家具も室内にあったゴミも噛み砕いて広間にした家に居座り、昼の間は縁の下に潜んでいる」
想像してほしい。いやしなくてもいい。全長3mのゴキブリなど苦手な人でなくても嫌だろう。
相馬の説明は更に続く。自分が見たものを、その衝撃を、少しでも覚者たちにぶちまけて楽になりたいとでも言うように。
「この妖は体が大きくても非常に素早い。とにかく素早い。戦う時は十分に注意してくれ」
本来なら動きの邪魔になるはずの壁や家具のような障害物も前述の通りなくなっている。
「妖は昼の間は縁の下にいて夜になると一階に出てくるようだが、ただでさえ黒くて素早い妖だ。昼間に行く方がいいだろ。ただ少し薄暗いかもしれないから、気になるようなら明かりを持って行った方がいいな」
ゴミ屋敷には誰も近付かない。周辺もゴミ屋敷に耐えかねて住人が出て行ったり、悪臭や虫を避けるため窓を閉めきったりしているので人目はほとんどなく、家全体を破壊したり燃やしたりしない限り大きな問題にはならないだろう。
「中に入れば妖はエサが来たと思ってすぐ出てくるはずだ。一応言っておくが外には誘導しないでくれ。いくら人気がないと言っても大騒ぎになるからな」
それはもういろんな意味で大騒ぎになるだろう。けして外に出してはいけない。
「それとこの家に入るにはまずゴミをどうにかしないといけないんだ。当日同行する覚者がゴム手袋やマスクを用意してくれるから、とりあえずみんなでゴミをどかしてくれ」
地域住民の有志は敗北してしまった悪臭と虫も、覚者ならばがんばって耐える事ができるだろう。
「この依頼に必要なのは何よりも折れない強い心と支え合う絆だ。皆が力を合わせればどんな事が起きても大丈夫だって信じてるぜ!」
ようやくいつものような笑顔を見せた相馬だったが、その目は最後まで濁っていた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖一体の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
この依頼はコメディ依頼なのですが、精神的な負担は激しいものになると思われます。
Gです。黒光りするにくいヤツです。
どうか皆さんの手でこの恐ろしい妖を退治して下さい。よろしくお願いします。
●場所
某所にあるゴミ屋敷。家の持ち主はすでにいません。
昼間に行くとそれなりに日光が入っていますが、少し薄暗いので照明の類を持って行ってもいいでしょう。
内部の壁や仕切りは妖が室内に溢れるゴミや家具と一緒に食べてしまったので、一階は柱が立っているだけの広間のようになっています。
家の隅(普通の家で言えば玄関から一番遠い裏口付近)の床に穴が開いており、妖はそこから縁の下と一階を行き来しているようです。
●片付け
ゴミ屋敷は玄関もゴミで埋まっていますので、まず皆さんでゴミをどかし通り道を作る必要があります。道さえできれば他は放置して構いません。全部片付けると依頼どころではなくなります。
同行NPCの海棠 雅刀が飛び散ったゴミを入れる袋やゴム手袋、マスク、ゴーグル、ツナギなどを持って行きますので、参加者側で用意する必要はありません。
雅刀は片付けた後は出たゴミを始末するため現場から離れますが、帰りにはちゃんと迎えに来てくれますので全力で妖退治をお願いします。
●敵情報
妖/生物系ランク2
全長3mの巨大なゴキブリ。昼は縁の下、日が沈んでから縁の下から這い出してきますが、皆さんが家の中に入ったらエサがきたと思って即襲い掛かってくるでしょう。
妖なので殺虫剤の類は一切効きません。
非常に素早く回避能力が高いです。防御力はそこまで高くないのですが、体力は無駄にあるため倒すのに時間がかかるでしょう。
●スキル構成
体当たり(近単。物理ダメージ)
飛翔(遠単。宙を飛んで襲い掛かってくる物理ダメージ。BS混乱)
べとべと(遠単。体内の内容物を吐き出し特攻ダメージ。BS混乱)
情報は以上になります。
皆さまのご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2015年10月20日
2015年10月20日
■メイン参加者 6人■

●vsゴミ
雑多に積み上げられたゴミの山。離れた所からでも漂ってくる異臭。秋も深まった時期だと言うのに元気に飛び回る羽虫。ゴミ屋敷は魔境のような様相を呈していた。
「自分も整理整頓は苦手な方ですが、これ程までとは……!」
犬童 アキラ(CL2000698)は自分の慎重よりもはるかに高いゴミの山に呆れる。ゴミ袋の間から雑誌や粗大ゴミらしき物が見えていたりと、その混沌ぶりがよく分かる。
「これは……酷いな……このような場所、本当に人間が住んでおったのか……?」
そやつ本当に人間か!?と、驚愕している由比 久永(CL2000540)。この世はまだまだ余の知らぬ事が多いな。などと言っているが、こんな事で世界を広げないでいただきたい。
「もう既に気持ち悪い……このゴミ屋敷自体が、妖にならなくて……不幸中の幸い、かも……。」
明石 ミュエル(CL2000172)は近くまで飛んで来た羽虫に顔をしかめて追い払い、追い払われた虫は緊張した面持ちでゴミ屋敷を見詰めていた工藤 奏空(CL2000955)にペチンと体当たりしてからゴミの影に消えて行く。
「Gだけでも充分なのに……」
虫の体当たりを食らった奏空は、同行していた海棠 雅刀(nCL2000086)の所へ清掃道具一式を借りに走る。
用意された物は不織布のツナギ、ゴム手袋、マスク、ゴーグルなど。かなり本格的な物が揃えられており、雅刀はすでに完全装備で奏空に同じ物を手渡していた。
他の覚者達もその道具一式とゴミ屋敷の惨状を見て気合いを入れ直し、装備を完了した者から道を切り拓かんとゴミの山に挑んで行った。
「うぅ……ゴミが凄いです……」
兄と一緒の仕事だと喜んでいた十夜 八重(CL2000122)だったが、想像以上の惨状にやや及び腰である。
「八重、そっちは俺がやる」
そんな彼女に破れたゴミ袋や変色して異臭を発する物がいかないように片付けているのが義兄の十夜 七重(CL2000513)である。普段の身長ではやりにくいと思ったのかすでに長身の成人男性の姿に覚醒していた。
普段いじっている兄の頼りがいを感じる姿だが、八重は首を横に振る。
「人にだけやらせて……とは行きませんから……」
小さな白い翼を羽ばたかせ、高い所で下のゴミを圧迫している物を取り除いて行く。上からの圧迫が無くなってくると重みでつぶれていたゴミが取り出しやすくなり、作業も捗り始める。
しかし、周辺住民を幾度も退けてきたゴミ山は覚者達にも楽ではない相手だった。
「やれやれ、何て数のゴミ袋だ」
「よくもこれだけ汚したものだ。妖がある程度”掃除”してくれたらしいが、住人もゴミと一緒に食われたんじゃないか?」
どかしてもどかしても底が見えない大量のゴミ。アキラも七重も結構な数のゴミをどかしたが、山は変わらず聳え立っている。
「あ、そこ崩れそうです!」
「おっと」
高い位置にいた八重がぐらりと揺れた一角を見て二人に警告すると、どさどさとゴミ袋がいくつか崩れ落ちてきた。その音か落下に驚いたのか、袋の中から虫がささっと走って行く。
「……今……あれが……小さいけど、あれが走って……」
「うむ、芥虫であったな」
走って行った虫にミュエルと奏空が硬直し、久永は平然とその正体を口にする。
「芥虫?」
「聞き返さなくていいです!」
「ゴキブリのことだよ」
「言わないでください!」
耳慣れない単語に聞き返したのは上にいて虫が見えなかった八重。ミュエルが自分の腕を抱え込むようにごしごしとさすり奏空が鳥肌を立てる勢いで叫んだが、久永はやはり平然として答えた。
「貴方もそう言うのは平気なのか?」
「普通のサイズの芥虫なら捕まえられるぞ」
七重の質問に返って来たのは、線の細い見た目に似合わぬとんだ衝撃発言である。想像してしまったのか周囲から声にならない悲鳴が上がった。
しかし、ゴミ山を片付けていて一番厄介な物は何よりもその異臭だった。紙屑のような物だけならまだましだったかもしれないが、汚れ物や生ゴミなどが混ざったゴミ山の異臭は凄まじい。
「……気持ち悪い……」
雨も降っていないのにじっとり濡れた一角は、黒くないはずのゴミ袋まで黒とも緑とも言えない色に見える有様。ミュエルはそれを見るだけでも吐き気がしてきた。
「この中で何がどうなっているのか、想像したくもありませんな……うっぷ」
「掃除も虫も平気だが、この匂いはなんとかならぬのか……!うぅ……吐きそうだ……」
アキラが思わず口元を腕で覆う。芥虫程度では平然としていた久永もマスクで防げない異臭に涙目になっていた。
「みんな……頑張ろう。もうちょっとで玄関が見える!」
奏空が指差す方向には前方のゴミが減った事で崩れたゴミ山の一角。その端から玄関の扉が見えていた。
「そうですよ……あと、もうちょっとです……」
吐き気でうつむいていたアキラと久永の腕に八重が触れると、汚れていたゴム手袋とツナギの袖が元の白さを取り戻した。
「これは……プロパル!」
「……ふふ……ゴミまみれで嫌と思ってたら習得してました……」
どこか遠い目をする八重だったが、この思わぬ助けは覚者達の士気を大いに上げた。
いくらツナギを着ていると言っても異臭を放つもので汚れるのは良い気持ちがしない。しかしプロパルがあればいつでも綺麗になるのだ。
やる気を取り戻した覚者達はその後もせっせとゴミ山をどかし、時々出て来る虫にも負けずついに玄関までの道を切り拓く事に成功した。
仕上げに片付けの間にこぼれた物や破れた袋などを一まとめにし、しっかりと新しい袋に詰め込んで作業は終了だ。
「俺が終焉の地に送るとしよう(訳:ゴミ処理センターに持って行きます)」
ツナギとマスク姿で言い残した雅刀を見送り、覚者達はいよいよゴミ屋敷の中へと突入する。
●vsG!
玄関を掘り出しはしたが、Gが玄関を開けた瞬間出て来るのを警戒して最後の一山だけは残してある。
「では、いきます!」
アキラはその一山を掴み取り除くと同時に家の中に突入。残り五人も次々と突入し、Gの玄関からの脱走を防ぐために先程のゴミの一山で改めて玄関を閉ざし、扉を閉める。
家の中は外とは違ってゴミ袋の一つどころか家具も壁もなく、変色した床のあちこちに砕けた壁か何かの破片が落ちているだけだった。
最初の一人が玄関口から廊下へと足を踏み入れた瞬間、カサカサゴソゴソと音が聞こえて来た。
来たか……!
覚者達に緊張が走り、その視線が一斉に家の隅にある床の穴へと注がれた。
「おっしゃ、来い!」
奏空がゴム手袋を放り投げて覚醒。薄暗い中でも暗視能力を持たせた桃色の瞳は床下から出て来る姿をはっきりと捉えていた。
「うひぃ……あんまりはっきり見たくない」
と、見てから思わず弱音が出てきたが、Gは容赦なくその姿を現す。
「解身(リリース)!」
Gの頭部と前足が出てきた瞬間、アキラの体が爆音と共に閃光を放ち薄暗い室内を一瞬眩しく照らし出した。
光が収まった後には鈍色の装甲を纏ったアキラの姿と……対峙する全長3mの巨大なG!眩しい光と音は床下にいたGをまんまとアキラの所に誘き寄せたのだ。
誘き寄せられ出てきたGはアキラの方に頭を向け、触角を揺らしている。餌と思って出て来てみれば一筋縄ではいかなそうな気配を感じたのか、覚者達の出方を窺っているようだ。
「見れば見るほど嫌なフォルムですな」
アキラはそれが命綱だった日々を思う。FiVEに拾われるまで、こんな物でも食べなければ生きていけなかった。
「この御恩は是非とも返さねばなりますまい。征くぞ、ジャイアント・G!」
仲間を守る盾となるべく、アキラはGの前に立ちはだかる。対するGはわしゃわしゃと触角と口元を動かしたかと思うと口から液体を吐き出した。液体はアキラにかかり、異臭が立ち上る。
「く、臭い……! なんだこの臭さは! くっ、このまま私を溶かして食べるつもりですか!」
液体の臭さなのかその効果なのか、急に慌て出したアキラ。
「犬童さん、しっかりするんだ!」
これはおかしいと感じた奏空の演舞・舞衣がアキラの混乱を回復させたが、堂々たる対峙を行っていたアキラの変化は覚者達に一見汚らしいだけのべとべとの脅威を教えていた。
その光景を見ていたミュエルは自分に暗示をかけるようにつぶやきながら槍を構る。
「大丈夫……落ち着いて……落ち着こう……落ち着けば、大丈夫……」
落ち着いていない。明らかに落ち着いていない。構えた槍が震えている。
「やはりこの程度では効かぬか……?」
久永は多少なりとも仲間の気が楽になればとマイナスイオンを使っていたが、Gの恐怖はそれを上回っているようだ。
更にGは恐怖を煽るように縦横無尽に駆け回る。ただの虫であるGでも恐ろしく素早いと言うのに、妖のGは覚者達ですら捕らえるのが困難な程のスピードを誇っていた。
そしてそのスピードのままに突っ込む体当たりは避けるのも難しい。どかどかと前衛を跳ね飛ばし、時には飛翔して後衛にも突撃してくるG。
「うぅ……こうしてみると、いつも以上に恐ろしいです……」
清廉香で味方の回復力を底上げした後、八重は仲間との連携のため攻撃に移っていた。じっくり見てしまうのを我慢して集中しているのだがなかなか当たらない。逆に八重の方が体当たりやべとべとを食らっている状態だった。
「これは長期戦になりそうだのう」
久永の攻撃も上手く当たっておらず、多少当たった所でGは元気に駆け回っている。
久永もGの攻撃にさらされてはいるが、なんとか大きなダメージだけは逃れている。背に腹は代えられないが「べとべと」だけは嫌だと言う気持ちが回避に表れたのだろうか?
芥虫は平気でもゴミ溜まりが駄目だった久永にとって異臭を放つべとべと液こそが脅威らしい。
しかし、この場に置いてGに耐性がある者は少数派である。
「ひっ……! こ、こっち向いた……!」
棘一閃が良い所に当たったのか、ぎぃと鳴いた(?)Gが自分の方を向いた瞬間、ミュエルは思わず硬直した。更に羽を広げて飛びかかってくるのを見た彼女の恐怖はいかばかりか。
「Gが飛んだ!」
それを見た周囲からもぎゃあと悲鳴が上がり、Gの巨体は勢いよくミュエルを押し倒す。
「あし、足っ、足がっ!」
わしゃわしゃ動く足と腹の下敷きになったミュエルから悲鳴が上がった。バッドステータス云々ではなく素で大混乱である。
「それ以上はやらせません!」
アキラは自分にGの体液がかかる事も恐れず拳を振るい、Gを追い払う。
「あ、ありがとう……」
「なんの。これが私の役目ですから」
力強く応えたアキラだったが、戦闘が始まってからずっと拳で攻撃し味方への体当たりをガードしたいたために全身がもう大変な事になっている。かかった体液はほぼGが吐き出した攻撃用のべとべとだ。八重、奏空、久永、ミュエルと六人中四人から回復受けられるので体力には余裕があるが、気分までは晴れない。
そんなアキラが弱ってきたと思っているのか、Gの口元はやたらとわしゃわしゃ動いている。
「おいG! お前のエサになってたまるかっての!」
俺だって速さには自信があるんだ! と、Gに負けじと奏空が苦無を手に突撃する。素早く反応するGだったが、奏空の苦無は背中の羽を傷付けた。
「ほう、向こうも少しばかり疲れているようだなあ」
完璧な回避が減って来た事に、久永が若干笑みを浮かべていた。その髪にべったりとGの内容物がかかり異臭を放っている。
「このべとべとばかりは避けたかったのだが、ようもやってくれたのう」
笑ったのか怒りに歪めたのか、口元が弧を描きエアブリットがGに炸裂する。
「俺も負けていられんな」
七重としても、正直に言えばこんなモノを自分の刀で切ると思うと穢らわしい。刀にGの中身がべたりと付くのも気分が悪いが、そうも言っていられまい。
「お前の穢を削ぎ落としてやろう、きっちりウエルダンでな」
わずかな金属音と炎を纏った一撃がGの体に焼けただれた傷を作る。傷口からこぼれる内容物まで焼いたのは狙ったのか偶然か。
その攻撃はかなりの痛みを与えたのか、Gは一瞬迷うようにがさがさと動き回る。もしかしたら床下へと逃げようとしていたのかも知れないが、床下に繋がる穴の方には先程痛い一撃をくれた七重と久永、そしてミュエルが槍を構えており、玄関の方はアキラ、奏空、八重がいる。
「攻撃方法を変えてきましたね!」
それに気付いたアキラの頭上をべとべとした液が飛んで行く。
何度体当たりしても反撃して来る上に痛い目に遭わせてきた餌に対し、Gはそのまま齧り付くのは無理と判断したのかべとべとの液を吐きかけて弱らせる行動に出た。
離れた場所にまで飛ぶべとべとはガードしきれず、地味に覚者達の体力を削る。覚者達の攻撃は確実にGを弱らせて来ていたが、覚者側も一人限界が近付いている者がいた。
「また飛んだぞ、気を付けろ!」
奏空の警告が向けられた先には八重がいた。体力は限界に近く、味方の回復は間に合わない。
八重が覚悟して身構えた次の瞬間、体を襲う激しい衝撃。しかし、目を開けた八重が見たのは床に倒れているGだった。
Gの背中の一部は焼けただれ、羽もあちこちが歪んで見える。どうやらこれまでの攻撃が体を弱らせ、飛翔の時にバランスを崩したようだ。
「す、隙ありです!」
体勢を立て直したGに八重のエアブリットが直撃した。
「兄様!」
「任せろ」
八重の近くに駆け寄ってきていた七重は妹の仕返しとばかりに炎を纏わせ、燃え盛る火撃がGの体を焼きながら抉る。
「よっしゃとどめだ!」
「やられっぱなしじゃ……終わらないから!」
奏空の苦無が、ミュエルの槍が七重が抉った傷口から更に深い所を突き上げ、貫く。
断末魔の声もなくGはバタバタと足を激しく動かし、やがて足の動きが弱まると同時にその命は潰えていた。
●戦い終わって日が暮れて
Gの姿が溶けるように消え、室内に響くのは覚者達の呼吸のみ。
「終わった……」
奏空は膝をつき、放心したかのように動かなくなる。
次々と床に座り込み、あるいは壁にずるずると寄りかかり、覚者達は心身ともに疲れ果てて夕暮に染まる部屋の中でぐったりとしていた。
「……お風呂、入りたい……」
「ああ……こればかりはいただけんのう」
ミュエルと久永がGの内容物でべったりと汚れて固まった髪の束をつまんで嘆く。この場にいる全員が同じ気持ちである。
「出来ればすぐに帰ってお風呂に入りたいです……ぅう、なんだか変な匂いとか染みついている気がします……」
気がするのではなくしっかり染みついているが、幸か不幸か八重の鼻は麻痺しているようだ。
そんな妹を慰める七重だったが、ふとある事に思い至ってGの出入り口となっていた床の穴を見る。
「あのG、卵など産んでいないだろうな?」
卵。その一言に周囲の空気が一瞬固まった。
Gの卵。全長3mのGの卵……!
妖が卵を産むだろうか? しかし、もしかしたらそう言う事もあるかもしれない。と、一瞬でも考えると頭から否定できなくなってしまった。
「あとで、このゴミ屋敷……役所とかに、報告して、片付けてもらったほうが……いいよね…?」
皆の顔を窺いつつミュエルが言う。となると次に来るであろう役所か清掃業者かの人が襲われないよう、安全を確認してしかるべきであろう。
「……」
しばしの沈黙の後、覚者達は床下の確認に向かう。
その後床下で何を見たのか、彼らの口から詳しい事は語られなかった。
「帰ったら、自室も掃除するとしましょう……」
暗い目で呟いたアキラに、全員が頷いたのみ。
ともあれゴミ屋敷に住み着いた巨大なGは倒された。いずれは妖が住み着いた事により広がった健康被害も収束し、業者の手によりゴミは姿を消すだろう。
しかし、それは疲れ果てている覚者達には関係ない先の話。今彼らに必要なのは、何よりもまず汚れを落とし心身の疲れを癒す風呂と清潔な衣服であった。
「一番風呂を譲ってやるつもりはない」
この一言が原因でどこかの兄妹が喧嘩をしたかも知れないが、風呂に入ればきっときれいさっぱり流されるだろう。
雑多に積み上げられたゴミの山。離れた所からでも漂ってくる異臭。秋も深まった時期だと言うのに元気に飛び回る羽虫。ゴミ屋敷は魔境のような様相を呈していた。
「自分も整理整頓は苦手な方ですが、これ程までとは……!」
犬童 アキラ(CL2000698)は自分の慎重よりもはるかに高いゴミの山に呆れる。ゴミ袋の間から雑誌や粗大ゴミらしき物が見えていたりと、その混沌ぶりがよく分かる。
「これは……酷いな……このような場所、本当に人間が住んでおったのか……?」
そやつ本当に人間か!?と、驚愕している由比 久永(CL2000540)。この世はまだまだ余の知らぬ事が多いな。などと言っているが、こんな事で世界を広げないでいただきたい。
「もう既に気持ち悪い……このゴミ屋敷自体が、妖にならなくて……不幸中の幸い、かも……。」
明石 ミュエル(CL2000172)は近くまで飛んで来た羽虫に顔をしかめて追い払い、追い払われた虫は緊張した面持ちでゴミ屋敷を見詰めていた工藤 奏空(CL2000955)にペチンと体当たりしてからゴミの影に消えて行く。
「Gだけでも充分なのに……」
虫の体当たりを食らった奏空は、同行していた海棠 雅刀(nCL2000086)の所へ清掃道具一式を借りに走る。
用意された物は不織布のツナギ、ゴム手袋、マスク、ゴーグルなど。かなり本格的な物が揃えられており、雅刀はすでに完全装備で奏空に同じ物を手渡していた。
他の覚者達もその道具一式とゴミ屋敷の惨状を見て気合いを入れ直し、装備を完了した者から道を切り拓かんとゴミの山に挑んで行った。
「うぅ……ゴミが凄いです……」
兄と一緒の仕事だと喜んでいた十夜 八重(CL2000122)だったが、想像以上の惨状にやや及び腰である。
「八重、そっちは俺がやる」
そんな彼女に破れたゴミ袋や変色して異臭を発する物がいかないように片付けているのが義兄の十夜 七重(CL2000513)である。普段の身長ではやりにくいと思ったのかすでに長身の成人男性の姿に覚醒していた。
普段いじっている兄の頼りがいを感じる姿だが、八重は首を横に振る。
「人にだけやらせて……とは行きませんから……」
小さな白い翼を羽ばたかせ、高い所で下のゴミを圧迫している物を取り除いて行く。上からの圧迫が無くなってくると重みでつぶれていたゴミが取り出しやすくなり、作業も捗り始める。
しかし、周辺住民を幾度も退けてきたゴミ山は覚者達にも楽ではない相手だった。
「やれやれ、何て数のゴミ袋だ」
「よくもこれだけ汚したものだ。妖がある程度”掃除”してくれたらしいが、住人もゴミと一緒に食われたんじゃないか?」
どかしてもどかしても底が見えない大量のゴミ。アキラも七重も結構な数のゴミをどかしたが、山は変わらず聳え立っている。
「あ、そこ崩れそうです!」
「おっと」
高い位置にいた八重がぐらりと揺れた一角を見て二人に警告すると、どさどさとゴミ袋がいくつか崩れ落ちてきた。その音か落下に驚いたのか、袋の中から虫がささっと走って行く。
「……今……あれが……小さいけど、あれが走って……」
「うむ、芥虫であったな」
走って行った虫にミュエルと奏空が硬直し、久永は平然とその正体を口にする。
「芥虫?」
「聞き返さなくていいです!」
「ゴキブリのことだよ」
「言わないでください!」
耳慣れない単語に聞き返したのは上にいて虫が見えなかった八重。ミュエルが自分の腕を抱え込むようにごしごしとさすり奏空が鳥肌を立てる勢いで叫んだが、久永はやはり平然として答えた。
「貴方もそう言うのは平気なのか?」
「普通のサイズの芥虫なら捕まえられるぞ」
七重の質問に返って来たのは、線の細い見た目に似合わぬとんだ衝撃発言である。想像してしまったのか周囲から声にならない悲鳴が上がった。
しかし、ゴミ山を片付けていて一番厄介な物は何よりもその異臭だった。紙屑のような物だけならまだましだったかもしれないが、汚れ物や生ゴミなどが混ざったゴミ山の異臭は凄まじい。
「……気持ち悪い……」
雨も降っていないのにじっとり濡れた一角は、黒くないはずのゴミ袋まで黒とも緑とも言えない色に見える有様。ミュエルはそれを見るだけでも吐き気がしてきた。
「この中で何がどうなっているのか、想像したくもありませんな……うっぷ」
「掃除も虫も平気だが、この匂いはなんとかならぬのか……!うぅ……吐きそうだ……」
アキラが思わず口元を腕で覆う。芥虫程度では平然としていた久永もマスクで防げない異臭に涙目になっていた。
「みんな……頑張ろう。もうちょっとで玄関が見える!」
奏空が指差す方向には前方のゴミが減った事で崩れたゴミ山の一角。その端から玄関の扉が見えていた。
「そうですよ……あと、もうちょっとです……」
吐き気でうつむいていたアキラと久永の腕に八重が触れると、汚れていたゴム手袋とツナギの袖が元の白さを取り戻した。
「これは……プロパル!」
「……ふふ……ゴミまみれで嫌と思ってたら習得してました……」
どこか遠い目をする八重だったが、この思わぬ助けは覚者達の士気を大いに上げた。
いくらツナギを着ていると言っても異臭を放つもので汚れるのは良い気持ちがしない。しかしプロパルがあればいつでも綺麗になるのだ。
やる気を取り戻した覚者達はその後もせっせとゴミ山をどかし、時々出て来る虫にも負けずついに玄関までの道を切り拓く事に成功した。
仕上げに片付けの間にこぼれた物や破れた袋などを一まとめにし、しっかりと新しい袋に詰め込んで作業は終了だ。
「俺が終焉の地に送るとしよう(訳:ゴミ処理センターに持って行きます)」
ツナギとマスク姿で言い残した雅刀を見送り、覚者達はいよいよゴミ屋敷の中へと突入する。
●vsG!
玄関を掘り出しはしたが、Gが玄関を開けた瞬間出て来るのを警戒して最後の一山だけは残してある。
「では、いきます!」
アキラはその一山を掴み取り除くと同時に家の中に突入。残り五人も次々と突入し、Gの玄関からの脱走を防ぐために先程のゴミの一山で改めて玄関を閉ざし、扉を閉める。
家の中は外とは違ってゴミ袋の一つどころか家具も壁もなく、変色した床のあちこちに砕けた壁か何かの破片が落ちているだけだった。
最初の一人が玄関口から廊下へと足を踏み入れた瞬間、カサカサゴソゴソと音が聞こえて来た。
来たか……!
覚者達に緊張が走り、その視線が一斉に家の隅にある床の穴へと注がれた。
「おっしゃ、来い!」
奏空がゴム手袋を放り投げて覚醒。薄暗い中でも暗視能力を持たせた桃色の瞳は床下から出て来る姿をはっきりと捉えていた。
「うひぃ……あんまりはっきり見たくない」
と、見てから思わず弱音が出てきたが、Gは容赦なくその姿を現す。
「解身(リリース)!」
Gの頭部と前足が出てきた瞬間、アキラの体が爆音と共に閃光を放ち薄暗い室内を一瞬眩しく照らし出した。
光が収まった後には鈍色の装甲を纏ったアキラの姿と……対峙する全長3mの巨大なG!眩しい光と音は床下にいたGをまんまとアキラの所に誘き寄せたのだ。
誘き寄せられ出てきたGはアキラの方に頭を向け、触角を揺らしている。餌と思って出て来てみれば一筋縄ではいかなそうな気配を感じたのか、覚者達の出方を窺っているようだ。
「見れば見るほど嫌なフォルムですな」
アキラはそれが命綱だった日々を思う。FiVEに拾われるまで、こんな物でも食べなければ生きていけなかった。
「この御恩は是非とも返さねばなりますまい。征くぞ、ジャイアント・G!」
仲間を守る盾となるべく、アキラはGの前に立ちはだかる。対するGはわしゃわしゃと触角と口元を動かしたかと思うと口から液体を吐き出した。液体はアキラにかかり、異臭が立ち上る。
「く、臭い……! なんだこの臭さは! くっ、このまま私を溶かして食べるつもりですか!」
液体の臭さなのかその効果なのか、急に慌て出したアキラ。
「犬童さん、しっかりするんだ!」
これはおかしいと感じた奏空の演舞・舞衣がアキラの混乱を回復させたが、堂々たる対峙を行っていたアキラの変化は覚者達に一見汚らしいだけのべとべとの脅威を教えていた。
その光景を見ていたミュエルは自分に暗示をかけるようにつぶやきながら槍を構る。
「大丈夫……落ち着いて……落ち着こう……落ち着けば、大丈夫……」
落ち着いていない。明らかに落ち着いていない。構えた槍が震えている。
「やはりこの程度では効かぬか……?」
久永は多少なりとも仲間の気が楽になればとマイナスイオンを使っていたが、Gの恐怖はそれを上回っているようだ。
更にGは恐怖を煽るように縦横無尽に駆け回る。ただの虫であるGでも恐ろしく素早いと言うのに、妖のGは覚者達ですら捕らえるのが困難な程のスピードを誇っていた。
そしてそのスピードのままに突っ込む体当たりは避けるのも難しい。どかどかと前衛を跳ね飛ばし、時には飛翔して後衛にも突撃してくるG。
「うぅ……こうしてみると、いつも以上に恐ろしいです……」
清廉香で味方の回復力を底上げした後、八重は仲間との連携のため攻撃に移っていた。じっくり見てしまうのを我慢して集中しているのだがなかなか当たらない。逆に八重の方が体当たりやべとべとを食らっている状態だった。
「これは長期戦になりそうだのう」
久永の攻撃も上手く当たっておらず、多少当たった所でGは元気に駆け回っている。
久永もGの攻撃にさらされてはいるが、なんとか大きなダメージだけは逃れている。背に腹は代えられないが「べとべと」だけは嫌だと言う気持ちが回避に表れたのだろうか?
芥虫は平気でもゴミ溜まりが駄目だった久永にとって異臭を放つべとべと液こそが脅威らしい。
しかし、この場に置いてGに耐性がある者は少数派である。
「ひっ……! こ、こっち向いた……!」
棘一閃が良い所に当たったのか、ぎぃと鳴いた(?)Gが自分の方を向いた瞬間、ミュエルは思わず硬直した。更に羽を広げて飛びかかってくるのを見た彼女の恐怖はいかばかりか。
「Gが飛んだ!」
それを見た周囲からもぎゃあと悲鳴が上がり、Gの巨体は勢いよくミュエルを押し倒す。
「あし、足っ、足がっ!」
わしゃわしゃ動く足と腹の下敷きになったミュエルから悲鳴が上がった。バッドステータス云々ではなく素で大混乱である。
「それ以上はやらせません!」
アキラは自分にGの体液がかかる事も恐れず拳を振るい、Gを追い払う。
「あ、ありがとう……」
「なんの。これが私の役目ですから」
力強く応えたアキラだったが、戦闘が始まってからずっと拳で攻撃し味方への体当たりをガードしたいたために全身がもう大変な事になっている。かかった体液はほぼGが吐き出した攻撃用のべとべとだ。八重、奏空、久永、ミュエルと六人中四人から回復受けられるので体力には余裕があるが、気分までは晴れない。
そんなアキラが弱ってきたと思っているのか、Gの口元はやたらとわしゃわしゃ動いている。
「おいG! お前のエサになってたまるかっての!」
俺だって速さには自信があるんだ! と、Gに負けじと奏空が苦無を手に突撃する。素早く反応するGだったが、奏空の苦無は背中の羽を傷付けた。
「ほう、向こうも少しばかり疲れているようだなあ」
完璧な回避が減って来た事に、久永が若干笑みを浮かべていた。その髪にべったりとGの内容物がかかり異臭を放っている。
「このべとべとばかりは避けたかったのだが、ようもやってくれたのう」
笑ったのか怒りに歪めたのか、口元が弧を描きエアブリットがGに炸裂する。
「俺も負けていられんな」
七重としても、正直に言えばこんなモノを自分の刀で切ると思うと穢らわしい。刀にGの中身がべたりと付くのも気分が悪いが、そうも言っていられまい。
「お前の穢を削ぎ落としてやろう、きっちりウエルダンでな」
わずかな金属音と炎を纏った一撃がGの体に焼けただれた傷を作る。傷口からこぼれる内容物まで焼いたのは狙ったのか偶然か。
その攻撃はかなりの痛みを与えたのか、Gは一瞬迷うようにがさがさと動き回る。もしかしたら床下へと逃げようとしていたのかも知れないが、床下に繋がる穴の方には先程痛い一撃をくれた七重と久永、そしてミュエルが槍を構えており、玄関の方はアキラ、奏空、八重がいる。
「攻撃方法を変えてきましたね!」
それに気付いたアキラの頭上をべとべとした液が飛んで行く。
何度体当たりしても反撃して来る上に痛い目に遭わせてきた餌に対し、Gはそのまま齧り付くのは無理と判断したのかべとべとの液を吐きかけて弱らせる行動に出た。
離れた場所にまで飛ぶべとべとはガードしきれず、地味に覚者達の体力を削る。覚者達の攻撃は確実にGを弱らせて来ていたが、覚者側も一人限界が近付いている者がいた。
「また飛んだぞ、気を付けろ!」
奏空の警告が向けられた先には八重がいた。体力は限界に近く、味方の回復は間に合わない。
八重が覚悟して身構えた次の瞬間、体を襲う激しい衝撃。しかし、目を開けた八重が見たのは床に倒れているGだった。
Gの背中の一部は焼けただれ、羽もあちこちが歪んで見える。どうやらこれまでの攻撃が体を弱らせ、飛翔の時にバランスを崩したようだ。
「す、隙ありです!」
体勢を立て直したGに八重のエアブリットが直撃した。
「兄様!」
「任せろ」
八重の近くに駆け寄ってきていた七重は妹の仕返しとばかりに炎を纏わせ、燃え盛る火撃がGの体を焼きながら抉る。
「よっしゃとどめだ!」
「やられっぱなしじゃ……終わらないから!」
奏空の苦無が、ミュエルの槍が七重が抉った傷口から更に深い所を突き上げ、貫く。
断末魔の声もなくGはバタバタと足を激しく動かし、やがて足の動きが弱まると同時にその命は潰えていた。
●戦い終わって日が暮れて
Gの姿が溶けるように消え、室内に響くのは覚者達の呼吸のみ。
「終わった……」
奏空は膝をつき、放心したかのように動かなくなる。
次々と床に座り込み、あるいは壁にずるずると寄りかかり、覚者達は心身ともに疲れ果てて夕暮に染まる部屋の中でぐったりとしていた。
「……お風呂、入りたい……」
「ああ……こればかりはいただけんのう」
ミュエルと久永がGの内容物でべったりと汚れて固まった髪の束をつまんで嘆く。この場にいる全員が同じ気持ちである。
「出来ればすぐに帰ってお風呂に入りたいです……ぅう、なんだか変な匂いとか染みついている気がします……」
気がするのではなくしっかり染みついているが、幸か不幸か八重の鼻は麻痺しているようだ。
そんな妹を慰める七重だったが、ふとある事に思い至ってGの出入り口となっていた床の穴を見る。
「あのG、卵など産んでいないだろうな?」
卵。その一言に周囲の空気が一瞬固まった。
Gの卵。全長3mのGの卵……!
妖が卵を産むだろうか? しかし、もしかしたらそう言う事もあるかもしれない。と、一瞬でも考えると頭から否定できなくなってしまった。
「あとで、このゴミ屋敷……役所とかに、報告して、片付けてもらったほうが……いいよね…?」
皆の顔を窺いつつミュエルが言う。となると次に来るであろう役所か清掃業者かの人が襲われないよう、安全を確認してしかるべきであろう。
「……」
しばしの沈黙の後、覚者達は床下の確認に向かう。
その後床下で何を見たのか、彼らの口から詳しい事は語られなかった。
「帰ったら、自室も掃除するとしましょう……」
暗い目で呟いたアキラに、全員が頷いたのみ。
ともあれゴミ屋敷に住み着いた巨大なGは倒された。いずれは妖が住み着いた事により広がった健康被害も収束し、業者の手によりゴミは姿を消すだろう。
しかし、それは疲れ果てている覚者達には関係ない先の話。今彼らに必要なのは、何よりもまず汚れを落とし心身の疲れを癒す風呂と清潔な衣服であった。
「一番風呂を譲ってやるつもりはない」
この一言が原因でどこかの兄妹が喧嘩をしたかも知れないが、風呂に入ればきっときれいさっぱり流されるだろう。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『Gバスターズ』
取得者:犬童 アキラ(CL2000698)
『Gバスターズ』
取得者:十夜 八重(CL2000122)
『Gバスターズ』
取得者:十夜 七重(CL2000513)
『Gバスターズ』
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
『Gバスターズ』
取得者:由比 久永(CL2000540)
『Gバスターズ』
取得者:明石 ミュエル(CL2000172)
取得者:犬童 アキラ(CL2000698)
『Gバスターズ』
取得者:十夜 八重(CL2000122)
『Gバスターズ』
取得者:十夜 七重(CL2000513)
『Gバスターズ』
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
『Gバスターズ』
取得者:由比 久永(CL2000540)
『Gバスターズ』
取得者:明石 ミュエル(CL2000172)
特殊成果
なし
