友ヶ島覚者と斬鉄交差する 源素を斬る者源素を繰る者
友ヶ島覚者と斬鉄交差する 源素を斬る者源素を繰る者


●大妖
 強くなりたいという欲求は生物であるなら誰もが持ちうる感覚だ。
『斬鉄』大河原鉄平にとって、それは行動原理ともいえる。自らを鍛え、技を磨き、感覚を研ぎ澄まし。そうやって積み重ねて強くなってきた。
 故に――
 覚者を鍛えぬき、その能力を奪うことで力を増す『一の何か』とは意見が合わなかった。自らの肉体を自ら動かすことなく、他者の努力を奪うような成長法だ。
 実際のところ、それは在り方の違いなのだろうとは思っている。鉄平にとって強くなる方法と、『一の何か』が強くなる方向。その違いなのだというのは理解している。そういうやり方でないと成長できない。ただそれだけだ。
 それは鉄平も納得している。成長するために殺す自分と、成長するために覚者を争わせる環境を作る。どちらが酷いかといわれればどちらも大差ない。他人から奪って成長するという点において、鉄平も『一の何か』も人から見れば同じなのだ。
 やり方もあり方も納得している。ただ唯一納得できないのは、
「あいつを斬れないっていう一点だけなんだよな」
 命を斬り、山を斬り、そして源素まで斬れるようになった『斬鉄』だが、『一の何か』は斬れない。斬ることに意味がない。斬っても源素がある限り、すぐに力を取り戻す。アレを倒すには五つの源素を同時に斬るか、あるいは源素そのものを――
「……来たか」
 目を覚ます。眼前に広がる海と砂浜。暑い日差しと潮風。そして覚者達が乗っているだろう船。
「思惑はどうあれ、強い奴らが生まれるっていうのは感謝しねぇといけねぇな」
 四本ある腕を回して柔軟運動をし、大妖は戦いの準備を始めた。

●覚者
「よう。それじゃ始めるか」
『斬鉄』大河原鉄平は言うなり抜刀し、戦いの準備を始めた。
 大妖。この日本を恐怖に貶める存在の一角。源素を斬る覚者の天敵。好戦的な性格は、それを生み出した『一の何か』に噛みつくほどである。
 一見共通の敵を持つがゆえに共闘できそうでもあるが、それは無理だという結論が出た。理由は簡単。
「あ? 協力して戦っても面白くねぇだろうが」
 この大妖にとって、大事なのは自分が楽しめるかどうか。その為に戦い、その為に刃を抜く。強いと言われる古妖にケンカを売り、弱い相手は歯牙にもかけない。その行動原理は『自分が楽しめる戦いをする』だけであった。故に共闘はできない。それは面白くないからだ。
『斬鉄』が刀を振るう。それと同時に五色の『線』が網状に形成され戦場である友ヶ島を包むように発生した。それは少しずつ中心に向かって狭まっていく。島を包んだ鳥かごが少しずつ小さくなるように。
「あれは源素を斬る剣閃だ。木火土天水の五本。これに刻まれれた者は、その源素が使えなくなる。そして物理的にお前達を中央まで集め、最終的には五色全てに斬られて、全ての源素が使えない存在になる。
 そうなる前に俺を殺せば、線は消える」
 ざわめく覚者達。源素を斬るとは聞いていたが、こんな技まで使うとは思わなかった。そんな顔だ。
「止めるには同色の源素をぶつけるしかない。自分の属する源素をぶつければ、斬られるまでの時間を稼ぐことが出来る。
 だらだらやるのは性に合わないだろう。俺も逃げねぇ、お前達も逃げねぇ。それで行こうじゃないか」
 そのつもりがあるなら、覚者達はこの島でゲリラ的に戦う事もできる。自然に隠れ、長期にわたって大妖を足止めすることもできる。これはそんな戦いをさせない為のタイムリミットだ。
「俺は島の中央で待ってるぜ」
 言って島の中央まで跳躍する『斬鉄』。
 誰がどの『線』を止め、誰が大妖に挑むか。それが要となる。『線』を止めるにしても無傷とはいかない。大妖が生み出した源素を斬る剣閃だ。止めるにしても相応の反発があることは想像に難くない。
 そして大妖に向かう者も同じだ。源素を斬る大妖は、術式が十全に機能しないと思った方がいい。水の術式を斬られれば回復が出来ず、火の術式が斬られれば火力が押さえられるのだ。
 しかしここで逃げるという選択肢はとれない。それをやれば平和的に大妖と戦える機械は失われるだろう。覚者を追い込むために一般人を殺すことを躊躇しないのが大妖なのだ。今回の『気まぐれ』が続くとは限らない。
 覚者達は頷き、それぞれの戦場へと向かう――



■シナリオ詳細
種別:決戦
難易度:決戦
担当ST:どくどく
■成功条件
1.五色の斬撃全てが到達するまでに『斬鉄』を倒す
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 最後の大妖戦――

●敵情報
・『斬鉄』大河原 鉄平
 四本腕の人間型大妖です。『鉄を斬った』という二つ名が存在します。
 源素を切ることが出来るため、覚者との相性は最悪です。

 攻撃方法
繻子灰火 物近列  持っている刀の一つ。【焔傷】
水師妹紅 物近貫3 持っている刀の一つ。【失血】(100%、50%、25%)
土壌灰塵 物近単  持っている刀の一つ。【劇毒】【三連】
老木空虚 物遠全  持っている刀の一つ。
瞬息の武 自付   ???
弾指の護 自付   術式体術に関わらず、遠距離攻撃に対する防御力増加。
『斬鉄』  P   かつて存在した『金』属性を斬った証。すなわち源素自体を斬る能力。特定の属性を選び、1ターンの間その属性の術式を使用不可にする。

●戦場
・五色の斬撃
 友ヶ島を包むように現れた剣閃の結界です。木火土天水それぞれの色が存在し、斬られれば源素が使えなくなります。最終的には中央で交差し、戦場全ての覚者は五種類すべての源素が使えなくなります。
 自分が持つ源素をぶつける(源素の術をぶつけたり、身に纏って耐えたり等)ことで、同色の剣閃を止める事が出来ます。これにより時間切れまでの時間を伸ばすことが出来ます。
 斬撃が『斬鉄』と戦う戦場まで届いた場合、その源素に属する術式は『斬鉄』で使用不可となります。

●プレイング
 便宜的に戦場を二つに分けます。【大妖】と【源素】です。
・【大妖】
『斬鉄』に挑みます。
【源素】で止めきれなかった斬撃が到達した場合、その源素が使用不可になります。また 斬撃が五本到達した場合、強制的に敗北となります。
 戦場には『斬鉄』一人のみです。

・【源素】
 源素をぶつけ、『五色の斬撃』を止めます。止める事が出来る源素は自分の属する源素のみです。止め方は様々です。源素そのものを前面に押し出して止めたり、術式を放ったり、身に纏って耐えたり。
 大妖と戦うよりは危険度は低いですが、怪我を追う可能性は充分にあります。

●戦場
 和歌山県友ヶ島。人払いや動物などの避難は済んでいます。 
 大妖は島の中央にある草原におり、五色の斬撃は海岸から少しずつ大妖の方に向かって収縮していきます。
 事前付与は一度だけ可能とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
(1モルげっと♪)
相談日数
8日
参加費
50LP
参加人数
31/∞
公開日
2019年08月28日

■メイン参加者 31人■

『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『五麟の結界』
篁・三十三(CL2001480)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)
『モイ!モイ♪モイ!』
成瀬 歩(CL2001650)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『地を駆ける羽』
如月・蒼羽(CL2001575)
『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『鬼灯の鎌鼬』
椿屋 ツバメ(CL2001351)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『ファイブブラック』
天乃 カナタ(CL2001451)
『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)


 友ヶ島を包む五色の斬撃。その中央に立つ大妖『斬鉄』。
 斬撃を止める者、大妖に向かう者。覚者達はそれぞれの役割を胸に友ヶ島を走る。
「なんだよ源素を斬る力って!? 反則じみてるだろうが!」
『ファイブブラック』天乃 カナタ(CL2001451)は大妖の能力に叫ぶ。どちらかと言うと文句ではなくやる気を出す為の叫びに近い。大声を出して気持ちをリラックスし、自分のやるべきことを整理した。
「斬撃止めるって術式放つでいいんかな……? おお、いけるいける!」
 試すようにカナタは水の攻撃術式を放ち、青の斬撃にぶつける。その動きが僅かに止まったのを確認し、テレパスで覚者達に伝えた。そのまま水の源素を集め、斬撃に向かって解き放つ。
「貯金もたくさんしないといけないし、頑張るぞ!」
「うおおおおおおおおおお!」
 気合を入れて火の斬撃に挑む『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)。持ち前の元気と気合をあげながら火の源素を体内からかき集め、迫る斬撃に向かってぶつける。拳に集めた火の源素と、『斬鉄』の斬撃がぶつかり合う。
「この先世界がどうなるか不透明だけど、いまこのときを全力で乗り越えるぜ!」
 一悟が気にしているのは未来のことだ。この戦いに勝てたとして、平和が訪れるのか。源素は、覚者は、人間はどうなるのか。今まさにその分水嶺に立っている。だが、不安におびえるよりも体を動かす。それが奥州一悟という少年なのだ。
「ぜったい、斬鉄の所まで届かせないからな!」
「はい! いのりが皆様を守りますわ!」
 一悟の言葉に気合を入れて頷く『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)。『斬鉄』と戦う者達の為に、斬撃はここで食い止める。天の力を『冥王の杖』に集め、稲妻に変えて解き放つ。激しい雷撃が斬撃と拮抗する。
「不穏な性質さえなければなかなか美しい物ですが」
 迫る斬撃を見ながら、いのりはそう呟く。この斬撃は源素を斬るもの。『斬鉄』の技術そのもの。それ自体には敬意を表し、美しいとさえ感じる。だからこそ、その斬撃を全力で止める。それが『斬鉄』に対するいのりの礼節だ。
「かの大妖と対峙する方々の為、止めさせていただきます!」
「そうだな。死ぬわけにはいかないもんな」
 うんと頷く藤森・璃空(CL2001680)。強くなりたい。面白い勝負がしたい。そんな『斬鉄』の気持ちは納得はできるが理解はできない。因子発現前は体が弱く寝込んでいる事が多かったからこそ、戦いよりも生きることが重要だと思ってしまう。
「まあ、見捨てるわけにはいかないか」
 言いながら璃空は木の源素を斬撃にぶつける。本当に死にたくないのなら、こんな戦いには参加しない。いや、死にたくないのは変わりない。それでも大事な仲間やまだ知れぬ誰かを見捨てる事が出来ないのが璃空だった。
「体力や気力が少なくなってきたら言ってくれ」
「まだ大丈夫。危なくなったらいうよ」
 言っててをひらひらと振る高比良・優(CL2001664)。拳銃を手に火の源素に立ち向かいながら、大妖の事を考えていた。破綻して消え去った覚者の神具から派生した存在。ただ斬り、殺すことに特化した大妖。……そのくせに大妖の中で一番人間味のある性格。
(強くなりたいとか面白くないとか、それに名前もね。元になった人とかいるのかな?)
 大河原鉄平。その名前で調べても何もわからなかった。偽名なのか、そもそも存在した人間なのかもわからない。分かれば何か別の道があったかもしれない。だが、そんなことはなかったのだ。炎の弾丸を放ちながら、優はその可能性と決別する。
「簡単には止まらないみたいだね」
「それでもあきらめないの!」
 迫る水の斬撃を前に野武 七雅(CL2001141)が叫ぶ。水の源素を見に纏い、水の源素をぶつけるように解き放つ。斬撃を押し返すことも完全に止めることもできないが、それでも大妖と戦う者への援護になればと気力を振り絞る。
「氣力が尽きるまで思いっきり水の力を出し切るの!」
 七雅は叫びながら水の源素を斬撃にぶつける。体内にある源素を一点に集中させ、槍のようにとがらせて解き放つ。強いイメージこそが覚者の力。水道の蛇口を一基に回すイメージを描きながら、七雅は力を放出する。
「なつねは挫けないの!」
「水行の源素はぜったいにお兄ちゃんやさとみん達のとこにはいかせないんだから!」
 大妖で戦う人達のことを思いながら『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)は力を振り絞る。大妖の斬撃は鋭く、止めることは容易ではない。だが大事な人のことを思うと力が湧いてくる。乾いた喉に差し出された水のように、力が染み入ってくる。
「絶対に後ろに下がらない!」
 自らに水を纏わせて、斬撃に向かって手を広げて受け止める歩。鋭い痛みが体中を襲うが、それは斬撃を止めている証でもあった。痛みで途切れそうになる意識を何とか保ちながら、前に進もうと足を動かす。
「あゆみはまだ弱いけどっ……でもそれでも、頑張ることはできるんだから!」
 五色の斬撃を止める覚者達。
 その奮闘が、大妖と戦う者の背中を押していた。


 友ヶ島の中央部。心地良い潮風が吹く草原。
 そこは今、覚者と大妖が戦う戦場となっていた。
「流石は大妖。一筋縄ではいきませんね」
『五麟の結界』篁・三十三(CL2001480)は『斬鉄』に与えられたダメージを癒すべく、水の源素を活性化していた。時折大妖の一閃で水の源素が断ち切られることがあるが、その時はあわてずに翼を振るって風の弾丸を撃ち放つ。
(歩ちゃんは無事だろうか……?)
 遠くから迫る五色の斬撃。三十三はそれを気にしながら、そちらに立ち向かった少女のことを思っていた。ここにいる以上、危険なことには変わりない。そうと分かっていても心配するしてしまう。
「大妖を早く倒さなくては……!」
「焦ったらあかん。仲間を信じてあたしらは全力で挑むんや」
 刀を構えたまま『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は言う。それは自分自身に言い聞かせるようでもあった。四本の刀とそれを自在に操る技量。それを前に凛の身体は震えていた。それは恐怖か、それとも武者震いか。凛自身にも判断がつかない。
「流石に強いわ。せやけど、負けるつもりはあらへんで!」
 叫びながら凛が突撃する。突きをいなされ、斬撃を受け止められる。だがそれは隙を生むための布石。一瞬だけ脱力して筋肉を弛緩させ、生まれた隙を逃さず一歩踏み込んだ。守護使役の力を借り、かつて戦った隔者の構えを取る。繰り出された突きが道を切り開く。
「行くで! にゃんた、八神のおっさん!」
「大したもんだ! そいつが人間得意の『力を合わせる』ってやつか」
「ええ。大妖にはできなかったことよ」
 大妖の言葉に応える『月々紅花』環 大和(CL2000477)。大妖は人間よりも強い。だが、それらが力を合わせる事はなかった。人間にはそれが出来る。それが人間の強みなのだと信じている。だから――今こうして戦えるのだ。
「覚悟しなさい。この戦いに至るまで尽力した『皆』の力に」
 仲間の傷を癒しながら、大和は静かに告げる。友ヶ島にいる覚者達の強さは、一人ではなし得なかった経験からだ。そして友ヶ島の人や動物を戦場から遠のけた裏方や島神の裏方活動。その全てが、大和を支えている。
「諦めずに戦いましょう。皆の期待に応える為に」
「ツム姫ー、チーカマが夏バテしてきちゃったよ。マヨネーズない?」
「はいはい、後でマヨネーズかき氷あげるから、チーカマちゃんと一緒にドカンと一発かましておいで」
 守護使役の『チーカマ』と共に戦う『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)と、その後ろで回復を行う『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)だ。高い防御力を生かして大妖の前に立つプリンスと、その背後から回復を他の覚者に施していく紡。並の覚者ならこの防御力と回復力を前に何もできないだろう。
「やあ、今日は貴公のお願い聞いてあげるよ。こんな感じで!」
 プリンスは言いながら巨大なハンマーを振るい、『斬鉄』に叩きつける。相手が源素を斬るというのなら、源素に寄らない体術の攻撃を仕掛けていた。そして相手の隙を伺いながら、最高の一撃を出すために力を溜めていた。
「大ボスエリアの辻ヒールってね。殿ー、しばらく耐えててねー」
 紡は大妖と戦う者達の為に癒しの術式を振りまいていた。炎に出血に毒に。大妖の振りまくバッドステータスは数が多く、そして一撃が強烈だ。癒しの手を止めれば戦線は瓦解するだろう。守りの強いプリンスがいるからこその戦略だ。
「楽しい戦いとか言う民ほど、楽しさと勝ち負けが天秤にかかると勝ちにしがみつくものだけど。貴公は負けても楽しくなってくれるクチかい?」
「そりゃ負けたら悔しいとは思うぜ。でも、それはそれだ。楽しさ優先で負けるつもりはねぇが、勝ちに執着して自分を曲げるつもりはねぇよ」
「典型的な戦闘好きか。分かりやすいんだけど、敵ボスがこの性格っていのは迷惑千万だよね」
 プリンスの問いかけに応える『斬鉄』。勝ち負けに無感情ではないが、結果は結果と受け入れる。そんな性格の人間を紡は何人か知っていた。やれやれと肩をすくめ、術を展開する。手を休めている余裕はない。
「話が出来る方なのに……戦わないといけないのですね」
 覚者と会話をする大妖を見て、『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)は物憂げに呟く。無関係な人間を巻き込まずに友ヶ島で戦うという事を了承してくれたのに、戦わないという選択はできなかった。
「人間同士でも戦わなくちゃいけない事もあった。そういうもんさ」
 その事実に表情を曇らせる燐花の肩を叩いて、『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)が口を開いた。覚者と隔者、そして憤怒者。同じ人間同士でも簡単に仲良くはできなかった。どうしようもない隔たりは、確かに存在しているのだ。
「……そうですね。行きます」
 恭司の言葉に迷いを振り切るように燐花は地面を蹴る。天の源素で自らを強化し、二本の妖刀をもって『斬鉄』に迫る。繰り出される二閃と交差する四閃。手数の少なさを持ち眼の速度でカバーし、斬撃の隙を縫うようにして一撃を繰り出した。
「燐ちゃん! 左に跳んで!」
 言葉と共に稲妻を放つ恭司。その稲妻が燐花を狙う『斬鉄』の刀に落ち、その動きを止める。いずれ離れる間柄ではあるが、それは今ではない。この手が動く限りは彼女を守ろう。そう誓い、恭司は戦場に立っている。
「ありがとうございます……」
「いい連携だ。少し妬けてくるぜ」
「どういたしまして。大妖でもそういう気分になるってわかっただけでもいい収穫だ」
 敵対する者同士とは思えない会話。しかしそれも一瞬。覚者と大妖は再び激しくぶつかり合う。
 それはまさに大嵐。大妖と言う豪風の中、覚者は退くことなく前に進み続ける。その先にある未来に向かって。
 友ヶ島の戦いは、激化していく。


「うおーーー!! ミラノのきあいっ! とどけっ!!」
ククル ミラノ(CL2001142)は元気いっぱいに叫び、木の源素を斬撃にぶつける。ピンと尻尾を立てて、両手でで源素を突き出すようにして斬撃を止めていた。じわりじわりと押し返されるが、それでも負けないと気合を入れて源素を放出する。
「面倒くさいというか よく考えられているというか」
「二人とも無茶をしないようにね」
「んー……無茶しないと行けない気もするけど……頑張りまーす」
『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)が五色の斬撃を見て、頭を掻いて面倒くさそうに呟く。その背中に『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)が注意をするように声をかけた。大妖相手にそれは無理じゃない、と言いたげに『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)は呟くが、とりあえず笑ってごまかした。
「吹っ掛けられたケンカだ。高く買ってあげないとな」
 言って彩吹は火の斬撃に向かう。天の源素で身体能力を底上げし、ブーツに炎を纏わせて一気に迫る。そのまま羽を広げて一気に迫り、重力加速を加えて斬撃に蹴りを加えた。羽を広げてその場に留まり、回転するように炎の打撃を加えていく。
「根競べで負けるわけにはいかない」
 蒼羽は天の斬撃に向かい、稲妻を放つ。この斬撃をどれだけ止められるかが大妖戦の勝負の要だ。ならばここで全力を出さずしてどうするか。自分が傷を負うことなど問題ない。仲間を守るために蒼羽は身を乗り出して戦う。
「彩吹さんも蒼羽さんも無茶しないでねー」
 自分の身体の傷をいとわない二人に向けて、千雪が声をかける。今回は相手に守られることも相手を守ることもない。複雑な気持ちではあるが、もどかしくもあった。木の源素を斬撃にぶつけながら、二人の方をちらちらと見る。
「私の怪我はなんとかなる」
「何度も言うけど無茶は禁止だから」
「そう言っている二人が無茶しすぎじゃないかー。だったら僕も多少のお目こぼしはー……むりかなぁー」
 斬撃に傷つく彩吹と蒼羽。それを見て苦笑いする千雪であった。
「『土行の線』をおさえるよぉ!」
『ホッケースティック改造くん』の先端に土の源素を集めながら『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)は声をあげる。小さな体だがそこに秘められた力は並の覚者を上回る。内包している源素もまた、潤沢だ。
「てりゃあ! 斬鉄ちゃんを困らせちゃうんだからぁ!」
 全力で土の斬撃に立ち向かう奈南。大妖の斬撃を受け止めながら、しかし笑顔で立ち向かう。それは持ち前の元気の良さでもあるが、大妖と戦う仲間を守りたいという思いも強かった。ここで笑顔を絶やして泣き言をいうつもりはない。
「土行は硬い源素! まだまだ負けないよ!」
「……天、行くよ」
 小さく呟いて、鳥の守護使役を撫でる大辻・想良(CL2001476)。妖は倒す。当然大妖もだ。だがその為に天の斬撃を止めなくてはいけない。タヂカラヲの力を皆に付与し、想良も斬撃に向かって向き直る。
「天行の、力……」
 想良は意識するように言葉を呟く。普段あまりしゃべらない想良だからこそ、紡ぎ出す言葉は強い意志が込められている。生まれた稲妻は真っ直ぐに斬撃に向かって飛び、激しい雷音と共に斬撃の動きを緩めていく。
「他の人は、無事……?」
「問題ない。気力もまだまだ十分だ」
 火の斬撃を止めながら『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)は言葉を返す。体内に熱を宿し、武器に炎を纏わせて振り払う。炎の圧力で斬撃を押しとどめるが、気を抜けば斬撃が迫ってくる。
「気が抜けないな。だがまだ折れるつもりはないぞ」
 じわりじわりと後退しながらツバメは『大鎌・白狼』を振るう。白い狼の紋様がついた刃に絡みつくツバメの炎。ごうごうと燃える炎はツバメの戦意そのものだ。ツバメが折れない限り、この炎は消えない。大妖の斬撃に屈することなく、炎は燃え盛っていた。
「しかし『源素を斬れる』者が、『源素を統べる』者に勝てないというのはどういう事だ……?」
「おそらく『一の何か』は大妖が壊しきれないほどの源素を持っている……?」
 ツバメの言葉に応えるように上月・里桜(CL2001274)が口を開いた。FiVEの覚者を一網打尽に出来る斬撃を放てても、『一の何か』には届かない。それは真実なのだろう。そんな相手にどうやって挑めばいいのか……。
「いいえ、今は――」
 頭を振って思考を今に戻す里桜今やらなければならない事は、大妖に勝つこと。土の源素を身にまとい、大地に源素を通して槍に変化させてぶつける。固く鋭い一撃が斬撃にぶつかり、激しく拮抗する。
「例え源素を斬る力だとしても、ここで負けるわけにはいきません!」
「斬る……壊す力じゃ、勝てない……んだと思う」
 言葉を選びながら桂木・日那乃(CL2000941)は口を開く。無表情に水の斬撃を見ながら、しかしその脳内で様々な事を考えている。この斬撃は? 大妖は? そして源素は?
(どうして源素をぶつけると止まる、の? 源素を否定する力も、源素、だから?)
(誰かを傷つける、源素。誰かを回復する源素。みんな、同じ。……この斬撃に、回復の術式をかけても、止まる……?)
 日那乃の思考は、少しずつ何かを掴みつつある。それは源素と言う問題に向き直ってきた彼女だからこそ導き出せた答え。水の源素を斬撃にぶつけながら、一つの可能性に到達する。
(源素を、操る……総べる……ひとりじゃ無理、だけど)
(みんなでやれば、きっと)


「もっと違う形で会ってたら友達になりたかったなって思うけどな!」
『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)は『斬鉄』に向かいそう叫ぶ。律儀にもこちらの言い分を守って友ヶ島までやってきた大妖。永き時を自らの研鑽に使う精神性。だが、共闘はできない。ならば道は別たれたのだ。
「力を貸してくれ! 空丸!」
 守護使役に声をかけ、意識を集中する翔。これまで守護使役と歩んできた経験。それが翔の中で駆け巡る。それが翔の源素を活性化させ、激しい雷光となって大妖の刀を穿った。守護使役に向かい指を立てて、感謝の意を示す翔。
「どうだ! 空丸とオレの絆の強さ、思い知ったか!」
「ああ、大したもんだ。だが俺を倒すにはまだまだだぜ」
「流石は最後の大妖。まだまだ疲弊する様子もありませんね……」
『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は大妖の動きを見ながら汗をぬぐう。『斬鉄』の言葉は強がりなどではない。本当にまだ倒すには至らない。そんな動きだ。こちらを騙すような性格ではない事は解っている。頬を叩いて、気合を入れた。
「皆さん、回復は任せて存分に戦って下さいね」
 澄香は言って炎を生み出す。源素の力ではない理。再生の炎が澄香を中心に向かって広がり、体に纏わりつく不浄を燃やし尽くしていく。火の鳥が灰から復活するように、清らかな炎から病魔を払われた覚者達が現れる。
「この戦いを無事に終えて、お疲れ様の慰労会を開くんです」
「いいですね! 私、お菓子を用意しますよ!」
 魔女の三角帽子の位置を治しながら『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は澄香の言葉に頷いた。日常に帰る。その気持ちを忘れてしまえば、精神は摩耗してしまう。大事な場所を守る気持ちこそが、覚者の原動力なのだ。
「集え、満たせ、そしてかき混ぜろ。魔女祭の夜に炎よ来たれ――」
 熱を溜める。炎を溜める。呪文を重ね、魔法陣を重ね、源素を重ね。鍋を煮込むようにラーラは炎を魔導書に溜めこんでいた。溜めこんだ熱を魔力で圧縮し、そして解き放つ。龍に似た炎の獣がラーラの本から生まれ、大妖を飲み込んでいく。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
「――あの攻撃にも耐えるか……!」
 ラーラの放った炎の中から現れる大妖を見て『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は唾を飲んだ。流石は大妖と改めて気を引き締めながら、ゆっくりと友ヶ島の新鮮な空気を吸い込んだ。
「『悠かに遠き――」
 ラーラと同じようにゲイルも水の源素を溜めこむ。一ヶ所にため込むのではなく、円のように循環させて。この流れこそが水の源素。生命を育む水の流れ。乾いた星を潤し、命を満たした原初の水。それをイメージしながら、結びの言葉を紡ぐ。
「――始源の蒼』!」
「腕をあげたな。自らの魂を削らずとも、その領域に至ったか」
「ああ、腕をあげたぜ! ようやく『戦い』になるな!」
 言いながら拳を振るう『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)。以前相対した時は力の差は歴然だった。今もまだ差はあるが、それでも『戦い』になる。個人の武技、培った技、知恵と工夫。その全てをもって大妖に挑む。
「待たせたな、大河原さん! 今度こそ『戦おう』ぜ!」
 拳に源素を乗せて、空手の型で打ち込む。空手の基礎。覚者の基礎。それを貫き通し、極めた一打。基本の積み重ねこそが奥義なのだ。遥は相手を憎まない。ただ楽しい戦いが出来ればいい。そして目の前の相手は、最高の相手だと信じていた。
「最後の最後まで、楽しもうぜ!」
「お前のようなやつばかりだと、楽しい世の中なんだろうな!」
「元の『大河原鉄平』もそういう人間だったって事だろうね!」
 刀を手にした『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が言葉を継ぐ。神具がベースの『斬鉄』だが、その人格は人のそれだ。おそらく、神具だった時の元の持ち主の性格なのだろう。真実を突き止める術はないが、そうなのだろうと奏空はあたりをつけていた。
「お前にある『一の何か』を倒そうとする理由はきっとその人の理由なんだろう。それを知ることはできないけど――」
 言いながら身をかがめ、奏空は『斬鉄』に迫る。四本の刀を受け止め、かいくぐり、そして針の穴程の隙を見出す。迷うことなくそこに突きを放ち、大妖の肉体を傷つけた。まず一歩。細かな積み重ねは探偵の基礎。僅かな傷から勝機を組み立てていく。
「お前の遺志は受け継ぐ! 『一の何か』は俺達が必ず斬ってみせる!」
「殺せるもんなら殺してみな。そいつが出来なきゃ、ここで終わりだ!」
「誰も殺させやしません!」
『斬鉄』の攻撃に『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994) が言葉を返す。そのまま大妖の攻撃を塞ぐように呪符を展開し、覚者を守る結界を形成する。誰も死なせない。その想いを胸にたまきは戦場に立つ。
「私は皆さんの盾です。どんな攻撃も通しません!」
 土の加護を見に纏い、たまきは大妖の攻撃を受け止めていた。参式を放つ為に源素を溜める仲間を守りながら、同時にたまき自身も隙あらば参式を放つ隙を伺っていた。大妖の刀を受けて傷つきながら、その闘志は揺るがない。
「『一の何か』を倒して、この国の未来も守って見せます!」
「いい覚悟だ。だが精神論で刀は止まらない。あの斬撃もな」
 四本の刀を振るいながら、『斬鉄』は事実を告げる。少しずつ迫ってくる五色の斬撃。他の覚者達も傷つきながら頑張っているが、それでもその動きを止めるには至らない。そして大妖にも傷を与えているが、今すぐ倒せるかと言われれば難しい。
 それでも覚者達に諦めの文字はない。絶望を感じながらも、前に進む意思だけは折れない。
 だが島の中央でもわかるほどに五色の斬撃は迫ってきている。覚者達の奮闘がなければ既に斬撃は全員を刻んでいただろう。だが、完全に止めるには至らない。斬撃を止める者も、大妖に挑む者も、全力を尽くして疲弊している。
「全ての源素を守りきってみせるよ」
 水の斬撃を塞ぎながら『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は五色の斬撃全てを見る。押されていることも、時間が足りない事も理解している。それでも決意と共に弓を手にする。豊四季に代々受け継がれる破魔弓。その名に恥じぬ者になると決意して。
「――Dead Or Alive」
 秋人は静かに言葉を放ち、水の術式を展開する。その意味は『生死問わず』……生きていてもいい。死んでいてもいい。だがその中間――半死半生はありえない。命があるなら完全に生きる。命がないならそのまま死ぬ。その境界線を分ける術式だ。
「友ヶ島に居る皆。生きて戦うんだ」
 言葉と共に秋人の身体を中心に冷たい風が吹く。夏の空気にそぐわない冷たい風。その風に含まれるのは雪の結晶。それは癒しの成分が凝縮された水の源素の塊。それは友ヶ島の風と融合し、島全体に広がっていく。
「まだまだ!」
「斬撃を止めるんだ!」
「大妖に負けてたまるかー!」
 FiVEの覚者達はその雪を受け取り、立ち上がる。乾燥した体に捧げられた一滴の水。しかしそれは体に染み入り、奇跡の癒しを施していく。
「あと一歩だ。僕らは大妖なんかに負けない」
『涼風豊四季』――後にそう呼ばれる奇跡を放ちながら、秋人は声をあげて覚者達を鼓舞する。覚者達は肉体的にも精神的にも激励され、神具を構えて突き進む。
「はは! すごいぜお前ら――!」
 その気迫に大妖は笑みを浮かべる。驚きもあるが、退屈を癒されたような笑みだ。
「ああ! 俺達には仲間の絆と守護使役の絆の力がある!」
「人から受け継いだ技、自身が磨いた技、そして仲間との合力!」
 奏空と遥が共に『斬鉄』に向かって迫る。
 奏空は『ライライさん』と力を合わせ、奏空自身の力も限界まで引き上げて。
 遥は暴力坂の戦闘技術を駆使して身体能力を向上させ、鍛錬を重ねた拳を繰り出し。
「今オレが出せる最大の力だ! 受け取れ!」
「これで終わりだぁ!」
 同時に繰り出される拳と刃。大河原鉄平は四本の刀を防御ではなく、二人を迎撃するために振りかぶり――
「――惜しかったな」
 大河原鉄平は言って刀を振るう。
「――ぐっ!?」
「あの状況で反撃とか、やっぱすげぇぜ。大河原……!」
 斬られた奏空と遥が膝をついた。
「あともう少し深けりゃ、」
 鉄平の胸には斬撃と拳の跡。そこから光り輝く何かが漏れるように放出している。
「俺の、勝ちだった――のになぁ」
 ぐらり、と大妖の巨体が揺れる。そのまま崩れ落ちるように倒れ伏した。
「オレ達の――」
「勝ちだ!」
 膝をついたまま勝鬨をあげる遥と奏空。
 勝利を告げるその波紋はすぐに島中に広がっていった。


 戦いの終了を聞いて、FiVEのバックアップ部隊がやってくる。
 秋人の癒しのおかげで予想よりも怪我人が少なかった事もあり、怪我の治療は滞りなく終了する。
「大河原さん……」
 地に伏す『斬鉄』にたまきが近づく。妖が消える様は何度も見てきた。大妖も同じだというのなら、消滅は免れないだろう。
「貴方は『一の何か』を滅する方法を知っていますね?」
「……ああ」
「教えて、貰えますか?」
 たまきは静かに願う。鉄平がFiVEに情報を渡す義理はない。そもそもこうして命を奪ったのだ。恨まれる筋合いの方が強い。
「……『斬る』でもなく、『倒す』でもなく、『滅する』……だ。あれは斬れない。倒せない。出来る事は、源素を総べるアイツの力を奪い、滅することだ。
 単純な力押しじゃなく、源素そのものを操り――その力を――」
 言葉を言い切るより前に、最後の大妖は消え去った。持っていた刀もいつの間にか消えている。
「後で弔ってやらないとな」
 消滅するまで様子を見ていたゲイルは、言って手を合わせる。大妖に祈るなどおかしな話だが、あの男にならそうしてもいい気がする。
 夏風が静かに、草原を薙いでいた。

 最後の大妖を倒したニュースは、瞬く間に日本中に広がった。
 四半世紀この国を脅かしていた存在が消え、人々は歓喜の声をあげる。平和が戻ってきたと、未来に希望を抱いていた。
 だが――FiVEの者達は知っている。これが最後ではない事を。
『一の何か』……源素を総べる者。真に平和を取り戻すには、けして無視できない相手。
 その存在との戦いは、決して遠くない未来のことなのだ――


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『涼風豊四季』
取得者:鈴白 秋人(CL2000565)
特殊成果
なし




 
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