≪黄泉を超えて≫思い知れ 人の強さと団結と
●『死界法葬』
四国を走る大妖『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号――
大妖が形成する結界『死界法葬』により、その内側に居る存在は皆『死』を体現している。ありとあらゆる死を経験し、大事なものを奪われ、人としての尊厳を傷つけられる。肉体的な尊称こそ皆無だが、精神は確実に疲弊していく。
そしてその結界そのものが『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号そのものなのだ。それを霧散させるには四国に散らばったすべての『中継点』と大妖本体を叩かなくてはいけない。
四国にちりばめられた死の数、百二十八個。その一つ一つがランク3の妖で、それを護るように妖が徘徊している。しかしケモノ四〇六号がいる限り、妖は増えていく。
ランク3の妖を、ケモノ四〇六号の生産能力よりも早く叩きながら、大妖本体を潰さなくてはいけないのだ。どれだけの時間と、労力が必要なのだろうか。そしてその間にも四国の人達は疲弊し、心が壊されていく。
誰もがそう考え、心を折る。大妖に、そして妖に勝てる術がない。嵐が過ぎるのを待つように、下を向くしかない。
――本当に?
●FiVE
「百二十八体の妖、全て位置が分かった」
中 恭介(nCL2000002)は集まった覚者を前に説明を開始する。隣の部屋では夢見達や情報収集専門のスタッフがぐったりしているのはそういう理由か。覚者達はなんとなく悟った。
「作戦らしい作戦は、ない。四国中を走り回り、これら妖を全て討つ。移動手段は用意する」
うはぁ、とため息をつく覚者の声が聞こえた。渡された地図を見るが、本当に強行軍だ。移動スケジュールもびっしり書かれており、まともに考えればすぐに棄却するアイデアだ。時間をかけてゆっくりと進めるのが安全で確実だろう。
だが断行しなければならない事情は四つある。
一つ、四国の人達をできるだけ早く悪夢から解放したい為。
一つ、ケモノ四〇六号に妖を補充される前に決着をつける為。
一つ、時間が経てば妖が移動し、正確な位置が掴めなくなる為。
一つ、大妖とそれを操る存在に対する意思表明。こんな脅しには屈しないと言うパフォーマンス。
当然、これを為すには相当の覚者の数が必要になる。
逆に言えば、人数がいればいるほどスムーズに事が運ぶ。
「この戦いは『黄泉路行列車』に直接攻撃を仕掛けるチームへの援護射撃にもなる。結界の起点となっている妖はケモノ四〇六号そのものだ。夢見情報だがこれら妖と『本体』は五感や痛みも繋がっているようなので、妖を倒せば倒すほど大妖にもダメージを与える事が出来る寸法だ」
128体の妖は『本体』が倒された時の『ストックボディ』である。端的に言えばそれら一つ一つも『黄泉路行列車』なのだ。故にそれらを叩くことで『本体』に影響を与える事が出来る。
「この戦いが後に第四次妖討伐抗争と呼ばれるかどうかは解らない。だが人の歴史に残る戦いになることには変わりない」
大敗すれば人は大妖に蹂躙され、歴史すら残らないかもしれないのだが。
「人間の尊厳をかけた戦いだ。よろしく頼む」
中の声に送られて、覚者達は四国を走る――
四国を走る大妖『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号――
大妖が形成する結界『死界法葬』により、その内側に居る存在は皆『死』を体現している。ありとあらゆる死を経験し、大事なものを奪われ、人としての尊厳を傷つけられる。肉体的な尊称こそ皆無だが、精神は確実に疲弊していく。
そしてその結界そのものが『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号そのものなのだ。それを霧散させるには四国に散らばったすべての『中継点』と大妖本体を叩かなくてはいけない。
四国にちりばめられた死の数、百二十八個。その一つ一つがランク3の妖で、それを護るように妖が徘徊している。しかしケモノ四〇六号がいる限り、妖は増えていく。
ランク3の妖を、ケモノ四〇六号の生産能力よりも早く叩きながら、大妖本体を潰さなくてはいけないのだ。どれだけの時間と、労力が必要なのだろうか。そしてその間にも四国の人達は疲弊し、心が壊されていく。
誰もがそう考え、心を折る。大妖に、そして妖に勝てる術がない。嵐が過ぎるのを待つように、下を向くしかない。
――本当に?
●FiVE
「百二十八体の妖、全て位置が分かった」
中 恭介(nCL2000002)は集まった覚者を前に説明を開始する。隣の部屋では夢見達や情報収集専門のスタッフがぐったりしているのはそういう理由か。覚者達はなんとなく悟った。
「作戦らしい作戦は、ない。四国中を走り回り、これら妖を全て討つ。移動手段は用意する」
うはぁ、とため息をつく覚者の声が聞こえた。渡された地図を見るが、本当に強行軍だ。移動スケジュールもびっしり書かれており、まともに考えればすぐに棄却するアイデアだ。時間をかけてゆっくりと進めるのが安全で確実だろう。
だが断行しなければならない事情は四つある。
一つ、四国の人達をできるだけ早く悪夢から解放したい為。
一つ、ケモノ四〇六号に妖を補充される前に決着をつける為。
一つ、時間が経てば妖が移動し、正確な位置が掴めなくなる為。
一つ、大妖とそれを操る存在に対する意思表明。こんな脅しには屈しないと言うパフォーマンス。
当然、これを為すには相当の覚者の数が必要になる。
逆に言えば、人数がいればいるほどスムーズに事が運ぶ。
「この戦いは『黄泉路行列車』に直接攻撃を仕掛けるチームへの援護射撃にもなる。結界の起点となっている妖はケモノ四〇六号そのものだ。夢見情報だがこれら妖と『本体』は五感や痛みも繋がっているようなので、妖を倒せば倒すほど大妖にもダメージを与える事が出来る寸法だ」
128体の妖は『本体』が倒された時の『ストックボディ』である。端的に言えばそれら一つ一つも『黄泉路行列車』なのだ。故にそれらを叩くことで『本体』に影響を与える事が出来る。
「この戦いが後に第四次妖討伐抗争と呼ばれるかどうかは解らない。だが人の歴史に残る戦いになることには変わりない」
大敗すれば人は大妖に蹂躙され、歴史すら残らないかもしれないのだが。
「人間の尊厳をかけた戦いだ。よろしく頼む」
中の声に送られて、覚者達は四国を走る――

■シナリオ詳細
■成功条件
1.四国を悪夢から解放する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
ザ・人海戦術! いやまあ、どちらかというとピンポイント爆撃なのですが。
この依頼は『≪黄泉を超えて≫黄泉走る 汽車は現世に不要なり』と同一タイミングで行われていますが、同時参加可能です。(ただし明らかに状況に齟齬が出る場合はマスタリングが行われます)
また、この依頼の参加人数に応じて『≪黄泉を超えて≫黄泉走る 汽車は現世に不要なり』で敵に与えるダメージが増加します。
●敵情報
・幾何学ナイトメア(多数)
自然系妖。ランク3。形状は正八面体の結晶体。様々な色に発光しながら、覚者達を惑わしてきます。バッドステータスで足止めするタイプ。
曰く『妖に対する恐怖の具現化』のようです。ケモノ四〇八号から発せられた悪夢を周囲に反射しているとか。五感をケモノ四〇六号と共有しているため、受けたダメージは大妖に送られます。
四国中に点在して存在しています。自発的な行動はしませんが、攻撃されれば反撃します。
攻撃方法
赤色発光 特近列 赤く発光し、近くにいる者に衝撃波を放ちます。【二連】
橙色発光 物遠列 橙に発光し、ホルモンバランスを狂わせます。【麻痺】【猛毒】
青色発光 物近貫3 青い光線を放ち、直線状の敵を薙ぎ払います。(100%、50%、25%)
紫色発光 特遠敵味全 紫色の光線を放ち、悪夢に誘います。【睡眠】【Mアタック100】【不安】【溜1】
白色発光 特遠列貫2 白く発光し、冷気で敵の動きを止めます。(100%、50%)【氷結】
・護衛妖(多数)
幾何学ナイトメアを護る妖です。ランク1。一体のナイトメアに対し、三体ほど存在します。
悪夢に沿った形をしています。基本的に近接物理攻撃を仕掛けてきます。
●場所情報
四国全土。一二八体の幾何学ナイトメアの場所は解っていますので、各地に散って戦ってもらいます。戦闘後は回復しながら移動して戦う形です。
時刻は夜。明かりや移動手段などはFiVEが支給してくれます。ヘリコプターあたりまでなら問題なく。軍用機は不可。お好みの手段で駆けつけてください。
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
皆様からのプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
25/∞
25/∞
公開日
2019年06月03日
2019年06月03日
■メイン参加者 25人■

●
「この広い四国全土をこの人数でとなると、効率良く行きませんとね……。大妖に向かう方達を除いた四つの班で手分けして各地に散りましょう」
と言う『居待ち月』天野 澄香(CL2000194) の提案により、覚者達は班分けされる。それぞれ輸送用のヘリに乗り、妖がいると予知された現場に向かっていく。
「……妖は、倒します……」
ぼそりと告げる大辻・想良(CL2001476) 。守護使役の『天』に周囲を偵察させ、状況を確認する。予知で聞いた情報と大きくは変わらない。それを皆に伝え、背中の羽根を広げた。
「これ以上、余計な夢を見させたりはしないよ。俺達全員の力でね」
『豊四季式敷式弓』を手にして『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565) は緊張をほぐすように弦に指をかける。四国の人達をできるだけ早く解放する。その為の強行作戦。それが吉と出るか否か。
「あの八面体が列車野郎の言わば分身って事か? てか数多すぎやろ怒るでしかし!」
幾何学ナイトメアを見ながら『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119) が呟き、そして虚空にツッコミを入れる。一二八体のランク3。各個撃破とはいえその数は凛が言うように多すぎだ。だが四国を救うためにやらねばならない。
覚者の準備が整うと同時にヘリが降下する。空を飛べない人用についてきた翼人が覚者達を抱えて、飛び降りた。それを感じ取った妖も臨戦態勢に入る。
「四国の人達を悪夢から解放するにはきばらんとな!」
守護使役の力を借りて空から着地した凛は、地面につくと同時に抜刀して戦場を駆けだす。抜き放った日本刀は月光を受けて煌めき、凛の源素を受けて赤く輝く。精錬された剣術が生み出す刃の奇跡は、高ランクの妖すら圧倒していく。
剣と刃。前世の技を取り入れた凛の動きは正に燎原の炎。最初はわずかなものだった炎が、瞬く間に戦場に広がっていく。その剣先に宿るは炎の極技。魂すら根絶する破壊の炎。裂帛と共に振るわれる刃が戦場を駆逐していく。
「女の根性見せたるで!」
「…………」
言葉少なく想良が妖を攻めていく。人間工学的につかみやすく、且つ源素を集中させやすい杖を持ち、戦場を跳び回る。背中の羽根を使って風の弾丸を打ち出し、杖に溜めた点の源素で稲妻を放っていく。
AAA職員だった父親は妖との対応で命を落とした。しかし想良自身はその時発生した感情を心の内に隠し、静かに生きている。だが、妖を許すつもりはない。父のような人を無くすために、妖は討つ。その決意を込めて戦場に立っていた。
「……光りました。攻撃、来ます」
「大丈夫。この程度なら、耐えれる」
想良の言葉に頷き、言葉を返す秋人。冷静に、そして大胆に。慌てて踏み込み過ぎることなく、しかしけして引くことはない。回復は仲間が行ってくれる。だから自分がやることは攻めるだけだ。
矢のない弓を番え、源素を矢と変化させて飛ばす。何千、何万と繰り返してきた弓の動作。立ち位置こそ敵の目前だが、この動作こそが秋人の戦闘の動きだ。不意の攻撃を回避しながら放たれた矢は、水の龍神となって荒れ狂う。
「天野さん、今です」
「はい。ククノチ様、よろしくお願いします!」
木の源素を十分に練り上げた澄香が、声と同時に術を解き放つ。一瞬で戦場を包み込む木の源素。源素は場の空気を支配し、凝縮した毒素の嵐を敵陣に巻き起こす。激痛と倦怠感。妖すら侵食する神の毒。
術式の反動に身をかがめながら、同時に確かな手ごたえに笑みを浮かべる澄香。まだ始まったばかりの作戦だが、やりきれると言う確信があった。それは自分が成長したこともある。だがそれ以上に、仲間のやる気が伝わってくるからだ。
「四国に平和が戻りますように、一刻でも早く妖を倒せるよう頑張りましょう」
澄香の言葉に頷く覚者達。
戦いはまだ、始まったばかりだ。
●
「仮にもランク3を少数で撃破って正気の沙汰じゃねーけど?」
しかも相手は大妖の一部ってはなしなんだけど、と『在る様は水の如し』香月 凜音(CL2000495) はため息をついた。暫く戦いから離れていたこともあって、先ずは勘を取り戻すところからか、と頭を掻いた。
「だいじょーぶ! ミラノがついてる!」
胸を叩いて太鼓判を押すククル ミラノ(CL2001142) 。猫の耳と尻尾をピコピコ振って喜びを示していた。戦う事自体が楽しいのではない。皆と戦えることがたのしいのだ。
「さて。場所はあそこですか。なら回り込んだ方がいいですね」
遠視と闇視の神秘を用いて高比良・優(CL2001664) が妖の位置を確認する。戦いは始まる前から始まっている。情報を仕入れ、相手より有利な位置を取る。この時点で八割決まっているのだ。
「しかし一二八体ですか。ええ、やって見せましょう」
地図を確認しながら篁・三十三(CL2001480) は頷いた。妖の数は決して少なくない。数を聞いただけで心が折れそうになるのも無理はないだろう。だが、人間は諦めない。その証左とばかりにこの戦いを勝ち抜くのだ。
「悪夢に囚われた方たちの為に、私にできることを……」
胸に手を当てて瞑目する上月・里桜(CL2001274) 。源素に目覚め、FiVEの覚者として戦って来た里桜。大妖に挑む力が自分達にあるのなら、死を恐れず進む。その覚悟があった。
覚者隊を乗せたヘリが降下する。妖が動き出すより先に覚者達は攻め立てた。
「大妖の分体と戦えるなんて光栄ですね」
銃を構え、優は皮肉気に告げる。アルバイト感覚で行っているFiVEの任務だが、まさかこんな大事件に呼び出されるとは。炎の術式を用いて身体を強化し、手にした銃を構えて妖に向けた。
心を沈めて、標準を合わせる。引き金に指をかけ、命を奪う事の意味を再認識する。この技を教えてもらったときに優が学んだ心構え。祈りを込めて、弾を撃て。過剰な三連撃は優の肉体を傷つけるが、それ以上のダメージを妖に与える。
「ん。術式の方がききそうかな」
「自然系妖のようですからね」
夕の言葉に頷く三十三。大妖の悪夢を受け取り、四国中に展開する妖。『死界法葬』と呼ばれる結界の起点にして大妖の分裂体。結界そのものが本体なら、術式で散らせると言うのはある意味道理なのだろう。そんな事を三十三は思っていた。
守護使役の『九十九』に明かりを照らしてもらいながら、視界を確保する三十三。『略式滅相銃・業型』に源素を注ぎ込み、水を弾丸と化して一斉射出する。秒間二百発の水の弾が戦場を蹂躙し、妖達を穿っていく。
「この戦い。やりとげてみせます」
「きっと、上手くいきます」
自分に言い聞かせるように里桜は呟いた。妖は強い。けして油断してはいけないし、気を抜ける相手でもない。それが一二八体。けして楽な戦いではないが、それでも上手くいくと口にした。後は行動するだけだ。
土の源素を神具に集め、呼吸と共に印を切る。イメージは一瞬。源素を解き放つと同時に術式とイメージを解放し、大地に命ずるように神具を振るった。里桜のイメージのままに大地は隆起し、妖を打ちつけていく。
「皆さん。お願いします」
「みんなっいっくよーーー! かいふくはまかせて♪」
歌うように踊るようにククルは叫ぶ。どこかおっちょこちょいで舌足らずな所があるが、長年FiVEで戦ってきた覚者には違いない。死の列車が運ぶ悪夢を吹き飛ばすような元気の良さが、ククルの声にあった。
それは雰囲気だけではない。ククルが手を動かし、足を動かすたびに癒しの源素が解き放たれ、仲間達の傷を塞いでいく。常に元気良く、決して挫けることのないククル。その精神こそ、この状況で必要なものなのかもしれない。
「すぐかいふくするのっ」
「任せて寝ていたいけど、そうもいかねーか」
言って嘆息する凜音。できうる限り何もしないで過ごしていたいが、それで平和になるわけではないのは解っている。矛盾しているかもしれないが、平和に生活するために戦わなくてはいけないのだ。
前世とのつながりを強く結び、水の源素を漂わせる凜音。まるで盤面を見るかのように冷静に戦場を見て、癒しの順番を決定する。判断し、行動する。滞りなく仲間を癒すのなら、動きを止めてはいけないのだ。
「んじゃまー、一二八体頑張りますか」
凜音の言葉に、それぞれ肯定の意志を示す覚者達。
分裂体の数は、少しずつ減っていく
●
「たくさんたくさん倒すんだよ! あゆみがんばる!」
元気よく『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650) は拳を振り上げる。大妖へ行く兄たちへのサポートと聞いて、強い意気込みで戦いに挑む歩。戦いは怖いけど、信頼できる仲間がいるから恐れはない。
「アユミ、前は任して下さいまし」
そんな歩に微笑みかける『モイ!モイ♪モイ!』ユスティーナ・オブ・グレイブル(CL2001197) 。覚醒して長身の姫騎士の姿となったユスティーナ。正しい礼節は人を安堵させる。それを示すかのように優雅な微笑みだ。
「敵が何体居ようとこの体が動く限りいのりは戦いますわ」
四国中に散った幾何学ナイトメアの場所。それを確認しながら『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268) は誓いを口にする。未だ悪夢に悩まされる四国の人達。この力はそういった人達を救うためにあるのだ。
「初戦が大妖の分体とか我ながら無謀……」
ため息をつく藤森・璃空(CL2001680) だが、逃げるつもりはない。苦しんでいる四国の人達のことを聞いて、見捨てられない性分が璃空に導いていた。何もしなかったところで誰も攻めはしない。だからと言って見捨てるわけにはいかなかった。
「オレは言ったさ。『四国中走り回ってでも、お前をぶん殴る』ってな! ああ、ちょうどいい!」
拳を握り、『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227) は吼える。『黄泉路行列車』と相対し、確かに遥はそう言った。数が百だろうが千だろうが構わない。体力の続く限り走り回り、精魂尽きるまで拳を振るう。その気持ちに何ら変わりはない。
FiVEのスタッフが運転するヘリが妖上空を通過する。急降下に近い速度で地上に近づき、翼人のスタッフに抱えられて地上に降り立つ覚者達。
「ワタクシ、民を守る。それだけに特化してますのよ」
大盾を構え、敵の侵攻を阻むように立ち出でるユスティーナ。ゆるふわなように見えるが流れる血は王家のモノ。受けた教育は民を守るための知識。最小限の采配で最大限の守りを。それが彼女の戦い方だ。
海の力を宿す衣を展開し、物理と源素の二重の砦としてユスティーナは妖の攻撃を受け止めていく。自ら攻めることはなく、傷ついた仲間を癒しながら戦線を維持していく。先導し、そして仲間を鼓舞する。それが彼女の王の在り方だ。
「ここが正念場です。ケモノ四〇六に向かう人達の為に、力を振り絞りましょう」
「ユスちゃんがいてくれるから、あゆみこわくないもん!」
ユスティーナの背後で勇気を振り絞る歩。因子発現するまでは病弱だった歩。あの時は『兄と同じになれた』と言う喜びがあった。今はその力を使って兄のサポートを行っている。こわくない。再度心の中で呟いて、戦場を見る。
書物に手を触れ、水の源素を活性化する。生まれた水は歩の意志に従い巨大な龍の形をとっていく。それは歩にとっての強さの象徴。兄の扱う雷龍をイメージし、それに似せるように水の龍は変化する。大きく口を開け、龍は戦場を蹂躙していく。
「だしおしみしないで全力でいくね!」
「攻撃は任せた。俺は適当に合わせていくから」
『錬丹書』を手に璃空が手を振る。幻想的な羽根を背中に生やし、木の源素を活性化していく。ぞんざいなように見えるが、それでも仲間を見捨てることはない。むしろ戦闘の緊張をほぐすような節があった。
状況を確認しながら、次の手を考える璃空。だが目まぐるしく変化する状況に置いて、行動骨子がなければ思考の手がかりを失う。攻撃、支援か、回復か。少しの思考の後に放たれた蔦が、妖の動きを制限していく。
「んー。こんなところか?」
「癒しの因子術を使って頂けるとありがたいですわ」
首を捻る璃空にいのりがそう答える。異邦人の因子を持つ者が持つ癒しの力。効果は微々たるものだが、長期戦になるのならあっても損はない。仲間の気力残量を表情や仕草から感じ取りながら、いのりは次の一手を考える。
杖を天高く掲げ、源素を打ち上げるように放ついのり。白く輝く天の源素は空中で爆発するように分裂し、細かな矢となって地に降り注ぐ。流星の如く妖を穿つ天の力。その光が悪夢を覚ます力とならんことをといのりは強く願う。
「いのり達が死出の旅へ貴方方を送り出して差し上げますわ!」
「全部廃車にしてやんぜ!」
拳を強く握り、遥は妖の群れに突撃する。人を人と思わない妖達。死の悪夢を見せ、心を折ろうとする卑劣なやり口。何もかもが気に入らない。人間を舐めるなと表情で伝え、全身の筋肉に力を込めた。
妖の攻撃をさばきながら、敵陣中央に踏み込む遥。四方を敵に囲まれた状態だが、むしろ望むところだと笑みを浮かべた。背骨を軸にして回転しながら、遥は四方に蹴りを放つ。さらに追い打ちをかけるように相手の正中線に拳を叩き込んだ。
「換えが効くと思って油断してっから足元掬われるんだよ!」
ケモノ四〇六号の強みはその肉体的な強さもあるが、死を回避する保険の多さだ。だがそれさえなければその強さは辻森綾香に劣るだろう。拳をかわした事のある遥は、その差を実感していた。
だが、油断していい相手でもない。この作戦を手早く終わらせることが勝利の前提条件だ。
四国を走り回る覚者達。その道程は、そろそろ半分を過ぎていた。
●
「敵多すぎ&範囲広すぎじゃない? クエ設定間違えてない、これ」
眉にしわを寄せて『呑気草』真屋・千雪(CL2001638) が呻くように言う。範囲は四国全土。想定敵は一二八体のランク3妖。しかもそれが最低限ときた。FiVE内でも類を見ない規模だ。
「ポイントを全部調べ上げた夢見さんや情報収集担当の皆さんはすごいね」
うんうんと頷く『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575) 。ケモノ四〇六号との戦いの後すぐに動き出し、これだけの数を特定したのだ。ここまでされて実働部隊が負けるわけにはいかないと気合を入れる。
「敵の数もマップの広さも最大級。こりゃあ、長丁場になりそうだね?」
敵の多さに苦笑しながら『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623) は金色の髪を指で梳く。四国全土を跳び回り、大妖の分身体を叩いていく。無理無茶無謀にもほどがあるが、親友の為ならやってやる。
「一二八体はとても多いのだけれども、FiVEの仲間とならきっとやり遂げることができると信じているわ」
『月々紅花』環 大和(CL2000477) は静かに告げる。作戦範囲が広く、敵の数も多い。それでも挫けないのは仲間を信じているから。今まで共に戦い、共に歩んできた仲間がいるから。
「拙速ではありますが、これ以外に人を救う手立てはありません」
はい、と頷く納屋 タヱ子(CL2000019) 。数の暴威に対し、数で押し返す。短銃明快な作戦だが、だからこそ無駄がなくそして齟齬が少ない。何よりも四国の人達をいち早く助けるには、これが最速なのだ。
覚者達を乗せた車が目的の地点に到達する。停車と同時に一気に展開し、妖に踊りかかった。
「四国の人を悪夢から解放するのはもちろんの事だけど」
術符を手にして大和が口を開く。太もものホルダーに収めてある符の数は多い。今回の闘いの為に大量に用意してきたのだ。断続的ではあるが、夜通し戦い続けることになるであろう。準備は入念にするに越したことはない。
大和は符を天に掲げ、源素を展開する。大和を中心として霧が生まれ、妖達の視界を奪っていく。足が止まる妖に向けて、追撃の光弾が降り注ぐ。天より降り注ぐ星の一矢。光り輝く矢が妖達を貫いていく
「ここでケモノ四〇六号を抑えることができれば今後被害に合う人たちも救えるわ」
「ボスアタック組の彩吹さんを心配する為にも生き残らないとだねー」
オンラインゲーム好きな千雪ならではの発言をしながら、紡を守るように立つ。好きな人の親友とあらば、出来る限り守るのが男の努め。もちろん、貴重な回復役だからと言う意味合いもあるのだが。
戦場の緊張感を受け流すように微笑んで、木の源素を展開する千雪。十二の弦を持つ神具を奏でて旋律を響かせる。音に合わせるように千雪の足元から薔薇の蔦が伸び、妖を強固に戒めていく。
「将来義理の兄弟による阿吽のコンビネーションみせつけt……ちょ、麻弓くん、支援が痛い」
「そーちゃんと阿吽の呼吸はボクの役目です!」
唇を尖らせて紡がぼやく。投げつけるように戦巫女の祝詞をぶつけ、立入禁止とばかりに手をクロスにする。仲間として許せることと、人間関係的に許せることは別なのだ。あ、支援はきちんとしていますのであしからず。
戦場を確認し、最善策を思考する紡。幾何学ナイトメアはバッドステータス特盛のランク3妖。傷の回復とどちらを優先するかは悩ましい。仲間の体力を信じ、毒と麻痺を払うために術を練り上げる。優しい光が仲間を包み込んだ。
「翔、いぶちゃん……頑張れ。澄ちゃんとボクもコッチで踏ん張るから」
「彩吹なら派手に喧嘩をしてくれるさ」
遠く離れた親友達のことを呟く紡に、蒼羽は事も無げに告げる。妹が大妖に挑むこと自体は心配だが、妹ならうまくやれると信じられる部分もある。ならばこちらはその為に援護するだけだ。
神具を両手に構え、真っ直ぐに敵陣に踏み込む蒼羽。僅かに身をかがめて攻撃をかわしながら距離を詰め、拳が届く位置に到達すると同時に腰をひねってパンチを繰り出す。命中の感触が伝わると同時にさらにもう一打。休むことなき拳の嵐が繰り出される。
「頼れるサポートや回復役がいるから 怪我のことを気にしなくていいのはありがたいね」
「はい。全力で役割を果たすだけです」
蒼羽の隣で頷くタヱ子。不安が無いわけではない。むしろ不安の部分の方が多い。それでも戦いに挑むことが出来るのは仲間がいることが大きい。自分達にしかできない事なのだ。立ち上がらないわけにはいかない。共に歩む者達と一緒に。
夜風にセーラー服をなびかせ、二つの盾をもって妖の前に立つタヱ子。敵前に立ち刃をもたず、その攻撃をひたすら受け止め、妖の脅威から仲間を守っていた。攻撃は仲間が行ってくれる。信頼できる仲間を守るため、タヱ子はその信念と共に盾となる。
「一組最低三十体すこしは倒さないといけません。頑張りましょう!」
タヱ子の言葉にそれぞれ同意を示す覚者達。
楽な数ではないが、それでも乗り越えられると信じられる。
●
「本体を叩きに行く道すがらナイトメアをボコってくよ!」
地図を手にして『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955) は拳を握る。どう進むのがいいかと地図上で指でなぞりながら思案する。出来るだけ多く倒していきたいが、大妖本体との戦いに遅れれば意味はない。
「こういうの、行き掛けの駄賃、っていう、の……?」
桂木・日那乃(CL2000941) は言って小首をかしげる。問屋に行く途中に色々用事をこなして駄賃を得る事から生まれた故事だ。ランク3の妖はそうあっさり倒せる相手ではないのだが、歴戦の覚者の経験がそれを可能としていた。
「一二八体もいるんです。少しぐらい減らしておかないと」
はい、と頷く『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080) 。大妖『黄泉路行列車』。死の悪夢をばらまく妖の起点ともなる存在。それを潰しておくことで本体ともいえる汽車にダメージを与えておかなくてはならない。
「通りすがりに見つけたナイトメア、あいつらにもガツンと喰らわせてから行くか!」
手のひらに拳を打ち付けて、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)は口を開く。出来る限り多くの幾何学ナイトメアをを叩きたいが、それで消耗してしまっては意味がない。力の加減を意識しなければ。
「これ以上は増えないみたいですから、皆で叩いておしまいにしましょう。『悪夢』は今日限りです」
深呼吸の後に『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695) は告げる。一二八体もいる、のではなく一二八体以上はいない。そう思う事で心を落ち着かせる。どうあれここで終わらせて、四国を悪夢から解放するのだ。
「そうだね、皆でこの『悪夢』を終わらせよう」
燐花の言葉に笑みを浮かべる『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015) 。この後の戦いを思えば緊張が増すばかりだが、この一言でだいぶ楽になった。『格好良い大人を演じる』ことでいつもの調子を取り戻す。その雰囲気で燐花もまた落ち着きを取り戻していた。
ケモノ四〇六号本体への道を進みながら、【兼任組】の六人は妖に挑む。
「一気にぶっ叩くよ!」
仲間に薬師如来の加護を付与しながら奏空が突撃する。移動中はできる売る限り回復に努め、本船に影響を残さないように努める。戦いと休憩。そのバランスを崩さないように意識を続けていた。
刀を手にし、横なぎに振るう。生まれる衝撃波が幾何学ナイトメアを守る妖に命中し、その気勢を削いだ。敵より早く動き、敵陣を崩す。それが奏空の戦い方。FiVEの最前線で戦い続けた覚者の戦法の一つ。
「お前なんかに負けるものか!」
「はい。四国を悪夢から解放するんです!」
奏空の言葉に頷くようにラーラが叫ぶ。死の悪夢。繰り返される死の夢に疲弊する四国の人達。確かに対抗策がなければ絶望し、そして心折れていただろう。だが今は希望がある。無謀な作戦かもしれないが、それをやり遂げられる仲間がいる。
魔導書に手をかけ、呪文を唱えるラーラ。閉じられた門が開く感覚。そこから生まれた炎がラーラの意志に従い戦場に広がり、一機に蹂躙していく。それは魔の炎。それを制する魔女こそが、ビスコッティ。炎は無言でそれを刻んでいた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
「お前達が復活する前に本体もやっつけてやるから、安心して消えろよ!」
言いながら前に出る翔。覚醒して青年に変化し、すらりと伸びた姿となる。遠い未来の最盛期に姿が変わる変化の因子。その未来を輝かしくするためにも、ここで負けるわけにはいかない。先ずはこの一歩を突き進むのだ。
一つ、二つ、三つ。心の中で印を刻み、地を指差す。翔が示した五つのポイント。そこから紫電が走り、稲妻の龍が天に昇っていく。荒れ狂う竜はその内側に居る妖を巻き込み、高熱と電撃を刻んでいく。
「お前らがいると、これからやっつける本体消しても無駄になるからな。ここで消えて貰うぜ!」
「ん。回復、するね」
常に一定の調子を崩さない日那乃。その態度は零下に見えて、しかしその内にある何かは確かに熱を持っていた。四国の人を助けたい。悪夢に苦しむ人を解放したい。その想いがあるからこそここに居るのだ。
『開かない本』を手にして翼を広げる日那乃。水の源素が薄く広がり、霧となって仲間を包み込む。細かな水に含まれる癒しの力が覚者達の傷に触れ、傷口を冷やすと同時に痛みを消していく。
「気力回復は、戦闘と戦闘の間、でいい?」
「その辺りはFiVEスタッフに任せておこう。僕らは戦闘に専念だ」
日那乃の言葉に応える恭司。控えているFiVEスタッフの中には、気力や体力の回復が出来る覚者もいる。戦闘時ではないの回復は彼らに任せ、戦いの間は戦闘している者が回復を行っていこう。ランク3の妖は力を温存して挑める相手ではないのだ。
紫煙を吐き出すように大きく息を吐いて、心を落ち着かせる。感情を否定せず、しかし激情を制御する。それが大人の在り方だ。そう自分に言い聞かせて恭司は癒しの術を解き放つ。術の具合を確認し、次の一手を思考していた。
「燐ちゃん、無理はしないでね」
「はい。本番が控えていますから」
恭司の言葉に振り向くことなく答える燐花。この戦いを軽視するつもりはないが、力を入れるべきはケモノ四〇六号そのものとの戦いだ。ここで力を籠めすぎて、後の戦いで失速しては意味がない。
天の源素で自分自身の速度をあげ、一気に戦場を駆け抜ける燐花。身を低くして駆ける様はまさに黒猫。その両手に握られた刃に龍の力を込め、月光を照り返して煌めいた。翻った白刃が妖の命脈を断つ。
「目に見えるものは全て叩き落して差し上げます」
戦いを終え、移動用の乗り物に乗り込む覚者達。連絡を取り合い各所の状況を確認しながら、彼らは大妖の元へと向かう。
四国を、ひいてはこの国の未来をかけた一戦へと。
●
四国の戦いはまだ続く。
だが覚者達の勢いは止まらず、それを見聞きした人達はその勢いに歓喜する。
人は妖に負けない。この戦いはその証左。
死の悪夢に包まれた四国に、希望の光が灯し始めていた――
「この広い四国全土をこの人数でとなると、効率良く行きませんとね……。大妖に向かう方達を除いた四つの班で手分けして各地に散りましょう」
と言う『居待ち月』天野 澄香(CL2000194) の提案により、覚者達は班分けされる。それぞれ輸送用のヘリに乗り、妖がいると予知された現場に向かっていく。
「……妖は、倒します……」
ぼそりと告げる大辻・想良(CL2001476) 。守護使役の『天』に周囲を偵察させ、状況を確認する。予知で聞いた情報と大きくは変わらない。それを皆に伝え、背中の羽根を広げた。
「これ以上、余計な夢を見させたりはしないよ。俺達全員の力でね」
『豊四季式敷式弓』を手にして『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565) は緊張をほぐすように弦に指をかける。四国の人達をできるだけ早く解放する。その為の強行作戦。それが吉と出るか否か。
「あの八面体が列車野郎の言わば分身って事か? てか数多すぎやろ怒るでしかし!」
幾何学ナイトメアを見ながら『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119) が呟き、そして虚空にツッコミを入れる。一二八体のランク3。各個撃破とはいえその数は凛が言うように多すぎだ。だが四国を救うためにやらねばならない。
覚者の準備が整うと同時にヘリが降下する。空を飛べない人用についてきた翼人が覚者達を抱えて、飛び降りた。それを感じ取った妖も臨戦態勢に入る。
「四国の人達を悪夢から解放するにはきばらんとな!」
守護使役の力を借りて空から着地した凛は、地面につくと同時に抜刀して戦場を駆けだす。抜き放った日本刀は月光を受けて煌めき、凛の源素を受けて赤く輝く。精錬された剣術が生み出す刃の奇跡は、高ランクの妖すら圧倒していく。
剣と刃。前世の技を取り入れた凛の動きは正に燎原の炎。最初はわずかなものだった炎が、瞬く間に戦場に広がっていく。その剣先に宿るは炎の極技。魂すら根絶する破壊の炎。裂帛と共に振るわれる刃が戦場を駆逐していく。
「女の根性見せたるで!」
「…………」
言葉少なく想良が妖を攻めていく。人間工学的につかみやすく、且つ源素を集中させやすい杖を持ち、戦場を跳び回る。背中の羽根を使って風の弾丸を打ち出し、杖に溜めた点の源素で稲妻を放っていく。
AAA職員だった父親は妖との対応で命を落とした。しかし想良自身はその時発生した感情を心の内に隠し、静かに生きている。だが、妖を許すつもりはない。父のような人を無くすために、妖は討つ。その決意を込めて戦場に立っていた。
「……光りました。攻撃、来ます」
「大丈夫。この程度なら、耐えれる」
想良の言葉に頷き、言葉を返す秋人。冷静に、そして大胆に。慌てて踏み込み過ぎることなく、しかしけして引くことはない。回復は仲間が行ってくれる。だから自分がやることは攻めるだけだ。
矢のない弓を番え、源素を矢と変化させて飛ばす。何千、何万と繰り返してきた弓の動作。立ち位置こそ敵の目前だが、この動作こそが秋人の戦闘の動きだ。不意の攻撃を回避しながら放たれた矢は、水の龍神となって荒れ狂う。
「天野さん、今です」
「はい。ククノチ様、よろしくお願いします!」
木の源素を十分に練り上げた澄香が、声と同時に術を解き放つ。一瞬で戦場を包み込む木の源素。源素は場の空気を支配し、凝縮した毒素の嵐を敵陣に巻き起こす。激痛と倦怠感。妖すら侵食する神の毒。
術式の反動に身をかがめながら、同時に確かな手ごたえに笑みを浮かべる澄香。まだ始まったばかりの作戦だが、やりきれると言う確信があった。それは自分が成長したこともある。だがそれ以上に、仲間のやる気が伝わってくるからだ。
「四国に平和が戻りますように、一刻でも早く妖を倒せるよう頑張りましょう」
澄香の言葉に頷く覚者達。
戦いはまだ、始まったばかりだ。
●
「仮にもランク3を少数で撃破って正気の沙汰じゃねーけど?」
しかも相手は大妖の一部ってはなしなんだけど、と『在る様は水の如し』香月 凜音(CL2000495) はため息をついた。暫く戦いから離れていたこともあって、先ずは勘を取り戻すところからか、と頭を掻いた。
「だいじょーぶ! ミラノがついてる!」
胸を叩いて太鼓判を押すククル ミラノ(CL2001142) 。猫の耳と尻尾をピコピコ振って喜びを示していた。戦う事自体が楽しいのではない。皆と戦えることがたのしいのだ。
「さて。場所はあそこですか。なら回り込んだ方がいいですね」
遠視と闇視の神秘を用いて高比良・優(CL2001664) が妖の位置を確認する。戦いは始まる前から始まっている。情報を仕入れ、相手より有利な位置を取る。この時点で八割決まっているのだ。
「しかし一二八体ですか。ええ、やって見せましょう」
地図を確認しながら篁・三十三(CL2001480) は頷いた。妖の数は決して少なくない。数を聞いただけで心が折れそうになるのも無理はないだろう。だが、人間は諦めない。その証左とばかりにこの戦いを勝ち抜くのだ。
「悪夢に囚われた方たちの為に、私にできることを……」
胸に手を当てて瞑目する上月・里桜(CL2001274) 。源素に目覚め、FiVEの覚者として戦って来た里桜。大妖に挑む力が自分達にあるのなら、死を恐れず進む。その覚悟があった。
覚者隊を乗せたヘリが降下する。妖が動き出すより先に覚者達は攻め立てた。
「大妖の分体と戦えるなんて光栄ですね」
銃を構え、優は皮肉気に告げる。アルバイト感覚で行っているFiVEの任務だが、まさかこんな大事件に呼び出されるとは。炎の術式を用いて身体を強化し、手にした銃を構えて妖に向けた。
心を沈めて、標準を合わせる。引き金に指をかけ、命を奪う事の意味を再認識する。この技を教えてもらったときに優が学んだ心構え。祈りを込めて、弾を撃て。過剰な三連撃は優の肉体を傷つけるが、それ以上のダメージを妖に与える。
「ん。術式の方がききそうかな」
「自然系妖のようですからね」
夕の言葉に頷く三十三。大妖の悪夢を受け取り、四国中に展開する妖。『死界法葬』と呼ばれる結界の起点にして大妖の分裂体。結界そのものが本体なら、術式で散らせると言うのはある意味道理なのだろう。そんな事を三十三は思っていた。
守護使役の『九十九』に明かりを照らしてもらいながら、視界を確保する三十三。『略式滅相銃・業型』に源素を注ぎ込み、水を弾丸と化して一斉射出する。秒間二百発の水の弾が戦場を蹂躙し、妖達を穿っていく。
「この戦い。やりとげてみせます」
「きっと、上手くいきます」
自分に言い聞かせるように里桜は呟いた。妖は強い。けして油断してはいけないし、気を抜ける相手でもない。それが一二八体。けして楽な戦いではないが、それでも上手くいくと口にした。後は行動するだけだ。
土の源素を神具に集め、呼吸と共に印を切る。イメージは一瞬。源素を解き放つと同時に術式とイメージを解放し、大地に命ずるように神具を振るった。里桜のイメージのままに大地は隆起し、妖を打ちつけていく。
「皆さん。お願いします」
「みんなっいっくよーーー! かいふくはまかせて♪」
歌うように踊るようにククルは叫ぶ。どこかおっちょこちょいで舌足らずな所があるが、長年FiVEで戦ってきた覚者には違いない。死の列車が運ぶ悪夢を吹き飛ばすような元気の良さが、ククルの声にあった。
それは雰囲気だけではない。ククルが手を動かし、足を動かすたびに癒しの源素が解き放たれ、仲間達の傷を塞いでいく。常に元気良く、決して挫けることのないククル。その精神こそ、この状況で必要なものなのかもしれない。
「すぐかいふくするのっ」
「任せて寝ていたいけど、そうもいかねーか」
言って嘆息する凜音。できうる限り何もしないで過ごしていたいが、それで平和になるわけではないのは解っている。矛盾しているかもしれないが、平和に生活するために戦わなくてはいけないのだ。
前世とのつながりを強く結び、水の源素を漂わせる凜音。まるで盤面を見るかのように冷静に戦場を見て、癒しの順番を決定する。判断し、行動する。滞りなく仲間を癒すのなら、動きを止めてはいけないのだ。
「んじゃまー、一二八体頑張りますか」
凜音の言葉に、それぞれ肯定の意志を示す覚者達。
分裂体の数は、少しずつ減っていく
●
「たくさんたくさん倒すんだよ! あゆみがんばる!」
元気よく『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650) は拳を振り上げる。大妖へ行く兄たちへのサポートと聞いて、強い意気込みで戦いに挑む歩。戦いは怖いけど、信頼できる仲間がいるから恐れはない。
「アユミ、前は任して下さいまし」
そんな歩に微笑みかける『モイ!モイ♪モイ!』ユスティーナ・オブ・グレイブル(CL2001197) 。覚醒して長身の姫騎士の姿となったユスティーナ。正しい礼節は人を安堵させる。それを示すかのように優雅な微笑みだ。
「敵が何体居ようとこの体が動く限りいのりは戦いますわ」
四国中に散った幾何学ナイトメアの場所。それを確認しながら『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268) は誓いを口にする。未だ悪夢に悩まされる四国の人達。この力はそういった人達を救うためにあるのだ。
「初戦が大妖の分体とか我ながら無謀……」
ため息をつく藤森・璃空(CL2001680) だが、逃げるつもりはない。苦しんでいる四国の人達のことを聞いて、見捨てられない性分が璃空に導いていた。何もしなかったところで誰も攻めはしない。だからと言って見捨てるわけにはいかなかった。
「オレは言ったさ。『四国中走り回ってでも、お前をぶん殴る』ってな! ああ、ちょうどいい!」
拳を握り、『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227) は吼える。『黄泉路行列車』と相対し、確かに遥はそう言った。数が百だろうが千だろうが構わない。体力の続く限り走り回り、精魂尽きるまで拳を振るう。その気持ちに何ら変わりはない。
FiVEのスタッフが運転するヘリが妖上空を通過する。急降下に近い速度で地上に近づき、翼人のスタッフに抱えられて地上に降り立つ覚者達。
「ワタクシ、民を守る。それだけに特化してますのよ」
大盾を構え、敵の侵攻を阻むように立ち出でるユスティーナ。ゆるふわなように見えるが流れる血は王家のモノ。受けた教育は民を守るための知識。最小限の采配で最大限の守りを。それが彼女の戦い方だ。
海の力を宿す衣を展開し、物理と源素の二重の砦としてユスティーナは妖の攻撃を受け止めていく。自ら攻めることはなく、傷ついた仲間を癒しながら戦線を維持していく。先導し、そして仲間を鼓舞する。それが彼女の王の在り方だ。
「ここが正念場です。ケモノ四〇六に向かう人達の為に、力を振り絞りましょう」
「ユスちゃんがいてくれるから、あゆみこわくないもん!」
ユスティーナの背後で勇気を振り絞る歩。因子発現するまでは病弱だった歩。あの時は『兄と同じになれた』と言う喜びがあった。今はその力を使って兄のサポートを行っている。こわくない。再度心の中で呟いて、戦場を見る。
書物に手を触れ、水の源素を活性化する。生まれた水は歩の意志に従い巨大な龍の形をとっていく。それは歩にとっての強さの象徴。兄の扱う雷龍をイメージし、それに似せるように水の龍は変化する。大きく口を開け、龍は戦場を蹂躙していく。
「だしおしみしないで全力でいくね!」
「攻撃は任せた。俺は適当に合わせていくから」
『錬丹書』を手に璃空が手を振る。幻想的な羽根を背中に生やし、木の源素を活性化していく。ぞんざいなように見えるが、それでも仲間を見捨てることはない。むしろ戦闘の緊張をほぐすような節があった。
状況を確認しながら、次の手を考える璃空。だが目まぐるしく変化する状況に置いて、行動骨子がなければ思考の手がかりを失う。攻撃、支援か、回復か。少しの思考の後に放たれた蔦が、妖の動きを制限していく。
「んー。こんなところか?」
「癒しの因子術を使って頂けるとありがたいですわ」
首を捻る璃空にいのりがそう答える。異邦人の因子を持つ者が持つ癒しの力。効果は微々たるものだが、長期戦になるのならあっても損はない。仲間の気力残量を表情や仕草から感じ取りながら、いのりは次の一手を考える。
杖を天高く掲げ、源素を打ち上げるように放ついのり。白く輝く天の源素は空中で爆発するように分裂し、細かな矢となって地に降り注ぐ。流星の如く妖を穿つ天の力。その光が悪夢を覚ます力とならんことをといのりは強く願う。
「いのり達が死出の旅へ貴方方を送り出して差し上げますわ!」
「全部廃車にしてやんぜ!」
拳を強く握り、遥は妖の群れに突撃する。人を人と思わない妖達。死の悪夢を見せ、心を折ろうとする卑劣なやり口。何もかもが気に入らない。人間を舐めるなと表情で伝え、全身の筋肉に力を込めた。
妖の攻撃をさばきながら、敵陣中央に踏み込む遥。四方を敵に囲まれた状態だが、むしろ望むところだと笑みを浮かべた。背骨を軸にして回転しながら、遥は四方に蹴りを放つ。さらに追い打ちをかけるように相手の正中線に拳を叩き込んだ。
「換えが効くと思って油断してっから足元掬われるんだよ!」
ケモノ四〇六号の強みはその肉体的な強さもあるが、死を回避する保険の多さだ。だがそれさえなければその強さは辻森綾香に劣るだろう。拳をかわした事のある遥は、その差を実感していた。
だが、油断していい相手でもない。この作戦を手早く終わらせることが勝利の前提条件だ。
四国を走り回る覚者達。その道程は、そろそろ半分を過ぎていた。
●
「敵多すぎ&範囲広すぎじゃない? クエ設定間違えてない、これ」
眉にしわを寄せて『呑気草』真屋・千雪(CL2001638) が呻くように言う。範囲は四国全土。想定敵は一二八体のランク3妖。しかもそれが最低限ときた。FiVE内でも類を見ない規模だ。
「ポイントを全部調べ上げた夢見さんや情報収集担当の皆さんはすごいね」
うんうんと頷く『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575) 。ケモノ四〇六号との戦いの後すぐに動き出し、これだけの数を特定したのだ。ここまでされて実働部隊が負けるわけにはいかないと気合を入れる。
「敵の数もマップの広さも最大級。こりゃあ、長丁場になりそうだね?」
敵の多さに苦笑しながら『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623) は金色の髪を指で梳く。四国全土を跳び回り、大妖の分身体を叩いていく。無理無茶無謀にもほどがあるが、親友の為ならやってやる。
「一二八体はとても多いのだけれども、FiVEの仲間とならきっとやり遂げることができると信じているわ」
『月々紅花』環 大和(CL2000477) は静かに告げる。作戦範囲が広く、敵の数も多い。それでも挫けないのは仲間を信じているから。今まで共に戦い、共に歩んできた仲間がいるから。
「拙速ではありますが、これ以外に人を救う手立てはありません」
はい、と頷く納屋 タヱ子(CL2000019) 。数の暴威に対し、数で押し返す。短銃明快な作戦だが、だからこそ無駄がなくそして齟齬が少ない。何よりも四国の人達をいち早く助けるには、これが最速なのだ。
覚者達を乗せた車が目的の地点に到達する。停車と同時に一気に展開し、妖に踊りかかった。
「四国の人を悪夢から解放するのはもちろんの事だけど」
術符を手にして大和が口を開く。太もものホルダーに収めてある符の数は多い。今回の闘いの為に大量に用意してきたのだ。断続的ではあるが、夜通し戦い続けることになるであろう。準備は入念にするに越したことはない。
大和は符を天に掲げ、源素を展開する。大和を中心として霧が生まれ、妖達の視界を奪っていく。足が止まる妖に向けて、追撃の光弾が降り注ぐ。天より降り注ぐ星の一矢。光り輝く矢が妖達を貫いていく
「ここでケモノ四〇六号を抑えることができれば今後被害に合う人たちも救えるわ」
「ボスアタック組の彩吹さんを心配する為にも生き残らないとだねー」
オンラインゲーム好きな千雪ならではの発言をしながら、紡を守るように立つ。好きな人の親友とあらば、出来る限り守るのが男の努め。もちろん、貴重な回復役だからと言う意味合いもあるのだが。
戦場の緊張感を受け流すように微笑んで、木の源素を展開する千雪。十二の弦を持つ神具を奏でて旋律を響かせる。音に合わせるように千雪の足元から薔薇の蔦が伸び、妖を強固に戒めていく。
「将来義理の兄弟による阿吽のコンビネーションみせつけt……ちょ、麻弓くん、支援が痛い」
「そーちゃんと阿吽の呼吸はボクの役目です!」
唇を尖らせて紡がぼやく。投げつけるように戦巫女の祝詞をぶつけ、立入禁止とばかりに手をクロスにする。仲間として許せることと、人間関係的に許せることは別なのだ。あ、支援はきちんとしていますのであしからず。
戦場を確認し、最善策を思考する紡。幾何学ナイトメアはバッドステータス特盛のランク3妖。傷の回復とどちらを優先するかは悩ましい。仲間の体力を信じ、毒と麻痺を払うために術を練り上げる。優しい光が仲間を包み込んだ。
「翔、いぶちゃん……頑張れ。澄ちゃんとボクもコッチで踏ん張るから」
「彩吹なら派手に喧嘩をしてくれるさ」
遠く離れた親友達のことを呟く紡に、蒼羽は事も無げに告げる。妹が大妖に挑むこと自体は心配だが、妹ならうまくやれると信じられる部分もある。ならばこちらはその為に援護するだけだ。
神具を両手に構え、真っ直ぐに敵陣に踏み込む蒼羽。僅かに身をかがめて攻撃をかわしながら距離を詰め、拳が届く位置に到達すると同時に腰をひねってパンチを繰り出す。命中の感触が伝わると同時にさらにもう一打。休むことなき拳の嵐が繰り出される。
「頼れるサポートや回復役がいるから 怪我のことを気にしなくていいのはありがたいね」
「はい。全力で役割を果たすだけです」
蒼羽の隣で頷くタヱ子。不安が無いわけではない。むしろ不安の部分の方が多い。それでも戦いに挑むことが出来るのは仲間がいることが大きい。自分達にしかできない事なのだ。立ち上がらないわけにはいかない。共に歩む者達と一緒に。
夜風にセーラー服をなびかせ、二つの盾をもって妖の前に立つタヱ子。敵前に立ち刃をもたず、その攻撃をひたすら受け止め、妖の脅威から仲間を守っていた。攻撃は仲間が行ってくれる。信頼できる仲間を守るため、タヱ子はその信念と共に盾となる。
「一組最低三十体すこしは倒さないといけません。頑張りましょう!」
タヱ子の言葉にそれぞれ同意を示す覚者達。
楽な数ではないが、それでも乗り越えられると信じられる。
●
「本体を叩きに行く道すがらナイトメアをボコってくよ!」
地図を手にして『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955) は拳を握る。どう進むのがいいかと地図上で指でなぞりながら思案する。出来るだけ多く倒していきたいが、大妖本体との戦いに遅れれば意味はない。
「こういうの、行き掛けの駄賃、っていう、の……?」
桂木・日那乃(CL2000941) は言って小首をかしげる。問屋に行く途中に色々用事をこなして駄賃を得る事から生まれた故事だ。ランク3の妖はそうあっさり倒せる相手ではないのだが、歴戦の覚者の経験がそれを可能としていた。
「一二八体もいるんです。少しぐらい減らしておかないと」
はい、と頷く『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080) 。大妖『黄泉路行列車』。死の悪夢をばらまく妖の起点ともなる存在。それを潰しておくことで本体ともいえる汽車にダメージを与えておかなくてはならない。
「通りすがりに見つけたナイトメア、あいつらにもガツンと喰らわせてから行くか!」
手のひらに拳を打ち付けて、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)は口を開く。出来る限り多くの幾何学ナイトメアをを叩きたいが、それで消耗してしまっては意味がない。力の加減を意識しなければ。
「これ以上は増えないみたいですから、皆で叩いておしまいにしましょう。『悪夢』は今日限りです」
深呼吸の後に『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695) は告げる。一二八体もいる、のではなく一二八体以上はいない。そう思う事で心を落ち着かせる。どうあれここで終わらせて、四国を悪夢から解放するのだ。
「そうだね、皆でこの『悪夢』を終わらせよう」
燐花の言葉に笑みを浮かべる『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015) 。この後の戦いを思えば緊張が増すばかりだが、この一言でだいぶ楽になった。『格好良い大人を演じる』ことでいつもの調子を取り戻す。その雰囲気で燐花もまた落ち着きを取り戻していた。
ケモノ四〇六号本体への道を進みながら、【兼任組】の六人は妖に挑む。
「一気にぶっ叩くよ!」
仲間に薬師如来の加護を付与しながら奏空が突撃する。移動中はできる売る限り回復に努め、本船に影響を残さないように努める。戦いと休憩。そのバランスを崩さないように意識を続けていた。
刀を手にし、横なぎに振るう。生まれる衝撃波が幾何学ナイトメアを守る妖に命中し、その気勢を削いだ。敵より早く動き、敵陣を崩す。それが奏空の戦い方。FiVEの最前線で戦い続けた覚者の戦法の一つ。
「お前なんかに負けるものか!」
「はい。四国を悪夢から解放するんです!」
奏空の言葉に頷くようにラーラが叫ぶ。死の悪夢。繰り返される死の夢に疲弊する四国の人達。確かに対抗策がなければ絶望し、そして心折れていただろう。だが今は希望がある。無謀な作戦かもしれないが、それをやり遂げられる仲間がいる。
魔導書に手をかけ、呪文を唱えるラーラ。閉じられた門が開く感覚。そこから生まれた炎がラーラの意志に従い戦場に広がり、一機に蹂躙していく。それは魔の炎。それを制する魔女こそが、ビスコッティ。炎は無言でそれを刻んでいた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
「お前達が復活する前に本体もやっつけてやるから、安心して消えろよ!」
言いながら前に出る翔。覚醒して青年に変化し、すらりと伸びた姿となる。遠い未来の最盛期に姿が変わる変化の因子。その未来を輝かしくするためにも、ここで負けるわけにはいかない。先ずはこの一歩を突き進むのだ。
一つ、二つ、三つ。心の中で印を刻み、地を指差す。翔が示した五つのポイント。そこから紫電が走り、稲妻の龍が天に昇っていく。荒れ狂う竜はその内側に居る妖を巻き込み、高熱と電撃を刻んでいく。
「お前らがいると、これからやっつける本体消しても無駄になるからな。ここで消えて貰うぜ!」
「ん。回復、するね」
常に一定の調子を崩さない日那乃。その態度は零下に見えて、しかしその内にある何かは確かに熱を持っていた。四国の人を助けたい。悪夢に苦しむ人を解放したい。その想いがあるからこそここに居るのだ。
『開かない本』を手にして翼を広げる日那乃。水の源素が薄く広がり、霧となって仲間を包み込む。細かな水に含まれる癒しの力が覚者達の傷に触れ、傷口を冷やすと同時に痛みを消していく。
「気力回復は、戦闘と戦闘の間、でいい?」
「その辺りはFiVEスタッフに任せておこう。僕らは戦闘に専念だ」
日那乃の言葉に応える恭司。控えているFiVEスタッフの中には、気力や体力の回復が出来る覚者もいる。戦闘時ではないの回復は彼らに任せ、戦いの間は戦闘している者が回復を行っていこう。ランク3の妖は力を温存して挑める相手ではないのだ。
紫煙を吐き出すように大きく息を吐いて、心を落ち着かせる。感情を否定せず、しかし激情を制御する。それが大人の在り方だ。そう自分に言い聞かせて恭司は癒しの術を解き放つ。術の具合を確認し、次の一手を思考していた。
「燐ちゃん、無理はしないでね」
「はい。本番が控えていますから」
恭司の言葉に振り向くことなく答える燐花。この戦いを軽視するつもりはないが、力を入れるべきはケモノ四〇六号そのものとの戦いだ。ここで力を籠めすぎて、後の戦いで失速しては意味がない。
天の源素で自分自身の速度をあげ、一気に戦場を駆け抜ける燐花。身を低くして駆ける様はまさに黒猫。その両手に握られた刃に龍の力を込め、月光を照り返して煌めいた。翻った白刃が妖の命脈を断つ。
「目に見えるものは全て叩き落して差し上げます」
戦いを終え、移動用の乗り物に乗り込む覚者達。連絡を取り合い各所の状況を確認しながら、彼らは大妖の元へと向かう。
四国を、ひいてはこの国の未来をかけた一戦へと。
●
四国の戦いはまだ続く。
だが覚者達の勢いは止まらず、それを見聞きした人達はその勢いに歓喜する。
人は妖に負けない。この戦いはその証左。
死の悪夢に包まれた四国に、希望の光が灯し始めていた――
■シナリオ結果■
大成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
