<五麟祭>百鬼夜行ファンタズマ
●はじまりのご挨拶
五麟学園の文化祭――五麟祭。それは学園すべてが会場となる一大イベントだ。小中高大全ての生徒と校舎を使ったお祭りは、毎年かなりの客がやってくるイベントとなる。
しかも、展示を出すのは学生だけではない。手続きを取って検査に合格すれば、外部の人間も店を出すことができるのだ。
――さてさて。そんな祭が、今年ももうすぐやってくる。
●とりっく・おあ・とりっく
「みんなは五麟祭の予定は決まったかな? どこもかしこも準備で大賑わいなんだけど、今からでも参加したいって言う人を大募集なんだよ~!」
ぱたぱたと校舎を駆け回る久方 万里(nCL2000005)は、皆の姿を目にしてきらりと瞳を輝かせた。彼女曰く、ある生徒の申請した展示企画が危機に陥っており、ものすごく人手を募集しているのだそうだ。
「何でも企画者の生徒さんが、体調を崩してダウンしちゃったみたいで。もう会場の教室も抑えちゃってるから、今更出来なかったじゃ済まされないんだよ……!」
その企画とはずばり、お化け屋敷。ハロウィンも近いので、思い思いに仮装をしてお客さんを驚かせつつ、雰囲気を盛り上げようとしていたらしい。しかし、企画者は妙なこだわりを見せてしまい――『暗闇で忍び寄るこんにゃく』の理想を追い求めてひたすらこんにゃくを食し、結果お腹を壊してぶっ倒れたのだそうだ。
「幸い、お化け屋敷のセットの方は大体出来てるみたいだから、あとはお化け役のひとがどんなことをするかだね。自分の美意識に沿って雰囲気を盛り上げたり!」
お化け屋敷は、古城風のセットあり和風のお墓や襖があったりで、まあ全体的に何でもありのようだ。加えてハロウィンの装飾も取り入れていて、南瓜が並ぶ隣に棺桶が置いてあったり。その隣に和風提灯が吊り下げられていたりと多国籍だ。
「ホラーと言っても、ゴシックとかスプラッタとか色々ジャンルは分かれてるみたいだから、もう好きにやっちゃって良いと思うな!」
――その方が、みんならしいよねと言って万里は笑う。ついでにお化け屋敷でひとしきり怖がった後は、併設されている仮装喫茶でのんびり休憩も出来るのだそう。
「こっちは、別にお化け縛りじゃなくてもいい仮装になっていて、本番のハロウィンの予習みたいな感じで楽しむといいかも」
具体的に言うと、姫騎士の格好をして「くっ……殺せ」とかアピールしても大丈夫。ただしあくまで喫茶なので、お客様をもてなしつつほどほどに。
「あとはー……この際だから、サクラとして協力するっていうのもありかな? お客さん役として入って、大袈裟に驚いたり楽しんだりして。勿論、心の底から楽しめれば言いっこなしだよね!」
色々と事件も起きているが、折角の学園祭なのだからみんなで目一杯楽しもう。そう言った万里は、予定があり参加は出来ないようだが――是非是非みんなで盛り上げて欲しいと、ガッツポーズを取る。
「年に一度のお祭り騒ぎだから。たっぷり遊んで思い出を作っちゃおう!」
五麟学園の文化祭――五麟祭。それは学園すべてが会場となる一大イベントだ。小中高大全ての生徒と校舎を使ったお祭りは、毎年かなりの客がやってくるイベントとなる。
しかも、展示を出すのは学生だけではない。手続きを取って検査に合格すれば、外部の人間も店を出すことができるのだ。
――さてさて。そんな祭が、今年ももうすぐやってくる。
●とりっく・おあ・とりっく
「みんなは五麟祭の予定は決まったかな? どこもかしこも準備で大賑わいなんだけど、今からでも参加したいって言う人を大募集なんだよ~!」
ぱたぱたと校舎を駆け回る久方 万里(nCL2000005)は、皆の姿を目にしてきらりと瞳を輝かせた。彼女曰く、ある生徒の申請した展示企画が危機に陥っており、ものすごく人手を募集しているのだそうだ。
「何でも企画者の生徒さんが、体調を崩してダウンしちゃったみたいで。もう会場の教室も抑えちゃってるから、今更出来なかったじゃ済まされないんだよ……!」
その企画とはずばり、お化け屋敷。ハロウィンも近いので、思い思いに仮装をしてお客さんを驚かせつつ、雰囲気を盛り上げようとしていたらしい。しかし、企画者は妙なこだわりを見せてしまい――『暗闇で忍び寄るこんにゃく』の理想を追い求めてひたすらこんにゃくを食し、結果お腹を壊してぶっ倒れたのだそうだ。
「幸い、お化け屋敷のセットの方は大体出来てるみたいだから、あとはお化け役のひとがどんなことをするかだね。自分の美意識に沿って雰囲気を盛り上げたり!」
お化け屋敷は、古城風のセットあり和風のお墓や襖があったりで、まあ全体的に何でもありのようだ。加えてハロウィンの装飾も取り入れていて、南瓜が並ぶ隣に棺桶が置いてあったり。その隣に和風提灯が吊り下げられていたりと多国籍だ。
「ホラーと言っても、ゴシックとかスプラッタとか色々ジャンルは分かれてるみたいだから、もう好きにやっちゃって良いと思うな!」
――その方が、みんならしいよねと言って万里は笑う。ついでにお化け屋敷でひとしきり怖がった後は、併設されている仮装喫茶でのんびり休憩も出来るのだそう。
「こっちは、別にお化け縛りじゃなくてもいい仮装になっていて、本番のハロウィンの予習みたいな感じで楽しむといいかも」
具体的に言うと、姫騎士の格好をして「くっ……殺せ」とかアピールしても大丈夫。ただしあくまで喫茶なので、お客様をもてなしつつほどほどに。
「あとはー……この際だから、サクラとして協力するっていうのもありかな? お客さん役として入って、大袈裟に驚いたり楽しんだりして。勿論、心の底から楽しめれば言いっこなしだよね!」
色々と事件も起きているが、折角の学園祭なのだからみんなで目一杯楽しもう。そう言った万里は、予定があり参加は出来ないようだが――是非是非みんなで盛り上げて欲しいと、ガッツポーズを取る。
「年に一度のお祭り騒ぎだから。たっぷり遊んで思い出を作っちゃおう!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.お化け屋敷&仮装喫茶の企画を成功させる
2.とにかく楽しむ!
3.なし
2.とにかく楽しむ!
3.なし
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
●こんな事ができます
・お化け屋敷でお化けに扮してドッキリ!
・仮装喫茶で仮装しつつおもてなし
・お客さん側で参加、楽しむよ!
●お化け屋敷&仮装喫茶の企画
企画者がこんにゃくの食べ過ぎでダウンし、命運は皆様に託されました。お化け屋敷は和洋折衷に、ハロウィン風味が加わったカオスなものなので、やろうと思えばどんな雰囲気も演出できる筈、です。
そんなお化け屋敷でびっくりした後は、隣の仮装喫茶で一息つくという流れのようです。ハロウィンの仮装の予習にもおすすめです。
学園祭と言う言葉のドキドキ感っていいですね。思い出を作れるようにお手伝いできればと思います。それではよろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
30/30
30/30
公開日
2015年10月15日
2015年10月15日
■メイン参加者 30人■

●はじまりは笑顔の練習
予想外のアクシデント――ぶっちゃけると、こんにゃくの食べ過ぎが降りかかり、危機に陥った五麟祭の展示企画。それは、お化け屋敷と仮装喫茶の魅惑のコラボレーションだった。企画者不在で人手も足りていない絶体絶命の状況の中、名乗りをあげたのはF.i.V.E.の覚者たち。
無事に企画を成功させることは勿論だけど、目一杯五麟祭を楽しむと言う心意気も見せて――彼らはスタッフとして、或いはお客さんとして、運命の日を迎えるのだった。
「こういう格好は動きづらくないのでしょうか」
「……ふむ、動きに支障はないですが、やや重く感じますね」
和装の上にエプロンと言う和装メイドの姿で、燐花とクーはしげしげと自分たちの格好を見回した。その上更に遥は虎耳を装着――戌の獣憑であるクーも猫耳を付けて、さながら猫又風と言ったところか。
「えへへ……恥ずかしいですけど、似合っているでしょうか」
照れ笑いを浮かべる鈴鳴は、兎の付け耳を揺らしくるりと回って裾を翻して。中等部の友人同士が集まった彼らは、着々と仮装喫茶の準備を進めていく。
「私は接客に向いている性格じゃないので、裏方で料理を作る方が……」
「お、ならお前たちの料理の腕、オレが確認してやる! 作ったものをもってこい!」
愛想がないと自覚している燐花は、ぽつりと呟くものの――遥は早くも食べる気満々の様子。しかし、ふと彼は燐花とクーの顔を見つめて、びしっと指を突き付けた。
「ってお前ら接客するのにそんな仏頂面でどうする! 接客の基本は笑顔だぞ!」
自分みたいにクチを大きく、目をにかーっと、と早速実践してみせる遥を参考にしてクーが意識して笑おうとするも、口だけで何かを企んでいるような顔になってしまう。
「……表情が硬いのでしょうね。今も楽しいと感じてはいるのですが……」
「人には、向き不向きというものがあると思うんです」
頬をむにむにと動かすクーは、同じく苦戦している燐花に親近感を覚えたのだが――そんなふたりへ鈴鳴が、小首を傾げて考えつつアドバイスを行った。
「えっと……例えば、楽しいことを思い浮かべてみてください。私は学園祭が楽しいし、皆さんと今こうやってるのが楽しいから、自然と笑っちゃうんです」
そう言って微笑む鈴鳴は、愛らしく綻ぶ花のようで――彼女のように素敵に微笑むことが出来れば、と燐花は思うもののやはり難しい。
「この先の、宿題にしてもいいでしょうか」
――それでも、皆と一緒に居ればその内笑えるかもしれないとは、口にしなかったけれど。
「ふふ、笑顔は無理にがんばる物じゃありませんしね。心が楽しい、嬉しいって感じた時を大事にしましょうっ」
「……ええ、みんなでこうして何か出来るのは、やはり『嬉しい』ですね」
そう呟いたクーは、無意識に笑顔を出していて。それを見た遥の胸が、どきりと高鳴る。
(今気付いたけど、こいつらみんなすげえ可愛くないか……?)
そうこうしている間に、開店の時間が近づいて来た。鈴鳴はぽん、と皆の肩を叩き、飾り付けを終えた店内を見渡す。
「さあ、お客さんが待ってます。心を込めておもてなししましょうっ」
●お化けたちの浮かれ騒ぎ
さて、一方お化け屋敷の方では、お化け役に扮した者たちが喜々としてお客さんをおもてなししていた。
(お化け屋敷っていったら、やっぱ脅かすのが楽しいよな!)
にかっと無邪気な笑みを浮かべる翔は、和風ホラー系で攻めることにしたようだ。段ボールで作った鎧を汚して、結んだ紐もボロボロに見えるように加工――頭にはざんばら髪のカツラを被り、背中には折れた矢をくっつける。そうしてお腹に剣を刺して、仕上げに血糊を頭から被れば完成だ。
(脅かされる側も楽しんでくれたらいいな!)
そうしておどろおどろしい落ち武者に変身した翔は、雰囲気を出す為に大人の姿に覚醒して墓場の陰から飛び出した。
「おのれ、この恨み晴らさでおくものか――!!」
「おおおお、祟りじゃあああ!!」
更に声色変化を駆使して絶叫した所、数珠を持ったおじいちゃんが奇声を上げて昇天しかかってしまった。わ、とその時近くを通りかかった円が、逆におじいちゃんの様子にびっくりしている状態だ。
「ところでおばけって、どこにいたのー?」
――そんな彼女はお化け屋敷を出た時、微妙にズレた感想を零したのだった。
(仮装喫茶に行こうと思ったのに、もしかして……お化け屋敷の方に来てしまった……?)
でも、この感じも仮装なのかもしれないと思い直し、祝はそろそろと暗闇の中を歩き出す。暗くて狭いのはどうにも苦手だが――やがて行く手には、張りぼてのテレビがふたつ、ぽつんと並んでいた。
「あなたじゃないわ……」
地の底から響くような声を震わせ、ゆっくりとその中から這い出てくるのは、長い黒髪を垂らした白装束の女たち。それは千晶と大和が扮した、某呪いのビデオに出てくる幽霊だった。
「ひ……!」
終始無表情だが怖がっているらしい祝の元へ、千晶が四つん這いのままカサカサと近づいていく。と、その手が祝の足を引っ張ろうとした所で、大和がストップをかけた。
(お客様には手を触れない、これはお約束ね)
むう、と頷いた千晶はゆっくりとテレビの中に戻っていき、大和も無言でそれに続く。
「妖はそんなに怖くないのになぁ……」
未だびくっとしながら先へ進む祝を見送って、大和はなかなかの好感触にそっと相貌を和らげていた。驚かせたカップルの女の子が彼氏に抱きついている様子を見たりすると、少し羨ましいという気持ちもあるが、これはこれで良いものだ。
(来年は友達とお客様役として参加できるといいわね。ちゃんと誘ってみようかしら……)
所変わって和風の縁側のセットでは、白装束姿の樹香が特殊メイクを施して、四谷怪談のお岩さんに扮していた。
(しかし、こんにゃくの食べ過ぎでお腹を壊すとは……。どれだけ食べたのかのぅ)
現在療養中の企画者を思って遠い目をしながらも、お客さんを怖がらせることは忘れない。
「うらめしや……。うらめしや……。わしを裏切ったなぁぁぁぁあ……!」
ああ、人の恨みは怖いもの――血に塗れ、凄惨な表情で迫る樹香の姿にカップルが悲鳴を上げる中、内心で彼女はほくそ笑んでいた。
(うむ、こういうのも悪くない、ふふふ……)
――だけど、皆はどんな格好をしているのだろう。少し興味を覚えた樹香は、そっと他の場所を覗いてみることにした。
「人を驚かすというのも、なかなか楽しいものだなぁ」
さてさて、如何にもホラーな絵画が並んだ廊下では、真っ白な衣装に血化粧を施した久永がゴシック調の幽霊になってお客さんを驚かせている所だ。
絵画の一部に扮して待機し、彼らが通り過ぎる瞬間に「わっ」と声を掛けて――相手次第では、更に絵から這い出て追いかけたりもする。しかも無表情で笑いながら行うので、かなり不気味だ。
「普段妖やらとやり合っておるというのに、作り物でここまで怯えるとは……人とは、げに面白きものだなぁ」
さて、今度はうらめしや~と声を掛けてみようか。そんな感じで意外とノリノリな久永は、次に樹香と顔を合わせることになり――その後彼らがどんな反応をしたのかは、ふたりだけの秘密となった。
●百鬼夜行の仮装喫茶
仮装喫茶では、給仕をする者だけでなく裏方の存在も重要だ。衣装の装飾やメイクなどは大変な筈――そう考えた梨緒は、雰囲気を盛り上げる為により怖く、或いは可愛い感じになるように仮装のお手伝いをしていく。
(お化けは怖いし、接客も不安なので裏方なら出来るかなって……)
が、やはり注意していてもアクシデントは起きるもの。執事の衣装を頼んだ筈なのだが――用意された衣装を前に、秋人は軽く固まっていた。
「これは……発注ミス……?」
何故か届いたのは手足の毛が刈り取られ、茶色のタイツに蹄が付いている羊の着ぐるみだったのだ。
「えーと、これは……」
「……今年の干支は羊ですし……まぁ、いいかな」
苦笑する梨緒に、お客様もこの方が和むかもと返して、秋人は急いで着ぐるみを身に着けていく。その上にカフェエプロンを、首にはベルの付いた首輪をつけていざお仕事だ。
「カモミールティーにコーヒーは如何ですか? 普通の紅茶や緑茶も置いていますよ」
お化け屋敷で怖がってきたお客さんを、ほんのりと焚いたラベンダーのアロマが出迎える。そうして秋人は、お茶のお伴にクッキーやチョコレートも差し入れしていった。
(皆さんに楽しんで頂けます様に)
バイトで培った経験を活かし、踊るように楽しく仕事をこなす秋人を見守りながら、そっと梨緒は微笑んだのだった。
「いらっしゃいませー! 何名様ですか? 喫煙席……は学校だから無しとして、禁煙席ご希望でいいですね!」
黒とオレンジ、そして紫のハロウィンカラーのメイド服に身を包んだ聖は、お客さんをお出迎えして静護に席までの案内を頼む。
「……それではこちらへ」
生真面目に応対する彼の仮装は、ホッケーマスクの殺人鬼だ。流石にチェーンソーは持っていないが、有無を言わせない迫力を持っている。
(ふふー、セーゴにお手伝いしようって上目遣いで可愛こぶったら、すんなり了承してくれたんだよねー)
きゃるん☆ と言った感じでキャラを作った聖は、意外とちょろいと頷いて――今度もこういうのを試してみようとほくそ笑んだ。が、当の静護と言えば、いまいちぴんと来ていない様子。
(聖が何やら誘い方を変えてきたみたいだが、何の意図があったんだ?)
断る理由もないから一緒に手伝うことにしたと言うのが真相なのだが、折角なのでお客さんにお化け屋敷の感想を聞こうと思い立つ。少し話し込んでも、息抜きには良いと思いながら。
「わ、セーゴが戻ってこないうちに次のお客さん来ちゃった! セーゴー、早く戻ってきてー!」
そんな中、聖の悲鳴が喫茶店に木霊して――賑やかで楽しい時間はまだまだ続いていく。
(メイクで顔色も白くしてっと、うん……ちょっと怖すぎですね。血糊は少なめにしましょう)
一方、ゾンビメイドの仮装をして接客を行うのは灯。その隣で優雅にお客さんを案内している椿は、男装して吸血鬼の衣装でおもてなしをしているようだ。
「三島さん美人ですから、男装も似合いますね」
「その……有難う。七海さんの仮装とても可愛いと思うわ」
灯の呟きに頬を染めた椿は、ふと思い立って胸元に差してあった薔薇を取り出した。それをそっと灯の髪留めに差して、うんと満足そうに頷く。
「私がつけるより、七海さんがつけた方がずっと可愛いわ」
「……っ! よろしくお願いします、旦那様」
きびきびと接客を続ける椿に見とれながら、灯も接客を行うが――ふとした拍子に躓いて体勢を崩してしまう。転んでしまうと覚悟した所へ、手を伸ばして抱きとめたのは椿だった。
「大丈夫? 危ないから気を付けてね」
「み、三島さん顔が近いですっ」
涼しげなまなざしで見つめてくる椿は、そこいらの男性よりもイケメンだ。どきどきと高鳴る胸を押さえながら灯は急いでお礼を言い、メイクを直してくると告げて急いで控室へと駆けこんでいった。
「……足でもひねったのかしら」
そう呟いて椿が首を傾げる一方、灯は控室の鏡の前で赤くなった頬を必死に元に戻そうとしている。
「……ふう、随分と血色の良いゾンビが居たものですね」
――そう自嘲しながらも、灯は願う。いつか椿のことを、名前で呼べるようになるといいな、と。
(ふふ、お手伝いを頑張ります)
民族衣装のディアンドルを着こなして働く結鹿は、他のブースへの配達を頼まれていた。折角だから、目立った方が宣伝になるというので――ジャック・オー・ランタンの被り物をして、更にインラインローラーを履いて準備を終える。
「それじゃあ、いってきま~す!」
銀のトレイに紅茶のセットを載せて颯爽と飛び出す様子は、まるで外国のカフェのよう。と、そんな結鹿の姿を見たお客さんたちが、びっくりしたように足を止めて瞬きしている。
(……思ったより、視界狭くて怖いなぁ)
周りの反応は上々みたいだけど――その帰り道、不意に誰かにトンと肩をぶつけてしまい、結鹿の進路が変わってしまった。向かう先は仮装喫茶ではなく、隣のお化け屋敷――!
「ひゃぁぁぁ~っ! どいて、どいてぇぇぇ~っ!!」
そうして南瓜頭の結鹿の悲鳴が、賑やかな学園に木霊していった。
●手を取り合って暗闇を
「おばけ屋敷? たのしそーっ、ゆいねもいく!」
そう言ってお化け屋敷の教室に向かった唯音だが、ひとりだとちょっぴり怖い。そんな訳で、八重と一緒に回ることにしたのだった。
「八重おねーさんは優しくてキレイで大好き! ホントのおねーさんだったら良かったのに……」
「私も唯音さんみたいな妹欲しいですけど……毎日賑やかで楽しそうで、つい甘やかしちゃいそうです」
弟と交換して欲しいと言う唯音の呟きに、ダメですよと零して。八重は唯音と手を繋いで、薄暗いお化け屋敷の中を進んでいく。
「ゆ、ゆいねはへっちゃらだけど、おねーさんが迷子になっちゃったら大変だもんねっ!」
「ふふ、唯音さんが守ってくれると心強いですよ」
かたっぽの手を八重と繋ぎ、もうかたっぽの手で守護使役のぎょっぴーを抱き寄せる唯音。と、其処でゆらりと、柳の下から白装束の幽霊が「うらめしやー」と姿を現した。
「きゃーーーっ!!」
「ひゃぅっ!?」
やはり身構えていてもびっくりしてしまう、と八重が身体を竦める中――いきなり恐怖の限界を突破した唯音は、目をつむりながら一気にお化け屋敷を駆け抜けていく。
「唯音さん、ほら、怖くないから、落ち着いて落ち着いて……きゃあっ」
「ヘルプミー! アイキャンフラーイ!」
謎の英語を叫びながら、唯音はゴチンと壁にぶつかったり、べちんと転んだり。そんな彼女に、八重はずるずると引き摺られていく。
「怖かった~。も~心臓ばっくんばっくんだよ!」
あれよあれよと言う間にふたりはお化け屋敷を突破して――隣の仮装喫茶で一休みしようとする唯音へ、八重が悪戯っぽく囁いた。
「……ふふ、最後は唯音さんがちょっと怖かったですけどね?」
アクションやホラーパニックの映画に詳しい懐良と一緒に行くから怖くない――奏空はそう自分に言い聞かせ、おっかなびっくりお化け屋敷を進んでいく。
「やっぱり映画でなく、リアルの体験するのって怖い……っ」
「ほら、落ち着け、奏空。ホラー映画を思い出せ」
ひっしりと己の腕を握りしめる奏空へ、懐良は淡々とレクチャーを行っていった。あからさまな井戸のセットを指さし、如何にも何か出そうだろうと促しつつ――意識を向けた奏空の首筋に、こんにゃくをペタリと貼り付ける。
「ぎゃあああああ!」
「と、こういう風に意識の外から驚かせていくのがホラーだ」
「やめてー! マジで怖いからー!」
涙目で叫ぶ奏空へ、尚も懐良の講義は続いていった。前半と後半の緩急こそホラー映画――後半になれば怒涛の驚かせタイムになる、と。そんな彼に翻弄されまくる奏空が見つけた出口は、正に天上から垂らされた蜘蛛の糸のようであった。
「やったー!」
其処で奏空は懐良の腕を離し、出口に向かって猛ダッシュをする。
「真っ先に出口に向かうと、ゾンビにやられるものなの……にっ――」
と、走って通り抜けたばかりに、本来奏空の前に落ちてくる筈だった作り物の生首が、何と懐良の脳天に直撃してしまったのだった。
「うわぁぁ! 坂上さぁーん!」
「……振り返るな、坊主。オレはここまでのようだ……家族を大事にしろよ」
ニヒルに微笑みながら、ぐふっと力尽きる懐良。坂上さんの事は一生忘れません――そんな奏空の声を最後に、懐良の意識はゆっくりと遠のいていった。
「和洋折衷つーか、なんだこの無法地帯」
「こ、怖くなんて無いんだぞ!」
ぽりぽり頭を掻く凜音の片方の手をぎゅっと握りしめて、椿花が勢いよく告げる。そんな彼女の姿に多少の悪戯心をくすぐられた凜音は、軽くからかうように己の手の力を緩めた。
「じゃあ、手離しても大丈夫だよな。一人で歩けるな?」
「! こ、こういう時は手を繋いで歩くべきなんだぞ! 凜音ちゃんが消えないように、しっかり握ってるんだぞ!」
凜音ちゃんが攫われたら困るから――そう呟いた椿花の反応を楽しみつつ、少し後ろをついて行けばいいかと凜音が返すと、彼女は潤んだ瞳で此方を見上げてくる。
「凜音ちゃんが見えてる方が安心だから、隣を歩いて欲しいんだぞ……」
「はいはい。隣を歩かせて頂きますよお姫様。てか、怖いなら何で誘うんだ?」
その問いに怖くないもんと返した椿花は、以前凜音と一緒に幽霊団地に行けなかったから、とぽつり。そう言えばそんな仕事があったなと凜音は思い起こすが、それでも――。
(こいつの場合はもっと、可愛らしい場所の方がいいような気はするな)
そうしている内に不安になってきたのだろう。大好きなお兄ちゃんに怖がらない姿を見せたかった椿花は、繋いだ手に力をこめて宣言した。
「凜音ちゃんが居れば大丈夫だから、しっかり手を握ってるんだぞ!」
「……まぁいいや。行くか」
●暗闇が結ぶ絆
お化け屋敷のサクラ役を務めることになったミュエルと善司は、お客さんとして楽しむ気分で――ハロウィンの予習も兼ねて、仮装をして見て回っていた。
「一足先に、着てみたよ……。似合うかな……?」
「ミュエルちゃんは魔女なんだ? いいね、似合ってる」
はにかむミュエルに笑いかける善司は、オーソドックスな吸血鬼の格好をしている。カラーコンタクトで瞳も赤くして、雰囲気もばっちりだ。
「ただの、学園祭の出し物って、分かってても……ちょっと、怖い、かも……」
――それでも善司と一緒だから、きっと平気。そんな風に己を奮い立たせているミュエルの姿を見ると、いじらしくなるけれど――大袈裟に驚くのがちょっと苦手な善司はミュエルを脅かしてみようかと、勢いよく彼女の肩に手を置いてみた。
「きゃあっ!! うー……お、脅かさないでよ……」
そうするとミュエルはびくっと身を竦めて、ほんのり涙目で善司を見上げてくる。つい少し声を出して笑ってしまった善司は、そのまま優しく彼女へ手を差し出した。
「一人で、進むの……怖くなっちゃった、から……腕、掴まってて……いいかな……?」
「ごめんごめん。大丈夫だって、はい掴まって。目、瞑ってる間に出口まで持ってってやるからさ」
その言葉に素直に目を閉じたミュエルを確認した善司は、少し安心する。実を言えば、彼女が余りに可愛いから――緊張していたのだ。
「お化け嫌いだつったじゃん、どっきり系嫌いって言ってるじゃん! ぎゃああああ!!」
そして、叫び声から始まるデートもある――いや、これは断じてデートではない、と零は断言した。彼女が幽霊の類は駄目だと知った刀嗣は、面白いからと言う理由でお化け屋敷に連れてきて――で、今に至る。
「無理無理無理無理」
(予想通りっつーか期待通りっつーか、見てて面白え)
滅茶苦茶に首を振りながら、体勢を低くして動けなくなっている零を見守る刀嗣のまなざしは、いじめっこのそれだ。
「そんな怖がんなよ。ほら、お前の後ろにいる血まみれのネーチャンも応援してるぜ?」
「もう雰囲気からして無理……ってあぎゃあ!!」
笑顔で指摘してきた刀嗣の声に振り向けば、其処に居たお化け役とご対面。そのまま零は刀嗣に縋りつき、彼に抱き着いてしまったことにびっくりして更に転んでしまった。
「もういやぁぁぁ!」
恐怖の限界で覚醒しかかった零に突っ込みを入れた刀嗣は、想像以上に駄目な彼女の姿に感動さえ覚えて。それでもそこそこ楽しんだし、と頷きその手を取って立ち上がらせた。
「遊んでねぇで進むぞ。立てよ」
「遊んで無い! いたって真面目!」
触んないでと言いたいが、このまま此処に居るのもいやで――すっかり腰を抜かした零を刀嗣はおぶって、そのまま連行していく。
「お前そうやって怖がって、半泣きになってるツラも中々良いな」
最初はぎゅううううと力一杯抱きしめてきたが、その内零は疲れて眠ってしまったらしい。こうやって寝ていれば歳相応に見えるんだが――刀嗣はそう思いつつ、お化け役に『うるさくしたら殺す』と目で脅しながら静かに進んでいった。
(……なんかコイツといると調子狂うぜ)
――と、その次にお化け屋敷に足を踏み入れた慈雨たちはと言えば。行く先から響いてくる悲鳴に「一体何が」と顔を見合わせていた。
「お化け屋敷と言えば、暗がりから襲い来る魑魅魍魎を蹴散ら……え、違うの?」
「いや、お化け屋敷のお化けは攻撃しちゃいかんぞ」
面白そうと瞳を輝かせる慈雨に、冷静に晃が待ったをかけるが――随分気合を入れているようだと頷き、折角だからじっくり中を見て回ることにする。
「……むっ、ほう……此処はそう来るのか……面白いな」
「本当、流石に皆が力を入れるだけあって雰囲気あるね……」
晃の服の裾をぎゅうと握る慈雨は、別に怖くないと呟きつつ。本格的な演出に感心している晃が笑みを浮かべて楽しんでいる傍で、きゃあと悲鳴を上げた。
「い、今、首筋に何か冷たいものが……きゃああ! 井戸から何か出てきたー!?」
「ふむ、中々凝っている演出だな……」
井戸から出てきたダイオウグソクムシを撫でている晃は、なんで余裕なのかと悔しく思いながら――握りしめた慈雨の手に、その時晃の手がそっと重ねられる。
「……少しばかり手が冷えてな、良かったらこうして貰えると助かる」
――慈雨の手は、自分にはとても暖かいのだと。そう言って笑みを浮かべる晃の手も暖かいことに、慈雨はとっくに気が付いていた。
(優しいんだから、ずるい)
行こう、と晃は慈雨に囁き、重ねたその手を取る。
「出口はたぶん、そこまで遠くはないしな」
「そっか、もう近いのね。じゃあ少しだけ、ゆっくりと歩いて進もう」
だって――仄かに顔を赤らめながら、慈雨たちは暗闇の中を一歩ずつ進んでいく。
(……外に出たら、こんな風に手を繋ぐ理由がなくなっちゃうもの)
予想外のアクシデント――ぶっちゃけると、こんにゃくの食べ過ぎが降りかかり、危機に陥った五麟祭の展示企画。それは、お化け屋敷と仮装喫茶の魅惑のコラボレーションだった。企画者不在で人手も足りていない絶体絶命の状況の中、名乗りをあげたのはF.i.V.E.の覚者たち。
無事に企画を成功させることは勿論だけど、目一杯五麟祭を楽しむと言う心意気も見せて――彼らはスタッフとして、或いはお客さんとして、運命の日を迎えるのだった。
「こういう格好は動きづらくないのでしょうか」
「……ふむ、動きに支障はないですが、やや重く感じますね」
和装の上にエプロンと言う和装メイドの姿で、燐花とクーはしげしげと自分たちの格好を見回した。その上更に遥は虎耳を装着――戌の獣憑であるクーも猫耳を付けて、さながら猫又風と言ったところか。
「えへへ……恥ずかしいですけど、似合っているでしょうか」
照れ笑いを浮かべる鈴鳴は、兎の付け耳を揺らしくるりと回って裾を翻して。中等部の友人同士が集まった彼らは、着々と仮装喫茶の準備を進めていく。
「私は接客に向いている性格じゃないので、裏方で料理を作る方が……」
「お、ならお前たちの料理の腕、オレが確認してやる! 作ったものをもってこい!」
愛想がないと自覚している燐花は、ぽつりと呟くものの――遥は早くも食べる気満々の様子。しかし、ふと彼は燐花とクーの顔を見つめて、びしっと指を突き付けた。
「ってお前ら接客するのにそんな仏頂面でどうする! 接客の基本は笑顔だぞ!」
自分みたいにクチを大きく、目をにかーっと、と早速実践してみせる遥を参考にしてクーが意識して笑おうとするも、口だけで何かを企んでいるような顔になってしまう。
「……表情が硬いのでしょうね。今も楽しいと感じてはいるのですが……」
「人には、向き不向きというものがあると思うんです」
頬をむにむにと動かすクーは、同じく苦戦している燐花に親近感を覚えたのだが――そんなふたりへ鈴鳴が、小首を傾げて考えつつアドバイスを行った。
「えっと……例えば、楽しいことを思い浮かべてみてください。私は学園祭が楽しいし、皆さんと今こうやってるのが楽しいから、自然と笑っちゃうんです」
そう言って微笑む鈴鳴は、愛らしく綻ぶ花のようで――彼女のように素敵に微笑むことが出来れば、と燐花は思うもののやはり難しい。
「この先の、宿題にしてもいいでしょうか」
――それでも、皆と一緒に居ればその内笑えるかもしれないとは、口にしなかったけれど。
「ふふ、笑顔は無理にがんばる物じゃありませんしね。心が楽しい、嬉しいって感じた時を大事にしましょうっ」
「……ええ、みんなでこうして何か出来るのは、やはり『嬉しい』ですね」
そう呟いたクーは、無意識に笑顔を出していて。それを見た遥の胸が、どきりと高鳴る。
(今気付いたけど、こいつらみんなすげえ可愛くないか……?)
そうこうしている間に、開店の時間が近づいて来た。鈴鳴はぽん、と皆の肩を叩き、飾り付けを終えた店内を見渡す。
「さあ、お客さんが待ってます。心を込めておもてなししましょうっ」
●お化けたちの浮かれ騒ぎ
さて、一方お化け屋敷の方では、お化け役に扮した者たちが喜々としてお客さんをおもてなししていた。
(お化け屋敷っていったら、やっぱ脅かすのが楽しいよな!)
にかっと無邪気な笑みを浮かべる翔は、和風ホラー系で攻めることにしたようだ。段ボールで作った鎧を汚して、結んだ紐もボロボロに見えるように加工――頭にはざんばら髪のカツラを被り、背中には折れた矢をくっつける。そうしてお腹に剣を刺して、仕上げに血糊を頭から被れば完成だ。
(脅かされる側も楽しんでくれたらいいな!)
そうしておどろおどろしい落ち武者に変身した翔は、雰囲気を出す為に大人の姿に覚醒して墓場の陰から飛び出した。
「おのれ、この恨み晴らさでおくものか――!!」
「おおおお、祟りじゃあああ!!」
更に声色変化を駆使して絶叫した所、数珠を持ったおじいちゃんが奇声を上げて昇天しかかってしまった。わ、とその時近くを通りかかった円が、逆におじいちゃんの様子にびっくりしている状態だ。
「ところでおばけって、どこにいたのー?」
――そんな彼女はお化け屋敷を出た時、微妙にズレた感想を零したのだった。
(仮装喫茶に行こうと思ったのに、もしかして……お化け屋敷の方に来てしまった……?)
でも、この感じも仮装なのかもしれないと思い直し、祝はそろそろと暗闇の中を歩き出す。暗くて狭いのはどうにも苦手だが――やがて行く手には、張りぼてのテレビがふたつ、ぽつんと並んでいた。
「あなたじゃないわ……」
地の底から響くような声を震わせ、ゆっくりとその中から這い出てくるのは、長い黒髪を垂らした白装束の女たち。それは千晶と大和が扮した、某呪いのビデオに出てくる幽霊だった。
「ひ……!」
終始無表情だが怖がっているらしい祝の元へ、千晶が四つん這いのままカサカサと近づいていく。と、その手が祝の足を引っ張ろうとした所で、大和がストップをかけた。
(お客様には手を触れない、これはお約束ね)
むう、と頷いた千晶はゆっくりとテレビの中に戻っていき、大和も無言でそれに続く。
「妖はそんなに怖くないのになぁ……」
未だびくっとしながら先へ進む祝を見送って、大和はなかなかの好感触にそっと相貌を和らげていた。驚かせたカップルの女の子が彼氏に抱きついている様子を見たりすると、少し羨ましいという気持ちもあるが、これはこれで良いものだ。
(来年は友達とお客様役として参加できるといいわね。ちゃんと誘ってみようかしら……)
所変わって和風の縁側のセットでは、白装束姿の樹香が特殊メイクを施して、四谷怪談のお岩さんに扮していた。
(しかし、こんにゃくの食べ過ぎでお腹を壊すとは……。どれだけ食べたのかのぅ)
現在療養中の企画者を思って遠い目をしながらも、お客さんを怖がらせることは忘れない。
「うらめしや……。うらめしや……。わしを裏切ったなぁぁぁぁあ……!」
ああ、人の恨みは怖いもの――血に塗れ、凄惨な表情で迫る樹香の姿にカップルが悲鳴を上げる中、内心で彼女はほくそ笑んでいた。
(うむ、こういうのも悪くない、ふふふ……)
――だけど、皆はどんな格好をしているのだろう。少し興味を覚えた樹香は、そっと他の場所を覗いてみることにした。
「人を驚かすというのも、なかなか楽しいものだなぁ」
さてさて、如何にもホラーな絵画が並んだ廊下では、真っ白な衣装に血化粧を施した久永がゴシック調の幽霊になってお客さんを驚かせている所だ。
絵画の一部に扮して待機し、彼らが通り過ぎる瞬間に「わっ」と声を掛けて――相手次第では、更に絵から這い出て追いかけたりもする。しかも無表情で笑いながら行うので、かなり不気味だ。
「普段妖やらとやり合っておるというのに、作り物でここまで怯えるとは……人とは、げに面白きものだなぁ」
さて、今度はうらめしや~と声を掛けてみようか。そんな感じで意外とノリノリな久永は、次に樹香と顔を合わせることになり――その後彼らがどんな反応をしたのかは、ふたりだけの秘密となった。
●百鬼夜行の仮装喫茶
仮装喫茶では、給仕をする者だけでなく裏方の存在も重要だ。衣装の装飾やメイクなどは大変な筈――そう考えた梨緒は、雰囲気を盛り上げる為により怖く、或いは可愛い感じになるように仮装のお手伝いをしていく。
(お化けは怖いし、接客も不安なので裏方なら出来るかなって……)
が、やはり注意していてもアクシデントは起きるもの。執事の衣装を頼んだ筈なのだが――用意された衣装を前に、秋人は軽く固まっていた。
「これは……発注ミス……?」
何故か届いたのは手足の毛が刈り取られ、茶色のタイツに蹄が付いている羊の着ぐるみだったのだ。
「えーと、これは……」
「……今年の干支は羊ですし……まぁ、いいかな」
苦笑する梨緒に、お客様もこの方が和むかもと返して、秋人は急いで着ぐるみを身に着けていく。その上にカフェエプロンを、首にはベルの付いた首輪をつけていざお仕事だ。
「カモミールティーにコーヒーは如何ですか? 普通の紅茶や緑茶も置いていますよ」
お化け屋敷で怖がってきたお客さんを、ほんのりと焚いたラベンダーのアロマが出迎える。そうして秋人は、お茶のお伴にクッキーやチョコレートも差し入れしていった。
(皆さんに楽しんで頂けます様に)
バイトで培った経験を活かし、踊るように楽しく仕事をこなす秋人を見守りながら、そっと梨緒は微笑んだのだった。
「いらっしゃいませー! 何名様ですか? 喫煙席……は学校だから無しとして、禁煙席ご希望でいいですね!」
黒とオレンジ、そして紫のハロウィンカラーのメイド服に身を包んだ聖は、お客さんをお出迎えして静護に席までの案内を頼む。
「……それではこちらへ」
生真面目に応対する彼の仮装は、ホッケーマスクの殺人鬼だ。流石にチェーンソーは持っていないが、有無を言わせない迫力を持っている。
(ふふー、セーゴにお手伝いしようって上目遣いで可愛こぶったら、すんなり了承してくれたんだよねー)
きゃるん☆ と言った感じでキャラを作った聖は、意外とちょろいと頷いて――今度もこういうのを試してみようとほくそ笑んだ。が、当の静護と言えば、いまいちぴんと来ていない様子。
(聖が何やら誘い方を変えてきたみたいだが、何の意図があったんだ?)
断る理由もないから一緒に手伝うことにしたと言うのが真相なのだが、折角なのでお客さんにお化け屋敷の感想を聞こうと思い立つ。少し話し込んでも、息抜きには良いと思いながら。
「わ、セーゴが戻ってこないうちに次のお客さん来ちゃった! セーゴー、早く戻ってきてー!」
そんな中、聖の悲鳴が喫茶店に木霊して――賑やかで楽しい時間はまだまだ続いていく。
(メイクで顔色も白くしてっと、うん……ちょっと怖すぎですね。血糊は少なめにしましょう)
一方、ゾンビメイドの仮装をして接客を行うのは灯。その隣で優雅にお客さんを案内している椿は、男装して吸血鬼の衣装でおもてなしをしているようだ。
「三島さん美人ですから、男装も似合いますね」
「その……有難う。七海さんの仮装とても可愛いと思うわ」
灯の呟きに頬を染めた椿は、ふと思い立って胸元に差してあった薔薇を取り出した。それをそっと灯の髪留めに差して、うんと満足そうに頷く。
「私がつけるより、七海さんがつけた方がずっと可愛いわ」
「……っ! よろしくお願いします、旦那様」
きびきびと接客を続ける椿に見とれながら、灯も接客を行うが――ふとした拍子に躓いて体勢を崩してしまう。転んでしまうと覚悟した所へ、手を伸ばして抱きとめたのは椿だった。
「大丈夫? 危ないから気を付けてね」
「み、三島さん顔が近いですっ」
涼しげなまなざしで見つめてくる椿は、そこいらの男性よりもイケメンだ。どきどきと高鳴る胸を押さえながら灯は急いでお礼を言い、メイクを直してくると告げて急いで控室へと駆けこんでいった。
「……足でもひねったのかしら」
そう呟いて椿が首を傾げる一方、灯は控室の鏡の前で赤くなった頬を必死に元に戻そうとしている。
「……ふう、随分と血色の良いゾンビが居たものですね」
――そう自嘲しながらも、灯は願う。いつか椿のことを、名前で呼べるようになるといいな、と。
(ふふ、お手伝いを頑張ります)
民族衣装のディアンドルを着こなして働く結鹿は、他のブースへの配達を頼まれていた。折角だから、目立った方が宣伝になるというので――ジャック・オー・ランタンの被り物をして、更にインラインローラーを履いて準備を終える。
「それじゃあ、いってきま~す!」
銀のトレイに紅茶のセットを載せて颯爽と飛び出す様子は、まるで外国のカフェのよう。と、そんな結鹿の姿を見たお客さんたちが、びっくりしたように足を止めて瞬きしている。
(……思ったより、視界狭くて怖いなぁ)
周りの反応は上々みたいだけど――その帰り道、不意に誰かにトンと肩をぶつけてしまい、結鹿の進路が変わってしまった。向かう先は仮装喫茶ではなく、隣のお化け屋敷――!
「ひゃぁぁぁ~っ! どいて、どいてぇぇぇ~っ!!」
そうして南瓜頭の結鹿の悲鳴が、賑やかな学園に木霊していった。
●手を取り合って暗闇を
「おばけ屋敷? たのしそーっ、ゆいねもいく!」
そう言ってお化け屋敷の教室に向かった唯音だが、ひとりだとちょっぴり怖い。そんな訳で、八重と一緒に回ることにしたのだった。
「八重おねーさんは優しくてキレイで大好き! ホントのおねーさんだったら良かったのに……」
「私も唯音さんみたいな妹欲しいですけど……毎日賑やかで楽しそうで、つい甘やかしちゃいそうです」
弟と交換して欲しいと言う唯音の呟きに、ダメですよと零して。八重は唯音と手を繋いで、薄暗いお化け屋敷の中を進んでいく。
「ゆ、ゆいねはへっちゃらだけど、おねーさんが迷子になっちゃったら大変だもんねっ!」
「ふふ、唯音さんが守ってくれると心強いですよ」
かたっぽの手を八重と繋ぎ、もうかたっぽの手で守護使役のぎょっぴーを抱き寄せる唯音。と、其処でゆらりと、柳の下から白装束の幽霊が「うらめしやー」と姿を現した。
「きゃーーーっ!!」
「ひゃぅっ!?」
やはり身構えていてもびっくりしてしまう、と八重が身体を竦める中――いきなり恐怖の限界を突破した唯音は、目をつむりながら一気にお化け屋敷を駆け抜けていく。
「唯音さん、ほら、怖くないから、落ち着いて落ち着いて……きゃあっ」
「ヘルプミー! アイキャンフラーイ!」
謎の英語を叫びながら、唯音はゴチンと壁にぶつかったり、べちんと転んだり。そんな彼女に、八重はずるずると引き摺られていく。
「怖かった~。も~心臓ばっくんばっくんだよ!」
あれよあれよと言う間にふたりはお化け屋敷を突破して――隣の仮装喫茶で一休みしようとする唯音へ、八重が悪戯っぽく囁いた。
「……ふふ、最後は唯音さんがちょっと怖かったですけどね?」
アクションやホラーパニックの映画に詳しい懐良と一緒に行くから怖くない――奏空はそう自分に言い聞かせ、おっかなびっくりお化け屋敷を進んでいく。
「やっぱり映画でなく、リアルの体験するのって怖い……っ」
「ほら、落ち着け、奏空。ホラー映画を思い出せ」
ひっしりと己の腕を握りしめる奏空へ、懐良は淡々とレクチャーを行っていった。あからさまな井戸のセットを指さし、如何にも何か出そうだろうと促しつつ――意識を向けた奏空の首筋に、こんにゃくをペタリと貼り付ける。
「ぎゃあああああ!」
「と、こういう風に意識の外から驚かせていくのがホラーだ」
「やめてー! マジで怖いからー!」
涙目で叫ぶ奏空へ、尚も懐良の講義は続いていった。前半と後半の緩急こそホラー映画――後半になれば怒涛の驚かせタイムになる、と。そんな彼に翻弄されまくる奏空が見つけた出口は、正に天上から垂らされた蜘蛛の糸のようであった。
「やったー!」
其処で奏空は懐良の腕を離し、出口に向かって猛ダッシュをする。
「真っ先に出口に向かうと、ゾンビにやられるものなの……にっ――」
と、走って通り抜けたばかりに、本来奏空の前に落ちてくる筈だった作り物の生首が、何と懐良の脳天に直撃してしまったのだった。
「うわぁぁ! 坂上さぁーん!」
「……振り返るな、坊主。オレはここまでのようだ……家族を大事にしろよ」
ニヒルに微笑みながら、ぐふっと力尽きる懐良。坂上さんの事は一生忘れません――そんな奏空の声を最後に、懐良の意識はゆっくりと遠のいていった。
「和洋折衷つーか、なんだこの無法地帯」
「こ、怖くなんて無いんだぞ!」
ぽりぽり頭を掻く凜音の片方の手をぎゅっと握りしめて、椿花が勢いよく告げる。そんな彼女の姿に多少の悪戯心をくすぐられた凜音は、軽くからかうように己の手の力を緩めた。
「じゃあ、手離しても大丈夫だよな。一人で歩けるな?」
「! こ、こういう時は手を繋いで歩くべきなんだぞ! 凜音ちゃんが消えないように、しっかり握ってるんだぞ!」
凜音ちゃんが攫われたら困るから――そう呟いた椿花の反応を楽しみつつ、少し後ろをついて行けばいいかと凜音が返すと、彼女は潤んだ瞳で此方を見上げてくる。
「凜音ちゃんが見えてる方が安心だから、隣を歩いて欲しいんだぞ……」
「はいはい。隣を歩かせて頂きますよお姫様。てか、怖いなら何で誘うんだ?」
その問いに怖くないもんと返した椿花は、以前凜音と一緒に幽霊団地に行けなかったから、とぽつり。そう言えばそんな仕事があったなと凜音は思い起こすが、それでも――。
(こいつの場合はもっと、可愛らしい場所の方がいいような気はするな)
そうしている内に不安になってきたのだろう。大好きなお兄ちゃんに怖がらない姿を見せたかった椿花は、繋いだ手に力をこめて宣言した。
「凜音ちゃんが居れば大丈夫だから、しっかり手を握ってるんだぞ!」
「……まぁいいや。行くか」
●暗闇が結ぶ絆
お化け屋敷のサクラ役を務めることになったミュエルと善司は、お客さんとして楽しむ気分で――ハロウィンの予習も兼ねて、仮装をして見て回っていた。
「一足先に、着てみたよ……。似合うかな……?」
「ミュエルちゃんは魔女なんだ? いいね、似合ってる」
はにかむミュエルに笑いかける善司は、オーソドックスな吸血鬼の格好をしている。カラーコンタクトで瞳も赤くして、雰囲気もばっちりだ。
「ただの、学園祭の出し物って、分かってても……ちょっと、怖い、かも……」
――それでも善司と一緒だから、きっと平気。そんな風に己を奮い立たせているミュエルの姿を見ると、いじらしくなるけれど――大袈裟に驚くのがちょっと苦手な善司はミュエルを脅かしてみようかと、勢いよく彼女の肩に手を置いてみた。
「きゃあっ!! うー……お、脅かさないでよ……」
そうするとミュエルはびくっと身を竦めて、ほんのり涙目で善司を見上げてくる。つい少し声を出して笑ってしまった善司は、そのまま優しく彼女へ手を差し出した。
「一人で、進むの……怖くなっちゃった、から……腕、掴まってて……いいかな……?」
「ごめんごめん。大丈夫だって、はい掴まって。目、瞑ってる間に出口まで持ってってやるからさ」
その言葉に素直に目を閉じたミュエルを確認した善司は、少し安心する。実を言えば、彼女が余りに可愛いから――緊張していたのだ。
「お化け嫌いだつったじゃん、どっきり系嫌いって言ってるじゃん! ぎゃああああ!!」
そして、叫び声から始まるデートもある――いや、これは断じてデートではない、と零は断言した。彼女が幽霊の類は駄目だと知った刀嗣は、面白いからと言う理由でお化け屋敷に連れてきて――で、今に至る。
「無理無理無理無理」
(予想通りっつーか期待通りっつーか、見てて面白え)
滅茶苦茶に首を振りながら、体勢を低くして動けなくなっている零を見守る刀嗣のまなざしは、いじめっこのそれだ。
「そんな怖がんなよ。ほら、お前の後ろにいる血まみれのネーチャンも応援してるぜ?」
「もう雰囲気からして無理……ってあぎゃあ!!」
笑顔で指摘してきた刀嗣の声に振り向けば、其処に居たお化け役とご対面。そのまま零は刀嗣に縋りつき、彼に抱き着いてしまったことにびっくりして更に転んでしまった。
「もういやぁぁぁ!」
恐怖の限界で覚醒しかかった零に突っ込みを入れた刀嗣は、想像以上に駄目な彼女の姿に感動さえ覚えて。それでもそこそこ楽しんだし、と頷きその手を取って立ち上がらせた。
「遊んでねぇで進むぞ。立てよ」
「遊んで無い! いたって真面目!」
触んないでと言いたいが、このまま此処に居るのもいやで――すっかり腰を抜かした零を刀嗣はおぶって、そのまま連行していく。
「お前そうやって怖がって、半泣きになってるツラも中々良いな」
最初はぎゅううううと力一杯抱きしめてきたが、その内零は疲れて眠ってしまったらしい。こうやって寝ていれば歳相応に見えるんだが――刀嗣はそう思いつつ、お化け役に『うるさくしたら殺す』と目で脅しながら静かに進んでいった。
(……なんかコイツといると調子狂うぜ)
――と、その次にお化け屋敷に足を踏み入れた慈雨たちはと言えば。行く先から響いてくる悲鳴に「一体何が」と顔を見合わせていた。
「お化け屋敷と言えば、暗がりから襲い来る魑魅魍魎を蹴散ら……え、違うの?」
「いや、お化け屋敷のお化けは攻撃しちゃいかんぞ」
面白そうと瞳を輝かせる慈雨に、冷静に晃が待ったをかけるが――随分気合を入れているようだと頷き、折角だからじっくり中を見て回ることにする。
「……むっ、ほう……此処はそう来るのか……面白いな」
「本当、流石に皆が力を入れるだけあって雰囲気あるね……」
晃の服の裾をぎゅうと握る慈雨は、別に怖くないと呟きつつ。本格的な演出に感心している晃が笑みを浮かべて楽しんでいる傍で、きゃあと悲鳴を上げた。
「い、今、首筋に何か冷たいものが……きゃああ! 井戸から何か出てきたー!?」
「ふむ、中々凝っている演出だな……」
井戸から出てきたダイオウグソクムシを撫でている晃は、なんで余裕なのかと悔しく思いながら――握りしめた慈雨の手に、その時晃の手がそっと重ねられる。
「……少しばかり手が冷えてな、良かったらこうして貰えると助かる」
――慈雨の手は、自分にはとても暖かいのだと。そう言って笑みを浮かべる晃の手も暖かいことに、慈雨はとっくに気が付いていた。
(優しいんだから、ずるい)
行こう、と晃は慈雨に囁き、重ねたその手を取る。
「出口はたぶん、そこまで遠くはないしな」
「そっか、もう近いのね。じゃあ少しだけ、ゆっくりと歩いて進もう」
だって――仄かに顔を赤らめながら、慈雨たちは暗闇の中を一歩ずつ進んでいく。
(……外に出たら、こんな風に手を繋ぐ理由がなくなっちゃうもの)
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
