その封を 解くか解かぬかせめぎ合う
●古妖と『花骨牌』
刑部狸――
『証城寺の狸囃子』『分福茶釜』と並ぶ日本三大化け狸で、四国最大の妖力を持つと言われた古妖である。
元々は国を守る狸で人々に愛される存在だったが、時の君主のお家騒動の際に謀反を起こし、八百八匹の狸と共に怪異を起こして国を混乱に導いたという。しかし八幡大菩薩の力により久万山に封印。その洞窟は今でも霊的な特異点として有名な場所となっていた。
「流石にここは、うちが出んとあかんわなあ」
そんな場所に一人の女性が歩み出る。結った頭に簪をさし、口元に笑みを浮かべながらキセルを吹かせていた。
『何者だ? 儂が刑部狸と知っての事か? 悪戯するなら喰らってやるぞ、がはははは!』
「気ぃ強いなぁ。流石は日本三大狸はん。八百八匹の部下もそこにおるんやろう?」
洞窟に響く声。刑部狸を名乗ったその声の恫喝を、しかし女性は口元に手を当てて受け流す。
「表、出とうない? 封印されてヒマとちゃう?」
『封印はしかるべき罰。甘んじて受けるつもりだ。あと四百五十八年ほどで刑期も終わる』
「そう言うと思ったわ。せやったら、無理やり封印解いて連れてくしかないなぁ」
『はっはっは。八幡台菩薩の封を解くなと人間如きが――貴様、何者?』
声は女の言葉を戯言と笑うが、自分を縛する何かが緩まってきているのを感じ取り、再度問いかけた。
「うちの名前は『花骨牌』。封印解くんは十八番やよ」
その女性――『花骨牌』は絡まった糸を解くように指を動かしながら問いに答える。
「二十五年ぐらい前に解いたモンより複雑やけど、時間かければいけそうやね。
その後は、悪いけどうちの大将とやり合ってもらうわ。四国最大の妖力があれば、稲荷の狐に対抗するええ力になりますしなあ。はなから悪名高いさかい、人の不信を煽らんですむんは気が楽やわ」
『何を……何を言っている!? 儂はもう人に反するつもりはないぞ!』
「優しいなぁ、刑部狸はんは。謀反も悪いお殿様にお灸を据えるためやったんやろう? あえて悪役になって国を守る義侠心。そういう人、うち好きよ。惚れてまうわ。
抵抗しても無駄やえ。刑部狸はんの妖力は封印で弱まってる。そっちが封印強化するよりも、うちが解く方が早いんよ」
封印内部から結界修復と強化を試みる刑部狸。しかし『花骨牌』の言う通り、結界を破壊する力の方が勝っているため、強化される前に封印自体が解かれてしまう。決定的な状況打破になるには、一手足りなかった。
●FiVE
「七星剣幹部、『花骨牌』が古妖の封印を解こうとしています。それを止めてください」
久方 真由美(nCL2000003)は集まった覚者を前に説明を開始する。
「愛媛県久万高原町、そこの封印されたと言われているタヌキの古妖です。伝承によれば四国最大の古妖とも言われています」
七星剣幹部が直々にその封印を解きに来たのだ。ただ事ではすまないだろう。
「現状、復活した刑部狸が暴れるという予知はありません。ですが封印を解かれた後どうなるかは不明です。
できる限り『花骨牌』の気を引いて封印解除の邪魔をしてください」
気の引きかたは様々だ。傷を与える、会話で気を引く、こちらに興味を持たせる――
「戦いになれば『花骨牌』はキセルの煙を実体化させてこちらを襲わせます。また、『花骨牌』自身も術式を使って攻撃してきます」
流石に攻撃と封印開所を並列には行えない。敢えて攻撃させるというのも手か。
「困難な任務になると思いますが、よろしくお願いします」
真由美の言葉に背中を押されるように、覚者達は会議室を出た。
刑部狸――
『証城寺の狸囃子』『分福茶釜』と並ぶ日本三大化け狸で、四国最大の妖力を持つと言われた古妖である。
元々は国を守る狸で人々に愛される存在だったが、時の君主のお家騒動の際に謀反を起こし、八百八匹の狸と共に怪異を起こして国を混乱に導いたという。しかし八幡大菩薩の力により久万山に封印。その洞窟は今でも霊的な特異点として有名な場所となっていた。
「流石にここは、うちが出んとあかんわなあ」
そんな場所に一人の女性が歩み出る。結った頭に簪をさし、口元に笑みを浮かべながらキセルを吹かせていた。
『何者だ? 儂が刑部狸と知っての事か? 悪戯するなら喰らってやるぞ、がはははは!』
「気ぃ強いなぁ。流石は日本三大狸はん。八百八匹の部下もそこにおるんやろう?」
洞窟に響く声。刑部狸を名乗ったその声の恫喝を、しかし女性は口元に手を当てて受け流す。
「表、出とうない? 封印されてヒマとちゃう?」
『封印はしかるべき罰。甘んじて受けるつもりだ。あと四百五十八年ほどで刑期も終わる』
「そう言うと思ったわ。せやったら、無理やり封印解いて連れてくしかないなぁ」
『はっはっは。八幡台菩薩の封を解くなと人間如きが――貴様、何者?』
声は女の言葉を戯言と笑うが、自分を縛する何かが緩まってきているのを感じ取り、再度問いかけた。
「うちの名前は『花骨牌』。封印解くんは十八番やよ」
その女性――『花骨牌』は絡まった糸を解くように指を動かしながら問いに答える。
「二十五年ぐらい前に解いたモンより複雑やけど、時間かければいけそうやね。
その後は、悪いけどうちの大将とやり合ってもらうわ。四国最大の妖力があれば、稲荷の狐に対抗するええ力になりますしなあ。はなから悪名高いさかい、人の不信を煽らんですむんは気が楽やわ」
『何を……何を言っている!? 儂はもう人に反するつもりはないぞ!』
「優しいなぁ、刑部狸はんは。謀反も悪いお殿様にお灸を据えるためやったんやろう? あえて悪役になって国を守る義侠心。そういう人、うち好きよ。惚れてまうわ。
抵抗しても無駄やえ。刑部狸はんの妖力は封印で弱まってる。そっちが封印強化するよりも、うちが解く方が早いんよ」
封印内部から結界修復と強化を試みる刑部狸。しかし『花骨牌』の言う通り、結界を破壊する力の方が勝っているため、強化される前に封印自体が解かれてしまう。決定的な状況打破になるには、一手足りなかった。
●FiVE
「七星剣幹部、『花骨牌』が古妖の封印を解こうとしています。それを止めてください」
久方 真由美(nCL2000003)は集まった覚者を前に説明を開始する。
「愛媛県久万高原町、そこの封印されたと言われているタヌキの古妖です。伝承によれば四国最大の古妖とも言われています」
七星剣幹部が直々にその封印を解きに来たのだ。ただ事ではすまないだろう。
「現状、復活した刑部狸が暴れるという予知はありません。ですが封印を解かれた後どうなるかは不明です。
できる限り『花骨牌』の気を引いて封印解除の邪魔をしてください」
気の引きかたは様々だ。傷を与える、会話で気を引く、こちらに興味を持たせる――
「戦いになれば『花骨牌』はキセルの煙を実体化させてこちらを襲わせます。また、『花骨牌』自身も術式を使って攻撃してきます」
流石に攻撃と封印開所を並列には行えない。敢えて攻撃させるというのも手か。
「困難な任務になると思いますが、よろしくお願いします」
真由美の言葉に背中を押されるように、覚者達は会議室を出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.20ターン、刑部狸の封印を解かせない
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
タヌキの妖怪は大好きです。
●敵情報
・『花骨牌』(×一)
七星剣幹部。女性。その他の情報は不明。封印の解除術に長けており、古妖『刑部狸』の封印を解こうとしています。
基本的にPCへの攻撃よりも封印解除を優先しますが、大きなダメージを受けるか興味を引くことがあればそちらの方に気を向けます。遊んでいるというよりは享楽な性格で今の楽しみを優先するタイプです。
攻撃する際は術式を使います。
・『煙管の煙』(×三)
『花骨牌』の煙管から生まれた煙が実体化したものです。物質化しているので物理攻撃有効。巨大な顔と右手左手となってPC達に襲い掛かってきます。
攻撃方法・顔
煙を吐く 特遠全 煙を吐いて、視界を防ぎます。【虚弱】【減速】【重圧】【ダメージ0】
煙害 特遠単 害のある煙を吐き、体力を奪っていきます。【猛毒】
甘い煙 特遠味全 心地良くなる煙を吐き、体力を回復させます。
巨大な顔 P 巨大な顔が突破を妨げます。三名までブロック可。
攻撃方法・右手&左手
ただのパンチ 物近単 パンチっていうか体当たりです。
連続パンチ 物近単 連続して体当たりしてきます。【二連】
必殺パンチ 物近単 よくわかりませんが、くらうと起き上がれません。【必殺】
●NPC
・刑部狸
封印された化けタヌキです。結界内部から封印を修復すると同時に、封印強化の術を展開しています。封印されていますが、会話は可能です。
規定ターン経過すれば封印強化の術が完成し『花骨牌』を諦めさせることが出来ます。
封印が解除されれば、八百八匹の部下と共に『花骨牌』に連れ去られてしまいます(依頼失敗)。
●場所情報
愛媛県にあるとある洞窟。霊的特異点と呼ばれています。その最奥に封印が施されています。
明るさや広さ、足場などは特に戦闘に支障はありません。
戦闘開始時、敵前衛に『煙管の煙・右手』『煙管の煙・左手』が。敵中衛に『煙管の煙・頭』が。敵後衛に『花骨牌』がいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年11月25日
2018年11月25日
■メイン参加者 8人■

●
「狸の古妖ちゃんなんて! なんてCUTE☆なの!」
瞳をキラキラ輝かせ、『スーパーコスプレ戦士』立花 ユネル(CL2001606)は身をもだえさせる。まるまるとしたフォルム。ふさふさの毛皮。愛嬌のある顔立ちと性格。ユエル的には、狐よりも狸だった。
(もしもに備えて九尾狐を守るようには伝えてきた。『花骨牌』の目的が読めない以上、警戒するに越したことはない)
出発前にFiVEメンバーに言付けたことを思い出しながら『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は『花骨牌』を見る。何を考えているのか読めない七星剣幹部。杞憂で済めばいいのだが、最悪の事態を避けるための処置だ。
「刑部狸さん達は解放させません!」
符を構え『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)が『花骨牌』を指差す。最終的な目的がどうあれ、その過程で九尾狐への干渉があるのは確かだ。FiVEとの関係を漏らすわけにはいかない。その上で、刑部狸の封印を守らなくては。
「二十五年前に解いた封印……何者なんだ、この人」
夢見から聞いた状況を思い出しながら『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)は唾をのむ。得体が知れない相手。それ故にいろいろ想像してしまう。どちらにせよ、今やるべきことは封印解除の阻止だと意識を作戦に戻す。
「八神の神具も気になるけど、今はおねーさんの方が気になるなぁ」
『花骨牌』を見ながら『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が声をかける。近くにいる恋人に心の中で謝罪しながら、相手の一挙一足を逃さぬように観察を続ける。見た目は芸者風の女性だが、さてその正体は如何なる者なのか。
「戦ってみたくないのかって言えば嘘になるけど、俺だって別に戦闘狂じゃねーからな」
七星剣幹部を前にして『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は静かに告げる。相手の強さに興味がないわけではないが、やるべきことの優先度は理解している。誰かを守る為に必要なら戦う。それが飛馬の信念だ。
「ん。こっちの情報漏らさないの大事。了解」
小さく頷く桂木・日那乃(CL2000941)。FiVEが押さえている情報は大きい。僅かな吐露が糸口になって、相手に情報を推測させる可能性がある。聞きたいことはあるが、その為に情報を渡さないようにしないと。
「『花骨牌』本人が出てくる……と言う事は、それだけ刑部狸さんの力が欲しいと言う事ですよね」
それだけは阻止しないと、と『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は胸に手を当てて気合を入れる。古妖と人の仲を裂く為に奔走した七星剣。そしてその命令を下した『花骨牌』。何を企み、何を知り、何を為そうとするのか。
「やっぱり来るんやね、FiVEはん。そういう所、大好きよ。せやけどうちはひ弱やから、煙に巻かせてもらうわ」
言って煙管に口をつけ、口から煙を吐きだす『花骨牌』。煙が巨大な手と顔となり、『花骨牌』を守るように展開した。
刑部狸の封印をかけた戦いが、今始まる。
●
「お初にお目にかかります。FiVEの工藤奏空、以後お見知りおきを」
一礼した後に奏空が動く。前世との繫がりを強化した後に刀を手にし、実体化した煙に向かう。目の前の煙を経験と想像から解析し、おおよその結論を導き出す。おそらくは『花骨牌』の持つ煙管型神具の創造物か。
刀の神具を握り、力を籠める奏空。心を凪の湖面のように静かに、されど闘争の炎は消さず。相反する二つの心を同居させ、神具を横なぎに払った。生まれた衝撃波が斬撃となって飛び、煙を裂く。
「隠れ蓑となる幹部もいなくなって、おねーさんの行動も見える所は見させて貰ったよ」
「いややわあ。夢見に恥ずかしい所も見られてもうたなあ」
「さあどうでしょう。聞きたいですか?」
『花骨牌』のはぐらかすような返しに、かぶせる様に澄香が問う。見られて困る秘密があるのなら、その糸口でも見つけたい。今まで陰に隠れていた七星剣の幹部だ。そのやり口も何もかもが今までの幹部と異なる。
会話に集中しながら、戦いの手を緩めない。心を沈める芳香を放って仲間の治癒力を高めながら、澄香はゆっくりと単語を紡ぐ。
「『貪狼』『巨門』『禄存』『文曲』『廉貞』『武曲』『破軍』……貴女、この名前に聞き覚えありますよね?」
「そりゃ、もう。ここでそう言うってことは、そういうことなんやね?」
「さあ、どうでしょうね?」
『そういうこと』と聞かれて、動揺することなく澄香は言葉を返す。おそらくこちらの反応から何かを読み取ろうとしているのだろう。
「可愛いわぁ。時間あるなら閨で語りたいけど、先約あるんで堪忍な」
「悪いけど、その約束はキャンセルさせてもらうぜ!」
言いながら一悟は煙に攻撃を仕掛ける。源素をトンファーに纏わせ、一気に突き出す。穿ち、払い、そして構え。トンファーは手足の延長線。空手の動きに合わせて回転させ、間合を変化させながら敵を打つ。
「花骨牌のねえさん、八神さんとどこで出会ったんだ。んで、最初に声かけたのはどっち?」
「昔の話からなぁ。確かあの封印解いた後ぐらいやったか。熱烈に求愛されたわ」
「きゅ、求愛……!? え、八神さんとそんな仲なの!?」
「さあ、どうやろね。今度あの人に聞いてみ?」
「ん。覚えてたら、聞く」
『花骨牌』の言葉に首を縦に振る日那乃。水の源素を活性化させ、癒しの術を仲間に振るう。『花骨牌』本人から攻撃が飛んでくることはないが、生み出された煙の拳の打撃で傷つく人を癒していく。
「あえて悪役になる人が好きって、八神勇雄のこと?」
「あはははは。あの人はそんなええ人ちゃうよ。大妖倒したいのも日本欲しいからやし」
日那乃の問いに、口に手を当てて笑う隔者。――イエスともノーとも答えていない。
「じゃあ、『花骨牌』さんの好きなひとってどんなひと?」
「せやなぁ……世間の枠組みを壊す破天荒な人とかやな」
「それって悪人の事じゃねーか。おばさん」
煙の攻撃を受け流しながら、悪態をつくように飛馬が叫ぶ。煙が邪魔さえしなければ、直接斬りに行っていただろう。生意気な態度は、こういう言い方をすれば気が引けると思っての行動だ。
「そうよ。おばさん、そういう人が大好きやわ」
「なあ、あんた八神のおっさんのどこがいいんだ? それなりの理由があって付き従ってるんじゃねーのか?」
「理由、あるよ。うちはなあ、ぜーんぶ壊したいねん。覚者も、妖も」
「覚者を壊させるわけにはいかないね」
唇を強く結び、秋人が弓の神具を構える。時間まで気を逸らせば結界が修復されて『花骨牌』は帰るだろう。だがそれを悠長に待つつもりはない。ここでダメージを与え、撤退させる。全力をもって挑むのみ。
矢を番えるように弓を構え、弦を引く。秋人の手に不可視の矢が生まれ、弦を放つと同時に放たれた。それは凝縮された力の塊。、細く鋭く形成された衝撃弾。矢は狙い外さず『花骨牌』の肩に当たり、封印解除の術を一時的に止める。
「あいたたた……。陣敷いてなかったら危なかったわ」
「今の感触は……FiVEの知識にない防御陣が張ってある……?」
「四門の聖獣……? まさか……」
たまきは『花骨牌』の展開している陣の紋様に見覚えがあった。北の玄武、東の青龍、西の白虎、南の朱雀。すなわち、天の四方の方角を司る霊獣。陰陽術でもなじみの深い四神の力。それを行使しているのか。
「あら、気付いた? ええ目と知識もってはるわ」
「どうしてその力を……!」
「あんたらもほんまは使えるんよ。源素の応用や。五行四獣三才二極。三十二(みとみ)の箱と十六の月獣、八足姫に四刀使い。二つの骨(きばん)のどちらかが崩れる時、一(はじまり)に至る――
ああ、すまんなぁ。話それたわ。陣は今はうちが意地悪して使えへんようにしてんねん。悪いけど、お預けな」
「『花骨牌』さん、貴方は一体……?」
「ゆねるん、びーむ!」
会話を断ち切るようにユネルが第三の瞳から光線を放つ。古妖の存在を因子の力で把握し、その気配が少しずつ濃くなっていくことを察していた。それは封印が少しずつ解けつつある事。そんなことはさせまいと、呪いで『花骨牌』を封じようとする。
「子沢山の狸ちゃん達を根こそぎ連れて行こうだなんて、お天道様が許しても、このゆねるんが絶対許さないの!」
「おお、怖い怖い。五匹ほど子供あげるから許してくれへん?」
「許さないの! 四国のマスコットキャラクターの狸ちゃん達に、これ以上手出しはさせないの!」
『いや、こいつらは子供じゃなくて部下なんだが。儂、独身――』
申し訳なさそうに念波を飛ばす刑部狸だが、ユネルの勢いは止まらない。『花骨牌』の動きを封じようと、呪いの光を放ち続ける。
多くの謎を持ち、妖艶にほほ笑む『花骨牌』。その秘密のベールが少しずつ明かされていく。しかし同時に新たな疑問も沸いて出てくる。
封印をめぐる戦いは、刻一刻と過ぎていく。
●
刑部狸の封印を解かせないようにするため、覚者達は二種類の行動をとっていた。すなわち、会話で気を引く者と攻撃して気を引く者と。
「痛いの敵わんわぁ。うち、『金剛』はんや『結界王』よりもひ弱やねんで」
攻撃を受けた『花骨牌』は眉をひそめて煙管を振るう。攻撃をしてきた者にお返しとばかりに術式を放った。
「くっ……! まだ倒れるわけにはいかないよ」
「ゆねるんは狸さんを守るの!」
秋人とユネルはその術式を受けて命数を燃やす。
「二十五年前……おねーさんが今いくつなのかは置いといて」
「あら優しいのね。そういう気づかいは大事よ」
奏空の言葉に笑う『花骨牌』。
「偶然かな? 二十五年前って言えば逢魔化現象が始まったのと同じだ。おねーさんが解いた封印ていうのはもしかして――」
「頭ええなあ。うちが解いた封印の結果、日本はこないなことになったんや」
隠すと思っていたのに、あっさりと『花骨牌』は答える。
「まあ、逢魔化いうんが覚者と妖が生まれた、言うんやったら少し違うけど……まあええわ」
「……つまり、貴方が封印を解いたから妖が現れたということですか?」
「せや。それは間違いないわ」
息をのみながら澄香が問いかける。妖による悲劇や被害。それを起こした人間。彼女が封印を解かなければ、日本はこのような事にはならなかったのだ。
「じゃあ大妖も――」
「ああ、アレは違う……いや、違わへん? ヨルナキとかケモノはどっちかっていうとそうなんやど、大河原と継美は元があれやからなぁ。辻森に至っては純粋な――そう言えば最近あの子どないしたんやろ? まあええわ」
続けて告げた問いに『花骨牌』はぶつぶつ言いながら答えを探っていた。はぐらかしているのではない。本当に説明が難解だという顔をしている。
(つまり、大妖と妖は成り立ちが違う……? 過剰な破綻者のエネルギーが大妖の元になったとは聞いてますけど、妖はそうじゃない……?)
余計なことを喋れらないように、口を紡いで思考する澄香。
「七星剣に入ったのは……八神さんに惹かれたからですか? それとも、八神さんの目的と貴方の目的が一致したからですか?」
ゆっくりとたまきが問いかける。時間稼ぎの意味もあるが、言葉を選んで問いかけていた。
「その問い方やったら、後者やな。八神の大将は日本が欲しい。うちは覚者と妖を消したい。その為には手を組むんが一番やったしな」
「覚者を消す……八神さんはそれに同意してるんですか?」
「せやね。大将は素でも強いし、あの剣あれば古妖も怖くないし無敵ちゃう? ……ああ!? うちやばいわあ。大将に勝てへんわ。最後に裏切られて切られるんちゃうか?」
言って身を捩る『花骨牌』。それを過剰な演技と受け取ったのかたまきは一番気になっていることを問う。
「……八神さんは大妖や妖を倒した後に、何を為したいんですか?」
「あらま、のってくれへんの? それこそ大将に聞きなはれ。八神帝国とかでも作るんちゃう?」
どうやら『花骨牌』自身は七星剣の野望自体には興味がないようだ。あくまで目的のために八神についていっている。
(……嘘は言っていない。感情のぶれはない)
日那乃は『花骨牌』の感情を調べながら、静かに判断する。嘘をつく時、焦ったような感情が表に出る。だがその揺れは『花骨牌』からは感じられなかった。
(嘘じゃない……だけど、真実かどうかはわからない。
封印が、逢魔化と関係しているのは、きっと本当。だけど、わたしたちがしっている逢魔化と、同じとは限らない)
仲間を癒しながら思考する日那乃。一般的な逢魔化と呼ばれる現象は覚者と妖の起こりだ。日本全国で因子発現した人が見られ、同時に妖が跋扈し始める。そういった変化そのものだ。
(封印……何かを閉じ込めていたもの。閉じ込められてたのは、何? 大妖?)
深く思考する日那乃だが、材料不足だ。その封印を調べない事には。
「今まで解いた封印は何個? そんなかで一番手こずったのは……あ、ここはノーカウントだぜ。オレたちが解かせねぇから」
「何個解いたかは数えてへんけど、一番難儀やったんは……せやな、今あんたらとやり合いながら解いてるこの封印やなあ」
気を逸らすために一悟は『花骨牌』に質問を投げつける。昔のことをあまり覚えていないのか、頓着しないのか。『花骨牌』の答えは一悟の求めていたものではなかった。だが、答えを得ることが目的ではない。
(何者なんだ、この人……。経歴を調べようにも本名すらわからない)
出発前に一悟は『花骨牌』の事を調べようとし……その取っ掛かりすら見つけることが出来なかった。表立って活動しない七星剣幹部。その悪事もつい最近の暗躍のみだ。
「ずばり聞くぜ! 二十五年前に解いた封印、元は誰が何を封じた物なんだ!」
「誰、言うんは解らんけど昔のえらい覚者さんや。封じたもんは源素を使う方法よ。
人が忘れていた源素を扱う技法。因子と守護使役と言う新たな感覚。あんたらが手足や武器のように扱うそれ事態よ」
さらり、と『花骨牌』は問いに答えた。あまり重要な事ではないのか、それ自体はもうどうでもいいのかわからない。
(最初は八神が九尾狐を探し出し、その力を得る為の時間稼ぎでも有るんじゃないかって思っていたけど……)
『花骨牌』を攻撃しながら秋人は冷静に分析する。刹那的かつ享楽的。七星剣への忠誠よりも個人の欲求を求めるタイプ。それが陽動と言う役割を買って出るとは思わない。となると、やはりここの封印が本命か。
煙ごと貫け、とばかりに弓を番え、不可視の矢を形成する。『花骨牌』の目的がどこにあるにせよ、ここで手傷を負わせておけば有利になるには違いない。気力を振り絞り、矢を解き放つ。
「根性が無くてプロコスプレイヤーなんてやってられないの!」
呼吸を整えながらユネルが叫ぶ。本番のコスプレ会場の為にコスプレイヤーが行う行動は多岐にわたる。キャラを調べ上げて把握し、衣装を採寸して作り出す。数十日の間妥協することなくそれを行い、僅か半日の本番に挑む根性。それがユネルを支えていた。
土の力を拳に宿らせ、真っ直ぐに拳を突き出す。思考性を持った源素がユネルの動きに合わせて動き、大地を隆起させた。岩のような一撃が槌となって煙を穿つ。それがトドメとなって、『花骨牌』が生み出した煙は言葉通り雲散霧消した。
「行くぜ! 巖心流の攻め、受けて見な!」
『花骨牌』までの障害がなくなり、飛馬が一気に間合いを詰める。祖父と父の銘が入った刀。それは巖心流を受け継ぐ意思と同時に、共に戦う意味を持つ。
「今は攻撃こそ最大の防御。とっとと諦めな!」
「ふふ、厳しいわぁ。狸はんに構ってる暇、ないかもね」
「こんな義理堅い奴を利用しようなんて、許しちゃおけねーんだよ!」
飛馬の攻めを術式と煙管を使い逸らす『花骨牌』。それでも完全に避けきれないのか、少しずつ傷は増えていく。
煙の守りがなくなったことで、覚者達は『花骨牌』に攻撃を加えて封印解除の邪魔をする。その隙に刑部狸は見解を強化し――
『完成じゃ! 八幡大菩薩様、罪を雪ぐ檻と成れ』
刑部狸の言葉と共に、自分自身を封じる結界が完成した。
●
「遊び過ぎたなあ。……ま、しょうがあらへんね」
虚空を見ながら『花骨牌』は肩をすくめる。何もないように見えるが、彼女の眼には『何か』が見えるのだろう。煙管に口をつけ、紫煙を吐き出す。
「ほな、さいなら。やっぱりあんたらは強いなぁ。……ほんま、皮肉なぐらいに」
苦々しくつぶやくと同時に風が吹き、紫煙に溶けるように『花骨牌』の姿が消え去る。そういう術なのかと思わせるほど、自然な消失だった。
『まずは例を言おう。結界を守ってくれて感謝する。
しかし神具・七星剣……妖魔を従える太上老君の宝貝か』
そして聞こえる刑部狸の声。
『古妖である者は、あの剣の持ち主に逆らえぬ。力の差ではない。その魂魄を操られるのだ。
悪しき者が扱えば、全ての古妖はその者に操られるだろう』
かくして刑部狸の封印は守られた。
しかし『花骨牌』と、そして七星剣が潰えたわけではない。
FiVEと七星剣、覚者と隔者。
その決着がつく日は近い。その空気を、覚者達は感じていた。
「狸の古妖ちゃんなんて! なんてCUTE☆なの!」
瞳をキラキラ輝かせ、『スーパーコスプレ戦士』立花 ユネル(CL2001606)は身をもだえさせる。まるまるとしたフォルム。ふさふさの毛皮。愛嬌のある顔立ちと性格。ユエル的には、狐よりも狸だった。
(もしもに備えて九尾狐を守るようには伝えてきた。『花骨牌』の目的が読めない以上、警戒するに越したことはない)
出発前にFiVEメンバーに言付けたことを思い出しながら『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は『花骨牌』を見る。何を考えているのか読めない七星剣幹部。杞憂で済めばいいのだが、最悪の事態を避けるための処置だ。
「刑部狸さん達は解放させません!」
符を構え『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)が『花骨牌』を指差す。最終的な目的がどうあれ、その過程で九尾狐への干渉があるのは確かだ。FiVEとの関係を漏らすわけにはいかない。その上で、刑部狸の封印を守らなくては。
「二十五年前に解いた封印……何者なんだ、この人」
夢見から聞いた状況を思い出しながら『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)は唾をのむ。得体が知れない相手。それ故にいろいろ想像してしまう。どちらにせよ、今やるべきことは封印解除の阻止だと意識を作戦に戻す。
「八神の神具も気になるけど、今はおねーさんの方が気になるなぁ」
『花骨牌』を見ながら『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が声をかける。近くにいる恋人に心の中で謝罪しながら、相手の一挙一足を逃さぬように観察を続ける。見た目は芸者風の女性だが、さてその正体は如何なる者なのか。
「戦ってみたくないのかって言えば嘘になるけど、俺だって別に戦闘狂じゃねーからな」
七星剣幹部を前にして『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は静かに告げる。相手の強さに興味がないわけではないが、やるべきことの優先度は理解している。誰かを守る為に必要なら戦う。それが飛馬の信念だ。
「ん。こっちの情報漏らさないの大事。了解」
小さく頷く桂木・日那乃(CL2000941)。FiVEが押さえている情報は大きい。僅かな吐露が糸口になって、相手に情報を推測させる可能性がある。聞きたいことはあるが、その為に情報を渡さないようにしないと。
「『花骨牌』本人が出てくる……と言う事は、それだけ刑部狸さんの力が欲しいと言う事ですよね」
それだけは阻止しないと、と『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は胸に手を当てて気合を入れる。古妖と人の仲を裂く為に奔走した七星剣。そしてその命令を下した『花骨牌』。何を企み、何を知り、何を為そうとするのか。
「やっぱり来るんやね、FiVEはん。そういう所、大好きよ。せやけどうちはひ弱やから、煙に巻かせてもらうわ」
言って煙管に口をつけ、口から煙を吐きだす『花骨牌』。煙が巨大な手と顔となり、『花骨牌』を守るように展開した。
刑部狸の封印をかけた戦いが、今始まる。
●
「お初にお目にかかります。FiVEの工藤奏空、以後お見知りおきを」
一礼した後に奏空が動く。前世との繫がりを強化した後に刀を手にし、実体化した煙に向かう。目の前の煙を経験と想像から解析し、おおよその結論を導き出す。おそらくは『花骨牌』の持つ煙管型神具の創造物か。
刀の神具を握り、力を籠める奏空。心を凪の湖面のように静かに、されど闘争の炎は消さず。相反する二つの心を同居させ、神具を横なぎに払った。生まれた衝撃波が斬撃となって飛び、煙を裂く。
「隠れ蓑となる幹部もいなくなって、おねーさんの行動も見える所は見させて貰ったよ」
「いややわあ。夢見に恥ずかしい所も見られてもうたなあ」
「さあどうでしょう。聞きたいですか?」
『花骨牌』のはぐらかすような返しに、かぶせる様に澄香が問う。見られて困る秘密があるのなら、その糸口でも見つけたい。今まで陰に隠れていた七星剣の幹部だ。そのやり口も何もかもが今までの幹部と異なる。
会話に集中しながら、戦いの手を緩めない。心を沈める芳香を放って仲間の治癒力を高めながら、澄香はゆっくりと単語を紡ぐ。
「『貪狼』『巨門』『禄存』『文曲』『廉貞』『武曲』『破軍』……貴女、この名前に聞き覚えありますよね?」
「そりゃ、もう。ここでそう言うってことは、そういうことなんやね?」
「さあ、どうでしょうね?」
『そういうこと』と聞かれて、動揺することなく澄香は言葉を返す。おそらくこちらの反応から何かを読み取ろうとしているのだろう。
「可愛いわぁ。時間あるなら閨で語りたいけど、先約あるんで堪忍な」
「悪いけど、その約束はキャンセルさせてもらうぜ!」
言いながら一悟は煙に攻撃を仕掛ける。源素をトンファーに纏わせ、一気に突き出す。穿ち、払い、そして構え。トンファーは手足の延長線。空手の動きに合わせて回転させ、間合を変化させながら敵を打つ。
「花骨牌のねえさん、八神さんとどこで出会ったんだ。んで、最初に声かけたのはどっち?」
「昔の話からなぁ。確かあの封印解いた後ぐらいやったか。熱烈に求愛されたわ」
「きゅ、求愛……!? え、八神さんとそんな仲なの!?」
「さあ、どうやろね。今度あの人に聞いてみ?」
「ん。覚えてたら、聞く」
『花骨牌』の言葉に首を縦に振る日那乃。水の源素を活性化させ、癒しの術を仲間に振るう。『花骨牌』本人から攻撃が飛んでくることはないが、生み出された煙の拳の打撃で傷つく人を癒していく。
「あえて悪役になる人が好きって、八神勇雄のこと?」
「あはははは。あの人はそんなええ人ちゃうよ。大妖倒したいのも日本欲しいからやし」
日那乃の問いに、口に手を当てて笑う隔者。――イエスともノーとも答えていない。
「じゃあ、『花骨牌』さんの好きなひとってどんなひと?」
「せやなぁ……世間の枠組みを壊す破天荒な人とかやな」
「それって悪人の事じゃねーか。おばさん」
煙の攻撃を受け流しながら、悪態をつくように飛馬が叫ぶ。煙が邪魔さえしなければ、直接斬りに行っていただろう。生意気な態度は、こういう言い方をすれば気が引けると思っての行動だ。
「そうよ。おばさん、そういう人が大好きやわ」
「なあ、あんた八神のおっさんのどこがいいんだ? それなりの理由があって付き従ってるんじゃねーのか?」
「理由、あるよ。うちはなあ、ぜーんぶ壊したいねん。覚者も、妖も」
「覚者を壊させるわけにはいかないね」
唇を強く結び、秋人が弓の神具を構える。時間まで気を逸らせば結界が修復されて『花骨牌』は帰るだろう。だがそれを悠長に待つつもりはない。ここでダメージを与え、撤退させる。全力をもって挑むのみ。
矢を番えるように弓を構え、弦を引く。秋人の手に不可視の矢が生まれ、弦を放つと同時に放たれた。それは凝縮された力の塊。、細く鋭く形成された衝撃弾。矢は狙い外さず『花骨牌』の肩に当たり、封印解除の術を一時的に止める。
「あいたたた……。陣敷いてなかったら危なかったわ」
「今の感触は……FiVEの知識にない防御陣が張ってある……?」
「四門の聖獣……? まさか……」
たまきは『花骨牌』の展開している陣の紋様に見覚えがあった。北の玄武、東の青龍、西の白虎、南の朱雀。すなわち、天の四方の方角を司る霊獣。陰陽術でもなじみの深い四神の力。それを行使しているのか。
「あら、気付いた? ええ目と知識もってはるわ」
「どうしてその力を……!」
「あんたらもほんまは使えるんよ。源素の応用や。五行四獣三才二極。三十二(みとみ)の箱と十六の月獣、八足姫に四刀使い。二つの骨(きばん)のどちらかが崩れる時、一(はじまり)に至る――
ああ、すまんなぁ。話それたわ。陣は今はうちが意地悪して使えへんようにしてんねん。悪いけど、お預けな」
「『花骨牌』さん、貴方は一体……?」
「ゆねるん、びーむ!」
会話を断ち切るようにユネルが第三の瞳から光線を放つ。古妖の存在を因子の力で把握し、その気配が少しずつ濃くなっていくことを察していた。それは封印が少しずつ解けつつある事。そんなことはさせまいと、呪いで『花骨牌』を封じようとする。
「子沢山の狸ちゃん達を根こそぎ連れて行こうだなんて、お天道様が許しても、このゆねるんが絶対許さないの!」
「おお、怖い怖い。五匹ほど子供あげるから許してくれへん?」
「許さないの! 四国のマスコットキャラクターの狸ちゃん達に、これ以上手出しはさせないの!」
『いや、こいつらは子供じゃなくて部下なんだが。儂、独身――』
申し訳なさそうに念波を飛ばす刑部狸だが、ユネルの勢いは止まらない。『花骨牌』の動きを封じようと、呪いの光を放ち続ける。
多くの謎を持ち、妖艶にほほ笑む『花骨牌』。その秘密のベールが少しずつ明かされていく。しかし同時に新たな疑問も沸いて出てくる。
封印をめぐる戦いは、刻一刻と過ぎていく。
●
刑部狸の封印を解かせないようにするため、覚者達は二種類の行動をとっていた。すなわち、会話で気を引く者と攻撃して気を引く者と。
「痛いの敵わんわぁ。うち、『金剛』はんや『結界王』よりもひ弱やねんで」
攻撃を受けた『花骨牌』は眉をひそめて煙管を振るう。攻撃をしてきた者にお返しとばかりに術式を放った。
「くっ……! まだ倒れるわけにはいかないよ」
「ゆねるんは狸さんを守るの!」
秋人とユネルはその術式を受けて命数を燃やす。
「二十五年前……おねーさんが今いくつなのかは置いといて」
「あら優しいのね。そういう気づかいは大事よ」
奏空の言葉に笑う『花骨牌』。
「偶然かな? 二十五年前って言えば逢魔化現象が始まったのと同じだ。おねーさんが解いた封印ていうのはもしかして――」
「頭ええなあ。うちが解いた封印の結果、日本はこないなことになったんや」
隠すと思っていたのに、あっさりと『花骨牌』は答える。
「まあ、逢魔化いうんが覚者と妖が生まれた、言うんやったら少し違うけど……まあええわ」
「……つまり、貴方が封印を解いたから妖が現れたということですか?」
「せや。それは間違いないわ」
息をのみながら澄香が問いかける。妖による悲劇や被害。それを起こした人間。彼女が封印を解かなければ、日本はこのような事にはならなかったのだ。
「じゃあ大妖も――」
「ああ、アレは違う……いや、違わへん? ヨルナキとかケモノはどっちかっていうとそうなんやど、大河原と継美は元があれやからなぁ。辻森に至っては純粋な――そう言えば最近あの子どないしたんやろ? まあええわ」
続けて告げた問いに『花骨牌』はぶつぶつ言いながら答えを探っていた。はぐらかしているのではない。本当に説明が難解だという顔をしている。
(つまり、大妖と妖は成り立ちが違う……? 過剰な破綻者のエネルギーが大妖の元になったとは聞いてますけど、妖はそうじゃない……?)
余計なことを喋れらないように、口を紡いで思考する澄香。
「七星剣に入ったのは……八神さんに惹かれたからですか? それとも、八神さんの目的と貴方の目的が一致したからですか?」
ゆっくりとたまきが問いかける。時間稼ぎの意味もあるが、言葉を選んで問いかけていた。
「その問い方やったら、後者やな。八神の大将は日本が欲しい。うちは覚者と妖を消したい。その為には手を組むんが一番やったしな」
「覚者を消す……八神さんはそれに同意してるんですか?」
「せやね。大将は素でも強いし、あの剣あれば古妖も怖くないし無敵ちゃう? ……ああ!? うちやばいわあ。大将に勝てへんわ。最後に裏切られて切られるんちゃうか?」
言って身を捩る『花骨牌』。それを過剰な演技と受け取ったのかたまきは一番気になっていることを問う。
「……八神さんは大妖や妖を倒した後に、何を為したいんですか?」
「あらま、のってくれへんの? それこそ大将に聞きなはれ。八神帝国とかでも作るんちゃう?」
どうやら『花骨牌』自身は七星剣の野望自体には興味がないようだ。あくまで目的のために八神についていっている。
(……嘘は言っていない。感情のぶれはない)
日那乃は『花骨牌』の感情を調べながら、静かに判断する。嘘をつく時、焦ったような感情が表に出る。だがその揺れは『花骨牌』からは感じられなかった。
(嘘じゃない……だけど、真実かどうかはわからない。
封印が、逢魔化と関係しているのは、きっと本当。だけど、わたしたちがしっている逢魔化と、同じとは限らない)
仲間を癒しながら思考する日那乃。一般的な逢魔化と呼ばれる現象は覚者と妖の起こりだ。日本全国で因子発現した人が見られ、同時に妖が跋扈し始める。そういった変化そのものだ。
(封印……何かを閉じ込めていたもの。閉じ込められてたのは、何? 大妖?)
深く思考する日那乃だが、材料不足だ。その封印を調べない事には。
「今まで解いた封印は何個? そんなかで一番手こずったのは……あ、ここはノーカウントだぜ。オレたちが解かせねぇから」
「何個解いたかは数えてへんけど、一番難儀やったんは……せやな、今あんたらとやり合いながら解いてるこの封印やなあ」
気を逸らすために一悟は『花骨牌』に質問を投げつける。昔のことをあまり覚えていないのか、頓着しないのか。『花骨牌』の答えは一悟の求めていたものではなかった。だが、答えを得ることが目的ではない。
(何者なんだ、この人……。経歴を調べようにも本名すらわからない)
出発前に一悟は『花骨牌』の事を調べようとし……その取っ掛かりすら見つけることが出来なかった。表立って活動しない七星剣幹部。その悪事もつい最近の暗躍のみだ。
「ずばり聞くぜ! 二十五年前に解いた封印、元は誰が何を封じた物なんだ!」
「誰、言うんは解らんけど昔のえらい覚者さんや。封じたもんは源素を使う方法よ。
人が忘れていた源素を扱う技法。因子と守護使役と言う新たな感覚。あんたらが手足や武器のように扱うそれ事態よ」
さらり、と『花骨牌』は問いに答えた。あまり重要な事ではないのか、それ自体はもうどうでもいいのかわからない。
(最初は八神が九尾狐を探し出し、その力を得る為の時間稼ぎでも有るんじゃないかって思っていたけど……)
『花骨牌』を攻撃しながら秋人は冷静に分析する。刹那的かつ享楽的。七星剣への忠誠よりも個人の欲求を求めるタイプ。それが陽動と言う役割を買って出るとは思わない。となると、やはりここの封印が本命か。
煙ごと貫け、とばかりに弓を番え、不可視の矢を形成する。『花骨牌』の目的がどこにあるにせよ、ここで手傷を負わせておけば有利になるには違いない。気力を振り絞り、矢を解き放つ。
「根性が無くてプロコスプレイヤーなんてやってられないの!」
呼吸を整えながらユネルが叫ぶ。本番のコスプレ会場の為にコスプレイヤーが行う行動は多岐にわたる。キャラを調べ上げて把握し、衣装を採寸して作り出す。数十日の間妥協することなくそれを行い、僅か半日の本番に挑む根性。それがユネルを支えていた。
土の力を拳に宿らせ、真っ直ぐに拳を突き出す。思考性を持った源素がユネルの動きに合わせて動き、大地を隆起させた。岩のような一撃が槌となって煙を穿つ。それがトドメとなって、『花骨牌』が生み出した煙は言葉通り雲散霧消した。
「行くぜ! 巖心流の攻め、受けて見な!」
『花骨牌』までの障害がなくなり、飛馬が一気に間合いを詰める。祖父と父の銘が入った刀。それは巖心流を受け継ぐ意思と同時に、共に戦う意味を持つ。
「今は攻撃こそ最大の防御。とっとと諦めな!」
「ふふ、厳しいわぁ。狸はんに構ってる暇、ないかもね」
「こんな義理堅い奴を利用しようなんて、許しちゃおけねーんだよ!」
飛馬の攻めを術式と煙管を使い逸らす『花骨牌』。それでも完全に避けきれないのか、少しずつ傷は増えていく。
煙の守りがなくなったことで、覚者達は『花骨牌』に攻撃を加えて封印解除の邪魔をする。その隙に刑部狸は見解を強化し――
『完成じゃ! 八幡大菩薩様、罪を雪ぐ檻と成れ』
刑部狸の言葉と共に、自分自身を封じる結界が完成した。
●
「遊び過ぎたなあ。……ま、しょうがあらへんね」
虚空を見ながら『花骨牌』は肩をすくめる。何もないように見えるが、彼女の眼には『何か』が見えるのだろう。煙管に口をつけ、紫煙を吐き出す。
「ほな、さいなら。やっぱりあんたらは強いなぁ。……ほんま、皮肉なぐらいに」
苦々しくつぶやくと同時に風が吹き、紫煙に溶けるように『花骨牌』の姿が消え去る。そういう術なのかと思わせるほど、自然な消失だった。
『まずは例を言おう。結界を守ってくれて感謝する。
しかし神具・七星剣……妖魔を従える太上老君の宝貝か』
そして聞こえる刑部狸の声。
『古妖である者は、あの剣の持ち主に逆らえぬ。力の差ではない。その魂魄を操られるのだ。
悪しき者が扱えば、全ての古妖はその者に操られるだろう』
かくして刑部狸の封印は守られた。
しかし『花骨牌』と、そして七星剣が潰えたわけではない。
FiVEと七星剣、覚者と隔者。
その決着がつく日は近い。その空気を、覚者達は感じていた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
