【人妖分水嶺】八神起つ 雷雨吹き荒れ 風が舞う
【人妖分水嶺】八神起つ 雷雨吹き荒れ 風が舞う


●動き出す大嵐
 大地を血が濡らし、咆哮が空気を震わせる。降りしきる雨はその勢いを落とすことはなく、風がびゅうびゅうと荒れ狂っていた。
 古妖のみを守る鋼鉄に匹敵する鱗は剥がれ落ち、爪と牙も幾多の打ち合いにより摩耗していた。そしてそれに相対する男も体中に傷を作り、肩で息をしている状態だ。次の一撃がトドメになる。互いにそれを認識していた。
 動いたのは古妖が先。右腕を振り上げ、真っ直ぐに爪を突き立てる。数多の命を奪って来た攻撃。その攻撃は男の方を裂く。だが――
「俺の勝ちだ」
 手にした直刀が古妖の四つ目の心臓を貫く。断末魔が周囲に響き渡り、それに呼応するように雷が落ちる。そして古妖の命が尽きると同時に雨がやみ、天から光が差し込んでくる。
「やれやれ。『雨を降らせる竜』か。元は雨乞いに応じるいい竜だったんだが……すこし暴れすぎたな」
 男はそう言って近くの岩に腰掛ける。雨でぬれていたが、それを気にする様子はない。それほどに疲弊していたのだ。
 覚醒状態を解除し、懐からスマートフォンを取り出す。最初は不慣れだったが連絡用ツールとしては上質であり、使っているうちに最低限の使い方は覚えてきた。その画面に表示される数多の通知。
「こういうのは『結界王』の仕事だったんだがな……」
 ぼやく男。今は亡き部下の名前を呟き、ため息を吐く。
 思えば多くの部下が戦いによって散り、あるいは離反していった。最盛期に比べればその勢力は大きく減じ、その分の仕事を自分が請け負うことになっている。そのことを想うと、
「――計画通りとはいえ、寂しいもんだね」
 静かに愚痴を吐いた。スマートフォンの画面を見て、連絡を確認する。その中の一つに目を止めた。
「太刀花か……。タイトルは『だいよお』?」
 太刀花死霊の名前は知っている。自分の組織に所属する翼人だ。卒塔婆型の神具を使っており、上に立つよりは気ままに生きるタイプの隔者。恋愛話が大好きで、むしろ傾倒しすぎて暴走する娘だ。
 メールの内容は空白で、だからこそ急ぎで連絡を入れたのだということが理解できる。題名だけを打ち込んで送信後に覚醒。タイトルの誤字を気にする様子もなかったようだ。
「からかってる、っていう様子じゃないみたいだな。しゃーねぇ、行ってみるか」
 彼女が活動している区域は知っている。一応メールの返信をして、立ち上がる。
 彼の名前は八神勇雄。
 七星剣と呼ばれる組織の首魁――

●FiVE
「八神勇雄を足止めしてください」
 集まった覚者に向けて久方 真由美(nCL2000003)が静かに告げた。
「経緯を説明しますね。先の事件で破綻した隔者。その場所が分かりました。現在、別の班がその討伐に向かっています。
 しかしそこに彼――七星剣の首魁が現れます。おそらく破綻者となった隔者を回収し、保護するために」
 七星剣が破綻者を戦力としたケースはない。そもそも破綻者は制御できるものではない。破綻者の治療メカニズムにしても、七星剣がFiVE以上の物を持っているとは思えない。回収はどちらかと言うとメンツによる部分が大きいのだろう。
 それでも破綻者と戦う仲間を妨害しようというのなら、やはりそれは止めなくてはいけない。
「五分足止めできれば、破綻者の方に間に合うことはないでしょう。
 何かと戦った後のようなのですが、疲れすら見せる様子はありません。気を付けてください」
 渡された資料は急ぎということもあって、情報量は少ない。七星剣の首魁との戦闘記録は少ないこともあり、厳しい戦いになりそうだ。
 集まった覚者達は頷きあい、会議室を出た。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.5分間(30ターン)、八神を食い止める
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 †猫天使†STの依頼に乗っかる形で八神。
『【人妖分水嶺】[不]:調和オブリガート』と同時参加することはできません。

●敵情報
・八神勇雄(×1)
 隔者。木の精霊顕現。五十二歳男性。白の着流しを着ています。
 戦闘後に疲弊していることもあり、通常攻撃のみで攻めてきます。

・神具『???』
 直刀の神具です。一振りすれば雨を呼び、二振りすれば嵐を呼びます。
 戦場全体に影響します。大雨を降らし視界を奪います。遠距離攻撃の命中精度がダウンし、地面が滑りやすくなり回避にマイナス修正がつきます。修正は相応の技能かアイテムで軽減されます。
 また風が意志を持っているかのように立ちふさがります。

・竜巻(×3~)
 八神の神具により生まれた風です。一つのキャラクターのように立ちふさがり、攻撃を仕掛けてきます。物防よりも特防が低いステータスです。
 五ターンごとに三体が『敵前衛』に追加されます。

 攻撃方法
突風 特遠単 突風が吹き、バランスを崩します。【ノックB】
疾風 特近列 鋭い風が吹き、肌を刻みます。【出血】

●場所情報
 とある龍神を祀る神社。その裏山。石段から境内に降りた広場。
 広さ、明るさ、足場などは戦闘に支障はありません。
 戦闘開始時、敵中衛に『竜巻(×3)』、敵前衛に『八神(×1)』がいます。
 事前付与は一度だけ可能です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2018年09月30日

■メイン参加者 8人■

『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)


「五分だけや言うても七星剣の首領止めろって、そらかなりきっついで」
 でもやらなあかんよな、と頬を叩いて気合を入れる『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。一戦後とはいえ、相手は七星剣の頭。その実力は未知数だが、それでも臆するわけにはいかない。泣き言はこれで終わり、と気合を入れた。
「五分か……きついな。でも、頑張るしかねぇ」
 トンファーを手に『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)が体中に力を籠める。早鐘のようになる心臓の鼓動を感じながら、大きく息を吸って吐き出した。呼気と共に高揚も収まり、そして闘志が沸き上がってくる。
「ゆっくりしていきなよ、ようやく涼しくなったんだし」
 秋風を感じながら『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は友好的に口を開く。とはいえ本気で友好的に接するつもりはない。時間を稼ぎ、ギリギリまで足止めするのだ。
「とりあえず個人目標は全員生還かな」
 神具を手にして『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)は頷いた。幾ら弱っているとはいえ、七星剣のボス相手に無傷と言うのは難しいだろう。気合を入れないと難しい目標だ。それを意識し、神具を構える。
「七星剣の首魁の引き留めか。大役だね」
 表情を変えることなく『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)が告げる。離れた場所で戦う仲間の元に向かわせないために、ここで引き留める。けして楽な任務ではないだろう。改めてそれを認識する。
「無言の戦闘は趣味じゃないけど、来た理由もこの場でやろうとしていることも話せない……か」
 小さく『豪炎の龍』華神 悠乃(向CL2000231)が呟く。向こうの戦場で戦っている敵が持つ情報を渡さない。この二つの戦いの肝要はまさにそこ。相手の情報は欲しいが、こちらが情報を与えないことの方が重要なのだ。
「あっちにもメンツはあるだろうけど、こっちにもあるよな」
 七星剣の首魁を見ながら『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)は息を吐く。同じ七星剣の隔者の回収。それをさせるわけにはいかないのだ。別戦場で戦っている従姉妹のことを想い、そして目の前の相手に集中を開始する。
「あんた強いんだろ? ちっと稽古つけてくれよ」
 二本の太刀を手に『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は八神に言葉を放つ。状況は理解しているが、武人としての血が滾るのも確かだ。その衝動のままに構えを取り、戦意を向ける。音もなく汗が頬を伝い、落ちた。
「なんだぁ? やる気じゃねえか」
 八神は覚者が臨戦態勢を取っているのを見て、直刀を鞘から抜く。刃が振るわれると同時に風が吹き、雨が降り始めた。風が集い、意思をもって動き出す。
 作られた豪雨の中、覚者と隔者が相対する。


「巌心流、獅子王飛馬……参る!」
 八神の前に立ち塞がる飛馬。二本の太刀を独特の構えで持ち、心を研ぎすます。誰かを守る事。それを思うだけで体に力が湧いてくる。たとえ相手が七星剣の首魁だろうが、負ける気はしない。
 振るわれる八神の直刀。所作は短く、そして鋭く。見て反応してでは遅すぎる一撃。その一撃は飛馬の刀で受け止められる。幼いころから続けてきた巌心流の修行が見るよりも早く体を動かしていた。
「ほう。デカい太刀は伊達じゃねぇようだな」
「ここは通さねーぞ、八神のおっさん」
「そうそう。すこし余たちと戯れていかない? セッタイするよ」
『ムシャナイトオウジ』を身にまとったプリンスが友好的に八神に話しかける。当たり前だが、接待するつもりは毛頭ない。ここで八神を食い止め、破綻者との戦いに割り込ませない。その為の闘いだ。
 両手で『妖槌・アイラブニポン』を構え、大地をしっかりと踏みしめる。狙うは八神とその後ろで発生した竜巻。両腕に力を込めて、槌を払うように打つ。穿たれた一撃は八神を貫き、その後ろまで衝撃を届かせた。
「いい接待だな。じゃあこっちも返杯しないといけないなぁ」
「できれば余の国のお酒が欲しいな。通販で取り寄せるから待ってくれない?」
「その前に私の番だ」
 黒の翼を広げ、彩吹が八神に迫る。コマンドブーツを高らかに鳴らし、円を描くように八神との間合いを計る。隙を探し、機を伺う。相手は名高い隔者だ。その強さも経験も相応にある。
 わずかに見せた構えの隙間。それはもしかしたら罠かもしれない。彩吹はそうと思っても構わずに踏み込んだ。戦うなら躊躇うな。ガンガン進み、全力で挑め。胴を狙った蹴りは一度受け止められるが、羽を広げて逆回転し、反対側の胴に一撃叩き込んだ。
「七星剣首魁、八神勇雄? こんな所で何をしている。また何かの悪だくみ?」
「ちょいと月見酒と行きたくてな」
「そんなに急ぐことないだろ。ちっとオレたちと遊んでいってくれよ」
 トンファーを構えた一悟が八神に話しかける。七星剣首魁。隔者を統べる者。八神が荒くれ者ばかりの隔者を統括するだけの実力を持っているのは確かだ。仲間との攻防をを見ているだけでも汗が流れてくる。それでも、臆することなく歩を進めた。
 背中の紋様が赤く光る。体内をめぐる熱い炎。闇を照らす火の源素が一悟の身体を駆け巡る。振るわれる直刀に合わせるようにトンファーを振るって剣の軌道を変え、その勢いを殺すことなく一歩踏み込んだ。神具に宿る赤き火種。その熱を一気に叩きつける。
「大妖になる前に、深度を深めた破錠s……もぎゅ!」
(だーめだよ。その情報を八神に渡さないために、頑張ってるんだから!)
 一悟の口をふさぎ、失言を止める悠乃。太刀花死霊が持つ情報。それを八神に渡せば八神は大妖の戦力を押さえる為に、七星剣の力を使って破綻者を狩り始めるだろう。その未来を回避するために戦うのだ。
 戦場全体を俯瞰するようなイメージで視界を巡らす。重要なのは情報。そしてそこから道筋を作る事。見ることで得た情報を元に悠乃は思考し、次手を計算する。それと同時に八神に迫り、踏み込みと同時に黒炎を叩き込む。
(手ごたえはある。何かの神具で無効化された様子はない。でも……)
「効くねぇ。流石歴戦のFiVEの覚者だ!」
「言葉と声色が一致せえへんで」
 言って笑みを浮かべる凛。八神の発言はこちらを恐れるようだが、その実楽しんでいる節がある。だが剣術家の目から見ても八神に隙は無く、手負いと思って攻めれば返り討ちに会うイメージさえ想起させられた。油断はできない、と呼吸を整える。
 構えとはその剣術における攻防の所作。攻撃の起点を生むと同時に防御の動作でもある。すなわち、攻めるも守るも同じこと。攻めながら守り、守りながら攻める。凛は八神が繰り出した攻撃を刀で弾き、返す刀で斬りかかる。
「七星剣の首魁と剣を交える事ができるんは光栄やな」
「うわさに聞いた焔陰流か。一手お相手仕るぜ」
「八神のおっさんは任せたぜ!」
 後ろの方で叫ぶ翔。前衛で戦う覚者達に活を入れ、呼吸を整える。近くにいる相棒の姿を横目で見て、戦場を見る。冷静になれ。陰陽術師はこの世の理を司る。故に視界は広く、そしてクールになれ。熱い心を持ちながら、冷静さを失うな。自分に言い聞かせる。
『DXカクセイパッド』を操作し、術式を展開する。源素が体内で活性化し、一点に集う流れを翔は感じていた。何度も行って来た術式の展開。集う源素が稲妻と化し、荒れ狂う竜巻を撃ち穿つ。
「気力切れしそうなら言ってくれ! すぐに癒すから!」
「今のところはダイジョブかなー」
 飄々とした表情で言葉を返す紡。五分と言う時間は長い。回復を担う紡はその事を計算して、気力を使わなくてはいけない。焦るな焦るな、と心の中で自分にいい聞かせる。それを悟らせないために緩やかな表情を浮かべ、神具を握る。
 青の羽根を広げ、源素を展開する紡。集う稲妻が鳳の形となり、咆哮をあげるように羽根を広げる。戦場を舞う青い鳳凰が羽ばたくたびに、落雷が堕ちて敵を穿つ。八神が生み出した雨風の音よりも激しい轟雷が戦場に響き渡った。
「お急ぎの所悪いけど、ボクらと遊んでよ。ほらほら、ここに美人さんがいるよ?」
「美人の酌は悪くないが、生憎と今は身内を迎えに行かなくちゃいけないんでな」
 FiVEの覚者の猛攻を受けながら、言葉を返す八神。
 ざあざあと降る雨は止む気配がない。それを生み出した直刀を濡らし、さらにその勢いを増す。
 その雨に負けぬ気迫で、FiVEの覚者は戦い続ける――


 覚者達のうち翔と紡が後衛から援護射撃し、二名が八神を塞ぐために立ちふさがる。残りは竜巻に攻撃を仕掛けるという布陣を取っていた。
「次は任せた!」
「任せろ!」
 そして八神と相対している覚者達は、八神に一撃受けるたびに交代していた。
「七星剣の首魁と剣を交える事ができるんは光栄やな」
「だったらもう少し楽しんで行けよ」
 八神と切り結びながら凛は言葉を放つ。内心は緊張で心臓が早鐘を売っているが、それを見せないように気丈に笑みを浮かべた。強者とやり合ったの経験が後に生きる。一撃一撃を刻むように刀を振るう。
「俺らは俺らの務めを果たさなきゃな!」
 回復を受けて傷が癒えた飛馬が八神の前に立つ。巖心流は防御の剣術。防御の術を学び、その防御の隙を縫う剣術を教えるのだ。相手の攻撃を受け流すのは基礎の基礎。体に染みついた動きが歴戦の隔者の刃を逸らす。
「なあ、八神さん。オレたち……一緒に戦えねえのかな、この国の為に」
 戦いながら静かに問う一悟。答えはない。FiVEは弱き人を守るために戦い、八神は力を集めて弱きを押さえて支配する。スタンスの違いは明白で、妥協の着地点は見えるはずがない。同じ人間だからこそ、相容れないものがあった。
「自分の力以外は鼻で笑うのかと思っていた。その首魁がこういう武器をつかうなんて意外」
 八神から一撃を受け、距離を離しながら彩吹が言う。雨風を生む剣。力の象徴ともいえる七星剣の首魁が持つというイメージではない。だが、雨や風で攻撃をしているわけではない。そういう意味ではあくまで補助と言うところか。
「だけど風や雷なら私の仲間も負けていないよ」
「雨も風も雷もボクの得意分野だからね」
 回復の力を含んだ雨を降らし、紡が胸を張る。FiVE内でも屈指の回復役として存在する紡。天と水の源素を操る実力は全国レベルで見ても高い。事実彼女がいなければ覚者の受ける傷はこの程度では済まなかっただろう。
「――違うな。そいつを『自分の力』と思っている以上、大妖に刃は届かねぇ」
(自分の力……源素の本質……)
 他の人は戦闘中の戯言と受け流した八神の一言を反芻して思考する悠乃。一度源素の事を思考し、まとめた記憶がある。源素、覚者、そして破綻者。そして過剰な破綻が大妖の力となる。つまり――
「そういや、腰のそれはニポンの王の証でしょ? ちゃんと返してきなよ」
 プリンスは八神の持つ直刀を差し、そう告げる。日本神話において神の領域とされる雨と風を司る神具は希少だ。当たりをつけることは難しくない。だが八神は怪訝な顔をして否定した。
「なんの事を言ってるのかは知らねぇが、こいつは正真正銘俺の物だぜ」
「なんだあの剣、何か刻まれてる。……北斗七星か?」
 会話の隙を縫うように翔は八神の剣を見た。強化された瞳が捕らえたのは、小さな刻印。柄の近くに刻まれた七つの星。柄杓やスプーンに似た星座。春の夜空に輝く有名な北斗七星。鍔さえない飾り気のない剣にある唯一の意匠。
「北斗七星が刻まれた剣……七星剣か」
「洒落が効いてるだろう?」
 銘の特定に至ったのは剣術を学ぶ凛だった。遠く中国で生まれた剣だが、日本にも何振りか存在する。歴史的価値は高いが、雨風を操ったという伝承はない。
「勿論それだけじゃないけど、なっ!」
 八神の言葉と同時に暴風が戦場に荒れ狂う。新たな竜巻が生まれ、覚者達がその対応に回る。
 だが――
「ツム姫ー、時間どうだい? 余そろそろお昼寝したいんだけど」
 覚者達には余裕があった。八神を相手する人数を最小限に絞り、慎重に慎重を重ねて戦っているからだ。これまで誰も命数を削られたと言うことはない。このまま防御に徹すれば五分どころか、倍の一〇分でも持ちこたえることが出来るだろう。
「――なるほど。そういうことか」
 八神は覚者達が塞ぐ道のさらに奥を見るように視線を動かす。――場所的に言えば別動隊が破綻者を押さえている地点だ。実際に見えるわけではないだろう。おおよそのあたりをつけた、と言う感じだ。
 八神の動きに注視していた者達が怪訝な表情をしながらその動きを注視する。悠乃も八神の体力をスキャンしながらその動きを計り――

「あばよ」

 竜巻が新たに登場した瞬間を見計らって、八神勇雄は戦場から離脱した。
「…………え?」
 呆気にとられる覚者達。相手がずっと向かってくると思っていただけに、この展開は予想外だった。
「これは……食い止めとしては成功……?」
「いや、『止め』にはなっていないだろう……。まさか!?」
 翔が守護使役の空丸を飛ばし、周囲を偵察する。雨が降って視界が悪いが、八神と思われる人間が戦場を大きく迂回して別班の戦場の所に向かっているのが見えた。
「私らが足止めしていることに気づいて、別の方向から向かってるんか!」
 覚者達は徹頭徹尾防御に回っていた。一度八神から攻撃を受ければブロック相手交換と言うほどの入念さだ。
 それは生き残るという意味では最適解だろう。そして倒れなければ足止めはできる。だからこそ覚者達はこの戦法を選んだ。
 だがそれは相手が猪突猛進するだけの獣相手の戦法だ。
 露骨に防御に回り、一方向に向かわさない。そうなればその方向に何かあると勘繰るのは当然だ。そして八神にしてみればその足止めに付き合うメリットはない。足止めに徹する覚者より、その秘密を探りに行く。
 足止めとは二重の意味を含む。物理的な足止めと、心理的な足止めだ。前者は生存を重視した戦略。後者は相手にこちらを相手させなければならない理由づくり。その両方を満たしてはじめて、相手は『ここで戦わなくちゃいけない』と思い足を止めるのだ。
「向こうの班に連絡を――」
「駄目。覚醒していると電波通じない。走って行ってから伝えないと」
「この竜巻も放置できないぜ!」
「班を二つに分けて――」
「途中で八神のおっちゃんに出会ったらどうするの? 少人数で足止め?」
「それは――」
 急いで作戦を立て直す覚者達。だがその間にも時間は流れていく。
 そして――雨が止んだ。


 結論を言うと、八神が破綻者の持つ秘密を知ることはなかった。
 大きく回り道をした結果、破綻者が倒されるのに間に合わなかったようだ。
 だが大きく回り道をした結果、八神はバックアップの為に控えていたFiVEのスタッフに遭遇し、行きがけの駄賃とばかりにバックアップスタッフとその設備に大けがを負わせたという。
 大嵐が去った後、静寂が訪れる神社。嘘のように晴れ渡った空から、太陽の光が覚者達を照らしていた。

 破綻者の力が大妖の元になる。生きた人は妖になることはないが、その方法で大妖になることはできる。
 それは人と妖の分水嶺。過剰な源素が齎す分かれ道。けして交わらぬ二つの道。
 FiVEの覚者はそれを知り、そしてそこから何を為すのだろうか――


■シナリオ結果■

失敗

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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