逆襲の再生怪人軍団
逆襲の再生怪人軍団



 小説家・時原ヒノキの代表作は『閃光のカオスダイバー』という事になるのだろう。
 だが、知っている人が果たしてどれほどいるものか。
 ライトノベル作家として、そこそこ売れ始める前に、実は特撮番組の脚本を書いている。『マスクド・レイダー龍牙』第5話『怪奇! ハルキゲニア男の幻覚大作戦』、第7話『哀しみのギガントピテクス男』、第8話『狂乱のコモドドラゴン女が男子校を襲う』、第16話『地獄の剣舞! 大和守安定男』、第21話『メガロドン男、明日なき猛襲』、第30話『怪人墓場の仮面舞踏会』以上6本、同じ時原ヒノキ名義で執筆する機会に恵まれたのだ。
 メインライターでもないのに番組プロデューサーには妙に気に入られ、撮影現場の見学まで許可してもらった。
 自分の書いた文章を元に、プロの役者やスタッフが映像番組を作り上げてゆく。自分の、目の前でだ。
 物書きとして、これに勝る幸福はあるまい、とヒノキは思う。
 その上、何と、役者の1人とも仲良くなってしまった。
 奥村秀徳。
 一般的な知名度は高くないが、特撮ファンの間では『悪のエキスパート』と呼ばれている人物だ。
 ハルキゲニア男も、ギガントピテクス男も、コモドドラゴン女も大和守安定男も、メガロドン男も、彼が演じてくれた。
 視界など無いに等しい怪人の着ぐるみを装着したまま、正義のヒーロー龍牙を相手に激烈な大立ち回りを演じてのける奥村の姿に、ヒノキは感動するしかなかった。
 全く顔の出ない、どころか自分の身体の露出など1カ所もない、身動きだけの演技で、奥村秀徳は全てを表現して見せたものだ。怪人の、邪悪さも、凶暴性も、強さも、悲哀も、間抜けぶりも。
 その奥村秀徳が、死んだ。
 金剛隔者に殺された。強制労働に駆り出されていた子供たちを、庇ったのだという。
「何ヒーローみたいな事やってるんですか、奥村さん……」
 ぼんやりと街を歩きながら、ヒノキは語りかけた。
 奥村はもちろん応えてなどくれない。
 時原さんのホンはいいよ。怪人がバカばっかりだからさ、お芝居するの楽なんだよね。
 奥村は、そんな事を言っていたものだ。誉めてくれたのかどうかは、わからない。
 ふと、ヒノキは立ち止まった。
 通行人たちが、どよめいている。彼ら彼女らを威圧するかの如く、何かが歩いている。
 ヒノキは、目を疑った。
「……ハルキゲニア男……?」
 否、そんなはずはなかった。
 ハルキゲニア男の着ぐるみは、現存していない。『龍牙』番組中盤で登場する敵幹部グロテス教授の着ぐるみに改造されたのだ。
 だが今、堂々と悠然と、それでいて道化めいたユーモラスな足取りで歩を進めるハルキゲニア男は、ファンが自作物を着ているようには見えない。
 番組で使用された着ぐるみを奥村秀徳が着用している、としか思えなかった。ヒノキに言わせれば、本物の怪人である。
 悲鳴が上がった。血飛沫も散った。生首が2つ3つ、宙を舞う。
 大和守安定男が、通行人をことごとく斬殺していた。
 やはり中に奥村が入っているとしか思えない、鮮やかな剣殺陣である。安定男は、確か着ぐるみが現存しているはずだ。
 車道では、ギガントピテクス男が車をひっくり返していた。
 この怪人も、着ぐるみは残っていない。確か改造され、メガテリウム男の着ぐるみになったはずだ。
 他にも、コモドドラゴン女がいた。メガロドン男がいた。
 通行人を片っ端から虐殺する、その動きは、やはり番組内でモブを襲う怪人のアクションそのものである。
 奥村秀徳の演技、そのものである。
「奥村さんの……役者魂だけが、この世に残ってしまいました」
 本物の怪人になりきっていた奥村の仕事ぶりを、ヒノキは思い返していた。
「本物の……ヒーローの出番ですよ、ファイヴの皆さん……」
 自分が脚本を書くとしたら、ここで都合良くヒーローを出すであろうか、とヒノキは思った。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:小湊拓也
■成功条件
1.妖の殲滅
2.なし
3.なし
 お世話になっております。ST小湊拓也です。
 死んだスーツアクターの『怪人になりきってしまう役者魂』が、そのまま心霊系の妖と化し、あるいは現存する着ぐるみに取り憑いて物質系の妖になり、街中で暴れております。これを、止めて下さい。

 場所は昼間の交差点。
 オープニング中では人死にが出ておりますが、そうなる前に、夢見の情報を得た覚者の皆様に駆け付けていただく事になります。


 妖は5体、詳細は以下の通り。

●メガロドン男
 物質系、ランク2、前衛。攻撃手段は、牙型の得物や噛み付きを用いての白兵戦(物近単)。

●大和守安定男
 物質系、ランク2、前衛。攻撃手段は、二刀流の斬撃(物近列)。

●ギガントピテクス男
 心霊系、ランク2、前衛。攻撃手段は、怪力による格闘戦(特近単)。

●コモドドラゴン女
 物質系、ランク2、前衛。攻撃手段は格闘戦(物近単、BS毒)。男好きで、男性覚者を優先的に攻撃します。

●ハルキゲニア男
 心霊系、ランク2、中衛。無数の針を飛ばして攻撃します(特遠全、BS混乱)。


 周囲では通行人が逃げ惑っておりますが、妖たちは覚者の皆様との戦闘を優先させるでしょう。ヒーローが現れればヒーローと戦うのが、怪人の仕事だからです。

 それでは、よろしくお願い申し上げます。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
8日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/6
公開日
2018年06月28日

■メイン参加者 5人■

『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)


 切実な問題が、『探偵見習い』工藤奏空(CL2000955)の頭を悩ませていた。
「うーん、シルバーかアッシュ……俺の名前からイメージして、ブルーなんかで行ってみたり。あれ、でもブルーやイエローって誰かいなかったっけ」
「おい早くしろよー、ファイブ黄土色」
 声を投げてきたのは『ファイブレッド』成瀬翔(CL2000063)である。
 ちなみに『ファイブピンク』は賀茂たまき(CL2000994)だ。ブルーやイエローも、奏空が知らないだけで、いるのかも知れない。
「だ、だからって黄土色はやだー!」
 奏空の悲鳴を無視して、覚者たちは名乗り始める。
「行くぜっ。ファイブレッド、成瀬翔だ!」
「『地を駆ける羽』……ファイブアッシュグレー、如月蒼羽(CL2001575)さ」
「『天を舞う雷電の鳳』とはボクの事。ファイブアイヴォリー、麻弓紡(CL2000623)だよっ」
「ファイブピンク! 賀茂たまきですッ!」
 たまきが頑張ってポーズを決めながら、奏空の方を見る。
「ほ、ほら奏空さんの番ですよ。早くして下さい。恥ずかしがらないように練習はしましたけど、やっぱり恥ずかしいんですからっ」
「アッシュ取られた……じゃ、じゃあ探偵見習い! ファイブマゼンタの工藤奏空だっ」
「5人揃って! 五行戦隊カクセイジャー!」
 覚者5名の叫びが重なり、爆発が起こった。無害な爆発だ。
 翔が、ガッツポーズを取った。
「よし決まったぜ! ところで……そわさんと紡と奏空は、何でその色のチョイス?」
「暗めの色にしようと思ってね。ブラックは確か、あの子がいるから」
「ボクは逆に白系のカラーリングで。ホワイト、もしかしたらいるかも知れないし」
「俺は……うちのプリンタ、マゼンタが切れててさ。帰りに買ってかなきゃいけなくて、つい。あああああ、ヴァーミリオンとかにすれば良かったー」
「ヴァーミリオンって確か、ほとんど赤みてーなもんだろ。駄目駄目」
「朱色、だったと思います」
 そう話しかけてきたのは、逃げ惑う通行人の流れの中に先程までいた時原ヒノキである。
「ファイブヴァーミリオン、いいですね。でもマゼンタだって悪くないですよー」
「いいから、ヒノキさんは早く逃げて下さい」
 言いつつ、たまきが前衛の位置に立ち身構えた。
「皆さんも気を抜かないで……来ますよ、妖が」
 5体の妖。
 現存する着ぐるみの変異体であるメガロドン男、大和守安定男、コモドドラゴン女。完全な霊体であるギガントピテクス男と、ハルキゲニア男。
 計5体の怪人が、ゆったりと路上を歩き、迫って来る。
 まずは紡が言った。
「うーん、待っててくれたんだね。怪人の鑑」
「ヒーローが長々と見えを切っている間、ちょっとしたリアクションと身じろぎだけで間をもたせる……」
 蒼羽の声が、微かな震えを帯びる。
「やっぱり……本当に、貴方なんですね。奥村さん……」


 何だ、おい。モヤシみてえなのが来たなあ。
 蒼羽が挨拶をすると、奥村秀徳はまず、そう言った。
 もう何年前になるのか、とある遊園地のヒーローショーで彼はアクション監督をしていた。『マスクド・レイダー龍牙』番組内で、怪人を演じながらだ。
 蒼羽は、そのショーで龍牙のスーツを着る事になった。そして奥村の指導を受けたのだ
「あれに比べたら、ね……妖や隔者との戦いなんて、楽なものだよ」
 そんな日々を思い返しながら、蒼羽は錬覇法を実行した。
「蒼羽さんの……お知り合いの方でも、あるんですね」
 言いつつ、たまきも同じく錬覇法を使ったようだ。澄んだ大きな瞳が、赤く輝き燃え上がる。
「ならば尚更、鎮魂と浄化を……秀徳さんの魂が、妖と化すほどに暴走してしまった原因を、知る事が出来たなら」
「それは簡単だよ、たまきさん」
 蒼羽は言った。
「もっと怪人を演じたかった。ただ、それだけさ……奥村さんは、現場では怪人になりきっていたからね。あの人の、怪人を演じている時の自分自身が、この世に残ってしまった結果がこれさ」
「……恐いね、役者魂って」
 紡が言った。
「そーちゃんは大丈夫? こんな怪人なりきりオバケに取り憑かれちゃったりしない?」
「平気だよ。僕には、そこまでの役者魂はないから」
 蒼羽は微笑んだ。
「僕に、あの人の真似は出来ない。だけど」
(……追悼のショー、くらいなら出来るかな。見ていてもらいますよ、奥村さん)
 すでにいない人物に語りかけながら、蒼羽は怪人たちを見据えた。
 何も言わず、蒼羽の肩をぽんと叩きながら、紡が翼を広げる。
 香気の粒子が、キラキラと飛散して覚者5名を包み込んだ。清廉珀香。
 それに合わせて、奏空も薬壺印を結ぶ。
「おこがましいのは百も承知。俺たちが、龍牙の代わりに貴方と戦います」
 瑠璃色の光が煌めいて流れ、渦巻く清廉珀香と合流して覚者たちを包む。
「俺たちが……ヒーローとして!」
 前世の『誰か』と同調しながら、奏空は踏み込み、抜刀した。
 斬撃の暴風が、大和守安定男を直撃する。『激鱗』であった。
 奏空の刃が荒れ狂っている間、翔が素早く印を結ぶ。
「そっちも5人、オレたちも5人。へへっ、1対1でもいいかな」
 その印の周囲に黒雲が生じ、雷鳴を発した。
「ってわけでオレの相手はお前だハルキゲニア男!」
 迸った電光が、ハルキゲニア男を直撃する。
 横向けの落雷に紛れるようにして、しかしその時、大和守安定男が踏み込んで来ていた。
 奏空の『激鱗』への返礼とも言える斬撃が、奏空だけでなく翔を、たまきを、蒼羽を、激しく薙ぎ払う。
「くっ……」
 鮮血をしぶかせ、よろめきながら、蒼羽は見回した。奏空も翔も、たまきも、血飛沫を舞い上げながら踏みとどまっている。
 奥村の剣殺陣らしい鋭さではあったが、一撃で倒される覚者たちではない。蒼羽もわかってはいるが、気遣ってしまう。
 それが、隙となった。
 コモドドラゴン女が、すでに目の前にいる。胸の膨らみや太股を躍動させながらの張り手が、回し蹴りが、蒼羽を叩きのめしていた。
 セクシーさをアピールしつつの女性的なアクションも、奥村は達人級であった。
 ぼんやりと、そんな事を思いながら、蒼羽は吹っ飛んでいた。
「そーちゃん!」
 紡の声が聞こえる。
 蒼羽は路上に倒れ伏していた。大丈夫、と応える事も出来ずに血を吐きながら。
 大げさに身震いをしているハルキゲニア男の姿が見える。
「ああ……それ、僕も着た事ある……」
 蒼羽は呟いた。
 各地で行われるヒーローショーで、奥村は何度も蒼羽を使ってくれたものだ。龍牙だけでなく、怪人のスーツも着せられた。
「それ、ゴテゴテが多くて動きにくいんですよね……奥村さんは平気で、踊ったり跳ねたりしていましたけど」
 おかしな踊りを軽快に披露しながらハルキゲニア男が、背中から大量に生えた針を一斉に発射していた。
 1本が、蒼羽の左腕に突き刺さった。
 痛みはない。
 だが蒼羽の目の前には、奥村秀徳がいた。


 マスクド・レイダー龍牙の第5話『怪奇! ハルキゲニア男の幻覚大作戦』は、怪人の幻覚攻撃に苦戦する龍牙が、特訓で心眼を会得する話であった。
 もちろん覚者とて特訓はしているが、心眼などそうそう会得出来るものではないから、妖の特殊攻撃には術式で対抗する事となる。
 香気の粒子と瑠璃色の光が、キラキラと渦を巻いて翔の身体を包み込んだ。
 肩と腕に突き刺さった針が、その煌めきの中で砕けて消える。
「助かったぜ紡、奏空……うおっ!」
 翔は、とっさに身を低くした。
 蒼羽の長い足が、回し蹴りの形に頭上を高速通過してゆく。
「そわさん……ど、どうしたんだよっ!?」
「本気で……殴れ、って言うんですか……奥村さん……いくらリアリティを出すためだからって」
 蒼羽が、翔ではない誰かと会話をしている。
 その目は、ここではないどこかを見つめている。
 左の二の腕に、ハルキゲニア男の針が刺さったままだ。
「万が一、命中しても僕のパンチなら平気ですか。そうですか」
「いや……そわさん、こないだコンクリブロック割ってたよね? 平気じゃないから本当」
 後退りをする翔の眼前に、ひらりと紡が割り込んで来た。
「ほらほら、そーちゃん。思い出モードに入るのは平和な時に、ね?」
 半ば飛翔のようでもある、そのステップに合わせ、術式の光がキラキラと生じて蒼羽を包む。演舞・舞音。
 蒼羽の腕に突き刺さっていた針が、消滅した。
 ここではないどこかを見つめていた蒼羽が、ようやく翔を見た。
「……ごめん、翔くん。幻覚だって、心のどこかではわかっていたんだ。だけど……本当に、ごめん……」
「わかってるって。懐かしい人に……奥村さんに、会えたんだろ?」
 それなら、幻覚でもいい。幻覚が続けばいい。そんな思いが、蒼羽にはあったのかも知れない。
「幻でも会いたい人がいるって、悪い事じゃねーと思うぜ。それよりほら、そわさんの出番!」
「……そう、だね。まずは雷神ノ檻、使わせてもらう」
 蒼羽の両前腕で、ショットガントレットが放電を起こす。
 迸った電光が、怪人5体にバチバチッ! と絡み付いた。
 電光に束縛された妖たちを見据えたまま、たまきが大型術符を広げた。
「私、まずは守りを固めさせていただきます。退魔の型、鳳乱演符・護りの陣! 急々たること律令の如く!」
 土行の加護の力が、鎧として実体化し、たまきの瑞々しい細身に着装されてゆく。
 紡が、ヒノキが、拍手をした。
「すごい、たまちゃん日曜朝系!」
「いいですね〜。私も変身ヒロインもの書きたいです」
 翔は、いささか目のやり場に困って顔をそらせた。
 そして奏空は、血相を変えている。
「た、たまきちゃん! それビキニアーマーじゃないかああ! 駄目だよ人前でそんなの着ちゃ」
 戦いの中にあって戦いを忘れた奏空が、メガロドン男の一撃を喰らって吹っ飛んだ。
「奏空さん! もうっ、戦闘中に……」
 たまきが言いつつ、防御の形のまま揺らぐ。
 ギガントピテクス男が、電撃の束縛を引きずるようにして踏み込み、彼女に巨大な拳を叩き付けたところだ。
 水着のような鎧でも、土行の護りの塊である。たまきは、よろめきながらも踏みとどまっている。
「まったく、しょうがねえな奏空は……紡、アレいってみようぜ久々に」
「おおー、いいね相棒。龍鳳の舞、スタンバイだよ」
 翔は、紡と共に印を結び、雷を召喚した。
 電光の龍と稲妻の鳳凰が、怪人たちを蹂躙している間。
 たまきが、倒れた奏空を助け起こしていた。
「ほら、しゃんとして下さい奏空さん」
「わ、わかってるさ。たまきちゃんの前で格好悪いとこ、見せられないっ!」
 癒力大活性で治療の波動を拡散させながら、奏空は跳ね起き、激しく駆けた。
 荒れ狂う雷の中から、満身創痍の大和守安定男が、よろよろと踏み出して来る。たまきに向かって斬撃を繰り出そうとする。
 その前に、奏空の放った激鱗の斬撃が、安定男にとどめを刺していた。
「たまきちゃんは、俺が守るよ!」
「奏空さん……もうっ」
 雷の龍を制御しながら翔は、この後また奏空に飯をおごらせよう、と心に誓った。
 それはともかくハルキゲニア男が、雷龍の牙と雷鳳の嘴に粉砕され、消滅していた。
 消えゆく破片を蹴散らすように、しかしコモドドラゴン女が猛然と奏空に襲いかかる。泣き喚きながらだ。
 奏空がコモドドラゴン女に、殴られ、蹴られ、噛まれ、路面に叩きつけられる様を見物しながら、紡が、
「うーん……確か、龍牙の第8話ってさ」
 その第8話を執筆した時原ヒノキと、会話をしている。
「もてない女がリア充憎しで怪人になって、男子高校生とか襲っちゃう話だよね? よくオーケー出たよね」
「ごめんなさい、あのお話ちょっと私の欲望入ってます。オーケー出るとは私も思いませんでしたけど……でもリア充って、ぶん殴りたくなりますよね」
「わからなくもないけど、そろそろ助けてあげようか。たまきさん、一緒に」
「はいっ……奏空さんをいじめるのは、許しませんッ!」
 たまきの嫋やかな片足が、アスファルトを砕く勢いで踏み込んだ。
 少女の水着のような甲冑姿から、気合いの波動が迸る。無頼漢だった。
 コモドドラゴン女、それにメガロドン男とギガントピテクス男が、気力の奔流を喰らって吹っ飛んだ。
 コモドドラゴン女だけは倒れず踏みとどまり、涙を流しながら牙を剥く。
 牙を剥いた口から、血反吐が溢れ出した。
 蒼羽の、ショットガントレットをまとう拳が、コモドドラゴン女の鳩尾を貫通していた。
 斬・二の構えからの、右正拳突きであった。
「僕のパンチも……そう捨てたもんじゃないでしょう? 奥村さん」
 血も涙も流し尽くし、単なる着ぐるみに戻ってゆくコモドドラゴン女の眼前で、蒼羽はゆらりと残心の構えを取った。


 ギガントピテクス男と、メガロドン男。
 パワー自慢の怪人2体が、その怪力で電光の束縛に抗いながら襲いかかって来る。巨大な拳を振るい、牙のような得物を一閃させる。
 それら猛撃を、たまきが受けた。土行の力の甲冑をまとう少女の細身が、痛々しく揺らぎながら血飛沫を散らせ、しかし倒れずに凜と身構える。
「その程度で……この護りの陣を崩す事は、出来ませんよ」
「無理すんなよ、たまきさん! 次はオレが行く、ドラゴン・スライド・キックだぜ!」
 と言っても鋭刃想脚なのだが、とにかく翔が超高速で蹴り込んで行く。
 怪人2体が、激しくよろめく。
 着地した翔が、間髪入れず右掌をギガントピテクス男に突き込んだ。
 光が迸った。
 至近距離からのB.O.T.が、ギガントピテクス男を粉砕していた。
「ドラゴン・ブラストビーム……とは、ちょっと違ったかな」
「いいよー相棒。本物のヒーローみたい」
 翼を広げ、潤しの雨を降らせながら、紡は呑気な声を発した。蒼羽も言った。
「うん……いいね。翔くんなら、ショーの現場でもやっていけるんじゃないかな」
 怪人の最後の1体であるメガロドン男が、猛然と突っ込んで来る。
 立ちはだかり、踏み込みながら、蒼羽は笑った。
「僕は……ロートル、かな。そろそろ」
 メガロドン男の巨体が、激しく揺らぐ。
 蒼羽の拳が、左右立て続けに打ち込まれていた。拳撃による『十六夜』。
 メガロドン男は、しかし即座に反撃を繰り出した。巨大な口が、蒼羽を食いちぎろうとする。
 後方へ跳んで、その牙をかわしながら、蒼羽は言った。
「やれやれ、本当に僕じゃ駄目みたいだ」
「いや、そうじゃない。そいつだけ妙に手強いぞ!」
 翔が叫ぶ。さもあらん、と紡は思う。
「『龍牙』全怪人の中でも、最強の呼び声高いメガロドン男だからねえ……と、いうわけでソラっち」
 潤しの雨をたっぷり浴びて回復を得た奏空が、立ち上がってくる。紡は、微笑みかけた。
「それと、たまちゃん! 2人のラブラブコンビネーションを今こそ見たい、超見たい」
「み、見せるようなアレはないけど……やってみようか、たまきちゃん。俺から行くよっ」
「は、はい。お気を付けて」
 たまきの言葉を背に受けて、奏空が駆ける。疾風となる。
 斬撃の、疾風であった。
 疾風あるいは暴風とも言える『激鱗』が、メガロドン男の巨体を切り刻む。
 ズタズタに裂け、だが辛うじて原形をとどめたメガロドン男が、奏空に反撃を叩き込もうとしながら砕け散った。
 巨大な土の塊が、アスファルトを粉砕しながら隆起して、怪人の巨体を真下から直撃したのだ。
 たまきの『隆神槍』だった。
「秀徳さんの……最後の思いが、伝わって来たような気がします……」
 路面に片手を触れたまま、たまきは呟いた。
「心配事や、誰かに伝えたい事がある……わけでもなく、ただ怪人を演じたかった。もっと、子供たちを恐がらせたかった……その、純粋な思いだけが」
「純粋な思いが、こんなふうに妖になっちゃう……あの大妖って連中をどうにかすれば、片付く問題なのかな」
 言いつつ、紡は空に水行の力を投げた。
 虹が、生じた。
 見上げながら、奏空が語りかける。
「子供たちを恐がらせてきた貴方が、子供たちを守ってくれた……本当に、ありがとう奥村さん。貴方の演じた怪人たちが本当にいたら、きっと皆を守って妖や隔者と戦ってくれたと思います」
「それ、いいですね。今度そういうお話、書こうかな」
 創作意欲を燃やす時原ヒノキに、紡は訊いてみた。
「奥村さんってさ、どんな人だったのかな? 役者魂そのものみたいな人なのは、わかったけど」
「口の悪い人でしたねえ。私の脚本は内容がないから芝居が楽だ、とか言って」
「オレ、時原さんの書く話は好きだぜー」
 翔が言った。
「小難しい事こねくり回してなくてさ、ひたすら痛快で、わかりやすくてスカッと出来て! メガロドン男の回なんか、オレ拳握って見てたもん」
「私だって小難しい事こねくり回したいですよ。だけど尺の制限というものがありまして、そうするとやっぱりね、未就学の子が喜んでくれるような展開が優先になっちゃうんです」
「ヒーローものは、それでいいと思うぜ」
 翔の目が、喜ぶ未就学児のようにキラキラしている。
「……そわさん。ス一ツアクターってさ、どうやってなるの?」
「養成所、かな今の時代なら。もっとも奥村さんは、現場の下働きから始めたみたいだけど」
 虹を見つめながら、蒼羽が答える。
「基本的には、やる気と根性……今時、嫌われがちな精神論を堂々と押し通す人だったなあ。奥村さんは」
「奥村さーん、追悼ショーはどうだった? かっこいいでしょ、うちの子たち」
 紡は、虹に微笑みかけた。
「悪の組織が出て来たって、絶対……負けないよ?」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『ファイブマゼンタ』
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
『ファイブアッシュグレー』
取得者:如月・蒼羽(CL2001575)
『ファイブアイヴォリー』
取得者:麻弓 紡(CL2000623)
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです