《島根動乱》盲目の妖が見る未来とは?
《島根動乱》盲目の妖が見る未来とは?


●ランク1→ランク4の道程
 生まれた時から目が見えなかった。真っ暗な闇の中、耳と匂いだけが頼りだった。
 そして他の奴らにはない感覚がオレにはあった。
 触れた者の『死』を感じ取る能力。死ぬ瞬間、殺した瞬間を感じる能力。そいつが殺した記憶を再生できる。それが妖として得た能力。
 その記憶はオレが世間を『視る』ことが出来る接点だった。聴覚や匂いよりも鮮明に、それはオレが世界の中でどういう存在であるかを教えてくれる。狂暴な妖。人の姿を取りながら、肥大した腕を振るう異形。
 オレは殺して食らった。その武器も喰らった。食らうことで記憶はより濃くオレの中に残る。そうして戦い続けた――だが、問題があった。
 オレは弱かった。当時のオレは妖の中でも下の上程度。オレより強い妖などたくさんいた。そう言った奴らに挑み、消滅寸前まで痛めつけられた。オレが世間を『視る』術は、狭まっていく。
 ならどうすればいい? 簡単だ。強くなればいい。
 幸いにして、何かを殺す記憶はたくさん喰らってきた。それを真似て、技術を得ればいい。オレは『誰かを殺した記憶』の通りに体を動かし、その技術を得た。
 人の技術を真似るなど、妖の風上にも置けない。そういう奴らはたくさんいた。
 だがそういう奴らは全て殺してきた。そしてその『死』の記憶もオレの中にある。
 本能しかない頃からそうやって強くなってきた。そしてその在り方は今も変わらない。何かを殺した武器を喰らい、その記憶を模倣してさらに強くなる。いずれは斬鉄とかいう奴の武器も喰らおう。だがその前に――
 その妖――島根を襲った妖の首魁は手のひらにある欠片を見る。ヤマタノオロチの骨と言われる小さな欠片。
 その古妖を復活させて、そして――

●FiVE
「以上が、万里が見たという戦蘭丸と呼ばれる妖の思考だ」
 中 恭介(nCL2000002)は集まった覚者達に説明を開始する。
 夢見は主に未来を見るが、時折何かの思考と同調することもある。それが妖というのは特殊な例だが、ともあれ島根を襲った妖の情報が得られたことは僥倖だ。
「ヤマタノオロチの骨を持っているということは、おそらく戦蘭丸は須佐神社にいると思われる。だが曲り無しにもランク4の妖だ。情報なしで勝てるとは思えない。
 そしてそれは直に戦蘭丸に接してみないとわからないだろう」
 中はため息をつきながら須佐神社周辺の地図を取り出す。青で示しているのが妖の配置。それを縫うように赤の矢印が示されている。
「このルートを進めば、他の妖に気づかれることなく戦蘭丸に襲い掛かることが出来る。だが大人数で進めば気付かれるだろうから、数は絞ることになる」
 そして少数では勝ち目はない。だが戦蘭丸の命を取ることが目的ではない。
「可能な限り相手の能力を引き出してくれ。機を見て退却し、次に繋げるのだ」
 この戦いの目的は、相手の強さを調べること。次の機会に生かすための闘いなのだ。
 危険な任務だろう。この任務を貴方は――


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.規定ターンまで戦闘続行させ、退却する
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 別に倒してしまっても構いませんよ。

●敵情報
・戦蘭丸(×1)
 妖・ランク4。顔を包帯で巻いています。肥大化した右腕には鋭い爪が映えており、その犬歯で刀剣類を喰らいます。
《島根動乱》における妖の首魁でもあり、何らかの目的があって島根に眠るヤマタノオロチをつ復活させようとしています。洪水の神でもあるヤマタノオロチの復活は、島根やその付近の河を氾濫させ、大打撃を与えるであろうことが分かっています。
 盲目のため、不意打ちは容易です。ですが、一度敵を認識すれば戦場から逃げない限りは『視えて』いるかのように攻撃してきます。
 高ランク妖ということもあり、思考を持って行動しています。会話も可能です。
 勝つことは難しいと予測されているため規定時間(『参加人数+12』ターン)戦闘を続行させ、退却すれば依頼成功です。

 過去の接触により、以下の能力が分かっています。

 攻撃方法
 右爪  物近? 右腕の爪を振るいます。
 死真似  P  戦闘開始時に発動。『レベル35以下』のキャラクターをドラマ復活(含む命数復活)を無視して戦闘不能にします。
 古傷   P  とある剣士につけられた腹部の傷跡。PCの体術による被ダメージ増加。
 盲目   P  目が見えません。不意打ちを受ける確率増加。

●場所情報
 須佐神社。その境内。戦蘭丸は境内で何かを模倣するように体を動かしています。潜入と退却に関しては、何ら問題なく行うことが出来ると思ってください。
 時刻は夜。対処がなければ命中にペナルティがつきます。明かりをつけても他の妖が早く到着するということはありません。広さや足場は戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『戦蘭丸(×1)』がいます。皆様との距離は10メートルからスタート。
 事前付与は三回まで可能です。事前なので、付与が終わってからターンカウント開始となります。

 皆様のプレイングとお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2018年06月11日

■メイン参加者 8人■



「あの動き……武術の型……?」
『ライライさん』を上空に飛ばし、妖の動きを見ていた『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の言葉は、半分疑問形だった。腰を下ろし、同じような動きを反復する。それは人間が学ぶ武術の動きに似ていた。
「武術ねぇ……これも奴さんの情報に入るのかね」
 ため息をつきながら『在る様は水の如し』香月 凜音(CL2000495)は頭を掻く。今回の作戦はランク4妖の情報を得ることだ。この人数で勝利することは考えない。可能な限り情報を入手して、撤収する。敵の動きも何らかの情報になるかもしれない。
「ともあれヤマタノオロチを復活させられてはたまったものではない。やれることはやらなくてはな」
 茂みの中から戦蘭丸の動きを見ながら、『白銀の嚆矢』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は頷いた。洪水の化身であるヤマタノオロチ復活により、島根の河が大氾濫を起こすことが予想されている。そうなれば島根の復興は大きく遠のくだろう。
「前は手合わせできなかったからな。今回は巌心流の守りを見せてやる」
 神具を握り『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)が静かに告げた。以前邂逅した時は手合わせする間もなく一蹴された。あれからかなりの闘いを経て、強くなった実感はある。今ならあの時のようにはいかない。その自負の元、戦いに挑む。
「あの人の仇……わかっているけど、今は……!」
 何かを堪えるように『影を断つ刃』御影・きせき(CL2001110)は小さく怒りの声をあげる。剣士として尊敬していた人。それを討った妖。全てを捨てて突撃したい気持ちはある。だが今は駄目だ。そう自制する。
「ええ。今は時ではない」
 言って静かに歩き出す『最強が認めし者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)。守護使役の能力を用い、音を殺して妖に近づいていく。心に秘めているのは剣士としての心得。その心得のままに、シャーロットは戦場に挑む。
「危険な相手やけど、島根のためにやるしかないな。行くで、にゃんた」
『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は五麟市の道を歩くように、気軽に妖に近づいていく。相手がランク4の妖であることは知っている。だが相手が強いからといって引くわけにはいかない。ここで何らかの情報を得て、次につなげるのだ。
「太郎丸、よろしくお願いしますね」
 守護使役に語りかけてから、『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)が歩を進める。敵は島根を襲った妖の頭である存在。ランク3の上を行くランク4。激しく動く心臓を深呼吸をして押さえる。
 盲目の戦蘭丸に対し、足音が消せるシャーロット、凜、たまきがゆっくりと近づいていく。目視できる位置まで近づいても気づかれた素振りはない。肥大化した腕を振るい、同じ動作を繰り返している。
 三人は視線をかわし、そして頷いた。タイミングを合わせ、一斉に襲い掛かる。源素が刃が、戦蘭丸に迫り――
「――っ!? 何モンだぁ?」
 手ごたえはあった。攻撃は確かに妖に通り、傷を与える。その流れを潰すことなく、控えていた覚者達も戦場に現れた。
「八、か。どうやら人間のようだな」
 傷口を押さえながら、戦蘭丸が告げる。それは覚者の総数に等しかった。何らかの方法で、こちらの動きを察知しているのは間違いない。それに一瞬驚愕するが、覚者達の手は止まらない。
 闇の中、須佐神社での戦いの幕が切って落とされた。


 死真似。戦蘭丸が放つ殺意の風。戦うまでもない者の意識を刈り取る威圧。
 しかし激戦を潜り抜けた覚者達はそれに耐える。顔をしかめることなく戦蘭丸に攻め立てる。
「俺の名は工藤奏空! 仲間の遺志を受け継ぎ、ここに立つ!」
 名乗りを上げて奏空が戦蘭丸に迫る。妖相手に名乗りを上げるなど想像もしなかった。だがかつての仲間が武術家と認めた存在だ。それに敬意を表してあえて名乗る。一足の元に間合に入り、最大速度で神具を振るう。
 奏空の『MISORA』と戦蘭丸の爪が交差する。奏空が風なら、戦蘭丸は岩だ。ずっしろと重く動かない。だが風は誰にも捉えられない。振るわれた爪を刀でいなすようにしてかわす。生まれた隙を逃すことなく、翻った刃が戦蘭丸の腕を傷つけた。
「返してもらうぞ! ヤマタノオロチもあの人も!」
「はっ。このオレから奪おうってか。なら奪ってみな。骨はここにある」
 戦蘭丸が口にくわえた小さな欠片。おそらくそれがヤマタノオロチの骨なのだろう。
「これ以上好きにはさせません!」
 奏空の動きに合わせるようにたまきが間合いを詰める。戦蘭丸の目的はわからない。だが、今以上に力をつけようとしていることは確かだ。そうなれば島根解放は遠のくだろう。それ以前にヤマタノオロチの能力で島根中が大氾濫を起こしてしまう。
 符を構え、それを媒体に大地に源素を注ぎ込む。地を走る白の閃光。それは真っ直ぐに戦蘭丸に向かって伸び、その足元で槍と化して戦蘭丸に迫った。振るわれる爪がその何本かを裂くが、全てを払いきれなかったのかその足が槍に縫い留められる。
「察知された……。土が盛り上がる瞬間の音を聞き分けた?」
「そんな所だ。大した人間だぜ、お前ら。楽しませてくれよ」
「ああ、楽しませたるわ!」
『朱焔』を携え、凛が迫る。剣術家として自らを鍛え上げてきた経験は、戦蘭丸が『視て』はいないがこちらの動きに合わせていることを理解していた。盲目の剣豪の伝説は何人か知っている。おそらく目の前の妖も、それに似た何かでこちらを察知しているのか。
 思考は一瞬。地面を滑るように戦蘭丸との距離を詰める凛。無音かつ重心を揺らさない移動は攻撃に潤滑に移行できる。烈火の如き三連撃。縦横無尽に走る紅の剣戟。その八割が戦蘭丸の爪により弾かれていた。だが二割は――ランク4の肉を裂いていた。
「どや。人間舐めるなよ!」
「久しいな、この感覚。ああ、あの人間とやり合って以来か」
「お前があの人のことを喋るな!」
 激昂の声をあげきせきが剣を振り下ろす。妖により両親を失った少年は、次に尊敬していた剣士を失った。仇ともいえる妖を前にした少年の、その心中は誰にも計り知れない。命を賭して刺し違えたい衝動は確かにある。でも――
 溢れそうになる感情を何とか抑えながら、刀の柄を握りしめる。正眼に刀を構え、二連撃を放った。ほぼ同時に響く風切り音と金属音。だが目的は攻撃ではない。相手の動きを見て、サーチすることだ。目的は情報収取。それを忘れるなときせきは自制していた。
(コピーしてくる様子はない……考え過ぎか)
「彼女の仇を取るつもりはありません。剣士の心得のままに彼女は生きた」
 シャーロットは落ち着いた口調で戦蘭丸に向き直る。戦蘭丸と切り結んだ剣士。シャーロットはその剣士から『心得』を受け継いでいた。死を振りかざす者は、殺されることも受け入れている。剣士が妖に挑んだということは、己の死も受け入れていたはずだ。
 ならば、とシャーロットは『蓮華』を振るう。簡潔さは剣技の神髄。フェイントなどは付属品。速く、多く、鋭く攻める。それこそが剣の神髄。最短速度で手数を増やし強く切り込む。単純故に強固な攻め。
「九頭竜の将よ。剣士シャーロットが挑みます。この『死』を、存分に味わわれませ」
「呵々っ! このオレに『死』を語るか。いいぜ、いくらでも食らいつくしてやる!」
「やべーな……。静かに動いてるつもりなのに奴さん気付いてる」
 冷や汗を拭いながら凜音は息を吐く。こっそり動いても、その動きを察したかのように戦蘭丸は体の向きを変える。それは八人の覚者の誰がやっても同じことだ。戦蘭丸に攻撃を仕掛けていないにもかかわらず、だ。
 水の源素に癒しを込めて、雨にして解き放つ。それと同時にスキャンを行い、戦蘭丸の能力を探ろうとする。強大な力とや体力。流石ランク4だとわかる強さである。だがそれは解っていたことだ。さらにもう一歩踏み込まなければ、次にはつなげることが出来ない。
「単純な音だけじゃない。自発的に何かをして、俺達を『視て』いるようだな」
「どうした? 尻尾巻いて逃げるか?」
「そうもいくまい。ヤマタノオロチを復活させるわけにはいかん」
 目的を口にするゲイル。神話クラスの古妖は自然そのものだ。本人(?)の意志はともかく、顕現するだけで大きな影響を及ぼすだろう。起こさずに済むならそれに越したことはない。
 空気を吸い、須佐神社の静謐な空気を体内に取り入れるゲイル。戦いで火照った体が芯から冷え、心がクリアになった。清廉な心のままに水の源素を展開し、癒しの雨を降らせた。清き水が覚者達の傷を癒し、活力を与えてくれる。
「傷は俺に任せろ。みんなは戦いに専念してくれ」
「任せろ! あいつの攻撃は全てさばいてみせる!」
 二本の太刀を手にして飛馬が吼える。銘は己の祖父と父。受け継ぐ流派は巖心流。脈々と受け継がれた人の技を前に、ランク4の妖の前に立つ。一撃一撃は重いが、さばききれないレベルではない。多少強がりながら雄叫びを上げる。
 戦蘭丸の右腕が振り上げられる。見るべきはその鋭い爪ではなく、動きの機転たる肘と肩、そして足先。その向きと角度が攻撃のヒントになる。コンマ以下の時間でそれ判断し、太刀をその軌跡に割り込ませる。激しい金属音と共に攻撃を受け止める飛馬。
「巌心流獅子王飛馬。推参なり!」
「良いぜ人間。ならこれでどうだ!」
 さらに加速する戦蘭丸の攻撃。手を抜いていたわけではない。いたぶっていたわけではない。戦うにつれて興が乗ったと言った所か。
(本気を出すまで時間がかかる……? 車がギアをあげるように、時間をかけて能力を加速させていくのか!)
 覚者達が戦蘭丸の特性に気づく。時間をかければそれだけ力が増し、そして速度が増す。繰り出す技もそれに応じて増していく。
「畳み込むなら初手で一気に、か」
「『弱い』段階でもこれやけどな」
 FiVEの精鋭ともいえる八人を前に、単独でだが、余裕を保つ妖。これを一気呵成に攻めるなら、相応の策と準備が必要だろう。
 だが、突破口は見えた。
 島根解放の一縷の光を手繰り寄せるように、戦いは加速していく。


 覚者達は毎ターン前衛と中衛を交代しながら、ダメージを分散するように戦っていた。傷を受けて下がれば、その者が体力的に危機であることを知らせるも同然だ。それを悟らせないように動いていた。
 覚者の目的は勝つことではない。戦蘭丸の情報をできるだけ入手することである。そして戦いの中において、幾つかわかったことがある。
「なんやコイツの動き……あたしらと同じようなもんやん」
「妖が体術を使ってる……?」
 最初に気づいたのは剣術を受け継ぎ、伝達する手法を知っている凛と飛馬だ。戦蘭丸の動きは、覚者が使う体術に酷似していた。
「武器を食って得た記憶を真似てたらこうなっちまったのさ」
「! まさか、あの人の技もそうやって得たのか……!」
 武器を喰い、技を得る。その事実に気づいたきせきが戦蘭丸に問いかける。武器を食って記憶を得るなら、同じように人を――
「ねえな。人間を食っても何も得ねえ。それにあの剣士は灯が消えるように消えやがった」
 あっさりとその可能性を否定する戦蘭丸。
「それが体術だというのなら!」
 奏空はある程度の確信をもって、戦蘭丸の身体を見る。体術を繰り出す三つの身体のポイント。そこを打ち砕き、満足に体術を使えなくするAAAの技法。同時に繰り出された神具が、戦蘭丸を正確に穿つ。
「やるなぁ、人間。コイツは効いたぜ」
「やはり、体術封じは通じる!」
 攻撃全てを封じたわけではないが、それでも戦蘭丸の攻撃手段を止める手段が見つかったのは大きい。
「どういう形であれ彼女の技が取り込まれたならば、打ち合い、越えることがワタシの望み」
 シャーロットは追っていた剣士と同じ銘を持つ刀を振るい、戦蘭丸に挑む。剣士から受け継いだ心得は胸にある。ならばこの戦いは自分の闘いだ。持ちうる技をすべて叩きつけるように、力を込めて刃を振るう。
「戦ってコピーされることがないなら、全力で行くよっ!」
 戦蘭丸の技習得条件が『武器を喰ってそこから学ぶ』ことが分かった以上、技をセーブする意味はない。きせきは自分が持つ個人技で戦蘭丸に斬りかかる。三つの角度から刃を振るい、一気呵成に攻め立てる。
「どんどん回復が追い付かなくなってくる……!」
 ゲイルは仲間の傷を見ながら焦りを感じていた。時間がたてばたつほど戦蘭丸の攻撃は苛烈になり、こちらの回復が追い付かなくなってきていた。じりじりと見える終わり。回復を行いながら、冷や汗を流す。
「見せてやるぜ。これが奮迅の構えだ!」
 飛馬は太刀を十字に構え、蓄えていた気をすべて解放する。時が止まったかのような時間間隔。集中力を最大限解放し、あらゆる攻撃を弾く飛馬の構え。切り札の一つともいえる構えだが、それゆえ連発はできない。
「やっぱりその傷は堪えるようやな。ほならこっちや!」
 源素と物理攻撃。どちらの攻撃が効果的かを凛は計っていた。決定打は先に戦った剣士が与えた傷。一年の時を経ても残り続けた傷が物理的な穴となっていた。術焔陰流21代目継承者(予定)の剣技が今さえわたる。
「単刀直入に、お前さんの目的を教えてくれねーかな?」
 戦いの最中、凜音が問いかける。この妖の性格からして、ヤマタノオロチと手を組んだり利用したりということはないだろう。自分自身が強くなるためにヤマタノオロチをよみがえらせるはずだ。だが――
「復活させても草薙の剣ってのはないぜ。もう取られちまったからな」
「ああ、知ってる。あんな剣に用はねぇ。オレが欲しいのはそのヤマタノオロチを斬った剣――天羽々斬(アマノハバキリ)だ」
 天羽々斬――ヤマタノオロチを斬った際、尾にあった草薙の剣に当たって欠けたと言われる剣だ。カグツチを斬ったとされる天之尾羽張と同一視されることもある。神話が確かなら、その欠片がヤマタノオロチの体内に残っていることになるのだが……。
「ヤマタノオロチを斬った剣――その記憶を得ればその時代の剣術が見える。それを得て、俺はもっと強くなる」
「それだけのために……。ヤマタノオロチが復活すれば、この地は水害で――それ以前にあれだけの妖で島根を蹂躙したんですか!?」
 怒りの声をあげるたまき。島根の人達の生活は、強くなりたいという思いで踏みにじられたのだ。妖に人道を解いても意味がないことは知っている。だから怒りを込めて、大地の力を乗せた一撃を放つ。
「お前が武闘家のように振る舞っても、所詮は人を殺めるだけの存在だったってことだな」
 強くなりたい。その気持ちは奏空も理解できる。だがそれは他人を虐げてまで成し遂げたいものではない。自分自身の欲望のために、他人を苦しめる。それを悪と言わずしてなんと呼ぶ? 振るわれた斬撃が戦蘭丸の胸を裂いた。
「呵々! 武術は人を殺める術だ。食った武器の中でそう主張する人間もいたぜ。
 さあ、まだまだ倒れてくれるなよ!」
 さらに加速する戦蘭丸。体術のバリエーションも増え、攻撃回数も増える。現代には伝わっていない武術の動きもみられ、覚者の傷が加速度的に増えていく。
「くっ……!」
 命数を燃やし、猛撃に耐える覚者達。これ以上は危険だが、得た情報は充分とはいいがたい。後数十秒、稼がなくては――
「やぁあ!」
 たまきが意を決したかのように戦蘭丸にタックルを仕掛ける。一瞬だけ動きを封じるが、ランク4相手に背中を見せることになる。そしてその隙を逃す妖ではない。
 たまきは避けようとしない。ただ黙って愛する人を見た。その視線の意味に気づき、
「ヤマタノオロチの骨、貰った!」
 奏空は戦蘭丸が咥えていたヤマタノオロチの骨に手を伸ばす。素早い動き、優れた技巧、そして何よりもたまきとの連携。これら一つが欠けていたら骨の奪取は叶わなかっただろう。奏空は手にした骨を後ろに投げ、仲間に渡す。
「やっ――」
 た、の言葉は紡がれなかった。
 その前に戦蘭丸の爪が、たまきと奏空を裂いたからだ。血飛沫が舞い、二つの肉体が崩れ落ちる。二人の命を絶とうと、戦蘭丸は右腕を振るい――
「これ以上、奪わせやしない!」
 二人の間に割って入ったきせきの刃に腕が弾かれる。だが一息つくまでもなく、戦蘭丸の乱杭歯がきせきの喉笛に食らいついた。
「ああ、ああああ……!」
 がくがくと体を震わせ、気を失うきせき。からん、と『不知火』が地面に落ちる。
「――時間です。撤退を」
 だが戦蘭丸の怒りを買ったことで、貴重な十数秒は稼げた。ヤマタノオロチの骨も手に入り、予想以上の戦果を上げれたと言えよう。だがたまき、奏空、きせきの三名は――
「三人はどないすんねん?」
 問いかける凛。戦蘭丸の近くで転がる三人。見捨てれば命はないだろう。最も、
「当然――助けて逃げます」
 答えは解っていたが。覚者全員は神具を構え、最後の特攻のために力を振り絞った。
 そして――

 覚者達を出迎えたFiVEのバックアップ部隊は、急ぎ治療を始める。
 唯一意識があったゲイルも、帰還を確認後に意識を失う。それだけ壮絶な戦いだったのだろう。


 彼らが得た情報とヤマタノオロチの骨は、この島根動乱を終わらせる鍵となる。
 さあ、反撃の時だ――




■あとがき■

 以下のステータスが解明されました。

 戦蘭丸 攻撃方法

十六夜 物近範 同名の体術スキル参照
波動滅弾 物遠単 同名の体術スキル参照
鉄指穿 物近単 同名の体術スキル参照
戦ノ蘭  P   物攻、反応速度が5ターンごとに【+(ターン数×5)%増加】され、攻撃回数が+1される。
無名の古武術 物近範 骨を砕くことを目的とした動き。【無力】【使用条件:5ターン経過後】
無名の暗殺術 物遠単 目に見えない針を飛ばし、体の機能を狂わせます。【不随】【使用条件:10ターン経過後】
無名の交差法 物遠全 敵陣を駆け抜けながら切り裂きます。【使用条件:15ターン経過後】 
噛み付き 物近単 歯で噛みついてきます。【必殺】【使用条件:口が使える事】 




 
ここはミラーサイトです