《島根動乱》狂おしい恋の炎が燃え盛る
●島根県
島根県を妖の群れが襲う。
妖はまるで誰かに命令されているかのように統率だって動き、島根を占拠するように動き回る。人を殺すよりも、神社を襲うなどの行動を優先しているようだ。それにより人的被害は予想よりも多くはないのだが、皆無でもない。
この非常事態に覚者組織は団結して解決に当たる。そして覚者最大組織のFiVEもまた、その解決のために戦うのであった。
そして――
●高津柿本神社
蝶が舞う。炎の羽根持つ蝶が火の粉を飛ばしながら舞っていた
「ふふ。ふふふふふ。ああ、愛しい人。戦蘭丸様――」
火の粉の中心には紫色の着物を着た女性――の姿をした心霊系妖。妖は言葉を喋らない。この言葉も喋っているように見えて、そう『鳴いて』いるだけの獣なのだ。愛しき人を呼ぶ以外の会話はできず、ただその周りを炎の蝶が舞っている。
ここは高津柿本神社。島根県にある神社の一つで三十六歌仙の一人である柿本人麻呂を祀っている神社だ。『万葉集』第一の歌人として学問を司り、人麻呂から『火止まる』『人生まる』で防火や安産の神として祀られている。
「貴方のため、貴方のため。愛しい人のために、燃やしましょう」
熱にほだされたように幽鬼は喋る。その度に炎の蝶が生まれ、そして火の手が広がっていく。妖の蝶が生む炎は容易には消えず、火の手は少しずつ広がっていく。
その妖自身も炎に飲まれて消えてゆく運命なのだが、それでも構わないとばかりに微笑んでいた。
「愛しい愛しい貴方様。この想いは届かずとも、この炎で貴方の道を照らしましょう」
狂わしいほどの妖の『鳴声』は業火に溶けて、そして消える――
●FiVE
「――という未来になるのを阻止してください」
久方 真由美(nCL2000003)の言葉を聞き、安堵する覚者。まだ妖自体は神社についていないようだ。
「妖の強さはランク3。疑似的にランク1相当の炎の蝶を生み出すことが出来る様です」
妖の派生についてはまだ解明されていない。物や生き物が突然妖化することがほとんどで、何が起因となってどのような力が働いているのかわからない。
だが今はそこに構っている余裕はない。人の避難は済んでいて人的被害はなさそうだが、神社の一つが破壊されそうになっているのだ
「妖が何を目的に神社を狙っているのかは不明です。ですが放置するわけにもいきません。
それと――」
真由美は一旦言葉を止めてため息をつく。その表情から読み取れる感情は複雑だ。
「今回、元イレブンの組織が援護に入ります。消火活動及び妖の攻撃補助です」
それは元敵対組織を完全に信用していない顔でもあり、同時に覚者憎しで動く憤怒者とて手を取り合えるようになった覚者の働きの結果を喜ぶようでもあった。犯罪組織の援護を受ける事は流石に表沙汰にはできないだろうが。
「妖が柿本神社に入る前に倒します。皆さん、よろしくお願いします」
頭を下げる真由美。その礼に答えるように覚者達は現場に向かった。
島根県を妖の群れが襲う。
妖はまるで誰かに命令されているかのように統率だって動き、島根を占拠するように動き回る。人を殺すよりも、神社を襲うなどの行動を優先しているようだ。それにより人的被害は予想よりも多くはないのだが、皆無でもない。
この非常事態に覚者組織は団結して解決に当たる。そして覚者最大組織のFiVEもまた、その解決のために戦うのであった。
そして――
●高津柿本神社
蝶が舞う。炎の羽根持つ蝶が火の粉を飛ばしながら舞っていた
「ふふ。ふふふふふ。ああ、愛しい人。戦蘭丸様――」
火の粉の中心には紫色の着物を着た女性――の姿をした心霊系妖。妖は言葉を喋らない。この言葉も喋っているように見えて、そう『鳴いて』いるだけの獣なのだ。愛しき人を呼ぶ以外の会話はできず、ただその周りを炎の蝶が舞っている。
ここは高津柿本神社。島根県にある神社の一つで三十六歌仙の一人である柿本人麻呂を祀っている神社だ。『万葉集』第一の歌人として学問を司り、人麻呂から『火止まる』『人生まる』で防火や安産の神として祀られている。
「貴方のため、貴方のため。愛しい人のために、燃やしましょう」
熱にほだされたように幽鬼は喋る。その度に炎の蝶が生まれ、そして火の手が広がっていく。妖の蝶が生む炎は容易には消えず、火の手は少しずつ広がっていく。
その妖自身も炎に飲まれて消えてゆく運命なのだが、それでも構わないとばかりに微笑んでいた。
「愛しい愛しい貴方様。この想いは届かずとも、この炎で貴方の道を照らしましょう」
狂わしいほどの妖の『鳴声』は業火に溶けて、そして消える――
●FiVE
「――という未来になるのを阻止してください」
久方 真由美(nCL2000003)の言葉を聞き、安堵する覚者。まだ妖自体は神社についていないようだ。
「妖の強さはランク3。疑似的にランク1相当の炎の蝶を生み出すことが出来る様です」
妖の派生についてはまだ解明されていない。物や生き物が突然妖化することがほとんどで、何が起因となってどのような力が働いているのかわからない。
だが今はそこに構っている余裕はない。人の避難は済んでいて人的被害はなさそうだが、神社の一つが破壊されそうになっているのだ
「妖が何を目的に神社を狙っているのかは不明です。ですが放置するわけにもいきません。
それと――」
真由美は一旦言葉を止めてため息をつく。その表情から読み取れる感情は複雑だ。
「今回、元イレブンの組織が援護に入ります。消火活動及び妖の攻撃補助です」
それは元敵対組織を完全に信用していない顔でもあり、同時に覚者憎しで動く憤怒者とて手を取り合えるようになった覚者の働きの結果を喜ぶようでもあった。犯罪組織の援護を受ける事は流石に表沙汰にはできないだろうが。
「妖が柿本神社に入る前に倒します。皆さん、よろしくお願いします」
頭を下げる真由美。その礼に答えるように覚者達は現場に向かった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『紫の乙女』の打破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
パワースポット第四戦。柿本人麻呂、恋の詩が多かったので。
●敵情報
・紫の乙女(×1)
心霊系妖。ランク3。紫の衣をまとった女性の幽鬼です。手に小刀と扇を持っています。扇で扇ぐたびに炎の蝶が生まれ、周囲を炎で埋め尽くしていきます。今は柿本神社に歩を進めています。足止めする者がいれば最優先で攻撃してきます。
言葉は喋りますが、会話は不可能です。ただ誰かを想うように『鳴いて』いるだけです。そこに如何なる思いがあるなど、依頼成功には意味がない事です。
命尽き果てるまで炎を生み、想い人のため神社を燃やし尽くのが目的です。
攻撃方法
熱風 特遠列 熱い風を飛ばし、体力を奪います。
蛇焔 特遠単 対象の足元から炎を生み出し、蛇のように絡ませます。【三連】【炎傷】
神楽舞 物近列 舞うように扇で視界を塞ぎながら、小刀で切り裂きます。【出血】
愛を囁く 特遠全 狂っているかのように愛を囁き、心を汚染します。この攻撃に限り『感情欄に活性化してある「誰かに対する好意的な感情(STが判断)」の数』×10だけ回避が上昇します。【魅了】【不安】【溜3】【ダメージ0】
炎熱の恋 P フィールド上に存在している『火の蝶』の数に応じて特攻上昇。
・火の蝶(×4~)
『紫の乙女』が生み出す疑似的な妖です。強さはランク1相応。意思はなく、ただ周囲を燃やす為だけに飛び交っています。
3ターンごとの『紫の乙女』の行動開始タイミングで三匹だけ『敵前衛』に配置されます。
攻撃方法
火の鱗粉 特近単 炎の鱗粉を飛ばします。【火傷】
陽炎幻惑 特遠単 陽炎を生み、幻惑します。【弱体】
●NPC
『エグゾルツィーズム』
ロシア語で悪魔祓いを意味する宗教ベースの元憤怒者組織です。諸事情あって島根解放のためにFiVEと協力しています。
消火活動と同時に、毎ターン『物遠全』で援護射撃を行ってくれます。
●場所情報
高津柿本神社に通じる参道。時刻は昼。足場や広さは戦闘に影響しないものとします。
戦闘開始時、敵前衛に『紫の乙女(×1)』が、敵中衛に『火の蝶(×4)』がいます。彼我の距離は十メートルとします。
事前付与は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
3/6
3/6
公開日
2018年05月23日
2018年05月23日
■メイン参加者 3人■

●
紫の衣と炎の蝶。そして呟かれる狂おしい愛の言葉。
低ランクの妖は妖は言葉を解しない。ランク3でようやく『言葉らしい何か』を呟ける程度だ。だからこの愛の言葉も意味はない。あるいはあるのかもしれないが、意味を為さない。何故なら他人の言葉を聞き入れるつもりはないからだ。
戦蘭丸様。
ただその名前だけに、意味はあった。
「戦蘭丸と言いましたか……つまり、この動乱には九頭竜の将が関わっている可能性がありますね」
過去の報告書を思い出すように『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は推測する。かつて一度だけFiVEと交戦したランク4の妖。その配下は日本刀らしきものを埋めつけられており、島根を襲った妖の特徴とも合致する。
(問題はその目的です。……そもそも妖の欲望が人間と同じかという所もありますが)
思考する妖、というケースはそう多くない。低ランクの妖は本能に従って動き、暴力的だ。妖が金や社会的名誉を求めるとはとても思えない。戦蘭丸の刀の収集癖が関係しているのかもしれないが、断定はできない。
「『エグゾルツィーズム』のみなさん、わたし達も全力を尽くします」
『月々紅花』環 大和(CL2000477)は集まった元イレブン組織に一礼する。かつては相対していた者同士だが、様々な事情があって協力することになった。大和にかつての遺恨を気にする様子はない。共に妖を討つための仲間として、礼儀を尽くす。
(何時か表立って手を取り合う時が来るといいのだけど)
憤怒者と呼ばれる者達の覚者への憎しみ。それは大和も否定はしない。だがその垣根はいつか乗り越えられる。そう信じていた。今は妖という共通の敵があってこその共闘だが、いずれ手を取り合える。
「皆様、よろしくお願いします」
胸に手を当てて上月・里桜(CL2001274)も『エグゾルツィーズム』に頭を下げた。実のところ、元イレブンの援護は難色を示す意見もあった。だがそれを表に出すことなく里桜は微笑む。戦場という場において、他人を和ませるおしとやかな笑み。
(お互いに、何も思わないという訳にはいかないと思いますけれど……)
覚者と憤怒者。その溝は決して浅くはない。里桜もそれは知っている。だがそれを踏まえたうえで轡を並べる。不満はあるかもしれないが、だからこそ共に戦うのだ。そうすることで何かが変わるかもしれないから。
「ああ、燃やしましょう。燃やしましょう。貴方のために燃やしましょう」
炎を振りまく乙女の妖。その目に何かを写すことはない。高津柿本神社を放火し、そのまま自分事燃え尽きる。それ以外に何も映っていない。そんな妖が足を止める。目の前に、敵意を察したからだ。
ここは通さないと立ちふさがる覚者達。その存在を察して、懐から小刀を抜き放つ。扇を盾にするように構え、妖は戦闘態勢に入った。
それに応じるように覚者達も神具を構える。背後には柿本神社。ここを通せば神社は炎に包まれ、灰となって消えるだろう。それが妖の思いのままなら、覚者として放置はできない。
静寂は一瞬。覚者と妖はほぼ同時に動き、交差した。
●
「それじゃあ行くわよ」
言葉と同時に大和が前に出る。太もものベルトから術符を抜き取り、指で挟んで構える。覚醒と同時に流れるような黒髪が銀色に変わり、瞳は宝石のような紫に染まる。唇を軽く上げた笑みはどこか妖艶さを感じさせた。
(わたしの役割はこの妖を通さないこと)
心の中で自分の役割を反芻し、妖の前に立つ。術符を展開し、体内の源素を循環させる。生まれる水の源素は癒しの力。妖の攻撃で受けた傷を癒し、長く妖を足止めさせるための手段。攻撃は最低限に。これが自分の立ち位置だと主張するように大和は笑みを浮かべる。
「お願いね、ラーラさん」
「はい! 良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
頷くと同時にラーラは本を手にする。頑丈に封された魔導書の拍子に魔法陣が展開された。それが意味するのは炎。ラーラが、そしてその前世が得意とした源素の一つ。破壊と再生を司り、未来を照らす灯となる力。
「柿本神社の破壊が敵の目的達成の一助になるのなら、このまま進ませるわけにはいきません!」
ラーラの声と共に炎が走る。彼女の意志に従い炎は弾丸と化した。もっと鋭く、もっと熱く、もっと速く。魔力と共に弾丸にこめられるラーラの意志。時間にすれば一瞬程度の炎弾形成。手をかざすと同時に弾丸は妖に向かって飛び、その肩を穿つ。
「たとえあなたの行動が言葉通り戦蘭丸さんへの想いから発した行動であったとしても……この炎で食い止めます!」
「ええ。これ以上、進ませません」
桜色の髪を戦場の風になびかせる里桜。出発する前に聞いたヤマタノオロチの情報。それが正しいのなら、神社の穢れがヤマタノオロチの招来の要因となるのだろう。それがどんな事態を生むかはまだわからないが、人間に良い影響を与えるとは思えない。
(そう……。妖がヤマタノオロチを復活させて何をしたいのか。それが分からない)
刀を収集する戦蘭丸と呼ばれる妖。その情報を思い浮かべて、頭を振った。今は戦いに集中すべきだ。数枚の術符を飛ばし、仲間を包み込むように展開した。清風が符で作られた空間内を満たす。柔らかな風が妖から受けた傷と、そして炎を消していく。
「柿本神社を燃やさせはしません」
「ふふふ。全て、全て燃やすわ。ああ、愛しの戦蘭丸様」
妖が呟く。呟きながら刀を振るい、焔の蝶を生む。この言葉に意味はない。戦場の誰かに当てた言葉でもない。風切音のような、ただのさえずり。
されどその意思は明確だ。覚者を排し、神社を燃やす。夢見の予知の情報を照らし合わせるまでもない。この妖は万難を排し、柿本神社を燃やすつもりだ。覚者が介入しなければ間違いなくこのパワースポットは廃墟となっただろう。
妖の行動を人間に当てはめることに意味はない。
だがこの妖の行動は、愛に狂った人のように見える。愛する人のために自らを焦がし、尽くそうとする存在。そうすることで愛を示そうとする恋する者。
勿論、そんなことを許すつもりはない。覚者の目は、意思は、神具の向きは、確かにそう語っていた。ここより先には通さない。
焔の妖と覚者達。両の意志がぶつかり合う。
●
『エグゾルツィーズム』の射撃が戦場を穿つ。覚者ではない元憤怒者の火力だが、援護射撃としては十分なものだ。
射撃に合わせるようにラーラの炎が戦場を駆け抜けた。天を焦がすが如く燃え上がった炎はラーラの魔力により手のひらに収まる。火力を減じたのではない。巨大な火を一点に凝縮したのだ。才能と努力。その粋が赤き矢となって放たれた。炎を生む妖とはいえ、子の一矢を受けて無傷ではいられない。
「これ以上勝手なことはさせません! たとえあなたの行動が言葉通り戦蘭丸さんへの想いから発した行動であったとしても……この炎で食い止めます!」
「ふふふ。燃やします。貴方のために燃やします」
紫の乙女はただ愛の言葉を繰り返す。痛みを感じているはずなのに、その口調に変わりはない。よろよろと振らめきながら言葉を繰り返す。
「貴方の炎は通さない。神社にも、仲間にも」
妖の前に立つ大和。自身を含めた仲間全員に回復を施しながら、紫の乙女を足止めしていた。生み出された炎の蝶を押さえる余裕はない。だがそれは仲間がどうにかしてくれるだろう。このランク3さえ押さえておけば――
大和の視界が扇で塞がれる。同時に振るわれる妖の小刀。脇腹に走る熱い感覚が、深く斬られたことを教えてくれた。一瞬遠のく意識。崩れ落ちそうになる肉体を精神力で支えこむ。命数を燃やしてなんとか堪えるが、楽観できる状況ではない。だが、
「流石ランク3ね。でもまだ負けるつもりはないわ」
傷を押さえながら大和が口を開く。楽観できる状況ではないが、それでも負けるつもりはない。そう告げた。
「ええ。負けません。ここで止めてみせます」
頷く里桜。彼女も炎の蝶を止めながら、戦況を維持しようと奮起していた。炎の蝶による火傷を癒しながら、仲間が負った傷も癒す。やるべきことは多いが、それでも一つ一つを確実にこなしていく。
神具を手に意識を集中する。水の源素が里桜の周りを包み込むように生まれ、そして仲間達の元に広がっていく。優しい水の力が仲間達の傷を覆い、浸透するように塞いでいく。妖の蹂躙を打ち消す癒し。戦闘は得意ではないが、それでも出来ることはある。
「あともう少しです。妖の体力はもうほとんどありません」
妖をスキャンし、その体力を計る里桜。その声に覚者達は奮起する。
「愛してます――」
その妖が笑みを浮かべる。覚者にあてたものではない。ここにはいない誰かにあてた笑み。それが届くか否かは問題ではない。
「愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛シテます愛してマス愛シテマス愛シテ愛愛愛愛愛愛愛愛あいあいアイアイアアアアアアアアアアイイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアア――!」
「何……?」
「まさかこれが、夢見の報告にあった妖の技なんじゃ……?」
狂ったように愛を囁き、人の心を汚染する妖の術。言葉は現実的な術式となって聞いている者達に染み入っていく。この穢れを受ければ、正気を保つことは難しいだろう。この妖の根幹ともいえる技だ。
「悪いけど、それを受けるわけにはいかないわ」
防戦に徹していた大和が攻勢に出る。複数の術符を宙に浮かべ、それぞれに力を込めた。大和の周りで力を増しながら回転する術符。それは回転の中央にいる大和へ力を注ぎ込む動き。最大限にたまった力を稲妻に変え、天から穿つ。
「させません。これでお終いです」
術符を地面につけ、里桜が宣言する。神具を通して地面に伝わる力。源素は光となって地面を走り、妖の足元で二手に分かれる。妖を囲むように円を描く二つの光。それが重なった瞬間に大地が隆起し、槍となって貫く。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
言葉とともにラーラは書物を掲げる。掲げた魔導書の上に展開された多重魔法陣。魔法陣同士が互いを干渉し、更なる炎熱を生む術式となる。それは前世と今世の魔女の融合。知識と経験、そして今を生きる思いが生んだ炎。
天からの雷撃、地からの岩槍、正面からの炎熱。三種三様の合体攻撃が妖を襲う。激しい光と音が戦場を駆け抜け――
「ああ、私は、貴方を……」
それが収まった静寂の中、妖が立っていた。
「せん、らん、まる……さ」
妖は立ったまま死んでいた。最後の最後まで愛を囁き、そして灰となって消えていった。
●
戦いが終わり、安堵する覚者達。『エグゾルツィーズム』が念のためにと飛び火の見回りに走り回っていた。
「『エグゾルツィーズム』のみなさん、この度は共に協力できたこと、嬉しく思います。
今後とも協力できればより皆が安心して過ごせるようになると思うわ」
そんな『エグゾルツィーズム』にお礼を言う大和。元は敵で相対していたとはいえ、彼らもまた妖と戦うこの国の人間なのだ。手を取り合って未来を築いていく。そんな未来のために戦っていければと切に思う。
「戦蘭丸……島根のためにいつか倒さなければならないですね」
ラーラは紫の乙女が呼んでいた妖の名を口にした。九頭龍と呼ばれる妖集団の一人。盲目の妖。刀を集め、部下の妖にそれを施すもの。人を殺した経験を持つ死体を操る存在。……ランク4の強さを持つ妖。楽な戦いにはならないだろう。
「ヤマタノオロチは倒された時、尾から剣が出てきたのではありませんでしたか……?
確か草薙剣.。妖がそれを狙っている、なんてことはないですよね……」
刀を集める妖。そのフレーズとヤマタノオロチの接点を里桜は考察した。ヤマトタケルノミコトがヤマタノオロチを切り裂く際に、持っていた剣が欠けたという。何事と思ってみてみれば、そこには一本の剣があった。それが草薙剣。三種の神器の一つと言われた神剣だ。
(……いいえ、少し違う気がします)
推測を立てて、それを否定する里桜。刀剣類を集めるという事と、有名な剣を求めることはイコールではない気がする。戦蘭丸が欲しい刀剣類はどういう類のものか? それを考えなくては――
夕日が高津柿本神社を照らす。炎とは違う紅が神社を染めていた。
もともと人間だった柿本人麻呂。それが神として祀られた柿本神社。そこには古人を尊ぶ風習があった。偉業を成し遂げた者を祀り上げ、それを伝えるために形にする。高津柿本神社はそう言った心から生まれた神社だ。
それが燃えなくてよかった。覚者達は振り返って帰路につく。
島根を襲う妖軍団。その脅威から解放するまでどれだけ時間がかかるかはわからない。
だがランク3妖の数は確かに減っていっている。それは一歩ずつ島根の解放に近づいていっている証だ。
覚者達は頷きあい、次の闘いに向かった。
紫の衣と炎の蝶。そして呟かれる狂おしい愛の言葉。
低ランクの妖は妖は言葉を解しない。ランク3でようやく『言葉らしい何か』を呟ける程度だ。だからこの愛の言葉も意味はない。あるいはあるのかもしれないが、意味を為さない。何故なら他人の言葉を聞き入れるつもりはないからだ。
戦蘭丸様。
ただその名前だけに、意味はあった。
「戦蘭丸と言いましたか……つまり、この動乱には九頭竜の将が関わっている可能性がありますね」
過去の報告書を思い出すように『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は推測する。かつて一度だけFiVEと交戦したランク4の妖。その配下は日本刀らしきものを埋めつけられており、島根を襲った妖の特徴とも合致する。
(問題はその目的です。……そもそも妖の欲望が人間と同じかという所もありますが)
思考する妖、というケースはそう多くない。低ランクの妖は本能に従って動き、暴力的だ。妖が金や社会的名誉を求めるとはとても思えない。戦蘭丸の刀の収集癖が関係しているのかもしれないが、断定はできない。
「『エグゾルツィーズム』のみなさん、わたし達も全力を尽くします」
『月々紅花』環 大和(CL2000477)は集まった元イレブン組織に一礼する。かつては相対していた者同士だが、様々な事情があって協力することになった。大和にかつての遺恨を気にする様子はない。共に妖を討つための仲間として、礼儀を尽くす。
(何時か表立って手を取り合う時が来るといいのだけど)
憤怒者と呼ばれる者達の覚者への憎しみ。それは大和も否定はしない。だがその垣根はいつか乗り越えられる。そう信じていた。今は妖という共通の敵があってこその共闘だが、いずれ手を取り合える。
「皆様、よろしくお願いします」
胸に手を当てて上月・里桜(CL2001274)も『エグゾルツィーズム』に頭を下げた。実のところ、元イレブンの援護は難色を示す意見もあった。だがそれを表に出すことなく里桜は微笑む。戦場という場において、他人を和ませるおしとやかな笑み。
(お互いに、何も思わないという訳にはいかないと思いますけれど……)
覚者と憤怒者。その溝は決して浅くはない。里桜もそれは知っている。だがそれを踏まえたうえで轡を並べる。不満はあるかもしれないが、だからこそ共に戦うのだ。そうすることで何かが変わるかもしれないから。
「ああ、燃やしましょう。燃やしましょう。貴方のために燃やしましょう」
炎を振りまく乙女の妖。その目に何かを写すことはない。高津柿本神社を放火し、そのまま自分事燃え尽きる。それ以外に何も映っていない。そんな妖が足を止める。目の前に、敵意を察したからだ。
ここは通さないと立ちふさがる覚者達。その存在を察して、懐から小刀を抜き放つ。扇を盾にするように構え、妖は戦闘態勢に入った。
それに応じるように覚者達も神具を構える。背後には柿本神社。ここを通せば神社は炎に包まれ、灰となって消えるだろう。それが妖の思いのままなら、覚者として放置はできない。
静寂は一瞬。覚者と妖はほぼ同時に動き、交差した。
●
「それじゃあ行くわよ」
言葉と同時に大和が前に出る。太もものベルトから術符を抜き取り、指で挟んで構える。覚醒と同時に流れるような黒髪が銀色に変わり、瞳は宝石のような紫に染まる。唇を軽く上げた笑みはどこか妖艶さを感じさせた。
(わたしの役割はこの妖を通さないこと)
心の中で自分の役割を反芻し、妖の前に立つ。術符を展開し、体内の源素を循環させる。生まれる水の源素は癒しの力。妖の攻撃で受けた傷を癒し、長く妖を足止めさせるための手段。攻撃は最低限に。これが自分の立ち位置だと主張するように大和は笑みを浮かべる。
「お願いね、ラーラさん」
「はい! 良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
頷くと同時にラーラは本を手にする。頑丈に封された魔導書の拍子に魔法陣が展開された。それが意味するのは炎。ラーラが、そしてその前世が得意とした源素の一つ。破壊と再生を司り、未来を照らす灯となる力。
「柿本神社の破壊が敵の目的達成の一助になるのなら、このまま進ませるわけにはいきません!」
ラーラの声と共に炎が走る。彼女の意志に従い炎は弾丸と化した。もっと鋭く、もっと熱く、もっと速く。魔力と共に弾丸にこめられるラーラの意志。時間にすれば一瞬程度の炎弾形成。手をかざすと同時に弾丸は妖に向かって飛び、その肩を穿つ。
「たとえあなたの行動が言葉通り戦蘭丸さんへの想いから発した行動であったとしても……この炎で食い止めます!」
「ええ。これ以上、進ませません」
桜色の髪を戦場の風になびかせる里桜。出発する前に聞いたヤマタノオロチの情報。それが正しいのなら、神社の穢れがヤマタノオロチの招来の要因となるのだろう。それがどんな事態を生むかはまだわからないが、人間に良い影響を与えるとは思えない。
(そう……。妖がヤマタノオロチを復活させて何をしたいのか。それが分からない)
刀を収集する戦蘭丸と呼ばれる妖。その情報を思い浮かべて、頭を振った。今は戦いに集中すべきだ。数枚の術符を飛ばし、仲間を包み込むように展開した。清風が符で作られた空間内を満たす。柔らかな風が妖から受けた傷と、そして炎を消していく。
「柿本神社を燃やさせはしません」
「ふふふ。全て、全て燃やすわ。ああ、愛しの戦蘭丸様」
妖が呟く。呟きながら刀を振るい、焔の蝶を生む。この言葉に意味はない。戦場の誰かに当てた言葉でもない。風切音のような、ただのさえずり。
されどその意思は明確だ。覚者を排し、神社を燃やす。夢見の予知の情報を照らし合わせるまでもない。この妖は万難を排し、柿本神社を燃やすつもりだ。覚者が介入しなければ間違いなくこのパワースポットは廃墟となっただろう。
妖の行動を人間に当てはめることに意味はない。
だがこの妖の行動は、愛に狂った人のように見える。愛する人のために自らを焦がし、尽くそうとする存在。そうすることで愛を示そうとする恋する者。
勿論、そんなことを許すつもりはない。覚者の目は、意思は、神具の向きは、確かにそう語っていた。ここより先には通さない。
焔の妖と覚者達。両の意志がぶつかり合う。
●
『エグゾルツィーズム』の射撃が戦場を穿つ。覚者ではない元憤怒者の火力だが、援護射撃としては十分なものだ。
射撃に合わせるようにラーラの炎が戦場を駆け抜けた。天を焦がすが如く燃え上がった炎はラーラの魔力により手のひらに収まる。火力を減じたのではない。巨大な火を一点に凝縮したのだ。才能と努力。その粋が赤き矢となって放たれた。炎を生む妖とはいえ、子の一矢を受けて無傷ではいられない。
「これ以上勝手なことはさせません! たとえあなたの行動が言葉通り戦蘭丸さんへの想いから発した行動であったとしても……この炎で食い止めます!」
「ふふふ。燃やします。貴方のために燃やします」
紫の乙女はただ愛の言葉を繰り返す。痛みを感じているはずなのに、その口調に変わりはない。よろよろと振らめきながら言葉を繰り返す。
「貴方の炎は通さない。神社にも、仲間にも」
妖の前に立つ大和。自身を含めた仲間全員に回復を施しながら、紫の乙女を足止めしていた。生み出された炎の蝶を押さえる余裕はない。だがそれは仲間がどうにかしてくれるだろう。このランク3さえ押さえておけば――
大和の視界が扇で塞がれる。同時に振るわれる妖の小刀。脇腹に走る熱い感覚が、深く斬られたことを教えてくれた。一瞬遠のく意識。崩れ落ちそうになる肉体を精神力で支えこむ。命数を燃やしてなんとか堪えるが、楽観できる状況ではない。だが、
「流石ランク3ね。でもまだ負けるつもりはないわ」
傷を押さえながら大和が口を開く。楽観できる状況ではないが、それでも負けるつもりはない。そう告げた。
「ええ。負けません。ここで止めてみせます」
頷く里桜。彼女も炎の蝶を止めながら、戦況を維持しようと奮起していた。炎の蝶による火傷を癒しながら、仲間が負った傷も癒す。やるべきことは多いが、それでも一つ一つを確実にこなしていく。
神具を手に意識を集中する。水の源素が里桜の周りを包み込むように生まれ、そして仲間達の元に広がっていく。優しい水の力が仲間達の傷を覆い、浸透するように塞いでいく。妖の蹂躙を打ち消す癒し。戦闘は得意ではないが、それでも出来ることはある。
「あともう少しです。妖の体力はもうほとんどありません」
妖をスキャンし、その体力を計る里桜。その声に覚者達は奮起する。
「愛してます――」
その妖が笑みを浮かべる。覚者にあてたものではない。ここにはいない誰かにあてた笑み。それが届くか否かは問題ではない。
「愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛シテます愛してマス愛シテマス愛シテ愛愛愛愛愛愛愛愛あいあいアイアイアアアアアアアアアアイイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアア――!」
「何……?」
「まさかこれが、夢見の報告にあった妖の技なんじゃ……?」
狂ったように愛を囁き、人の心を汚染する妖の術。言葉は現実的な術式となって聞いている者達に染み入っていく。この穢れを受ければ、正気を保つことは難しいだろう。この妖の根幹ともいえる技だ。
「悪いけど、それを受けるわけにはいかないわ」
防戦に徹していた大和が攻勢に出る。複数の術符を宙に浮かべ、それぞれに力を込めた。大和の周りで力を増しながら回転する術符。それは回転の中央にいる大和へ力を注ぎ込む動き。最大限にたまった力を稲妻に変え、天から穿つ。
「させません。これでお終いです」
術符を地面につけ、里桜が宣言する。神具を通して地面に伝わる力。源素は光となって地面を走り、妖の足元で二手に分かれる。妖を囲むように円を描く二つの光。それが重なった瞬間に大地が隆起し、槍となって貫く。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
言葉とともにラーラは書物を掲げる。掲げた魔導書の上に展開された多重魔法陣。魔法陣同士が互いを干渉し、更なる炎熱を生む術式となる。それは前世と今世の魔女の融合。知識と経験、そして今を生きる思いが生んだ炎。
天からの雷撃、地からの岩槍、正面からの炎熱。三種三様の合体攻撃が妖を襲う。激しい光と音が戦場を駆け抜け――
「ああ、私は、貴方を……」
それが収まった静寂の中、妖が立っていた。
「せん、らん、まる……さ」
妖は立ったまま死んでいた。最後の最後まで愛を囁き、そして灰となって消えていった。
●
戦いが終わり、安堵する覚者達。『エグゾルツィーズム』が念のためにと飛び火の見回りに走り回っていた。
「『エグゾルツィーズム』のみなさん、この度は共に協力できたこと、嬉しく思います。
今後とも協力できればより皆が安心して過ごせるようになると思うわ」
そんな『エグゾルツィーズム』にお礼を言う大和。元は敵で相対していたとはいえ、彼らもまた妖と戦うこの国の人間なのだ。手を取り合って未来を築いていく。そんな未来のために戦っていければと切に思う。
「戦蘭丸……島根のためにいつか倒さなければならないですね」
ラーラは紫の乙女が呼んでいた妖の名を口にした。九頭龍と呼ばれる妖集団の一人。盲目の妖。刀を集め、部下の妖にそれを施すもの。人を殺した経験を持つ死体を操る存在。……ランク4の強さを持つ妖。楽な戦いにはならないだろう。
「ヤマタノオロチは倒された時、尾から剣が出てきたのではありませんでしたか……?
確か草薙剣.。妖がそれを狙っている、なんてことはないですよね……」
刀を集める妖。そのフレーズとヤマタノオロチの接点を里桜は考察した。ヤマトタケルノミコトがヤマタノオロチを切り裂く際に、持っていた剣が欠けたという。何事と思ってみてみれば、そこには一本の剣があった。それが草薙剣。三種の神器の一つと言われた神剣だ。
(……いいえ、少し違う気がします)
推測を立てて、それを否定する里桜。刀剣類を集めるという事と、有名な剣を求めることはイコールではない気がする。戦蘭丸が欲しい刀剣類はどういう類のものか? それを考えなくては――
夕日が高津柿本神社を照らす。炎とは違う紅が神社を染めていた。
もともと人間だった柿本人麻呂。それが神として祀られた柿本神社。そこには古人を尊ぶ風習があった。偉業を成し遂げた者を祀り上げ、それを伝えるために形にする。高津柿本神社はそう言った心から生まれた神社だ。
それが燃えなくてよかった。覚者達は振り返って帰路につく。
島根を襲う妖軍団。その脅威から解放するまでどれだけ時間がかかるかはわからない。
だがランク3妖の数は確かに減っていっている。それは一歩ずつ島根の解放に近づいていっている証だ。
覚者達は頷きあい、次の闘いに向かった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
