≪嘘夢語≫二次創作・合神雷帝ヴァルトカイザー最終章
●
地球殲滅帝国との戦いは、今や最終局面を迎えていた。
「後方に敵! 回り込まれました!」
オペレーター星崎玲子が、悲鳴に近い声を発する。
「高速型メタルモンスター数個部隊 振り切れません!」
「ミサイルランチャー、後方に向かって全解放」
艦長・村井清正は命じた。
「前方への備えが薄くなるが仕方がない、機動部隊に頑張ってもらう。やれるな? 五樹、西村、玉村」
『やるしかねえだろう、任せな!』
艦前方に展開している量産型ヴァルウォーリア部隊から、通信が返って来る。
『貢、愛華、援護頼むぜ。派手に弾幕ぶちかましてくれ! 俺が突っ込む!』
『む、無茶だよ影虎さん!』
『仕方がないわ。彼には、新たなる平和の礎になってもらいましょう。大丈夫、聖なる王国で皆また会えるわ』
『愛華さん撃ち過ぎ! 影虎さんに当たる!』
何のかんのと言いながら3機の量産型ヴァルウォーリアが、襲い来るメタルモンスター部隊をことごとく撃破してゆく。
人類最後の戦力、大型地上戦艦ゴリン・フォートレス。
その進撃は今や、地球殲滅帝国の本拠地に達しつつあった。
「艦長、あれを」
副艦長・吉江博文が、声をかけてくる。
「出て来ました。いよいよです」
「……そのようだな」
艦橋の大型モニターに、巨大なものが映し出されつつあった。
地響きのような足音が、艦内にまで聞こえてくるかのようだ。
悠然と、禍々しく、戦場に歩み入って来た異形の巨人。
モニター越しにその姿を見据えて、村井は呟いた。
「殲滅大帝……」
地球殲滅帝国の王、殲滅大帝。
これまで謎に包まれていた、その正体が今、明らかになったのだ。
「あの姿……メタルモンスターに等しいほど変わり果ててはいるが、やはり……」
「間違いありません。10年前、暗黒宇宙帝国との戦いを終えて地球に帰還した……ヴァルトカイザー壱號機です」
吉江の口調は、重く暗い。
「当時のパイロット唯一の生き残りである村雨剣司が、あの中に……恐らくは生体部品も同然の形で」
「生存している、と言えるのかな。それは」
暗黒宇宙帝国との戦いで仲間たちを失った村雨剣司が、ただ1人ヴァルトカイザーを駆って地球に帰還し、あまりにも腐敗した人類の姿に絶望して殲滅大帝と化した。
そして10年間、地球人類に対して破壊と殺戮の限りを尽くして今に至る。
「そんな事をしても人類は変わらんよ村雨。相変わらず腐っている者は腐っている。だがな、心正しく懸命に生きる人々もいる。十把一絡げに殲滅など、させはせん」
「艦長、整備班から……いつでも出撃可能、との事です」
星崎が告げた。
「これが最後、補給も損傷も気にせず戦ってもらって構わない……と」
「よし。連中の様子は?」
「早く出撃させろと騒いでいますよ」
吉江が笑った。
「押しとどめておくのも限界です。殲滅大帝は、実にいいタイミングで現れてくれました」
「ふふ……では鉄砲玉を放つとするか」
これが最後だ。自分たちが、生きるにせよ死ぬにせよ。
もはや今後、2度と発する事はないであろう命令を、村井は叫んでいた。
「ヴァルトカイザー弐號機、発進せよ!」
地球殲滅帝国との戦いは、今や最終局面を迎えていた。
「後方に敵! 回り込まれました!」
オペレーター星崎玲子が、悲鳴に近い声を発する。
「高速型メタルモンスター数個部隊 振り切れません!」
「ミサイルランチャー、後方に向かって全解放」
艦長・村井清正は命じた。
「前方への備えが薄くなるが仕方がない、機動部隊に頑張ってもらう。やれるな? 五樹、西村、玉村」
『やるしかねえだろう、任せな!』
艦前方に展開している量産型ヴァルウォーリア部隊から、通信が返って来る。
『貢、愛華、援護頼むぜ。派手に弾幕ぶちかましてくれ! 俺が突っ込む!』
『む、無茶だよ影虎さん!』
『仕方がないわ。彼には、新たなる平和の礎になってもらいましょう。大丈夫、聖なる王国で皆また会えるわ』
『愛華さん撃ち過ぎ! 影虎さんに当たる!』
何のかんのと言いながら3機の量産型ヴァルウォーリアが、襲い来るメタルモンスター部隊をことごとく撃破してゆく。
人類最後の戦力、大型地上戦艦ゴリン・フォートレス。
その進撃は今や、地球殲滅帝国の本拠地に達しつつあった。
「艦長、あれを」
副艦長・吉江博文が、声をかけてくる。
「出て来ました。いよいよです」
「……そのようだな」
艦橋の大型モニターに、巨大なものが映し出されつつあった。
地響きのような足音が、艦内にまで聞こえてくるかのようだ。
悠然と、禍々しく、戦場に歩み入って来た異形の巨人。
モニター越しにその姿を見据えて、村井は呟いた。
「殲滅大帝……」
地球殲滅帝国の王、殲滅大帝。
これまで謎に包まれていた、その正体が今、明らかになったのだ。
「あの姿……メタルモンスターに等しいほど変わり果ててはいるが、やはり……」
「間違いありません。10年前、暗黒宇宙帝国との戦いを終えて地球に帰還した……ヴァルトカイザー壱號機です」
吉江の口調は、重く暗い。
「当時のパイロット唯一の生き残りである村雨剣司が、あの中に……恐らくは生体部品も同然の形で」
「生存している、と言えるのかな。それは」
暗黒宇宙帝国との戦いで仲間たちを失った村雨剣司が、ただ1人ヴァルトカイザーを駆って地球に帰還し、あまりにも腐敗した人類の姿に絶望して殲滅大帝と化した。
そして10年間、地球人類に対して破壊と殺戮の限りを尽くして今に至る。
「そんな事をしても人類は変わらんよ村雨。相変わらず腐っている者は腐っている。だがな、心正しく懸命に生きる人々もいる。十把一絡げに殲滅など、させはせん」
「艦長、整備班から……いつでも出撃可能、との事です」
星崎が告げた。
「これが最後、補給も損傷も気にせず戦ってもらって構わない……と」
「よし。連中の様子は?」
「早く出撃させろと騒いでいますよ」
吉江が笑った。
「押しとどめておくのも限界です。殲滅大帝は、実にいいタイミングで現れてくれました」
「ふふ……では鉄砲玉を放つとするか」
これが最後だ。自分たちが、生きるにせよ死ぬにせよ。
もはや今後、2度と発する事はないであろう命令を、村井は叫んでいた。
「ヴァルトカイザー弐號機、発進せよ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.殲滅大帝の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回は夢の中という事で、皆様には合体ロボット『ヴァルトカイザー弐號機』に搭乗し、番組のラスボス『殲滅大帝』と戦っていただきます。
ヴァルトカイザーは、以下の戦闘ロボット6体が合体するものであります。
●ヴァルトキング(頭部、胸部)
●ヴァルトクィーン(右腕)
●ヴァルトビショップ(左腕)
●ヴァルトルーク(腰部、大腿部)
●ヴァルトポーン(右足)
●ヴァルトナイト(左足)
それぞれ、お1人様ずつ搭乗していただく事になります。
どれに搭乗するかはプレイングに記していただけると助かりますが、不明な場合は小湊が勝手に割り振ります。人数不足の場合はNPCを用意いたします。
各機の性能・攻撃手段は、搭乗する皆様の能力値とスキルそのままです。
分離状態のまま戦うか、合体して戦うかは、合体のタイミングも含め全て皆様次第であります。開幕いきなり合体でも構いません。どなたかお1人でも行動可能であれば、その方が1ターンを消費する事で合体が出来ます。
ただし、攻撃は次のターンからになります。
合体後のヴァルトカイザー弐號機は、体力及び気力は搭乗者6名様のその時点での数値の総和。他の能力値は、それぞれ最も秀でた方の数値となります。
搭乗者のスキルは6人分全て使用可能、敵に与えるダメージ及び術式による回復量は、算出された数値がそのまま6倍されます。
敵は殲滅大帝(妖、物質系、ランク3、1体)。
攻撃手段は格闘戦(物近単)、カイザーバスター(左腕からの砲撃。特遠列)、雷帝剣(物近列)、雷帝剣・滅殺殲光斬(必殺技、特遠全。1ターンを消費してのポージング及びパワー溜めが必要)。
合体前に1機でも倒された場合は(普通に戦って体力ゼロになった場合は)当然ながら合体は出来ません。
合体後の分離も、不可能とさせていただきます。
それでは、よろしくお願い申し上げます。
■エイプリルフール依頼について
この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性が
ありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。
※要約すると夢の世界で盛大な嘘を思いっきり楽しんじゃえ!です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2018年04月15日
2018年04月15日
■メイン参加者 6人■

●
裏切り者である『琥珀の剣聖』ナスカローザが、主人公アステリアとの絆を取り戻しながらも悲劇的な最期を迎えた。
その悲しみを乗り越えて、アステリアたちは『破滅の司』ドグマ・オーグとの最終決戦に臨む。
そこで『暁の聖戦士たち』の更新は止まっている。
「何しろ作者が、リアルに悪の帝国との戦いで忙しいからね。仕方ないね」
言いつつも『天を舞う雷電の鳳』麻弓紡(CL2000623)が、ぐっと拳を握る。
「死ねないっ。この続きを読むまでは」
「作者の片方が今、前線で吶喊しまくってるよ。無茶しなきゃいいけど」
格納庫の天井を見つめながら、『ニュクスの羽風』如月彩吹(CL2001525)が心配している。
ネット小説『暁の聖戦士たち』は、玉村愛華の妄想を、星崎玲子が編集し、読み物として作り直したものである。
それが大ヒットし、地球殲滅帝国の暴虐によって疲弊しきった世の人々の心に、希望の火を灯したのだ。
「リアルなハッピーエンド目指して頑張ろうよ。ね? 黄金の竜騎士ニーベルレオン」
「……そのコードネーム、定着しちまうのかよ結局」
ぼやいたのは『白き光のヒーロー』成瀬翔(CL2000063)である。
コードネームとして『暁の聖戦士たち』の登場人物名を押し付けられてしまったパイロットが、実はもう1人いる。
彩吹が、声をかけた。
「良かったねナスカローザ。最後の最後で、いい人にしてもらえて」
「……どうでも、いい。わたし……あの話、読んでない。興味ない」
桂木日那乃(CL2000941)が応える。
「それより早く、出撃したい……」
「出撃前にー、俺もコードネーム欲しいよ〜」
駄々をこねているのは『探偵見習い』工藤奏空(CL2000955)だ。
「あー、いいねえコードネーム。僕も欲しい」
のんびり同調しながら、『影を断つ刃』御影きせき(CL2001110)が指を動かしている。
「いよいよラスボス戦だね……指が鳴るよ」
「ゲーマーの血が騒ぐ?」
紡の問いに、きせきは苦笑気味に応えた。
「……かも知れない、ね。闇ゲーマーだった頃の僕に、戻りかけてるかも今。ネットの中で調子に乗って、翔くんにボコボコにされた、あの時の僕に」
オレが勝ったらお前、ヴァルトカイザーに乗れ。
翔はそう言って、勝負を挑んできたのだ。
「なあ、きせき。オレずっと思ってたんだけどさ」
翔が言った。
「お前あの時、わざと負けたんじゃないか?」
「僕はゲームで手を抜いた事は1度もないよ。たとえ相手が、紡さんみたいなチーターでも翔くんみたいな初心者でも、全力でハメ殺しに行く。闇ゲーマーの誇りにかけてね。それが僕のスタイルさ」
「チーターはキミだよう」
紡の文句を無視しながら、きせきは思う。自分は戦う前から負けていたのだ、と。
地球殲滅帝国に両親を殺され、ゲームの中に逃げ込んでいた自分。逃げずに戦う道を選んだ翔。その違いが出ただけなのだ。
『はいっ。というわけで皆さん、出撃です』
突然、アナウンスが流れた。オペレーター星崎玲子の声だ。
『殲滅大帝が出現しました。恐らくこれが最後の出撃になるでしょうから、ねんがんのコードネームを皆さんに進呈しましょう。ちなみに原作者の意向ですので拒否権はありません』
玉村愛華と星崎玲子、どちらを『暁の聖戦士たち』の原作者とするかは微妙な問題ではある。
『まずは翔さん、いつも通り黄金の竜騎士ニーベルレオンとして出撃願います。琥珀の剣聖ナスカローザ……日那乃さん、殺してごめんなさい。聖霊姫リムルフェリスは、悩みましたけど紡さんに差し上げます』
「うわっ、大役……」
紡が息を呑む。
「メインヒロインのアステリアちゃんより、人気出ちゃってるねえ」
「まあメインの子って案外、人気出なかったりするもんね」
などと言っている彩吹のコードネームが、続いて決まった。
『彩吹さんは、烈風の戦巫女イシュテリアとして出撃して下さい。きせきさんのコードネームは、美獣王シオンヴェールで』
「悪役じゃないか。まあ、僕らしいかな」
『そして奏空さんには、緑眼の黒騎士ギルフェイトをあげましょう。以上、配役終わりっ。頑張って下さいね~』
「ギル……フェイト……!? 何か幸薄そうでやだー!」
「わけわかんねー事言ってねえで、ほら行くぞ」
駄々をこねる奏空を、翔と日那乃が2人がかりで引きずって行った。
●
翔は、普通の中学生だった。ヴァルトキング試験機動の際のトラブルに巻き込まれ、紆余曲折を経て同機の正パイロットとなったのだ。
日那乃は、ヴァルトカイザー壱號機の搭乗員であった人工生命体ヘンゼルとグレーテルの、言ってみれば妹である。軍の施設で実験動物として扱われていた彼女を、翔が半ば無理やりに連れ出したのだ。
奏空は、どこかの山奥で忍者の修行をしていた野生児であったらしい。
そして紡と彩吹は、とある島で巫女をしていた。
二卵性双生児である。聖なる双子の巫女姉妹として、島ではちやほやされていたものだ。
巫女である以上、仕える神がいる。
その神が、自分たち姉妹を、快く島から送り出してくれたのだ。
「骨骨ちゃんも今頃、メタルモンスターの大群と戦ってるんだよね。仲間の怪獣たちと一緒に」
ヴァルトビショップの操縦席で、紡は言った。
「……ボクたちも負けてらんないね、いぶちゃん」
『勝って島へ帰るよ、紡!』
彩吹が、気合いを入れる。
彼女の乗機であるヴァルトナイトが、リミッター解除コード『天駆』を起動させた。
赤く発光するナイトと並んで前衛に立ち、戦場を見据えているのは、奏空の操縦するヴァルトポーンだ。
『あれが……殲滅大帝……』
雄々しく禍々しく立ちはだかる威容を見つめながら、奏空は呻く。
『だけど、あの姿は……やっぱり……』
『……ヴァルトカイザー……壱號機……』
ヴァルトクィーンのコックピットで、日那乃が呟く。
『あなたを、倒すために……超えるために……わたしは、生まれた……作られた……』
『落ち着け、日那乃!』
翔が叫ぶ。
彼の操縦するヴァルトキングが、クィーンを支え庇うように立ち身構える。
『言っただろ! いや、何度でも言うぞ。お前は、戦うための機械や道具じゃない。戦うなら……オレたちの、仲間としてだ。そうだろ?』
「そうだよ、日那ちゃん」
言いつつ紡は、眼前のコンソールパネルに術式コードを入力し、運動性向上システム『大祝詞・戦風』を起動させた。
「この戦いが終わったら……骨骨ちゃんにも紹介したいよ。ボクの友達の日那ちゃんですってね」
『……ありがとう』
日那乃が、微笑んだのだろうか。
『とにかく……この戦い、終わらせる』
『そうだね。のんびりゲームも出来ないような世の中は、僕も御免だよ』
きせきの操縦するヴァルトルークが、拳を握った。
『もう、ゲームの中へ逃げ込んだりはしない……さあ勝負だよ殲滅大帝、ヴァルトカイザー壱號機!』
力を宿す機械の拳を、きせきが戦場の大地に叩き付ける。
地面が裂け、地球そのものの力が噴出して蔓状に伸び、殲滅大帝の巨体を束縛する。拘束術式コード『捕縛蔓』。
ほぼ同時に、ヴァルトナイトが動いていた。
『鉄砲玉1号、彩吹! 行きますッ』
赤く熱く輝く機体が、燃え盛る隕石の如く殲滅大帝に激突する。飛び蹴り、からの連続回し蹴り。これまで幾多のメタルモンスターを撃砕してきた攻撃用マニューバー『告死天使の舞』であるが、殲滅大帝にどれほどの痛撃を与えたのかは不明だ。
変わり果てたヴァルトカイザー壱號機の巨体が、捕縛蔓に拘束されたまま、ゆっくりと左腕を動かしている。
前腕部、カイザーバスターの砲口が、こちらに向けられる。
その時には、ヴァルトキングの右手が殲滅大帝に向けられていた。
『アンタ、なのか村雨剣司……ヴァルトカイザーに一体、何やらせてんだっ!』
翔の怒りの叫びに合わせて、キングの右腕に装着された大型レーザー砲『B.O.T.改』が光を放つ。
一閃したレーザー光が、殲滅大帝に突き刺さり、消えた。
どれほどのダメージとなったのか、確認している暇はない。
返礼のカイザーバスターが、火を噴いたからだ。
爆炎が迸り、ヴァルトポーン及びナイト、ルークの3機が吹っ飛んだ。
『合体……するべき』
言葉と共に日那乃が、ヴァルトクィーンの細い機体を飛翔させた。機械の翼がふわりと広がり、術式の煌めきを拡散させる。
術式ドーピングシステム『使役の守護・翼』が、6体のカイザーマシンを包み込んだ。
『これ以上ダメージ、受けたら……合体も出来なく、なる』
『そうだな……きせき、奏空、彩吹さん! 動けるか?』
カイザーバスターの直撃を受けた3機の操縦者が、翔の言葉にそれぞれ答える。
『な、何とかね……』
『まだ全然いける! けど……出来れば合体したいな』
『正直……かなり、やられた。もう合体のパーツの役くらいにしか、立ちそうもないよ。紡』
「オッケー、いぶちゃん。それじゃ最後の合体コールは、ボクが担当って事で」
紡は、口調を改めた。
「いくよ……ヴァルトフォーメーション、セットアップ! 雷帝合身!」
●
殲滅大帝は、捕縛蔓に束縛されて思うように動けずにいる。
その間に、こちらは合体を済ませた。形としては、そうだ。
しかし、奏空は思う。
「村雨剣司……あんた、待っててくれたのか? ひょっとして……」
合体完了したヴァルトカイザー弐號機の、胸部。集合コックピットに、各カイザーマシンのパイロットたちが転送されて来る。翔、奏空に続いて、日那乃、紡、きせき、彩吹。
「……そんな事もないか、戦いだもんなっ」
奏空は、眼前のパネルに指を走らせた。
「じゃ俺から行くよ。特殊エナジーシールド『八葉蓮華鏡』展開!」
「続いて私。みんな衝撃に備えて! 吶喊マニューバー『鋭刃想脚』!」
彩吹の操縦に従って、ヴァルトカイザー弐號機の巨体が軽快に、猛然と、踏み込んで行く。
両足を成すヴァルトポーン及びナイトが、連続で殲滅大帝に激突した。彗星の衝突にも等しい連続回し蹴り。
よろめいた殲滅大帝が、しかし即座に反撃を繰り出してくる。
弐號機の両腕、右腕部のヴァルトクィーンと左腕部のヴァルトビショップが、防御の形に交差する。
その上から、殲滅大帝の巨大な拳がぶつかって来た。
集合コックピットが、火花を散らせながら激しく揺れた。
破損状況をモニタリングしながら、奏空は叫んだ。
「りっ両腕部損傷、特にビショップの方は装甲の4割が剥落寸前だよ! ひ、日那乃ちゃん」
「了解。術式リペアシステム『潤しの滴』スターティング・アップ」
「くっ……何てパワーだ……」
八葉蓮華鏡に跳ね返されて吹っ飛び、倒れ、だが即座に起き上がって来る殲滅大帝。
その姿をモニター越しに見据えながら、翔が呻く。
「これが……ヴァルトカイザー壱號機の力……」
「……翔、送受心を頼む」
奏空は言った。
「感情探査で捉えた。あの中に、間違いなく……いる」
「村雨剣司……か」
翔は目を閉じた。
「わかった。まずは奏空、お前の思いを届けてやってくれ!」
「聞こえるか村雨剣司。俺は、あんた個人の事は知らない。だけど10年前、あんたたちが地球のために戦ってくれた事は知っている」
翔の送受心に、奏空は己の言葉を乗せた。
「戦った結果、あんたは仲間たちを失った……かけがえのないものを失ってしまったあんたを地球で待ち受けていたのは、とてつもない絶望だったんだな。だけど」
『村雨剣司……その男は、すでに死んだ』
重く暗い思念が、返って来た。
『我が名は殲滅大帝……地球人類を、殲滅する者。お前たちは人間を守るために、俺を滅ぼさなければならない』
殲滅大帝が、剣を抜く。禍々しく異形化した、かつての雷帝剣。
『それが……出来ねえなら! ヴァルトカイザーになんざぁ乗ってんじゃねえぞガキどもがあッ!』
「……奏空くん、駄目だよ。話が通じる状態じゃない」
きせきが、まるで楽器でも弾くかの如くパネルに指を走らせる。
「次は、僕のエレクトロテクニカを披露させてもらうよ……高速斬撃プログラム『飛燕』実行!」
弐號機が疾風の速度で踏み込み、新・雷帝剣を抜き放つ。
新旧2体のヴァルトカイザーが、烈しく擦れ違った。
殲滅大帝の全身各所から、鮮血のような火花が噴出する。
異形化した胸部装甲の一部が、ざっくりと裂けていた。
その裂け目の中で、1人の男が憎悪を燃やしている。半ば機械と一体化した状態でだ。
「村雨剣司さん……」
きせきが、語りかけた。
「貴方は、僕の憧れだった……」
『俺がどれだけの人間どもを殺したか、知らねえわけじゃねえだろうな』
「僕の両親も殺された、それでもだ!」
きせきは叫んでいた。
「僕が、僕たちが、新しい未来を作っていくから! 僕たちを信じて、一緒に」
『新しい未来……そんなものがあるなら、見せてみろ』
集合コックピットが、闇に包まれた。衝撃と共に、また明るくなった。
モニターが完全に死んで、薄暗い太陽の明かりが射し込んでくる。
ヴァルトカイザーの胸部装甲が、エナジーシールドもろとも裂けていた。
先程の擦れ違いざまに、こちらも斬撃を受けていたようである。
パイロット6名、各人の眼前で、コンソールパネルが火を噴いている。
「ひっ日那乃ちゃん! 術式リペアはコックピット周り優先で! シールドの出力も落ちてるけど仕方ない!」
「奏空さん……血、出てる……」
リペアシステムを制御しながら、日那乃が呟く。
「村雨さん……わたしの仲間、傷つけた……」
「傷だけじゃ済まねえってのは、わかるよなああ!?」
吼える村雨の姿が、今は肉眼で確認出来る。
じっと見据えながら、日那乃は言った。
「人間全部まとめたら、わたし……やっぱり、嫌い。でも今は……あなたの方、が……許せない」
「許せねえなら、さあどうする!」
「助けて欲しい、なんて……思ってない、よね」
「そういう人ほど助けたい、俺たちは!」
奏空は叫んだ。
「人間は、確かに完璧じゃあない。だからって絶望なんかするな! 完璧じゃない人間の、1人1人の姿ってものを、あんたには生きて見つめてもらいたい」
「……帰って、おいでよ」
彩吹が、村雨に向かって手を差し伸べる。
「確かに、人は綺麗なだけの存在ではないけれど……それでも貴方の帰る場所は、人の世界しかないと思う。だから」
「もう遅い……せめて、あの時……!」
殲滅大帝が、雷帝剣を構えた。
「俺が地球へ戻って来た時……お前らが、いてくれれば……ッ!」
「……来るよ、滅殺殲光斬!」
きせきが叫ぶ。
「全力防御、それとも回避……」
「……いや、決める」
翔が、何かを決断した。
「やるぞ。モード『暁』だ」
「ぼ、僕たちの必殺技を全部いっぺんに叩き込む、超高速戦闘……」
きせきが息を呑んだ。
「あれは、テストもまだ……」
「覚悟決めろ闇ゲーマー。村雨剣司を止めるには、これしかねえ」
ゆらりと剣を掲げる殲滅大帝を、翔は睨み据えた。
「アンタ、ほんとにこの世界を滅ぼしたいのか? 仲間が命を賭けて守った世界だぞ……いや。仲間が命を賭けたからこそ、許せなかったんだろうな。オレも、オレたちも守りたい、この世界を。だから」
掲げられた雷帝剣が、振り下ろされる……寸前で、翔は印を結んだ。
「覚悟を決める……モード『暁』発動!」
弐號機の左掌から電光が迸り、殲滅大帝を直撃する。
電撃照射システム『雷獣』。荒れ狂う放電光が、異形の巨体を灼きながら束縛する。
束縛された殲滅大帝に向かって、ヴァルトカイザーは踏み込んだ。
1度の踏み込みの間に、あらゆる攻撃が繰り出された。参点砕き、地烈、激鱗。
殲滅大帝が、ズタズタの残骸に変わり、崩れ落ちてゆく。
そんなものは、しかし奏空は、どうでも良くなった。信じ難いものが見えたからだ。
「紡さん……!」
紡が、破損したコックピットから飛び出して行く。
羽ばたき、飛翔し、殲滅大帝の崩れゆく巨体に突入する。
「紡! 何やってんの!」
「爆発するぞ! 戻れぇーッ!」
彩吹と翔の叫びも聞かずに紡は、村雨剣司の身体を細腕と翼で包み込んでいる。そして語りかける。
「キミが、それほどの絶望を見たのかは知らないけど……これから見えてくるものだって、あるはずだよ」
崩れゆく残骸の中から、村雨の身体が引き抜かれた。
「だから、一緒に探そう……」
殲滅大帝が、ヴァルトカイザー壱號機が、崩落しながら爆発した。
紡と村雨が、もろともに吹っ飛んだ。
そして遥か上空で、彩吹と日那乃に抱き止められる。
「紡の馬鹿! 無茶をして……!」
「ごめんね、いぶちゃん……」
翼人の少女たちが、3人がかりで村雨剣司を抱き支えながら、ゆっくりと降下して来る。
「誰も……いねえ……」
村雨が呟いた。
「竜矢も、美由姫も……大吾郎のバカも、グレーテル嬢ちゃんも糞餓鬼ヘンゼルもいねえ……俺1人で一体、どうしろってんだよぉ……ッッ!」
「1人で生きる。それが、あなたの罰」
日那乃が言い、彩吹が微笑む。
「おかえり、とだけ言っておくよ。背中バシッと叩いてあげたいとこだけど、今は何か死にそうだしね」
「みんなで帰ろう。流せるものは、流しちゃってね」
紡が水行術式を放り投げ、虹をかける。
ヴァルトカイザー弐號機の、破損したコックピットの中から、きせきも翔も奏空も、じっとそれを見上げていた。
「終わった……な」
「うん。ヴァルトカイザー第二期、こんな感じのお話になるといいねー」
「第二期やるの? 何か原作者と監督が大喧嘩してるって話だけど」
「僕はあれ公式に問題があると思うんだ」
「お前らが何言ってんのか、オレには全然わかんねーよ」
裏切り者である『琥珀の剣聖』ナスカローザが、主人公アステリアとの絆を取り戻しながらも悲劇的な最期を迎えた。
その悲しみを乗り越えて、アステリアたちは『破滅の司』ドグマ・オーグとの最終決戦に臨む。
そこで『暁の聖戦士たち』の更新は止まっている。
「何しろ作者が、リアルに悪の帝国との戦いで忙しいからね。仕方ないね」
言いつつも『天を舞う雷電の鳳』麻弓紡(CL2000623)が、ぐっと拳を握る。
「死ねないっ。この続きを読むまでは」
「作者の片方が今、前線で吶喊しまくってるよ。無茶しなきゃいいけど」
格納庫の天井を見つめながら、『ニュクスの羽風』如月彩吹(CL2001525)が心配している。
ネット小説『暁の聖戦士たち』は、玉村愛華の妄想を、星崎玲子が編集し、読み物として作り直したものである。
それが大ヒットし、地球殲滅帝国の暴虐によって疲弊しきった世の人々の心に、希望の火を灯したのだ。
「リアルなハッピーエンド目指して頑張ろうよ。ね? 黄金の竜騎士ニーベルレオン」
「……そのコードネーム、定着しちまうのかよ結局」
ぼやいたのは『白き光のヒーロー』成瀬翔(CL2000063)である。
コードネームとして『暁の聖戦士たち』の登場人物名を押し付けられてしまったパイロットが、実はもう1人いる。
彩吹が、声をかけた。
「良かったねナスカローザ。最後の最後で、いい人にしてもらえて」
「……どうでも、いい。わたし……あの話、読んでない。興味ない」
桂木日那乃(CL2000941)が応える。
「それより早く、出撃したい……」
「出撃前にー、俺もコードネーム欲しいよ〜」
駄々をこねているのは『探偵見習い』工藤奏空(CL2000955)だ。
「あー、いいねえコードネーム。僕も欲しい」
のんびり同調しながら、『影を断つ刃』御影きせき(CL2001110)が指を動かしている。
「いよいよラスボス戦だね……指が鳴るよ」
「ゲーマーの血が騒ぐ?」
紡の問いに、きせきは苦笑気味に応えた。
「……かも知れない、ね。闇ゲーマーだった頃の僕に、戻りかけてるかも今。ネットの中で調子に乗って、翔くんにボコボコにされた、あの時の僕に」
オレが勝ったらお前、ヴァルトカイザーに乗れ。
翔はそう言って、勝負を挑んできたのだ。
「なあ、きせき。オレずっと思ってたんだけどさ」
翔が言った。
「お前あの時、わざと負けたんじゃないか?」
「僕はゲームで手を抜いた事は1度もないよ。たとえ相手が、紡さんみたいなチーターでも翔くんみたいな初心者でも、全力でハメ殺しに行く。闇ゲーマーの誇りにかけてね。それが僕のスタイルさ」
「チーターはキミだよう」
紡の文句を無視しながら、きせきは思う。自分は戦う前から負けていたのだ、と。
地球殲滅帝国に両親を殺され、ゲームの中に逃げ込んでいた自分。逃げずに戦う道を選んだ翔。その違いが出ただけなのだ。
『はいっ。というわけで皆さん、出撃です』
突然、アナウンスが流れた。オペレーター星崎玲子の声だ。
『殲滅大帝が出現しました。恐らくこれが最後の出撃になるでしょうから、ねんがんのコードネームを皆さんに進呈しましょう。ちなみに原作者の意向ですので拒否権はありません』
玉村愛華と星崎玲子、どちらを『暁の聖戦士たち』の原作者とするかは微妙な問題ではある。
『まずは翔さん、いつも通り黄金の竜騎士ニーベルレオンとして出撃願います。琥珀の剣聖ナスカローザ……日那乃さん、殺してごめんなさい。聖霊姫リムルフェリスは、悩みましたけど紡さんに差し上げます』
「うわっ、大役……」
紡が息を呑む。
「メインヒロインのアステリアちゃんより、人気出ちゃってるねえ」
「まあメインの子って案外、人気出なかったりするもんね」
などと言っている彩吹のコードネームが、続いて決まった。
『彩吹さんは、烈風の戦巫女イシュテリアとして出撃して下さい。きせきさんのコードネームは、美獣王シオンヴェールで』
「悪役じゃないか。まあ、僕らしいかな」
『そして奏空さんには、緑眼の黒騎士ギルフェイトをあげましょう。以上、配役終わりっ。頑張って下さいね~』
「ギル……フェイト……!? 何か幸薄そうでやだー!」
「わけわかんねー事言ってねえで、ほら行くぞ」
駄々をこねる奏空を、翔と日那乃が2人がかりで引きずって行った。
●
翔は、普通の中学生だった。ヴァルトキング試験機動の際のトラブルに巻き込まれ、紆余曲折を経て同機の正パイロットとなったのだ。
日那乃は、ヴァルトカイザー壱號機の搭乗員であった人工生命体ヘンゼルとグレーテルの、言ってみれば妹である。軍の施設で実験動物として扱われていた彼女を、翔が半ば無理やりに連れ出したのだ。
奏空は、どこかの山奥で忍者の修行をしていた野生児であったらしい。
そして紡と彩吹は、とある島で巫女をしていた。
二卵性双生児である。聖なる双子の巫女姉妹として、島ではちやほやされていたものだ。
巫女である以上、仕える神がいる。
その神が、自分たち姉妹を、快く島から送り出してくれたのだ。
「骨骨ちゃんも今頃、メタルモンスターの大群と戦ってるんだよね。仲間の怪獣たちと一緒に」
ヴァルトビショップの操縦席で、紡は言った。
「……ボクたちも負けてらんないね、いぶちゃん」
『勝って島へ帰るよ、紡!』
彩吹が、気合いを入れる。
彼女の乗機であるヴァルトナイトが、リミッター解除コード『天駆』を起動させた。
赤く発光するナイトと並んで前衛に立ち、戦場を見据えているのは、奏空の操縦するヴァルトポーンだ。
『あれが……殲滅大帝……』
雄々しく禍々しく立ちはだかる威容を見つめながら、奏空は呻く。
『だけど、あの姿は……やっぱり……』
『……ヴァルトカイザー……壱號機……』
ヴァルトクィーンのコックピットで、日那乃が呟く。
『あなたを、倒すために……超えるために……わたしは、生まれた……作られた……』
『落ち着け、日那乃!』
翔が叫ぶ。
彼の操縦するヴァルトキングが、クィーンを支え庇うように立ち身構える。
『言っただろ! いや、何度でも言うぞ。お前は、戦うための機械や道具じゃない。戦うなら……オレたちの、仲間としてだ。そうだろ?』
「そうだよ、日那ちゃん」
言いつつ紡は、眼前のコンソールパネルに術式コードを入力し、運動性向上システム『大祝詞・戦風』を起動させた。
「この戦いが終わったら……骨骨ちゃんにも紹介したいよ。ボクの友達の日那ちゃんですってね」
『……ありがとう』
日那乃が、微笑んだのだろうか。
『とにかく……この戦い、終わらせる』
『そうだね。のんびりゲームも出来ないような世の中は、僕も御免だよ』
きせきの操縦するヴァルトルークが、拳を握った。
『もう、ゲームの中へ逃げ込んだりはしない……さあ勝負だよ殲滅大帝、ヴァルトカイザー壱號機!』
力を宿す機械の拳を、きせきが戦場の大地に叩き付ける。
地面が裂け、地球そのものの力が噴出して蔓状に伸び、殲滅大帝の巨体を束縛する。拘束術式コード『捕縛蔓』。
ほぼ同時に、ヴァルトナイトが動いていた。
『鉄砲玉1号、彩吹! 行きますッ』
赤く熱く輝く機体が、燃え盛る隕石の如く殲滅大帝に激突する。飛び蹴り、からの連続回し蹴り。これまで幾多のメタルモンスターを撃砕してきた攻撃用マニューバー『告死天使の舞』であるが、殲滅大帝にどれほどの痛撃を与えたのかは不明だ。
変わり果てたヴァルトカイザー壱號機の巨体が、捕縛蔓に拘束されたまま、ゆっくりと左腕を動かしている。
前腕部、カイザーバスターの砲口が、こちらに向けられる。
その時には、ヴァルトキングの右手が殲滅大帝に向けられていた。
『アンタ、なのか村雨剣司……ヴァルトカイザーに一体、何やらせてんだっ!』
翔の怒りの叫びに合わせて、キングの右腕に装着された大型レーザー砲『B.O.T.改』が光を放つ。
一閃したレーザー光が、殲滅大帝に突き刺さり、消えた。
どれほどのダメージとなったのか、確認している暇はない。
返礼のカイザーバスターが、火を噴いたからだ。
爆炎が迸り、ヴァルトポーン及びナイト、ルークの3機が吹っ飛んだ。
『合体……するべき』
言葉と共に日那乃が、ヴァルトクィーンの細い機体を飛翔させた。機械の翼がふわりと広がり、術式の煌めきを拡散させる。
術式ドーピングシステム『使役の守護・翼』が、6体のカイザーマシンを包み込んだ。
『これ以上ダメージ、受けたら……合体も出来なく、なる』
『そうだな……きせき、奏空、彩吹さん! 動けるか?』
カイザーバスターの直撃を受けた3機の操縦者が、翔の言葉にそれぞれ答える。
『な、何とかね……』
『まだ全然いける! けど……出来れば合体したいな』
『正直……かなり、やられた。もう合体のパーツの役くらいにしか、立ちそうもないよ。紡』
「オッケー、いぶちゃん。それじゃ最後の合体コールは、ボクが担当って事で」
紡は、口調を改めた。
「いくよ……ヴァルトフォーメーション、セットアップ! 雷帝合身!」
●
殲滅大帝は、捕縛蔓に束縛されて思うように動けずにいる。
その間に、こちらは合体を済ませた。形としては、そうだ。
しかし、奏空は思う。
「村雨剣司……あんた、待っててくれたのか? ひょっとして……」
合体完了したヴァルトカイザー弐號機の、胸部。集合コックピットに、各カイザーマシンのパイロットたちが転送されて来る。翔、奏空に続いて、日那乃、紡、きせき、彩吹。
「……そんな事もないか、戦いだもんなっ」
奏空は、眼前のパネルに指を走らせた。
「じゃ俺から行くよ。特殊エナジーシールド『八葉蓮華鏡』展開!」
「続いて私。みんな衝撃に備えて! 吶喊マニューバー『鋭刃想脚』!」
彩吹の操縦に従って、ヴァルトカイザー弐號機の巨体が軽快に、猛然と、踏み込んで行く。
両足を成すヴァルトポーン及びナイトが、連続で殲滅大帝に激突した。彗星の衝突にも等しい連続回し蹴り。
よろめいた殲滅大帝が、しかし即座に反撃を繰り出してくる。
弐號機の両腕、右腕部のヴァルトクィーンと左腕部のヴァルトビショップが、防御の形に交差する。
その上から、殲滅大帝の巨大な拳がぶつかって来た。
集合コックピットが、火花を散らせながら激しく揺れた。
破損状況をモニタリングしながら、奏空は叫んだ。
「りっ両腕部損傷、特にビショップの方は装甲の4割が剥落寸前だよ! ひ、日那乃ちゃん」
「了解。術式リペアシステム『潤しの滴』スターティング・アップ」
「くっ……何てパワーだ……」
八葉蓮華鏡に跳ね返されて吹っ飛び、倒れ、だが即座に起き上がって来る殲滅大帝。
その姿をモニター越しに見据えながら、翔が呻く。
「これが……ヴァルトカイザー壱號機の力……」
「……翔、送受心を頼む」
奏空は言った。
「感情探査で捉えた。あの中に、間違いなく……いる」
「村雨剣司……か」
翔は目を閉じた。
「わかった。まずは奏空、お前の思いを届けてやってくれ!」
「聞こえるか村雨剣司。俺は、あんた個人の事は知らない。だけど10年前、あんたたちが地球のために戦ってくれた事は知っている」
翔の送受心に、奏空は己の言葉を乗せた。
「戦った結果、あんたは仲間たちを失った……かけがえのないものを失ってしまったあんたを地球で待ち受けていたのは、とてつもない絶望だったんだな。だけど」
『村雨剣司……その男は、すでに死んだ』
重く暗い思念が、返って来た。
『我が名は殲滅大帝……地球人類を、殲滅する者。お前たちは人間を守るために、俺を滅ぼさなければならない』
殲滅大帝が、剣を抜く。禍々しく異形化した、かつての雷帝剣。
『それが……出来ねえなら! ヴァルトカイザーになんざぁ乗ってんじゃねえぞガキどもがあッ!』
「……奏空くん、駄目だよ。話が通じる状態じゃない」
きせきが、まるで楽器でも弾くかの如くパネルに指を走らせる。
「次は、僕のエレクトロテクニカを披露させてもらうよ……高速斬撃プログラム『飛燕』実行!」
弐號機が疾風の速度で踏み込み、新・雷帝剣を抜き放つ。
新旧2体のヴァルトカイザーが、烈しく擦れ違った。
殲滅大帝の全身各所から、鮮血のような火花が噴出する。
異形化した胸部装甲の一部が、ざっくりと裂けていた。
その裂け目の中で、1人の男が憎悪を燃やしている。半ば機械と一体化した状態でだ。
「村雨剣司さん……」
きせきが、語りかけた。
「貴方は、僕の憧れだった……」
『俺がどれだけの人間どもを殺したか、知らねえわけじゃねえだろうな』
「僕の両親も殺された、それでもだ!」
きせきは叫んでいた。
「僕が、僕たちが、新しい未来を作っていくから! 僕たちを信じて、一緒に」
『新しい未来……そんなものがあるなら、見せてみろ』
集合コックピットが、闇に包まれた。衝撃と共に、また明るくなった。
モニターが完全に死んで、薄暗い太陽の明かりが射し込んでくる。
ヴァルトカイザーの胸部装甲が、エナジーシールドもろとも裂けていた。
先程の擦れ違いざまに、こちらも斬撃を受けていたようである。
パイロット6名、各人の眼前で、コンソールパネルが火を噴いている。
「ひっ日那乃ちゃん! 術式リペアはコックピット周り優先で! シールドの出力も落ちてるけど仕方ない!」
「奏空さん……血、出てる……」
リペアシステムを制御しながら、日那乃が呟く。
「村雨さん……わたしの仲間、傷つけた……」
「傷だけじゃ済まねえってのは、わかるよなああ!?」
吼える村雨の姿が、今は肉眼で確認出来る。
じっと見据えながら、日那乃は言った。
「人間全部まとめたら、わたし……やっぱり、嫌い。でも今は……あなたの方、が……許せない」
「許せねえなら、さあどうする!」
「助けて欲しい、なんて……思ってない、よね」
「そういう人ほど助けたい、俺たちは!」
奏空は叫んだ。
「人間は、確かに完璧じゃあない。だからって絶望なんかするな! 完璧じゃない人間の、1人1人の姿ってものを、あんたには生きて見つめてもらいたい」
「……帰って、おいでよ」
彩吹が、村雨に向かって手を差し伸べる。
「確かに、人は綺麗なだけの存在ではないけれど……それでも貴方の帰る場所は、人の世界しかないと思う。だから」
「もう遅い……せめて、あの時……!」
殲滅大帝が、雷帝剣を構えた。
「俺が地球へ戻って来た時……お前らが、いてくれれば……ッ!」
「……来るよ、滅殺殲光斬!」
きせきが叫ぶ。
「全力防御、それとも回避……」
「……いや、決める」
翔が、何かを決断した。
「やるぞ。モード『暁』だ」
「ぼ、僕たちの必殺技を全部いっぺんに叩き込む、超高速戦闘……」
きせきが息を呑んだ。
「あれは、テストもまだ……」
「覚悟決めろ闇ゲーマー。村雨剣司を止めるには、これしかねえ」
ゆらりと剣を掲げる殲滅大帝を、翔は睨み据えた。
「アンタ、ほんとにこの世界を滅ぼしたいのか? 仲間が命を賭けて守った世界だぞ……いや。仲間が命を賭けたからこそ、許せなかったんだろうな。オレも、オレたちも守りたい、この世界を。だから」
掲げられた雷帝剣が、振り下ろされる……寸前で、翔は印を結んだ。
「覚悟を決める……モード『暁』発動!」
弐號機の左掌から電光が迸り、殲滅大帝を直撃する。
電撃照射システム『雷獣』。荒れ狂う放電光が、異形の巨体を灼きながら束縛する。
束縛された殲滅大帝に向かって、ヴァルトカイザーは踏み込んだ。
1度の踏み込みの間に、あらゆる攻撃が繰り出された。参点砕き、地烈、激鱗。
殲滅大帝が、ズタズタの残骸に変わり、崩れ落ちてゆく。
そんなものは、しかし奏空は、どうでも良くなった。信じ難いものが見えたからだ。
「紡さん……!」
紡が、破損したコックピットから飛び出して行く。
羽ばたき、飛翔し、殲滅大帝の崩れゆく巨体に突入する。
「紡! 何やってんの!」
「爆発するぞ! 戻れぇーッ!」
彩吹と翔の叫びも聞かずに紡は、村雨剣司の身体を細腕と翼で包み込んでいる。そして語りかける。
「キミが、それほどの絶望を見たのかは知らないけど……これから見えてくるものだって、あるはずだよ」
崩れゆく残骸の中から、村雨の身体が引き抜かれた。
「だから、一緒に探そう……」
殲滅大帝が、ヴァルトカイザー壱號機が、崩落しながら爆発した。
紡と村雨が、もろともに吹っ飛んだ。
そして遥か上空で、彩吹と日那乃に抱き止められる。
「紡の馬鹿! 無茶をして……!」
「ごめんね、いぶちゃん……」
翼人の少女たちが、3人がかりで村雨剣司を抱き支えながら、ゆっくりと降下して来る。
「誰も……いねえ……」
村雨が呟いた。
「竜矢も、美由姫も……大吾郎のバカも、グレーテル嬢ちゃんも糞餓鬼ヘンゼルもいねえ……俺1人で一体、どうしろってんだよぉ……ッッ!」
「1人で生きる。それが、あなたの罰」
日那乃が言い、彩吹が微笑む。
「おかえり、とだけ言っておくよ。背中バシッと叩いてあげたいとこだけど、今は何か死にそうだしね」
「みんなで帰ろう。流せるものは、流しちゃってね」
紡が水行術式を放り投げ、虹をかける。
ヴァルトカイザー弐號機の、破損したコックピットの中から、きせきも翔も奏空も、じっとそれを見上げていた。
「終わった……な」
「うん。ヴァルトカイザー第二期、こんな感じのお話になるといいねー」
「第二期やるの? 何か原作者と監督が大喧嘩してるって話だけど」
「僕はあれ公式に問題があると思うんだ」
「お前らが何言ってんのか、オレには全然わかんねーよ」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『緑眼の黒騎士ギルフェイト』
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
『烈風の戦巫女イシュテリア』
取得者:如月・彩吹(CL2001525)
『黄金の竜騎士ニーベルレオン』
取得者:成瀬 翔(CL2000063)
『美獣王シオンヴェール』
取得者:御影・きせき(CL2001110)
『琥珀の剣聖ナスカローザ』
取得者:桂木・日那乃(CL2000941)
『聖霊姫リムルフェリス』
取得者:麻弓 紡(CL2000623)
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
『烈風の戦巫女イシュテリア』
取得者:如月・彩吹(CL2001525)
『黄金の竜騎士ニーベルレオン』
取得者:成瀬 翔(CL2000063)
『美獣王シオンヴェール』
取得者:御影・きせき(CL2001110)
『琥珀の剣聖ナスカローザ』
取得者:桂木・日那乃(CL2000941)
『聖霊姫リムルフェリス』
取得者:麻弓 紡(CL2000623)
特殊成果
なし
