《金剛布武》地脈を穢す凶星の尾
《金剛布武》地脈を穢す凶星の尾



 力こそすべて。
 武力による支配こそが安寧。弱者こそが悪。金剛一派にとってそれはごく当たり前の理屈だ。そのシンプルかつ平等な考えを土木建基(どぼくけんき)はとても気に入っている。
 そう……。
 ここに居を構え、特異点を守っていた組織は弱かった。故に潰されて当然だった。いままで残っていたのが不思議なぐらいだ。ゴミどもめ。
 覚者組織でありファイヴに協力的であったことは、建基の中ではどうでもよかった。たとえここが七星に忠誠を誓った隔者組織だったとしても、なんのためらいもなく潰していただろう。

 金剛さまの国に弱者はいらない。
 金剛さまは『城』を求めておられる。
 天下人に相応しき巨大な『城』を。

 建基はツルハシを振り下して、先についたゴミたちの血を払った。
 残りの生ごみを片付けたら、さっさとここを更地にして基礎を固めを始めよう。そのためにも道具は常にキレイにしておかなくては。

 

「ついさっきのことだけど、覚者組織『朱鷺』が金剛一派に襲われる予知夢を見たの。助けに行ってて頂戴」
 最低限の人が集まるや、眩・ウルスラ・エングホルム(nCL2000164)は淡々と依頼内容を語りだした。
「襲われているのは『朱鷺』だけじゃない。ファイヴを支持する覚者組織が、金剛一派の手によって次々と潰されているわ。いまも他の部屋で別のチームがブリーフィングを受けているはずよ」
 配られた資料にはこれから助けに行く『朱鷺』という組織と、彼らを襲う金剛派の隔者たちについての詳細の他にも、潰された組織の一覧表が添えられていた。
 リストの中には隔者組織の名もあったが、ごくごくわずかだ。何かの手違いか、七星を裏切って寝返ろうとしていたのか。もともと協力的な組織ではなかったのかもしれない。
 眩に促されて覚者たちはページを繰った。
 次のページは近畿圏の地図だった。潰された組織があったところにバツ印がつけられている。見ると、潰された組織はどこも京都近くの特異点か、またはそのすぐ近くに拠点を置いることがよく分かった。
 すぐに気づいた覚者たちが低く唸る。
「そう。特異点を力によって支配し、そこに大がかりな拠点をつくってファイヴを包囲殲滅する……恐らくこれが、金剛たちの目的ね」
 だとしたら、先に行われた七星首魁とファイヴの覚者たちによる宴会は何だったのか。
 まだ、話を持ち返ってきた段階で、ファイヴは正式に提案を蹴るとも受け入れるとも言っていないではないか。
 それなのに――。
「金剛は金剛ということでしょうね。七星は決して八神一人の組織じゃないってこと。宴会に先駆けて、八神自身が『七星の総意ではない』とちゃんと断りを入れてたでしょ」
 ともかく、と眩は話を続けた。
「いま金剛の暴走を止めなくては、早晩ファイヴは瓦解する。守り手を失った力なき人々は、奴隷化され、地獄のような生活を強いられるわ。もう聞いているでしょ、夢見たちが見た悪夢の内容を」
 すでに、何人かの夢見が金剛一派に支配され暗黒の未来を予知していた。
 集まった覚者たちの耳にもその話は入ってきている。
「手始めに『朱鷺』を救って未来を変えましょう。あなたたちの手で、いつものように」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:そうすけ
■成功条件
1.生き残りの朱鷺のメンバーを全員助ける
2.七星隔者の撃退、または撃破
3.なし
●場所と時間
 滋賀県、三上山近く。
 昼。晴れています。


●覚者組織『朱鷺』
 体が山を七周もしたといわれる大ムカデ(古妖)の遺骸を守り続けてきた一族。
 大ムカデを倒した武将「俵藤太」の血を受け継ぐ子孫たちで、弓の名手ぞろいです。
 三上山のふもとに拠点である建物がありましたが、金剛一派に襲われて半壊しています。
 ファイヴ到着時、生き残っているのは4人。
 うち1人は現当主の藤原秀明(ふじわら ひであき/52歳)ですが、「虫の息」です。
 戦力にはなりません。
 残り3人はいずれも小学生で、発現していますが実戦経験はゼロ。これが初陣です。 
 水行、翼の因子が1人。木行、現の因子が2人。武器は弓のみ。

●七星隔者
・土木建基(どぼくけんき)。30歳前後。
 土行、械の因子。ファイヴ覚者のトップクラスと同等以上の能力を持つ。
 強化ツルハシが武器。
 道着にヘルメット姿。足は地下足袋。
 手下の後ろにいて指示を飛ばしています。

・金剛門下生、3名。ファイヴ覚者の中堅クラスと同等の能力を持つ。
 天行、現の因子1名。
 火行、獣の因子2名。
 ツルハシやスコップ、ハンマーを振るって『朱鷺』の生き残りたちを攻撃しています。

・金剛協力組織の隔者、10名。ほとんど一般人と大差なし。
 建基の指示で遺体の運びだしや整地作業をおこなっています。
 ファイヴの覚者が到着するや、すぐさまバリケードを築いて建基たちを守ります。
 しかし、戦闘能力はほとんどありません。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2018年04月01日

■メイン参加者 8人■

『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)
『ちみっこ』
皐月 奈南(CL2001483)
『ゆるゆるふああ』
鼎 飛鳥(CL2000093)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『ファイブブラック』
天乃 カナタ(CL2001451)


 のどかで心休まる春の風光を、ファイヴの覚者たちを乗せた黒いワゴン車が猛スピードで走る。
 車中、あるものは腕を組み、あるものは膝の上で拳を握り、一秒でも早く現場につけと、無言で願っていた。
 間もなく現場に着くというころ、開け放たれた窓から車中に吹き込む春風に鉄さびの匂いが混じりだした。ねっとりと鼻腔に張りつくこの生臭さは、血か。
 緒形 譟(CL2001610)は背もたれを掴み、後部座席のシートから尻を浮かせた。
「おい! 無事か、クソ上司! 生きてますかー?」
 いきなり叫び出した部下に、『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156) はのんびりと応じた。黄色いシールド上を桜の花びらの影が流れ落ちていく。
「急に何を言いだすのかね、この部下は。おっさんが死んでいるように見える?」
「フルフェイスの所為で判りにくいけど、命数的にヤバイだろ?! 何動いて血の匂いさせてるの死ぬの!?」
「これ、メタな話はおやめ。風に交じる血の臭いはおっさんじゃないよ。いよいよ現場が近いって証拠さね」
 逝は窓枠に肘を乗せると、右手に小さく見えている三上山へ頭を向けた。
 現場まであと5分はかかるだろう。風に運ばれて来たとはいえ、ここまで血が臭ってくるとは。それだけ一度に多くの覚者が殺されたということか。
 うららかな春の日に似合わない、吐き気を催す臭い。
『ファイブブラック』天乃 カナタ(CL2001451)は鼻の奥に力が入るのを感じた。眉間にグッとシワが寄る。
(「うぉー……。結構な死体の量だな……。すげー血の匂いがする」)
 だが、まだ子供たちが生きている。絶対に助ける、とカナタは決意を新たにした。
 その隣で、『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)がパーカーを脱ぐ。顔は怒りの形相だ。
「車で回り込むより、ここで降りて畑を突っ切っていったほうが早くね?」
 脱いだパーカーを雑に畳んで背の後ろに回すと、早くもスライドドアのフックに手をかけた。
「賛成なのよ。運転手さん、止めてくださいなのよ」
 助手席のシートベルトを外しながら『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)が言う。
「慌てるなって。止まるので待て。……にしても、ついに彼らも動き出してしまったんやなあ。まあ、いつか必ず動く思うてたけど、なんで今なん?」
 『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403) の疑問に、『在る様は水の如し』香月 凜音(CL2000495)はゆるゆると首を振った。
「さあな。だが連中が己の力を過信しすぎているのは確かだ。古今東西、恐怖政治やら何やら力で他を制してきたものの末路を知らないわけじゃなかろうに」
 勘違いも甚だしい、と憤る。
「……仕方ない、迎え撃つか」
 車が止まると同時にすべてのドアが開け放たれた。真っ先に飛び出したのは飛鳥だ。
「いざ、参るのよ!!」
 『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483) も続いて左のスライドドアから飛び出す。
「本当に、どうしてこんな事をするのだ! ナナンはちょっぴり怒ってるんだからねぇ!」
 ちょっぴりどころかかなり怒って見える。
 奈南は固めた拳を天につきあげると、まだ水が張られていない、土が掘り返されたばかりの田を駆けだした。


 譟の足元に血を吸って黒く湿った土地が広がっている。前方ではニッカボッカを履いた男たちが、のんびりとツルハシを振るっていた。
 汗のにじんだ額を光らせてコンクリを砕く様子だけ眺めていれば、それはごく普通の土木作業風景だった。だが、瓦礫を運ぶ一輪からは千切れた腕が覗き、鉄骨の脇に死体が積み上げられているのを見てしまえば、例え花粉症で鼻を詰まらせていてもそこが殺戮と破壊の場であることが解る。
「しかも現在進行形ってな!」
 譟は感情探査と鋭聴力をフル活用し、譟は閃光手榴弾を投げるタイミングを計った。
 手前にいる作業員たちだけでなく、半壊した建物を攻撃している隔者も、そしてボスの土木建基すらもこちらの接近にまったく気づいていない。完全に油断している。
「マジ、脳筋。バカばっか! 挨拶代りにド真ん中へ投げてやらあ! ウラーッ!!」
 数秒後、閃光手榴弾が建基の真上で炸裂した。激しい音と網膜を焼く激しい白色の閃光が広がり、隔者たちを飲み込んでいく。
 この閃光をいきなり見せられた人間は、どんな歴戦の猛者でも委縮する。もちろん、事前に解っていればいくらでも対処できるのだが。金剛たちはその場にガクッと崩れ落ち、驚きで何もできなくなっていた。しばらくは一切動けず、考えることもできないだろう。
 ファイヴの覚者たちは譟がもぎ取ったチャンスを逃さず、素早く動いた。
 まず、一悟が鳳凰聖火風で仲間の自然治癒力をあげる。緋色の風を巻き起こしながら、守護使役に指示を出した。
「大和! しっかり聞き耳立てとけよ。少しでもおかしな音が聞こえたらすぐ教えてくれ!」
 一悟は朱鷺たちが籠る建物の裏、三上山に眠るという古妖・大ムカデの存在を恐れていた。
 大ムカデが封じられたのは遥か昔のことだが、おびただしく流された血の匂いに惹かれて復活するかもしれない。考えすぎといえばそれまでだが、用心するに越したことはないだろう。
「よう、脳筋肉のゴミども!! 回収に来てやったぜ」
 一悟の合図で逝と凜音、カナタが身動きを止めた金剛たちに迫る。
「敵襲! おい、お前ら、サボってないでキリキリ働かんか。さっさとバリケードを築け!」
 大地を響き渡った野太い声は建基だった。
 さすが襲撃隊のボスといおうか。最初の目が眩む状態を他の隔者たちよりも早く脱出したようだ。いち早く立ち直るや否や、激を飛ばして仲間の立ち直りを促す。その一方で、自らは覚者たちに向けてツルハシを振るった。
 重みを持った空気の波動が駆けこんだファイヴたちに襲い掛かる。
 建基を目指して、作業員たちの間を走っていた奈南は腹をまともに打たれてしまった。うっ、と唸って体を折る。が、すぐに体を起こすと怒りの塊となって建基に突撃した。
 汗臭い体に肉薄し、ホッケースティック改造くんをぶん回す。
「建基ちゃん! 初めましてなのだ!のついでに改造くんの『五織の彩』をくらうのだ!」
 ホッケースティックは建基の首筋に当たり、甲高い金属音を響かせた。
 叩き込んだ時と同じ勢いではじき返されて、勢い奈南がよろめく。
「あ? なんだ、いまのは。早生まれの蚊か何か?」
 なんとか体制を立て直したところへ、嫌らしく唇をまくり上げた建基の顔が落ちて来た。
 貫通した波動は奈南の後ろにいた逝にまで届いていた。
 振るいかけていた妖刀・悪食の刀身が叩かれ、柄を握る手に痺れが走る。が、ダメージらしきダメージは受けなかった。体を硬化せるのは建基だけの技ではない。
「はいはい。『いただきます』がまだだったわね。それじゃあ、あらためて……おあがり、悪食!」
 逝の傍にいた作業員たちの体が空を切る悪食に吸い込まれるように近づいたかと思うと、スパッと真っ二つに切れた。不可視のはずの魂が色と形を伴って切断面から立ち昇り、そのままスルスルと白光する刃に食われていく。
「悪食ちゃんや、遠慮はいらないぞ。好きなだけお食べ……と。これ、部下や。サボタージュはいかん。考課を下げるぞぅ。ちゃんと工兵として働きなさいな」
「うっせー! 今、行こうと思っていたところだ! れっつ、楽しい鎮圧作業ですお。クソ上司、『連中のハラワタ、ブチ撒いて』やってー!」
 逝は悪食の刃で地を切り裂いた。バリケードの後ろへ逃げ込もうとしていた作業員たちの足を切り飛ばす。
「ん? ……ちょっと部下ぁー、もう少し早く言いなさいな。部下のリクエストだ、土木の『六腑を挽き裂く』わよ!」
「早くやりやがれください、クソ上司!」
 悪態をつきながら上司の元へ駆けていく青ヘルメットを横目に、飛鳥は大声を張り上げた。
 朱鷺の子供たちに届け、声よ。
「朱鷺のみなさん、助けに来たのよ! 頑張って!」
 自分の声が自分のものではないように感じるのは、閃光手榴弾によって聴力が落ちているせいだろうか。もしかしたら、願い空しくいまの叫びも――。
 もう一度、と口を開きかけた時、崩れたコンクリートの壁を越えて、矢が飛び始めた。狙いをつけずに放たれた矢ではあったが、いくつかが建物の前にいた隔者たちの体に突き刺さる。
 声は届いていた。
 痛みに飛びあがる金剛たちを見て飛鳥はにっ、と笑い、水晶のスティックを天にかざしす。
「降れ、慈悲深き潤しの雨! 戦士たちの傷を洗い、癒し給えなのよ!」
 晴れた空の彼方から、キラキラと光る神秘の雨粒が降り注ぐ。
 潤しの雨は半壊した建物に立てこもる朱鷺たちの傷も癒したようだ。朱鷺の当主と思われる男が、崩れた壁の上に顔を出した。
 飛鳥がほっとしたのもつかの間の事、隔者の一人が怒声を上げて藤原の頭にツルハシを振り下す。が、澄んでのところで藤原は頭を引っ込めた。
 ツルハシが壁を砕いた音を合図に、他の二人の隔者もスイッチが入ったようにスコップを振るいだした。
 敵を遠ざけようと、矢が次々と壁の裏から打ち上げられる。
「殺して楽しいか、壊して嬉しいか、俺にはわからん。お前たちがやっているのはクズ以下だ。誰も、望んじゃあいない!」
 ジャックはゆっくり動きだした作業員の一人を蹴り倒した。
 更に、顔面から泥水の中に突っ込んだ作業員の尻を蹴って豪快に滑らせる。
「死にたくなければそのまま大人しく寝てろ」
 俺はお前たちと違う。欲望のまま力を振るう、無意味な殺戮は好まない。
 四方に睨みをくれてから、銀の糸のような雨の中で舞う。開いた友人帳で風を起こし、戦場全体に吹かせた。
 煽られて舞い飛んだ雨粒が日光を弾き、ジャックや仲間たちの周りに小さな虹をいくつも作りだす。
「朱鷺たち、打ち方やめ! 体力足りないやつをカバーしろ! それ以外は全力防御!」
 すぐに助けに行く。声には出さなかったが、ジャックの気持ちは朱鷺たちに届いたようだ。
 攻撃をやめた朱鷺の子供たちが、傷を負っている当主の体を支えながら建物の奥へ退避していく。
 カナタは猫耳パーカーの内から術符を取りだすと、左右の手の指に挟んだ。腕をまっすぐ伸ばして体の先で交差させる。
 早く雑魚――作業員たちと築かれつつあるバリケードを排除しないと、たった一人で建基の相手をしている奈南が危ない。
「この身体に真実、『水』の精霊が宿るというのならば。俺の召喚に応じ、我が指先に熱を生みだし給え!」
 カナタの身体の奥から、いや魂の底から何かがつき上げた。じわりと熱が生まれる。激しくうねる波が、御符を挟んだ指先から迸った。体内で爆発した水の源素が空気に触れて炎を起こし、巨大な波となって敵を飲み込んでいく。
(「一発でダメなら二発撃つ!」)
 凜音は、再びパーカーの内に手を差し込んだカナタの肩を軽く叩いた。
 目の動きだけで「先に進め」と促す。残りは任せろ、と。
「よぉ。武力に猛るおっさんたち。俺達が相手してやんぜ?」
 どっちが強いか比べっこしようじゃないか。
 凜音は守護使役の更紗から錬丹書を受け取ると、素早くページを繰った。
「ほらよ。俺からのプレゼントだ。受け取りな」
 指で文字をなぞりながら召炎波を唱える。
 瞬間、炎が凜音の足元から生まれた。地の底から響いてくるかのような轟音と、周囲一帯を蒸発させてしまうのではないかという熱量、そして毒々しく渦巻く赤の光が波となって、第一波をしのいだ残りを焼き流した。
「『力こそすべて』と粋がっているわりには、金剛もたいしたことねえな」
「そっちこそ! 何者かは知らんが、下請けの連中を伸した程度でいい気になるなよ。くらえ、金剛的大震っ!」


 正面から凄まじい衝撃波が襲い掛かって来た。まるで爆弾が作裂したかのように大地が揺れ、前衛にたっていた覚者たちは気がつくと地面に倒れ伏していた。何が起こったのかわからないまま見開いた目に、じわじわと赤いものが広がって視界を染めていく。
 大震はターゲットにダメージを与えない。ただ大地から弾き飛ばすのみ。だが、それも圧倒的力で飛ばされれば、着地時に体を激しく叩きつけられてしまう。打ち所が悪ければ、額を割って血が吹きだすこともあるだろう。
「――って、くそ力が!」
 あっという間に傷がふさがる。事前に高めていた自然治癒のおかげだ。一悟は立ちあがるなり、建基の腹に炎を纏ったトンファーを叩き込んだ。
「そういや、誰もファイヴって名乗りを上げてなかったな」
 厚く固い腹筋の上に纏われた岩鎧にヒビが入る。
「ぐふぅ! ファイヴか。納得だ。……今の一撃、なかなか見どころがある。よし、コレを喰らって立っていられたら金剛に入れてやろう!」
「ことわ――」
 一悟は最後まで言い切ることができなかった。建基が振るったツルハシが肋骨を叩き折る。
 骨に当たって欠けた刃先が、血をまき散らしながら空を飛んだ。
「何てことしやがるバカ野郎。工具は大切に! よく見ろ、これが正しい工具の使い方だお!」
 譟が5061式スレッジシャベルを振るって、心地の良い風を吹かせた。熱をはらんで強張った筋肉がほぐれ、覚者たちの身体機能がアップする。
「部下や。建基ちゃんのツルハシだけじゃなく、奥州ちゃんのことも気遣って上げて」
 逝は土蜘蛛の糸を伸ばした。
 建基を簀巻きにして生け捕りにするつもりだったが、土蜘蛛の糸は膨れ上がった筋肉にあっさりと切られてしまった。
「ちっ、時間稼ぎにもならなかったか」
「十分なのよ!」
 建基の身動きが糸によって封じられた一瞬、飛鳥と凜音は駆けだしていた。とりあえず、一悟の回復は後回しだ。建基の横をすり抜けて、建物を崩す隔者たちの元へ向う。
 二人のすぐ後をジャックと譟が追いかけた。
「ここは頼んだのよ!」
「任せろ!」
 飛鳥を捕まえようと腕を伸ばした隔者の横顔に、ジャックが肘を叩き込む。他の二人は凜音と譟がブロックした。
 奈南が建基の横から烈空烈波を放って飛鳥を援護する。
「イケイケ、飛鳥ちゃん! 朱鷺たちを頼むのだ――って、危ない!」
 建基の丸太のような太ももを後ろに飛んで避けた。カナタが背中を受け止める。
「ありがとうなのだ」
「ふむ。強き者たちとの戦いは楽しいが、いまは勤務中。金剛様の城を急ぎ立てねばならぬ」
 建基は体を捻って後ろを向くと、声を張り上げた。
「お前たち、ファイヴは後回しだ。さっさと奥に逃げたゴミどもを始末しろ」
「おい、今なんて言った!」
 怒りで声を震わせながら、ジャックが振り返る。
「力こそが全て。それが金剛様の目指す世界。であれば、やつらはゴミと言っていいだろう」
「力こそが全て? 笑わせんな!!!」
 金の目を光らせて、カッ、カッ、カツンと三度踵を打ち鳴らす。細りとした体から大量の血が吹き出し、手の先で赤黒い大鎌となった。
「いまは戦国時代か!? お前たちの思想に他を巻き込むんじゃねえ!! 身内だけでよろしくやってろ!!」
 振りぬかれた大鎌が、慌てて放たれた火柱と、それを放った隔者たちの腹を引き裂いた。
「自分より弱い者にしか手を出さないならば、ただの馬鹿だよなぁ」
 凜音は潤しの雨を降らせた。少し前に、飛鳥が朱鷺たちを連れて建物から出ていくのを確認している。この雨はいまの火柱に巻き込まれた自分たちと、地に伏せたまま動かない一悟のためだ。
 追ってカナタが癒しの霧を広げる。
「うるさい! 最後に立っている者が正義だ!」
 建基が先の折れたツルハシを大地に突きたてた。衝撃波が奈南とカナタを吹き飛ばした。
 第六感が働いたカナタは、奈南の肩を掴んだまま倒れ、彼女が受ける着地の衝撃をやわらげた。
「カ、カナタちゃん、大丈夫?」
 カナタは寝ころんだまま弱々しく微笑むと、親指を立てた。どうやら腰を強く打ったらしい。体が起こせなかった。
 守護使役のぽいふるが不安そうにカナタの顔を覗き込む。
「ちょっと……無理かも。俺の分もガツンと頼むよ、奈南」
 その時、守護使役の大和が強く吼えた。ワワンも一緒になって吼える。
 地響きを伴って、下から突きあげてくるような揺れが起こった。揺れはいっこうに収まることがなく、それどころか激しさを増していく。
 見れば建基たちも戸惑っていた。
 一悟は肘をついて体を持ち上げ、守護使役に顔を向けた。
「大和! 震源は山か?!」
 守護使役はそうだ、と短く吼えた。
 大ムカデが復活したならした時だ。いまは頭を抱えて身を伏せているしかない。
 揺れがいったん弱まった気がした。
 おそるおそる顔をあげる。
 瓦礫の粉塵と土挨が霧のように立ち込めていた。
 朱鷺たちを避難させ、駆け戻ってきた飛鳥が癒しの雨を急ぎ降らせる。
「これ以上、時間をかけていられないわよ! ムカデが這い出てくる前に、皐月ちゃん、やっておしまい!」
 逝は涎のごとく刃から瘴気をしたたらせる悪食を振るった。ツルハシごと建基の腕を妖刀に食わせる。
 ジャックが金の目から破眼光を発し、凜音は召炎波を放って三人の隔者を片付けた。
 奈南が燃えたつような激鱗に包まれる。
 カナタは歯を食いしばって体を起こすと、残った腕を振りかぶった建基に気弾を撃ち込んだ。
「いまだ、奈南!」
「いくら金剛ちゃんが大好きだからってこういう事はダメなのだ!!」
 ホッケースティックを構えた奈南が建基の体をすり抜けていく。
 後に残されたのは薄紅色の残像。
 それもすぐに崩れて地に飲み込まれた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

成功です。
雑魚たちの排除に手間取っていれば、朱鷺当主の藤原氏が死亡。
大ムカデが這い出てきていたかもしれませんでした。
古妖は回復した藤原氏が念入りに再封印しています。
お疲れさまでした。




 
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