五と七が 今は平和に宴会を
五と七が 今は平和に宴会を


●世の抗争とは縁遠い旅館から
 京都の山間に一つの旅館がある。
 特別に有名な旅館ではなく、強いて言えば歴史が長い程度の旅館だ。ある日その旅館すべて貸切るという予約が入った。観光シーズンでもない時期なので、旅館としては願ったりだった。
 宿帳片手にニコニコしながら応対する旅館主。
 この宴会がFiVEと七星剣という二大覚者組織の命運を決める事になることになるなど、彼に知りようはないのであった。

●FiVE
「七星剣のトップ、八神勇雄から宴会の誘いがきた。
 旅館一つを貸し切って、宴会を開こう……というのが表向きの理由じゃな」
 あごひげを擦りながら『気炎万丈』榊原・源蔵(nCL2000050)が話を切り出した。酒が飲めると聞いて真っ先に出席にまるを付けたようである。
「実際は此方に交渉をするのが主眼じゃな。先に接触した者達が、七星剣との休戦及び大妖との共同戦線を申し出たようでな。その返事が返ってきた」
 源蔵は懐から古めかしい和紙を取り出す。どうやら本当にそれに書かれているようだ。
「『休戦なんでまどろっこしい。お前ら七星剣に来い。そうすれば最高の覚者組織になって、大妖を討つ算段も生まれるぜ』……との事じゃ」
「それって」
「要約すれば『七星剣の傘下に入れ』かの。好意的に解釈しても『同盟を組もう』あたりか」
 日本最大の隔者組織である七星剣。その傘下に入るということは、世間的に望ましいものではない。同盟であったとしても、犯罪組織と同盟を結ぶとなれば世間の目は冷たくなるだろう。
「ま、向こうもこの条件をすぐに飲むとは思ってないじゃろうな。だからこその宴会じゃ。ここでやつの腹の内を読むもよし。この機会に七星剣に言いたいことを言うもよし。無関係に飲み食いして七星剣の財布にダメージを与えるもよし、じゃ」
 敵を知り己を知れば百戦危うからず、という。七星剣の首魁がどのような人間かを知ることが、現状においてマイナスになるとは思えない。
 無論、つまらないと切って捨てるのも当然の反応だ。今まで続いたFiVEと七星剣の諍いは、決して軽く流せるものではないのだから。その恨みつらみをぶつけるいい機会ともいえる。
「ともあれワシは酒を飲みに行くぞ。おぬしらはどうする?」
 源蔵の言葉に、貴方は思案して――


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:どくどく
■成功条件
1.宴会に出る
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 インターミッション。あるいは分岐点。

●説明!
 七星剣のボスである八神勇雄から宴会のお誘いが来ました。
 街から少し離れた山間の旅館。そこを貸し切っての宴です。ちょっと高級な宴会料理が待っています。日本酒を中心にアルコール類は完備。未成年者用にジュースもあります。
 七星剣側からは首魁の八神に加え、『狂い咲き蝶々』と呼ばれる事務兼運転手の秘書がいます。

 八神はFiVEに七星剣に力を貸せ(意訳)と言ってきています。欠けた幹部の穴埋めということもありますが、有能な覚者は経歴不問で受け入れるというのが彼のスタンスのようです。
 当然ですが七星剣は犯罪組織なので、加担すれば世間的によろしくないことになります。
 八神の最終目的は『大妖及び古妖を押しのけ、七星剣(の覚者)が日本を支配する』ことです。

 この場で八神を攻撃することは可能ですが八神にはその気はありません。戦いを仕掛けるということは『話し合いの場で攻撃を仕掛けた』ことは大きなマイナスになります。七星剣からの強い恨みを買うのと同時に、『FiVEとはまともな交渉は出来ない』というレッテルが張られる事になります。

 勿論、八神と顔を合わせずに飲み食いすることもできます。そういった人用に別宴会場を用意しています。あと混浴風呂(水着着用)も。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。

 皆様からのプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
50LP
参加人数
20/∞
公開日
2018年03月02日

■メイン参加者 20人■

『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)


 旅館一つを貸し切っての宴会が始まる――前の話である。
「とりあえず、この三点に同意してもらいますね」
 スーツ姿の悠乃(CL2000231)は八神に対して条件を提示する。
「一つ。FiVEの組織構成上、個々の参加者に方針決定の権限はないこと。
 二つ。この場での発言は、全て個人の範囲に留まるものであること。
 三つ。組織として返答を要する質疑は、持ち帰り書面にて返答とすること」
 条件というほど厳しいものではない。要するにここはただの宴会で、七星剣やFiVEと言った組織単位の話ではない事の明記である。
「当然だ。俺だって個々の話が七星剣の総意だって思われたくないからな」
 八神も頷き同意する。彼は七星剣の首魁だが、総意ではない。八神が提示した条件も七星剣の一部からは不満が出ている。幹部達を倒したものと手を組むなどありえない、と。
「よぅ。まずは一献、どうだい」
 言って八神に近づいていくのは時宗(CL2000084)だ。御猪口を手に八神の隣に腰を下ろし、酒を注いでいく。お返しとばかりに八神も時宗の御猪口に酒を注いで、カチンと重ねた。
「いい飲みっぷりだな」
「酒の場を楽しめないやつは人生も楽しめない、というのが俺の持論だ。
 仲良くなれるかどうかはともかく、この場では楽しもうじゃないか」
「違いない」
 時宗の持論に八神も同意する。相手が七星剣のトップという緊張感を一気にほぐしていく。
「はじめまして……わたし、桂木日那乃、です」
 日那乃(CL2000941) は一礼してから八神に近づく。お酒は飲めないのでジュースを片手に八神の真正面に立ち、相手の目を見ながら問いかけた。
「七星剣が、支配するように、なった、ら。日本は、どんなところになる、と、思って、る?」
「人間が死ぬようなことは少なくなるな」
 酒を口にしながら八神は答える。
「大妖や古妖に殺されるものがなくなれば、それだけ安心できる生活になる」
「ん……。それは、七星剣が、力で妖や古妖を抑え込む、の?」
 そういうことだ、と八神は首肯する。
「……FiVEが、七星剣に、入るのは。無理、と思う。でも、ヒノマルの、ひとたちも、いる、し。
 分けて、考えても。あんまり、意味ない、かも、って思う」
 七星剣もFiVEも、基本的に大妖を疎ましく思っている。故に手を取りあえるかもしれない。……もっとも、その先は大きく異なるのだが。
「この度はお招き頂きありがとうございます」
 八神に一礼する大和(CL2000477)。七星剣が用意したものとはいえ、料理自体は普通の料理。それを嗜む程度に口にしていた。長年続く旅館の料理だけあって、それだけでも来た価値はあった。
「七星剣と共に大妖を討つですか」
「お嬢ちゃんはどう思う?」
「七星剣がとても強い戦力をお持ちになっているのも理解できますし、戦力だけを見るならば大妖との対峙があった場合も有利になることも想像できます。
 ですがわたし達はすでにご存じの通り政府との関係もあり――」
「分かってるさ。はいそうですか、と飲むわけにはいかないんだろう」
 大和の答えはFiVEの答えでもある。政府との関係がある以上――まあ、なくても――犯罪組織と相容れれば世間の目が厳しくなる。
「で、繰り返しになるがお嬢ちゃん個人ははどう思う?」
「賛同しかねるわね。特殊な力を振りかざし人を脅かす組織とは相容れられないわ」
 その答えを聞いて、八神は口を笑みの形に変える。組織としての対面ではなく大和個人の声が聞けて満足だ、とばかりに。
「傘下に入れなどという要求には当然応じかねます」
 ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は八神の要求に対し、そう答える。当然と言えば当然の反応だろう。
「ですが大妖を排除したいという考えは賛同できます」
「だろうな。あれはこの国の人間共通の敵だ。あいつらがいる限り、この国の未来はない」
「支配云々に関しては今は置いておきます。私が聞きたいのは妖に対する姿勢です」
 八神の言葉に眉をひそめながら、ラーラが口を開く。妖は人類の敵だ。善であれ悪であれ、看過できないのは同じこと。だが――
「例えばFiVEが傘下に入らない場合でも、敵の敵は仲間ということで必要があれば協力するような心積もりはありますか?」
「ないな。結果として助けることはあるかもしれないが、意図して手を貸すつもりはない。
 七星剣の戦力も無限じゃない。身内以外を守ってやろうと思う余裕はねえな」
 ラーラの問いかけに、八神はきっぱりと答える。傘下に入らないのなら、たとえ共通の敵でも手を貸すつもりはない。
 かなりの酒が入っているのだが、八神の目は決して濁っていない。仲間にならないのなら野たれ死んでも構わない。そんな瞳だった。


 当たり前の話だが、七星剣と相容れない覚者もいる。
 そんな者達は八神から離れて宴会を楽しんで――はいなかった。八神の動向に注意し、その人物像を見極めようとする。
「ふん……」
 赤貴(CL2001019)もその一人だ。戦闘に支障のない程度に飲食を行い、鋭い瞳で場を観察していた。武力行使が起きそうな雰囲気になれば、すぐさま割って入れるように準備をしている。何で相手は七星剣の頂点だ。何が起きるか分かったものじゃない。
(七星剣は論外として、FiVE側だって信頼できる相手はごく一部だ)
 赤貴からすれば、組織そのものに忠誠を誓うのは論外である。信じるべきは自分の経験で学んだ事。他人の教義に従う理由はない。赤貴がFiVEに所属している理由は、自分の信じる考えとある程度に通っているだけに過ぎない。生きるために組織に属している方が都合がいい、という程度だ。
(……必要と感じれば、自身の望みのためには全てを敵にまわす)
 この会合の結果、あるいはこれ以降のFiVEの動向によっては離反も辞さない。無言のまま宴を観察し、強く心に誓う。
「わたしらって本業は学校の先生だからねぇ……」
「そうよねー」
 ちとせ(CL2001655) と御菓子(CL2000429)の二人は、八神を見ながらお酒を飲んでいた。ちとせは日本酒。御菓子はカクテルである。会合自体に興味はなく、とりあえず飲みに来たと言った心境だ。
 勿論、飲むだけならその辺りの酒場に行けばいい。ここに来た理由は八神を見に来たというのがある。だが――
「なんだって好んで権力欲とかに溺れるんだか……不思議だなぁ……」
「どの業界、どの世界にもトップに立ちたがる人っているよね。正直、わたしには理解できない考えだよね……」
 この国を支配したいという八神の思想は、二人には相容れないものだった。自由に音楽が出来ればいい、というのがちとせと御菓子の考え方だ。わざわざトップに立って支配したいと思うのが理解できない。
(対立してる組織のトップはどんな人間かと思ってきてみたけど、要は権力欲に溺れた脂ギッシュなおっさんだったわけで)
 ちとせの鑑識眼は八神をそう結論付ける。イケメンだったら肴になったのにと呟きながら、近くのつまみを口にした。
「お兄ちゃん、おかわりを持ってきましたです」
「ありがとう。さよ」
 さよ(CL2000870)と太郎丸(CL2000131)の離宮院兄妹も会合に加わることなく宴に参加していた。さよは事情がよくわかっていないので食べる方に集中しているが、太郎丸は気が気ではないと言った顔をしている。
(もしかして、他の幹部が顔を出しているとかは……考え過ぎかなぁ?)
 会合とは別に他の場所に目を向ける太郎丸、相手は七星剣のトップだ。それが単身で他組織と出会うなど常識的に言ってありえない。万が一に備え、戦力を用意してあるのが普通だ。
(気にし過ぎかな。でも注意するに越したことはないし……)
「? どうしたの、お兄ちゃん」
 何かあった時のために、妹の傍に立つ太郎丸。さよは兄の行動に疑問符を浮かべながら、おいしそうな天ぷらを見つけ、喜んで口にする。
「山菜系の天麩羅は採れたてが一番だな」
 ゲイル(CL2000415)はテンプラを口に含み、舌堤を打っていた。八神との宴に付き合うつもりはない。そういったことは手慣れが人間に任せればいいのだ。折角おいしい料理が目の前にあるのに、口にしない理由はない。
 採れたての食材はアク抜きをしなければ苦みが残る。自然のまま、というのは総じて不味いものだ。だが油で揚げるだけでそのアクが消え去って、素材の鮮度だけが活きてくる。若干苦みは残るが、逆にそれが山菜の味を引き立てている。
 山で採れたばかりの山菜をすぐに天ぷらで揚げる。たったそれだけの料理なのだが、鮮度が高いというだけでこれほど料理は上手くなるのか。ゲイルは日本料理の奥深さに感激していた。
「お風呂おっきー! すごーいなの!」
 宴会場から離れたところにある温泉ではしゃぐ七雅(CL2001141)。料理は十分に堪能し、満腹しての入浴タイムである。子供である自分は大人の会話に入るのも問題かな、と思い八神から離れたというのもあるが。
 温泉特有の硫黄の匂いが鼻を突き、肌を包み込む湯気が体を温める。木製の桶を手にして湯を掬い、肩から一気に体にかける。ざばぁ、という音と共に温泉の湯が体を滑り落ち、七雅の体を温めていく。
 数度湯を浴びてから、ゆっくりと足から温泉に入っていく。最初は肌にちくちく来るような湯の熱さだったが、次第に体の方が慣れてきたのか心地良くなってくる。温泉自体の広さもあって、七雅は泳ぐように温泉を移動していく。
 平和な時間が、ここに流れていた。


「お、こないだの姐さん」
 凛(CL2000119)は軽く手をあげて、少し離れたところで料理を食べている八神の付き人に話しかける。前の事件で見かけた『狂い咲き蝶々』と呼ばれる隔者だ。八神の会話には加わらず、動向を見守っている。
「お久しぶりです。先日の闘い、見事でした」
「そりゃどうも」
 社交辞令に付き合う形で『狂い咲き蝶々』のコップに酒を注ぐ。相手も礼儀とばかりに軽く口をつけた。
「所であの八神とか言うおっさん、本気であたしらが七星剣の傘下に入ると思っとるんか?」
「さてどうでしょう。口車に乗ってくれれば上々。そうでなくても皆様の本音が聞ければ良し、と言った所ではないでしょうか」
「本音?」
「敵対するのならその信条も知りたい、というのが八神様の悪癖でして」
 ふーん、と凛は相づちを打つ。ただ暴力で君臨する悪人というわけではなさそうだ。
「そっかー。そんな人間なんだー」
 頷きながら千雪(CL2001638)が会話に加わってくる。ここに来た目的は八神という人物を見に来たのと胃袋を満たすことであり、八神と会話をしたいわけではない。七星剣の頭領がどんな人間かを見に来ただけだ。
「あ、刺身と天ぷら美味しいですよ」
「いただいています」
 言いながら『狂い咲き蝶々』に癪をする千雪。礼儀とばかりに答え、酒を飲む彼女を見て千雪は事務的な印象を受けた。八神に心酔しているというよりは、淡々と仕事をこなす感じだ。
(逆に言えばー、感情を押さえているって感じだよねー)
 私情を挟まず行動している。今この瞬間に八神が『よし、FiVEに協力するぞ!』と言い出せば、何も言わずに頷く。自分の感情よりも七星剣や八神を優先しそうなイメージだ。
「あのさ結局蝶々ちゃんはFiVEと一緒はどう思ってるの?」
 杯片手に絡むように零(CL2000669)は『狂い咲き蝶々』に話しかける。
「私の意見は――」
「『八神様と同じです』なんてお仕事の答えじゃなくて、私が聞きたいのはアナタの心のなか」
 彼女の答えを遮るように零が口を挟む。一本取った、と笑みを浮かべて零は言葉を続ける。
「私ね。七星剣に拾われてなかったら野垂れ死んでいたから。七星剣に多少は恩義くらい感じてる。
 でも同じようにFiVEにも恩義を感じているの。同じ故郷なのよ」
 元七星剣の零は二つの組織を知っている。それ故に両方に思い入れがあった。
「できるなら人間同士で争うのはバカバカしいと思うわ。でもまあ、FiVEの答えなんで聞かなくても分かるでしょ?」
 零の言葉に『狂い咲き蝶々』は肩をすくめる。
「で? さっきの質問の答えは?」
「先ほど鳴神様が答えられた通りです」
「だからそういう事じゃなく……ああ、『そういう』事か。女だねぇ」
 何かを察し、零はそれ以上の追及を止めた。女だから分かる事もある。
「胃痛が……皆なんであんなに肝っ玉座ってるのかなぁ?」
 八神から離れたところで奏空(CL2000955)はジュースを飲んでいた。敵対している七星剣の、しかもトップを相手にひるむことなく意見を飛ばしている。この宿を出れば――あるいは今この瞬間にでも――戦うかもしれない相手なのに。それを思うと胃が重くなる。
(幹部らしい人は来ていない……みたいだね。七星剣から来ているのはあの秘書さんぐらい?)
 周囲を警戒する奏空。七星剣の刺客が紛れ込んでいるのでは、と警戒するがその様子はない。不意打ち闇討ちだまし討ち。それが常套手段の隔者組織であり七星剣だが、この宴に至っては何の仕掛けもない。
(もしかして――俺は差別していたのかも)
 彼らは法律的に悪人だ。それには違いない。だが――
(――ここの人達も、覚者として差別や暴力の過去があったのかもしれない)
 意見を飛ばす仲間とそれに答える八神。それは善悪で相対する者同士にはとても見えなかった。


「はぁ!」
「よっしゃこい!」
 旅館の庭で遥(CL2000227)と八神が殴り合っていた。殴り合う、と言っても本気の殴り合いではない。事の起こりは数分前――
「鹿ノ島遥! 空手の形を演武します!」
 芸とばかりに遥は庭で空手の演武をしていた。一通りの演武が終わってから拳を握って、
「八神さんもなんか見せてくださいよ! なんか得意なやつ!! あるいはオレとスパー!」
「いいねぇ。ちっともんでやるか」
 酒の余興だ、と八神が遥の誘いに乗ったのだ。
「流石強いなぁ! ワクワクしてきた!」
 拳をかわしながら遥は八神のことを考えていた。隔者の親玉ではあるが、邪悪と言う程ではない。強いて言えば力のある者が我を通し、周囲を巻き込んでいくタイプなのだろう。
(何言っても止まるこた無いんだろうし、いつかは決着つけなきゃなんないのは間違いないな。そしたら、真正面からガチンコだな!)
 そして交流試合ともいえる演舞も終わり、八神が座布団に座ると同時に一悟(CL2000076)がその前に座る。持っていた牛乳を一気に飲む。
「オレ、酒の飲めねぇから。これで勘弁」
「いい飲みっぷりだったぜ。将来が楽しみだ」
 言いながら八神も一悟の目を見る。犯罪王ともいえる八神の瞳を受けながら一悟はゆっくりと口を動かした。
「オレ個人は大妖を1日でも早く倒せるなら七星と組んでもいいと思ってる。
 悪と組むと世間体が、なんていう奴もいるがそんなのは大妖の恐怖の前じゃささいなことだろ? 大妖ぶっ飛ばしたら、あとは人間同士でケリつけりゃいいだけさ」
「一理あるな」
「でさ……八神さん、大妖たちをどう倒す気だ? オレ、FiVEに入って2年になるけど、まだ奴らの居場所もなにもわかっちゃいねぇ。七星剣は何かを掴んでいるのか?」
「大妖の場所に関しては掴んでいない」
 酒を口にしながら八神はあっさりと答える。
「まさか、考えなしに発現者がたくさん集まれば何とかなるなんて言うんじゃないよな?」
「それこそまさかだ。発現した人間が集まっても戦力にはなるが、それだけだ。
 だがこの国の人間が一致団結する必要はある。覚者だ一般人だといがみ合ってる現状は大妖に対抗する以前の問題だ」
「成程、一理あります。全ての人間の意識を大妖を倒すことに集中させることは重要です」
 八神の言葉に成(CL2000538)が頷いた。集団戦において足並みをそろえるというのは重要であり、古今東西これを怠った軍隊は存在しない。国防であれ利益であれ、命を懸ける以上は表向きの戦う理由は統一せねばならない。
「ご提案にありました『FiVE.は全員七星剣の配下に入る』ですが……私はこの案、いい線を行っていると思うのですよ。個人的な意見を言うなら、呑んでも良い条件だ」
 笑顔を崩さず成は先に出した八神の提案に頷く。この国の人間を護る、という意味において被害や戦力的にも七星剣と手を結ぶことは悪いアイデアではない。少なくとも七星剣は人を皆殺しにはしないだろう。……七星剣に従っている限りは。
「勿論、逆でもいい。七星剣の人間ががFiVEに下っても。
 小競り合いをり返すのも時間の無駄です。七星剣とFiVE、どちらが傘下に入るか決戦の結果で決める、というのはいかがですか」
「面白いな。確かに余計な疲弊はなくていい」
 成の意見に首肯する八神。――だがこれはあくまで八神個人の言葉だ。効率的だからと言って、組織全員がはいそうですかと皆が納得できるものではないのは成とてわかっている。
「ごめん、これあんまりおいしくないね」
 眉をひそめてプリンス(CL2000942)が箸を置く。気分的に酔える気分ではない。接待してくれると聞いてやってきたのだが、これではこっちが接待しているようなものではないか。そんな気持ちがプリンスの心中で渦巻いていた。黙々と瓶を開けながら、ふと目があった八神に問いかけた。
「例えば余達が組んで、貴公が王になったとして。その時ニポンは、どんな国になるの?」
「人を襲うモノがいない以外はさほど今と変わりはしないだろうよ。この力があろうがなかろうが問題は生まれ、犯罪は起きる。大妖を倒して問題が全て解決するなどありえないさ。
 表向きの治安や国を守る役割をお前達がやって、こっちは問題を裏からわからないようにコントロールするあたりか」
 プリンスの問いかけに、ため息交じりに答える八神。
 王として国を支配するのではなく、ギャングとして裏から国をコントロールする。よく言えば必要悪に徹し、悪く言えば傀儡の立場となる。どうあれまともな『王』ではない。
(名声欲が強いわけではなく、支配欲が強いタイプかな。どういう形であれ『国を獲った』という立場を求め、その為に大妖を倒したいって感じか)
 プリンスは八神を冷静に分析していた。王にもさまざまな種類がいる。血族で支配する王、称号としての王、権威としての王、偉業を成し遂げた王、頂点に立つ王、暗愚な王……。
 王族の目から見て八神はどう評価されたのだろうか。その答えを隠すように、プリンスはグラスに酒を注いで一気に飲み込んだ。


 FiVEと七星剣。相対する発現者組織の宴は終わりを告げる。
 FiVEの覚者達は七星剣の首魁という人のなりを知り、八神はFiVEという組織の懐を知る。あくまで個人レベルでの話の為、それがすぐに影響するわけではない。
 八神勇雄は言った。『大妖及び古妖を押しのけ、七星剣が日本を支配する』のが目的だと。
 それは裏を返せば、七星剣の支配に反する者もまた討ち滅ぼす対象なのだ。
 
 幕間の宴が終わる。
 次出会う時は本幕。互いの主張をかけた戦場だ――


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです