隔絶する者たち
隔絶する者たち



 拘束衣を着せられ、なおかつ台車に縛り付けられている。
 そんな状態で少年は今、戦場へと運ばれているのだ。
 人ではない、物の扱いだ、と西村貢は思った。
 自分たち覚者が、世間から人ではないものとして見られるのは、まあ仕方がない。
 自分たち覚者が、同じ覚者を、こんなふうに人ではないものとして扱うのか。
 立てたベッドのような台車を、共に押し歩いている青年に、貢は声をかけた。
「吉江さん……」
「言うなよ西村君。彼が本気で暴れ出したら、僕たち3人がかりでも止めるのは難しい」
 吉江博文が、拘束されている少年を見やって言う。
「それに彼はね、一般の人々にも危害を加える可能性がある。自由に行動させるわけには、いかないんだ」
「あんた……イレブンの人たちを、まだ許せないのか?」
 貢は問いかけた。
 拘束マスクの下で、その少年は何も答えない。
 吉江と貢、2人がかりで押され運ばれながら、無言で眼光を燃やしている。
 拘束衣の中で、強靭な筋肉が禍々しく息づいているのがわかる。
 貢は、なおも言った。
「……軽々しく聞いちゃいけない事だってのは、わかるよ。許していいのかどうかわからない連中なら、俺にだっている。だけど」
「そこまでにしておけ西村」
 先導するように歩いていた村井清正が、立ち止まりながら言った。
「……現場だ。仕事をするぞ」
 ファイヴの仕事が、そこにあった。
 都内の交差点である。人通りも、車の通りもない。交通規制が、しっかりと機能している。
 日本政府によるバックアップが、こういうところでも活きてくる。
 あとは覚者各々が、現場で仕事をするのみであった。
 車、建物、アスファルトやコンクリート……様々なものの残骸が集合・融合して、身長3メートルほどの人型を成している。
 そんな怪物が6体、路面に亀裂を広げながらのしのしと歩行し、破壊と殺戮の対象を探し求めているのだ。
 妖、物質系。
 その巨体が6つとも、こちらを向いた。覚者4名が、殺戮の対象として認識されたのだ。
 火行械の村井清正、木行獣の吉江博文、水行翼の西村貢。そして、あと1名。
「やれるな? 五樹影虎」
「……さあ、どっちを殺ろうか。妖どもか、あんたらか」
 ようやく言葉を発した少年の身体から、貢と吉江が手早く拘束衣を引き剥がす。
「いいのかよ? 俺を自由にしちまって」
「貴様はな、この場では妖と戦うしかないのだ」
 村井が言った。
 巨大な妖が6体、猛然と地響きを立て、突進して来る。
「……くそったれが」
 火行彩・五樹影虎が、拳に浮かぶ紋章を燃え上がらせた。瓦礫の巨人たちを見据えながらだ。
「妖を相手に、大いに八つ当たりをするといい」
 並んで身構えた吉江が、言葉と共に牙を剥く。
「暴れ足りなかったら、僕が八つ当たりの相手になる。戦いの後で、ね……僕は、元イレブンだ。君の憎しみは全て受けるよ」
「駄目だよ。させるわけないだろう、そんな事」
 言いながら、貢は翼を広げた。
 村井が、鋼の拳を赤熱させる。
「何度でも言おう。五樹よ、貴様は戦うしかないのだ」


 凄まじい戦いだった。
 七星剣隔者・天行獣の結城広重は、素直にそう思うしかなかった。
 その凄まじい戦いを偶然こうして発見する事が出来たのは、幸運である。
 戦いの結果、瓦礫の巨人が6体とも崩れ斃れ、覚者4人が力尽きて上手い具合に意識を失ってくれたのも、この上ない僥倖だ。
 村井清正、吉江博文、西村貢、そして五樹影虎。
 死体寸前の有り様で横たわる4名を、結城は部下たちと共に取り囲んでいた。
「……とどめを刺した方が良くはありませんか、隊長」
「馬鹿を言うな。こやつらはな、何としても七星剣に迎え入れねばならぬ人材よ」
「ファイヴの覚者が、果たして大人しく我々に与するでしょうか?」
「この4名ならば」
 結城は語った。
「まず、この西村貢だ。発現と同時に迫害を受けた、まあ最もわかりやすい例ではある。そして我ら発現者、迫害の記憶をそう簡単に消し去る事など出来はせん。一般人どもに対する憎しみが、こやつの心には間違いなく根付いている。説得は容易い。続いて吉江博文だが、こやつは元・破綻者よ。力への渇望を、まだ失ってはおるまい。上手くすれば、より強力な破綻者となってファイヴの覚者どもを虐殺してくれる。それは村井清正とて同様……この男は元AAA、誰よりも大妖に蹂躙されてきた。特に、あのヨルナキに対する恐怖心は拭い難く残っておるはず。それを増幅し、煽り立ててやれば、恐怖のあまり殺戮の止まらぬ最強の狂戦士となるであろう。そして、この五樹影虎。こやつの兄は、イレブンに殺された……妖よりも、我ら隔者よりも、だからこやつは憤怒者を憎んでいる。やりたい放題をやらかした挙げ句のうのうと一般社会に逃げ込んだ者どもを、こやつは決して許しはすまい」
 語りながら、結城は笑った。
「ファイヴにあって、最も我らの側に近い覚者が、この4名よ」 


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:小湊拓也
■成功条件
1.隔者9人の撃破(生死不問)
2.なし
3.なし
 お世話になっております。ST小湊拓也です。

 今回の敵は、七星剣の隔者9名。
 妖との戦いで力を使い果たし、意識を失ったファイヴの覚者4人(村井清正、吉江博文、西村貢、五樹影虎)が、彼らに拉致されようとしているところが状況開始となります。

 場所は都内の交差点。時間帯は昼。政府による交通規制がまだ機能しているので、人通りはありません。

 倒れている覚者4人と、皆様との間に、七星剣の9名が布陣しております。
 七星剣の目的は村井以下4名を味方に引き入れる事ですので、動けぬ彼らを積極的に殺傷しようとはしませんが、皆様との戦いで人質に取る事は考えられます。

 最低1名どなたかが村井たち4人の護衛について下されば、とりあえず彼らが人質に取られる事態は防ぐ事が出来ます。その場合、4人の近くまで1ターンかけて「移動」していただく事になります。

 万が一、4人が人質に取られた場合。隔者たちは皆様に、七星剣の軍門に降るよう求めてきます。
 その際の受け答えや対策を、プレイングに記述していただければ出来る限り活かします。記述がない場合は小湊が勝手に展開を作ります。

 村井たち4人は完全に力を使い果たした状態で、術式で体力を回復する事は可能ですが、戦闘に参加させる事は出来ません。展開次第では彼らの中から犠牲者が出るかも知れませんが、まあ出来るだけ助けてあげて下さい。

 隔者9名の内訳・詳細は以下の通り。

●結城広重
 男、34歳。天行獣の辰。武器は鎖鎌で、使用スキルは『猛の一撃』『雷獣』。中衛中央。

●火行翼(2人)
 中衛左右。武器は槍で、使用スキルは『エアブリット』『豪炎撃』。

●土行暦(3人)
 前衛。武器は日本刀で、使用スキルは『錬覇法』『疾風双斬』。

●水行現(3人)
 後衛。武器は弓矢で、使用スキルは『B.O.T.』『潤しの雨』。

 それでは、よろしくお願い申し上げます。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
8日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2018年02月09日

■メイン参加者 6人■

『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『影を断つ刃』
御影・きせき(CL2001110)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)


 村井清正、吉江博文、西村貢、五樹影虎。
 力尽きて倒れ、意識を失っている覚者4名の有様に、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬翔(CL2000063)は憤慨した。
「大怪我したばっかの3人に、こんな危険な仕事させて……しかも影虎まで無理矢理、引っ張り出して! 一体誰の指図だ、中さんか!? オレはぜってー許さねえぞ!」
「オマエはどうだ、成瀬」
 口調鋭く問いを投げてきたのは、『歪を見る眼』葦原赤貴(CL2001019)である。
「負傷し、とりあえず身体が動く程度には回復した。そこで妖が出現した。倒さなければ人死にが出る。手が空いている覚者もいない……そんな時オマエは、絶対安静で大人しく寝ていられるのか」
「……大人しく寝てらんねーのは、お前も同じだろ」
 答えつつ、翔は睨み据えた。
 意識のない覚者4名を、今まさに拉致せんとしている男たちを。
 七星剣の戦闘部隊。9名もの隔者。
 翔は、怒声を投げかけた。
「おい待て! オレの友達に手は出させねーぞ!」
「……来たか、ファイヴ」
 隔者9人の指揮官である天行獣・結城広重が、こちらを向いて無遠慮に人数を数える。
「6人か。手練れの覚者を、これで10人……いくらか死なせたとしても最悪、3人か4人は確保出来るだろう」
「……驚いたね。まさか私たちまで、七星剣に勧誘しようとでも?」
 言葉と共に『ニュクスの羽風』如月彩吹(CL2001525)が、前衛の位置に進み出る。
「七星剣も、人手不足が深刻化しているようだね。なりふり構わず、人さらいまでして人材確保に奔走する……痛々しくて見てられないから、引導を渡してあげるよ」
「見ていられないのは我らとて同じ事。お前たちは何故、己が怪物であるという現実を受け入れようとしないのだ」
 結城が言った。
「破れかけた人間の皮を、お前たちは頑なに被り続けている。破けた部分から所々、おぞましい怪物の姿が垣間見えていると言うのにな。そんな姿を晒しながら、お前たちは自分が人間であるなどと涙ながらに訴えている……どれだけ醜悪で滑稽で哀れな様であるか、考えた事はないのか? 脱ぎ捨ててしまえ、そのようなもの。七星剣へ来い。そして何1つ恥じる事なく、怪物として生きるのだ」
「…………お見事。私たちに、真っ正面から喧嘩を売ってくれたね」
「買った。お釣りはいらねーよ、全部とっとけ」
「まあまあ落ち着いて、いぶちゃんも相棒も」
 翼を広げ、術式の煌めきを撒き散らしながら『天を舞う雷電の鳳』麻弓紡(CL2000623)が微笑んだ。
「落ち着いて冷静に、的確に、容赦なくボコり尽くてあげよう……ボクもね、今の発言ちょおっと許せないかなあ」
 キラキラと舞い散る術式の光が、覚者6名を包み込む。大祝詞・戦風であった。
 戦風に吹かれた『影を断つ刃』御影きせき(CL2001110)が、彩吹と並んで前衛に立つ。
「もちろん許してもらおうなんて気はないよね? だから、お話はここまで……さあゲームスタートだよっ」
 アスファルトが砕け、大量の緑色と、そして蓬の芳香が噴出した。
 蔓植物の群れが、覚者6名を蓬の香気で包み込みながら、七星剣の9人には容赦のない捕縛蔓となって襲いかかり絡み付く。
 蔓に拘束された隔者たちを見据え、翔と紡が印を結ぶ。
「派手にやろうぜ、紡!」
「ほいよー。龍鳳の舞、バリバリッとね」
 雷鳴が轟き、電光が乱舞しながら龍と鳳凰を形作り、隔者9名を薙ぎ払う。
 稲妻の牙、雷の翼と嘴。荒れ狂うそれらに合わせて彩吹が羽ばたき、跳躍した。
「頑張ったね、貢……今、助けてあげるよ」
 火行の因子が、彼女の中で燃え盛る。天駆だった。
 燃え盛る流星そのものの高速を得た彩吹が、爆刃想脚で隔者たちに激突してゆく。
 電光の龍、雷の不死鳥、炎の流星。
 それらに半ば蹴散らされ、恐慌に陥っている七星剣戦闘部隊の真っただ中を、赤貴が疾駆した。
 恐慌状態の隔者たちの中、結城1人がそれに対応する。
「……なるほど、見事な陽動だ」
 鎖鎌を一閃させながら、結城は笑った。
 絡み付く捕縛蔓を、鎌が切断する。鎖分銅が、赤貴を襲う。
「派手な攻撃で我らの注意を引きつけ、貴様1人が要救助者の護衛に向かう……良い手だが、気付かれないと思うのは甘いな」
 襲い来る分銅を、赤貴は沙門叢雲で受け止めた。両刃の刀身に、鎖が巻き付いてゆく。
 その鎖を引っ張り合う体勢で赤貴と睨み合いながら、結城はなおも言う。
「我らとて、その4名を渡すわけにはゆかぬ……お前たち、そやつらの身柄を確保せよ。人質に取れ」
 命令を受けた隔者数名が、捕縛蔓を引きずるようにして動きながら、村井たち4人の方へと向かう。
 それを妨害する形に、大量の水が噴出し、渦を巻きながら龍を形作り、牙を剥いた。
「動けない覚者を人質に取る……悪くない手だけど、気付かれないと思うのは甘いよ」
 村井、吉江、貢、影虎。その4名をまとめて背後に庇う格好で『秘心伝心』鈴白秋人(CL2000565)は、すでにそこにいた。水の龍を、従えてだ。
「キミたち七星剣のやり方は熟知している。いい加減、付き合いも長いからね」
「貴様……」
「うんざりするような付き合いも、そろそろ終わりにさせてもらう……!」
 言葉と共に、赤貴の両眼が真紅に輝いた。錬覇法・改の発動だった。
「聞いているぞ。八神勇雄が、自ら動き始めているのだろう?」
 沙門叢雲が一閃し、絡み付く鎖を切断する。
「キサマら七星剣の、息の根を止める時が……近付いている、という事だ」


 五樹影清は、優秀な覚者ではなかった。
 足を引っ張られている、と感じた事も、ないわけではない。
 自分は覚者には向いていないのではないか。そんな悩みを、打ち明けられた事もある。
 ありきたりな慰めの言葉をかけてやる事しか、秋人には出来なかった。それでも影清は、律儀に感謝してくれたものだ。
 放ってはおけない。
 秋人にとって、木行暦の覚者・五樹影清とは、そのような青年であった。
 そんな影清が、イレブンの凶弾に斃れた。
 彼の弟が、復讐に走り、凶行に至らんとするのを、戦って止めた覚者たち。
 その1人である翔が、
「影虎たちに、近付けさせはしねーぜ!」
 カクセイパッドを掲げ、B.O.T.改を発射した。
 光の矢が、結城広重を含む隔者3名を貫通する。
「お前たちは……怪物として生きるべき者どもに無理矢理、綻びかけた人間の皮を着せ被せようと言うのか……」
 結城が血を吐き、言葉を吐き、そしてガス状の黒いものを吐き出した。黒雲だった。
「怪物どもに、人間の振る舞いをさせようと言うのか! 猿芝居にしかならんのが何故わからぬ!」
 その黒雲が、雷鳴を発し、稲妻をぶちまける。
 術式による落雷が、秋人それに赤貴を直撃する。
 相打ちの形に秋人は、水の龍を飛翔させていた。水龍牙が隔者たちを薙ぎ払い、水飛沫と鮮血が散った。
「猿芝居……人間じゃない生き物が、必死になって人間の真似事をしている。キミたちには、そんなふうにしか見えないんだね。俺たちの姿が」
 言いつつ秋人は電熱に灼かれ、よろめき、踏みとどまった。蓬の芳香が、電撃の痺れを消してくれる。
「結構、それなら意地でも猿芝居を続けさせてもらうよ。目障りなら、やめさせてみるといい。力尽くでね」
「オレたちが猿ならば、キサマらは虫ケラだ七星剣……この世を蝕む寄生虫ども」
 絡み付く電光を、蓬の芳香で消滅させながら、赤貴が踏み込んで行く。
「因子発現者への差別迫害は何故、起こる……憤怒者は何故、生まれた? 全ては……」
 沙門叢雲が、地烈の形に一閃し、隔者数名を斬り散らした。
「……キサマらが引き起こした事だ、隔者ども!」
 憤怒者の組織……イレブンが、血を流す事なく消滅した。それに対する覚者たちの思いは、様々である。
 歓迎し、受け入れている者ばかりではない。例えば、そこに倒れている五樹影虎のように、憎悪を燃やす覚者もいる。
「キミはどうかな、葦原君」
 隔者たちの反撃のエアブリットを、まともに喰らい、のけ反って耐えながら、秋人は訊いてみた。
「憤怒者という人々を……もう、許せるかい?」
「……イレブンの発生は、隔者という明確な社会害悪に対する自衛の必要性から起こったものだ。自衛のための組織に、罪はない」
 隔者の1人が槍で繰り出して来た豪炎撃を、同じく喰らって耐えながら、赤貴が答える。
 こんなふうに理論立てて自身を納得させなければならないようでは、まだまだだろうと秋人は思う。赤貴の心にはまだ、憤怒者という人々に対し、わだかまっている何かがある。
 それを抑え込んで、この少年は戦っているのだ。
「……アンタの考えている事はわかるぞ、鈴白先生」
 じろり、と赤貴が三白眼を向けてくる。
「人を許すには忍耐が必要だ、と授業で言っていたのはアンタだ。忍耐だけなら、オレはいくらでもしてやる」
「負傷の痛みまで、耐え忍ぶ事はないよ」
 秋人は弓を引き、水行術式を天空に向かって射出した。
 癒しの力が『潤しの雨』となって降り注ぐ。影虎たち4名を含む、この場の覚者全員に。
(キミたちを助けるよ。七星剣に、渡したりはしない……俺のエゴだけど、ね)
 弟を頼む、などと影清から言われているわけではないのだ。


 きせきが、よろめいて身を折り、血を吐いた。
 少年の細身を貫通したB.O.T.が、まっすぐに向かって来る。
 紡は、左右の翼に包まった。その防御の上から、B.O.T.が激突する。
 光の矢は砕け散ったが、紡の体内のどこかも破裂した。
 きせきと同じく血を吐きながら、紡は翼を広げ、癒しの力をキラキラと拡散させた。
 潤しの雨だった。
 術式による治療を得たきせきが、吐血の汚れを拭いながら微笑む。
「ありがとう……助かるよ、紡さん!」
 妖刀・不知火を元気良く振りかざし、踏み込んで行く少年。見送りながら、紡は思う。
 怪我人を無理矢理、立ち上がらせて戦場に送り込む。自分のしている事は、まさにそれではないのか。
 病み上がりに等しい覚者たちを容赦なく実戦に放り込む、ファイヴ上層部のやり方と、どこが違うと言うのか。
(アタリマンの事、悪く言えないのかも知れないね……だけどっ)
「ここ最近の、七星剣のやり口……どうも気に入らないね。正面から私らを潰しに来るならともかく、こんな火事場泥棒みたいな事!」
 彩吹が、小さな火蜥蜴の群れをばらまきながら踏み込み、七星剣前衛に『鎧通し』を直撃させる。
「そうそう。ゲームは正々堂々、フェアなプレイじゃないとねっ」
 きせきの細い身体が、低い姿勢のまま高速捻転した。まるで独楽のように。
 その独楽が、隔者たちの前衛を斬り散らしてゆく。
 嵐のような、地烈の連撃だった。
「これはゲームだからね、殺しはしないよ! ゲームから下りたいって人は、武器を捨てて早めに降参するように!」
「オレたちはな、お前ら隔者って連中も……死なせたくねーんだ。一緒に大妖と戦おうって気に、何でなれねえ!」
 翔が叫び、雷獣を放つ。電光の嵐が、隔者たちを灼き払う。
「……まったく、こんな連中ばかりだ。隔者どもに、是が非でも希望を見出そうとする」
 呻きながら赤貴もまた、地烈を繰り出していた。
「だがオレは違うぞ。人間社会と敵対しながら、ある部分では社会に依存し、利益を貪っている……それがキサマら隔者だ、妖以下のおぞましい寄生虫ども!」
「……荒れているな、小僧」
 結城の鎌が、赤貴の沙門叢雲と激突し、交わり噛み合った。
「本来イレブンに叩きつけるはずであった憎しみを、我々に向ける……か。良かろう。八神首魁はな、世のあらゆる負の感情を全て受け止める御方だ。貴様も甘えると良い」
「何を言っている……」
「七星剣に入れ葦原赤責! お前は憤怒者という者どもを、本当には許しておらぬ!」
 結城の体当たりが、赤貴の身体を吹っ飛ばした。猛の一撃だった。
 吹っ飛んだ赤貴が、地面に激突し、受け身を取って一転し、即座に立ち上がる。そこへ結城が笑いかける。
「殺し尽くそうではないか、我らと共に」
「世迷い言を…………ッッ!」
 激昂した赤責が、怒りの反撃を繰り出す……よりも早く、結城の身体がズドッ! とへし曲がり倒れ込んだ。光の矢が、突き刺さっていた。
 秋人のB.O.T.改である。
「キミの言うとおり、なのだとしても……葦原君の、未来までは決めさせないよ」
「ふ……我ら、因子発現者の未来など……」
 苦しげに微笑みながら、結城が立ち上がる。
「怪物として、人間どもを喰らい尽くす……他に、何があると言うのだ」
「結城さん、だったよね。貴方にも何かあったんだと思う、色々と」
 きせきが言った。
「……それを、話してみようって気は? ちなみにね、僕にも色々あったよ」
「話してどうなる……ふん。我々に同情でもしてくれるのか」
「……お気軽に、話せるようにならなきゃいけないんだと思う。こういう事、本当はね」
 呟きながら、きせきは不知火をくるりと構え直し、切っ先を結城に向けた。
(……そう、だよね。みんな、色々あるに決まってる)
 紡は思う。
 七星剣には、彼らなりに追い求める未来があるのだ。そしてそれは、ファイヴの進む道とは決して相容れない未来だ。
 だから、戦うしかない。
 きせきも、だから戦いを放棄しようとはしない。
 翔が、いつの間にか傍にいた。
「色々あるもの全部……お気軽な笑い話に出来る、ようになればいいよな。紡」
「……そうだね、相棒」


「ひい……や、やめろ……やめてくれえぇ」
「ほら、駄目だよステーシー。村井さん失禁しちゃう」
 きせきの守護使役が、村井清正の身体をぽむぽむと踏みつけている。翔が、呆れている。
「犬嫌い、まだ治ってないのかよ……」
「まったく。こんなんで大妖と戦えるのかね、この先」
 西村貢が言った。
「ま、それはともかく……ありがとう、助けに来てくれて」
「七星剣に狙われるなんて、貢も大物だね」
「彩吹さん……笑いながら、何か怒ってない?」
「ふふっ……さて、どうかな」
 隔者たちは9人とも、辛うじて生きている。拘束され、赤貴に見張られている。
 戦いは終わったと言うのに、彩吹は笑いながら激怒していた。紡もだ。
「助かって良かったねえ村井っち! でね、ちょっと訊きたい事あるんだけど」
 にこにこ笑いながら紡が、柴犬のぬいぐるみを村井の顔面に押し付けている。
「影虎ちゃんを、物みたく台車に縛り付けて運ぶってどういう事? 自分がそうされたら、どう感じる? ねえ、ねえ」
「あばばばば……よ、ヨルナキがあぁ……」
「村井さんが死んじゃう!」
 きせきは悲鳴を上げ、翔は咳払いをした。
「でも確かにな、ちょっとひでーと思うぜ村井さん。影虎はオレらの仲間で、道具じゃねえ」
「……勝手に決めんな」
 五樹影虎が、声を発した。
「あとな、村井のおっさんをいじめねえでくれ。何だかんだで色々、世話んなっちまってるからよ。まあ……お前らにも、な」
「ごめん、勝手に決める。影虎は、もうオレらの友達だから。貢も、村井さんも……それに、吉江さんもな」
 翔が言うと、吉江博文が俯き加減に微笑んだ。
「……いいのか? 僕は元々、破綻者だったんだよ。力への渇望が、僕の中ではまだ渦巻いている」
「また破綻するような事があったら、オレらが止めるよ」
「……彼を止めたのも、君たちなんだね」
 吉江の目が、影虎の方を向いた。
「それなら知っているだろう。五樹君が、人ではなく危険な道具として扱われる理由……彼が一体、何をしようとしたのか」
「五樹影虎」
 赤貴が、言葉を投げた。
「憤怒者との和解は成った。事実であり、現実だ。キサマ1人の感情で、これを破壊するのは……隔者の行為にしかならん、とだけは言っておく。そしてオレは隔者どもを許してはおかん」
「ほう。許せねえなら、どうする」
「成瀬や御影が何と言おうと、オレはキサマを……」
「もう、やめなってば」
 きせきが割って入っても、赤貴と影虎は睨み合っている。
 そして村井は、泣きじゃくっている。
「ファイヴとしては当面……五樹影虎の監視と拘束を、解くわけにはいかんのだ……わかってくれ、とは言わん……言わんから、頼む……俺を、助けてくれえぇ……」
「ステーシーは、村井さんが気に入っちゃったみたいだねえ」
「なあ、きせき……それに紡も、そろそろ本当にやめてやらねーか。村井さん再起不能になっちまう」
 翔が言う。彩吹が、小さく溜め息をつく。
「貴方をぶん殴ってやろうかとも思ったよ村井さん。影虎を拘束して、無理矢理に戦場へ連れて来て、戦うしかないとか……だけどね、そう言いながら自分でも現場で戦っているだけ村井さんはまだマシだ。中司令に現場に出ろと言ってるわけじゃないけれど……」
 一瞬、空を睨んでから、彩吹は影虎に頭を下げた。
「本当にごめん……影虎が、こんな扱いを受けてるなんて」
「あんたとは、一番派手にブチのめし合ったよな」
 影虎が微笑んだ。
「……いいんだよ。俺は、ほっといたら何やらかすか自分でもわからねえ。だから」
「自分から道具に成り下がろうと言うのかい、影虎君」
 秋人が、厳しい教師の声を発した。
「キミがどう思おうが俺は、影清君の弟が物として扱われる事は許さない。覚者は、人間なんだ。それを忘れると、あんなふうになってしまう」
 拘束された結城たちを、秋人は一瞥した。
「キミは覚者として、人間として生きるんだ。道具として扱われるよりも、これは過酷な事だと思う」
「念願の……先公に、なれたんだな秋人さん。おめでとう、と言っておくぜ」
 影虎が、頭を掻いた。
「兄貴に……いろいろ親切にしてくれて、ありがとよ」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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