合神雷帝ヴァルトカイザー 第14話
●
竜矢と美由姫は、互いに告白をしながら手を取り合って死んだ。暗黒大帝と、生身の決戦で刺し違えたのだ。
大帝の死をもって、暗黒宇宙帝国との戦いは終幕を迎えた。だが帝国中枢の自爆装置起動を、止める事は出来なかった。
銀河系の半分を消滅させるであろう爆発を、人造生命兄妹のヘンゼルとグレーテルが、命を犠牲にして止めた。2人を自爆装置中枢部へと行かせるために、大吾郎も命を落とした。
1人、生き残った村雨剣司は、パイロット6名のうち5人を失ったヴァルトカイザーを駆って地球へ帰還し、そこでついに限界を迎える事となる。
「竜矢が、死んだぞ……俺ぁいつか、あの野郎の目の前で美由姫を奪ってやるつもりだったのに……美由姫も、連れて行っちまいやがってよ……」
ヴァルトカイザーの拳が、地球圏連合軍の戦闘兵器をことごとく粉砕してゆく。
「糞餓鬼ヘンゼルも、グレーテル嬢ちゃんも死んじまった……頑丈なだけが取り柄の、大吾郎のバカもなあ……」
今のヴァルトカイザーは、満身創痍である。装甲はひび割れ、必殺武器は使い果たした。
それでも、腑抜けしかいない地球圏連合軍を壊滅させるのは容易い。
暗黒宇宙帝国のメタルモンスターと比べればブリキ人形も同然の戦闘兵器群を、拳と手刀と歩行だけで叩き潰しながら、満身創痍のヴァルトカイザーは街を進む。ビルを崩壊させ、道路を踏み砕き、都市を破壊してゆく。
悲鳴を上げ、逃げ惑う人々に、剣司はコックピット内で語りかけていた。
「教えろよ……あいつら、何のために死んだ……?」
地球人類は、何も変わらなかった。
暗黒宇宙帝国の侵攻という未曽有の危機を経験しながらも教訓を得る事なく、戦争と腐敗と自然破壊を繰り返している。人間社会は歪んだままで、大人も子供も弱者を見つけて虐げる事だけを考えている。
「竜矢も、美由姫も……大吾郎も、あのクールぶった試験管ベイビーの兄妹もよ……てめえらゴミどもを守るために、死んだってのか? 面白え冗談だが……笑えねえなあ……ッッ!」
メインパイロットの如月竜矢はもはや亡く、剣司1人の力ではヴァルトカイザーの性能を100パーセント以上、発揮させる事は出来ない。
それでも、腐りきった地球人類を滅ぼすなど容易い事だ。
●
こうして『合神雷帝ヴァルトカイザー』は1クール全13話を全うし、大いに物議を醸した。
ロボットアニメでやるべきではない脚本、インパクトだけを狙った安直なバッドエンド、などという意見もある。
そういう事を言う連中は何もわかっていない、と僕は思う。
巨大ロボットとは、すなわち暴力なのだ。
敵を倒し終えたら、あとはもう街を破壊するしかないではないか。
正義の守護神であるはずの巨大ロボットが、都市を破壊・蹂躙して人間どもを踏み潰す。
ロボアニメ者であれば誰もが夢見る妄想を見事、描ききってくれたヴァルトカイザー全13話は、聖典としてアニメ史に残すべき作品だ。十把一絡げの萌え系ロボットアニメ群に埋もれさせてはならない。
僕は、血を吐いた。
だいぶ前から身体を壊しているが、病院に行った事はない。健康保険税など払っていない。
家賃も払っていないが、このアパートを追い出される前にどうやら、この世から追い出される事になりそうだ。
ヴァルトカイザーの作品世界と同じく、ゴミのような連中しかいない世の中である。未練はないが、恨みはある。滅ぼしてやりたい、と思う。
それをやってくれそうな人々が、かつていた。あの覚者という連中だ。
化け物と戦い続ける彼ら彼女らの力は、まさに合体巨大ロボットの暴力そのものだった。
無理解な一般衆愚を、覚者たちが怒りにまかせて殺し尽くす。そんな展開を僕は大いに期待し、何度も夢に見た。
あの演説で、その夢は絶たれた。
十把一絡げなアニメヒーローどもと同じく覚者たちは、衆愚との和解の道を選んでしまったのだ。
絶望が、僕の病状を悪化させた。
もう1度、血を吐いた。吐血の飛沫が、ヴァルトカイザーの全身を汚した。
DVD-BOX特別限定版購入特典、ヴァルトカイザー合体変形完全再現アクションフィギュア。僕はこれのために家賃を滞納し、食費も削りまくった。命を削って、手に入れたのだ。
これから死んでゆく僕の、生まれ変わりであると言ってもいい。
意識が、視界が、ぼやけてゆく。耳も遠くなってゆく。
だが、僕には聞こえた。ヴァルトカイザーが6体のカイザーマシンに分離し飛び立って行く轟音と、発進BGM『合神雷帝、出撃せよ!』の勇壮なる調べが。
僕には見えた。ヴァルコマンダーが、ヴァルタンクが、ヴァルビーストとヴァルブラストが、ヴァルウォーリアとヴァルナースが、この薄汚いアパートを破壊しながら巨大化し、腐りきった世界を滅ぼすために出撃して行く光景が。
崩落した天井に押し潰されながら、僕はじっとそれを見送り、最後の呟きを漏らしていた。
「行け……ヴァルトカイザー……」
竜矢と美由姫は、互いに告白をしながら手を取り合って死んだ。暗黒大帝と、生身の決戦で刺し違えたのだ。
大帝の死をもって、暗黒宇宙帝国との戦いは終幕を迎えた。だが帝国中枢の自爆装置起動を、止める事は出来なかった。
銀河系の半分を消滅させるであろう爆発を、人造生命兄妹のヘンゼルとグレーテルが、命を犠牲にして止めた。2人を自爆装置中枢部へと行かせるために、大吾郎も命を落とした。
1人、生き残った村雨剣司は、パイロット6名のうち5人を失ったヴァルトカイザーを駆って地球へ帰還し、そこでついに限界を迎える事となる。
「竜矢が、死んだぞ……俺ぁいつか、あの野郎の目の前で美由姫を奪ってやるつもりだったのに……美由姫も、連れて行っちまいやがってよ……」
ヴァルトカイザーの拳が、地球圏連合軍の戦闘兵器をことごとく粉砕してゆく。
「糞餓鬼ヘンゼルも、グレーテル嬢ちゃんも死んじまった……頑丈なだけが取り柄の、大吾郎のバカもなあ……」
今のヴァルトカイザーは、満身創痍である。装甲はひび割れ、必殺武器は使い果たした。
それでも、腑抜けしかいない地球圏連合軍を壊滅させるのは容易い。
暗黒宇宙帝国のメタルモンスターと比べればブリキ人形も同然の戦闘兵器群を、拳と手刀と歩行だけで叩き潰しながら、満身創痍のヴァルトカイザーは街を進む。ビルを崩壊させ、道路を踏み砕き、都市を破壊してゆく。
悲鳴を上げ、逃げ惑う人々に、剣司はコックピット内で語りかけていた。
「教えろよ……あいつら、何のために死んだ……?」
地球人類は、何も変わらなかった。
暗黒宇宙帝国の侵攻という未曽有の危機を経験しながらも教訓を得る事なく、戦争と腐敗と自然破壊を繰り返している。人間社会は歪んだままで、大人も子供も弱者を見つけて虐げる事だけを考えている。
「竜矢も、美由姫も……大吾郎も、あのクールぶった試験管ベイビーの兄妹もよ……てめえらゴミどもを守るために、死んだってのか? 面白え冗談だが……笑えねえなあ……ッッ!」
メインパイロットの如月竜矢はもはや亡く、剣司1人の力ではヴァルトカイザーの性能を100パーセント以上、発揮させる事は出来ない。
それでも、腐りきった地球人類を滅ぼすなど容易い事だ。
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こうして『合神雷帝ヴァルトカイザー』は1クール全13話を全うし、大いに物議を醸した。
ロボットアニメでやるべきではない脚本、インパクトだけを狙った安直なバッドエンド、などという意見もある。
そういう事を言う連中は何もわかっていない、と僕は思う。
巨大ロボットとは、すなわち暴力なのだ。
敵を倒し終えたら、あとはもう街を破壊するしかないではないか。
正義の守護神であるはずの巨大ロボットが、都市を破壊・蹂躙して人間どもを踏み潰す。
ロボアニメ者であれば誰もが夢見る妄想を見事、描ききってくれたヴァルトカイザー全13話は、聖典としてアニメ史に残すべき作品だ。十把一絡げの萌え系ロボットアニメ群に埋もれさせてはならない。
僕は、血を吐いた。
だいぶ前から身体を壊しているが、病院に行った事はない。健康保険税など払っていない。
家賃も払っていないが、このアパートを追い出される前にどうやら、この世から追い出される事になりそうだ。
ヴァルトカイザーの作品世界と同じく、ゴミのような連中しかいない世の中である。未練はないが、恨みはある。滅ぼしてやりたい、と思う。
それをやってくれそうな人々が、かつていた。あの覚者という連中だ。
化け物と戦い続ける彼ら彼女らの力は、まさに合体巨大ロボットの暴力そのものだった。
無理解な一般衆愚を、覚者たちが怒りにまかせて殺し尽くす。そんな展開を僕は大いに期待し、何度も夢に見た。
あの演説で、その夢は絶たれた。
十把一絡げなアニメヒーローどもと同じく覚者たちは、衆愚との和解の道を選んでしまったのだ。
絶望が、僕の病状を悪化させた。
もう1度、血を吐いた。吐血の飛沫が、ヴァルトカイザーの全身を汚した。
DVD-BOX特別限定版購入特典、ヴァルトカイザー合体変形完全再現アクションフィギュア。僕はこれのために家賃を滞納し、食費も削りまくった。命を削って、手に入れたのだ。
これから死んでゆく僕の、生まれ変わりであると言ってもいい。
意識が、視界が、ぼやけてゆく。耳も遠くなってゆく。
だが、僕には聞こえた。ヴァルトカイザーが6体のカイザーマシンに分離し飛び立って行く轟音と、発進BGM『合神雷帝、出撃せよ!』の勇壮なる調べが。
僕には見えた。ヴァルコマンダーが、ヴァルタンクが、ヴァルビーストとヴァルブラストが、ヴァルウォーリアとヴァルナースが、この薄汚いアパートを破壊しながら巨大化し、腐りきった世界を滅ぼすために出撃して行く光景が。
崩落した天井に押し潰されながら、僕はじっとそれを見送り、最後の呟きを漏らしていた。
「行け……ヴァルトカイザー……」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の殲滅
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回の敵は、持ち主の死に際の怨念を宿して妖と化した合体ロボットフィギュア『合神雷帝ヴァルトカイザー』。まずは分離形態の6機と戦っていただく事となります。全て人間サイズに巨大化しており、これらが持ち主の部屋(都内アパート、2階中央の1室)を破壊しながら出現・着地したところが状況開始であります。
●ヴァルコマンダー
物質系ランク2、中衛中央。人型ロボットで、合体時はヴァルトカイザーの頭部・胸部・背部を形成する。攻撃手段はエナジースラッシュ(光剣による波動斬撃、特遠列)。
●ヴァルタンク
物質系ランク2、前衛中央。上半身人型、下半身キャタピラの戦車型ロボット。合体時はヴァルトカイザーの胴腹部・両大腿部となる。攻撃手段は突進格闘(物近単)。味方ガードも行う。
●ヴァルビースト
物質系ランク2、前衛右。獣人型ロボットで、ヴァルトカイザーの右腕。攻撃手段は鉤爪・牙を用いての格闘戦(物近単)。
●ヴァルブラスト
物質系ランク2、中衛右。人型ロボットで、ヴァルトカイザーの左腕。攻撃手段はエナジーキャノン(両肩の大砲、特遠単)。
●ヴァルウォーリア
物質系ランク2、前衛左。人型ロボットで、ヴァルトカイザーの右足。攻撃手段は、左右のトンファーによる格闘戦(物近単)。
●ヴァルナース
物質系ランク2、中衛左。女性体型の人型ロボットで、ヴァルトカイザーの左足。攻撃手段は格闘戦(物近単)。修理機能を有しており、味方単体に『潤しの滴』と同程度の回復をもたらす。
以上6体、2ターン目終了時点で欠落なく生存していた場合に限り、3ターン目開始時に合体してヴァルトカイザーとなります。(それまで与えたダメージ・BSは合体後も継続)いずれか1機でも破壊されていた場合(体力0となっていた場合)は合体しません。
●合神雷帝ヴァルトカイザー
物質系ランク3。頭頂高約5メートル(設定では50メートル)。攻撃手段は格闘戦(物近列)、カイザーバスター(左腕からの砲撃。特遠列)、雷帝剣(特近列)。雷帝剣・滅殺殲光斬(特遠全。最強必殺技で、1ターンかけてのポージング&パワー溜めが必要。その間は完全無防備)。
場所はアパート前の駐車場。時間帯は昼。
アパートは二階建てで、二階中央が屋根もろとも崩落し、大きく凹んだ形になっております。崩れた部屋の中では、オープニングの『僕』がすでに死亡していますが、今のところ他に人死には出ておりません。
アパートの住人や通行人もいますが妖はまず、眼前に立ち塞がる覚者の皆様を叩き潰そうとするでしょう。
それでは、よろしくお願い申し上げます。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2018年01月29日
2018年01月29日
■メイン参加者 6人■

●
覚者による、一般家屋への不法侵入行為であった。
「うわわ、なっ何だ何だ」
「はいごめんね。ちょっと外へ出て、そこらのコンビニででも時間潰しててもらえるかなー」
アパートの住人たちが片っ端から『天を舞う雷電の鳳』麻弓紡(CL2000623)によって無理矢理、引きずり出され、運び出されて行く。
野次馬が、道路の方からも集まって来る。やんわりと追い払っているのは『ニュクスの羽風』如月彩吹(CL2001525)であった。
「ほら逃げて逃げて。こいつらは本物の合体ロボット、お台場にあったのと違って動くし人も殺せるよ。そこ、スマホで撮ってる暇があったら早く逃げる!」
注目を浴びているのは、アパート前の広い駐車場に出現した、6体もの妖である。
人間サイズの、動くロボットフィギュア……分離状態にある『合神雷帝ヴァルトカイザー』だった。
ヴァルコマンダー、ヴァルタンク、ヴァルビースト、ヴァルブラスト、ヴァルウォーリア、ヴァルナース。
これら6機の、合体前の活躍。各機パイロットのキャラ立てと人物間ドラマ。1クールでこれらを全て描き切りながら無理なく最終決戦への道筋を整え、盛り上げるだけ盛り上げた挙げ句、あの最終話で全てを破壊してくれた脚本家の力量に、『刃に炎を、高貴に責務を』天堂フィオナ(CL2001421)は圧倒されたものだ。
「村雨剣司……貴方は一体、何を守りたかったんだ……?」
敵前衛右側で鉤爪を構えたヴァルビースト……村雨剣司の乗機を見据え、フィオナは呟いた。
「守るべきものを見失ってしまった、貴方のように……私も、ならないとは言い切れない。だけど」
聖剣ガラティーン・改を、フィオナは抜き放って構えた。
「それでも私は、騎士だ……騎士でなきゃ、いけないから!」
「気負うなよフィオナさん、なんてオレが言える事じゃないかもだけど」
13歳の少年から23歳の青年へと変貌・覚醒を遂げながら、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬翔(CL2000063)が傍に立った。
「とにかく、こいつらの注意を引きつけようぜ」
「……そうだな、避難が終わるまで!」
翔と2人でフィオナは、妖たちに向かって名乗りを上げた。
「天堂フィオナ! ファイヴの騎士だ! 人々は、私たちが護るぞ!」
「ファイヴ期待の星! ファイヴレッド翔、見参だぜ! お前らの相手はオレたちだ!」
どういうわけか、爆発が起こった。
「そっちが合体ロボなら、こっちは戦隊だ! そして戦隊にだってロボはいる。最強のプリンスロボ発進だぜ!」
「うーむ。番台とかが余のスポンサーになってくれればなあ」
「ね、ね。械付喪の人たちってぇ、変形とか合体とかしないのぉ?」
無邪気な声を発しているのは『ちみっこ』皐月奈南(CL2001483)である。
「何か、そういう術式!」
「合体変形を人体で再現するとグロ画像にしかならないんだよ姫君。モザイク入っちゃう」
1つ咳払いをしてから『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が、機化硬・改を発動させた。
「ま、それはともかく。遅れてごめんね、余が遊びに来たよ!」
「私は駄目出しをしに来たよ。あの最終回を現実でやらせるわけにはいかないからね」
彩吹が、プリンスそれに奈南と共に前衛に立った。
「だから脚本リテイク……そうだね、私たちが書き直すとしようか」
「こちとら鬱アニメの一挙放送に付き合わされたばっかりだからね。マンネリでもワンパターンでも、結局はハッピーエンドに勝るものはないって事、再認識しちゃったわけ」
紡が、優しく羽ばたいて『大祝詞・戦風』を吹かせながら着地する。
「大昔にね、ちょっとアレな感じの博士がいたの。その人は自分のお孫さんのために巨大ロボットを造って、言うわけよ。これがあれば神にも悪魔にもなれる、ってね……ロボアニメって本当、最初の頃から何か闇が深かったんだねえ」
●
1人の覚者が、隔者へと堕ちてゆく過程。
翔にとって『合神雷帝ヴァルトカイザー』とは、そのような物語であった。少なくとも全13話、最後まで見ようという気にさせてくれる作品であった事は否定出来ない。
「最後……あんたに踏み潰された人たちの中には絶対、ヴァルトカイザーに感謝してた人だっていたはずだ。巨大ロボになんか乗ってると、そんな事もわかんなくなっちまうのかよ」
力に目覚め、何もかもわからなくなって全てを蹂躙する。
因子発現者の、1つの姿を描いた作品でもあった。
「……反面教師ってやつに、させてもらうぜ村雨剣司。オレは、あんたのようにはならねーぞ」
実在しないアニメの登場人物に思わず語りかけながら、翔は印を結んだ。
光の投槍が2本、連続で迸った。B.O.T.改の連撃。
それらが、ヴァルタンクを貫通しつつヴァルコマンダーに突き刺さる。ヴァルトカイザーの頭部・胴体を成す2機が、血飛沫のようなスパークを飛散させた。
だが、タンクは何事もなくキャタピラを猛回転させ、突進して来る。コマンダーは光の剣を構えている。
「さすが頑丈だね……壊し甲斐が、ありそうだ」
彩吹が、自身に『天駆』を施しながら踏み込み、黒い羽根を舞い散らせる。すらりと綺麗な脚が、斬撃の如く一閃する。
鋭刃想脚が、ヴァルタンクを、ヴァルビースト及びヴァルウォーリアを、強烈に薙ぎ払っていた。
タンクがよろめき、突進を止めてしまう。だがビーストとウォーリアは、即座に反撃を繰り出して来た。
鉤爪が、トンファーが、立て続けにプリンスを直撃する。
「あいたたたたツム姫助けて! ニポンのオモチャが安全基準を満たしてくれないよ!」
鮮血と火花を飛び散らせながら悲鳴を上げるプリンス。
その左右から、フィオナと奈南が飛び出して行く。
「やるぞ、奈南!」
「はいよぉ、フィオナちゃん!」
炎をまとう聖剣ガラティーン改が、ヴァルビーストに突き刺さる。
熱圧縮した空気が爆発し、村雨剣司の乗機を激しくよろめかせた。
その間、奈南がホッケースティックを振るう。
躍動感溢れるフルスイングによって打ち飛ばされたのは、パックではなく閃光手榴弾である。
轟音と光の爆発が、妖6体を硬直させた。
「よしっ、今……殿、行っといで!」
紡が、杖の先端のスリングショットで術式を射出した。
潤しの滴が、プリンスを直撃する。
ずぶ濡れになりながらプリンスは回復し、よろめき、踏み込み、そして妖槌を振るった。
貫殺撃・改が、ヴァルビーストとヴァルブラストを一緒くたにグシャリとへし曲げる。
へし曲がったブラストが、しかし背部の2門砲を翔に向けていた。
「おっ……と……ッッ!」
迸ったエネルギー砲弾を、翔はまともに喰らっていた。
「翔ちゃん……あうっ」
奈南の悲鳴が聞こえる。
彼女、それにプリンスと彩吹が、ヴァルコマンダーの繰り出した光の斬撃に薙ぎ払われ、鮮血をしぶかせる。
辛うじて倒れず踏みとどまった奈南の細身が次の瞬間、吹っ飛んだ。
ヴァルタンクの突進が、彼女を轢き飛ばしていた。
「おいっ……奈南!」
「……平気だよっ」
翔に助け起こされながら奈南が、口元の血を拭い、気丈な言葉を発する。
「街の人たちを……こんなふうに、じゅーりんさせるワケにはいかないよぉ。だからナナンは立ち上がるのだ!」
「ああ……オレだって」
メインヒロイン菅野美由姫の乗機であるヴァルナースが、機械の繊手を精妙に動かしてヴァルビーストを修理している。
回復を受けたビーストが、ナースを庇うように鉤爪を構えた。
もちろん本当に村雨剣司が乗っているわけではない機体を、翔はじっと見据えた。
「わかってくれない人も大勢いるけど、わかってくれる人だって確実にいる……だからオレは諦めない! あんたにだって、諦めて欲しくなかったぜ……」
●
彩吹が跳躍すると、翔が合わせてきた。
「彩吹さん、オレ練習したぜー!」
「そう? じゃ一緒にやってみようか」
覚者2名による鋭刃想脚が、斬撃の嵐となって吹き荒れる。
タンク、ビースト、ウォーリア。妖たちの前衛3体がズタズタに斬り削られ、細かな金属片を飛び散らせた。
彩吹は舌を巻いた。後衛の術式要員とばかり思っていた翔が、気がつけば格闘戦をこなせるようになっている。
「私も、うかうかしてられないね……っと、いけない! 王子!」
「任せてブキ姫! 彼の攻撃は余が受け止めるよ」
鋭刃想脚の嵐に耐え抜いたヴァルビーストが、プリンスに襲いかかったところである。
鉤爪の一閃を受け、鮮血のような火花を飛ばしながらも、プリンスが貫殺撃・改で反撃をする。
声が、聞こえた。
「すげえ、覚者のバトルだぜ。俺1度ナマで見てみたかったんだぁ」
「見るだけじゃ済まさねー、撮って上げてアクセス稼ぐべ! これで俺らもYOUチューバー、働かねえで生きてくぜ〜」
見るからに浅はかそうな若者が2人、駐車場を覗き込んでスマートフォンをかざしている。
彩吹は怒鳴りつけた。
「こら何をやってる、ここに近付くな! 危険なのが見てわからないのか!」
「おおおお、テレビに出てた翼のお姉さんだぜ! まじ感動」
若者たちが浮かれている。
当てないようにエアブリットでも撃ち込んでやろうか、と彩吹は思ったが、その時にはヴァルウォーリアが動いていた。若者2人に向かって猛然と踏み込み、トンファーを振るおうとする。
彩吹が動く前に、奈南が叫んでいた。
「させないよぉッ!」
少女の気合いに合わせて雷獣結界が生じ、妖6体と覚者6名を包み込む。
若者2人は、結界の外だ。
彼らに襲いかかったヴァルウォーリアが、結界に激突し、よろめく。
よろめきながら、奈南の方を向く。そして結界の発生源である少女を叩き殺すべく、踏み込んでトンファーを振るう。
それを喰らったのは、フィオナだった。
奈南の眼前に飛び込んだ彼女の身体が、トンファーの一撃で痛々しくへし曲がる。
「フィオナちゃん……!」
奈南の声が、引きつり、かすれた。
若者2人は、逃げ去って行く。
フィオナは倒れ、血を吐き、声を発した。
「大丈夫……奈南が、一般の人を護る……その奈南を、私が護る……それでいいんだ」
「フィオナちゃんは、ナナンが守るよ……守らなきゃ、いけないのに……」
雷獣結界を維持したまま、奈南は声を震わせる。
「フィオナちゃんが、いっつもナナンの事……守ってくれるから……ナナンは思いっきり勇気リンリンで戦えるのだ……だけど、やだよぉこんなの……」
「大丈夫。守って守られての輪の中に、ボクもこうやって図々しく入り込んでくから」
紡が羽ばたき、潤しの雨を降らせた。
「ボクだって……守るよ、みんなを」
●
どこからか、勇壮なBGMが聞こえて来ているような気がした。
合体シークエンスが、堂々と時間をかけて眼前で展開されている、ように見えるのは錯覚である。本当は一瞬の出来事で、妨害をしている暇などありはしない。
(メタルモンスターたちも、こんな思いをしながら倒されていったのか……)
などとプリンスが思っている間に、合神雷帝ヴァルトカイザーは出現していた。
全身がひび割れ、あちこちからスパークが噴出している。まさしく最終話、満身創痍のまま都市を破壊するヴァルトカイザーそのままの姿である。
「倒す敵が、いなくなったから……お前は、あんな事をしてしまったんだね。私たちが強大な敵になってやる!」
彩吹が激しく羽ばたき、飛翔し、意志を持つ乱気流となってヴァルトカイザーにぶつかって行く。告死天使の舞。
それを翔が、地上から援護した。
「まずは、オレたちを踏み潰してみろ!」
砲撃型メタルモンスターの放つテラボルトレーザーにも似たB.O.T.改が、連続速射される。
別方向からフィオナが、奈南が、地を駆ける獣の速度で踏み込んで行く。
「ただし! 私たちは暗黒宇宙帝国よりも手強いぞ!」
「ナナンたちのね、無敵のコンビネーション! 悪の帝国なんて目じゃないよぉ!」
聖剣による『斬・二の構え』と、ホッケースティックによる『五織の彩』が、左右からヴァルトカイザーを襲う。
プリンスは正面から、貫殺撃・改で突っ込んだ。
「余は……第9話で貴公を大破寸前まで追い込んだ最強のメタルモンスター、ヘラクレスガイストだっ!」
それら全ての攻撃が、合神雷帝の巨体に命中はした。
どれほどの痛手を与えたのかは、わからない。
直後に、ヴァルトカイザーの反撃が来たからだ。
巨大な拳が、彩吹を叩き落とす。
地響きを伴う踏み込みが、奈南を蹴り飛ばし、そしてプリンスを踏み潰した。
己の体内で、肋骨と臓物が一緒くたに破裂する音を、プリンスは確かに聞いた。
そのまま体重をかけてプリンスを圧殺しようとはせず、ヴァルトカイザーはよろめいて足を浮かせた。
「霞舞……相変わらず、痛々しい相打ちにしか……ならないけどねっ」
墜落した彩吹が、血を吐きながら苦しげに微笑む。
「プリンスちゃん……大丈夫かなぁ?」
見た目より遥かに頑丈な奈南が、フィオナに支えられて立ち上がりながら気遣ってくれる。
「駄目だぁ……姫君たちが助け起こしてくれないと、余は生き返らない……」
「贅沢言ってんじゃねーよ。ほら起きろ王子」
翔が、潰れかけたプリンスを引きずって合体ロボットの足元から遠ざけた。
負傷した覚者たちの身体に、水行の癒しがキラキラと降り注ぐ。
「ボクたちって今、ひょっとして……主人公ロボに無双されてるザコ敵、みたいなもの?」
紡の『潤しの雨』だった。
「それならそれで……数の力で、いかせてもらうよ」
回復を得た覚者たちが、立ち上がって身構える。
威圧されたかの如く、ヴァルトカイザーが1歩、後退した。
否。それは次なる攻撃のための、間合いの確保であった。
合神雷帝の右手に、長剣が生じた。両刃の刀身が、電光を帯びる。
プリンスは呻いた。
「来る……」
「骨は拾ってあげるからね、殿」
紡が『戦巫女の祝詞』をプリンスに施してくれた。
ヴァルトカイザーの巨体が、剣舞の如く構えを取る。優美に、勇壮に。
そこへ彩吹と翔が、ひたすらに鋭刃想脚を叩き込む。細かな金属片と血飛沫のような火花を飛ばしながら、しかし合神雷帝は剣舞を止めない。
「駄目だ、間に合わない! 戻れ2人とも!」
叫びながらフィオナが、翔を『蒼炎の導』で包み込む。
「くそっ、破壊……しきれないかッ」
守りを得た翔が、ヴァルトカイザーの装甲を蹴って跳躍し、紡の眼前に着地して庇う構えを取る。
その翔を防護しつつ奈南が、雷獣結界の維持に集中した。
彩吹も戻って来て、フィオナの盾となった。
その全員を、プリンスは「八卦の構え・極」で背後に庇った。
ヴァルトカイザーの必殺技……雷帝剣・滅殺殲光斬が、繰り出されたところである。
「ここで、それを振り下ろすのが……本当に、貴公の望みだったのかい?」
プリンスは問いかけた。このヴァルトカイザーの持ち主であった誰かに、あるいは『合神雷帝ヴァルトカイザー』全13話の制作に携わった全ての人々に。
「ただ恨み言を発する……それ自体が目的となって、肝心な事を忘れてはいないかな?」
必殺の斬撃。その破壊力が、雷獣結界の中で吹き荒れた。
吹き荒れる破壊の大部分を受けながら、プリンスはなおも語りかける。
「合体ロボは本来、1人では動かせないもの……1人で操縦するしかなくなった村雨剣司は、だから破滅の道を……」
奈南が、彼女らしからぬ悲痛な絶叫を張り上げながら、雷獣結界を維持している。
結界がなければ間違いなく、駐車場の周囲にまで破壊が及んでいたであろう。
「貴公も、そうだろう? 合体ロボに心を委ねたのは……仲間が、欲しかったから……」
雷獣結界が、砕け散った。そこでようやく、滅殺殲光斬の破壊力は消え失せた。
キラキラと消えてゆく結界の破片と共に、プリンスは吹っ飛び、そして倒れた。
「余みたいなOTAKUにとって一番、辛い事……それはね、作品について語り合える相手が、いない事さ……」
●
奈南の「激鱗」が、とどめとなった。
「悪い方にだけは、考えて欲しくなかったなぁ……」
くるりとホッケースティックを持ち直しながら彼女は、アパートの潰れた一室を見上げている。
「せめてナナンたちの事……お空の上から見ててね。正義のロボットみたく、みんなを守って見せるからっ」
「そうだね。みんなを守れて、みんなが幸せになる……ありきたりのハッピーエンド、最高じゃないか」
言いつつ、彩吹が片膝をつく。
元の大きさに戻ったロボットフィギュアが、壊れかけた状態で剣を構え、固まっている。大破状態のジオラマ、のようである。
「……君のヒーローだろう、人殺しなんてさせちゃ駄目だよ」
「一緒に、墓に入れてやりてーな。そんな事しか、オレたちには出来ねえけど」
アパートを見上げ、翔も呟く。
フィオナは、俯いている。
「あの結末には考えさせられたけど……あんなのは、やっぱり嫌だ。私、村雨剣司と話してみたいな」
「闇堕ちキャラに望みを託しちゃったんだね、あの子」
潰れた死体が横たわっている部屋に向かって、紡は『潤しの雨』を投げかけた。
こんな事をしても、死んだ人間は生き返らない。ただ虹が生じただけだ。
「十把一絡げのアニメ、結構じゃねーか。オレは大好きだぜ」
言いながら、翔が振り向いた。
「……ところで、王子は平気か?」
「とっておきの救世閃光斬……披露したかったなぁ……」
紡の膝の上で、プリンスは弱々しく微笑んだ。
「余はここまでだよ……約束していた海に行けなくて、ごめんねツム姫……」
「全然大丈夫だから放っといていいよー相棒」
覚者による、一般家屋への不法侵入行為であった。
「うわわ、なっ何だ何だ」
「はいごめんね。ちょっと外へ出て、そこらのコンビニででも時間潰しててもらえるかなー」
アパートの住人たちが片っ端から『天を舞う雷電の鳳』麻弓紡(CL2000623)によって無理矢理、引きずり出され、運び出されて行く。
野次馬が、道路の方からも集まって来る。やんわりと追い払っているのは『ニュクスの羽風』如月彩吹(CL2001525)であった。
「ほら逃げて逃げて。こいつらは本物の合体ロボット、お台場にあったのと違って動くし人も殺せるよ。そこ、スマホで撮ってる暇があったら早く逃げる!」
注目を浴びているのは、アパート前の広い駐車場に出現した、6体もの妖である。
人間サイズの、動くロボットフィギュア……分離状態にある『合神雷帝ヴァルトカイザー』だった。
ヴァルコマンダー、ヴァルタンク、ヴァルビースト、ヴァルブラスト、ヴァルウォーリア、ヴァルナース。
これら6機の、合体前の活躍。各機パイロットのキャラ立てと人物間ドラマ。1クールでこれらを全て描き切りながら無理なく最終決戦への道筋を整え、盛り上げるだけ盛り上げた挙げ句、あの最終話で全てを破壊してくれた脚本家の力量に、『刃に炎を、高貴に責務を』天堂フィオナ(CL2001421)は圧倒されたものだ。
「村雨剣司……貴方は一体、何を守りたかったんだ……?」
敵前衛右側で鉤爪を構えたヴァルビースト……村雨剣司の乗機を見据え、フィオナは呟いた。
「守るべきものを見失ってしまった、貴方のように……私も、ならないとは言い切れない。だけど」
聖剣ガラティーン・改を、フィオナは抜き放って構えた。
「それでも私は、騎士だ……騎士でなきゃ、いけないから!」
「気負うなよフィオナさん、なんてオレが言える事じゃないかもだけど」
13歳の少年から23歳の青年へと変貌・覚醒を遂げながら、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬翔(CL2000063)が傍に立った。
「とにかく、こいつらの注意を引きつけようぜ」
「……そうだな、避難が終わるまで!」
翔と2人でフィオナは、妖たちに向かって名乗りを上げた。
「天堂フィオナ! ファイヴの騎士だ! 人々は、私たちが護るぞ!」
「ファイヴ期待の星! ファイヴレッド翔、見参だぜ! お前らの相手はオレたちだ!」
どういうわけか、爆発が起こった。
「そっちが合体ロボなら、こっちは戦隊だ! そして戦隊にだってロボはいる。最強のプリンスロボ発進だぜ!」
「うーむ。番台とかが余のスポンサーになってくれればなあ」
「ね、ね。械付喪の人たちってぇ、変形とか合体とかしないのぉ?」
無邪気な声を発しているのは『ちみっこ』皐月奈南(CL2001483)である。
「何か、そういう術式!」
「合体変形を人体で再現するとグロ画像にしかならないんだよ姫君。モザイク入っちゃう」
1つ咳払いをしてから『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が、機化硬・改を発動させた。
「ま、それはともかく。遅れてごめんね、余が遊びに来たよ!」
「私は駄目出しをしに来たよ。あの最終回を現実でやらせるわけにはいかないからね」
彩吹が、プリンスそれに奈南と共に前衛に立った。
「だから脚本リテイク……そうだね、私たちが書き直すとしようか」
「こちとら鬱アニメの一挙放送に付き合わされたばっかりだからね。マンネリでもワンパターンでも、結局はハッピーエンドに勝るものはないって事、再認識しちゃったわけ」
紡が、優しく羽ばたいて『大祝詞・戦風』を吹かせながら着地する。
「大昔にね、ちょっとアレな感じの博士がいたの。その人は自分のお孫さんのために巨大ロボットを造って、言うわけよ。これがあれば神にも悪魔にもなれる、ってね……ロボアニメって本当、最初の頃から何か闇が深かったんだねえ」
●
1人の覚者が、隔者へと堕ちてゆく過程。
翔にとって『合神雷帝ヴァルトカイザー』とは、そのような物語であった。少なくとも全13話、最後まで見ようという気にさせてくれる作品であった事は否定出来ない。
「最後……あんたに踏み潰された人たちの中には絶対、ヴァルトカイザーに感謝してた人だっていたはずだ。巨大ロボになんか乗ってると、そんな事もわかんなくなっちまうのかよ」
力に目覚め、何もかもわからなくなって全てを蹂躙する。
因子発現者の、1つの姿を描いた作品でもあった。
「……反面教師ってやつに、させてもらうぜ村雨剣司。オレは、あんたのようにはならねーぞ」
実在しないアニメの登場人物に思わず語りかけながら、翔は印を結んだ。
光の投槍が2本、連続で迸った。B.O.T.改の連撃。
それらが、ヴァルタンクを貫通しつつヴァルコマンダーに突き刺さる。ヴァルトカイザーの頭部・胴体を成す2機が、血飛沫のようなスパークを飛散させた。
だが、タンクは何事もなくキャタピラを猛回転させ、突進して来る。コマンダーは光の剣を構えている。
「さすが頑丈だね……壊し甲斐が、ありそうだ」
彩吹が、自身に『天駆』を施しながら踏み込み、黒い羽根を舞い散らせる。すらりと綺麗な脚が、斬撃の如く一閃する。
鋭刃想脚が、ヴァルタンクを、ヴァルビースト及びヴァルウォーリアを、強烈に薙ぎ払っていた。
タンクがよろめき、突進を止めてしまう。だがビーストとウォーリアは、即座に反撃を繰り出して来た。
鉤爪が、トンファーが、立て続けにプリンスを直撃する。
「あいたたたたツム姫助けて! ニポンのオモチャが安全基準を満たしてくれないよ!」
鮮血と火花を飛び散らせながら悲鳴を上げるプリンス。
その左右から、フィオナと奈南が飛び出して行く。
「やるぞ、奈南!」
「はいよぉ、フィオナちゃん!」
炎をまとう聖剣ガラティーン改が、ヴァルビーストに突き刺さる。
熱圧縮した空気が爆発し、村雨剣司の乗機を激しくよろめかせた。
その間、奈南がホッケースティックを振るう。
躍動感溢れるフルスイングによって打ち飛ばされたのは、パックではなく閃光手榴弾である。
轟音と光の爆発が、妖6体を硬直させた。
「よしっ、今……殿、行っといで!」
紡が、杖の先端のスリングショットで術式を射出した。
潤しの滴が、プリンスを直撃する。
ずぶ濡れになりながらプリンスは回復し、よろめき、踏み込み、そして妖槌を振るった。
貫殺撃・改が、ヴァルビーストとヴァルブラストを一緒くたにグシャリとへし曲げる。
へし曲がったブラストが、しかし背部の2門砲を翔に向けていた。
「おっ……と……ッッ!」
迸ったエネルギー砲弾を、翔はまともに喰らっていた。
「翔ちゃん……あうっ」
奈南の悲鳴が聞こえる。
彼女、それにプリンスと彩吹が、ヴァルコマンダーの繰り出した光の斬撃に薙ぎ払われ、鮮血をしぶかせる。
辛うじて倒れず踏みとどまった奈南の細身が次の瞬間、吹っ飛んだ。
ヴァルタンクの突進が、彼女を轢き飛ばしていた。
「おいっ……奈南!」
「……平気だよっ」
翔に助け起こされながら奈南が、口元の血を拭い、気丈な言葉を発する。
「街の人たちを……こんなふうに、じゅーりんさせるワケにはいかないよぉ。だからナナンは立ち上がるのだ!」
「ああ……オレだって」
メインヒロイン菅野美由姫の乗機であるヴァルナースが、機械の繊手を精妙に動かしてヴァルビーストを修理している。
回復を受けたビーストが、ナースを庇うように鉤爪を構えた。
もちろん本当に村雨剣司が乗っているわけではない機体を、翔はじっと見据えた。
「わかってくれない人も大勢いるけど、わかってくれる人だって確実にいる……だからオレは諦めない! あんたにだって、諦めて欲しくなかったぜ……」
●
彩吹が跳躍すると、翔が合わせてきた。
「彩吹さん、オレ練習したぜー!」
「そう? じゃ一緒にやってみようか」
覚者2名による鋭刃想脚が、斬撃の嵐となって吹き荒れる。
タンク、ビースト、ウォーリア。妖たちの前衛3体がズタズタに斬り削られ、細かな金属片を飛び散らせた。
彩吹は舌を巻いた。後衛の術式要員とばかり思っていた翔が、気がつけば格闘戦をこなせるようになっている。
「私も、うかうかしてられないね……っと、いけない! 王子!」
「任せてブキ姫! 彼の攻撃は余が受け止めるよ」
鋭刃想脚の嵐に耐え抜いたヴァルビーストが、プリンスに襲いかかったところである。
鉤爪の一閃を受け、鮮血のような火花を飛ばしながらも、プリンスが貫殺撃・改で反撃をする。
声が、聞こえた。
「すげえ、覚者のバトルだぜ。俺1度ナマで見てみたかったんだぁ」
「見るだけじゃ済まさねー、撮って上げてアクセス稼ぐべ! これで俺らもYOUチューバー、働かねえで生きてくぜ〜」
見るからに浅はかそうな若者が2人、駐車場を覗き込んでスマートフォンをかざしている。
彩吹は怒鳴りつけた。
「こら何をやってる、ここに近付くな! 危険なのが見てわからないのか!」
「おおおお、テレビに出てた翼のお姉さんだぜ! まじ感動」
若者たちが浮かれている。
当てないようにエアブリットでも撃ち込んでやろうか、と彩吹は思ったが、その時にはヴァルウォーリアが動いていた。若者2人に向かって猛然と踏み込み、トンファーを振るおうとする。
彩吹が動く前に、奈南が叫んでいた。
「させないよぉッ!」
少女の気合いに合わせて雷獣結界が生じ、妖6体と覚者6名を包み込む。
若者2人は、結界の外だ。
彼らに襲いかかったヴァルウォーリアが、結界に激突し、よろめく。
よろめきながら、奈南の方を向く。そして結界の発生源である少女を叩き殺すべく、踏み込んでトンファーを振るう。
それを喰らったのは、フィオナだった。
奈南の眼前に飛び込んだ彼女の身体が、トンファーの一撃で痛々しくへし曲がる。
「フィオナちゃん……!」
奈南の声が、引きつり、かすれた。
若者2人は、逃げ去って行く。
フィオナは倒れ、血を吐き、声を発した。
「大丈夫……奈南が、一般の人を護る……その奈南を、私が護る……それでいいんだ」
「フィオナちゃんは、ナナンが守るよ……守らなきゃ、いけないのに……」
雷獣結界を維持したまま、奈南は声を震わせる。
「フィオナちゃんが、いっつもナナンの事……守ってくれるから……ナナンは思いっきり勇気リンリンで戦えるのだ……だけど、やだよぉこんなの……」
「大丈夫。守って守られての輪の中に、ボクもこうやって図々しく入り込んでくから」
紡が羽ばたき、潤しの雨を降らせた。
「ボクだって……守るよ、みんなを」
●
どこからか、勇壮なBGMが聞こえて来ているような気がした。
合体シークエンスが、堂々と時間をかけて眼前で展開されている、ように見えるのは錯覚である。本当は一瞬の出来事で、妨害をしている暇などありはしない。
(メタルモンスターたちも、こんな思いをしながら倒されていったのか……)
などとプリンスが思っている間に、合神雷帝ヴァルトカイザーは出現していた。
全身がひび割れ、あちこちからスパークが噴出している。まさしく最終話、満身創痍のまま都市を破壊するヴァルトカイザーそのままの姿である。
「倒す敵が、いなくなったから……お前は、あんな事をしてしまったんだね。私たちが強大な敵になってやる!」
彩吹が激しく羽ばたき、飛翔し、意志を持つ乱気流となってヴァルトカイザーにぶつかって行く。告死天使の舞。
それを翔が、地上から援護した。
「まずは、オレたちを踏み潰してみろ!」
砲撃型メタルモンスターの放つテラボルトレーザーにも似たB.O.T.改が、連続速射される。
別方向からフィオナが、奈南が、地を駆ける獣の速度で踏み込んで行く。
「ただし! 私たちは暗黒宇宙帝国よりも手強いぞ!」
「ナナンたちのね、無敵のコンビネーション! 悪の帝国なんて目じゃないよぉ!」
聖剣による『斬・二の構え』と、ホッケースティックによる『五織の彩』が、左右からヴァルトカイザーを襲う。
プリンスは正面から、貫殺撃・改で突っ込んだ。
「余は……第9話で貴公を大破寸前まで追い込んだ最強のメタルモンスター、ヘラクレスガイストだっ!」
それら全ての攻撃が、合神雷帝の巨体に命中はした。
どれほどの痛手を与えたのかは、わからない。
直後に、ヴァルトカイザーの反撃が来たからだ。
巨大な拳が、彩吹を叩き落とす。
地響きを伴う踏み込みが、奈南を蹴り飛ばし、そしてプリンスを踏み潰した。
己の体内で、肋骨と臓物が一緒くたに破裂する音を、プリンスは確かに聞いた。
そのまま体重をかけてプリンスを圧殺しようとはせず、ヴァルトカイザーはよろめいて足を浮かせた。
「霞舞……相変わらず、痛々しい相打ちにしか……ならないけどねっ」
墜落した彩吹が、血を吐きながら苦しげに微笑む。
「プリンスちゃん……大丈夫かなぁ?」
見た目より遥かに頑丈な奈南が、フィオナに支えられて立ち上がりながら気遣ってくれる。
「駄目だぁ……姫君たちが助け起こしてくれないと、余は生き返らない……」
「贅沢言ってんじゃねーよ。ほら起きろ王子」
翔が、潰れかけたプリンスを引きずって合体ロボットの足元から遠ざけた。
負傷した覚者たちの身体に、水行の癒しがキラキラと降り注ぐ。
「ボクたちって今、ひょっとして……主人公ロボに無双されてるザコ敵、みたいなもの?」
紡の『潤しの雨』だった。
「それならそれで……数の力で、いかせてもらうよ」
回復を得た覚者たちが、立ち上がって身構える。
威圧されたかの如く、ヴァルトカイザーが1歩、後退した。
否。それは次なる攻撃のための、間合いの確保であった。
合神雷帝の右手に、長剣が生じた。両刃の刀身が、電光を帯びる。
プリンスは呻いた。
「来る……」
「骨は拾ってあげるからね、殿」
紡が『戦巫女の祝詞』をプリンスに施してくれた。
ヴァルトカイザーの巨体が、剣舞の如く構えを取る。優美に、勇壮に。
そこへ彩吹と翔が、ひたすらに鋭刃想脚を叩き込む。細かな金属片と血飛沫のような火花を飛ばしながら、しかし合神雷帝は剣舞を止めない。
「駄目だ、間に合わない! 戻れ2人とも!」
叫びながらフィオナが、翔を『蒼炎の導』で包み込む。
「くそっ、破壊……しきれないかッ」
守りを得た翔が、ヴァルトカイザーの装甲を蹴って跳躍し、紡の眼前に着地して庇う構えを取る。
その翔を防護しつつ奈南が、雷獣結界の維持に集中した。
彩吹も戻って来て、フィオナの盾となった。
その全員を、プリンスは「八卦の構え・極」で背後に庇った。
ヴァルトカイザーの必殺技……雷帝剣・滅殺殲光斬が、繰り出されたところである。
「ここで、それを振り下ろすのが……本当に、貴公の望みだったのかい?」
プリンスは問いかけた。このヴァルトカイザーの持ち主であった誰かに、あるいは『合神雷帝ヴァルトカイザー』全13話の制作に携わった全ての人々に。
「ただ恨み言を発する……それ自体が目的となって、肝心な事を忘れてはいないかな?」
必殺の斬撃。その破壊力が、雷獣結界の中で吹き荒れた。
吹き荒れる破壊の大部分を受けながら、プリンスはなおも語りかける。
「合体ロボは本来、1人では動かせないもの……1人で操縦するしかなくなった村雨剣司は、だから破滅の道を……」
奈南が、彼女らしからぬ悲痛な絶叫を張り上げながら、雷獣結界を維持している。
結界がなければ間違いなく、駐車場の周囲にまで破壊が及んでいたであろう。
「貴公も、そうだろう? 合体ロボに心を委ねたのは……仲間が、欲しかったから……」
雷獣結界が、砕け散った。そこでようやく、滅殺殲光斬の破壊力は消え失せた。
キラキラと消えてゆく結界の破片と共に、プリンスは吹っ飛び、そして倒れた。
「余みたいなOTAKUにとって一番、辛い事……それはね、作品について語り合える相手が、いない事さ……」
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奈南の「激鱗」が、とどめとなった。
「悪い方にだけは、考えて欲しくなかったなぁ……」
くるりとホッケースティックを持ち直しながら彼女は、アパートの潰れた一室を見上げている。
「せめてナナンたちの事……お空の上から見ててね。正義のロボットみたく、みんなを守って見せるからっ」
「そうだね。みんなを守れて、みんなが幸せになる……ありきたりのハッピーエンド、最高じゃないか」
言いつつ、彩吹が片膝をつく。
元の大きさに戻ったロボットフィギュアが、壊れかけた状態で剣を構え、固まっている。大破状態のジオラマ、のようである。
「……君のヒーローだろう、人殺しなんてさせちゃ駄目だよ」
「一緒に、墓に入れてやりてーな。そんな事しか、オレたちには出来ねえけど」
アパートを見上げ、翔も呟く。
フィオナは、俯いている。
「あの結末には考えさせられたけど……あんなのは、やっぱり嫌だ。私、村雨剣司と話してみたいな」
「闇堕ちキャラに望みを託しちゃったんだね、あの子」
潰れた死体が横たわっている部屋に向かって、紡は『潤しの雨』を投げかけた。
こんな事をしても、死んだ人間は生き返らない。ただ虹が生じただけだ。
「十把一絡げのアニメ、結構じゃねーか。オレは大好きだぜ」
言いながら、翔が振り向いた。
「……ところで、王子は平気か?」
「とっておきの救世閃光斬……披露したかったなぁ……」
紡の膝の上で、プリンスは弱々しく微笑んだ。
「余はここまでだよ……約束していた海に行けなくて、ごめんねツム姫……」
「全然大丈夫だから放っといていいよー相棒」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
