新しい自分を見つけに行こう
新しい自分を見つけに行こう



 高校生の女の子が行方不明となり、数日後に惨殺死体となって発見された。
 犯人は私ではない。郁夫だ。
 とある小学校で、兎が殺された。
 義郎の仕業であるに違いなかった。私がそんな事をするわけがない。
 暴走車が、道路を横断中の親子を轢き殺した。
 運転していたのは、私ではなく信彦だ。
 都内のコンビニに強盗が入り、現金数万円を奪った上に店員を刺殺して逃げた。
 私ではなく、章二の仕業である。
 この連中が長らく捕まらなかったのは、宏樹の逃げ足の速さによるところが大きい。警察から逃げ回るなど、私にはとても無理である。
 そう、私は悪い事など何もしていないのだ。
 なのに、警察は私を逮捕した。
 裁判が行われ、無罪判決が下った。当然だ。私は、何もしていないのだから。
 釈放された私はしかし、そのまま入院する事となった。強制入院である。
 可愛いナースなど1人もおらず、白衣を着た男たちが私を実験動物として扱った。
 私を拘束し、おかしな薬を投与あるいは注射した。それを拒もうとする私に、殴る蹴るの暴行を加えた。
 刑務所に入った事はないが、ここと比べれば間違いなく天国であろう。
 屋上には行けない。窓には、鉄格子が取り付けられている。
 だから私は、タオルで首を吊るしかなかった。
 その瞬間、郁夫が、信彦が、義郎が、章二が、宏樹が、私の中から溢れ出した。
 信彦が、その巨体で病院内を駆け回って様々なものを破壊しつつ、白衣の男たちを轢き殺す。
 逃げ惑う男たちを、郁夫と義郎が片っ端から切り刻んだり叩き潰したりしている。むさい人間の男ばかりなので、2人とも不満そうである。
 私に特にひどい暴力を振るっていた男が、章二に刺し殺されていた。ざっくざっくと丁寧に。
 宏樹が、逃げ回る病院職員らに超高速で追い付き、的確に殺して回る。
 首を吊った私の屍もまた、のろりと動き出して殺戮に参加していた。
 何やら不思議な事が起こっているようだが、どうでも良かった。もはや私の知った事ではない。
 私は、死んだのだから。
 地獄へ落ちるにしても、ここに入院し続けるよりは遙かにましであろう。
「さて、それはどうかな」
 誰だ、お前は。
「私は火車。君を迎えに来たわけだが……仕事に戻って早々、難儀な死者を拾ってしまったものだなあ。君のしでかした事は軽く見積もっても大叫喚地獄級だが、いくらかは情状酌量の余地を見出してもらえるかも知れん。まあ、あまり期待せず神妙に閻魔王の裁きを受けるのだね。では覚者の皆、この男の置き土産はよろしく始末してくれたまえよ」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:小湊拓也
■成功条件
1.妖の殲滅
2.なし
3.なし
 お世話になっております。ST小湊拓也です。

 とある精神病院で、多重人格者・森田徹が自殺し、彼の5つの人格が心霊系妖となって出現しました。

 場所は病院の正門前広場。
 病院職員をあらかた殺し尽くした妖たちが、次の殺戮対象を求めて病棟内から現れたところが状況開始。覚者の皆様には、彼らの真っ正面に立ちふさがっていただきます。

 妖は計6体。全てランク2で、詳細は以下の通り。

●信彦
 心霊系、前衛中央。力士サイズの巨体で、下半身が四輪車両。攻撃手段は暴走体当たり(特近列)。

●義郎
 心霊系、前衛右。兎の着ぐるみをまとっており、巨大なスコップで相手を滅多打ちにする(特近単)。獣憑の覚者を優先的に攻撃する。

●章二
 心霊系、前衛左。裸エプロンの大男で、大型包丁の二刀流で戦う。通常攻撃(特近単)の他、腕を伸ばしての貫通攻撃も繰り出してくる(特近単、貫通2)。

●宏樹
 心霊系、中衛右。全身から刃を生やした小男。敏捷に動きながらの斬撃(特近単)の他、全身の刃を発射する事もある(特遠全)。

●郁夫
 心霊系、中衛左。セーラー服を着た、肥満体の男ゾンビ。牙のある寄生虫のような触手が全身から生えており、これらで女性覚者を優先的に攻撃する(特遠、女性に対してのみ全、男性に対しては単)。

●森田徹の屍
 生物系、中衛中央。自殺した多重人格者の屍が妖と化したもの。攻撃手段は、怪力による格闘戦のみ(物近単)。

 時間帯は昼。人気のない場所に建てられた病院なので、人通りもほとんどありません。
 人通りのある場所へ彼らが向かう前に、討伐していただく事になります。

 それでは、よろしくお願い申し上げます。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(4モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2018年01月23日

■メイン参加者 6人■



 6人揃うまで、待ってなどいられなかった。
「現場に到着する時間が1分早ければ、助けられる人間が1人増える。小学生でも出来る計算だ」
「そ、そうかしら」
 病院の廊下を、万星(CL2001658)はずんずんと進んで行く。森宮聖奈(CL2001649)が、不安そうについて来る。
 星は、ちらりと目だけを振り返らせた。
「俺の考えを、聖奈に押し付ける気はない……無理して一緒に来る事、ないんだぜ」
「……星を1人で行かせる方が、私としては無理」
 聖奈が、気丈に微笑む。
「2人で、助けましょう。1人でも多くの人を」
「……ありがとよ、聖奈」
 まずは、夢見が夢を見る。
 その夢を現実のものとしないために覚者が出撃するわけだが、充分な人数が揃うまでは出撃許可が下りない。
 人数の手配と出撃許可は、司令官である中恭介の役目である。
 まずは星と聖奈が、今回の任務に志願した。
 最低でも6人は必要だ、もう少し待て、と中指令は言った。残る4人の手配に時間がかかっているのは、覚者たちが多忙を極めているからであって中の不手際というわけではない。それは星も、頭では理解している。
 覚者を4人、集めている間に、一般人が1人殺される。2人、3人、5人10人と妖に殺戮されてゆく。その現実に、自分がただ耐えられなくなっただけだ。
 だから星は、中に無断で出発し、殺戮の現場となる精神病院へと乗り込んだ。1人で来るつもりであったのに、聖奈がついて来てしまった。
 そして今、2人で立ち竦んでいる。
 廊下一面、かつて人間であったものが大量に散らばっていた。妖による殺戮が、すでに始まっている。
「ひどい……」
 聖奈が、息を呑みながら声を発する。
 星は、無言のまま青ざめ、固まった。
 人体の残骸が数人分、廊下にぶちまけられ、あるいは壁に貼り付き、凄まじい悪臭を発している。
 虐殺の光景の中央に、それはいた。
 セーラー服を着た、肥満男の腐乱死体。そんな姿をした妖である。森田徹の人格のひとつ、郁夫であるに違いなかった。
 セーラー服の下から、血まみれの触手が何本も伸び、深海魚の如く牙を剥き、うねっている。
 腐敗しながら脂ぎった顔面が、星と聖奈の方を向き、おぞましく歪み微笑む。
 欲望そのものの霊気で組成された肥満体が、触手の群れが、覚者の少女2人に迫る。
「星に……近付けさせは、しませんっ!」
 聖奈が翼を広げ、星を背後に庇う。左右2色の瞳が、郁夫を見据えて発光する。
 風が生じ、エアブリットとなって妖を直撃した。
 郁夫が、肥満体と触手を震わせる。醜悪な顔に、おぞましい歓喜と悦楽の表情が浮かぶ。
 聖奈の細い身体が硬直し、震えたのを、星は見逃さなかった。
 怯えている。
 怯えながら後退りをしようとして、聖奈は踏みとどまったようである。背後に星がいるからだ。
(俺の、せいで……聖奈が、恐い思いを……)
 青ざめたまま、星は唇を噛んだ。
「た……」
 声がした。
 ぶちまけられた人体の残骸の中で、1人が辛うじて生きている。
「すけ……て……」
 血染めの白衣を着た、病院職員の男。どれほど負傷しているのかは不明だが、自力では動けないようだ。
 だが、まだ生きている。
 星は思い出した。自分がファイヴの規律を乱してまで、ここに来たのは何のためか。
「……助ける……1人でも、多く……」
 動けぬ男に、星は駆け寄ろうとした。が、心を奮い立たせても身体は怯えたままだ。細い両脚がガクガクと震え、もつれ合う。星は、弱々しく転倒していた。
 そこへ、郁夫の触手が迫る。
「…………ッッ!」
 恐怖心を噛み殺しながら、星は術式を行使した。
 棘一閃が、妖の肥満体の表面で弾けた。
 ちくりとした痛み、程度のものは与えたのだろうか。郁夫が、快楽に悶えている。
 その間、聖奈が動いていた。
 羽ばたきながら駆け出し、細腕で星を抱き捕え、翼に包まるようにして廊下の窓に体当たりをする。
 星を抱えたまま聖奈は、ガラスの破片を振り払うように翼をはためかせた。屋外への逃亡。
 郁夫の触手がしかし鞭のように、窓の外へと伸びて来る。
「あう……っ!」
 牙の生えた触手が、聖奈を打ち据えた。
 両腕と翼で星を抱き締めたまま、聖奈は背中から病院外へと墜落していた。落下の衝撃からも自分を守ってくれている、と星は思った。
「聖奈……おい……」
「星……逃げて……」
 倒れたまま聖奈は呻き、血を吐いた。
 病院の、正門前の広場である。
 病棟のあちこちで窓ガラスが砕け散り、おぞましいものたちが飛び降りて来た。
 かつて森田徹という1人の人間を形成していた、5体もの妖が、星と聖奈を取り囲むように着地する。
 6体目の妖が、びちゃりと降り立った。郁夫だった。
 その触手が、絡め取っていたものを放り捨てる。
 先程、星が助けようとした男の屍だった。ズタズタに引きちぎられている。
「誰も……」
 倒れた聖奈の傍に呆然と座り込んだまま、星は呟いた。
「助けられない……俺の、力じゃ……誰も……」
 郁夫の触手が、ニョロニョロと嫌らしく宙を泳ぎ、迫って来る。
「嫌だ……聖奈……せめて、聖奈だけはぁ……」
 霧が、生じた。
 まるで生き物のように濃密な霧が、妖6体に絡み付く。
 少女2人を襲おうとしていた触手が、濃霧に束縛されて動きを止める。
 迷霧であった。
「勝手な行動は、もちろん良くない」
 すらりとした人影が、濃霧の中から歩み出して来る。『探偵見習い』工藤奏空(CL2000955)だった。
「だけど……1人残らず、助けたい。その思いを、ここで挫けさせて欲しくないよ。俺たちも一緒に戦うから」


 郁夫、信彦、義郎、章二、宏樹。そして森田徹本人の屍。
 計6体の妖を『黒い太陽』切裂ジャック(CL2001403)は睨み据えた。
「妖の醜さは……要するに人間の醜さ。人間がいるから妖が出て来ると、そういう事じゃねえのかな」
「それは隔者の考え方ですよ、ジャックさん」
 両眼を赤く燃え上がらせながら『意志への祈り』賀茂たまき(CL2000994)が言う。
「人は……きっと誰もが、何かおぞましいものを心に抱えて生きているのだと思います。私だって」
「それが死んだら出て来る、か。ふふん……俺が死んじまったら一体なにっがでっるかな〜」
 おどけながら、ジャックは大祝詞・戦風を吹かせた。
 迷霧に縛られた妖たちの包囲の中から、やがて少女2人がよろよろと歩み出て来た。星が、聖奈に肩を貸している。
 ジャックは声をかけた。
「よっ、お疲れさん。中司令のお説教は長いから覚悟しとき」
「あの人、同じ事何回も言うのよ。そろそろ、おじさんなのよ」
 負傷した聖奈にキラキラと潤しの滴を降らせながら『ゆるゆるふああ』鼎飛鳥(CL2000093)が笑う。
 星が、ぽろぽろと涙をこぼした。
「……ごめん……なさい……」
 涙に濡れた少女の頬が、音高く痛々しく鳴った。
 たまきの平手打ちだった。
 聖奈が、慌てて声を発する。
「ま、待って下さい! 星は悪くありません、止められなかった私が」
「庇っては駄目。それは、星さんを侮辱する事にしかなりません」
 言いながら、たまきは聖奈の頬にも容赦のない平手打ちを喰らわせていた。
「……ペナルティは、これで終わりです。さあ一緒に戦いましょう」
「たまき先輩……」
「賀茂さん……」
 泣きじゃくる星と聖奈を、たまきは軽く抱き寄せた。
「恐かったでしょうね……だけど、もう大丈夫」


 全身から刃の生えた小男が、疾風の速度で襲いかかって来る。
 森田徹の人格の1つ、宏樹。
 小柄な全身を駆使しての斬撃を、たまきは防御した。
「くっ……」
 霊体で出来た刃が、身体のどこかを超高速で切り裂いてゆく。
 己の血飛沫を視界の端に捉えながら、たまきは倒れずに踏みとどまった。
 そこへ、今度は郁夫の触手が群がって来る。
 ほぼ同時に、奏空が飛び込んで来た。
 牙のある触手が、少年の全身を切り裂いていた。
「奏空さん!」
「だっ、大丈夫……!」
 激痛に耐え、血飛沫を散らせて揺らぎながらも、奏空は踏みとどまっている。たまきの眼前で、盾の形に。
「もうっ、無茶をして……! 私の方が、頑丈なのに」
「知ってるけど……駄目だよ、たまきちゃんに……こんなもの、近付けるわけには……」
 無理矢理に、奏空は微笑んだ。
「たまきちゃんは……俺が、守るんだ……っ」
「奏空さん……」
「禁止! 禁止! ラブコメ禁止なのよ!」
 執拗に襲い来る触手から、飛鳥が頭を抱えて逃げ回る。
「やれやれ……どんな人生送ったら、こんなものが心の中に育っちまうんだか」
 抱き合う星と聖奈を、2人まとめて背後に庇いながら、ジャックが苦笑している。
 その全身あちこちが触手に切り裂かれ、鮮血がしぶく。
 血飛沫が、真紅の刃と化した。
「ま、俺に出来るのは……倒す事と、祈る事だけ。さあ、死神の足音を聞きな」
 鮮血の鎌が、郁夫を、宏樹を、そして森田の動く屍を、まとめて薙ぎ払った。
 郁夫と宏樹がザックリと裂け、血飛沫にも似た霊気の粒子を垂れ流す。
 そこへ、飛鳥が狙いを定めた。
「戦闘中ラブコメは禁止だけど、触手はもっと禁止なのよ!」
 ステッキの動きに合わせて流水が生じ、渦を巻きながら龍と化し、郁夫と宏樹を完全に粉砕した。
「……でもっ。一番、禁止なのは」
 残り4体となった妖の1匹を、飛鳥は睨み据えた。
 兎の着ぐるみをまとった大男。妄執そのものの霊体が、そんな異形を構成している。
 森田徹の人格のひとつ、義郎。
 可愛らしい人差し指をそれに向けながら、飛鳥は言い放った。
「うさぎを殺す事! そんな奴がうさぎに化けるなんて二重に許せないのよ! このあすか、偽うさぎ絶対殺すウーマンにならざるを得ないのよ」
 少女の頭に巻かれた鉢巻の両端が、ロップイヤ一と共に風に揺れる。
 激昂したかの如く義郎が、大型のシャベルを振りかざして飛鳥に殴りかかる。
 巨体がもう2つ、義郎と連携し、襲いかかって来た。
 筋骨隆々たる裸体にエプロンのみをまとい、左右2本の大型包丁を構えた大男……章二。
 下半身が四輪車両となっている巨漢、信彦。
 森田徹の人格たちの中で最も戦闘的な2体が、大包丁で覚者たちを切り刻もうとする。二本足ではなく四輪で爆走し、覚者たちを轢き殺しにかかる。
 今度は私が奏空さんを守る、などと口には出さずに、たまきは奏空を背後に庇って立つ。
 そして、地面に杭を打ち立てる。
「妖よ、死せる者たちよ、天地の理から外れたるものよ! さあ、在るべき処へ還りなさい!」
 その杭から、大型の護符が旗の形に広がり、はためき、力を放出した。
 信彦が、義郎が、章二が、力の奔流の直撃を受け、霊気の飛沫を飛び散らせる。3つの巨体が、激しく揺らいだ。
 そこへ奏空が、略式滅相銃を向ける。
「いろいろ……あったんだな、森田さん」
 回転式弾倉であるマニ車が、奏空の鎮魂の念を宿して猛回転を開始した。
「何かもう色々ありすぎて、色々溜め込んで、心の中でこんなもの育ててきた、と……ごめん、何もしてあげられない。御仏の力で浄化するだけだ!」
 銃撃の嵐が吹き荒れ、信彦と章二を粉砕した。
 義郎だけは生き残り、巨大なシャベルを飛鳥に叩き付ける。
 鮮血の飛沫を宙に咲かせながら、飛鳥の小さな身体が吹っ飛んだ。
 義郎も、吹っ飛んでいた。
 たまきが飛鳥に施しておいた、紫鋼塞である。
「……たまきお姉さんの読み、バッチリ大当たりなのよ」
 鉢巻を血に染めたまま、飛鳥が脱兎の勢いで跳ね起き、姿勢低く地を駆ける。
 義郎も立ち上がり、獣憑の少女を迎え撃つべくシャベルを振り下ろす。が、飛鳥の方が速い。
「ファッキン! なのよ!」
 可愛らしい拳が、義郎の下腹部を穿ち砕く。猛の一撃だった。
 砕け散り、霊気の粒子となって霧散・消滅してゆく義郎を蹴散らすように、飛鳥が何やらポーズを決めている。色々と口走りながらだ。
「お前の×××なんて×××してやるのよ! この×××野郎!」
「落ち着け飛鳥、ピ一音しか聞こえん……それよりもっ」
 残る1体の敵に、ジャックは3つの目を向けた。
 第三の目から、破眼光が迸った。
 今回唯一の、生物系妖。心霊系5体の、発生源とも言うべき存在……森田徹の、動く屍。
 死後硬直を進行させながらバキバキと動く身体に、ジャックの破眼光が突き刺さる。
 妖が吼えた。悲鳴か、怒号か。
 屍である。森田の自我や魂が、入っているわけではない。
 それでも、たまきは思った。森田が叫んでいる、と。
 森田徹の引き起こした様々な事件に関しては、たまきも一通りの事は知っている。
 世間は、死刑死刑の大合唱であった。
 だが結局は無罪判決が下り、この裁判に関わった司法関係者数名に対する殺害予告が相次いだ。
 森田の多重人格が詐病の類ではない事は、この有り様を見ても明らかである。
 彼としては、怒りで叫ぶしかないところであろう。
 キラキラと、癒しの力が漂って覚者たちを包み込んだ。
「執着心……なのでしょうか」
 翼を広げて『癒しの霧』を拡散させながら、聖奈が呟く。
「彼が、いえ彼らが、多くの命を奪った理由……何か事情があるのでしょうけど、私には……理解、出来ません。理解しようとしたら、闇に当てられて……おかしくなってしまいそうです。こんな、妖すら生んでしまうほどの闇を……隔者でもない、普通の人が」
「普通の人って、恐いんだぜ」
 破眼光の呪いで森田を束縛しながら、ジャックが言う。
「普通の人として、普通の人間社会で暮らしてりゃあ、心にいくらでも闇が溜まっていく。そういうもんだって事、俺も最近やっとわかってきた……お前もそうだろ森田徹。かわいそうになあ、お前は確かに何も悪くない。悪くないまま、眠ってくれ。ヘドロ溜まりみたいなもん置き土産にしてくれたけど、スッキリ掃除しといてやったからな」
「魂は、もう旅立った後なんだよね」
 呪縛された森田の屍に、奏空が滅相銃を向けた。瞳を桃色に輝かせ、狙いを定めた。
 マニ車が、彼の祈りの念を宿してギュイィィイインッ! と発光・回転する。
「残されたものは、俺たちが供養しておく……そっちの世界で、火車によろしくな」
 銃撃による、激鱗。
 森田が、粉々に砕け散った。
 心霊系の5体が遺した霊気の粒子も、今や微かな光でしかない。それも消えてゆく。
「お前らも、ちゃんとした個人として生まれてきていればな……」
 氷の花が、キラキラと空中に咲いた。ジャックが、氷巌華を応用したようだ。
「次こそ、人の心の闇なんかじゃなく、ちゃんと母体から生まれるんだぜ……火車、あとは頼んだ」
「あすかはジャックお兄さんみたく優しくはなれないのよ。火車さん、そいつらはきっちり地獄へ連れてってくださいなのよ」
 飛鳥が、この場にいない古妖に語りかけている。
「お仕事復帰おめでとうございますなの。こないだのご褒美はやくよこすのよ」
「地獄の夢なんて、そんなに見たいのか」
 ジャックが呆れている。
「地獄なんて、しょっちゅう見てるだろうに。今回のだって、なかなかのもんだと思うぜ……なあ?」
「え……お、俺?」
 いきなり話を振られた星が、戸惑いながらも応えた。
 ジャックが、にやりと微笑む。
「恐い目に遭って、どうよ。これからも、人助けの戦いをやっていこうって気はあるかい?」
「俺は……今回、ほとんど何の役にも立ってなかった。申し訳程度に、棘一閃やら清廉香やらを使っただけだ」
 星が俯く。
「結局、先輩たちの足を引っ張って……戦う度に新しい自分を見つけた気になってたけど、今回は全然ダメな自分を見つけた。先輩たちは、それに聖奈は……こんな気が狂いそうな戦いに身を置いて、平気なのか? 強い自分、人助けが出来る自分を、戦ってればいつか発見出来るものなんだろうか?」
「星……」
 聖奈が気遣う。
 奏空が、応える。
「そうだね。俺も……見つけたい。会いたいよ、そんな自分に」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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