ゾンビ村サバイバル
ゾンビ村サバイバル



 昨今『ゾンビ』という単語ほどチープなものはない。
 いつだかのテレビゲームで有名になり、アメリカでは毎年のように新しいゾンビ映画やゾンビドラマが作られているという。町中でゾンビが出たぞなどと騒げば、きっと狼少年のように無視されるだろう。一度も嘘をついたことの無い人でさえ。
 だから私がある村を取材に訪れた際に、村人のこんな言葉に反応できなかった。
「この村はゾンビだらけだ! 逃げろ!」
 最初は、何を言っているんだこの人はと顔をしかめ、必死の形相で走り去っていく様を見てそういう遊びなのだなと理解した。
 だがどうだろう?
 建物の裏や木陰から無数の人々が飛び出し、その全てが私めがけて全力疾走してきたら?
 その全てが見るからに死んでおり、全身の皮膚が苔むしたプールのような緑色
をしていたら?
 私とてきびすを返して走る。
 そして私の後から来たよく知らない若者にこう叫ぶのだ。
「この村はゾンビだらけだ! 逃げろ!」


 久方 相馬(nCL2000004)は今回の妖事件について、説明しかねている節があった。
 何をどのように説明しても、F.i.V.Eの覚者たちが『ああゾンビ映画のまねごとね。ショットガンで頭を吹き飛ばして遊べばいいんでしょう?』と真顔で応えるに決まっているからだ。
 だが説明はせねばなるまい。それが夢見の役目である。
「えっとだな。ランク2心霊系の妖がある小さい山村を襲ったんだよ。これは最初の一人に取り憑いて自殺させた後、死体を動かして他の人間を襲うんだ。この時殺害行動によって自らをコピーさせて、相手に憑依させる。これを繰り返すことで数を増やすっていうタイプなんだな。特徴としては一般人にしか憑依できないことと、死後一週間以上たっていないと動けないこと。あとは全体の七割ほどの憑依体を行動不能レベルにまで破壊されると結果的に完全消滅してしまうっていうところがある」
 相手の反応を待ってから、話を続ける。
「それで。現地には今逃げ遅れた人が三人ほどいるから、彼らを保護した上で妖を討伐してくれ。一般人の肉体を傷付けるのは忍びないかもしれないけど、犠牲になった死体を利用されてることのほうがずっと可哀想なんだ。きっちり倒してくれ。頼んだぞ」
 帰ってくるであろう反応を予測しながら、相馬はこくんと頷いた。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.妖ゾンビの退治
2.なし
3.なし
 八重紅友禅でございます
 お勧めの攻略方法とやや細かい状況説明を追加します。

●お勧めの攻略方法
 村は小さく、作業量的に見て大体三つのエリアに分けられます。
 ゾンビは一般人ベースの妖で、戦闘力も一般人のそれと同等です。操り人形的に動かしているのでどこを破壊すれば止まるということはありません。
 作戦行動中はずっと慌ただしいので、休憩や戦闘以外の要集中行為は難しいでしょう。
 9人を3つのチームに分けて各エリア同時に攻略することをお勧めします。
 その際保護対象が一人ずついるので、脱出までは味方ガードでしのぎましょう。序盤から保護を始めてしまうと手が足りなくなって大変なので、まずはゾンビを粗方やっつけてから保護。しかる後倒しながら現場を離脱というのがスムーズです。
 では、エリアごとに説明しましょう。

・農場エリア
 広くて見通しがいいですが、農具を持った妖憑依体(いっそゾンビと呼びます)が沢山おりちょっとばかり戦闘難易度が高めです。
 若い農夫の男が馬小屋の中に立て籠もっているので、これを救出しつつゾンビを片っ端から倒しましょう。

・民家エリア
 古い民家がいくつも並んでいる場所です。出てくるゾンビはさして強くありませんが、基本的に物陰から襲ってくるので危機察知能力を要します。
 村を取材死に来た間の悪いフリーライターが逃げ遅れています。物陰から飛び出す可能性があるのでうっかり殺しちゃわないようにしましょう。

・公民館エリア
 村には不似合いなほど新しくて大きい公民館が建っています。最初はここに皆逃げ込みましたが余裕で全滅しました。おかげでゾンビでいっぱいです。
 細い通路といくつかの部屋。あと最低限のバスケットボール場が備わっています。これらを行き来してぎっしりいるゾンビをやっつけましょう。
 ここでは掃除用具入れの中で幼い子供がじっと身を潜ませています。それぞれの部屋をくまなく探さないと見つけられないので、必然的に忙しいゾンビ戦が続きます。

●その他いろいろ
 村に人が立ち入らないように封鎖処理を施しています。また、保護してきた一般人はそのまま安全な所に輸送されます。その際入念な検査も行なわれるので、妖流出の危険はありません。
 戦闘システム的な解釈がよく分からない場合は『ずっと前中後衛に頭の悪い憤怒者が詰まってるんだな』くらいに考えておいてください。その想定で大体いけます。
 アイテムの持ち込みはちょっとコンビニよって買ってこれる程度のものであれば大体自由ですが、現状では武器とスキルで倒しまくる以上の対策はありません。プレイングの空振りにご注意ください。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
公開日
2015年10月09日

■メイン参加者 9人■

『ブラッドオレンジ』
渡慶次・駆(CL2000350)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『コルトは俺のパスポート』
ハル・マッキントッシュ(CL2000504)
『侵掠如火』
坂上 懐良(CL2000523)
『ひとりどつき漫才の神』
戎 斑鳩(CL2000377)
『突撃巫女』
神室・祇澄(CL2000017)

●シークエンスA-1:赤穂農場
 広い牧草地帯に、『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)は立っていた。でっぷりとした腹にそり上げた頭。彼は周囲をぐるりと見回してから、のんきに背伸びなどしてみせる。
 遠くでは鳥がなき、草を撫でる風がなる。
 草を踏む足。土や泥に汚れた靴だ。
 汚れているのは靴ばかりではない。全身がくたびれ、血や泥に汚れていた。
 人影は駆の後ろ姿を確認すると、よたよたとした足取りを速め、うなりをあげて走り出す。
 手の届く距離まで迫る。
 振り返る駆。
 肩を掴み、顔の皮が全て剥離した女が顎を限界まであげて噛みつ――こうとした途端、その身体が胴体部分で達磨落としになった。
 宙を回転しながら飛んでいく女の上半身。
 そこにでっぷりとしたはげ頭の男はいない。代わりに、薙刀を携えた逆髪の青年が立っていた。
「そんじゃあ、行くか!」
 前傾姿勢で野原を疾走する駆。前方にはゾンビの群れが鎌やスコップを手に突っ込んでくる。
 接触の直前で強く踏み込み、薙刀を高速で八の字に振り回す。ゾンビたちの手から道具が腕ごと跳ね上がり、次には首が転げ落ちていく。
「今日のために買ったんだ。たんと味わいな」
 とはいえ相手は集団。駆はたちまち周囲を囲まれた。繰り出される農具の先端を薙刀で弾くのが精一杯になっていく。
 そうしてできたゾンビのドーナツを、けたたましい機関銃の音が薙ぎ払っていく。振り向く駆。
「フォローが遅えよ」
「悪いな。後ろがつかえているようだ」
 赤坂・仁(CL2000426)はそう言いながらも冷静に背筋を伸ばし、オフィスのロビーを歩くサラリーマンのようにつかつかと早足に歩いて向かってくる。黒いスーツに黒ネクタイ。更に黒いサングラスという彼のいでたちもそれらしさを際立たせていた。
 だが彼の肩から下がっているのはビジネスバッグではない。携行軽機関銃である。
 大量のゾンビが群がる作戦においてこれほどピッタリな武器もない。仁は冷静に銃口を右へ左へ動かしつつ、しかしトリガーは引きっぱなしでゾンビの波を払っていく。
 一方、彼の後ろでは椎野 天(CL2000864)がバック走行しながら機関銃を乱暴に振り回していた。
 追いかけてくるゾンビたちが次々とひっくり返り、地面でばたばたと暴れている。
「俺は天の名を持つエージェント。今日はゾンビの村へとやってきました。これから私が記録することはすべて真実です! これを聞いたあなた、どうか真実を伝えてください! なーんつって!」
 天はげらげらと笑いながら仁の背中を叩く。
 頷きと同時に前後を入れ替え、その間に弾をリロード。仁が後続のゾンビたちを薙ぎ払う。
「フゥー! まるでゾンビが紙切れだぜ!」
 駆が周囲を見回すと、小さな小屋を発見した。
「あそこだな。援護頼むぜ!」
「了解した」
 二人同時に進路を確保。弾幕によって開かれたロードを走り抜け、駆は小屋の扉を蹴破った。
 おびえすくむ農夫を見つけ、サムズアップ。
「よう旦那、俺がゾンビやサイコパスに見えるか? オーケー、ついてきな!」

●シークエンスB-1:赤穂住宅地
 銃を斜め下に構え、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)はゆっくりと路地を進んでいく。
 家々はみな荒れ果て、ゴミやそうでないものが路上に転がっている。
 奏空はごくりと喉を鳴らした。
「妖につかれてゾンビになった人はしかたない。心苦しいけど、せめてその苦しみから解放して……」
 と言いながら路地を曲がると、目の前にゾンビが現われた。
 眼球が片方外れた青年が両手を振り上げて掴みかかってくる。
「うわー! ぎゃああああ!」
 奏空は顔面めがけて銃を乱射。仰向けに吹き飛んだゾンビは後方の犬小屋を破壊しながら転がった。
「や、やっぱり恐い!」
 急いで銃をリロード。その間に近くの民家から次々とゾンビが飛び出してくる。
 勿論古い映画のようにゆったりとした歩みではない。例えるなら暴走した野犬である。
「ちょ、はやいはやい! 下がって!」
 『猪突猛進無鉄砲』戎 斑鳩(CL2000377)はスリングショットをゾンビの足下へ向けて連射。数発は外れ、数発は当たったが、ゾンビは匍匐状態でも変わらない速度で食らいついてくるではないか。
 たちまち足にタックルをうけ、押し倒される斑鳩。
「あかん……!」
 覆い被さってきたゾンビの頭へ奏空が至近距離で発砲。爆発した頭と崩れ落ちる身体を蹴り飛ばし、『コルトは俺のパスポート』ハル・マッキントッシュ(CL2000504)は周囲をぐるりと見回した。
「おーい、助けに来たぞ! そこを動くなよ!」
 わざと大声で叫びながら、機関銃のトリガーを引き絞る。自身をぐるぐると回し、飛びかかってくるゾンビの群れを薙ぎ払った。
 慌てて頭を押さえてかがむ奏空。
「なにその重装備!」
「ゾンビつったらコレだろ。それより……近いぜ」
 ハルは視線を虚空に動かして言った。正確には壁のずっと向こうにあるものを透視しているのだが、うまく判別できない。仮に透視が利いてもある程度は集中する必要があるし、何よりゾンビとそうでない人間の区別をいちいちつけていてはキリがない。と言うわけで、感情探査とのデュアルブートで対応していた。戦闘の手をたびたび休めなくてはならないのは不便だが、正確性は高い。
「見つけたぞ。この先だ。っつーかなんて格好してやがる」
 ハルは苦笑して、路地の先へと走っていく。奏空と斑鳩は顔を見合わせ、その後を追った。

●シークエンスC-1:赤穂公民館
 こんな状態から語るのはいささか不作法ではあるが。
 『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)はゾンビの海に呑まれていた。
「邪魔だ!」
 一人に群がり、山のようになったゾンビ。それが機関銃の音によって一斉に吹き飛ばされていく。
 懐良は乱れた前髪を手早く整えると、起き上がって向かってくるであろうゾンビたちに追撃の鉛弾を叩き込んでやった。
「このオレの天才的兵法脳に隙はない! いいか、こういう風に一部屋一通路ごとにクリアリングを欠かすな! リロードは連携しろ! 勝利の風は我にありだ、はっはーァ!」
「あ、あの、通路から入ってくる分はどうすれば!」
 部屋に窓や扉からなだれ込んでくるゾンビの群れを、来るそば来るそば日本刀で切り払っていた神室・祇澄(CL2000017)は流れる汗をぬぐい取った。
 老若男女。二秒に一回の割合で掴みかかってくる状態である。ベルトコンベアで流れてくる刺身にタンポポを乗せ続ける作業を彷彿とさせた。実際、祇澄の中ではゾンビが次々とやってくるというよりベルトコンベアで大量にゾンビが流れてきてそれを次々に捌いて出荷しているような感覚になりつつあるのだ。ちなみにこれが更に進行すると音ゲーかなにかをやっている気分になれる。
「クリアリングっていっても、ぜ、全部この部屋に集まってませんか!?」
「それならそれで構わん。後が楽になるだけだ!」
「そんなぁ!」
 そう言いながらも次々に捌いていけるのが祇澄である。
 同じ背丈のゾンビが同時にやってきてそれを一筆書きの要領で一斉斬首出来たときなど頭の中で『ふるこんぼ!』という声が聞こえたほどである。
 ゾンビを殺すドン?
「う、うわあ、思ったより沢山居る! ううん恐くない、恐くなんか無い!」
 窓からよじよじと入ってくるゾンビをパンチで押し返す御白 小唄(CL2001173)。
 こっちはもはやモグラ叩きだった。今の小唄にあまり打撃力がないので、二回から三回ほど叩き返してやっと倒せるイメージだ。なので時間経過と共に窓の外にはどんどんゾンビがたまっていく。なんだか後回しにした夏休みの宿題みたいで、小唄は軽くげんなりした。
「もう、どれだけいるの!」
 いっぺんにはみ出てきたゾンビを雷を纏った回し蹴りで粉砕すると、祇澄の方へと駆け寄った。
「そろそろ別の部屋に行こっ、先にスタミナがきれちゃ――うわっ!」
 小唄が天井裏から落ちてきたゾンビに押し倒された。
 もみあう小唄。懐良は窓を破って一斉になだれ込んでくるゾンビの対応に手一杯だ。
 肩に噛みついたゾンビが、そのまま肩組織ごと食いちぎっていく。
「い、痛……!」
 悲鳴にしても苦しい声を上げて目を瞑る小唄。
 祇澄は素早く身を翻し、ゾンビを蹴り飛ばす。
 うつろな目をして苦しむ小唄を引っ張り上げると、懐良へと呼びかけた。
「場所を移しましょう。こっちです!」
「あっ、待て! ええいお前はついてくるな!」
 懐良は足にすがりついてくるゾンビたちを無理矢理薙ぎ払ってから、祇澄を追いかけて走った。

●シークエンス1-B:地獄
 駆は農夫の腕を引いて走った。
 肩や胸からはひどい出血をし、見ようによってはゾンビよりも損傷している。
 負傷したのか片目も瞑ったままだ。
 そんな彼めがけ、クワが叩き込まれる。
「くそっ!」
 薙刀で受け止め、蹴り飛ばす。反対側から飛んできた草刈り鎌が突き刺さり、よろめいた隙に足にゾンビがすがりつく。
「やべえ、パスだ!」
「お、おう!」
 農夫を投げ飛ばされ、天は慌ててキャッチした。片腕で機関銃射撃を行ないつつである。
 ゾンビがそれを追いかけたが、駆は壁になるように薙刀を翳して立ち塞がる。
 腕や脚、首筋に刃物が突き刺さった。
「おいお前、本格的にヤバイんじゃ……」
「昔っから身体は丈夫なんだ。気にせずぶっぱなしな!」
「……ちぃ!」
 天はゴーグルをかけなおし、農夫をしっかりとガードした。
「耳ふさいで走りな! 油断したらおだぶつだぜ!」
「し、しかし……」
「大丈夫だこっちはプロフェッショナルだからな! ほら走れ!」
 耳どころか目まで瞑って走り出す農夫。横合いから食らいつこうとしたゾンビを、天は高速ダッシュからのダブルラリアットで次々に蹴散らした。
 そこへ、軽トラックが全速力で突っ込んでくる。運転席にはゾンビだ!
「嘘だろオイ!」
 腕を交差させてガード。車が正面から衝突する。数メートルを吹き飛ばされ、バウンドしつつ転がる天。運転席にいたゾンビも衝撃でフロントガラスから吹き飛び、頭を粉砕して停止した。
 仁は急いで農夫のところまで駆け寄ると足を止めてゾンビを掃射する。
 周囲はゾンビの群れ。天も駆も負傷し、農夫はおびえすくんで仁にすがりついている。
 ゾンビは機関銃で薙ぎ払っているが、彼を囲む輪は徐々に狭まっていた。
 農夫が泣きわめく。
「もうだめだ! みんな死ぬんだ!」
「……」
 仁は口をきゅっと引き結んだまま、サングラスの端に軽トラックを映した。

●シークエンス2-B:地獄
「おいおっさん! 待たせたな!」
 ハルは隅に隠れていたフリーライターの男を引っ張り出し、周囲のゾンビたちを機関銃で牽制した。探索対象が見つかればもう戦闘に集中できる。
 と言うところで、改めてフリーライターの姿を見やった。
「あんた血まみれなのかと思ったら、最初からそういう服なんだな。趣味か?」
「いや、作業着みたいなもので……」
 彼は真っ赤なスーツを着込んでいた。
 いや、それよりも重要なことがある。
「ハルさん、あかんて! ゾンビめっちゃ集まっとる!」
 召雷を乱射しながらゾンビを牽制していた斑鳩が、飛びかかってきた子供のゾンビに引き倒され、ゾンビに群がられていく。
「戎さん!」
 同じく召雷を乱射してゾンビを振り払う奏空。
 が、これが最後の召雷だ。氣力切れである。奏空の額はびっしりと汗ばみ、服はぼろぼろになっていた。
「戎さん、あなたの背中は僕が守るよ。必ず生きて帰る」
「やめえやそれ死ぬフラグやん」
「そうはいってもさ……」
 ここは路地の奥の奥。袋小路である。
 そこへ、ゾンビがぎっしりと集まってきているのだ。
 ハルは口汚い英語を吐き捨てた。
「大声あげてゾンビを集めすぎたか。無傷で助けたはいいが、脱出するのがつらすぎる」
 仲間は氣力切れ。ゾンビは満載。おまけに保護対象を守りつつときたものだ。
 奏空が拳銃を乱射しながらじわじわ下がってくる。斑鳩も疲労が限界だ。
「どうするの!? ここで耐えてばかりじゃそのうち……」
「ダァム! 死ぬ気で突破するしかねえだろ!」
 ハルは取り出したペットボトルの水に術式を混ぜて飲み干すと、地面に勢いよく叩き付けた。
「神に祈って打ちまくれ! hurry-up!」

●シークエンス3-B:地獄
「みつけたっ! もう少しの辛抱だからね!」
 小唄は掃除ロッカーから少年を発見すると、ぎゅっと抱きしめた。
 安心させるためか。そうではない。今現在周囲をゾンビに囲まれているからだ。
 腕や足、肩や首筋に噛みつき、噛み千切っていく。
 小唄はそれを必死に堪え忍んだ。
「もう、大丈夫だよ……僕たちが、必ず……」
 忍耐は永遠に続くものではない。
 小唄はやがて脱力し、子供を抱えたままがっくりと膝をついた。
 子供へと伸びる手。
 それを、ひらめく光が切断した。
 間に割り込み、周囲のゾンビを次々と切り払っていく祇澄。
「御白さん、しっかり!」
 両腕で御白と子供を抱え上げる祇澄。
 勢いをつけて走ると、窓から思い切り外へと飛び出した。
 自由落下。
 祇澄は両目を風に晒しながらも、両足から無理矢理にでも着地した。御白と子供はしっかり両腕に保持されている。
 そんな彼女を出迎えるように、別の場所から離脱していた懐良が機関銃を窓に向けた。追いかけようと身を乗り出すゾンビたちを牽制する。
「よくやった! 任務完了だな!」
「い、いえまだ……」
 祇澄が振り返ると、大量のゾンビが公民館からわき出している。
「序盤の段階で倒す量が少なかったか。子供をしっかり抱えていろ」
 懐良はゾンビの群れに弾幕をはりつつ後退……しようとして、立ち止まった。慌てて振り返る御白。
「どうしたの、早く行かないと!」
「二人とも、思い切り村の出口へ走れ。いいな?」
「でも……」
「忘れたか? オレは天才兵法家だ。オレがやれと言ったらやる。そうすれば全員無事でパーフェクトクリアだ。行け!」
「は、はい!」
 祇澄たちは走った。
 背中は視界の端へ、遠のいていく。
 懐良の機関銃がガチンと音を立てた。苦笑する懐良。
「オレもヤキが回ったぜ……とかとか! 言ってみたかったんだよなあ!」
 たちまち、懐良はゾンビの波に呑まれた。

●シークエンスX:カンダタの糸
 祇澄と御白は走る。
 血まみれの庭を走る。
 肉片だらけの路地を走る。
 死体だらけの野原を走る。
 互いに満身創痍だ。お互いを支えながら、子供を庇いながら、前へ前へと走るほかない。
 その後ろを、横を、前を、大量のゾンビが覆った。
 腕に食らいつくゾンビの首を口にくわえた刀で切断。足に食らいついてきたゾンビによろめき、転倒する。
 子供を手放しそうになって、御白は必死に抱きかかえながら転がった。
 仰向けになる祇澄。
 ゾンビたちが駆け寄ってくる。
 すぐ目の前で、老婆のゾンビが高く高く鉈を振り上げた。
 目は瞑らない。
 こういうときに目を瞑らないのが、神室祇澄という女である。
 なぜならば。
「神室!」
 ドン、という音と共に老婆が吹き飛んでいった。急ブレーキが鳴り響き、半円ターンする軽トラック。荷台でお互いを支え合った天とハルが周囲のゾンビにめいっぱいの弾幕を浴びせた。
 ひっくりかえるゾンビの群れ。
 運転席から仁が呼びかけてくる。
「乗れ!」
 駆が助手席から飛び出し、祇澄と御白、そして子供をいっぺんに抱え上げた。そのまま荷台に放り込む。
 荷台ではボロボロになった懐良が苦笑していた。
「出して、早くはやく!」
 奏空が涙目になって銃を乱射。斑鳩が運転席をがしがしと叩いた。
「振り落とされるなよ」
 仁はそうとだけ言うと、召雷の乱れ打ちによって開いた道をアクセルべた踏みで突っ切った。

 ……そして。
 妖に壊滅させられた村は、F.i.V.Eによって完全に封鎖。残った妖たちも駆除され、実質的に妖の脅威は消失した。
 生き残りは外部の人間も含めて三人。
 彼らは警察の取り調べで『私たちを助けてくれた人たちにお礼をしたい』と述べたが、彼らの言う『助けてくれた人たち』の正体は依然として知られていない。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです