【妖精郷】妖精と覚者が出会いお茶をする
●
妖精郷――
妖精が住むと言われたその場所は、植物で作られた天蓋でもなければ、七色の光が躍るように乱舞する空間でもない。森の中にありそうな、普通の村であった。家は木を組んで作った西洋風のもので、道もそれなりに舗装されている。耳が尖っている『妖精』だけではなく、普通の人間も混じっていた。
言うなれば――妖精と人が混じった村だ。
「遠い所からどうも。村長のケレセリオンです」
老いた妖精がやってきた覚者に一礼する。その様子は神秘的と呼ぶよりは、牧歌的だった。見た目が奇異でなければ、どこかの田舎の一シーンとも言えよう。
奇異。
彼らが妖精と呼ばれる理由は、その尖った耳と服装だ。どこか植物を想起させる服装と、尖った耳。古妖でないことは守護使役を連れていることで明白だ。彼らはれっきとした人間――それも覚者なのだろう。
「聞けばアッキームの結界を打破したとか。いやはや、大した見識と実力をお持ちのようだ。色々とお話を聞きたいですな」
お茶を用意しながら、そんなことを言うケレセリオン。FiVEの覚者を警戒している様子はない。客人としてもてなそうとしているようだ。
「我々の事? ふむ、森に籠ってた以上のことはないのですが……それでも良ければお話ししましょう」
ここにとどまってケレセリオンの話を聞くもよし。村に出ていろんな妖精に話を聞くもよし。術士に自分達とは違う術を学びに行くもよし。村を散策し、目で何かを見つけるもよし。
のどかな妖精の郷土。覚者達はどのように過ごすのだろうか?
妖精郷――
妖精が住むと言われたその場所は、植物で作られた天蓋でもなければ、七色の光が躍るように乱舞する空間でもない。森の中にありそうな、普通の村であった。家は木を組んで作った西洋風のもので、道もそれなりに舗装されている。耳が尖っている『妖精』だけではなく、普通の人間も混じっていた。
言うなれば――妖精と人が混じった村だ。
「遠い所からどうも。村長のケレセリオンです」
老いた妖精がやってきた覚者に一礼する。その様子は神秘的と呼ぶよりは、牧歌的だった。見た目が奇異でなければ、どこかの田舎の一シーンとも言えよう。
奇異。
彼らが妖精と呼ばれる理由は、その尖った耳と服装だ。どこか植物を想起させる服装と、尖った耳。古妖でないことは守護使役を連れていることで明白だ。彼らはれっきとした人間――それも覚者なのだろう。
「聞けばアッキームの結界を打破したとか。いやはや、大した見識と実力をお持ちのようだ。色々とお話を聞きたいですな」
お茶を用意しながら、そんなことを言うケレセリオン。FiVEの覚者を警戒している様子はない。客人としてもてなそうとしているようだ。
「我々の事? ふむ、森に籠ってた以上のことはないのですが……それでも良ければお話ししましょう」
ここにとどまってケレセリオンの話を聞くもよし。村に出ていろんな妖精に話を聞くもよし。術士に自分達とは違う術を学びに行くもよし。村を散策し、目で何かを見つけるもよし。
のどかな妖精の郷土。覚者達はどのように過ごすのだろうか?

■シナリオ詳細
■成功条件
1.のんびりと妖精郷ですごす。
2.妖精達と話し合う。
3.なし
2.妖精達と話し合う。
3.なし
たどり着いた妖精郷。のどかな場所でゆっくりと。
●場所情報
人里離れた森の中。結界に守られた小さな村です。家屋が木でできている以外は、際立って人間の村と変わりありません。変わりがあるとすれば耳が尖った『妖精』がその辺りを歩いている事でしょうか?
村人も『妖精』と普通の人間がいます。外から来た人への偏見はありません。珍しいとは思っているようですが、それ以上の感情はなさそうです。また、大人はともかく子供は翼人や獣憑のような見た目が目立つ覚者は珍しいのか、興味津々に見てきます。
・村長と話をする。
しわくちゃの顔の『妖精』です。名前はケレセリオン。この村を立ち上げた者です。
要約すると『二十五年前にこの姿になり、世俗を離れた』とのことです。
・術式の事を尋ねる。
二十代前半の男性の『妖精』です。名前はアッキーム。
どちらかというと学者肌なのか、武器は山歩き用の最低限で済ましています。
・エフィルディス
『<南瓜夜行2017>妖精が悪い奴らに攫われる』に出てきた『妖精』です。
現在は村を離れて買い物に行っているようです。
・村人
老若男女、様々な人間と『妖精』がいます。総勢で七十人ぐらいです。
皆、覚者に対する態度は穏やかです。
・『偉人列伝』
FiVEの覚者についてきた覚者集団です。いるのかお前達。
妖精の生活に興味津々です。口止めなどを含め、FiVEの言葉には従順です(多少やかましいですが)。
軽いインターミッションです。あるいは幕間です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年01月11日
2018年01月11日
■メイン参加者 8人■

●
妖精郷。正確には『妖精』とでも言うべき覚者の村。
そこにたどり着いた覚者達は、先ず村長の話を聞くことにした。だがそれよりも先に――
「彼らは今までここで穏やかに暮らしてきただけです。脅かすような真似をするのは貴方達も本意ではないと、信じておりますので」
「はっはっは。そこをはき違えるほどこの『発明王』は愚かではないとも」
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は成り行き上ついてきた偉人列伝達に釘を刺す。鷹揚な態度で首を振る『発明王』。
「…………」
その後ろで『何かあったら止めるから』と無言で意志表示する『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)。長い付き合いだ。彼らが『しでかしそうな』タイミングはなんとなくわかる。
「エフィルディス様はいらっしゃらないのですね。お会いしたかったのですが」
妖精郷のことを聞いてやってきた『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は寂しそうにつぶやく。ハロウィンの日に出会ったエフィルディスという女性。この村にいると聞いたのに。
「そうね。買い物に行っていると聞いたから、しばらくすれば帰ってくるんじゃないかな?」
同じく妖精郷のことを聞いてやってきた『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)が指を唇の下あたりに当てて答える。思えばエフィルディスとの出会いも村の外だ。その事を思い出して、少し懐かしんでいた。
「ここの妖精さん達が覚者なのだとしたら、まだ発見されてない未知の因子、なのでしょうか」
村長の村に向かう途中ですれ違う人々を見ながら、『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)が呟く。獣憑や付喪の身体特徴とは違う姿。FiVEの知り得ない覚者の因子。それが隠れて住んでいたのなら、その意思は尊重したい。
「だとしたら、非常に興味があるわ」
うんと頷く『月々紅花』環 大和(CL2000477)。未知な出来事に興味を持つのは、五麟学園の生徒故か。知識はたくさん得たいが、かといって彼らの生活を踏みにじるつもりはない。平穏を望むのなら、そっとしておくつもりだ。
「二十五年前……僕は、まだ生まれていない頃なんですね」
二十五年という数字の重さを感じ取る宮神 羽琉(CL2001381)。自分の人生よりも長い時間。この村にはそれだけの歴史がある。穏やかで偏見を持たない彼ら。こうして接触した以上、その歴史に一石を投じることになることは避けられないだろう。
それが、良き方向か悪しき方向になるかはともかく――
「ようこそ。何もない所ですがゆっくりしていってください」
村長のケレセリオンが家に進める。手作り感のある木造の家。だけどラジオ等の文明も混じっている。伝承で言う『妖精』ではなく、時代を生きた人間である証拠とも言えた。
「聞けばアッキームの結界を打破したとか。いやはや、大した見識と実力をお持ちのようだ。色々とお話を聞きたいですな」
●
覚者達は皆で村長のケレセリオンに話をすることにした。互いの自己紹介の後に、皆が気になっている事を尋ねた。
「『妖精』となった方々は元々外国の方なのですか? 名前もそれ風ですし、外見も今まで遭遇した覚者では見なかった姿ですし」
「ああ。この名前はですな。二つ名のようなものです」
いのりの質問にケレセリオンは苦笑したような顔で応えた。
「二つ名?」
「はい。この姿になった者は本来の名前ではなく二つ名を名乗る、というこの村のルールです。些か恥ずかしいですが、『妖精』らしさを出すためのお遊びと受け取っていただければ」
呆れたような理由だが、本名を隠すというのはその裏には『身分を隠す』という理由もあった。覚者が見た目の奇異さで責められることは、残念な話だがある話だ。家族へ迷惑がかかることを恐れ、身分を隠す者も少なくない。
「ということは、特に外人によく発現する因子、という事ではありませんのね」
「逆にこの村以外にも長耳を持つ人がいるのかもしれないわね」
「ええ。そういった人達も村の外で見かけます。お話をして村に勧誘することもありますよ」
大和の言葉にケレセリオンは頷きながら答える。どうやらこの村――あるいはこの土地に関係しているものではないようだ。
「成程な。同じ姿……というか同じ因子の人を集めた村か。どうやって探すんだ、その『外』の妖精?」
「村の中に予知夢を見ることのできる者がいまして。その人は我々のような姿はしていないのですが」
飛馬が村長の言葉をかみ砕くように解釈し、口にする。ついでに浮かんだ疑問に、よどみなく答えるケレセリオン。おそらく夢見の事だろう。FiVEの覚者達は合点がいった、とばかりに頷いた。
彼らは外部との接触を最低限にとどめ、『妖精』の因子を持つ者だけを探していたのだ。おそらく最初は四半世紀前に発生したであろう差別から守るために。そのまま『村の掟』として当時の防衛策は継続し、今に至る――
「そっか。『妖精』を見つけて誘いに行くのね。わたし達が妖や隔者の事件に挑むように。
あ、もしかしてエフィルディスの『買い物』って、その事でもあるのね」
何かに気づいたかのように御菓子が口を押える。本来の意味での物品購入もあるのだろうが、彼らが『外』に出る主な理由は同因子を迎えに行く時だ。ハロウィンの時も自分達と別れた後に『妖精』と接触していたのかもしれない。
「村の成り立ちについては理解しました。所であのような結界を張っていたのはどういう理由です? 妖に狙われやすい『何か』があるのですか?」
「――そうですね。貴方達はエフィルディスを助けた人だ。その恩に報いましょう」
千陽の質問に一瞬言葉を止めたケレセリオンだが、すぐに言葉を続ける。
「戯言と思って聞いてください。
この村にはここではない理論。ここではない時間。ここではない場所。そういったここではない場所に通じる『門』があるのです」
突然の言葉に何と答えていいかわからなくなる覚者達。その反応を当然とばかりに頷き、ケレセリオンは続ける。
「恋の力が実体化する理論。私達のような姿をした『妖精』のいる場所。巨大な蒸気列車が一つの街として存在する世界。そういった『異なる』所と繋がっている門。
その『歪み』が妖を発生させているのか。あるいは偶然か。ともあれ結界を形成しているのは村人と『門』を護るためです」
「それは……」
質問した千陽自身が二の句も告げない答えだった。嘘とは思えない。騙すならもう少しらしい事例を出すだろうし、そもそも嘘を吐く理由が薄い。だが仮にそれが真実だとすれば――
「はっはっは。異空間に通じる門などファンタジーな。そのようなこと、あるはずがない。この『発明王の生まれ変わり』が断言し……ぐふぅ」
『100%外れる断言』で有名(?)な『発明王』の笑いを、肘で突いて止めさせるミュエル。
「もしかして……アッキームさんの、結界も、『門』から?」
「はい。『門』の向こう側で得た知識を元に作ったようです」
たどたどしく質問するミュエル。確かにあの結界は今まで知る物とは違った結界だった。実際に接したからよくわかる。単に人を退ける、という自分達の持つ結界とは別の構造だ。
「そうですか……。この村に引きこもっているのではなく、この村で守っているのですね。
あ、村の外に出るつもりはないのですか?」
「私個人はありませんな。他の人はそうではないのかもしれませんが」
澄香の問いに首を振るケレセリオン。二十五年続けた村の運営と門の守護を止めるつもりはないようだ。とはいえ、他の村人にそれを強要させるつもりはないらしい。
「…………」
羽琉はケレセリオンと覚者達の話を聞きながら、少しずつ考えを纏めていた。『門』を護る『妖精』。彼らの行動を否定はできない。だけどこのままでもいられないだろう。何時か訪れる危機に対し、自分ができることは何だろうと自問していた。
「その『門』はどちらに?」
「村の中央に大きな建物があります。村の見学ついでに見に行かれますか?」
●
「空を飛んだ気分はどうかしら?」
「すごーい! 風が気持ちいー」
子供を抱えた澄香は、翼を広げて村の上空で羽ばたいていた。澄香の翼を見た村の子供達が興味を持ち、ならばと子供を抱えて空の散歩に連れていた。
「村の『外』って知っているのかな?」
「話は聞いたことあるー。お姉ちゃんみたいな人がたくさんいるって」
伝聞程度には村の外の情報は入っているようだ。かといって積極的に外に出ようというつもりはないらしい。村の中だけで教育や生活が成り立っていることもあるのだろう。
(あれが……『門』の建物)
空から見下ろせば、ケレセリオンの言っていた大きな建物がすぐにわかる。そこを中心に家が建てられている。宗教的、というよりは最初に『門』の建物を作ったがゆえに必然性でそうなった形だ。
「こんにちわ、わたしは大和よ。外の人間とお話するのは初めてかしら?」
大和も村の子供達と話をしていた。覚醒して瞳の色が変わる大和の変化を見て、驚きの声をあげる子供達。
「他にも現の因子を持つ方も普段は見た目がかわらないけれど、覚醒すると年齢が変わったりするわよ。子供が急に大人になったりその逆の人もいるわ」
「ほんとー?」
「他にはどんなかくじゃがいるの?」
興味津々に聞いてくる子供達。そんな子供達に静かにほほ笑んで問い返す大和。
「外には興味があるのかしら?」
「あるあるー。早く大きくなって『お買い物』に行きたーい!」
「僕は『門』の方に行きたーい。不思議な場所に行ってみたい!」
そんな子供の言葉に、大和は『門』のある建物を見る。村長の言葉が正しいのなら、FiVEにもない未知の技術がそこにあるのだ。
「すげーな。それも『門』で知った剣術か?」
「それとフェンシングを組み合わせたものです。日本刀とは違ったしなる剣での戦闘術ですね」
飛馬は『妖精』の剣術家と手合わせしていた。防御に長ける巖心流だが、それとは別方向で防御向きの剣術だ。飛馬の剣術が堅牢なら、『妖精』の剣術は流麗だ。受けるのではなく、流してかわす動き。
「やっぱり世の中は広いんだなぁ。
そう言えば俺達は妖精妖精って呼んでるけど、自分達としてはどう思ってるんだ? 今までに会ったみんなは、妖精って言われて否定しない代わりに自分達で妖精って名乗ってるところは見たことないなぁと思ってさ」
「まあこの耳ですからね。妖精と呼ばれることは仕方ありません」
長い耳に指をあてる彼。妖精と呼ばれて否定するつもりはないが、自分達も他の人と同じ覚者であり人間なのだ。特別視はしていない。
「皆さんと妖精の方は仲良く暮らしているようですけれど、怖いと思った事はありませんか?」
「え? そりゃ全力で殴られたら死ぬだろうけど」
いのりは覚醒していない人を見つけ、質問をぶつけた。ぶつけられた方は素っ頓狂な声をあげて、腕を組んで考える。今まで疑問に思ったことはないようだ。
「ないなぁ。むしろいないと困るぐらいだし」
他の人にも聞いてみたが、概ね同じような答えだった。外部との情報を断っているがゆえに覚者に対する偏見もシャットアウトされていることもあるが、根底にあるのは相互理解だろう。共に役割があり、生活に必要である。そしてなによりも――
(妖の危機がない、というだけで人の心はここまで穏やかになるのですね……)
この村では妖の脅威がない。ギスギスした緊張がないだけで、人の心はこうも変わるものなのか。
「守護使役……アタシのは、レンゲさん、ていうの……」
「初めまして、レンゲさん。こっちはキャリーよ」
ミュエルは『妖精』の守護使役を紹介しながら話をしていた。彼らも守護使役とは仲が良く、生活のパートナーとしていた。
「そっか……この村だと、『妖精』は力仕事担当、なんだ」
「他の人より力があるからねー。その分、細かな設計や農作業はおま返しているけど」
村の話を聞いたミュエル。村の中で『妖精』が特別視されていることはない。ただ適材適所的に覚者のパワーを使っての力仕事に割り当てられており、他の作業を覚醒していない人がやる、という分業が為されていた。
「――これが、ここ二十五年で起きた事例です」
羽琉は村長と話をしていた。ケレセリオンが世俗から離れている間、世間では何が起きていたのかを。私情や主観を交えず、起きた事実だけを伝える。
「そうですか。雷獣様の結界は晴れましたか。それは良かった」
全てを聞き終えたケレセリオンの一言目は、そんな言葉だった。その後に問い返す。
「ご親切にありがとうございます。しかしなぜこのことをお伝えになったのです?」
「世俗を離れて生きることと、自衛のための情報を得ないことは別だと思います」
村長の問いにそう答える羽琉。
「今回僕たちが結界を突破したように、今後も突破される可能性はあります。そして力づくで突破するような存在もいるのです。
僕らはこの村の事を喋ったりはしませんが、その上で備えは必要なのかな、と」
「ありがたいことです。そうですね、貴方達が大妖と呼ぶ者からすれば確かにあんな結界は意味が薄いでしょう。
しばし検討させていただきますよ」
その頷きを見ながら羽琉はこの村の未来を案じていた。少なくとも、外との交流が少なかった今までのようにはいかない。今後どう変わっていくのか。
「ふむふむ。そうやって結界を仕掛けているんですね」
「成程。妖を退けるような結界をいろいろな場所に配備できるのであれば、人々が傷つくことは少なくなるでしょう」
御菓子と千陽は、壊れた結界を張りなおしているアッキームについて行っていた。村の外の木々に手を当て、小さく呪文を唱える。その作業を村を包むように行っている。
「合言葉を知らない者全てを拒むから、合言葉を知らない人間も攻撃するけどね」
「うーん。そうなると五麟市に仕掛けたとして……電車とかも拒まれるのね」
残念、と肩をすくめる御菓子。言葉を喋らない乗り物も対象になるのなら、街を包むには些か不便だ。交通網が寸断される。
「それはそれとして、知っていて損はない術だと思います。その、信じがたい事ですが『門』の件も含めて」
術の有効活用法に関しては実際に戦って実証されている。千陽は額に手を当てて村長の話を思い出していた。
「ええ。最初に村長に門の事を聞いた時は『何それ?』って思いましたよ」
千陽の言葉に苦笑するアッキーム。だが実際に『門』があったからこそ、この結界があるのだ。
「具体的にどのようなものなのかな? その『門』は」
「ええと、あの建物の中に不意に黒い何かが開くんだ。本当に何時開くか分からないから見張りが常に立っていて、その中に飛び込むと……よくわからない場所につくんだ」
御菓子の問いかけに要領を得ない答えを返すアッキーム。彼自身もよく分かってはいないようだ。然もありなん。
「ところでエフィルディス嬢はいつごろお戻りになるのでしょうか? もう一度挨拶をしておきたいのですが」
「今日中には戻ってくる予定なんだが……確かに遅いな」
何とはなしに話を変えた千陽。その言葉に怪訝な口調に変わるアッキーム。ハロウィンのことを思いだし、千陽の表情も不安にかげる。
「遅い、というのはよくある事なのですか?」
「いや。世間慣れしていないけどこういう事には真面目な子だから遅くなるということは――」
そんなアッキームの声を遮ったのは、突如走り込んできた『妖精』の一人だった。
「大変だ! 妖の群れがこちらに向かっているという『お告げ』が出た! あと一〇分後だ!」
「安心しろ。結界はほぼ張り終えている。少し足止めをしてくれればなんとか……待て、どの方向から来るんだ、その妖は?」
「ああ、よかった。南側と西南側からだ。森の獣道を真っ直ぐに――」
「拙いぞ。西南側はエフィルディスが帰ってくる道だ。妖の群れと鉢合わせじゃないか!」
「なんだって……!?」
●
平穏な『妖精』の村に襲い掛かる妖の群れ。
その群れが進む先には、その事情を知らぬ『妖精』がいる。
暴虐の波が今、『妖精』の村を飲み込もうとしていた――
妖精郷。正確には『妖精』とでも言うべき覚者の村。
そこにたどり着いた覚者達は、先ず村長の話を聞くことにした。だがそれよりも先に――
「彼らは今までここで穏やかに暮らしてきただけです。脅かすような真似をするのは貴方達も本意ではないと、信じておりますので」
「はっはっは。そこをはき違えるほどこの『発明王』は愚かではないとも」
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は成り行き上ついてきた偉人列伝達に釘を刺す。鷹揚な態度で首を振る『発明王』。
「…………」
その後ろで『何かあったら止めるから』と無言で意志表示する『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)。長い付き合いだ。彼らが『しでかしそうな』タイミングはなんとなくわかる。
「エフィルディス様はいらっしゃらないのですね。お会いしたかったのですが」
妖精郷のことを聞いてやってきた『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は寂しそうにつぶやく。ハロウィンの日に出会ったエフィルディスという女性。この村にいると聞いたのに。
「そうね。買い物に行っていると聞いたから、しばらくすれば帰ってくるんじゃないかな?」
同じく妖精郷のことを聞いてやってきた『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)が指を唇の下あたりに当てて答える。思えばエフィルディスとの出会いも村の外だ。その事を思い出して、少し懐かしんでいた。
「ここの妖精さん達が覚者なのだとしたら、まだ発見されてない未知の因子、なのでしょうか」
村長の村に向かう途中ですれ違う人々を見ながら、『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)が呟く。獣憑や付喪の身体特徴とは違う姿。FiVEの知り得ない覚者の因子。それが隠れて住んでいたのなら、その意思は尊重したい。
「だとしたら、非常に興味があるわ」
うんと頷く『月々紅花』環 大和(CL2000477)。未知な出来事に興味を持つのは、五麟学園の生徒故か。知識はたくさん得たいが、かといって彼らの生活を踏みにじるつもりはない。平穏を望むのなら、そっとしておくつもりだ。
「二十五年前……僕は、まだ生まれていない頃なんですね」
二十五年という数字の重さを感じ取る宮神 羽琉(CL2001381)。自分の人生よりも長い時間。この村にはそれだけの歴史がある。穏やかで偏見を持たない彼ら。こうして接触した以上、その歴史に一石を投じることになることは避けられないだろう。
それが、良き方向か悪しき方向になるかはともかく――
「ようこそ。何もない所ですがゆっくりしていってください」
村長のケレセリオンが家に進める。手作り感のある木造の家。だけどラジオ等の文明も混じっている。伝承で言う『妖精』ではなく、時代を生きた人間である証拠とも言えた。
「聞けばアッキームの結界を打破したとか。いやはや、大した見識と実力をお持ちのようだ。色々とお話を聞きたいですな」
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覚者達は皆で村長のケレセリオンに話をすることにした。互いの自己紹介の後に、皆が気になっている事を尋ねた。
「『妖精』となった方々は元々外国の方なのですか? 名前もそれ風ですし、外見も今まで遭遇した覚者では見なかった姿ですし」
「ああ。この名前はですな。二つ名のようなものです」
いのりの質問にケレセリオンは苦笑したような顔で応えた。
「二つ名?」
「はい。この姿になった者は本来の名前ではなく二つ名を名乗る、というこの村のルールです。些か恥ずかしいですが、『妖精』らしさを出すためのお遊びと受け取っていただければ」
呆れたような理由だが、本名を隠すというのはその裏には『身分を隠す』という理由もあった。覚者が見た目の奇異さで責められることは、残念な話だがある話だ。家族へ迷惑がかかることを恐れ、身分を隠す者も少なくない。
「ということは、特に外人によく発現する因子、という事ではありませんのね」
「逆にこの村以外にも長耳を持つ人がいるのかもしれないわね」
「ええ。そういった人達も村の外で見かけます。お話をして村に勧誘することもありますよ」
大和の言葉にケレセリオンは頷きながら答える。どうやらこの村――あるいはこの土地に関係しているものではないようだ。
「成程な。同じ姿……というか同じ因子の人を集めた村か。どうやって探すんだ、その『外』の妖精?」
「村の中に予知夢を見ることのできる者がいまして。その人は我々のような姿はしていないのですが」
飛馬が村長の言葉をかみ砕くように解釈し、口にする。ついでに浮かんだ疑問に、よどみなく答えるケレセリオン。おそらく夢見の事だろう。FiVEの覚者達は合点がいった、とばかりに頷いた。
彼らは外部との接触を最低限にとどめ、『妖精』の因子を持つ者だけを探していたのだ。おそらく最初は四半世紀前に発生したであろう差別から守るために。そのまま『村の掟』として当時の防衛策は継続し、今に至る――
「そっか。『妖精』を見つけて誘いに行くのね。わたし達が妖や隔者の事件に挑むように。
あ、もしかしてエフィルディスの『買い物』って、その事でもあるのね」
何かに気づいたかのように御菓子が口を押える。本来の意味での物品購入もあるのだろうが、彼らが『外』に出る主な理由は同因子を迎えに行く時だ。ハロウィンの時も自分達と別れた後に『妖精』と接触していたのかもしれない。
「村の成り立ちについては理解しました。所であのような結界を張っていたのはどういう理由です? 妖に狙われやすい『何か』があるのですか?」
「――そうですね。貴方達はエフィルディスを助けた人だ。その恩に報いましょう」
千陽の質問に一瞬言葉を止めたケレセリオンだが、すぐに言葉を続ける。
「戯言と思って聞いてください。
この村にはここではない理論。ここではない時間。ここではない場所。そういったここではない場所に通じる『門』があるのです」
突然の言葉に何と答えていいかわからなくなる覚者達。その反応を当然とばかりに頷き、ケレセリオンは続ける。
「恋の力が実体化する理論。私達のような姿をした『妖精』のいる場所。巨大な蒸気列車が一つの街として存在する世界。そういった『異なる』所と繋がっている門。
その『歪み』が妖を発生させているのか。あるいは偶然か。ともあれ結界を形成しているのは村人と『門』を護るためです」
「それは……」
質問した千陽自身が二の句も告げない答えだった。嘘とは思えない。騙すならもう少しらしい事例を出すだろうし、そもそも嘘を吐く理由が薄い。だが仮にそれが真実だとすれば――
「はっはっは。異空間に通じる門などファンタジーな。そのようなこと、あるはずがない。この『発明王の生まれ変わり』が断言し……ぐふぅ」
『100%外れる断言』で有名(?)な『発明王』の笑いを、肘で突いて止めさせるミュエル。
「もしかして……アッキームさんの、結界も、『門』から?」
「はい。『門』の向こう側で得た知識を元に作ったようです」
たどたどしく質問するミュエル。確かにあの結界は今まで知る物とは違った結界だった。実際に接したからよくわかる。単に人を退ける、という自分達の持つ結界とは別の構造だ。
「そうですか……。この村に引きこもっているのではなく、この村で守っているのですね。
あ、村の外に出るつもりはないのですか?」
「私個人はありませんな。他の人はそうではないのかもしれませんが」
澄香の問いに首を振るケレセリオン。二十五年続けた村の運営と門の守護を止めるつもりはないようだ。とはいえ、他の村人にそれを強要させるつもりはないらしい。
「…………」
羽琉はケレセリオンと覚者達の話を聞きながら、少しずつ考えを纏めていた。『門』を護る『妖精』。彼らの行動を否定はできない。だけどこのままでもいられないだろう。何時か訪れる危機に対し、自分ができることは何だろうと自問していた。
「その『門』はどちらに?」
「村の中央に大きな建物があります。村の見学ついでに見に行かれますか?」
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「空を飛んだ気分はどうかしら?」
「すごーい! 風が気持ちいー」
子供を抱えた澄香は、翼を広げて村の上空で羽ばたいていた。澄香の翼を見た村の子供達が興味を持ち、ならばと子供を抱えて空の散歩に連れていた。
「村の『外』って知っているのかな?」
「話は聞いたことあるー。お姉ちゃんみたいな人がたくさんいるって」
伝聞程度には村の外の情報は入っているようだ。かといって積極的に外に出ようというつもりはないらしい。村の中だけで教育や生活が成り立っていることもあるのだろう。
(あれが……『門』の建物)
空から見下ろせば、ケレセリオンの言っていた大きな建物がすぐにわかる。そこを中心に家が建てられている。宗教的、というよりは最初に『門』の建物を作ったがゆえに必然性でそうなった形だ。
「こんにちわ、わたしは大和よ。外の人間とお話するのは初めてかしら?」
大和も村の子供達と話をしていた。覚醒して瞳の色が変わる大和の変化を見て、驚きの声をあげる子供達。
「他にも現の因子を持つ方も普段は見た目がかわらないけれど、覚醒すると年齢が変わったりするわよ。子供が急に大人になったりその逆の人もいるわ」
「ほんとー?」
「他にはどんなかくじゃがいるの?」
興味津々に聞いてくる子供達。そんな子供達に静かにほほ笑んで問い返す大和。
「外には興味があるのかしら?」
「あるあるー。早く大きくなって『お買い物』に行きたーい!」
「僕は『門』の方に行きたーい。不思議な場所に行ってみたい!」
そんな子供の言葉に、大和は『門』のある建物を見る。村長の言葉が正しいのなら、FiVEにもない未知の技術がそこにあるのだ。
「すげーな。それも『門』で知った剣術か?」
「それとフェンシングを組み合わせたものです。日本刀とは違ったしなる剣での戦闘術ですね」
飛馬は『妖精』の剣術家と手合わせしていた。防御に長ける巖心流だが、それとは別方向で防御向きの剣術だ。飛馬の剣術が堅牢なら、『妖精』の剣術は流麗だ。受けるのではなく、流してかわす動き。
「やっぱり世の中は広いんだなぁ。
そう言えば俺達は妖精妖精って呼んでるけど、自分達としてはどう思ってるんだ? 今までに会ったみんなは、妖精って言われて否定しない代わりに自分達で妖精って名乗ってるところは見たことないなぁと思ってさ」
「まあこの耳ですからね。妖精と呼ばれることは仕方ありません」
長い耳に指をあてる彼。妖精と呼ばれて否定するつもりはないが、自分達も他の人と同じ覚者であり人間なのだ。特別視はしていない。
「皆さんと妖精の方は仲良く暮らしているようですけれど、怖いと思った事はありませんか?」
「え? そりゃ全力で殴られたら死ぬだろうけど」
いのりは覚醒していない人を見つけ、質問をぶつけた。ぶつけられた方は素っ頓狂な声をあげて、腕を組んで考える。今まで疑問に思ったことはないようだ。
「ないなぁ。むしろいないと困るぐらいだし」
他の人にも聞いてみたが、概ね同じような答えだった。外部との情報を断っているがゆえに覚者に対する偏見もシャットアウトされていることもあるが、根底にあるのは相互理解だろう。共に役割があり、生活に必要である。そしてなによりも――
(妖の危機がない、というだけで人の心はここまで穏やかになるのですね……)
この村では妖の脅威がない。ギスギスした緊張がないだけで、人の心はこうも変わるものなのか。
「守護使役……アタシのは、レンゲさん、ていうの……」
「初めまして、レンゲさん。こっちはキャリーよ」
ミュエルは『妖精』の守護使役を紹介しながら話をしていた。彼らも守護使役とは仲が良く、生活のパートナーとしていた。
「そっか……この村だと、『妖精』は力仕事担当、なんだ」
「他の人より力があるからねー。その分、細かな設計や農作業はおま返しているけど」
村の話を聞いたミュエル。村の中で『妖精』が特別視されていることはない。ただ適材適所的に覚者のパワーを使っての力仕事に割り当てられており、他の作業を覚醒していない人がやる、という分業が為されていた。
「――これが、ここ二十五年で起きた事例です」
羽琉は村長と話をしていた。ケレセリオンが世俗から離れている間、世間では何が起きていたのかを。私情や主観を交えず、起きた事実だけを伝える。
「そうですか。雷獣様の結界は晴れましたか。それは良かった」
全てを聞き終えたケレセリオンの一言目は、そんな言葉だった。その後に問い返す。
「ご親切にありがとうございます。しかしなぜこのことをお伝えになったのです?」
「世俗を離れて生きることと、自衛のための情報を得ないことは別だと思います」
村長の問いにそう答える羽琉。
「今回僕たちが結界を突破したように、今後も突破される可能性はあります。そして力づくで突破するような存在もいるのです。
僕らはこの村の事を喋ったりはしませんが、その上で備えは必要なのかな、と」
「ありがたいことです。そうですね、貴方達が大妖と呼ぶ者からすれば確かにあんな結界は意味が薄いでしょう。
しばし検討させていただきますよ」
その頷きを見ながら羽琉はこの村の未来を案じていた。少なくとも、外との交流が少なかった今までのようにはいかない。今後どう変わっていくのか。
「ふむふむ。そうやって結界を仕掛けているんですね」
「成程。妖を退けるような結界をいろいろな場所に配備できるのであれば、人々が傷つくことは少なくなるでしょう」
御菓子と千陽は、壊れた結界を張りなおしているアッキームについて行っていた。村の外の木々に手を当て、小さく呪文を唱える。その作業を村を包むように行っている。
「合言葉を知らない者全てを拒むから、合言葉を知らない人間も攻撃するけどね」
「うーん。そうなると五麟市に仕掛けたとして……電車とかも拒まれるのね」
残念、と肩をすくめる御菓子。言葉を喋らない乗り物も対象になるのなら、街を包むには些か不便だ。交通網が寸断される。
「それはそれとして、知っていて損はない術だと思います。その、信じがたい事ですが『門』の件も含めて」
術の有効活用法に関しては実際に戦って実証されている。千陽は額に手を当てて村長の話を思い出していた。
「ええ。最初に村長に門の事を聞いた時は『何それ?』って思いましたよ」
千陽の言葉に苦笑するアッキーム。だが実際に『門』があったからこそ、この結界があるのだ。
「具体的にどのようなものなのかな? その『門』は」
「ええと、あの建物の中に不意に黒い何かが開くんだ。本当に何時開くか分からないから見張りが常に立っていて、その中に飛び込むと……よくわからない場所につくんだ」
御菓子の問いかけに要領を得ない答えを返すアッキーム。彼自身もよく分かってはいないようだ。然もありなん。
「ところでエフィルディス嬢はいつごろお戻りになるのでしょうか? もう一度挨拶をしておきたいのですが」
「今日中には戻ってくる予定なんだが……確かに遅いな」
何とはなしに話を変えた千陽。その言葉に怪訝な口調に変わるアッキーム。ハロウィンのことを思いだし、千陽の表情も不安にかげる。
「遅い、というのはよくある事なのですか?」
「いや。世間慣れしていないけどこういう事には真面目な子だから遅くなるということは――」
そんなアッキームの声を遮ったのは、突如走り込んできた『妖精』の一人だった。
「大変だ! 妖の群れがこちらに向かっているという『お告げ』が出た! あと一〇分後だ!」
「安心しろ。結界はほぼ張り終えている。少し足止めをしてくれればなんとか……待て、どの方向から来るんだ、その妖は?」
「ああ、よかった。南側と西南側からだ。森の獣道を真っ直ぐに――」
「拙いぞ。西南側はエフィルディスが帰ってくる道だ。妖の群れと鉢合わせじゃないか!」
「なんだって……!?」
●
平穏な『妖精』の村に襲い掛かる妖の群れ。
その群れが進む先には、その事情を知らぬ『妖精』がいる。
暴虐の波が今、『妖精』の村を飲み込もうとしていた――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
