遺跡を駆ける白い虎
●風の遺跡に巣食う妖
奈良県のとある遺跡群。
その中央に、古妖「麒麟」が鎮座する遺跡がある。
真下に自身と同じ姿をした大妖らしき存在を封じている彼は何らかの影響もあって自我を失い、荒れ狂ってしまっていた。
先日、F.i.V.E.の覚者達がこの地の調査を行う最中に麒麟を鎮め、彼と話をしたことでようやく、この遺跡群についてその存在意義などが徐々に明らかになってきつつある。
その四方にはそれぞれ、似たような構造の遺跡が確認されていた。
現在、北の大亀遺跡、南の朱鳥遺跡を調査、それぞれ奥にいた妖、大亀と朱鳥を撃破しているが、東西にも遺跡が確認されている。
おそらく、それぞれの遺跡の奥にいると思われる妖。それがいるのであれば、対処をして欲しいと麒麟から依頼を受けている状況だ。
この為、覚者達は西にある風の吹き荒れる遺跡から、調査に取り掛かることにしていた。
前回、仮称、風の遺跡のトラップを解除したF.i.V.E.の覚者達。
「話は聞いてるよ」
「解除するとは思っていたけれど、びっくりしたよー」
その報告を聞いていたMIAの2人は、彼らの活躍を絶賛する。
「早いね。あっさり遺跡のトラップを解除したそうじゃないか」
MIAの片割れ、翼人の水玉・彩矢が覚者達の活躍を労う。
今回の遺跡は原型がほぼ残っていたことに加え、遺跡内に炎など煩わしいものがなかったことがスムーズな探索に繋がった。
いくつかの要素が重なったということもあるが、1回でトラップを攻略できたというのは成果として大きい。
2人組の彼女達だけでは、妖の妨害もあってそう簡単にはいかなかっただろうと彩矢は語った。
「でもー、ここからが問題だねー」
もう1人、酉の獣憑である荒石・成生がやや緩い口調で語るが、その状況は決して楽観視できるものではない。
以前、朱鳥遺跡の最奥において、覚者達と共にMIAの2人も強力な妖と戦っているが、今回もまたそうなりそうだと語る。
「遺跡の最奥に、獣のような姿の自然系妖がいるらしい」
彩矢によると、MIAの2人は現在、東の遺跡を外から調査している最中とのこと。
そちらはそちらで難儀な状況らしいが、今回はこちらに協力してくれると言う。
「えっとー、麒麟さん……だっけー。その頼みで妖を倒しておきたいんだよねー?」
「そうなのじゃ」
成生が状況を確認すると、それまで聞き手に回っていた『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)が頷く。
事前にこの妖と対面するのが難しい以上、夢見の力で妖の力について情報を売る為、けいに力を借りたというわけだ。
「現れるのは、白い虎のような妖じゃな。そいつは、獣の頭を持つ渦状の風の妖を従えておるのじゃ」
けいの予知夢によれば、白い虎はランク3上位。従える妖もランク2上位の力を有するとのことだ。
攻撃方法など配布した資料を確認するとして。今回はMIAの2人も戦いに備えて十分に休息をとっており、覚者達の手助けに回ると言う。
「前回もそうだったけれど、あたし達はバックアップに回る」
「希望がなければー、ランク2の妖を抑えようと思うよー」
覚者達は打ち合わせを行った上で、遺跡奥の妖討伐に出向く。
「……武運を願っておるのじゃ」
やや不安げながらも、けいは小さく手を振って出発する覚者達を送り出すのだった。
奈良県のとある遺跡群。
その中央に、古妖「麒麟」が鎮座する遺跡がある。
真下に自身と同じ姿をした大妖らしき存在を封じている彼は何らかの影響もあって自我を失い、荒れ狂ってしまっていた。
先日、F.i.V.E.の覚者達がこの地の調査を行う最中に麒麟を鎮め、彼と話をしたことでようやく、この遺跡群についてその存在意義などが徐々に明らかになってきつつある。
その四方にはそれぞれ、似たような構造の遺跡が確認されていた。
現在、北の大亀遺跡、南の朱鳥遺跡を調査、それぞれ奥にいた妖、大亀と朱鳥を撃破しているが、東西にも遺跡が確認されている。
おそらく、それぞれの遺跡の奥にいると思われる妖。それがいるのであれば、対処をして欲しいと麒麟から依頼を受けている状況だ。
この為、覚者達は西にある風の吹き荒れる遺跡から、調査に取り掛かることにしていた。
前回、仮称、風の遺跡のトラップを解除したF.i.V.E.の覚者達。
「話は聞いてるよ」
「解除するとは思っていたけれど、びっくりしたよー」
その報告を聞いていたMIAの2人は、彼らの活躍を絶賛する。
「早いね。あっさり遺跡のトラップを解除したそうじゃないか」
MIAの片割れ、翼人の水玉・彩矢が覚者達の活躍を労う。
今回の遺跡は原型がほぼ残っていたことに加え、遺跡内に炎など煩わしいものがなかったことがスムーズな探索に繋がった。
いくつかの要素が重なったということもあるが、1回でトラップを攻略できたというのは成果として大きい。
2人組の彼女達だけでは、妖の妨害もあってそう簡単にはいかなかっただろうと彩矢は語った。
「でもー、ここからが問題だねー」
もう1人、酉の獣憑である荒石・成生がやや緩い口調で語るが、その状況は決して楽観視できるものではない。
以前、朱鳥遺跡の最奥において、覚者達と共にMIAの2人も強力な妖と戦っているが、今回もまたそうなりそうだと語る。
「遺跡の最奥に、獣のような姿の自然系妖がいるらしい」
彩矢によると、MIAの2人は現在、東の遺跡を外から調査している最中とのこと。
そちらはそちらで難儀な状況らしいが、今回はこちらに協力してくれると言う。
「えっとー、麒麟さん……だっけー。その頼みで妖を倒しておきたいんだよねー?」
「そうなのじゃ」
成生が状況を確認すると、それまで聞き手に回っていた『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)が頷く。
事前にこの妖と対面するのが難しい以上、夢見の力で妖の力について情報を売る為、けいに力を借りたというわけだ。
「現れるのは、白い虎のような妖じゃな。そいつは、獣の頭を持つ渦状の風の妖を従えておるのじゃ」
けいの予知夢によれば、白い虎はランク3上位。従える妖もランク2上位の力を有するとのことだ。
攻撃方法など配布した資料を確認するとして。今回はMIAの2人も戦いに備えて十分に休息をとっており、覚者達の手助けに回ると言う。
「前回もそうだったけれど、あたし達はバックアップに回る」
「希望がなければー、ランク2の妖を抑えようと思うよー」
覚者達は打ち合わせを行った上で、遺跡奥の妖討伐に出向く。
「……武運を願っておるのじゃ」
やや不安げながらも、けいは小さく手を振って出発する覚者達を送り出すのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ランク3の妖、白虎(仮称)の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
画像は、中央遺跡に封印されていると言う大妖、黒麒麟と思われます。
これを抑える古妖、麒麟の為にも、
まずは、西にある風の遺跡(仮称)の奥にいる強力な妖の討伐を願います。
今回は純戦シナリオですので、
これまで関連シナリオにご縁のなかった方も
ご協力いただければ幸いです。
●妖(自然系)
◎ランク3……白虎(仮称)
全長3メートルほど、
一見獣に見えるものの風で構成されたような獣です。
本来はランク4に届く力の妖ですが、
遺跡の封印の影響なのか、能力が抑えられています。
それでも強敵ですので、油断なきよう対処願います。
・疾走……物単貫3[100、65、35%]
・咆哮……特全・減速
・捕食……物近単・HP吸収
・烈風爪襲撃……特近列貫2[100、50%]
鈍化、重力無効。30%の確率で攻撃にニ連が発動します。
○ランク2
前回現われたランク2よりも若干格上の相手です。
直径25センチほどの白い竜巻ですが、
その上部に獣のような頭が見えます。
戦闘開始時に4体おり、
2体以下になると、毎ターン30%程度の確率で同個体の援軍が来ます。
白虎撃破で消滅、増援もなくなります。
・逆風……特近単・怒り
・暴風……特遠列・鈍化
・強襲……物遠単・流血
●NPC
『MIA』……発現者女性2人組。
名前は彼女達の苗字、頭文字から。
両者共にかなりの力を持つようです。
基本的には、ランク2妖の出現を抑えてくれます。
今回は初期から敵の数が2人を上回る為、
抑え切れない場面も出る可能性があります。
2人で攻撃、回復は行います。
覚者としての力は、現在の覚者達と同等程度です。
○水玉・彩矢(みずたま・あや)翼×水
飛行、物質透過をセット済み。
ぐいぐい引っ張るタイプのちょっと露出高めの女性。
戦闘では回復支援を行いつつ、弓矢、波動弾を放ちます。
○荒石・成生(あらいし・なるき)獣(酉)×土
面接着、守護空間をセット済み。
相棒の彩矢に振り回されがちな気弱な性格で、露出が小さな服を着た女性。
前に立って直接拳で殴りかかり、防御態勢を取ります。
●遺跡について
遺跡内部のトラップは前回解除済みです。
今回は遺跡最奥に直行し、
大妖を倒すことになります。
遺跡途中の通路に出現する妖に関しましては、
応援の覚者が対処してくれる為、
問題ありません。
それでは、よろしくお願いいたします!
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
7/8
公開日
2018年02月24日
2018年02月24日
■メイン参加者 7人■

●風の遺跡最奥部に挑む
奈良県にある遺跡群……というには互いに距離があるが、大きく十字に並ぶ遺跡の西側にF.i.V.E.の覚者達の姿があった。
「風の遺跡も、ついに白虎と対決だ」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が意気揚々と、その遺跡の入り口の前に立つ。
「工藤、お前と共に戦うのも、久しぶりだな」
『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)もまた遺跡を仰ぎ、奏空の隣に並ぶ。
『黒霧』との決戦の最中、両慈は親しき女性を失った。
無愛想だった彼だが、それを乗り越えて多少は丸くなったらしい。
「足を引っ張るかもしれないが、今回も宜しく頼む」
微笑した両慈が奏空の頭に手をのせ、小さく撫でる。
「……妖を倒せばいいんですね。はい、分かりました」
今回は大物相手とあって、この遺跡関連依頼に初めて参加する者もいる。
「……ええと、MIAのひとたちと一緒に、ランク2を抑えながら……。ランク3の撃破を目指す感じ、ですか……?」
大辻・想良(CL2001476)は今回の状況を確認し、戦闘準備を整える。
芦原 ちとせ(CL2001655)も前線で身を張り、相手を殴りつけていこうと考えている様子。
「ええ、今回はよろしくね。想良、ちとせ」
遺跡調査の協力人、MIAの片方、翼人、水玉・彩矢が挨拶を交わす。引っ込み思案な想良は小さく頷く。
「遺跡探索頑張ってたみんなが妖退治するって聞いて、応援に来たぜ!」
続いて、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)もまた、その入り口に立ち、中からそよぐ風を感じて。
「しかも、相手は白虎なんだろ! ちょっとワクワクだぜ!」
自身の雷獣も白虎型。だからこそ、対決させてみたいと翔も思っていたのだ。
「そーだねー、ワクワクするよー」
もう1人のMIA、酉の獣憑である荒石・成生が能天気な態度で調子を合わせる。
彼女達は新規参加メンバーにも分かりやすく、状況について説明してくれていた。
「遺跡を攻略して、主を撃破することが麒麟の負担を軽減するのに繋がるってことだったな」
『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)も状況を再確認する。今回は、その負担の一つを消す為の戦いと言うわけだ。
「四神に相応した妖はこれで3体目……遺跡に封印が破れでもしたら、この人数じゃ対処しきれなくなる」
現状、中央の遺跡にいる麒麟が大妖を抑えてくれている。
「今の内に、倒しておくにこしたことはねーよな。まだ、東の遺跡だって控えてんだ」
飛馬の言葉に、奏空も頷いて推察する。
「こうして四方の遺跡の妖を倒していけば、麒麟も少しは力を取り戻す事が出来るのかな」
中央の遺跡で話した麒麟は、何が起こったのか分からないと言っていた。それを少しずつ解明していければ……。
「分からないなら、今は進んでくしかないよね」
新たな決意を固め、奏空は仲間と共に遺跡へ……。
そこへ、息を切らしながら駆けつけてきたのは、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)だ。
「遅刻ぎりぎりでしたが、何とか間に合ったようですね……」
遺跡に力を押さえつけられた存在とはいえ、強敵に違いない。少しでも力になれればと、ラーラは駆けつけてくれたのだ。
「ラーラ・ビスコッティ、参ります!」
気合を入れる彼女を加え、覚者達は遺跡へと突入していく。
遺跡通路は、ほのかな明るさを感じる。
とはいえ、普通に行動する分には問題ないだけで、しっかり調べようとすればやはり灯りが欲しくなる。
とりわけ、初めてこの遺跡に入る両慈はその構造などが気になったようで。
「すまないが獅子王、お前の使役のともしびを頼めないか?」
応じた飛馬が守護使役の竜丸に灯火を使わせて周囲を照らす。
「気をつけてください」
すると、ラーラが超視力で周囲に現れる渦巻く風の妖の一団を発見した。
そこは、別途集まる覚者チームが相手をすることになる。
メンバー達は彼らに感謝しつつも、駆けつけたラーラを含めて改めて最奥の妖討伐に当たって作戦を練る。
2度の交戦を経て、奥の部屋手前に応援の覚者を残し、MIAを含めたメンバーが最奥の部屋へと踏み込む。
扉を開けば、部屋の内側から強風が噴き出す。
とはいえ、以前の探索において押し出されたほどの強風ではなく、メンバー達はしばし堪える。
それをやり過ごした覚者達の前方、部屋の中央には全長3mほどある白い獣のような存在が鎮座していた。
一見獣のような敵だが、よく見るとその体は風のようなものが集まっている。
「相手は自然系……生物系じゃねーのか」
翔は注意深く、その妖を観察する。
白虎、というよりは、西の方角を司る白虎を真似た何か、なのだろうか。
「よくわかんねーけど!」
翔が面倒な考えを一蹴してしまう中、メンバーはしばし思考していて。
「なんだって、お前達遺跡の妖は四神を模した姿してんだろう」
これが偶然だと、麒麟が言っていたのを思い出す奏空。しかし、そんな偶然なんてあるものなのだろうか。
「……遺跡の性格に相応しい姿の、しかも、これほど強力な個体が現れるような状態……」
それは、何度か一連の遺跡探索に参加していたラーラも感じていたことらしい。
「遺跡群が、ある種の特異点のようなものになっていたりするのでしょうか」
「西の遺跡に虎の姿じゃ、まるで四神だね。どおりで強いわけだ」
そんな話に、ちとせは妙に納得してしまう。
目の前にいる妖の力は、その肌で痛いほどに感じる。
「……と、いったところで、倒す相手にゃ変わらないんだけどね」
「本来ならば、ランク4相当の妖か」
そう言うものの、妖との戦いに多少のブランクができてしまった両慈としては不安もある。
「久方ぶりで腕が鈍っている俺にはキツイ相手だな……。だが、この様に油断出来ない相手こそ、気を引き締め直すには丁度良い」
気合を入れ直す両慈。続いて翔が覚醒し、中学生の姿から青年の姿へと変貌する。
「まあ、倒してみたら分かるかなっ!」
それを受け、白く大柄な妖も動き出す。
一際大きく嘶いたそいつの周りに、獣の頭を持つ渦巻く風が4体姿を現した。
「悪いが好き勝手にはさせねーぜ! 邪魔だと思うんなら、まずは俺から倒してくんだな」
覚醒する飛馬は姿こそ変わらぬが、2本の刃を手に身構える。
ちとせも刺青を赤く輝かせて。
「あんたらがどれだけ強い風吹かせようとも、今や風はこっちに吹いてるんだよ。その体で感じるといい」
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
黒の髪に青い瞳だったラーラは、銀髪に燃えるような赤い瞳へと変色させ、叫びと共に宙へと跳び上がった白い獣のような妖と対するのである。
●猛る風獣を止めろ!
素早く疾走してくる白い獣。
まるで覚者達の体をすり抜けるように、後方にまでそいつは駆け抜ける。
「あんたの狙いはわからないけれど」
最初、妖は遺跡を守っているのかと思ったちとせだったが、先ほど聞いた話によれば、妖は遺跡の外に出ようとしていた素振りがあるという。
素早く部屋内を駆け巡っていた妖は、いつの間にかメンバー達の前方に戻っていた。
だが、メンバー達の、ちとせの体には傷がつけられている。
「すまないね……。こっちにも引けない理由があるんだよ」
体内に宿る炎を燃やし、ちとせは前線で身構えていた。
「とんだ暴れ虎だ」
対処が遅れた飛馬だが、両手に刃を構えて。
今の攻撃もそうだが、例え全部は受け止められずとも。
「俺が最前線で受け続ければ、少しでも仲間の負担は軽減できるはずだ」
飛馬は鬨の声を上げて、仲間の士気を高めていく。
髪を金色に染めた奏空は自分から狙いが反れたのを横目にし、英霊の力を引き出してその力を高めていく。
赤い瞳で見つめる相手は自然系の妖で、物理攻撃の効果は薄い。
「今回は、特攻の強い人が何人か来てくれたからね」
メインの攻撃を仲間に任せ、奏空は敢えて物理攻撃仕様のままで戦いに臨み、霧を発して妖の弱体化へと動く。
その直後、翔が足元に魔法陣を描く。彼が呼び出すは、龍の形を模した雷だ。
雷龍は部屋中を一通り駆け巡った後、妖どもに雷を叩き落としていく。
(眠らせられたら、時間稼ぎできるかも……)
想良も初撃は後方から取り巻きを意識しつつ、妖全員を眠りへと誘う空気に包み込んでいく。
うまく1体が眠ってはくれたが、残りは一斉に襲い掛かってくる。
それを、MIAの2人が身を挺して止めようと動く。
「早く、あんたらはそっちを」
「こっちもー、できるだけがんばるよー」
仲の良い2人のこと。渦巻く敵達の前に飛び出し、同時に攻撃を仕掛けていく。
覚者達は攻めくる妖、白い獣を狙って。
(奴が本気を出せば、それだけで苦戦は必至……)
後方の両慈も黒髪を銀色に変え、応戦していた。
どうやら、先ほどの突撃の余波を受けていたらしいが、英霊の力で自らに強化を施して仲間の回復に回る。
「悪いが、ここは堅実に行かせて貰うぞ」
それに、小さく頷くラーラも内に宿る力を強く引き出す。
遺跡の僅かな段差を気にかけながら戦場を立ち回り、ラーラは煌炎の書を手に炎を巻き起こしていた。
戦いは始まったばかり。
荒れ狂う風に立ち向かい、覚者達はそれを静めんと因子の力をぶつけていく。
翔の手から放たれた力は雷雲を巻き起こし、敵陣に雷を叩き落としていく。
それは白虎を狙った一撃ではあるのだが、近場の獣頭型の妖をも巻き込む。
眠っていた1体を巻き込まぬようにと考えた翔だったが、さすがに難しかったようだ。
ただ、目を覚ましてしまった妖を含め、そいつらはMIAの2人が抑えてくれている。
翼人の彩矢が弓を射て、酉の獣憑の成生が率先して拳を叩きこむ。
「ランク2の奴、頭、あるよな……?」
翔は相手の渦巻きの上部に獣の頭があることに注視し、一度波動弾を発射してみた。
貫かれた妖は、傷む表情を見せる。
獣が風を纏って強化していると考えた翔だったが、相手は時に霧散し、また形を作っているところから、推測は外れていたようである。
想良は思った以上に相手を眠らせられなかったと感じながら、相手の放つ風に煽られ、切られるメンバーの癒しへと浄化の力を仲間へと振り撒く。
「あの獣頭型、白虎が発生させたりしてるんでしょうか……?」
戦闘前、白虎の周りに湧き出したこともあり、妖が呼び寄せる状況であるのは間違いない。
できるだけ敵の分析をと、想良はエネミースキャンも試みる。
まだまだ相手の残り体力は十分。それでも、仲間の攻撃による減少幅などを把握することで、対処の幅が広がる。
ラーラは逐一状況を確認してから、敵陣目掛けて荒れ狂う紅き炎の奔流を浴びせかけた。
怒れる獅子を思わせる炎は白虎とぶつかっていく。
――獅子と虎。紅と白。炎と風。
相容れぬ存在同士のバトルが目の前で起こっているようにも見えた。
そこで、ラーラが自身の状態もチェックする。理由は、獣頭型が放つ逆風にあった。
突如逆向きに吹きつけられる風には、相手の感情を煽る効果があるらしく、MIAの2人も時に煽られて攻撃一辺倒で動くハメになっていたようだ。
奏空は仲間の不浄を払おうと、神秘の水を波紋に乗せて戦場に広げていく。
薬師如来の加護もあって我を取り戻す仲間もいるが、決して万全な精神状態にしてくれるわけではない。
「落ち着け。冷静さを失うな」
両慈も怒り狂う仲間の為にと深層水の神秘の力を使い、仲間の精神状態を癒していたようだった。
そんな中、奏空は抱いていた疑問を白虎へとぶつけずにはいられず。
「お前達の目的はなんなんだ! 何の為に出現し、ここにいるんだ!」
無駄だと奏空もわかってはいたが、やはり答えは返ってこない。
力が完全な妖であれば、あるいは奏空の送心に言葉を返したかもしれない。
しかし、白虎は荒々しい風となり、豪腕を使って猛然と鋭い爪を薙ぎ払ってくる。
それを飛馬が少しでも、受け止めようとした。
高いバランス能力で強く地面を踏みしめた彼は全力で敵の突撃を受け止め、戦線の維持に努める。
同じ前線のちとせだったが、こちらは少しずつ状態が不安定になっていて。
「ギュスターブ! あなたの強さを見せてやろうじゃないか」
仲間の手当てを受け、さらに自らの細胞を活性化させた彼女は、ギザギザした刀身に鱗を思わせる紋様が刻まれたギュスターブを手に、白虎へと斬りかかって行く。
「あんたが命を懸けて遺跡を守るんなら、こっちも命を懸けて仲間を守るまでさ」
最悪、魂の力を使ってでも。
そう考えたちとせだったが、白虎は彼女の思考ごと食らい尽くそうと牙をむく。
ちとせが戦闘にかける想いは、決して弱いわけではない。
ただ、それ以外にあまり気を回していない部分があり、災いしてしまったのかもしれない。例えば、仲間との連携などがうまくできたなら……。
彼女を庇う飛馬が、白虎の噛みつきを受け止めようとした。
「くっ……!」
飛馬の体を噛み砕く白虎はさらに猛然と爪を振り払い、彼らの体を引き裂こうとする。
その時、ちとせの体から放たれた業火。それが白虎の体を強く焼く。
「グ、グアアアアアアッ!!」
大ダメージを受け、白虎は大きく仰け反る。
当然ながら、ちとせの負担もかなり大きく、命の力に頼ってなお疲労は激しい。
守るつもりが逆に守られたと知った飛馬。
傷は深いが、命を砕くほどじゃないと判断した彼は改めて仲間のカバーに回るべく、身構えるのだった。
傷つくメンバーはいたが、戦況そのものは悪くない。
MIAの2人も奏空や両慈のサポートもあって獣頭型をうまく抑えていたし、白虎の攻撃から飛馬、ちとせが身を張ってくれている。
「日本の平和……大妖の抑え……」
襲い来る白虎の猛攻を防ぐ飛馬。
色々おまけがついてくるのが面倒な戦いではあったが、それでも彼は、強敵との戦いに胸を躍らせていた。
「勝つのは、俺たちだけどよ」
械の因子の力で己の耐性を再度高めた彼は、毅然と相手に言い放つ。
また、それ以外のメンバーが全力で、白虎に攻撃を集中させていた。
ラーラは時に仲間へと自身の精神力を分け与えながらも炎の塊を次々に放ち、新手の獣頭型が現われれば紅き炎の奔流を発して纏めて焼き払う。
新たの獣頭型の出現は、想良も気を回していた。丁度いいタイミングを見て、彼女は再度眠りに誘う空気で妖を包む。
今度は2体が眠ったことで、MIAの2人が起きた1体の獣頭型を撃破し、白虎撃破の援護に回ってきてくれていた。
「援護助かったよ」
「ありがとー、今度はこっちの番ー」
彼女達の力は、一度戦ったF.i.V.E.メンバーも実感しているところ。気弱そうな成生の殴打を、強気な彩矢が弓で援護していく。
覚者の攻撃の手が増えれば、傷つく白虎も咆哮してこちらの動きを止めようとしてくるが、メンバー達の勢いは止まらない。
回復に当たっていた両慈も時に、雷雲を起こして雷を叩きつける。
とどめが近いと仲間の分析で知った奏空も、圧倒的なスピードで白虎の体を切り裂かんと攻撃を浴びせかけていく。
脚がもつれる白虎はその身の風が霧散しかけ、その姿があやふやになって来ていた。
「これで、終わりだぜ!」
そこに、翔が雷を叩き落とし、白虎の全身に痺れを駆け巡らせて。
「ガ、アァ…………」
風の獣は何かを訴えるように小さく吼え、その存在をかき消してしまう。
同時に、眠りについていた獣頭型もまた、この場から消えていったのだった。
●残るは、水の遺跡
妖が消え去った後、覚者達は崩れるように倒れこむ。
「…………っ」
身を起こそうとしていたちとせは、全身の痛みに顔を歪めて。
「……無理をするな。些細な怪我が命取りになる事もある。自分の命を、大事にしろよ」
両慈は潤しの雨を降らし、さらに医学知識を生かしてその傷を少しでも塞ごうとしていく。
応援の覚者達がいてくれたお陰もあって外には問題なく出られそうだが、しばらく安静が必要なちとせは家捜し……もとい、遺跡探索ができそうにないのを、少しばかり残念がっていたようだ。
「今までに、大亀と朱鳥を倒してる……ってことはつまり、最後の東に龍がいるってことだよな?」
確認する翔の言葉に、幾人かが頷く。
次の水の遺跡にいるはずの龍の討伐を視野に入れつつ、メンバー達は風の遺跡を後にしていくのだった。
奈良県にある遺跡群……というには互いに距離があるが、大きく十字に並ぶ遺跡の西側にF.i.V.E.の覚者達の姿があった。
「風の遺跡も、ついに白虎と対決だ」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が意気揚々と、その遺跡の入り口の前に立つ。
「工藤、お前と共に戦うのも、久しぶりだな」
『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)もまた遺跡を仰ぎ、奏空の隣に並ぶ。
『黒霧』との決戦の最中、両慈は親しき女性を失った。
無愛想だった彼だが、それを乗り越えて多少は丸くなったらしい。
「足を引っ張るかもしれないが、今回も宜しく頼む」
微笑した両慈が奏空の頭に手をのせ、小さく撫でる。
「……妖を倒せばいいんですね。はい、分かりました」
今回は大物相手とあって、この遺跡関連依頼に初めて参加する者もいる。
「……ええと、MIAのひとたちと一緒に、ランク2を抑えながら……。ランク3の撃破を目指す感じ、ですか……?」
大辻・想良(CL2001476)は今回の状況を確認し、戦闘準備を整える。
芦原 ちとせ(CL2001655)も前線で身を張り、相手を殴りつけていこうと考えている様子。
「ええ、今回はよろしくね。想良、ちとせ」
遺跡調査の協力人、MIAの片方、翼人、水玉・彩矢が挨拶を交わす。引っ込み思案な想良は小さく頷く。
「遺跡探索頑張ってたみんなが妖退治するって聞いて、応援に来たぜ!」
続いて、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)もまた、その入り口に立ち、中からそよぐ風を感じて。
「しかも、相手は白虎なんだろ! ちょっとワクワクだぜ!」
自身の雷獣も白虎型。だからこそ、対決させてみたいと翔も思っていたのだ。
「そーだねー、ワクワクするよー」
もう1人のMIA、酉の獣憑である荒石・成生が能天気な態度で調子を合わせる。
彼女達は新規参加メンバーにも分かりやすく、状況について説明してくれていた。
「遺跡を攻略して、主を撃破することが麒麟の負担を軽減するのに繋がるってことだったな」
『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)も状況を再確認する。今回は、その負担の一つを消す為の戦いと言うわけだ。
「四神に相応した妖はこれで3体目……遺跡に封印が破れでもしたら、この人数じゃ対処しきれなくなる」
現状、中央の遺跡にいる麒麟が大妖を抑えてくれている。
「今の内に、倒しておくにこしたことはねーよな。まだ、東の遺跡だって控えてんだ」
飛馬の言葉に、奏空も頷いて推察する。
「こうして四方の遺跡の妖を倒していけば、麒麟も少しは力を取り戻す事が出来るのかな」
中央の遺跡で話した麒麟は、何が起こったのか分からないと言っていた。それを少しずつ解明していければ……。
「分からないなら、今は進んでくしかないよね」
新たな決意を固め、奏空は仲間と共に遺跡へ……。
そこへ、息を切らしながら駆けつけてきたのは、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)だ。
「遅刻ぎりぎりでしたが、何とか間に合ったようですね……」
遺跡に力を押さえつけられた存在とはいえ、強敵に違いない。少しでも力になれればと、ラーラは駆けつけてくれたのだ。
「ラーラ・ビスコッティ、参ります!」
気合を入れる彼女を加え、覚者達は遺跡へと突入していく。
遺跡通路は、ほのかな明るさを感じる。
とはいえ、普通に行動する分には問題ないだけで、しっかり調べようとすればやはり灯りが欲しくなる。
とりわけ、初めてこの遺跡に入る両慈はその構造などが気になったようで。
「すまないが獅子王、お前の使役のともしびを頼めないか?」
応じた飛馬が守護使役の竜丸に灯火を使わせて周囲を照らす。
「気をつけてください」
すると、ラーラが超視力で周囲に現れる渦巻く風の妖の一団を発見した。
そこは、別途集まる覚者チームが相手をすることになる。
メンバー達は彼らに感謝しつつも、駆けつけたラーラを含めて改めて最奥の妖討伐に当たって作戦を練る。
2度の交戦を経て、奥の部屋手前に応援の覚者を残し、MIAを含めたメンバーが最奥の部屋へと踏み込む。
扉を開けば、部屋の内側から強風が噴き出す。
とはいえ、以前の探索において押し出されたほどの強風ではなく、メンバー達はしばし堪える。
それをやり過ごした覚者達の前方、部屋の中央には全長3mほどある白い獣のような存在が鎮座していた。
一見獣のような敵だが、よく見るとその体は風のようなものが集まっている。
「相手は自然系……生物系じゃねーのか」
翔は注意深く、その妖を観察する。
白虎、というよりは、西の方角を司る白虎を真似た何か、なのだろうか。
「よくわかんねーけど!」
翔が面倒な考えを一蹴してしまう中、メンバーはしばし思考していて。
「なんだって、お前達遺跡の妖は四神を模した姿してんだろう」
これが偶然だと、麒麟が言っていたのを思い出す奏空。しかし、そんな偶然なんてあるものなのだろうか。
「……遺跡の性格に相応しい姿の、しかも、これほど強力な個体が現れるような状態……」
それは、何度か一連の遺跡探索に参加していたラーラも感じていたことらしい。
「遺跡群が、ある種の特異点のようなものになっていたりするのでしょうか」
「西の遺跡に虎の姿じゃ、まるで四神だね。どおりで強いわけだ」
そんな話に、ちとせは妙に納得してしまう。
目の前にいる妖の力は、その肌で痛いほどに感じる。
「……と、いったところで、倒す相手にゃ変わらないんだけどね」
「本来ならば、ランク4相当の妖か」
そう言うものの、妖との戦いに多少のブランクができてしまった両慈としては不安もある。
「久方ぶりで腕が鈍っている俺にはキツイ相手だな……。だが、この様に油断出来ない相手こそ、気を引き締め直すには丁度良い」
気合を入れ直す両慈。続いて翔が覚醒し、中学生の姿から青年の姿へと変貌する。
「まあ、倒してみたら分かるかなっ!」
それを受け、白く大柄な妖も動き出す。
一際大きく嘶いたそいつの周りに、獣の頭を持つ渦巻く風が4体姿を現した。
「悪いが好き勝手にはさせねーぜ! 邪魔だと思うんなら、まずは俺から倒してくんだな」
覚醒する飛馬は姿こそ変わらぬが、2本の刃を手に身構える。
ちとせも刺青を赤く輝かせて。
「あんたらがどれだけ強い風吹かせようとも、今や風はこっちに吹いてるんだよ。その体で感じるといい」
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
黒の髪に青い瞳だったラーラは、銀髪に燃えるような赤い瞳へと変色させ、叫びと共に宙へと跳び上がった白い獣のような妖と対するのである。
●猛る風獣を止めろ!
素早く疾走してくる白い獣。
まるで覚者達の体をすり抜けるように、後方にまでそいつは駆け抜ける。
「あんたの狙いはわからないけれど」
最初、妖は遺跡を守っているのかと思ったちとせだったが、先ほど聞いた話によれば、妖は遺跡の外に出ようとしていた素振りがあるという。
素早く部屋内を駆け巡っていた妖は、いつの間にかメンバー達の前方に戻っていた。
だが、メンバー達の、ちとせの体には傷がつけられている。
「すまないね……。こっちにも引けない理由があるんだよ」
体内に宿る炎を燃やし、ちとせは前線で身構えていた。
「とんだ暴れ虎だ」
対処が遅れた飛馬だが、両手に刃を構えて。
今の攻撃もそうだが、例え全部は受け止められずとも。
「俺が最前線で受け続ければ、少しでも仲間の負担は軽減できるはずだ」
飛馬は鬨の声を上げて、仲間の士気を高めていく。
髪を金色に染めた奏空は自分から狙いが反れたのを横目にし、英霊の力を引き出してその力を高めていく。
赤い瞳で見つめる相手は自然系の妖で、物理攻撃の効果は薄い。
「今回は、特攻の強い人が何人か来てくれたからね」
メインの攻撃を仲間に任せ、奏空は敢えて物理攻撃仕様のままで戦いに臨み、霧を発して妖の弱体化へと動く。
その直後、翔が足元に魔法陣を描く。彼が呼び出すは、龍の形を模した雷だ。
雷龍は部屋中を一通り駆け巡った後、妖どもに雷を叩き落としていく。
(眠らせられたら、時間稼ぎできるかも……)
想良も初撃は後方から取り巻きを意識しつつ、妖全員を眠りへと誘う空気に包み込んでいく。
うまく1体が眠ってはくれたが、残りは一斉に襲い掛かってくる。
それを、MIAの2人が身を挺して止めようと動く。
「早く、あんたらはそっちを」
「こっちもー、できるだけがんばるよー」
仲の良い2人のこと。渦巻く敵達の前に飛び出し、同時に攻撃を仕掛けていく。
覚者達は攻めくる妖、白い獣を狙って。
(奴が本気を出せば、それだけで苦戦は必至……)
後方の両慈も黒髪を銀色に変え、応戦していた。
どうやら、先ほどの突撃の余波を受けていたらしいが、英霊の力で自らに強化を施して仲間の回復に回る。
「悪いが、ここは堅実に行かせて貰うぞ」
それに、小さく頷くラーラも内に宿る力を強く引き出す。
遺跡の僅かな段差を気にかけながら戦場を立ち回り、ラーラは煌炎の書を手に炎を巻き起こしていた。
戦いは始まったばかり。
荒れ狂う風に立ち向かい、覚者達はそれを静めんと因子の力をぶつけていく。
翔の手から放たれた力は雷雲を巻き起こし、敵陣に雷を叩き落としていく。
それは白虎を狙った一撃ではあるのだが、近場の獣頭型の妖をも巻き込む。
眠っていた1体を巻き込まぬようにと考えた翔だったが、さすがに難しかったようだ。
ただ、目を覚ましてしまった妖を含め、そいつらはMIAの2人が抑えてくれている。
翼人の彩矢が弓を射て、酉の獣憑の成生が率先して拳を叩きこむ。
「ランク2の奴、頭、あるよな……?」
翔は相手の渦巻きの上部に獣の頭があることに注視し、一度波動弾を発射してみた。
貫かれた妖は、傷む表情を見せる。
獣が風を纏って強化していると考えた翔だったが、相手は時に霧散し、また形を作っているところから、推測は外れていたようである。
想良は思った以上に相手を眠らせられなかったと感じながら、相手の放つ風に煽られ、切られるメンバーの癒しへと浄化の力を仲間へと振り撒く。
「あの獣頭型、白虎が発生させたりしてるんでしょうか……?」
戦闘前、白虎の周りに湧き出したこともあり、妖が呼び寄せる状況であるのは間違いない。
できるだけ敵の分析をと、想良はエネミースキャンも試みる。
まだまだ相手の残り体力は十分。それでも、仲間の攻撃による減少幅などを把握することで、対処の幅が広がる。
ラーラは逐一状況を確認してから、敵陣目掛けて荒れ狂う紅き炎の奔流を浴びせかけた。
怒れる獅子を思わせる炎は白虎とぶつかっていく。
――獅子と虎。紅と白。炎と風。
相容れぬ存在同士のバトルが目の前で起こっているようにも見えた。
そこで、ラーラが自身の状態もチェックする。理由は、獣頭型が放つ逆風にあった。
突如逆向きに吹きつけられる風には、相手の感情を煽る効果があるらしく、MIAの2人も時に煽られて攻撃一辺倒で動くハメになっていたようだ。
奏空は仲間の不浄を払おうと、神秘の水を波紋に乗せて戦場に広げていく。
薬師如来の加護もあって我を取り戻す仲間もいるが、決して万全な精神状態にしてくれるわけではない。
「落ち着け。冷静さを失うな」
両慈も怒り狂う仲間の為にと深層水の神秘の力を使い、仲間の精神状態を癒していたようだった。
そんな中、奏空は抱いていた疑問を白虎へとぶつけずにはいられず。
「お前達の目的はなんなんだ! 何の為に出現し、ここにいるんだ!」
無駄だと奏空もわかってはいたが、やはり答えは返ってこない。
力が完全な妖であれば、あるいは奏空の送心に言葉を返したかもしれない。
しかし、白虎は荒々しい風となり、豪腕を使って猛然と鋭い爪を薙ぎ払ってくる。
それを飛馬が少しでも、受け止めようとした。
高いバランス能力で強く地面を踏みしめた彼は全力で敵の突撃を受け止め、戦線の維持に努める。
同じ前線のちとせだったが、こちらは少しずつ状態が不安定になっていて。
「ギュスターブ! あなたの強さを見せてやろうじゃないか」
仲間の手当てを受け、さらに自らの細胞を活性化させた彼女は、ギザギザした刀身に鱗を思わせる紋様が刻まれたギュスターブを手に、白虎へと斬りかかって行く。
「あんたが命を懸けて遺跡を守るんなら、こっちも命を懸けて仲間を守るまでさ」
最悪、魂の力を使ってでも。
そう考えたちとせだったが、白虎は彼女の思考ごと食らい尽くそうと牙をむく。
ちとせが戦闘にかける想いは、決して弱いわけではない。
ただ、それ以外にあまり気を回していない部分があり、災いしてしまったのかもしれない。例えば、仲間との連携などがうまくできたなら……。
彼女を庇う飛馬が、白虎の噛みつきを受け止めようとした。
「くっ……!」
飛馬の体を噛み砕く白虎はさらに猛然と爪を振り払い、彼らの体を引き裂こうとする。
その時、ちとせの体から放たれた業火。それが白虎の体を強く焼く。
「グ、グアアアアアアッ!!」
大ダメージを受け、白虎は大きく仰け反る。
当然ながら、ちとせの負担もかなり大きく、命の力に頼ってなお疲労は激しい。
守るつもりが逆に守られたと知った飛馬。
傷は深いが、命を砕くほどじゃないと判断した彼は改めて仲間のカバーに回るべく、身構えるのだった。
傷つくメンバーはいたが、戦況そのものは悪くない。
MIAの2人も奏空や両慈のサポートもあって獣頭型をうまく抑えていたし、白虎の攻撃から飛馬、ちとせが身を張ってくれている。
「日本の平和……大妖の抑え……」
襲い来る白虎の猛攻を防ぐ飛馬。
色々おまけがついてくるのが面倒な戦いではあったが、それでも彼は、強敵との戦いに胸を躍らせていた。
「勝つのは、俺たちだけどよ」
械の因子の力で己の耐性を再度高めた彼は、毅然と相手に言い放つ。
また、それ以外のメンバーが全力で、白虎に攻撃を集中させていた。
ラーラは時に仲間へと自身の精神力を分け与えながらも炎の塊を次々に放ち、新手の獣頭型が現われれば紅き炎の奔流を発して纏めて焼き払う。
新たの獣頭型の出現は、想良も気を回していた。丁度いいタイミングを見て、彼女は再度眠りに誘う空気で妖を包む。
今度は2体が眠ったことで、MIAの2人が起きた1体の獣頭型を撃破し、白虎撃破の援護に回ってきてくれていた。
「援護助かったよ」
「ありがとー、今度はこっちの番ー」
彼女達の力は、一度戦ったF.i.V.E.メンバーも実感しているところ。気弱そうな成生の殴打を、強気な彩矢が弓で援護していく。
覚者の攻撃の手が増えれば、傷つく白虎も咆哮してこちらの動きを止めようとしてくるが、メンバー達の勢いは止まらない。
回復に当たっていた両慈も時に、雷雲を起こして雷を叩きつける。
とどめが近いと仲間の分析で知った奏空も、圧倒的なスピードで白虎の体を切り裂かんと攻撃を浴びせかけていく。
脚がもつれる白虎はその身の風が霧散しかけ、その姿があやふやになって来ていた。
「これで、終わりだぜ!」
そこに、翔が雷を叩き落とし、白虎の全身に痺れを駆け巡らせて。
「ガ、アァ…………」
風の獣は何かを訴えるように小さく吼え、その存在をかき消してしまう。
同時に、眠りについていた獣頭型もまた、この場から消えていったのだった。
●残るは、水の遺跡
妖が消え去った後、覚者達は崩れるように倒れこむ。
「…………っ」
身を起こそうとしていたちとせは、全身の痛みに顔を歪めて。
「……無理をするな。些細な怪我が命取りになる事もある。自分の命を、大事にしろよ」
両慈は潤しの雨を降らし、さらに医学知識を生かしてその傷を少しでも塞ごうとしていく。
応援の覚者達がいてくれたお陰もあって外には問題なく出られそうだが、しばらく安静が必要なちとせは家捜し……もとい、遺跡探索ができそうにないのを、少しばかり残念がっていたようだ。
「今までに、大亀と朱鳥を倒してる……ってことはつまり、最後の東に龍がいるってことだよな?」
確認する翔の言葉に、幾人かが頷く。
次の水の遺跡にいるはずの龍の討伐を視野に入れつつ、メンバー達は風の遺跡を後にしていくのだった。

■あとがき■
風の遺跡奥の妖討伐、お疲れ様でした。
次は東、水の遺跡です。
しばし、状況が整うまでお待ちくださいませ。
今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!!
次は東、水の遺跡です。
しばし、状況が整うまでお待ちくださいませ。
今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!!
