<東京大殺界>イマジナリーライン・クロスオーバー
<東京大殺界>イマジナリーライン・クロスオーバー


●東京強襲
「悪性古妖が出現、数は推定100! さいたま市から東京に向けてハイウェイ上を侵攻してる。先行部隊が戦い始めているが明らかに戦力不足だ、至急向かってくれ!」
 大声をあげる中 恭介(nCL2000002)の存在に、多くの覚者が反応した。
 そしてそのなかでごくごく僅かな人数だけが――。
「古妖はOSE――通称『ネジレ』だ!」
 その単語に、きわめてつよく反応した。
 タロットカードをめくる蒼紫 四五九番(nCL2000137)。
 テーブルに出したカードは、死神の逆位置。
「始まったのね」

●迎撃作戦と、『そうでない』作戦
 会議室に集められたのはファイヴに所属する数名の覚者たち。
 そろった顔ぶれに、彼らは自分たちの役割と立場をもう一度理解する。
 説明用のモニターの前に車いすを動かし、青紫は資料を机に投げた。
「現在100体あまりのOSEが東京を目指して進行――いえ、侵攻しているわ。それぞれ銃や刃物といった一般装備で武装しているから、東京観光ではないわよね」
 武器の種類を望遠カメラで撮影したものが資料に表示されている。
 アサルトライフル、日本刀、手榴弾。中には車両に機関銃を搭載しているものもあった。
「想定戦力は憤怒者と同規模。先行部隊が牽制攻撃をしかけて住民避難の時間を稼いでいるけど、敵を壊滅できるようなものじゃないわ。この場所に急行して、OSEを全滅させること。それが任務よ」

 そこまでの説明を終えて、青紫は車いすを操作して会議室を出て行く。
 去りぎわ、少しだけ振り返って言った。
「任務の成功条件を満たせるなら、人を『別の場所』に割いても構わないわ」
 言葉の意味を探るように資料をめくる。
 最後のページにあったのは『あおぞら記念病院』での不審者目撃情報だった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.OSEの全滅
2.なし
3.なし
 補足。
 このシナリオは成功条件が満たされる限り、『ある行動』の自由が可能です。
 この行動をとってもいいし、とらなくてもいい。
 ただし今回を逃した場合、次に機会は訪れない。

●OSEの戦力と地形
 銃で武装した古妖の集団。100体あまり。
 30名前後の先行部隊が牽制攻撃をしかけていますが時間稼ぎが精一杯です。
 (先行部隊は低レベル覚者で編成されたファイヴの二次団体です)
 OSEの想定戦力は憤怒者並。状況によるので厳密には言いかねますが依頼参加者1人と5~10体で対抗する程度です。命数復活や武装による強化、もっといえばプレイング補正も含めてもっと大きな数を相手に出来る可能性もあります。
 この100体あまりを全滅させることが今回の任務です。
 それ以外のことは条件に含まれていません。

 さいたま市から東京にかかる高速道路上にて戦闘が行なわれています。
 ヘリからの降下、車両による突撃など、突入方法はある程度自由に選べます。

●『ある行動』について
 今回に限り。それもOSEとの戦闘作戦中に限り、本隊と別行動をとることで『あおぞら記念病院』へ駆けつけることができます。
 この選択をとった場合、OSE100体との戦闘には一切加わることができません。
 また、本隊作戦を終えてから『あおぞら記念病院』に向かうことは不可能ではありませんが……(プレイングの空振りを回避すべく先にネタバレすると)間に合いません。
 勿論、依頼の成功条件を満たさねばならないので依頼参加者6人全員でこっちに行くのは現実的ではないでしょう。
 リスクとリターン、そしてかかるコストと期待を計算して判断してください。

 そしてこの場所になにがあるかは
 もう、知っているはずです
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2018年01月04日

■メイン参加者 6人■


●無音の歌が聞こえる。僕らが僕らじゃなかった頃の、いつかの歌が。
 弾幕の音。そげ飛ぶアスファルトとはじける鉄片。散った火花に隠れるように、ヘルメットの隙間からアサルトライフルを乱射する人々。
 十数メートルが見えない壁のように開き、ハイウェイに詰まった二つの軍団。
 人間の軍団と、そうでないものの軍団だ。
 数は圧倒的に人外が優勢。時間稼ぎをする人々の顔にも限界の色が見え始めた頃。
「見ろ、上だ」
 誰かが言った。
 きらりと空が光った。
 その数秒後。
 全長138.4センチメートルの物体が両軍の中央線どまんなかに落下。
 アスファルトにミニクレーターを作りながら、それはむっくりと起き上がった。
「あいつは知ってる。有名人だ」
 誰かが言った。
 納屋 タヱ子(CL2000019)。
 かいぶつだ、と。
「間に合ったようですね」
 口に詰まった血液をぺっと吐き捨てて、着地に使ったシールドの砂をはらう。
 状況はたった一人で一変した。
 人外――OSEの前衛歩兵はタヱ子へ射撃を集中。
 対するタヱ子は盾を翳して弾幕を防御。勢いよく走りながら全身の皮膚を硬質の物体で覆っていく。
 まるでフルメタルジャケット弾だ。そんな物体が突進してくるさまを、想像できようか。
 そして、そんな物体が敵軍へ突撃するさまが想像できようか。
 人類側――ファイヴ二次団体はその姿に鼓舞されるように、攻撃の威力を増していった。
 一方上空。
「ここで下ろして貰って大丈夫です。あとはフォローを!」
「はい、お気をつけて!」
 森宮・聖奈(CL2001649)に抱えられるようにして降下していた『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、翼による強制落下制御をかけて減速。三メートルほどの高度で離脱したラーラは地面をごろごろと転がりながらおまじないを唱えた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……!」
 片膝立ちの姿勢で手を突き出せば巨大な魔方陣が発生。
「イオ・ブルチャーレ!」
 テレビアニメの宇宙戦艦が放つような、特大のレーザービームを発射するラーラ。
 内実そのまま高熱光線。OSEたちはそれぞれに防御行動に出るが、前衛歩兵たちが大きくよろめき始めた。
 そんな彼女をフォローすべく、二次団体の中に混じって着地する聖奈。
「怪我をされている方はいませんか!」
 清水をけが人に振りかけ、ラーラの後ろ姿を見やる。合図が来れば填気を使って気力を回復する手はずになっているのだ。
 近くの誰かが言った。
「あれも有名人だ。まだ進化してる」
 あんたもああいう風になるのかい? 二次団体の兵士たちに言われて、聖奈は曖昧な顔をした。
 弾幕を雨粒のように弾いて突撃するタヱ子や、一人で爆弾のような火力を振り回すラーラ。あれと同じになる日が、いずれくるのだろうか。なるとしたら、どんな風に……。
「みんな離れて!」
 マルチパラシュートを切り離した『影を断つ刃』御影・きせき(CL2001110)が二次団体の前衛歩兵をかきわけるように着地。
 しっかりと両足の靴底で地面をかむと、風に流れた勢いそのままにダッシュ。
 タヱ子とラーラの開いた敵軍の隙間に、自らをねじ込むように切り込んだ。
「――!」
 額へ飛来する弾丸。
 目を見開くきせき。
 真っ赤に輝いた目が円の軌跡を描き、弾丸が真っ二つに散った。
 返す刀で跳躍、前衛歩兵の頭部を蹴りつけ、勢いで蹴倒しながら、草を薙ぐかのように剣を払った。
 切り裂かれる無数の首。
 吹き上がる血の色が。
 血の色が。
 なにいろか、わからなかった。
「ちがう、そんなの」
 まるでその部分だけこの世から切り取られたかのように。
 何色にも見えなかった。
 認識できなくなっていたのだ。
 もう。
「そんなのちがう! ちがうちがうちがうちがうちがううううううううう!」
 歯を食いしばり、首を掴み、剣を胸に突き刺しては切り払う。
 きせきは修羅そのものとなり、血をまき散らして荒れ狂った。
「おまえたちは怪物なんだ! ただの怪物なんだ! 排除すれば、みんなもとどおりに――!」
 理屈の歯車が空回りする。それを無視するように、目を燃えるように光らせる。
 そして獣のように、OSEを切り裂いた。
「…………」
 きせきたちの戦いぶりにおののく二次団体の兵士たち。
 そんな中にあって、聖奈もまた指が震えるような感覚にみまわれていた。
 強すぎて恐い? いや、なにかちがう。
「あの人たちは、私の知らないものを見てる……なにを見ているんですか。皆さん、なにを……?」

●僕らが壊してしまったんだ。最初から壊れていた世界を、もっともっと。
 車がとまる。
 場所はあおぞら記念病院。
 見覚えのある建物のシルエットに、運転席の『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)はなんの反応もしなかった。
 フルフェイスヘルメットに覆われた彼の横顔をちらりと見て、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)はどうもとだけ言った。運転してくれたことへのお礼と、彼に対する本能的な、なんともいえない感覚との拮抗から生まれた言葉である。
 シートベルトを外して外へ出る。
 建物に違和感はない。
 前に来たときと同じだ。
 随分と前だったけれど。
 蒼紫 四五九番(nCL2000137)が監禁されていたとして、奪取と保護を求められた場所だ。それがなぜだか遠い昔のことのように、奏空には思えた。
「……」
 手首を見る。すらりとした綺麗な腕だ。傷ひとつついていない。
「なあ、工藤ちゃん」
 車から出た逝が、ルーフパネルに手を置いてこちらを見ている。
「ここになにがあると思うね」
「わかりません。いや、一つだけ心当たりはあるんです。あれは少なからず、俺がやったことだから」
 とても具体性のない言葉だったが、けれど逝には意図するところが分かったようだ。
 分かった上で、こつんとヘルメットの顎部分を車に乗せる。
「それで? どうする」
 沈黙。
 鳥が通り過ぎるほどの時間が経ってから、奏空はポケットに手を入れた。
「わかりません。いろんなことがグチャグチャしてて。あの――」
 あなたはどうなんですか? とは、聞けなかった。
 だって変なんだ。
 姿形がある程度見えていた一連の事件が『わけのわからないもの』になったのは、あなたが棺に入ってからだったじゃないか。
 もし奏空に全てを捨ててでも発言する口があったなら、こう述べていたかもしれない。
 『雛代供儀を殺せと言ったのはあなただ。あれは、あなたの謀りじゃなかったのか?』と。

 調べてなにかありそうな部屋はいくつかあったが、最も調べるべき部屋ははじめから決まっていた。
 自分たちが『二度目に』やってきて、可能性交換棺という不可思議な機械群を回収した部屋。
 あの――『最初に来たときはなかったはずの三階』に、あった部屋。
「おっちゃん、あれ……なんですかね」
「見たままだろうねえ」
 すらりと刀を抜く奏空と逝。
 部屋の中央にはひとつの棺。可能性交換棺の睡眠チャンバーによく似た箱状の機械が開き、中からむっくりと人型の物体が起き上がった。
 ピンク色の表皮。ねじれた顔。ネジレと呼ばれる、OSEそのものだった。
 こちらを見たOSEは転げおちるように棺から出ると、刀を掴んで振り上げた。
「こいつ……!」
 戦闘態勢に入る奏空。
 半歩退く逝。
「おっちゃん、なにやってるんですか! 二人がかりなら――」
「ハッ……!」
 なんの感情もない声だった。
「ハハハハハハハ! アハハハハハハハハハ!」
 ぶわりと吹き出る瘴気。振り上げる刀。
「それは知ってる。それは、『悪食』だ!」
 飛びかかる逝。
 飛びかかるOSE。
 二人の刀がぶつかり合い、瘴気があふれて部屋を満たし始める。
 奏空はそんな二人を観察して、観察して、OSEの腕に三角形が三つ刻まれているのを確認した。
 がちがちと鳴る歯。
「そうだ、あれは、あれは……俺だ!」
 刀を短く持ち、自分の手首に同様の傷を刻み込んで見せる。
 OSEはその様子にびくりと身体を止めたが、まるで何かに突き動かされるように再び暴れ始めた。

●改変
 ナイフが胸に突き刺さる。至近距離で包囲銃撃を浴びせられる。
 きせきはそれらを物理的に振り払うと、周囲のOSEの首をいっせいにはねた。
 吹き上がる何色でも無いなにか。
 それにまみれながら吠える。
 装甲車両の上から対物ライフルを構えるOSE。照準はきせきの胸だ。
 タヱ子が横からきせきを突き飛ばし、翳した盾で受け止めた。ころしきれない衝撃がタヱ子を突き飛ばし、仰向けに倒す。
 車両に搭載された機関銃が獣のように唸り、大量の弾丸を撃ち込んできた。
 目を細め手を翳すタヱ子。
 打ち込まれた弾がタヱ子の表皮をはねていく。
「頭を下げてください!」
 響くラーラの声に応じて仰向けにぺたんと倒れるタヱ子。頭上。もとい眼前を炎がなめていった。
 巨大な剣で薙ぎ払ったかのようにふるわれた炎に、車両の上から狙っていた対物ライフルのOSEが転げ落ちる。
 それを狙ったきせきが素早く近づき、刀で喉をひとつきにした後、機関銃をふたたび打とうとするOSEに刀を投擲した。頭を刀が貫通し、ごろんと倒れるOSE。
「足止めを!」
 ラーラの声。応じて足を踏みならすきせき。アスファルト面を割るようにはえた無数のツルがOSEの足に絡みつく。
 再び放たれた炎が、彼らを焼いていった。

 熱い息を吐く。まるで身体そのものが炎になったかのように熱い。
 喉ははりつき、呼吸は乱れ、飢えが脳を支配し始める。
「せ、せいな、さん……!」
「今行きます!」
 負傷した兵士を引っ張って治療していた聖奈が兵をかき分けるようにして飛び出し、ラーラのそばに駆け寄った。
 肩をつかんで支えるが、吹き出た汗が衣服の上にまでしみていた。
「ラーラさん、これを飲んで」
 ペットボトルのふたをすばやく開いてラーラに渡す。手の力がよわくなっているのか指がぴくりとだけ動き、腕も肩より上に上がらない。
 弱りすぎだ。聖奈はまるで浴びせるようにしてラーラの口元に飲料を注いだ。
「なんでそうまでするんですか。皆と協力すれば」
「ちがうんです。ここのさんをたすけるには、みんながしなない、たたかいを」
 はっとしてラーラの顔を覗く。目が、聖奈を見ていなかった。どころかこの世のなにも見ていないような、どこか別の世界を見ている目をしていた。
 OSEがラインをあげて攻めてくる。
 聖奈は意を決し、術式を書き込んだカードを投げた。
 雷撃がほとばしる。
 ばちばちと地面をはねるように伸びた雷に、OSEが本能的にけいれんした。
 そんな彼らの胸から刀がはえる。
 否、後ろからきせきが貫いたのだ。
「う――あああああああああああああああああ!」
 彼が普段出さないような咆哮と共に刀を横に切り払い。周囲のOSEをまとめて切り裂いていく。
 聖奈から見て赤い血が、道路をばしゃばしゃとはねていく。
 手を翳すラーラ。
 放たれる炎。
 炎にまみれ、銃を乱射しながらばたばたと暴れるOSE。
 そんな彼らを飛び越え、タヱ子は円形のシールドを投擲した。
 車両の上に設置された機関銃にとりつこうとしたOSEにぶつかり、反射して別のOSEにぶつかり、更に反射してタヱ子の手に戻った。
 日本刀を抜いて斬りかかるOSE。
 それを硬質素材で包まれた手で掴み、握りしめるタヱ子。
「…………」
 タヱ子は無言のまま刀を下に押し下げる。周囲のOSEが集中して射撃をしかけてくるが、タヱ子はその場から一歩たりとも動かなかった。
 その直後、場を舐めるように包んだ炎と雷が、全てを終わらせてくれた。

●物語なら、いつかは終わる
 後ろ手に手錠をかけられ、ぐったりとするOSE。
 あおぞら記念病院から出る逝と奏空は、なにも言わないOSEを深く観察していた。
 コレと意思疎通ができたためしがないが、奏空が腕に傷を作って見せたときに明らかに違う反応があった。相手は思考する生き物であり、『誰か』であることは分かっている。
 その後、逝が壁に文字や記号を書いて意思疎通を試みたところOSEも刀で壁に何かを書き込んだが……そこでようやく、意思疎通ができない理由に納得した。
 『何かを書いた』ことは分かったが、『それが何を意味するか』が一切頭に入ってこなかったのだ。まるで認識そのものを頭が拒んでいるかのように、見れば見るほど頭が痛くなってくる。
 奏空がずっと前に見た、ヴィオニッチペイントを見た時の感覚に、それはよく似ていた。
 外へ出て暫くすると……。

 作戦を終えたタヱ子たちはあおぞら記念病院へ向かった。
 距離的にかなり遠いところにあったので、電車を乗り継いだりタクシーを使ったりという手間はかかったが、数時間もすれば到着できる距離だ。
 嫌がるタクシー運転手に配慮して最終的には徒歩で訪れたタヱ子たち。
 きせきとラーラ、そして聖奈。
 彼女たちを出迎えたのは、ひとりの男性だった。
「――」
 なにかを喋ったが、何語かよくわからない。
 イントネーションがロシアめいていたが、分かったのはそれだけだ。
 ああなるほど、という様子で懐に手を入れる。
 入れた瞬間。すぱんとその男の首がとれてころがった。
 後ろから現われた逝によるものだ。
「こいつはうちらを狙う危険人物でね、今駆除したところさね」
 物言わぬ『見ず知らずの人』。
 逝の言動に奇妙さを覚えたが、ヘルメットで覆われた表情を読むことはできない。そもそも、表情のない男だが。
「みんな、来てくれたんだね!」
 奏空が呼びかける。
 きせきが笑顔を作って駆け寄ろうとして、その顔を硬直させた。
 目を細めるラーラ。
 聖奈が、一人だけ、言うべきことを言った。
「あの、なんでOSEを拘束しているんですか?」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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