虚か実か 胡蝶の夢の武舞台へ
【夜行武闘会】虚か実か 胡蝶の夢の武舞台へ


●相対するは七組の闘士
 夜行武闘会最終戦――
 覚者の前に現れたのは妖狐――ではなかった。
「おいどんの狸相撲のさえを見せてやるでごわす!」
 巨大な妖怪狸。予選を突破した相撲狸だった。そしてそれはすぐに姿を変える。
「べらんめい! この一反木綿の速さに追い付けると思うなよ!」
 長さ三メートルの布妖怪に変化した。更に姿は変わっていく。
「転ばす! 切る! 罵る! 三位一体鎌鼬兄姉弟!」
「あたいの稲妻、喰らってみるかい?」
 その姿は夜行武闘会予選を突破した者達だ。鎌鼬、仮面の雷使い。そして、
「カラカラカラ! 血で染めてくれるわ!」
「あらいい男。凍らせて持って帰ってあげる」
「そこに戦あるなら、この拳で突き進む」
 覚者達が戦った髑髏の鎧武者、氷柱女、そして鬼に変化する。そして最後にその姿は妖狐となった。
「――どうかね。趣向としては上出来だと思うのだが」
 再度言い直そう。覚者の前に現れたのは、妖狐だった。
 観客は理解する。今まで戦って来た相手を模して。妖狐が戦うのだと。優勝者への手向けとしてはなかなか粋な計らいだと。
 だが、武神の衣のことを知る覚者達からすればさらにその上を行く事実を知っている。
『この妖怪狐が真似るのは姿だけではない。彼らが持つ技もだ』……ということに。
 この夜行武闘会で敗北した者達は皆、武神の衣に捕らわれ、その技は着用者である妖狐が使用できる。
 相撲取りの化け狸。一反木綿と絹狸。鎌鼬。雷使いの覚者。髑髏の鎧武者。氷柱女、鬼。その武技を。
 それを前に覚者達は如何なる思いで戦いに挑むのだろうか?
 そしてその果てに、何を見出すのであろうか?

 夜行武闘会、最終戦――始め!
 声が響き、最後の闘いが幕を開ける。


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.妖狐に勝利する
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 シリーズ最終回……になるかどうかはともあれ、いったんの区切りです。
 難易度は普通に戻っています。

●敵情報
 妖狐(×1)
 古妖。三尾の狐です。『武神の衣』と呼ばれる衣を着こみ、様々な姿に変化して襲い掛かってきます。
 かつて大妖に挑んで負けた経緯があり、再戦のために力を求めています。その為には多少の犠牲も已む無し、というスタンスです。

 攻撃方法
(HP100%~70%時)
大太鼓突撃 物近列貫2 狸の力士に変化し、大きくお腹を膨らませ突撃してきます。(100%、50%)
高速絹飛行 特遠全   一反木綿と絹狸に変化し、縦横無尽に飛び交います。【出血】

(HP69%~40%時)
転!切!罵! 物近単 鎌鼬三体に変化し、転ばして切って罵ります。【鈍化】【出血】【Mアタック20】
喧嘩祭    特遠敵味全 仮面の雷使いに変化し、縦横無尽に稲妻を放ちます。

(HP39%~10%時)
血飛沫の舞 物近列 髑髏の武者に変化し、深く裂いてきます。【流血】
氷の微笑  特遠単 氷柱女に変化し、心から凍てつく微笑みを浮かべます。【氷結】【ダメージ0】。
鬼神乱舞  物近列 鬼に変化し、敵陣に踏み込み乱打します。【消耗HP100】【三連】【格闘】

(HP9%以下)
幻・初の太刀 物近単 幻覚を混ぜた一閃。あるいは一閃に見せた幻。高命中率。
幻・狐火   特遠単 幻覚を混ぜた火術。あるいは火術に見せた幻。高命中率。
幻・白狼   特遠全 巨大な白狼の幻覚を見せます。【混乱】

●武神の衣
 妖狐に勝利した場合、優勝賞品として妖狐が着ている衣と制御器具である『武神の冠』を貰えます。
『冠』を通して命令することで、囚われた武術家達を解放できます。また解放しなかった場合、後日衣から技をラーニングする依頼が発生します。

●場所情報
 夜の武舞台。灯りは古妖達が照らしてくれるため、十分です。足場や広さは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵との距離は十メートルとします。一礼して試合開始のため、事前付与は不可。
 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2018年01月04日

■メイン参加者 6人■



「とうとう妖狐との対戦やな」
 眼前の妖狐を見据え、『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が笑みを浮かべる。夜行武闘会の最終戦。今までの闘いを思い出しながら歩を進める。武神の衣には思う所はあるが、今は戦いに集中するのみだ。
「FiVE所属、鹿ノ島遥! 流儀は空手! いざ、参る!」
 腹に力を込めて『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が声をあげる。彼もまた、武神の衣には思う所があるがそれ以上の感情はなかった。目の前の武人に挑み、そして勝つ。それが遥にとって最も重要なことだ。
「覚悟しろ。その衣、もらい受ける」
 言葉に意志を乗せて水蓮寺 静護(CL2000471)が抜刀する。敗者を吸収し、技を奪い取る武神の衣。どのように使われるかなど関係ない。その存在自体が悪趣味だ。それを利用している妖狐諸共許しはしないと睨みつけた。
「大妖を討つ為に力を求めること自体は別に構わんと思うのだが、いかんせんやり方がな」
 妖狐の目的を思いながら『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は言葉を挟む。大妖『新月の咆哮』へ挑むための力を得るために、夜行武闘会の参加者を吸収した。目的が崇高でも、手段を誤るわけにはいかない。青の瞳がそう語っていた。
「大妖を倒さないといけねーって気持ちは俺にも分かるけどさ。だけど、こういうやり方はやっぱ納得できねーんだ」
 頭を掻きながら『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)が構える。大妖に苦しめられている者は多い。武神の衣を上手く使えば、大妖を倒せるだけの武術家が生まれるだろう。だけどそれは納得できない。剣術家として、人として。
「言うべきことは何もないわ。――いざ、尋常に」
 凛とした声を放ち、三島 椿(CL2000061)は場を沈める。強くなりたい。誰かを護りたい。椿と妖狐はともに力を求めていた。ゆえに妖狐の行為を攻めたりはしない。言うべきことは何もなかった。ただ、戦いのみが場を制するとばかりに。
「行くぜ妖狐ー! ……って、なんか締まらないな。名前教えてくれよ!」
「そう言えば名乗ってなかったか。銀麗だ」
 言葉と共に妖狐の姿が変わる。覚者達も発せられる闘気に反応するように神具を構えた。
「夜行武闘会、最終戦――始め!」
 声が響き、最後の闘いが幕を開ける。


「行くぜ、銀麗! その強さを見せてくれ!」
 一礼の後に最初に動いたのは遥だ。変化した妖狐に向かい、一直線に歩を進める。姿形が変わり、その者の技を得ている妖狐。変化した相手の強さは未知数なのだが、それは遥の足を止める理由にはならない。逆に闘争心を刺激していた。
 狸に変化した妖狐。繰り出される張り手は、その巨体に見合うものだった。それを腕でブロックし避けながら距離を詰める遥。一瞬のスキを見出し、相手の懐に踏み込んだと同時に拳を突き出す。確かな手ごたえが拳から伝わってきた。
「へっ、やるなぁ。本物の狸のおっさんのようだぜ!」
「しかと観察させてもらったからね。私の変化能力は武舞台の上でもお見せした通りだよ」
「せやな。あれほんまに暑かったわ」
 第一試合のことを思い出しながら凛が呻く。幻覚だとわかっていても、あの熱気は打ち消せなかった。身体能力も『化ける』のなら、狸のパワーも納得できる。一反木綿と絹狸の二体に増えたのも、幻覚。そうと分かっていても、やはり目を疑ってしまう。
 高速で動く絹狸と一反木綿。その動きに体を切り刻まれながら、凛は気を静める様に刀を握りしめる。言葉通り、一心同体のコンビネーション。その動きを経験と勘で先読みし、大上段から斬りかかる。
「武神の衣で多彩な技を使ってくる言うても相手が一人なんは変わらへん!」
「では『多彩な技を一人が使える』という強さを見せてあげよう」
「他人の技を奪って戦っている者が言える言葉ではないな」
『絶海』を手に静護が口を開く。妖狐のやっていることは、他人の技を奪って我が物としているだけに過ぎない。苦労して見出した技を『武神の衣』と言う物で奪った盗人だ。大妖を倒すためとはいえ、許されることではない。
 神具を構え、相手の動きを見る。刀を下段に置いて妖狐の動きに意識を集中させた。武舞台を蹴る音が静護の耳に届く。妖狐が地を蹴った瞬間に、一歩踏み出した。刹那の間に四の斬撃。過剰な動きで体に痛みが走るが、斬撃は確かに妖狐を捕らえた。
「自分の為に他人を平気で踏み台にする。貴様のやってる事はただのエゴというヤツだ」
「そうしなければ勝てない相手だ。それとも君達は誰も犠牲にせず大妖を倒せるとでも?」
「その問いに頷けるほど強くないのは確かだ。だが――」
 妖狐の問いにゲイルが答える。大妖の強さは知っている。真正面から挑み、勝てる相手ではないのは確かだ。犠牲を払えば勝てる、というのなら確かにそれも選択肢の一つなのだろう。それでも、妖狐の行為を認めるわけにはいかなかった。
 妖狐から距離を取り、精神を集中する。味方の状態を見ながら、盤面を見る様に戦場を俯瞰した。呼気と共に解放される水の源素。妖狐の動きを予測し、一番傷つくだろう仲間を予測して癒しの術を施した。
「衣の力で技を模倣しているのと、自分で身につける事というのは違う事だ」
「そうやって正々堂々と挑んだ兄は『新月の咆哮』に食われたよ」
「……そう。貴方が大妖に挑む理由は――」
 冷淡な妖狐の言葉に、椿は妖狐が大妖に挑む理由を察した。何もかもを犠牲にしてでも勝ちたい。その根底にあるのは、おそらく復讐だ。大妖に一度挑み、大事な物を奪われたのだろう。両親を喪失した椿には、妖狐の声にある黒い炎が感じとれた。
 頭を振って、思考を戦闘に切り替える。弓を手にして妖狐を射貫くように青の瞳を向けた。味方を護りながら、相手の情報を知る。それが椿の戦い方だ。水の幕を張って味方の治癒力をあげる。水幕ごしに妖狐と視線をかわし、その強さを計る。
「勝つのは容易ではなさそうね。でも私達は互いに支え合って戦うわ」
「知っているとも。それが君達だと。だからその牙城を崩す」
「巖心流の守り、簡単に崩せると思うなよ!」
 二本の太刀を構え、飛馬が吼える。妖狐の攻めは最初から飛馬を傷つける様に動いていた。鎌鼬三兄姉弟に変化し、執拗に体力と気力を削ってくる。守りの要が飛馬であることは、夜行武闘会の三戦から理解されているのだろう。
 祖父と父の名を冠する太刀。それを手にして飛馬は古妖の攻撃を凌ぐ。無限に攻撃を凌げないことは分かっている。それでもこの二本を手にしている以上、無限の攻め手でも負けるつもりはない。背負っているのは巖心流という歴史。そして祖父と父の名。それ故に。
「簡単に倒れるわけにはいかねーんだよ!」
「確かにこれは難敵だ。だが負けるわけにはいかないのはこちらも同じだ」
 ステップを踏むたびに姿を変える妖狐。
「鎌鼬――と思ったけどそっちか!」
 だが相手は幻術の達人である妖狐。表と思えば裏。右と思えば左。前と思わせて、やはり前。覚者を翻弄しながら攻撃を重ねてくる。仮面の雷使いに変化し、武舞台に稲妻の嵐を拭き起こした。
「きっつ! その稲妻は確かにアイツのもんやな!」
「いいや。本物ならもう少し鋭いのを飛ばしてくるぜ」
 仮面の雷使いを知っている凛と遥が命数を燃やしながら笑みを浮かべる。何度か食らった一撃だ、と言いたげに。
「ここからが本番だぜ」
「その通り。俺達の底力を見せてやる」
 集中的に狙われていた飛馬と、源素攻撃への守りが薄い静護も、今の攻撃で命数を削られる。神具を杖に体勢を立て直し、気迫を燃やして妖狐を睨む。
「この刻限までに一人も倒せなかったのは失策か。彼らの戦意を称えるべきだな」
 肩で息をしながら妖狐が口を開く。見た目は変化の繰り返しで綺麗だが、ダメージは確かに蓄積していた。
 戦いは、さらに加速していく。


 髑髏侍、氷柱女、そして鬼。
「そいつらの技は一度見てる。そう簡単にやられんで!」
 変化する妖狐に吠える凛。一度戦った相手の動きだ。けして読めないわけではない。その動きに合わせ、刀を振るう。その攻めは焔の如く。尽きることなく燃え盛る赤き波。心に闘志がある限り、その炎は消えない。
「確かにすごいわ、その衣。あいつらの技、そのままやで」
「お褒めに預かり。ああ、私ではなく摸倣された武術家たちへの賛辞としてだけどね」
「せやな。その技は借り物や。とっととあんたの実力みせいや!」
「そうね。貴方は強いわ。武神の衣とは関係なく」
 椿が仲間を癒しながら妖狐に語りかける。技を奪って使用しているとはいえ、それを使うのは妖狐本人。技に振り回されることなく、覚者に的確にダメージを与えてくるのだ。基礎となった身体能力がなければこうはいくまい。
「それでも勝たせてもらう。衣に吸収された皆を解放するために」
「困るな。『新月の咆哮』に勝つ確率が減ってしまう」
「そんなものがなくても、大妖には勝てる。そう信じているから」
「そうだ! 負けっぱなしは悔しいからいずれ勝つ!」
 拳を振り上げる遥は『新月の咆哮』……というよりは大妖打倒を宣言する。勝つ根拠も策も戦術もないが、だからこその元気がそこにあった。修行して力をつければ、いずれ勝てる。格闘家として純粋な気持ちがそこにあった。
「アンタが大妖に勝つための手段に『ソレ』を選んだのだって、別に否定はしないさ。オレの性には合わないけどな。
 でも、その中にはオレのダチが入ってんだわ。だから、悪いけど返してもらうぜ?」
「ああいいとも。私に勝てればだがね」
「もとよりそのつもりだ。負けてやるつもりなど毛頭ない」
 妖狐の言葉に頷く静護。怒りの声を出しながら、心は冷静に戦局を見ていた。後衛まで攻撃を届かせないように前衛を回復し、中衛の遥と交代しながら妖狐の攻撃を分散していた。一度相対した相手の技だから、その間合いもなんとか読める。
「技を得たければその者から習えばいい。そんな悪趣味な衣に頼らずとも」
「その間に大妖の被害は拡大する。一足飛びに力を得ようとするなら、この方法が効率がいい」
「大妖を倒すために犠牲になれ、というのを許せると思うのか」
「確かに大妖の力に対抗するのに、なりふり構っていられないというのは解るが」
 妖狐の心情は理解できる。一度見た大妖の強さは、ただの人間ではどうしようもないものだ。それでも力のために何かを犠牲にしてはいけない。その一線を越えれば、隔者と同じだ。
「信念を捨てた拳で何が得られる? それで勝てたとして、あんたの兄は喜ぶのか?」
「――死人は喜ばない。そして悲しまない。それだけだ」
「……俺にあんたの悲しみは解らない」
 髑髏武者に変化した妖狐の刀を受け止めながら、飛馬が言う。もし自分の家族が大妖に殺されたら、妖狐と同じことをするのだろうか? それを想像して飛馬は首を振った。『もし』に意味はない。その未来を防ぐために戦うのだ。
「でも、こんなやり方は納得できねー。ここで止めてやるぜ!」
 退くことなく神具を振るい続ける覚者達。そして様様な姿に変化してきた古妖は、三つの尾を持つ狐になる。本来の妖狐の姿に。
「ようやっとあんた自身の御登場やな」
「後一歩、という所か」
 ニヤリと笑う凛。呼吸を整えるゲイル。変化する余裕がなくなったのか、それとも本来のスタイルでないと勝てないと思ったか。
 鍔のない長刀と狐火を手に覚者達を攻め始める妖狐。攻撃に幻術を交え、覚者達を翻弄しながら傷を重ねていく。
「いやー、強ぇ強ぇ! あんた、わざわざ他人の技奪わなくても十分強いじゃん!」
「何形態にも姿を変えた後に現れる真の姿がやばくないわけねーんだ。ここで一気に畳み掛けるぜ」
 妖狐の攻撃を受けながら楽しそうに笑う遥。その攻撃を受けながら、その強さを実感する飛馬。純粋に剣士としても強く、その上で幻術を交えてくるのだ。厄介としか言いようがない。
「守りは僕が受け持つ。焦らなければ勝機は必ず来る」
「そうね。支え合えることが私達の強さよ」
 後半は回復に移行した静護が眼鏡の位置を直しながら口を開く。椿もそれに頷き、回復の術を飛ばした。虚実交えた攻撃。だが実際に攻めているのは妖狐一人。連携どって戦う覚者とは戦略の厚みが違う。
 手厚い回復と着実に重ねる攻め。そして何より堅牢な守り。覚者という城を攻め落とすことが妖狐にはできなかった。
「鍛え続けた技の重み、味わってくれよ!」
 妖狐の懐に踏み込む遥。とっさに下がろうとする妖狐の体めがけて、真っ直ぐに拳を突き出した。意識するよりも早く体は動く。拳から伝わる確かな重さは、鍛え続けた技の重さでもあった。その一撃を受けて、背中から倒れる妖狐。
「ありがとうございました! 押忍!」
 丹田に力を入れて、一礼する遥。その顔は戦い抜いた武術家の笑顔だった。


 優勝者への歓声が鳴りやまぬ中、妖狐を連れて舞台裏に行く覚者達。
「約束通り、『武神の衣』は君達の好きにするがいい」
 覚者達は『衣』の制御器具である『武神の冠』を受けとる。衣をどうするかは、事前に決めてあった。
『捕らわれた武術家たちの解放を』
 満場一致で決められた意見。確かに武術家たちの技は魅力だったが、それはこういう形で得たいものではない。正々堂々と勝負して、苦労の末に得るものだ。
 閃光と共に武術家たちが解放される。彼らは――
「まだ負けてないでごわすよー。おいどんの狸相撲は土俵際からが本番でごわす! おりょ?」
「皆まとめてあたいの雷で撃ち落としてやるぜ! ……お、解放されたか」
「カラカラカラ! 以外以外! どうやら我らの技は不要ときたか!」
「たまにはいい男に身を任せるのも一興だと思ったんだけどねぇ。残念残念」
「七組の武術家という濃厚な修練所であったが、刻限か」
 狸の力士、一反木綿、鎌鼬三兄姉妹、仮面の雷使い、髑髏武者、氷柱女、鬼の七組は今まで戦っていた、とばかりの姿でそう呟いた。
「なんだ? 衣に捕らわれていて窮屈していたと思ったのに」
「窮屈だったぜ。やることないからやってきた連中相手と喧嘩してたんだよ。結構楽しかったけどな」
 言ってからからと笑う仮面の雷使い。どんな状況でも悲観的にならないのはある意味強みか。メタな事を言うと、負けて衣に捕らわれた時のシナリオもあったのでございます。
「しかし見事。技を得られるという誘惑に打ち勝ち、自らの正義を貫くとは。死したとはいえ、胸を打たれる思いだ。カラカラカラ!」
「ふふ、見込んだ通りのいい男だわ」
『武神の衣』のによって得られる武術家の技。それがあれば彼らはさらなる強さを得られただろう。それを蹴ってまで信念を貫いた意志に古妖達は称賛を送る。
(この空気で技を教えてとか……)
(さすがに言えないか)
 一部覚者達は若干の未練を胸に秘め、その称賛を受け取った。ここで『助けたのだから技を教えてくれ』等と言えようはずもない。
「技はともかく、手合わせはしたいよな。次に会う機会が六十年後とか寂しすぎるぜ!」
「それに前の武術大会では勝ち負け関係なく、終わったら酒を飲んで宴をしていたと聞く。今回もそれに習って宴と行かないか?」
 遥とゲイルの言葉に、古妖達は笑みを浮かべた。
「言うたな小坊主。飲む方と相撲と、どっちか好きな方選ばしてやるでごわす!」
「そう言えば最近殴り合ってなかったよなぁ」
「武舞台もあるし、皆でそこに行くとするか」
「おおお、おやおや? 何やら全選手が武舞台に集まってきました! あ、なにやら戦いが始まるようで……おやおや、宴の準備もしています。これは何が始まるのでしょうか!?」
 舞踏会の武舞台に向かい歩いてく選手たち。司会者も知らなかったエキストラバトルが今始まろうとしていた。 
 そんな中、椿は移動せずに妖狐に問いかけていた。
「『新月の咆哮』の話、聞かせてもらったもいいかしら?」
「語る事はそう多くない。四半世紀前、北の大地で大妖の存在が確認された。兄を始めとした我ら妖狐一族はそれに挑み……私を除いて皆喰い殺された。相手の強さも特性も何もわからないままの敗北だ。
 生き延びた私は復讐のために彷徨い、衣を見つけて夜行武闘会の主催者となった。――前主催者とは正々堂々と勝負して権利を頂いたよ」
 椿の問いに静かに答える妖狐。その目に諦めの色はない。
「私達は支え合うことであなたに勝利した。貴方と私達も支え合って大妖に勝てないかしら?」
「止めておこう。二十年近くの計画を阻止されて恨みがないわけではない。――それに君達は私のような復讐心に染まってはいけない」
 仲間の元に行きなさい、という妖狐の声。椿はそれに従い、武舞台の方に向かう。復讐者、と彼は自分のことを称したが大きな危険はないだろうという確信があった。
 そして、夜行舞踏会。本当の最後の闘いと宴が始まった――


 闘技の内容に関しては敢えて語るまい。強いていえば、勝者も敗者も後悔ない戦いだった。
 戦いと宴は夜明けとともに終わりを告げ、彼らはそれぞれの帰路につく。次は六十年後。古妖には短く、人間には長い年月。その時自分がどうなっているか、覚者達は想像もできなかった。
 妖狐『銀麗』の姿はようと知れない。北海道に戻ったか、はたまた修行の旅に出たか。
 去り際に鬼がぼそりと呟いた。

「そういえば――」
「大妖と言えば――」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

斯くして夜の武闘会は幕を下ろす。
 そして生まれた鬼の縁から、物語は続いていく――



 あ、シリーズとしてはいったん終了です。お疲れさまでした!




 
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