売れろ! クリスマスケーキ!
●そういやこういう世界観だよ
じんぐるべーる、すずがなる。
サンタ帽子とサンタジャケットを身に纏い、大学生の青年は立っていた。
東京というコンクリートジャングルでは、心も体も寒くなる。
よりお寒いのは、目の前に積まれたケーキボックスの山である。
クリスマスホールケーキが山と積まれ、それを売り切ることが彼に課せられたバイト内容であった。
達成できなくば自腹買い取りという地獄の未来が待っている。
しかも、なんだろうね、こういうケーキって恐ろしく売れないね。
アパートの家賃だって三ヶ月滞っているというのに。
「くっ、俺のクリスマスはこんな思い出で終わってしまうのか」
青年が絶望にメリークリスマスしかけたその時――救いの手かと思いきやさらなる絶望がやってきた。
ケーキのひとつがみるみる巨大化し、足を生やしたかとおもうと交差点めがけて猛ダッシュしはじめたのだ。
そう! 妖化現象である!
●現代伝奇活劇アラタナル! この物語は妖から人々を守り奮闘する、トゥルーサーたちの熱き戦いの物語である!
「ケーキって妖になるんですね。たべるのかなあ……」
最近はつららを舐めて生きているという文鳥 つらら(nCL2000051)は、乾燥わかめみたいになりながら天井のシミを数えていた。
「たべられるかどうかは別として、妖は本能的に人を襲ってしまうので、町中に放置するととっても危険なんですよ」
妖になる未来をあらかじめ予知した夢見が、そんな風に語る。
「場所は都会のスクランブル交差点で、人も沢山います。
この妖はそれほど知能が高くないので、戦闘に持ち込めば人々に致命的な危害が及ぶことはないと思いますが……逆に言えば戦闘に持ち込まないと危険きわまりない状況なのです」
ケーキ妖は全長3メートルほどのランク2物質系妖である。
物質系妖っていうのはそのへんの物体が妖になっちゃったものの総称で、ランクはその大まかな強さや知能を表わしている。
細かい説明は省くが、このケーキ妖は巨大な野獣オバケだと思っていただいてよい。
「巨体をそのまま活かした突撃や、生クリームを勢いよく飛ばす攻撃をしかけてきます。戦う際はくれぐれも注意してくださいね。あと多分よごれるとおもうから」
「はあーい……」
このお仕事をこなせば久しぶりに食物を口に出来るつららは、ふらありと立ち上がった。
じんぐるべーる、すずがなる。
サンタ帽子とサンタジャケットを身に纏い、大学生の青年は立っていた。
東京というコンクリートジャングルでは、心も体も寒くなる。
よりお寒いのは、目の前に積まれたケーキボックスの山である。
クリスマスホールケーキが山と積まれ、それを売り切ることが彼に課せられたバイト内容であった。
達成できなくば自腹買い取りという地獄の未来が待っている。
しかも、なんだろうね、こういうケーキって恐ろしく売れないね。
アパートの家賃だって三ヶ月滞っているというのに。
「くっ、俺のクリスマスはこんな思い出で終わってしまうのか」
青年が絶望にメリークリスマスしかけたその時――救いの手かと思いきやさらなる絶望がやってきた。
ケーキのひとつがみるみる巨大化し、足を生やしたかとおもうと交差点めがけて猛ダッシュしはじめたのだ。
そう! 妖化現象である!
●現代伝奇活劇アラタナル! この物語は妖から人々を守り奮闘する、トゥルーサーたちの熱き戦いの物語である!
「ケーキって妖になるんですね。たべるのかなあ……」
最近はつららを舐めて生きているという文鳥 つらら(nCL2000051)は、乾燥わかめみたいになりながら天井のシミを数えていた。
「たべられるかどうかは別として、妖は本能的に人を襲ってしまうので、町中に放置するととっても危険なんですよ」
妖になる未来をあらかじめ予知した夢見が、そんな風に語る。
「場所は都会のスクランブル交差点で、人も沢山います。
この妖はそれほど知能が高くないので、戦闘に持ち込めば人々に致命的な危害が及ぶことはないと思いますが……逆に言えば戦闘に持ち込まないと危険きわまりない状況なのです」
ケーキ妖は全長3メートルほどのランク2物質系妖である。
物質系妖っていうのはそのへんの物体が妖になっちゃったものの総称で、ランクはその大まかな強さや知能を表わしている。
細かい説明は省くが、このケーキ妖は巨大な野獣オバケだと思っていただいてよい。
「巨体をそのまま活かした突撃や、生クリームを勢いよく飛ばす攻撃をしかけてきます。戦う際はくれぐれも注意してくださいね。あと多分よごれるとおもうから」
「はあーい……」
このお仕事をこなせば久しぶりに食物を口に出来るつららは、ふらありと立ち上がった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ケーキ妖をやっつける
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
という脳内会議を押し通し、やってきましたスタンダードシナリオタイプ。
初心者の方でも安心してお楽しみ頂けます。
こちらは『ケーキ妖をやっつけるパート』と『その後の自由行動パート』に分かれています。
順番に解説していきましょう。
●ケーキ妖をやっつけるパート
スクランブル交差点に飛び込んだ巨大なケーキ妖に戦いを挑み、そして倒しましょう。
『突入するところに駆けつける』というあたりがスタートとなりますので事前にできることはあんまりないようです。
自動車に乗って正面からドーンしにいくのはアリとします。なぜならかっこいいからです。
・ケーキ妖
R2生物系
突進(物近列【負荷】):勢いよく突っ込んでむぎゅっとします。おかげでこっちは体術がうまくつかえぬ。
生クリームキャノン(特遠列【弱体】):生クリームをすごい勢いで飛ばしてきます。甘くていい香りがするので集中できぬ。
コメント:この手のデカいワンマンは囲んで棒で叩く作戦が有効です。挟み撃ちをすれば列攻撃を分散できるのです。豆知識!
●その後の自由行動パート
ケーキ妖を倒した後は自由行動です。
クリスマス真っ盛りの都会ですので、好きな時間を過ごせると思います。
これも豆知識なんですが、倒した後の妖は元になった物体に戻るのでベチャっと地面に落ちたケーキだけが残ることになります。持ち帰りたかったけど残念だね。
それを見ていたケーキ売りのおにーさんも悲しい顔をしていると思うので、もしお暇でしたら声をかけて上げてください。
●おまけ
このシナリオには文鳥 つらら(nCL2000051)がNPCとして参加しています。
前半は全体回復による回復補助、後半は誰からも誘われなければふらーっとどこかへ消えます。つららちゃんと遊びたいかたは声をかけてあげてください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/8
4/8
公開日
2017年12月27日
2017年12月27日
■メイン参加者 4人■

●今日もゆるくいこうや、クリスマスなんだしさ
逃げ惑う人混み!
無線を手に困惑する警察官!
乗り捨てられたバイクを踏みつけ、スクランブル交差点の真ん中へと飛び込んだ巨大な妖は獣の如くがおーと吠えた!
章タイトルでゆるくって言ったのにいきなりのモンスターパニックである。しかしご安心頂きたい。暴れているのはワンホールのクリスマスケーキ。昔あったよね、チョコレートケーキが町を襲う映画!
「それほどデカくなるまえに、美味しくいただこうかねっ――と」
軽トラックの運転席。『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)はハンドルをぎゅっと握りしめ、ギアチェンジしつつアクセルを強く踏み込んだ。
ヘルメットをしているのはカースタントのためじゃない。毎日こうだ。毎回こんなアクションだ。
「それいくぞう、みんな近くのものに『つかまらない』ことさね!」
二車線道路のド真ん中を突っ走り、全速力でケーキにぶつかっていく逝の軽トラック。周囲のあれやこれやをまとめて薙ぎ払い、トラックは思い切りケーキに埋もれていった。これが地烈の使用シーンだって言って信じてくれるかな?
それにごっそり巻き込まれましたるは四人の覚者。
常識にそってうっかり近くのバーにつかまってしまった『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)と森宮・聖奈(CL2001649)。
てこの原理(?)でぽーんと飛ばされていった文鳥 つらら(nCL2000051)。
彼女たちがわきゃーといいながら目をぐるぐるさせている間に、『眩い光』華神 悠乃(CL2000231)はちゃっかり助手席から中途離脱。
ころころ転がって片膝立ちの姿勢で停止していた。というか、サンタさんの格好してあのナイトキャップみたいなのを片手で押さえていた。
「ま、今日はクリスマス……だしね」
すっくと立ち上がりどこからともなく現われたガントレットを両手それぞれに装着。
くるりと振り返り、いつものちょっぴり特殊なファイティングポーズをとった。
「そこまでだ! クリスマスの悲しい思い出を、これ以上壊させたりしな……ん?」
悠乃の目に映ったものは三つだけだった。
クリスマスイルミネーション。
ビルの壁に叩き付けられたケーキ。
そこに七割埋まる軽トラ。
「グルオアー!」
変な鳴き声をあげてトラックを振り払うケーキ。
横倒しになって滑っていくトラックがガードレールにぶつかり、中の人は無事じゃ済むまいってな具合に爆発した。
荷台に積まれてた子たちはともかく緒形さんは無事かな、と思っていると……。
「ふーう、カースタントも楽じゃあないなあ」
足下のマンホールからかぱっと逝が出てきた。いつのまにかトナカイのコスプレまでしていた。
いつのまにマンホールに入ったんだとか。
足下から現われるなとか。
トナカイになるならそのヘルメットと腕のブレードはどう考えてもミスマッチだろとか。
そういうツッコミちゃんが大げんかの末無理心中していた。何も口から出なかった。
「華神ちゃん、来てる来てる」
「おっとっと」
ケーキが起き上がり悠乃にターゲットロックオン。イノシシもかくやという猛烈な突進をしかけてきた。
読者諸兄の中にイノシシに突き飛ばされた経験のある方はおられようか。もしくは巨大クリスマスケーキに突進された経験のある方は? もしいるならこの状況にとった悠乃の構えが理解できるだろう。
両足を肩幅右前に開き、後ろ側のつま先を外向きに構える。腰をやや落とし、両腕を開く。
これぞ古代中国大陸にて千頭の牛を受け止め振り払ったという砲流刑鬼の構えである。嘘である。
「せっ!」
受け止めつつ受け流す。若いボーイが色気づいて告ってきた時の対処みたく優しく時に強引に受け流す悠乃。
ケーキは見事に宙を舞い、ケーキに埋まっていた結鹿と聖奈はぷはあといって(イチゴちゃんを頭にのっけたまま)顔を出した。あとその直後に絶叫した。
背中のはねをパタパタやりつつ、つららがキリッとした目で戦場に戻ってきた。
右手にローストチキン。左手にシャンメリーボトルを持って戻ってきた。
「おまはへひまふた!」
「ごっくんしてから喋ろうね、つららちゃん」
「はっ! 目の前に落ちていたものでつい……!」
シャッと後ろにチキンを隠すと、しゃかしゃかボトルを振ってからコルクを抜いた。しゃわーっと悠乃や逝に降り注ぐシャンメリーが……癒しの滴の使用シーンだって言っても信じてくれるよね。
さて、一方の結鹿と聖奈は。
(頭にイチゴちゃん乗っけたまま)聖奈が結鹿を羽交い締めにする感じでぱたぱた飛行していた。
「大丈夫ですか、菊坂さん!」
「ぺっぺっ、なんだか身体がぬるぬるします……」
「戦えますか? よかったら洗いますけど」
「平気です、慣れてますんで」
結鹿は上司のセクハラに心閉ざしたOLみたいな目をして言った。相変わらず十五歳がしていい目じゃない。
そうと知らぬ無垢なる聖奈は『ベテラン覚者さんは過酷な現場を耐え抜いているんですね!』と尊敬のまなざしを送っていた。
ハッとして首を振る結鹿。
見れば、悠乃に投げられたダウン状態から起き上がったケーキがこちらをキッとにらんでいるではないか。どこに顔あるかわかんないけど。
「森宮さん! よけてよけて!」
腕をぶんぶん振る結鹿。それを受けて、聖奈はぐいんと身体を傾けて右方向へカーブ。
後ろから追いかけてくる巨大ケーキがミサイルよろしく生クリーム弾をばしばし飛ばしてきた。聖奈と結鹿のすぐわきを抜けていく生クリーム弾。
バレルロールをかけて次弾を回避すると、今度は前後反転。
「菊坂さん!」
「はい、反撃します!」
立てた人差し指で左から右へすいっと一文字を描く結鹿。すると無数の氷が螺旋状のスパイクとなり、次々にケーキへと放たれた。
それに伴って聖奈も周囲の空気を圧縮。次々とミサイルよろしく発射してケーキへと叩き込んでいった。
突進を空振りし、銀行のビルに正面からぶつかっていく巨大クリスマスホールケーキ。
それを取り囲むは五人の覚者たちである。
「まずは私が隙を作ります。そのうちに強力な攻撃を与えてトドメを!」
結鹿はそう叫ぶと、剣をとって走り出した。
振り返り、生クリームキャノンを乱射してくるケーキ。
顔に直撃しそうになった生クリームを斜めに切り払い、返す刀で地面をがりがりと削っていく。
アスファルト道路に恨みがあるわけではない。彼女の削った軌跡をなぞるよに氷がはり、結鹿が豪快に切り上げた時には巨大な氷でできたクリスマスツリーがケーキを派手に貫いたのだ。
ぐぎゃーと声をあげるケーキ。
苦し紛れに生クリームを大量に叩き付けられた結鹿が、うにゅーと言いながら目を回していた。その右手と左手をそれぞれ掴んで緊急離脱する聖奈とつらら。
「菊坂さんしっかり!」
聖奈はヤカンで顔にばしゃーっと水をかぶせて結鹿を起こした。演舞・舞衣の使用シーンって想像しづらいよね。大気に含まれる浄化物質を周囲に集めて異常状態の回復を促すシーンってピンとこないよね。
さておき。
「パスおくるわよ」
ギリギリの低姿勢からドンッとショルダータックルを叩き込む逝。
それによって僅かに浮き上がったケーキの下に素早く滑り込むと、悠乃は拳にめっちゃエネルギーを集中させた。
具体的にどうって言われるとこまるけど、クリスマス映画でよくみる黄金の粒子みたいなやつが腕に沢山あつまったと思ってほしい。
「私が戦うのは妖が憎いからじゃない。夢見の告げる悲しい未来を打ち砕く……ケーキが地面に落ちておにーさんが悲しい顔をする未来を、破壊するため!」
悠乃が繰り出した華神天昇拳(今考えました)がケーキを貫き、空を穿ち、雲に穴を開けた、気がした。
事実として妖は消え去り、ケーキが宙を舞い。
回転して落ちるケーキを逝が器用にすちゃっと受け止めた。
「悲劇は回避……されたかしら」
●現代伝奇活劇アラタナル。これは覚者たちが悲劇の未来を破壊する戦いの物語である。たぶんね!
ファイヴが軍隊じゃないって言えるイチバンのポイントは、戦った後に紅茶やホットケーキやピロシキを作り初めてもいいというところだ。
「アレンジフルーティーっていうんです。いい香りでしょう?」
結鹿の振る舞う暖かい紅茶を、悠乃やつららはうっとりと頂いていた。
「ホットケーキが焼き上がりましたよ!」
わーいという顔で小走りにやってくる聖奈。
彼女の手にはなんか紫色したスポンジ状の物体が重なっていた。
「何をどうしたらそんな有様に……」
「そ、その、大人の方もいらっしゃるので……隠し味にと……」
ちらりと調理台を振り返ると、赤ワインがボトル一本分空になっていた。
市販のホットケーキミックスに水や牛乳のかわりに赤ワインを入れると紫色の毒みたいなやつができるよ。みんなもやってみよう(そして必ず自分で喰おう)。
「す、すみません。実はお料理、苦手で……」
空気を察してもじもじとしはじめる聖奈……の手からホットケーキを皿ごと奪うと、つららが『あーん』と大口を開けて全部いっきに頬張った。
暫くもっくもっくとやったあと、マンガみたいに一気に飲み込んだ。
(※赤ワインのアルコールは予め飛ばしてあります。未成年の飲酒喫煙は描かない健全なアラタナルだよ☆)
「うまし」
「そんなばかな」
「ほーい、みんな。ピロシキできたわよ」
エプロンにフルフェイスヘルメットという、相変わらずどうかしてる格好で現われる逝。
両手で持ったトレーには揚げたてのピロシキが山盛りになっていた。
「ほれ、文鳥ちゃんもおたべ」
「わーいいただきまふ!」
てな具合できゃっきゃうふふと遊びつつ……。
「さてと、じゃあそろそろ」
「行きましょうか!」
じんぐるべーる、すずがなる。
サンタ帽子とサンタジャケットを身に纏い、大学生の青年は立っていた。
東京というコンクリートジャングルでは、心も体も寒くなる。
よりお寒いのは、目の前に積まれたケーキボックスの山である。
クリスマスホールケーキが山と積まれ、それを売り切ることが彼に課せられたバイト内容であった。
妖が出ようとなんだろうと、青年のバイトは変わらない。どころか、あの暴走ケーキの代金も自分持ちなんだろーなと心を無にして空を見上げていた。ただ青年が知らないだけかもしれないけど、保険会社に妖保険とかないのだ。
妖を倒せる人間はいても、青年の不幸はぬぐえない。
本当の不幸と悲劇は武力なんかじゃ救えない。
「おにーさん!」
……かに、思われた。
振り返ると、サンタやトナカイのコスプレをした一団が。
「大変でしたね。どうぞ」
結鹿がミルクティーの入った紙コップを手渡した。
ふと見れば、悠乃がホールケーキのボックスを持って立っている。
顔を見合わせる聖奈とつらら。腕組みして頷く逝。
「まさか、それは……」
悠乃が箱を開くと、中から青年の売っていた(というか妖化して走って行ったはずの)ケーキが現われた。
「お一つ、くださいな」
青年の顔がぱっと明るく華やいだ。
現代伝奇活劇アラタナル。
これは覚者たちが悲劇の未来を破壊する戦いの物語である。
逃げ惑う人混み!
無線を手に困惑する警察官!
乗り捨てられたバイクを踏みつけ、スクランブル交差点の真ん中へと飛び込んだ巨大な妖は獣の如くがおーと吠えた!
章タイトルでゆるくって言ったのにいきなりのモンスターパニックである。しかしご安心頂きたい。暴れているのはワンホールのクリスマスケーキ。昔あったよね、チョコレートケーキが町を襲う映画!
「それほどデカくなるまえに、美味しくいただこうかねっ――と」
軽トラックの運転席。『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)はハンドルをぎゅっと握りしめ、ギアチェンジしつつアクセルを強く踏み込んだ。
ヘルメットをしているのはカースタントのためじゃない。毎日こうだ。毎回こんなアクションだ。
「それいくぞう、みんな近くのものに『つかまらない』ことさね!」
二車線道路のド真ん中を突っ走り、全速力でケーキにぶつかっていく逝の軽トラック。周囲のあれやこれやをまとめて薙ぎ払い、トラックは思い切りケーキに埋もれていった。これが地烈の使用シーンだって言って信じてくれるかな?
それにごっそり巻き込まれましたるは四人の覚者。
常識にそってうっかり近くのバーにつかまってしまった『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)と森宮・聖奈(CL2001649)。
てこの原理(?)でぽーんと飛ばされていった文鳥 つらら(nCL2000051)。
彼女たちがわきゃーといいながら目をぐるぐるさせている間に、『眩い光』華神 悠乃(CL2000231)はちゃっかり助手席から中途離脱。
ころころ転がって片膝立ちの姿勢で停止していた。というか、サンタさんの格好してあのナイトキャップみたいなのを片手で押さえていた。
「ま、今日はクリスマス……だしね」
すっくと立ち上がりどこからともなく現われたガントレットを両手それぞれに装着。
くるりと振り返り、いつものちょっぴり特殊なファイティングポーズをとった。
「そこまでだ! クリスマスの悲しい思い出を、これ以上壊させたりしな……ん?」
悠乃の目に映ったものは三つだけだった。
クリスマスイルミネーション。
ビルの壁に叩き付けられたケーキ。
そこに七割埋まる軽トラ。
「グルオアー!」
変な鳴き声をあげてトラックを振り払うケーキ。
横倒しになって滑っていくトラックがガードレールにぶつかり、中の人は無事じゃ済むまいってな具合に爆発した。
荷台に積まれてた子たちはともかく緒形さんは無事かな、と思っていると……。
「ふーう、カースタントも楽じゃあないなあ」
足下のマンホールからかぱっと逝が出てきた。いつのまにかトナカイのコスプレまでしていた。
いつのまにマンホールに入ったんだとか。
足下から現われるなとか。
トナカイになるならそのヘルメットと腕のブレードはどう考えてもミスマッチだろとか。
そういうツッコミちゃんが大げんかの末無理心中していた。何も口から出なかった。
「華神ちゃん、来てる来てる」
「おっとっと」
ケーキが起き上がり悠乃にターゲットロックオン。イノシシもかくやという猛烈な突進をしかけてきた。
読者諸兄の中にイノシシに突き飛ばされた経験のある方はおられようか。もしくは巨大クリスマスケーキに突進された経験のある方は? もしいるならこの状況にとった悠乃の構えが理解できるだろう。
両足を肩幅右前に開き、後ろ側のつま先を外向きに構える。腰をやや落とし、両腕を開く。
これぞ古代中国大陸にて千頭の牛を受け止め振り払ったという砲流刑鬼の構えである。嘘である。
「せっ!」
受け止めつつ受け流す。若いボーイが色気づいて告ってきた時の対処みたく優しく時に強引に受け流す悠乃。
ケーキは見事に宙を舞い、ケーキに埋まっていた結鹿と聖奈はぷはあといって(イチゴちゃんを頭にのっけたまま)顔を出した。あとその直後に絶叫した。
背中のはねをパタパタやりつつ、つららがキリッとした目で戦場に戻ってきた。
右手にローストチキン。左手にシャンメリーボトルを持って戻ってきた。
「おまはへひまふた!」
「ごっくんしてから喋ろうね、つららちゃん」
「はっ! 目の前に落ちていたものでつい……!」
シャッと後ろにチキンを隠すと、しゃかしゃかボトルを振ってからコルクを抜いた。しゃわーっと悠乃や逝に降り注ぐシャンメリーが……癒しの滴の使用シーンだって言っても信じてくれるよね。
さて、一方の結鹿と聖奈は。
(頭にイチゴちゃん乗っけたまま)聖奈が結鹿を羽交い締めにする感じでぱたぱた飛行していた。
「大丈夫ですか、菊坂さん!」
「ぺっぺっ、なんだか身体がぬるぬるします……」
「戦えますか? よかったら洗いますけど」
「平気です、慣れてますんで」
結鹿は上司のセクハラに心閉ざしたOLみたいな目をして言った。相変わらず十五歳がしていい目じゃない。
そうと知らぬ無垢なる聖奈は『ベテラン覚者さんは過酷な現場を耐え抜いているんですね!』と尊敬のまなざしを送っていた。
ハッとして首を振る結鹿。
見れば、悠乃に投げられたダウン状態から起き上がったケーキがこちらをキッとにらんでいるではないか。どこに顔あるかわかんないけど。
「森宮さん! よけてよけて!」
腕をぶんぶん振る結鹿。それを受けて、聖奈はぐいんと身体を傾けて右方向へカーブ。
後ろから追いかけてくる巨大ケーキがミサイルよろしく生クリーム弾をばしばし飛ばしてきた。聖奈と結鹿のすぐわきを抜けていく生クリーム弾。
バレルロールをかけて次弾を回避すると、今度は前後反転。
「菊坂さん!」
「はい、反撃します!」
立てた人差し指で左から右へすいっと一文字を描く結鹿。すると無数の氷が螺旋状のスパイクとなり、次々にケーキへと放たれた。
それに伴って聖奈も周囲の空気を圧縮。次々とミサイルよろしく発射してケーキへと叩き込んでいった。
突進を空振りし、銀行のビルに正面からぶつかっていく巨大クリスマスホールケーキ。
それを取り囲むは五人の覚者たちである。
「まずは私が隙を作ります。そのうちに強力な攻撃を与えてトドメを!」
結鹿はそう叫ぶと、剣をとって走り出した。
振り返り、生クリームキャノンを乱射してくるケーキ。
顔に直撃しそうになった生クリームを斜めに切り払い、返す刀で地面をがりがりと削っていく。
アスファルト道路に恨みがあるわけではない。彼女の削った軌跡をなぞるよに氷がはり、結鹿が豪快に切り上げた時には巨大な氷でできたクリスマスツリーがケーキを派手に貫いたのだ。
ぐぎゃーと声をあげるケーキ。
苦し紛れに生クリームを大量に叩き付けられた結鹿が、うにゅーと言いながら目を回していた。その右手と左手をそれぞれ掴んで緊急離脱する聖奈とつらら。
「菊坂さんしっかり!」
聖奈はヤカンで顔にばしゃーっと水をかぶせて結鹿を起こした。演舞・舞衣の使用シーンって想像しづらいよね。大気に含まれる浄化物質を周囲に集めて異常状態の回復を促すシーンってピンとこないよね。
さておき。
「パスおくるわよ」
ギリギリの低姿勢からドンッとショルダータックルを叩き込む逝。
それによって僅かに浮き上がったケーキの下に素早く滑り込むと、悠乃は拳にめっちゃエネルギーを集中させた。
具体的にどうって言われるとこまるけど、クリスマス映画でよくみる黄金の粒子みたいなやつが腕に沢山あつまったと思ってほしい。
「私が戦うのは妖が憎いからじゃない。夢見の告げる悲しい未来を打ち砕く……ケーキが地面に落ちておにーさんが悲しい顔をする未来を、破壊するため!」
悠乃が繰り出した華神天昇拳(今考えました)がケーキを貫き、空を穿ち、雲に穴を開けた、気がした。
事実として妖は消え去り、ケーキが宙を舞い。
回転して落ちるケーキを逝が器用にすちゃっと受け止めた。
「悲劇は回避……されたかしら」
●現代伝奇活劇アラタナル。これは覚者たちが悲劇の未来を破壊する戦いの物語である。たぶんね!
ファイヴが軍隊じゃないって言えるイチバンのポイントは、戦った後に紅茶やホットケーキやピロシキを作り初めてもいいというところだ。
「アレンジフルーティーっていうんです。いい香りでしょう?」
結鹿の振る舞う暖かい紅茶を、悠乃やつららはうっとりと頂いていた。
「ホットケーキが焼き上がりましたよ!」
わーいという顔で小走りにやってくる聖奈。
彼女の手にはなんか紫色したスポンジ状の物体が重なっていた。
「何をどうしたらそんな有様に……」
「そ、その、大人の方もいらっしゃるので……隠し味にと……」
ちらりと調理台を振り返ると、赤ワインがボトル一本分空になっていた。
市販のホットケーキミックスに水や牛乳のかわりに赤ワインを入れると紫色の毒みたいなやつができるよ。みんなもやってみよう(そして必ず自分で喰おう)。
「す、すみません。実はお料理、苦手で……」
空気を察してもじもじとしはじめる聖奈……の手からホットケーキを皿ごと奪うと、つららが『あーん』と大口を開けて全部いっきに頬張った。
暫くもっくもっくとやったあと、マンガみたいに一気に飲み込んだ。
(※赤ワインのアルコールは予め飛ばしてあります。未成年の飲酒喫煙は描かない健全なアラタナルだよ☆)
「うまし」
「そんなばかな」
「ほーい、みんな。ピロシキできたわよ」
エプロンにフルフェイスヘルメットという、相変わらずどうかしてる格好で現われる逝。
両手で持ったトレーには揚げたてのピロシキが山盛りになっていた。
「ほれ、文鳥ちゃんもおたべ」
「わーいいただきまふ!」
てな具合できゃっきゃうふふと遊びつつ……。
「さてと、じゃあそろそろ」
「行きましょうか!」
じんぐるべーる、すずがなる。
サンタ帽子とサンタジャケットを身に纏い、大学生の青年は立っていた。
東京というコンクリートジャングルでは、心も体も寒くなる。
よりお寒いのは、目の前に積まれたケーキボックスの山である。
クリスマスホールケーキが山と積まれ、それを売り切ることが彼に課せられたバイト内容であった。
妖が出ようとなんだろうと、青年のバイトは変わらない。どころか、あの暴走ケーキの代金も自分持ちなんだろーなと心を無にして空を見上げていた。ただ青年が知らないだけかもしれないけど、保険会社に妖保険とかないのだ。
妖を倒せる人間はいても、青年の不幸はぬぐえない。
本当の不幸と悲劇は武力なんかじゃ救えない。
「おにーさん!」
……かに、思われた。
振り返ると、サンタやトナカイのコスプレをした一団が。
「大変でしたね。どうぞ」
結鹿がミルクティーの入った紙コップを手渡した。
ふと見れば、悠乃がホールケーキのボックスを持って立っている。
顔を見合わせる聖奈とつらら。腕組みして頷く逝。
「まさか、それは……」
悠乃が箱を開くと、中から青年の売っていた(というか妖化して走って行ったはずの)ケーキが現われた。
「お一つ、くださいな」
青年の顔がぱっと明るく華やいだ。
現代伝奇活劇アラタナル。
これは覚者たちが悲劇の未来を破壊する戦いの物語である。
