【夜行武闘会】吹き荒れる氷の微笑と凶つ風
●前回までのあらすじ
夜行武闘会――
六十年に一度行われると言われる古妖の武闘大会である。ルールは殺し禁止の勝ち抜け戦。武器や術式の使用も可能ななんでもありな戦いである。
だが大会の敗者が忽然と姿を消した。彼らは戦闘不能になったところを大会主催者の妖狐に拉致されたという。
大会に渦巻く陰謀。覚者達の運命やいかに!?
●準決勝
「準決勝第一試合は『人間チームA』と『氷柱女』チームとなります!」
武舞台に立った覚者達は荒れ狂う風を受けて足を踏ん張った。油断すれば吹き飛ばされそうな風だ。この状態でバランスを維持するのは難しい。これも妖狐の幻術なのだろうか。厄介な状況だが、それは相手も同じことだ。
そしてその相手はというと、
「ふふ。人間の男は久しぶりね」
「壊れないように扱わないといけないから、大変だわ」
「女はいらないわね。凍り付けにして返してあげる」
覚者達を品定めするように見ていた。見た目というよりは如何に鍛えているか。肉体的に精神的に。そう言ったモノを見ているようだ。
「あんた等も薄々気づいてるんでしょう? 負ければどうなるか」
囁くような氷柱女の言葉に覚者達に緊張が走る。
「安心しなさい。妖狐にちょっかいかけられるより先に、凍らせて守ってあげる。いい男だけは」
「あたしらの目的はいい男を探すこと。強さを求める者が持つ肉体や魂。それを求めてるのさ」
「その為に武術を学んだのよ。強さを理解するために」
強い者を求めて武を学ぶ。動機は確かに不純といえよう。欲にまみれたと揶揄されるだろう。
だがその一念で鍛えられた強さは嘘ではない。例え邪な理由でも強さは強さ。清廉潔白な聖人よりも、血にまみれた殺し屋の方が強いこともある。善悪や正邪は、強さに関係ないのだ。
氷で作られた武具を構える。刀と槍と、弓。その構えが無言で強さを物語っていた。
「それでは準決勝第一試合、初め!」
開始の合図とともに、歓声が沸き上がる。どうやら幻術の外からは、こちらの闘いが見えているようだ。
古妖達の歓声に背中を押されるように、覚者達は嵐の武舞台で舞う!
夜行武闘会――
六十年に一度行われると言われる古妖の武闘大会である。ルールは殺し禁止の勝ち抜け戦。武器や術式の使用も可能ななんでもありな戦いである。
だが大会の敗者が忽然と姿を消した。彼らは戦闘不能になったところを大会主催者の妖狐に拉致されたという。
大会に渦巻く陰謀。覚者達の運命やいかに!?
●準決勝
「準決勝第一試合は『人間チームA』と『氷柱女』チームとなります!」
武舞台に立った覚者達は荒れ狂う風を受けて足を踏ん張った。油断すれば吹き飛ばされそうな風だ。この状態でバランスを維持するのは難しい。これも妖狐の幻術なのだろうか。厄介な状況だが、それは相手も同じことだ。
そしてその相手はというと、
「ふふ。人間の男は久しぶりね」
「壊れないように扱わないといけないから、大変だわ」
「女はいらないわね。凍り付けにして返してあげる」
覚者達を品定めするように見ていた。見た目というよりは如何に鍛えているか。肉体的に精神的に。そう言ったモノを見ているようだ。
「あんた等も薄々気づいてるんでしょう? 負ければどうなるか」
囁くような氷柱女の言葉に覚者達に緊張が走る。
「安心しなさい。妖狐にちょっかいかけられるより先に、凍らせて守ってあげる。いい男だけは」
「あたしらの目的はいい男を探すこと。強さを求める者が持つ肉体や魂。それを求めてるのさ」
「その為に武術を学んだのよ。強さを理解するために」
強い者を求めて武を学ぶ。動機は確かに不純といえよう。欲にまみれたと揶揄されるだろう。
だがその一念で鍛えられた強さは嘘ではない。例え邪な理由でも強さは強さ。清廉潔白な聖人よりも、血にまみれた殺し屋の方が強いこともある。善悪や正邪は、強さに関係ないのだ。
氷で作られた武具を構える。刀と槍と、弓。その構えが無言で強さを物語っていた。
「それでは準決勝第一試合、初め!」
開始の合図とともに、歓声が沸き上がる。どうやら幻術の外からは、こちらの闘いが見えているようだ。
古妖達の歓声に背中を押されるように、覚者達は嵐の武舞台で舞う!

■シナリオ詳細
■成功条件
1.氷柱女に勝利する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
純粋に大会を楽しんでもいい。野望を暴こうとしてもいい。全て、貴方達次第。
●敵情報
氷柱女(×三)
つららおんな。古妖。愛した男に尽くし、浮気すれば氷柱で突き刺す由緒正しきヤンデレ古妖です。白無垢の和服を着ており、氷でできた武具で攻めてきます。
攻撃方法は以下の通り。
・長女
氷剣三閃 物近単 氷で作られた刀で切り裂いてきます。【三連】
氷の回廊 物近列 一瞬だけ足元を凍らせ、滑るように動き切り裂いてきます。【二連】
零度の突 特近単 虚を突くように胸に突き立てられる剣。【凍傷】
氷の微笑 特遠単 微笑みます。【氷結】【ダメージ0】。参加者全員の中で「心」が一番高い数値のキャラクターにのみ有効。
・次女
氷柱の槍 物近貫2 氷で作られた巨大な槍で突いてきます。(100%、50%)
吹雪の舞 物遠単 投擲用の槍を作り、投げつけてきます。
首切片刃 物近単 氷でできた十字槍で首を狩るように攻めてきます。【必殺】
氷の微笑 特遠単 微笑みます。【氷結】【ダメージ0】。参加者全員の中で「技」が一番高い数値のキャラクターにのみ有効。
・三女
氷の矢 物遠単 氷で作られた矢を放ちます。
一斉掃射 特遠全 細かく砕いた氷の矢じりを飴のように戦場に降らせます
涼風 特遠味全 冷たい風を放ち、体温を調節します。HP回復。
氷の微笑 特遠単 微笑みます。【氷結】【ダメージ0】。参加者全員の中で「体」が一番高い数値のキャラクターにのみ有効。
●戦闘終了後
自由行動です。他チームに会いに行ったり、妖狐と話をしに行ったりすることが出来ます。疲弊した状態でおすすめはしませんが、戦闘も可能です。
●場所情報
暴風の幻術が施された武舞台。バランスを保つのが難しいため、他キャラクターをブロックすることが出来ません。システム的にはターン開始時に敵味方全体に【ダメージ0】【ノックB】の攻撃が飛ぶ形となります。
明るさや広さなどは戦闘に影響しません。
戦闘開始時、敵前衛に「長女」「次女」が。敵中衛に「三女」がいます。
一礼しての試合開始のため、事前付与は不可とします。、
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年11月28日
2017年11月28日
■メイン参加者 6人■

●
「ふふ、貴方達と戦えて光栄だわ」
戦場の上とは思えないほど柔らかい笑みを浮かべ、三島 椿(CL2000061)は神具を構える。彼女達とはずっと戦ってみたかった。戦う理由が強い男を求めるという理由であっても。いいや、理由に意味はない。何かのために強くあろうとする女性だから。
「ずっとずっと戦ってみたかった」
「あら嬉しいわ。でも残念。私達が戦いたいのは男の方」
「男、男って。どんだけ男日照りが続いてたんか知らんけどこいつら必死すぎやろ」
呆れるように『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が肩をすくめる。幼いころから剣術を学び、流派を継ぐことを目的としている彼女からすれば呆れた理由とみられても仕方ない。最も彼女達が学んだ武術に呆れることはない。肌寒いのは冷気だけではないようだ。
「んー………。五十年ぐらい?」
「そりゃ必死になるわ。つーか、五十年ほど男と戦って無敗ってことか。気ぃひきしめんとな」
「確かに。元より気を緩めるつもりはない」
刀の柄に手を置いて水蓮寺 静護(CL2000471)が気合を入れる。相手の目的や動機など関係ない。目の前の闘いに集中し、自分の限界まで力を引き出す。勝敗に拘るつもりはないが、負けるつもりはない。
「あらお堅い。色男が台無しよ」
「世辞を言うよりは武で語る。それがこの大会の趣旨だ」
「そうだな。刀で語るのが正解なんじゃないか? 強さも分かるし」
氷柱女を真正面から見ながら『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)が頷く。強くなるということは、その事に長く時間を費やしていることである。それを為すだけの強い信念がそこにあるのだ。彼女達の想いは培った武術に等しい。それを語るのが、この場だ。
「あら可愛い坊やのわりに、いいこと言うじゃない」
「確かに俺は子供かもしれないけど、剣にかけては大人にも負けないつもりだ」
「そういうことだ。見た目で判断すると痛い目を見るぞ」
頷きながら『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)が会話に入ってくる。因子発現で若返る者や見た目の年齢が固定される者もいる。見た目で判断するのは早計だ。それはもちろん、目の前の氷柱女にも当てはまる。
「それはこちらも同じよ。油断や手加減はいらないわ。そのほうが、男の強さを感じられるし」
「そちらの趣味に合わせるつもりはないが、本気で戦うのは事実だ」
「その通り! 強い奴と戦って楽しいという理由は納得できる!」
『強敵との戦いを楽しむ』をモットーとする『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は腕を組んで相手の言葉に同意した。重要なのは相手が強いという事。そんな連中と戦えるという事。それだけが遥にとって重要だった。
「あ、でもオレはダメだぜ。オレにはすでに心に決めた人がいるからさ! 写真見る?」
「なになにー。コイバナ?」
恋の話には興味津々な氷柱女。しばらく『心に決めた人』の話で盛り上がっていた。
やがて試合開始の時間となり、覚者と氷柱女は所定の位置に移動する。それぞれの武器を構え、暴風の武舞台の上でにらみ合う。
「準決勝第一試合、初め!」
試合開始の掛け声と同時に、覚者と古妖はぶつかり合う。
●
暴風の武舞台の中、足止めをして攻めるという戦略に意味はない。突破を防ぐだけの踏ん張りがきかず、走り抜ける敵を止めることが出来ないからだ。
それは覚者も氷柱女も同じこと。基本戦略の『回復役を護りつつの攻防』が潰された以上、互いにやるべきことは傷を癒す回復役をいかに早く倒すか――
「僕が相手だ。かかってこい」
神具を抜刀し静護が氷柱女の長女と次女に向かって吼える。回復役の三女を倒すまでの囮を買って出るつもりだ。戦術的な理由もあるが、氷の武技と一戦交えてみたいという気持ちもある。恋愛には興味はないが、彼女達の強さには興味があった。
答えを待たずに踏み込み、穿つ。それに応じるように氷剣がその一撃を受け止める。互いの武具ごしに睨み合う静護と長女。共に怜悧に、しかし内燃する闘志は熱く。鍔競り合いの状態で氷柱女は笑みを浮かべる。妖艶な乙女ではなく、修羅のように鋭く。
「ただの軟弱な男では無い事をこの力を以てお前達に示そう!」
「興が乗ったわ。その元気がどこまで持つかしら」
「焔陰流二十一代目(予定)焔陰凛、推して参る! 」
氷柱女を煽りながら凛が刃を振るう。炎の源素を活性化させ、古流剣術焔陰流の剣技を見せる。暴風の中にあってもバランスを崩さず、着実に相手を追い詰めていく。それは暴風にしなる竹の如く。風を受け流し、倒れることのない『構え』の妙技。
源素を放出し、刀に宿らせる。強い集中が時間を止めたような錯覚を生み出した。一秒後の敵の位置、自分の位置、仲間の位置。全てを把握し、相手までの最短距離を導き出す。二歩踏み出し、刀を振るう。その手ごたえが柄から伝わってきた。
「あんたらの氷であたしの焔、凍らせられるもんなら凍らせてみいや!」
「確かに難しそうね。だからこそやりがいがあるわ」
「たとえ凍ったとしてもすぐに癒す。それが俺の役割だ」
着流しを風に吹かせながらゲイルが言い放つ。ゲイルは直接的に相手を攻撃するつもりはない。彼がここにいるのは仲間を癒す為。戦いという暴威の中で、献身をもって挑む癒し手。揺るぎなき信念は真っ直ぐな声をもって示されていた。
AAAで作られた手榴弾を敵陣に投げ放ち、手にしている大型拳銃で撃つ。閃光と爆音が氷柱女の視界と聴覚に強い衝撃を与え、その動きを制限させた。その隙に水の源素を解放させ、癒しの雨を降らせて仲間の傷を治していく。
「傷は俺と椿が癒す。お前達は思うままに攻めるんだ」
「ありがとう! それじゃ鹿ノ島遥、行きます!」
親指を一つ立てて礼を言い、遥が拳を握る。隙のない氷柱女の立ち様。それだけで胸がドキドキしていた。高揚する気持ちの正体は、戦意。強い相手と戦う楽しさで胸が躍っていた。相手が古妖だろうが女性だろうが関係ない。そこに強い相手がいるなら、挑むのみ。
腕をねじるようにしながら後ろに引く。溜める時間は現実時間にすれば一秒にも満たない時間。その間に重心を下げ、強く氷柱女を見据える。自分と目標以外の物を世界から消し、真っ直ぐに拳を放った。拳から衝撃波が飛び、離れた場所にいる氷柱女を穿つ。
「相手が鍛錬を積んだツワモノなら、相手をするのに何の問題もないぜ!」
「あら残念。和服で迫れば鼻の下を伸ばしそうな雰囲気だったのに」
「そのぶれない心でここまで強くなったんだから、大したものだ」
ふざける様にいう氷柱女を見て、飛馬が呆れたように言う。とはいえその強さを認めないわけではない。動機が不純だろうが、積み上げた鍛錬は本物だ。そしてそれがこちらに牙を向いている以上、油断などできようはずがない。
鬨の声を上げ、二本の太刀を振るう。飛馬の手に握られた神具は時に同時に、時に交互に翻る。時に敵陣を切り裂く刃となり、時に仲間を護る盾となり。縦横無尽。変幻自在。それでいてその信念は硬く、仲間を護るために振るわれる。
「もしあんたらが捕まっちまうんだとしたら……俺らが守ってやるよ」
「あら豪気。もう勝ったつもりでいるの?」
「ええ。勝つつもりでいるわ」
弓を手にして梓が頷く。真っ直ぐに氷柱女を見据え、揺るぎなき決意を言葉に乗せる。氷柱女を侮っているわけではない、むしろその実力を理解し、その上で勝つと宣言する。彼女達に戦う理由があるように、自分にも戦う理由がある。
心を鎮め、水の源素を手のひらに集める。穏やかな湖面。しとしとと降る雨。そんな情景をイメージしながら、癒しの力を乗せた源素を解放する。源素は霧となって広がり、仲間の傷を癒していく。この情景こそ、椿が求める強さの象徴だった。
「私が求める強さは、守る為の強さ。誰も失わせはしない」
「贅沢ね。でも守れるかしら? 吹雪と氷柱は優しくないわよ!」
冷気を含んだ武具と乙女の武技が覚者を襲う。氷柱女達もまた、覚者の強さと力を認めたうえで勝利を勝ち取ろうとする。戦う理由こそ違えど、武舞台の上で戦う者達の想いは共通していた。
勝つ。相手を倒す。
互いに勝利を求め、戦いは加速していく。
●
鎬を削る。刀の鎬が削れ落ちるほどの激戦を指す言葉である。
氷柱女との戦いはまさにその一言に尽きた。氷の剣と槍が神具と交差し、激しい音が響く。攻守が目まぐるしく交代し、息つく間もなく互いの武器が煌めいた。
ゲイルが氷柱女に動きを止められていた凛を解放する。氷が砕ける音と同時に凛の『朱焔』が三連続で振るわれた。二閃が弾かれ一閃が長女の肌を裂く。その間隙を縫うように次女が刀を振るえば、そうはさせじと飛馬が割り込んでその一撃を受け止めた。そこに迫る静護の踏み込み。青い闘気を放つ刀が振るわれる前に、静護の足元に三女の矢が突き刺さる。
止めた、と笑みを浮かべる三女だが静護の表情を見て失策を悟る。踏み込んだのは、三女の攻撃をこちらに向けさせるためだ。矢を放った隙を狙い椿が三女に向けて矢を放つ。攻撃の隙を突かれたこともあり、回避が遅れた。肩に突き刺さった矢を抜くが、呼吸を整える間もなく遥が迫る。一度は攻撃を受け流すも、近接戦は不得手なのかその後は受けきることが出来ずにクリーンヒットする。
氷柱女も押されるばかりではない。冷気の調節により長さが変化する長女の氷柱槍は覚者達の目測を狂わせる。ギリギリで回避をすれば伸び、しかし大きく回避すれば攻めに転じれない。地面を滑る様に動く次女の動きも侮れない。一歩の歩幅が大きく、機動力と攻撃範囲が大きいのだ。そして三女の鏃が覚者全員の体力を奪っていく。何よりも足止めとばかりに放たれる笑みが、覚者の攻撃テンポを崩していた。
「あぁ、これじゃまるで奴みたいじゃないか。気に食わん」
「大丈夫。まだ立てる」
静護とゲイルが氷柱女の一撃を受けて命数を削る。静護は頭を振って脳裏に浮かんだ人物を振り払った。
「まだ一本ちゃうでー!」
「そうだ! まだまだ終わらないからな!」
凛と遥も膝をついてしまう。命数を燃やして起き上がるが、だがそこに諦めの顔はない。むしろ闘志に満ち溢れていた。戦いはこれからだ。まだ戦える。
「負けるかぁ!」
「来なさい人間!」
裂帛と共に振るわれる武技と武具。そして天秤は少しずつ傾いていく。勝負に引き分けなどありはしない。少しずつ、しかし確かに覚者が押し始めていた。
「笑みへの対策を立てられたのは効いたわね」
押され始めた氷柱女は静かに敗因を呟く。力強い者を凍らせる氷柱女の笑み。その笑みに対する対策を練られ、テンポを崩すことなく攻める覚者。それが勝敗を分けた。
回復を行う三女が倒れれば、後は消耗戦。頭の中の冷静な部分では負けを認めながら、しかしそれで心を折る氷柱女達ではない。むしろ自分達を倒すほどの存在に心躍るとばかりに攻め続ける。
だがゲイルと椿の回復もあって、氷の猛攻がこれ以上覚者を倒すことはなかった。長女が倒れ、そして残った次女も、
「これで終いだ! 鍛えに鍛えた『正鍛拳』!」
次女の懐に入る遥。足元を凍らせて下がろうとするが、遅い。何万回と繰り返した突きの動作。それは氷柱女の氷精製よりも早く突き出されていた。氷柱女の胸部に拳を叩き込む遥。氷柱女はそのまま背中から倒れ、そのまま動かなくなる。
「おおっと、お付き合いは全力でキャンセルだ!」
でも再戦ならいくらでも受けるぜ、と笑みを浮かべて遥は拳を突き上げた。
●
「ふふ、本当に惚れてしまいそう。いい試合だったわ」
半身を起こし、氷柱女の長女が告げる。凍てつくような笑みではなく、満足したような笑みだった。
「準決勝第一試合、終了です!」
試合終了の声と同時に、暴風の幻覚が解除される。
「待て……!」
その幻覚に飲まれるように、氷柱女の三人も消え去っていた。
しかし前の時と違うのは、その痕跡が残っていること。
点々と、氷の目印が地面に残されていた。それを追えばどこに連れ去られたか追えそうだ。
覚者達は頷きあい、各々行動を開始する。
「で、勝ったんはあんた等の方か」
「際どい戦いであった。人間の連携、見事とほめざるを得まい」
「人の身でありながらあの雷撃。そしてあの動き。見習う所はある」
試合後、凛は鬼のいる部屋に向かっていた。そこに鬼がいるということは、負けたのは『仮面の雷使い』ということになる。鬼達の体に残る傷痕が、戦いの激しさを示していた。
「この手でサラシをはげんかったか」
心底悔しそうに舌打ちをする凛。
「そ奴らからの言づけだ。『勝負はお預けだ!』」
「して人間、どうするのだ? ここで退くのもまた戦術。無理に我らや妖狐に挑むこともあるまい。元よりこれは古妖の諍い。人を巻き込むわけには――」
「はっ。聞くまでもないやろ?」
心配する鬼達の言葉に、凛は肩をすくめて笑みを浮かべた。そう、答えなど言うまでもない。
答えは行動で示すのみ。
「六十年前の夜行武闘会がどうだったか、じゃと?」
「そうそう。榊原のじーさん、参加者だったんだろう?」
遥は六十年前に行われた夜行武闘会についての情報を集めていた。過去の大会を知る物を探そうとして、この大会のことを教えてくれた榊原のことを思いだす。スマホを使って連絡を取っていた。
「ふむ。準決勝で火車と戦ったときはまさに死を覚悟――」
少し長いので省略。
「前の大会の主催者は『龍神』だった?」
「うむ。その山の土地神じゃな。別嬪さんの姿に化けておってなぁ。戦う時は油断して――」
「ええと、それと負けた相手が消えるということは?」
「なんじゃそれは? 負けた相手と酒を飲んだりして楽しんでたぐらいじゃぞ」
榊原の話を総合すると、負けた相手が消えたのは主催者が変わったからのようだ。土地神が消え、妖狐が跋扈しているのはまず間違いないだろう。
遥は屋敷の奥室の方を見る。そこは妖狐の部屋だ。
そして今、仲間達が部屋の中にいる。
「ようこそ。先ずは勝利を祝わせてくれ。酒は……ふうむ、まだ駄目か」
妖狐は部屋に入ってきた飛馬と静護。そして氷の目印を折ってきた椿を迎えて、称賛の拍手をする。
「負けた相手は無事なのか?」
静護が開口一番告げる。その言葉に妖狐は表情を崩さずに答えた。
「命の有無、という意味なら命はある。――ああ、はぐらかすつもりはない。一つずつ説明しよう」
妖狐は立ち上がり、部屋に飾られている着物を指差す。
「『武神の衣』――これは他者の技を摸倣し、着る者に与える衣だ。だが摸倣には厄介な条件があってね。
模倣する技は戦いの間に使われたものでなくてはいけない。
摸倣する技を持つ者を無力化し、吸収しなくてはいけない。
つまりはそういう事だ。大会で負けた者達は、衣の中で眠っている状態だ。そして彼らの武技はこの衣を着た者が扱うことが出来る」
覚者達は妖狐の説明に息をのむ。
「つまり――その衣を強化するためにこの大会を始めたという事ですか?」
「正確には大会を利用させてもらった、が正しい。前主催者の『酌善』様が不幸な事故で力を失ってしまい、その後釜を継いだ形だ」
椿の問いかけに首肯する妖狐。怒りの声を押さえて飛馬が口を開く。
「気にいらねーな。それって要するに他人が鍛えた技をかすめ取るってことだろうが」
「否定はしない。私は貴方達の実力を盗もうとしている。
そうしなければ勝たない、と判断しただ。――あの大妖に」
大妖。その言葉に覚者達は<大妖一夜>のことを思い出す。
「私は一度『新月の咆哮』と相対した。……ええ、妖狐として未熟な私では到底かなうはずもない。
故に力を求めたのです。『武神の衣』により武技を集め、大妖を討つために」
「それは……」
覚者達は何も言えなかった。
大妖がこの国にとって害悪なのは覚者も同じだ。倒せる手段があるなら、と模索している。そういう意味では妖狐の気持ちを否定はできない。
「――決勝戦は二時間後。部屋に戻って、傷を癒してくるがいい。万全の態勢で戦ってほしい。
貴方達が勝利することを祈ってるよ」
社交辞令か本気でそう言っているのか。妖狐はそういって覚者達を送り出した。
しばしの休憩の間に、傷を癒す覚者達。
相手は二匹の鬼。体躯に優れ、それに慢心することなく己を鍛えた求道者。
それを前に、覚者達はどう戦うのか? そして妖狐の陰謀を知り、どう動くのか?
夜行武闘会、決勝戦が迫る――
「ふふ、貴方達と戦えて光栄だわ」
戦場の上とは思えないほど柔らかい笑みを浮かべ、三島 椿(CL2000061)は神具を構える。彼女達とはずっと戦ってみたかった。戦う理由が強い男を求めるという理由であっても。いいや、理由に意味はない。何かのために強くあろうとする女性だから。
「ずっとずっと戦ってみたかった」
「あら嬉しいわ。でも残念。私達が戦いたいのは男の方」
「男、男って。どんだけ男日照りが続いてたんか知らんけどこいつら必死すぎやろ」
呆れるように『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が肩をすくめる。幼いころから剣術を学び、流派を継ぐことを目的としている彼女からすれば呆れた理由とみられても仕方ない。最も彼女達が学んだ武術に呆れることはない。肌寒いのは冷気だけではないようだ。
「んー………。五十年ぐらい?」
「そりゃ必死になるわ。つーか、五十年ほど男と戦って無敗ってことか。気ぃひきしめんとな」
「確かに。元より気を緩めるつもりはない」
刀の柄に手を置いて水蓮寺 静護(CL2000471)が気合を入れる。相手の目的や動機など関係ない。目の前の闘いに集中し、自分の限界まで力を引き出す。勝敗に拘るつもりはないが、負けるつもりはない。
「あらお堅い。色男が台無しよ」
「世辞を言うよりは武で語る。それがこの大会の趣旨だ」
「そうだな。刀で語るのが正解なんじゃないか? 強さも分かるし」
氷柱女を真正面から見ながら『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)が頷く。強くなるということは、その事に長く時間を費やしていることである。それを為すだけの強い信念がそこにあるのだ。彼女達の想いは培った武術に等しい。それを語るのが、この場だ。
「あら可愛い坊やのわりに、いいこと言うじゃない」
「確かに俺は子供かもしれないけど、剣にかけては大人にも負けないつもりだ」
「そういうことだ。見た目で判断すると痛い目を見るぞ」
頷きながら『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)が会話に入ってくる。因子発現で若返る者や見た目の年齢が固定される者もいる。見た目で判断するのは早計だ。それはもちろん、目の前の氷柱女にも当てはまる。
「それはこちらも同じよ。油断や手加減はいらないわ。そのほうが、男の強さを感じられるし」
「そちらの趣味に合わせるつもりはないが、本気で戦うのは事実だ」
「その通り! 強い奴と戦って楽しいという理由は納得できる!」
『強敵との戦いを楽しむ』をモットーとする『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は腕を組んで相手の言葉に同意した。重要なのは相手が強いという事。そんな連中と戦えるという事。それだけが遥にとって重要だった。
「あ、でもオレはダメだぜ。オレにはすでに心に決めた人がいるからさ! 写真見る?」
「なになにー。コイバナ?」
恋の話には興味津々な氷柱女。しばらく『心に決めた人』の話で盛り上がっていた。
やがて試合開始の時間となり、覚者と氷柱女は所定の位置に移動する。それぞれの武器を構え、暴風の武舞台の上でにらみ合う。
「準決勝第一試合、初め!」
試合開始の掛け声と同時に、覚者と古妖はぶつかり合う。
●
暴風の武舞台の中、足止めをして攻めるという戦略に意味はない。突破を防ぐだけの踏ん張りがきかず、走り抜ける敵を止めることが出来ないからだ。
それは覚者も氷柱女も同じこと。基本戦略の『回復役を護りつつの攻防』が潰された以上、互いにやるべきことは傷を癒す回復役をいかに早く倒すか――
「僕が相手だ。かかってこい」
神具を抜刀し静護が氷柱女の長女と次女に向かって吼える。回復役の三女を倒すまでの囮を買って出るつもりだ。戦術的な理由もあるが、氷の武技と一戦交えてみたいという気持ちもある。恋愛には興味はないが、彼女達の強さには興味があった。
答えを待たずに踏み込み、穿つ。それに応じるように氷剣がその一撃を受け止める。互いの武具ごしに睨み合う静護と長女。共に怜悧に、しかし内燃する闘志は熱く。鍔競り合いの状態で氷柱女は笑みを浮かべる。妖艶な乙女ではなく、修羅のように鋭く。
「ただの軟弱な男では無い事をこの力を以てお前達に示そう!」
「興が乗ったわ。その元気がどこまで持つかしら」
「焔陰流二十一代目(予定)焔陰凛、推して参る! 」
氷柱女を煽りながら凛が刃を振るう。炎の源素を活性化させ、古流剣術焔陰流の剣技を見せる。暴風の中にあってもバランスを崩さず、着実に相手を追い詰めていく。それは暴風にしなる竹の如く。風を受け流し、倒れることのない『構え』の妙技。
源素を放出し、刀に宿らせる。強い集中が時間を止めたような錯覚を生み出した。一秒後の敵の位置、自分の位置、仲間の位置。全てを把握し、相手までの最短距離を導き出す。二歩踏み出し、刀を振るう。その手ごたえが柄から伝わってきた。
「あんたらの氷であたしの焔、凍らせられるもんなら凍らせてみいや!」
「確かに難しそうね。だからこそやりがいがあるわ」
「たとえ凍ったとしてもすぐに癒す。それが俺の役割だ」
着流しを風に吹かせながらゲイルが言い放つ。ゲイルは直接的に相手を攻撃するつもりはない。彼がここにいるのは仲間を癒す為。戦いという暴威の中で、献身をもって挑む癒し手。揺るぎなき信念は真っ直ぐな声をもって示されていた。
AAAで作られた手榴弾を敵陣に投げ放ち、手にしている大型拳銃で撃つ。閃光と爆音が氷柱女の視界と聴覚に強い衝撃を与え、その動きを制限させた。その隙に水の源素を解放させ、癒しの雨を降らせて仲間の傷を治していく。
「傷は俺と椿が癒す。お前達は思うままに攻めるんだ」
「ありがとう! それじゃ鹿ノ島遥、行きます!」
親指を一つ立てて礼を言い、遥が拳を握る。隙のない氷柱女の立ち様。それだけで胸がドキドキしていた。高揚する気持ちの正体は、戦意。強い相手と戦う楽しさで胸が躍っていた。相手が古妖だろうが女性だろうが関係ない。そこに強い相手がいるなら、挑むのみ。
腕をねじるようにしながら後ろに引く。溜める時間は現実時間にすれば一秒にも満たない時間。その間に重心を下げ、強く氷柱女を見据える。自分と目標以外の物を世界から消し、真っ直ぐに拳を放った。拳から衝撃波が飛び、離れた場所にいる氷柱女を穿つ。
「相手が鍛錬を積んだツワモノなら、相手をするのに何の問題もないぜ!」
「あら残念。和服で迫れば鼻の下を伸ばしそうな雰囲気だったのに」
「そのぶれない心でここまで強くなったんだから、大したものだ」
ふざける様にいう氷柱女を見て、飛馬が呆れたように言う。とはいえその強さを認めないわけではない。動機が不純だろうが、積み上げた鍛錬は本物だ。そしてそれがこちらに牙を向いている以上、油断などできようはずがない。
鬨の声を上げ、二本の太刀を振るう。飛馬の手に握られた神具は時に同時に、時に交互に翻る。時に敵陣を切り裂く刃となり、時に仲間を護る盾となり。縦横無尽。変幻自在。それでいてその信念は硬く、仲間を護るために振るわれる。
「もしあんたらが捕まっちまうんだとしたら……俺らが守ってやるよ」
「あら豪気。もう勝ったつもりでいるの?」
「ええ。勝つつもりでいるわ」
弓を手にして梓が頷く。真っ直ぐに氷柱女を見据え、揺るぎなき決意を言葉に乗せる。氷柱女を侮っているわけではない、むしろその実力を理解し、その上で勝つと宣言する。彼女達に戦う理由があるように、自分にも戦う理由がある。
心を鎮め、水の源素を手のひらに集める。穏やかな湖面。しとしとと降る雨。そんな情景をイメージしながら、癒しの力を乗せた源素を解放する。源素は霧となって広がり、仲間の傷を癒していく。この情景こそ、椿が求める強さの象徴だった。
「私が求める強さは、守る為の強さ。誰も失わせはしない」
「贅沢ね。でも守れるかしら? 吹雪と氷柱は優しくないわよ!」
冷気を含んだ武具と乙女の武技が覚者を襲う。氷柱女達もまた、覚者の強さと力を認めたうえで勝利を勝ち取ろうとする。戦う理由こそ違えど、武舞台の上で戦う者達の想いは共通していた。
勝つ。相手を倒す。
互いに勝利を求め、戦いは加速していく。
●
鎬を削る。刀の鎬が削れ落ちるほどの激戦を指す言葉である。
氷柱女との戦いはまさにその一言に尽きた。氷の剣と槍が神具と交差し、激しい音が響く。攻守が目まぐるしく交代し、息つく間もなく互いの武器が煌めいた。
ゲイルが氷柱女に動きを止められていた凛を解放する。氷が砕ける音と同時に凛の『朱焔』が三連続で振るわれた。二閃が弾かれ一閃が長女の肌を裂く。その間隙を縫うように次女が刀を振るえば、そうはさせじと飛馬が割り込んでその一撃を受け止めた。そこに迫る静護の踏み込み。青い闘気を放つ刀が振るわれる前に、静護の足元に三女の矢が突き刺さる。
止めた、と笑みを浮かべる三女だが静護の表情を見て失策を悟る。踏み込んだのは、三女の攻撃をこちらに向けさせるためだ。矢を放った隙を狙い椿が三女に向けて矢を放つ。攻撃の隙を突かれたこともあり、回避が遅れた。肩に突き刺さった矢を抜くが、呼吸を整える間もなく遥が迫る。一度は攻撃を受け流すも、近接戦は不得手なのかその後は受けきることが出来ずにクリーンヒットする。
氷柱女も押されるばかりではない。冷気の調節により長さが変化する長女の氷柱槍は覚者達の目測を狂わせる。ギリギリで回避をすれば伸び、しかし大きく回避すれば攻めに転じれない。地面を滑る様に動く次女の動きも侮れない。一歩の歩幅が大きく、機動力と攻撃範囲が大きいのだ。そして三女の鏃が覚者全員の体力を奪っていく。何よりも足止めとばかりに放たれる笑みが、覚者の攻撃テンポを崩していた。
「あぁ、これじゃまるで奴みたいじゃないか。気に食わん」
「大丈夫。まだ立てる」
静護とゲイルが氷柱女の一撃を受けて命数を削る。静護は頭を振って脳裏に浮かんだ人物を振り払った。
「まだ一本ちゃうでー!」
「そうだ! まだまだ終わらないからな!」
凛と遥も膝をついてしまう。命数を燃やして起き上がるが、だがそこに諦めの顔はない。むしろ闘志に満ち溢れていた。戦いはこれからだ。まだ戦える。
「負けるかぁ!」
「来なさい人間!」
裂帛と共に振るわれる武技と武具。そして天秤は少しずつ傾いていく。勝負に引き分けなどありはしない。少しずつ、しかし確かに覚者が押し始めていた。
「笑みへの対策を立てられたのは効いたわね」
押され始めた氷柱女は静かに敗因を呟く。力強い者を凍らせる氷柱女の笑み。その笑みに対する対策を練られ、テンポを崩すことなく攻める覚者。それが勝敗を分けた。
回復を行う三女が倒れれば、後は消耗戦。頭の中の冷静な部分では負けを認めながら、しかしそれで心を折る氷柱女達ではない。むしろ自分達を倒すほどの存在に心躍るとばかりに攻め続ける。
だがゲイルと椿の回復もあって、氷の猛攻がこれ以上覚者を倒すことはなかった。長女が倒れ、そして残った次女も、
「これで終いだ! 鍛えに鍛えた『正鍛拳』!」
次女の懐に入る遥。足元を凍らせて下がろうとするが、遅い。何万回と繰り返した突きの動作。それは氷柱女の氷精製よりも早く突き出されていた。氷柱女の胸部に拳を叩き込む遥。氷柱女はそのまま背中から倒れ、そのまま動かなくなる。
「おおっと、お付き合いは全力でキャンセルだ!」
でも再戦ならいくらでも受けるぜ、と笑みを浮かべて遥は拳を突き上げた。
●
「ふふ、本当に惚れてしまいそう。いい試合だったわ」
半身を起こし、氷柱女の長女が告げる。凍てつくような笑みではなく、満足したような笑みだった。
「準決勝第一試合、終了です!」
試合終了の声と同時に、暴風の幻覚が解除される。
「待て……!」
その幻覚に飲まれるように、氷柱女の三人も消え去っていた。
しかし前の時と違うのは、その痕跡が残っていること。
点々と、氷の目印が地面に残されていた。それを追えばどこに連れ去られたか追えそうだ。
覚者達は頷きあい、各々行動を開始する。
「で、勝ったんはあんた等の方か」
「際どい戦いであった。人間の連携、見事とほめざるを得まい」
「人の身でありながらあの雷撃。そしてあの動き。見習う所はある」
試合後、凛は鬼のいる部屋に向かっていた。そこに鬼がいるということは、負けたのは『仮面の雷使い』ということになる。鬼達の体に残る傷痕が、戦いの激しさを示していた。
「この手でサラシをはげんかったか」
心底悔しそうに舌打ちをする凛。
「そ奴らからの言づけだ。『勝負はお預けだ!』」
「して人間、どうするのだ? ここで退くのもまた戦術。無理に我らや妖狐に挑むこともあるまい。元よりこれは古妖の諍い。人を巻き込むわけには――」
「はっ。聞くまでもないやろ?」
心配する鬼達の言葉に、凛は肩をすくめて笑みを浮かべた。そう、答えなど言うまでもない。
答えは行動で示すのみ。
「六十年前の夜行武闘会がどうだったか、じゃと?」
「そうそう。榊原のじーさん、参加者だったんだろう?」
遥は六十年前に行われた夜行武闘会についての情報を集めていた。過去の大会を知る物を探そうとして、この大会のことを教えてくれた榊原のことを思いだす。スマホを使って連絡を取っていた。
「ふむ。準決勝で火車と戦ったときはまさに死を覚悟――」
少し長いので省略。
「前の大会の主催者は『龍神』だった?」
「うむ。その山の土地神じゃな。別嬪さんの姿に化けておってなぁ。戦う時は油断して――」
「ええと、それと負けた相手が消えるということは?」
「なんじゃそれは? 負けた相手と酒を飲んだりして楽しんでたぐらいじゃぞ」
榊原の話を総合すると、負けた相手が消えたのは主催者が変わったからのようだ。土地神が消え、妖狐が跋扈しているのはまず間違いないだろう。
遥は屋敷の奥室の方を見る。そこは妖狐の部屋だ。
そして今、仲間達が部屋の中にいる。
「ようこそ。先ずは勝利を祝わせてくれ。酒は……ふうむ、まだ駄目か」
妖狐は部屋に入ってきた飛馬と静護。そして氷の目印を折ってきた椿を迎えて、称賛の拍手をする。
「負けた相手は無事なのか?」
静護が開口一番告げる。その言葉に妖狐は表情を崩さずに答えた。
「命の有無、という意味なら命はある。――ああ、はぐらかすつもりはない。一つずつ説明しよう」
妖狐は立ち上がり、部屋に飾られている着物を指差す。
「『武神の衣』――これは他者の技を摸倣し、着る者に与える衣だ。だが摸倣には厄介な条件があってね。
模倣する技は戦いの間に使われたものでなくてはいけない。
摸倣する技を持つ者を無力化し、吸収しなくてはいけない。
つまりはそういう事だ。大会で負けた者達は、衣の中で眠っている状態だ。そして彼らの武技はこの衣を着た者が扱うことが出来る」
覚者達は妖狐の説明に息をのむ。
「つまり――その衣を強化するためにこの大会を始めたという事ですか?」
「正確には大会を利用させてもらった、が正しい。前主催者の『酌善』様が不幸な事故で力を失ってしまい、その後釜を継いだ形だ」
椿の問いかけに首肯する妖狐。怒りの声を押さえて飛馬が口を開く。
「気にいらねーな。それって要するに他人が鍛えた技をかすめ取るってことだろうが」
「否定はしない。私は貴方達の実力を盗もうとしている。
そうしなければ勝たない、と判断しただ。――あの大妖に」
大妖。その言葉に覚者達は<大妖一夜>のことを思い出す。
「私は一度『新月の咆哮』と相対した。……ええ、妖狐として未熟な私では到底かなうはずもない。
故に力を求めたのです。『武神の衣』により武技を集め、大妖を討つために」
「それは……」
覚者達は何も言えなかった。
大妖がこの国にとって害悪なのは覚者も同じだ。倒せる手段があるなら、と模索している。そういう意味では妖狐の気持ちを否定はできない。
「――決勝戦は二時間後。部屋に戻って、傷を癒してくるがいい。万全の態勢で戦ってほしい。
貴方達が勝利することを祈ってるよ」
社交辞令か本気でそう言っているのか。妖狐はそういって覚者達を送り出した。
しばしの休憩の間に、傷を癒す覚者達。
相手は二匹の鬼。体躯に優れ、それに慢心することなく己を鍛えた求道者。
それを前に、覚者達はどう戦うのか? そして妖狐の陰謀を知り、どう動くのか?
夜行武闘会、決勝戦が迫る――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
