骨たちが血肉求めて刀抜く
【夜行武闘会】骨たちが血肉求めて刀抜く


●前回までのあらすじ
 夜行武闘会――
 六十年に一度行われると言われる古妖の武闘大会である。ルールは殺し禁止の勝ち抜け戦。武器や術式の使用も可能ななんでもありな戦いである。
 並みいる実力者を押しのけて、FiVEの覚者達は予選を突破した。八組のチームは本戦を待ちながら交流をかわす。
「気を付けよ、人間。この大会、陰謀の香りがする」
 そんな中、鬼が覚者達にそう忠告したのであった。

●第一試合
「第一試合は『人間チームA』と『髑髏武者』チームとなります!」
 視界の声に飛ばれてFiVEの覚者達が武舞台に上がった瞬間、唖然とした。先ほどまで夜空の下だったはずなのに、肌を焼く灼熱の空気が吹き荒れている。武舞台の外を見れば溶岩のような赤い液体が波打っている。
「舞台は『灼熱地獄』! 骨すら溶かす熱気の中、戦ってもらいます!」
「成程、幻術というわけか。五感すら支配するとは見事也! カラカラカラ!」
 対戦相手の髑髏武者は言って呵々と笑う。どうやらこれは主催者である妖狐の幻術のようだ。しかしそうと言われても熱気が消えるわけでもない。精神を強くもっても幻術が消える様子はなさそうだ。
 そしてほぼ同時のタイミングで他の試合も始まっている。この幻術はそれを隠す意味でもあるらしい。
「焼けるか、斬られるか。どちらか好きな方を選ぶんだな。カラカラカラ!」
「お前たちの戦い方、理解している。この『錆刀』の露となるがいい!」
 リーダーと思しき髑髏武者が刃を向ける。予選での戦いを見られていた頭だ。しかし――
「大丈夫。連中とは試合後に接触していくつか情報を得ている」
 FiVEの覚者も全く相手を知らないわけではない。その情報から作戦を組み立てて戦えば、勝機はある。
「それでは、第一試合開始!」
 開始の合図とともに、歓声が沸き上がる。どうやら幻術の外からは、こちらの闘いが見えているようだ。
 古妖達の歓声に背中を押されるように、覚者達は焔の武舞台で舞う!




■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.髑髏武者に勝利する
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 やー。幻術使いって便利だわー。

 シリーズシナリオですが、前回と参加者が違っても問題ありません。交代要員として同行してきたなどの扱いになります。

●敵情報
・髑髏武者(×7)
 古妖。骨のみの武者です。リーダーと思われる一名は古びた兜をかぶり、それ以外の六名は鉢金をつけています。全員が刀を持ち、接近戦を好むようです。
 事前の調査により、以下の攻撃方法が分かっています。刀の摩耗とかその辺から判断したと思ってください。

 全員共通
一閃 物近単 使い古された刀で切り裂いてきます。【出血】
哄笑 特遠単 嗤う髑髏のおぞましさに身が凍ります。【鈍化】
構え 自付  正眼に構えて攻防を整えます。物攻、回避上昇

 リーダーのみ
血飛沫の舞 物近列 その舞は血によって赤く彩られる。【流血】【未解】
愛刀『錆刀』物近単 血に濡れて錆びた刀。ともがらを求めるように斬ったものも腐食する【毒】【痺れ】
無拍子   自付  動きの気配を悟らせない。命中、回避上昇。

●舞台効果
『灼熱地獄』
 妖狐の幻術です。武舞台の場外に溶岩が蠢き、激しい熱気が渦巻いています。
 武舞台にいる者全員、【炎傷】のバッドステータスを受けます(解除不可)。
 戦闘不能者、及び降伏した者には効果を表しません。

●試合後
 他チームと会話が出来ます。必須ではありませんが、情報交換が可能です。

●場所情報
 古妖が集まる山寺。そこに作られた武舞台。
 時刻は夜ですが、灯りは幻術により十分。武舞台の広さや足場は戦闘に影響しません。
 戦闘開始時、敵前衛に『髑髏武者(×6)』『髑髏武者リーダー(×1)』がいます。
 
 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
9日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年11月11日

■メイン参加者 6人■



 灼熱渦巻く武舞台の上、二組の戦士が相対していた。
 片方は髑髏の武者。戦国の武具を身にまとい、血を求める骸骨の武士。
 そしてもう片方は――
「武闘大会にこんな大掛かりな幻術を用意しているとは驚きだな」
 汗を拭きながら『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は驚きの声をあげていた。この熱気が幻術だと分かっていても、体は熱いと認識している。これだけの術を持つ古妖は希少だろう。
「熱いか? 怯えて逃げても構わんのだぞ、人間?」
「そっちこそ骨の髄まで叩き割ってスープの出汁にしたるで!」
 相手の挑発を返すように『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が口を開く。火行である彼女はある程度の厚さには耐えることが出来る。だがこの幻術はその程度を超えていた。じりじりと奪われる体力を感じながら刀の鞘に手をかける。
「怖い怖い。その肝を焼いて食えば、さぞ胆力がつくだろうよ」
「まさか初戦から当たってしまうとはな」
 愛刀を抜き、水蓮寺 静護(CL2000471)が相手に言い放つ。つい先ほど、宣戦布告をしたばかりだ。最も、いつ当たっても問題ない。ぶつかるのなら勝つ。それがこの場に立つ者として、当然の心構えだ。鋭い瞳を射貫くように相手に向けて、強く戦意を解き放つ。
「カラカラカラ! お前達の手の内は知れている。楽に勝てると思うなよ!」
「確かに予選から全力は出したけどよ、手の内を全部さらしたって訳じゃないんだぜ?」
 二本の太刀を構え、『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)が前に出る。防衛主体と言われる巖心流だが、まったく攻めないというわけではない。むしろ被害を最小限に抑えるために、機先を制することも重要視することもある。
「行動の一端を知ればあとはその延長線。推測するのは容易よ」
「確かにね。でも負けるつもりはないわ」
 髑髏武者の言葉に頷きながら、それでも勝つと言い張る三島 椿(CL2000061)。勝利に拘泥するつもりはないが、負けてやろうという気は全くない。戦うなら勝つ。初心を忘れることなく一つ一つの勝負に打ち込んでいく。それが椿という少女の誓いだ。
「いい吼えっぷりだ、娘。その声が降伏を告げる声にならねばいいな」
「人間! 鹿ノ島遥! 流儀は空手! よろしくお願いします!」
 一礼し『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が笑みを浮かべた。遥にとって戦いは楽しむもの。試合前の挑発や口論も、相手を知るための一つでしかない。戦う相手を憎まず、全力でぶつかる。それが遥という武術家の生きざまだ。
「もうすぐ試合開始です。両選手は所定の位置まで戻ってください!」
 武舞台に響き渡る司会の声。それに従い両チームは距離を取る。
 幻術で見ることはできないが、他の試合も同時に行われているのだろう。その様子を見ることが出来ないのは残念だが、今は目の前の相手に専念しなくては。
 相手を殺す手段として武術を会得した髑髏武者。効率よく相手を無力化する死の軍団。
 その刃が抜かれると同時に覚者達は覚醒し、それぞれの神具を手にする。
「それでは、始めてください!」
 司会の声と同時に動き出す古妖と覚者達。戦いの火蓋は、切って落とされたのであった。


 カタカタと髑髏武者が歯を鳴らして笑う。
 同時に刃が振るわれ、金属と金属が交差する音が響き渡った。縦に横に斜めに。白刃が煌めき、同時に術式が飛ぶ。炎熱の舞台の上、それよりも熱き闘志がぶつかり合う。
「初手から豪快にいかせてもらうわ」
 椿が和弓の弦を弾く。弓鳴りの音が椿を中心として広がり、戦場を浄化する。武舞台の炎熱を冷やすかのように生まれた水の龍。その姿は清らか且つ荘厳。しかしその顎は破壊の象徴を示すが如く鋭い。龍は圧倒的な質量をもって髑髏武者に襲い掛かる。
 敵の勢いを一時止めるも、それも長くはもたないだろう。椿は次手のために回復に移行する。炎熱による疲労もあるが、敵の攻撃は予想以上に強い。大口は伊達ではないことは、仲間の傷口を見れば明らかだ。
「ゲイルさん!」
「ああ、分かっている。思っていたより余裕はなさそうだ」
 椿の言葉を受けて、ゲイルも回復に意識を向ける。無数の星々が描かれた扇を開き、仲間に風を送るように扇ぐ。風に含まれた細かな源素の水。それは熱気や骸骨から受けた刀傷を冷やし、そして癒していく。
 炎熱、毒、出血、そしてそれらにより消耗した体力。如何に優れた癒し手とはいえ、全てを一気に癒すのは難しい。いま最も必要なものを選び、そこから癒す。武器こそ振るわないが、これもまた戦いだ。判断を誤れば、状況は悪化する。
「予想通りこちらに突っ込んできたか。数の優位性を生かしてきたな」
「任せろ! 空手の交差を見せてやる!」
 後衛まで迫った髑髏武者を前に遥が構えを取る。肉体的に弱い相手を狙う髑髏武者。それを卑怯となじるつもりはない。勝つために弱いところから攻める。それもまた遥の好きな『戦い』の側面なのだ。片腕を垂らし、下半身を護る構えを取る。
 武器を持った相手と戦う時は武器を見ない。武器を持つ手を見る。武器は手首の延長線。手首を見れば武器の動きも分かる。迫る武器をわずかな動きで交わし、拳を突き出す。肩口に痛みが走るが、拳は確かに相手の肋骨に叩き込まれていた。
「どうだ空手の拳は。そっちの剣にも負けないぜ!」
「人間を甘く見るなよ」
『絶海』を振るいながら静護は髑髏達に告げる。刃を交え、なるほど豪語するだけの実力はあると理解した。それが分かったうえで、なお言葉を放つ。相手は強いが負けるつもりはない。凶悪な刃に膝を屈するつもりはないと戦意を高めていく。
 息を吐き、呼吸を整える。イメージするのは、海。静かに見えて荒々しい波。イメージのままに水の源素を神具に集中させた。柄を強く握りしめ、水を纏わせた刃を振るう。荒波の如き水の一閃が髑髏武者に牙を向いた。
「これが人間の武術。人間の力の示し方だ」
「今の俺の全力を見せてやる。まだ修行中の身だけどな」
 神具を構えて飛馬が髑髏達に口を開く。まだ自分が修行中で、未熟であることは理解している。それでも今まで培ってきた巖心流の修行や、戦ってきた経験をないがしろにするつもりはない。その歩みを示すように太刀を抜き放つ。
 守勢重視の巖心流だが、攻めの構えがないわけではない。二本の太刀を交互に振るい、足を動かし武舞台を駆ける。防御の筋を知っているからこそ、防御しにくい攻めも知っている。太刀は受ける刀を滑るように動き、骨を断つ。
「まだまだ終わらないぜ。ガンガン行くからな!」
「せやで。あたしの焔、喰らってみいや!」
 前線で神具を振るいながら凛が吼える。熱気で体力を奪われ、呼吸も少しずつ乱れてきている。それでも止まるつもりは毛頭ない。何故ならそこに戦いがあるから。強い相手がいて、それに挑む。それが凛の原動力。彼女を動かす心の火。
 髑髏の刃を『朱焔』で受け、返す刀で斬りかかる。円を描くような足運びで重心をずらすことなく移動し、両手で柄を握りしめ斬りかかる。速く、鋭く。炎が野を焼くように。交差した刀ごしに、目前の髑髏に笑みを浮かべた。強い。それを認め、楽しそうに。
「これが古流剣術焔陰流。そしてあたしが二十一代目(予定)や!」
「カラカラカラ! これも縁か。十五代目に受けた傷、ここで晴らしてくれようぞ!」
 髑髏は興が乗ったと呵々大笑し表情なく、しかし楽し気に声をあげる。
「刮目せよ人間。武とは殺しの妙技也。死を受け入れた我らにこそ相応しい道と知れ!」
 死したモノこそ死に関する技を継ぐに値する。未だ命あるならば死の道を歩む事なかれ。
 覚者達に返す言葉はない。覚者達に返す言葉は必要ない。答えは全て武を持って返す。言葉よりも雄弁に答えは返るだろう。
 灼熱の風と闘志が武舞台で渦を巻く。


 武とは命を奪う技である。それは誰にも否定しがたい事実だ。
 だがそれを振るうのは心。火は建物を破壊し、また料理を生む。水は喉を潤し、時に窒息させる。全ては扱う者の心次第。一打一打に心を乗せて、培った技を乗せて、鍛え上げた体を乗せて、覚者達は神具を振るう。
「剣術家は殺した数で強さが決まる。そんな時代もあったわ」
 二十一代続く剣術を受け継ぐ凛は髑髏の言葉を肯定する。剣術を学ぶ以上、その歴史も知ることになる。
「せやけど殺してばかりやない! 剣も歌もやる。それが人間(あたし)や!」
 だが――殺すだけが人の一面ではない。人を喜ばせる術も同時に学び、生きていく。剣を極めることも、歌うことも。どちらも凛という人間の生き様。それはどのような理でも邪魔はさせない。
「確かに剣術はそういうものかもしれねー。俺の答えはまだ出せねー」
 まだ幼い飛馬は髑髏の言葉に返せる言葉はなかった。殺すこと。命を奪う事。剣の道を進めていけば、いずれぶつかる壁だろう。だが、
「あの時俺を守ってくれたじーちゃんの背中だけは、間違っているとは言わせない」
 数年前に隔者から守ってくれた祖父の背中。力を持つ隔者から退くことなく『強さ』を示した憧れ。それが飛馬の原動力。強くあることの意味はまだ解らないけど、あの日の背中を目指すことが間違いではないという事だけは確かだ。
「現実は残酷で、誰かを護るために命を奪うこともあるかもしれない」
 これまでのことを思い出しながら椿は重々しく口を開く。戦いに身を置くのなら、命を奪う可能性からは逃げてられない。癒し手だから。自分は手を下していないから。そんな言い訳はできない。癒した仲間の武器が命を奪うのだから。
「――それでも私は守るわ。様々な方法で。私にとっての強さはその為」
 それでも。現実の厳しさを知り、その上で椿は決意を言葉にする。そのために強くなる。様々な方法で。それが彼女が力を求める理由。
「オレにとって武術とは、『楽しいコミュニケーション手段』だ!」
 骸骨と拳を交えながら遥は言い放つ。敗者から何かを奪うことがあるかもしれない。命を奪うかもしれない。だがそれは結果だ。その上で得るものもある。相手の強さ。経験。その強さに至るまでの経緯。戦うことで得ることが出来る何か。
「あんたらだって口で言うほど悪い古妖じゃない。少なくとも大会ルールは守るみたいだしな!」
 血を好み、殺戮と好むと髑髏は言う。しかし殺しが好きならば、戦う前にやっていたはずだ。そもそもこんな大会には出てはいないだろう。
「だがその信念は嘘ではない。死してなお剣術を追求する様は見事だ」
 ゲイルは傷を癒しながら骸骨達に称賛を送る。彼らの刀技はパフォーマンスではない。正当な剣術の構えと、血を流して効率よく相手を追い詰める武技。甘く見ていれば今頃は倒れていただろう。
「様々な戦士がいる。人間だけではなく古妖も。やはりここに来て良かったよ」
 この国に来て、様々な覚者に出会った。そして様々な古妖に出会った。戦いという共通の場で、通じ合える何かがある。流れる血を拭き取りながら、ゲイルは笑みを浮かべていた。
「効率よく殺し、効率よく奪う。それ即ち戦の本質」
 静護は前に髑髏武者が言ったことを反芻する。武術とは効率よく相手を倒す手段。それは間違いではないだろう。戦いに効率を求めることで終結を早め、被害を最小限にする。それもまた事実だ。
「その為の剣術というのなら、会得させてもらおう」
 髑髏武者の大将。その件の動きを観察する。踏み込み、腰の動き、肩の角度、手首の切り替えし。相手の血管の位置を知り、最小限の動きで刃を滑らせる。学んできた剣道とはかけ離れた動き故、会得は容易ではなかった。
 自ら大将の技を受け、血を流して命数を削る静護。同時に後衛まで迫った髑髏にゲイルもまた命数を奪われていた。
 しかし総合的な戦力では覚者が勝っていた。突撃して連携がとりにくくなった骸骨達よりも陣を組み、個々の役割を果たしたチームワークの勝利か。最初は押されていたものの、少しずつ押し返していた。
「見事見事! だがただでは倒れぬよ!」
 骸骨大将が血飛沫と共に凛の命数を奪ったが、彼らの猛攻はそこまで。
「準決勝に行くのはあたしらやで!」
 気合と共に振るわれた三連撃が刀を弾き飛ばし、髑髏武者の首と胴を薙ぐ。
「カラカラカラ! 骸になるは我らか!」
 からん、と兜と共に頭蓋骨が地面に落ちた。


「死んだ!?」
「気にするな。元より死んでいる」
 首が飛んだことに驚く覚者だが、存外元気そうな髑髏の声に安堵する。
 同時に冷たい風が頬を撫でた。見上げれば夜空。幻覚の灼熱は気が付けば消え去っていた。
「勝者『人間チームA』です!」
 勝利宣言の放送と同時に湧き上がる歓声。様々な古妖達の称賛が覚者達に改めて勝利の実感を湧かせた。
「そう言えばずっと先祖のじーちゃんの話、聞けて嬉しかったぜ……ってあれ?」
 飛馬は髑髏武者に礼を言おうとしたが、その姿がないことに気づく。さっきまでそこにいたはずなのに。
「ま、後で会ったときでいいか」
 すぐに帰るなんて薄情だな。その時はそんなことを思っていた。

「あら人間? 貴方達勝ったの?」
「ええ。そちらも勝ったのかしら」
 椿と静護は氷柱女のチームと話をしていた。椿の問いに薄く笑みを浮かべる氷柱女。
「あの一反木綿、顔はともかく気風のいい男だったわ」
「私は絹狸の健気な所がいいわ。もっといじり倒したかった」
 そんな勝利者インタビュー。彼女達の性格が見て取れた。
「他のチームがどうだったか、分かるか?」
「さあ? 幻術で視界が封鎖されて他の試合は見れないし。一反木綿と絹狸もいつの間にか消えちゃったし」
 他のチームの情報を得ようと静護が問いかけたが、帰ってきたのは肩をすくめた氷柱女のため息だった。
「さすがね。貴方達と戦うのが楽しみだわ」
「そうね。偶には人間を食べてみるのもいいかもね」
 氷の微笑。そう描写するに値する表情で、氷柱女は椿の言葉に応えた。

「そちらはどんな試合だったんだ」
「狸だ。相撲と言ってたので力比べになると思ったが、幻覚を駆使して翻弄された」
「海千山千の力士だった。惜しむべきは慢心があったことか」
 鬼達に話をしに行ったのはゲイルだ。情報交換とばかりに互いの対戦相手のことを話していた。察するに狸の力士と戦い、勝ちを拾ったようだ。
「ふむ。鬼でも苦戦することがあるのか」
「苦なき戦いに意味はない。むしろ敗北にこそ学ぶものがある」
「艱難辛苦を乗り越える事こそが、道を究める近道だ」
 なるほど、とゲイルは納得した。ストイックなほどに己を鍛え上げる。これが彼らの修行方法のようだ。精神面は人間と大きく変わりはしないのだろう。
(しかし、鬼の体躯をもって『辛い』荒行となるとそれこそ想像もつかないな)
 彼らと相対する時は覚悟しなければいけないだろう。ゲイルは身を引き締めた。

 そして狸の所に向かった遥だが、
「押忍! こんちにわ! さっきは挨拶ありがとうございまし……っていない?」
 彼らの部屋には誰もいなかった。荷物さえもなくなっている。
「帰ったのかな? 相撲とか興味があったのに」
 頭を掻きながら自分の部屋に戻っていった。

 そして鎌鼬三兄姉弟に会いに行った凛も、
「よー。鎌鼬。あんたら試合はどうやった……って何処行ってん、あいつら」
 広い和室に声が響く。少し前までやかましい鎌鼬の声が響いていたのだが、今は静寂が支配している。
「やっぱりいないか」
 その静寂を破る声があった。和太鼓を背負った仮面の少女。
「よう、まつr」
「『正体不明の雷使い』だ!」
 声をかけようとした凛は『雷使い』に口を封じられる。大阪のノリで止められても繰り返し言いたくなったが、それより先に『雷使い』が口を挟む。
「あたいらと戦ったのがここにいた鎌鼬だ。雪山の幻覚の中、妙なノリとポーズで……まあ、それはどうでもいい。結果としてあたいらが勝った」
 試合のことを思い出したのか、額を押さえつつ『雷使い』は状況を説明する。
「幻覚が解けた時に連中の姿も消えた。気になって姿を探したんだが、このザマだ。これが妖狐の狙いなんだろうな」
「どういうことや?」
「大会で負けた古妖を捕まえて、何かをしようとしているんじゃねーか、ってことさ。幻術は演出と見せかけて誘拐を隠すためのカモフラージュ。武術を使う古妖を集めて、それをあたいらに倒させて捕らえ、何か企んでるってな。
 ま、要は勝ちゃあいいのさ。最後まで勝って妖狐に勝って。企み事拳で粉砕すりゃいーんだよ」
 喧嘩好きな『雷使い』はそう締めくくった。ある意味道理である。
「せやな。何があるかわからんけど、とりあえず負けへんかったらええんや」
 そして頷く凛。妖狐の企みは不明だが、とりあえず負けなければいいのは確かだ。どの道この大会は勝つつもりで来ている。
「そういうこった。ああ、言っておくけどこんな状況だからって、あんたらに手心つける気はねーからな」
「当然や。うちらが勝ったらその仮面かサラシか、どっちかを舞台の上ではいでやるわ」
「どっちも御免だ!」


 自分達の部屋に戻り、情報を共有する覚者達。
 残り四チーム。残っているのは鬼と氷柱女と『雷使い』と自分達。
 そして優勝者を待つ妖狐。
 河童の軟膏で傷と気力を癒し、静かに戦意を燃やしながら覚者達は次の試合を待つ。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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