<冷酷島>最終決戦おみやがえり
●最終決戦
妖に占拠され、人が生きては行けぬ土地となった人工島、通称『冷酷島』。
しかしファイヴ覚者たちの活躍により殆どの妖コミュニティは壊滅。その支配半径を最低限の所まで縮めることができた。
そして……。
「皆さん、ついにこの時がやってきました。冷酷島を占拠した妖のブレインであり統括者。準大妖級妖『おみやがえり』との、決着をつけるのです」
島内拠点シェルター特設会議室。
事務方 執事(nCL2000195)はホワイトボードに島の地図を貼り付けた。
「『おみやがえり』は島中心部にて、バラバラになった妖をかき集めコミュニティを再形成し、戦力の増強を図っています。仕掛けるべきは、今をおいて他にないでしょう」
マップはきわめてシンプルなビル街である。
碁盤目のようにくっきりと整ったエリアの中心にシェルター状の中央拠点が形成され、その周囲に大量の妖が集結している。
「妖の主流は千差万別。これまで島内に現われたR1~2にあたるあらゆるタイプの妖が集まっています。寄せ集めとはいえ数はかなりのものです。戦術なくして勝利は難しいでしょう」
これをどのように突破するかは作戦次第だ。
「そして今回も、皆さんにはチームリーダーとして5人の覚者小隊を率いて頂きます。全10チーム(総勢60人)での大隊戦。冷酷島史上最大の戦いとなるでしょう」
編成したチームの特徴を活かし、戦おう。
「『おみやがえり』を倒すことが出来れば、残る妖は戦闘部隊による掃討作戦で全滅させることができます。つまり……この作戦に勝利することが、冷酷島を人類の手に取り戻す決定的な手となるのです。皆さん、よろしくおねがいします!」
妖に占拠され、人が生きては行けぬ土地となった人工島、通称『冷酷島』。
しかしファイヴ覚者たちの活躍により殆どの妖コミュニティは壊滅。その支配半径を最低限の所まで縮めることができた。
そして……。
「皆さん、ついにこの時がやってきました。冷酷島を占拠した妖のブレインであり統括者。準大妖級妖『おみやがえり』との、決着をつけるのです」
島内拠点シェルター特設会議室。
事務方 執事(nCL2000195)はホワイトボードに島の地図を貼り付けた。
「『おみやがえり』は島中心部にて、バラバラになった妖をかき集めコミュニティを再形成し、戦力の増強を図っています。仕掛けるべきは、今をおいて他にないでしょう」
マップはきわめてシンプルなビル街である。
碁盤目のようにくっきりと整ったエリアの中心にシェルター状の中央拠点が形成され、その周囲に大量の妖が集結している。
「妖の主流は千差万別。これまで島内に現われたR1~2にあたるあらゆるタイプの妖が集まっています。寄せ集めとはいえ数はかなりのものです。戦術なくして勝利は難しいでしょう」
これをどのように突破するかは作戦次第だ。
「そして今回も、皆さんにはチームリーダーとして5人の覚者小隊を率いて頂きます。全10チーム(総勢60人)での大隊戦。冷酷島史上最大の戦いとなるでしょう」
編成したチームの特徴を活かし、戦おう。
「『おみやがえり』を倒すことが出来れば、残る妖は戦闘部隊による掃討作戦で全滅させることができます。つまり……この作戦に勝利することが、冷酷島を人類の手に取り戻す決定的な手となるのです。皆さん、よろしくおねがいします!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『おみやがえり』の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
妖と島の総力戦。シンプルなぶつかり合いです。
特別ルールの『チーム戦闘』が適用されていますので、説明をよくお読みください。
【敵戦力情報】
夢見が把握しているのはラスボスにあたる『おみやがえり』のみ。しかもその一部です。
・おみやがえり(R4物質系妖)
赤子の死体からうまれた妖。島内のあらゆるわるいものを食い散らかし、強大な力を内部にため込んでいる。
攻撃方法は『大ダメージ』『魅了+解除』『HP吸収』という三種の全体攻撃を使いこなします。
しかし蓄積ダメージ量が一定を超えると、内蔵されたエネルギーを解放し真の力を発揮すると言われています。
・R1~2混成部隊
コミュニティの壊滅によってはじき出された妖たちが集結し、巨大なコミュニティを再形成しようとしています。
これまで戦った知識を活かし、得意な敵を倒しましょう。
●作戦のススメ
大規模での作戦となるため、戦闘範囲も非常に広くなります。(射撃スキルが届かないこともザラです)
そのため、以下の三つの作戦のうちどれかを選ぶことを推奨します
Aマッドカチコミマックス:全部隊一丸となって一直線に突っ込みます。戦略なんていらねえ。なんてラブリーな日だ!
B囲んで棒で叩くダイナミック:敵が集まってるなら全方位からじわじわ削ろうぜ。敵戦力も散って丁度いい。
Cここは任せて先に行けスペシャル:数個小隊を囮にして残りの戦力で手薄な所を一気に突破。ラスボスアタックにはげむ。当然囮はめっちゃ死ぬ。
【チーム戦闘】
皆さんはそれぞれ5人のNPC部下をもつチームリーダーです。
チーム種別を『軍事』『宗教』『一般』『特別』のうちから選択し、
コマンド種別を『統率集中』『率先戦闘』『臨機応変』のうちから選択してください。
最後に『チームオーダー』を指定することでPC専用のチームが完成します。
●チーム種別
NPC部下はファイヴ二次団体からなる精鋭覚者たち。
二次団体とは、これまでファイヴが行なってきた覚者保護や組織協力により培った協力者たち。命数は低めで魂は1つ。
個体ごとの戦闘レベルは高めですがリーダーを必要とします。
特徴は以下の通り。
『軍事』:物攻防が高い。
『宗教』:特攻防が高い。
『一般』:バランス型。
※『特別』チームについて
これは「過去のシナリオやシリーズで援軍に駆けつけてくれそうな絆を結んだ人たちがいるんだけど、つれてきていーい?」という方のための枠です。
シナリオ名もしくはURLを添付の上、5名まで指定してください。強すぎる時はトータルで五人分になるよう制限がかかることがあります。(古妖や武装一般人などの戦力もOK)
●コマンド種別
NPC部下は個人ごとに考えて動くためスキル選択やポジションなどの細かい指示を必要としません。(基礎戦闘システム同様に指示行動がシステム化されています)
以下のようなコマンド種別から選択してください。
『統率集中』:指示を送ることに集中します。PCの各種ダイス目が大きく低下しますが、その分チームのダイス目に大きなボーナスがかかります。チームへの指示を沢山書きたい人向け。
『率先戦闘』:PCが率先して戦い、部下たちはそのフォローに徹します。PCのダイス目にボーナスがかかります。自力で戦うの好きな人向け。
『臨機応変』:チームに指示を出しつつ要所要所で率先する、統率と率先の中間にあたるコマンド。ダイス目はそのまま。指示を沢山出したいが自分でも沢山動きたい人向け。
※チームが混乱するので依頼中のコマンド変更はできません
●チームオーダー
「土行で固めて欲しい」「全員盾装備」「回復役オンリー」などの指定をする部分です。
最強スキルや高レベルなどのメタなオーダーにはお応えしずらいですが、逆に「女子だけ」や「気の合いそうな人」といったご要望にはお応えできそうです。
特に指定が無かった場合はジムカタさんがいい感じにマッチングしてくれます。
そして最後は極めつけ。チームの名前を決定しましょう。指定が無い場合PC名から仮名されます。
大体五文字くらいにまとまるとプレイングにも優しいでしょう。
こうして完成したチームは保存され、今後も選択できます。何度も連れて行くと部下との絆が深まり、ダイス目のボーナスや特別な描写などの特典がゲットできることも。
ぜひPC自慢のオリジナルチームを結成してください。
既成隊:奈、刹、イ、ゲ、翼、結、花、癒、王、新(隊称略)
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
9日
9日
参加費
150LP[+予約50LP]
150LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
10/10
公開日
2017年11月11日
2017年11月11日
■メイン参加者 10人■

●導かれし十人
島中の妖戦力が中央部に集まったことで、島はかつてない静けさに包まれていた。
海辺の風と奇妙な湿度が霧を起こし、島中央に伸びる大きな道路はもやに包まれる。
もやを抜け、歩みによって現われる十人の老若男女。
「最終決戦、ですね――」
希代の魔女、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
冷酷島で行なわれた数々の妖討伐作戦に参加し、その全てで高い火力リソースとなってきた。
その力は最終決戦の場においても遺憾なく発揮されるだろう。
「ボスは能力全乗せとか、超アニメっぽくない? ニポン来てよかった」
異国の王子、『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)。
その飄々とした性格から、数々の作戦で有効な戦術を生み出してきた。
総力戦であるがゆえにひねりがなく、シンプルにぶつからざるをえない今回においてもユニークな戦術をぶつけてくるだろう。
「おみやがえりちゃんを倒したら、平和な島になるんだよねぇ? だったら、いつも以上にがんばるのだ!」
たたかうスポーツ少女、『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)。
穏やかで優しい性格とは裏腹に、ホッケースティックから繰り出す強烈な打撃力でいくつもの妖を倒してきた猛者だ。
むろん、最後の戦いにおいてもその打撃力は活かされることになる。
「長い時間がかかりましたが、ようやく……ですね」
音速の猫、『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)。
きわめて高い反応速度とそこから生み出される特別な攻撃力でいつも戦場の先手をとってきた。
恐らくこの戦いでもまた、敵陣へ切り込む第一の刃となるだろう。
「最後とはいっても、無理をしたらだめ……だからね」
美しき教師、『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)。
高い特攻能力を基板とした、すぐれた回復力と攻撃力を兼ね備えた万能方フォロワー。
彼による戦線維持能力は小隊戦も大隊戦でも発揮され、この大規模作戦でもいかんなく発揮されることだろう。
「おみやがえり……。赤ちゃんの、死体が、妖になったんですね。それなら……」
心に翼をもつ少女、大辻・想良(CL2001476)。
大規模な妖案件である冷酷島の作戦に数多く参加し、そのたびに柔軟な戦いを見せてきた彼女。
最終決戦の場に立つにふさわしく、きっと彼女なりの決着をつけてくれるだろう。
「今まで色々手を打ってきたわけだけど、これが済めば最大の障害はクリアできるってわけだねえ」
戦闘カメラマン、『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)。
様々な形で冷酷島の事件に関わり、島で手に入れた神具カメラを武器に数々の難敵と戦ってきた。
最後の戦いの場においても、彼のカメラは妖たちをとらえつづけるだろう。
「準大妖級。今後我々に立ちはだかる敵への試金石となる戦いでもありますね」
老兵教授、『教授』新田・成(CL2000538)。
穏やかな老紳士としての仮面に隠れた刃のような鋭さと凶暴さは、武器とする仕込み杖にも現われている。
彼の生涯によって研ぎ澄まされた刃は、強大な敵をも切り裂くだろう。
「よっしゃ、カチコミだな! 任せろ!」
空手少年、『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)。
明るくサッパリとした性格と、染みついた非常識な空手の威力。
彼の拳は岩をも砕き、妖を粉砕する。最終決戦という場でも彼の拳は力強く振るわれることだろう。
「おみやがえり。直接の恨みはありませんが、島の平穏のため……立ち退いていただきます」
氷の騎士、『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)。
彼女のまっすぐな心は悪しき妖たちを次々と貫き、ここ冷酷島の作戦にも大きく貢献してきた。
こうして最終決戦の舞台に立っているのもまた、彼女のまっすぐさの現われであろう。
かくして十人。
スポーツ少女にスポーツ少年、教師に魔女にカメラマン、ネコに翼に氷の剣。異国の王子に至るまで。
まるで統一感のない十人がたったひとつの目的のために集い、そして軍団を率いていた。
そう、軍団。
霧が暴風によってはれていく。
各員が率いる十個小隊。
総員六十名の覚者たちが、この場に集結していた。
目の前には十台の装甲ヘリコプター。
戦闘のない安全なエリアまで送迎するための乗り物だ。
十人の小隊長たちはそれぞれ頷き合い、隊ごと別々のヘリへと乗り込んでいった。
●誇らしき小隊
虫、獣、鳥、機械、幽霊、炎、毒液。ありとあらゆる冷酷島残存戦力をかき集めた妖大部隊。
しかしそれはあくまで『かきあつめた』だけであった。
それぞれがコミュニティを持ち、R3妖によって統率されていたときの賢い戦術をとる様子は無く、大量の妖がただ物量によって責め立てるというシンプルなスタイルである。
それゆえ、ファイヴ大隊は大胆な作戦に出ることにした。
「殆どの妖は地上部隊だよね。空を飛んだり壁を歩いたり出来るのはごく僅かだと思うんだ。だから、余と民は高高度を綱渡りしていく作戦に出ることにしたよ!」
『誰が誰の男と寝た』という話題で取っ組み合いの喧嘩が始まるヘリの中、飛び交うカシスオレンジをかわしてプリンスは指を立てた。
「ビルの屋上からスタートして、一人が蜘蛛糸を使って隣のビルに繋ぐの。その上をみんなでわたる作戦だよやめてポッキーなげるのやめて」
「蜘蛛糸で作ったロープは加重限界と長さという意味では適していますが、足場にはむかないのでは?」
別のヘリ。ひたすらお行儀のいい黒子衆花組とその指揮官ラーラは作戦の打ち合わせを進めていた。
「そのためのハイバランサーです。文字通り綱渡り状態になりますが、足場にできない場所をなんとか足場にしやすくなると思います」
ふむと頷く巫女たち。
「けれど、どうやっても各招待が一列陣形になりますよね。接触する相手が飛行タイプに限定されるとはいえ、危険では……」
「確かにそうだと思います。もし落ちれば敵の群れに囲まれますしね」
「加えて注意したいのは敵の射程距離です」
刹華小隊。燐花の率いるチームのヘリで、彼女は島の3Dマップを表示した。
「およそビルの5階分程度までは届くと予想されています。ですから4階以下の建物では作戦上有効な高度とはいえません」
燐花は島中央部の衛星写真と自分たちによる観察から導き出されたデータマップに赤いマーカーでぐるりとかるい渦巻きのようなラインを描いた。
「いくつかのビルは妖によって壊されていますし、元から背の低いビルもあります。比較的安全なルートを通る反面、遠回りも必要とするのです」
「せんせー、しつもんです! 仲間がおちたらどうしますか?」
黒子衆癒力組と指揮官秋人を乗せたヘリ内。
秋人はこくりと頷いてホワイトボードに図を描いた。
「ハイバランサーを備えたとしても、本来足場にならない綱渡り。敵の攻撃によって落とされることもあると思う。だから予め安全フックをかけておいて、落ちてもぶらさがるようにしておこう。蜘蛛糸使いによって引き上げさせるか、自力でよじのぼるんだ」
「旦那様。しかし糸を切られる危険もございます」
「誰かの糸が敵の攻撃によって切られたら、わたしたち……翼小隊の出番です」
想良と彼女が率いる翼小隊のヘリ内。
全員が翼人で構成されたチームだ。もともとは想良と同じ動きができるようにとオーダーされたが、この高高度作戦においては非常に重要な役割を担うことになった。
「一人につき一人ずつ抱え、リカバリーをはかります。皆が一直線にしか動けないなか、あらゆる角度から攻撃してくる敵に直接打撃を与えられるのはわたしたちだけです。がんばりましょう」
「それでも、どうしても落下するメンバーがいるなら……僕は助けようと思う」
イージス小隊と指揮官恭司のヘリ内。恭司の言い方はある意味ファイヴ的だったが一般的ではない。一人を犠牲に大多数が生き残る方法を、普通はとるからだ。
しかし隊員たちは強く頷いた。
「隊長、僕らも同じ気持ちです」
「ワンフォーオール、オールフォーワン。皆でひとつの小隊ですから。隊長が落ちたときも、俺らは助けに行きますからね」
「うん……ありがとう。そうならないのが、一番だけどね」
「というわけで、みんなは鳥ちゃんをかっきーんてやりながら頑張って進むのだ!」
奈南と五麟学園アイスホッケー部の面々は、それぞれ手のひらを突き出した。
五人の手のひらが重なり、彼女たちが奈南を見る。
「奈南ちゃん、いっしょに」
「私たちのフォワードはキミだよ」
「一緒にこの作戦、成功させようね」
「……うん!」
奈南は手を翳し、六つの手が重なった。
「それでは改めて確認しておきましょう。この作戦で命を落とす可能性があることは、ご理解頂けていますか?」
成率いる新田隊――あらため老兵隊。全員が成と同じ65歳以上で構成されたチームである。
「ヘッ、こちとらいつでも死ぬ覚悟だバカヤロウ」
「どこにでも突っ込んでやるよ」
「僕ら戦士だし? 死ぬときは戦場って決まってるじゃんね!」
「ちょっとついて行けない所ありますけど、僕もそう思います」
「いや、できれば死にたくないけどね? でもしょうが無いときは、あるよ?」
成の出した書類に血判を押す五人。それぞれ円形の署名がなされ『寺島、遠藤、田口、松重、光石』と書かれている。その一角に、新田の名前が書き足された。
「それでは皆さん。若い未来のために命を使いましょう」
「そういうワケなんだけど、なんか質問あるか?」
遥が振り返ると、五人の兵隊はこっくりとだけ頷いた。
ファイヴ二次団体。そのなかでも大多数をしめる元ヒノマル陸軍兵。遥のチームはそのメンバーで構成されていた。
元々冷酷島の作戦ではコミュニティボスへの露払いとして戦ったり今みたいにヘリを操縦したりと様々な形で関わっていたので、今回はその中でも選りすぐりの兵士が遥の小隊として編成された形となる。ある意味、集大成である。
兵士の一人が腕組みをして言う。
「本当に良かったのか。俺たちと組んで。他に組むべき相手が居たんじゃないのか?」
「いいって。お偉いさんにもアピールできるかもだし、集団戦闘向いてそうだろ」
難しいことは考えない。そんな顔でからから笑う遥。
「チーム名はあのおっさんからあやかって、『カノシマ陸軍』だ!」
「目的地つくまでなにやる? パラノイアやる?」
「ここは軽く人狼しましょうよ」
結鹿率いる結鹿隊はどこか和やかな雰囲気だ。
なので、一番緊張しているのは誰あろう結鹿だったりする。
「皆さん、怪我にきをつけて……くれぐれも無茶はしないようにお願いしますね!」
「えー、全員生存エンドかー」
「難易度、高いですねえ」
「町は焼いてもいいのか?」
「だめだろ」
「こ、こほん!」
結鹿は咳払いし、そしてはにかんだ。
「この空気が気に入っているというか、皆さん優しくしてくださるので……誰も欠けて欲しくないんです」
結鹿の言葉に、五人が顔を見合わせる。
「ん、わかった。誇らしきチキンプレイを見せてあげるよ!」
●綱渡りのブレイクスルー
かくして行なわれた高高度綱渡り作戦。
無理をするなと言いはすれど、単独で落ちればそこは妖の海。よくて軽傷最悪死亡という文字通りに綱渡りな作戦である。
おさらいするが、ビルとビルの間を20メートルのロープ5本でつなぎ、陣形を組みながら移動していくというものである。
このとき組む陣形は前衛を表面にした四角形を想像すると分かりやすい。
(別に妖が全部前方に整列してくれるわけではないので)全方面へ前衛担当を出しておく必要があるのだ。
今回前衛の役割を担っているのが、カノシマ陸軍(遥)、刹華小隊(燐花)、黒子衆花組(ラーラ)、王子マジラブ2000%ハイレボリューション超×3イイカンジモーニングスター娘(プリンス)。
この四隊が四方を囲み、いざ敵が抜けてきた時のために奈南アイスホッケー隊、結鹿TRPG同好隊が円形を組んで臨機応変に対応。
そして中央で一塊になっているのが黒子衆癒力組(秋人)、イージス小隊(恭司)、老兵隊(成)が回復と援護射撃を担当する。
想良による翼小隊は遊撃と補助にあたり、頭上や足下からの襲撃に備える。
通路がきわめて限定されているため、ほぼ常に全方位から飛行タイプの敵に囲まれていると考えるべきだろう。
また足場の喪失にも気を配らねばならない。特に鳥系の妖マガツガラスは真空刃による射撃を行なうため流れ弾で足場が切れる危険が大きい。注意すべきはそこだろう。
余談として、妖たちが『じゃあ足場の糸切ればいいじゃん』という考えに行き着かないくらい知能が低いので、今回の作戦はかなり通用していた。R3あたりからは通用しなかっただろう。
「それでは参りましょう、皆さん!」
仕込み杖に手をかけ、成たちは一斉に走り出した。
まずは戦場にかかる蜘蛛糸だ。
ビルの屋上から隣の屋上まで5本の蜘蛛糸がはなたれ、割とギリギリの距離で接着された。
「1本の最大荷重は200キロ。3小隊より多くの人数が一本の糸に集まらないように注意して下さい!」
普通ではまず足場にできないような蜘蛛糸の上を走り始める九個小隊54名。
学校で言えば約2クラス分。壮絶な光景である。
最初に察知したのは勿論飛行タイプ。エアブレイドの眷属だった鳥系妖たちである。
それに連なって足下のヒトクイケモノ眷属やダイアモンドワーム眷属たちが威嚇を始め、部隊を追いかける形で移動しはじめる。
一部の虫系妖はビルの壁をのぼって行く手を阻もうとするが、それに対抗したのはラーラの部隊である。
「皆さん、術式集中――! 良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を」
「「イオ・ブルチャーレ!」」
空をなめるようなラーラの召炎波。それに併せて放たれる巫女たちの雷獣や水龍牙、そしてBOT。行き先であるビルによじ登り、同じように糸を足場にして移動しはじめたマガツグモたちを薙ぎ払った。
ぶっちゃけ糸の上に大量のマガツグモがのっかったら終わりである。控えめに言って全滅である。
なにせ足下は移動するたびに凝縮され続ける妖軍団で満ちているのだ。溶鉱炉に落ちるがごとしだ。
だがそんな恐怖感をモノともせずに、プリンスたちは突っ込んでくる鳥系妖へと逆突撃を仕掛けた。逆突撃とは、突っ込んでくる相手にカウンターを浴びせて倒す手段である。具体的にはラリアットである。
「しゃらああ!」
「焼き鳥になれオラァ!」
「恐っ! 余の部隊恐っ!」
でもって、逆じゃないまっとうな突撃をかけたのは燐花たちの部隊だ。
糸の上であることを忘れるほどの速度で走り抜け、真空刃を放とうとするマガツガラスを切り裂く燐花。
部下たちはそこに群がろうとする妖たちに銃撃を浴びせて牽制してゆく。
燐花は糸のうえに着地し、眼下の地獄を見た。
着地を失敗すればどうなるかは、想像するまでもない。
「燐ちゃん、上に気をつけて!」
恭司の声と共にカメラフラッシュが空を焼いた。
上空から急降下による突撃をしかける鳥系妖たちが呪いによってはじけ飛び、残った分も援護の対空射撃によって散っていく。
ややあってから、フレイムテイル眷属の炎妖が加わってきた。
火の鳥や小さな太陽、空を舞う虹の蛇などだ。
彼らは一斉に炎による薙ぎ払いを試みるが――。
「いいね、みんな。カウンターヒールだ」
弓を放つ秋人。彼にあわせて放った巫女たちの矢が巨大な水の竜となり、炎を飲み込みしまいには妖たちも飲み込んでいく。
ここまで戦闘がうまくいっているのはひとえに飛行ペナルティにあった。
無理矢理ではあるが足場をもっている覚者たちと異なり、飛行している妖たちはそれだけ不利があるのだ。(なお、ハイバランサーを使い糸の上だけで戦闘している側にもそれなりにペナルティはついている)
部隊はビルからビルへと駆け抜け、糸を繋いで更に次へと繋いでいく。
「右側のダメージがかさばってきた。交代するぞ!」
遥の部隊が移動を開始。飛びかかってくる鳥系妖を跳び蹴りで粉砕し、気のエネルギーを込めて蹴り飛ばし別の妖に叩き付ける。
そんな彼の援護をすべく小銃で的確に射撃していく部下たち。
だがしかし……。
「まずいな。敵が対応しはじめてきている」
見ると妖の群れが大移動をするかたわら情報伝達を始めていた。せいぜい『敵がきたぞ』『そっちへ行ったぞ』程度のものでハチが放つ警戒フェロモンみたいなものだが、それが広まることで予め高高度に集まっておくという行動をとりはじめたのだ。
殆どは3階建てのビルに登って『あれーこないー』みたいにうろうろしたり既に通り過ぎたビルに登って取り残されたりといったパターンだが、移動しようとしていたビルの屋上にもう虫系妖が集合しているなんてことがザラになってきた。
「どうする?」
「今から下におりるわけにはいきません。強行突破です!」
結鹿は部隊のメンバーと共に突撃を開始。
ビルの屋上に飛び移ると同時に氷の槍を叩き込んだ。
そもそもこのTRPG同好会たちは防衛能力に優れたチームだ。結鹿が思い切り飛び込んでも充分にカバーしてくれる。
そうして虫系妖を一掃した所で、次なる糸を飛ばして移動開始。
と思ったところで問題が起きた。向こう側から虫系妖が(愚かにも)糸を伝って襲いかかろうとしてきたのだ。サイズ的にも技能的にも無理だし大体落ちていくのだが、糸をひっかけたり重量がかさんだりしたことで糸の限界加重を超過。ぶちんと糸がきれてしまった。
もともとハイバランサーで無理矢理足場っぽくしていたので、緊急事態への対処はそう簡単ではない。
その糸に乗っていたのは奈南の部隊6名と遥の部隊の一部だ。
彼らは大きくバランスを崩して転落。蜘蛛糸を使える奈南隊の遊撃手が一人を抱えてビル側面に着地。ここぞとばかりに射撃をしかける地上部隊から逃れるべく、ロープをつたうように駆け上がっていく。
残るメンバーを庇ったのは想良の翼小隊だ。
遥の部隊メンバーを抱きかかえるようにキャッチ。襲撃をしかける妖たちを斬撃によって無理矢理打ち払っていく。
だが全員救えたわけでは無い。奈南の部隊……具体的には奈南とキーパーちゃんがそのまま地面へと落ちてしまったのだ。
「奈南ちゃん、つかまって!」
なんとか庇おうと無理矢理抱きかかえるキーパーちゃん。落下時の迎撃をさけるべく、奈南はエネルギーディスクを放射。
「うううっ……!」
獣の群れが牙を見せて注目している。
毒虫が群がっている。
大量の幽霊がうらめしそうに手を伸ばしている。
さすがに歯を食いしばるこの事態。最悪死ぬ事態。
そこへ飛び込んできたのは――。
「ご無体、失礼」
新田茂――および老兵隊のメンバーである。
彼らは自ら糸から飛び降り、奈南たちの着地点へ集中砲撃。
ひらいたエリアに防衛陣形を組むと、その中央に奈南たちを落とした。
「ここは我々がしのぎます。早く上へ」
想良たち翼小隊が駆けつけ、奈南たちを抱えて離脱していく。が、遠距離攻撃の射程範囲からすぐに逃れることはできない。ゆえに数十秒の間は敵の気を引く必要があるのだ。
部隊のメンバーがそれぞれ銃や刀を抜き、妖たちにぶつかっていく。
工業機械の妖がガトリングガンのごとく釘を放ち、それを寺島と遠藤が肉体で引き受けた。
拳を鉄に変えて殴りかかる松重。不思議な魔術を放つ田口。叫びながら銃を乱射する光石。
彼らが妖の海に沈むまで十秒とかからなかった。
そんな中、成は抜刀術によって妖を一気に切り払った。
翼小隊に回収された奈南が手を伸ばす。
「新田ちゃん! 一緒に……!」
「いいえ。そんなにいっぺんには上れません。それに、こういう台詞もたまには言ってみたいものです」
成はにっこりと笑って言った。
「ここは任せて、お先へどうぞ」
そうしてすぐに、成の目は鬼神のそれへと変わった。
老兵隊の目つきもまた幽鬼のごとし。
「ご覧なさい。若者が……未来が空へと飛んでいく。ここが、我らの死に場所やもしれませんな」
地獄のような光景を前に、成は笑った。
「後は頼みましたよ、殿下」
●おみやがえり
巨大な卵の殻。
とでもいおうか。ゆがんだドーム状のシェルターの天井を突き破り、奈南、プリンス、遥、燐花、結鹿の五人が飛び込んだ。
ひび割れはさらに広がり、爆発するように崩壊するシェルター。
ラーラ、恭司、秋人、想良の四人が飛び込む。
いやそれどころではない総勢54名の覚者たちが一気にシェルターへ飛び込んだのだ。
迎え撃つはただひとり。
女性の死体に抱えられた赤子の死体。通称『おみやがえり』。
赤子はうっすらと目をあけると、だあだと呟いた。
それだけで大地から大量の亡霊が発生。そのすべてがまとわりついてくる。
「早速ですか――けれど、負けませんよ!」
ラーラは巨大魔方陣を展開。炎のネコを産みだして亡霊たちを食いちぎらせた。
秋人の部隊が天に矢を放ち、回復の雨を降らせ始める。
「おみやがえりの能力はシンプルだけどものすごく強い。大ダメージを与え、魅了と解除によって強化状態や防衛陣形を乱し、HP吸収によって自らも回復する。ローテーションするだけで大抵の戦力は潰されるだろうね。けど……」
「はい。それを超えられるだけの戦いを」
おみやがえりの後方に回り込んだ想良の部隊が一斉砲撃。
更に側面を固めた恭司の部隊が撮影によるカウンターヒールを開始。
「体力はキープさせてもらうよ。だから、燐ちゃん」
「わかっています」
燐花は誰よりも早く駆け抜けると、おみやがえりを抱えている女性の首を切り落とした。
それでも崩れ落ちるようなことはない。もはや人間ではなく動く死体なのだ。
「あなたを倒すために参りました。おみやがえり」
燐花がターン。
振り向いて大量の肉で出来た管を放ってくるおみやがえり。
素早く割り込んだプリンスの部隊がそれを無理矢理つかんでガードした。
管が形や材質を変え、大量の機械へとなって襲いかかる。
プリンスの部隊がそれを振り払っている間、遥の部隊が突撃を開始。
おみやがえりから飛んできた管が突き刺さって部下を操ろうとするが、それを回復チームが次々に切り払っていく。
「ちゃんとふんばっとけよ! ぼうやいいこだねんねしなっ!」
遥の強烈なパンチがおみやがえりに直撃。
吹き飛びそうなところを肉体から放たれた大量の管を地面に突き刺すことでこらえ、反撃にと無数の毒液や炎を放ってくる。
飛び散った肉塊が姿を変え、小さな鳥や虫となって襲いかかる。
対抗するのは奈南の舞台である。
「やっとあえたね、おみやがえりちゃん。これでもくらえー!」
奈南の放ったグレネードディスク。爆発の光に混じって飛び込んでいったのは結鹿の部隊である。
「あなたがいくら強くても、どれだけの妖を操っても……絆でつながる私たちにはかないません!」
剣を振りかざす結鹿。仲間たちの補助や援護攻撃が一斉に集まり、恐るべき巨大な剣となった。
「この一撃は、犠牲となった島の人々の一撃!」
大地を穿つかのごとき一撃。
おみやがえりを貫き、飛び散る肉塊へと変えていく。
しかし、それで終わるような相手では……もちろんない。
『だあだ』
の一言で、シェルターははじけ飛んだ。
周辺のビル群が吹き飛んだ。
大地が粉々にめくれ上がって飛び上がった。
空が灰色に染まり、重力がしばらく意味を無くした。
「あー……これは当たって欲しくなかったなー……」
プリンスは大の字に寝転んで空を見上げた。
否、空のように天空を覆う巨大な赤子を見上げた。
真・おみやがえり。
全ての死体とすべての犠牲がすべての霊魂と瓦礫と小動物と熱量をむさぼり食った挙げ句に生まれた怪物である。
おみやがえりは何十枚もの炎の翼を広げ、獣のように吠えた。
降り注ぐ大量の酸の雨。
「みんな……!」
「はい、旦那様!」
「とにかくしのぐよ!」
「了解!」
秋人と恭司の部隊が即座にカウンターヒールを開始。人間がじゅっと音を立てて消えてしまうような酸の雨を無理矢理にはねのけていく。それでも足りない分を、結鹿と想良の部隊が回復をいくつも重ねることでしのいでいった。
おみやがえりが大きく息を吸い込むと、全身からぶわりと獣のような毛皮がはえた。
炎の翼を捨て、ずしんと四肢でおりたつおみやがえり。
開いた口はまるで肉食獣のように鋭い牙が並んでいた。
「リーダー、悪いけど死ぬかも」
「まあまあそう言わずに、プロフェッサーの名刺あげるからさ」
プリンスの部隊は大地ごと食らうようなおみやがえりの攻撃を身を投げる覚悟でカバーガード。
そうして守られた奈南と燐花の部隊が一斉攻撃。
対するおみやがえりは今度は全身を鋼鉄に変えて攻撃を阻み始めた。
振り上げた腕がハンマーのように襲いかかる。
が、それを一刀のもとに切断するものがあった。
そう、成である。
「どうやら死に損ないました。そのうえパーティー遅刻したようで、申し訳ありません」
にっこりと笑い、そして第二の太刀を叩き込む。
プリンスはフッと笑って遥へ振り向いた。
「ねえキャノシマの民ぃー、たぶん今あたりがパンチのチャンスだよ」
「そうか、わかった!」
理由とか聞かずに突っ込む遥。
仲間の援護射撃をうけて跳躍アンドスピン。
凄まじいエネルギーを拳に溜めて、おみやがえりへと叩き込んだ。
一方のおみやがえりは元の巨大な赤子の状態に戻り、遥のパンチはクリーンヒットした。
めしゃりとへこむおみやがえり。どころか頬がはじけ飛んだ。
「これは……」
目を見張る成に、プリンスはうんうんと頷いた。
「妖って要するに神秘の塊でしょ? ってことは因子と似たとこあるんじゃ無いかって思ったの。おみやがえりはそういうとがった連中のボスで、能力全部乗せのラスボスだから……モードチェンジで戦うんじゃないかってさ」
「なるほど。では『効く』タイミングがある、と」
「そういうこと」
プリンスがパチンと指を鳴らすと、ラーラが凄まじく巨大な魔方陣を発動させた。
身体を霊体に包んだおみやがえりは即座に炎に包まれ、あばれてもがきはじめる。再び炎の翼を作って浮き上がるも、想良に抱えられて上空をとっていた結鹿が凄まじく巨大な氷の剣を叩き込んだ。
と同時に、激しく跳躍した燐花がおみやがえりの翼をことごとく切り裂いていく。
ぎゃあという声とともに地面に叩き付けられるおみやがえり。
それを待ち構えていたのが、奈南である。
「ごめんね、みんな。お父さんお母さん……ナナンはこの島を、あったかい島にしたいから……!」
奈南のスティックに魂の輝きが宿った。
「奈南ちゃん!」
「とめないで。ナナンの――とっておき!」
輝きは巨大なスティックとなり、おみやがえりの巨体を粉砕する。
肉塊すら飛び散ることなくエネルギーとなって散っていく。
だがそこへ……。
「せめて、わたしにできることは」
想良が飛び上がり、両手と翼を広げた。
それは魂の輝きを伴って大きく広がり、まるで母が赤子を抱くように優しくエネルギー体を包み込んだ。
飛行をやめ、地面におりたつ想良。
彼女の腕の中には、綺麗に残った赤子の死体があった。
「それは……おみやがえりの元となった……」
「これも、不幸に亡くなった方ですから。だから……せめて、供養だけは」
想良の呟きに、皆小さく頷いた。
●冷酷島の終わり
こうして、妖に占拠された人工島の戦いは終幕した。
島の復興や土地神の帰還、統率を失ってさまよう妖の掃討など残された課題は多いが……ひとまず、誰にもなしえなかった準大妖級妖の討伐という任務を達成することができた。
島外の防衛にあたっていた兵士たちや、島奪還に協力していたジムカタたちが英雄の凱旋とばかりにヘリを出迎える。
「皆さんのおかげで、島を人類の手に取り戻すことが出来ました。私はこれから建設業者として島の復興を始めますが、何かあれば必ず皆さんの助けにかけつけましょう。心から感謝します」
深々と頭を下げたジムカタで、この『冷酷島』をめぐる物語は一端の幕引きとさせていただこう。
この先に残っている復興事業はもはや冷酷島などではないのだから。
名前をつけるとしたら……ファイヴ島、だろうか。
島中の妖戦力が中央部に集まったことで、島はかつてない静けさに包まれていた。
海辺の風と奇妙な湿度が霧を起こし、島中央に伸びる大きな道路はもやに包まれる。
もやを抜け、歩みによって現われる十人の老若男女。
「最終決戦、ですね――」
希代の魔女、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。
冷酷島で行なわれた数々の妖討伐作戦に参加し、その全てで高い火力リソースとなってきた。
その力は最終決戦の場においても遺憾なく発揮されるだろう。
「ボスは能力全乗せとか、超アニメっぽくない? ニポン来てよかった」
異国の王子、『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)。
その飄々とした性格から、数々の作戦で有効な戦術を生み出してきた。
総力戦であるがゆえにひねりがなく、シンプルにぶつからざるをえない今回においてもユニークな戦術をぶつけてくるだろう。
「おみやがえりちゃんを倒したら、平和な島になるんだよねぇ? だったら、いつも以上にがんばるのだ!」
たたかうスポーツ少女、『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)。
穏やかで優しい性格とは裏腹に、ホッケースティックから繰り出す強烈な打撃力でいくつもの妖を倒してきた猛者だ。
むろん、最後の戦いにおいてもその打撃力は活かされることになる。
「長い時間がかかりましたが、ようやく……ですね」
音速の猫、『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)。
きわめて高い反応速度とそこから生み出される特別な攻撃力でいつも戦場の先手をとってきた。
恐らくこの戦いでもまた、敵陣へ切り込む第一の刃となるだろう。
「最後とはいっても、無理をしたらだめ……だからね」
美しき教師、『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)。
高い特攻能力を基板とした、すぐれた回復力と攻撃力を兼ね備えた万能方フォロワー。
彼による戦線維持能力は小隊戦も大隊戦でも発揮され、この大規模作戦でもいかんなく発揮されることだろう。
「おみやがえり……。赤ちゃんの、死体が、妖になったんですね。それなら……」
心に翼をもつ少女、大辻・想良(CL2001476)。
大規模な妖案件である冷酷島の作戦に数多く参加し、そのたびに柔軟な戦いを見せてきた彼女。
最終決戦の場に立つにふさわしく、きっと彼女なりの決着をつけてくれるだろう。
「今まで色々手を打ってきたわけだけど、これが済めば最大の障害はクリアできるってわけだねえ」
戦闘カメラマン、『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)。
様々な形で冷酷島の事件に関わり、島で手に入れた神具カメラを武器に数々の難敵と戦ってきた。
最後の戦いの場においても、彼のカメラは妖たちをとらえつづけるだろう。
「準大妖級。今後我々に立ちはだかる敵への試金石となる戦いでもありますね」
老兵教授、『教授』新田・成(CL2000538)。
穏やかな老紳士としての仮面に隠れた刃のような鋭さと凶暴さは、武器とする仕込み杖にも現われている。
彼の生涯によって研ぎ澄まされた刃は、強大な敵をも切り裂くだろう。
「よっしゃ、カチコミだな! 任せろ!」
空手少年、『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)。
明るくサッパリとした性格と、染みついた非常識な空手の威力。
彼の拳は岩をも砕き、妖を粉砕する。最終決戦という場でも彼の拳は力強く振るわれることだろう。
「おみやがえり。直接の恨みはありませんが、島の平穏のため……立ち退いていただきます」
氷の騎士、『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)。
彼女のまっすぐな心は悪しき妖たちを次々と貫き、ここ冷酷島の作戦にも大きく貢献してきた。
こうして最終決戦の舞台に立っているのもまた、彼女のまっすぐさの現われであろう。
かくして十人。
スポーツ少女にスポーツ少年、教師に魔女にカメラマン、ネコに翼に氷の剣。異国の王子に至るまで。
まるで統一感のない十人がたったひとつの目的のために集い、そして軍団を率いていた。
そう、軍団。
霧が暴風によってはれていく。
各員が率いる十個小隊。
総員六十名の覚者たちが、この場に集結していた。
目の前には十台の装甲ヘリコプター。
戦闘のない安全なエリアまで送迎するための乗り物だ。
十人の小隊長たちはそれぞれ頷き合い、隊ごと別々のヘリへと乗り込んでいった。
●誇らしき小隊
虫、獣、鳥、機械、幽霊、炎、毒液。ありとあらゆる冷酷島残存戦力をかき集めた妖大部隊。
しかしそれはあくまで『かきあつめた』だけであった。
それぞれがコミュニティを持ち、R3妖によって統率されていたときの賢い戦術をとる様子は無く、大量の妖がただ物量によって責め立てるというシンプルなスタイルである。
それゆえ、ファイヴ大隊は大胆な作戦に出ることにした。
「殆どの妖は地上部隊だよね。空を飛んだり壁を歩いたり出来るのはごく僅かだと思うんだ。だから、余と民は高高度を綱渡りしていく作戦に出ることにしたよ!」
『誰が誰の男と寝た』という話題で取っ組み合いの喧嘩が始まるヘリの中、飛び交うカシスオレンジをかわしてプリンスは指を立てた。
「ビルの屋上からスタートして、一人が蜘蛛糸を使って隣のビルに繋ぐの。その上をみんなでわたる作戦だよやめてポッキーなげるのやめて」
「蜘蛛糸で作ったロープは加重限界と長さという意味では適していますが、足場にはむかないのでは?」
別のヘリ。ひたすらお行儀のいい黒子衆花組とその指揮官ラーラは作戦の打ち合わせを進めていた。
「そのためのハイバランサーです。文字通り綱渡り状態になりますが、足場にできない場所をなんとか足場にしやすくなると思います」
ふむと頷く巫女たち。
「けれど、どうやっても各招待が一列陣形になりますよね。接触する相手が飛行タイプに限定されるとはいえ、危険では……」
「確かにそうだと思います。もし落ちれば敵の群れに囲まれますしね」
「加えて注意したいのは敵の射程距離です」
刹華小隊。燐花の率いるチームのヘリで、彼女は島の3Dマップを表示した。
「およそビルの5階分程度までは届くと予想されています。ですから4階以下の建物では作戦上有効な高度とはいえません」
燐花は島中央部の衛星写真と自分たちによる観察から導き出されたデータマップに赤いマーカーでぐるりとかるい渦巻きのようなラインを描いた。
「いくつかのビルは妖によって壊されていますし、元から背の低いビルもあります。比較的安全なルートを通る反面、遠回りも必要とするのです」
「せんせー、しつもんです! 仲間がおちたらどうしますか?」
黒子衆癒力組と指揮官秋人を乗せたヘリ内。
秋人はこくりと頷いてホワイトボードに図を描いた。
「ハイバランサーを備えたとしても、本来足場にならない綱渡り。敵の攻撃によって落とされることもあると思う。だから予め安全フックをかけておいて、落ちてもぶらさがるようにしておこう。蜘蛛糸使いによって引き上げさせるか、自力でよじのぼるんだ」
「旦那様。しかし糸を切られる危険もございます」
「誰かの糸が敵の攻撃によって切られたら、わたしたち……翼小隊の出番です」
想良と彼女が率いる翼小隊のヘリ内。
全員が翼人で構成されたチームだ。もともとは想良と同じ動きができるようにとオーダーされたが、この高高度作戦においては非常に重要な役割を担うことになった。
「一人につき一人ずつ抱え、リカバリーをはかります。皆が一直線にしか動けないなか、あらゆる角度から攻撃してくる敵に直接打撃を与えられるのはわたしたちだけです。がんばりましょう」
「それでも、どうしても落下するメンバーがいるなら……僕は助けようと思う」
イージス小隊と指揮官恭司のヘリ内。恭司の言い方はある意味ファイヴ的だったが一般的ではない。一人を犠牲に大多数が生き残る方法を、普通はとるからだ。
しかし隊員たちは強く頷いた。
「隊長、僕らも同じ気持ちです」
「ワンフォーオール、オールフォーワン。皆でひとつの小隊ですから。隊長が落ちたときも、俺らは助けに行きますからね」
「うん……ありがとう。そうならないのが、一番だけどね」
「というわけで、みんなは鳥ちゃんをかっきーんてやりながら頑張って進むのだ!」
奈南と五麟学園アイスホッケー部の面々は、それぞれ手のひらを突き出した。
五人の手のひらが重なり、彼女たちが奈南を見る。
「奈南ちゃん、いっしょに」
「私たちのフォワードはキミだよ」
「一緒にこの作戦、成功させようね」
「……うん!」
奈南は手を翳し、六つの手が重なった。
「それでは改めて確認しておきましょう。この作戦で命を落とす可能性があることは、ご理解頂けていますか?」
成率いる新田隊――あらため老兵隊。全員が成と同じ65歳以上で構成されたチームである。
「ヘッ、こちとらいつでも死ぬ覚悟だバカヤロウ」
「どこにでも突っ込んでやるよ」
「僕ら戦士だし? 死ぬときは戦場って決まってるじゃんね!」
「ちょっとついて行けない所ありますけど、僕もそう思います」
「いや、できれば死にたくないけどね? でもしょうが無いときは、あるよ?」
成の出した書類に血判を押す五人。それぞれ円形の署名がなされ『寺島、遠藤、田口、松重、光石』と書かれている。その一角に、新田の名前が書き足された。
「それでは皆さん。若い未来のために命を使いましょう」
「そういうワケなんだけど、なんか質問あるか?」
遥が振り返ると、五人の兵隊はこっくりとだけ頷いた。
ファイヴ二次団体。そのなかでも大多数をしめる元ヒノマル陸軍兵。遥のチームはそのメンバーで構成されていた。
元々冷酷島の作戦ではコミュニティボスへの露払いとして戦ったり今みたいにヘリを操縦したりと様々な形で関わっていたので、今回はその中でも選りすぐりの兵士が遥の小隊として編成された形となる。ある意味、集大成である。
兵士の一人が腕組みをして言う。
「本当に良かったのか。俺たちと組んで。他に組むべき相手が居たんじゃないのか?」
「いいって。お偉いさんにもアピールできるかもだし、集団戦闘向いてそうだろ」
難しいことは考えない。そんな顔でからから笑う遥。
「チーム名はあのおっさんからあやかって、『カノシマ陸軍』だ!」
「目的地つくまでなにやる? パラノイアやる?」
「ここは軽く人狼しましょうよ」
結鹿率いる結鹿隊はどこか和やかな雰囲気だ。
なので、一番緊張しているのは誰あろう結鹿だったりする。
「皆さん、怪我にきをつけて……くれぐれも無茶はしないようにお願いしますね!」
「えー、全員生存エンドかー」
「難易度、高いですねえ」
「町は焼いてもいいのか?」
「だめだろ」
「こ、こほん!」
結鹿は咳払いし、そしてはにかんだ。
「この空気が気に入っているというか、皆さん優しくしてくださるので……誰も欠けて欲しくないんです」
結鹿の言葉に、五人が顔を見合わせる。
「ん、わかった。誇らしきチキンプレイを見せてあげるよ!」
●綱渡りのブレイクスルー
かくして行なわれた高高度綱渡り作戦。
無理をするなと言いはすれど、単独で落ちればそこは妖の海。よくて軽傷最悪死亡という文字通りに綱渡りな作戦である。
おさらいするが、ビルとビルの間を20メートルのロープ5本でつなぎ、陣形を組みながら移動していくというものである。
このとき組む陣形は前衛を表面にした四角形を想像すると分かりやすい。
(別に妖が全部前方に整列してくれるわけではないので)全方面へ前衛担当を出しておく必要があるのだ。
今回前衛の役割を担っているのが、カノシマ陸軍(遥)、刹華小隊(燐花)、黒子衆花組(ラーラ)、王子マジラブ2000%ハイレボリューション超×3イイカンジモーニングスター娘(プリンス)。
この四隊が四方を囲み、いざ敵が抜けてきた時のために奈南アイスホッケー隊、結鹿TRPG同好隊が円形を組んで臨機応変に対応。
そして中央で一塊になっているのが黒子衆癒力組(秋人)、イージス小隊(恭司)、老兵隊(成)が回復と援護射撃を担当する。
想良による翼小隊は遊撃と補助にあたり、頭上や足下からの襲撃に備える。
通路がきわめて限定されているため、ほぼ常に全方位から飛行タイプの敵に囲まれていると考えるべきだろう。
また足場の喪失にも気を配らねばならない。特に鳥系の妖マガツガラスは真空刃による射撃を行なうため流れ弾で足場が切れる危険が大きい。注意すべきはそこだろう。
余談として、妖たちが『じゃあ足場の糸切ればいいじゃん』という考えに行き着かないくらい知能が低いので、今回の作戦はかなり通用していた。R3あたりからは通用しなかっただろう。
「それでは参りましょう、皆さん!」
仕込み杖に手をかけ、成たちは一斉に走り出した。
まずは戦場にかかる蜘蛛糸だ。
ビルの屋上から隣の屋上まで5本の蜘蛛糸がはなたれ、割とギリギリの距離で接着された。
「1本の最大荷重は200キロ。3小隊より多くの人数が一本の糸に集まらないように注意して下さい!」
普通ではまず足場にできないような蜘蛛糸の上を走り始める九個小隊54名。
学校で言えば約2クラス分。壮絶な光景である。
最初に察知したのは勿論飛行タイプ。エアブレイドの眷属だった鳥系妖たちである。
それに連なって足下のヒトクイケモノ眷属やダイアモンドワーム眷属たちが威嚇を始め、部隊を追いかける形で移動しはじめる。
一部の虫系妖はビルの壁をのぼって行く手を阻もうとするが、それに対抗したのはラーラの部隊である。
「皆さん、術式集中――! 良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を」
「「イオ・ブルチャーレ!」」
空をなめるようなラーラの召炎波。それに併せて放たれる巫女たちの雷獣や水龍牙、そしてBOT。行き先であるビルによじ登り、同じように糸を足場にして移動しはじめたマガツグモたちを薙ぎ払った。
ぶっちゃけ糸の上に大量のマガツグモがのっかったら終わりである。控えめに言って全滅である。
なにせ足下は移動するたびに凝縮され続ける妖軍団で満ちているのだ。溶鉱炉に落ちるがごとしだ。
だがそんな恐怖感をモノともせずに、プリンスたちは突っ込んでくる鳥系妖へと逆突撃を仕掛けた。逆突撃とは、突っ込んでくる相手にカウンターを浴びせて倒す手段である。具体的にはラリアットである。
「しゃらああ!」
「焼き鳥になれオラァ!」
「恐っ! 余の部隊恐っ!」
でもって、逆じゃないまっとうな突撃をかけたのは燐花たちの部隊だ。
糸の上であることを忘れるほどの速度で走り抜け、真空刃を放とうとするマガツガラスを切り裂く燐花。
部下たちはそこに群がろうとする妖たちに銃撃を浴びせて牽制してゆく。
燐花は糸のうえに着地し、眼下の地獄を見た。
着地を失敗すればどうなるかは、想像するまでもない。
「燐ちゃん、上に気をつけて!」
恭司の声と共にカメラフラッシュが空を焼いた。
上空から急降下による突撃をしかける鳥系妖たちが呪いによってはじけ飛び、残った分も援護の対空射撃によって散っていく。
ややあってから、フレイムテイル眷属の炎妖が加わってきた。
火の鳥や小さな太陽、空を舞う虹の蛇などだ。
彼らは一斉に炎による薙ぎ払いを試みるが――。
「いいね、みんな。カウンターヒールだ」
弓を放つ秋人。彼にあわせて放った巫女たちの矢が巨大な水の竜となり、炎を飲み込みしまいには妖たちも飲み込んでいく。
ここまで戦闘がうまくいっているのはひとえに飛行ペナルティにあった。
無理矢理ではあるが足場をもっている覚者たちと異なり、飛行している妖たちはそれだけ不利があるのだ。(なお、ハイバランサーを使い糸の上だけで戦闘している側にもそれなりにペナルティはついている)
部隊はビルからビルへと駆け抜け、糸を繋いで更に次へと繋いでいく。
「右側のダメージがかさばってきた。交代するぞ!」
遥の部隊が移動を開始。飛びかかってくる鳥系妖を跳び蹴りで粉砕し、気のエネルギーを込めて蹴り飛ばし別の妖に叩き付ける。
そんな彼の援護をすべく小銃で的確に射撃していく部下たち。
だがしかし……。
「まずいな。敵が対応しはじめてきている」
見ると妖の群れが大移動をするかたわら情報伝達を始めていた。せいぜい『敵がきたぞ』『そっちへ行ったぞ』程度のものでハチが放つ警戒フェロモンみたいなものだが、それが広まることで予め高高度に集まっておくという行動をとりはじめたのだ。
殆どは3階建てのビルに登って『あれーこないー』みたいにうろうろしたり既に通り過ぎたビルに登って取り残されたりといったパターンだが、移動しようとしていたビルの屋上にもう虫系妖が集合しているなんてことがザラになってきた。
「どうする?」
「今から下におりるわけにはいきません。強行突破です!」
結鹿は部隊のメンバーと共に突撃を開始。
ビルの屋上に飛び移ると同時に氷の槍を叩き込んだ。
そもそもこのTRPG同好会たちは防衛能力に優れたチームだ。結鹿が思い切り飛び込んでも充分にカバーしてくれる。
そうして虫系妖を一掃した所で、次なる糸を飛ばして移動開始。
と思ったところで問題が起きた。向こう側から虫系妖が(愚かにも)糸を伝って襲いかかろうとしてきたのだ。サイズ的にも技能的にも無理だし大体落ちていくのだが、糸をひっかけたり重量がかさんだりしたことで糸の限界加重を超過。ぶちんと糸がきれてしまった。
もともとハイバランサーで無理矢理足場っぽくしていたので、緊急事態への対処はそう簡単ではない。
その糸に乗っていたのは奈南の部隊6名と遥の部隊の一部だ。
彼らは大きくバランスを崩して転落。蜘蛛糸を使える奈南隊の遊撃手が一人を抱えてビル側面に着地。ここぞとばかりに射撃をしかける地上部隊から逃れるべく、ロープをつたうように駆け上がっていく。
残るメンバーを庇ったのは想良の翼小隊だ。
遥の部隊メンバーを抱きかかえるようにキャッチ。襲撃をしかける妖たちを斬撃によって無理矢理打ち払っていく。
だが全員救えたわけでは無い。奈南の部隊……具体的には奈南とキーパーちゃんがそのまま地面へと落ちてしまったのだ。
「奈南ちゃん、つかまって!」
なんとか庇おうと無理矢理抱きかかえるキーパーちゃん。落下時の迎撃をさけるべく、奈南はエネルギーディスクを放射。
「うううっ……!」
獣の群れが牙を見せて注目している。
毒虫が群がっている。
大量の幽霊がうらめしそうに手を伸ばしている。
さすがに歯を食いしばるこの事態。最悪死ぬ事態。
そこへ飛び込んできたのは――。
「ご無体、失礼」
新田茂――および老兵隊のメンバーである。
彼らは自ら糸から飛び降り、奈南たちの着地点へ集中砲撃。
ひらいたエリアに防衛陣形を組むと、その中央に奈南たちを落とした。
「ここは我々がしのぎます。早く上へ」
想良たち翼小隊が駆けつけ、奈南たちを抱えて離脱していく。が、遠距離攻撃の射程範囲からすぐに逃れることはできない。ゆえに数十秒の間は敵の気を引く必要があるのだ。
部隊のメンバーがそれぞれ銃や刀を抜き、妖たちにぶつかっていく。
工業機械の妖がガトリングガンのごとく釘を放ち、それを寺島と遠藤が肉体で引き受けた。
拳を鉄に変えて殴りかかる松重。不思議な魔術を放つ田口。叫びながら銃を乱射する光石。
彼らが妖の海に沈むまで十秒とかからなかった。
そんな中、成は抜刀術によって妖を一気に切り払った。
翼小隊に回収された奈南が手を伸ばす。
「新田ちゃん! 一緒に……!」
「いいえ。そんなにいっぺんには上れません。それに、こういう台詞もたまには言ってみたいものです」
成はにっこりと笑って言った。
「ここは任せて、お先へどうぞ」
そうしてすぐに、成の目は鬼神のそれへと変わった。
老兵隊の目つきもまた幽鬼のごとし。
「ご覧なさい。若者が……未来が空へと飛んでいく。ここが、我らの死に場所やもしれませんな」
地獄のような光景を前に、成は笑った。
「後は頼みましたよ、殿下」
●おみやがえり
巨大な卵の殻。
とでもいおうか。ゆがんだドーム状のシェルターの天井を突き破り、奈南、プリンス、遥、燐花、結鹿の五人が飛び込んだ。
ひび割れはさらに広がり、爆発するように崩壊するシェルター。
ラーラ、恭司、秋人、想良の四人が飛び込む。
いやそれどころではない総勢54名の覚者たちが一気にシェルターへ飛び込んだのだ。
迎え撃つはただひとり。
女性の死体に抱えられた赤子の死体。通称『おみやがえり』。
赤子はうっすらと目をあけると、だあだと呟いた。
それだけで大地から大量の亡霊が発生。そのすべてがまとわりついてくる。
「早速ですか――けれど、負けませんよ!」
ラーラは巨大魔方陣を展開。炎のネコを産みだして亡霊たちを食いちぎらせた。
秋人の部隊が天に矢を放ち、回復の雨を降らせ始める。
「おみやがえりの能力はシンプルだけどものすごく強い。大ダメージを与え、魅了と解除によって強化状態や防衛陣形を乱し、HP吸収によって自らも回復する。ローテーションするだけで大抵の戦力は潰されるだろうね。けど……」
「はい。それを超えられるだけの戦いを」
おみやがえりの後方に回り込んだ想良の部隊が一斉砲撃。
更に側面を固めた恭司の部隊が撮影によるカウンターヒールを開始。
「体力はキープさせてもらうよ。だから、燐ちゃん」
「わかっています」
燐花は誰よりも早く駆け抜けると、おみやがえりを抱えている女性の首を切り落とした。
それでも崩れ落ちるようなことはない。もはや人間ではなく動く死体なのだ。
「あなたを倒すために参りました。おみやがえり」
燐花がターン。
振り向いて大量の肉で出来た管を放ってくるおみやがえり。
素早く割り込んだプリンスの部隊がそれを無理矢理つかんでガードした。
管が形や材質を変え、大量の機械へとなって襲いかかる。
プリンスの部隊がそれを振り払っている間、遥の部隊が突撃を開始。
おみやがえりから飛んできた管が突き刺さって部下を操ろうとするが、それを回復チームが次々に切り払っていく。
「ちゃんとふんばっとけよ! ぼうやいいこだねんねしなっ!」
遥の強烈なパンチがおみやがえりに直撃。
吹き飛びそうなところを肉体から放たれた大量の管を地面に突き刺すことでこらえ、反撃にと無数の毒液や炎を放ってくる。
飛び散った肉塊が姿を変え、小さな鳥や虫となって襲いかかる。
対抗するのは奈南の舞台である。
「やっとあえたね、おみやがえりちゃん。これでもくらえー!」
奈南の放ったグレネードディスク。爆発の光に混じって飛び込んでいったのは結鹿の部隊である。
「あなたがいくら強くても、どれだけの妖を操っても……絆でつながる私たちにはかないません!」
剣を振りかざす結鹿。仲間たちの補助や援護攻撃が一斉に集まり、恐るべき巨大な剣となった。
「この一撃は、犠牲となった島の人々の一撃!」
大地を穿つかのごとき一撃。
おみやがえりを貫き、飛び散る肉塊へと変えていく。
しかし、それで終わるような相手では……もちろんない。
『だあだ』
の一言で、シェルターははじけ飛んだ。
周辺のビル群が吹き飛んだ。
大地が粉々にめくれ上がって飛び上がった。
空が灰色に染まり、重力がしばらく意味を無くした。
「あー……これは当たって欲しくなかったなー……」
プリンスは大の字に寝転んで空を見上げた。
否、空のように天空を覆う巨大な赤子を見上げた。
真・おみやがえり。
全ての死体とすべての犠牲がすべての霊魂と瓦礫と小動物と熱量をむさぼり食った挙げ句に生まれた怪物である。
おみやがえりは何十枚もの炎の翼を広げ、獣のように吠えた。
降り注ぐ大量の酸の雨。
「みんな……!」
「はい、旦那様!」
「とにかくしのぐよ!」
「了解!」
秋人と恭司の部隊が即座にカウンターヒールを開始。人間がじゅっと音を立てて消えてしまうような酸の雨を無理矢理にはねのけていく。それでも足りない分を、結鹿と想良の部隊が回復をいくつも重ねることでしのいでいった。
おみやがえりが大きく息を吸い込むと、全身からぶわりと獣のような毛皮がはえた。
炎の翼を捨て、ずしんと四肢でおりたつおみやがえり。
開いた口はまるで肉食獣のように鋭い牙が並んでいた。
「リーダー、悪いけど死ぬかも」
「まあまあそう言わずに、プロフェッサーの名刺あげるからさ」
プリンスの部隊は大地ごと食らうようなおみやがえりの攻撃を身を投げる覚悟でカバーガード。
そうして守られた奈南と燐花の部隊が一斉攻撃。
対するおみやがえりは今度は全身を鋼鉄に変えて攻撃を阻み始めた。
振り上げた腕がハンマーのように襲いかかる。
が、それを一刀のもとに切断するものがあった。
そう、成である。
「どうやら死に損ないました。そのうえパーティー遅刻したようで、申し訳ありません」
にっこりと笑い、そして第二の太刀を叩き込む。
プリンスはフッと笑って遥へ振り向いた。
「ねえキャノシマの民ぃー、たぶん今あたりがパンチのチャンスだよ」
「そうか、わかった!」
理由とか聞かずに突っ込む遥。
仲間の援護射撃をうけて跳躍アンドスピン。
凄まじいエネルギーを拳に溜めて、おみやがえりへと叩き込んだ。
一方のおみやがえりは元の巨大な赤子の状態に戻り、遥のパンチはクリーンヒットした。
めしゃりとへこむおみやがえり。どころか頬がはじけ飛んだ。
「これは……」
目を見張る成に、プリンスはうんうんと頷いた。
「妖って要するに神秘の塊でしょ? ってことは因子と似たとこあるんじゃ無いかって思ったの。おみやがえりはそういうとがった連中のボスで、能力全部乗せのラスボスだから……モードチェンジで戦うんじゃないかってさ」
「なるほど。では『効く』タイミングがある、と」
「そういうこと」
プリンスがパチンと指を鳴らすと、ラーラが凄まじく巨大な魔方陣を発動させた。
身体を霊体に包んだおみやがえりは即座に炎に包まれ、あばれてもがきはじめる。再び炎の翼を作って浮き上がるも、想良に抱えられて上空をとっていた結鹿が凄まじく巨大な氷の剣を叩き込んだ。
と同時に、激しく跳躍した燐花がおみやがえりの翼をことごとく切り裂いていく。
ぎゃあという声とともに地面に叩き付けられるおみやがえり。
それを待ち構えていたのが、奈南である。
「ごめんね、みんな。お父さんお母さん……ナナンはこの島を、あったかい島にしたいから……!」
奈南のスティックに魂の輝きが宿った。
「奈南ちゃん!」
「とめないで。ナナンの――とっておき!」
輝きは巨大なスティックとなり、おみやがえりの巨体を粉砕する。
肉塊すら飛び散ることなくエネルギーとなって散っていく。
だがそこへ……。
「せめて、わたしにできることは」
想良が飛び上がり、両手と翼を広げた。
それは魂の輝きを伴って大きく広がり、まるで母が赤子を抱くように優しくエネルギー体を包み込んだ。
飛行をやめ、地面におりたつ想良。
彼女の腕の中には、綺麗に残った赤子の死体があった。
「それは……おみやがえりの元となった……」
「これも、不幸に亡くなった方ですから。だから……せめて、供養だけは」
想良の呟きに、皆小さく頷いた。
●冷酷島の終わり
こうして、妖に占拠された人工島の戦いは終幕した。
島の復興や土地神の帰還、統率を失ってさまよう妖の掃討など残された課題は多いが……ひとまず、誰にもなしえなかった準大妖級妖の討伐という任務を達成することができた。
島外の防衛にあたっていた兵士たちや、島奪還に協力していたジムカタたちが英雄の凱旋とばかりにヘリを出迎える。
「皆さんのおかげで、島を人類の手に取り戻すことが出来ました。私はこれから建設業者として島の復興を始めますが、何かあれば必ず皆さんの助けにかけつけましょう。心から感謝します」
深々と頭を下げたジムカタで、この『冷酷島』をめぐる物語は一端の幕引きとさせていただこう。
この先に残っている復興事業はもはや冷酷島などではないのだから。
名前をつけるとしたら……ファイヴ島、だろうか。
