<黒い霧>ファクターがあれば、Teppenなぞ!
<黒い霧>ファクターがあれば、Teppenなぞ!


●黒霧参謀、暗躍
 とある廃工場にて。
 そこは、「FURIOUS」を名乗る集団が集まっていた。
 非発現者であるがゆえに、発現者に虐げられ、あるいは家族を失った者達。いわゆる憤怒者である。
 その年代は、10代後半から50代と幅広い。彼らの中には裕福な者もおり、組織に資金提供まで行っている。
「リーダーに会わせろという者が表に」
 携帯電話で武器の売買について話していたリーダーに、所属員一人が耳打ちする。彼が通すように言うと、表からゆっくりと黒装束に白衣を纏った男が入ってきた。
「憤怒者集団『FURIOUS』で間違いありませんか?」
「んだ、てめぇ」
「あなた方……、覚者の力が欲しくはありませんか?」
 ざわつく廃工場内。武器を手にする所属員達を、リーダーが制する。
 白衣の男は半球状の器具を手にする。それは、リュックサックのように背負うような形のものだ。
 早速、男は器具を背中に装着し、そこから伸びるノズルから炎を噴射してみせる。また、別の器具を装着し、雷や水礫を発してみせた。
「擬似的ですが、覚者の力の一端をこれで再現できます」
 しかも、身体能力の向上も期待でき、工事現場などですでに実用されているとのことだ。
「…………」
 リーダーは早速、それを装着する。そして、体が軽く、素早く動けるのを実感しつつ、術式のように器具から生やす蔓の鞭を操って見せた。
「すげぇな、これなら覚者にも負けねぇ……!」
「どうです。今なら、人数分ご用意いたしますよ」
 にやりと笑う白衣の男。彼の名は、『黒霧首領お目付け役』静永・高明(nCL2000200)といった。

●「Teppen」壊滅……?
 F.i.V.E.の会議室。
 そこへ、リーゼントの男がドアを勢いよく開き、駆け込んできた。
「おい、悟と奈緒子が憤怒者に囲まれたってのはどういうことじゃ!」
 ブリーフィングを受けていた覚者が一斉にそちらを見る。説明を行う『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)は身を震わせていた。
「どうなんじゃ、あぁん!?」
 声を荒げたのは、隔者集団「Teppen」のリーダーを張っていた浅野・貴志だ。
 彼はF.i.V.E.との決闘に負けてしまったため、覚者達の要望に応えて一人、この地に出向する形で妖討伐などに精を出していた。
 その彼が、夢見が見た身内の危機を聞きつけて駆けつけたのだ。
 けいが怯えていたこともあり、覚者達がなんとか浅野をなだめ、ようやくけいによる説明が再開する。浅野の為もあって、一から説明することになった。
「どうやら、憤怒者組織が『Teppen』のメンバーを個別に襲う事件があったようじゃの」
 憤怒者の組織「FURIOUS」は、チンピラ集団と認識していた「Teppen」を壊滅させようと、メンバーが少数のタイミングで襲撃を繰り返していた。
 そして、メンバー5人を捕らえ、「FURIOUS」の本拠地である廃工場へと幹部に来るよう求めたらしい。
「浅野不在もあって、幹部の2人はなんとか『Teppen』を纏めようとしておったようじゃが……、多勢に無勢であったようじゃの」
 けいの夢見によると、「FURIOUS」所属員が人質を盾にして、幹部2人を死に至らしめてしまうらしい。それを聞いていた浅野は話が止まらぬようにと、一番後ろの席で腕組みしていた。
 ここまでなら、隔者と憤怒者の抗争。心情的に浅野の大事な子分を護ることもありはするが、F.i.V.E.が出る理由はここからの話にある。
「憤怒者達は、器具『ファクター』を使っておっての。それを売りつけたのは、黒霧、静永・高明に間違いないようじゃ」
 彼は開発した器具を、「FURIOUS」に高値で売りつけていた。おそらくは、黒霧の活動資金に当てるつもりだろう。
「自分達の組織の為に、敵対する憤怒者すらも利用するというのですの……?」
 話を聞いていた覚者の中、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)が怒りに震える。
 全てを自分の手のひらの上で転がそうとする静永という男、許してはおけぬだろう。
「じゃが、ここは、『Teppen』メンバーの身の安全を第一に動いてほしいのじゃ」
 夢見でけいが視た状況は、資料として提示されている。
 そこで、覚者達はまたかと呟いたのは、「FURIOUS」に黒霧構成員が潜りこんでいる点だ。
 『Teppen』メンバーの無事を優先するなら、そいつはスルーすべきだが、今は黒霧の離脱を阻止するスキルもある。できるなら、黒霧の本拠地を掴む為にも、こいつの身柄を確保したいところだ。
「早ぉ、奴らを助けに行くぞ!」
 立ち上がった浅野が我先にと会議室を飛び出す。
「よろしく頼むのじゃ」
 覚者達はそんなけいの言葉を背に、浅野を追いかけるのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常(EX)
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.全ての「Teppen」メンバーの生存
2.なし
3.なし
覚者の皆様、こんにちは。なちゅいです。
黒霧、静永・高明の陰謀によって、
発現者(隔者)組織「Teppen」と
憤怒者組織が交戦する事態となっています。

裏で暗躍していた静永、
それに憤怒者組織に紛れる黒霧構成員の討伐を願います。

●状況
 夜、「FURIOUS」の本拠地である廃工場に乗り込みます。

 廃工場内は壁際には機材らしき物の跡が残されていますが、
 中央は大きくスペースが開いております。

 「Teppen」幹部2人が器具「ファクター」を装着した憤怒者達に囲まれた状態へ、覚者達が浅野と乗り込むことになります。
 憤怒者集団は「Teppen」のメンバー5人に暴行を加えた上、人質としています。
 メンバー達は工場奥で手足をロープで縛られ、床に転がされています。

●敵
○静永・高明(しずなが・たかあき)(nCL2000200)……30歳。
 黒霧の一員、霧山・譲のお目付け役。
 暦×土。ナックルをメインに攻撃してきます。

 ・鉄甲掌・還……特近単[貫2・50・100%]
 ・十六夜……物近烈[二連]
 ・岩纏……自・特攻+ 特防+ 最大HP+ 最大+
 ・岩盤烈破……特遠列・重圧
 相手に叩きつけた岩によって、動きを封じる技です。

○黒霧構成員……半田・透(はんだ・とおる)21歳。
 獣(寅)×火、苦無、ナイフを所持。
 近接での体術が得意な相手です。
 憤怒者に紛れており、
 ほとんど言葉を発せず、寡黙に依頼を遂行しようとします。

○憤怒者……「FURIOUS」25人。上気の1人を除いて、非発現者です。
 バット、ゴルフクラブといった鈍器になりそうなものを所持。
 さらに、全員がその背に
 半球状の器具(「ファクター」Aタイプ)を装着しており、
 多少の身体能力を向上させた上、
 術式を擬似的に使えるようになっております。
 戦闘外での設定が器具ごとに必要で、
 以下の内1種のみ使用できます。
 木・深緑鞭、火・火炎弾、土・無頼、天・召雷、水・水礫

●NPC
◎「Teppen」メンバー
○浅野・貴志(あさの・たかし)21歳。
 リーダー。現在はF.i.V.E.で働いています。
 械×火。グレートソードを所持。
 リーゼントの男。かなりの力を持っており、
 その両刃の剣と、覚者としての力を存分に振るって相手を叩き潰します。

 現場では、憤怒者に片っ端から切りかかろうとします。
 こちらの指示を聞いてもらうなら、
 現場に向かう道中である程度なだめる必要があるでしょう。

 以下幹部2人は、先に廃工場へと乗り込んでいます。
○幹部……伏谷・悟(ふしや・さとる)20歳。
 翼×木。組織ナンバー2。槍を所持。短髪に剃り込みの入った男。

○幹部……神嶋・奈緒子(かみしま・なおこ)20歳。
 獣(酉)×土。ナックルを所持。茶髪ロング。
 髪は右手前に再度ダウンで流しています。浅野にベタ惚れ。

○メンバー5人……覚者としての力は弱いメンバーです。
 「FURIOUS」所属員から集団リンチを受け、
 自力では動けなくなっています。

◎河澄・静音……F.i.V.E.の一員として参加します。
 自分の判断で動きますが、
 F.i.V.E.として要望があれば、それを優先させていただきます。

 それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
150LP[+予約50LP]
参加人数
4/8
公開日
2017年10月24日

■メイン参加者 4人■

『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『ボーパルホワイトバニー』
飛騨・直斗(CL2001570)

●憤怒者、ファクター、黒霧
 夜、F.i.V.E.本部から、現地へと向かう覚者達。
 5人のメンバーは走りながら、思うことを語り合う。
「大人数で寄ってたかって……ですか。酷いことを考えますね」
 制服姿をした女子高生、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は眉を顰める。
「とうとう、『ファクター』を売り始めたのですね……」
 上月・里桜(CL2001274)が懸念しているのは、憤怒者達が装着しているという器具のこと。
 それは一般人であっても、この器具の装着によって、一定の力を引き出し、さらに擬似的に覚者の行使するスキルを1つだけ使える。そんな能力であれば、確かに憤怒者は欲しがるかもしれない。
「器具自体に善悪はありません。売る者買う者使う者次第ですけれど……」
 だが、黒霧にとっては資金調達の手段。また、『ファクター』を使った憤怒者が『覚者とどれだけ対抗できるか』……という実験も兼ねているのかもしれないと、里桜は考える。
「どこまで、人を利用するおつもりなのでしょう……」
 『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)もまた、憤りを見せる。人をコケにする相手だ。このままのさばらせていいはずがない。
「今回の件、また静永が絡んでいるのですね。全く、大人しく霧山の子守でもしていればよろしいのに!」
 叫ぶ『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268) 。黒霧と、そして、首領である霧山・譲の右腕ともされる静永・高明の暗躍に、彼女は頬を膨らませていたようだ。
「ギャハハハ! 黒霧の連中も相変わらず、悪巧みがお好きなこって!」
 笑うは、卯の獣憑、『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)。
 憤怒者に襲われている隔者集団「Teppen」。F.i.V.E.の覚者達は彼らからの決闘の申し出を受け、これに2度勝利している経緯がある。直斗はそのうちの1回に参加していた。
「『Teppen』の連中とは……一回だけの縁だが、ここで見捨てるのも癪だっし、浅野に借り作るのも悪くねェ」
 浅野という男は、個人の力量ならF.i.V.E.の覚者を凌ぐ。それだけに、直斗は思うこともあるのだろう。
「とにかく、黒霧も、浅野さんのお仲間も放ってはおけませんから」
 里桜は漏らしたそんな本音に、否定する意見は出ない。いくら、力量が高くても、F.i.V.E.が倒した相手とあらば、憤怒者に負ける可能性だって大いにありうるのだ。まして、そこに黒霧の影があるとなれば、なおのこと。
 敵対した相手とはいえども、決闘が終わればノーサイド。隔者組織「Teppen」が助けるべき相手だと、覚者達は皆認識を一致していた。

●血が上ったリーダーへ
 里桜が暗視を働かせて現場に向かう中、一つの影を発見した。
「なんじゃ……!?」
 そいつは立ち止まり、ちらりと後ろから追ってくる覚者達を一瞥して声をかける。
 リーゼントのこの男こそ、「Teppen」のリーダー、浅野・貴志だ。
 彼は自身の仲間を傷つけた憤怒者達に、怒りを露わにしている。それだけに、猪突猛進に突っ走り、憤怒者を薙ぎ倒そうと考えていたようだが……。
「浅野さん、落ち着いてください」
 ラーラは言葉を選びつつ浅野へと呼びかける。彼が仲間を心配していること、そして、彼らがされていることへの怒りも、ラーラ達覚者の誰よりもずっと大きいことは承知していると。
「落ち着いておられるわけないじゃろうが!」
 だが、浅野は声を荒げ、覚者達へと怒りをぶちまける。こうしている間にも仲間達がひどい目に合っているのだ、と。
 それでも、ラーラも彼の威圧に負けずに毅然と返す。
「だけど、私達だって怒ってるんです。こんな卑劣な行い、断固として許すことは出来ません」
 いくら憤怒者に因子の力がないとはいえ、力が弱い覚者である「Teppen」メンバーを数で叩き伏せようとする憤怒者達を是とはできないと、ラーラは主張する。
 静音も小さく頷く。頼りになる仲間達のこと。彼女は下手に言葉をはさまず、その成り行きを見守る。
「仲間がやられて怒るのも無理ないですが、やみくもに斬りかかったりなさらなでくださいませ」
 「Teppen」と対立していたいのりだが、感情的には浅野も、彼の仲間も嫌いではないと告げる。
「心配なのは同じですわ。だからこそ、この任務に志願したのですもの」
 そうでなければ、彼らを助けようとは思わないと、いのりは真剣に浅野へと訴えかけた。
 多勢に無勢。それは、ラーラを始め、覚者達も十分承知している。
「ただ、浅野さん、あなたが本来の力を出すことが出来れば、仲間の皆さんを無事助けられる可能性もぐっと上がるはずです」
「…………」
 何せうまく介入したくとも、この場に駆けつけることができたメンバーの数は少ない。浅野も少しだけだが、自身が突撃した場合のことを冷静に考え始めていたようだ。
「我を忘れてはいけません。それでは、相手の思う壺なんです」
「『Teppen』メンバーの方達を助ける為に、協力してください」
 ラーラに続き、里桜もまた浅野へと助力を願う。
 浅野はこの場において、覚者達にとっても重要な戦力。できることなら、上手く連携をとって事態に対処したい相手だ。
「別に、俺はテメェが仲間の為に先走ろうが知らねェ……。だけど、連携も取れない奴の行動の結果の責任は取らねェぞ?」
 そこで、直斗もまた口を開く。彼に浅野をなだめる気などは微塵もなかったのだが、これだけはと一言告げた。
「仲間の命を守りてェなら……、自分がどう動けば良いか……考えて動けよ?」
「あぁ……?」
 やや、煽るような直斗の口調に、浅野はキレ気味に彼を睨みつける。
 しばしの睨み合いの中、いのりは浅野へと向けて口を開く。
「突っ込むなというのではありません。いのり達と呼吸を合わせて、攪乱の為に斬りかかって欲しいのですわ」
 そして、いのりはこう続ける。
 ――この力は、救いを求める誰かの為に。
「いのり達を信じて、力を合わせて欲しいのです」
「どうぞ冷静になって、一緒に『Teppen』の皆さんを助けましょう」
 ラーラもいのりに合わせて呼びかける。
 覚者達を凝視していた浅野は「ああああああぁぁ!」と一喝し、沸騰しかけた己の頭を冷やす。
「仲間の命にゃ代えられん……!」
 己の強さだけを心情としてきた浅野は、F.i.V.E.には2度負けている。
 そんなF.i.V.E.に諭されるとあっては、彼もプライドが許さなかったはずだが、プライドと仲間を天秤にかけ、仲間を選んだようだ。
「わしにどうほしいんじゃ」
 プライドを捨てた浅野は覚者達に問いかけると、里桜が立てていた作戦を彼へと説明し始めるのだった。

●憤怒者組織「FURIOUS」
 とある廃工場。
 そこは、憤怒者集団「FURIOUS」の本拠地となっていた。
 中では25人ほどいる憤怒者達は背中に器具を装着し、発現者の男女を取り囲んでいる。
「そいつらを離すっすよ!」
 叫ぶ剃りこみの入った隔者の男、「Teppen」幹部、伏谷・悟。建物奥には、傷だらけになり、手足を拘束された隔者達の姿があった。
「うるせぇ、チンピラ風情が粋がりやがって……!」
 「FURIOUS」のリーダーが背中の器具からチューブを伸ばし、隔者達へと突きつける。
「『Teppen』? 笑わせやがる! ファクターの力を見せ付けてやんぜ!」
「発現者の苦悩も分からないあんたらに、負けてられないよ!」
 こちらは、茶髪ロングの隔者の女、「Teppen」幹部、神嶋・奈緒子だ。幹部2人は憤怒者達からメンバーを取り返すべく、乗り込んできたのだ。
 だが、相手は20人余り。発現者として高い力を持つ「Teppen」幹部も分が悪すぎる……が。
「……さあ、首狩りの時間だ!」
 そこに、大声で飛び込んできた直斗。隣には浅野の姿もある。
「われら、無事か!?」
「浅野さん!」
「貴志……」
 憤怒者集団に囲まれた幹部2人の表情が綻ぶ。
 もちろん、F.i.V.E.のメンバー達だって、黙ってはいない。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 覚醒して魔女っ子スタイルとなり、銀の髪を靡かせながら炎を舞わせたラーラが叫ぶ。
 その隣には、ボンデージ衣装に身を包む、17歳の姿へと変化したいのりの姿がある。
「よォ! F.i.V.E.のお出ましだ!」
 すでに覚醒し、両脚を兎のように変化させた直斗が叫び、憤怒者達の気を引く。
「F.i.V.E.……覚者だ!」
「発現者は全て敵だ、殺せ!!」
 血気づく憤怒者達。力を持つ人々全ての敵視する彼らに、覚者達の言葉は全く届かない。
 長い黒髪を桃色に変色させた里桜はすぐに守護使役の朧を頭上に飛ばし、倒れる「Teppen」メンバーの無事を確認しようとする。現状、憤怒者達の注意は自分達に向いており、倒れるメンバー達は放置された状態ではあるが……。
「テメェ等……覚悟は出来てるか? 死にてェ奴から掛ってきな!」
「どけやぁぁぁ!」
 直斗が叫ぶと、隣の浅野が両刃剣を振りかざして突っ込む。
 動き出す憤怒者達。覚者の力と叫ぶ彼らは、器具を使って炎、水礫と放ってこようとする。
「だが、まあ……。メンドクサイんで、テメェ等眠っておけ」
 直斗は憤怒者達へと纏めて、眠りに誘う空気で包み込んでいく。
 パタパタと倒れ行く憤怒者達。だが、3分の2がそれに抵抗して見せた。
 その中で、「Teppen」幹部2人も暴れ始める。伏谷が槍を振り回し、神嶋がナックルで殴打していく。
 ラーラは少し下がった位置で煌炎の書を広げ、炎を発する。雪豹の如き銀の炎が廃工場内を駆け抜けると音がぴたりと止んでしまい、数人がさらに昏睡してぱたりぱたりと倒れていく。
「眠った人は狙いから外してください」
 幾人かの憤怒者達が眠りにつくと、ラーラは交戦する「Teppen」幹部へとそう呼びかけていた。
 また、ラーラは少しずつ、工場奥で拘束され、倒れていた「Teppen」メンバーに近づく。できるだけ、彼らを憤怒者達から遠ざけられればとラーラは動いていたのだ。
「囲いを突破できましたら、倒れるメンバーの保護に回ってくださいませ!」
 同じ後方のいのりも、幹部へと自身の要望を告げた。
 そのサポートの為、いのりは憤怒者達に霧を発する。その上で、いのりは敵の恐怖や焦燥の感情を呼び起こし、相手を混乱させていく。
「邪魔じゃ、いねえぇぇ!」
 覚者達の要望どおり、飛び込んだ浅野は上手く憤怒者をかく乱してくれていた。合流する「Teppen」幹部達も思う存分暴れ、上手く気を引く。
 そうなれば、幹部達が主に憤怒者達のターゲットとなる。覚者達の要望もあり、静音が癒しの滴を振り撒き、彼らの回復に当たっていたようだ。
 しばらくは、覚者達は憤怒者達を無力化、「Teppen」幹部のサポートを行い、幹部の合流と倒れるメンバーの確保に当たらせようとする。
(こちらから回復をかけて、自力で逃げてもらえるといいですけれど……)
 里桜は潤しの雨を降らして、倒れるメンバーの回復を考えるが……、傷は癒すことができても、目を覚ます様子はない。どのみち彼らが拘束されている為、幹部達がそこにたどり着けるように動きたいところだ。
「ファクター最高だせぇ!」
「これで覚者も敵ではないぜ!」
 器具を使う憤怒者達は気を良くしながら岩槍や雷と撃ち出すが、その力は擬似的なもの。歴戦の覚者には遠く及ばない。
 直斗もまた幹部に合わせるようにして、憤怒者目掛けて妖刀ノ楔で斬りかかり、倒していく。素早い直斗の連撃は、憤怒者を切り裂くのはもちろんのこと、彼らの装着するファクターを切り裂いて無力化した。
 そこで、覚者達は右奥から近づいてくる人影に気づき、そちらへと向き直る。
「ふむ、ファクターは機能しているようですが」
 微笑を浮かべて近づいてくる白衣の男。覚者達と面識のある男だ。
「覚者の力が強いのか、それとも、彼らがあまりに使えないのか……」
 彼こそ、憤怒者達にファクターを提供した、静永・高明。そいつはこの状況を考察しながら、ぶつぶつと独り言を呟いていた。

●介入する黒霧
 姿を現した静永へ、直斗が大声で叫びかける。
「憤怒者共を覚者もどきに変えるたァ……。テメェ等、覚悟は出来てるんだろうな?」
 見れば、「Teppen」幹部が憤怒者達を抑えてくれているが、数もあって、その身体に傷が少しずつ増えてきている。
 僅かではあるが、覚者に少しだけ近づいた力を持つ憤怒者集団。それはやはり危険な存在だ。
「この化物の力を、安易に屑共に与えてんじゃねェよ! だからこんな事が起きるんだよ、糞がァ!」
 直斗の叫びにも、静永は涼しい顔を崩さない。「だから、何だ」と言わんばかりだ。
 新手の姿に、浅野がそちらを睨みつける。
「んだぁ? てめぇが黒幕か……?」
 浅野が両刃の剣を振り上げようとするが、そこでいのりが叫ぶ。
「心は熱く、けれど頭はクールにですわ!」
 まだ、メンバーの確保には至っていない。それもあって、いのりは浅野のサポートを静永に対して身構える。
「……静永さんは、霧山さんのお目付け役でしたか……?」
 里桜も静永の気を引いて時間稼ぎを試みる。まずは、彼に一つ確認した後でそのまま問いかけた。
「黒霧にもそういうものがあるのですね。どうして、役目を引き受けたのかしら……?」
「若とは、小さい頃からの仲でしてね」
「先日の大瀧様暗殺失敗で、霧山はメソメソ泣いているのではなくて? 帰って慰めてあげたらいかが?」
 そこで、いのりが波動弾を発射する。静永はそれを防御し、受け止めていた。
「若は大層ご立腹でしたよ」
 いのりは幾度か静永と対しているが、利用できるものは全て利用しようとする静永のやり口を、彼女は受け入れられないでいた。
 仲間が気を引いているうちに。憤怒者達が数を減らしていることもあって、ラーラは倒れる「Teppen」メンバーへと近づき、その拘束を解いていく。
 「Teppen」幹部2人もまた、倒れるメンバーの拘束を解いて彼らを抱える。
「選手交代だ……。まっ、テメェ等根性有るじゃねェの、見直したぜ」
 メンバーを回収する幹部に、直斗が声をかける。
「頼むっす」
「あたし達の目的はこいつらの救出だよ。ウサ晴らしはあいつとあんたらの仕事さ」
 視線の先では、浅野が暴れている。幹部達の目的は仲間を奪還することだ。それを理解していた「Teppen」幹部はメンバーと共に入り口側へと移動していく。
 そして、その回復には静音が立ち回る。ある程度体力を取り戻したことで、彼らも自らの足で動き始めていた。
「わたし達の後ろへ」
 ラーラが彼らを自分達の後ろへと下がらせた。その上で、まだ倒れていない、あるいは眠りから覚めた憤怒者達と対するのである。

 言葉による時間稼ぎにも、限界はある。
 里桜はやむを得ず、この場の邪魔をされぬようにと静永へと攻撃を仕掛けていく。
(……務まるかどうか、少々不安ですけれど……)
 これも、「Teppen」メンバー救出の為と、気合を入れる里桜は岩槍を隆起させて静永に攻撃を開始する。
「あなた達も懲りない……。だが、若に土をつけたとあらば」
 表情を引き締めた静永はナックルを装着した拳で、里桜へと殴りかかってきた。
 憤怒者達はかなりの数が倒れ、ファクターを破壊されている。あまり長いこと耐える必要はないはずだ。
 ただ、「Teppen」幹部達の力もあり、メンバー達の救出は進むものの、覚者達も消耗は小さくない。ファクターによる能力の底上げは地味に覚者達へとダメージを蓄積していたのだ。
「皆様、頑張ってください……!」
 静音がその回復に全力を尽くす。覚者達が憤怒者集団「FURIOUS」を制圧するのは、時間の問題だったが……。
 そんな中、直斗は憤怒者の中から、超直感を働かせてある敵を発見する。憤怒者を演じてはいるが、その挙動はわずかに他の憤怒者とは違った。
「……てめぇか!」
 猛然と切りかかった直斗の一撃を、軽く身を翻して見せた。そいつこそ、「FURIOUS」に潜り込んでいた黒霧構成員、半田・透だ。
「…………」
 そいつはナイフを取り出し、黒霧として獣憑の本性を見せながら動き出す。
「な、覚者!?」
 身内に覚者がいたことで、残り少なくなっていた憤怒者達も混乱を始めていたようだ。
 いのりはその間、敵陣へと光の粒を降り注がせ、憤怒者の無力化に全力を尽くそうとするが、やはり自身を含め傷が深まってしまう。時に、彼女は浄化物質を振り撒くことで仲間を癒しに当たっていた。
 ラーラも津波のように炎を発し、憤怒者達へと浴びせかける。多少なりとも耐久力が高まっている憤怒者達。思ったよりはその無力化に時間がかかることとなってしまう。
 そして、里桜は岩を纏って自身の身を固めつつ、静永と対する。
 だが、静永も時間稼ぎだと直ぐに察したようで、大きく飛びのいて身を退いた。
「本気でないなら、私も無駄に戦う必要はなさそうですね」
 小さく笑った静永は、この場から離脱しようとする。
 だが、そこで、直斗が雷獣地縛を働かせ、彼らの離脱を防ぐ。
「ギャハハハ! 黒霧さんよォ……この間は逃がしたが、今回は逃がさねぇぞ!」
 そして、直斗は見つけた構成員目掛け、激しい雷を落としていく。
 構成員半田も普段のように離脱ができぬことに戸惑いを隠せない。
 続く直斗が繰り出す圧倒的なスピードによる斬撃を叩き込まれて、僅かに態勢を崩したが……。
 「Teppen」幹部はメンバーの救出、浅野は逃げ行く静永を追っている。覚者達は残る憤怒者の対応を重視しており、誰もその後に続くことができる状況になかった。
 結局、構成員半田も背を向け、この場から逃げ去ってしまう。
「チッ」
 舌打ちする直斗。もう少し早くそいつの発見して倒しておきたかったが、如何せん覚者の人数が少なく、やることが多すぎて後手に回ってしまったのは痛い。
 とはいえ、最低限の目的は果たした。里桜はその黒霧構成員の背を見つめ、事なきを得たことに安堵の息を漏らしたのだった。

●安堵の息を漏らして……
 劣勢からのスタートであったが、なんとか「Teppen」メンバーを全員救出できた覚者達。
 その後、一行は憤怒者全員を倒して、この場の制圧に成功していた。憤怒者達はF.i.V.E.スタッフを呼ぶことで、この場の「FURIOUS」メンバー全員の拘束に至る。
 浅野が嬉しそうに部下である伏谷と神嶋を気遣い、さらに捕まっていたメンバーを気遣う。力ずくでチンピラ組織を吸収してきた浅野だが、彼の力と優しさに惹かれた者は多いようである。
「お仲間が無事でよかったですわ」
 無事を確認したいのりはほっとした様子で、浅野に声をかける。
 覚者達は微笑ましげに「Teppen」メンバーを見ていたのだが、直斗だけは背を向けていて。
「『Teppen』……これで、F.i.V.E.に貸し一だからな! 忘れんなよ!」
 直斗がそう告げてこの場を後にすると、浅野は鼻で笑って返したのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

黒霧の暗躍を阻止していることもあり、
そろそろ大きな動きがあると思われます。

ともあれ、このたびは
「Teppen」メンバーの救出、お疲れ様でした。




 
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