【獣忍八手】カラテオブゴッド×忍者探偵 合流作戦
●カラテオブゴッド(八手老)から忍者探偵(獣ノ一党)へ
「っしゃあ! 予選突破ァ!」
鹿ノ島・遥(CL2000227) は拳を天に突き上げると、力の限り叫んだ。
場所は青木ヶ原樹海。裏社会の武人たちが名誉をかけて競い合う『裏武闘大会』の予選会場である。四人のファイヴ覚者はこの予選を突破し、本戦へと進んだところだった。
「思ったよりも工夫をしてきたさね。スポーツ武道とは根本が違うようだ」
顎(というよりヘルメットの縁)を撫でる緒形 逝(CL2000156) 。
予選の段階で仲間を使って数で責めたり待ち伏せや罠をしかけたりというスポーツマンシップと真逆な行動が当たり前に行なわれていた。勿論、四人もそれぞれ協力し、夢見の予知まで使って予選を突破したのでお互いさまである。
皐月 奈南(CL2001483) がスティックを守護使役のおくちにするするしまいながら振り返った。
「次はどこへ行ったらいいのかなぁ」
「『自分で調べなさい』ってことみたいだよ」
華神 悠乃(CL2000231) が翳した透明なポーチ。中には一般的な鍵とUSBメモリが入っている。
「ふむ……」
この大会はただ武術の粋を競うものではない。
情報収集や、敵や味方の作り方。作戦の立て方や、対応の仕方。そういった総合的な能力を競う。
参加者はあらゆる手を尽くして優勝を目指すのだ。
「なら、こっちも遠慮無くファイヴのサポートを受けようぜ!」
●忍者探偵(獣のマキモノ)からカラテオブゴッド(概念統括儀式)へ
現代のニンジャことハストリからの依頼を受けマキモノの捜索にあたっていた三人のファイヴ覚者。
シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590) 、賀茂 たまき(CL2000994) 、工藤・奏空(CL2000955) 。
彼らはサルワタリからある情報を入手した。
「俺たちの仲間にマキモノをゲットした奴がいるのか?」
「それも、四本も……」
驚きに目をむく奏空。一方でシャーロットは深く思案する顔をしていた。
以前の依頼で彼女が持っていたマキモノはいつのまにか奪われ、消失していた。
それに、これまで彼女たちが認識していた『マキモノ』とはそれこそ紙をロールした書物である。中に何も書いていない、謎の巻物だ。
「けれど、皆さんが手に入れたのは、概念……なのですよね?」
たまきの言葉に、サルワタリとハストリはこくんと頷いた。
「ええ、本来獣のマキモノとは概念。物質として存在しておりません。接触することで意図的に譲渡したり、より相応しい人間へ移行したりするのです」
「マキモノを全て揃えるということは、全てのマキモノに相応しい人間であるということでもある。拙者はそう思っているが……」
中には拷問して無理矢理譲渡させようとする悪者もいる。トライシやコヒツジがその悪い例だ。
「で、そのトライシやコヒツジが出場した大会があって、そこでマキモノの移動が起こってるんだな?」
「となれば、私たちもその大会に混ざる必要がありますね」
彼らは急ぎファイヴへ戻り、仲間たちの出場した裏武闘大会の情報を集めた。
●これまでのあらすじ・ツーサイド
裏のファイターたちが名誉をかけて競い合う裏武闘大会。
この大会で優勝すればファイヴの名声が広まるだけでなく、裏社会にも強い抑止力を持つことが出来る。
腕に覚えある四人のファイヴ覚者たちは大会に出場し、無事予選を突破した。
そんな大会に出場していた『獣の一党』の頭目たち。手に入れたマキモノとは? そして本戦第一回の内容とは?
一方、社会を乱す力をもつ『獣のマキモノ』を奪い合うニンジャ『獣の一党』たちの戦い。
マキモノがひとつところに集まれば大きな災いとなるという言葉に従い、強引に巻物を奪うニンジャを阻む作戦を続けてきた。
そんな中、裏武闘大会にニンジャ頭目たちが出場し、激しいマキモノの移動が起きていることを突き止めた。
一つ所に集めぬため、彼らも大会への介入を開始する。
まずは参加資格を得るべく、本戦へ進んだ参加者を倒すのだ。
そして合流する二つの物語。
未来は、彼らの手にかかっている。
「っしゃあ! 予選突破ァ!」
鹿ノ島・遥(CL2000227) は拳を天に突き上げると、力の限り叫んだ。
場所は青木ヶ原樹海。裏社会の武人たちが名誉をかけて競い合う『裏武闘大会』の予選会場である。四人のファイヴ覚者はこの予選を突破し、本戦へと進んだところだった。
「思ったよりも工夫をしてきたさね。スポーツ武道とは根本が違うようだ」
顎(というよりヘルメットの縁)を撫でる緒形 逝(CL2000156) 。
予選の段階で仲間を使って数で責めたり待ち伏せや罠をしかけたりというスポーツマンシップと真逆な行動が当たり前に行なわれていた。勿論、四人もそれぞれ協力し、夢見の予知まで使って予選を突破したのでお互いさまである。
皐月 奈南(CL2001483) がスティックを守護使役のおくちにするするしまいながら振り返った。
「次はどこへ行ったらいいのかなぁ」
「『自分で調べなさい』ってことみたいだよ」
華神 悠乃(CL2000231) が翳した透明なポーチ。中には一般的な鍵とUSBメモリが入っている。
「ふむ……」
この大会はただ武術の粋を競うものではない。
情報収集や、敵や味方の作り方。作戦の立て方や、対応の仕方。そういった総合的な能力を競う。
参加者はあらゆる手を尽くして優勝を目指すのだ。
「なら、こっちも遠慮無くファイヴのサポートを受けようぜ!」
●忍者探偵(獣のマキモノ)からカラテオブゴッド(概念統括儀式)へ
現代のニンジャことハストリからの依頼を受けマキモノの捜索にあたっていた三人のファイヴ覚者。
シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590) 、賀茂 たまき(CL2000994) 、工藤・奏空(CL2000955) 。
彼らはサルワタリからある情報を入手した。
「俺たちの仲間にマキモノをゲットした奴がいるのか?」
「それも、四本も……」
驚きに目をむく奏空。一方でシャーロットは深く思案する顔をしていた。
以前の依頼で彼女が持っていたマキモノはいつのまにか奪われ、消失していた。
それに、これまで彼女たちが認識していた『マキモノ』とはそれこそ紙をロールした書物である。中に何も書いていない、謎の巻物だ。
「けれど、皆さんが手に入れたのは、概念……なのですよね?」
たまきの言葉に、サルワタリとハストリはこくんと頷いた。
「ええ、本来獣のマキモノとは概念。物質として存在しておりません。接触することで意図的に譲渡したり、より相応しい人間へ移行したりするのです」
「マキモノを全て揃えるということは、全てのマキモノに相応しい人間であるということでもある。拙者はそう思っているが……」
中には拷問して無理矢理譲渡させようとする悪者もいる。トライシやコヒツジがその悪い例だ。
「で、そのトライシやコヒツジが出場した大会があって、そこでマキモノの移動が起こってるんだな?」
「となれば、私たちもその大会に混ざる必要がありますね」
彼らは急ぎファイヴへ戻り、仲間たちの出場した裏武闘大会の情報を集めた。
●これまでのあらすじ・ツーサイド
裏のファイターたちが名誉をかけて競い合う裏武闘大会。
この大会で優勝すればファイヴの名声が広まるだけでなく、裏社会にも強い抑止力を持つことが出来る。
腕に覚えある四人のファイヴ覚者たちは大会に出場し、無事予選を突破した。
そんな大会に出場していた『獣の一党』の頭目たち。手に入れたマキモノとは? そして本戦第一回の内容とは?
一方、社会を乱す力をもつ『獣のマキモノ』を奪い合うニンジャ『獣の一党』たちの戦い。
マキモノがひとつところに集まれば大きな災いとなるという言葉に従い、強引に巻物を奪うニンジャを阻む作戦を続けてきた。
そんな中、裏武闘大会にニンジャ頭目たちが出場し、激しいマキモノの移動が起きていることを突き止めた。
一つ所に集めぬため、彼らも大会への介入を開始する。
まずは参加資格を得るべく、本戦へ進んだ参加者を倒すのだ。
そして合流する二つの物語。
未来は、彼らの手にかかっている。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.全員の第二回進出
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
1~3回想定で進行しますが、依頼に失敗した場合その場でシリーズ終了となります。
今回の成功条件は参加者全員の第二回戦進出です。
シナリオルールをこちらで解説しますが、少々長くなってしまうので
・ドロップアイテムの『○○マキモノ』を持っているPC→Aサイド
・もっていないPC→Bサイド
にそれぞれ進んでください。
●Aサイド
あなたは裏武闘大会・本戦第一回への参加資格を持っています。
ファイヴのUSBメモリの解析によって第一回のルールが判明しています。
第二回へ進むためのルールは『阿蘇山に仮設された53棟のコンテナハウスのうち1つに三日間宿泊し、終了時に鍵を2つ返却すること』です。
禁止事項は『第一回参加者が阿蘇山の敷地から出ること』のみ。
それ以外のあらゆる行動が黙認されています。
コンテナハウスはそれぞれとある阿蘇山の広大な平地に30~50mずつ離れて設置してあり、出場者はそのうち一つに対応する鍵が配られています(鍵とハウスに同じ番号がふられています)。
コンテナハウスはトイレとシャワー室とベッドがついた簡素なもの。窓なし。LEDランタンあり。装甲コンテナでできています。
中には『一日分』の水と食料と使い捨てシャワーが備蓄されています。
普通に考えて水も食料も二日分足りません。近くに他の建物はありませんし、森や川すら一キロ先にあります。コンテナ内の食料以外は手に入らない覚悟でいてください。勿論食料の持ち込みは自由です。むろん、奪うこともです。
簡単に言うと、他の参加者から鍵を奪い、終了時まで保持することが勝利条件です。
闇討ち不意打ち寝込み襲撃何でもあり。結託して複数の鍵を保持してもOKです。
鍵は一般的なものですが、守護使役への収納はできません。
常に持ち歩くかどっかに隠すかしましょう。
●Bサイド
あなたは裏武闘大会への出場資格を持っていません。
しかし『第一回出場者の鍵を二つ手に入れる』ことができれば第二回戦に出場し、合流することができます。
第一回の試合期間は三日間。時間をフルに使ってもいいですし、最後の一日を狙ってもOKです。
どんな手段を使っても良いので、出場者が所有している鍵を一人につき二つ以上確保してください。
出場者は装甲コンテナでできたコンテナハウス(の鍵)と一日分の食料が与えられ、三日間阿蘇山の敷地内に宿泊することが求められています。
彼らは期間終了時までにもう一つの鍵を手に入れるべく、奪い合いの戦いの真っ最中です。(詳しくはAサイドの内容をご覧ください)
●参加者の強さ
試合参加者は53名(内4名がファイヴ覚者)。
ファイヴのベテラン参加者がこのなかでの標準的な強さになります。
それより弱い参加者もいますし、ごく少数ですが圧倒的に強い参加者もいます。
でもって、参加者の中には『獣の一党』の頭目が何人か混ざっているようです。
●相談のススメ
ルールが若干複雑化しましたが、要するに全員で10~14人の敵から持ち物を奪えばシナリオクリアです。
また二つのシナリオタグが合流していますので、それぞれの経験や知識を相談時に説明しあっておくと、この先色々なことが有利に進むでしょう。
特にこれまでのシナリオで登場した実力者の名前や能力を共有するのは有効です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/7
7/7
公開日
2017年10月14日
2017年10月14日
■メイン参加者 7人■

●裏武闘大会第壱試合・一日目
「ルールを確認しておくわよ」
『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)は指を三本立てて、コンテナハウスの壁を叩いた。
「試合開始時に鍵を受け取り、終了時に二本にして返す。期間は三日で、禁止事項は山から出ることのみ。シンプルに言えばこの三つさね」
床に置いたボストンバッグには、三日分の食料と水が入っている。
食料といっても市販のブロック食だ。カロリー効率がよく美味であるという点から、非常食としても人気が高い。加えて真空圧縮されたタオルも入っている。
「ここからだと、皆が見えるねぇ」
コンテナハウスの上に登って周囲を見回す『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)。
手のひらを目の上に掲げてぐるりとするだけで、試合に参加した選手の大半を見ることが出来る。仮にアテンドスキルの『ていさつ』があったなら全員を見通すことも難しくは無いだろうし、『透視』があればほぼほぼ完璧だろう。暗所や距離や視野角の問題は別のスキルで補えばいい。
奈南はキュッと目を細め、遠くで話している人の口の動きを読んだ。
「……」
どうやら、初日から他の参加者と協力しようとする者があちこちに出ているようだ。
当然な話、一対一より二対一のほうが戦闘は有利だ。鍵を安全に集め、そして保持したいなら協力者を募るのが利口なやり方だ。一人につき二本以上必要ないので手柄を独り占めされるリスクも少ない。だが八人くらいでチームを組めば行き渡らない者が現われ内部不和の原因にもなる。できれば二人組。多くて三人組がベストだろう。
最初から七人で組めるファイヴチームは圧倒的に有利と言うことになる。
いや、まてよ? そういえば今回の方針は……。
「今回の方針をまとめて置こうか」
奈南の呼びかけに先んじる形で『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231)が手を振った。
「食料は最低限。略奪はしない。別働隊と合流したら2チームに分けて鍵の回収に出る。皐月さん、コンテナの配置は覚えた?」
「う、うん! 大丈夫だよぉ! 地図に書いておくねぇ」
「よしよし、と。強すぎる相手からはとにかく逃げて、エネミースキャンで判明した同等以下の敵と戦うこと。それじゃあ、初日は拠点の安全を確保するために防衛に徹するよ、いいね?」
会場。それもコンテナハウスが並べて置かれている平野を駆け回る『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)。
勿論襲われては大変なので鍵を仲間に預け、戦闘は全て避ける偵察ダッシュである。
「ぱっと見強そうな奴ばっかりだな。大体の奴は俺と同じくらいか」
三分くらいエネミースキャンをかければより確実だが、ここまでの偵察で分かったことがいくつかある。
極端な例を覗けば、勝敗と損害は人数差で決まるということだ。
そこに加えて、大体の覚者は命数を豊富に持っていないので七人全員がコンテニュー可能なファイヴチームはきわめて有利だということになる。奪取した鍵を守ること、三日間戦い続けることの二つはこの時点で成立したようなものである。
「よっぽどバカやらなきゃ、集めた鍵を奪われたり途中で棄権したりってことはないだろうな。となると……問題はどうやって鍵を集めるかなんだよなあ」
一方その頃、山中では。
「無頼濁流符っ」
『ファイブピンク』賀茂 たまき(CL2000994)が杭のようなものを地面に突き立てると、大きな護符がはためき広範囲に衝撃を放った。
スタンロッドを装備した若者たちが一斉に吹き飛んでいく。
「だっらしねえな、数で囲んで食い散らかせ!」
金属バットをかついだグレーバンダナの男。恐らくリーダーらしい彼は、目測で三十人ほどいる部下たちに命令を飛ばしていた。
とはいえ彼らは総じて格下。それも非覚者の集団である。
「私たちを狙う理由があるようには思えませんね。あなたもニンジャクランのひとりでしょうか?」
剣で切り払いながらリーダーの男を見やる『美獣を狩る者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)。
「ヘッ、話が早いぜ。俺はネギシ。ネギシニンジャクランのヘッドだ。てめぇの持ってる巻物、いただくぜ」
「…………」
シャーロットは自らの胸に手を当てた。
ここに巻物はない。元々物理的に所持していたものが、いつのまにか消えていたのだ。そのことをどうやらネギシという男は知らないらしい。
そも、後に聞いたところによればマキモノは物理的には所有できない概念存在であるという。では、『あれ』はなんだったというのか? ハストリの証言からマキモノであることは、間違いないはずなのだが。
「整理する機会が欲しいところですね。とにかくここは、離脱しましょう」
「よしきた!」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は雷獣を放って敵を蹴散らすと、こっちだと言って走り出した。
土煙に遮られた形になったネギシたちは舌打ちし、それを見送る形となった。
……しばらくして。
「ここまで来れば大丈夫かな。持ち物の確認をしておくね」
奏空はリュックサックを開くと、ヘッドライトやゼリー食といったアイテムを確認していった。
「鍵を預かったら、音が出ないようにくるんだりしたらいいかな。透視対策に葉っぱに包んだら……あ、だめだ見える」
木造屋敷が透視できるのと同じ理由で葉っぱ作戦は無理そうと察した奏空は、用意したあれこれをリュックサックに戻して背負い尚した。
「透視して分かったけど、さっきの連中は誰も鍵を持ってなかったよ。予選で敗退したのか、それともどこかに隠してるのか……」
実は『参加者じゃない人間に鍵を預けて三日間外で待機させる』という手段もあるにはあったのだが、そこには思い至っていない奏空である。
さておき。
「まずは皆と合流しよう。一日目の目標はそれだ!」
●裏武闘大会第壱試合・二日目――AM
合流し、夜を交代で見張りながら同じコンテナで過ごした七人。
彼らは早朝、二つのチームに分かれて活動を開始した……と言いたいところだったが。事件は一日目の夜に起きた。
「火事だ! 火を消せ!」
「食料を持って逃げろ!」
「俺の荷物に触るな!」
叫び声に飛び起きるのと、コンテナの上で見張りをしていた奈南が呼びかけるのはほぼ同じだった。
風上側のコンテナが黒煙と炎をあげていたのだ。
この場によく燃えるものなんでない。恐らくガソリンでも撒いたのだろう。
参加者の一人があちこちに火をつけて回ったようで、火の手は次々にあがった。
初日にして全体の二割にあたるコンテナに火が回る結果となった。
逝、奈南、悠乃、遥に与えられていたコンテナも、見張りをつけていなかった逝のものだけが焼失。幸い鍵や物資は移していたが、この分だと二日目も危ない。そう考えつつの、朝であった。
話を戻そう。
二つのチームが合流して、また二つに分かれたのは理由がある。チーム編成を大会参加者組と参入者組で混ぜあう形にしたからだ。
こうして編成したAチーム『奏空、悠乃、遥』とBチーム『逝、奈南、たまき、シャーロット』だ。
かくして鍵を集めるための活動が始まったわけだが……。
「だめだ。あの連中も持ってないよ」
奏空はハアとため息をついた。
最も狙い目だった敵。自分たちより格下で、単独で動き、強者相手でも無謀に挑んでしまう愚かな参加者。
これが初日のうちに刈り尽くされていたのだ。
予めチームを組んでいたり、部下を大量に用意していたり、もしくは素早く協力者を見つけた連中。彼らが初日のうちに動いて美味しいところを既に喰っていたのだ。
遥と悠乃はそっとその場を離れながらため息に続いた。
「しかもそういう奴って、俺たちにいちいち挑みかかってくるんだよなあ」
「倒した敵が死んでないっていうのが、この試合の面倒なところなのかも」
敗者復活が自由である。
それも、試合参加者だけでなく予選落ちした人間や新たな参加者ですら敵になる。鍵を奪うことと同じくらい、鍵を守らねばならないのだ。
「それじゃあ、鍵を多く持ってるチームをあえて狙ってみようか。二人組で三本持っていたら、それだけで高得点じゃない?」
ぴんと指を立てる悠乃。
遥と奏空が目を光らせて頷いた。
一方こちらはBチーム。
「イヴァン、か」
逝は『ここから離れるぞ』のジェスチャーをして仲間を移動させた。
鷹の目やかぎわけるを使える奈南、暗視や鋭聴力で索敵ができるシャーロット、熱感知と超視力で潜んだ敵を見つけられるたまき。
Bチームは索敵能力に秀でたチームだ。
リュックを背負い直し、むずむずした顔をする奈南。
「荷物を持って歩くの、大変だねぇ。ピクニックみたい」
「仕方ありません。コンテナの安全性がひどく脆弱だと分かっていますから」
シャーロットは初日のうちにコンテナがどのくらい脆いかについて検証していた。
物質透過やピッキングマンのスキルは勿論のこと、ドアノブを破壊するだけで簡単に内部に侵入できてしまう。どころか昨晩のようにガソリンを撒いて火をつければいぶし出すことだってできるだろう。恐らくあの段階で何人もの参加者が鍵を奪われた筈だ。
「けれど、そうした奪いかたは……あまり、したくありませんね」
「……そうさね」
たまきが心配そうに言うので、逝は表情をまったく見せずに(元々見えないが)頷いた。
奈南とシャーロットは、たまきに賛成しているようだ。
「略奪も手段のひとつではありますけれど、それ以外の手段も当然あります。私たちには私たちなりのやり方ができるはずですよ」
「頑張ろうねぇ!」
●裏武闘大会第壱試合・二日目――PM
昼を過ぎた頃。
奏空、悠乃、遥のAチームはコンテナ周辺で固まっていたチームに挑みかかっていた。
相手は同数の3人組。鍵の所有数は5。一気に点数を稼ぐチャンスだ。
「強敵に挑めないのはザンネンだけど、せめてこのくらいは楽しませてもらうぜ!」
遥は四方蹴りを繰り出して攻撃。かぶせるように奏空の地烈が襲う。
「よし、今だ!」
「弱肉強食、悪いですけど……!」
悠乃の黒竜殺が敵の一人を蹴り倒す。
コンテナの壁に激突し、転がる敵。そこに奏空が素早く組み付いて、服の内側に貼り付けていた鍵を奪い取った。
「一個ゲット! 遥、そっちもだ! 靴の中にある!」
「おう!」
逃げようとした敵に足払いをかけ、靴の中に隠していた鍵をゲット。
残りも奪い取ろうとしたが、最も多く鍵を保有していた者が真っ先に逃げたことで取り逃がしてしまった。とはいえ5本中2本ゲットできたのだ。上出来である。
ふうと息をつき、額の汗をぬぐう悠乃。
「3対3だとかなり消耗するね。同等以下なら挑もうとは言ったけど、同等の戦力だとこっちの消耗も激しいみたい」
命数復活ができたからその日じゅうに行動を再開できるが、戦闘不能になってしまったら暫くは活動ができなくなるだろう。
「消耗した状態で敗者復活組にたかられたら持ち点を全てうしなうなんてこともあるよね。気をつけなきゃ……今度からは単独で動いてる奴を狙おう。けど、鍵持ってるかな」
「そこなんだよなあ……」
Bチーム。逝、奈南、たまき、シャーロット組。
彼らは四人という人数を活かして二人組を集中して狙い、鍵をゲットしていた。
「これで3本目ゲット……と」
鍵を握り込み、逝は刀を収納した。
倒した敵を念入りに殺害していけば後のリスクを生まずにすむとは思っていたが、たまきや奈南がすごく嫌そうな顔をするので空気を読んでやめておいた。まあリスクになるとは言っても、自分が負けた相手から取り返そうとするほど短絡的な連中でもなさそうだ。もっと弱い相手から奪いにかかるだろう。
更に言うなら、『戦闘不能イコール死』のスタンスで戦っていると自分も同じ目に遭いかねない。自分が仮に損失を出したとき、取り返すチャンスをわざわざ捨てることもなかろう。
「その鍵、俺らによこしな!」
そうしている間に現われたのが、ネギシとその部下たちである。
「性懲りも無く……」
シャーロットは剣を抜き、襲いかかる敵を切り払う。
たまきと奈南はそれぞれ別方向に走りながら護符とスティックを振り、あわさった衝撃で敵の群れを一斉に吹き払った。
「一度挑んで負けた敵にもう一度挑む、ということは」
「前とやり方を変えたってことさね」
ここは索敵能力に秀でたチーム。ネギシの集団とは別の方向から、二つの存在が急接近したことに気づいていた。
「コヒツジ。それと、トライシですか……妙な所で会いますね」
爆弾を手の中でもてあそぶコヒツジと、身体を岩のように硬くして詰め寄ってくるトライシ。
非覚者集団はどうとでもなるにしても、覚者の数でいえば4対3。非覚者集団を効率的に使われればこちらが不利になるパターンも充分に考えられる。
「ここは退きましょう」
「私も、そう思います」
「んっ!」
奈南は(システム上あんまり意味はないけれど)閃光手榴弾を投げて爆発させると、四人で思い切りその場から撤退した。
●裏武闘大会第壱試合・三日目
夜に火の手が上がり、所々で爆発がおきる。
そんな状態に晒されてぐっすり眠れる者はいなかった。
最低限の食料と睡眠不足。不安は水を飲むてを早め、三日目にはチームの殆どが消耗していた。
戦闘はこなせるが、回復はしきっていない。そんな状態である。
「手持ちの鍵は、全部で何本になった?」
奏空の呼びかけに応じて鍵を出す仲間たち。
「元からあったのが4本だよぉ」
奈南が取り出した鍵がきらりと光る。
「新たにゲットした7本」
「あと3本が足りない状態だね」
遥と悠乃が仲間たちの顔を見る。
逝は黙って立ち上がり、シャーロットもまた沈黙のまま剣を抜く。
場所は、コンテナの上。
たまきは護符を広げ、周囲を見回した。
コンテナをぐるりと取り囲む群れ。
二日目までに鍵を喪った連中や、ネギシたちのように乱入してきた者たち。
予選からここまで、最低でも80人を超える敗者がいて、その殆どがこのタイミングを狙っていたのだ。
「最終日。消耗しつつも鍵を大量に保有している状態……」
「ここを狙えば一発逆転ってか。しょうがねえ、蹴散らすぞ!」
遥たちがコンテナの屋根からダイブし、敵の群れへと飛び込んでいく。
戦いは続き、続き、続き……試合終了の合図が鳴るまで続いた。
●いつかきっと
「全員での第二試合進出は、できませんでしたね」
ティーカップを置くシャーロット。
ここは山のふもとにあるカフェだ。
「残念だったねぇ。けど、ゲットした鍵は一個も渡さなかったよぉ!」
クッキーをかじる奈南。同じくジャムのついたクッキーを手に取った奏空はそれをじっと見つめた。
「俺たちはポイントの防衛には力を入れてたからね。途中で2チームに分かれたのはよくなかったというか……かえってリスクを増やしちゃった気はするけど、結果としてはよかったよ」
「もっと、お弁当を持ってくるべきだったでしょうか……?」
たまきが、頬のこけた奏空を心配そうに見ていた。
ふるふると首をふる悠乃。
「食料を最低限にしたのは、持ち運びを楽にするためでもあるからね。スタミナの維持を考えから外したのはアレだったけど、悪い選択じゃなかったはずだよ。現に最後まで戦えていたし」
「そうさね。強いて言うなら、ポイントを守る努力はしても獲得する努力が少なかったのが、敗因さね」
そう言ってなんかよくわかんないものを飲む逝。
グッと拳を握り、遥は立ち上がった。
「鍵は11。五人だけだ。この人数で次の試合に進んでも仲間はずれが出ちゃうだけだ。大会は見送ろうぜ! 強い奴と戦う機会は、他に沢山あるしな!」
そう、いつかきっと。今回出会った強敵たちともう一度戦うチャンスがおとずれるはずだ。
その時まで、自らの力を鍛えていよう。よりよい戦いができるように。
「ルールを確認しておくわよ」
『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)は指を三本立てて、コンテナハウスの壁を叩いた。
「試合開始時に鍵を受け取り、終了時に二本にして返す。期間は三日で、禁止事項は山から出ることのみ。シンプルに言えばこの三つさね」
床に置いたボストンバッグには、三日分の食料と水が入っている。
食料といっても市販のブロック食だ。カロリー効率がよく美味であるという点から、非常食としても人気が高い。加えて真空圧縮されたタオルも入っている。
「ここからだと、皆が見えるねぇ」
コンテナハウスの上に登って周囲を見回す『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)。
手のひらを目の上に掲げてぐるりとするだけで、試合に参加した選手の大半を見ることが出来る。仮にアテンドスキルの『ていさつ』があったなら全員を見通すことも難しくは無いだろうし、『透視』があればほぼほぼ完璧だろう。暗所や距離や視野角の問題は別のスキルで補えばいい。
奈南はキュッと目を細め、遠くで話している人の口の動きを読んだ。
「……」
どうやら、初日から他の参加者と協力しようとする者があちこちに出ているようだ。
当然な話、一対一より二対一のほうが戦闘は有利だ。鍵を安全に集め、そして保持したいなら協力者を募るのが利口なやり方だ。一人につき二本以上必要ないので手柄を独り占めされるリスクも少ない。だが八人くらいでチームを組めば行き渡らない者が現われ内部不和の原因にもなる。できれば二人組。多くて三人組がベストだろう。
最初から七人で組めるファイヴチームは圧倒的に有利と言うことになる。
いや、まてよ? そういえば今回の方針は……。
「今回の方針をまとめて置こうか」
奈南の呼びかけに先んじる形で『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231)が手を振った。
「食料は最低限。略奪はしない。別働隊と合流したら2チームに分けて鍵の回収に出る。皐月さん、コンテナの配置は覚えた?」
「う、うん! 大丈夫だよぉ! 地図に書いておくねぇ」
「よしよし、と。強すぎる相手からはとにかく逃げて、エネミースキャンで判明した同等以下の敵と戦うこと。それじゃあ、初日は拠点の安全を確保するために防衛に徹するよ、いいね?」
会場。それもコンテナハウスが並べて置かれている平野を駆け回る『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)。
勿論襲われては大変なので鍵を仲間に預け、戦闘は全て避ける偵察ダッシュである。
「ぱっと見強そうな奴ばっかりだな。大体の奴は俺と同じくらいか」
三分くらいエネミースキャンをかければより確実だが、ここまでの偵察で分かったことがいくつかある。
極端な例を覗けば、勝敗と損害は人数差で決まるということだ。
そこに加えて、大体の覚者は命数を豊富に持っていないので七人全員がコンテニュー可能なファイヴチームはきわめて有利だということになる。奪取した鍵を守ること、三日間戦い続けることの二つはこの時点で成立したようなものである。
「よっぽどバカやらなきゃ、集めた鍵を奪われたり途中で棄権したりってことはないだろうな。となると……問題はどうやって鍵を集めるかなんだよなあ」
一方その頃、山中では。
「無頼濁流符っ」
『ファイブピンク』賀茂 たまき(CL2000994)が杭のようなものを地面に突き立てると、大きな護符がはためき広範囲に衝撃を放った。
スタンロッドを装備した若者たちが一斉に吹き飛んでいく。
「だっらしねえな、数で囲んで食い散らかせ!」
金属バットをかついだグレーバンダナの男。恐らくリーダーらしい彼は、目測で三十人ほどいる部下たちに命令を飛ばしていた。
とはいえ彼らは総じて格下。それも非覚者の集団である。
「私たちを狙う理由があるようには思えませんね。あなたもニンジャクランのひとりでしょうか?」
剣で切り払いながらリーダーの男を見やる『美獣を狩る者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)。
「ヘッ、話が早いぜ。俺はネギシ。ネギシニンジャクランのヘッドだ。てめぇの持ってる巻物、いただくぜ」
「…………」
シャーロットは自らの胸に手を当てた。
ここに巻物はない。元々物理的に所持していたものが、いつのまにか消えていたのだ。そのことをどうやらネギシという男は知らないらしい。
そも、後に聞いたところによればマキモノは物理的には所有できない概念存在であるという。では、『あれ』はなんだったというのか? ハストリの証言からマキモノであることは、間違いないはずなのだが。
「整理する機会が欲しいところですね。とにかくここは、離脱しましょう」
「よしきた!」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は雷獣を放って敵を蹴散らすと、こっちだと言って走り出した。
土煙に遮られた形になったネギシたちは舌打ちし、それを見送る形となった。
……しばらくして。
「ここまで来れば大丈夫かな。持ち物の確認をしておくね」
奏空はリュックサックを開くと、ヘッドライトやゼリー食といったアイテムを確認していった。
「鍵を預かったら、音が出ないようにくるんだりしたらいいかな。透視対策に葉っぱに包んだら……あ、だめだ見える」
木造屋敷が透視できるのと同じ理由で葉っぱ作戦は無理そうと察した奏空は、用意したあれこれをリュックサックに戻して背負い尚した。
「透視して分かったけど、さっきの連中は誰も鍵を持ってなかったよ。予選で敗退したのか、それともどこかに隠してるのか……」
実は『参加者じゃない人間に鍵を預けて三日間外で待機させる』という手段もあるにはあったのだが、そこには思い至っていない奏空である。
さておき。
「まずは皆と合流しよう。一日目の目標はそれだ!」
●裏武闘大会第壱試合・二日目――AM
合流し、夜を交代で見張りながら同じコンテナで過ごした七人。
彼らは早朝、二つのチームに分かれて活動を開始した……と言いたいところだったが。事件は一日目の夜に起きた。
「火事だ! 火を消せ!」
「食料を持って逃げろ!」
「俺の荷物に触るな!」
叫び声に飛び起きるのと、コンテナの上で見張りをしていた奈南が呼びかけるのはほぼ同じだった。
風上側のコンテナが黒煙と炎をあげていたのだ。
この場によく燃えるものなんでない。恐らくガソリンでも撒いたのだろう。
参加者の一人があちこちに火をつけて回ったようで、火の手は次々にあがった。
初日にして全体の二割にあたるコンテナに火が回る結果となった。
逝、奈南、悠乃、遥に与えられていたコンテナも、見張りをつけていなかった逝のものだけが焼失。幸い鍵や物資は移していたが、この分だと二日目も危ない。そう考えつつの、朝であった。
話を戻そう。
二つのチームが合流して、また二つに分かれたのは理由がある。チーム編成を大会参加者組と参入者組で混ぜあう形にしたからだ。
こうして編成したAチーム『奏空、悠乃、遥』とBチーム『逝、奈南、たまき、シャーロット』だ。
かくして鍵を集めるための活動が始まったわけだが……。
「だめだ。あの連中も持ってないよ」
奏空はハアとため息をついた。
最も狙い目だった敵。自分たちより格下で、単独で動き、強者相手でも無謀に挑んでしまう愚かな参加者。
これが初日のうちに刈り尽くされていたのだ。
予めチームを組んでいたり、部下を大量に用意していたり、もしくは素早く協力者を見つけた連中。彼らが初日のうちに動いて美味しいところを既に喰っていたのだ。
遥と悠乃はそっとその場を離れながらため息に続いた。
「しかもそういう奴って、俺たちにいちいち挑みかかってくるんだよなあ」
「倒した敵が死んでないっていうのが、この試合の面倒なところなのかも」
敗者復活が自由である。
それも、試合参加者だけでなく予選落ちした人間や新たな参加者ですら敵になる。鍵を奪うことと同じくらい、鍵を守らねばならないのだ。
「それじゃあ、鍵を多く持ってるチームをあえて狙ってみようか。二人組で三本持っていたら、それだけで高得点じゃない?」
ぴんと指を立てる悠乃。
遥と奏空が目を光らせて頷いた。
一方こちらはBチーム。
「イヴァン、か」
逝は『ここから離れるぞ』のジェスチャーをして仲間を移動させた。
鷹の目やかぎわけるを使える奈南、暗視や鋭聴力で索敵ができるシャーロット、熱感知と超視力で潜んだ敵を見つけられるたまき。
Bチームは索敵能力に秀でたチームだ。
リュックを背負い直し、むずむずした顔をする奈南。
「荷物を持って歩くの、大変だねぇ。ピクニックみたい」
「仕方ありません。コンテナの安全性がひどく脆弱だと分かっていますから」
シャーロットは初日のうちにコンテナがどのくらい脆いかについて検証していた。
物質透過やピッキングマンのスキルは勿論のこと、ドアノブを破壊するだけで簡単に内部に侵入できてしまう。どころか昨晩のようにガソリンを撒いて火をつければいぶし出すことだってできるだろう。恐らくあの段階で何人もの参加者が鍵を奪われた筈だ。
「けれど、そうした奪いかたは……あまり、したくありませんね」
「……そうさね」
たまきが心配そうに言うので、逝は表情をまったく見せずに(元々見えないが)頷いた。
奈南とシャーロットは、たまきに賛成しているようだ。
「略奪も手段のひとつではありますけれど、それ以外の手段も当然あります。私たちには私たちなりのやり方ができるはずですよ」
「頑張ろうねぇ!」
●裏武闘大会第壱試合・二日目――PM
昼を過ぎた頃。
奏空、悠乃、遥のAチームはコンテナ周辺で固まっていたチームに挑みかかっていた。
相手は同数の3人組。鍵の所有数は5。一気に点数を稼ぐチャンスだ。
「強敵に挑めないのはザンネンだけど、せめてこのくらいは楽しませてもらうぜ!」
遥は四方蹴りを繰り出して攻撃。かぶせるように奏空の地烈が襲う。
「よし、今だ!」
「弱肉強食、悪いですけど……!」
悠乃の黒竜殺が敵の一人を蹴り倒す。
コンテナの壁に激突し、転がる敵。そこに奏空が素早く組み付いて、服の内側に貼り付けていた鍵を奪い取った。
「一個ゲット! 遥、そっちもだ! 靴の中にある!」
「おう!」
逃げようとした敵に足払いをかけ、靴の中に隠していた鍵をゲット。
残りも奪い取ろうとしたが、最も多く鍵を保有していた者が真っ先に逃げたことで取り逃がしてしまった。とはいえ5本中2本ゲットできたのだ。上出来である。
ふうと息をつき、額の汗をぬぐう悠乃。
「3対3だとかなり消耗するね。同等以下なら挑もうとは言ったけど、同等の戦力だとこっちの消耗も激しいみたい」
命数復活ができたからその日じゅうに行動を再開できるが、戦闘不能になってしまったら暫くは活動ができなくなるだろう。
「消耗した状態で敗者復活組にたかられたら持ち点を全てうしなうなんてこともあるよね。気をつけなきゃ……今度からは単独で動いてる奴を狙おう。けど、鍵持ってるかな」
「そこなんだよなあ……」
Bチーム。逝、奈南、たまき、シャーロット組。
彼らは四人という人数を活かして二人組を集中して狙い、鍵をゲットしていた。
「これで3本目ゲット……と」
鍵を握り込み、逝は刀を収納した。
倒した敵を念入りに殺害していけば後のリスクを生まずにすむとは思っていたが、たまきや奈南がすごく嫌そうな顔をするので空気を読んでやめておいた。まあリスクになるとは言っても、自分が負けた相手から取り返そうとするほど短絡的な連中でもなさそうだ。もっと弱い相手から奪いにかかるだろう。
更に言うなら、『戦闘不能イコール死』のスタンスで戦っていると自分も同じ目に遭いかねない。自分が仮に損失を出したとき、取り返すチャンスをわざわざ捨てることもなかろう。
「その鍵、俺らによこしな!」
そうしている間に現われたのが、ネギシとその部下たちである。
「性懲りも無く……」
シャーロットは剣を抜き、襲いかかる敵を切り払う。
たまきと奈南はそれぞれ別方向に走りながら護符とスティックを振り、あわさった衝撃で敵の群れを一斉に吹き払った。
「一度挑んで負けた敵にもう一度挑む、ということは」
「前とやり方を変えたってことさね」
ここは索敵能力に秀でたチーム。ネギシの集団とは別の方向から、二つの存在が急接近したことに気づいていた。
「コヒツジ。それと、トライシですか……妙な所で会いますね」
爆弾を手の中でもてあそぶコヒツジと、身体を岩のように硬くして詰め寄ってくるトライシ。
非覚者集団はどうとでもなるにしても、覚者の数でいえば4対3。非覚者集団を効率的に使われればこちらが不利になるパターンも充分に考えられる。
「ここは退きましょう」
「私も、そう思います」
「んっ!」
奈南は(システム上あんまり意味はないけれど)閃光手榴弾を投げて爆発させると、四人で思い切りその場から撤退した。
●裏武闘大会第壱試合・三日目
夜に火の手が上がり、所々で爆発がおきる。
そんな状態に晒されてぐっすり眠れる者はいなかった。
最低限の食料と睡眠不足。不安は水を飲むてを早め、三日目にはチームの殆どが消耗していた。
戦闘はこなせるが、回復はしきっていない。そんな状態である。
「手持ちの鍵は、全部で何本になった?」
奏空の呼びかけに応じて鍵を出す仲間たち。
「元からあったのが4本だよぉ」
奈南が取り出した鍵がきらりと光る。
「新たにゲットした7本」
「あと3本が足りない状態だね」
遥と悠乃が仲間たちの顔を見る。
逝は黙って立ち上がり、シャーロットもまた沈黙のまま剣を抜く。
場所は、コンテナの上。
たまきは護符を広げ、周囲を見回した。
コンテナをぐるりと取り囲む群れ。
二日目までに鍵を喪った連中や、ネギシたちのように乱入してきた者たち。
予選からここまで、最低でも80人を超える敗者がいて、その殆どがこのタイミングを狙っていたのだ。
「最終日。消耗しつつも鍵を大量に保有している状態……」
「ここを狙えば一発逆転ってか。しょうがねえ、蹴散らすぞ!」
遥たちがコンテナの屋根からダイブし、敵の群れへと飛び込んでいく。
戦いは続き、続き、続き……試合終了の合図が鳴るまで続いた。
●いつかきっと
「全員での第二試合進出は、できませんでしたね」
ティーカップを置くシャーロット。
ここは山のふもとにあるカフェだ。
「残念だったねぇ。けど、ゲットした鍵は一個も渡さなかったよぉ!」
クッキーをかじる奈南。同じくジャムのついたクッキーを手に取った奏空はそれをじっと見つめた。
「俺たちはポイントの防衛には力を入れてたからね。途中で2チームに分かれたのはよくなかったというか……かえってリスクを増やしちゃった気はするけど、結果としてはよかったよ」
「もっと、お弁当を持ってくるべきだったでしょうか……?」
たまきが、頬のこけた奏空を心配そうに見ていた。
ふるふると首をふる悠乃。
「食料を最低限にしたのは、持ち運びを楽にするためでもあるからね。スタミナの維持を考えから外したのはアレだったけど、悪い選択じゃなかったはずだよ。現に最後まで戦えていたし」
「そうさね。強いて言うなら、ポイントを守る努力はしても獲得する努力が少なかったのが、敗因さね」
そう言ってなんかよくわかんないものを飲む逝。
グッと拳を握り、遥は立ち上がった。
「鍵は11。五人だけだ。この人数で次の試合に進んでも仲間はずれが出ちゃうだけだ。大会は見送ろうぜ! 強い奴と戦う機会は、他に沢山あるしな!」
そう、いつかきっと。今回出会った強敵たちともう一度戦うチャンスがおとずれるはずだ。
その時まで、自らの力を鍛えていよう。よりよい戦いができるように。
■シナリオ結果■
失敗
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
