<東京大殺界>あなたの居たセカイじゃない
●『東京大殺界』という現象
東京渋谷は半年前までの姿を喪った。
表皮が生肉のようにピンク色になり顔が螺旋状にねじれたネジレ病にかかった若者が急増した。
真っ白な仮面を被る若者が急増した。
その誰もがそれをごくごく普通のこととして認識し、町は一切の混乱を成していない。
外の者は怪奇現象のように語り、インターネットでは当時持ち出されたワードからこれらを『東京大殺界』と呼び様々な陰謀論や終末論が飛び交った。
けれど表面上は大きな問題も無く、事態は淡々と処理される筈……だったのだが。
「ご覧ください! 死体です! 大田区の洗足(せんぞく)池から大量の水死体が上がりました! 数は……ご、え? 五十体を超える模様! どれも、自殺と断定されています!」
全国に、大量の死体が浮かぶ池の様子が中継された。
現場のアナウンサーは困惑した様子でメモを読み上げている。
「一部遺体の身元が判明した模様です。ただいまより読み上げます――」
読み上げられたリストに、一部の者たちが驚愕した。
なぜなら。
「尚、身元が判明した遺体は全て渋谷の住人の……共通して、ネジレ病患者だった模様です。けど、姿は、その……」
●自殺に至る病
蒼紫 四五九番(nCL2000137)は今日も日の当たるテラスで資料を読んでいる。
呼びかけたあなたに、手にした資料を翳して見せた。
「この事件に興味があるのね。そう……なら、今度の仕事を任せられると思うわ。
特殊な案件だから、嫌ならやめたほうがいいわ。
……そう。それでもやるの。わかったわ。後で会議室に来て」
資料のタイトルは『東京大殺界』。
会議室には数人の覚者が集まっている。
どれも深刻そうな不安そうな、しかし何が起きているのかわからないという表情だ。一部さもあらんという顔をしている者や表情の読めない者もいるが、さておき……。
「集まって貰ったのは勿論、先日あがった50人自殺の件よ。
あの後警察が遺族に連絡を取ったところ、ある事実が判明したわ。
身元の判明した死亡者のうち、『誰も死んでいない』そうよ」
写真がデスクに広げられる。
ネジレ病と呼ばれる、肉体が裏返った怪物のようになった人々。その顔写真と簡単なプロフィールがリスト化されたものである。
「あがった遺体はすべて『発病前』の状態。つまり人間の姿をしていたわ。今現在、人間の姿をした遺体と、ネジレ病にかかった生きた本人が同時に存在していることになるわね。残りの遺体の身元は捜索中だそうだけど、似たような内容だったわ」
ここまでなら、ただの怪奇現象で済む。人が大勢死んだけどしんでなかった。たたりだのろいだあくまのしわざだ、で済む。
だがしかし、ファイヴのある覚者たちには心当たりがあった。
蒼紫 四五九番もまた、それに応えるように新たな資料を提示する。
警察資料とは別の、ファイヴの研究機関によるものだ。
「ヴィオニッチペイントの解読情報が流出したそうよ。流出先は特定してるわ。ここ――『能亜財団』」
『能亜財団』とは古妖絶滅を目的とする団体である。未知の存在は人類を必ずや脅かすという主題のもと、善意と正義によって古妖の駆除活動を行なっている。
ファイヴとは利害が一致することもあるが、友好的な古妖を受け入れたり人権を認めたりする都合から、因縁も浅からぬ敵対組織である。
「能亜財団はファイヴと同じ方法で裏世界へアクセスして、OSEを見つけ次第殺害しているそうよ。
確認しただけでも50体以上の殺害を行なっている」
50体以上。
その単語に、一部の覚者たちが身を乗り出した。
「今回の50人自殺と関係がありそうね」
よって、今回のミッションはこうだ。
裏世界へ再びアクセスし、能亜財団のエージェントと接触、おそらくは戦闘によって行動不能とし、OSEの殺害運動を阻止することだ。
「過去の報告書にもあるとおり、裏世界では覚者の能力は使えないわ。覚醒できないというより『一般人とかわらない』と考えたほうが正確ね。持ち込み可能な特殊武装を配備するから、その中から選んで装備してちょうだい。
裏世界に潜入している能亜財団のエージェントは推定5人。
こちらと同じような装備をしていると見て間違いないわ」
そこまで説明してから、資料をトランプカードのようにさらりとまとめた。
「危険な任務になるわ。決して油断せず、慎重に行動して。結果如何では新たな自殺者の発生もありうるわ」
東京渋谷は半年前までの姿を喪った。
表皮が生肉のようにピンク色になり顔が螺旋状にねじれたネジレ病にかかった若者が急増した。
真っ白な仮面を被る若者が急増した。
その誰もがそれをごくごく普通のこととして認識し、町は一切の混乱を成していない。
外の者は怪奇現象のように語り、インターネットでは当時持ち出されたワードからこれらを『東京大殺界』と呼び様々な陰謀論や終末論が飛び交った。
けれど表面上は大きな問題も無く、事態は淡々と処理される筈……だったのだが。
「ご覧ください! 死体です! 大田区の洗足(せんぞく)池から大量の水死体が上がりました! 数は……ご、え? 五十体を超える模様! どれも、自殺と断定されています!」
全国に、大量の死体が浮かぶ池の様子が中継された。
現場のアナウンサーは困惑した様子でメモを読み上げている。
「一部遺体の身元が判明した模様です。ただいまより読み上げます――」
読み上げられたリストに、一部の者たちが驚愕した。
なぜなら。
「尚、身元が判明した遺体は全て渋谷の住人の……共通して、ネジレ病患者だった模様です。けど、姿は、その……」
●自殺に至る病
蒼紫 四五九番(nCL2000137)は今日も日の当たるテラスで資料を読んでいる。
呼びかけたあなたに、手にした資料を翳して見せた。
「この事件に興味があるのね。そう……なら、今度の仕事を任せられると思うわ。
特殊な案件だから、嫌ならやめたほうがいいわ。
……そう。それでもやるの。わかったわ。後で会議室に来て」
資料のタイトルは『東京大殺界』。
会議室には数人の覚者が集まっている。
どれも深刻そうな不安そうな、しかし何が起きているのかわからないという表情だ。一部さもあらんという顔をしている者や表情の読めない者もいるが、さておき……。
「集まって貰ったのは勿論、先日あがった50人自殺の件よ。
あの後警察が遺族に連絡を取ったところ、ある事実が判明したわ。
身元の判明した死亡者のうち、『誰も死んでいない』そうよ」
写真がデスクに広げられる。
ネジレ病と呼ばれる、肉体が裏返った怪物のようになった人々。その顔写真と簡単なプロフィールがリスト化されたものである。
「あがった遺体はすべて『発病前』の状態。つまり人間の姿をしていたわ。今現在、人間の姿をした遺体と、ネジレ病にかかった生きた本人が同時に存在していることになるわね。残りの遺体の身元は捜索中だそうだけど、似たような内容だったわ」
ここまでなら、ただの怪奇現象で済む。人が大勢死んだけどしんでなかった。たたりだのろいだあくまのしわざだ、で済む。
だがしかし、ファイヴのある覚者たちには心当たりがあった。
蒼紫 四五九番もまた、それに応えるように新たな資料を提示する。
警察資料とは別の、ファイヴの研究機関によるものだ。
「ヴィオニッチペイントの解読情報が流出したそうよ。流出先は特定してるわ。ここ――『能亜財団』」
『能亜財団』とは古妖絶滅を目的とする団体である。未知の存在は人類を必ずや脅かすという主題のもと、善意と正義によって古妖の駆除活動を行なっている。
ファイヴとは利害が一致することもあるが、友好的な古妖を受け入れたり人権を認めたりする都合から、因縁も浅からぬ敵対組織である。
「能亜財団はファイヴと同じ方法で裏世界へアクセスして、OSEを見つけ次第殺害しているそうよ。
確認しただけでも50体以上の殺害を行なっている」
50体以上。
その単語に、一部の覚者たちが身を乗り出した。
「今回の50人自殺と関係がありそうね」
よって、今回のミッションはこうだ。
裏世界へ再びアクセスし、能亜財団のエージェントと接触、おそらくは戦闘によって行動不能とし、OSEの殺害運動を阻止することだ。
「過去の報告書にもあるとおり、裏世界では覚者の能力は使えないわ。覚醒できないというより『一般人とかわらない』と考えたほうが正確ね。持ち込み可能な特殊武装を配備するから、その中から選んで装備してちょうだい。
裏世界に潜入している能亜財団のエージェントは推定5人。
こちらと同じような装備をしていると見て間違いないわ」
そこまで説明してから、資料をトランプカードのようにさらりとまとめた。
「危険な任務になるわ。決して油断せず、慎重に行動して。結果如何では新たな自殺者の発生もありうるわ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.能亜財団のエージェントを撤退させる
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
キーワードは『東京大殺界』『OSE』『ネジレ』『裏世界』『能亜財団』です。
ぴんときたあなた。運命があなたを呼んでいます。
●成功条件の補足
・主目的:能亜財団のエージェントを撤退させる
・オプション
→能亜財団のエージェントと戦闘する/しない(※1)
→能亜財団のエージェントを戦闘不能にする/しない
→能亜財団のエージェントを戦闘不能にした上で拘束する/しない
※1:かなりの工夫がなければ、接触した時点で戦闘が確定します
●裏世界での装備
潜入する裏世界では能力(因子、術式、体術、未開、オリジナル、覚醒その他)が一切使えません。
武装一般人や憤怒者と同等の装備や体力を想定して下さい。
命数復活不能。ただし戦闘不能時には強制排出を行なうため命数を犠牲にして生き延びることができます。
(敵対する能亜財団エージェントも同一の状態だと仮定します)
持ち込める武装は以下の通り。
・拳銃(遠単)、小銃(遠単)、短機関銃(遠列)、散弾銃(近列):各一丁まで
・戦闘用ナイフ、日本刀、メリケンサック:すべて近単、1個まで
・ジュラルミン盾:一つまで。防御があがるが銃か格闘武器のいずれかが使用不能。
・以下サポートアイテム。1人につき3つまで携帯可能。
→閃光手榴弾:物遠列【ダメ0】【弱体】(同名体術とは異なるので注意)
→救急スプレー:物近単体力回復
→ワイヤートラップ:特定の場所に設置して使用。判定に成功したら発動し、独立して攻撃判定が行なわれる。
●推定戦闘エリア
裏世界はこちらの世界とかなり類似した地形構造をしています。
こちら基準で述べると、
洗足池のほとりにある弁財天から公道へ出ます。
『北の住宅街、東の住宅街、西の住宅街』の三つに道が分かれているので、探索を行なってください。それぞれおよそ100m以上離れているため、分断した際にはすぐに合流できません。
スタッフのアドバイスによると、銃声を頼りに進めばOSE駆除中の能亜財団エージェントが見つかるはずだとのことです。
ただしその場合何体か殺された後になるので、ゼロデスを目指したいなら分散して走ったり空に銃を乱射して散ったりというかなり危険なアクションが求められます。
尚。
OSEの死亡が50人自殺に関係しているという証拠はありません。
●簡易用語解説
・能亜財団
古妖撲滅を目指す組織。正義的立場にあるがファイヴとは敵対している。
ファイヴが古妖を大規模に保護している手前、和解の余地はない。
(ファイヴ側が正しいという確証も今のところない)
過去に古妖撲滅のための作戦を阻止したり、青紫四五九番を財団施設から強奪したりといったぶつかり方をしている。
・OSE(通称:ネジレ)
過去、古妖の集団が人を襲う事件が発生した。
顔が螺旋状にねじれ、肉体の内外が裏返ったかのようにピンク色をしている人型古妖。
OSE(アウトサイドエネミー)と呼称され何度かファイヴによる駆除活動が行なわれた。発生原因は殺したとされている。
尚、なぜ共通して『ネジレ』と呼ばれているかの根拠は不明。
・ヴィオニッチペイント
過去、あらゆる意味で謎の少女が壁に描いていた模様の画像データと、使われた塗料の分析データ。
研究の結果、裏世界へアクセスする方法が暗号化されたものだと判明した。
尚、能亜財団に漏れたかの原因は不明。ファイヴ諜報員が全く同一のデータを能亜財団が所有していることを突き止めたことで漏洩が判明した模様。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年09月27日
2017年09月27日
■メイン参加者 6人■

●ある者の考察
身元を確かめたからといって、本人として生きている個体が存在する以上は他人だ……と言えるだろう。自分と同じ姿形をした死体だ。それを証明することは難しいが、否定することもできない。
50人自殺事件への表向きの解釈は、それで事足りるだろう。
俺たちが考えるべきは、他にある。
例えば、裏世界へのアクセス方法がなぜリークされたのか。
ファイヴに工作員が紛れ込んでいる可能性はないか。所属各社に、事務所に、学園に、収容施設に。
栓のないことだが、ファイヴはよそ者が入り込むには最適の環境だ。技術や知識を盗み出すことも、同程度に容易だと言える。
今まで壊滅しなかったのは、それだけ運命に愛されたからだとも言えるだろう。
我々は、決して安全な場所になどいない。
●汝、己を実証せよ
「変なことを言うようですけれど……」
ここは裏世界。
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は短機関銃と盾をそれぞれ装備して、集まった六人の顔ぶれを確認した。
「私たちも既にOSEのようになっていて、本人は気づかずに生活している……なんてこと、ないですよね?」
「そんなのあるわけないよ!」
『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110)が拳銃を握りしめて唸った。
「みんな普通の人に見えるし、僕はOSEみたいだって言われたことないもん。僕は、普通だよ。OSEがみんなをおかしくしてるんだ!」
片手で額を押さえる。
自己認識という一点において、彼は一時期深刻な精神疾患をもっていたことがある。それを自覚しているか否かは別として、『認識したくないことを認識しない』という現象が、きわめて身近にあった人物だといえよう。
「きっと自殺者が沢山出たのも、能亜財団のせいなんだよ。OSEを殺しちゃったりしたから、みんな自殺しちゃったんだよ」
「…………」
それを知ってか知らずか、沈黙のまま流す『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)。
一方で、深刻な顔をして拳銃を握りしめる『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
「関係があるかないかは、まだ分からないよ。けど怪しいのは事実だ。それに軽はずみにOSEを殺して回ってるだけなら、まず止めないと」
「その方法は一つしかありませんが。お話ができる相手とも思えませんし」
短機関銃の安全装置を解除する納屋 タヱ子(CL2000019)。
「今回の作戦は、銃声を確かめてかけつける……でいいんですね?」
「異論無し。というか、私としては連中は純粋に敵なのよ」
『淡雪の歌姫』鈴駆・ありす(CL2001269)もまた、短機関銃の安全装置を解除する。
古妖共存派のありすにとって、古妖であることを理由に排除しようとする能亜財団の主張は受け入れるわけにはいかないのだ。定義のしかたによっては、ありすも古妖の一種とさえ言えてしまうのだから。
「……」
裏世界は奇妙なほどに人通りが少ない。
以前侵入した際も、大きな道路だというのに車がまるで通っていなかったほどだ。
しかし生活感はそのまま残っていて、路上にはスクーターがそのままの状態でとめられていたりもする。
ミラーをもぎ取り、お詫びとばかりにお札をねじ込むタヱ子。
そのミラーを手の甲にくくりつけると、見え具合を確認した。
「裏世界の道具を利用するのは可能、みたいですね」
その時、発砲音が響いた。
発砲音がした方向は三つ。
北、東、西だ。それは暗に敵部隊が三つに分かれていることを意味していた。
「北側へ向かいましょう。全員でかかれば各個撃破ができるはずです」
音のした方向へ走る。相手は隠れるつもりがないようで、音は断続的に聞こえた。
「この先です」
ミラーを使って曲がり角の先を確認。ヘルメットとライダースーツの集団が、逃げ惑うOSEに小銃による射撃を加えているところだった。
ヘルメットの集団が能亜財団のエージェントに間違いないだろう。
足を撃たれたOSEがつまずき、駆けつけた小さなOSEを抱きかかえて丸くなる。それを、エージェントは双方まとめて射殺していく。
ギギギという判別しづらい叫び声をあげ、OSEは絶命した。
赤い血が流れている。道路を埋め尽くさんばかりに。
「行きましょう」
タヱ子はハンドサインを出して、仲間と共に飛び出していった。
「なんだこいつら。こいつもネジレか?」
こちらに小銃を向けたエージェントは攻撃をためらった。
なぜなら、タヱ子含め全員は素肌が見えないように手袋やヘルメット、帽子やずきんなどを被っていたからだ。
「好都合」
ぴん、とスタングレネードの安全ピンを抜いて投げるありす。激しい光にエージェントたちがひるむ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を、イオ・ブルチャーレ!」
ありすはストイックに、ラーラは気分で呪文を唱え、それぞれ機関銃による射撃を始める。
相手の数は2人。それぞれ小銃だけを装備した連中だ。
それゆえ火力を揃え、盾を装備し、囲むように陣形をとれるこちらは圧倒的に有利だった。
追撃とばかりに短機関銃の射撃を行なうタヱ子。
「そろそろ相手が慣れるころですね」
「けどもう遅いわ」
ありすは再びのグレネード投擲。
エージェントたちは後退しながら反撃を始めた。
「逃がすか……!」
相手へ駆け寄りながら拳銃を連射する奏空。
エージェントの手から小銃がはねとび、代わりにナイフを抜く。
牽制として繰り出されたナイフを飛んでかわすと、奏空は自らもナイフを抜いた。
かわした筈の胸がばっさりときられ、血がとめどなくあふれていく。
覚者である時とは違う感覚。
それを一旦無視して、奏空は突撃をしかける。
逆手に持ったナイフで相手の刃物をはねながら、徐々に押していくのだ。
フォローすべく奏空に銃を向けた二人目のエージェントに、きせきが拳銃を乱射しながら突撃。素早くナイフに持ち替え、相手へと飛びかかる。相手は反応が遅れ、きせきのナイフが首へと深く差し込まれた。
ばたばたともがく敵。やっと抜いたナイフがきせきの脇腹に刺さる。ここでひいてはだめだ。
暴れる相手にマウントをとり、銃を胸に押しつけて引き金をひきまくる。
相手がやっと動かなくなったところで、横でゴスンという音が響いた。
逝がメリケンサックでもって相手の頭を殴りつけていたのだ。
ヘルメット越しゆえにダメージは少なかったようだが、それでも相手がくらむには充分な打撃だ。奏空は素早く相手の懐に潜り込み、ナイフを突き刺す。
あふれ出る返り血。
ナイフがささったまま、エージェントはごぶごぶとわめきながら暴れ、そして動かなくなった。
一方の奏空は汗をだくだくと流し、後じさりする。
「大丈夫ですか? 今回復しますから!」
駆け寄ったラーラがスプレーを取り出し、奏空の傷口に特殊薬液を吹きかけていく。かさぶたの要領で傷口を強制的に塞ぐ道具で、回数制限的に覚者の回復スキルには劣るがこういう場面で使いやすい非覚者兵装である。
奏空ときせきを回復するのに早速二つ使ってしまった。
2対6で挑みかかってこの損傷とは……もし同数でぶつかっていたら危なかった。
「案外、頑丈なものね。全員で撃てば一瞬で死んでくれるわけじゃあ、ないのね」
マガジンを交換しながら言うありす。
相手を雑魚となめてかかれば、それだけ危険にさらされることになる。
逆に言えば、敵とこちらが同程度の戦力であると仮定した場合、『集中して打たれたせいで即死』というミスを回避できるということでもあった。
「あの、ところで……これはOSEの血ですか?」
ラーラに言われ、奏空は自分の胸をなでた。
べっとりと緑色の血がついている。赤い血もだ。
「いや、違うよ。片方は相手の血だ」
「そうですか……緑色の血が出るなんて、不気味ですね」
ラーラにそう言われ、奏空は沈黙した。きせきもだ。
なぜなら。
緑色の血は、自分たちから出たものなのだ。
●緑色の塗料
『びおにいち』について改めて語っておくことがある。
謎の団体に狙われた少女はびおにいちと仮称された。彼女は言語能力をもたず、送受心でも正常な会話ができなかった。日本語が話せなかったり舌が無い程度なら送受心で事足りるのだが、今期はそうではない事態だということである。
彼女が壁に残したペイントは裏世界へやってくる際のコードとして役に立ったが、そのペイントは緑色をしていた。
分析した結果成分は人間の血液に近いとされていた。
「下がって、最後の一個よ」
フラッシュグレネードを投擲し、ありすは機関銃による射撃をかぶせていく。
徐々に後退しながら、向かってくる三人組を銃撃によって牽制するのだ。
ラーラとタヱ子も同じように射撃を加え、突っ込んできた相手を包囲できるように奏空ときせきも広がって銃撃する。
各個撃破作戦はうまくハマり、最初の二人を撃破した所で銃声に気づいた残り三人が集まってきたのだ。
それゆえ縛っている暇が無かったが、『できれば拘束したい』程度の感覚だったのでその場に置き去りにし、六人は応戦。
元々の戦力差もあって、無事に残りのエージェントも倒していくことができた。
「残り一人だ。任せてくれ」
飛び出そうとする奏空ときさきを押しのけるようにして、逝が前にでた。
「二人は負傷している。残りのメンバーは援護射撃を頼む」
拳を構える逝。
相手の武器は刀だ。奇妙に禍々しい気をはなつ刀だ。
「――――」
相手が何かを言った。
「――」
逝が何かを返した。
そして交差。
刀が逝の腹を貫く一方、逝の拳は相手の心臓部を直撃。
相手は盛大に血を吐いて、その場に崩れ落ちた。
「か、回復を……!」
「いや、もういい」
手を翳してラーラをとめ、逝はメリケンサックをその場に捨てた。
「任務完了だ。帰還する」
●『■■ ■オルタナティブの死亡を確認』
これは後日談ではない。
任務完了後、一週間ほど様子を見たが自殺者が池に浮かぶことはなかった。
今回の作戦が功を奏したのだろうか。そう考える者もいたが、作戦の間に殺害されたOSEを確認しているため、裏世界でのOSE殺害と自殺者はイコールではないこともまた、判明していた。
だが分かったことはそれだけではない。
「困ったわ。誰かしら、こんなことしたの……」
道ばたで主婦が立ち止まっている。
「どうかしましたか」
「あ、別にね。息子が使ってたスクーターを出してこようと思ったら、壊れてるのよ。修理に出したら高いかしら」
「どうでしょう。どこが壊れていたんですか?」
「あのね」
主婦はスクーターへ振り返る。
「ミラーが折れちゃったの」
「……」
そっと、ポケットから写真をとりだすタヱ子。
そこに映っていたのは裏世界から帰還してもまだ手にくくりつけられていたスクーターのミラーだった。
そして目の前にあるスクーターの欠損部分と、ぴったりと一致していた。
「二千円じゃあ、足りないかもしれませんね」
身元を確かめたからといって、本人として生きている個体が存在する以上は他人だ……と言えるだろう。自分と同じ姿形をした死体だ。それを証明することは難しいが、否定することもできない。
50人自殺事件への表向きの解釈は、それで事足りるだろう。
俺たちが考えるべきは、他にある。
例えば、裏世界へのアクセス方法がなぜリークされたのか。
ファイヴに工作員が紛れ込んでいる可能性はないか。所属各社に、事務所に、学園に、収容施設に。
栓のないことだが、ファイヴはよそ者が入り込むには最適の環境だ。技術や知識を盗み出すことも、同程度に容易だと言える。
今まで壊滅しなかったのは、それだけ運命に愛されたからだとも言えるだろう。
我々は、決して安全な場所になどいない。
●汝、己を実証せよ
「変なことを言うようですけれど……」
ここは裏世界。
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は短機関銃と盾をそれぞれ装備して、集まった六人の顔ぶれを確認した。
「私たちも既にOSEのようになっていて、本人は気づかずに生活している……なんてこと、ないですよね?」
「そんなのあるわけないよ!」
『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110)が拳銃を握りしめて唸った。
「みんな普通の人に見えるし、僕はOSEみたいだって言われたことないもん。僕は、普通だよ。OSEがみんなをおかしくしてるんだ!」
片手で額を押さえる。
自己認識という一点において、彼は一時期深刻な精神疾患をもっていたことがある。それを自覚しているか否かは別として、『認識したくないことを認識しない』という現象が、きわめて身近にあった人物だといえよう。
「きっと自殺者が沢山出たのも、能亜財団のせいなんだよ。OSEを殺しちゃったりしたから、みんな自殺しちゃったんだよ」
「…………」
それを知ってか知らずか、沈黙のまま流す『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)。
一方で、深刻な顔をして拳銃を握りしめる『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)。
「関係があるかないかは、まだ分からないよ。けど怪しいのは事実だ。それに軽はずみにOSEを殺して回ってるだけなら、まず止めないと」
「その方法は一つしかありませんが。お話ができる相手とも思えませんし」
短機関銃の安全装置を解除する納屋 タヱ子(CL2000019)。
「今回の作戦は、銃声を確かめてかけつける……でいいんですね?」
「異論無し。というか、私としては連中は純粋に敵なのよ」
『淡雪の歌姫』鈴駆・ありす(CL2001269)もまた、短機関銃の安全装置を解除する。
古妖共存派のありすにとって、古妖であることを理由に排除しようとする能亜財団の主張は受け入れるわけにはいかないのだ。定義のしかたによっては、ありすも古妖の一種とさえ言えてしまうのだから。
「……」
裏世界は奇妙なほどに人通りが少ない。
以前侵入した際も、大きな道路だというのに車がまるで通っていなかったほどだ。
しかし生活感はそのまま残っていて、路上にはスクーターがそのままの状態でとめられていたりもする。
ミラーをもぎ取り、お詫びとばかりにお札をねじ込むタヱ子。
そのミラーを手の甲にくくりつけると、見え具合を確認した。
「裏世界の道具を利用するのは可能、みたいですね」
その時、発砲音が響いた。
発砲音がした方向は三つ。
北、東、西だ。それは暗に敵部隊が三つに分かれていることを意味していた。
「北側へ向かいましょう。全員でかかれば各個撃破ができるはずです」
音のした方向へ走る。相手は隠れるつもりがないようで、音は断続的に聞こえた。
「この先です」
ミラーを使って曲がり角の先を確認。ヘルメットとライダースーツの集団が、逃げ惑うOSEに小銃による射撃を加えているところだった。
ヘルメットの集団が能亜財団のエージェントに間違いないだろう。
足を撃たれたOSEがつまずき、駆けつけた小さなOSEを抱きかかえて丸くなる。それを、エージェントは双方まとめて射殺していく。
ギギギという判別しづらい叫び声をあげ、OSEは絶命した。
赤い血が流れている。道路を埋め尽くさんばかりに。
「行きましょう」
タヱ子はハンドサインを出して、仲間と共に飛び出していった。
「なんだこいつら。こいつもネジレか?」
こちらに小銃を向けたエージェントは攻撃をためらった。
なぜなら、タヱ子含め全員は素肌が見えないように手袋やヘルメット、帽子やずきんなどを被っていたからだ。
「好都合」
ぴん、とスタングレネードの安全ピンを抜いて投げるありす。激しい光にエージェントたちがひるむ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を、イオ・ブルチャーレ!」
ありすはストイックに、ラーラは気分で呪文を唱え、それぞれ機関銃による射撃を始める。
相手の数は2人。それぞれ小銃だけを装備した連中だ。
それゆえ火力を揃え、盾を装備し、囲むように陣形をとれるこちらは圧倒的に有利だった。
追撃とばかりに短機関銃の射撃を行なうタヱ子。
「そろそろ相手が慣れるころですね」
「けどもう遅いわ」
ありすは再びのグレネード投擲。
エージェントたちは後退しながら反撃を始めた。
「逃がすか……!」
相手へ駆け寄りながら拳銃を連射する奏空。
エージェントの手から小銃がはねとび、代わりにナイフを抜く。
牽制として繰り出されたナイフを飛んでかわすと、奏空は自らもナイフを抜いた。
かわした筈の胸がばっさりときられ、血がとめどなくあふれていく。
覚者である時とは違う感覚。
それを一旦無視して、奏空は突撃をしかける。
逆手に持ったナイフで相手の刃物をはねながら、徐々に押していくのだ。
フォローすべく奏空に銃を向けた二人目のエージェントに、きせきが拳銃を乱射しながら突撃。素早くナイフに持ち替え、相手へと飛びかかる。相手は反応が遅れ、きせきのナイフが首へと深く差し込まれた。
ばたばたともがく敵。やっと抜いたナイフがきせきの脇腹に刺さる。ここでひいてはだめだ。
暴れる相手にマウントをとり、銃を胸に押しつけて引き金をひきまくる。
相手がやっと動かなくなったところで、横でゴスンという音が響いた。
逝がメリケンサックでもって相手の頭を殴りつけていたのだ。
ヘルメット越しゆえにダメージは少なかったようだが、それでも相手がくらむには充分な打撃だ。奏空は素早く相手の懐に潜り込み、ナイフを突き刺す。
あふれ出る返り血。
ナイフがささったまま、エージェントはごぶごぶとわめきながら暴れ、そして動かなくなった。
一方の奏空は汗をだくだくと流し、後じさりする。
「大丈夫ですか? 今回復しますから!」
駆け寄ったラーラがスプレーを取り出し、奏空の傷口に特殊薬液を吹きかけていく。かさぶたの要領で傷口を強制的に塞ぐ道具で、回数制限的に覚者の回復スキルには劣るがこういう場面で使いやすい非覚者兵装である。
奏空ときせきを回復するのに早速二つ使ってしまった。
2対6で挑みかかってこの損傷とは……もし同数でぶつかっていたら危なかった。
「案外、頑丈なものね。全員で撃てば一瞬で死んでくれるわけじゃあ、ないのね」
マガジンを交換しながら言うありす。
相手を雑魚となめてかかれば、それだけ危険にさらされることになる。
逆に言えば、敵とこちらが同程度の戦力であると仮定した場合、『集中して打たれたせいで即死』というミスを回避できるということでもあった。
「あの、ところで……これはOSEの血ですか?」
ラーラに言われ、奏空は自分の胸をなでた。
べっとりと緑色の血がついている。赤い血もだ。
「いや、違うよ。片方は相手の血だ」
「そうですか……緑色の血が出るなんて、不気味ですね」
ラーラにそう言われ、奏空は沈黙した。きせきもだ。
なぜなら。
緑色の血は、自分たちから出たものなのだ。
●緑色の塗料
『びおにいち』について改めて語っておくことがある。
謎の団体に狙われた少女はびおにいちと仮称された。彼女は言語能力をもたず、送受心でも正常な会話ができなかった。日本語が話せなかったり舌が無い程度なら送受心で事足りるのだが、今期はそうではない事態だということである。
彼女が壁に残したペイントは裏世界へやってくる際のコードとして役に立ったが、そのペイントは緑色をしていた。
分析した結果成分は人間の血液に近いとされていた。
「下がって、最後の一個よ」
フラッシュグレネードを投擲し、ありすは機関銃による射撃をかぶせていく。
徐々に後退しながら、向かってくる三人組を銃撃によって牽制するのだ。
ラーラとタヱ子も同じように射撃を加え、突っ込んできた相手を包囲できるように奏空ときせきも広がって銃撃する。
各個撃破作戦はうまくハマり、最初の二人を撃破した所で銃声に気づいた残り三人が集まってきたのだ。
それゆえ縛っている暇が無かったが、『できれば拘束したい』程度の感覚だったのでその場に置き去りにし、六人は応戦。
元々の戦力差もあって、無事に残りのエージェントも倒していくことができた。
「残り一人だ。任せてくれ」
飛び出そうとする奏空ときさきを押しのけるようにして、逝が前にでた。
「二人は負傷している。残りのメンバーは援護射撃を頼む」
拳を構える逝。
相手の武器は刀だ。奇妙に禍々しい気をはなつ刀だ。
「――――」
相手が何かを言った。
「――」
逝が何かを返した。
そして交差。
刀が逝の腹を貫く一方、逝の拳は相手の心臓部を直撃。
相手は盛大に血を吐いて、その場に崩れ落ちた。
「か、回復を……!」
「いや、もういい」
手を翳してラーラをとめ、逝はメリケンサックをその場に捨てた。
「任務完了だ。帰還する」
●『■■ ■オルタナティブの死亡を確認』
これは後日談ではない。
任務完了後、一週間ほど様子を見たが自殺者が池に浮かぶことはなかった。
今回の作戦が功を奏したのだろうか。そう考える者もいたが、作戦の間に殺害されたOSEを確認しているため、裏世界でのOSE殺害と自殺者はイコールではないこともまた、判明していた。
だが分かったことはそれだけではない。
「困ったわ。誰かしら、こんなことしたの……」
道ばたで主婦が立ち止まっている。
「どうかしましたか」
「あ、別にね。息子が使ってたスクーターを出してこようと思ったら、壊れてるのよ。修理に出したら高いかしら」
「どうでしょう。どこが壊れていたんですか?」
「あのね」
主婦はスクーターへ振り返る。
「ミラーが折れちゃったの」
「……」
そっと、ポケットから写真をとりだすタヱ子。
そこに映っていたのは裏世界から帰還してもまだ手にくくりつけられていたスクーターのミラーだった。
そして目の前にあるスクーターの欠損部分と、ぴったりと一致していた。
「二千円じゃあ、足りないかもしれませんね」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『シークレットメッセージ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:緒形 逝(CL2000156)
『もぎ取ったミラー』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:納屋 タヱ子(CL2000019)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:緒形 逝(CL2000156)
『もぎ取ったミラー』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:納屋 タヱ子(CL2000019)
