<カラテオブゴッド>裏武闘大会
●裏武闘大会
「表には出すことのできない、裏の武術の使い手が集まる大会があるようだ」
「我々に匹敵する……もしくはそれ以上の存在が大会には出場しているのですね」
「へえ、すげーんだな。どこでやるんだ? 中国か?」
「いや、日本だ」
ファイヴが与那国島で知った裏武闘大会。
世界各地から集まった武の達人たちがしのぎを削る場。
正々堂々戦う者もあれば、あらゆる汚い手を使う者もいるだろう。
そしてその全てが認められるがゆえに、表に出ることの出来ない大会。
「興味があるなら詳しく調べておこう。必要なら、出場枠を確保してもいい」
そんな出来事があったのが、半月ほど前のことである。
「ファイヴ二次団体の威徳というスタッフから、『裏武闘大会』の出場チケットが渡された。出場枠は6つ。参加は自由。つまり……これは依頼ではない」
中 恭介(nCL2000002)は会議室に何人かの覚者を集め、このように説明した。
集まったのは古今東西武術にそれなりの自身がある覚者たち。そして、大会に興味を示した一握りの者たちだ。
「しかし達人武術の学習や覚者事情の調査もファイヴの仕事ではある。それに、好成績を収めれば裏社会に対しての抑止力にもなるだろう。参加は任意とし、その上で費用やサポートは我々が受け持とう。質問はあるか?」
集まった覚者の中からいくつか手が上がった。
大会の場所とそのルールはなんだというものだ。
「予選が行なわれる場所ははっきりしている。しかし、ルールは明かされていない。偶然うちの夢見が予知した情報があるから、それを元に予選に備えてくれ」
以下は夢見の予知情報である。
富士樹海青木ヶ原。日本で最も有名な樹海がその予選会場となる。
受付スポットに到着した参加者は丸いバッジを受け取り、樹海へ入るようだ。
「バッジには二桁の番号がランダムで書かれている。そして裏には、別の番号。これが意味するところは……バッジの争奪戦だ」
要するにこういうことだ。
裏に書かれたターゲット番号と同じ番号のバッジが5ポイント。
それ以外のバッジは自分のものを含めて1ポイント。
合計で6ポイントを獲得した状態で受付スポットへ帰還すれば、予選は合格となる。
「ターゲットのバッジを奪い、自分のバッジを守る。これが最短ルートだが、ターゲットでない参加者を5人倒しても同じ結果が得られる。
このルールからも分かるとおり、裏武闘大会とはオリンピックでやるような格闘スポーツじゃない。あくまで個人としての強さを競う大会だ。
よってあらゆる行為が許可されている。
術式や武器の使用、罠や毒、協力や裏切り、すべてが可能だ。
まずはこの予選に参加し、全員勝ち抜いてほしい」
獲物を探し当てる能力。
自らを守る能力。
そして何よりも戦闘力。
「自らを試す絶好の機会だ。そして、強者に出会う絶好の機会でもある。危険な大会だが、その価値はあるだろう。では、参加者の募集を開始する」
「表には出すことのできない、裏の武術の使い手が集まる大会があるようだ」
「我々に匹敵する……もしくはそれ以上の存在が大会には出場しているのですね」
「へえ、すげーんだな。どこでやるんだ? 中国か?」
「いや、日本だ」
ファイヴが与那国島で知った裏武闘大会。
世界各地から集まった武の達人たちがしのぎを削る場。
正々堂々戦う者もあれば、あらゆる汚い手を使う者もいるだろう。
そしてその全てが認められるがゆえに、表に出ることの出来ない大会。
「興味があるなら詳しく調べておこう。必要なら、出場枠を確保してもいい」
そんな出来事があったのが、半月ほど前のことである。
「ファイヴ二次団体の威徳というスタッフから、『裏武闘大会』の出場チケットが渡された。出場枠は6つ。参加は自由。つまり……これは依頼ではない」
中 恭介(nCL2000002)は会議室に何人かの覚者を集め、このように説明した。
集まったのは古今東西武術にそれなりの自身がある覚者たち。そして、大会に興味を示した一握りの者たちだ。
「しかし達人武術の学習や覚者事情の調査もファイヴの仕事ではある。それに、好成績を収めれば裏社会に対しての抑止力にもなるだろう。参加は任意とし、その上で費用やサポートは我々が受け持とう。質問はあるか?」
集まった覚者の中からいくつか手が上がった。
大会の場所とそのルールはなんだというものだ。
「予選が行なわれる場所ははっきりしている。しかし、ルールは明かされていない。偶然うちの夢見が予知した情報があるから、それを元に予選に備えてくれ」
以下は夢見の予知情報である。
富士樹海青木ヶ原。日本で最も有名な樹海がその予選会場となる。
受付スポットに到着した参加者は丸いバッジを受け取り、樹海へ入るようだ。
「バッジには二桁の番号がランダムで書かれている。そして裏には、別の番号。これが意味するところは……バッジの争奪戦だ」
要するにこういうことだ。
裏に書かれたターゲット番号と同じ番号のバッジが5ポイント。
それ以外のバッジは自分のものを含めて1ポイント。
合計で6ポイントを獲得した状態で受付スポットへ帰還すれば、予選は合格となる。
「ターゲットのバッジを奪い、自分のバッジを守る。これが最短ルートだが、ターゲットでない参加者を5人倒しても同じ結果が得られる。
このルールからも分かるとおり、裏武闘大会とはオリンピックでやるような格闘スポーツじゃない。あくまで個人としての強さを競う大会だ。
よってあらゆる行為が許可されている。
術式や武器の使用、罠や毒、協力や裏切り、すべてが可能だ。
まずはこの予選に参加し、全員勝ち抜いてほしい」
獲物を探し当てる能力。
自らを守る能力。
そして何よりも戦闘力。
「自らを試す絶好の機会だ。そして、強者に出会う絶好の機会でもある。危険な大会だが、その価値はあるだろう。では、参加者の募集を開始する」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.参加PC全員の予選突破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●裏武闘大会
非公式に行なわれる裏社会の大会です。
この大会で好成績を収めることで裏社会での名声を得ることができ、道場は門下生が、暗殺者は仕事が、そして正義組織は抑止力を得ることができるのです。
参加枠は6つ。
あくまで『枠』ですので他人への譲渡が可能です。(次回飛び入り参加する方は譲渡された扱いになります)
●予選大会
・青木ヶ原樹海で行なわれるバッジの争奪戦です。
ターゲットのバッジは5ポイント。それ以外は1ポイント。
合計で6ポイント獲得して帰還できれば予選突破となります。
一番安易な作戦としては、参加PCどうしで協力して30人連続山賊プレイをすることです。索敵能力を駆使して最低限におさえる努力をすればもっと減るでしょう。
ただしその分得られる刺激は少なくなるので、参加者の『このくらいはしたい』という希望に合わせるとよいでしょう。
勿論、全員バラバラに動いて己の力量を試しても構いません。
・樹海で遭遇する敵が自分より強いか弱いか、協力者が居るか否か(そして何人か)は運次第です。
この運というのは地味に福次ステータスの『運』が補正値になっているので、自信のある方はラッキーを狙ってみてもいいかもしれません。
・スタート地点は参加者によって異なります。
よって、他の参加者とは樹海の中のどこかで出会うことになるでしょう。
・参加PCどうしがターゲットになることはありません。夢見の保証つきです。
●成功条件
このシナリオの成功条件は参加PC全員の予選突破です
いざというときはPCどうし助け合いになるでしょう。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/6
4/6
公開日
2017年09月26日
2017年09月26日
■メイン参加者 4人■

●八手老を継ぐ者たち
「カラテはただの格闘術ではない。恐るべき破壊の術が、型には隠されておる」
そう述べた老人は、まるで重力を感じないかのように樹木を駆け上っていった。
あとに残されたのは、12体の骸。
「なんだったんだ、あのじいさん……?」
『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は、自分のバッジを押さえたまま不思議そうに空を見上げた。
経緯を語るとこうだ。
大会開始直後、五人組が突如として襲いかかってきたので軽々と返り討ちにしてやったら少し強い奴が現われた。
彼が合図をすると周囲から何人もの手下が現われ、遥を取り囲んだのだ。
バッジをつけているのはリーダーらしき一人のみ。他はつけていない。既に奪われたにしては早すぎる。
いかに腕の立つ遥といえど多勢に無勢。
万事休すかと思われたその時、突然嵐が吹き荒れた。否、枝葉も草も揺れていない。人間だけが吹き飛ばされる不可視の波動が当てられたのだ。
耐えたのは遥のみ。残りの連中はその場に倒れ、既に息をしていなかった。
『おぬし素質があるのう』
そう言って現われたのは、まるで牛のような角をはやした老人だった。遥の印象で言うと、カンフー映画に出てくる仙人である。拳と掌で礼をして、ギュウシと名乗った。
『こやつは手下を事前に送り込み、後から来る参加者のバッジを奪うつもりだったようじゃ』
老人はリーダー格のバッジをはぎ取ると、遥を見た。
遥はカラテの構えをとるが……。
『ほう、カラテか。カラテはただの格闘術ではない。恐るべき破壊の術が、型には隠されておる』
そうとだけ言って、老人はその場から飛び去っていった。翼などないというのに。
「あのじいさん……ギュウシまた会う気がするぜ。とにかく、まずは合流地点に急がなくちゃな」
6つの枠を用意してもらった裏武闘大会の予選だが、希望者の都合から四人だけしか出場しなかった。
そのメンバーが、遥をはじめ、『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)、『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231)、『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)の四人である。
彼らは予選を円滑に突破するため、二人ずつ固まっての行動を予定していた。
「しかし流石は裏の大会。なんでもありさね」
樹木の間から飛んできた毒矢をキャッチすると、逝は握力だけでへし折った。
スパイ、トラップ、だまし討ち。『ポイントを持ち帰った者が予選突破』というルール以外、一切の制限がされていないことがありありと伝わってくる。
だがそんなことは、裏の世界で生きる者たちにとっては日常だ。
彼らの腕を競うという意味でいえば、制限されていない環境のほうがむしろ純粋なのだ。
「ま、この程度のミッションを突破できないようなら、最初から価値はない……と」
こんなもの、『感情探査』と『危険予知』をはたらかせている逝には、予告されたびっくり箱に過ぎない。
むき出しの殺意をもって集まってくる集団を迎え撃つ。
疾風迅雷。
黒とイエローの影が木々の間を駆け抜けた後に、無数の死体が転がる。
その繰り返しかと思われた、その時。
「その動き、知っているぞ」
逝のヘルメットが掴まれた。
それも、正面からだ。
一切の気配なく。
一切の感情なく。
一切の予備動作なく。
一切の視覚情報すら与えられず、気がついたときには逝のアイシールドが掴まれていたのだ。
「――」
普段まるで感情を動かさない彼が、珍しく、ほんとうに珍しく反射的に飛び退いた。
ヘルメットが粉砕され、転げ落ちていく。握力だけで壊したのだが、もちろんその破壊力を警戒したわけではない。
相手は白髪の男性だ。
ぴんと背筋を伸ばして立ち、漫画に出てくる執事のような風貌だ。雰囲気はよくしつけられた猟犬のようでもあり、群れを必要としない一匹狼のようでもあった。
だが警戒すべきは、彼の構えだ。
一見隙だらけに見えるその構えは……。
「システマ」
「の、発展系だ。先々代は露西亜空手と呼んでいた。私はイヴァン。貴様は……『どっち』だ?」
「なんのことだか」
先に動いたのは逝だ。
素早く近づき相手の動きを殺しにかかる。
完全に殺した筈だが、相手はまったく動じる様子が無かった。続けて投げ技を放つも、まるで遊ぶようにやわらかく足から着地してしまう。どころかこちらが逆に振り払われる始末である。
「…………」
まるで隙がない。こちらの攻撃がほとんど殺されているだけでなく、カウンターを仕掛けられている。
「あんたは、今戦うべき相手じゃあなさそうだ」
逝はゆっくりと後退して距離をとると、紳士から逃走した。紳士が追ってくることは、無かった。
奈南たちとの合流を目指し、目的地へとまっすぐ進む悠乃。
そんな彼女がぴたりと足を止めたのは、言いようのない危機感がゆえである。
「……誰かいるのかな?」
「ふむ、見破るか。そうでなくてはな」
樹木の裏から歩み出たのは、一人の老人だ。細身でしわしわで骨張った、『書道の先生』みたいな雰囲気の人だ。
だが、彼の放つ圧倒的な気配が悠乃の本能を激しく打った。
「バンリュウ ケンキと申す。ここを通るやからはどうにも手応えがなくてな、困っていた」
地面にバッジをばらまく老人、バンリュウ。
ゆうに二十枚以上は転がっているが、口ぶりからすると不意打ちで倒した連中なのだろう。
「見破ったことを賞して、先手を譲ろう。来なさい」
そう言って、バンリュウは両腕を突き出すように構えた。ワニの顎のように高く上下に開く構えだ。
「……」
悠乃は決して油断すること無く、相手を中心に円周移動を開始。
一切の隙がないのを理解すると相手の側面へ素早く飛びついた。
腕の根っこをとり、足を払って放り投げる。
空中に浮いた所で恐ろしいかぎ爪を、追撃の尾を、さらなる追撃の踵を一瞬のうちに叩き込む。
が、その全てを受けて尚、バンリュウは両足でとすんと着地。上下に腕を開いた姿勢のまま、着地した。
元々細めていた目を、より鋭くする悠乃。
何かを提案しようと口を開いた、その時。
「おおっと、獲物発見!」
金属バットをかついだ男が悠乃を指さしていた。
悠乃の番号が彼のターゲット番号なのだろう。面倒な奴が出てきたと思っていると、金属バットはバンリュウにも指をさした。
「あんたもだバンリュウ。ブレスマキモノはいただくぜ」
「んっ?」
今ものすごくカンケーのないことを言わなかったか?
などと悠乃が疑問を述べる暇も無く、辺りから続々と若者たちが現われた。
都会のカラーギャングめいた連中だが、どうにもただ者には見えない。
「ヤローども」
「「ヘイ兄貴。どうしましょう」」
若者たちが全員一斉に、異口同音に述べる。
「ジジイは殺せ。女は……うっひょイイカラダじゃん。パクれ」
「「ヘイ兄貴」」
一斉に襲いかかってくる若者たち。
悠乃は振り返りざまに炎の手刀を繰り出し、半円状に火を放つ。
一方でバンリュウも振り返り、腕の上下を入れ替えながら腰の脇に溜めるように構え――。
「龍咆拳」
前方20m範囲を平地にした。
その場にいた全員が奇妙な光の拳に薙ぎ払われ、木々も薙ぎ払われ、土も掘り返され……全部が全部、薙ぎ払われた。
「ネギシニンジャクランも地に落ちたな」
「……っべー」
金属バットは数歩後じさりして、帽子のつばを掴んだ。
「決着はまた今度だ。じゃーな!」
そう述べると、金属バットあらためネギシはすたこらと走り去っていった。
構えを解くバンリュウ。同じく悠乃。
「どうでしょう、暫く協力するのは?」
「……よかろう」
さて、所変わって時も流れてここは合流地点。
「いっちばんのりー!」
奈南はばんざいしてホッケースティックを掲げた。
「にっばんのりー!」
同じくばんざいをして現われる――知らない女性。
全体的にふわふわとした、綿毛のような女である。
「おねーさん、だれ? ナナンはねぇ、ここで待ち合わせしてるのだ」
「おねーさんはねぇ、コヒツジ エレコっていうんだよぉ? お嬢ちゃんのバッジ、おねーさんにくれないかなぁ」
過剰なほどに首を傾げ、甘えた声を出すコヒツジ。
「もしくれたらぁ……殺さないであげる」
コヒツジの目がぎらりと光った。
危ない。そう察した奈南は懐に入っていたぬいぐるみ型のフラッシュグレネードを投擲、閃光を放って爆発する。と同時に奈南の足下や服にいつのまにか付着していた無数の綿毛が爆発した。
奈南の目くらましが効いたのか、相手はその場から素早く後退。
一方で爆発のダメージをうけた奈南は物陰に隠れ、自分の元気を注入したゼリー飲料をちゅるちゅるして即座に回復をはかった。
「あれぇ? 隠れちゃったのかなぁ? ダメだよぉ、ワタシから隠れるといいことないんだよぉ? たとえばぁ……」
ころころとこぶし大の綿毛が転がってくる。
その一つが奈南の足下へやってきた。
飛び退く、と同時に爆発。
奈南はぐっと口を結んで煙たいのを我慢すると、コヒツジめがけて突撃した。
ステッキを振りかざし、強烈に叩き付ける。
競技というものは、人と人が争うために生まれたものである。
鉄の球をより遠くへ飛ばした者が領土を得る戦いだとか、馬上から弓を的確に撃った者が糧を得る戦いだとかだ。数世紀の間に競技から争いの要素が抜け、きわめて清涼な行為へと発展したが……人間のパワーを間接的にぶつけ合うという要素だけは変わっていない。
奈南の『ホッケースティックを振る』という単一の動作ですら、研ぎ澄ませば兵器となる。
「ンぐう!」
肋骨を押さえ、口の端から血を垂らすコヒツジ。
「クソがっ……しょうがないなぁ。バッジはあげる。ばいばぁい」
ピンク色の綿毛を投げ煙幕をはるコヒツジ。奈南がそれを振り払った時には、もうその場にコヒツジの姿はなかった。彼女のバッジだけが、落ちていた。
拾い上げてみると……。
「わぁ、ナナンのターゲットだ!」
奈南は大事そうにバッジをしまい込み、仲間を待った。
●コンビプレイ
合流地点に四人が集まった頃には、既に何枚かのバッジが手に入っていた。
「おっ、これ悠乃のターゲットかぁ! ラッキーだったな!」
遥は悠乃にバッジをパス。
残るバッジも『ターゲットから奪えなかった時のため』としてストックしつつ、男女2ペアを作って再び動くことにした。
悠乃は一時的に協力していたバンリュウを紹介しようとしたが、合流地点に到着した時には既に姿を消していた。
ということで、ここからはペアの行動パートである……が、今回は遥と逝のペアのみを語ることにしよう。
「皐月ちゃんも華神ちゃんもターゲットのバッジを獲得。枚数的にはあと数枚あればおっさんと鹿ノ島ちゃんも予選突破。もうちょっとだけ戦えるわよ」
「うっし、誰でも来い!」
「ほう、ならば我が相手になろう」
樹木を無駄に殴り倒して現われたのは……。
「あ、こいつ見たことある」
岩のような巨漢。
肩に巻き付けた鎖。
いかにも。
「我はトライシ ガンジョウ。トライシニンジャクランが頭目。いつかの借り、返させて貰うぞ」
ぶんぶんと鎖を振り回し始めるトライシ。
「知ってる奴が相手かー。リベンジマッチとは、チャンピオンはつらいな! おっさん、こいつは俺一人で――」
「言われなくても『そっち』は任すわよ」
遥に背を向け、刀を構える逝。
あちこちからトライシの部下にあたるニンジャたちが姿を現わしたのだ。
「雑魚はおっさんが、あのでかいのは鹿ノ島ちゃん」
「乗った!」
遥は走り、そして拳の連打を叩き込む。
対抗して鎖を放ち、拳の弾幕を払うトライシ。
「やはりだ! 貴様、誰に忍者格闘術を習った!」
「いやフツーに空手だっつーの! 知り合いに忍者とかいねーよ!」
「嘘をつけい! カラテに隠された暗号を解けるのはニンジャのみのはず。貴様は、貴様はイレギュラーだとでもいうのか!」
「よくしらねーが」
トライシの頑丈な拳をガードで止め、強大なパワーを内に込める遥。
「めっちゃ練習した。それだけだ」
拳がトライシの腹にめり込み、そして彼のバッジをはぎ取っていく。
裏返してみると、逝のターゲットナンバーだ。
「もらっとくぜ。トライシ」
よっしゃ逃げんぞと逝に呼びかけると、遥は猛ダッシュでその場を離脱した。
追いかける叫びは遠くなり、逝と遥は無事に樹海を脱出。
かくして、四人は裏武闘大会の予選を突破した。
しかし大会の中で出会った達人たち。
カラテの暗号。ニンジャの暗躍。
この大会、ただの武術大会では、終わりそうにない。
「カラテはただの格闘術ではない。恐るべき破壊の術が、型には隠されておる」
そう述べた老人は、まるで重力を感じないかのように樹木を駆け上っていった。
あとに残されたのは、12体の骸。
「なんだったんだ、あのじいさん……?」
『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は、自分のバッジを押さえたまま不思議そうに空を見上げた。
経緯を語るとこうだ。
大会開始直後、五人組が突如として襲いかかってきたので軽々と返り討ちにしてやったら少し強い奴が現われた。
彼が合図をすると周囲から何人もの手下が現われ、遥を取り囲んだのだ。
バッジをつけているのはリーダーらしき一人のみ。他はつけていない。既に奪われたにしては早すぎる。
いかに腕の立つ遥といえど多勢に無勢。
万事休すかと思われたその時、突然嵐が吹き荒れた。否、枝葉も草も揺れていない。人間だけが吹き飛ばされる不可視の波動が当てられたのだ。
耐えたのは遥のみ。残りの連中はその場に倒れ、既に息をしていなかった。
『おぬし素質があるのう』
そう言って現われたのは、まるで牛のような角をはやした老人だった。遥の印象で言うと、カンフー映画に出てくる仙人である。拳と掌で礼をして、ギュウシと名乗った。
『こやつは手下を事前に送り込み、後から来る参加者のバッジを奪うつもりだったようじゃ』
老人はリーダー格のバッジをはぎ取ると、遥を見た。
遥はカラテの構えをとるが……。
『ほう、カラテか。カラテはただの格闘術ではない。恐るべき破壊の術が、型には隠されておる』
そうとだけ言って、老人はその場から飛び去っていった。翼などないというのに。
「あのじいさん……ギュウシまた会う気がするぜ。とにかく、まずは合流地点に急がなくちゃな」
6つの枠を用意してもらった裏武闘大会の予選だが、希望者の都合から四人だけしか出場しなかった。
そのメンバーが、遥をはじめ、『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)、『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231)、『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)の四人である。
彼らは予選を円滑に突破するため、二人ずつ固まっての行動を予定していた。
「しかし流石は裏の大会。なんでもありさね」
樹木の間から飛んできた毒矢をキャッチすると、逝は握力だけでへし折った。
スパイ、トラップ、だまし討ち。『ポイントを持ち帰った者が予選突破』というルール以外、一切の制限がされていないことがありありと伝わってくる。
だがそんなことは、裏の世界で生きる者たちにとっては日常だ。
彼らの腕を競うという意味でいえば、制限されていない環境のほうがむしろ純粋なのだ。
「ま、この程度のミッションを突破できないようなら、最初から価値はない……と」
こんなもの、『感情探査』と『危険予知』をはたらかせている逝には、予告されたびっくり箱に過ぎない。
むき出しの殺意をもって集まってくる集団を迎え撃つ。
疾風迅雷。
黒とイエローの影が木々の間を駆け抜けた後に、無数の死体が転がる。
その繰り返しかと思われた、その時。
「その動き、知っているぞ」
逝のヘルメットが掴まれた。
それも、正面からだ。
一切の気配なく。
一切の感情なく。
一切の予備動作なく。
一切の視覚情報すら与えられず、気がついたときには逝のアイシールドが掴まれていたのだ。
「――」
普段まるで感情を動かさない彼が、珍しく、ほんとうに珍しく反射的に飛び退いた。
ヘルメットが粉砕され、転げ落ちていく。握力だけで壊したのだが、もちろんその破壊力を警戒したわけではない。
相手は白髪の男性だ。
ぴんと背筋を伸ばして立ち、漫画に出てくる執事のような風貌だ。雰囲気はよくしつけられた猟犬のようでもあり、群れを必要としない一匹狼のようでもあった。
だが警戒すべきは、彼の構えだ。
一見隙だらけに見えるその構えは……。
「システマ」
「の、発展系だ。先々代は露西亜空手と呼んでいた。私はイヴァン。貴様は……『どっち』だ?」
「なんのことだか」
先に動いたのは逝だ。
素早く近づき相手の動きを殺しにかかる。
完全に殺した筈だが、相手はまったく動じる様子が無かった。続けて投げ技を放つも、まるで遊ぶようにやわらかく足から着地してしまう。どころかこちらが逆に振り払われる始末である。
「…………」
まるで隙がない。こちらの攻撃がほとんど殺されているだけでなく、カウンターを仕掛けられている。
「あんたは、今戦うべき相手じゃあなさそうだ」
逝はゆっくりと後退して距離をとると、紳士から逃走した。紳士が追ってくることは、無かった。
奈南たちとの合流を目指し、目的地へとまっすぐ進む悠乃。
そんな彼女がぴたりと足を止めたのは、言いようのない危機感がゆえである。
「……誰かいるのかな?」
「ふむ、見破るか。そうでなくてはな」
樹木の裏から歩み出たのは、一人の老人だ。細身でしわしわで骨張った、『書道の先生』みたいな雰囲気の人だ。
だが、彼の放つ圧倒的な気配が悠乃の本能を激しく打った。
「バンリュウ ケンキと申す。ここを通るやからはどうにも手応えがなくてな、困っていた」
地面にバッジをばらまく老人、バンリュウ。
ゆうに二十枚以上は転がっているが、口ぶりからすると不意打ちで倒した連中なのだろう。
「見破ったことを賞して、先手を譲ろう。来なさい」
そう言って、バンリュウは両腕を突き出すように構えた。ワニの顎のように高く上下に開く構えだ。
「……」
悠乃は決して油断すること無く、相手を中心に円周移動を開始。
一切の隙がないのを理解すると相手の側面へ素早く飛びついた。
腕の根っこをとり、足を払って放り投げる。
空中に浮いた所で恐ろしいかぎ爪を、追撃の尾を、さらなる追撃の踵を一瞬のうちに叩き込む。
が、その全てを受けて尚、バンリュウは両足でとすんと着地。上下に腕を開いた姿勢のまま、着地した。
元々細めていた目を、より鋭くする悠乃。
何かを提案しようと口を開いた、その時。
「おおっと、獲物発見!」
金属バットをかついだ男が悠乃を指さしていた。
悠乃の番号が彼のターゲット番号なのだろう。面倒な奴が出てきたと思っていると、金属バットはバンリュウにも指をさした。
「あんたもだバンリュウ。ブレスマキモノはいただくぜ」
「んっ?」
今ものすごくカンケーのないことを言わなかったか?
などと悠乃が疑問を述べる暇も無く、辺りから続々と若者たちが現われた。
都会のカラーギャングめいた連中だが、どうにもただ者には見えない。
「ヤローども」
「「ヘイ兄貴。どうしましょう」」
若者たちが全員一斉に、異口同音に述べる。
「ジジイは殺せ。女は……うっひょイイカラダじゃん。パクれ」
「「ヘイ兄貴」」
一斉に襲いかかってくる若者たち。
悠乃は振り返りざまに炎の手刀を繰り出し、半円状に火を放つ。
一方でバンリュウも振り返り、腕の上下を入れ替えながら腰の脇に溜めるように構え――。
「龍咆拳」
前方20m範囲を平地にした。
その場にいた全員が奇妙な光の拳に薙ぎ払われ、木々も薙ぎ払われ、土も掘り返され……全部が全部、薙ぎ払われた。
「ネギシニンジャクランも地に落ちたな」
「……っべー」
金属バットは数歩後じさりして、帽子のつばを掴んだ。
「決着はまた今度だ。じゃーな!」
そう述べると、金属バットあらためネギシはすたこらと走り去っていった。
構えを解くバンリュウ。同じく悠乃。
「どうでしょう、暫く協力するのは?」
「……よかろう」
さて、所変わって時も流れてここは合流地点。
「いっちばんのりー!」
奈南はばんざいしてホッケースティックを掲げた。
「にっばんのりー!」
同じくばんざいをして現われる――知らない女性。
全体的にふわふわとした、綿毛のような女である。
「おねーさん、だれ? ナナンはねぇ、ここで待ち合わせしてるのだ」
「おねーさんはねぇ、コヒツジ エレコっていうんだよぉ? お嬢ちゃんのバッジ、おねーさんにくれないかなぁ」
過剰なほどに首を傾げ、甘えた声を出すコヒツジ。
「もしくれたらぁ……殺さないであげる」
コヒツジの目がぎらりと光った。
危ない。そう察した奈南は懐に入っていたぬいぐるみ型のフラッシュグレネードを投擲、閃光を放って爆発する。と同時に奈南の足下や服にいつのまにか付着していた無数の綿毛が爆発した。
奈南の目くらましが効いたのか、相手はその場から素早く後退。
一方で爆発のダメージをうけた奈南は物陰に隠れ、自分の元気を注入したゼリー飲料をちゅるちゅるして即座に回復をはかった。
「あれぇ? 隠れちゃったのかなぁ? ダメだよぉ、ワタシから隠れるといいことないんだよぉ? たとえばぁ……」
ころころとこぶし大の綿毛が転がってくる。
その一つが奈南の足下へやってきた。
飛び退く、と同時に爆発。
奈南はぐっと口を結んで煙たいのを我慢すると、コヒツジめがけて突撃した。
ステッキを振りかざし、強烈に叩き付ける。
競技というものは、人と人が争うために生まれたものである。
鉄の球をより遠くへ飛ばした者が領土を得る戦いだとか、馬上から弓を的確に撃った者が糧を得る戦いだとかだ。数世紀の間に競技から争いの要素が抜け、きわめて清涼な行為へと発展したが……人間のパワーを間接的にぶつけ合うという要素だけは変わっていない。
奈南の『ホッケースティックを振る』という単一の動作ですら、研ぎ澄ませば兵器となる。
「ンぐう!」
肋骨を押さえ、口の端から血を垂らすコヒツジ。
「クソがっ……しょうがないなぁ。バッジはあげる。ばいばぁい」
ピンク色の綿毛を投げ煙幕をはるコヒツジ。奈南がそれを振り払った時には、もうその場にコヒツジの姿はなかった。彼女のバッジだけが、落ちていた。
拾い上げてみると……。
「わぁ、ナナンのターゲットだ!」
奈南は大事そうにバッジをしまい込み、仲間を待った。
●コンビプレイ
合流地点に四人が集まった頃には、既に何枚かのバッジが手に入っていた。
「おっ、これ悠乃のターゲットかぁ! ラッキーだったな!」
遥は悠乃にバッジをパス。
残るバッジも『ターゲットから奪えなかった時のため』としてストックしつつ、男女2ペアを作って再び動くことにした。
悠乃は一時的に協力していたバンリュウを紹介しようとしたが、合流地点に到着した時には既に姿を消していた。
ということで、ここからはペアの行動パートである……が、今回は遥と逝のペアのみを語ることにしよう。
「皐月ちゃんも華神ちゃんもターゲットのバッジを獲得。枚数的にはあと数枚あればおっさんと鹿ノ島ちゃんも予選突破。もうちょっとだけ戦えるわよ」
「うっし、誰でも来い!」
「ほう、ならば我が相手になろう」
樹木を無駄に殴り倒して現われたのは……。
「あ、こいつ見たことある」
岩のような巨漢。
肩に巻き付けた鎖。
いかにも。
「我はトライシ ガンジョウ。トライシニンジャクランが頭目。いつかの借り、返させて貰うぞ」
ぶんぶんと鎖を振り回し始めるトライシ。
「知ってる奴が相手かー。リベンジマッチとは、チャンピオンはつらいな! おっさん、こいつは俺一人で――」
「言われなくても『そっち』は任すわよ」
遥に背を向け、刀を構える逝。
あちこちからトライシの部下にあたるニンジャたちが姿を現わしたのだ。
「雑魚はおっさんが、あのでかいのは鹿ノ島ちゃん」
「乗った!」
遥は走り、そして拳の連打を叩き込む。
対抗して鎖を放ち、拳の弾幕を払うトライシ。
「やはりだ! 貴様、誰に忍者格闘術を習った!」
「いやフツーに空手だっつーの! 知り合いに忍者とかいねーよ!」
「嘘をつけい! カラテに隠された暗号を解けるのはニンジャのみのはず。貴様は、貴様はイレギュラーだとでもいうのか!」
「よくしらねーが」
トライシの頑丈な拳をガードで止め、強大なパワーを内に込める遥。
「めっちゃ練習した。それだけだ」
拳がトライシの腹にめり込み、そして彼のバッジをはぎ取っていく。
裏返してみると、逝のターゲットナンバーだ。
「もらっとくぜ。トライシ」
よっしゃ逃げんぞと逝に呼びかけると、遥は猛ダッシュでその場を離脱した。
追いかける叫びは遠くなり、逝と遥は無事に樹海を脱出。
かくして、四人は裏武闘大会の予選を突破した。
しかし大会の中で出会った達人たち。
カラテの暗号。ニンジャの暗躍。
この大会、ただの武術大会では、終わりそうにない。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『ボマーマキモノ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:皐月 奈南(CL2001483)
『ペイシエンスマキモノ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鹿ノ島・遥(CL2000227)
『レジェンドマキモノ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:華神 悠乃(CL2000231)
『ハウリングマキモノ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:緒形 逝(CL2000156)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:皐月 奈南(CL2001483)
『ペイシエンスマキモノ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鹿ノ島・遥(CL2000227)
『レジェンドマキモノ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:華神 悠乃(CL2000231)
『ハウリングマキモノ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:緒形 逝(CL2000156)
