その刀 人を喰らいて悦ばん
●悲劇とそれを上回る惨劇
因子発現した人間にとって、ただの扉などあって無きが如く。技能で鍵を開けるか、力でこじ開けるか、守護使役に処理させるか。それぞれだ。
湖の麓にある一軒家。そこに車が止まり、二人の男が近づいていく。無造作に扉に手をかけ、ピッキングマンを使って扉を開けた。
「兄貴ィ、勝手に入って大丈夫なんですか?」
「おうよ、調べはついてる。ここは金持ちの別荘でこの時期は管理人も近寄らないんだ。少し派手に騒いでも誰も来ねぇよ」
「さすが兄貴ィ! へっへっへ、そういう事なんで諦めなぁ。大人しくしてればキモチよくシテやるぜ」
男の一人は車の中にいる女性に話しかける。突然拉致されて、縄で縛られて震える女。能力者二人に抗う術はない。ただ涙を流し、これから起こるであろう凌辱を想像して絶望の表情を浮かべていた。
だが、その想像を超える事態が起きた。。
「なんだテメェは……!? ぐわぁ!」
「ど、どうしたんですか、兄貴ィ!?」
突如響いた悲鳴に驚く男。兄貴と呼ばれた男は一刀に伏し、地面に転がっている。その傍には毛むくじゃらの老人が立っていた。魚の皮で作った粗末な衣服と、血に濡れた刀。兄貴と呼ばれた男を切り裂いたのもそれだろう。
「よ、よくも兄貴を! ……や、やめろ、こっちに来るんじゃねぇ! うあああああああ!」
自分を攫った男が斬られて倒れるのを、女は車の窓ごしに見ていた。
(助かった……の?)
だがそれは間違いだと気付く。老人は刀を振るって血を払うと、車の扉を開けて女を引きずり出した。手足を縛られ猿轡をかまされた状態で、悲鳴を上げることもできずに地面を転がる女。
女が最後に見た光景は、雲一つない秋空とよく斬れそうな刀の切っ先だった。そしてそれが自分に振り下ろされ――
●FiVE
「凶悪な古妖の退治です」
久方 真由美(nCL2000003)は集まった覚者を前に真剣な面持ちで説明を開始する。
「古妖の名前はオハチスエ。アイヌの古妖です」
なじみのない名前に首をひねる覚者達。
「人がいない空き家に住む古妖で、性格は凶暴。手にした刀で多くの人や獣を斬ると言われています。また人の動作を真似るとも言われ、人間が使う体術を使用するそうです」
樺太に住むアイヌ民族は狩猟民族だ。狩りに出れば数日間家を空けることもあるし、冬季は海から離れて山間に移り、暖を取る為に家を空ける。そういった家に勝手に住み付くという古妖だ。
「既に三名の犠牲者が出ています。ここで逃がせば更なる被害が出るでしょう。
和解の道はありません」
ぴしゃり、と真由美は言い放つ。空き家に住まい、そこを訪れれば殺す古妖。殺すということに良心の呵責を覚えない存在を放置することはできない。
何よりも手加減が許される相手ではない。その強さもあるが下手に説得をすれば、改心したふりをして逃げられるか背中から斬られるだろう。それだけの知恵もある。
高い実力と覚悟。覚者達は言外にそれを求められていた。
因子発現した人間にとって、ただの扉などあって無きが如く。技能で鍵を開けるか、力でこじ開けるか、守護使役に処理させるか。それぞれだ。
湖の麓にある一軒家。そこに車が止まり、二人の男が近づいていく。無造作に扉に手をかけ、ピッキングマンを使って扉を開けた。
「兄貴ィ、勝手に入って大丈夫なんですか?」
「おうよ、調べはついてる。ここは金持ちの別荘でこの時期は管理人も近寄らないんだ。少し派手に騒いでも誰も来ねぇよ」
「さすが兄貴ィ! へっへっへ、そういう事なんで諦めなぁ。大人しくしてればキモチよくシテやるぜ」
男の一人は車の中にいる女性に話しかける。突然拉致されて、縄で縛られて震える女。能力者二人に抗う術はない。ただ涙を流し、これから起こるであろう凌辱を想像して絶望の表情を浮かべていた。
だが、その想像を超える事態が起きた。。
「なんだテメェは……!? ぐわぁ!」
「ど、どうしたんですか、兄貴ィ!?」
突如響いた悲鳴に驚く男。兄貴と呼ばれた男は一刀に伏し、地面に転がっている。その傍には毛むくじゃらの老人が立っていた。魚の皮で作った粗末な衣服と、血に濡れた刀。兄貴と呼ばれた男を切り裂いたのもそれだろう。
「よ、よくも兄貴を! ……や、やめろ、こっちに来るんじゃねぇ! うあああああああ!」
自分を攫った男が斬られて倒れるのを、女は車の窓ごしに見ていた。
(助かった……の?)
だがそれは間違いだと気付く。老人は刀を振るって血を払うと、車の扉を開けて女を引きずり出した。手足を縛られ猿轡をかまされた状態で、悲鳴を上げることもできずに地面を転がる女。
女が最後に見た光景は、雲一つない秋空とよく斬れそうな刀の切っ先だった。そしてそれが自分に振り下ろされ――
●FiVE
「凶悪な古妖の退治です」
久方 真由美(nCL2000003)は集まった覚者を前に真剣な面持ちで説明を開始する。
「古妖の名前はオハチスエ。アイヌの古妖です」
なじみのない名前に首をひねる覚者達。
「人がいない空き家に住む古妖で、性格は凶暴。手にした刀で多くの人や獣を斬ると言われています。また人の動作を真似るとも言われ、人間が使う体術を使用するそうです」
樺太に住むアイヌ民族は狩猟民族だ。狩りに出れば数日間家を空けることもあるし、冬季は海から離れて山間に移り、暖を取る為に家を空ける。そういった家に勝手に住み付くという古妖だ。
「既に三名の犠牲者が出ています。ここで逃がせば更なる被害が出るでしょう。
和解の道はありません」
ぴしゃり、と真由美は言い放つ。空き家に住まい、そこを訪れれば殺す古妖。殺すということに良心の呵責を覚えない存在を放置することはできない。
何よりも手加減が許される相手ではない。その強さもあるが下手に説得をすれば、改心したふりをして逃げられるか背中から斬られるだろう。それだけの知恵もある。
高い実力と覚悟。覚者達は言外にそれを求められていた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.オハチスエの打破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
北の国からこんにちは。
●敵情報
・オハチスエ(×1)
古妖。全身毛むくじゃらの翁です。魚の皮で作られた衣服と鋭い刀を持ち、人畜を殺し続けています。また人が使う体術も使うようです。
人語を解しますが、共存はできません。和解の最低ラインが『定期的に人を殺させろ』と思ってください。相応の知識を持ち、戦闘でもそれを存分に発揮します。
攻撃方法
ウェンペタシロ 物近列 手にした刀で斬りかかってきます。【二連】
スルクク 特遠単 毒の矢じりを放ちます。【猛毒】
ウパシルヤンペ 特近全 吹雪を降らせ、動きを封じます。【ダメージ0】【凍傷】
ヌイトノト 自付 高濃度のアルコールを呑み、高揚します。物攻特攻上昇、速度回避減少。
イペタム 物近単 血を吸う度に力を増す人食刀。善人には使用できない。【HP回復100】【二連】【未解】
戦巫女之祝詞 遠味単 同名のスキル参照。
命力翼賛 遠味単 同名のスキル参照。
●場所情報
湖近くの一軒家。金持ちの別荘だとか。OPで殺された三人の死体が転がっています。
時刻は昼。広さや足場は戦闘に支障なし。
戦闘開始時、覚者との距離は一〇メートルとします。また、事前行動(集中や付与など)は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
6/8
公開日
2017年09月21日
2017年09月21日
■メイン参加者 6人■

●
地面に転がる骸三つ。それのどれもが多くの刀傷が残されている。急所と呼ばれる人体の弱点ともいえる場所への傷は一カ所のみ。それ以外は斬られても痛みこそ感じるが致命的ではない場所ばかり。
それは加害者が被害者をいたぶるように攻撃した証。被害者が苦痛に歪み、悲鳴を上げ、もがき、苦しみ、許しを請い、そして徐々に力尽きていく様を楽しんでいた証。特に最後に殺されたであろう女性は、初めから抵抗できなかったことも踏まえて見るに堪えない姿になっていた。
「鬼畜外道の『同類』……相手するのに良心の呵責も必要ねェなら思う存分首を狩れるなァ!」
その遺体とそれを生み出した加害者を見て、『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)はにたりと笑みを浮かべた。友人の手前猫を被っていたが、今回はその必要はない。相手は人を殺す古妖だ。容赦の必要はない。
「この古妖がヤバイ奴や言うのはよう解った。こんなん野放しにする訳にはいかんわな」
赤く濡れた刀を見て『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は肩をすくめた。アイヌの文化はよくわからないが、はオハチスエの残虐性は理解できる。こんな殺し方をする存在を放置すれば、悲劇は増えていく。ここで燃やし尽くさなければ。
「恐らく人に手をかけることを悪いとは考えていないんだろうなぁ」
ため息を吐くように『癒しの矜持』香月 凜音(CL2000495)は言葉を放った。確かに古妖と人間の倫理観や常識は異なるのだろう。だが殺人を許容するわけにはいかない。そしてそれを止めることが出来るのなら、凜音は危険を冒してでも止めなくてはいけない。
「ウフフ……凶暴かつ殺しを好む鬼畜外道。ああ、素敵な理想的な復讐相手ね」
オハチスエの殺し方を見て、興奮するように『復讐兎は夢を見る』花村・鈴蘭(CL2001625)は身を震わせた。残忍かつ冷酷。相手は絵にかいたような悪党の古妖だ。散々嬲り殺された女性の遺体を見て、目を細くする鈴蘭。言葉なく殺意を載せて古妖を見る。
「悪いね爺さん。人間を殺すのが生きがいってぇなら、人間側としちゃあんたを殺すっきゃないんだわ」
『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)のセリフは、人の立場としての代弁だった。殺す、という言葉に恐怖をさらりと告げる遥。戦いにおいて怪我は付き物で、その延長線で死も存在する。戦いに身を置く以上、その覚悟はあった。殺すのも殺されるのも。
「いやはや嬉しいねえ。漸くヒトを喰べても良い依頼に当たったさね」
神具を撫でながら『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)は笑うように告げる。フルフェイスに隠された表情は誰にもわからない。だが武器を抜く所作から喜んでいるように見えた。『人を食べる』相手に親近感に近い何かを感じたような、そんな喜び。
「六つか。食いでがありそうだな」
言って刀を振るい、血を払うオハチスエ。覚者六人を侮った様子はない。こちらの事情を察し、そのうえで挑んでいるのだ。相応の自信とそして実力があることは間違いない。その上で逃げることなく刃を構える。
戦いの合図は何だっただろうか。
気が付けば覚者と古妖は距離を詰め、神具と刀を交差させていた。
●
「アハハハ! 久々に殺しが楽しめるんだ……派手に暴れようか!」
刀を手に嗤いながら直斗が突撃する。己の中にある別人格の『ジャバウォック』を強制的に引き出し、戦闘力を増幅させる。同時に倫理観が薄れ、殺人に対する垣根が消え去った。躊躇いがない分、踏み込みも強い。
刃に木の源素で作った毒を塗りこみ、オハチスエに向かって振るう。僅かな切り口から入った毒はオハチスエの動きを鈍らせる。驚く相手の顔と鈍った動きを見て、『ジャバウォック』の表情がくしゃりと歪む。愉悦に満ちた嗤いの顔に。
「僕と同じ殺しが好きな癖にこんな攻撃も避けれないの? アハハハ! その刀は唯の飾りなんだね! 笑っちゃうよ」
「ああ、大笑いだ。殺しが好きなくせに殺す前から笑うとはな。その刀はなまくらか」
「言うじゃないか。だったら殺してやるよ!」
「はいはい。挑発に乗らない」
突出しようとする直斗を諫める鈴蘭。迂闊に挑発に乗って踏み込めば、そこを狙われていただろう。殺人の人格を表に出す直斗を見て、昔を思い出す。一時共闘し、同棲していたあの頃を。まさか神秘解明組織で肩を並べることになろうとは思いもしなかった。
意識を戦闘に戻し、戦局を見る。オハチスエの戦い方は吹雪で動きを封じてから刀を振るって戦う形式だ。だがそうはさせまいと自らの気を練り上げて、仲間達に分け与える。体力を回復すると同時に、吹雪による拘束を解除していく。
「ウフフ……貴方がいくら狡猾に攻めようとも、私がいくらでも仲間を回復するわ」
「その分多く斬れるわけか。ありがたいな」
「言ってなさい。これは復讐。貴方に殺された哀れな女性に捧げる復讐ですもの」
「おう。吹雪と毒解除は任せた! そりゃもう、バニーさんのおっぱい見てたら元気になるだろ男なら!」
色々元気に遥が叫ぶ。まあ中衛の遥が後衛の鈴蘭の胸を見ようとすると、必然的に敵から目を逸らすわけだから無理なのですが。ともあれ回復は仲間に任せ、自分は敵を叩く。この役割分担こそが人間の強みだと拳を握った。
足を半歩開き、拳を握る。体の中心を意識して、そこを回転軸にするように拳を振るう。大切なのは基本の形。何度も繰り返してきた空手の動きと覚者としてに身体能力。それが組み合わさった遥の一撃が、オハチスエの胸部を穿つ。
「ぶっ潰させてもらうぜ。刀ジジイ。人間との共存は無理のようだしな!」
「共存はできるぞ。狩人と獲物の関係でな」
「狩られてたまるか! 人間舐めんなよ!」
「アイヌ的な共存なんだろうな、それは」
オハチスエの言葉にため息を吐くように凜音が答える。アイヌの文化には詳しくないが、狩猟民族的な狩る者と狩られる者の関係はなんとなく理解できる。アイヌ民族は狩る対象に敬意を払うが、オハチスエは人間に敬意を払うようには見えない。
『錬丹書』を開き、水の源素を展開する。相手の持つ技に注意を払いながら、仲間を癒す為に術を練り上げた。仲間の状態をしっかり見て、源素を含んだ水を雨のように降らせる。癒しの水は霧雨となって、傷を冷やしながら癒していく。
「理解できないな。人を殺して何とも思わないというのは」
「理解できぬな。人を殺すことが何故悪い? 命はいずれ死ぬのだろうが」
「オーケー。理解できないってことが分かった」
「昔の剣術家とかそないな考えやったんやろうなぁ」
今より昔、剣術が多く流布していた時代のころを思いながら凛は思う。倫理は時代によって変わるもの。その時代からすれば剣術は殺しの術だ。どれだけ斬ったかが強さの証となる。今は時代を変え、しかし別の形で強さを誇れる。それを見せてやろう。
翻るオハチスエの二連撃を、凛は三連撃で返す。相手の剣は剣術と呼ばれる精錬された技ではない。人を殺すことで学んだ殺人術だ。だが侮ることはできない。一撃一撃が鋭く、そして重い。気を緩めれば急所を一刺しされてしまうだろう。
「ほんまはしっこいなぁ。毛玉のくせに動き速すぎやで」
「どうした。腹が減って動きがのろいのか、小童」
「はっ! やったら焔陰流の真髄、見せたるわ!」
「あははははは。剣術を見せるのは任せるよ。おっさんは人喰いをみせようかな」
『直刀・悪食』を手に逝が吼える。意図的にヒトとしての理性を外し、妖刀の衝動のままに身を動かす。骨がきしみ。血は沸騰し、体のいたるところから痛みの信号が脳に届く。それら全てを無視し、ただヒトを喰らうという衝動に身を委ねていく。
交差する逝の刀とオハチスエの刀。人を喰らう『悪食』と血を吸うオハチスエの刀。共に暴食。共に餓鬼。喰らうがままに食らう破滅を呼ぶ刀。嗤っているのは人か古妖か、それとも刀か。唾競り合いならぬ喰らい合い。
「イペが『喰う』で、タムが『刀』だったかな。悪食や、お友だちでしょ?」
「ああ、似ている。似ているなぁ。だったら――」
「「お前を喰らえばさぞ満足するだろうよ」」
同じ言葉を放つ逝とオハチスエ。
殺しを楽しむ者と、殺しを許さぬ者。それぞれの思いがそれぞれの武器に乗って交差する。
●
覚者達はオハチスエの攻撃を分散させるように傷ついた前衛が中衛と交代という形で戦っていた。前衛でブロックしているため中衛には刃は届かない。その間に傷を癒し、体力を回復させようという算段だ。
だが逆に言えば、下がったということは体力が厳しくなったという証左でもある。中衛に下がった相手に向けて、オハチスエは毒の弓を放った。一人ずつ倒していくつもりのようだ。
「ちょっとこれキツイで!」
「ははははは。まだまだ食い足りないぞう」
後ろに下がった凛に毒の矢が突き刺さり、下がることなく斬り合い続ける逝が命数を削られる。
「悪人にしか使用できない技なら……僕の為にある技だよね! 遠慮なく盗ませて有効活用してあげるよ」
「善人が如何とかは知らんが……血と言わず肉も骨も、魂も残さず喰べるさね」
オハチスエの刀技を見て盗もうとする直斗と逝。太刀筋は見える。斬られた感触も痛感できる。だが――
「業が足りんな。もっと悪行を重ねてきな!」
オハチスエの悪行――己の楽しみだけの為に殺し、それを喰らおうとする傲慢さには届かない。他者の命を喰らおうとする我欲。それを盗むには二人はまだ心が清楚だった。
「コイツでどうだ! 血を吸って回復なんざさせねぇぜ!」
遥は真っ直ぐに拳を突き出し、オハチスエの腹部を打つ。インパクトの瞬間に拳をねじり、体内の『気』の循環を乱した。そうすることで体力を回復させないようにして、血を吸う刀による継戦能力を奪っていく。
「小僧。うざってぇ打ち方しやがるなぁ!」
「こっちはいろんな闘い経験しているんだ。空手の神髄見せてやる!!」
「こりゃ殺人鬼の感情っていうよりは、人間を狩っているっていう感じだね」
オハチスエと斬り合いながら、逝は相手の感情を探っていた。色濃く見えた感情は喜びと、無関心。作業に集中している時の感情状態だ。オハチスエにとっては人も獣も等しく狩るもの。そしてその血を喰らい生きている。逝とは違った形の悪食だ。
「人を殺したいんじゃなく、偶々すんでいる所に人が来たから狩った、って所か」
「ああ、ついてるぜ。こんなにやってきてくれるとはな!」
「ま、かといってほっとける相手ではないけどな!」
刀を振るいながら凛が叫ぶ。今まで培ってきた焔陰流の動き。それは二十一代にかけて継承され続けてきた人間の歩み。それを受け継いだ凛の刀がオハチスエを捕らえる。この古妖は放置できない。その気迫を載せて刀を握りなおした。
「焔陰流、連獄波……からの煌焔!」
「チッ、獰猛な獲物だな! 大人しくしやがれ!」
「ほらほらほら! もっと早く避けないと首狩っちまいぜ!」
せせら笑うように『ジャバウォック』が刀を振るう。あるのはただ目の前の古妖を殺したいという意志だけ。殺しに酔う狂戦士。理性はあれど倫理はなく、殺人衝動を色濃く刀に乗せて振るう。リミッターが外れた動きがオハチスエを追い詰める。
「もっと殺意出してみなよ! ほらぁ、僕の心臓はここにあるよぉ。狙えるものなら狙ってみなぁ! ギャハハハ!」
「はしっこいウサギが! 足折って逆さ吊りにしてやる!」
「それはこちらのセリフ。縛ってくびり殺してあげるわ」
仲間の傷を癒しながら、その合間にオハチスエの機動力を削ぐ鈴蘭。蔦で動きを止め、閃光弾で視覚と聴覚を封じる。殺された者の復讐を。オハチスエに殺された三人と面識はないが、復讐を果たすのが鈴蘭の目的。だけど、鈴蘭自身の復讐は――
(そう。復讐。姉を殺された復讐。でもその復讐は終わって――なら次の復讐を――そう。復讐が全て終われば幸せになる。だから殺そう。幸せになる為に復讐を――)
「狩る者はいつか狩られる。それが今だ」
仲間を癒しながら凜音がオハチスエに告げる。味方の傷の具合を計りながら、相手をスキャンして残りの体力を調べる。血吸い刀による回復が制限されているため、オハチスエは確かに追い詰められていた。
だが――追い詰められているとはいえオハチスエの刃は健在だ。
「ハッ! そう簡単に狩られてたまるか!」
「クソがぁ! 黙って僕に殺されろ!」
「コイツは厳しいね。おっさん少し休むわ」
オハチスエの刀に斬られて『ジャバウォック』が命数を削られ、逝が意識を失う。
「暴力坂のおっさん! ちょっと技使わせてもらうぜ!」
同じく命数を削られた遥が体内の気を爆発的に増幅させる。フルスロットで力を放ち、一撃の力を高めるつもりだ。だがこれで倒せなければ、力が抜けて動けなくなる諸刃の技。
「せい!」
――一撃。オハチスエの顔が歪む。
「せりゃ!」
――二撃。オハチスエの身体が折れる。
「とりゃぁ!」
――三撃。オハチスエの膝が折れる。そして、
「ちくしょう……ここまでか」
悔し気に声をあげて尻餅をついたのは、遥のほうだった。技の反動で体が動かなくなる。そしてそこを見逃すほどオハチスエは甘くない。振るった一刀が遥の意識を刈り取る。
「隙あり! とっととくたばれ!」
だが攻撃の隙を見逃すことなく、凛が刀を振るう。叩きつけるような一撃がオハチスエの背中を裂いた。よろめくように数歩下がる古妖に『ジャバウォック』が迫る。
「どうしたの? 苦しいなら命乞いでもする? もしかしたら許してもらえるかもしれないよ?」
「そんな気がないくせにほざくな、小童」
「アハハハハ! 当然だよ。糞野郎は死ね!」
『ジャバウォック』は殺意をむき出しにして戦う。速度を載せた一撃。しかし消耗の激しい技を連発しすぎたのだろう。息は上がり、隙が生まれる。そこにオハチスエの刃が振るわれた。ぐらり、と直斗の体が揺れる。そのまま地に落ちた。
「久しぶりに『表』に出れたのに……くそ!」
意識を失う『ジャバウォック』。姉の名を持つ妖刀がからりと落ちた。
「――まずいわね」
飛んでくる毒の矢に命数を削られ、鈴蘭は唇をかむ。回復の手を緩める余裕はない。前衛で行動できるのは凛一人。凜の命数は既に削られ、傷もけして楽観できるものではない。回復を緩めれば前衛が崩壊し、一気に瓦解する。
「だが相手も瀕死だ」
冷静に凜音は呟く。相手の体力は把握している。こちらの消耗も激しいが、相手も同じぐらいに傷ついている。この情報がなければ、凜音も撤退を視野に入れていただろう。そして、相手の体力と性格を考えていたからこそ分かる事もある。
「――っち!」
「あ、逃げるんか!?」
不利を悟ったオハチスエは背を向けて逃亡を図る。その背中に凜が斬りかかるが、致命傷には僅かに届かない。そのままオハチスエは走り去り――
「か弱い回復役なのに、最近荒っぽいことが増えてきたよなー」
逃亡を予測していた凜音に回り込まれていた。足を止めて別方向に逃げようとするが、その背後に鈴蘭が迫る。
「この復讐に泥を付ける事は許さないわ」
鈴蘭の『ネメシス』がオハチスエの足を傷つける。後衛に徹してサポートをするつもりだったが、ここで攻めなければ負けるとばかりに神具を突き立てた。そこに、
「これで終いや!」
凛の刀がオハチスエの胸を突く。限界まで燃やした体内の焔。それがひときわ大きく輝いた。
「こんな小童如きに……。く、そ……ヤキが回った……か」
最後まで悪態をつきながら、アイヌの古妖は力尽きた。
●
「ほんまとんでもない奴やな」
もう動かないオハチスエを見ながら、凛が口を開く。六人中三名が戦闘不能になり、命数を削られていないのは凜音のみ。一手間違えれば全滅もありえただろう。
「あの三連撃に耐えたか。やっぱ古妖は強いな」
意識を取り戻した遥はオハチスエの強さを思い出す。戦うことが好きな彼にとって、勝敗よりも相手の強さそのものに興味がわく。拳を握り、脳内で戦いを反芻していた。
「武器自体はただの山刀――アイヌマキリか。よく斬れそうだが、妖刀ってほどでもないな」
オハチスエが持っていた刀を鑑定する逝。だが特別なことはない普通の物だった。山登りの時にでも使えるだろうか、と思いながら懐に収める。
「…………」
鈴蘭と直斗は巻き込まれた女性の為に瞑目していた。殺される寸前に間に合えば、苦痛なくあの世に行けたかもしれない。無意味とはわかっていても鈴蘭は哀悼の歌を歌った。既に亡くなっているが、この歌が安らぎになれば。
「弔ってやるか。その前に警察かな」
凜音はオハチスエに殺された三人を弔おうとする。遺体の瞳を閉ざし、苦悶に歪んだ表情を和らげる。あとはFiVEのスタッフが警察などの事後処理をやってくれるだろう。
人を狩る古妖は倒れた。これより未来にオハチスエによる犠牲者はいなくなる。
人と相容れない古妖はいる。しかしそれから人を護る者も確かにいるのだ。
そして今日もまた、覚者達は戦いに出る――
地面に転がる骸三つ。それのどれもが多くの刀傷が残されている。急所と呼ばれる人体の弱点ともいえる場所への傷は一カ所のみ。それ以外は斬られても痛みこそ感じるが致命的ではない場所ばかり。
それは加害者が被害者をいたぶるように攻撃した証。被害者が苦痛に歪み、悲鳴を上げ、もがき、苦しみ、許しを請い、そして徐々に力尽きていく様を楽しんでいた証。特に最後に殺されたであろう女性は、初めから抵抗できなかったことも踏まえて見るに堪えない姿になっていた。
「鬼畜外道の『同類』……相手するのに良心の呵責も必要ねェなら思う存分首を狩れるなァ!」
その遺体とそれを生み出した加害者を見て、『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)はにたりと笑みを浮かべた。友人の手前猫を被っていたが、今回はその必要はない。相手は人を殺す古妖だ。容赦の必要はない。
「この古妖がヤバイ奴や言うのはよう解った。こんなん野放しにする訳にはいかんわな」
赤く濡れた刀を見て『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は肩をすくめた。アイヌの文化はよくわからないが、はオハチスエの残虐性は理解できる。こんな殺し方をする存在を放置すれば、悲劇は増えていく。ここで燃やし尽くさなければ。
「恐らく人に手をかけることを悪いとは考えていないんだろうなぁ」
ため息を吐くように『癒しの矜持』香月 凜音(CL2000495)は言葉を放った。確かに古妖と人間の倫理観や常識は異なるのだろう。だが殺人を許容するわけにはいかない。そしてそれを止めることが出来るのなら、凜音は危険を冒してでも止めなくてはいけない。
「ウフフ……凶暴かつ殺しを好む鬼畜外道。ああ、素敵な理想的な復讐相手ね」
オハチスエの殺し方を見て、興奮するように『復讐兎は夢を見る』花村・鈴蘭(CL2001625)は身を震わせた。残忍かつ冷酷。相手は絵にかいたような悪党の古妖だ。散々嬲り殺された女性の遺体を見て、目を細くする鈴蘭。言葉なく殺意を載せて古妖を見る。
「悪いね爺さん。人間を殺すのが生きがいってぇなら、人間側としちゃあんたを殺すっきゃないんだわ」
『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)のセリフは、人の立場としての代弁だった。殺す、という言葉に恐怖をさらりと告げる遥。戦いにおいて怪我は付き物で、その延長線で死も存在する。戦いに身を置く以上、その覚悟はあった。殺すのも殺されるのも。
「いやはや嬉しいねえ。漸くヒトを喰べても良い依頼に当たったさね」
神具を撫でながら『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)は笑うように告げる。フルフェイスに隠された表情は誰にもわからない。だが武器を抜く所作から喜んでいるように見えた。『人を食べる』相手に親近感に近い何かを感じたような、そんな喜び。
「六つか。食いでがありそうだな」
言って刀を振るい、血を払うオハチスエ。覚者六人を侮った様子はない。こちらの事情を察し、そのうえで挑んでいるのだ。相応の自信とそして実力があることは間違いない。その上で逃げることなく刃を構える。
戦いの合図は何だっただろうか。
気が付けば覚者と古妖は距離を詰め、神具と刀を交差させていた。
●
「アハハハ! 久々に殺しが楽しめるんだ……派手に暴れようか!」
刀を手に嗤いながら直斗が突撃する。己の中にある別人格の『ジャバウォック』を強制的に引き出し、戦闘力を増幅させる。同時に倫理観が薄れ、殺人に対する垣根が消え去った。躊躇いがない分、踏み込みも強い。
刃に木の源素で作った毒を塗りこみ、オハチスエに向かって振るう。僅かな切り口から入った毒はオハチスエの動きを鈍らせる。驚く相手の顔と鈍った動きを見て、『ジャバウォック』の表情がくしゃりと歪む。愉悦に満ちた嗤いの顔に。
「僕と同じ殺しが好きな癖にこんな攻撃も避けれないの? アハハハ! その刀は唯の飾りなんだね! 笑っちゃうよ」
「ああ、大笑いだ。殺しが好きなくせに殺す前から笑うとはな。その刀はなまくらか」
「言うじゃないか。だったら殺してやるよ!」
「はいはい。挑発に乗らない」
突出しようとする直斗を諫める鈴蘭。迂闊に挑発に乗って踏み込めば、そこを狙われていただろう。殺人の人格を表に出す直斗を見て、昔を思い出す。一時共闘し、同棲していたあの頃を。まさか神秘解明組織で肩を並べることになろうとは思いもしなかった。
意識を戦闘に戻し、戦局を見る。オハチスエの戦い方は吹雪で動きを封じてから刀を振るって戦う形式だ。だがそうはさせまいと自らの気を練り上げて、仲間達に分け与える。体力を回復すると同時に、吹雪による拘束を解除していく。
「ウフフ……貴方がいくら狡猾に攻めようとも、私がいくらでも仲間を回復するわ」
「その分多く斬れるわけか。ありがたいな」
「言ってなさい。これは復讐。貴方に殺された哀れな女性に捧げる復讐ですもの」
「おう。吹雪と毒解除は任せた! そりゃもう、バニーさんのおっぱい見てたら元気になるだろ男なら!」
色々元気に遥が叫ぶ。まあ中衛の遥が後衛の鈴蘭の胸を見ようとすると、必然的に敵から目を逸らすわけだから無理なのですが。ともあれ回復は仲間に任せ、自分は敵を叩く。この役割分担こそが人間の強みだと拳を握った。
足を半歩開き、拳を握る。体の中心を意識して、そこを回転軸にするように拳を振るう。大切なのは基本の形。何度も繰り返してきた空手の動きと覚者としてに身体能力。それが組み合わさった遥の一撃が、オハチスエの胸部を穿つ。
「ぶっ潰させてもらうぜ。刀ジジイ。人間との共存は無理のようだしな!」
「共存はできるぞ。狩人と獲物の関係でな」
「狩られてたまるか! 人間舐めんなよ!」
「アイヌ的な共存なんだろうな、それは」
オハチスエの言葉にため息を吐くように凜音が答える。アイヌの文化には詳しくないが、狩猟民族的な狩る者と狩られる者の関係はなんとなく理解できる。アイヌ民族は狩る対象に敬意を払うが、オハチスエは人間に敬意を払うようには見えない。
『錬丹書』を開き、水の源素を展開する。相手の持つ技に注意を払いながら、仲間を癒す為に術を練り上げた。仲間の状態をしっかり見て、源素を含んだ水を雨のように降らせる。癒しの水は霧雨となって、傷を冷やしながら癒していく。
「理解できないな。人を殺して何とも思わないというのは」
「理解できぬな。人を殺すことが何故悪い? 命はいずれ死ぬのだろうが」
「オーケー。理解できないってことが分かった」
「昔の剣術家とかそないな考えやったんやろうなぁ」
今より昔、剣術が多く流布していた時代のころを思いながら凛は思う。倫理は時代によって変わるもの。その時代からすれば剣術は殺しの術だ。どれだけ斬ったかが強さの証となる。今は時代を変え、しかし別の形で強さを誇れる。それを見せてやろう。
翻るオハチスエの二連撃を、凛は三連撃で返す。相手の剣は剣術と呼ばれる精錬された技ではない。人を殺すことで学んだ殺人術だ。だが侮ることはできない。一撃一撃が鋭く、そして重い。気を緩めれば急所を一刺しされてしまうだろう。
「ほんまはしっこいなぁ。毛玉のくせに動き速すぎやで」
「どうした。腹が減って動きがのろいのか、小童」
「はっ! やったら焔陰流の真髄、見せたるわ!」
「あははははは。剣術を見せるのは任せるよ。おっさんは人喰いをみせようかな」
『直刀・悪食』を手に逝が吼える。意図的にヒトとしての理性を外し、妖刀の衝動のままに身を動かす。骨がきしみ。血は沸騰し、体のいたるところから痛みの信号が脳に届く。それら全てを無視し、ただヒトを喰らうという衝動に身を委ねていく。
交差する逝の刀とオハチスエの刀。人を喰らう『悪食』と血を吸うオハチスエの刀。共に暴食。共に餓鬼。喰らうがままに食らう破滅を呼ぶ刀。嗤っているのは人か古妖か、それとも刀か。唾競り合いならぬ喰らい合い。
「イペが『喰う』で、タムが『刀』だったかな。悪食や、お友だちでしょ?」
「ああ、似ている。似ているなぁ。だったら――」
「「お前を喰らえばさぞ満足するだろうよ」」
同じ言葉を放つ逝とオハチスエ。
殺しを楽しむ者と、殺しを許さぬ者。それぞれの思いがそれぞれの武器に乗って交差する。
●
覚者達はオハチスエの攻撃を分散させるように傷ついた前衛が中衛と交代という形で戦っていた。前衛でブロックしているため中衛には刃は届かない。その間に傷を癒し、体力を回復させようという算段だ。
だが逆に言えば、下がったということは体力が厳しくなったという証左でもある。中衛に下がった相手に向けて、オハチスエは毒の弓を放った。一人ずつ倒していくつもりのようだ。
「ちょっとこれキツイで!」
「ははははは。まだまだ食い足りないぞう」
後ろに下がった凛に毒の矢が突き刺さり、下がることなく斬り合い続ける逝が命数を削られる。
「悪人にしか使用できない技なら……僕の為にある技だよね! 遠慮なく盗ませて有効活用してあげるよ」
「善人が如何とかは知らんが……血と言わず肉も骨も、魂も残さず喰べるさね」
オハチスエの刀技を見て盗もうとする直斗と逝。太刀筋は見える。斬られた感触も痛感できる。だが――
「業が足りんな。もっと悪行を重ねてきな!」
オハチスエの悪行――己の楽しみだけの為に殺し、それを喰らおうとする傲慢さには届かない。他者の命を喰らおうとする我欲。それを盗むには二人はまだ心が清楚だった。
「コイツでどうだ! 血を吸って回復なんざさせねぇぜ!」
遥は真っ直ぐに拳を突き出し、オハチスエの腹部を打つ。インパクトの瞬間に拳をねじり、体内の『気』の循環を乱した。そうすることで体力を回復させないようにして、血を吸う刀による継戦能力を奪っていく。
「小僧。うざってぇ打ち方しやがるなぁ!」
「こっちはいろんな闘い経験しているんだ。空手の神髄見せてやる!!」
「こりゃ殺人鬼の感情っていうよりは、人間を狩っているっていう感じだね」
オハチスエと斬り合いながら、逝は相手の感情を探っていた。色濃く見えた感情は喜びと、無関心。作業に集中している時の感情状態だ。オハチスエにとっては人も獣も等しく狩るもの。そしてその血を喰らい生きている。逝とは違った形の悪食だ。
「人を殺したいんじゃなく、偶々すんでいる所に人が来たから狩った、って所か」
「ああ、ついてるぜ。こんなにやってきてくれるとはな!」
「ま、かといってほっとける相手ではないけどな!」
刀を振るいながら凛が叫ぶ。今まで培ってきた焔陰流の動き。それは二十一代にかけて継承され続けてきた人間の歩み。それを受け継いだ凛の刀がオハチスエを捕らえる。この古妖は放置できない。その気迫を載せて刀を握りなおした。
「焔陰流、連獄波……からの煌焔!」
「チッ、獰猛な獲物だな! 大人しくしやがれ!」
「ほらほらほら! もっと早く避けないと首狩っちまいぜ!」
せせら笑うように『ジャバウォック』が刀を振るう。あるのはただ目の前の古妖を殺したいという意志だけ。殺しに酔う狂戦士。理性はあれど倫理はなく、殺人衝動を色濃く刀に乗せて振るう。リミッターが外れた動きがオハチスエを追い詰める。
「もっと殺意出してみなよ! ほらぁ、僕の心臓はここにあるよぉ。狙えるものなら狙ってみなぁ! ギャハハハ!」
「はしっこいウサギが! 足折って逆さ吊りにしてやる!」
「それはこちらのセリフ。縛ってくびり殺してあげるわ」
仲間の傷を癒しながら、その合間にオハチスエの機動力を削ぐ鈴蘭。蔦で動きを止め、閃光弾で視覚と聴覚を封じる。殺された者の復讐を。オハチスエに殺された三人と面識はないが、復讐を果たすのが鈴蘭の目的。だけど、鈴蘭自身の復讐は――
(そう。復讐。姉を殺された復讐。でもその復讐は終わって――なら次の復讐を――そう。復讐が全て終われば幸せになる。だから殺そう。幸せになる為に復讐を――)
「狩る者はいつか狩られる。それが今だ」
仲間を癒しながら凜音がオハチスエに告げる。味方の傷の具合を計りながら、相手をスキャンして残りの体力を調べる。血吸い刀による回復が制限されているため、オハチスエは確かに追い詰められていた。
だが――追い詰められているとはいえオハチスエの刃は健在だ。
「ハッ! そう簡単に狩られてたまるか!」
「クソがぁ! 黙って僕に殺されろ!」
「コイツは厳しいね。おっさん少し休むわ」
オハチスエの刀に斬られて『ジャバウォック』が命数を削られ、逝が意識を失う。
「暴力坂のおっさん! ちょっと技使わせてもらうぜ!」
同じく命数を削られた遥が体内の気を爆発的に増幅させる。フルスロットで力を放ち、一撃の力を高めるつもりだ。だがこれで倒せなければ、力が抜けて動けなくなる諸刃の技。
「せい!」
――一撃。オハチスエの顔が歪む。
「せりゃ!」
――二撃。オハチスエの身体が折れる。
「とりゃぁ!」
――三撃。オハチスエの膝が折れる。そして、
「ちくしょう……ここまでか」
悔し気に声をあげて尻餅をついたのは、遥のほうだった。技の反動で体が動かなくなる。そしてそこを見逃すほどオハチスエは甘くない。振るった一刀が遥の意識を刈り取る。
「隙あり! とっととくたばれ!」
だが攻撃の隙を見逃すことなく、凛が刀を振るう。叩きつけるような一撃がオハチスエの背中を裂いた。よろめくように数歩下がる古妖に『ジャバウォック』が迫る。
「どうしたの? 苦しいなら命乞いでもする? もしかしたら許してもらえるかもしれないよ?」
「そんな気がないくせにほざくな、小童」
「アハハハハ! 当然だよ。糞野郎は死ね!」
『ジャバウォック』は殺意をむき出しにして戦う。速度を載せた一撃。しかし消耗の激しい技を連発しすぎたのだろう。息は上がり、隙が生まれる。そこにオハチスエの刃が振るわれた。ぐらり、と直斗の体が揺れる。そのまま地に落ちた。
「久しぶりに『表』に出れたのに……くそ!」
意識を失う『ジャバウォック』。姉の名を持つ妖刀がからりと落ちた。
「――まずいわね」
飛んでくる毒の矢に命数を削られ、鈴蘭は唇をかむ。回復の手を緩める余裕はない。前衛で行動できるのは凛一人。凜の命数は既に削られ、傷もけして楽観できるものではない。回復を緩めれば前衛が崩壊し、一気に瓦解する。
「だが相手も瀕死だ」
冷静に凜音は呟く。相手の体力は把握している。こちらの消耗も激しいが、相手も同じぐらいに傷ついている。この情報がなければ、凜音も撤退を視野に入れていただろう。そして、相手の体力と性格を考えていたからこそ分かる事もある。
「――っち!」
「あ、逃げるんか!?」
不利を悟ったオハチスエは背を向けて逃亡を図る。その背中に凜が斬りかかるが、致命傷には僅かに届かない。そのままオハチスエは走り去り――
「か弱い回復役なのに、最近荒っぽいことが増えてきたよなー」
逃亡を予測していた凜音に回り込まれていた。足を止めて別方向に逃げようとするが、その背後に鈴蘭が迫る。
「この復讐に泥を付ける事は許さないわ」
鈴蘭の『ネメシス』がオハチスエの足を傷つける。後衛に徹してサポートをするつもりだったが、ここで攻めなければ負けるとばかりに神具を突き立てた。そこに、
「これで終いや!」
凛の刀がオハチスエの胸を突く。限界まで燃やした体内の焔。それがひときわ大きく輝いた。
「こんな小童如きに……。く、そ……ヤキが回った……か」
最後まで悪態をつきながら、アイヌの古妖は力尽きた。
●
「ほんまとんでもない奴やな」
もう動かないオハチスエを見ながら、凛が口を開く。六人中三名が戦闘不能になり、命数を削られていないのは凜音のみ。一手間違えれば全滅もありえただろう。
「あの三連撃に耐えたか。やっぱ古妖は強いな」
意識を取り戻した遥はオハチスエの強さを思い出す。戦うことが好きな彼にとって、勝敗よりも相手の強さそのものに興味がわく。拳を握り、脳内で戦いを反芻していた。
「武器自体はただの山刀――アイヌマキリか。よく斬れそうだが、妖刀ってほどでもないな」
オハチスエが持っていた刀を鑑定する逝。だが特別なことはない普通の物だった。山登りの時にでも使えるだろうか、と思いながら懐に収める。
「…………」
鈴蘭と直斗は巻き込まれた女性の為に瞑目していた。殺される寸前に間に合えば、苦痛なくあの世に行けたかもしれない。無意味とはわかっていても鈴蘭は哀悼の歌を歌った。既に亡くなっているが、この歌が安らぎになれば。
「弔ってやるか。その前に警察かな」
凜音はオハチスエに殺された三人を弔おうとする。遺体の瞳を閉ざし、苦悶に歪んだ表情を和らげる。あとはFiVEのスタッフが警察などの事後処理をやってくれるだろう。
人を狩る古妖は倒れた。これより未来にオハチスエによる犠牲者はいなくなる。
人と相容れない古妖はいる。しかしそれから人を護る者も確かにいるのだ。
そして今日もまた、覚者達は戦いに出る――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『アイヌマキリ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:緒形 逝(CL2000156)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:緒形 逝(CL2000156)

■あとがき■
どくどくです。
刀持った古妖を探したら凶悪なのが見つかったので出してみました。
接戦でした。作中にも書きましたが、一手崩れれば敗退もあり得ました。
MVPは逃亡を予想して、その防止をプレイングに盛り込んだ香月様に。見事にオハチスエの性格(とどくどくの思考)を読まれました。
ともあれお疲れ様です。今は傷を癒してください。
それではまた、五麟市で。
刀持った古妖を探したら凶悪なのが見つかったので出してみました。
接戦でした。作中にも書きましたが、一手崩れれば敗退もあり得ました。
MVPは逃亡を予想して、その防止をプレイングに盛り込んだ香月様に。見事にオハチスエの性格(とどくどくの思考)を読まれました。
ともあれお疲れ様です。今は傷を癒してください。
それではまた、五麟市で。
