<デジタル陰陽道>陰陽メモリとヒステリックボマー
<デジタル陰陽道>陰陽メモリとヒステリックボマー


●ヒステリックボマー、太陰 VS 一文字 太陽
 昨今の携帯電話会社は大盛況だ。
 電波障害の解除に伴いエリアを急速に拡大した大手通信企業は格安プランや期間限定サービスを打ち出し急増する新規顧客の吸い上げに尽力していた。
 ゆえに専門店舗も人手に追われ、日夜充実したサービス業を営んでいるのだが……。
「どうして私が店まで来なきゃいけないのよ! ケータイを落としたって言ったでしょ!」
 店員に掴みかからんばかりの勢いで、女性が怒鳴り散らしている。
「ですから、故障箇所を見る必要がございますので、商品保証には直接お持ち頂くか郵送という形で――」
「ほんとダメね! ちゃんとしなさいよ! それでもプロなの!? 私の言いたいこと分かるでしょ!」
 めちゃくちゃな言い分に、店員も他の客も目を合わせることすらできない。
「おかげで疲れたわ。心も傷ついたし、どう責任とってくれるのよ!」
 度が過ぎた迷惑行為だ。店を出て行くように言おうとした、その時。
「触るな!」
 女性が腕を振り払い、激しい炎をまき散らした。
 彼女の手には金色の万年筆。
 その先端からは火炎放射器のごとく赤い炎が吹き出ていた。
 炎は生き物のように店内を舐め、たちまち店を炎に沈めていく。
 熱で砕け散った扉を出る彼女……に、一人の青年が立ち塞がった。
「そこまでだ太陰のアネさん。あんたどうしちまったんだよ。わるいモンにとりつかれたのか!?」
「あら一文字くんじゃない。なんで檻から逃げたの? 今すぐ戻りなさい!」
 万年筆から吹き出る炎。
 一文字……一文字太陽は、胸ポケットから抜いた赤いUSB式メモリースティックを腕の端末に装填した。
「言って分からないなら――」
 炎が一文字を包む。
 だがそれを振り払い、防火スーツとヘルメットに身を包んだ一文字が現われた。
 メモリースティック内に電子保存された陰陽術式発動アプリケーションがいっぺんに作動し、彼に強化術式をかけたのだ。
「ちょっと痛いが、大人しくしてもらうぜ!」
 身構える一文字。
 だがそんな彼を、無数の『人型の炎』が取り囲んだ。
「こいつは……ヒステリックボマー!? なぜ、ぐわあ!?」
 次々と爆発する人型の炎。一文字はみるみる爆炎に呑まれていった。


「ということらしんだ。俺はこの太陰という人が元からこういう悪人なんだと思っていたけど……」
 久方 相馬(nCL2000004)の説明に、テレビ電話越しの本郷大地、および結城裂花は悲しげに首を振った。
『太歳さんと同じです。この人は皆のお母さんみたいな人で、とても穏やかで優しい人なんです。困っていると必ず力になってくれたし、落ち込んでいたら励ましてくれる。誰よりも思いやりのある人で、それを信条にしていました』
『ヒステリックになって怒鳴るなんて絶対にしない。店を燃やすなんてもっとありえないんだ!』
 そこまでの話を確認して、相馬はこくりと頷いた。
「けど、俺が予知で見た一文字さんのとりつかれているって予想は間違っていると思うぜ。それにしては行動に統一性がないんだ。むしろ、『人を思いやる』っていう感情を何かに奪われたと見るべきだろうな。とにかく……」

 原因の所在はともかくとして、近隣住民や家屋を巻き込んで暴れる太陰という女性を放置することはできない。
「現場に向かって、一文字さんを助け、太陰という人を戦闘不能にして事態を収拾するんだ」
『近隣住民の避難や捜索は俺たちがなんとかする。だから皆は、太陰さんを取り押さえてくれ。何度も力をアテにするようで、申し訳ない。けど人々のため、どうか力を貸してくれ!』


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.太陰を戦闘不能にする
2.なし
3.なし
 こちらはシナリオタグ<デジタル陰陽道>のひとつです。
 ちょっとだけ同一タグのシナリオとつながりがあります。
 用語は解説しますが、しすぎるとよろしくないので詳しい同参加者に聞いてみてください。

●クエストリスト
・太陰を戦闘不能にする
・(オプション)一文字太陽が戦闘不能になる前に成功条件を満たす
・(オプション)ヒステリックボマーを全て倒す/倒さない
・(オプション)太陰が思いやりを奪われた経緯について推理する/しない
・(オプション)避難誘導を手伝う

●エネミーデータ
・太陰
 土行暦。体術による回復が得意な前衛ヒーラー。
 のはずだが、『火を噴く万年筆』らしき神具を装備しており、
 『周囲一帯を炎で焼き尽くす』というHP消費型のオリジナルスキルを持つ。
 夢見が想定した戦闘力はファイヴのベテラン二人がかりで押さえる程度。つまりかなり強い。

・ヒステリックボマー 10体
 悪性古妖『怪人』の一種。
 戦闘力はそれほどではないが、体力を消費して近列に大ダメージを与えるスキルを使う。

●味方戦力
・一文字太陽:火行暦。USB式メモリースティックに圧縮した膨大な陰陽術式を保存し、状況に応じて切り替える強化スイッチスタイルで戦う。
 戦闘開始時には体力を50%程喪失しているが、回復支援をしてやれば充分戦力になる。

・本郷大地:土行。スマホに陰陽術式を自動起動するアプリを入れて戦うデジタル陰陽師。
・結城裂花:木行。押花ICカードで高速で術式を発動させるデジタル陰陽師。
 上記二名は周囲の一般市民を助けたり逃がしたりするのが役目。

●シチュエーション
 ケータイショップの店舗前。店は炎上しており、周囲にはいくつも店舗が並んでいる。いわゆるアーケード街。
 太陰と一文字が戦闘している場面に割り込むかたちでスタートする。
 ヒステリックボマーもその周囲に散らばって配置されている。

●用語解説
・インフィニットエイト
 一文字、本郷、結城たちが所属する現代の陰陽組織。
 人々を守るべく日夜『怪人』と戦っていた。

・アンリミテッドエイト
 太陰の所属する陰陽組織。インフィニの先輩にあたり、メンバーはもれなく世話になっている、らしい。
 どうやら未曾有の事態に巻き込まれて皆人格がおかしくなっているようだが……?

・怪人
 悪性古妖。人々の悪い心にとりつき悪行を働かせる。
 古来より陰陽組織がそれを吸い出し、退治してきた。

・カカシキ妖刀と偽カカシキ
 対太歳戦でPCたちが推理にあげた言葉。京都が日本の中心だった頃、天才刀鍛冶が作った魔を払う妖刀。現代にまで製法が伝わったが、つい最近唯一の鍛造手段を破壊したばかり。鍛造設備の大部分はアンリミテッドエイトが「妖から人々を守るために」と回収していった。
 大切なものを守りつづける限り力をもつ妖刀だが、偽物になると大切なものを喪う代わりに強大な力を得る。
 『太陰が思いやりを奪われた』と語ったのはこれが根拠。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年09月20日

■メイン参加者 6人■

『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)

●町の涙を見逃さない
 これまでのデジタル陰陽道は。
「太陰さん。優しかった方が豹変してしまったなんて……とても、お辛いですよね」
 アンリミテッドエイト所属、太陰。インフィニットエイトの陰陽師たちにとって母のような存在だった女性が豹変し、人々を襲っていた。
「原因を突き止めれば、喪ったものを取り戻すことも……喪う前に止めることも、できるかもしれません」
 胸の上でぎゅっと拳を握る『ファイブピンク』賀茂 たまき(CL2000994)。
 『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)が肩をそっと叩き、優しく頷いた。
「私も彩吹も、皆同じ気持ちだよ。きっと鍵は『偽カカシキ』だ。けど問題はどうして使ってしまったか、だよね」
「だよな! 思いやりを奪わ……あれ? この前は喪ったとかなくしたって、言ってなかったか?」
 同意しかけてはっと顔を上げる『白の勇気』成瀬 翔(CL2000063)。
 『導きの鳥』麻弓 紡(CL2000623)がゆるやかに首を傾げた。
「主観と客観の違いかな。うしなうは主観、奪われるは客観。けどこうなると……」
「第三者が存在する、さね」
 『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)は腕組みをして、そうとだけ言った。
 最初の疑問は吹き飛んだようで、改めて拳を握り直す翔。
「よし、そいつが黒幕だな! 待ってろよ、やっつけてやる!」
「再発防止って意味なら大賛成」
 持って回った言い方をする『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)に、翔はもう一度動きを止めた。
「だめなのか?」
「いや、大賛成。けど取り戻すって話になると、もう一個遠回りしないとダメかな。後で説明するね。今は……」
「わかった! 太陰さんを止めて、太陽さんたちを助けるんだな!」
 目的設定。
 一度決まれば迷わないのが翔のいいところである。
「翔、紡、みんな!」
「たまきさん、彩吹さんたちも」
 駆け寄る本郷大地と結城裂花。
「目的地はこの先だ。さあ、行こう!」
 六人。いや、八人は頷きあい、そして走り出した。

●君となら叶う、君となら取り戻せる
「ぐっ……!」
 爆発に吹き飛ばされ、ごろごろと転がる一文字太陽。
 全身を覆っていた赤い鎧も消え、傷ついた彼は燃えるケータイショップの前に倒れた。
 地面を殴るようにして身体を起こすが、周囲を囲む怪人ヒステリックボマーの数は絶望的だ。
 彼らが身体を削って爆発を起こすたび、太陰は回復能力を行使して彼らを修復してしまう。きわめてバランスが良く、そして破壊力も抜群だ。
「どうしちまったんだよ太陰のアネさん。やめてくれ、こんなこと……」
「聞き分けの無い子ね。大丈夫よ、二度と出られない檻に入れてあげるから」
 万年筆を指の上で回し、ゆっくりと歩み寄る太陰。
 そんな彼らを阻むように――。
「無頼――濁流符!」
 地面に一本の杭が刺さり、自動で開いた旗のような護符が衝撃を放った。
 身を庇い後退するヒステリックボマー。
 同じく目を庇った太陰が視界を開くと、そこにはたまきが立っていた。
「裂花さん、お借りします!」
 腕時計型端末にオシバナアイシーカードを翳すと、『baby bless!』という電子音と共に雪結晶の形をした浮遊シールドが無数に発生した。
「お話は聞きました。太陰さん、あなたを止めます!」
「関係ないでしょ! 引っ込みなさいよ!」
 ペンを振り、炎を放つ太陰。
 手を翳し、結晶シールドを飛ばすたまき。
 その二つがぶつかり合う中、倒れた太陽を紡と彩吹がかっさらっていった。
「一文字太陽くん、だよね。太陽って呼んでいいかな」
 やや離れた場所に着地し、太陽を下ろす彩吹。
 紡は空中を一直線に撫でてから月のシルエットを描くと、虚空よりステッキを取り出した。
「あんたたちは……?」
「大地や裂花の友達」
 ステッキの先端についた月の飾りを太陽の身体に翳すと、傷口を撫でるように回復していく。
「一緒に戦お。まずは――こいつらからだ」
 逃がすまいとやってくるヒステリックボマーたち。
 首や肩を回し、今にも殴りかかるテンションだ。
「ボクはたまきちゃんの方に」
「じゃあここは私に任せて」
 紡と彩吹はハイタッチすると、紡は翼を広げてその場から離脱。
 一方の彩吹は腕時計端末にオシバナアイシーカードを翳した。『strelitzia!』という電子音の後、彼女の手足を炎の幻影が包み込む。
「そのカード……なるほど、理解したぜ」
 太陽は赤いメモリースティックを取り出すと腕の端末にセット。更に黒いメモリースティックもセットすると『sun and moon!』の電子音と共に赤黒ツートンカラーの鎧を纏った。
「改めて、俺は一文字太陽。あー、えっと」
「如月・彩吹。さっきのコは麻弓 紡だよ」
「オーケー、行こうぜ!」
 太陽は幻の拳銃を取り出すと、ヒステリックボマーたちへと流し打ちを放った。
 防御の隙を突いて飛翔する彩吹。ゆるんだその瞬間に、彼らをまとめて薙ぎ払う滑空キックを叩き込んだ。
 まとめて吹き飛んでいくヒステリックボマーたち。

「あいつらどこいったのよ、使えないわね! 勝手に爆発されちゃ迷惑だってわからないの!?」
 ヒステリックにわめき散らしながら、太陰はペンの炎を振り回した。
 防御を固めたたまきが苦戦するほど強力なエネルギーが叩き付けられる。しかしその一方で、太陰が回復行使を怠ってくれるおかげでヒステリックボマーの撃破が早まっているのも事実だ。
 今はそれに気づいて意識がそれはじめているようだが……。
「おおっと、クレームかな? カカリノモノが対応するよ。ここに名前と生年月日書いて」
 プリンスが横から割り込み、へらへらとした顔で手を振った。
 敵を煽ることに書けてはなにげに一流の彼である。
「ふざけんじゃないわよ!」
 太陰はその場で足を踏みならし、ペンを逆手持ちにして振り上げた。
 手首を掴み、ものすごい力で固定するプリンス。ひょろっとしたボディからあふれる心のマッスルは、背中にセットされた妖槌・アイラブニポンのためだ。
「無礼してごめんね。けど余、責任とらない王子にはなりたくないんだ」
 掌底で太陰を突き飛ばすと、よろめきながらも再び構える彼女にゆっくりと歩み寄っていく。
 そんな彼女の後ろを、ヒステリックボマーが走って行く。
 ケータイショップで逃げ遅れた人々を人質にでも取ろうという作戦だ。
「おーっと待ちな、ここは俺の持ち場だぜ! カクセイパッド!」
 ホルダーから引っ張り出したタブレット型端末に指で雷の文字を描くと、彼の足下に陰陽術式が投影され、雷の竜が飛び上がった。
「大地さん、裂花さん。中の人たちを!」
「わかった、任せたぞ親友!」
 ケータイショップに駆け込んでいく大地たち。
 それを追いかけようとしたヒステリックボマーたちに雷の竜が巻き付き、一斉にのけぞらせる。
「ふう、太陰ちゃんは喰えないみたいだからこいつらで我慢するさね。ほら」
 横からどっしりとした足取りで現われる逝。
 妖刀をあえてしまうと、両手をぶらんと下げたままヒステリックボマーへと歩み寄る。
「打っておいで」
「ぎぎ……!」
 歯ぎしりのような異音を放ち、殴りかかるヒステリックボマー。
 繰り出した腕が逝の胸に叩き込まれるが、逝はびくともしない。
 別の者が後頭部を殴りつけるが、それでも動かない。
 横から頬を殴りにかかったが、その腕を掴んで振り回し、周囲のヒステリックボマーを振り払うと最後の一体を壁めがけて放り投げた。
「暴走した感情。思いの裏返しねえ。ま、オヤツくらいにはなるか」
 妖刀を引っ張り出す逝。
「今だ、雷獣!」
 翔がカクセイパッドに印を描くと、空に投影した流のような雲が雷をまき散らしながらヒステリックボマーたちへと殺到する。
 と同時に逝はアイシールドを怪しく光らせながら突撃。
 雷撃にしびれて動けなくなった敵たちを次々に切り捨てていった。

 太陽と彩吹、翔と逝によって痛めつけられたヒステリックボマーたち。
 彼らは自棄になり、次々に大爆発を起こした。
「おっと危ない」
 ステッキを振りかざし、大気をかき混ぜるように踊る紡。
 癒やしの力が雨となり、爆発の炎を次々とかき消していく。
 それを幾度も繰り返すが、爆発が激しすぎて追いつかない。
「紡、こいつを使え!」
 太陽の投げたメモリースティックをキャッチ。
 『Jupiter』と書かれた緑のメモリースティックだ。握った途端、紡のステッキに、幻影の接続端子が生まれた。
 頷き、そこへ差し込む。『Jupiter!』という電子音と共に、ステッキの先端に電流による球が生まれた。月の飾りを覆うようにだ。
「これなら――」
 祈りを込め、ステッキを振って踊る紡。
 雷を伴った治癒の雨が爆発の炎と衝撃を分解し、痛みから解き放っていく。
 爆発のしすぎで体力の尽きかけたヒステリックボマーたち。紡は電流の球に手を突っ込み、中に生まれた雷の弾丸を次々にスリングショット。着弾した敵たちは爆発四散した。

 着地し、翔やたまきたちと拳をごつんとぶつけ合う紡。
 残るは……。
「あ、あなたたち……タダじゃおかないからね!」
 太陰は炎を螺旋状に吹き上げ、狂ったように目を輝かせた。

●風が僕らを呼んでいる
 吹き荒れる炎。
「うわっと!」
 プリンスと逝は吹き飛ばされ、彩吹によってキャッチされる。
「強すぎない? 怒るとパワーアップするルールなの?」
「そんなルールはないさね」
「落ち着いてください、太陰さん」
 たまきが紙束を散らし、空中に生まれた無数の鶴や手裏剣といった折り紙が意志を持ったかのように太陰へ襲いかかる。しかしそれらがからっ端から焼き払われてしまった。
「まずはあの攻撃と回復力を削がないといかんなあ」
 首をこきりと鳴らして立つ逝。
 その姿を下から上まで見て、太陽は怪訝そうにした。
「あんた、変わった気をしてるんだな」
「たまに言われるぞう」
「もしかしたら、あんたなら使えるかもしれねえ」
 太陽が渡してきたのは、暗い紫色をしたメモリースティックだ。
 握ると刀の柄に架空の接続端末が生まれる。
「ふむ……」
 差し込むと、『Saturn』という暗い電子音と共に刀が膨大な瘴気に包まれた。瘴気は巨大な剣となり、犠牲者を求めてゆらめいている。
 逝はまるで驚く様子もなく、剣の瘴気を太陰へと叩き付けた。
 瘴気が彼女に存在する回復能力を根っこから食いちぎっていく。
「今だ、行くよ王子様!」
「式場に?」
「ここでボケない! 私は紡みたいに面倒みてあげないよっ」
 彩吹はプリンスを飛翔ジャンプで引っ張り上げると、豪快なジャイアントスイングを経て太陽へとぶん投げた。
「なんで世の中は王子に厳しい女子ばっかりなの!」
 プリンスはハンマーを握り込むと、エネルギーを込めて太陽に叩き付けた。
 追って飛び込み、手刀と足刀によって連続斬りを叩き込む彩吹。
 大きくのけぞる太陰。
「チャンスだ!」
 太陽、大地、裂花がそれぞれ跳躍し、それぞれのエネルギーを纏った飛翔蹴りを繰り出していく。
 一方で、たまきは翔と紡にそれそれ合図を送った。
「私たちも」
「ああっ!」
 巨大な護符を眼前に広げるたまき。
 パッドに複雑な印を刻む翔。
 電流球を纏ったスリングショットを構える紡。
「きっと、正気に戻してあげるからね」
 一斉に放たれる電撃や衝撃、そしてキック。
 その全てが集中し、大爆発を起こした。

●やがて嵐がやってくる
 太陰はがくりと膝を突き、気を失ってその場に倒れた。
 手から転げ落ちた万年筆がかききえ、彼女の中へと戻っていく。
「優しい人がこんな風になるなんてな。思いやりを奪われたって聞いたけど、それによって抑えていたもんがあふれちまったのかな。って、違うか。はは」
 翔が自嘲気味に笑った、が……。
「案外その通りかもね」
 明後日の方向からの声に、翔たちは振り返った。
 くるくると巻いた金髪のツインテール。
 パンクな服装に日本刀を備えた、その名も――。
「ンゲ姫!」
「九条蓮華」
 スライドインしてきたプリンスを足払いで転倒させ、素早くキャッチアンドチューしてから捨てる蓮華。
「自己紹介が必要な人も居るみたいね。カカシキの後継者よ。アタシの不始末が人の迷惑になってるって聞いたから来たんだけど……パーティーは終わったところ?」
「まだ二次会前だよ」
 寝転んだまま語るプリンスを一旦無視して、翔が歩み寄った。
「どういうことなんだ?」
「アンタたちが相手にしたアンリミテッドエイトはアタシの遠い親戚にあたるんだけど、何世代か前はカカシキ妖刀で怪人と戦っていた歴史があるのよ。ま、アタシは連絡とってなかったし、殆ど知らない人たちなんだけど」
「つまり……『これら』の知識はあったってこと、ですよね?」
 (今は収納されているが)太陽の万年筆をさして言うたまき。
「そ。無知な連中がアタシから接収した鍛造機を使ってバカをやった……ってだけの事件じゃないってことよ」
「やはり、『奪われた』んですね」
 たまきは胸に手を当てた。
「強い人々の強い心を、奪う。もし皆さんの心を奪って独り占めする人がいるとしたら……」
「そいつが黒幕か!」
 やっと話について行けるな、という顔でキリッとする翔。
 太陽や大地、裂花たちもその辺りからやっと話についていけたようだ。
 腕組みして頷く彩吹と逝。
「うん。誰かが仕組んだってセンは間違いないだろうね。それも、知識のある人々を騙すほど巧みに」
「言ってみれば、訓練された兵に暴発する銃を撃たせるようなものさね。卓越した詐術を使える奴がいると見るべきだと思うけど……そういえば、鍛造機には核が無かったはずでしょ?」
「作るのはともかく知識はある人たちが、核のない機械を動かすはずないよね。それも全員がオジャンになるほどの規模で」
 プリンスが寝転んだまま言った。
「もしかしてさ。回収した時点で『核はあった』んじゃない?」
「いや、それは確実に抜いて……」
「言い直そうか。『偽物の核が仕込まれていた』んじゃない?」
 沈黙する蓮華。
「違和感の正体が、つかめたかも」
 紡がぽつりと呟き、語りはじめた。
「鍛造機を回収した時点で、偽物の核が仕込まれていたんだよ。それも効果が遅れて現われるような罠つきの。アンリミテッドエイトのみんなはそれを使って、心を奪われた」
「だとすれば。仕込んだのは回収に当たった人間の一人だね」
 目を瞑るプリンス。
 あの場にいたアンリミテッドエイトは3人だけだ。
 今回倒した太陰、前回倒した太歳。
 そしてもう一人……『歳刑』だ。
「彼、口がうまそうだったよねえ」

「アタシも情報を集めてみるわ。面倒ごとがあったらあの名刺野郎にでも働かせればいいわ」
「ああ。俺たちも事件を追ってみる」
「怪人の発生といい、心の矛盾といい、今回の偽カカシキはただ大事なものを犠牲にしてるだけには見えない」
「心を誰かが集めているなら、取り戻すこともできるはずだ。皆……!」
 手を合わせ、頷きあう。
「奪われた心を取り戻すために、戦おう!」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

レアドロップ!

取得キャラクター:『導きの鳥』麻弓 紡(CL2000623)
取得アイテム:陰陽メモリーJupiter

取得キャラクター:『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)
取得アイテム:陰陽メモリーSaturn




 
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