神林さんのお仕事
●ある日、学園にて
「へ? オレが普段どんな仕事をしてるのかって?」
ある日の放課後。たまたま神林 瑛莉(nCL2000072)と遭遇し、ちょっとした世間話をしていた君達。
ふと、瑛莉が普段どんな仕事をしているのかについて興味が湧いた君達は、そんな質問をしていた。
神林瑛莉と言えば、しょっちゅう事件に巻き込まれ、出席日数が足りない上に追試も休みがちなため留年の危機にさらされる程度にはF.i.V.E.の仕事をしているイメージがあるが、実際どんな仕事をしているのかは不明である。
「あー、まぁ、アレだよ。言い方は悪いけど、雑用っつーか」
こういうとなんだが、重要度の高い任務は、F.i.V.E.でもエース級である君達にまず仕事の打診が来る。とは言え、世の中そうそう、重大事件ばかり起きるものでもない。小粒だが、放置しきれない仕事と言うのはままある。
「例えば新入りの訓練と引率とか、危険性のない遺跡の調査手伝いとか……まぁ、そんな所だなぁ。ああ、今度も行くぜ、遺跡調査。罠やらなんやらは夢見が確認済み。念のために調べてこい、って奴が」
苦笑しつつ、瑛莉が言った。なるほど、確かに、さほど目立つ仕事ではないようだ。
とは言え。君達は、少し気になった。
「気になったって何が? 遺跡? いや、なんもないぜ。ホントホント。確かに罠はあるらしいけど、解除方法とかは確認済みだし、宝物みたいなもんもないし……え? 行ってみたい? マジで?」
瑛莉は目を丸くした。
●後日、山中にて
「マジでついてくるとはなぁ……」
瑛莉は頭をかきながら言った。
今日調査するのは、江戸時代前期に作られた遺跡で、かつて悪さをした古妖を封じたものだという。封印は厳重に施され、万が一にも悪人に解放されないように、罠も大量に設置されている。
とは言え、先日も言った通り、既に罠や封印の解除の仕掛けについての情報はそろっている。
妙な事をしなければ、単に中に入って罠を解除しつつ様子を確認。
その後、外で待機している学術調査班を引率して、内部を簡単に調べ、遺跡自体を再封印。
ただそれだけの仕事である。
妙な事をしなければ。
妙な事をしなければ。
「まぁ、なんもねーと思うけど……ピクニック感覚でついてきてくれ」
瑛莉の言葉に頷き、君達は洞窟へと足を踏み入れた。
「へ? オレが普段どんな仕事をしてるのかって?」
ある日の放課後。たまたま神林 瑛莉(nCL2000072)と遭遇し、ちょっとした世間話をしていた君達。
ふと、瑛莉が普段どんな仕事をしているのかについて興味が湧いた君達は、そんな質問をしていた。
神林瑛莉と言えば、しょっちゅう事件に巻き込まれ、出席日数が足りない上に追試も休みがちなため留年の危機にさらされる程度にはF.i.V.E.の仕事をしているイメージがあるが、実際どんな仕事をしているのかは不明である。
「あー、まぁ、アレだよ。言い方は悪いけど、雑用っつーか」
こういうとなんだが、重要度の高い任務は、F.i.V.E.でもエース級である君達にまず仕事の打診が来る。とは言え、世の中そうそう、重大事件ばかり起きるものでもない。小粒だが、放置しきれない仕事と言うのはままある。
「例えば新入りの訓練と引率とか、危険性のない遺跡の調査手伝いとか……まぁ、そんな所だなぁ。ああ、今度も行くぜ、遺跡調査。罠やらなんやらは夢見が確認済み。念のために調べてこい、って奴が」
苦笑しつつ、瑛莉が言った。なるほど、確かに、さほど目立つ仕事ではないようだ。
とは言え。君達は、少し気になった。
「気になったって何が? 遺跡? いや、なんもないぜ。ホントホント。確かに罠はあるらしいけど、解除方法とかは確認済みだし、宝物みたいなもんもないし……え? 行ってみたい? マジで?」
瑛莉は目を丸くした。
●後日、山中にて
「マジでついてくるとはなぁ……」
瑛莉は頭をかきながら言った。
今日調査するのは、江戸時代前期に作られた遺跡で、かつて悪さをした古妖を封じたものだという。封印は厳重に施され、万が一にも悪人に解放されないように、罠も大量に設置されている。
とは言え、先日も言った通り、既に罠や封印の解除の仕掛けについての情報はそろっている。
妙な事をしなければ、単に中に入って罠を解除しつつ様子を確認。
その後、外で待機している学術調査班を引率して、内部を簡単に調べ、遺跡自体を再封印。
ただそれだけの仕事である。
妙な事をしなければ。
妙な事をしなければ。
「まぁ、なんもねーと思うけど……ピクニック感覚でついてきてくれ」
瑛莉の言葉に頷き、君達は洞窟へと足を踏み入れた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.遺跡内部を確認して帰ってくる
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
こちらの依頼、ちょっとしたピクニックとなっております。
何もなければ。
何もしなければ。
●ロケーション
江戸時代前期に作られたとされる遺跡
洞窟内に明りはないので、何らかの手段による明りの確保は必須です。
まぁ、普通に行くなら、懐中電灯でももっていけば十分でしょう。
天然の洞窟を使用して作られた遺跡らしく。天井も高く、道幅も広いです。
中には蝙蝠やネズミがいますが、覚者達には無害なはずです。
まさかネズミや蝙蝠に吃驚して罠のスイッチを踏むなどないはずです。
ないはずです。
以下、夢見により判明している遺跡のからくりです。
入口
数歩歩くと、地面に入り口をふさいでしまう仕掛けのスイッチがあります。
うっかり踏まない限り安全でしょう。
発動しまった場合、遺跡最奥部にあるスイッチを押さなければ、入り口は開きません。
うっかり踏まなければ大丈夫です。
道中1
壁にスイッチがあります。
これをうっかり押してしまうと、天井から大量の槍がふってくるようです。
もし発動してしまった場合、全力で走って逃げるか、槍が尽きるまで片っ端から撃ち落とすしかないでしょう。
なお、道の先には巨大な落とし穴がありますが、場所は地図に記載しておきますので、まかり間違っても落ちる事はないでしょう。
うっかりしなければ。
落とし穴
落とし穴に落ちた先は、古妖・服だけ溶かすスライム(仮名)がたくさんいます。
とは言え、大人しい古妖たちなので、うっかり大声を出したりしなければ襲われたりしないでしょう。
うっかり大声を出したりしなければ。
ちなみにこのシナリオの難易度は【簡単】ですし、アラタナルは全年齢向けPBWです。
道中2
落とし穴から落ちた先、或いは道中1からこちらに到達できます。
おめでとうございます! 実質遺跡を踏破したようなものです。迷路状になっていますが、うっかり地図をさかさまに見ていたとか、地図をなくしたとかがない限り、何の問題もなく最奥まで進めます!
地図の取り扱いには注意してください。
最奥
ついに最奥に到達しました。罠はありませんが、古妖を封印している装置と、もし入り口の罠を作動させていた場合、その解除スイッチがあります。
古妖の封印を解除するためには、部屋の中心にある棺に触って「眠る猫、起きる猫」と言う必要がありますが、わざわざ解除する必要はありません。
ありません。
なお、封印されている古妖は、「町中のお魚を盗んで回った子猫の猫又」で、外見は可愛い黒い子猫の姿をしています。
戦闘力についてですが、このシナリオの難易度は【簡単】ですし、戦うだけが解決方法じゃないって、私、信じてるから……。
そもそも封印を解く必要はありません。ありませんったら。
以上の点によく気を付けて、決して罠を作動させず、決して封印を解除せず、何事もなく最奥まで行って帰ってきてください。
なお、この遺跡が今後のストーリーのフラグになるかと言えば、決してそう言った事はありませんのでご注意ください。
また、うっかり罠を起動させたとしても、悪名に変動は起こりません。だってうっかりですから。しょうがないよね。
それでは、皆さんのどったんばったん大騒ぎ……じゃない、クレバーで的確なプレイングをお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
7/8
公開日
2017年09月15日
2017年09月15日
■メイン参加者 7人■

●えんたー・ざ・だんじょん
さて、天気の良いある日。
覚者一行は、とある山中にある遺跡の前に集まっていた。
「一応言っておくけど、気をつけてな」
と、神林 瑛莉が告げる。気を付けて、とはいうものの、その声色に緊張感は感じられない。
それもそうである。地図があり、罠の場所は確認してあり、敵らしい敵もいない。
何の問題もない、ちょっとした洞窟探検。ちょっとしたピクニック。
これは、そういうお仕事である。
そう言うお仕事なんだってば。
「普段は、戦いに行くことばっかりで……こういう調査って、久しぶりだから……なんだか、新鮮、かも……」
穏やかな調子で、『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)が言った。エース級の覚者であるミュエル達にとっては、仕事とは、すなわち危険と隣り合わせの戦いと同義である。こうやってのんびりとした雰囲気でF.i.V.E.の仕事に携わるのは、実に久しぶりなのだろう。
「よろしくお願いします、神林先輩……♪」
今日は勉強のつもりで、とミュエルは言っていた。そう言った意味で、この手の仕事にはよく携わる瑛莉を先輩と呼んだわけなのだが、
「な、なんか、くすぐったいな……そういう言い方……」
思わず頬を染め、ほっぺたをかく瑛莉。まんざらでもないらしい。
「瑛梨様のお仕事を拝見できるのは楽しみですわ♪」
と、カメラを携え、『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)。ワクワクとした表情であたりを見回すその姿は、まさに友人達と洞窟探検にやってきた、年相応の少女と言った所である。普段から些か殺伐とした戦いに赴くいのり達にとっては、こういう仕事は良い息抜きになるのかもしれない。
いのりの姿を眺めつつ、また誘ってみようかなー、等と思う瑛莉である。
「神林さん! 入っていいかな!」
もう待ちきれない、という感じで、『白の勇気』成瀬 翔(CL2000063)が言った。
「おう、じゃあ、行くか!」
瑛莉の返事に、翔が駆けだした。それを追うように、一行は遺跡へと足を踏み入れる。
さて、遺跡の中は、事前の予知通り、天然の洞窟を利用して作られた物のようだ。明りは流石になかったため、各々スキルや懐中電灯などを利用して、光源を確保する。
「さて、改めてになるが、よろしくな、皆」
落ち着いた声で、『ストレートダッシュ』斎 義弘(CL2001487)が告げる。
何やら思う所があって参加したらしい義弘である。大人の余裕が頼もしい。頼もしいのだが、大人の力が必要になる様な事態は起きない予定である。予定なのである。
「やぁ、よろしくね。いざという時は頼むよ」
『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)が答えた。いや、いざという事は起きないのである。
「……なんというかな、いざという時が起きそうな気がする。お互い気を付けよう」
「アッハハ、まぁ、気楽にね。このくらいなら、多少のハプニングも楽しいイベントさね」
何か起きることが確定してる、何か2人はそう言う確信を持っているような感じであるが、そういうことは起きな、
「なーなー! これなんだろうな!」
と、翔が何やら足元を指さした。
「翔? あんまりスイッチ類は触らない方が……」
『導きの鳥』麻弓 紡(CL2000623)が注意する間もなく。
踏んだ。
思いっきり。
翔が。
スイッチを。
がこん。と。
音がした。
ごごごごごご。
と。
音がした。
入り口が、閉ざされた。
「うお!? 入り口閉まった……!?」
翔が驚いた様子で言った。
「いや、言っただろ! 入り口に罠あるって!」
思わずツッコむ瑛莉に、
「あれ、そうだったっけ? ワクワクしすぎてて聞いてなかった!」
と、楽しげに答える翔である。
「あー、うん。楽しそうで何より、だよ……」
額に手を当てつつ、紡が言った。
「ああ、でも解除ボタンとかあるんじゃないかな?」
『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)が言う。事実、確かに解除ボタンは存在する。遺跡の最奥に位置する部屋に、
「ほら、この辺の壁とか……これとかそうじゃないか?」
と、壁をガンガンたたき出す彩吹である。違う、そこじゃない。
「如月、さん……確か、そのあたりは……」
恐る恐るミュエルが声をかけるが、
「うん? どうした?」
いっそさわやかな笑顔で、ガンガンと壁を叩いて回る彩吹。
と。
がこん。
ふたたび音がする。
すこん。
意外と軽い音を立てて、ミュエルの目の前に何かがふってきた。
それは、ミュエルの身長ほどの全長のある――。
「ヤリだ――!」
瑛莉が叫んだ。刹那、天井がきらりと光ったかと思うと、無数の槍が覚者達に襲い掛かる!
「に、逃げましょう!」
いのりが叫ぶ。一同は一斉に駆け出した。
「れ、レンゲさん……地図、持ってて……!」
走っている最中に落としてはまずい、ミュエルは自身の守護使役、『レンゲさん』に地図を預けた。
レンゲさんは得意げな顔で地図を受け取ると、
特別意訳『ぱくぱくならまかせてー!』
と、地図を口に放り込んだ。
食べた。飲みこんだ。
特別意訳『いがいとおいしい!』
「た、食べちゃダメ――!」
ミュエルの悲鳴が洞窟にこだました。
「おお! すっげー! 槍だ! 槍ふってきた!」
走りながら、翔。
「あはは、まるで映画みたいだ!」
ちょっと楽し気に、彩吹。
「このままじゃ、流石に追いつかれるかも……!」
紡がいう。確かに、このままではいくら覚者と言えど、降り注ぐ槍の餌食になる事は想像に難くない。
「よし、ならおっさんたちの出番だぞう」
逝が言うや、
一閃。
刃がきらめいたかと思うと、無数の槍が切り裂かれ、勢いを失い地に落ちた。
「やれやれ、やっぱりこうなるか」
義弘が盾で槍を防ぎ、メイスで薙ぎ払う。
2人によって次々と槍は薙ぎ払われていくが、それでも限界がある。というか、この遺跡、どれだけ槍がふってくるのだろうか。どれだけ天井に槍を貯蔵していたのだろうか。遺跡を作った人間の妙な拘りを感じられる。
と、第何陣になるのか、再び天井より槍が迫る。
「紡……!」
翔が叫び、紡を抱き留めた。迫る槍は、発生させた雷撃によって焼き払う。
「大丈夫か、紡」
翔が優しく声をかける。
「あ、ありがとう……」
紡が、頷いた。
気づけば相棒の腕の中。雨(槍の)から庇うその姿。これはロマンスの始ま、
「いやー、すっげースリルだな!」
めっちゃ楽しそうに笑う翔であった。ロマンスとかそう言うのとは無縁である。
「こっちに道があるよ、行こう!」
槍を振り回して槍を弾き飛ばしながら、彩吹が言う。一行は再び走り出した。
「ところで、この辺に何かなかったかな?」
彩吹が言った。
「えっと、確か落とし穴が――」
いのりが答える間もなく。
危険予知を持っている者は、気づいたかもしれない。
すぐ足元に危険が迫っていることに。
がこん。という音とともに。
床が、無くなった。
落ちた。
●ふぉーる・いん・とぅ・あ・ぴっと
ぶよん。
なんだか奇妙な感触。
落下した覚者達を待ち構えていたのは、覚悟していた硬い床の衝撃……ではない。なにか柔らかな、ゼリーのような感触である。
「お、おお、ありがとな、紡……」
翔が言った。落下途中で、紡に抱きかかえられ、助けられたようだ。
当の紡は、安心と驚きで、少し涙目になっている。
「でも、これ……なに、かな……?」
ミュエルが呟いて、足元を見やる。
果たして、足元にいたのは、感触通りのゼリー状の物体。
それがうにょうにょと、蠢いている。巨大な一つの物体かと思っていたそれは、よく見れば30cmほどのサイズのゼリー状の物体が、何匹も寄り集まっているようであった。
「……古妖・服だけ溶かすスライム(仮)だ」
神妙な顔で、瑛莉が言った。
「服だけ、溶かす……?」
「かっこかり……?」
胡散臭げな表情で、ミュエルと紡が、瑛莉を見やる。
「しょっ……しょうがねーだろ、F.i.V.E.でそうやって名前つけられてるんだから」
慌てて早口、しかしなぜか小声で、瑛莉が説明する。
「それは良いけど、何でそんなに声を潜めているんだ?」
彩吹が言う。
「ああ、いや、こいつら、音に敏感でな……大きい音を出さなければ無害なんだ。だから、」
「きゃー! 何か変な物がいますわ!」
いのりの叫び声が響いた。どうやらつい先ほどまで落下の衝撃で意識を失っていたのが、今目覚め、足元に蠢くスライムに驚いて、つい叫んでしまったらしい。
「大声を出さなければ……良かったんだけどなぁ……」
何か諦めたような表情の瑛莉に、一斉にスライムが襲い掛かった。
「え、瑛莉様!」
いのりが再び叫び声をあげる。と、同時に、複数にスライムが彼女に襲い掛かった。覚醒した彼女の衣装は些か際どく、布地の少ないものなのだが、それでもどこか溶かそうという意地でもあるのか、うねうねと体をはい回る。
「ひゃっ……や、やめてくださいまし! ただでさえ恥ずかしいのに、これ以上露出が増えたらお嫁にいけませんわ!」
ごもっとも。
一方、スライムは次々と覚者達に襲い掛かる。
「うわぁ、ほんとに服が溶けてる……」
ちょっと引いた感じで、翔がズボンの足元に引っ付いたスライムを振り落とそうとする。が、スライムもそう簡単にははがれてくれない。
「うう、あんまり、触りたくない……あ! も、もう穴が開いてる……こないだ買ったばっかの秋服なのに……っ!」
半泣きでスライムを払うミュエルである。が、次から次へとやってくるスライムにとっては、最新の秋服コーデ等、絶好のごちそうに過ぎない。
「で、出口! 出口を探そ!」
紡が周囲を探り始める。これ以上この部屋にいたら、ゲームのレーティングが上がりかねない。それはまずい。このゲームは全年齢なのだ。
「うん、こっちだ。通路がある」
このような状況でも割と冷静に――しかし、どこか楽しげな雰囲気もあるが――彩吹。と、冷静なのはいいのだが。
「い、彩吹さん!?」
「服、服っ、破れてるからっっ」
翔と紡が、目を丸くした。というのも、既にあちこちをスライムにかじられていたのか、服はボロボロで、というか、もう服という役目を成していない。翔は思わず目をそらした。
「服? あー、大丈夫大丈夫、安い服だから問題ないよ」
けろりとした表情で言う彩吹。そう言う問題ではない。
「服、誰か……隠せる服、ない……!?」
彩吹のあんまりな格好に、流石のミュエルもパニックになる。
「だ、ダメですわ! 見てはいけませんわ!」
いのりが慌てて翔の目をふさぐ。
「いや、見てないから! 大丈夫! 見ないから!」
てんやわんやであった。
「や、大丈夫かい?」
「どうやらひどい目に遭ったようだな……」
落とし穴から続いた通路の先で待っていたのは、槍を防ぐことに専念していたため、落とし穴に落ちずに済んだ逝と義弘の2人である。
「2人とも、無事だったのか」
結構ボロボロな感じの瑛莉が、2人に尋ねる。
「まぁね。というか、おっさんの服が溶かされても誰も喜ばないでしょ?」
「だな。ぶっちゃけて言えば、男が落ちて絵的に何が面白いんだ、だしな」
全くその通りな話であるが、あんまりと言えばあんまりな話でもある。
さて、落とし穴に落ちた一行、とりわけ被害が酷い彩吹と瑛莉は、義弘が用意していた替えの服に着替え、とりあえず一息ついた。
ここからは、迷路が待っている。予定通りなら、地図のおかげで何の苦労もなく突破できるはずであったが。
「ゴメン……地図、無くしちゃって……」
しゅん、とした様子でミュエルが言った。レンゲさんが、
特別意訳『みゅえるちゃん、なかないで』
と慰める。悪いのはレンゲさんなのだが、レンゲさんのせいで、とは言えない所がミュエルの性格であろう。良い子。
「ん? あるよ? 地図」
と。
こともなげに、逝が言った。
「えっ」
ミュエルが虚をつかれた表情をした。
「いや、最初に写しをとっていたのさね。予備を持っておくのは常識だろう? あれ、言ってなかったかい」
本当に当然のように逝が言った。
「……むー」
逝に落ち度はない、全くない。なのだが、申し訳なさや、予備があるなら言っておいてよ、という気持ちやら、やり場のないあれやこれやな感情がミュエルの中に蓄積し、思わず頬を膨らませてしまうのであった。
●うぇいくあっぷ・ざ・でびる
さて、最奥、封印の間である。
ここまで来るのに様々なトラブルがあった。
ほんとは何事もなく到達できるはずだったのだが、何故だろう、色々とトラブルが重なった。
「いやぁ、こんなに大変な調査を『ピクニック』だなんて、神林は逞しいんだな」
にこにこと、彩吹が言う。全く悪気はない。というか、「私も見習わなければ」と感心していたりする。
「……そうだな……逞しいよな……オレって……」
なんか色々諦めた表情で、瑛莉が答えた。
とは言え、これ以上のトラブルは起きようはずもない。というか、この部屋に罠はないのだ。やったね!
「とりあえず、入り口の罠、解除しておくね」
紡が、部屋の奥に設置されていたスイッチを押す。これで、入り口は解放された。
「後は帰るだけだな。お疲れ様、だ」
ふう、と近くにあった石の棺に手をついて、義弘が言う。
「あー、面白かった。……そう言えば、ここに古妖が封印されてるんだっけ? なんだけ、眠る……?」
近くにあった石の棺に手をついて、翔が言う。
「アッハハ、忘れたのかね、『眠る猫、起きる猫』よ」
近くにあった石の棺に手をついて、逝が言う。
「そうそう、変な封印だよな! 『眠る猫、起きる猫』って!」
「どういう経緯で決めたのだろうな、『眠る猫、起きる猫』という言葉は」
「まぁ、普通は言わないわよね、『眠る猫、起きる猫』とか」
『アッハッハッハ』
無邪気な3人の笑いがこだまする。
と。
3人がたまたま手をついていた棺が輝き始めた!
なんという事だろう! 3人がたまたま手をついていた棺が封印の棺だったのだ! こんな事態は例え夢見であっても予知できまい!
がこん、と音を立てて、棺の蓋が開く。まばゆい輝きの中、棺から現れたのは――。
「おはようございますにゃ」
猫である。
その場にいた全員の視線が、その猫――古妖・猫又――に集中した。
「にゃ?」
猫が首をかしげる。
「まぁ、可愛らしい♪」
いのりが口を開いた。おいでおいで、と手を叩き、猫を呼ぶ。
猫又は誘われるままてくてくと歩いて、いのりの掌に額をこすりつける。
「うお、猫じゃん! おやつ喰うか?」
翔がいそいそと、持ってきたおかしを取り出し、猫の頭をなでる。
「う、ね、猫……かぁ……!」
どうやら、何か相いれないものがあるらしい。
猫と戯れる翔とは裏腹に、翔にくっついて、ぷるぷると震える紡である。
「あはは、大丈夫。怖くないから」
笑いながら、紡の頭をなでる彩吹。
「おお、カリカリ食うかな」
どうやら用意していたらしいキャットフードを取り出しつつ、義弘。
「……なんだか、悪い子じゃない、みたいだね……」
ミュエルもそう言いながら、猫又へと近づく。猫又はミュエルの髪の毛にじゃれついた。レンゲさんもじゃれついた。
困ったような顔をするミュエルだが、嫌ではなさそうである。
場の空気は一瞬にして和んだ。明らかに、危険な遺跡の最奥で発せられる空気ではない。
なんというか、この空気は、例えるならそう、猫カフェのそれである。
「神林ちゃんは遊ばないのかい?」
どこからともなく猫じゃらしを取り出しつつ尋ねる逝に、
「……もうちょっとしたら遊ぶ……」
と、瑛莉が答えた。
とりあえず、今の瑛莉の頭の中は、「報告書、これ、どうしようかなぁ……」という事で一杯であった。
封印されていた猫又は、大方の予想通り根っからの悪猫と言うわけではなく、少々悪戯が過ぎたために封印された、という事だ。
覚者達に説得された猫又は、人類との共存と、今後悪戯はしない事を約束、F.i.V.E.に保護されることを承諾した。
帰り道は――誰が猫又を抱いて帰るか、というちょっとしたじゃんけん大会が始まったものの――特にトラブルもなく、スムーズな物であった。
「いやー! 楽しかった! たまにはいいなぁ、こういうのも!」
数時間ぶりの日の光を浴びながら、翔が伸びをする。
「確かに、偶にはこう、のんびりするのもいいわねぇ」
逝が言う。確かに、この程度のトラブルなど、普段の仕事に比べたらのんびりとしたものだろう。
「トラブルはないと思ってたけど……ホント、映画みたいだったね……」
少し疲れたような声で、でもどこか楽しげな表情で、紡。
「まぁ、無事終わったのはいい事だ。終わりよければ、という奴だな」
と、義弘。
「服が、ダメになっちゃったの、ちょっと残念、だけど……楽しかった、ね」
ミュエルも、笑顔で感想を述べる。
「うん、いい経験になったよ。また皆で調査に出たいものだな」
彩吹の言葉に、
「そうですわね♪ 瑛莉様、また誘ってくださいましね♪」
と、いのりが同意しつつ、瑛莉に言う。
「……そうだな……」
疲れたような表情で、瑛莉が頷いた。
かくして覚者達の活躍により、ひとつの遺跡の調査が完了した。
しかし地味な遺跡はまだ無数に存在する。
もし君達が、地味な遺跡を調査したくなったら、神林瑛莉を捕まえよう。
きっとまた、お仕事に同行させてくれる……かもしれない。
さて、天気の良いある日。
覚者一行は、とある山中にある遺跡の前に集まっていた。
「一応言っておくけど、気をつけてな」
と、神林 瑛莉が告げる。気を付けて、とはいうものの、その声色に緊張感は感じられない。
それもそうである。地図があり、罠の場所は確認してあり、敵らしい敵もいない。
何の問題もない、ちょっとした洞窟探検。ちょっとしたピクニック。
これは、そういうお仕事である。
そう言うお仕事なんだってば。
「普段は、戦いに行くことばっかりで……こういう調査って、久しぶりだから……なんだか、新鮮、かも……」
穏やかな調子で、『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)が言った。エース級の覚者であるミュエル達にとっては、仕事とは、すなわち危険と隣り合わせの戦いと同義である。こうやってのんびりとした雰囲気でF.i.V.E.の仕事に携わるのは、実に久しぶりなのだろう。
「よろしくお願いします、神林先輩……♪」
今日は勉強のつもりで、とミュエルは言っていた。そう言った意味で、この手の仕事にはよく携わる瑛莉を先輩と呼んだわけなのだが、
「な、なんか、くすぐったいな……そういう言い方……」
思わず頬を染め、ほっぺたをかく瑛莉。まんざらでもないらしい。
「瑛梨様のお仕事を拝見できるのは楽しみですわ♪」
と、カメラを携え、『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)。ワクワクとした表情であたりを見回すその姿は、まさに友人達と洞窟探検にやってきた、年相応の少女と言った所である。普段から些か殺伐とした戦いに赴くいのり達にとっては、こういう仕事は良い息抜きになるのかもしれない。
いのりの姿を眺めつつ、また誘ってみようかなー、等と思う瑛莉である。
「神林さん! 入っていいかな!」
もう待ちきれない、という感じで、『白の勇気』成瀬 翔(CL2000063)が言った。
「おう、じゃあ、行くか!」
瑛莉の返事に、翔が駆けだした。それを追うように、一行は遺跡へと足を踏み入れる。
さて、遺跡の中は、事前の予知通り、天然の洞窟を利用して作られた物のようだ。明りは流石になかったため、各々スキルや懐中電灯などを利用して、光源を確保する。
「さて、改めてになるが、よろしくな、皆」
落ち着いた声で、『ストレートダッシュ』斎 義弘(CL2001487)が告げる。
何やら思う所があって参加したらしい義弘である。大人の余裕が頼もしい。頼もしいのだが、大人の力が必要になる様な事態は起きない予定である。予定なのである。
「やぁ、よろしくね。いざという時は頼むよ」
『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)が答えた。いや、いざという事は起きないのである。
「……なんというかな、いざという時が起きそうな気がする。お互い気を付けよう」
「アッハハ、まぁ、気楽にね。このくらいなら、多少のハプニングも楽しいイベントさね」
何か起きることが確定してる、何か2人はそう言う確信を持っているような感じであるが、そういうことは起きな、
「なーなー! これなんだろうな!」
と、翔が何やら足元を指さした。
「翔? あんまりスイッチ類は触らない方が……」
『導きの鳥』麻弓 紡(CL2000623)が注意する間もなく。
踏んだ。
思いっきり。
翔が。
スイッチを。
がこん。と。
音がした。
ごごごごごご。
と。
音がした。
入り口が、閉ざされた。
「うお!? 入り口閉まった……!?」
翔が驚いた様子で言った。
「いや、言っただろ! 入り口に罠あるって!」
思わずツッコむ瑛莉に、
「あれ、そうだったっけ? ワクワクしすぎてて聞いてなかった!」
と、楽しげに答える翔である。
「あー、うん。楽しそうで何より、だよ……」
額に手を当てつつ、紡が言った。
「ああ、でも解除ボタンとかあるんじゃないかな?」
『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)が言う。事実、確かに解除ボタンは存在する。遺跡の最奥に位置する部屋に、
「ほら、この辺の壁とか……これとかそうじゃないか?」
と、壁をガンガンたたき出す彩吹である。違う、そこじゃない。
「如月、さん……確か、そのあたりは……」
恐る恐るミュエルが声をかけるが、
「うん? どうした?」
いっそさわやかな笑顔で、ガンガンと壁を叩いて回る彩吹。
と。
がこん。
ふたたび音がする。
すこん。
意外と軽い音を立てて、ミュエルの目の前に何かがふってきた。
それは、ミュエルの身長ほどの全長のある――。
「ヤリだ――!」
瑛莉が叫んだ。刹那、天井がきらりと光ったかと思うと、無数の槍が覚者達に襲い掛かる!
「に、逃げましょう!」
いのりが叫ぶ。一同は一斉に駆け出した。
「れ、レンゲさん……地図、持ってて……!」
走っている最中に落としてはまずい、ミュエルは自身の守護使役、『レンゲさん』に地図を預けた。
レンゲさんは得意げな顔で地図を受け取ると、
特別意訳『ぱくぱくならまかせてー!』
と、地図を口に放り込んだ。
食べた。飲みこんだ。
特別意訳『いがいとおいしい!』
「た、食べちゃダメ――!」
ミュエルの悲鳴が洞窟にこだました。
「おお! すっげー! 槍だ! 槍ふってきた!」
走りながら、翔。
「あはは、まるで映画みたいだ!」
ちょっと楽し気に、彩吹。
「このままじゃ、流石に追いつかれるかも……!」
紡がいう。確かに、このままではいくら覚者と言えど、降り注ぐ槍の餌食になる事は想像に難くない。
「よし、ならおっさんたちの出番だぞう」
逝が言うや、
一閃。
刃がきらめいたかと思うと、無数の槍が切り裂かれ、勢いを失い地に落ちた。
「やれやれ、やっぱりこうなるか」
義弘が盾で槍を防ぎ、メイスで薙ぎ払う。
2人によって次々と槍は薙ぎ払われていくが、それでも限界がある。というか、この遺跡、どれだけ槍がふってくるのだろうか。どれだけ天井に槍を貯蔵していたのだろうか。遺跡を作った人間の妙な拘りを感じられる。
と、第何陣になるのか、再び天井より槍が迫る。
「紡……!」
翔が叫び、紡を抱き留めた。迫る槍は、発生させた雷撃によって焼き払う。
「大丈夫か、紡」
翔が優しく声をかける。
「あ、ありがとう……」
紡が、頷いた。
気づけば相棒の腕の中。雨(槍の)から庇うその姿。これはロマンスの始ま、
「いやー、すっげースリルだな!」
めっちゃ楽しそうに笑う翔であった。ロマンスとかそう言うのとは無縁である。
「こっちに道があるよ、行こう!」
槍を振り回して槍を弾き飛ばしながら、彩吹が言う。一行は再び走り出した。
「ところで、この辺に何かなかったかな?」
彩吹が言った。
「えっと、確か落とし穴が――」
いのりが答える間もなく。
危険予知を持っている者は、気づいたかもしれない。
すぐ足元に危険が迫っていることに。
がこん。という音とともに。
床が、無くなった。
落ちた。
●ふぉーる・いん・とぅ・あ・ぴっと
ぶよん。
なんだか奇妙な感触。
落下した覚者達を待ち構えていたのは、覚悟していた硬い床の衝撃……ではない。なにか柔らかな、ゼリーのような感触である。
「お、おお、ありがとな、紡……」
翔が言った。落下途中で、紡に抱きかかえられ、助けられたようだ。
当の紡は、安心と驚きで、少し涙目になっている。
「でも、これ……なに、かな……?」
ミュエルが呟いて、足元を見やる。
果たして、足元にいたのは、感触通りのゼリー状の物体。
それがうにょうにょと、蠢いている。巨大な一つの物体かと思っていたそれは、よく見れば30cmほどのサイズのゼリー状の物体が、何匹も寄り集まっているようであった。
「……古妖・服だけ溶かすスライム(仮)だ」
神妙な顔で、瑛莉が言った。
「服だけ、溶かす……?」
「かっこかり……?」
胡散臭げな表情で、ミュエルと紡が、瑛莉を見やる。
「しょっ……しょうがねーだろ、F.i.V.E.でそうやって名前つけられてるんだから」
慌てて早口、しかしなぜか小声で、瑛莉が説明する。
「それは良いけど、何でそんなに声を潜めているんだ?」
彩吹が言う。
「ああ、いや、こいつら、音に敏感でな……大きい音を出さなければ無害なんだ。だから、」
「きゃー! 何か変な物がいますわ!」
いのりの叫び声が響いた。どうやらつい先ほどまで落下の衝撃で意識を失っていたのが、今目覚め、足元に蠢くスライムに驚いて、つい叫んでしまったらしい。
「大声を出さなければ……良かったんだけどなぁ……」
何か諦めたような表情の瑛莉に、一斉にスライムが襲い掛かった。
「え、瑛莉様!」
いのりが再び叫び声をあげる。と、同時に、複数にスライムが彼女に襲い掛かった。覚醒した彼女の衣装は些か際どく、布地の少ないものなのだが、それでもどこか溶かそうという意地でもあるのか、うねうねと体をはい回る。
「ひゃっ……や、やめてくださいまし! ただでさえ恥ずかしいのに、これ以上露出が増えたらお嫁にいけませんわ!」
ごもっとも。
一方、スライムは次々と覚者達に襲い掛かる。
「うわぁ、ほんとに服が溶けてる……」
ちょっと引いた感じで、翔がズボンの足元に引っ付いたスライムを振り落とそうとする。が、スライムもそう簡単にははがれてくれない。
「うう、あんまり、触りたくない……あ! も、もう穴が開いてる……こないだ買ったばっかの秋服なのに……っ!」
半泣きでスライムを払うミュエルである。が、次から次へとやってくるスライムにとっては、最新の秋服コーデ等、絶好のごちそうに過ぎない。
「で、出口! 出口を探そ!」
紡が周囲を探り始める。これ以上この部屋にいたら、ゲームのレーティングが上がりかねない。それはまずい。このゲームは全年齢なのだ。
「うん、こっちだ。通路がある」
このような状況でも割と冷静に――しかし、どこか楽しげな雰囲気もあるが――彩吹。と、冷静なのはいいのだが。
「い、彩吹さん!?」
「服、服っ、破れてるからっっ」
翔と紡が、目を丸くした。というのも、既にあちこちをスライムにかじられていたのか、服はボロボロで、というか、もう服という役目を成していない。翔は思わず目をそらした。
「服? あー、大丈夫大丈夫、安い服だから問題ないよ」
けろりとした表情で言う彩吹。そう言う問題ではない。
「服、誰か……隠せる服、ない……!?」
彩吹のあんまりな格好に、流石のミュエルもパニックになる。
「だ、ダメですわ! 見てはいけませんわ!」
いのりが慌てて翔の目をふさぐ。
「いや、見てないから! 大丈夫! 見ないから!」
てんやわんやであった。
「や、大丈夫かい?」
「どうやらひどい目に遭ったようだな……」
落とし穴から続いた通路の先で待っていたのは、槍を防ぐことに専念していたため、落とし穴に落ちずに済んだ逝と義弘の2人である。
「2人とも、無事だったのか」
結構ボロボロな感じの瑛莉が、2人に尋ねる。
「まぁね。というか、おっさんの服が溶かされても誰も喜ばないでしょ?」
「だな。ぶっちゃけて言えば、男が落ちて絵的に何が面白いんだ、だしな」
全くその通りな話であるが、あんまりと言えばあんまりな話でもある。
さて、落とし穴に落ちた一行、とりわけ被害が酷い彩吹と瑛莉は、義弘が用意していた替えの服に着替え、とりあえず一息ついた。
ここからは、迷路が待っている。予定通りなら、地図のおかげで何の苦労もなく突破できるはずであったが。
「ゴメン……地図、無くしちゃって……」
しゅん、とした様子でミュエルが言った。レンゲさんが、
特別意訳『みゅえるちゃん、なかないで』
と慰める。悪いのはレンゲさんなのだが、レンゲさんのせいで、とは言えない所がミュエルの性格であろう。良い子。
「ん? あるよ? 地図」
と。
こともなげに、逝が言った。
「えっ」
ミュエルが虚をつかれた表情をした。
「いや、最初に写しをとっていたのさね。予備を持っておくのは常識だろう? あれ、言ってなかったかい」
本当に当然のように逝が言った。
「……むー」
逝に落ち度はない、全くない。なのだが、申し訳なさや、予備があるなら言っておいてよ、という気持ちやら、やり場のないあれやこれやな感情がミュエルの中に蓄積し、思わず頬を膨らませてしまうのであった。
●うぇいくあっぷ・ざ・でびる
さて、最奥、封印の間である。
ここまで来るのに様々なトラブルがあった。
ほんとは何事もなく到達できるはずだったのだが、何故だろう、色々とトラブルが重なった。
「いやぁ、こんなに大変な調査を『ピクニック』だなんて、神林は逞しいんだな」
にこにこと、彩吹が言う。全く悪気はない。というか、「私も見習わなければ」と感心していたりする。
「……そうだな……逞しいよな……オレって……」
なんか色々諦めた表情で、瑛莉が答えた。
とは言え、これ以上のトラブルは起きようはずもない。というか、この部屋に罠はないのだ。やったね!
「とりあえず、入り口の罠、解除しておくね」
紡が、部屋の奥に設置されていたスイッチを押す。これで、入り口は解放された。
「後は帰るだけだな。お疲れ様、だ」
ふう、と近くにあった石の棺に手をついて、義弘が言う。
「あー、面白かった。……そう言えば、ここに古妖が封印されてるんだっけ? なんだけ、眠る……?」
近くにあった石の棺に手をついて、翔が言う。
「アッハハ、忘れたのかね、『眠る猫、起きる猫』よ」
近くにあった石の棺に手をついて、逝が言う。
「そうそう、変な封印だよな! 『眠る猫、起きる猫』って!」
「どういう経緯で決めたのだろうな、『眠る猫、起きる猫』という言葉は」
「まぁ、普通は言わないわよね、『眠る猫、起きる猫』とか」
『アッハッハッハ』
無邪気な3人の笑いがこだまする。
と。
3人がたまたま手をついていた棺が輝き始めた!
なんという事だろう! 3人がたまたま手をついていた棺が封印の棺だったのだ! こんな事態は例え夢見であっても予知できまい!
がこん、と音を立てて、棺の蓋が開く。まばゆい輝きの中、棺から現れたのは――。
「おはようございますにゃ」
猫である。
その場にいた全員の視線が、その猫――古妖・猫又――に集中した。
「にゃ?」
猫が首をかしげる。
「まぁ、可愛らしい♪」
いのりが口を開いた。おいでおいで、と手を叩き、猫を呼ぶ。
猫又は誘われるままてくてくと歩いて、いのりの掌に額をこすりつける。
「うお、猫じゃん! おやつ喰うか?」
翔がいそいそと、持ってきたおかしを取り出し、猫の頭をなでる。
「う、ね、猫……かぁ……!」
どうやら、何か相いれないものがあるらしい。
猫と戯れる翔とは裏腹に、翔にくっついて、ぷるぷると震える紡である。
「あはは、大丈夫。怖くないから」
笑いながら、紡の頭をなでる彩吹。
「おお、カリカリ食うかな」
どうやら用意していたらしいキャットフードを取り出しつつ、義弘。
「……なんだか、悪い子じゃない、みたいだね……」
ミュエルもそう言いながら、猫又へと近づく。猫又はミュエルの髪の毛にじゃれついた。レンゲさんもじゃれついた。
困ったような顔をするミュエルだが、嫌ではなさそうである。
場の空気は一瞬にして和んだ。明らかに、危険な遺跡の最奥で発せられる空気ではない。
なんというか、この空気は、例えるならそう、猫カフェのそれである。
「神林ちゃんは遊ばないのかい?」
どこからともなく猫じゃらしを取り出しつつ尋ねる逝に、
「……もうちょっとしたら遊ぶ……」
と、瑛莉が答えた。
とりあえず、今の瑛莉の頭の中は、「報告書、これ、どうしようかなぁ……」という事で一杯であった。
封印されていた猫又は、大方の予想通り根っからの悪猫と言うわけではなく、少々悪戯が過ぎたために封印された、という事だ。
覚者達に説得された猫又は、人類との共存と、今後悪戯はしない事を約束、F.i.V.E.に保護されることを承諾した。
帰り道は――誰が猫又を抱いて帰るか、というちょっとしたじゃんけん大会が始まったものの――特にトラブルもなく、スムーズな物であった。
「いやー! 楽しかった! たまにはいいなぁ、こういうのも!」
数時間ぶりの日の光を浴びながら、翔が伸びをする。
「確かに、偶にはこう、のんびりするのもいいわねぇ」
逝が言う。確かに、この程度のトラブルなど、普段の仕事に比べたらのんびりとしたものだろう。
「トラブルはないと思ってたけど……ホント、映画みたいだったね……」
少し疲れたような声で、でもどこか楽しげな表情で、紡。
「まぁ、無事終わったのはいい事だ。終わりよければ、という奴だな」
と、義弘。
「服が、ダメになっちゃったの、ちょっと残念、だけど……楽しかった、ね」
ミュエルも、笑顔で感想を述べる。
「うん、いい経験になったよ。また皆で調査に出たいものだな」
彩吹の言葉に、
「そうですわね♪ 瑛莉様、また誘ってくださいましね♪」
と、いのりが同意しつつ、瑛莉に言う。
「……そうだな……」
疲れたような表情で、瑛莉が頷いた。
かくして覚者達の活躍により、ひとつの遺跡の調査が完了した。
しかし地味な遺跡はまだ無数に存在する。
もし君達が、地味な遺跡を調査したくなったら、神林瑛莉を捕まえよう。
きっとまた、お仕事に同行させてくれる……かもしれない。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:明石 ミュエル(CL2000172)
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:成瀬 翔(CL2000063)
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:麻弓 紡(CL2000623)
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:如月・彩吹(CL2001525)
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:秋津洲 いのり(CL2000268)
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:斎 義弘(CL2001487)
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:緒形 逝(CL2000156)
取得者:明石 ミュエル(CL2000172)
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:成瀬 翔(CL2000063)
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:麻弓 紡(CL2000623)
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:如月・彩吹(CL2001525)
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:秋津洲 いのり(CL2000268)
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:斎 義弘(CL2001487)
『だんじょんえくすぷろーらー』
取得者:緒形 逝(CL2000156)
特殊成果
『おさかな』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
