≪福利厚生2017≫打ち上げ花火はどこから見るか
●
「やっほー! 海だよ♪」
友ヶ島で覚者の下へ元気よく前にやって来たのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)だ。元々アウトドア女子で外だとテンション高くなるタイプだが、この日のために水着を新調したとかで、もう止まらない。
「ねぇねぇ、夜って空いてる? せっかくだからさ、花火大会やろうよ、みんな呼んでさ。夏と言えば花火でしょ!」
どうやら、友ヶ島のビーチを利用して花火大会をやろうという話らしい。
たしかにスペースはあるし、水場は近いし、気軽に楽しめそうな場所である。
実の所、最初っから花火大会をやるつもりで準備をしているらしい。人が集まらなかったらどうするつもりだったんだというツッコミもあるが、麦はそこまで深く考えて動くタイプではない。
ホームセンターで買えるようなものばかりだが、種類は豊富だ。小さな打ち上げ花火もあるらしい。
噴出花火をみんなでわいわい騒ぎながら遊ぶもよし、線香花火を静かに遊ぶもよし。
打ち上げ花火を上げてみるのもいいだろう。
FIVEは今、大きな責任を背負うことになったし、戦いも一層過酷なものとなっている。そんな時だからこそ、しっかりと休むことが大事だ。
「人がたくさん来てくれた方が、こういうのって盛り上がるからね。みんなの参加、待ってるよ!」
「やっほー! 海だよ♪」
友ヶ島で覚者の下へ元気よく前にやって来たのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)だ。元々アウトドア女子で外だとテンション高くなるタイプだが、この日のために水着を新調したとかで、もう止まらない。
「ねぇねぇ、夜って空いてる? せっかくだからさ、花火大会やろうよ、みんな呼んでさ。夏と言えば花火でしょ!」
どうやら、友ヶ島のビーチを利用して花火大会をやろうという話らしい。
たしかにスペースはあるし、水場は近いし、気軽に楽しめそうな場所である。
実の所、最初っから花火大会をやるつもりで準備をしているらしい。人が集まらなかったらどうするつもりだったんだというツッコミもあるが、麦はそこまで深く考えて動くタイプではない。
ホームセンターで買えるようなものばかりだが、種類は豊富だ。小さな打ち上げ花火もあるらしい。
噴出花火をみんなでわいわい騒ぎながら遊ぶもよし、線香花火を静かに遊ぶもよし。
打ち上げ花火を上げてみるのもいいだろう。
FIVEは今、大きな責任を背負うことになったし、戦いも一層過酷なものとなっている。そんな時だからこそ、しっかりと休むことが大事だ。
「人がたくさん来てくれた方が、こういうのって盛り上がるからね。みんなの参加、待ってるよ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.花火を楽しむ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
流行りにのっていくスタイル、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は花火大会で思い切り騒ぎましょう。
●行動について
今回はみんなで花火を遊びます。
場所は友ヶ島、夜のビーチ。
みんなで花火を遊んでいただければと思います。
花火のこだわりを語ったり、騒いだりしてみるのが良いでしょう。
花火を遊びながら、友人としんみり語り合ってみるのも可です。
羽目を外しすぎないようにお気を付けください。
人に向かって花火打つのはNGです。
基本的にごみはちゃんと片付けたことになります。
大体以下の花火が使用可能なものです。
麦が用意していますが、持ち込みは当然アリです。
・手持ち花火
・線香花火
・ロケット花火
・パラシュート花火
・ねずみ花火
・蛇花火
・コマ花火
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
NPCの麦も参加しております。
何かあればお声かけください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
16/50
16/50
公開日
2017年09月15日
2017年09月15日
■メイン参加者 16人■

●
成瀬翔は年若いが多くの戦闘を経験してきた覚者だ。その彼が、かつてない戸惑いの中にあった。
場所は友ヶ島、夜のビーチ。FIVE主催による花火大会の真っ最中である。
原因は目の前で花火を楽しむ、相棒の紡だ。
青い花火紋様の白い浴衣姿は、今までにない女性を感じさせるものだった。今風にアレンジを加えて、髪形もそれに合わせてお団子になっている。
「ねぇね、相棒~。今日のボクってば女子力高くない?」
(なんか顔熱いぞ!? 風邪でも引いたか!? いや、そうか、夏だから暑いんだよな!)
無理やり自分を納得させる翔。
しかし、同時に今まで性別を意識していなかった紡を女性として意識してしまったのも事実だった。
「時雨ぴょん花火やろーよ!」
ことこが時雨を誘うこの一言が、ことの始まりだった。
最初は時雨も気乗りしていなかったが、冷房効いた部屋にずっといるのも芸がない。夏の風物詩は体験しておいた方が良いだろうと、出ることにした。
2人して浴衣姿で海岸に向かい、線香花火に火を点ける。
「あの姿まで、後何年やろ……?」
覚醒したのならともかく、時雨もことこも色気には欠けるタイプだ。それぞれ、『香り立つ色気のある浴衣姿』に憧れはあるが、先は長いところだ。
そんなことを考えながら、時雨はボーっと火花を眺めている。彼女はこういう落ち着いたものが好みだ。
しかし、ことこはちがった。
そして、一度ついたいたずら心は止まらない。
「ちょっとくらい刺激があった方がいいよね?」」
「へ? 刺激……って何すんねや!?」
闇を切り裂くように火花が疾しる。
そして、凶悪な音を立てながら、ことこのばらまいたそれは縦横無尽に砂場を駆け回った。
「ねずみ花火!?」
一度火が付くと、周囲を勢いよく走る花火だ。近くを走ると結構怖い。
そして、時雨がちょっと上を見ると、ことこは翼を広げて地面から飛び去ろうとしてた。
「って逃がすかぁ!! せめて道連れにしたるわ!!」
「ってちょ! ことこちゃん巻き込むのなしー!! あぁぁぁぁ!!!」
友ヶ島の夜にことこの悲鳴が響き渡る。
まぁ、こうやってはしゃげる友達がいるのは良いことだ。
千歳と冬佳は少し離れたところから、皆の花火を眺めていた。浴衣姿で夏の終わりの風を感じているのも中々乙なものである。
しかし、見ているだけではつまらないと、千歳は花火を手に取った。
「そういえば1つ知らない花火があるんだけれど、コマ花火……? 冬佳さんは知ってるかい?」
「コマ?」
「物はひとつ試しかな」
小首を傾げる冬佳。どちらも知らなかったので、火を点けて近くに投げてみる。
すると、コマ花火はその場で火を放ちながらくるくる回り出す。
「あぁ、なるほど。ねずみ花火の爆発しない奴」
「本体が独楽状だからコマ花火。本当に独楽のよう」
コマ花火の火が消えるまで、2人でそれを眺めている。そんな2人の前で最後に強く光を見せて、花火が消える。見届けたところで、定番の花火に取り掛かる。
「何となく安心しますね……」
そう言いながら、冬佳は少しでも長く持たせようと、角度を調整ながら試行錯誤している。その甲斐あって千歳の花火より長持ちしている。
最初は残念そうだったが、今度は冬佳の花火をのんびり眺める。
「綺麗だねえ……あぁ、勿論冬佳さんも綺麗だよ」
「ええ……えっ!?」
なんとなく相槌を打った冬佳だったが、何気なく紛れていた花火以上の爆弾発言に顔を赤く染めてしまう。
「……な、なんですか、いきなり」
慌てる冬佳だが、千歳はそんな彼女をニコニコと見守る。
まだ冬佳の花火が消えるまで時間がありそうだ。その程度の時間、こうしていてもバチは当たらないだろう。
パチパチ爆ぜる線香花火に、那由多はぴこぴこ耳を動かしながら見入っていた。
「華やかさはあらへんけど、この可愛らしいんが、やっぱりええなぁ」
大人しい花火の光は心が落ち着く。しかし、ジャックの心はそれどころではなかった。
(うっ、耳、猫耳……! 可愛すぎかよ、ぴくぴく動いてる!)
見慣れた猫耳だが、こうやって普段と違う場所だと違って見える。本来は那由多自身に使うべき表現な気もするが、つまりは猫耳に障りたいということだ。
思いついたら己を抑えるのが苦手なジャックは、こっそり那由多の猫耳と尻尾に触れようとする。
しかし、そうした不穏な動きは那由多だって感じる。何か気配を感じるたびに振り向くから、ジャックも中々触れることが出来ない。
(んー……やっぱりこれって……)
そんなことを那由多が考えいてる内に、花火の火が消える。そのタイミングを見計らって、ジャックは彼女を押し倒す。
(ちょっとだけ……先っぽだけ……ええい! ままよ!!)
「え、ちょっと……か、魁斗ー! どないしたん!」
色っぽい状況にも聞こえる言葉だが、ジャックの狙いは那由多。すっかりご満悦の表情だ。
「捕まえたっ捕まえた! これこれ! これがまた触りたかったん!!」
「触りたかったら、言うてくれたら良かったんに。相変わらずひゃっこい手やなぁ」
呆れたような嬉しいような表情で那由多は答える。
「……でも、気持ちええよ」
ジャックが見たかったのは、花火よりもこの那由多の笑顔なのかもしれない。
「ふふ、こゆのって翼持ちの特権だよね」
木の上に登って、紡と翔は辺りの花火を眺めていた。翼の因子があればこういう時、簡単に高いところに行ける。花火をこの角度から見られるものは中々いない。
一方の翔は落ち着かない自分に戸惑っていた。
その時、ドーンと大きな音が鳴り響く。きゃっと小さな声を上げて、紡は翔に抱き付く。思った以上に大きく体に振動が伝わったからだ。
翔は固まってしまってそれどころではない。
そして、紡はそんな翔の内心を知ってか知らずか、無邪気に無防備な笑顔を向ける。
「来年もみたいねっ」
「来年? そだな、じゃあ来年はオレも浴衣着るかなっ。約束な」
翔はまだ自分の中に生まれた感情が何なのか分かっていない。それをごまかすように、笑顔を返す。
来年、どのような顔でこの景色を眺めているのだろうか。
そんな2人をまた、花火の光が照らした。
●
少し遅れてやって来たのは奏空とたまきだった。
たまきは浴衣に着替えており、奏空はそのペースに合わせて歩いている。もちろん、彼が妙な緊張をしているのも理由の一つだ。
「何やろうか、ロケット花火とかそういうのは怖いかな? でもパラシュート花火とかって面白いよ」
「パラシュート花火は、楽しいですよね!」
そんな奏空の提案もあって打ち上げられたパラシュート花火は空高く飛んでいく。
そして、奏空は全力でキャッチに向かう。男の子にとって、負けられない戦いがそこにはある。
「ほら、取ったよー! はい、たまきちゃんの分!」
頑張った奏空をたまきは、拍手で迎えてくれる。それは少年にとって何よりのご褒美だ。
と、そんな中、奏空はたまきの小指に赤い糸が結ばれていることに気が付く。
そこで、一通り遊び疲れて休んでから、奏空は疑問を口にした。
「浴衣すごく似合ってるよ。とっても可愛い! でね、気になってるんだけど、その小指の赤い糸は……?」
ドキドキしながら問いかける奏空。
すると、たまきは無言で袖の袂から糸を手繰り寄せて、もう一方の端を、奏空の左手の小指に結ぶ。
そして、にっこりと微笑みを向けた。
きっと、言葉を使わずとも、その意味は分かってもらえると思うから。
その時、遠くでポンポンと花火の音が聞こえてきた。だけど、その音すら、2人にとって意味は無かった。
鈴鹿にとって、花火はほとんど遊ぶことが出来なかったものだ。手持ち花火に始まり、打ち上げ花火、線香花火と様々なものを試していた。
一緒に色とりどりの花火を輪廻は遊ぶ。その表情はどこか物悲し気だ。
いつしかそれに気づいた鈴鹿が、輪廻の顔を覗き込む。すると、輪廻もゆっくりと語り始めた。
「私ね、最近力が衰えて来てね……身体がついて行けない事も増えて、正直いつ何が起きても可笑しくないわ。元々太く短く、何が起きても後悔の無い様に楽しく生きてたつもりだけど。輪廻さん、うっかり心残りが出来ちゃってねん♪」
輪廻は鈴鹿の顔を見て語る。
そんな輪廻の表情を見て、鈴鹿は理解できない、と立ち尽くしてしまう。
いや、理解はできるが両親を失った少女に、それは重たい事実だった。
「嫌なの! 父様も母様も居なくなって……輪廻姉様まで居なくなったら、鈴鹿は……」
泣き出す鈴鹿をあやすように、輪廻は頭を撫でる。
「苦しい時、もし私がそこに居なくなっていても、私は貴女を何処かで必ず見守っているわ」
しばらくの間泣き続けていた鈴鹿だったが、涙を流したことで感情も落ち着いてきたのだろう。最後に、輪廻に対して頷いた。
「ふふ、変な話をしてごめんなさいね? それと、この私と御揃いの着物と、これをあげるわ」
輪廻は自分の髪飾りを鈴鹿につける。
それで、鈴鹿は自分が何を託されているのかを悟った。
「とっても綺麗よん♪ 将来、輪廻さんより美人になっちゃうかもねん♪」
「ありがとう、輪廻姉様。大切にするから……大好きなの!」
涙目で抱きつく鈴鹿。
その向こう側で、誰かのあげた花火が大きくな光を見せた。
玲と直斗の前をすごい勢いでねずみ花火が駆けていく。
「ねずみ花火とか見てるだけで面白いよね」
「そうだな。あとは線香花火とかもいいよな」
姉のことを思い返しながら直斗は返事をする。玲はしばらく押し黙っていた、そこでぽつりとつぶやいた。
「ところで、直君。……その怪我どうしたいんだい?」
「…ちっ、ばれちまったか。……別に、ドジ踏んだだけさ。俺はいつだって殺される覚悟はしてるからな」
直斗はばれないように隠していたが、玲は普段との違いを敏感に感じ取っていた。ほんの数日前に戦った強大な妖に刻まれた傷だ。もし命数が尽きていれば危なかった大けがである。
「隠せていると思ってたのかい? 見縊らないでほしい……これでも君よりお姉さんだよ? だから、これは罰だよ」
「ちょ! 汚れてるから離せよ、玲さん! 別に俺は……貴女に心配してもらう資格はねェ悪い兎だぜ?」
そう言って、玲は直斗に抱き付いた。
女性に耐性の無い直斗は鼻血を出してしまうが、玲は気にした風でもない。
「……お願いだから無茶しないで。親友の、沙織の様に僕の傍から勝手に居なくならないでよ。僕は、もう身内を失うのは……嫌なんだ」
玲の様子に言葉を失ってしまう直斗。
「だから約束……絶対に死なないで。もし死ぬ時は、僕も一緒だからね?」
直斗は玲の言葉を飲み込む。
そこで、ようやく己の中の壁を踏み出す。
「……ったく、わかったよ。俺は死なねェ。玲さんを悲しませたりしねェ、と誓う。俺が、玲さんを守るからさ」
過酷な生を歩んできたウサギは、そのぬくもりと約束を、不思議と心地よく感じた。
パチパチと線香花火が火を放つ。まだ小さな、火花だ。すぼ手牡丹という関西の、線香花火の原型と言えるものだ。
その小さな火を前に大和は千陽へ静かに語る。
「わたし、線香花火が一番好きなの。細い藁に小さな火薬のシンプルな形状、火をつけたら初めは華やかに弾けて、その後は頑張って華を咲かせてぽつぽつと。そして命の炎が消えるように儚く落ちる、そういう所がとても好きよ」
大和の言葉と合わせるように、花火は小さな光を放つ。
「ええ、俺もです。ささやかですが、ささやかなりの美しさがありますから」
次第に花火は大きく燃える。その炎は千陽の瞳を赤く染めた。
「ああ、君もそういったささやかな美しさがよく似合うと思います。お世辞なんて気の利いたことは俺は言えません。ですから、思ったままを口にしました」
「千陽さんの素直な評価は悪い気はしないわ。派手で華やかなものしか見えない人の方が多いもの」
話しているうちに、段々と炎が弱まってきた。だが、2人は瞳を逸らさない。
「一つ目は丸く火の貯まる牡丹、見せ場は松葉、そして柳から、散り菊。牡丹は初夏、柳は春、菊は秋、少し牽強付会ですが松囃子で新年の季語。四季を語るような花火であると思うと、より愛おしく思います」
千陽が話すうちに
「千陽さん、花火にとても詳しいのね。意味を知ってから花火を見るとより風流ね。今まで以上に線香花火を好きになったわ」
互いに花火を介して言葉を交わす。
時は巡る。それは花火のように輝きを放ち、そして消えていく。だが、その中で人は生き、それぞれの光を見つけるのだ。
そして、夏の終わりを示すように、線香花火の火は消えた。
成瀬翔は年若いが多くの戦闘を経験してきた覚者だ。その彼が、かつてない戸惑いの中にあった。
場所は友ヶ島、夜のビーチ。FIVE主催による花火大会の真っ最中である。
原因は目の前で花火を楽しむ、相棒の紡だ。
青い花火紋様の白い浴衣姿は、今までにない女性を感じさせるものだった。今風にアレンジを加えて、髪形もそれに合わせてお団子になっている。
「ねぇね、相棒~。今日のボクってば女子力高くない?」
(なんか顔熱いぞ!? 風邪でも引いたか!? いや、そうか、夏だから暑いんだよな!)
無理やり自分を納得させる翔。
しかし、同時に今まで性別を意識していなかった紡を女性として意識してしまったのも事実だった。
「時雨ぴょん花火やろーよ!」
ことこが時雨を誘うこの一言が、ことの始まりだった。
最初は時雨も気乗りしていなかったが、冷房効いた部屋にずっといるのも芸がない。夏の風物詩は体験しておいた方が良いだろうと、出ることにした。
2人して浴衣姿で海岸に向かい、線香花火に火を点ける。
「あの姿まで、後何年やろ……?」
覚醒したのならともかく、時雨もことこも色気には欠けるタイプだ。それぞれ、『香り立つ色気のある浴衣姿』に憧れはあるが、先は長いところだ。
そんなことを考えながら、時雨はボーっと火花を眺めている。彼女はこういう落ち着いたものが好みだ。
しかし、ことこはちがった。
そして、一度ついたいたずら心は止まらない。
「ちょっとくらい刺激があった方がいいよね?」」
「へ? 刺激……って何すんねや!?」
闇を切り裂くように火花が疾しる。
そして、凶悪な音を立てながら、ことこのばらまいたそれは縦横無尽に砂場を駆け回った。
「ねずみ花火!?」
一度火が付くと、周囲を勢いよく走る花火だ。近くを走ると結構怖い。
そして、時雨がちょっと上を見ると、ことこは翼を広げて地面から飛び去ろうとしてた。
「って逃がすかぁ!! せめて道連れにしたるわ!!」
「ってちょ! ことこちゃん巻き込むのなしー!! あぁぁぁぁ!!!」
友ヶ島の夜にことこの悲鳴が響き渡る。
まぁ、こうやってはしゃげる友達がいるのは良いことだ。
千歳と冬佳は少し離れたところから、皆の花火を眺めていた。浴衣姿で夏の終わりの風を感じているのも中々乙なものである。
しかし、見ているだけではつまらないと、千歳は花火を手に取った。
「そういえば1つ知らない花火があるんだけれど、コマ花火……? 冬佳さんは知ってるかい?」
「コマ?」
「物はひとつ試しかな」
小首を傾げる冬佳。どちらも知らなかったので、火を点けて近くに投げてみる。
すると、コマ花火はその場で火を放ちながらくるくる回り出す。
「あぁ、なるほど。ねずみ花火の爆発しない奴」
「本体が独楽状だからコマ花火。本当に独楽のよう」
コマ花火の火が消えるまで、2人でそれを眺めている。そんな2人の前で最後に強く光を見せて、花火が消える。見届けたところで、定番の花火に取り掛かる。
「何となく安心しますね……」
そう言いながら、冬佳は少しでも長く持たせようと、角度を調整ながら試行錯誤している。その甲斐あって千歳の花火より長持ちしている。
最初は残念そうだったが、今度は冬佳の花火をのんびり眺める。
「綺麗だねえ……あぁ、勿論冬佳さんも綺麗だよ」
「ええ……えっ!?」
なんとなく相槌を打った冬佳だったが、何気なく紛れていた花火以上の爆弾発言に顔を赤く染めてしまう。
「……な、なんですか、いきなり」
慌てる冬佳だが、千歳はそんな彼女をニコニコと見守る。
まだ冬佳の花火が消えるまで時間がありそうだ。その程度の時間、こうしていてもバチは当たらないだろう。
パチパチ爆ぜる線香花火に、那由多はぴこぴこ耳を動かしながら見入っていた。
「華やかさはあらへんけど、この可愛らしいんが、やっぱりええなぁ」
大人しい花火の光は心が落ち着く。しかし、ジャックの心はそれどころではなかった。
(うっ、耳、猫耳……! 可愛すぎかよ、ぴくぴく動いてる!)
見慣れた猫耳だが、こうやって普段と違う場所だと違って見える。本来は那由多自身に使うべき表現な気もするが、つまりは猫耳に障りたいということだ。
思いついたら己を抑えるのが苦手なジャックは、こっそり那由多の猫耳と尻尾に触れようとする。
しかし、そうした不穏な動きは那由多だって感じる。何か気配を感じるたびに振り向くから、ジャックも中々触れることが出来ない。
(んー……やっぱりこれって……)
そんなことを那由多が考えいてる内に、花火の火が消える。そのタイミングを見計らって、ジャックは彼女を押し倒す。
(ちょっとだけ……先っぽだけ……ええい! ままよ!!)
「え、ちょっと……か、魁斗ー! どないしたん!」
色っぽい状況にも聞こえる言葉だが、ジャックの狙いは那由多。すっかりご満悦の表情だ。
「捕まえたっ捕まえた! これこれ! これがまた触りたかったん!!」
「触りたかったら、言うてくれたら良かったんに。相変わらずひゃっこい手やなぁ」
呆れたような嬉しいような表情で那由多は答える。
「……でも、気持ちええよ」
ジャックが見たかったのは、花火よりもこの那由多の笑顔なのかもしれない。
「ふふ、こゆのって翼持ちの特権だよね」
木の上に登って、紡と翔は辺りの花火を眺めていた。翼の因子があればこういう時、簡単に高いところに行ける。花火をこの角度から見られるものは中々いない。
一方の翔は落ち着かない自分に戸惑っていた。
その時、ドーンと大きな音が鳴り響く。きゃっと小さな声を上げて、紡は翔に抱き付く。思った以上に大きく体に振動が伝わったからだ。
翔は固まってしまってそれどころではない。
そして、紡はそんな翔の内心を知ってか知らずか、無邪気に無防備な笑顔を向ける。
「来年もみたいねっ」
「来年? そだな、じゃあ来年はオレも浴衣着るかなっ。約束な」
翔はまだ自分の中に生まれた感情が何なのか分かっていない。それをごまかすように、笑顔を返す。
来年、どのような顔でこの景色を眺めているのだろうか。
そんな2人をまた、花火の光が照らした。
●
少し遅れてやって来たのは奏空とたまきだった。
たまきは浴衣に着替えており、奏空はそのペースに合わせて歩いている。もちろん、彼が妙な緊張をしているのも理由の一つだ。
「何やろうか、ロケット花火とかそういうのは怖いかな? でもパラシュート花火とかって面白いよ」
「パラシュート花火は、楽しいですよね!」
そんな奏空の提案もあって打ち上げられたパラシュート花火は空高く飛んでいく。
そして、奏空は全力でキャッチに向かう。男の子にとって、負けられない戦いがそこにはある。
「ほら、取ったよー! はい、たまきちゃんの分!」
頑張った奏空をたまきは、拍手で迎えてくれる。それは少年にとって何よりのご褒美だ。
と、そんな中、奏空はたまきの小指に赤い糸が結ばれていることに気が付く。
そこで、一通り遊び疲れて休んでから、奏空は疑問を口にした。
「浴衣すごく似合ってるよ。とっても可愛い! でね、気になってるんだけど、その小指の赤い糸は……?」
ドキドキしながら問いかける奏空。
すると、たまきは無言で袖の袂から糸を手繰り寄せて、もう一方の端を、奏空の左手の小指に結ぶ。
そして、にっこりと微笑みを向けた。
きっと、言葉を使わずとも、その意味は分かってもらえると思うから。
その時、遠くでポンポンと花火の音が聞こえてきた。だけど、その音すら、2人にとって意味は無かった。
鈴鹿にとって、花火はほとんど遊ぶことが出来なかったものだ。手持ち花火に始まり、打ち上げ花火、線香花火と様々なものを試していた。
一緒に色とりどりの花火を輪廻は遊ぶ。その表情はどこか物悲し気だ。
いつしかそれに気づいた鈴鹿が、輪廻の顔を覗き込む。すると、輪廻もゆっくりと語り始めた。
「私ね、最近力が衰えて来てね……身体がついて行けない事も増えて、正直いつ何が起きても可笑しくないわ。元々太く短く、何が起きても後悔の無い様に楽しく生きてたつもりだけど。輪廻さん、うっかり心残りが出来ちゃってねん♪」
輪廻は鈴鹿の顔を見て語る。
そんな輪廻の表情を見て、鈴鹿は理解できない、と立ち尽くしてしまう。
いや、理解はできるが両親を失った少女に、それは重たい事実だった。
「嫌なの! 父様も母様も居なくなって……輪廻姉様まで居なくなったら、鈴鹿は……」
泣き出す鈴鹿をあやすように、輪廻は頭を撫でる。
「苦しい時、もし私がそこに居なくなっていても、私は貴女を何処かで必ず見守っているわ」
しばらくの間泣き続けていた鈴鹿だったが、涙を流したことで感情も落ち着いてきたのだろう。最後に、輪廻に対して頷いた。
「ふふ、変な話をしてごめんなさいね? それと、この私と御揃いの着物と、これをあげるわ」
輪廻は自分の髪飾りを鈴鹿につける。
それで、鈴鹿は自分が何を託されているのかを悟った。
「とっても綺麗よん♪ 将来、輪廻さんより美人になっちゃうかもねん♪」
「ありがとう、輪廻姉様。大切にするから……大好きなの!」
涙目で抱きつく鈴鹿。
その向こう側で、誰かのあげた花火が大きくな光を見せた。
玲と直斗の前をすごい勢いでねずみ花火が駆けていく。
「ねずみ花火とか見てるだけで面白いよね」
「そうだな。あとは線香花火とかもいいよな」
姉のことを思い返しながら直斗は返事をする。玲はしばらく押し黙っていた、そこでぽつりとつぶやいた。
「ところで、直君。……その怪我どうしたいんだい?」
「…ちっ、ばれちまったか。……別に、ドジ踏んだだけさ。俺はいつだって殺される覚悟はしてるからな」
直斗はばれないように隠していたが、玲は普段との違いを敏感に感じ取っていた。ほんの数日前に戦った強大な妖に刻まれた傷だ。もし命数が尽きていれば危なかった大けがである。
「隠せていると思ってたのかい? 見縊らないでほしい……これでも君よりお姉さんだよ? だから、これは罰だよ」
「ちょ! 汚れてるから離せよ、玲さん! 別に俺は……貴女に心配してもらう資格はねェ悪い兎だぜ?」
そう言って、玲は直斗に抱き付いた。
女性に耐性の無い直斗は鼻血を出してしまうが、玲は気にした風でもない。
「……お願いだから無茶しないで。親友の、沙織の様に僕の傍から勝手に居なくならないでよ。僕は、もう身内を失うのは……嫌なんだ」
玲の様子に言葉を失ってしまう直斗。
「だから約束……絶対に死なないで。もし死ぬ時は、僕も一緒だからね?」
直斗は玲の言葉を飲み込む。
そこで、ようやく己の中の壁を踏み出す。
「……ったく、わかったよ。俺は死なねェ。玲さんを悲しませたりしねェ、と誓う。俺が、玲さんを守るからさ」
過酷な生を歩んできたウサギは、そのぬくもりと約束を、不思議と心地よく感じた。
パチパチと線香花火が火を放つ。まだ小さな、火花だ。すぼ手牡丹という関西の、線香花火の原型と言えるものだ。
その小さな火を前に大和は千陽へ静かに語る。
「わたし、線香花火が一番好きなの。細い藁に小さな火薬のシンプルな形状、火をつけたら初めは華やかに弾けて、その後は頑張って華を咲かせてぽつぽつと。そして命の炎が消えるように儚く落ちる、そういう所がとても好きよ」
大和の言葉と合わせるように、花火は小さな光を放つ。
「ええ、俺もです。ささやかですが、ささやかなりの美しさがありますから」
次第に花火は大きく燃える。その炎は千陽の瞳を赤く染めた。
「ああ、君もそういったささやかな美しさがよく似合うと思います。お世辞なんて気の利いたことは俺は言えません。ですから、思ったままを口にしました」
「千陽さんの素直な評価は悪い気はしないわ。派手で華やかなものしか見えない人の方が多いもの」
話しているうちに、段々と炎が弱まってきた。だが、2人は瞳を逸らさない。
「一つ目は丸く火の貯まる牡丹、見せ場は松葉、そして柳から、散り菊。牡丹は初夏、柳は春、菊は秋、少し牽強付会ですが松囃子で新年の季語。四季を語るような花火であると思うと、より愛おしく思います」
千陽が話すうちに
「千陽さん、花火にとても詳しいのね。意味を知ってから花火を見るとより風流ね。今まで以上に線香花火を好きになったわ」
互いに花火を介して言葉を交わす。
時は巡る。それは花火のように輝きを放ち、そして消えていく。だが、その中で人は生き、それぞれの光を見つけるのだ。
そして、夏の終わりを示すように、線香花火の火は消えた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
