≪結界王暗躍≫黒霧はひそやかに広がる
●
八城瑞峰(はちじょう・ずいほう)老人は、自分の乗る車を守るように並走する車をぼんやりと眺めていた。
「随分と物々しくなったものよな」
八城はFIVEを支援する人物の1人だ。政財界において少なからぬ発言力を持ち、政治的経済的にFIVEをサポートしている。また、ここ最近はこのように、同じ支援者を増やすために遊説を行っていた。
もちろん、それを面白く思わない連中もいる。実際、先日は『七星剣』からも命を狙われ、覚者たちに命を救われた。
その一件があって、ここ最近は護衛の数が増えることになった。旧AAAの覚者もおり、戦力としてはたしかに物々しいと言えるものだった。
一応、用心のために情報は隠しているが、現在日本の情勢は安定しているとは言えない。それを思えば、妥当な所と言えるだろう。
「じゃが、今を凌がねばこの国は妖に蹂躙されてしまう。しばらくは我慢せんとな……ム?」
その時、視界の端に妙な影が映った気がした。
悪寒が背に走る。
つい先日も感じた、死の予感だ。
「まさか……!」
その時、後ろで火の手が上がる
『大妖一夜』より国内は動乱の中にある。そして、黒い霧は揺れる世界を少しずつ侵していた。
●
「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。そして、全員そろったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、隔者の人が事件を起こす夢を見たの。みんなの力を貸して!」
麦の渡してきた資料によると、『七星剣』の隔者が八城瑞峰という老人を殺そうとしているのだという。老人はFIVEの有力な後援者であり、先日も『結界王』という『七星剣』幹部に命を狙われた。当人を殺すだけでなく、他の支援者に対する見せしめの意味があるのだろう。
その件もあって、旧AAAのメンバーなどが護衛に当たっているのだが、どうやら諦めていなかったらしい。
相手の隔者はかなりの数になる。現在護衛についているメンバーだけでは足りない。
そこで、FIVEの覚者も出動することとなった。
「襲っているのは『七星剣』。知っていると思うけど、国内最大の隔者組織だね。その中で襲ってくる隔者の人は、『黒霧』って名乗ってる」
『七星剣』は国内最大規模の隔者組織だ。FIVEとは何度も矛を交えている。
『結界王』はそこの幹部の1人で、FIVEを敵視している男とのことだ。何度かにわたる戦いの中で、FIVEの襲撃を目論み、武装強化などに努めていることが明らかになっている。
そして、『結界王』はこの度、『黒霧』に標的の調査と襲撃を依頼した。『黒霧』はここ最近活発に動いている、『七星剣』幹部霧山・譲の擁する組織だ。
『黒霧』の情報収集の前に八城老人の動きが明らかになり、今、老人の命は狙われている。
「大きく分けて、敵は物理攻撃が得意なチームと術式攻撃が得意な得意なチームがいるみたい。片方は元々護衛に付いている人に任すことは出来るから、みんなでどっちと戦うかを選んでね」
護衛に付いている覚者達は、基本的にその場を守り切るだけで精いっぱいだ。
だが、FIVEの覚者が隔者チームを片方倒せば、相手は撤退していくだろう。つまり、勝敗はFIVEの覚者達にかかっている。
説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」
●
『黒霧』の情報力、中々のものですね。
FIVEの動きは予想以上でしたが、こちらも引き下がるわけにはいきません。
むしろ、ここで我々の力を見せつければ、見せしめとしても効果は十分。
『濃霧』は今一つ考えの読めない男ですが、こちらも手段は選びません。
『七星剣』のためにその力を振るってもらいましょう。
八城瑞峰(はちじょう・ずいほう)老人は、自分の乗る車を守るように並走する車をぼんやりと眺めていた。
「随分と物々しくなったものよな」
八城はFIVEを支援する人物の1人だ。政財界において少なからぬ発言力を持ち、政治的経済的にFIVEをサポートしている。また、ここ最近はこのように、同じ支援者を増やすために遊説を行っていた。
もちろん、それを面白く思わない連中もいる。実際、先日は『七星剣』からも命を狙われ、覚者たちに命を救われた。
その一件があって、ここ最近は護衛の数が増えることになった。旧AAAの覚者もおり、戦力としてはたしかに物々しいと言えるものだった。
一応、用心のために情報は隠しているが、現在日本の情勢は安定しているとは言えない。それを思えば、妥当な所と言えるだろう。
「じゃが、今を凌がねばこの国は妖に蹂躙されてしまう。しばらくは我慢せんとな……ム?」
その時、視界の端に妙な影が映った気がした。
悪寒が背に走る。
つい先日も感じた、死の予感だ。
「まさか……!」
その時、後ろで火の手が上がる
『大妖一夜』より国内は動乱の中にある。そして、黒い霧は揺れる世界を少しずつ侵していた。
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「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。そして、全員そろったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、隔者の人が事件を起こす夢を見たの。みんなの力を貸して!」
麦の渡してきた資料によると、『七星剣』の隔者が八城瑞峰という老人を殺そうとしているのだという。老人はFIVEの有力な後援者であり、先日も『結界王』という『七星剣』幹部に命を狙われた。当人を殺すだけでなく、他の支援者に対する見せしめの意味があるのだろう。
その件もあって、旧AAAのメンバーなどが護衛に当たっているのだが、どうやら諦めていなかったらしい。
相手の隔者はかなりの数になる。現在護衛についているメンバーだけでは足りない。
そこで、FIVEの覚者も出動することとなった。
「襲っているのは『七星剣』。知っていると思うけど、国内最大の隔者組織だね。その中で襲ってくる隔者の人は、『黒霧』って名乗ってる」
『七星剣』は国内最大規模の隔者組織だ。FIVEとは何度も矛を交えている。
『結界王』はそこの幹部の1人で、FIVEを敵視している男とのことだ。何度かにわたる戦いの中で、FIVEの襲撃を目論み、武装強化などに努めていることが明らかになっている。
そして、『結界王』はこの度、『黒霧』に標的の調査と襲撃を依頼した。『黒霧』はここ最近活発に動いている、『七星剣』幹部霧山・譲の擁する組織だ。
『黒霧』の情報収集の前に八城老人の動きが明らかになり、今、老人の命は狙われている。
「大きく分けて、敵は物理攻撃が得意なチームと術式攻撃が得意な得意なチームがいるみたい。片方は元々護衛に付いている人に任すことは出来るから、みんなでどっちと戦うかを選んでね」
護衛に付いている覚者達は、基本的にその場を守り切るだけで精いっぱいだ。
だが、FIVEの覚者が隔者チームを片方倒せば、相手は撤退していくだろう。つまり、勝敗はFIVEの覚者達にかかっている。
説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」
●
『黒霧』の情報力、中々のものですね。
FIVEの動きは予想以上でしたが、こちらも引き下がるわけにはいきません。
むしろ、ここで我々の力を見せつければ、見せしめとしても効果は十分。
『濃霧』は今一つ考えの読めない男ですが、こちらも手段は選びません。
『七星剣』のためにその力を振るってもらいましょう。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.八城老人の生存
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
ここ最近隔者より忍者出してる、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は隔者と戦っていただきます。
●戦場
夕暮れの高速道路です。
PC達は八城老人が乗っている車が襲われているところに到着します。
近辺はAAAのネットワークや『黒霧』の裏工作によって封鎖されているので、関係ない人間が乱入する可能性はありません。
足場や明るさには特に問題ありません。
隔者は2つのチームがあります。どちらと戦うかは、プレイングにて指定してください。
PC達はどちらかのチームを選んでもらうので、プレイングの中で多かったチームに統一されます。
●隔者
『七星剣』に所属する隔者達です。総勢19人。
全員共通で「隠密(気配を全く感じさせず移動可能)」、「離脱(戦闘不能になっても離脱可能)」というスキルを持ちます。
今回の場合、襲撃を行っているところに向かうので、それほど気にする必要はありません。
・チームA
『黒霧』に属する隔者達です。物理攻撃を得意としています。
体術メインの前衛タイプが5人、体術攻撃メインの後衛タイプが3人、体術による支援タイプが2人います。いずれも隠密を得意としますが、実力は覚者たちに劣ります。
・チームB
『黒霧』に属する隔者達です。術式攻撃を得意としています。
火行メインの前衛タイプが5人、天行による攻撃メインの後衛タイプが2人、水行の回復タイプが2人います。いずれも隠密を得意としますが、実力は覚者たちに劣ります。
●一般人
・八城瑞峰
FIVE支援者の1人で高齢の男性。
厳しいところもあるが、基本的に善良な人物でFIVEを信用している。
財界の人間で資金面だけでなく、政治面でもFIVEをサポートしている。
彼が雇っている警備は最低限の戦力を持っていますが、非覚者なので戦闘ではあまり役に立たないでしょう。
拙作『≪結界王暗躍≫銃後を狙う黒い影』に登場していますが、読んでいなくても問題ありません。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
7/8
公開日
2017年09月11日
2017年09月11日
■メイン参加者 7人■

●
夕暮れに差し掛かった空はすっかり朱に染まっていた。そして、その不安定な空の色は、景色を曖昧にしていく。
『黒霧』の隔者はそんな不気味な景色に潜んで襲い掛かって来た。闇を味方とし、暗がりを力とし、彼らはひそやかに広がる。
『黒霧』の魔手は『結界王』と共に、老人の命を奪いにやって来た。旧AAAによる護衛も善戦しているが、彼らの戦力は過去と比べて大きく低下している。そして無勢の状況も相俟って、さすがに守り切ることは厳しい。
「面倒な奴らの掃除に来ましたよっと」
だが、彼らがいよいよこれまでか、と覚悟を決めたとき、そこへ癒しの雨が降り注ぐ。
そして、どこかのんきな口調で『癒しの矜持』香月・凜音(CL2000495)は姿を現した。
戦うのは別に専門分野じゃない。だが、傷ついているものがいるのなら、それをなんとしても守り抜くのが凜音の矜持だ。
「偉いおじいちゃん、こんにちはっ! ちょっと騒がしいけど許してね! 私はFiVEの酒々井数多よ! おじいちゃんは守ってあげるからおとなしくしてて!」
「わりぃけど、事が落ち着くまで車から出ずに、できたら顔も出さずにじっとしておいてくれますかね。怪我とかしないようにガードしますんで」
明るい笑顔で『紅戀』酒々井・数多(CL2000149)はにっこりとほほ笑む。
やる気なさげな口調で凜音も車内の老人に指示をした。場所が場所ならかなりの叱責を受けるだろう。にも関わらず、老人は力強い笑みで孫ほどの年をした少年に従った。
「ああ、君たちのことを信じている」
「少しでも敵の攻撃を避けられるよう、可能な限り私達の後ろに隠れるようにしてください」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、車内の人間が身を潜めたのを確認すると、迫りくる隔者達に視線を送る。敵は多数だが、個々の実力を考えれば決して勝てない相手ではない。
(敵は瑞峰さん殺害をまだあきらめていなかったわけですね)
この件の黒幕はFIVEを敵視している『結界王』だ。彼を倒さない限り、この戦いは続く。
「……いいでしょう、何度来ても私達が撃退して見せます」
車体を庇うようにラーラが立つと、守護使役のペスカも勇ましく隔者達を睨みつけた。
数多もポーズを決めて、隔者の前に立ち塞がる。
「さぁ、辻斬りアイドル登場! ……いやなんかこれ違うな」
変な所で悩む数多の横で、『狗吠』時任・千陽(CL2000014)はひそかに悩んでいた。
(大妖一夜で日本が被ったダメージは、物理的な部分だけではなくなってきているのだろう。日本の大きなゆらぎの前に覚者同士のバランスにも亀裂を生じさせて来ているような気がする)
千陽は愛国心の強い青年であるだけに、ここ最近の国内情勢には心を痛めていた。
と、その時、いきなり数多は千陽の髪をくしゃくしゃと弄ると、眉間のしわを伸ばす。
「なんか隣の軍人青年君はこれまた難しいこと考えてるわね」
「あの、緊張感がないとか良く言われませんか? こう、戦闘前なんですから! 巫山戯ないで。環嬢もなんとか言ってやってください!」
慌てて髪を直しながら、千陽は悲鳴を上げる。しかし、数多はどこ吹く風だ。
「難しいこと考えたって今はわかんないわよ。やるべきことはシンプルでしょ。ね、大和さん」
話を振られた『月々紅花』環・大和(CL2000477)はクスリと笑う。
「数多さんも緊張をほぐしてくれたのよ。千陽さんも今は難しい事を考えるより目の前のことに集中しましょう」
どこか釈然としない気分の千陽だったが、彼も大和の意見に賛成だった。
そして、大和は改めて敵に集中する。
「安心してね。お爺様」
標的となっている老人のことは仲間に任せてある。だから、自分は敵の排除にさえ集中していればいい。
「政治的な難しい事はさておき、襲われているのであれば誰であろうと守らなくてはいけないわ」
数多と大和は並んでそれぞれに武器を構える。黒い霧すら霞ませる、鮮やかな花のようないで立ちだ。だが、この花にうかつに触れると火傷をする。
そんな少女たちの姿を見て、千陽の肩からいい意味で力が抜けた。ナイフを抜き、拳銃を構え、敵の中へと躍り込んでいく。
「まただよ、クソ上司。『黒霧』だってさ。多くね?」
「ここ最近よく見るねえ」
緊張感が感じられない、と言えば緒形・譟(CL2001610)と『冷徹の論理』緒形・逝(CL2000156)も似たようなものだ。もっとも、ヘルメットを被った武装姿の彼らを見て、油断していると思う相手もおるまいが。
「使い捨てかしら、道具を大切に使えないんじゃ長生きは出来ないぞう。何方にせよ……お宅らのやりたい事は出来ないから、大人しくお家にお帰り。でなきゃ悪食に喰われて貰うぞう」
くつくつとヘルメットの下で嗤いながら、逝は直刀を構える。
構えた妖刀の周囲を、何かがぼうっと揺らめくように包んだ。
逝はゆらりと動き、手近な相手に近づく。FIVEの乱入にわずかな恐れを抱いた者だ。FIVEの妖刀使いの凶行は、覚者社会では有名な話である。
「1番の好物はヒトだからね。五体満足で帰せるかはお約束出来んよ」
そして、斬撃。
血飛沫が夕暮れに舞う。
そんな上司の姿を見送りながら、譟はため息を漏らす。
「忍ばない系のニンジャ……アレかも知れねえな。その割には赤でもピンクでもねえし、スシ食っている所も見ないしな」
そんな益体のないことを考えながら、狙うべき場所を探る。ターゲットは恐れの感情が強いもの。上司の『食事』になるような奴だ。
「オレ目潰し掛けるから行って喰い散らして、どうぞ。言ったらやる、安価は絶対!!」
そして、夕暮れの高速道をに閃光が走った。
●
閃光手榴弾の輝きが隔者達の目を焼く。
そして、その前で大地を踏みしめるように千陽は立つと、周囲を圧せんばかりに気を発する。元より、普段から周囲に対して威圧的なタイプなのだ。戦いの経験がないものであれば、それだけで意識を失ってしまうことだろう。
動きを止めた隔者に千陽は銃口を向けた。
「さて、そう簡単に口を割るとは思いませんが『結界王』とは何者ですか?」
「幹部の中でも首領に一際イカれてる奴さ。隠密が得意ってこと以上はこっちも詳しくは無いがね」
組織内で似た役割を持つ故、ライバル意識もあるのだろう。忌々し気に隔者は語る。FIVEに対する敵意はもはや有名なようで、『結界王』自身もさほど隠す気が無いのかもしれない。
「……動いたら足が付くとか、お宅ら隠密集団でないの? ま、いいや。心と魂を喰い殺される準備は良いかしら?」
挑発するようにくくっと笑って、逝は隔者達に向かって飛び掛かる。動きは粗雑で技巧もへったくれもあったものではない。だが、その妖刀に触れれば無事では済まないのだ。
「お宅らの離脱は前にも見た事が有るさな、死にそうになったら逃げられる。それなら……代わりに心と魂を喰い潰せば良かろう、とね。そう思ったのよ」
逝の言葉に隔者は明らかに怯えを見せた。
逝の分析は奇しくも正鵠を射るものだった。たしかに、『黒霧』の能力は相手に情報を掴ませないという点では優れている。だが、生存を保証するものではない。当然、『黒霧』もそれを承知で使用しているが、逝のように相手の魂を喰らうことしか考えていない相手には何の意味もなさないということだ。
それどころか、逝のような人種をやる気にさせるだけであった。
快哉を上げて暴れまわる逝の姿を、譟は呆れたように見ている。
「それにしても、『黒霧』ってなほんと幅広く手掛けてんなあ。資料強奪に暗殺に……あと何だっけクソ上司、源素増幅装置だっけ? 聞くだけ無駄か」
譟は適当な性格を装っているが、根っこには真面目な性質がある。逝とは色々あるが、それでも上司に対する責任は果たす男だ。
だが、今回ばかりは上司の好きにさせることにした。あの様子なら、省エネで戦うことが出来る上司が息切れを起こすこともないだろう。だったら、工兵としてなすべきことをするだけだ。
「それじゃそろそろ追加でもう1発、閃光手榴弾をバラ撒くわ」
再び戦場を閃光が切り裂く。
敵の隔者チームの傾向としては、体術を得意とする連中だ。人数も多く決して侮れる相手ではない。そこで覚者の差を分けたのは、回復の有無だった。
凜音は周辺の浄化物質を集め、周りに与える。支援は彼の専門分野だ。仲間を体力を回復させることに専念できるものがいるということは、敵との数の差を埋め合わせても余りあるものだった。
幸いなことに凜音の危惧する範囲攻撃の使い手はいなかった。見立て通りであれば、自分が回復に回っていられる限り、仲間たちに負けは無い。
もっとも、戦いを有利に進めながら、凜音の顔は暗い。
「面倒事は次から次へ。悩みの種は消えないって事かねぇ……。いい加減尻尾を掴んでこっちから仕掛けてやりたいところだが」
『黒霧』との戦いは、その名の通り先の見えない戦いだ。未だに手がかりは十分ではなく、中々大きな作戦に踏み切れていない。
「妖のおかげで面倒なことになってるってのに、更に人同士でどうのこうの……ってなー。
ほんと、めんどくせーよな」
「例によって今回も敵方の情報収集は出来ないようですね。離脱スキルというのは本当に厄介です」
ラーラもこうした『七星剣』幹部の作戦に対抗して戦った身だ。対応は分かっているが、それゆえに歯がゆさも感じている。
(術式班の側に向かった皆さんは大丈夫でしょうか……? あちらの負担を減らすためにもこちらの趨勢を早く決めたいところです)
そして、今回は目の前の敵を倒せばいいだけではない。同じようにこの場を抑えている仲間もいるのだ。現在は持ちこたえてくれているようだが、同時に攻めきれてもいない様子である。
そこで、決着をつけるべくラーラもオリジナルの魔法を発動する。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
ラーラが空中に魔法陣を描くと、そこからは真紅の火猫が姿を見せる。彼女の眷属であり、強大な火行の力を宿した存在だ。
火猫は奔放に暴れまわり、隔者を焼いていく。
そこへさらに、千陽の放つ気弾が襲い掛かる。極められた業は敵を薙ぎ払うだけにとどまらない。戦場そのものを切り裂いて、隔者達を打ち倒す。
そして、回復役のいない隔者は1人、また1人と倒れていった。
回復役の他にもう1つ、覚者と隔者の間に差があったとすれば、それは勢いだ。常に逃げを意識している隔者に対して、覚者はこの戦いを一刻も終わらせるべく全力を用いた。その差は人数祭場に残酷だった。
「とにかくフルパワーでめっちゃ斬る! とことん斬る!」
数多の剣はとにかく荒々しい。目につく敵を全て切り伏せるような烈々たるものだ。
しかし、同時に燃え盛る焔の如く激しく美しくもあった。
「お爺さんに傷をつけさせないわよ」
共に先陣を駆るのは大和だ。どちらかと言うと前衛に立つタイプではないが、今回は話が別だ。雷を操り、着実に隔者の動きを止めていく。
そんな時、背中合わせで戦う大和に数多が声を掛ける。
「大和さん! 美少女2人の連携、必殺のあれやるわよ!」
「わたしが美少女かはさておき……必殺のあれ、ね?」
大和の返事を聞いて、返事もそこそこに数多は残った敵へと突撃をする。
大和だって何か打ち合わせがあったわけではないが、冷静なものだ。使用する術式を変更し、戦場へ光の雨を降らせる。
美しく見える光の粒だが、一つ一つが源素の力が生んだ破壊の力だ。その煌めきの中、数多は連撃を決める。
「必殺『桜火落霜斬』!!」
今決めたばかりの技だが、隔者にツッコむ暇があるものはいなかった。ただ一緒に攻撃しただけだ、などと言う心の余裕は彼らにない。
見る間に黒い霧に紛れて、その姿は消えていく。
「数多さん、まるで星空を舞う蝶のようだわ」
大和は束の間、数多に微笑みを送る。まるで絵画のような光景に、敵も味方も目を奪われていた。そして、彼女もすぐ戦いの方に意識を戻す。
だが、『桜火落霜斬』によって、戦いの大勢は決まっていた。そして、残る隔者の前には死神、いや悪霊が立ち塞がる。
「運が悪かったと思って付き合っておくれ。死ぬ前には帰れて、それで、また喰われに来てくれるでしょ? とても嬉しいわよ、何度でも喰べれるんだもの!」
いつの間にか上っていた月を背に、逝は悪食を振り上げる。
黒い霧が全てを覆い隠そうと関係ない。逝は目の前にあるものを喰らい続けるだけだ。
●
「おじいちゃん怪我はない?」
戦いが終わって、数多は標的となった老人に声を掛ける。決着がついてしまえば、後は簡単なものだった。片方のチームが倒れたのを見るや、もう片方のチームも撤退を決め込んだからだ。その速さから見るに、無理やり捕まえようとしても結果は変わらなかっただろう。凜音はそろそろ末端でもいいから一人捕まえて、いろいろ聞きたかった、とこぼしていたが。
「おかげでこっちに傷はないのう。なんとか、会合にも間に合いそうじゃ」
助けられた老人は、しわだらけの顔に笑顔を浮かべて、覚者たちに礼を述べた。
そして、大和と千陽は目的地までの護衛を申し出る。
「目的地まで送り届けさせて頂きますね」
「彼らが去った以上は大丈夫だとはおもいますが念には念を入れておいたほうが安心でしょう」
依頼はあくまでも隔者の撃退だった。だから、これは覚者たちの提案だ。その思ってもみなかった提案はもろ手で歓迎される。
幸い、元の護衛の車もあるので移動に不都合はなかった。
「まだ我慢の日々は続くことになるでしょうから……」
千陽の言葉は誰に向けてのものだったか。
未だ黒い霧は晴れていない。今なお、ゆるやかに広がっている。
夕暮れに差し掛かった空はすっかり朱に染まっていた。そして、その不安定な空の色は、景色を曖昧にしていく。
『黒霧』の隔者はそんな不気味な景色に潜んで襲い掛かって来た。闇を味方とし、暗がりを力とし、彼らはひそやかに広がる。
『黒霧』の魔手は『結界王』と共に、老人の命を奪いにやって来た。旧AAAによる護衛も善戦しているが、彼らの戦力は過去と比べて大きく低下している。そして無勢の状況も相俟って、さすがに守り切ることは厳しい。
「面倒な奴らの掃除に来ましたよっと」
だが、彼らがいよいよこれまでか、と覚悟を決めたとき、そこへ癒しの雨が降り注ぐ。
そして、どこかのんきな口調で『癒しの矜持』香月・凜音(CL2000495)は姿を現した。
戦うのは別に専門分野じゃない。だが、傷ついているものがいるのなら、それをなんとしても守り抜くのが凜音の矜持だ。
「偉いおじいちゃん、こんにちはっ! ちょっと騒がしいけど許してね! 私はFiVEの酒々井数多よ! おじいちゃんは守ってあげるからおとなしくしてて!」
「わりぃけど、事が落ち着くまで車から出ずに、できたら顔も出さずにじっとしておいてくれますかね。怪我とかしないようにガードしますんで」
明るい笑顔で『紅戀』酒々井・数多(CL2000149)はにっこりとほほ笑む。
やる気なさげな口調で凜音も車内の老人に指示をした。場所が場所ならかなりの叱責を受けるだろう。にも関わらず、老人は力強い笑みで孫ほどの年をした少年に従った。
「ああ、君たちのことを信じている」
「少しでも敵の攻撃を避けられるよう、可能な限り私達の後ろに隠れるようにしてください」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、車内の人間が身を潜めたのを確認すると、迫りくる隔者達に視線を送る。敵は多数だが、個々の実力を考えれば決して勝てない相手ではない。
(敵は瑞峰さん殺害をまだあきらめていなかったわけですね)
この件の黒幕はFIVEを敵視している『結界王』だ。彼を倒さない限り、この戦いは続く。
「……いいでしょう、何度来ても私達が撃退して見せます」
車体を庇うようにラーラが立つと、守護使役のペスカも勇ましく隔者達を睨みつけた。
数多もポーズを決めて、隔者の前に立ち塞がる。
「さぁ、辻斬りアイドル登場! ……いやなんかこれ違うな」
変な所で悩む数多の横で、『狗吠』時任・千陽(CL2000014)はひそかに悩んでいた。
(大妖一夜で日本が被ったダメージは、物理的な部分だけではなくなってきているのだろう。日本の大きなゆらぎの前に覚者同士のバランスにも亀裂を生じさせて来ているような気がする)
千陽は愛国心の強い青年であるだけに、ここ最近の国内情勢には心を痛めていた。
と、その時、いきなり数多は千陽の髪をくしゃくしゃと弄ると、眉間のしわを伸ばす。
「なんか隣の軍人青年君はこれまた難しいこと考えてるわね」
「あの、緊張感がないとか良く言われませんか? こう、戦闘前なんですから! 巫山戯ないで。環嬢もなんとか言ってやってください!」
慌てて髪を直しながら、千陽は悲鳴を上げる。しかし、数多はどこ吹く風だ。
「難しいこと考えたって今はわかんないわよ。やるべきことはシンプルでしょ。ね、大和さん」
話を振られた『月々紅花』環・大和(CL2000477)はクスリと笑う。
「数多さんも緊張をほぐしてくれたのよ。千陽さんも今は難しい事を考えるより目の前のことに集中しましょう」
どこか釈然としない気分の千陽だったが、彼も大和の意見に賛成だった。
そして、大和は改めて敵に集中する。
「安心してね。お爺様」
標的となっている老人のことは仲間に任せてある。だから、自分は敵の排除にさえ集中していればいい。
「政治的な難しい事はさておき、襲われているのであれば誰であろうと守らなくてはいけないわ」
数多と大和は並んでそれぞれに武器を構える。黒い霧すら霞ませる、鮮やかな花のようないで立ちだ。だが、この花にうかつに触れると火傷をする。
そんな少女たちの姿を見て、千陽の肩からいい意味で力が抜けた。ナイフを抜き、拳銃を構え、敵の中へと躍り込んでいく。
「まただよ、クソ上司。『黒霧』だってさ。多くね?」
「ここ最近よく見るねえ」
緊張感が感じられない、と言えば緒形・譟(CL2001610)と『冷徹の論理』緒形・逝(CL2000156)も似たようなものだ。もっとも、ヘルメットを被った武装姿の彼らを見て、油断していると思う相手もおるまいが。
「使い捨てかしら、道具を大切に使えないんじゃ長生きは出来ないぞう。何方にせよ……お宅らのやりたい事は出来ないから、大人しくお家にお帰り。でなきゃ悪食に喰われて貰うぞう」
くつくつとヘルメットの下で嗤いながら、逝は直刀を構える。
構えた妖刀の周囲を、何かがぼうっと揺らめくように包んだ。
逝はゆらりと動き、手近な相手に近づく。FIVEの乱入にわずかな恐れを抱いた者だ。FIVEの妖刀使いの凶行は、覚者社会では有名な話である。
「1番の好物はヒトだからね。五体満足で帰せるかはお約束出来んよ」
そして、斬撃。
血飛沫が夕暮れに舞う。
そんな上司の姿を見送りながら、譟はため息を漏らす。
「忍ばない系のニンジャ……アレかも知れねえな。その割には赤でもピンクでもねえし、スシ食っている所も見ないしな」
そんな益体のないことを考えながら、狙うべき場所を探る。ターゲットは恐れの感情が強いもの。上司の『食事』になるような奴だ。
「オレ目潰し掛けるから行って喰い散らして、どうぞ。言ったらやる、安価は絶対!!」
そして、夕暮れの高速道をに閃光が走った。
●
閃光手榴弾の輝きが隔者達の目を焼く。
そして、その前で大地を踏みしめるように千陽は立つと、周囲を圧せんばかりに気を発する。元より、普段から周囲に対して威圧的なタイプなのだ。戦いの経験がないものであれば、それだけで意識を失ってしまうことだろう。
動きを止めた隔者に千陽は銃口を向けた。
「さて、そう簡単に口を割るとは思いませんが『結界王』とは何者ですか?」
「幹部の中でも首領に一際イカれてる奴さ。隠密が得意ってこと以上はこっちも詳しくは無いがね」
組織内で似た役割を持つ故、ライバル意識もあるのだろう。忌々し気に隔者は語る。FIVEに対する敵意はもはや有名なようで、『結界王』自身もさほど隠す気が無いのかもしれない。
「……動いたら足が付くとか、お宅ら隠密集団でないの? ま、いいや。心と魂を喰い殺される準備は良いかしら?」
挑発するようにくくっと笑って、逝は隔者達に向かって飛び掛かる。動きは粗雑で技巧もへったくれもあったものではない。だが、その妖刀に触れれば無事では済まないのだ。
「お宅らの離脱は前にも見た事が有るさな、死にそうになったら逃げられる。それなら……代わりに心と魂を喰い潰せば良かろう、とね。そう思ったのよ」
逝の言葉に隔者は明らかに怯えを見せた。
逝の分析は奇しくも正鵠を射るものだった。たしかに、『黒霧』の能力は相手に情報を掴ませないという点では優れている。だが、生存を保証するものではない。当然、『黒霧』もそれを承知で使用しているが、逝のように相手の魂を喰らうことしか考えていない相手には何の意味もなさないということだ。
それどころか、逝のような人種をやる気にさせるだけであった。
快哉を上げて暴れまわる逝の姿を、譟は呆れたように見ている。
「それにしても、『黒霧』ってなほんと幅広く手掛けてんなあ。資料強奪に暗殺に……あと何だっけクソ上司、源素増幅装置だっけ? 聞くだけ無駄か」
譟は適当な性格を装っているが、根っこには真面目な性質がある。逝とは色々あるが、それでも上司に対する責任は果たす男だ。
だが、今回ばかりは上司の好きにさせることにした。あの様子なら、省エネで戦うことが出来る上司が息切れを起こすこともないだろう。だったら、工兵としてなすべきことをするだけだ。
「それじゃそろそろ追加でもう1発、閃光手榴弾をバラ撒くわ」
再び戦場を閃光が切り裂く。
敵の隔者チームの傾向としては、体術を得意とする連中だ。人数も多く決して侮れる相手ではない。そこで覚者の差を分けたのは、回復の有無だった。
凜音は周辺の浄化物質を集め、周りに与える。支援は彼の専門分野だ。仲間を体力を回復させることに専念できるものがいるということは、敵との数の差を埋め合わせても余りあるものだった。
幸いなことに凜音の危惧する範囲攻撃の使い手はいなかった。見立て通りであれば、自分が回復に回っていられる限り、仲間たちに負けは無い。
もっとも、戦いを有利に進めながら、凜音の顔は暗い。
「面倒事は次から次へ。悩みの種は消えないって事かねぇ……。いい加減尻尾を掴んでこっちから仕掛けてやりたいところだが」
『黒霧』との戦いは、その名の通り先の見えない戦いだ。未だに手がかりは十分ではなく、中々大きな作戦に踏み切れていない。
「妖のおかげで面倒なことになってるってのに、更に人同士でどうのこうの……ってなー。
ほんと、めんどくせーよな」
「例によって今回も敵方の情報収集は出来ないようですね。離脱スキルというのは本当に厄介です」
ラーラもこうした『七星剣』幹部の作戦に対抗して戦った身だ。対応は分かっているが、それゆえに歯がゆさも感じている。
(術式班の側に向かった皆さんは大丈夫でしょうか……? あちらの負担を減らすためにもこちらの趨勢を早く決めたいところです)
そして、今回は目の前の敵を倒せばいいだけではない。同じようにこの場を抑えている仲間もいるのだ。現在は持ちこたえてくれているようだが、同時に攻めきれてもいない様子である。
そこで、決着をつけるべくラーラもオリジナルの魔法を発動する。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
ラーラが空中に魔法陣を描くと、そこからは真紅の火猫が姿を見せる。彼女の眷属であり、強大な火行の力を宿した存在だ。
火猫は奔放に暴れまわり、隔者を焼いていく。
そこへさらに、千陽の放つ気弾が襲い掛かる。極められた業は敵を薙ぎ払うだけにとどまらない。戦場そのものを切り裂いて、隔者達を打ち倒す。
そして、回復役のいない隔者は1人、また1人と倒れていった。
回復役の他にもう1つ、覚者と隔者の間に差があったとすれば、それは勢いだ。常に逃げを意識している隔者に対して、覚者はこの戦いを一刻も終わらせるべく全力を用いた。その差は人数祭場に残酷だった。
「とにかくフルパワーでめっちゃ斬る! とことん斬る!」
数多の剣はとにかく荒々しい。目につく敵を全て切り伏せるような烈々たるものだ。
しかし、同時に燃え盛る焔の如く激しく美しくもあった。
「お爺さんに傷をつけさせないわよ」
共に先陣を駆るのは大和だ。どちらかと言うと前衛に立つタイプではないが、今回は話が別だ。雷を操り、着実に隔者の動きを止めていく。
そんな時、背中合わせで戦う大和に数多が声を掛ける。
「大和さん! 美少女2人の連携、必殺のあれやるわよ!」
「わたしが美少女かはさておき……必殺のあれ、ね?」
大和の返事を聞いて、返事もそこそこに数多は残った敵へと突撃をする。
大和だって何か打ち合わせがあったわけではないが、冷静なものだ。使用する術式を変更し、戦場へ光の雨を降らせる。
美しく見える光の粒だが、一つ一つが源素の力が生んだ破壊の力だ。その煌めきの中、数多は連撃を決める。
「必殺『桜火落霜斬』!!」
今決めたばかりの技だが、隔者にツッコむ暇があるものはいなかった。ただ一緒に攻撃しただけだ、などと言う心の余裕は彼らにない。
見る間に黒い霧に紛れて、その姿は消えていく。
「数多さん、まるで星空を舞う蝶のようだわ」
大和は束の間、数多に微笑みを送る。まるで絵画のような光景に、敵も味方も目を奪われていた。そして、彼女もすぐ戦いの方に意識を戻す。
だが、『桜火落霜斬』によって、戦いの大勢は決まっていた。そして、残る隔者の前には死神、いや悪霊が立ち塞がる。
「運が悪かったと思って付き合っておくれ。死ぬ前には帰れて、それで、また喰われに来てくれるでしょ? とても嬉しいわよ、何度でも喰べれるんだもの!」
いつの間にか上っていた月を背に、逝は悪食を振り上げる。
黒い霧が全てを覆い隠そうと関係ない。逝は目の前にあるものを喰らい続けるだけだ。
●
「おじいちゃん怪我はない?」
戦いが終わって、数多は標的となった老人に声を掛ける。決着がついてしまえば、後は簡単なものだった。片方のチームが倒れたのを見るや、もう片方のチームも撤退を決め込んだからだ。その速さから見るに、無理やり捕まえようとしても結果は変わらなかっただろう。凜音はそろそろ末端でもいいから一人捕まえて、いろいろ聞きたかった、とこぼしていたが。
「おかげでこっちに傷はないのう。なんとか、会合にも間に合いそうじゃ」
助けられた老人は、しわだらけの顔に笑顔を浮かべて、覚者たちに礼を述べた。
そして、大和と千陽は目的地までの護衛を申し出る。
「目的地まで送り届けさせて頂きますね」
「彼らが去った以上は大丈夫だとはおもいますが念には念を入れておいたほうが安心でしょう」
依頼はあくまでも隔者の撃退だった。だから、これは覚者たちの提案だ。その思ってもみなかった提案はもろ手で歓迎される。
幸い、元の護衛の車もあるので移動に不都合はなかった。
「まだ我慢の日々は続くことになるでしょうから……」
千陽の言葉は誰に向けてのものだったか。
未だ黒い霧は晴れていない。今なお、ゆるやかに広がっている。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
