【金剛無双】七星杯に血を注ぐ
【金剛無双】七星杯に血を注ぐ



「七星剣幹部『金剛』の名の下、これより七星杯の第二次予選を執り行う!」
 鋭い声が響き渡る。
 声の主は道着姿の一団……七星剣幹部『金剛』一派の者達だ。その周囲には在野の無頼漢が大勢集まってきている。殺気立った全員が全員とも、七星杯の参加者だった。
 七星杯。
 それは七星剣最強の一角である金剛が開催した、命懸けの武闘会。
 強さこそが全て。
 それが金剛の理念である。
 優勝者には、莫大な賞金と七星剣での高待遇、そして何よりも己が武を轟かすことが叶う。腕自慢のアウトロー共はこぞってこの大会へ名乗りをあげていた。
「今回のステージは、この先となる!」
 金剛一派が指差す先には、深く険しい森林地帯が広がっている。
 たとえ雲一つない晴天だとしても、一歩足を踏み入れれば陽の光など一筋も届くことはない魔境。不気味に響く耳鳴り。心臓を鷲掴みにされるようなプレッシャーが、参加者達に襲いかかる。
「この森の奥には、凶暴な妖達がひしめいている。一般人が近寄ることは決してない、立ち入り禁止区域だ」
「参加者諸君には、ここで一週間過ごしてもらう。襲いかかってくる妖を迎撃し、その戦績を競うというわけだ」
「我々が影から採点するので、不正は不可能。無論、数だけじゃなくレベルの高い妖を狩ればポイントが高い」
 ランク1の妖なら1ポイント。
 ランク2の妖なら10ポイント。
 ランク3の妖なら50ポイント。
 トドメを刺した者に、一体につきポイントがつく。上位の成績優秀者が勝ち抜けしていくというわけだ……一週間、この危険地帯で生き残ることができればだが。
「戦う手段は問わない。勝ち残った者が強者。強さこそが正義だ!」
 今回は、他の参加者を倒したところでポイントにはならない。
 だが、他者を蹴落そうと考える者がいたとしても不思議ではない。少なくともそこを躊躇するような者は、この場では少数派だ。
「先に言っておく。己が命が惜しい者は、すぐに去れ! そして、一生負け犬呼ばわりされるが良い!!」
 道着姿の金剛一派が声を張り上げる。
 ここに集まったのは、自分の腕に絶対の自信を持った者ばかり。その言葉は深く突き刺さる。
「常に妖共に命を狙われる極限状態。常人ならこの森の中で、五体満足でいることすらままならぬ……まさに死の森。兵どもよっ。この死地で、己が最強だと存分に証明するがいい!」


「ふむ。大会参加者が予想より多くて、予選の進行が全体的に遅れていると?」
 七星剣最強の一角。
 『金剛』は蕎麦をすすりながら、呑気そうに部下の報告を聞いていた。
「はい。本選に入る前に絞り込みがだいぶ必要な状況です……それに」
「それに?」
 一瞬、言いよどむ部下に『金剛』は水を向けて新しい丼ぶりに手をのばした。
 外見は小柄な老婆としか見えないこの七星剣の幹部は、どこにそれだけ入るのかという健啖家ぶりを発揮している。目前には大量の空の器が象牙の塔を成していた。
「この七星杯を妨害しようとする輩が出て来ており。その影響も出ております」
 その報告に。
 『金剛』はニヤリと口元を歪ませた。
「ああ、そう言えばファイヴとかいう生きの良いのが割り込んできたことがあったか。あれはなかなか楽しめた」
「はい。他にも、こちらに介入しようとする動きが各所で見られます。注意が必要かと」
「なるほどなるほど」
 上機嫌そうに『金剛』は一気に蕎麦をまた平らげる。
 その両眼は凶悪なほどぎらついた。
「良い事を思いついたぞ」
「は?」
「どうせなら、こちらからご招待するとしようか。杯に注がれる血は多いほど良かろう」
 

「七星剣幹部『金剛』が開催する七星杯の情報がまた入ってきた。というより、金剛側がわざと複数のルートから大会の詳細をこちらに流してきたというべきか」
 中 恭介(nCL2000002)が覚者達に状況を説明する。
 ファイヴは以前、七星杯という武闘大会に介入したことがある。そのときに、七星剣幹部の『金剛』の眼に止まったようだった。
「敵の真意は完全には分からないが。これは恐らく金剛からの挑発だと思われる。最強の一角と謳われる七星剣の幹部から、我々ファイヴへの挑戦状だろう」
 戦いを嗜み。
 強者たることを誇りとする。
 七星杯などという大会を開くことからして、金剛の性質の一端を表している。
「罠の可能性もあるし、危険ではあるが、七星剣幹部の企みを見逃すこともできない。君達には、情報にあった場所に向かい参加者に紛れて、出来る限りの大会の妨害をお願いしたい」
 大会を妨害するための大まかな指針は二つ考えられる。
 ターゲットとなる妖をこちらで狩って現場を混乱させるか。参加者を積極的に撃破してリタイアさせてしまうか。
「一長一短があるが、どのような方針を採るかは君達の判断に任せる。また、七星杯の会場には、開催者として金剛一派もいるはずだ。迂闊に手を出すと危険だが……とにかく充分に気をつけてくれ。よろしく頼む」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:睦月師走
■成功条件
1.妖を撃破し、今回の七星杯参加者のなかで一位相当の成果をあげる
2.七星杯参加者を最低40人撃破
3.1か2どちらかの条件を満たせば成功となります
 今回は七星剣幹部『金剛』に関するシナリオとなります。

●このシナリオの特徴
 金剛主催の七星杯という大会が開催されています。
 今回赴くのはその予選会場の一つです。ルールは一週間、妖を多く狩った上位者が予選を通過します。戦う方法は各々自由。
 ファイヴの覚者達は、一日目の昼過ぎに会場に到着します。
 妖と七星杯参加者どちらを主なターゲットにするかで展開が変わってきます。
 捜索方法と戦闘方法が重要となるシナリオです。
 
●現場
 人里離れた森の中。
 一般人は立ち入り禁止になっており、多数の妖の住処になっています。
 
 ランク1の妖なら1ポイント。
 ランク2の妖なら10ポイント。
 ランク3の妖なら50ポイント。
 金剛側の基本的な採点基準は以上の通りで、トドメを刺した者に加点されます。ポイント上位者が予選通過になります。

●大会参加者
 主には腕自慢のアウトロー達が集って参加しています。
 覚者もいれば、非覚者もいます。単身で挑む者もいれば、チームを組んでいる者などさまざまです。今回向かう会場にいる参加者は総勢100人ほどです。
 
●金剛一派
 此度の大会主催者です。
 各会場を見張っており、審判役を務めています。もし、彼らと戦闘となった場合はシナリオの難易度が上がります。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
8日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/10
公開日
2017年11月15日

■メイン参加者 5人■



「妖がひしめく森林で一週間……。金剛さんは本当に戦闘が好きなんですね……」
 上月・里桜(CL2001274)達、ファイヴの一行は深い森のなかに身を置いていた。
 既にここは金剛が開催する七星杯の会場。身を刺すような殺気があちらこちらに満ち満ちて窒息させられるような錯覚に陥りそうになる。
「今回は妖を撃破して一位相当の成果をあげるか、七星杯参加者を最低40人撃破のどちらかを達成できたらいいんですよね」
 『ほむほむ』阿久津 ほのか(CL2001276)の言う通り。
 覚者達はこの大会を妨害するため、妖か参加者を標的として行動していくというのが今回の指針であった。
「なら、妖の方を主なターゲットとして動いた方が良い気がしますので妖を優先で撃破していけるように頑張りましょう!」
「折角招待してもらったんだ、せいぜいいいところを見せてやろうじゃねえか!」
 ほのかの言葉に、『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)も頷いて気合を入れる。
 狙うは森に巣食う妖共。
「七星の一派である金剛さんたちとは初手合わせですね。直接戦闘にならないとはいえ、油断しないように気を引き締めてまいりましょう」 
 勒・一二三(CL2001559)が足元を確かめながら、森の奥へと注意深く進んでいく。
 『美獣を狩る者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)を始め、鋭聴力を持つ者達は耳をすませて索敵を怠らない。
「文明から隔離するのは、流行なのでしょうか。望まぬ生活期間を受け容れ参加する以上、せめて勝たねばと思います。そうでなければ、あまりに馬鹿馬鹿しい」
 人の手の及ばない地。
 快適な生活とは無縁な場所だ。
「この先に少し開けた場所があるようですね」
 樹木が重なる場所をぐるぐると歩き続けると、自分達がどこにいるのかすら分からなくなってくる。里桜が土の心で地形を適宜把握していなければ、完全な迷子になってしまうことも有り得た。
「うわ、ここぬかるみがひどいな」
「ふわふわで通れるかな」
 歩きにくい森中では、覚者達の進軍も快調とは言えず。
 ほのかが守護使役の力で浮いて移動してみたり。慎重に数時間ほど歩くが、幸か不幸か脅威らしい脅威には出会わない。
「……休憩にしますか」
「ですね。歩き通しですし」
 太陽が傾きつつあるのを確認して。 
 シャーロットが崩れかけた岩に腰を掛ける。一二三は疲労回復にと、チョコレートやら金平糖やら甘いお菓子を口にした。心地よい甘さが疲労した身体に染みる。
「皆さん、水をどうぞ」
「ありがとうございます」
 ほのかが用意しておいた飲み物を配り、里桜はペットボトルのキャップを開けた。食料や飲料水などは充分に準備してある。サバイバルに勝ち抜くためには、こうした補給は重要な項目だ。
 長い戦いに備えて休息は定期的にとる必要がある。
 そうやって、一悟もウエットティッシュで手を拭っていると――
「……変な匂いがしてきた。獣じみたものが近付いてくる」
 守護使役のかぎわけるの能力だ。
 鋭い嗅覚によってとらえた異臭がどんどん強くなる。
「ワタシも感じました。人間ではない足音が複数」
 シャーロットは耳で聞き分けた。
 自然発生以外の音とそれ以外をまず分け、人間の生命活動音の有無で更に判別する。
「来ました。あそこです」
 示された茂みの奥から現れたのは人ならざる影。
 人ではない。
 だが、ただの獣ではない。
 四本足の狼のような獣型の妖だった。
「ランク1の妖ですね。生物系で、こちらの匂いにひかれてきたようです。後ろには数匹ランク2がいるみたいですね」
 すぐに一二三はエネミースキャンを成功させる。
 妖達は戦意を露わにして牙を剥く。戦闘は避けられない。戦闘を避けるつもりも覚者達はなかった。これは双方にとって待ち望んでいた出会いであった。
「行きます!」
「ガアアアア!」
 ほのかと妖がほぼ同時に動く。
 先に決まったのは無頼漢の一撃。そのプレッシャーにより四足獣による鋭い爪の一撃が逸れて、擦れる程度にとどまった。
「そこです」
 追撃した里桜の術符が、妖を逃がさない。
 仲間によって先制を受けた敵を、的確に狙い撃ちをする。一体の妖が成す術もなく消滅する。これがファイヴの覚者達による初白星にして初ポイントとなる。
「まずは1ポイントだな」
 一悟も仲間の成果に続かんと気炎をあげる。
 トンファーを勢いよく振るって、次々と相手の頭部を潰していく。鈍い音が響いては、その度に妖は粉砕されて彼のポイントとなっていった。
「前にでます」
 シャーロットの飛燕が閃く。
 目にも止まらぬ剣閃が、相手の息の根を止め。次の獲物を求める。妖達は次々と同じ型のものが茂みから現れては、覚者達の戦果と化す。
「どんどん出てきますね。援護します」
 一二三の役割は補助と回復だ。
 演舞・清爽で仲間の能力を向上させる。これによって、覚者達の刃はますます研ぎ澄まされた……七星杯の会場は、血によって彩られて注がれる。


 結局、一日目はランク1の妖と中心に遭遇して狩るのに終わり。
 二日目も同様の態を成した。
 そして、三日目。
「活動時間は朝から夕方……とても健康的ですね」
 朝一番。
 一二三は仲間に体調を聞いて、必要なら回復術を使う。
「さて、今日も頑張るか!」
 朝食を食べ終わり火を消すと、一悟は勢いよく立ち上がる。
 疲れを振り切るように気合を入れた。
「今日も暗いですね」
 森の大部分は陽がなかなか届かない。
 この日は曇り模様らしく尚更だった。里桜は暗視して暗さ対策をして歩みを始めた。それはほのかも同様で暗がりの中でも、暗視のおかげで獣道を発見する。
「見て下さい、ここに大きな足跡が」
 人のものではない。
 巨大な爪を持つ足型が続いている。明らかに妖のものだった。
 覚者達は頷き合って、これを辿って追っていく。
「……戦闘音が聞こえてきます」
 シャーロットが耳をそばだてる。
 人と妖が争う音だと判別できた。
「どうする?」
「……とりあえず、様子を見てみましょう」
 覚者達は、そっと近付いていく。
 激突音は鳴り止まず、大きくなっていく。
 それぞれ樹木の陰に隠れて覗き見ると、そこには――
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
 ランク1のものとは比べものにならない巨躯。
 身体の各所から巨大な角を持つ大猪の妖が、吼え猛って突撃する。
 覚者達の方へ、ではない。同じ場で戦っている他の参加者達の方へである。
「くっ! こいつ強いぞ!」
「チームを組んで、ポイントを取ってきたってのに!」
「まとまるな! このままじゃ全滅する!」
 多人数で勝ち抜けを狙ったグループなのだろう。ズタボロになりながら叫び、何とか巻き返そうとするが。
 大猪の妖は参加者達を蹴散らす。
 突撃に突撃を繰り返し、人の身体が紙屑のように蹂躙された。
「あの妖は生物系ランク3で間違いないですね」
 一二三が冷静に観察した結果を述べる。
 文句なしの強さに、文句なしの風格、ランク3の相手には間違いない。
 徒党を組んだ参加者達は、どうやらとんだ大物を引き当ててしまったようだった。
「あれは私達でも苦戦しそうですね」
「幸い、どちらもこちらには気付いていないようだし」
「ランク3を狙うのはまだ早いよな」
 参加者達もほうほう態でどうにか逃げ出そうとしている。それとは反対方向に気取られないように、覚者達は距離をとることにした。


「上月さん、お願いします」
「分かりました」
 一二三の合図に、錬覇法をかけた里桜が合わせて隆神槍を発動する。
 足元より巨大な岩槍を隆起して、巨大な猪型の妖を刺し貫く。ランク2の妖達である。
「ポイントの稼ぎ時だなっ」
 一悟は炎柱で相手を削る。激しい炎が渦を巻いてあがり、業火で凶悪な獣共を焼き払う。
「火力を集中させます」
 シャーロットの連撃が抜群のタイミングで決まった。
 敵の一角を突き崩し、包囲網に穴を開けてのける。他の面々が更に攻勢に出て、各個撃破のチャンスを生かす。
「逃がしませんよ」
 ほのかは鉄甲掌・還で、木の裏に回っていた妖を吹き飛ばす。
 敵群は四散していきばらばらとなって、最早群れとしての行動は出来なくなっていた。それでも抵抗を試みようとする妖に対しては、ほのか自身が盾となって被害の拡大を防いだ。
 素早く。
 効率良く。
 経験豊富なファイヴの覚者達は、妖達を殲滅する。
「これで最後ですね」
 里桜渾身の岩砕が炸裂し。
 二体同時に猪に似た凶悪な敵が内外部から破裂して、ようやく戦場には沈黙が訪れた。
「……流石に疲れましたね」
 一二三が辺りを見回して息を吐く。
「でも、あまりのんびりもしてられません」
「すぐに移動してほうがいいですね」
「ああ……近くに参加者達の気配もする」
 いささか派手に戦い過ぎたらしい。
 こちらに走り寄ってくる者達を鋭聴力持ちが察知する。足音を忍ばせるシャーロットを先頭に、すぐさま離脱した。
(襲撃を受けたら、容赦はしませんが)
 シャーロットとしては、万一参加者達と戦闘となったら妖もろともまとめて斬る程度の覚悟をしている。更には部位を切り飛ばせば、人食いの妖には撒き餌になるとさえ思っている。
(結局、『力づくで我を押し通す』方向が違うだけなのです) 
 それが彼女の哲学である。
 場を弁えずに綺麗事を貫けるのは、余裕をもって圧倒的に勝利できる者だけだ。
「こちらから人と妖の気配を感じたが……」
「妖の死体は残っている。もう移動した後のようだな」
 そのような他の参加者達の会話が耳を届きながらも。
 覚者達は撤退していった。
「それにしても……聞いたか」
「ああ。どうやらこの七星杯に介入しようという動きがあるとか……」


「うん、この洞窟は安全みたいだ」
「今日はここで休息しましょうか」
 一悟が暗視で、妖の類が存在しないことを確かめる。
 夜を越すのに絶好な場所を発見した覚者達は、キャンプを張り始める。
「じゃあ、今日も見張りは二交代制で」
「寒くなってきましたね。皆さん毛布もありますから」
 里桜は防寒具を事前に用立てている。凍死する心配はとりあえずない。
 懐中電灯を灯り代わりにして火を起こしてお湯を沸かす。鍋などは一悟が持参したもので、食料は主にほのかが持って来たものを食べる。
「たくさん持って来たから、遠慮しないで食べて英気を養いましょう」
「なるべく数は狩りたいところですが、連続して戦って気力が尽きてしまったら危ないですからね」
 ほのかはどんどん食料を出して皆に配る。一二三が仲間の体調に配慮しているように、食べて寝て、次の戦いに備える必要があるのは間違いない。
 順番に加工した食事を終えると、眠れる者は眠った。
 まずはシャーロットとほのかが休憩。
 見張りは里桜、一悟、一二三が担当する。
(休憩時も第六感は働かせておかないと)
 一二三は油断なく勘を研ぎ澄ませる。
 眠っているときに襲われでもしたら目もあてられない。一悟も目と鼻と耳を使って、寝ずの番をした。里桜は守護使役の朧にていさつで周囲を警戒してもらっていた。
(……それにしても、七星杯に介入しようとする動きって何かしら……? 参加者に注意して見ていたら何か分かるでしょうか……?)
 里桜は先程の参加者達の会話を思い出していた。
 洞窟を抜けて宙を見上げても、ここでは生い茂る木々が星空に蓋をする。思考を巡らせるにしても閉塞感を感じざるを得なかった。


「順位や他の人のポイント教えてもらえませんか?」
 一日の活動を終えた六日目の夜。
 見張りを行っていた一二三は、第六感に従ってそっとそう呟く。自然、休んでいた者達も目を覚まし目をこらす。
「ほう。こちらの気配に気づいたか」
 暗闇の奥から浮かぶ一つの人影。
 道着をまとったその姿。金剛一派の者だった。
「貴君らのことは最初から監視させてもらっていた。ファイヴの手の者達だとお見受けする」
「……だとしたらどうします?」
 シャーロットを始め、皆が臨戦態勢に入る。
 だが、金剛一派の者は片手を挙げて戦意がないことを示した。
「どうしてもということならば相手になるが、私は敬意を表して質問に答えに現れただけだ」
 と言われても、構えを解くことはできない。
 道着姿の隔者はかまうことなく、話を続けた。
「現在貴君達の順位は大体二位から五位の団子状態いったところだ。一位の者との差は45ポイント」 
「………………」
「一位の者は上手く戦っている。このままでは、更にポイントが開くことだろうな」
「………………」
「では、貴君らの健闘を祈る。悔いのない最終日を」
 それだけ言って、金剛一派は闇の中へと戻っていった。
 その姿が完全に見えなくなった後も、気配すらも感じられなくなった後も、しばらくは緊張状態を解くことはできなかった。
「迂闊に手を出すと危険と言われましたので……金剛一派と交戦にならなくて良かったですけど」
 ようやく、ほのかが口を開く。
 里桜や一悟達も思いは一緒だった。
「一位との差がかなりありますね」
「ああ。明日頑張らないとな」
 夜が更け。
 そして明けていく。
 覚者達は完全なる夜明けを待つのももどかしく、いつもより早めに活動を開始した。
 だが、こんなときに限ってなかなか索敵に妖がひっかかからない。
「まずいですね。このままでは」
「危険ですが、もっと奥へ行ってみましょう」
 タイムリミットは容赦なく迫る。
 肉体的にも精神的にも疲労がピークに達しようかという時。それは起きた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
 聞き覚えのある雄叫び。
 覚者たちは、はっと顔をあげて駆け出した。
「あそこだ」
「この妖は……あの時の」
 一悟が指差した先に現れたのは、大猪の巨躯を持つ怪物。
 そう。
 いつぞや他の参加者と戦っていたランク3の妖だった。ただし、前に見たときとは違い、身体中に夥しい傷跡が出来上がっていた。
「相当弱っていますね。誰かにやられたのか」
「とにかくチャンスです。体力もかなり削られています」
 一二三のスキャン結果が早いか、皆が一挙に攻め入る。
 いの一番にほのか、一悟、シャーロットが盾として果敢に前に出た。
「まずは、これです」
「ランク3の首、貰うぜっ」
「最後です。存分に斬ります」
 無頼漢が。
 圧撃・改が。
 飛燕による連撃が。
 次々と決まっては、元からあった傷を抉り、新しい傷を作る。有効打は次の有効打を呼び、間断のない攻勢を形作る。
「弱体化させます」
 一二三は纏霧で、絡みつく霧を発生させる。
 妖の動きは目に見えて鈍くなり、その巨体がふらつき始まる。
「オオオオオオオオ!!」
 大猪の妖は平静を失ったように突撃を無闇に繰り返す。
 盾役の三人は正面から多大な衝撃を受け止める。ここはさすがにランク3であって、決してこちらのダメージも少なくない。
「回復は任せて下さい」
 里桜は潤しの雨を使って味方の傷を癒す。
 ほのかも深想水などでリカバーしつつ前線を懸命に維持する。
「ガードは崩しません」
「絶対に勝つからなっ」
 敵の攻撃をかいくぐる一悟。
 念弾を乱射して妖の巨体に風穴を開ける。消耗を度外視して練り上げた気での集中砲火だ。
「落とします」
 有言実行。シャーロットの剣が妖の足を一本斬り落とす。
 この好機に一二三も補助よりも攻撃を優先。破眼光でダメ押しした。
「オ……オオ!?」
「効いています」
「これなら」
 鈍化した相手へと。
 ほのかが鉄甲掌を繰り出す。確かな手応えを得て、相手の横腹が大きくひしゃげる。
「よしっ!」
 一悟は五織の彩で敵の顔面を強襲。
 右目を潰された大猪の妖は、直後にシャーロットによって左目を斬り伏せられる。
「今です、トドメを」
「承知しました」
 一二三に応えた里桜が最後の力を振り絞る。
 決死の土行の技が地中へと干渉。大猪の腹から背へと、岩槍がもの凄いスピードで貫通。串刺しとなった獲物はそのまま痙攣し、やがて動かなくなる。
 後には。
 天にそびえる磔が残され。

「お見事」

 乾いた拍手がどこからともなく。


「金剛!」
 覚者達は驚愕する。
 小柄な老婆……七星剣幹部『金剛』がすぐ目の前に仁王立ちしていたのだ。
「ふっふっふ。退屈しのぎに妖共を潰していたら、このランク3に逃げられての。まさかファイヴの坊や達と鉢合わせするとは思わなんだが」
 どうやら、このランク3の妖が傷だらけだったのは金剛にやられたもののようだった。
 森中にドラの音が響き渡る。
「おや、終了の合図じゃな。さて、こやつを倒したことにより坊やらがトップに立ったようじゃが……」
 金剛は底知れぬ恵比寿笑いを浮かべていた。
「坊や達は何か望みがあるかな? 強者には相応の報いが必要じゃろうて」
「金剛一派との死合いを希望するぜ」
「ほう」
 ためらわず即答する一悟に、金剛が興味深げに目を細める。
「命知らずの強者は歓迎じゃよ。まあ、考えておこうか」
 小柄な老人は孫をあやす態度で背を向けた。
 尚も一悟は言葉を重なる。
「どんなに強くても……なあ、金剛のばあちゃん。そろそろ引退しなよ」
 その弁とほぼ同時。
 突如。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
 覚者達が倒したのと同型。
 ランク3の妖が躍り出る。
 それを金剛は――
「引退か。ほざきよるわ」
 虫でも払いのけるような拳打。
 ただ、それだけで妖は全身が粉々となり……悠々と七星剣最強の一角は去っていった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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