カラテオブゴッド アウトサイド・エンカウント
●与那国島の危機
話は中 恭介(nCL2000002)が会議室に飛び込んできた所から始まった。
「皆、聞いてくれ。我々ファイヴが保護下に置いている与那国島が中国武術系の勢力の介入を受けている。
達人級の武術を体得した精鋭たちだ。
現地の防衛戦力で対応しているが、一般人を避難収容するのが精一杯だ。
今すぐ現地へ向かい、介入者たちを迎撃してくれ!」
●神秘の国境の外側で
『神秘の国境』を覚えているだろうか。
日本国内でのみ起こる妖化と覚醒現象だが、厳密には日本国土内であってもそれら神秘現象が起こらない土地が存在する。
それが九州は最西、与那国島。
ヒノマル陸軍に勝利し、その情報を獲得したファイヴは早速土地の保護を開始。海外勢力や国内憤怒者に悪用されないよう、島自治体との提携関係を結ぶこととなった。
現在は島の一角に療養所を建設し、妖や隔者の被害によってトラウマを抱えた人々の心療を行なっている。
……とはいえ運営費用もタダではないし、療養中の人々が不便をするのもよろしくない。
ということで協力組織ムラキヨグループの出資で建設されたのが『五華モール与那国島』である。
「スーパーマーケットやホームセンター、コンビニエンスストア、加えていくつかの雑貨店やファッションショップといった生活基盤から娯楽までを兼ね備えた大型複合施設か……いつ見ても壮観だな」
ビジネススーツで出勤し、施設を見上げる男。
元ヒノマル陸軍第五隊長、威徳ヤマタカ。
かつての戦いで五華計画に関心し、その敬意から与那国島の警護任務をとりまとめている人物である。
「ヘーイ、ジャップ。ここ、あんたのキンムサキ?」
途端に無礼な声をかけられ、威徳は職場へ向かう足を止めた。
「ちょっとミチを聞きたいのサ」
背後よりつかつかと歩み寄る足音。その歩幅と強さを振動で察し、威徳はその場で180度転身――首を刈るように繰り出された回し蹴りを手首でもって受け止めた。
手首を返して相手の足を掴み、さらには相手の力を利用して胴体を地面に叩き付ける。が、相手は両手で衝撃を吸収。どころか強靱なバネをつかって握る威徳の腕を逆にねじり上げんとした。
咄嗟に手放し、高速スウェーで後退する威徳。
対して、相手の男はヒュウと口笛を吹いた。金髪を逆立てたパンクロッカーのような衣装を着た若者である。
「バオフォンロンを返すとは、暴力坂流乱闘術……昭倭空手の基盤に関わったっつーウワサはマジみたいだネ」
「そんな噂は初耳だ」
「あんたが知らなくてもいいさ。創始者の暴力坂狂暴とまではいわネー、息子の暴力坂乱暴にさえ会えりゃーイイ。奴の技を奪って潰してぶっ殺せば、俺は八手老に並ぶってことになるんサ」
だからテメーに用はねえよ。
そう言って、男は着信音の鳴った携帯電話を取りだした。
「今頃、潜入してる仲間がそこのモールで暴れてる頃だ。雑魚が何人死のうがしったことじゃねーが、あんたはカンケーあるんだろ? さっさと出しな、ラスボスをよ」
話は中 恭介(nCL2000002)が会議室に飛び込んできた所から始まった。
「皆、聞いてくれ。我々ファイヴが保護下に置いている与那国島が中国武術系の勢力の介入を受けている。
達人級の武術を体得した精鋭たちだ。
現地の防衛戦力で対応しているが、一般人を避難収容するのが精一杯だ。
今すぐ現地へ向かい、介入者たちを迎撃してくれ!」
●神秘の国境の外側で
『神秘の国境』を覚えているだろうか。
日本国内でのみ起こる妖化と覚醒現象だが、厳密には日本国土内であってもそれら神秘現象が起こらない土地が存在する。
それが九州は最西、与那国島。
ヒノマル陸軍に勝利し、その情報を獲得したファイヴは早速土地の保護を開始。海外勢力や国内憤怒者に悪用されないよう、島自治体との提携関係を結ぶこととなった。
現在は島の一角に療養所を建設し、妖や隔者の被害によってトラウマを抱えた人々の心療を行なっている。
……とはいえ運営費用もタダではないし、療養中の人々が不便をするのもよろしくない。
ということで協力組織ムラキヨグループの出資で建設されたのが『五華モール与那国島』である。
「スーパーマーケットやホームセンター、コンビニエンスストア、加えていくつかの雑貨店やファッションショップといった生活基盤から娯楽までを兼ね備えた大型複合施設か……いつ見ても壮観だな」
ビジネススーツで出勤し、施設を見上げる男。
元ヒノマル陸軍第五隊長、威徳ヤマタカ。
かつての戦いで五華計画に関心し、その敬意から与那国島の警護任務をとりまとめている人物である。
「ヘーイ、ジャップ。ここ、あんたのキンムサキ?」
途端に無礼な声をかけられ、威徳は職場へ向かう足を止めた。
「ちょっとミチを聞きたいのサ」
背後よりつかつかと歩み寄る足音。その歩幅と強さを振動で察し、威徳はその場で180度転身――首を刈るように繰り出された回し蹴りを手首でもって受け止めた。
手首を返して相手の足を掴み、さらには相手の力を利用して胴体を地面に叩き付ける。が、相手は両手で衝撃を吸収。どころか強靱なバネをつかって握る威徳の腕を逆にねじり上げんとした。
咄嗟に手放し、高速スウェーで後退する威徳。
対して、相手の男はヒュウと口笛を吹いた。金髪を逆立てたパンクロッカーのような衣装を着た若者である。
「バオフォンロンを返すとは、暴力坂流乱闘術……昭倭空手の基盤に関わったっつーウワサはマジみたいだネ」
「そんな噂は初耳だ」
「あんたが知らなくてもいいさ。創始者の暴力坂狂暴とまではいわネー、息子の暴力坂乱暴にさえ会えりゃーイイ。奴の技を奪って潰してぶっ殺せば、俺は八手老に並ぶってことになるんサ」
だからテメーに用はねえよ。
そう言って、男は着信音の鳴った携帯電話を取りだした。
「今頃、潜入してる仲間がそこのモールで暴れてる頃だ。雑魚が何人死のうがしったことじゃねーが、あんたはカンケーあるんだろ? さっさと出しな、ラスボスをよ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.介入勢力の主力メンバーを撃退する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
こちらは横のつながりはあれど連続性はないシナリオ群となっておりますので、新規・飛び入り・乱入プレイ、なんでも歓迎しております。
シナリオ関連ワードは『ヒノマル陸軍』『暴力坂乱暴』『暴力坂流乱闘術』『威徳ヤマタカ』『与那国島』『神秘の国境』『五華モール』『八手老』となっております。
●シナリオ内ルール
このシナリオは『神秘の国境』の外で行なわれます。
そのため術式や守護使役スキル、一部非戦スキルが使用不能となります。命数復活もできませんので、コールした場合は無効化されます。
といってもその辺りは通常ルール内でフォローされていないので、特別処置として以下のシナリオ内ルールを設けます。
・神具および装身具は平常通り機能する
・キャラクターの能力値はそのまま適用される
・体術に加えて『体術っぽい未開スキル』、『体術っぽいオリジナルスキル』が使用できる。
→っぽいスキルに関しては効果を若干マスタリングすることがありますが、威力面は保証されると考えてください。
なおこれらのルールはシナリオ内のみのルールですのでシナリオ外には適用されません。お間違えの無いようご注意ください。
また、シナリオ内で非覚醒状態での挙動を色々実験するのもお勧めしません。
●シチュエーションデータ
モールの外と中に潜入した勢力が暴れています。
現地の兵力は一般人の避難と収容を優先しているため、撃退は皆さんの仕事となります。
一般的なショッピングモールと同様のつくりをしており、適当な場所でエンカウントします。
(メタな話をすると、キャラクターにとってなんかいい感じの場所で戦うように調整します)
敵はバラバラに散っているため、こちらも3~4つほどに分散して行動することになります。
●介入勢力
裏武術集団『バオラン』
中国拳法をもとにした暗殺集団、のひとつです。
全員がかなりの修羅場を潜っているので相当な腕を持っています。
今回は裏武術界における有名どころ『暴力坂流乱闘術』をつぶすことで名を上げようという考えのようです。
ですが皆さんご存じの通り暴力坂乱暴はものの見事に倒されて死去しており、それを成したのは他ならぬ皆さんです。
その事実を伝えてもいいし、伝えなくても構いません。
・戦闘力について
精鋭とは言っても死んで覚えるメソッドで超人的な戦闘能力をもつファイヴのベテラン覚者たちに及ぶのはせいぜい3~4人。殺せば死ぬ所も含めて脆弱な戦力です。
他のメンバーは皆さんが想像するノーネーム憤怒者と同じくらいだと思ってください。
詳しい戦力バランスと、ネームド精鋭(仮称)の情報を以下にまとめます。
ジン:金髪逆毛。蹴り技主体で鋭刃想脚が中心。
ヘイ:顔の見えないロングヘアの巨漢。非常にタフで一撃が重い。活殺打中心。
イン:気の達人。波動弾中心の遠距離攻撃タイプ。
バイ:小柄だが素早い青年。十六夜中心。
一般兵:精鋭ひとりにつき4~5人の割合でついている。棍棒や青竜刀などで武装しているが戦力は十把一絡げ。PCたちがかっこよく蹴散らすためにいる人たち。
●味方戦力
・威徳ヤマタカ
暴力坂流乱闘術の使い手。貫殺撃や特殊乱闘術を中心とした体術構成。
戦力的にはファイヴのベテランPCと同じ程度。
『ジン』との戦闘にゲスト参加。
細かいプロフィールは省略する。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年09月03日
2017年09月03日
■メイン参加者 6人■

●歴史と残滓
船が進む。
与那国島への海路は暗黙に制限され、島を荒らす目的の者を入れないような管理がなされていた。
それでも、国外からの侵入までは防ぎきれなかったようだが……。
「約束を守ってくれた乱暴ちゃんを悪くいう人は許せないのだ! そんな人たち、ナナンが成敗してくれるのだ!」
与那国島の管理施設から受けた詳細な内容を読みながら、『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)はいたく憤慨している。
今にも船を飛び出して島へ先行しそうな勢いだ。
「ギャハハ……他はともかくよォ、許せねえってところだけは同感だぜ」
ぎりぎりと拳をにぎりしめる『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)。
「奴らの主張が気に入らねえ。俺の姉さんが命を賭して戦った相手によお、敬意ってモンを示さねえクズにはよォ……」
前髪で表情が隠れてはいるが、彼の暗い感情は同席していた全員に伝わった。
伝わっても対応を変えないマイペースな者たちばかりで構成されているこの船内である。直斗の不穏な感情はガンジス川のように流された。
「中国武術だってさ! ワクワクするよな!」
そして『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)によって明後日の方向に舵を切った。
「しっかし暴力坂のおっさんもすごかったんだなあ。近代空手に関わってたとは。もっと話しときゃよかったぜ」
明後日の方向に行ったにもかかわらず、話にスムーズに乗っていく『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)。
「暴力坂乱暴、ヒノマル陸軍。まるで遠い昔の話になってしまいましたね。お手合わせ頂いたときから、随分と……」
言いながら、燐花は頭の獣耳に触れてみた。
割と誤解されがちな話だが、獣憑のミミやシッポ、そして翼人の翼などは類似動物のそれと同じ感覚器官や運動器官ではないというのが、最近の見方である。まあ、でないと耳が四つあったり、小さな翼で飛べるのがおかしくなったりしてしまうので、さほど細かい話では無いのだが……。
「この耳は、まだ消えないんですね」
「神秘の国境を越えた瞬間に消えるという誤解が広まっているが、実際はそんなものだ」
銃器の手入れをしていた赤坂・仁(CL2000426)が顔を上げずに言った。
「何度か実験を試みたそうだが、神秘の国境を越えてから離れるにつれじきに特徴が薄れていき、最後には消えて無くなる。その進行度は再現性が低く、試みるたびに変わったそうだ。要は気にするなという話らしい」
「…………」
仁の話を半分も聞いていない風に、『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)が手の中で何かをくるくると回している。
「そろそろ到着しそうかな? どれ、トラブルシューターの出番さね」
面倒くさそうに、しかし一切のよどみなく腰を上げる。
ヘルメットのアイシールドが、不気味に光った。
●ジンとドアノッカー
ショッピングモールは大混乱――というわけでもなかった。
現地に常駐している非戦闘兵たちが機敏に動いて客たちを安全な場所に収容し、ほぼ完璧な防御を形成しているからだ。
そも、彼らにとって最大の脅威であるところの隔者や妖が出てこない時点で、それほどの脅威とはみなしていないのだ。
一方で乗り込んだ中国組織は物足りなそうに辺りのものを破壊したりわめき散らしたりしている。
ジンと互角の戦いをしている威徳は、そんな状況を無線連絡で受けながら小さく頷いた。
「どうやら一軍がご到着のようだ」
「一軍? なんだァそりゃあ」
新たな足音のほうをちらりと見る。
そこには、フルフェイスヘルメットにビジネススーツ。加えておかしな色のシャツという……凄まじく異様な人物が歩いていた。
夏場の沖縄だというのにそんな格好をする理由が、ジンにはまるで思いつかない。
「ハッ、仮面のおっさんの上司はヘルメットの変態かヨ。笑えるゼ」
「上司ではないが。恐らく私よりも強いぞ」
「へえ……」
威徳の言葉にジンは少なからぬ興味を示したようだ。
対して逝は。
「この程度、悪食の餌にもならんさね」
剣を収納して、だらりとリラックスした姿勢をとった。
まるで興味を失ったような仕草に、ジンが機嫌を悪くする。
「ナメてんじゃあないゼ。変態ジャップ、あんたのヘルメットへこませてやるから――」
よ。
と、互いの言葉が重なった。
ジンが跳び蹴りを繰り出すその寸前、膝関節に剣がざっくりとささった。
収納したとみせかけていた剣を死角に再配置し、飛び込んできた所でカウンターを入れたのだ。
「使うまでも、ないって……」
「おっさん、こう見えて嘘つきなのよ」
悲鳴をあげてのたうちまわるジンを見下ろして、逝は拍子抜けしたというジェスチャーをした。
ちらりと威徳を見ると、彼は手を合わせて礼をしていた。
「かつての大戦より、更にさえを増しているな。ロシアの赤い牙」
「なんのことさね」
●バイと超音速の少女
ヘッドホンを首にかけたフードパーカーの少年が、ポケットに手を入れて歩いている。
モールに展示されている携帯ゲーム機を手にとって眺めては、ポケットに入れた。
「窃盗は犯罪ですよ」
「はぁ?」
声をかけられて、振り返る。
非武装状態の燐花が、スッと手を翳すようにして立っていた。
「あんたがボーリョクザカ? 違うよね、じーさんだって聞いたもん」
「……」
「ねえ知ってる? 僕はさ、天才ってやつなんだって。塀をネコのように駆け屋根を鳥のように飛ぶ。大人が何年も修行する技を五歳でマスターしてるんだ。平和ボケのジャップに僕の力が必要になるとは思えないんだけど?」
「……」
じり、じり、と距離を縮めていく。
「ボーリョクザカ? もう百歳のジジイらしいじゃん。そんなの殺すために付き合わされるとかメーワクだよね。さっさと終わらせて帰りたいんだけど」
「暴力坂さんとは」
距離、10メートル。
「直接拳を交えたことがあります。あの人の速度は、私を超えていました」
「は? だから? 子供より早く走るジジイくらいいくらでも」
風が切れた。
空間が切断された。
時空がねじれた、とも思えるほどの。
一瞬を超える速度である。
「もう一度言います。暴力坂さんは、私より早かった」
燐花は、天才少年――バイの背後に立っていた。彼がポケットにいれたはずのゲーム機を手にとって。
ゲーム機を陳列棚に戻す。
「速度に秀でていたわけでもない。むしろ火力に優れたような人でしたけれど、あまりに高い地盤ゆえに、私は追いつけませんでした。あなたはどうですか?」
振り向く。
と同時に距離を取る。
互いに5メートル。
腕の届かない距離。
しかし一瞬で殺せる距離。
バイは急所を突いて殺すための構えをとり、燐花へ向けた。
物騒すぎるその構えを前に、燐花はネコのように背を丸くした。
「あの方にお会いしたいのなら、私程度、軽くねじ伏せなければ不可能でしょう」
「こいつ……!」
怒りを露わに繰り出すバイの突き。
しかし、それが燐花に届くより早く、燐花のはなったソニックブームが直接的衝撃となってバイの身体を切り裂き、吹き飛ばした。
ゲームソフトの棚に激突し、商品をまき散らして転がる。
「嘘、だろ、僕は……天才、なのに……」
起き上がることもかなわず、バイはがたがたと震えていた。
●インとバレットストーム
ひとは死ぬたびに強くなる。
中国武術のある流派に伝わる言葉であり、死地を潜れば潜るほど精神が強化され、動きが鋭くなっていくというものだ。
とはいえ人の命は一つきりだ。転生戦士でもあるまいに、本当によみがえって強くなる者などいない。
……日本国外には。
「乱暴ちゃんに会いたかったら、ナナンたちを倒してからにしてよね!」
グレネードの安全ピンを抜いて、倒れたテーブル越しに山をえがくように投げる。
はじける閃光。
物陰に身を隠したインは、手の中に握ったパチンコ玉を弾丸のように乱射した。
その場から飛び退くナナン。
テーブルを貫通していくパチンコ玉。
「貧弱なジャップが! 暴力坂がなんぼのもんじゃい! 奴は軍隊を持ってたゆーけど、一般人のガキ集団に潰されたそうやないかい!」
「…………」
仁が身を乗り出し、機関銃を乱射。
インは再び柱の後ろに隠れてやり過ごすが、的確に放たれた射撃が柱を両サイドからごりごりと削っていく。
「ヒノマル陸軍が敗れたことは知っているらしいな。しかしファイヴを……覚者の本質を知らないと見える」
射撃の音で隠れ、仁の独り言は聞こえない。
連射がやみ、リロードに入る仁。
その隙に柱から飛び出し、インは両手でもって気の連射を放った。
「今までワイの気功連破弾を受けて生きてたモンはおらん! これでしまいや!」
木製の棚が粉みじんになるほどの威力。
もくもくとあがる粉塵の中に仮に人間がいたとしたら、見るも無惨な状態になっていることだろう。
勝利と、そして敵への哀れみを込めて瞑目したイン。
その耳が、がらりと崩れる音をひろった。
慌てて目を開く。
機関銃を盾に、そして周囲のあらゆるものを瞬時に利用して防御した仁が、奈南を庇っていた。しかも彼の全身に空いた穴は、奈南のおまじないによって塞いでいくではないか。
「治癒の気功術やと……? 嘘や、ジャップがんなもん使えるわけない! なんやタネがあるに決まって――」
銃声。
仁が懐から抜いたリボルバー拳銃の弾が腹に命中し、続けて奈南の打ち出したホッケーディスクが顔面に激突した。
もんどりうって倒れ、白目をむいて気絶するイン。
「戦闘終了。他へ支援に行くか?」
「うん! 走っていこうねぇ!」
奈南はそう言って、他の仲間がいるであろう場所へと走り始めた。
その背を見送るようにしてから、仁は腕時計に目を落とした。
「この分だと到着した頃には戦闘が終わっていそうだが……まあ、いい」
最悪を考えて動くべきだろう。仁は自分にそう言い聞かせて、奈南を追って走り始めた。
●ヘイと無垢なる狂気
フードコートの真ん中で、ハンバーガーをかじる巨漢。
「日本はメシが美味い。それ以外はダメだ。身体は貧弱で、家は無防備で、すぐに騙される。弱い種族だ」
「誰が弱いって? そりゃ俺の姉さんも含んでるんじゃねえよなあ? あァ?」
刀を担いで現われる直斗。
「オマエのことなど知らん。帰れ、興味が無い」
「こっちにはあるんだよ、興味っつーか……恨みがな!」
刀を繰り出し、急接近。
常人の身体を真っ二つにする彼の剣術……が、ヘイの胴体の表皮で止まった。
コォ……と複雑な呼吸をしながら直斗を見下ろすヘイ。
「オレに刃は通じない。銃弾や、爆弾でさえ」
「そうかい。瞬殺されてくれなくて、むしろ安心したぜ!」
直斗の連撃がヘイを襲う。
はじめは余裕そうにしていたヘイだが、自らの気の壁が破られつつあることにぶわりと脂汗を浮かべた。
「ヌ……!」
咄嗟に防御を硬くする。
「ギャハハ……!」
凶悪に振り込んだ直斗の剣が直撃。
切り裂かれはしなかったものの、殺しきれない衝撃によってヘイは吹き飛んだ。
柱を破壊し、椅子とテーブルをしこたままき散らし、手すりを破って吹き抜けの一階へと落下する。
こぢんまりとした噴水アートに落ち、水をまき散らす。
起き上がった彼を、遥が待ち構えていた。
「暴力坂はどこだ」
「ここにはいないぜ。けど、暴力坂の技なら見せてやる」
再び起き上がったヘイは、先程とは比べものにならないほど強い気を練り上げた。
身体が鋼のように硬く、そして重くなっていく。
飛びかかった遥の蹴りや拳が通らないほどの堅さだ。
「ひゃー、これがガチの中国武術か! 拳イってえ!」
ぱたぱたと手首を振る遥。
そこへ直斗が二階から飛び降りる形で合流した。
「いつまで遊んでんだてめぇ、殺すぞ」
「でも楽しいぜ? 相手なら後でするからさ!」
「…………」
常に他者を牽制して生きている直斗は、精神が無敵の人物に弱い。
この場で直斗の天敵になりえそうな人物がいるとすれば、それは遥だった。
ゆえに、標的はヘイに固定しておく。
「打ってこい。暴力坂の技とやら。オレの硬気功ではじき返せば、いい見せしめになる」
「言ったな?」
遥は拳を固め、脳裏に暴力坂の姿を思い描いた。
普段は慎ましく過ごす彼の、戦闘に関する『なりふりのかまわなさ』。
ビルをへし折り大地を穿ち、空をかき乱すあの動き。
その精神性を学び取り、自らに注入する。
一方で、直斗は刀を強く強く握りしめた。
かの暴力坂乱暴を殺した人物の強い怨念が、直斗の中に流れ込んでくるかのようだった。
「…………」
ヘイは絶対の自信をもつ防御を固めつつも、しかし言いようのない不安に襲われている。
なぜなら今目の前にあるのは、『暴力坂を倒したもの』だからだ。
そのことに気づかぬまま。
「死にやがれ三下ァ!」
「見ろ、こいつが暴力坂だ!」
遥の一撃必殺拳。
そして直斗の一刀両断剣。
その二つが合わさり、ヘイの鋼のごとき胴体をへし折った。
「ぐが……!?」
吹き飛び、壁にめりこみ、そして気を失うヘイ。
勝敗は、誰の目にも明らかだった。
●八手老と裏武闘大会
裏武術集団『バオラン』。
捕まえた彼らから押収した品の中には、ある武闘大会のデータが入っていた。
「表には出すことのできない、裏の武術の使い手が集まる大会があるようだ。バオランはその中でも予選にすら上がれないほどの連中だったらしい」
「ふむ……」
威徳の説明に、逝はかくりと首をかしげた。
「つまり? 逆算すると?」
「我々に匹敵する……もしくはそれ以上の存在が大会には出場しているのですね」
「そういうことになるな」
燐花の言葉に、仁が同意を示した。
「へえ、すげーんだな。どこでやるんだ? 中国か?」
「いや」
身を乗り出す遥に、威徳がデータを読みながら手を翳す。
翳して、指をくいっと大地に向けた。
「日本だ」
僅かながら緊張が走る。
高等な武術の使い手たちが日本に集結している。
暴力坂がそうであるように、発現前から高い戦闘力をもつ覚者は多い。(ファイヴにも実は結構いる)
そんな彼らが死に覚えメソッドで強さを磨きに磨いた時、どんな化け物ができあがるか……それは、自分たちが既に証明していることだ。
「それって、大丈夫なのかなぁ」
奈南が珍しく心配そうにものを言った。
「強くなるために、周りの人をいじめたり……しないかなぁ」
「…………」
強くなるため、他の犠牲をいとわない。直斗にはむしろ賛同できさえする考え方だ。
「そういう奴はごろごろいるだろうな。でもって、そういう連中にとって今の日本は絶好の修行の場だ」
コンピューターRPGでいうところの、経験値の多いマップである。
「興味があるなら詳しく調べておこう。必要なら、出場枠を確保してもいい」
威徳のその発言に、彼らは……。
船が進む。
与那国島への海路は暗黙に制限され、島を荒らす目的の者を入れないような管理がなされていた。
それでも、国外からの侵入までは防ぎきれなかったようだが……。
「約束を守ってくれた乱暴ちゃんを悪くいう人は許せないのだ! そんな人たち、ナナンが成敗してくれるのだ!」
与那国島の管理施設から受けた詳細な内容を読みながら、『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)はいたく憤慨している。
今にも船を飛び出して島へ先行しそうな勢いだ。
「ギャハハ……他はともかくよォ、許せねえってところだけは同感だぜ」
ぎりぎりと拳をにぎりしめる『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)。
「奴らの主張が気に入らねえ。俺の姉さんが命を賭して戦った相手によお、敬意ってモンを示さねえクズにはよォ……」
前髪で表情が隠れてはいるが、彼の暗い感情は同席していた全員に伝わった。
伝わっても対応を変えないマイペースな者たちばかりで構成されているこの船内である。直斗の不穏な感情はガンジス川のように流された。
「中国武術だってさ! ワクワクするよな!」
そして『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)によって明後日の方向に舵を切った。
「しっかし暴力坂のおっさんもすごかったんだなあ。近代空手に関わってたとは。もっと話しときゃよかったぜ」
明後日の方向に行ったにもかかわらず、話にスムーズに乗っていく『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)。
「暴力坂乱暴、ヒノマル陸軍。まるで遠い昔の話になってしまいましたね。お手合わせ頂いたときから、随分と……」
言いながら、燐花は頭の獣耳に触れてみた。
割と誤解されがちな話だが、獣憑のミミやシッポ、そして翼人の翼などは類似動物のそれと同じ感覚器官や運動器官ではないというのが、最近の見方である。まあ、でないと耳が四つあったり、小さな翼で飛べるのがおかしくなったりしてしまうので、さほど細かい話では無いのだが……。
「この耳は、まだ消えないんですね」
「神秘の国境を越えた瞬間に消えるという誤解が広まっているが、実際はそんなものだ」
銃器の手入れをしていた赤坂・仁(CL2000426)が顔を上げずに言った。
「何度か実験を試みたそうだが、神秘の国境を越えてから離れるにつれじきに特徴が薄れていき、最後には消えて無くなる。その進行度は再現性が低く、試みるたびに変わったそうだ。要は気にするなという話らしい」
「…………」
仁の話を半分も聞いていない風に、『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)が手の中で何かをくるくると回している。
「そろそろ到着しそうかな? どれ、トラブルシューターの出番さね」
面倒くさそうに、しかし一切のよどみなく腰を上げる。
ヘルメットのアイシールドが、不気味に光った。
●ジンとドアノッカー
ショッピングモールは大混乱――というわけでもなかった。
現地に常駐している非戦闘兵たちが機敏に動いて客たちを安全な場所に収容し、ほぼ完璧な防御を形成しているからだ。
そも、彼らにとって最大の脅威であるところの隔者や妖が出てこない時点で、それほどの脅威とはみなしていないのだ。
一方で乗り込んだ中国組織は物足りなそうに辺りのものを破壊したりわめき散らしたりしている。
ジンと互角の戦いをしている威徳は、そんな状況を無線連絡で受けながら小さく頷いた。
「どうやら一軍がご到着のようだ」
「一軍? なんだァそりゃあ」
新たな足音のほうをちらりと見る。
そこには、フルフェイスヘルメットにビジネススーツ。加えておかしな色のシャツという……凄まじく異様な人物が歩いていた。
夏場の沖縄だというのにそんな格好をする理由が、ジンにはまるで思いつかない。
「ハッ、仮面のおっさんの上司はヘルメットの変態かヨ。笑えるゼ」
「上司ではないが。恐らく私よりも強いぞ」
「へえ……」
威徳の言葉にジンは少なからぬ興味を示したようだ。
対して逝は。
「この程度、悪食の餌にもならんさね」
剣を収納して、だらりとリラックスした姿勢をとった。
まるで興味を失ったような仕草に、ジンが機嫌を悪くする。
「ナメてんじゃあないゼ。変態ジャップ、あんたのヘルメットへこませてやるから――」
よ。
と、互いの言葉が重なった。
ジンが跳び蹴りを繰り出すその寸前、膝関節に剣がざっくりとささった。
収納したとみせかけていた剣を死角に再配置し、飛び込んできた所でカウンターを入れたのだ。
「使うまでも、ないって……」
「おっさん、こう見えて嘘つきなのよ」
悲鳴をあげてのたうちまわるジンを見下ろして、逝は拍子抜けしたというジェスチャーをした。
ちらりと威徳を見ると、彼は手を合わせて礼をしていた。
「かつての大戦より、更にさえを増しているな。ロシアの赤い牙」
「なんのことさね」
●バイと超音速の少女
ヘッドホンを首にかけたフードパーカーの少年が、ポケットに手を入れて歩いている。
モールに展示されている携帯ゲーム機を手にとって眺めては、ポケットに入れた。
「窃盗は犯罪ですよ」
「はぁ?」
声をかけられて、振り返る。
非武装状態の燐花が、スッと手を翳すようにして立っていた。
「あんたがボーリョクザカ? 違うよね、じーさんだって聞いたもん」
「……」
「ねえ知ってる? 僕はさ、天才ってやつなんだって。塀をネコのように駆け屋根を鳥のように飛ぶ。大人が何年も修行する技を五歳でマスターしてるんだ。平和ボケのジャップに僕の力が必要になるとは思えないんだけど?」
「……」
じり、じり、と距離を縮めていく。
「ボーリョクザカ? もう百歳のジジイらしいじゃん。そんなの殺すために付き合わされるとかメーワクだよね。さっさと終わらせて帰りたいんだけど」
「暴力坂さんとは」
距離、10メートル。
「直接拳を交えたことがあります。あの人の速度は、私を超えていました」
「は? だから? 子供より早く走るジジイくらいいくらでも」
風が切れた。
空間が切断された。
時空がねじれた、とも思えるほどの。
一瞬を超える速度である。
「もう一度言います。暴力坂さんは、私より早かった」
燐花は、天才少年――バイの背後に立っていた。彼がポケットにいれたはずのゲーム機を手にとって。
ゲーム機を陳列棚に戻す。
「速度に秀でていたわけでもない。むしろ火力に優れたような人でしたけれど、あまりに高い地盤ゆえに、私は追いつけませんでした。あなたはどうですか?」
振り向く。
と同時に距離を取る。
互いに5メートル。
腕の届かない距離。
しかし一瞬で殺せる距離。
バイは急所を突いて殺すための構えをとり、燐花へ向けた。
物騒すぎるその構えを前に、燐花はネコのように背を丸くした。
「あの方にお会いしたいのなら、私程度、軽くねじ伏せなければ不可能でしょう」
「こいつ……!」
怒りを露わに繰り出すバイの突き。
しかし、それが燐花に届くより早く、燐花のはなったソニックブームが直接的衝撃となってバイの身体を切り裂き、吹き飛ばした。
ゲームソフトの棚に激突し、商品をまき散らして転がる。
「嘘、だろ、僕は……天才、なのに……」
起き上がることもかなわず、バイはがたがたと震えていた。
●インとバレットストーム
ひとは死ぬたびに強くなる。
中国武術のある流派に伝わる言葉であり、死地を潜れば潜るほど精神が強化され、動きが鋭くなっていくというものだ。
とはいえ人の命は一つきりだ。転生戦士でもあるまいに、本当によみがえって強くなる者などいない。
……日本国外には。
「乱暴ちゃんに会いたかったら、ナナンたちを倒してからにしてよね!」
グレネードの安全ピンを抜いて、倒れたテーブル越しに山をえがくように投げる。
はじける閃光。
物陰に身を隠したインは、手の中に握ったパチンコ玉を弾丸のように乱射した。
その場から飛び退くナナン。
テーブルを貫通していくパチンコ玉。
「貧弱なジャップが! 暴力坂がなんぼのもんじゃい! 奴は軍隊を持ってたゆーけど、一般人のガキ集団に潰されたそうやないかい!」
「…………」
仁が身を乗り出し、機関銃を乱射。
インは再び柱の後ろに隠れてやり過ごすが、的確に放たれた射撃が柱を両サイドからごりごりと削っていく。
「ヒノマル陸軍が敗れたことは知っているらしいな。しかしファイヴを……覚者の本質を知らないと見える」
射撃の音で隠れ、仁の独り言は聞こえない。
連射がやみ、リロードに入る仁。
その隙に柱から飛び出し、インは両手でもって気の連射を放った。
「今までワイの気功連破弾を受けて生きてたモンはおらん! これでしまいや!」
木製の棚が粉みじんになるほどの威力。
もくもくとあがる粉塵の中に仮に人間がいたとしたら、見るも無惨な状態になっていることだろう。
勝利と、そして敵への哀れみを込めて瞑目したイン。
その耳が、がらりと崩れる音をひろった。
慌てて目を開く。
機関銃を盾に、そして周囲のあらゆるものを瞬時に利用して防御した仁が、奈南を庇っていた。しかも彼の全身に空いた穴は、奈南のおまじないによって塞いでいくではないか。
「治癒の気功術やと……? 嘘や、ジャップがんなもん使えるわけない! なんやタネがあるに決まって――」
銃声。
仁が懐から抜いたリボルバー拳銃の弾が腹に命中し、続けて奈南の打ち出したホッケーディスクが顔面に激突した。
もんどりうって倒れ、白目をむいて気絶するイン。
「戦闘終了。他へ支援に行くか?」
「うん! 走っていこうねぇ!」
奈南はそう言って、他の仲間がいるであろう場所へと走り始めた。
その背を見送るようにしてから、仁は腕時計に目を落とした。
「この分だと到着した頃には戦闘が終わっていそうだが……まあ、いい」
最悪を考えて動くべきだろう。仁は自分にそう言い聞かせて、奈南を追って走り始めた。
●ヘイと無垢なる狂気
フードコートの真ん中で、ハンバーガーをかじる巨漢。
「日本はメシが美味い。それ以外はダメだ。身体は貧弱で、家は無防備で、すぐに騙される。弱い種族だ」
「誰が弱いって? そりゃ俺の姉さんも含んでるんじゃねえよなあ? あァ?」
刀を担いで現われる直斗。
「オマエのことなど知らん。帰れ、興味が無い」
「こっちにはあるんだよ、興味っつーか……恨みがな!」
刀を繰り出し、急接近。
常人の身体を真っ二つにする彼の剣術……が、ヘイの胴体の表皮で止まった。
コォ……と複雑な呼吸をしながら直斗を見下ろすヘイ。
「オレに刃は通じない。銃弾や、爆弾でさえ」
「そうかい。瞬殺されてくれなくて、むしろ安心したぜ!」
直斗の連撃がヘイを襲う。
はじめは余裕そうにしていたヘイだが、自らの気の壁が破られつつあることにぶわりと脂汗を浮かべた。
「ヌ……!」
咄嗟に防御を硬くする。
「ギャハハ……!」
凶悪に振り込んだ直斗の剣が直撃。
切り裂かれはしなかったものの、殺しきれない衝撃によってヘイは吹き飛んだ。
柱を破壊し、椅子とテーブルをしこたままき散らし、手すりを破って吹き抜けの一階へと落下する。
こぢんまりとした噴水アートに落ち、水をまき散らす。
起き上がった彼を、遥が待ち構えていた。
「暴力坂はどこだ」
「ここにはいないぜ。けど、暴力坂の技なら見せてやる」
再び起き上がったヘイは、先程とは比べものにならないほど強い気を練り上げた。
身体が鋼のように硬く、そして重くなっていく。
飛びかかった遥の蹴りや拳が通らないほどの堅さだ。
「ひゃー、これがガチの中国武術か! 拳イってえ!」
ぱたぱたと手首を振る遥。
そこへ直斗が二階から飛び降りる形で合流した。
「いつまで遊んでんだてめぇ、殺すぞ」
「でも楽しいぜ? 相手なら後でするからさ!」
「…………」
常に他者を牽制して生きている直斗は、精神が無敵の人物に弱い。
この場で直斗の天敵になりえそうな人物がいるとすれば、それは遥だった。
ゆえに、標的はヘイに固定しておく。
「打ってこい。暴力坂の技とやら。オレの硬気功ではじき返せば、いい見せしめになる」
「言ったな?」
遥は拳を固め、脳裏に暴力坂の姿を思い描いた。
普段は慎ましく過ごす彼の、戦闘に関する『なりふりのかまわなさ』。
ビルをへし折り大地を穿ち、空をかき乱すあの動き。
その精神性を学び取り、自らに注入する。
一方で、直斗は刀を強く強く握りしめた。
かの暴力坂乱暴を殺した人物の強い怨念が、直斗の中に流れ込んでくるかのようだった。
「…………」
ヘイは絶対の自信をもつ防御を固めつつも、しかし言いようのない不安に襲われている。
なぜなら今目の前にあるのは、『暴力坂を倒したもの』だからだ。
そのことに気づかぬまま。
「死にやがれ三下ァ!」
「見ろ、こいつが暴力坂だ!」
遥の一撃必殺拳。
そして直斗の一刀両断剣。
その二つが合わさり、ヘイの鋼のごとき胴体をへし折った。
「ぐが……!?」
吹き飛び、壁にめりこみ、そして気を失うヘイ。
勝敗は、誰の目にも明らかだった。
●八手老と裏武闘大会
裏武術集団『バオラン』。
捕まえた彼らから押収した品の中には、ある武闘大会のデータが入っていた。
「表には出すことのできない、裏の武術の使い手が集まる大会があるようだ。バオランはその中でも予選にすら上がれないほどの連中だったらしい」
「ふむ……」
威徳の説明に、逝はかくりと首をかしげた。
「つまり? 逆算すると?」
「我々に匹敵する……もしくはそれ以上の存在が大会には出場しているのですね」
「そういうことになるな」
燐花の言葉に、仁が同意を示した。
「へえ、すげーんだな。どこでやるんだ? 中国か?」
「いや」
身を乗り出す遥に、威徳がデータを読みながら手を翳す。
翳して、指をくいっと大地に向けた。
「日本だ」
僅かながら緊張が走る。
高等な武術の使い手たちが日本に集結している。
暴力坂がそうであるように、発現前から高い戦闘力をもつ覚者は多い。(ファイヴにも実は結構いる)
そんな彼らが死に覚えメソッドで強さを磨きに磨いた時、どんな化け物ができあがるか……それは、自分たちが既に証明していることだ。
「それって、大丈夫なのかなぁ」
奈南が珍しく心配そうにものを言った。
「強くなるために、周りの人をいじめたり……しないかなぁ」
「…………」
強くなるため、他の犠牲をいとわない。直斗にはむしろ賛同できさえする考え方だ。
「そういう奴はごろごろいるだろうな。でもって、そういう連中にとって今の日本は絶好の修行の場だ」
コンピューターRPGでいうところの、経験値の多いマップである。
「興味があるなら詳しく調べておこう。必要なら、出場枠を確保してもいい」
威徳のその発言に、彼らは……。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
