<冷酷島>元凶
●約束されなかった島・最終章
『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立式人工島である。
妖大災害によって一時は妖に占拠されたものの、ファイヴの活躍によって着々と有力妖の撃滅は進み、島内に拠点を築くまでに至った。
そして今、彼らを最大の脅威と見なしておぞましきものどもが動き出す。
島最大の敵であり、島で妖が増え続ける元凶とも言うべき存在。
準大妖級妖『おみやがえり』。
戦いは、ついに最終局面を迎えつつあった。
●準大妖級妖『おみやがえり』。そして、ランク3眷属。
「ぐっ、あああああああっ!!」
絶叫と共に布団をはねのけた事務方 執事(nCL2000195)に、島の調査グループは慌てて飛び起きた。
「う、うわどうしたの! 何かあったの!?」
「恐い夢でも見たの? 余のクマちゃん貸そうか?」
「皆さん落ち着いて」
大量の汗を流し、粗い呼吸をするジムカタ。
たまたまシェルターで仮眠をとっていた⼯藤・奏空(CL2000955) 、プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942) が様子を見に来る中、新⽥・成(CL2000538)が落ち着いた様子で部屋の照明をつけた。
「彼は夢見です。彼がうなされる程の出来事があるとすれば、つまり……」
「はい。情報集積棟へ行きます。皆さんも一緒に。戦闘部隊とファイヴ本部にも連絡を取ってください。至急です!」
ジムカタは大型スクリーンに島の地図を映し出すと、いくつかの箇所をマークした。
「皆さんがこれまで進めた調査によって、この島を取り巻く状況が見えてきました」
――妖の再規模発生の裏には土地神の弱体化があったこと。
――強大な妖が島からあふれるほどに増加及び強大化を進め、その現況が中央に存在すること。
かつて教授が示した『憎(妖が発生しやすい原因)』と『腐(妖が強大化する原因)』である。島を浄化する手段はこの二つに絞られたと言っていい。
「待って。今マークした所って、『代社』があるところだよね」
ぽつりと漏らした栗落花 渚(CL2001360) に、一同が注目する。
ジムカタは深く頷いた。
「我々とて建築屋。ゲンを担ぐ職業です。レイコク島の地盤であった島に社が存在していたことを受けて、埋め立て地とした後もいくつかの代社を島内に設置していました。どうやらこれが結界の役割を果たし、島の妖が外へ拡散することを防いでいたようなのです」
「それで、殆どの妖が島の中だけに留まっていたのですね……」
虫の群れを想像して貰えば分かりやすい。
わいた虫は四方八方に散って餌を探す筈だが、なぜか島の妖は大半の住民避難が済んだ内部に根を張っている。ごく一部の勢力が強引に外を目指す程度だ。
それはどうやら彼らが嫌がる結界のようなものが島を囲むように建設されていたからだという。
「緊急で呼んだってことは、その代社が壊されようとしてる……ってことなんだよね?」
「……」
渚の言葉に、奏空やプリンス、成までも……皆の緊張が高まった。
虫が四方八方に散るイメージ。
人工島を囲む本土へ大量の妖が飛び散れば、生まれる被害は計り知れない。
「はい。それも統制された戦力が、それぞれの代社を破壊すべく動いています。現在把握できているのは3つ。どれもR3コミュニティです」
R3妖と、それに連なるR1~2の中規模妖集団。
それが一気に三つ、まるで指揮官のついた兵隊のごとく同時に動いているというのだ。
「予知夢で確かに見ました。『母の死体に抱かれた赤子の妖』を。恐らく今回の大規模作戦は、この妖が『計画』したものでしょう」
●三箇所同時防衛作戦
これから、現場に居合わせた何人かのファイヴ覚者は3つのチームに分離する。
大量の戦闘部隊を引き連れ、指定されたエリアへ向かい迎撃作戦に当たることになる。
耐える時間(ターン数)はそれぞれのエリアに援軍が到着するまでだ。
「防衛のしかたを誤れば結界が破壊され、大きな被害が出るでしょう。皆さん、くれぐれも注意してください。それでは……生きてまた会いましょう」
『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立式人工島である。
妖大災害によって一時は妖に占拠されたものの、ファイヴの活躍によって着々と有力妖の撃滅は進み、島内に拠点を築くまでに至った。
そして今、彼らを最大の脅威と見なしておぞましきものどもが動き出す。
島最大の敵であり、島で妖が増え続ける元凶とも言うべき存在。
準大妖級妖『おみやがえり』。
戦いは、ついに最終局面を迎えつつあった。
●準大妖級妖『おみやがえり』。そして、ランク3眷属。
「ぐっ、あああああああっ!!」
絶叫と共に布団をはねのけた事務方 執事(nCL2000195)に、島の調査グループは慌てて飛び起きた。
「う、うわどうしたの! 何かあったの!?」
「恐い夢でも見たの? 余のクマちゃん貸そうか?」
「皆さん落ち着いて」
大量の汗を流し、粗い呼吸をするジムカタ。
たまたまシェルターで仮眠をとっていた⼯藤・奏空(CL2000955) 、プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942) が様子を見に来る中、新⽥・成(CL2000538)が落ち着いた様子で部屋の照明をつけた。
「彼は夢見です。彼がうなされる程の出来事があるとすれば、つまり……」
「はい。情報集積棟へ行きます。皆さんも一緒に。戦闘部隊とファイヴ本部にも連絡を取ってください。至急です!」
ジムカタは大型スクリーンに島の地図を映し出すと、いくつかの箇所をマークした。
「皆さんがこれまで進めた調査によって、この島を取り巻く状況が見えてきました」
――妖の再規模発生の裏には土地神の弱体化があったこと。
――強大な妖が島からあふれるほどに増加及び強大化を進め、その現況が中央に存在すること。
かつて教授が示した『憎(妖が発生しやすい原因)』と『腐(妖が強大化する原因)』である。島を浄化する手段はこの二つに絞られたと言っていい。
「待って。今マークした所って、『代社』があるところだよね」
ぽつりと漏らした栗落花 渚(CL2001360) に、一同が注目する。
ジムカタは深く頷いた。
「我々とて建築屋。ゲンを担ぐ職業です。レイコク島の地盤であった島に社が存在していたことを受けて、埋め立て地とした後もいくつかの代社を島内に設置していました。どうやらこれが結界の役割を果たし、島の妖が外へ拡散することを防いでいたようなのです」
「それで、殆どの妖が島の中だけに留まっていたのですね……」
虫の群れを想像して貰えば分かりやすい。
わいた虫は四方八方に散って餌を探す筈だが、なぜか島の妖は大半の住民避難が済んだ内部に根を張っている。ごく一部の勢力が強引に外を目指す程度だ。
それはどうやら彼らが嫌がる結界のようなものが島を囲むように建設されていたからだという。
「緊急で呼んだってことは、その代社が壊されようとしてる……ってことなんだよね?」
「……」
渚の言葉に、奏空やプリンス、成までも……皆の緊張が高まった。
虫が四方八方に散るイメージ。
人工島を囲む本土へ大量の妖が飛び散れば、生まれる被害は計り知れない。
「はい。それも統制された戦力が、それぞれの代社を破壊すべく動いています。現在把握できているのは3つ。どれもR3コミュニティです」
R3妖と、それに連なるR1~2の中規模妖集団。
それが一気に三つ、まるで指揮官のついた兵隊のごとく同時に動いているというのだ。
「予知夢で確かに見ました。『母の死体に抱かれた赤子の妖』を。恐らく今回の大規模作戦は、この妖が『計画』したものでしょう」
●三箇所同時防衛作戦
これから、現場に居合わせた何人かのファイヴ覚者は3つのチームに分離する。
大量の戦闘部隊を引き連れ、指定されたエリアへ向かい迎撃作戦に当たることになる。
耐える時間(ターン数)はそれぞれのエリアに援軍が到着するまでだ。
「防衛のしかたを誤れば結界が破壊され、大きな被害が出るでしょう。皆さん、くれぐれも注意してください。それでは……生きてまた会いましょう」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.代社『甲』を10ターン防衛する
2.代社『乙』を10ターン防衛する
3.代社『丙』を20ターン防衛する
2.代社『乙』を10ターン防衛する
3.代社『丙』を20ターン防衛する
今回に関しては色々細かい説明を省いているので、飛び入り参加者にはちょっとだけキツイかもしれません。
皆さんがこれまでやってきたプレイヤースキルそのものが要求される場面です。どうか、お気をつけて。
【※※※注意※※※】
・このシナリオではチームが3つに分断されます。
・様々な理由により作戦中の他チームへの移動はできません。
・状況によっては重軽傷、最悪それらを飛び越えた『死亡判定』の可能性があります。
【シチュエーションとエネミーデータ】
シナリオ参加者は『たまたま島内のシェルター拠点に居合わせた』という扱いでそれぞれ作戦エリアに向かいます。
相談中も、シェルター内で部隊が集結するまでのわずかな時間で行なわれている扱いとなっています。
皆さんはそれぞれ『20人の覚者兵を持った隊長』として機能します。その単位でプレイングをかけるようにして下さい。(細かいアドバイスは皆さんのプレイヤースキルを信じて省きます)
味方戦力については後述します。
・代社と戦場
防衛する『代社』は1m度の小さなお社です。ゆえにぶっ壊されるのは一瞬です。到達されないよう、進行ルートに立ち塞がる形で大規模戦闘を仕掛けます。
・味方戦力
緊急事態につき寄せ集めた戦力で戦います。
レベルも因子もバラバラ。ファイヴで大規模募集をかけて集まる程度の戦力と同程度と考えてください。
メンバーは主に島外警備に当たっていたファイヴ二次団体です。9割ほどを元ヒノマル陸軍のノーマル兵隊たちが占めています。
では、それぞれの防衛エリアごとに現われる敵戦力について説明します。
●甲
・ギガブレイドの巣
巨大な黒鳥をベースにしたR3生物系妖『ギガブレイド』とその眷属たちです。
全体的に鳥をベースにした飛行タイプの妖で構成されています。
援軍の到着によって敵軍は撤退するので、10ターン耐えきればミッションクリアとなります。
ただしギガブレイドとその眷属は非常に機動力や攻撃力が高く、こちらの消耗もかなり激しくなるでしょう。さらにはブロック不能なので後衛が容赦なく攻撃されます。
●乙
・デッドリースライムの海
無数のバッドステータスをもつ巨大なスライム状妖『デッドリースライム』とその眷属たちです。
ボスにあたるデッドリースライムはR3自然系妖。バッドステータスがえげつないということ以外わかっていませんが、ジムカタからのアドバイスでは「自然治癒を限界まで上げてもまだ不安」だそうです。
どんなバッドステータスが降りかかってもよいように備えを万全にしましょう。
ここで耐えるべきターン数は10ターンです。
●丙
・ダイアモンドワームの坑道
島中央に空いた穴の中にはシールドマシンをベースとしたR3物質系妖『ダイアモンドワーム』とその眷属たちが潜んでいました。
彼らは土を掘り進み代社を目指しています。
よってこちらの対応チームは穴に直接乗り込み、彼らがそれ以上掘り進めないようにひたすら攻撃を仕掛け続ける作戦となります。
必要ターン数は20ターン。
観測されている妖は巨大なアリ、巨大なクモ、巨大なイモムシです。それらをかいくぐりながら、最奥にいるダイアモンドワームにも攻撃を仕掛ける必要があります。
【総合的な補足】
・敵コミュニティは現在の戦力で倒しきれるような規模ではありません。
とにかく耐えしのぐことに全力を注いでください。
・元凶というべき妖は『おみやがえり』と仮称されています。
おみやがえりには今回できることはありません。一応接触できなくはないですが、その場合は全員死亡コースがありえます。
・今回は『事後調査』はナシです。
次回からバージョンアップ版が始まります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
9/9
公開日
2017年08月27日
2017年08月27日
■メイン参加者 9人■

●計画された妖
怪談話をするときに決まってあがる文句に、『いちばん恐いのは人間』というものがある。
そも怪談話とは人間を怖がらせるためにでっちあげたものであり、皆が想像する足がなくて半透明な幽霊像も、江戸時代の水墨画家円山応挙のつくる幽霊図によるものである。
真に恐ろしきは、それを繰り出す人間なのだ。
ひるがえって、25年前から国を騒がせ半無政府状態にした妖たちは恐ろしいかといえば、そうではない。妖なんてものは言ってみれば『多少手強い害獣』であり、充分な装備があれば駆除できる。その専門スタッフがAAAであり、それを立ち上げただけで日本は不謹慎ゲームを余裕で販売できる社会にまで復活した。
しかしそんなAAAを撃滅したのがなにかと言えば……。
「妖の計画的侵攻」
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は険しい表情で地図をにらんでいた。
「今まで受けた依頼の中でも最難関かもしれませんね。準大妖級妖の作戦に対して後手に回り、しかも分散して挑まなければならないなんて……」
「けど、逆に言えばチャンスだよ。お姉ちゃん」
ぎゅっと両手をグーにしてみせる『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)。
「こうして計画しなきゃいけないほど、妖の親玉は追い詰められてる。それを封じ込めて、最後に倒すことができたなら、この島だけじゃなくて周り一帯を救うことができるんですから!」
前半は御菓子に、後半は皆に向けて。
彼女の意気込みを受け取るように、大辻・想良(CL2001476)は小さく頷いた。
「防衛、ですね。戦闘部隊のひとたちと一緒に……」
「しかしそれにしても、防衛手段が残っていたのは不幸中の幸いでしたな」
『教授』新田・成(CL2000538)が杖をついて言った。
「建設業者の皆さんには一杯ごちそうしたいところです。ですがその前に、彼らの作った社をなんとしても守らねばなりません」
「土地神さまの弱体化が、すべての始まりだったのでしょうか……」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)の呟きに、『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)がナチュラルに応答した。
「獣浄土に行ったときだったかな。灯篭流しのお祭りが無くなったと聞いたけど、それと妖の大規模発生が重なったのにはつながりがあるのかな? だとすると、例の『おみやがえり』が関わってる可能性も大きいよね」
「時を経て妖が強大化して、まるでため込んだ戦力を放つようにして局地的大発生が起きた……。もしそれが島の外にまで及んだなら……」
「大惨事、だねえ」
二人は町がたちまちのうちに焼け野原になる光景を想像した。
「代社を壊そうとしているなら、それが無理であると知らしめればいい。そうですよね?」
「うん。一度計画を失敗させれば、即座に同じ行動には出ないはずだよ。頭がいいなら、尚のことね」
こめかみをトントンと叩く恭司。
そう。そこがただの妖とは異なる対応の仕方なのだ。
牽制が通用する。抑止が働く。
金網に『電流注意』の看板を立てるだけですみ、電流を流さずとも遮ることができる相手なのだ。むろん、それ以上に厄介な対応も迫られるのだが……。
「駆除するんじゃない。耐えるんだ。今回は、そういう作戦だからね」
「ナナン、今日はいっぱいいっぱいがんばるよぉ! あれから沢山経験して、いっぱい強くなったもん!」
ホッケースティックを素振りする『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)。
そのわきで、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)はシャドウボクシングをしながら目を光らせた。
「そう、俺もあれからレベルを上げてきた。ギガブレイドにリベンジするチャンス! ……なんだけど、今日は譲るね」
「譲られるねぇ!」
へーいと言いながらハイタッチする奏空と奈南。
さりげなくそのハイタッチに混ざりながら、『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がいつもの顔で言った。
「いいかいみんな、虫除けもった? デオドラントした? それじゃあ、『王家と行く! 夏休みのドキドキ虫退治』がはじまるよ!」
●猛攻と軍勢
寄せ集めといえど約60人の規模。
並大抵の妖程度なら瞬殺できる戦力ではあるが……
「やばいな、鳥肌がたってきた」
ぞも、ぞも、というおぞましい音と共に迫る大量の半液体の群れに、楽観出来る者などいなかった。
奏空、想良、御菓子の三チームが担当するのはデッドリースライムとその眷属たち。
観察する限り、動きは遅く凶悪さは感じないが、触れれば命をとられそうな、奇妙な圧迫感があった。
例えるなら、毒液が意志を持って襲いかかってくるようなものだ。
「出血や毒はもちろん、痺れや呪い、封印や負荷、魅了もある。不安効果による自然治癒半減も侮れない。でも一分半……一分半をしのげば俺たちの勝利だ!」
巨大な半液体。デッドリースライムが津波のように盛り上がり、周囲を埋める無数のスライム体がしぶきのように飛びかかってくる。ひとつひとつが人を殺しかねない妖であり、呑まれればひとたまりもない毒の塊だ。
「とにかく回復に集中するんだ!」
「…………」
想良は頷いて、集まった部下たちに奏空と同じ命令を伝えた。
目的は回復。それもBS回復だ。
その上で……。
「広がってください」
想良たちの軍勢は横に広く展開した。あまり広がると全体回復による有効射程から外れ、個別に対応しなければならなくなるが、その一方で小さく丸くなっていると敵の軍勢に取り囲まれる危険がある。こちらの目的がヒールによるホバリングで敵の目的がブレイクスルーである以上、集中砲火による戦力低下は避けたい。それに、迂回して代社にとりつかれても困るのだ。
そんな分けで、中央奏空チーム、右翼想良チーム、そして左翼御菓子チームで迎え撃つことになった。
「生理的に受け入れがたい敵ですね。いやらしい敵って言ってもいいかな……」
他のチームとメンバーを入れ替える形で、御菓子のチームは半数がBS回復要員でできている。
「負傷者を速やかに後方へ下げること。犠牲者を一人でも少なくすること。これは徹底してね。守るための戦いだからって、死んだらダメ!」
命数を100程、魂を3つほどもっている御菓子たちと違い、多くの覚者はライフが乏しい。魂は一つ限りという人間が大半だし、命数が二桁あるだけで超人中の超人なのだ。ファイヴがそういう人ばっかりなのでこれが普通だと思いがちではあるのだが……。
「さあ、始めるよ――ソング アンド ダンス!」
一方こちらは対ギガブレイドサイド。
成チーム、奈南チーム、結鹿チームで構成された彼らは、それぞれに団子状になって固まった。
仕込み杖を抜く成。
「いいですか、皆さん。目的は迎撃です。深追いはせず、最も近い目標を各個撃破してください」
ファイヴでよくつかう『各個撃破』はナポレオンが言ってたやつじゃなく単純な集中攻撃による数差の利をさすが、今回に関しては別だ。
「敵の狙いは我々という障害物の排除です。いかに司令塔の妖に知恵があったとしても末端は獣か虫程度の知性しかもっていません。我々をバラバラに攻撃するはずです。その差を狙うのです」
「みんな、いくよぉ!」
奈南は特殊なホッケーディスクの安全ピンを抜くと、スティックを使って空へと打ち出した。
空で回転しながら激しい光を放つ、フラッシュグレネードディスク。向かってきた鳥系妖の群れが目をくらませ、その隙に周囲の兵隊たちがアサルトライフルによる一斉射撃を食らわせた。
「ナナンは積極的に戦うからねぇ。ナナンにあわせて、同じ敵をやっつけるんだよぉ!」
奈南の戦法は、自らが特出することで敵の注目を集め、そこへ攻撃を加えることで味方への損害を防ぐというものだ。
奈南の自己犠牲的な性質もあいまって、この作戦はうまくハマった。
それに続くは結鹿チームである。
「恐らく対空攻撃がメインになると思います。けど油断はせずに、広く注意を払ってください!」
覚醒状態で剣をとる結鹿。特にグレードの高い妖へ狙いを定め、巨大な氷の剣を生み出した。
「先生、いっしょに!」
「はい――」
成の真空斬りと同時に結鹿もまた剣を振り込み、空を穿つように妖を消し飛ばしていく。
そうして生まれた穴でさえ、すぐに別の妖で埋まっていく。
空が灰色に染まり、やがて黒となり、渦を巻いて迫る。
「『一人はみんなのために、みんなは一人のために』、ですね」
結鹿たちは互いを守るように身を寄せ合い、迫り来る軍勢を迎え撃った。
広がって受け止める対デッドリースライムサイド。一丸となって固まる対ギガブレイドサイド。
そんな彼らとは打って変わって、積極的に敵陣を掘り進むのが対ダイアモンドワームサイドである。
「家臣のみんなー、余との約束ちゃんと守ってるよね!」
飛びかかる巨大芋虫をハンマースイングでぶっ飛ばし、プリンスはきらりと前歯を光らせた。
プリンスのたてたお約束は三つ。
隊の前衛として取り巻きの妖たちを受け持つこと。
後衛からの援護が届く位置を心がけつつ、ダイアモンドワームへ向けて急いで敵軍を掘り進むこと。
好きな女子の名前は言わないこと。いーえーよーって小突かれてもうっかり言わないこと。
以上である。
無数の火炎放射器が蜘蛛やムカデの化け物を薙ぎ払っていく。
そんな中で、燐花は率先して妖を切り払っていた。
自分のチームには援護射撃をさせ、自身のすばやさで比較的弱い敵たちを翻弄していくスタイルだ。
「皆さんは自分が倒れないことを第一に考えてください。深手を負ったら下がり、回復を貰ってから交代するんです。それがスムーズにできるように、前衛の壁を保ってください」
序盤ならまだしも、ダイアモンドワームの穴を進めば退路が無くなっていく。
敵の巣の中で孤立するわけにはいかないので、何が何でも戦闘不能者を出すわけにはいかなかった。
目の前の敵を確実に倒し続け、無理に戦力をねじ込んだりしない限りは退路がふさがれることがないのは救いだったが、それをいつまでも続けるとダイアモンドワームの進行を許してしまう。どれだけ危険を冒すかは、作戦の要であった。
「とはいえ、誰かを死なせて大成功って話はしたくないんだよねぇ、僕らは」
ファイヴがファイヴたるゆえんとでも言おうか。
犠牲を沢山払えば安定するという現実をあえて捨て、潤沢な『自身』というリソースを削って周囲を生かし理想を求めるのが彼らである。
「僕らのチームは攻撃支援と回復がメインだ。ダイアモンドワームに届くまでは、少し無理をしてでも攻撃に集中していこうね」
先の見えない暗い穴の中から大量の巨大な虫がわき出ている。
必死にそれらを駆除しながら突き進む人々。
そんな光景をカメラに納め、そして呪力によって虫たちを破裂させていく。
「燐ちゃんたちが少しでも動きやすいように……できることをやっていこう」
●衝撃と畏怖
個人活動が専門だったファイヴの覚者たちにとって、軍勢を率いるというのは珍しい経験だった。
とはいえ、彼らには彼らなりの才能というものがあったようだ。
「出来るだけの数は減らしますが、露払いだと思って頂きたい。主力はあくまであなたがたですので」
成はそう言うと、墜落する妖をよけて跳躍。突っ込んでくる別の妖を踏み台にすると、更に大きく飛び上がった。
「こちらを向きなさい――ギガブレイド」
空を絶つ。
斬撃は空間を飛ばし、ギガブレイドの頬を直接斬った。
本来は目を狙ったはずだが、その動きを読んで回避行動をとったのだ。回避しきれなかった後続の妖は直撃を受けて翼を損傷し、回転しながら落ちていく。
それを、地をかける奈南が片っ端からホッケースティックで殴りつけていった。
たかがホッケースティックと思うなかれ。バッターボックスで振ればあらゆる弾がホームランとなり、テニスコートで振れば相手選手ごと観客席へ吹き飛ばしていく。もはや奈南のスティックスイングは常識を逸脱しているのだ。
「あの時とはちがうのだ! ナナンたちだって、強くなってるんだもん!」
はね飛ばした妖の一部がギガブレイドに直撃。
対するギガブレイドは自らの巨体を突っ込ませてきた。
暴風を伴った巨大は周囲のビルを壁ごと砕き、巨大な暴力となって迫る。
「皆さん、回復弾幕!」
巨大な氷の剣で迎え撃ち、結鹿は部下たちに呼びかけた。
回復術式があちこちに行き渡り、ギガブレイドの衝撃に備える。
一方で、デッドリースライムと戦っていた奏空たちも苦戦を強いられていた。
BS回復に集中することで戦線の崩壊は防げていたものの、ひろがった味方に完全な回復を行き渡らせることにリソースをさかれていた。
崩壊こそしないものの、デッドリースライムによる一人一人への執拗な攻撃によってじわじわと戦力を削られていく。
「とにかく回復の手を緩めないで! 攻撃は後回してもいい!」
奏空は隊のメンバーによびかけながら、デッドリースライムめがけて滅相銃を乱射した。
恐ろしいバッドステータスをばらまくデッドリースライム。
その津波のような衝撃と、そこから始まる恐ろしい毒のオンパレード。それらを少しでも和らげるために回復術式を限界まで展開する戦闘部隊。
攻撃に手を回せない分敵の個体数は減らず、苦しさは増すばかりだ。
「ダメージが重なったら、交代しながら戦線を維持……。できますか」
想良の指示に的確に答え、戦闘部隊の面々は的確にダメージを分散させていく。
デッドリースライムとその軍勢がBSに特化している反面、攻撃や防御がそこまで秀でていないというのが救いだった。
ダメージの分散がきく。それだけでも勝機がある。
敵を全滅させるのは現在戦力では不可能だが、一定時間耐えしのぐことは可能なのだ。
「それでいいの。これはそういう作戦なんだから」
御菓子は演奏の手を止めない。腕に焼け付くような毒液が付着しても、呼吸が困難になっても、たとえスライムの群れに埋め尽くされようとも演奏をやめない。
「最後まで立っていれば、それで私たちの勝ちなんだから……!」
「通信が入りました。対ギガブレイド、対デッドリースライム、両戦域に援軍が到着した模様。皆さんの隊は継続して迎撃にうつるとのこと!」
「よし。ということは……」
こちらは対ダイアモンドワームサイド。虫たちを切り開き、ついにダイアモンドワームの先端へとたどり着いた。
しかし先端といっても、両端が口になった異形のワームである。それもシールドマシンのようにがりがりと掘り進む巨大工業機械の妖だ。
「みんな、ここからは回復に集中しよう。援軍が到着するまでこいつを足止めするんだ」
恭司の指示を受けて回復術式をメインに切り替える隊員たち。
その一方で、プリンスと燐花の部隊は周囲の雑魚敵駆除に集中していた。
雑魚敵とはいえど、ファイヴの通常作戦で組まれるような敵たちだ。連携した火力集中を続けてやっと対抗できる。敵側に回復能力をもつ妖がいないことが今回においては有利にはたらいた。
「味方がもうじき到着します。ですから……」
「そうだね。これ以上オイタさせないように……」
ぐ、と突撃姿勢をとる燐花。同じくプリンス。
二人は全力のタックルをダイアモンドワームへと仕掛けた。
ずどんという衝撃がダイアモンドワーム全体へ響き、無理矢理に穴を掘り進む作業がやんだ。
逆に、こちらへ攻撃するために引き返し始める。
「おっと、やばいかも」
「大丈夫です。そろそろ……」
振り返る燐花。
戦車を引き連れた戦闘部隊が到着し、プリンスたちの頭上を越えて砲撃を始めた。
「攻撃しながら引きつけ、穴の外側へ足止めし続けます。皆さんはこのうちに外へ」
「皆聞いた? 帰るまでが遠足だよ! えっ、じゃあ余って帰国するまで?」
言われるまま、部隊を交代し、プリンスたちは外へと引き上げていった。
●作戦結果報告
「皆さん、お疲れ様でした。急な作戦とはいえ、奮戦のおかげで三つの巨大コミュニティの足止めに成功しました。このまま撃滅するか、戦力を削れればよかったのですが……彼らは増援を確認するや撤退をはじめ、再び島中央へ戻ってしまいました。R3の妖とは思えない戦術判断です。恐らくは遠隔で指示を送り、状況を見ている者が居る……それが『おみやがえり』なのでしょう」
戦いはより大規模なものとなる。
結界を破って外へ進行しようとする『おみやがえり』の妖軍と、それらの戦力を各個撃破で潰し、最後には元凶の撃滅をねらうファイヴ軍。
どこかで、新たな幕が開く音がした。
怪談話をするときに決まってあがる文句に、『いちばん恐いのは人間』というものがある。
そも怪談話とは人間を怖がらせるためにでっちあげたものであり、皆が想像する足がなくて半透明な幽霊像も、江戸時代の水墨画家円山応挙のつくる幽霊図によるものである。
真に恐ろしきは、それを繰り出す人間なのだ。
ひるがえって、25年前から国を騒がせ半無政府状態にした妖たちは恐ろしいかといえば、そうではない。妖なんてものは言ってみれば『多少手強い害獣』であり、充分な装備があれば駆除できる。その専門スタッフがAAAであり、それを立ち上げただけで日本は不謹慎ゲームを余裕で販売できる社会にまで復活した。
しかしそんなAAAを撃滅したのがなにかと言えば……。
「妖の計画的侵攻」
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は険しい表情で地図をにらんでいた。
「今まで受けた依頼の中でも最難関かもしれませんね。準大妖級妖の作戦に対して後手に回り、しかも分散して挑まなければならないなんて……」
「けど、逆に言えばチャンスだよ。お姉ちゃん」
ぎゅっと両手をグーにしてみせる『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)。
「こうして計画しなきゃいけないほど、妖の親玉は追い詰められてる。それを封じ込めて、最後に倒すことができたなら、この島だけじゃなくて周り一帯を救うことができるんですから!」
前半は御菓子に、後半は皆に向けて。
彼女の意気込みを受け取るように、大辻・想良(CL2001476)は小さく頷いた。
「防衛、ですね。戦闘部隊のひとたちと一緒に……」
「しかしそれにしても、防衛手段が残っていたのは不幸中の幸いでしたな」
『教授』新田・成(CL2000538)が杖をついて言った。
「建設業者の皆さんには一杯ごちそうしたいところです。ですがその前に、彼らの作った社をなんとしても守らねばなりません」
「土地神さまの弱体化が、すべての始まりだったのでしょうか……」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)の呟きに、『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)がナチュラルに応答した。
「獣浄土に行ったときだったかな。灯篭流しのお祭りが無くなったと聞いたけど、それと妖の大規模発生が重なったのにはつながりがあるのかな? だとすると、例の『おみやがえり』が関わってる可能性も大きいよね」
「時を経て妖が強大化して、まるでため込んだ戦力を放つようにして局地的大発生が起きた……。もしそれが島の外にまで及んだなら……」
「大惨事、だねえ」
二人は町がたちまちのうちに焼け野原になる光景を想像した。
「代社を壊そうとしているなら、それが無理であると知らしめればいい。そうですよね?」
「うん。一度計画を失敗させれば、即座に同じ行動には出ないはずだよ。頭がいいなら、尚のことね」
こめかみをトントンと叩く恭司。
そう。そこがただの妖とは異なる対応の仕方なのだ。
牽制が通用する。抑止が働く。
金網に『電流注意』の看板を立てるだけですみ、電流を流さずとも遮ることができる相手なのだ。むろん、それ以上に厄介な対応も迫られるのだが……。
「駆除するんじゃない。耐えるんだ。今回は、そういう作戦だからね」
「ナナン、今日はいっぱいいっぱいがんばるよぉ! あれから沢山経験して、いっぱい強くなったもん!」
ホッケースティックを素振りする『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)。
そのわきで、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)はシャドウボクシングをしながら目を光らせた。
「そう、俺もあれからレベルを上げてきた。ギガブレイドにリベンジするチャンス! ……なんだけど、今日は譲るね」
「譲られるねぇ!」
へーいと言いながらハイタッチする奏空と奈南。
さりげなくそのハイタッチに混ざりながら、『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がいつもの顔で言った。
「いいかいみんな、虫除けもった? デオドラントした? それじゃあ、『王家と行く! 夏休みのドキドキ虫退治』がはじまるよ!」
●猛攻と軍勢
寄せ集めといえど約60人の規模。
並大抵の妖程度なら瞬殺できる戦力ではあるが……
「やばいな、鳥肌がたってきた」
ぞも、ぞも、というおぞましい音と共に迫る大量の半液体の群れに、楽観出来る者などいなかった。
奏空、想良、御菓子の三チームが担当するのはデッドリースライムとその眷属たち。
観察する限り、動きは遅く凶悪さは感じないが、触れれば命をとられそうな、奇妙な圧迫感があった。
例えるなら、毒液が意志を持って襲いかかってくるようなものだ。
「出血や毒はもちろん、痺れや呪い、封印や負荷、魅了もある。不安効果による自然治癒半減も侮れない。でも一分半……一分半をしのげば俺たちの勝利だ!」
巨大な半液体。デッドリースライムが津波のように盛り上がり、周囲を埋める無数のスライム体がしぶきのように飛びかかってくる。ひとつひとつが人を殺しかねない妖であり、呑まれればひとたまりもない毒の塊だ。
「とにかく回復に集中するんだ!」
「…………」
想良は頷いて、集まった部下たちに奏空と同じ命令を伝えた。
目的は回復。それもBS回復だ。
その上で……。
「広がってください」
想良たちの軍勢は横に広く展開した。あまり広がると全体回復による有効射程から外れ、個別に対応しなければならなくなるが、その一方で小さく丸くなっていると敵の軍勢に取り囲まれる危険がある。こちらの目的がヒールによるホバリングで敵の目的がブレイクスルーである以上、集中砲火による戦力低下は避けたい。それに、迂回して代社にとりつかれても困るのだ。
そんな分けで、中央奏空チーム、右翼想良チーム、そして左翼御菓子チームで迎え撃つことになった。
「生理的に受け入れがたい敵ですね。いやらしい敵って言ってもいいかな……」
他のチームとメンバーを入れ替える形で、御菓子のチームは半数がBS回復要員でできている。
「負傷者を速やかに後方へ下げること。犠牲者を一人でも少なくすること。これは徹底してね。守るための戦いだからって、死んだらダメ!」
命数を100程、魂を3つほどもっている御菓子たちと違い、多くの覚者はライフが乏しい。魂は一つ限りという人間が大半だし、命数が二桁あるだけで超人中の超人なのだ。ファイヴがそういう人ばっかりなのでこれが普通だと思いがちではあるのだが……。
「さあ、始めるよ――ソング アンド ダンス!」
一方こちらは対ギガブレイドサイド。
成チーム、奈南チーム、結鹿チームで構成された彼らは、それぞれに団子状になって固まった。
仕込み杖を抜く成。
「いいですか、皆さん。目的は迎撃です。深追いはせず、最も近い目標を各個撃破してください」
ファイヴでよくつかう『各個撃破』はナポレオンが言ってたやつじゃなく単純な集中攻撃による数差の利をさすが、今回に関しては別だ。
「敵の狙いは我々という障害物の排除です。いかに司令塔の妖に知恵があったとしても末端は獣か虫程度の知性しかもっていません。我々をバラバラに攻撃するはずです。その差を狙うのです」
「みんな、いくよぉ!」
奈南は特殊なホッケーディスクの安全ピンを抜くと、スティックを使って空へと打ち出した。
空で回転しながら激しい光を放つ、フラッシュグレネードディスク。向かってきた鳥系妖の群れが目をくらませ、その隙に周囲の兵隊たちがアサルトライフルによる一斉射撃を食らわせた。
「ナナンは積極的に戦うからねぇ。ナナンにあわせて、同じ敵をやっつけるんだよぉ!」
奈南の戦法は、自らが特出することで敵の注目を集め、そこへ攻撃を加えることで味方への損害を防ぐというものだ。
奈南の自己犠牲的な性質もあいまって、この作戦はうまくハマった。
それに続くは結鹿チームである。
「恐らく対空攻撃がメインになると思います。けど油断はせずに、広く注意を払ってください!」
覚醒状態で剣をとる結鹿。特にグレードの高い妖へ狙いを定め、巨大な氷の剣を生み出した。
「先生、いっしょに!」
「はい――」
成の真空斬りと同時に結鹿もまた剣を振り込み、空を穿つように妖を消し飛ばしていく。
そうして生まれた穴でさえ、すぐに別の妖で埋まっていく。
空が灰色に染まり、やがて黒となり、渦を巻いて迫る。
「『一人はみんなのために、みんなは一人のために』、ですね」
結鹿たちは互いを守るように身を寄せ合い、迫り来る軍勢を迎え撃った。
広がって受け止める対デッドリースライムサイド。一丸となって固まる対ギガブレイドサイド。
そんな彼らとは打って変わって、積極的に敵陣を掘り進むのが対ダイアモンドワームサイドである。
「家臣のみんなー、余との約束ちゃんと守ってるよね!」
飛びかかる巨大芋虫をハンマースイングでぶっ飛ばし、プリンスはきらりと前歯を光らせた。
プリンスのたてたお約束は三つ。
隊の前衛として取り巻きの妖たちを受け持つこと。
後衛からの援護が届く位置を心がけつつ、ダイアモンドワームへ向けて急いで敵軍を掘り進むこと。
好きな女子の名前は言わないこと。いーえーよーって小突かれてもうっかり言わないこと。
以上である。
無数の火炎放射器が蜘蛛やムカデの化け物を薙ぎ払っていく。
そんな中で、燐花は率先して妖を切り払っていた。
自分のチームには援護射撃をさせ、自身のすばやさで比較的弱い敵たちを翻弄していくスタイルだ。
「皆さんは自分が倒れないことを第一に考えてください。深手を負ったら下がり、回復を貰ってから交代するんです。それがスムーズにできるように、前衛の壁を保ってください」
序盤ならまだしも、ダイアモンドワームの穴を進めば退路が無くなっていく。
敵の巣の中で孤立するわけにはいかないので、何が何でも戦闘不能者を出すわけにはいかなかった。
目の前の敵を確実に倒し続け、無理に戦力をねじ込んだりしない限りは退路がふさがれることがないのは救いだったが、それをいつまでも続けるとダイアモンドワームの進行を許してしまう。どれだけ危険を冒すかは、作戦の要であった。
「とはいえ、誰かを死なせて大成功って話はしたくないんだよねぇ、僕らは」
ファイヴがファイヴたるゆえんとでも言おうか。
犠牲を沢山払えば安定するという現実をあえて捨て、潤沢な『自身』というリソースを削って周囲を生かし理想を求めるのが彼らである。
「僕らのチームは攻撃支援と回復がメインだ。ダイアモンドワームに届くまでは、少し無理をしてでも攻撃に集中していこうね」
先の見えない暗い穴の中から大量の巨大な虫がわき出ている。
必死にそれらを駆除しながら突き進む人々。
そんな光景をカメラに納め、そして呪力によって虫たちを破裂させていく。
「燐ちゃんたちが少しでも動きやすいように……できることをやっていこう」
●衝撃と畏怖
個人活動が専門だったファイヴの覚者たちにとって、軍勢を率いるというのは珍しい経験だった。
とはいえ、彼らには彼らなりの才能というものがあったようだ。
「出来るだけの数は減らしますが、露払いだと思って頂きたい。主力はあくまであなたがたですので」
成はそう言うと、墜落する妖をよけて跳躍。突っ込んでくる別の妖を踏み台にすると、更に大きく飛び上がった。
「こちらを向きなさい――ギガブレイド」
空を絶つ。
斬撃は空間を飛ばし、ギガブレイドの頬を直接斬った。
本来は目を狙ったはずだが、その動きを読んで回避行動をとったのだ。回避しきれなかった後続の妖は直撃を受けて翼を損傷し、回転しながら落ちていく。
それを、地をかける奈南が片っ端からホッケースティックで殴りつけていった。
たかがホッケースティックと思うなかれ。バッターボックスで振ればあらゆる弾がホームランとなり、テニスコートで振れば相手選手ごと観客席へ吹き飛ばしていく。もはや奈南のスティックスイングは常識を逸脱しているのだ。
「あの時とはちがうのだ! ナナンたちだって、強くなってるんだもん!」
はね飛ばした妖の一部がギガブレイドに直撃。
対するギガブレイドは自らの巨体を突っ込ませてきた。
暴風を伴った巨大は周囲のビルを壁ごと砕き、巨大な暴力となって迫る。
「皆さん、回復弾幕!」
巨大な氷の剣で迎え撃ち、結鹿は部下たちに呼びかけた。
回復術式があちこちに行き渡り、ギガブレイドの衝撃に備える。
一方で、デッドリースライムと戦っていた奏空たちも苦戦を強いられていた。
BS回復に集中することで戦線の崩壊は防げていたものの、ひろがった味方に完全な回復を行き渡らせることにリソースをさかれていた。
崩壊こそしないものの、デッドリースライムによる一人一人への執拗な攻撃によってじわじわと戦力を削られていく。
「とにかく回復の手を緩めないで! 攻撃は後回してもいい!」
奏空は隊のメンバーによびかけながら、デッドリースライムめがけて滅相銃を乱射した。
恐ろしいバッドステータスをばらまくデッドリースライム。
その津波のような衝撃と、そこから始まる恐ろしい毒のオンパレード。それらを少しでも和らげるために回復術式を限界まで展開する戦闘部隊。
攻撃に手を回せない分敵の個体数は減らず、苦しさは増すばかりだ。
「ダメージが重なったら、交代しながら戦線を維持……。できますか」
想良の指示に的確に答え、戦闘部隊の面々は的確にダメージを分散させていく。
デッドリースライムとその軍勢がBSに特化している反面、攻撃や防御がそこまで秀でていないというのが救いだった。
ダメージの分散がきく。それだけでも勝機がある。
敵を全滅させるのは現在戦力では不可能だが、一定時間耐えしのぐことは可能なのだ。
「それでいいの。これはそういう作戦なんだから」
御菓子は演奏の手を止めない。腕に焼け付くような毒液が付着しても、呼吸が困難になっても、たとえスライムの群れに埋め尽くされようとも演奏をやめない。
「最後まで立っていれば、それで私たちの勝ちなんだから……!」
「通信が入りました。対ギガブレイド、対デッドリースライム、両戦域に援軍が到着した模様。皆さんの隊は継続して迎撃にうつるとのこと!」
「よし。ということは……」
こちらは対ダイアモンドワームサイド。虫たちを切り開き、ついにダイアモンドワームの先端へとたどり着いた。
しかし先端といっても、両端が口になった異形のワームである。それもシールドマシンのようにがりがりと掘り進む巨大工業機械の妖だ。
「みんな、ここからは回復に集中しよう。援軍が到着するまでこいつを足止めするんだ」
恭司の指示を受けて回復術式をメインに切り替える隊員たち。
その一方で、プリンスと燐花の部隊は周囲の雑魚敵駆除に集中していた。
雑魚敵とはいえど、ファイヴの通常作戦で組まれるような敵たちだ。連携した火力集中を続けてやっと対抗できる。敵側に回復能力をもつ妖がいないことが今回においては有利にはたらいた。
「味方がもうじき到着します。ですから……」
「そうだね。これ以上オイタさせないように……」
ぐ、と突撃姿勢をとる燐花。同じくプリンス。
二人は全力のタックルをダイアモンドワームへと仕掛けた。
ずどんという衝撃がダイアモンドワーム全体へ響き、無理矢理に穴を掘り進む作業がやんだ。
逆に、こちらへ攻撃するために引き返し始める。
「おっと、やばいかも」
「大丈夫です。そろそろ……」
振り返る燐花。
戦車を引き連れた戦闘部隊が到着し、プリンスたちの頭上を越えて砲撃を始めた。
「攻撃しながら引きつけ、穴の外側へ足止めし続けます。皆さんはこのうちに外へ」
「皆聞いた? 帰るまでが遠足だよ! えっ、じゃあ余って帰国するまで?」
言われるまま、部隊を交代し、プリンスたちは外へと引き上げていった。
●作戦結果報告
「皆さん、お疲れ様でした。急な作戦とはいえ、奮戦のおかげで三つの巨大コミュニティの足止めに成功しました。このまま撃滅するか、戦力を削れればよかったのですが……彼らは増援を確認するや撤退をはじめ、再び島中央へ戻ってしまいました。R3の妖とは思えない戦術判断です。恐らくは遠隔で指示を送り、状況を見ている者が居る……それが『おみやがえり』なのでしょう」
戦いはより大規模なものとなる。
結界を破って外へ進行しようとする『おみやがえり』の妖軍と、それらの戦力を各個撃破で潰し、最後には元凶の撃滅をねらうファイヴ軍。
どこかで、新たな幕が開く音がした。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
