新天地にて
新天地にて



 パチパチと、油が跳ねて当たって来る。
 そんな感触に煩わされながら私は、ゆったりと歩を進めた。
 幾人もの米兵が、悲鳴を上げながら小銃をぶっ放す。
 私の全身で、油が跳ねたような微かな痛みが弾け続ける。
 鬱陶しさに耐えながら私は、怯える米兵たちに微笑みかけた。
「これが蔵王・戒というものだ。アサルトライフルでは無理、せめてATMを持って来るといい」
「そしてコイツが雷獣! くたばりやがれ侵略者ども!」
 私を盾にしていた久我山が、叫びながら雷雲を発生させる。稲妻が迸り、米兵たちを灼き砕く。
 恐慌に陥った米軍の頭上を、新藤が猛禽類の如く飛翔する。火焔連弾を降らせながらだ。
「世界警察気取りの方々! 真珠湾を思い出しなさぁいヒャハハハハハ!」
 単体の妖を攻撃するための術式ではあるが、雑魚同然の人間どもが相手であれば、直撃のさせ方次第では、一発で複数人を焼き殺せる。
 周囲あちこちで、米兵たちが焦げて砕けて遺灰に変わった。
 某県、在日米軍基地。
 日本であって日本ではない場所を、私たちは地図から消し去りにかかっている。
 別に、基地反対派の連中に雇われたわけではない。
 何か、やってみろ。あの男に、そう言われたからだ。
 何でもいい、派手な事をやらかして力を見せろ。
 あの男は我々に、そう言った。命じた、と言うより、けしかけた。にやり、と微笑みながらだ。
 牙を剥くような、その笑顔を見ただけで、私たちの心には火が点いた。
 何かをしてやる。盛大に暴力を振るってやる。我々の力を、世に知らしめてやる。
 あの男の笑顔には、人をそのような方向へと走らせる何かがあった。
 装甲車が、こちらへ突っ込んで来る。我々を轢き殺そうとしている。
「無駄だと言っている……」
 その場で、私は鉄甲掌を繰り出した。
 装甲車が、中の米兵もろとも潰れて残骸に変わった。
 これだ。これが、覚者の力だ。いや違う、今や我々は隔者。人の領域から、隔絶しつつある。
 あの男の笑顔は、覚者を隔者へと変えてしまう。
 久我山が、新藤が、そして我々3人について来た者たちが、思い思いに基地内を蹂躙し、米兵たちを殺戮していた。
 全員の心で今、暴虐の炎が燃え盛っているのだ。
 心が熱い。今の私たちは、何でも出来る。
 それは、AAAで事務的に妖と戦っていた頃には、なかった感覚である。
 今更ファイヴなどという新参者の組織に吸収され、中ごとき弱輩の指図を受けるくらいであれば、と私は思う。この炎に身を任せ、戦う者として燃え盛る生を全うするべきだ。
 七星剣へ来て……八神勇雄という男に出会って、我々は生まれ変わったのだから。


 中恭介(nCL2000002)の、表情と口調が重い。
「恐れていた事が起こった、と言うべきかな。
 AAAに所属していた覚者が、組織壊滅後……ほんの少数ではあるが、七星剣に流れ込んでいる。
 中でも特に過激な連中が、某県の在日米軍基地を襲撃するようだ。
 夢見の情報によると、人数は9人。中でも特に注意を要するのが元五等の黒沼豪太、元上級の新藤竜司と久我山充の3名で、詳細は資料を見て欲しいが全員それなりのベテランだ。
 AAA古参の覚者ほどファイヴとの合併を受け入れがたいというのは、まあわかると思う。俺などの指図を受けたくもないだろうしな。
 とにかく、基地の前方で止めてもらうしかない。敷地内に1歩でも入れさせると、外交問題になりかねん。頼むぞ」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:小湊拓也
■成功条件
1.隔者9人の撃破(生死不問)
2.なし
3.なし
 お世話になっております。ST小湊拓也です。
 今回の敵は元AAAの隔者9名で、詳細は以下の通り。

 前衛
 黒沼豪太(男、36歳、土行彩。使用スキルは『五織の彩』『蔵王・戒』『鉄甲掌』)
 火行械(武器は戦斧。使用スキルは『機化硬』『豪炎撃』)2名

 中衛
 新藤竜司(男、29歳、火行翼。使用スキルは『エアブリット』『火焔連弾』)
 水行翼(使用スキルは『エアブリット』『潤しの雨』)2名

 後衛
 久我山充(男、31歳、天行暦。使用スキルは『練覇法』『雷獣』)
 木行現(使用スキルは『B.O.T.』『棘散舞』)2名


 時間帯は昼。場所は某県在日米軍基地、正門前の開けた場所で、隔者9名が白昼堂々と正門を突破しようとしているところ、皆様に駆けつけていただく形となります。
 この9名の目的は米軍基地での大量殺戮ですが、ファイヴによる妨害が始まれば、そちらへの対応を優先させるでしょう。妨害者を無視して正門突破を試みる事はありません。

 9人とも、戦って体力が0になれば戦闘不能に陥ります。その後の生殺与奪の権は全て、覚者の皆様にあります。

 それでは、よろしくお願い申し上げます。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年08月17日

■メイン参加者 6人■

『ボーパルホワイトバニー』
飛騨・直斗(CL2001570)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)
『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『影を断つ刃』
御影・きせき(CL2001110)


 己の心の状態を『探偵見習い』工藤奏空(CL2000955)は、全く把握していなかった。
 自分は今、怒っているのか。悲しんでいるのか。
 よくわからぬ感情が燃え上がる、と共に錬覇法が発動していた。
「どうした奏空。ムカついてんのか泣きてえのか、わかんねえって面してやがんな」
 言いながら『ボーパルホワイトバニー』飛騨直斗(CL2001570)が妖刀を抜く。
「そーゆう時ゃあ笑えばいいんだよ! なあクソ野郎ども。テメェらみたく同情の余地もねえ連中を見てるとよォ、俺ぁ嬉しくなっちまうんだよなァーぎゃはははははは! どーゆう殺し方しても心が痛まねえからよぉお!」
 威風を発しながら。直斗が牙を剥く。迫り来る、9人の隔者に向かってだ。
 某県、在日米軍基地の正門前。
 基地への突入を決行せんとする隔者9名の前方に、奏空たち6人は立ち塞がっていた。
「……ファイヴの小僧ども、か」
 隔者の1人……元AAA五等捜査官・黒沼豪太が、声を発する。
「いずれ五麟学園にも直接攻撃を仕掛けるつもりでいたが」
「その前に、くそったれなアメ公どもをなあ」
 元上級捜査官である久我山充と新藤竜司が、立て続けに言う。
「そう、彼らには広島・長崎の痛みを味わってもらいます。邪魔をするならば容赦は」
 言わせず、奏空は踏み込んでいた。そして抜刀。
「破綻した、わけでもなく自分の意思で、貴方たちは隔者に堕ちた……それなら容赦をしないのは俺たちの方です。疾風怒濤、受けて下さい!」
 電光を伴う斬撃が、弧を描いて一閃する。
 隔者9名の前衛3人が、薙ぎ払われて揺らぎ、隊列を崩す。
 蔵王・戒で固められた黒沼の巨体と、その左右で機化硬を発動させた火行械2名。
 彼らを盾にしていた6名の中後衛が、その盾を一時的に失い、狼狽する。
 そちらに奏空は、電光まとう刃を向けた。
「仲間を盾にして、後ろからコソコソ術式攻撃……悪くない作戦だと思いますけど、その盾を外されたら意味ないよねっ!」
 電光が、迸った。雷獣。
 隔者中衛の新藤、及びその左右で飛行体勢に入ろうとしていた翼人2名が、電撃に絡まれてバチバチと灼かれた。
「うん、仲間の後ろからコソコソ術式。つまりはオレのファイトスタイルなんだな」
 覚醒を遂げ、23歳の青年となった『ファイブレッド』成瀬翔(CL2000063)が、言いつつ印を結ぶ。
 奏空は慌てた。
「あっ、いや、そんなつもりじゃ」
「ははは冗談冗談。ま、それはともかく……おっさんたち、妖と同レベルの事やってんじゃねー!」
 翔の怒声に合わせ、雷鳴が轟いた。
 電光の嵐が、新藤を含む翼人3名を吹っ飛ばす。
「オレさ、AAAの人たちには憧れてたんだよ。人を守って妖と戦う、リアルなヒーローだって勝手に思ってた。迷惑だったらごめん! 迷惑ついでに言わせてもらうけど、アンタらが今からやろうとしてた事ってただの弱い者いじめじゃねーか!」
 同じ雷獣でも全然違う、と奏空は思った。翔のそれは落雷、自分のそれは静電気だ。
 落雷に打たれた翼人たちが、半死半生の体でよろよろと立ち上がろうとする。
 そこへ『新緑の剣士』御影きせき(CL2001110)が、マシンガンの銃口を向けた。
「何て言うか、米軍が弱い者いじめの対象になっちゃうんだよねえ……まあ相手が何であれ、AAAの人たちがやっていい事じゃないよね。というわけで僕、今すごく怒ってるから!」
 奏空、翔と同じくAAAに憧憬の思いを抱いていた少年が、錬覇法の輝きを放ちながら引き金を引く。
 銃撃の嵐が、敵中衛を薙ぎ払う。
 翼人3名が、倒れ伏した。
 うち2名は、もはや動かない。辛うじて生きてはいるようだ。
 新藤1人が、立ち上がって来る。
「……我々が討伐せんとしているのは、世界で最も弱い者いじめをしている者ども……それを、わかっているのですか!」
 立ち上がると同時に新藤は跳躍、飛翔していた。
 羽ばたきに合わせて発射された火焔連弾が、きせきを直撃する。
「きせき!」
 奏空は叫んだが、仲間を気遣っている場合ではなかった。
 黒沼の巨体が、猛然と踏み込んで来ている。
「死ね、小僧……」
「死ぬのはテメエだ! なぁんて言いてえとこだがよ」
 前衛の直人が、奏空を庇って立ちながら妖刀を振るう。
 鬼哭丸沙織が、乱れ斬りの形に躍動しながら凶花を咲かせ、毒香を放散する。
 仇華浸香を伴う斬撃が、黒沼を、その左右で戦斧を振りかざす火行械の2名を、猛襲していた。
「まあ命だけは助けてやる。こちとら何しろ奏空の首もらっちまってるからなァ!」
 隔者前衛の3人が、凶香に毒されながら血飛沫を散らせ、よろめく。
 黒沼1人はしかし、よろめきながらも即座に踏み込んで来た。
「命だけは助けてやる、だと……小僧どもが、我々に!」
 鉄甲掌。
 その衝撃が、直人の身体を貫通しながら奏空を直撃する。
 呼吸を詰まらせながら、奏空は血を吐いた。
 同じく血反吐をぶちまけながら、直人が膝をつく。
 そこへ黒沼が、さらなる一撃を叩き込もうとする。
「敵を殺せぬ者が、戦場に立つなど!」
「戦場だと……ならば訊いておこう」
 人影が、黒沼の眼前に滑り込んでいた。『歪を見る眼』葦原赤貴(CL2001019)だ。
「オマエたちは一体、何と戦っている?」
 問いかけと同時に赤貴が身を屈め、拳を地面に叩き付ける。
 巨大な土塊が槍の如く隆起して、黒沼の腹部を直撃した。
 血を吐いてうずくまる黒沼に、赤貴が言い放つ。
「楽に勝てる相手を選んで、弱い者いじめを楽しんでいる……オレには、そのようにしか見えん。無様にも程があるとは思わんのか」
「ガキが一端の口きいてんじゃねえぞ!」
 敵後衛の久我山が、怒号と共に雷鳴を放つ。
 彼の左右を固める木行現の2名が、それぞれ気力の矢と植物の種を発射する。
 雷獣とB.O.T.と棘散舞。3種の術式攻撃が、覚者たちを襲った。
 稲妻が、赤貴と直斗を直撃する。
 電光に絡み付かれて痙攣する赤貴の身体を、B.O.Tが貫いた。止まらぬ衝撃が、きせきと翔をも串刺しにする。
 火焔連弾を喰らった上、B.O.T.にも貫かれて、きせきが弱々しく両膝をつく。
 翔も血を吐き、よろめいている。
 絡み付く電撃光に灼かれながら赤貴もよろめき、だが踏みとどまり、歯を食いしばる。
 その身体に、植物の種が弾丸のように撃ち込まれた。
 種は一瞬にして芽吹き、無数の荊となって、赤貴の全身を縛り、穿ち、切り裂いてゆく。
「ぐ……ッ!」
 鮮血を散らせ、悲鳴を噛み殺す赤貴の身体を、キラキラとした香気の粒子が包み込んだ。
 赤貴だけではない。奏空も、直斗も、きせきと翔も、癒しをもらす芳香に包まれている。
 清廉珀香。『静かに見つめる眼』東雲梛(CL2001410)の細い全身から、溢れ漂い出していた。
「知ってる? 元AAAの人たち、ファイヴにも大勢いるんだけどね……PTSDとか発症したり、引きこもっちゃったりカウンセリング受けたりしてる人、何人もいるよ」
 額で第三の目を淡く発光させながら、梛は言う。
「みんな、大妖一夜がトラウマになっちゃってる。あんた方も実はそうなんだろ? 大妖が恐くて、おかしくなってるだけ……笑いはしない、正直に言いなよ」


 敵前衛・火行械の2人が、炎まとう戦斧を叩き付けてくる。豪炎撃。
 それが2つとも、赤貴を襲う。
 集中攻撃。耐えられるか、いや耐えるしかない。電光と荊に束縛されたまま、赤貴が覚悟を決めた、その時。
 直斗が、さりげなく動いた。赤貴の、盾となる格好でだ。
 電光に絡まれ痺れながらの不充分な防御で、直斗は2つの豪炎撃を受けていた。直撃、に近い。
 切り裂かれ、灼かれながらも、直斗はニヤリと死にそうな笑みを浮かべた。
「……よう……無事か? さっきから派手に喰らっちまってるようだが」
「……礼は言わんが、借りておく。いずれ返す」
「期待しねえで、待ってるよ……」
 直斗の全身で、香気の煌めきが強まってゆく。梛の清廉珀香。
 燃え上がるような芳香が、直斗の全身に絡みつく電光を打ち砕いていた。
 雷獣の痺れから解放された直斗が、妖刀を鞘に収め、抜刀術の構えを取る。
 そこへ黒沼が拳を叩き込もうとするが、その前にきせきが動いていた。
「ほらほら、地烈のマシンガンバージョン! だばだだばだだ〜♪」
 銃撃が黒沼、及び2人の火行械を薙ぎ払っていた。
 術式による防御をまとう3名が、火花と鮮血を飛び散らせる。
 そちらへと向かって踏み込みながら、直斗が妖刀を抜き放つ。
 斬撃の閃光が2つ、生じた。2連続の抜刀。
「燻り狂えるバンダースナッチに、近付いちまったなぁ……妖刀ノ楔にしようか迷ったけど、こっち試す事にしたわ」
 火行械が2人とも、血の海をぶちまけながら倒れ伏し、動かなくなった。死んではいない。
 同じ斬撃を喰らった黒沼は、しかし倒れず、踏みとどまって身構える。
「小僧ども……!」
「なあ、おっさんたち……今、梛さんが言った事、本当なのか?」
 翔が言った。
「大妖が恐くて、それで……こんな事……」
「大妖どもは、我ら七星剣が倒すだけの事! 世迷言は程々になさい!」
 新藤が叫び、羽ばたき、飛び立とうとする。空中からの攻撃を狙っているのだろう。
 させまいと、翔が印を結ぶ。そして叫ぶ。
「こんな……弱い者いじめなんか、やってて……大妖に! 勝てるワケないだろーがぁあッ!」
 B.O.T.が迸り、黒沼を直撃した。
 貫通した衝撃が、新藤と久我山をも串刺しにする。
 好機だ、と赤貴は思った。
 全身で、梛の清廉珀香が燃え上がる。
 激しい香気の揺らめきが、赤貴の身体を縛る電光と荊を粉砕した。
 その煌めく破片を蹴散らし、赤貴は踏み込んだ。
「七星剣という連中……随分と、煽りが上手いようだな」
 踏み込む力が、そして技を繰り出す力が、湧いてくる。
 体力が、回復していた。自分だけではなく直斗も、きせきと翔も各々、負傷していた身体が完全にではないにせよ癒えているようだ。
 奏空の、恐らくは癒力活性。
 仲間の癒しに後押しされながら赤貴は、
「オマエたちのように、ドロップアウトした連中を……オレたちが、どう扱うか!」
 鉄甲掌・還を、黒沼に叩き込んでいた。
「それによって、ファイヴの社会的評価も変わる。人命と秩序を重んずる組織なのか、それとも殺戮者の集団か……後者であってもオレは一向に構わない。前者であっても、七星剣には何の損害も及ばない」
 蔵王・戒をまとう巨体を苦しげに折りながらも、黒沼は耐えた。
 その背後にいた新藤はしかし、黒沼を貫通した衝撃をまともに喰らい、吹っ飛んで倒れ動かなくなった。
 見据え、赤貴は言い放つ。
「どちらにしても、オマエたちが負ける想定だな」
「負けんよ……貴様らファイヴの小僧どもに、我らAAAが! 敗れるわけにはいかんのだ!」
 黒沼の拳が、光を帯びる。五織の彩。
 その拳が、赤貴を打ちのめした。
 奏空の癒力活性で塞がりかけていた傷口が、いくつか開いた。鮮血の筋を引きずりながら、赤貴は吹っ飛んでいた。
 黒沼が、猛然とそれを追う。
 その時。閃光が生じ、轟音が響き渡った。
 残り4名となった隔者たちが、光と音によって一切の感覚を奪われ、悲鳴を上げてのたうち回る。
「あんたたち、もうAAAじゃないんだろ?」
 優雅に投擲動作を終えた椰が、冷然と微笑んだ。
「だけど、こいつは懐かしいんじゃないかな……閃光手榴弾。AAAの人から使い方、教わったんだ。今のあんたみたく猪突猛進モードの人に、横合いから投げつけるのがコツなんだよね」
「ぐッ! 貴様こんな、こんなもので……っ!」
「こんなもの、にしてやられてるようじゃ黒沼さん、大妖と戦うなんて夢のまた夢だって事」
 言いつつ梛が、隔者たちに銀雪棍を向ける。
「受け継ぐべきものは、俺たちが受け継いでいく。今のあんた方に、AAAの名前を口に出す資格はない……それだけは、はっきり言っておくよ」


「ごォッ! ごぉおのクソガキがぁああああ!」
 久我山が、雷獣をぶっ放す。
 それを援護する形に、2人の木行現が棘散舞を放ってくる。
 電光が、伸びる荊が、梛1人に襲いかかった。だが。
「閃光手榴弾で、感覚がぶっ壊れている……そんな状態で、まともに術式なんか使えるわけないだろう?」
 梛が銀雪棍をブンッ! と回転させ、電光と荊を打ち砕いた。不完全な術式の破片が、キラキラと舞い散って消滅する。
「どうかな。俺たちファイヴって、まだ……新参者の組織とか、半人前の覚者の集団だとか、あんたたちに思われてるのかな」
「AAAのプライド、みたいなもの……最後のひとかけら、くらいは残ってるみたいですね」
 奏空が言った。
「それなら思い出して下さい。貴方たちは最初、どうしてAAAに入ったんですか? 何のために今までAAAで戦ってきたんですか!? 弱い者いじめをして自分の力を誇示したかった、だけなんですか!」
「……てめえらもよォ、本当はわかってんじゃねえのか? おい」
 久我山が、苦しそうに笑っている。
「戦いってのはよぉ、最終的にゃあ弱い者いじめにしかならねえんだよ! 強え奴は勝って生き残る、弱え奴は負けて死ぬ!」
「強え奴は勝つ、そいつは同感だ。つまり貴様らは今から負けるって事よ」
 直斗が妖刀を構え、そして翔が印を結ぶ。そして叫ぶ。
「どんな理屈こねようが、オレは弱い者いじめは認めねー。あんたらがそんな事するのも認めねえ! オレは、あんたたちの事ヒーローだって思ってる。だから止める!」
 2人の少年が、雷鳴を轟かせた。
「こいつが本物の雷獣だオラァ、いくぜ翔!」
「任せろ直斗! 必殺、ダブル・カクセイサンダー!」
 天行の獣と現、覚者2人分の雷獣が、咆哮を轟かせる。
 凄まじい電光の嵐が、黒沼以外の隔者3名を吹っ飛ばした。
 久我山が、木行現の2人が、感電の痙攣をしながら地面に激突する。辛うじて死んではいない。
 これは制圧するための戦いであって、殺すための戦いではないのだ。
 きせきは、マシンガンの銃口を黒沼に向けた。
「弱い人は負けて死ぬ、そう言ってたよね……僕らは今から、おじさんたちに勝つよ。だけど殺しはしない。待ってる人、いるんでしょう? 黒沼さん、それに他の人たちにも。家族とか、友達とか……そういう人たちがいないから、平気でこんな弱い者いじめが出来るのかな?」
「弱い者いじめ……か」
 黒沼が、微笑んだようだ。
「久我山が言った通り、戦いというものは結局そうならざるを得ん。そして……我らもまた、大妖どもによる弱い者いじめの餌食となったばかりだ。奴らを、倒すには……大妖どもに弱い者いじめをやり返すにはな、七星剣の……八神勇雄の力が、必要なのだ……」
「殺しはしない、だけど死にそうな目に遭ってもらう必要はありそうだね」
 きせきの両眼が、真紅に輝き燃え上がった。
「その性根、叩き直させてもらうよ!」
 斬撃、と同じ呼吸で放たれた銃撃が、黒沼の巨体を穿った。
 空中に血飛沫を咲かせながら、黒沼は倒れていった。
「私の身体が……銃弾で、傷を負うとは……な……」
「ただの銃撃じゃあないよ。これは地烈……れっきとした、覚者の技だから」
 くるりとマシンガンを回転させながら、きせきは言い放つ。
 赤貴が、呻いた。
「オレも地烈を放つつもりだったが、出番がなかったな……それにしても、銃で地烈を繰り出すとは」
「応用だよ、応用。練習したんだから」
 きせきは微笑んだ。
 辛うじて生きている黒沼が、倒れたまま呻く。
「……貴様たちは……勝てる、つもりでいるのか……大妖どもに……」
「……僕たちだって、大妖は恐いよ。恐くて当たり前だと思う」
 きせきは言い、続いて翔が叫ぶ。
「だけどそれは弱い者いじめしていい理由にはならねえ! 同じような事これからもするつもりなら、オレら何度でも来るからな」
「連絡はしておきました。貴方たちの馬鹿にしている中さんが、貴方たちの救護を手配してくれます」
 スマートフォンを片手に、奏空が言い放つ。
「大人の人たちは色々あって、俺たち子供の言い分なんて聞いてられないでしょうけど……よく考えて下さい、自分たちが本当にしたい事は何だったのか! 貴方たちと一緒に戦える事、願ってます」
「散々ガキだの小僧だのと言ってくれたようだが、子供の集団に負けては居たたまれなかろう。早急に消えて失せろ。監獄なり病院なりで、時間をかけて考えるがいい」
 梛に支えられて立ちながら、赤貴が言った。
「自分たちが一体、何と戦っているのか……を、な」
「てめえの選択と生き様もだ!」
 直斗が吼える。
「何か大きな事やりてえなら、俺たちでも殺してみやがれ! こっちもテメエらごとき三下……いつだって、殺せるからよ」
「いいね、悪役っぽいよ。うさぎちゃん」
 梛が笑いながら、赤貴に樹の雫を施している。
 そこへ、奏空が軽口を投げた。
「今日は残念だったね梛さん。男ばっかりだから、綺麗なお姉さんと一緒に決め技とか出来なくて」
「俺は別に女好きってわけじゃないよ工藤。攻撃のタイミングさえ合えば、男の子と一緒だって構わない」
 苦笑しつつ梛が、赤貴の肩を揉んでいる。
「というわけで頑丈な少年。今度、一緒に何かやってみようか」
「や、やめろ」
 やりとりを聞きながら、きせきは空を見上げた。
「どうしたの? きせき」
「奏空くんは……考えた事ある? 大妖一夜で潰されていたのがAAAじゃなくて、ファイヴだったとしたら」
 きせきは言った。
「もしファイヴが滅ぼされたりしたら、僕たちだって……一体、どんなふうになっちゃうのかな」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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