<冷酷島>決戦のフレイムテイル 防衛線を死守せよ!
●約束されなかった島・第三章
『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立式人工島である。
本土外に島を作れば妖が現われないという誤った判断によって作られたこの島は、充分な防衛力をもたないために妖によって壊滅してしまった。
この島を人類の手に取り返すためのカギは三つだ。
壱、島外進出をもくろむ妖のコミュニティを全て撃滅すること。
弐、妖の統率をとっているR4個体を見つけ出し撃破すること。
参、島に眠る謎を解明し解決すること。
そして今回は――
●決戦のフレイムテイル
キッカケは、工藤・奏空(CL2000955)が再戦を望んでフレイムテイルコミュニティを覗いたことだった。
かつて島外進出を試みようとしたR3妖『フレイムテイル』とその眷属たちのコミュニティがあった。
奏空と仲間たちは島外進出を阻止すべくコミュニティの戦力を削り、その能力を奪った筈だったが……。
「なんかめちゃくちゃ膨らんでません?」
「うん……」
なんとなーく偵察に付き合っていたゆかり・シャイニング(CL2001288)が、双眼鏡ごしにぱかーんと口を開いた。
なぜなら、フレイムテイルの周囲にはそれを小さくしたような分裂体が大量に浮かんでいたからだ。
「いくらランク3だからって、周囲に妖が急激に発生するなんて聞いたこと無いぞ。とにかく、すぐにでも手を打たなきゃ!」
時は進んで島外防衛ライン、仮設拠点。
冷酷島案件に関する協力者である夢見ジムカタは、奏空たちの撮影してきた写真を見て唸った。
「先日、これと似た妖の集団が防衛ラインを襲撃する予知夢を見ました。恐らく言っていることは本当でしょう」
「余が呼ばれたのってそういう理由?」
「倒せばいいんですよね、わかりました」
ジュースちゅーちゅーしてるプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)と、結論を急ぐ大辻・想良(CL2001476)。特に想良は防衛ライン襲撃と聞いて、急に興奮したような様子だった。
「待ちなよ。この戦力でぶつかっても瞬殺されると思うよ? 前回のこと覚えてるでしょ。あとチキンナゲット食べる?」
「覚えています。あといりません」
前回一度、戦力的な余裕からフレイムテイル本体に対する襲撃を試みたことがある。
しかし強力な攻撃によってたちまちチームが壊滅しかけ、急いで撤退したのだ。
「けど、あの経験は活きるよね。あとあの技も参考になる気がするし」
ふざけたことと真面目なことを同時に言うのはプリンスの癖だ。ジムカタはめざとく彼の発言に注目した。
「技、ですか」
「いい? ボード借りるよ」
プリンスはホワイトボードに立つと、変なマスコットを描きながら説明した。
フレイムテイルは4つの行動パターンを繰り返す習性をもつ。
『エネルギー波立たせる→螺旋の波を起こす→ヒートウェーブ→冷却』だ。
「これらがどういう効果を持つか、もう余たちは知ってる。知ってるってことは、カウンターが打てるってことだよね。それもガッチガチに」
「なるほど……では、部隊を招集して頂けますか。対コミュニティ決戦の準備にかかりましょう」
『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立式人工島である。
本土外に島を作れば妖が現われないという誤った判断によって作られたこの島は、充分な防衛力をもたないために妖によって壊滅してしまった。
この島を人類の手に取り返すためのカギは三つだ。
壱、島外進出をもくろむ妖のコミュニティを全て撃滅すること。
弐、妖の統率をとっているR4個体を見つけ出し撃破すること。
参、島に眠る謎を解明し解決すること。
そして今回は――
●決戦のフレイムテイル
キッカケは、工藤・奏空(CL2000955)が再戦を望んでフレイムテイルコミュニティを覗いたことだった。
かつて島外進出を試みようとしたR3妖『フレイムテイル』とその眷属たちのコミュニティがあった。
奏空と仲間たちは島外進出を阻止すべくコミュニティの戦力を削り、その能力を奪った筈だったが……。
「なんかめちゃくちゃ膨らんでません?」
「うん……」
なんとなーく偵察に付き合っていたゆかり・シャイニング(CL2001288)が、双眼鏡ごしにぱかーんと口を開いた。
なぜなら、フレイムテイルの周囲にはそれを小さくしたような分裂体が大量に浮かんでいたからだ。
「いくらランク3だからって、周囲に妖が急激に発生するなんて聞いたこと無いぞ。とにかく、すぐにでも手を打たなきゃ!」
時は進んで島外防衛ライン、仮設拠点。
冷酷島案件に関する協力者である夢見ジムカタは、奏空たちの撮影してきた写真を見て唸った。
「先日、これと似た妖の集団が防衛ラインを襲撃する予知夢を見ました。恐らく言っていることは本当でしょう」
「余が呼ばれたのってそういう理由?」
「倒せばいいんですよね、わかりました」
ジュースちゅーちゅーしてるプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)と、結論を急ぐ大辻・想良(CL2001476)。特に想良は防衛ライン襲撃と聞いて、急に興奮したような様子だった。
「待ちなよ。この戦力でぶつかっても瞬殺されると思うよ? 前回のこと覚えてるでしょ。あとチキンナゲット食べる?」
「覚えています。あといりません」
前回一度、戦力的な余裕からフレイムテイル本体に対する襲撃を試みたことがある。
しかし強力な攻撃によってたちまちチームが壊滅しかけ、急いで撤退したのだ。
「けど、あの経験は活きるよね。あとあの技も参考になる気がするし」
ふざけたことと真面目なことを同時に言うのはプリンスの癖だ。ジムカタはめざとく彼の発言に注目した。
「技、ですか」
「いい? ボード借りるよ」
プリンスはホワイトボードに立つと、変なマスコットを描きながら説明した。
フレイムテイルは4つの行動パターンを繰り返す習性をもつ。
『エネルギー波立たせる→螺旋の波を起こす→ヒートウェーブ→冷却』だ。
「これらがどういう効果を持つか、もう余たちは知ってる。知ってるってことは、カウンターが打てるってことだよね。それもガッチガチに」
「なるほど……では、部隊を招集して頂けますか。対コミュニティ決戦の準備にかかりましょう」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.フレイムテイルの撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
色々な形に分岐し、場合によってはルートが増える構成となっております。
そんなわけで、飛び入り参加をいつでも歓迎しております。
【シチュエーションデータ】
島の外へ犠牲者を求めて移動する『フレイムテイル』というR3妖が現われました。
これはR1~2の眷属を大量に引き連れ、島外防衛ラインを襲撃するつもりのようです。
海上移動中のフレイムテイルに装甲船で接触し、交戦。撃滅することが今回の目的です。
引き連れている眷属は同行する戦闘部隊による時間稼ぎでなんとか戦闘から遠ざけますので、それが有効な『12ターン』のうちに撃滅してください。
それが叶わない場合は戦闘を延長。同行している戦闘部隊は命がけで付き合いますが、かなりの人命が失われます。
【エネミーデータ】
・フレイムテイル
R3自然系妖。
一定のパターンでスキルを使用するため、よく覚えて対向することでカウンターをかけることができます。
実際どのようにかけるかは集まったメンバーによって変わるため、ガイドは無しでお送りします。
パターンは下記のA~Dのループです。
A:超振動エネルギーバリア(速度補正超大、発動時と次ターンの合計2ターンの間防御力を超強化する)
B:螺旋エネルギー増幅(次ターンの攻撃力を超強化する)
C:エネルギーウェーブ照射(超強力な全体攻撃、命中補正大)
D:冷却(このターンは行動不能)
また、以前戦った際のエネミースキャン結果として(防御未強化状態なら)特攻も物攻も同じくらい通りそうだとわかっています。逆に防御中ではほとんど攻撃が通らなかったそうです。
エネルギーウェーブはあまりに強力なためHPがよほど高かったり特防に優れていないと瞬殺されるおそれがあります。全体攻撃なので味方ガードがお勧めです(被弾数そのものを減らせるため)。
制限時間内に倒すなら、攻撃力を3ターンかけてひたすら強化し、Dの冷却時に一斉に叩き込むほかありません。
瞬間火力をどれだけあげられるか、瞬間防御力をどれだけあげられるかが勝負の鍵となります。
逆に回復でどうにかしようとすると長期化してヤバくなります。具体的には戦闘部隊が死んでいきます。
【事後調査】
(※こちらは、PLが好むタイプのシナリオへシフトしやすくするための試験運用機能です)
島内は非常に危険なため、依頼完了後は一般人や調査・戦闘部隊はみな島外に退避します。
しかし高い生存能力をもつPCたちは依頼終了後に島内の調査を行なうことができます。
以下の三つのうちから好きな行動を選んでEXプレイングに記入して下さい。
※EX外に書いたプレイングは判定されません
・『A:追跡調査』今回の妖や事件の痕跡を更に追うことで同様の事件を見つけやすくなり、同様の依頼が発生しやすくなります。
・『B:特定調査』特定の事件を調査します。「島内で○○な事件が起きているかも」「○○な敵と戦いたい」といった形でプレイングをかけることで、ピンポイントな依頼が発生しやすくなります。
・『C:島外警備』調査や探索はせず、島外の警備を手伝います。依頼発生には影響しなさそうですが、島外に妖が出ないように守ることも大事です。(今回に関しては追跡調査も島外警備と同じ扱いになります)
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年08月16日
2017年08月16日
■メイン参加者 8人■

●再戦、フレイムテイル
今作戦に投入された装甲船はスピードこそ緩いが安定性が凄まじく、波打つ海の上だというのに陸とかわらない感覚で立っていられた。
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が興味本位で聞いてみたらレイジ博士とやらが宇宙がどうとか言い出したのでソッコーで理解を諦めた。とにかく高価で便利な船である。
でもって、奏空がすべきことは妖退治であり、見るべきは眼前にてこうこうと光る巨大な妖、フレイムテイルである。
「この前はよくもチンしてくれたな! ダメだろそういうことしちゃ!」
刀を抜き、くるりと逆手に構える奏空。
一方で『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は拳を突き合わせて呼吸を整えていた。
「気合い入ってんな、ソラ! 分かるぜ、デカい敵はぶっ飛ばすと気持ちいいもんな!」
「え? まあ……そうかな!」
夏場の海。
ただでさえ照りつく太陽に目を細める季節だというのに、海上をゆっくりと接近してくるフレイムテイルはまるで太陽が二つに増えたかのようにじりじりとこちらの肌を焼いた。
汗をぬぐってペットボトルのお茶を飲み干し、『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は覚醒準備を整える。
「まだ、戦闘距離じゃないのに、すごい熱気……」
「あ、話変わるけどミュエ姫この前誕生日だったよね。もっかいおめでとう!」
『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が本当に違う話をしてきた。当たり障り無い返事をしようとして二度見するミュエル。
「ハタチだったね。合法的にオサケとか飲めるよ!」
「ひ、非合法に、飲んでたみたいに、言わないで……」
とはいえ、言うほど違う話でもない。
要するに気分の話である。
奏空や遥よりもずっと年上の、成人女性として。
「頑張らなくちゃ」
成人を経験してはや二十年。『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)は展開していく戦闘部隊を見ながら考えをまとめていた。
「こっちが島内の探索を進めてるうちに、妖は妖で侵略を進めているんだねえ。とはいえ、たかだか妖がそんな風に考えるものかな……」
妖は人間よりずっと高い戦闘能力を持つが、その一方で人間は高い知性を持っている。
道具を使うことと、知識を学ぶこと。この二つをもって、人類は地球環境のマウントをとり続けてきた。子豚に突かれれば死ぬような生き物がオゾン層をどうこうしようと言い出すのも、この知性あってこそである。
妖問題にしても同様だ。覚醒しただけではその辺の妖に縊り殺されるだけだが、神具を使いこなし術式を学ぶことで高位の妖とも渡り合ってきた。
今回の作戦にしてもそうだ。軍事力というものを行使して、強大な妖を効率的に撃滅しようとしている。
だがその能力が人間だけのものでなく、妖にも備わったとしたら?
火星で知恵をもったゴキブリの漫画ではないが、人類などひとたまりもないのではないか。
「この妖たちは、何かしら明確な意志をもって島を占拠していたのでしょうか」
どうやら『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)も似たことを考えていたようで、恭司の会話にあわせてきた。
燐花の目に、難敵を前にする時のような光を見た。
これまでは『巨大な蜂の巣の撤去』だったものが、『巨大テロ組織の排除』に変わりつつあるのだ。前者ですらプロを頼る事態だというのに、後者はもはや国すら傾きかねない事案だ。
「万全の対策をもって、相手の活動を止める。最終的には、そこにつきるのでしょうね」
一方で、大辻・想良(CL2001476)は守護使役を抱きしめて物思いに浸っていた。
そばで見ていた『教授』新田・成(CL2000538)は、声をかけるべきか迷って、結局の所黙ることにした。
想良はこれまでの作戦で行動を共にすることも多い少女で、感情を表に出さない、もしくは他者との精神的交流を避けている節があったのであまりタッチしていなかったのだが……。
しかしそれでも、妖を倒すという行為や、一般の戦闘部隊に被害が及ぶことに対して過剰に意識していることは分かっていた。
誰にでも譲れないものはあり、だからこそ命を賭けていた。
成とて、その面では想良と同等だ。老人ぶったことを言う場面では、おそらくない。
ゆえに。
「今回の作戦は一歩間違えれば大きな損失が生まれるデリケートなものです。十秒単位で適切な行動をとり、決して選択を誤らぬよう注意して下さい」
仕込み杖を握り込む。
「命を賭して学んだ攻略法。必ず遂行しましょう」
●不確定要素と、トライアンドエラー
「ふむ……」
船による接敵。周囲に引き連れていた眷属たちを砲撃によって引きつけ、戦闘部隊がうまく分断してくれた。
成は眼鏡を指で押して小さく唸った。
以前に直接戦った際の手応えと夢見の情報に差異があったので、その実をエネミースキャンで確かめようとしたのだが……。
「教授、分かりましたか? カウンターの有無」
奏空が問いかけてくる。問いかけたと言うことは同じくスキャンした彼もわかわなかったということなのだが。
「いえ、私も分かりませんでした」
「ど、どうしましょう……」
そこで一旦思考が停止した奏空に代わって、成は即座に隆神槍をぶっ放した。
目を見開く奏空をよそに、成は再び眼鏡を押さえた。
「百聞は一見にしかず。今回の内容に関しては、1ターン目に分からなければ意味が無いものです。であれば、実際に叩いて試すほうがずっと効率的です」
もっと言えば、カウンターが仮にあったとしても攻撃を受ければ瞬殺されるような作戦なのであってもなくても一緒である。
「実際、カウンター効果は無くなっているようですね。どうやら無理をして進軍してきたようですよ」
防御を固めたフレイムテイルにいくつも火花が散っていく。
今回彼らが立てた作戦は防御を固めるのをやめて命数チケットで味方ガードを交代しつつごり押ししていくというものだ。であれば、防御力や体力は捨ててもよい要素だった。
「しかし……」
成の攻撃がまるで豆鉄砲のごとく弾かれていく。全く効いていないというわけでもなさそうだが、ひたすら攻撃を当て続けていくより集中を重ねたほうがダメージ効率がよさそうだ。
炎を螺旋状に練り上げていくフレイムテイル。
「次、ヒートウェーブだよ!」
奏空が迷霧を展開。うっかり被りそうになった想良はすぐに手を止めてフレイムテイルの体力測定に集中した。
一方で仇華浸香でワンチャン虚弱を狙っていたミュエルはうっかり目標が被ってしまったが、撃ってから考えても仕方ない。切り替えていこうと次に備えた。
「来ます」
ぐねん、と大きく歪んだフレイムテイル。漫画やアニメの中でしか見ないような不可思議な発光現象と共に、激しい熱波を放ってきた。
「後ろに入ってください」
想良は術式によるエネルギーフィールドを作って奏空を覆うと、両手を広げて立ち塞がった。
一方で、ミュエルは造花を大量にまき散らして花の壁を作ると成の前に陣取って防御姿勢をとる。
同じくハンマーを翳して遥を庇うように立ち塞がるプリンス。
燐花は恭司にアイコンタクトを送り、逆手に握った小太刀に気力を流し込んだ。
全員を包み込む熱波。
しかし四人がかりで作られた壁は器用に残りの四人を熱波から遮っていく。
大気ごと切り裂くように振り切った燐花は、ひどく熱い息を吐いた。
「お願いします」
「うん――」
恭司はそれだけで全てをくみ取り、カメラを構える。
それまでしっかりとピントを合わせていたおかげで、ばっちりとフレイムテイルへの呪力が高まっていた。
シャッターを押し込めば、フレイムテイルのあちこちが小爆発をおこしていく。
追撃するように隆神槍を叩き込む成。
船の上にあえて敷いた鉄板から伸びた槍がフレイムテイルに突き刺さり、その上を遥と奏空が駆け抜けた。
「いくぜソラ! コンビアタックだ!」
「まかせて!」
凄まじいエネルギーを内部に蓄積していた遥が、大気そのものが崩壊するほどのキックを繰り出し、一方で神がかったパワーを宿した奏空がソニックブームを起こしながら体当たりした。
フレイムテイルを貫き、反対側から飛び出してくる二人。
もう一隻の船が回り込み、プリンスたちが二人をキャッチした。
「上々だ! この調子でいくぞ!」
四つの行動を繰り返すフレイムテイルへの対策は、必然的に『4×3サイクル』による厳密なコマンド入力になる。
特に溜めや反動のあるスキルを挟み込む場合はパズルのような精密さを要求し、継続ターン数の短い補助スキルなどもまた繊細な配置が要求される。
今回で言えば奏空と遥の達人戦闘術とそれベースのオリジナルスキルだ。
2サイクル目はどうしても前半2ターンを反動に費やしてしまう手前、二人は強化をやめて味方ガードに専念していた。
「プリンス、大辻、やっちまえ!」
ガード姿勢でヒートウェーブを耐えしのぐ遥。彼の潤沢な体力をもってしても死にかけるほどの熱波を、歯を食いしばって耐える。
否、一度跡形も無くはじけ飛んだのやもしれない。
遥のガードの後ろから、彼を踏み台にしつつ飛びかかるプリンス。
彼の貫殺撃が直撃し、奏空によるトスを受けて飛び上がった想良がエネルギーをため込んだ体当たりで大爆発を起こした。
「もう一発だ!」
回り込んだ船に一度着地し、同じように味方を庇っていた恭司や成がキャッチ。
想良は燐花のガードを踏み台にして再びジャンプ。一拍遅れて燐花は一歩で最高速を出して突撃。
フレイムテイルの中央をぶち抜いていく。
「次で、確実に……」
一方でプリンスのハンマーを発射台にして、ミュエルがぐっと身を屈めた。
フルスイングされたハンマーに打ち出されるかのように、花の香りを纏ったミュエルがフレイムテイルへ飛び込んでいく。
彼女を一旦飲み込んだフレイムテイルは、劇的な術式反応によって破裂。
そこかしこから炎を吹き出して歪んだ。
くるくると回転し、奏空たちの船へと着地するミュエルたち。
「2サイクル目……次で、落とせなかったら」
「…………」
想良が表情をより一層硬くした。
周囲ではフレイムテイルの眷属たちと戦闘部隊が激しい戦闘を繰り広げている。と言っても牽制攻撃と回復防衛を繰り返しているだけで、もって3サイクル分。それで倒せなければ、今度は彼らが命をはって止めるほかない。
ミュエルもまた、ぎゅっと拳を握りしめた。
決めるべきは次。
最悪でも4サイクルだ。それで決着がつかなければ、撤退するつもりである。
●運命の分かれ道
「…………」
奏空にとって、想良にとって。
「…………」
プリンスにとって、遥にとって。
「…………」
燐花にとって、恭司にとって。
「…………」
ミュエルにとって、成にとって。
二十秒という時間は永遠のようにも思えたし、一瞬のようにも思えた。
想良が珍しく声を張って、次の総攻撃が直撃したなら倒せるかも知れないと言った。
その三秒後に激しい熱波が照射され、元々高い耐久力をもたない想良は焼き尽くされていく。
しかしその一方で。
「防御には、ちょっと自身ある、から……」
焼けただれた肌をそのままに、ミュエルが炎のような息を吐いた。
同じく、身体の半分を残す形で熱を逃がしていた燐花も、無事な腕で小太刀を握り込む。
「分かってはいても……」
普段は恭司を庇ってばかりいた燐花の心境として、恭司に庇われるという光景に少なくない心の痛みがあったようだ。
けれどそれも、これで終わりだ。
「じゃ、行こうか」
補助機械の全てを喪った半裸のプリンスが、筋肉を強く膨張させる。
次のサイクルを犠牲にした一斉攻撃。
それは他ならぬ想良が、フレイムテイルの残り体力を見極めてくれたからこそできた思い切りである。
流星の如く貫いていく奏空と燐花。
歪んだ影を蹴り抜く遥。
それを衝撃によって貫くプリンスと成。
恭司のカメラフラッシュがフレイムテイルの身体を散らし、ミュエルの撒いた花がその全てをかき消していった。
『フレイムテイルの撃破を確認! 総員、牽制攻撃を続けながら撤収! ボスたちの回収急げ!』
戦闘部隊が高速ボートでかけつけ、遥たちを抱えて撤退していく。
残されたフレイムテイルの眷属たちは統率を失い、海というかなり無防備な位置取りもあって増援の戦闘部隊の爆撃によって次々に消滅していった。
回収されたメンバーの中には想良もいる。
遠ざかる戦場を眺めながら、八人は作戦の成功を噛みしめた。
――R3『フレイムテイル』及びそのコミュニティの撃滅を完了。
これを機に、冷酷島の戦いは新たなる局面を迎えることとなる。
今作戦に投入された装甲船はスピードこそ緩いが安定性が凄まじく、波打つ海の上だというのに陸とかわらない感覚で立っていられた。
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が興味本位で聞いてみたらレイジ博士とやらが宇宙がどうとか言い出したのでソッコーで理解を諦めた。とにかく高価で便利な船である。
でもって、奏空がすべきことは妖退治であり、見るべきは眼前にてこうこうと光る巨大な妖、フレイムテイルである。
「この前はよくもチンしてくれたな! ダメだろそういうことしちゃ!」
刀を抜き、くるりと逆手に構える奏空。
一方で『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は拳を突き合わせて呼吸を整えていた。
「気合い入ってんな、ソラ! 分かるぜ、デカい敵はぶっ飛ばすと気持ちいいもんな!」
「え? まあ……そうかな!」
夏場の海。
ただでさえ照りつく太陽に目を細める季節だというのに、海上をゆっくりと接近してくるフレイムテイルはまるで太陽が二つに増えたかのようにじりじりとこちらの肌を焼いた。
汗をぬぐってペットボトルのお茶を飲み干し、『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は覚醒準備を整える。
「まだ、戦闘距離じゃないのに、すごい熱気……」
「あ、話変わるけどミュエ姫この前誕生日だったよね。もっかいおめでとう!」
『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が本当に違う話をしてきた。当たり障り無い返事をしようとして二度見するミュエル。
「ハタチだったね。合法的にオサケとか飲めるよ!」
「ひ、非合法に、飲んでたみたいに、言わないで……」
とはいえ、言うほど違う話でもない。
要するに気分の話である。
奏空や遥よりもずっと年上の、成人女性として。
「頑張らなくちゃ」
成人を経験してはや二十年。『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)は展開していく戦闘部隊を見ながら考えをまとめていた。
「こっちが島内の探索を進めてるうちに、妖は妖で侵略を進めているんだねえ。とはいえ、たかだか妖がそんな風に考えるものかな……」
妖は人間よりずっと高い戦闘能力を持つが、その一方で人間は高い知性を持っている。
道具を使うことと、知識を学ぶこと。この二つをもって、人類は地球環境のマウントをとり続けてきた。子豚に突かれれば死ぬような生き物がオゾン層をどうこうしようと言い出すのも、この知性あってこそである。
妖問題にしても同様だ。覚醒しただけではその辺の妖に縊り殺されるだけだが、神具を使いこなし術式を学ぶことで高位の妖とも渡り合ってきた。
今回の作戦にしてもそうだ。軍事力というものを行使して、強大な妖を効率的に撃滅しようとしている。
だがその能力が人間だけのものでなく、妖にも備わったとしたら?
火星で知恵をもったゴキブリの漫画ではないが、人類などひとたまりもないのではないか。
「この妖たちは、何かしら明確な意志をもって島を占拠していたのでしょうか」
どうやら『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)も似たことを考えていたようで、恭司の会話にあわせてきた。
燐花の目に、難敵を前にする時のような光を見た。
これまでは『巨大な蜂の巣の撤去』だったものが、『巨大テロ組織の排除』に変わりつつあるのだ。前者ですらプロを頼る事態だというのに、後者はもはや国すら傾きかねない事案だ。
「万全の対策をもって、相手の活動を止める。最終的には、そこにつきるのでしょうね」
一方で、大辻・想良(CL2001476)は守護使役を抱きしめて物思いに浸っていた。
そばで見ていた『教授』新田・成(CL2000538)は、声をかけるべきか迷って、結局の所黙ることにした。
想良はこれまでの作戦で行動を共にすることも多い少女で、感情を表に出さない、もしくは他者との精神的交流を避けている節があったのであまりタッチしていなかったのだが……。
しかしそれでも、妖を倒すという行為や、一般の戦闘部隊に被害が及ぶことに対して過剰に意識していることは分かっていた。
誰にでも譲れないものはあり、だからこそ命を賭けていた。
成とて、その面では想良と同等だ。老人ぶったことを言う場面では、おそらくない。
ゆえに。
「今回の作戦は一歩間違えれば大きな損失が生まれるデリケートなものです。十秒単位で適切な行動をとり、決して選択を誤らぬよう注意して下さい」
仕込み杖を握り込む。
「命を賭して学んだ攻略法。必ず遂行しましょう」
●不確定要素と、トライアンドエラー
「ふむ……」
船による接敵。周囲に引き連れていた眷属たちを砲撃によって引きつけ、戦闘部隊がうまく分断してくれた。
成は眼鏡を指で押して小さく唸った。
以前に直接戦った際の手応えと夢見の情報に差異があったので、その実をエネミースキャンで確かめようとしたのだが……。
「教授、分かりましたか? カウンターの有無」
奏空が問いかけてくる。問いかけたと言うことは同じくスキャンした彼もわかわなかったということなのだが。
「いえ、私も分かりませんでした」
「ど、どうしましょう……」
そこで一旦思考が停止した奏空に代わって、成は即座に隆神槍をぶっ放した。
目を見開く奏空をよそに、成は再び眼鏡を押さえた。
「百聞は一見にしかず。今回の内容に関しては、1ターン目に分からなければ意味が無いものです。であれば、実際に叩いて試すほうがずっと効率的です」
もっと言えば、カウンターが仮にあったとしても攻撃を受ければ瞬殺されるような作戦なのであってもなくても一緒である。
「実際、カウンター効果は無くなっているようですね。どうやら無理をして進軍してきたようですよ」
防御を固めたフレイムテイルにいくつも火花が散っていく。
今回彼らが立てた作戦は防御を固めるのをやめて命数チケットで味方ガードを交代しつつごり押ししていくというものだ。であれば、防御力や体力は捨ててもよい要素だった。
「しかし……」
成の攻撃がまるで豆鉄砲のごとく弾かれていく。全く効いていないというわけでもなさそうだが、ひたすら攻撃を当て続けていくより集中を重ねたほうがダメージ効率がよさそうだ。
炎を螺旋状に練り上げていくフレイムテイル。
「次、ヒートウェーブだよ!」
奏空が迷霧を展開。うっかり被りそうになった想良はすぐに手を止めてフレイムテイルの体力測定に集中した。
一方で仇華浸香でワンチャン虚弱を狙っていたミュエルはうっかり目標が被ってしまったが、撃ってから考えても仕方ない。切り替えていこうと次に備えた。
「来ます」
ぐねん、と大きく歪んだフレイムテイル。漫画やアニメの中でしか見ないような不可思議な発光現象と共に、激しい熱波を放ってきた。
「後ろに入ってください」
想良は術式によるエネルギーフィールドを作って奏空を覆うと、両手を広げて立ち塞がった。
一方で、ミュエルは造花を大量にまき散らして花の壁を作ると成の前に陣取って防御姿勢をとる。
同じくハンマーを翳して遥を庇うように立ち塞がるプリンス。
燐花は恭司にアイコンタクトを送り、逆手に握った小太刀に気力を流し込んだ。
全員を包み込む熱波。
しかし四人がかりで作られた壁は器用に残りの四人を熱波から遮っていく。
大気ごと切り裂くように振り切った燐花は、ひどく熱い息を吐いた。
「お願いします」
「うん――」
恭司はそれだけで全てをくみ取り、カメラを構える。
それまでしっかりとピントを合わせていたおかげで、ばっちりとフレイムテイルへの呪力が高まっていた。
シャッターを押し込めば、フレイムテイルのあちこちが小爆発をおこしていく。
追撃するように隆神槍を叩き込む成。
船の上にあえて敷いた鉄板から伸びた槍がフレイムテイルに突き刺さり、その上を遥と奏空が駆け抜けた。
「いくぜソラ! コンビアタックだ!」
「まかせて!」
凄まじいエネルギーを内部に蓄積していた遥が、大気そのものが崩壊するほどのキックを繰り出し、一方で神がかったパワーを宿した奏空がソニックブームを起こしながら体当たりした。
フレイムテイルを貫き、反対側から飛び出してくる二人。
もう一隻の船が回り込み、プリンスたちが二人をキャッチした。
「上々だ! この調子でいくぞ!」
四つの行動を繰り返すフレイムテイルへの対策は、必然的に『4×3サイクル』による厳密なコマンド入力になる。
特に溜めや反動のあるスキルを挟み込む場合はパズルのような精密さを要求し、継続ターン数の短い補助スキルなどもまた繊細な配置が要求される。
今回で言えば奏空と遥の達人戦闘術とそれベースのオリジナルスキルだ。
2サイクル目はどうしても前半2ターンを反動に費やしてしまう手前、二人は強化をやめて味方ガードに専念していた。
「プリンス、大辻、やっちまえ!」
ガード姿勢でヒートウェーブを耐えしのぐ遥。彼の潤沢な体力をもってしても死にかけるほどの熱波を、歯を食いしばって耐える。
否、一度跡形も無くはじけ飛んだのやもしれない。
遥のガードの後ろから、彼を踏み台にしつつ飛びかかるプリンス。
彼の貫殺撃が直撃し、奏空によるトスを受けて飛び上がった想良がエネルギーをため込んだ体当たりで大爆発を起こした。
「もう一発だ!」
回り込んだ船に一度着地し、同じように味方を庇っていた恭司や成がキャッチ。
想良は燐花のガードを踏み台にして再びジャンプ。一拍遅れて燐花は一歩で最高速を出して突撃。
フレイムテイルの中央をぶち抜いていく。
「次で、確実に……」
一方でプリンスのハンマーを発射台にして、ミュエルがぐっと身を屈めた。
フルスイングされたハンマーに打ち出されるかのように、花の香りを纏ったミュエルがフレイムテイルへ飛び込んでいく。
彼女を一旦飲み込んだフレイムテイルは、劇的な術式反応によって破裂。
そこかしこから炎を吹き出して歪んだ。
くるくると回転し、奏空たちの船へと着地するミュエルたち。
「2サイクル目……次で、落とせなかったら」
「…………」
想良が表情をより一層硬くした。
周囲ではフレイムテイルの眷属たちと戦闘部隊が激しい戦闘を繰り広げている。と言っても牽制攻撃と回復防衛を繰り返しているだけで、もって3サイクル分。それで倒せなければ、今度は彼らが命をはって止めるほかない。
ミュエルもまた、ぎゅっと拳を握りしめた。
決めるべきは次。
最悪でも4サイクルだ。それで決着がつかなければ、撤退するつもりである。
●運命の分かれ道
「…………」
奏空にとって、想良にとって。
「…………」
プリンスにとって、遥にとって。
「…………」
燐花にとって、恭司にとって。
「…………」
ミュエルにとって、成にとって。
二十秒という時間は永遠のようにも思えたし、一瞬のようにも思えた。
想良が珍しく声を張って、次の総攻撃が直撃したなら倒せるかも知れないと言った。
その三秒後に激しい熱波が照射され、元々高い耐久力をもたない想良は焼き尽くされていく。
しかしその一方で。
「防御には、ちょっと自身ある、から……」
焼けただれた肌をそのままに、ミュエルが炎のような息を吐いた。
同じく、身体の半分を残す形で熱を逃がしていた燐花も、無事な腕で小太刀を握り込む。
「分かってはいても……」
普段は恭司を庇ってばかりいた燐花の心境として、恭司に庇われるという光景に少なくない心の痛みがあったようだ。
けれどそれも、これで終わりだ。
「じゃ、行こうか」
補助機械の全てを喪った半裸のプリンスが、筋肉を強く膨張させる。
次のサイクルを犠牲にした一斉攻撃。
それは他ならぬ想良が、フレイムテイルの残り体力を見極めてくれたからこそできた思い切りである。
流星の如く貫いていく奏空と燐花。
歪んだ影を蹴り抜く遥。
それを衝撃によって貫くプリンスと成。
恭司のカメラフラッシュがフレイムテイルの身体を散らし、ミュエルの撒いた花がその全てをかき消していった。
『フレイムテイルの撃破を確認! 総員、牽制攻撃を続けながら撤収! ボスたちの回収急げ!』
戦闘部隊が高速ボートでかけつけ、遥たちを抱えて撤退していく。
残されたフレイムテイルの眷属たちは統率を失い、海というかなり無防備な位置取りもあって増援の戦闘部隊の爆撃によって次々に消滅していった。
回収されたメンバーの中には想良もいる。
遠ざかる戦場を眺めながら、八人は作戦の成功を噛みしめた。
――R3『フレイムテイル』及びそのコミュニティの撃滅を完了。
これを機に、冷酷島の戦いは新たなる局面を迎えることとなる。
