デジタル陰陽道! 心よ光れ、歪んだ正義を貫いて!
●アンリミテッドエイト『太歳』 VS インフィニットエイト『裂花』
これは、ファイヴの夢見が感知した過去の出来事である。
ある晴れたフリーマーケット。多くの人で賑わう広場は、突然の爆発によって破壊された。
たちこめる黒煙。銃を握ったグレースーツの男を先頭に、醜く歪んだ人型の古妖たちがうごうごと列を組んで歩いていた。
古妖たちはカフェテーブルをなぎ倒し、逃げ惑う人々を捕まえては殴りつけていく。
男は銃を向け、きわめて優しい口調と表情で言った。
「この場所でフリーマーケットの許可は出ていない。厳密に言えば違法だ」
「そ、そんな……管理人はやってもいいって」
「役所に届け出がされていないんだ。規律を守らない者がいるせいで、社会はどんどん腐っていく」
銃のグリップで殴り倒し、男はツバを吐いた。
「これは戒めだ。痛みと恐怖で思い知るんだ。規律は何よりも重いということを」
「――待ちなさい!」
突如、男の手元に何かがぶつかった。
銃を取り落とさぬように掴み取ると、それはラミネート加工された押花カードだった。
否、ただのカードではない。端にICチップが埋め込まれている。
「――まずい!」
咄嗟に手放すと、カードの中の花が急成長し、男を攻撃した。
攻撃をかわし、カードの飛んできた方向を見やる。
「このデジタル術式、インフィニットエイト――結城くんか」
「太歳さん! 貴方のような立派な方が、なぜこんな暴行に走るんです!」
ゴーグルをつけた少女だ。片目側に押花カードを翳すと、突如として彼女の衣服が植物繊維によるエネルギーアーマーにチェンジした。
「わけは後で聞きます、まずはあなたを止めるまで――!」
「そういうわけにはいかない」
男、太歳は少女に向けて銃を連射。
放たれた弾頭には細かな陰陽文字が描かれ、回転によってその効果を発揮した。
具体的には、飛びかかる少女の眼前で激しく炸裂したのだ。
悲鳴をあげて転倒する少女。そこへ無数の古妖が群がっていく。
「これは、『怪人』!? なぜです太歳さん、私たちはこれを倒し、人々を守るお役目の筈……!」
太歳は答えること無く、『やれ』と古妖――怪人に命令を下した。
●救出作戦
「それは本当なのか? アンリミテッドエイトに仲間たちが捕らわれたのは知っていたが、まさかあの太歳さんが当事者だったなんて……」
かつての戦いでファイヴと友好を交わした陰陽師の少年、本郷大地。今回の情報を伝えると、彼はひどく困惑していた。
「あの人は元警官で、定年退職してからも色んな人の世話を見てくれていたんだ。優しくて、皆の父親みたいな存在だった。なのに……」
規律を守れといって民間人に暴行を加えるなど、あまりにも明確な自己矛盾だ。
「なにか理由があるはずだ。けどその前に、とらわれた裂花を助けなきゃいけない。皆、力を貸してくれないか!」
太歳は山中に存在する家でほぼ自給自足の暮らしをしているという。
だが大地が偵察に出たところ、周囲は『怪人』が固めていて、充分な戦力を揃えて強行突破するしか救出方法はないそうだ。
「怪人というのは、悪しき心が人々にとりつくことで生まれる古妖なんだ。今回の個体は『ドクゼン』と言って、非常に凶暴な性質を持っている。しかもそれが何体もいたんだ」
恐らく、まずはこの無数の『ドクゼン』と戦い、家から出てきた太歳も加えての戦闘に発展するだろう。
「太歳さんは強力な発現者だ。木行暦の術を使いこなし、銃の腕と格闘のセンスも高い。戦う時はこの人には特に気をつけてくれ」
ここまで説明すると、大地は血が滲むほどに拳を握りしめた。
「俺の力はあまりにも小さい。けど皆の力があれば、正しいものを取り戻すことだってできるはずだ。もう一度言う、皆の力を貸してくれ!」
これは、ファイヴの夢見が感知した過去の出来事である。
ある晴れたフリーマーケット。多くの人で賑わう広場は、突然の爆発によって破壊された。
たちこめる黒煙。銃を握ったグレースーツの男を先頭に、醜く歪んだ人型の古妖たちがうごうごと列を組んで歩いていた。
古妖たちはカフェテーブルをなぎ倒し、逃げ惑う人々を捕まえては殴りつけていく。
男は銃を向け、きわめて優しい口調と表情で言った。
「この場所でフリーマーケットの許可は出ていない。厳密に言えば違法だ」
「そ、そんな……管理人はやってもいいって」
「役所に届け出がされていないんだ。規律を守らない者がいるせいで、社会はどんどん腐っていく」
銃のグリップで殴り倒し、男はツバを吐いた。
「これは戒めだ。痛みと恐怖で思い知るんだ。規律は何よりも重いということを」
「――待ちなさい!」
突如、男の手元に何かがぶつかった。
銃を取り落とさぬように掴み取ると、それはラミネート加工された押花カードだった。
否、ただのカードではない。端にICチップが埋め込まれている。
「――まずい!」
咄嗟に手放すと、カードの中の花が急成長し、男を攻撃した。
攻撃をかわし、カードの飛んできた方向を見やる。
「このデジタル術式、インフィニットエイト――結城くんか」
「太歳さん! 貴方のような立派な方が、なぜこんな暴行に走るんです!」
ゴーグルをつけた少女だ。片目側に押花カードを翳すと、突如として彼女の衣服が植物繊維によるエネルギーアーマーにチェンジした。
「わけは後で聞きます、まずはあなたを止めるまで――!」
「そういうわけにはいかない」
男、太歳は少女に向けて銃を連射。
放たれた弾頭には細かな陰陽文字が描かれ、回転によってその効果を発揮した。
具体的には、飛びかかる少女の眼前で激しく炸裂したのだ。
悲鳴をあげて転倒する少女。そこへ無数の古妖が群がっていく。
「これは、『怪人』!? なぜです太歳さん、私たちはこれを倒し、人々を守るお役目の筈……!」
太歳は答えること無く、『やれ』と古妖――怪人に命令を下した。
●救出作戦
「それは本当なのか? アンリミテッドエイトに仲間たちが捕らわれたのは知っていたが、まさかあの太歳さんが当事者だったなんて……」
かつての戦いでファイヴと友好を交わした陰陽師の少年、本郷大地。今回の情報を伝えると、彼はひどく困惑していた。
「あの人は元警官で、定年退職してからも色んな人の世話を見てくれていたんだ。優しくて、皆の父親みたいな存在だった。なのに……」
規律を守れといって民間人に暴行を加えるなど、あまりにも明確な自己矛盾だ。
「なにか理由があるはずだ。けどその前に、とらわれた裂花を助けなきゃいけない。皆、力を貸してくれないか!」
太歳は山中に存在する家でほぼ自給自足の暮らしをしているという。
だが大地が偵察に出たところ、周囲は『怪人』が固めていて、充分な戦力を揃えて強行突破するしか救出方法はないそうだ。
「怪人というのは、悪しき心が人々にとりつくことで生まれる古妖なんだ。今回の個体は『ドクゼン』と言って、非常に凶暴な性質を持っている。しかもそれが何体もいたんだ」
恐らく、まずはこの無数の『ドクゼン』と戦い、家から出てきた太歳も加えての戦闘に発展するだろう。
「太歳さんは強力な発現者だ。木行暦の術を使いこなし、銃の腕と格闘のセンスも高い。戦う時はこの人には特に気をつけてくれ」
ここまで説明すると、大地は血が滲むほどに拳を握りしめた。
「俺の力はあまりにも小さい。けど皆の力があれば、正しいものを取り戻すことだってできるはずだ。もう一度言う、皆の力を貸してくれ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.太歳を倒す
2.ドクゼン(15体)を倒す
3.なし
2.ドクゼン(15体)を倒す
3.なし
●クエストリスト
・山中の家へ向かい、『ドクゼン×10』と戦闘。
・手早くカタをつけ次に現われる『太歳、ドクゼン×5』と戦闘する。
・(オプション)結城裂花を戦闘中に救出する
→戦闘中に救出する場合担当者は暫く戦闘に参加できません。その代わり、救出後は裂花が戦闘に加わります。
・それらに勝利し、最後にとらわれている結城裂花を救出する。
・(オプション)太歳が豹変した理由を予想する
・(オプション)本郷大地との友好を深める
●シチュエーションデータ
『山中の家』は林の中にある一階建ての家です。
広い薪割り場やたき火場などかなり自然に近い暮らしをしているようで、近隣にも住宅はありません。厳密に言うと山自体が当人の所有地なので、人が立ち入らないようになっています。
戦闘は開けた土の上がメインとなり、選ぼうと思えば屋内、木の周りといった場所でも可能です。
●エネミーデータ
・ドクゼン
古妖カテゴリ。R1妖相当の戦力。
攻撃力が高く、片手武器による打撃攻撃がメイン(物近単)。
他に罪悪感を無理矢理押しつけるというBS【弱体】攻撃も持っています(特遠単)。
・太歳
木行暦。やや強力な発現者。
陰陽術式を施した銃弾を用いたスタイルから陰陽銃士と呼ばれることも。
スキル予測:全味方自然治癒アップ、特近列【毒】攻撃、特遠単【出欠、痺れ】
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年08月10日
2017年08月10日
■メイン参加者 8人■

●正義と規律はどこへ消えた
「俺の力はあまりにも小さい。けど皆の力があれば、正しいものを取り戻すことだってできるはずだ。もう一度言う、皆の力を貸してくれ!」
事情を聞かされた本郷大地が深く頭を下げる。そんな彼の肩を、『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)がぐいと押し上げた。
「勿論力を貸すぜ。頭なんて下げるなよ!」
「翔……」
「友達だろ、大地!」
「ああ!」
翔の出した手を強く握る大地。
その光景に頷きつつも、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は思案顔に入った。
「それにしても陰陽師が怪人を率いてるのかぁ……確か陰陽師って、そういうものを祓うのが役目だって言ってたよね」
「そのはずなんだ。長い歴史の中では似たようなことをした奴もいたけど、あの太歳さんに限って……」
「嫌に、なってしまったのでしょうか……」
『ファイブピンク』賀茂 たまき(CL2000994)の呟きに、大地はハッと振り返った。暗に続きを促されたたまきは、頭の中で言葉をまとめながら語った。
「元は警察官さんで、正義感の強い方だったそうですから、怪人さんたちを数多く倒しているうちに、もとになる人の業や、悪い心が、嫌になってしまったのかもしれません」
たまきはアンケートで満場一致するくらいに善良な心の持ち主だが、そんなたまきでも人の心の汚い部分や、他人を飲み込んでしまうような悪感情を知っていた。
「でも、だからこそ、私たちが人には必要なのではないでしょうか」
「んー……そういうのも、あるかもしれないけど」
腕組みをする『ニュクスの羽風』如月・彩吹(CL2001525)。
「まずは、とらわれてる裂花を助けないとね」
彩吹の言葉に、皆が強く頷いた。
ここに再び、ヒーロースクワッドが結成されたのである。
太歳の豹変。
その事実に、インフィニットエイトとはまた別の視点から注目する者たちがいた。
「太歳さんって、確かあの人だよね。カカシキ妖刀鍛造機の引き渡しを求めてきたっていう……」
渚の記憶や経験によれば、太歳はアンリミテッドエイト――それも人々を妖や隔者被害から守るための組織の一員である。
「当時はあの人たちを交渉によって帰らせることにも武力で撃退することにも失敗してしまって、けど鍛造機の核はこっそり抜いたから結果的に破壊には成功した……んだったよね? もしかして、あれが原因なんじゃないかな。すごく嫌な予感がするんだ」
渚はカカシキ妖刀を作るに当たって鍛造鬼という古妖と戦った。破壊の際にもセキュリティとして発生したくらいである。怪人ドクゼンが大量に生まれたことと無関係とは考えづらい。
「アンリミテッドエイトが怪人を造ってるなんてことに、なっていなければいいけど……」
足を組んで座り、それまで一人無関係そうな顔(?)をしていた緒形 逝(CL2000156)が、やっと渚に顔を向けた。
「太歳ちゃんって、常識人な印象があったさね。頭が硬くて苦労してそうなところも。顔見てすぐに撤退しちゃって、ロクに話していないがな」
お互い顔は知っているが、知り合いとは言いがたい。そんな間柄である。
その辺りの話を又聞きで知っていた『導きの鳥』麻弓 紡(CL2000623)は、これまで以上にムズカシイ顔をして唸った。
「最初、太歳のおいちゃんが怪人と入れ替わっちゃった説を考えてたんだけど、そのカカシキ? ……の話が絡んでくるなら、力の代償ができちゃったケースかな。でも理由は? いつ? どこのだれのために?」
頭上に六つのハテナが浮かぶ。5W1Hの全てが分からないといった様子だ。
「殿は太歳のおいちゃんと話したんだよね。少し」
「ゲオオコさせちゃったけどね。おっぱいがあれば完璧だったんだよ? 余のトーク完成してたんだよ? 最悪でも様子見で帰ってくれた筈なんだよ?」
「しらないけど」
「とにかく、あれだよあれ。百なんとかが一のあれにしかず的な」
「百聞は一見にしかず?」
「そうそれ!」
ダブルピースするプリンスに、紡はため息をついた。そして……。
「そうだね。考えるより動かなきゃ。動くより、寄り添わなきゃだよね」
●山荘の戦い
木々の間。ゆるやかな斜面の続く土を、逝とプリンスが踏みしめた。
「出といて悪食」
「頼むね、アイラブニポン」
同じくスマートホンのアプリを起動させる大地。
「土行、装着! ――皆、頼む!」
ひとけの無い場である。ドクゼンたちも逝たちの接近を察して部隊を展開。扇状に広がったドクゼンのフォーメーションを見て、逝はバイザーを指でついっと撫でた。
「随分食いでがありそうだ。さ、行くよ」
「これって余がコンビプレイする流れ?」
言いながら逝とプリンスはそれぞれ防御術式を展開。
逝は黒曜石を鱗状にしたようなライダースーツを纏い、プリンスは骨格をチタン化。
棍棒を手に襲いかかるドクゼンたちに強引なチャージアタックを叩き込んでいく。
ボーリングのピンよろしく吹き飛んでいくドクゼン。
「たまきちゃん!」
「はい――無頼漢!」
掛け軸のような護符を大量に引っこ抜くと、それぞれが自動で展開。描かれた術式がそのままインパクトとなってドクゼンたちを更に上空へと跳ね上げていく。
渚がメタルケースを開くと、中からまるでスロットマシンのフィーバー演出のごとく金属製の注射器が大量にわき出してくる。
それらを両手の指間に挟んで大量に掴むと、次々にドクゼンへ投擲していった。
ドクゼンたちはたちまち注射器まみれとなり、花火のように爆発していく。
はらはらと落ちていく灰。
「灰? 怪人なのに、人にとりついてないの?」
「油断するな。これは恐らく分裂体だ。本体は別にいる!」
「それってもしかして……」
紡と翔、そして大地の注目が山荘の扉へと注がれる。
正確には、開いた扉から現われた男――太歳にだ。
「大地一人で来ると思ったが……これは意外な顔ぶれだ」
銃を引き抜き、安全装置を解除する太歳。目をきつく細めるプリンス。
周囲に展開したドクゼンたち。
紡は大地の肩に手を置いて、力を込めて頷いた。
翔は大地に目配せすると、それぞれポーズをとった。
「フェイヴレッド、成瀬翔!」
「インフィニットエイト、本郷大地! 太歳さん、あんたを止めるために――」
「「勝負!!」」
爆発が起こり、翔の起動したデジタル術式から雷の竜が群れとなって現われる。
太歳は銃撃をはじめ、ドクゼンたちは飛びかかっていく。
戦いは、クライマックスへともつれ込もうとしている。
一方――。
「助けに来たよ、結城さん」
太歳たちが戦闘を始めて暫く経った頃、理央と彩吹は山荘へこっそり忍び込むと、とらわれていた結城裂花へと駆け寄った。
「ごめんね。隙をついて忍び込もうにも、色々手こずっちゃって時間がかかっちゃった」
理央は懐から出した護符をナイフのように鋭くして裂花の拘束を解くと、次に傷口に貼り付けるようにして回復してやった。
その手際と振る舞いを見て、二人の顔をじっと見る裂花。
「お二人は、大地さんのお友達ですか?」
顔を見合わせ、笑う二人。
「そうだよ」
彩吹は少しだけ前のことを思い出した。
紡と拳をぶつけ合い、ニッと笑い合う自分。そんな自分に大地は『裂花を頼む』と言って拳を突き出してきた。
あの時のように……。
「今、大地と私の仲間たちが太歳さんと戦ってる」
「違うんです、太歳さんはこんなことする人じゃ――」
「わかってる」
彩吹は拳を突き出した。
「だから、彼を止めたい。手伝ってくれる?」
「……はい」
裂花は、彩吹と拳を打ち合わせた。
●アンリミテッドエイト木曜星、太歳
「ぐあっ!?」
連続の爆発。飛び散る火花に吹き飛ばされるように、大地たちは斜面を転がった。
「太歳さん、いつの間にこんなに強くなったんだ」
「うん、前は余と互角くらいだったんだけど……もしかして作っちゃった? よしなよって言ったじゃん」
口もとをぬぐうプリンス。
逝もぐらつく頭を押さえるようにして立ち上がる。
「さっきから空気投げしまくってるんだけどねえ。ハイレベルな木行使いはこれだから……」
「とにかく、『もうすぐ』だから……この場は何とかしてみせるよ!」
メタルケースのロックを解く渚。
取り出した薬剤を自分の腕に注射すると、同じものを仲間へと投げは放った。
「これで暫くはもつはず。でもってこれは、念押し!」
注射器をひとつ空に投げると、破裂した器から青い光の鳥が生まれて仲間たちへと吸い込まれていく。
「その回復力は厄介だ。悪いが先に潰させて貰う」
「だろう、ね!」
メタルケースを握り、突撃を仕掛ける渚。
太歳は銃撃。メタルケースで弾き、反撃に渚が放つ注射器――が空中で破砕された。
砕けた注射器を抜け、渚の心臓部へと命中する弾丸。
ただの銃撃ではない。あまりの衝撃に渚は吹き飛び、それを紡が慌てて空中でキャッチした。
「いい調子だ。君たちは他人に暴力を振るうという重大な規律違反を犯した。暴行、殺人未遂……いずれにせよ重罪だ。その罪を償って貰う」
銃をリロードし、再び襲いかからんとしたその時。
「そこまでだよ!」
斜面の上側から、理央と――として彩吹と裂花が現われた。
「裂花、無事か!」
「二人のおかげで」
裂花は押し花の封じられたICカードを腕時計型のリーダーに翳すと、戦闘スーツへとチェンジした。
「後ろは任せます!」
「任されたよ」
理央は護符を翳してミストへと変換。清廉珀香と潤しの雨。二つの状態へと自在に切り替え、仲間たちへと行き渡らせていく。
「これは厄介だな。ドクゼンたちの力が通用しない」
「だけじゃ、ないさね」
滑るように距離を詰めた逝。
素早く銃撃を浴びせるが、逝の硬化したヘルメットをはねていく。
まるでラムアタックのような勢いでもって太歳をはねとばす。
攻撃の勢いを全て転換させた動作殺しである。
今やれ、のサインを彩吹やたまきたちに送る。
頷いたたまきと彩吹――の手元に、それぞれ押花カードが回転しながら飛んできた。
慌ててキャッチするたまき。
ベイビーブレスと書き込まれた、霞草の押し花だ。
一方彩吹の方に飛んできたのはストレリチアと刻まれた極楽鳥花の押し花だ。
振り向くと、裂花が拳を突き出して頷いていた。
二人の手の中で光り輝く押し花カード。
「お借りします――!」
たまきは地面に手を叩き付ける。すると、裂花と大地、そして彩吹の足下が急速に隆起。
更に背後に生まれた壁がランチャーとなって三人を激しく打ち出した。
「これはいいや、借りとくね!」
彩吹は翼を動かして高速回転。
大地は身体を固めて流星キックの構えをとり、裂花は生み出したツタをワインオープナーの如く螺旋状に展開、三人同時にドクゼンの群れへと突っ込んでいく。
大爆発がおき、残る全てのドクゼンが灰となった。
「ドクゼンが負けたか……」
「おっさん! あんた何考えてんだ!」
翔は術式アプリを起動させたスマートホンを銃のように構えた。
同じく銃を構える太歳。
「言ってくれなきゃわかんねーだろうが! おっさんが矜持を捨ててまで守りたいものってなんだよ!」
「矜持を捨てた? そんな覚えは無い。いいがかりはよせ」
「何……!?」
「いや、捨ててるよ。そんなつもりはなかったかもだけど」
プリンスはハンマーを構えると、太歳へと突撃した。
「ツム姫おねがい」
「おねがいされたよ殿」
特別な弾をスリングショットで発射する紡。
弾はプリンスを覆う巨大な紫電の鳳となり、太歳の銃撃をプリンスのハンマーヘッドで弾いていく。
「この間はみうちがヤンチャしてごめんね。でもほんと、おっぱいにならなくてよかったね! アンクル上!」
「ぐっ……!」
銃撃がきかないことを悟って咄嗟に防御を固める太歳。
プリンスのひき逃げアタックは直撃し、太歳を思い切り吹き飛ばした。
樹幹を三つほどへし折って転がる太歳。
紫電の鳳は上昇カーブ。天空でくるりとターン。それを見下ろすように、紡に抱えられて飛んだ翔がDXカクセイパッドを操作した。
「おっさん、あんたの心――取り戻してみせるぜ! 合成術式、龍鳳の舞!」
翔の放った術式が無数の紫電の竜となり、紡の鳳凰と合体。巨大な翼竜となって太歳へと突撃した。
「ぐ、うおお……!」
大爆発に包まれる太歳。
最後には、スーツの所々が焼け落ちた太歳が残った。
がくりと膝を突き、うつ伏せに倒れる。
それぞれ着地して、翔と紡はハイタッチした。
●奪われし正義
倒れた太歳から銃を取り上げるプリンス。しかしその銃は粒子化して太歳の中へと戻っていった。
「神具。それも特別製だね。余のコレと似たやつだ」
「前々から気になってたけどなんだそれ?」
ハンマーを軽々持ち上げるプリンスを、翔は興味深そうに覗き込んだ。
おせじにも体力や筋力のなさそうなプリンスがこのクソ重いハンマーを軽々振り回しているのはビミョーに気になっていたが……。
「私から説明するよ。それは『カカシキ妖刀』っていって、本人の大事な誓いによって鍛造された妖刀なの。私も同じものを持ってるよ。『妖器・インブレス』」
「余のは『妖槌・アイラブニポン』」
渚は注射器の入ったメタルケースを、プリンスはハンマーを翳した。
そして世にもビミョーな顔をする翔。
「刀じゃないじゃん」
「余もそれ思った」
「一応聞いてるわよ。間違った作り方をした妖刀――偽カカシキとその一連の騒動があったんだったかな」
ヘルメットをこつこつやって語る逝。
「太歳ちゃんの銃もその一つだって?」
「可能性はある。けど、力が争いの種になるっていう刀鍛冶の願いで、私たちは鍛造機を破壊したの。正確には核だけ持ち去って残りをアンリミテッドエイトに明け渡したんだ」
「ややこしいから要点だけ聞いてもいいか?」
子供代表みたいなことを言う翔。
彩吹やたまき、理央も同じ気持ちだったらしく頷いている。
プリンスは説明しようと口を開いたが、紡がテープをぺっと貼り付けた。
「殿はヘンな言い回しするから、ボクから説明してあげる。例の偽カカシキっていうのはね、『誓いを破らない限り力を持ち続ける刀』じゃなく『誓いを奪われる代わりに強力な力を持った刀』が手に入るっていうものなんだよ。それは能力のない人作ったいい加減なデッドコピーだっけど、専門家の集まりが作れば『スゴいデッドコピー』ができちゃうはず……って言いたいんだよね?」
こくこく頷くプリンス。
「例えば太歳は『規律を守る』っていう誓いを奪われて、代わりに強い力を手に入れた。それも意図せず……まるで実験の失敗事故みたいに」
「じゃあ……」
翔は歯噛みし、たまきもきゅっと口を引き結んだ。
心配そうに見る彩吹や理央の視線を受けて、プリンスは口にテープをはがした。
「その慣れはてを余は見てきた。自己矛盾を重ねた彼らは破綻者化して、救出したあとも精神を病んでる。けどそれを知ってる今回は違う。ねえ――」
大知と裂花へと振り返り。
「元に戻す方法、一緒に探させてくれないかい。責任も、あるしね」
「俺たちも手伝うぜ!」
「私も、お手伝いします!」
ファイティングポーズをとる翔とたまき。
「もちろんボクもだよ。みんなもいいよね?」
理央に言われて、逝はしょうがないなあという風に天を仰いだ。
くすくすと笑う紡と彩吹。
「友達の大切なひとを取り戻したい」
「やろう。今なら、できるはず」
「ありがとう……みんな」
大地は、改めて頭を下げた。
「一緒に、太歳さんたちを取り戻そう!」
「俺の力はあまりにも小さい。けど皆の力があれば、正しいものを取り戻すことだってできるはずだ。もう一度言う、皆の力を貸してくれ!」
事情を聞かされた本郷大地が深く頭を下げる。そんな彼の肩を、『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)がぐいと押し上げた。
「勿論力を貸すぜ。頭なんて下げるなよ!」
「翔……」
「友達だろ、大地!」
「ああ!」
翔の出した手を強く握る大地。
その光景に頷きつつも、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は思案顔に入った。
「それにしても陰陽師が怪人を率いてるのかぁ……確か陰陽師って、そういうものを祓うのが役目だって言ってたよね」
「そのはずなんだ。長い歴史の中では似たようなことをした奴もいたけど、あの太歳さんに限って……」
「嫌に、なってしまったのでしょうか……」
『ファイブピンク』賀茂 たまき(CL2000994)の呟きに、大地はハッと振り返った。暗に続きを促されたたまきは、頭の中で言葉をまとめながら語った。
「元は警察官さんで、正義感の強い方だったそうですから、怪人さんたちを数多く倒しているうちに、もとになる人の業や、悪い心が、嫌になってしまったのかもしれません」
たまきはアンケートで満場一致するくらいに善良な心の持ち主だが、そんなたまきでも人の心の汚い部分や、他人を飲み込んでしまうような悪感情を知っていた。
「でも、だからこそ、私たちが人には必要なのではないでしょうか」
「んー……そういうのも、あるかもしれないけど」
腕組みをする『ニュクスの羽風』如月・彩吹(CL2001525)。
「まずは、とらわれてる裂花を助けないとね」
彩吹の言葉に、皆が強く頷いた。
ここに再び、ヒーロースクワッドが結成されたのである。
太歳の豹変。
その事実に、インフィニットエイトとはまた別の視点から注目する者たちがいた。
「太歳さんって、確かあの人だよね。カカシキ妖刀鍛造機の引き渡しを求めてきたっていう……」
渚の記憶や経験によれば、太歳はアンリミテッドエイト――それも人々を妖や隔者被害から守るための組織の一員である。
「当時はあの人たちを交渉によって帰らせることにも武力で撃退することにも失敗してしまって、けど鍛造機の核はこっそり抜いたから結果的に破壊には成功した……んだったよね? もしかして、あれが原因なんじゃないかな。すごく嫌な予感がするんだ」
渚はカカシキ妖刀を作るに当たって鍛造鬼という古妖と戦った。破壊の際にもセキュリティとして発生したくらいである。怪人ドクゼンが大量に生まれたことと無関係とは考えづらい。
「アンリミテッドエイトが怪人を造ってるなんてことに、なっていなければいいけど……」
足を組んで座り、それまで一人無関係そうな顔(?)をしていた緒形 逝(CL2000156)が、やっと渚に顔を向けた。
「太歳ちゃんって、常識人な印象があったさね。頭が硬くて苦労してそうなところも。顔見てすぐに撤退しちゃって、ロクに話していないがな」
お互い顔は知っているが、知り合いとは言いがたい。そんな間柄である。
その辺りの話を又聞きで知っていた『導きの鳥』麻弓 紡(CL2000623)は、これまで以上にムズカシイ顔をして唸った。
「最初、太歳のおいちゃんが怪人と入れ替わっちゃった説を考えてたんだけど、そのカカシキ? ……の話が絡んでくるなら、力の代償ができちゃったケースかな。でも理由は? いつ? どこのだれのために?」
頭上に六つのハテナが浮かぶ。5W1Hの全てが分からないといった様子だ。
「殿は太歳のおいちゃんと話したんだよね。少し」
「ゲオオコさせちゃったけどね。おっぱいがあれば完璧だったんだよ? 余のトーク完成してたんだよ? 最悪でも様子見で帰ってくれた筈なんだよ?」
「しらないけど」
「とにかく、あれだよあれ。百なんとかが一のあれにしかず的な」
「百聞は一見にしかず?」
「そうそれ!」
ダブルピースするプリンスに、紡はため息をついた。そして……。
「そうだね。考えるより動かなきゃ。動くより、寄り添わなきゃだよね」
●山荘の戦い
木々の間。ゆるやかな斜面の続く土を、逝とプリンスが踏みしめた。
「出といて悪食」
「頼むね、アイラブニポン」
同じくスマートホンのアプリを起動させる大地。
「土行、装着! ――皆、頼む!」
ひとけの無い場である。ドクゼンたちも逝たちの接近を察して部隊を展開。扇状に広がったドクゼンのフォーメーションを見て、逝はバイザーを指でついっと撫でた。
「随分食いでがありそうだ。さ、行くよ」
「これって余がコンビプレイする流れ?」
言いながら逝とプリンスはそれぞれ防御術式を展開。
逝は黒曜石を鱗状にしたようなライダースーツを纏い、プリンスは骨格をチタン化。
棍棒を手に襲いかかるドクゼンたちに強引なチャージアタックを叩き込んでいく。
ボーリングのピンよろしく吹き飛んでいくドクゼン。
「たまきちゃん!」
「はい――無頼漢!」
掛け軸のような護符を大量に引っこ抜くと、それぞれが自動で展開。描かれた術式がそのままインパクトとなってドクゼンたちを更に上空へと跳ね上げていく。
渚がメタルケースを開くと、中からまるでスロットマシンのフィーバー演出のごとく金属製の注射器が大量にわき出してくる。
それらを両手の指間に挟んで大量に掴むと、次々にドクゼンへ投擲していった。
ドクゼンたちはたちまち注射器まみれとなり、花火のように爆発していく。
はらはらと落ちていく灰。
「灰? 怪人なのに、人にとりついてないの?」
「油断するな。これは恐らく分裂体だ。本体は別にいる!」
「それってもしかして……」
紡と翔、そして大地の注目が山荘の扉へと注がれる。
正確には、開いた扉から現われた男――太歳にだ。
「大地一人で来ると思ったが……これは意外な顔ぶれだ」
銃を引き抜き、安全装置を解除する太歳。目をきつく細めるプリンス。
周囲に展開したドクゼンたち。
紡は大地の肩に手を置いて、力を込めて頷いた。
翔は大地に目配せすると、それぞれポーズをとった。
「フェイヴレッド、成瀬翔!」
「インフィニットエイト、本郷大地! 太歳さん、あんたを止めるために――」
「「勝負!!」」
爆発が起こり、翔の起動したデジタル術式から雷の竜が群れとなって現われる。
太歳は銃撃をはじめ、ドクゼンたちは飛びかかっていく。
戦いは、クライマックスへともつれ込もうとしている。
一方――。
「助けに来たよ、結城さん」
太歳たちが戦闘を始めて暫く経った頃、理央と彩吹は山荘へこっそり忍び込むと、とらわれていた結城裂花へと駆け寄った。
「ごめんね。隙をついて忍び込もうにも、色々手こずっちゃって時間がかかっちゃった」
理央は懐から出した護符をナイフのように鋭くして裂花の拘束を解くと、次に傷口に貼り付けるようにして回復してやった。
その手際と振る舞いを見て、二人の顔をじっと見る裂花。
「お二人は、大地さんのお友達ですか?」
顔を見合わせ、笑う二人。
「そうだよ」
彩吹は少しだけ前のことを思い出した。
紡と拳をぶつけ合い、ニッと笑い合う自分。そんな自分に大地は『裂花を頼む』と言って拳を突き出してきた。
あの時のように……。
「今、大地と私の仲間たちが太歳さんと戦ってる」
「違うんです、太歳さんはこんなことする人じゃ――」
「わかってる」
彩吹は拳を突き出した。
「だから、彼を止めたい。手伝ってくれる?」
「……はい」
裂花は、彩吹と拳を打ち合わせた。
●アンリミテッドエイト木曜星、太歳
「ぐあっ!?」
連続の爆発。飛び散る火花に吹き飛ばされるように、大地たちは斜面を転がった。
「太歳さん、いつの間にこんなに強くなったんだ」
「うん、前は余と互角くらいだったんだけど……もしかして作っちゃった? よしなよって言ったじゃん」
口もとをぬぐうプリンス。
逝もぐらつく頭を押さえるようにして立ち上がる。
「さっきから空気投げしまくってるんだけどねえ。ハイレベルな木行使いはこれだから……」
「とにかく、『もうすぐ』だから……この場は何とかしてみせるよ!」
メタルケースのロックを解く渚。
取り出した薬剤を自分の腕に注射すると、同じものを仲間へと投げは放った。
「これで暫くはもつはず。でもってこれは、念押し!」
注射器をひとつ空に投げると、破裂した器から青い光の鳥が生まれて仲間たちへと吸い込まれていく。
「その回復力は厄介だ。悪いが先に潰させて貰う」
「だろう、ね!」
メタルケースを握り、突撃を仕掛ける渚。
太歳は銃撃。メタルケースで弾き、反撃に渚が放つ注射器――が空中で破砕された。
砕けた注射器を抜け、渚の心臓部へと命中する弾丸。
ただの銃撃ではない。あまりの衝撃に渚は吹き飛び、それを紡が慌てて空中でキャッチした。
「いい調子だ。君たちは他人に暴力を振るうという重大な規律違反を犯した。暴行、殺人未遂……いずれにせよ重罪だ。その罪を償って貰う」
銃をリロードし、再び襲いかからんとしたその時。
「そこまでだよ!」
斜面の上側から、理央と――として彩吹と裂花が現われた。
「裂花、無事か!」
「二人のおかげで」
裂花は押し花の封じられたICカードを腕時計型のリーダーに翳すと、戦闘スーツへとチェンジした。
「後ろは任せます!」
「任されたよ」
理央は護符を翳してミストへと変換。清廉珀香と潤しの雨。二つの状態へと自在に切り替え、仲間たちへと行き渡らせていく。
「これは厄介だな。ドクゼンたちの力が通用しない」
「だけじゃ、ないさね」
滑るように距離を詰めた逝。
素早く銃撃を浴びせるが、逝の硬化したヘルメットをはねていく。
まるでラムアタックのような勢いでもって太歳をはねとばす。
攻撃の勢いを全て転換させた動作殺しである。
今やれ、のサインを彩吹やたまきたちに送る。
頷いたたまきと彩吹――の手元に、それぞれ押花カードが回転しながら飛んできた。
慌ててキャッチするたまき。
ベイビーブレスと書き込まれた、霞草の押し花だ。
一方彩吹の方に飛んできたのはストレリチアと刻まれた極楽鳥花の押し花だ。
振り向くと、裂花が拳を突き出して頷いていた。
二人の手の中で光り輝く押し花カード。
「お借りします――!」
たまきは地面に手を叩き付ける。すると、裂花と大地、そして彩吹の足下が急速に隆起。
更に背後に生まれた壁がランチャーとなって三人を激しく打ち出した。
「これはいいや、借りとくね!」
彩吹は翼を動かして高速回転。
大地は身体を固めて流星キックの構えをとり、裂花は生み出したツタをワインオープナーの如く螺旋状に展開、三人同時にドクゼンの群れへと突っ込んでいく。
大爆発がおき、残る全てのドクゼンが灰となった。
「ドクゼンが負けたか……」
「おっさん! あんた何考えてんだ!」
翔は術式アプリを起動させたスマートホンを銃のように構えた。
同じく銃を構える太歳。
「言ってくれなきゃわかんねーだろうが! おっさんが矜持を捨ててまで守りたいものってなんだよ!」
「矜持を捨てた? そんな覚えは無い。いいがかりはよせ」
「何……!?」
「いや、捨ててるよ。そんなつもりはなかったかもだけど」
プリンスはハンマーを構えると、太歳へと突撃した。
「ツム姫おねがい」
「おねがいされたよ殿」
特別な弾をスリングショットで発射する紡。
弾はプリンスを覆う巨大な紫電の鳳となり、太歳の銃撃をプリンスのハンマーヘッドで弾いていく。
「この間はみうちがヤンチャしてごめんね。でもほんと、おっぱいにならなくてよかったね! アンクル上!」
「ぐっ……!」
銃撃がきかないことを悟って咄嗟に防御を固める太歳。
プリンスのひき逃げアタックは直撃し、太歳を思い切り吹き飛ばした。
樹幹を三つほどへし折って転がる太歳。
紫電の鳳は上昇カーブ。天空でくるりとターン。それを見下ろすように、紡に抱えられて飛んだ翔がDXカクセイパッドを操作した。
「おっさん、あんたの心――取り戻してみせるぜ! 合成術式、龍鳳の舞!」
翔の放った術式が無数の紫電の竜となり、紡の鳳凰と合体。巨大な翼竜となって太歳へと突撃した。
「ぐ、うおお……!」
大爆発に包まれる太歳。
最後には、スーツの所々が焼け落ちた太歳が残った。
がくりと膝を突き、うつ伏せに倒れる。
それぞれ着地して、翔と紡はハイタッチした。
●奪われし正義
倒れた太歳から銃を取り上げるプリンス。しかしその銃は粒子化して太歳の中へと戻っていった。
「神具。それも特別製だね。余のコレと似たやつだ」
「前々から気になってたけどなんだそれ?」
ハンマーを軽々持ち上げるプリンスを、翔は興味深そうに覗き込んだ。
おせじにも体力や筋力のなさそうなプリンスがこのクソ重いハンマーを軽々振り回しているのはビミョーに気になっていたが……。
「私から説明するよ。それは『カカシキ妖刀』っていって、本人の大事な誓いによって鍛造された妖刀なの。私も同じものを持ってるよ。『妖器・インブレス』」
「余のは『妖槌・アイラブニポン』」
渚は注射器の入ったメタルケースを、プリンスはハンマーを翳した。
そして世にもビミョーな顔をする翔。
「刀じゃないじゃん」
「余もそれ思った」
「一応聞いてるわよ。間違った作り方をした妖刀――偽カカシキとその一連の騒動があったんだったかな」
ヘルメットをこつこつやって語る逝。
「太歳ちゃんの銃もその一つだって?」
「可能性はある。けど、力が争いの種になるっていう刀鍛冶の願いで、私たちは鍛造機を破壊したの。正確には核だけ持ち去って残りをアンリミテッドエイトに明け渡したんだ」
「ややこしいから要点だけ聞いてもいいか?」
子供代表みたいなことを言う翔。
彩吹やたまき、理央も同じ気持ちだったらしく頷いている。
プリンスは説明しようと口を開いたが、紡がテープをぺっと貼り付けた。
「殿はヘンな言い回しするから、ボクから説明してあげる。例の偽カカシキっていうのはね、『誓いを破らない限り力を持ち続ける刀』じゃなく『誓いを奪われる代わりに強力な力を持った刀』が手に入るっていうものなんだよ。それは能力のない人作ったいい加減なデッドコピーだっけど、専門家の集まりが作れば『スゴいデッドコピー』ができちゃうはず……って言いたいんだよね?」
こくこく頷くプリンス。
「例えば太歳は『規律を守る』っていう誓いを奪われて、代わりに強い力を手に入れた。それも意図せず……まるで実験の失敗事故みたいに」
「じゃあ……」
翔は歯噛みし、たまきもきゅっと口を引き結んだ。
心配そうに見る彩吹や理央の視線を受けて、プリンスは口にテープをはがした。
「その慣れはてを余は見てきた。自己矛盾を重ねた彼らは破綻者化して、救出したあとも精神を病んでる。けどそれを知ってる今回は違う。ねえ――」
大知と裂花へと振り返り。
「元に戻す方法、一緒に探させてくれないかい。責任も、あるしね」
「俺たちも手伝うぜ!」
「私も、お手伝いします!」
ファイティングポーズをとる翔とたまき。
「もちろんボクもだよ。みんなもいいよね?」
理央に言われて、逝はしょうがないなあという風に天を仰いだ。
くすくすと笑う紡と彩吹。
「友達の大切なひとを取り戻したい」
「やろう。今なら、できるはず」
「ありがとう……みんな」
大地は、改めて頭を下げた。
「一緒に、太歳さんたちを取り戻そう!」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『押花ICC-ベイビーブレス』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:賀茂 たまき(CL2000994)
『押花ICC-ストレリチア』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:如月・彩吹(CL2001525)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:賀茂 たまき(CL2000994)
『押花ICC-ストレリチア』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:如月・彩吹(CL2001525)
