≪結界王暗躍≫銃後を狙う黒い影
●
「……気のせいか。年のせいかの」
八城瑞峰(はちじょう・ずいほう)老人は、自宅の庭に物音の気配を感じて開けた障子を閉じる。時間ももう遅い。大方、遠くの音が響いたのだろう。
八城老人は、日本の財界で少しは知られた人物だ。『日ノ丸事変』以来、FIVEのことを高く評価しており、FIVEの資金的なスポンサーになっているだけでなく、政治的な活動もサポートしている。もちろん、政府内にもそんな彼を煙たがる者はいるが、それに負けない豪胆さも持ち合わせていた。
そんな立場を理解しているがゆえに、備えはある。一見古い日本家屋だが、セキュリティは最新のものではあるし、警備のものもいる。ランクの低い妖程度なら、対応できる場所となっていた。
「さて、今日はそろそろ眠るか。明日もまた分からず屋の閣僚と戦わなくてはいかん……ム!?」
そう呟いて、読んでいた資料を閉じたとき、今度こそ気配を感じる。
しかも、今度の気配は部屋の中だった。
「何者!?」
振り向くとそこには、濃紺色の装束に身を纏うものの姿があった。覆面で顔を隠しているが、おそらく男だろう。その姿を一言で称するなら、「忍者」だ。
「八城瑞峰だな。悪いがその命、『結界王』の名の下に頂戴する」
男の言葉にすぐさま、護身用の拳銃を抜こうとする八城老人。
しかし、その動きは男にとっては緩慢過ぎた。
男が白刃を光らせると、血飛沫が部屋を赤く染める。そして、男は返り血を拭うこともなく、月明かりの差す夜の闇へと消えていった。
●
「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。そして、全員そろったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、隔者の人が事件を起こす夢を見たの。みんなの力を貸して!」
麦の渡してきた資料によると、『七星剣』の隔者が八城瑞峰という老人を殺そうとしているのだという。老人はFIVEの有力な後援者であり、彼が『七星剣』の手で殺されたとあれば今後のFIVEの活動に様々な支障をきたすことになるだろう。
それ以上に、人道の問題からも放っておくわけにいかない。
直接のホットラインでもあればそれで連絡したいところだが、そうもいかない。老人の命を守れるのはFIVEの覚者たちだけだ。
「襲っているのは『七星剣』。知っていると思うけど、国内最大の隔者組織だね。その中で襲ってくる隔者の人は、『結界衆』って名乗ってる。前から名前を聞く、『結界王』の部下みたい」
『七星剣』は国内最大規模の隔者組織だ。FIVEとは何度も矛を交えている。
そして、『結界王』はそこの幹部の1人である。正体は分からないがFIVEを敵視しているとのことだ。以前にも『結界王』の関わる事件にFIVEが遭遇しており、FIVEに対して襲撃の計画を立てていることが分かっている。
今回の件はその計画と違うようではあるが、FIVEに対して社会的なダメージを与えようという意図があることは明白だ。
「『結界衆』の人もだけど、来ているのは隠密の得意な隔者の人みたい。不意を突かれないように気を付けて」
相応のセキュリティはある場所だが、それでは足りなかった。覚者たちの感覚がもっとも頼りになるはずだ。
一応、FIVEの覚者たちであれば、屋敷に通してもらうことは難しくない。その時、交渉をスムーズにできていれば、余裕を持って襲撃に対応することができるだろう。
説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」
●
『大妖一夜』。
まったく、妖というのは度し難い。
AAAを滅ぼしてくれたのは良いとして、結果としてFIVEに力を与えることになった。
いずれ、八神様のためにも排除しないといけませんね。
その前に、FIVEです。
状況がこうなったのなら、それを利用させてもらいましょう。
『地脈』の準備が整うまで、これ以上FIVEを大きくするわけにはいきませんから。
そろそろ『結界衆』に動いてもらいましょうか。
雪之丞(ゆきのじょう)に任せて……いや、夢見に感づかれても厄介です。
少々、手勢も集めますか。
「……気のせいか。年のせいかの」
八城瑞峰(はちじょう・ずいほう)老人は、自宅の庭に物音の気配を感じて開けた障子を閉じる。時間ももう遅い。大方、遠くの音が響いたのだろう。
八城老人は、日本の財界で少しは知られた人物だ。『日ノ丸事変』以来、FIVEのことを高く評価しており、FIVEの資金的なスポンサーになっているだけでなく、政治的な活動もサポートしている。もちろん、政府内にもそんな彼を煙たがる者はいるが、それに負けない豪胆さも持ち合わせていた。
そんな立場を理解しているがゆえに、備えはある。一見古い日本家屋だが、セキュリティは最新のものではあるし、警備のものもいる。ランクの低い妖程度なら、対応できる場所となっていた。
「さて、今日はそろそろ眠るか。明日もまた分からず屋の閣僚と戦わなくてはいかん……ム!?」
そう呟いて、読んでいた資料を閉じたとき、今度こそ気配を感じる。
しかも、今度の気配は部屋の中だった。
「何者!?」
振り向くとそこには、濃紺色の装束に身を纏うものの姿があった。覆面で顔を隠しているが、おそらく男だろう。その姿を一言で称するなら、「忍者」だ。
「八城瑞峰だな。悪いがその命、『結界王』の名の下に頂戴する」
男の言葉にすぐさま、護身用の拳銃を抜こうとする八城老人。
しかし、その動きは男にとっては緩慢過ぎた。
男が白刃を光らせると、血飛沫が部屋を赤く染める。そして、男は返り血を拭うこともなく、月明かりの差す夜の闇へと消えていった。
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「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。そして、全員そろったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、隔者の人が事件を起こす夢を見たの。みんなの力を貸して!」
麦の渡してきた資料によると、『七星剣』の隔者が八城瑞峰という老人を殺そうとしているのだという。老人はFIVEの有力な後援者であり、彼が『七星剣』の手で殺されたとあれば今後のFIVEの活動に様々な支障をきたすことになるだろう。
それ以上に、人道の問題からも放っておくわけにいかない。
直接のホットラインでもあればそれで連絡したいところだが、そうもいかない。老人の命を守れるのはFIVEの覚者たちだけだ。
「襲っているのは『七星剣』。知っていると思うけど、国内最大の隔者組織だね。その中で襲ってくる隔者の人は、『結界衆』って名乗ってる。前から名前を聞く、『結界王』の部下みたい」
『七星剣』は国内最大規模の隔者組織だ。FIVEとは何度も矛を交えている。
そして、『結界王』はそこの幹部の1人である。正体は分からないがFIVEを敵視しているとのことだ。以前にも『結界王』の関わる事件にFIVEが遭遇しており、FIVEに対して襲撃の計画を立てていることが分かっている。
今回の件はその計画と違うようではあるが、FIVEに対して社会的なダメージを与えようという意図があることは明白だ。
「『結界衆』の人もだけど、来ているのは隠密の得意な隔者の人みたい。不意を突かれないように気を付けて」
相応のセキュリティはある場所だが、それでは足りなかった。覚者たちの感覚がもっとも頼りになるはずだ。
一応、FIVEの覚者たちであれば、屋敷に通してもらうことは難しくない。その時、交渉をスムーズにできていれば、余裕を持って襲撃に対応することができるだろう。
説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」
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『大妖一夜』。
まったく、妖というのは度し難い。
AAAを滅ぼしてくれたのは良いとして、結果としてFIVEに力を与えることになった。
いずれ、八神様のためにも排除しないといけませんね。
その前に、FIVEです。
状況がこうなったのなら、それを利用させてもらいましょう。
『地脈』の準備が整うまで、これ以上FIVEを大きくするわけにはいきませんから。
そろそろ『結界衆』に動いてもらいましょうか。
雪之丞(ゆきのじょう)に任せて……いや、夢見に感づかれても厄介です。
少々、手勢も集めますか。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.八城老人の生存
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
忍ぶ忍者、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は隔者と戦っていただきます。
●戦場
FIVE支援者の1人、八城瑞峰の屋敷。大きな日本家屋で、庭は普通に戦闘できるくらいに広いです。
時刻は夜で、暗くなっています。
隔者達は隠密行動をとるため、警戒するプレイングがないと不意を打たれ、最悪護衛対象は殺されます。
また、屋敷の警備はほぼ問題なく通れますが、交渉がスムーズに進めば警戒のプレイングにボーナスがあります。交渉系のスキルや高い名声値が役に立つでしょう。
●隔者
『七星剣』に所属する隔者達です。
・雪之丞
『七星剣』に属する天行の前世持ちです。
『結界衆』という『結界王』の直属組織に属し、隠密行動を得意とします。
年齢不詳で冷酷な男です。実力は高めで、多少それを鼻にかけているきらいがあります。
術式を中心的に使い、脣星落霜を得意とします。
「八卦の構え【未解】」「微塵不隠【未解】」という独自のスキルを持っているようです。
・戦闘員
『七星剣』に属する隔者達です。『結界衆』ではありませんが、『結界王』と繋がりはあるようです
体術メインの前衛タイプが3人、術式攻撃メインの前衛タイプが3人、術式メインの回復後衛タイプが2人います。いずれも隠密を得意としますが、実力は覚者たちに劣ります。
●一般人
・八城瑞峰
FIVE支援者の1人で高齢の男性。
厳しいところもあるが、基本的に善良な人物でFIVEを信用している。
財界の人間で資金面だけでなく、政治面でもFIVEをサポートしている。
彼が雇っている警備は最低限の戦力を持っていますが、非覚者なので戦闘ではあまり役に立たないでしょう。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年08月02日
2017年08月02日
■メイン参加者 8人■

●
強い光に照らされる現代では忘れられがちだが、月の光は意外と明るいものだ。
満月ともなれば「昼をも欺く」と表現されることもある。
その中、光と光の合間を縫って、闇の中を翔ける影があった。『結界王』の懐刀、『結界衆』の隔者が率いる暗殺者たちだ。
影を走り、屋敷へと侵入して見せた男は、対象に向けて死の宣告を告げる。
「何者!?」
「八城瑞峰だな。悪いがその命、『結界王』の名の下に頂戴する」
そして繰り出された一撃は、無力な老人の首を難なく刈り取る……はずだった。
隔者の斬撃を悠々と杖で受けきって、老人はニヤリと笑う。
「屋敷に忍び込んでの暗殺とは、随分な自信家ですな」
「貴様、八城ではないな」
老人の発する気配に気づき、隔者は窓を破って外へと逃げる。すると、退路に配置していたはずの隔者達がすでに戦闘を始めている。
そこに来て、隔者は自分たちの策が破られたことを――それも数枚上を行かれる形でーー悟った。
「ハン、クソ隔者が暗殺なんて小賢しい真似しやがって……まあ、考えは悪くはねェが、そうは問屋が卸さねぇよ」
大地に立てるようにして2本の妖刀を手に持ち、『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)は凄惨な笑みを見せる。
「俺達が爺さんを守ってるからよォ! 残念ながら、ここから先は爺さんに指一本触れさせねェ。というかよ、学校で習わなかったのか?お年寄りは大切にしないさいってさ、ド三流が!」
妖刀が直斗を狂わせるのか、はたまた直斗が妖刀を狂わせるのか。
いずれにせよ、この場にいる隔者全てに殺意を振りまきながら、直斗は構えを取った。
その後ろから先ほどの老人が姿を見せる。もっとも、もはや標的本人でないことは明らかだ。この場に来る理由がないし、そもそも隙のない佇まいからただの老人でないことは伝わって来る。
「騙し通せずとも、初撃を惑わすくらいの効果は期待できる。その時間があれば、我々は彼を守りきれる」
言葉を発する中で、老人の声と顔はゆっくりと変わっていく。
そして姿を見せたのは、『教授』新田・成(CL2000538)だった。
●
「FIVEです。当方の夢見が八城瑞峰様に対する襲撃を察知しましたので急ぎ参上しました」
時刻はわずかに遡る。
夜の警備員の前に現れた少女――『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)の口から出たのはそんな言葉だった。
普通ならイタズラと帰されるところだろうが、そうはならなかった。
「敵は七星剣の手練。どうか私達に警戒をお任せいただけないでしょうか? 事態は一刻を争います」
元々、FIVEと親しい人物のいる場所だ。夢見の知識もある以上、無下にされることもなかった。
それ以上に決め手となったのは、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が身に着けてきた勲章だ。数も少ないそれを持つ少年のことを、警備のもの達は知っていた。
「FIVEの工藤と申します。八城さんを守らせてください」
「工藤奏空さんはFIVEの中でも特に多くの事件を解決しています。私もそれには及ばないまでもそれなりに多くの事態にあたってきたつもりです」
「敵の狙いが八城氏の命なら、敵に勝る戦力で直衛するのが上策です」
年若い2人の誠実な言葉は、相手の耳に届き、信頼を得ることに成功した。それどころか、警備への積極的な成の意見も受け入れてもらえることになった。当人たちの実感は薄かったようだが、FIVEの『見習い探偵の少年』や『魔法使いの少女』のネームバリューは確かなものだった。
奏空はやっと緊張が解けた様子で、成と一緒に警備について相談を始める。
(FIVEとして活動して来た実績には自身がある! それに八城さんを絶対に守りたい!)
そして、それから幾ばくかの時間の後、『結界衆』との戦いは始まった。
●
天井裏に潜んでいた隔者が奏空の攻撃を逃れて、庭に転がり落ちる。
その時、月明かりだけだった庭園に光が差す。
「夜間警備とかはあまりガラではないのだけど、スポンサーさんが命狙われているとあっちゃあね」
拳を打ち鳴らしながら、どこか楽しげな表情で『豪炎の龍』華神・悠乃(CL2000231)が姿を見せた。
今回の件に関して、標的を守るつもりがないわけではない。だが、それ以上にここへ来た理由は、敵への興味というものに他ならない。未知の敵、見たこともない技を使う敵がいるというのなら、戦わなくては名が廃るというものだ。
「とはいえ。忍者ねぇ……あの総帥さんには遠く及ばないだろうし、楽しめるかなぁ」
以前の強敵を思い返しつつ、ファイティングスタイルを取る悠乃。
その後ろで『静かに見つめる眼』東雲・梛(CL2001410)は、最大限の警戒を払いながら銀製の棍を取り出した。
「敵は忍者らしいから、不意打ちには気をつけないとね。もう打ち止めみたいだけど」
相手はいわゆる忍者だ。少なくとも、夢見の情報で隠密に優れた集団であることははっきりしている。加えて、情報も少ない相手だ。警戒はどれだけしても足りないだろう。
その上でも、
(忍者っているんだね)
と、思ってしまうのは致し方ないところだろう。
そして、存在する以上は相応の態勢で挑む。いつの間にか、相手の力を弱める香徒花の香りが周囲に満ちている。梛の力が呼び出したものだ。
「要人警護ねぇ……」
普段の口癖が出そうになったので、『癒しの矜持』香月・凜音(CL2000495)は口を一旦つぐむ。要人警護という大事に驚きを隠せなかったが、やることに違いは無い。
お互いに立場を取っ払ってしまえば、そこにいるのは人と人。
力を悪用するものが、力を持たないもの命を奪おうとしているだけの話だ。
「相手が誰であれ、七星剣の連中に好き勝手動かれた挙句、人の命が奪われるのは頂けないからな。まぁきっちりやる事はやりますかね」
自身に英霊の力を宿すとまず、隔者の動きに目を凝らす。相手の動きには、まだまだ未解明の点が多い。それを早急に看破することは勝利に直結するし、引いては今後の戦いも有利にするはずだ。
「七星はFIVEを危険視しているみたいやな。国内最大級組織の割には慎重というか、芽吹く前に摘むのが好きなやつがいるみたいや」
『黒い太陽』切裂・ジャック(CL2001403)の語る通り、今回の襲撃はFIVEを弱体化させるために行われたものだ。
FIVEを根本的につぶすのが目的だから、資金源から狙い稼働停止を狙う。実際、標的が殺されていれば支援者が1人いなくなるというだけでなく、他の支援者に対する見せしめにもなる。
標的が持つ政治力が使えなくなることまで考えれば、実際にFIVEが被るダメージはかなりのものになるはずだ。
敵を見据えて、狙う相手を定めたジャックの瞳が化外の色を帯びる……が、すぐにいつものあっけらかんとした表情に戻る。
「おっとその前に!」
忘れ物を取りに家に帰る子供のような表情で、ジャックは祝詞を読み上げた。
「まだ慣れてないから、こう、祝詞言い間違えないか心配やね!!」
●
夜の庭園を舞台に剣戟がぶつかり合う。
不意打ちを完全に防いだこともあって、覚者たちにとって状況は決して悪くない。大半の隔者は覚者たちにとって格下だ。
それでも、数の不利もあるので、覚者たちは慎重に戦いを進める。
そんな中、奏空は何かに憑かれたかのような瞳で刀を振るっていた。親しいものであれば、すぐさま違和感を覚えるのかもしれない。
光の粒を打ち払い、隔者と切り結ぶ中で、奏空の攻撃はどんどん加速していく。
奏空の戦い方は、普段以上に研ぎ澄まされており、そして己の身体に負担をかけるものだった。それでも、奏空の攻撃は止まらない。
(なんだろう、こうしていると血が、魂が、触発されていく!)
奏空の前世は前々から忍者ではないかと言われていた。あるいは、その記憶が敵との戦いの中で触発されたのかもしれない。
(今ここにいる俺は16歳の俺なのかそれとも前世の俺なのか、分からなくなってしまったけど……分かる事は敵を討つ事、任務を全うする事、ただそれだけ)
戦いの中で血の雨が舞う。
苛烈な奏空の戦いに負けじと、壮絶な戦いぶりを見せるのはジャックだ。踵を三度打ち鳴らすと、血で作られた大鎌が隔者に切りかかる。
もっとも、その戦いぶりと裏腹に、わずかに急所を外した動きも見せている。
「自殺はさせないし、殺しもさせない。聞きたいことあるんよ、酷いことはせんから安心しろ、俺がさせないし」
人によっては甘いというだろうし、本人も虫がいいことを言っている自覚はある。それでも、曲げずに進むのがジャックだ。
自分の願いを貫くため、傷つきながらも戦いをやめないのは彼の強さである。
覚者たちの果敢な攻撃を前に、隔者は撤退しようとするが、成はそうさせじと道を塞ぐ。そうなると、隔者は覚者を倒して場の混乱を測って動く。
だが、それこそ直斗にとっては望むところ。
皆殺しにせんとばかり、狂ったように刃を振るう。
「隔者なぞ生きる価値ねェ……全員ぶっ殺してくれぇのイカレ野郎共だ。そんな奴を見過ごす道理なんざねぇんだよ!」
正義と殺戮衝動、この2つは直斗の中で矛盾しない概念だ。
しかも、狂ったように戦う反面、極めて冷静に敵の戦いを分析している。
(見たところ、バフ系か? 思っていたより、タフだぜ)
「直斗くん、フォローするよ」
そんな戦いの中に蹴りこんできたのは悠乃だった。舞うような防御の構えを取る隔者に対して、打ち据える黒竜の尾を思わせる一撃が決まる。
敵に隙が生まれたところで、直斗は刀を一旦納めた。
刀で殺せれば重畳だが、別に隔者(クズ)共を殺す手段は、それに限ったわけではない。
「さぁ、三下共! 逃げねェとハンプティ・ダンプティにぶちあたるぜ? 俺達は人を護る為に戦う正義だからな!」
卵のような形をした隕石が、隔者達に向けて降り注ぐ。
その中で、リーダーに肉薄した悠乃は直接殴り合う。
「『七星剣』って、勢力強いってわりに、結構みみっちいことしてきますよね?」
悠乃の何気ない一言がリーダーの怒りに火を点けてしまったようだ。自尊心を傷つけられた彼は徹底的に戦うことを選んでしまった。
「そんな怒らないで。それと、キミの戦い方とその技組み合ってないのは気のせい?」
悠乃としては、思ったことを口に出すだけだ。
この場に来たのは、新たな敵との戦いを楽しむため。もちろん、警備のことを忘れたつもりもないが、『未知の敵』というパズルは解き甲斐があるのだ。
「あとは……みじんかくれず……かな」
そう言って、悠乃は挑発気味に誘う。
怒りの隔者は部下をけしかけ、溜めに入る。そして、爆裂が覚者たちを襲う。
爆煙が晴れる中、梛は棍を支えの棒に使い立っていた。傷つきながらも、顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
「気力を爆発させて、相手を木っ端微塵にしちゃうような技、かな」
さしもの威力に、足が砕けそうになるが命数を燃やして梛は耐える。
そこへ恵み雨が降り、覚者たちの傷を癒していく。相手の戦いを観察しながらの戦いは自分たちのことがおろそかになりがちなもの。だが、そうはさせないのが凜音の仕事だ。
前線に出て今の一撃をもらっていたら、あっという間に倒れていた自信はある。だが、支援専門を名乗る以上、他のものが倒れないようにすることが凜音の矜持。
敵の様子から威力やタイミングは察していた。ならば、周りが戦えるようにすることはそう難しくない。
悠乃が指摘した噛み合わなさは、隔者が使うスキルが個人的に開発したものでなく、集団の中で伝わったものだからだろう。ならば、ここで理解すれば今後の戦いも楽になる。
「なるようになれ、ってね。貰えるものは貰えばいい」
「あぁ、そうだな」
梛は元来、そっけない印象を与える少年だ。軽そうな印象を与えるし、適当そうに見える。
しかし、実際には愛情深いし、なんだかんだと律儀なところがある。
だからだろう。そんな彼は、隔者に向かって口角を上げ、良い笑みを作って見せた。
「その技、もらい」
梛の一言は、自尊心の強い覚者を完全に激昂させた。だがしかし、その選択肢はすでに断たれた。
いや、『焼き尽くされた』。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子に石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
真紅の火猫が戦場を駆け回る。
ラーラは魔女ベファーナの系譜に当たる魔女だ。火の扱いに関してはちょっとしたもの。そして、原始の時代より人と共にあった「火」という概念が得意とするのは、何かを壊すことだ。
火猫は楽し気に、そして正確に隔者達を倒していく。
「襲撃は絶対防がなければなりません。FIVEの威信に賭けて」
隔者もそれなりに『七星剣』の名を背負って戦っているつもりはあるのだろう。
だがそれ以上に、まだ年若いラーラは自分がFIVEの名を背負っていることを自覚していた。そして、その旗の重さを理解した上で、戦う勇気を持っていた。
「では、そろそろ仕損じた暗殺者の末路を味わってもらうとしましょう」
普段の物静かな仮面を脱ぎ捨て、成は鋭い表情を見せる。
成もまた、かつては欧州で暗殺任務も請け負う工作員だった過去を持ち、暗殺潜入には一家言持っている。
その上で言わせてもらえれば、相手は優れた技術に溺れた二流に過ぎない。
成が仕込み杖から刃を居合抜きすると、鋭い衝撃波が疾る。強かに打ち据えられた隔者は大地に倒れ伏す。
そして、自害を試みる隔者の腕を踏みつけ、成は言った。
「逃しはしない。『結界衆』とやらの情報源だ。腕や足の一本は覚悟してもらおう」
●
「あれ?」
戦いが終わったところで、奏空はふと我に返る。
先ほどまで自分が何をしていたのか、分からないといった風情だ。たしかに戦っていた実感はあるが、夢の中で戦っていたようにぼんやりとしている。
そんな奏空の意識は、隔者のうめき声を聞いてはっきりとしてくる。
見ると、成が手慣れた様子で隔者相手に尋問を行っていた。
彼は七星剣幹部である『結界王』直属の隔者で、『結界衆』という組織に属している。『結界衆』は少数精鋭の隠密集団で、いわゆる忍者の末裔らしい。いずれも高い実力を持った隔者の集団だ。
『結界王』はとりわけ首領への忠誠が篤い幹部だという。前々からFIVEを警戒しており、現在は首領から戦う許可を得たため、装備の準備や今回のように弱体化させる作戦に動いているそうだ。近く、大規模な作戦に動く予定もあるらしい。
「案外、大きな組織になるって狙われやすくなるって感じやんな。妖だけでも大変なのに人間同士で争ってどうするというのか」
隔者が全員殺されなかったことで安堵したジャックはぼやく。
それでも、文句を言っても始まらない。『結界王』とやらが同じ作戦を行う可能性は高いし、他にも伏兵がいる可能性もある。
ジャックは【感情探査】のスキルを発動させて、屋敷の中へと走り出す。
「今後の警備増強も進言しときますかね」
凜音がやれやれと言った様子で呟く。可能なら要人警護用の人員も確保したいところだ。それだけで隔者が現れなくなるものでもないが、ある程度は防ぐことも出来るだろう。
光が強くなれば、影もまた濃くなるのだという。
それでも、戦いを止めるわけにはいかない。戦いをやめればそれは、世界が闇に飲まれてしまうことを意味するのだ。
強い光に照らされる現代では忘れられがちだが、月の光は意外と明るいものだ。
満月ともなれば「昼をも欺く」と表現されることもある。
その中、光と光の合間を縫って、闇の中を翔ける影があった。『結界王』の懐刀、『結界衆』の隔者が率いる暗殺者たちだ。
影を走り、屋敷へと侵入して見せた男は、対象に向けて死の宣告を告げる。
「何者!?」
「八城瑞峰だな。悪いがその命、『結界王』の名の下に頂戴する」
そして繰り出された一撃は、無力な老人の首を難なく刈り取る……はずだった。
隔者の斬撃を悠々と杖で受けきって、老人はニヤリと笑う。
「屋敷に忍び込んでの暗殺とは、随分な自信家ですな」
「貴様、八城ではないな」
老人の発する気配に気づき、隔者は窓を破って外へと逃げる。すると、退路に配置していたはずの隔者達がすでに戦闘を始めている。
そこに来て、隔者は自分たちの策が破られたことを――それも数枚上を行かれる形でーー悟った。
「ハン、クソ隔者が暗殺なんて小賢しい真似しやがって……まあ、考えは悪くはねェが、そうは問屋が卸さねぇよ」
大地に立てるようにして2本の妖刀を手に持ち、『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)は凄惨な笑みを見せる。
「俺達が爺さんを守ってるからよォ! 残念ながら、ここから先は爺さんに指一本触れさせねェ。というかよ、学校で習わなかったのか?お年寄りは大切にしないさいってさ、ド三流が!」
妖刀が直斗を狂わせるのか、はたまた直斗が妖刀を狂わせるのか。
いずれにせよ、この場にいる隔者全てに殺意を振りまきながら、直斗は構えを取った。
その後ろから先ほどの老人が姿を見せる。もっとも、もはや標的本人でないことは明らかだ。この場に来る理由がないし、そもそも隙のない佇まいからただの老人でないことは伝わって来る。
「騙し通せずとも、初撃を惑わすくらいの効果は期待できる。その時間があれば、我々は彼を守りきれる」
言葉を発する中で、老人の声と顔はゆっくりと変わっていく。
そして姿を見せたのは、『教授』新田・成(CL2000538)だった。
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「FIVEです。当方の夢見が八城瑞峰様に対する襲撃を察知しましたので急ぎ参上しました」
時刻はわずかに遡る。
夜の警備員の前に現れた少女――『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)の口から出たのはそんな言葉だった。
普通ならイタズラと帰されるところだろうが、そうはならなかった。
「敵は七星剣の手練。どうか私達に警戒をお任せいただけないでしょうか? 事態は一刻を争います」
元々、FIVEと親しい人物のいる場所だ。夢見の知識もある以上、無下にされることもなかった。
それ以上に決め手となったのは、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が身に着けてきた勲章だ。数も少ないそれを持つ少年のことを、警備のもの達は知っていた。
「FIVEの工藤と申します。八城さんを守らせてください」
「工藤奏空さんはFIVEの中でも特に多くの事件を解決しています。私もそれには及ばないまでもそれなりに多くの事態にあたってきたつもりです」
「敵の狙いが八城氏の命なら、敵に勝る戦力で直衛するのが上策です」
年若い2人の誠実な言葉は、相手の耳に届き、信頼を得ることに成功した。それどころか、警備への積極的な成の意見も受け入れてもらえることになった。当人たちの実感は薄かったようだが、FIVEの『見習い探偵の少年』や『魔法使いの少女』のネームバリューは確かなものだった。
奏空はやっと緊張が解けた様子で、成と一緒に警備について相談を始める。
(FIVEとして活動して来た実績には自身がある! それに八城さんを絶対に守りたい!)
そして、それから幾ばくかの時間の後、『結界衆』との戦いは始まった。
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天井裏に潜んでいた隔者が奏空の攻撃を逃れて、庭に転がり落ちる。
その時、月明かりだけだった庭園に光が差す。
「夜間警備とかはあまりガラではないのだけど、スポンサーさんが命狙われているとあっちゃあね」
拳を打ち鳴らしながら、どこか楽しげな表情で『豪炎の龍』華神・悠乃(CL2000231)が姿を見せた。
今回の件に関して、標的を守るつもりがないわけではない。だが、それ以上にここへ来た理由は、敵への興味というものに他ならない。未知の敵、見たこともない技を使う敵がいるというのなら、戦わなくては名が廃るというものだ。
「とはいえ。忍者ねぇ……あの総帥さんには遠く及ばないだろうし、楽しめるかなぁ」
以前の強敵を思い返しつつ、ファイティングスタイルを取る悠乃。
その後ろで『静かに見つめる眼』東雲・梛(CL2001410)は、最大限の警戒を払いながら銀製の棍を取り出した。
「敵は忍者らしいから、不意打ちには気をつけないとね。もう打ち止めみたいだけど」
相手はいわゆる忍者だ。少なくとも、夢見の情報で隠密に優れた集団であることははっきりしている。加えて、情報も少ない相手だ。警戒はどれだけしても足りないだろう。
その上でも、
(忍者っているんだね)
と、思ってしまうのは致し方ないところだろう。
そして、存在する以上は相応の態勢で挑む。いつの間にか、相手の力を弱める香徒花の香りが周囲に満ちている。梛の力が呼び出したものだ。
「要人警護ねぇ……」
普段の口癖が出そうになったので、『癒しの矜持』香月・凜音(CL2000495)は口を一旦つぐむ。要人警護という大事に驚きを隠せなかったが、やることに違いは無い。
お互いに立場を取っ払ってしまえば、そこにいるのは人と人。
力を悪用するものが、力を持たないもの命を奪おうとしているだけの話だ。
「相手が誰であれ、七星剣の連中に好き勝手動かれた挙句、人の命が奪われるのは頂けないからな。まぁきっちりやる事はやりますかね」
自身に英霊の力を宿すとまず、隔者の動きに目を凝らす。相手の動きには、まだまだ未解明の点が多い。それを早急に看破することは勝利に直結するし、引いては今後の戦いも有利にするはずだ。
「七星はFIVEを危険視しているみたいやな。国内最大級組織の割には慎重というか、芽吹く前に摘むのが好きなやつがいるみたいや」
『黒い太陽』切裂・ジャック(CL2001403)の語る通り、今回の襲撃はFIVEを弱体化させるために行われたものだ。
FIVEを根本的につぶすのが目的だから、資金源から狙い稼働停止を狙う。実際、標的が殺されていれば支援者が1人いなくなるというだけでなく、他の支援者に対する見せしめにもなる。
標的が持つ政治力が使えなくなることまで考えれば、実際にFIVEが被るダメージはかなりのものになるはずだ。
敵を見据えて、狙う相手を定めたジャックの瞳が化外の色を帯びる……が、すぐにいつものあっけらかんとした表情に戻る。
「おっとその前に!」
忘れ物を取りに家に帰る子供のような表情で、ジャックは祝詞を読み上げた。
「まだ慣れてないから、こう、祝詞言い間違えないか心配やね!!」
●
夜の庭園を舞台に剣戟がぶつかり合う。
不意打ちを完全に防いだこともあって、覚者たちにとって状況は決して悪くない。大半の隔者は覚者たちにとって格下だ。
それでも、数の不利もあるので、覚者たちは慎重に戦いを進める。
そんな中、奏空は何かに憑かれたかのような瞳で刀を振るっていた。親しいものであれば、すぐさま違和感を覚えるのかもしれない。
光の粒を打ち払い、隔者と切り結ぶ中で、奏空の攻撃はどんどん加速していく。
奏空の戦い方は、普段以上に研ぎ澄まされており、そして己の身体に負担をかけるものだった。それでも、奏空の攻撃は止まらない。
(なんだろう、こうしていると血が、魂が、触発されていく!)
奏空の前世は前々から忍者ではないかと言われていた。あるいは、その記憶が敵との戦いの中で触発されたのかもしれない。
(今ここにいる俺は16歳の俺なのかそれとも前世の俺なのか、分からなくなってしまったけど……分かる事は敵を討つ事、任務を全うする事、ただそれだけ)
戦いの中で血の雨が舞う。
苛烈な奏空の戦いに負けじと、壮絶な戦いぶりを見せるのはジャックだ。踵を三度打ち鳴らすと、血で作られた大鎌が隔者に切りかかる。
もっとも、その戦いぶりと裏腹に、わずかに急所を外した動きも見せている。
「自殺はさせないし、殺しもさせない。聞きたいことあるんよ、酷いことはせんから安心しろ、俺がさせないし」
人によっては甘いというだろうし、本人も虫がいいことを言っている自覚はある。それでも、曲げずに進むのがジャックだ。
自分の願いを貫くため、傷つきながらも戦いをやめないのは彼の強さである。
覚者たちの果敢な攻撃を前に、隔者は撤退しようとするが、成はそうさせじと道を塞ぐ。そうなると、隔者は覚者を倒して場の混乱を測って動く。
だが、それこそ直斗にとっては望むところ。
皆殺しにせんとばかり、狂ったように刃を振るう。
「隔者なぞ生きる価値ねェ……全員ぶっ殺してくれぇのイカレ野郎共だ。そんな奴を見過ごす道理なんざねぇんだよ!」
正義と殺戮衝動、この2つは直斗の中で矛盾しない概念だ。
しかも、狂ったように戦う反面、極めて冷静に敵の戦いを分析している。
(見たところ、バフ系か? 思っていたより、タフだぜ)
「直斗くん、フォローするよ」
そんな戦いの中に蹴りこんできたのは悠乃だった。舞うような防御の構えを取る隔者に対して、打ち据える黒竜の尾を思わせる一撃が決まる。
敵に隙が生まれたところで、直斗は刀を一旦納めた。
刀で殺せれば重畳だが、別に隔者(クズ)共を殺す手段は、それに限ったわけではない。
「さぁ、三下共! 逃げねェとハンプティ・ダンプティにぶちあたるぜ? 俺達は人を護る為に戦う正義だからな!」
卵のような形をした隕石が、隔者達に向けて降り注ぐ。
その中で、リーダーに肉薄した悠乃は直接殴り合う。
「『七星剣』って、勢力強いってわりに、結構みみっちいことしてきますよね?」
悠乃の何気ない一言がリーダーの怒りに火を点けてしまったようだ。自尊心を傷つけられた彼は徹底的に戦うことを選んでしまった。
「そんな怒らないで。それと、キミの戦い方とその技組み合ってないのは気のせい?」
悠乃としては、思ったことを口に出すだけだ。
この場に来たのは、新たな敵との戦いを楽しむため。もちろん、警備のことを忘れたつもりもないが、『未知の敵』というパズルは解き甲斐があるのだ。
「あとは……みじんかくれず……かな」
そう言って、悠乃は挑発気味に誘う。
怒りの隔者は部下をけしかけ、溜めに入る。そして、爆裂が覚者たちを襲う。
爆煙が晴れる中、梛は棍を支えの棒に使い立っていた。傷つきながらも、顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
「気力を爆発させて、相手を木っ端微塵にしちゃうような技、かな」
さしもの威力に、足が砕けそうになるが命数を燃やして梛は耐える。
そこへ恵み雨が降り、覚者たちの傷を癒していく。相手の戦いを観察しながらの戦いは自分たちのことがおろそかになりがちなもの。だが、そうはさせないのが凜音の仕事だ。
前線に出て今の一撃をもらっていたら、あっという間に倒れていた自信はある。だが、支援専門を名乗る以上、他のものが倒れないようにすることが凜音の矜持。
敵の様子から威力やタイミングは察していた。ならば、周りが戦えるようにすることはそう難しくない。
悠乃が指摘した噛み合わなさは、隔者が使うスキルが個人的に開発したものでなく、集団の中で伝わったものだからだろう。ならば、ここで理解すれば今後の戦いも楽になる。
「なるようになれ、ってね。貰えるものは貰えばいい」
「あぁ、そうだな」
梛は元来、そっけない印象を与える少年だ。軽そうな印象を与えるし、適当そうに見える。
しかし、実際には愛情深いし、なんだかんだと律儀なところがある。
だからだろう。そんな彼は、隔者に向かって口角を上げ、良い笑みを作って見せた。
「その技、もらい」
梛の一言は、自尊心の強い覚者を完全に激昂させた。だがしかし、その選択肢はすでに断たれた。
いや、『焼き尽くされた』。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子に石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
真紅の火猫が戦場を駆け回る。
ラーラは魔女ベファーナの系譜に当たる魔女だ。火の扱いに関してはちょっとしたもの。そして、原始の時代より人と共にあった「火」という概念が得意とするのは、何かを壊すことだ。
火猫は楽し気に、そして正確に隔者達を倒していく。
「襲撃は絶対防がなければなりません。FIVEの威信に賭けて」
隔者もそれなりに『七星剣』の名を背負って戦っているつもりはあるのだろう。
だがそれ以上に、まだ年若いラーラは自分がFIVEの名を背負っていることを自覚していた。そして、その旗の重さを理解した上で、戦う勇気を持っていた。
「では、そろそろ仕損じた暗殺者の末路を味わってもらうとしましょう」
普段の物静かな仮面を脱ぎ捨て、成は鋭い表情を見せる。
成もまた、かつては欧州で暗殺任務も請け負う工作員だった過去を持ち、暗殺潜入には一家言持っている。
その上で言わせてもらえれば、相手は優れた技術に溺れた二流に過ぎない。
成が仕込み杖から刃を居合抜きすると、鋭い衝撃波が疾る。強かに打ち据えられた隔者は大地に倒れ伏す。
そして、自害を試みる隔者の腕を踏みつけ、成は言った。
「逃しはしない。『結界衆』とやらの情報源だ。腕や足の一本は覚悟してもらおう」
●
「あれ?」
戦いが終わったところで、奏空はふと我に返る。
先ほどまで自分が何をしていたのか、分からないといった風情だ。たしかに戦っていた実感はあるが、夢の中で戦っていたようにぼんやりとしている。
そんな奏空の意識は、隔者のうめき声を聞いてはっきりとしてくる。
見ると、成が手慣れた様子で隔者相手に尋問を行っていた。
彼は七星剣幹部である『結界王』直属の隔者で、『結界衆』という組織に属している。『結界衆』は少数精鋭の隠密集団で、いわゆる忍者の末裔らしい。いずれも高い実力を持った隔者の集団だ。
『結界王』はとりわけ首領への忠誠が篤い幹部だという。前々からFIVEを警戒しており、現在は首領から戦う許可を得たため、装備の準備や今回のように弱体化させる作戦に動いているそうだ。近く、大規模な作戦に動く予定もあるらしい。
「案外、大きな組織になるって狙われやすくなるって感じやんな。妖だけでも大変なのに人間同士で争ってどうするというのか」
隔者が全員殺されなかったことで安堵したジャックはぼやく。
それでも、文句を言っても始まらない。『結界王』とやらが同じ作戦を行う可能性は高いし、他にも伏兵がいる可能性もある。
ジャックは【感情探査】のスキルを発動させて、屋敷の中へと走り出す。
「今後の警備増強も進言しときますかね」
凜音がやれやれと言った様子で呟く。可能なら要人警護用の人員も確保したいところだ。それだけで隔者が現れなくなるものでもないが、ある程度は防ぐことも出来るだろう。
光が強くなれば、影もまた濃くなるのだという。
それでも、戦いを止めるわけにはいかない。戦いをやめればそれは、世界が闇に飲まれてしまうことを意味するのだ。

■あとがき■
ラーニング成功!
取得キャラクター(ID):東雲 梛(CL2001410)
取得スキル:微塵不隠
取得キャラクター(ID):東雲 梛(CL2001410)
取得スキル:微塵不隠
